日本経済新聞 2007/6/21
争奪 レアメタル 奔走する企業
広がる供給不安 調達戦略、成長を左右
希少金属(レアメタル)が製造業のリスク要因に浮上してきた。新興国の経済成長を背景に需要が急増する一方で、中国など産出国ば輸出抑制に動いている。需給の逼迫で価格は急騰、調達への不安が広がる。レアメタルは自動車や液晶テレビに欠かせない。対策を講じなけれぼ日本経済は失速しかねず、企業は対応に動きだした。
▼希少金属(レアメタル)
埋蔵量が少なかったり、埋蔵量は多いものの抽出が難しかったりする31種類の金属。ネオジムやテルビウムなどの希土類(レアアース)は性質が似ており、17元素を1種類と数える。生産国が中国や南アフリカ、豪州などに偏在している種類が多く、供給不安や価格変動が起きやすい。
1ヵ国が週半を生産しているレアメタル (カッコ内は世界生産量に占める比率 %) |
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(注)2005年、石油天然ガス・金属鉱物資源機構まとめ |
経産省、希少金属の備蓄強化 家電部品向け品種追加
経済産業省は、デジタル家電などの生産に不可欠な希少金属(レアメタル)の国家備蓄を強化する。2009年度から現在備蓄している一部品種を積み増すほ か、主に電子部品などに使う2品種の備蓄を始める。品種の追加は1983年度の国家備蓄制度の導入後初めて。世界経済の停滞でレアメタル価格が下落してい る局面をとらえ、調達を巡る産業界などの不安軽減を図る。
レアメタルの国家備蓄は他の金属で代替が難しく、生産国が限られる品種について供給停止などの事態に備える制度。経産省の方針に基づいて独立行政法人の 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が業務を担い、入札を実施して企業に放出する仕組みだ。米国や中国にも同様の制度がある。
2009/6/3 日本経済新聞
レアメタルの国家備蓄拡充 数量・品目なお不足 レアアース追加も検討
政府が補正予算成立を受けてレアメタル(希少金属)の国家備蓄拡充に乗り出す。従来の鉄鋼添加向け7種に加えて、液晶パネル材料のインジウム、発光ダイオード(LED)材料のガリウムの備蓄を開始。今後予想される価格高騰局面での供給不安を軽減する。ただ、備蓄量と対象品目の少なさを指摘する声もあるなど、課題も多い。
新たな備蓄品目 インジウム、ガリウム
需要動向の注意対象品目 ニオブ、タンタル、ストロンチウム、プラチナ、レアアース
既存の備蓄品目 ニッケル、クロム、マンガン、コバルト、タングステン、モリブデン、バナジウム
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我
が国のレアメタル備蓄制度は、1983年度(昭和58年度)からスタートしています。それは、2度にわたる石油危機の経験から、資源小国である我が国の経
済基盤の脆弱性が改めて認識され、資源セキュリテイーの確保、経済安全保障の確立といった観点から石油備蓄と同じように金属の備蓄制度が必要だということ
で創設されたものです。
この備蓄制度は、官民協力のもとで備蓄をし、安定供給に対するリスクを軽減する役目を果たしています。民間備蓄は各民間企業において自ら備蓄を行い、国
家備蓄はJOGMECにおいて備蓄事業を運営しています。現在、7種類のレアメタルについて備蓄をしています。これらのレアメタルは、その供給のほとんど
を海外に依存し、かつ供給リスクが大きい金属です。
制度 | 国家備蓄 | 民間備蓄 |
実施主体 | 独立行政法人石油天然ガス・ 金属鉱物資源機構 |
民間企業 (財)国際鉱物資源開発協力協会がとりまとめる |
対象鉱種 | ||
目的 | 円滑な産業活動の維持及び 国家経済安全保障の確立 |
企業の使用実態に即応した 自主的な備蓄制度 |
保管場所 | 茨城県の備蓄倉庫に おいて一元集中管理 |
民間企業が個別保管管理 |
目標 | 国内基準消費量の42日分 (備蓄目標量の7割) |
国内基準消費量の18日分 (備蓄目標量の3割) |
合計 国内基準消費量の60日分 |
◎ 現在の国家備蓄状況
レアメタルの供給については、未だに地域的な紛争など個々の国の情勢に起因する供給不安や、供給構造の寡占化に伴う経済的リスクなどが存在しているところで す。そのような情勢の中、国家備蓄についても、昨今の財政難から備蓄物資を保有する費用を極力抑えるとともに、これらリスクに対応するため、現時点で以下 のとおり備蓄を行っています。
国家備蓄の実施状況 (平成21年3月末現在)
備蓄鉱種 | 備蓄日数 (日) |
ニッケル | 21.8 |
フェロクロム | 29.2 |
タングステン | 20.1 |
コバルト | 22.2 |
モリブデン | 17.1 |
フェロマンガン | 26.2 |
フェロバナジウム | 18.9 |
平均備蓄日数 | 22.2 |
備蓄物質の放出・売却
我 が国への主要レアメタル供給国において、万一、戦争や内乱が起こったり、ストライキや輸送中の事故などにより、海外からの供給が不足した場合、独立行政法 人石油天然ガス・金属鉱物資源機構は、緊急時放出として国家備蓄物資を売却します。また、レアメタル価格が著しく高騰した場合、備蓄量の調整が必要な場合 にも、備蓄物資の一部を売却します。
区分 | 緊急時放出 | 平常時売却 | ||||
放出・売却 |
