2006-5-1

ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は  2006-5-1 http://blog.knak.jp
 


2014/10/16 エア・ウォーター、価格カルテルでの審決取消訴訟で勝訴 

エア・ウォーターは10月14日、審決取消訴訟の勝訴判決に対し、公取委が上告期限までに上告手続をしなかったため、同社の勝訴が確定したと発表した。

勝訴確定に伴う既納付済みの課徴金の返還金額、返還時期などについては、公取委の審判で決定される。

ーーー

公取委は2011年5月26日、エアセパレートガスのメーカー4社に対し、価格カルテルを結んでいたとして、排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。

エアセパレートガスは空気から製造される酸素、窒素及びアルゴンで、対象となったのはタンクローリーによる輸送によって供給する特定エアセパレートガス(医療用を除く)。

排除措置命令と課徴金納付命令の対象は以下の通り。

事業者名 減免  課徴金額
大陽日酸 30%  51億4456万円
日本エア・リキード    48億2216万円
エア・ウォーター    36億3911万円
岩谷産業 30%    4億9902万円
合 計    141億0485万円

2011/5/30  公取委、産業ガスメーカーに排除措置命令及び課徴金納付命令 

これに対し、エア・ウォーターは7月22日に審判請求を行った。

争点は以下の通り。

公取委はエア・ウォーターに対する課徴金を、製造業の大企業に適用される10%で計算し、36億3911万円とした。

エア・ウォーターは、同社(45%出資)と大阪ガス子会社のリキッドガス(55%出資)のJVのクリオ・エアーで生産した製品を販売している。

このため、エア・ウォーターでは、小売業に適用される2%で計算した7億2782万円が妥当であるとし、差額分の取り消しを求めた。

公取委は審判手続きを行い、2013年11月19日に審判請求を棄却する審決を行った。
概要は下記の通り。

外形上はクリオ・エアーから仕入れて販売する形式で行われている。

しかしながら、
・エア・ウォーターはクリオ・エアーの45%の議決権を保有
・クリオ・エアーにおける費用等の情報開示を受けている
・価格は、費用+期待利益を基に、クリオ・エアーと両株主の協議で決定
・合弁契約でエア・ウォーター全量引取となっており、実際に全量を引き取っている。

この結果、クリオ・エアーは実質的に販売活動の自由を有しておらず,同社を独立の事業主体とみることは困難

さらに、クリオ・エアーは、液化天然ガスの冷熱の利用により、電力のみを使用する場合に比べてコストが低いが、エア・ウォーターはメリットをほぼ全て享受している。クリオ・エアーは冷熱の利用によって見込まれる製造業者として期待される利益を自らの意思に基づき獲得できない立場に置かれていた。

以上のことから,特定エアセパレートガスの製造販売についてみれば、エア・ウォーターはクリオ・エアーと実質的に一体となって事業を行っていたものと認められる。

これに対しエア・ウォーターは2013年12月、東京高等裁判所に審決取消訴訟を提起し、司法判断を仰ぐことを決定した。

東京高裁は2014年9月26日、エア・ウォーターの主張を認めて審決を取り消し、納付すべき金額は7億2782万円と指摘した。
菅野博之裁判長は「エア・ウォーターの持ち株比率は大阪ガスより低く、製造への関与は低い」として、「卸売業」と認定すべきだと指摘した。

これに対し、公取委が上告期限までに上告手続をしなかったため、エア・ウォーターの勝訴が確定した。
エアー・ウォーターは2010年度決算で3,639百万円を特別損失に落としており、今回、差額を特別利益に計上することとなる。

ーーー

公表された事実だけから判断すると、審判手続きで公取委が示した判断が正しく、高裁の判断は出資比率という形式のみにこだわり、実質を見ていないと思われる。

合弁契約書で合弁会社の運営方法を決めておれば、出資比率が51%以上か未満か、製造に関与するか否かは何の関係もない。
51%以上の株主であっても、合弁契約書に違反した運営はできない。
(この例では、一定利益の持分を得るだけである。)

エア・ウォーターが 全量をコスト+一定利益(そのうち持分は同社に帰属)で引き取るのであれば、同社の分工場又は製造委託先と看做すべきである。
クリオ・エアーは自らの判断での外販が出来ず、下請けに過ぎない。

何故公取委が上告しなかったのか、理解できない。


付記

公取委は10月14日、課徴金納付命令の一部を取り消す旨の審決を行った。

理由は以下の通り。

クリオ・エアーの事業は大阪ガス子会社のリキッドガスが55%出資し、取締役も多く出し、常勤役員も出している。
工場は大阪ガス敷地内で従業員の多くも大阪ガスからの出向者であり、冷熱を供給している。
クリオ・エアーの事業は大阪ガスグループにおける冷熱利用の一環として行われているというべきである。

