化学経済 2001/9

最終回 PVC需要の変化と21世紀におけるPVCの役割

 この連載ではわが国のPVCにおける産業と技術の展開をみてきたが,今回はその最後として,PVCがどのように用いられ,それがどのように変化してきたか,PVC需要の変化の推移を,わが国のみではなく米国や欧州と対比しながら検討したい。
 また前号で述べた通り,中国やASEAN諸国の急速な経済成長にみられるように,21世紀においては発展途上国が順次先進工業国へ参入してくることは確実であろう。それは地球の資源と環境に重大な影響を与えることになる。このことは産業革命以後,欧州,米国,そして日本などの先進国が構築してきた「大量生産r大量消費」の社会システムのままでは,21世紀はやっていけなくなることを示している。こうした21世紀の地球規模での「資源・環境」問題の中で,プラスチックの1つとして,PVCがどのような役割を果たしていくべきかについて検討する。

1.プラスチックの寿命

 現在,各種のプラスチックがどれだけの製品寿命を持っているかを,主要なプラスチックについてみたものを第1表に示す。これはプラスチックの寿命というよりは,プラスチックを素材として用いた各種製品の寿命をみたというのが正確である。

 各プラスチックについて,AからDまでの寿命に分類し,各プラスチックのそれぞれの寿命についての割合を示した。また各寿命について,その主要な製品を下段に示し,各プラスチックの用途で50%以上を占める製品を右欄に示した。1995年の各プラスチックの国内出荷量も示したが,これに各寿命の割合を掛けたものが,そのプラスチックの各寿命における量の大きさを表すものになる。
 主要なプラスチックについてその内容をみてみよう。低密度ポリエチレン(LDPE)では,80%が1〜2年で廃棄されて,そのほとんどが使い捨ての包装用フイルムやシートである。ポリプロピレン(PP)は1〜2年が43%,3〜5年が26%,6〜9年の寿命が30%となっている。容器包装用や日用雑貨が主であるが,最近は自家用車のバンパーや家電製品のハウジングなどに需要を拡大し6〜9年の寿命部分が増加している。
 PET樹脂は繊維用と非繊維用に分けられるが,表に示すのは非繊維用のみである。1〜2年と6〜9年に分布しているが,前者がPETボトル用で,後者は電気・電子,自動車など工業用部品に用いられている樹脂である。PETボトルの一部はリサイクルされているので,短寿命ではないという反論もあろうが,プラスチックのリサイクルは基本的には1回限りと考えられるので,リサイクルによって長寿命化されているとはいえない。プラスチックのリサイクル問題については,ここでは議論しないことにする。
 PVCはPEやPPのようなポリオレフィン類と異なって,上下水道用のパイプや継手,建材や電線など建築や土木の資材としての用途が多く,67%がlo年以上の寿命となっている。プラスチックの中で長寿命製品が多いことが特徴である。しかし1〜2年の寿命の製品も17%あるが,これらは一般用の包装用フィルム,雑貨用,農業用フィルムなどであり,包装用フィルムなどは現在減少に向かっている。
 この表からプラスチック全般についていえることは,主要プラスチックの約40%が1〜2年で廃棄される使い捨て製品であり,家庭雑貨や玩具・文具・レジャー用品など3〜5年廃棄まで含めると,5年以下の寿命の製品が,なんと55%にもなっていることである。これは耐水性,耐腐食性,耐候性,そして強靭性というプラスチックの特徴とはまったく裏腹に,非常に短寿命製品として使用され,直ちに廃棄されていることになる。
 前号で述べたように,21世紀は資源を大事に使い,それによって環境汚染をなくすことが主要な課題であることからすれば,プラスチックはその特徴を生かしてその製品の長寿命化を図るとともに,プラスチック自体も,もっと強く,より長寿命化するような技術開発が必要になる。PVCはそれに最も近いプラスチックということができるが,さらに長寿命の製品に用いてPVCの真価を発揮するようにすべきである。