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放出・売却基準 |
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放出・売却先 |
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放出・売却量 |
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放出・売却方法 |
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放出・売却価格 |
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備蓄物質については、機構が茨城県に所有する国家備蓄倉庫で一元的な保管・管理を行っています。 | |
<倉庫の補修等> 国家備蓄倉庫は、建設後20余年たっています。この間、施設の経年劣化状況調査、必要な補修工事の実施、また、計量機器の整備などを行っています。 <備蓄物資の品質管理> 備蓄物資については、倉庫棟、屋根付きヤードに保管し、品位の劣化が生じないよう管理しています。しかし、購入後、長期間保管していることから、品質劣化がないことを確認するため品位確認も行っています。 <倉庫内での積み替え等> 備蓄物資の荷崩れ等を防止し安全・安定した保管を図るため、また、効率的な物資放出に備えて、積み替えや移動などを行っています。 |
●世界の主要埋蔵国、生産国、対日輸出国
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●我が国の輸入依存相手国比率
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●世界の消費割合
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●マテリアルフロー図
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●海外における備蓄制度のページはこちら |
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レアメタル備蓄の目標について
備蓄目標については、制度創設以来、国内消費量の60日分を目標。内訳は、国家備蓄42日(70%)、民間備蓄を18日分(30%)。
但し、平成12年12月鉱業審議会レアメタル対策分科会は、ニッケル、クロム、マンガン、モリブデンの4鉱種について、以下の理由等から、当面の備蓄水準の削減が可能と評価し、平成13年度(2001年度)以降、最低合計30日分以上の備蓄物資を確保している。
(平成12年当時における目標削減理由)
@ニッケル
対日輸出国集中度が低下、リサイクルが進展する等、7鉱種の中では供給の安定度は相当高い。
Aクロム
我が国企業の南アフリカ進出、南アフリカ情勢の安定化等から供給の安定度は上昇。
Bマンガン
南アフリカ情勢の安定化、生産国の分散化が進展するなど、供給の安定性は大幅に上昇。
Cモリブデン
生産の集中度等は高いものの、アメリカ・中国・チリ等安定した生産国が多いことから備蓄水準の削減が可能。
レアメタル備蓄の放出
@制度創設当時は、供給障害が発生している場合又は発生するおそれがある場合に緊急措置として放出する「緊急時放出制度」のみ。
A平成3年度に価格高騰時に一部売却する制度(高騰時売却)を追加。
また、平成12年度には、当面備蓄量の低減が可能と判断される4鉱種(ニッケル、クロム、モリブデン、マンガン)について30日分まで売却することを可能とした(平常時売却)。
緊急時放出−供給障害が発生している場合又は発生するおそれがある場合に放出。
高騰時売却−価格が相当に高騰した場合に、積み増しのための備蓄資金等確保のために放出。
平常時売却−相対的に供給が安定している鉱種について、備蓄物資を一部売却。
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創設経緯と変遷
@昭和57年4月の産業構造審議会総合部会経済安全保障問題特別小委員会の“レアメタルについて、民間における備蓄の拡充努力と併せて国家備蓄の実施を図ることが必要”との報告を受け、国家備蓄の実現に向けた検討が本格化。昭和58年4月の「金属鉱業事業団法」改正(法律第23号)により、金属鉱業事業団の業務に“金属鉱産物の備蓄”が追加され、国家備蓄の実施体制が整備され、同年度より備蓄制度が創設された。
当初の備蓄目標は、我が国消費量の60日分として、次により分担。
国家備蓄:25日分、共同備蓄:25日分、民間備蓄:10日分
A昭和61年8月の鉱業政策懇談会(鉱業審議会の下に臨時に設置された会議)での“制度の簡素化、より効率的な事業の推進を図る観点から、現行の国家備蓄、共同備蓄、民間備蓄という備蓄形態について見直しを行うことが適当である”との報告を受け、昭和62年度より現行の
国家備蓄:42日分、民間備蓄:18日分
とする制度に変更された。
B以降、鉱業審議会鉱山部会(レアメタル総合対策専門委員会、レアメタル対策分科会)において、昭和62年度、平成元〜2年度、平成3年度、平成6年度、平成12年度に備蓄制度の見直しを実施してきている。
平成9年12月の「特殊法人等の整理合理化について」の閣議決定により、新規の備蓄積み増しが停止されている。