エア・ウォーターが、クリオ・エアーの生産計画や販売価格について主導的な影響力を行使することができたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

これは上記の当ブログの意見、即ち、「合弁契約書で合弁会社の運営方法を決めておれば、出資比率が51%以上か未満か、製造に関与するか否かは何の関係もない」というのを考慮しておらず、形式のみをみて、実質を見ていないものである。



 
2014/10/17  North Dakota州でポリエチレン計画 

Badlands NGL’s LLC は10月13日、パートナー2社と組んで、North Dakota州で40億ドルを投じてシェールガスの副産品のエタンからポリエチレンを生産する計画を明らかにした。
(シェールガス生産時にNGLが副生するが、これからエタンとプロパンを分離する。)

州知事はこれを州の歴史で最大の私企業による投資としている。
随伴 ガスの焼却処分を減らし、エネルギー資源に付加価値を付け、多様な雇用を創出するという州の目標に合致したものと評価している。

パートナーの1社はスペインの石化コントラクターのTecnicas Reunidasで、現在、予備的なエンジニアリング分析を行っている。
もう1社はヒューストンの
Vinmar Projects で、本計画で生産されるポリエチレン全量を販売する15年の契約に調印している。

計画では、500人を雇用し、2017年末までに年産150万トンのポリエチレンを生産する。建設費は40〜42億ドルと予想している。

North Dakota を選んだ理由は、豊富なエタンがあることと、North Dakotaからの方が米国のポリエチレン需要家にメキシコ湾岸からよりも早く、安く輸送できることであるとしている。

North Dakota では日量20万バレルのエタンを生産しているが、Hess Corp.の生産するエタンがパイプラインでカナダのAlberta のNova Chemicalsのポリエチレン工場に送られているのを除き、大部分は燃料用に売却されている。

現在、2箇所以上の立地を検討している。同州には多くのエタン製造業者がいるが、全ての業者から購入できることが選択の基準で、鉄道アクセスやインフラも選ぶ基準となる。 Williston Basinの南か東になるだろうとしている。


http://www.eia.gov/oil_gas/rpd/shale_gas.pdf


North Dakotaでは他にも豊富な天然ガス資源を利用する計画が進んでいる。

Minnesota のCHSは2014年9月、同州Spiritwood で天然ガスから窒素肥料を製造する工場を30億ドルで建設する計画を進めていることを発表した。

Northern Plains Nitrogen も同州Grand Forks の北端で肥料工場を18.5億ドルで建設する案を発表している。


 

2014/10/18 Ineos、英国で更にシェールガスの権益を取得 

Ineosは8月18日に、PEDL 133鉱区の権益の51%を取得し、初めてシェール開発に参加すると発表した。

2014/8/22    Ineos、スコットランドのシェールガス開発に参加 

Ineosは9月28日、開発地域に対して総額25億英ポンド(約4400億円)を支払う計画を発表した。

2014/10/3 Ineos、英国でのシェール開発反対を抑えるため大盤振る舞い 

Ineosは10月13日、スコットランドのシェールガスの鉱区PEDL 162の80%の権益をスイスのReach Coal Seam Gas Limited から取得した。
今回取得したPEDL 162は、8月に取得したPEDL 133に隣接しており、面積は400km2、IneosのGrangemouth 石油精製・石油化学コンプレックスに近い。

 
 
 

Ineosは鉱区のオペレーターとなり、最初の探査作業の資金を出す。
同社では同鉱区が経済的に成り立つかどうかはテストしないと分からないとするが、Midland Valley 地域には十分なシェールガス、シェールオイルがあるとする 本年6月のBritish Geological Survey を引用した。

付記

INEOSは2015年5月11日、IGasとの取引を完了、英国3位のシェールガス会社となったと発表した。

取得したのは、
  North West of England (the Bowland licences) の IGas の7つの権益の50%
  Petroleum Exploration & Development Licences (PEDL’s 145, 193 and EXL273) の60%
  他の4鉱区(PEDL’s 147, 184, 189 and 190)の 50%
  Scotland のIGas のPEDL 133 (the Grangemouth licence) (これによりINEOSは本鉱区の100%の権益を所有)
  IGas のEast Midland shale gas licences (PEDL’s 012 and 200) の20%を取得するオプション

このうち、青字の4鉱区はINEOSが運営する。

Ineosは2012年9月、欧州のエチレン原料用にエタンを輸入するため、米国のRange Resourcesとの間で、2015年からエタンを購入する契約を締結した。