2.わが国における初期のPVCの用途

 PVCはまずは軟質製品としての用途が開発された。新しいPVCを成形するのに,加熱ロール混練一押出成型という,当時すでに工業的に用いられていたゴムの加工技術が応用された。したがって,可塑剤を使った軟らかい軟質製品の用途開発が先行することになった。
 それは電線被覆,フィルム,シート,布にコーティングしたレザーなどであった。戦後のもの不足時代に,色鮮やかなビニールのハンドバッグ,薄いレインコート,傘,風呂敷,そして色のついた電線コードなどとしてPVCはわが国に登場した。とくに従来の油紙などに替わる,目新しい材質であった薄いPVCフイルムは強烈な印象を庶民に与えた。そこからわが国ではプラスチックのフィルムのことを,それがPEやPPのフィルムであっても,「ビニール」と呼ぶ習慣がついたのである。
 PVCを第2次世界大戦中に開発したドイツや米国においては,やはり軍事用として電線やフィルムなど軟質用途が開発された。米国でのPVCが国家プロジェクトとして難燃性の電線用として工業化が促進されたことについては,この連載の@ですでに述べた。
 
第2表にわが国の初期におけるPVCの需要の状況を示す。

この連載のAで述べたように,1950年には年間生産量が1000トンとなり,53年には1万トン台に乗ったが,そうした急激な発展期の54年と55年の状況である。日本ゼオンと三菱モンサント化成(現三菱化学)が米国の技術で懸濁重合による生産を始めたのが52年である。
 当時の用途は軟質のフィルム,シート,レザーが主で軟質が64%である。この中で農業フイルム(農ビ)は,1952年ごろからわが国で独自に開発されたもので,54年はやっと普及が始まった時点である。
PVCレザーが国鉄(現JR)の車両に使われはじめ,フィルムのビニールの風呂敷やレインコートが新鮮な感覚で普及したときである。
 この時点ですでに硬質のパイプや板の生産が行われているが,欧米においては軟質製品の用途が主であったのに対して,日本では可塑剤を使わないで,PVCをそのまま押出成形する硬質加工技術が独自に開発された。関西地区で新しく生まれたPVC加工メーカーの若い技術者たちが大阪市立工業研究所を中心に交流したのがその開発の動機となっている。
 52年ごろからPVC硬質パイプは灌慨用,工場用,車両・船舶用などとして開発を行っていたが,まだ水道用管として認可は得られていなかった。54年には東京都が水道用として正式に認可し,急速にパイプの需要は拡大した。また,電線管(コンジェットチューブ)としての用途は55年に電気工作物取締規定の改定によってPVC管が用いられるようになった。54年と55年の1年間でのパイプの伸びの大きさからも,当時のわが国での硬質PVC製品の成長の状況をうかがうことができる。
 PVC板については,セルロイドのメーカーが積極的に開発し,文房具,玩具,パチンコ台用など難燃性を特徴に開発した。またビルの建設もしだいに多くなり,その床材として難燃性の要求が強まり,これに対応する形でPVCタイルの開発が行われ急成長することになる。その後,床材はPVCペーストを用いた軟質の床材が主流となっていく。電線は当初からの主用途であったことは第2表からも分かる。電線は可塑剤を用いる軟質製品にもかかわらず,昔から統計では第2表にみられるように別途に扱われている。57年にはわが国のPVC生産量はl0万トンを超え,1960年には26万トンと急成長する。63年における世界のPVC需要の状況を示すデータがある。
第3表である(2)。ここで特徴的なことは,PVC硬質について,日本が量的にも割合においても圧倒的に多いことである。