欧州のエチレン事業の原料の多様化を図るもので、欧州のエチレンメーカーとしての競争力を強化するものになるとしている。
当面、ノルウェーのRafnes 工場とスコットランドのGrangemouth 工場で使用する。

Grangemouth complex では石化の原料及び燃料として使用する。現在、米国からのシェールガスエタンを輸入するためのインフラを建設中。

2012/10/2   Ineos、米のシェールガスからのエタンを欧州のエチレン原料用に輸入

 


2014/10/20 買収・合併による節税目的の海外移転禁止の動き強まる         

製薬・医療機器を中心に、本社を税金の安い国に置き、税負担を軽くする動きが広まっている。


・MylanによるAbbottのジェネリック事業の一部の買収
・米
Medtronic によるアイルランドの手術関連製品メーカーのCovidienの買収
PfizerによるAstraZenecaの買収提案(
買収断念)
AbbVie Inc.によるShire Pharmaceuticals の買収

2014/7/21 MylanがAbbottのジェネリック事業の一部を買収、本社移転も目的の一つ 

米国の製薬会社で、2013年初めに米Abbott Laboratoriesからスピンオフして誕生したAbbVie Inc.は7月18日、Shire Pharmaceuticals 買収で合意した。
当初の提案が拒絶されたことから、買収金額は従来の総額約270億ポンドから約310億ポンドに引き上げられた。

AbbVie は売上高の柱となる大型薬の特許失効を控え、希少疾患に強いShire の持つ医薬品を取り込んで収益強化を図るが、買収後は、法人税率が低い英国に持ち株会社を設立し米国で上場する予定であった。
AbbVie の2013年度の表面税率は22%だったが、統合後は本社を置く英国の優遇策を含め13%まで下げる効果を見込んでいた。

しかし、AbbVie は10月15日、Shire Pharmaceuticals 買収を撤回 すると発表した。
米政府が9月22日に節税目的の本社移転の
抑制を狙った新規則を発表したため、国外に会社を設立することを含む買収効果が不透明になったと判断した。

CEOは同日の声明で「2社が統合する戦略的な合理性はあるが、譲税ルールの変更によりShire の評価額の裏付けがなくなった」と説明した。 米政府の課税強化が撤回の理由と明言した。

AbbVie は違約金として約16億3500万ドルをShire に支払う。

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Tax Haven や低税率の国を利用して法人税を回避する動きについては、各国で問題になっていた。

2012/12/14 スターバックスの移転価格税制問題

2014/6/13   欧州委員会、Apple等の法人税を調査   米国の動きも言及

2013年6月に北アイルランドで開かれたG8サミットは、首脳宣言に多国籍企業の税逃れを防ぐための国際協調などを盛り込んだ。
経済協力開発機構(OECD)と連携し、「多国籍企業がどこで利益を生み、税を払っているか」を把握する仕組み作りを進めることで合意した。

今回の米政府の規制強化に加え、EUがアイルランド、オランダ、ルクセンブルクの税優遇制度を問題にし、追加納税を求められる可能性があること、それを受けてアイルランド政府が“Double Irish” 制度を取り消したことなどにより、各社は税務戦略やM&A戦略を見直す必要が出てきた。

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米財務省は9月22日、節税のための本社移転の抑制を狙った新規則を発表した。

税率の低い国へ本社を移転する inversions” と呼ばれる行為について税制上の恩恵を減らすとともに、新たな本社移転をこれまでよりも困難に するもの。
新規則は即日適用された。

オバマ大統領は声明で、「複数の大企業は近年、こういった抜け穴を巧みに利用し、責任ある行動を取っている企業よりも製品を安く売り、中産階級に税金の支払いを強いている」と指摘 し、この措置を歓迎した。

新規制の概要は以下の通り。

1)“hopscotch” loans (石蹴りローン)の禁止

米税法では、米国の多国籍企業は全世界の支配下企業の利益に対して納税義務があるが、米国に送金されるまでは繰延収益とされ、課税が繰延べられる。

但し現行法では、海外子会社が米国の親会社に融資や株式購入などの形で送金した場合には、配当と同様に扱われ、課税される。

これに対し、本社を海外に移した企業が、子会社から米国親会社ではなく、この海外親会社に融資した場合、これまでは米国での配当としての課税は行われない。海外親会社に利益を飛ばすため、石蹴り(“hopscotch” loans)と呼ばれる。