米国はPVC先進国でありその需要量も大きい。63年にはすでに64万トンを消費しているが,その96%が軟質製品である。いかに米国においてPVCが軟質製品から需要が拡大したかをみることができる。欧州は米国よりも硬質用途の開発が進み,西ドイツ,イタリア,ベネルクスでは30〜40%までになっているが,日本ほどには至っていない。日本ではパイプ,フィルムそして波板も多い。波板はわが国ではカラフルな半透明の簡易屋根材や塀材として普及したもので,その後も硬質PVCの主要な用途となったものである。米国,欧州ではやはりパイプやフィルムが主であるが,量的にはまだ始まったばかりの段階であることを表している。
 こうしたことからも,硬質PVCの加工技術やその製品は,パイプを中心に日本が世界に先駆けて開発したものであることが分かる。

3.世界におけるPVC需要の変化
 わが国のPVCは,1960年代は指数関数的に急成長をするが,70年代に入るとその成長は頭打ちとなる。70年代の2回にわたる石油ショックの前後で大きな需要の変化があったが,基本的には85年のバブル期までは需要の大きな伸びはなかった。85年からのバブル期には若干の伸張がみられるが,バブル崩壊後には環境問題もからんで停滞状態である。
 これに対して,米国,カナダの北米と欧州のEUではPVCの需要は伸びている。この状況を
第1図に示す(3)。 この図は硬質PVCの需要の量的な推移を示している。また,各地域での全PVCに対する硬質PVCの割合の推移も示した。煩雑さをさけるために硬質のみのグラフである。電線と床材は軟質PVCとして分類し,この硬質分野には含まれていない。
 この図からも,日本のPVC需要は1970年以降頭打ち状態であり,世界に先駆けて開発した硬質PVCの割合も55〜57%のレベルで停滞している。これに対して,北米やEUにおいてPVC硬質分野はまだ成長している状態にある。とくに北米は70年代以降伸び続けており,90年代後半の伸びは著しく,まだ急成長過程にある様相を呈している。EUはドイツのようなPVCにおける先進国から,まだPVCについは発展途上である国まで含まれているので(第4表の下段の国名参照),国によって相違があると思われるが,すくなくともEU全体としてはまだ右肩上がりで成長中であることを示している。
 その中でも硬質割合の伸びが顕著である。第1図の硬質割合(%)の推移から分かるように,EUは日本に次いで硬質用途を開発していたが,1970年代初期には日本に追いつき,その後は追い越し現在までも伸び続け,70%に近いところにきている。一方,北米は硬質PVCの開発は遅れたが,1970年代初期には追いつき,1980年代に急伸し,現在では77%である。すでに欧米ではPVCの用途は硬質分野といえるまでになっている。
 その内容をみると
第4表のようである。最近(1998年)の日本,北米,EUにおけるPVC需要の内容を示したものである。

日本のPVC国内需要は160万トン,北米の需要は600万トン,EUは560万トンとなっている。その中で硬質が日本は57%,北米は76%,EUは67%である。日本,UE,北米と約10%づつの開きがある。
 北米での硬質はパイプが47%,サイディング材が16%,窓枠が4%である。土木・建材の用途で67%まで使われている。とくに北米では家の外壁が木板からアルミサイディング材を経て,PVC製の板であるPVCサイディング材に替わっている。この用途は1980年代から急速に拡大し,現在では100万トンの需要をもつまでに至っている。
 EUではパイプが30%,異型押出が22%となっている。この異型押出(Profile Extrusion)はその内訳は分からないが,欧州ではPVC窓枠が世界に先駆けて開発され広く普及しているので,その大部分が窓枠とみてよいであろう。その量は120万トンである。
 すでに述べたようにPVCパイプは,60年代に日本が開発し,PVCの主要な用途として成長した。それが70年代に西ドイツなど欧州にわたり,そこで成長し,さらにその後米国に伝わり80年代から急速に成長したのがPVCパイプである。米国,カナダは国が広いだけにパイプの需要は拡大されている。欧州でも今後の経済成長が期待されている国での需要が増大するであろう。
 サイディング材は70年代に米国で開発され,80年代から急速に需要が拡大したものである。木板,その後のアルミサイディング材に替わった家の外壁材であるが,耐水性,耐腐食性,耐候性,ペンキ塗装の不要性,取り付けの容易性などPVCの特性と製品デザインの工夫,さらに低価格という魅力によって,一戸建ての家が多く,家の住み替えやリホームが頻繁に行われる米国で一挙に市場を拡大したものである。
 窓枠は,すでに述べたように欧州において開発され,70年代から需要が開拓され,80年代後半から急速に伸びている。PVC窓枠は鉄やアルミサッシに代わってPVCの異型押出加工でつくられるものである。PVCは熱の伝導性が小さい(断熱性)ために,窓を通しての熱の移動が抑制され省エネルギー効果が大きく,しかも窓の内部に露がつかない(防結露性)などの特徴がある。また省エネルギーのための複層(多くは2層)ガラス窓の採用が欧州,米国そして韓国などで義務化され,複層化に有利な(複雑な構造の異型押出成形ができる)PVC窓枠が普及する原因となった。さらに,アルミなど金属の感触に対してPVC窓枠はより木に近く暖かい感触を持つなどの特色もあり,寒冷地帯での最適の窓枠として普及した。多くが寒冷地に属するEU諸国,カナダ,米国の北部,韓国などで需要が拡大して行った(5)。
 わが国の異型押出は14万トンあるが,雨樋,デッキ材,壁天井材,そして最近ではやっと窓枠などがある。しかし,欧米で伸びているサイディング材と窓枠においては,ともにわが国ではその用途開発に遅れをとった。それはわが国の建築基準法によって規制を受けており,難燃性であるPVCが建築材料として使えなかったからである。防火の観点から全国に防火,準防火地域が指定されており,さらに木造建築物の多い市街地区では,屋根や外壁の構造に一定の制限をもうける制度があり,使用材料には不燃材の使用が定められている。そのために不燃材ではなく難燃性であるだけのPVCサイディング材や窓枠については構造材として使用が認められず,その開発が遅れたままで現在に至っているのが現状である。
 70年の石油ショック以降,北海道などの寒冷地で,省エネルギーのために規制が緩和され,PVC窓枠が認められたために,PVC窓枠については,トクヤマが70年代後半から商品名を「シャノン」として開発を開始した(5)。その後PVC加工メーカーやアルミサッシメーカーなどが参入し,北海道や東北地方において開発が進められているが,日本全体ではまだ普及したといえる段階ではない。しかし今後省エネルギーが重要視される中で,その展開が期待されている。
 また,PVCサイディング材については1社が製造販売,1社が輸入販売程度で,まだ開発の初期段階である。わが国でも住宅のリホームの時代に入りつつあり,日本に合ったPVCサイディング材の開発が望まれている(4)。
 日本が開発の世界でイニシアティブを取れたPVCパイプが,東京都の正式認可にあったことや,電気工事規制の緩和にあったことを考えると,窓枠やPVCサイディング材における日本の状況は残念な結果である。防火は大事な政策であるが,家の構造材の選択にあたっては,具体的な状況の中での柔軟な判断が望まれるところである。規制緩和の流れの中で,今後に期待されるPVC需要分野である。

4.21世紀におけるPVCの役割
 すでに述べたように,21世紀が資源を大事に使い,地球の環境を維持することが最も重要な課題とする中で,北米や欧州で20世紀の終りに進められたPVC用途の長寿命製品への移行は,21世紀のPVCの役割について非常に重要な示唆を与えている。
 ここでPVCの今後の方向について検討する。

(1)長寿命製品化
 パイプ,サイディング材,窓枠,工業用板などは,土木資材,建築資材,あるいは工場用資材として10年以上の長寿命製品である。これらは今後もそれぞれの国土や風土に合った形で展開していくものであろう。
 とくに発展途上国においては,今後は住宅の建設や高速道路をはじめとする社会基盤の整備は重要となる。これらにおけるPVCパイプの役割は,すでに広大な国土の米国やカナダでみられるように非常に重要なものになる。中国での展開は非常に大きなものになる可能性がある。
 住宅,ビル,工場などの建設において,配水・排水管,止水板,窓枠などの建築材料としても,内装用の板材,床材,壁材としても,天然素材と併用するなどの形でその役割は重要な分野となる。さらに工場の上水,排水,電気などのパイプ,配電盤や仕切り用のPVC板などの需要は大きくなるであろう。
 また,住宅の台所,風呂場回りの木材では腐食する場所でのPVC木材(低発泡)としての利用は有効と思われる(しかしまだ具体的な形としては開発されてはいない)。さらにPVCは木粉と混ざりやすく,わが国ではすでにPVC木粉コンパウンドが開発され,家の内装用木材,窓枠,ドアなどとして開発されている。感触がよく,天然木材に匹敵する製品である。今後の技術的な改良とその展開が期待される分野である。住宅廃材の古木材のリサイクルや間伐材の有効利用などに関連して,木材が不足するであろう発展途上国などで,今後期待されるPVCの有効な用途である。
 このようなPVC本来の特性を十分に発揮させるようなPVCの用途開発が,先進国を中心に積極的に行われ,それが発展途上国ヘスムーズに移転し,展開していくシステムを,どのように構築していくことができるかが今後の先進国の課題である。

(2)特殊分野でのPVCの意義
 電線被覆はPVCの最初からの主要な用途であったことは述べたが,現在でも国内需要量の11%を占めている。連載@で述べたように,ダイオキシン問題からきた「脱塩ビ」の風潮に乗って,電線を他の材料に代替することなどがいわれている。難燃性というPVCの基本的な特性を利用して電線被覆材として開発され,その後半世紀にわたって実績を蓄えてきたPVC電線被覆について,「脱塩ビ」することは再考する必要があるであろう。
 90年代後半になって,ダイオキシンが社会問題として取り上げられるようになり,ゴミの焼却処理で発生するダイオキシンはPVCが原因であるかのようにいわれてきた。しかし,この間の多くの世界的な研究結果によって,これはPVCだけが原因ではなく,家庭の厨芥(ちゅうかい)などに含まれる食塩によっても発生し,PVC製品をゴミからなくしてもダイオキシンが発生することが次第に明確になってきた。したがって,ゴミの焼却処理においてダイオキシンの発生を防ぐには,焼却炉や排ガス処理における適切な条件設定が重要であることが分かった。実際にはその対策が具体的に実施され,わが国のゴミの焼却設備からのダイオキシンの発生量は急速に減少に向かっている(7)。
 しかし,PVC製品は焼却によって塩酸の発生源になる事実は認識しておかねばならない。PVC電線被覆に関しては,基本的に長寿命製品であり,過去の実績からも再評価し直すべきである。同様に使用量は非常に少ないが,医療用のPVC製品の「脱塩ビ」がいわれている。医療用PVC製品としては,可塑剤を用いた軟質の各種カーテル類や輸血バックなどがある。医療器材は,洗浄・消毒しても再利用することは不適切であり,この用途に限って使い捨てを認めざるを得ないであろう。この医療用PVCについてもダイオキシンや環境ホルモンなどへの問題から医療器材を「脱塩ビ」するということがいわれている。しかし半世紀にわたって人体に使われてきて,とくに今まで世界的に大きな問題も起こっていない非常に貴重は実績をもつものを新しい素材に転換しようとすることは,あまりにも短絡的な発想というべきであり,新素材の危険性の方がさらに問題となる可能性さえある。
 また,環境ホルモン問題については,政府の指導のもとで,化学業界や医療関係者によって,どの化学物質が問題であるかを明確にすべく,世界中で共同研究が行われている。ダイオキシンや環境ホルモンの問題のような超微量の問題は実験の方法や判定の難しさもあって,逆の研究結果になったりする困難さがあり,賛否両論になり,さらに政治的判断が介入して問題を複雑にすることもある。しかし,それは世界的なレベルで学会などの協力のもとに事実を明確にして判断を下す以外に方法はない。
 わが国においては,現在環境ホルモンではないかと疑われている物質についての評価と管理技術の確立のためのプロジェクトが「ミレニアム・プロジェクト」として,環境省,厚生労働省,経済産業省,農林水産省で取り組まれている。米国,欧州でも同様の取り組みがなされている。また,世界の化学産業が共同しての研究も進められている(6)。今後はそれらの結果に従った対応が重要になる。
 また,使い捨てを認めざるをえない医療廃棄物については,医療や器具の関連業界において独自の回収・処理システムを確立して,その処理についての責任を明確にすべきである。このシステムでによってPVCやPPなどのプラスチックやその他の医療廃棄物の専用焼却設備などを管理し,ダイオキシンの発生や他の有害物発生,あるいは感染などの対策が可能になる。半世紀の実績ある医療器材については,素材転換よりも,こうした対策をまず実施することが筋道である。
 この他にもPVCによって開発された有効な製品でありながら,比較的短寿命の製品群がある。農業用ビニルフィルム,ホース,玩具,文房具などである。今後PVC製品の長寿命化という課題の中で,これらの製品の有効性を維持しながら,長寿命化へどう対応していくかという問題も今後の課題である。
 資源,その中でも地球の埋蔵量に限界をもつ化石資源を大切に使うことが,21世紀の重要課題であり,化石資源の石油からつくられる素材であり,耐久性という特徴をもつプラスチックこそは,もっと大事に利用されることが必要である。その中でPVCは化石資源である石油と量的には豊富な食塩からの塩素(しかも文明社会に必要なカ性ソーダとともに生成する)と,半々でつくられる資源的には非常に有利なプラスチックである。
 しかし,今後は単に大量に使われ,安価なPVCとしてではなく,長寿命の土木,住宅・建築,工場などの資材として大事に使われる貴重なPVCとして,また省資源,省エネルギーの役割を担う重要なPVCとして,21世紀において堂々と展開していくことを願いたい。


 昨年の8月号から7回にわたって,わが国におけるPVC工業の戦後の台頭から現在の成熟段階までの変遷過程と,そうした産業動向の原因や結果となってきたPVCの技術の展開過程をたどった。また21世紀のPVCのあり方をみるために,中国やASEAN諸国でのプラスチックやPVCの発展の状況をみた。最後には21世紀は「資源と環境」が世界の基本的な課題となることを前提に,PVCは21世紀においてはどのような役割を果たさなければならないかを,需要の側面から考察をした。
 連載を終わるに当たって,多くのものを取り残しきた感じがある。大いにご批判をいただいて,反省の材料としたい。また,資料など新第一塩ビの方々に大変お世話になった。心から感謝したい。なお,この本文はすべて筆者個人の見解であることを付記する。

<文献>
1)小山寿,「日本プラスチック工業史」p.287,工業調査会(1967)
2)古谷正之,「ポリ塩化ビニルーその化学と工業(II)」(近畿化学工業会ビニル部会編)p.252,朝倉書店(1966)
3)“Modern Plastics International”の1971年以降の1月号に掲載されるプラスチック統計データより作成。
4)●佐々木慎介,上野賢二,里見勝弘,長縄肇志,池上清,プラスチックス,50,〔5〕,66(1999)
  ●中村扶,プラスチックス,50,〔5〕,75(1999),
  ●松田至功,プラスチックス,50,〔5〕,82(1999)
5)(株)トクヤマ,「プラスチックサッシの本一楽しく学ぶその機能と性能」(シャノン20周年記念)(1997)
6)川崎一,化学経済,48,〔3〕,32(2001),化学経済,48,〔4〕,11O(2001)
7)●関係省庁共通パンフレット,「ダイオキシン類」(1999),
  ●朝日新聞,2000.6.28

 

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