今回の改正で、意図的に「融資」の形で海外の買収先へ流した利益についても事実上の「米国の資産」とみなし、米当局が課税する。

2) “De-controlling” 戦略の禁止

本社を海外に移した企業が、米国の親会社から海外子会社の株式を買い取り、米政府による海外子会社の繰越収益課税を永久に防ぐことが行われている。米親会社のcontorol を外す意味で“de-controlling” と呼ばれる。

今回の新ルールでは、仮にこうした会計操作をしても海外子会社に米の徴税権が及ぶようにする。

3)抜け道の禁止

本社を海外に移した企業が、繰越収益を持つ海外の子会社に米国の親会社の株を売却し、実質的に無税で現金や資産を回収することを禁止する。

4)規定の厳格化によるinversions”の禁止

2004年の改正税法では、海外企業との合併による海外への本社移転を認めているが、その条件として、元の米国企業の株主が新しい海外親会社の80%未満を所有するということになっている。(80%以上の場合は米国の税法を適用する。)

実際には、海外の規模の小さい企業と合併しながら(米国企業の株主が80%以上を持ちながら)、いろいろな手法でこれを免れている。

・Cash box 海外合併会社が事業に関係のない現金や資産を持ち、規模を膨らませる。
・“skinny-down” dividends 合併前に特別配当で米国企業の規模を縮小する。
・“spinversion”  一部事業を新設の海外企業に移し、スピンオフさせる。

今回の新ルールではこれらに制限を加えている。

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EUは9月30日、2014年6月11日付けのアイルランド向けのレターを公表した。Appleに対する課税の疑惑を詳細に述べ、今後調査を続けることを伝え、資料の提出を要求している。
オランダのStarbucksに対する課税も問題にしている。

EUは10月7日、ルクセンブルグのAmazon への優遇策についても正式に調査を始めたと発表した。

2014/6/13 欧州委員会、Apple等の法人税を調査
 

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アイルランド財務省は10月14日に発表した予算案の中で、多国籍企業が法人税支払いの軽減に利用している税の抜け道 “Double Irish” を廃止すると明らかにした。

財務相は「アイルランドに拠点のある企業は国内で課税対象になる」と述べ、一部で認めてきた非課税措置を取りやめる方針を示した。
2015年以降に新規設立する企業は優遇措置を利用できず、優遇策を受けている企業も2020年末で猶予期間が終わる。

New York Times (2012/4/28) はAppleなどの節税手口を “Double Irish With a Dutch Sandwich” (アイルランド2社とオランダ社のサンドイッチ)と呼び、下図により説明している。

技術の権利

米本社とTax Havenの子会社との間で Cost-sharing agreementを結び、安い価格で権利をTax Haven子会社に移す。

米国需要家向け販売

米国での販売利益は通常35%の法人税が課されるが、多額のロイヤリティをアイルランド会社に払い、米国の税金を減らす。
アイルランド会社はロイヤリティ収益をバージン諸島の親会社に送ることでアイルランドでは免税となる。
バージン諸島はTax Havenのため、課税はない。

外需要家向け販売

販売利益は第二のアイルランド会社で課税される筈だが、アイルランドとオランダの課税協定で、オランダ会社を通すことでアイルランドでは課税されない。

オランダ会社は販売利益を第一のアイルランド会社に送り、第一のアイルランド会社はこれをバージン諸島の親会社に送ることでアイルランドでは免税となる。
バージン諸島はTax Havenのため、課税はない。

今回、「アイルランドに拠点のある企業は国内で課税対象になる」ため、Tax Havenを使った税回避は出来なくなる。

欧州委員会はEUの競争法に違反するとの暫定判断を示しているが、アイルランドはEUの最終判断に先立ち、制度を見直した。


2014/10/21     BASF、テキスタイルケミカル事業をArchromaに売却

BASFは10月16日、Performance Chemicals 部門に属するテキスタイルケミカル事業をArchromaに売却すると発表した。

BASFのテキスタイルケミカル部門はテキスタイルの前処理、印刷、最終加工、コーティングを含むテキスタイルの全処理のための化学品を供給するもので、グローバルに展開する。シンガポールに本拠を置き、特にアジアの成長市場に強い足場を持つ。売却対象にはBASF Pakistan (Private) Ltd.を含む。

BASFは2013年3月には、皮革&テキスタイルケミカル事業の再編を行い、成長するアジア太平洋地域と、自動車向けレザーや高級テキスタイル製品などの高付加価値用途を重視し、強化し、同事業のグローバル研究開発拠点を中国の上海に設置するとしていた。しかし今回、この事業を成功させるにはクリティカルマスが必要であり、Archromaとの統合で今後の成長が期待できるとしている。

BASFはPerformance Products のポートフォリオ管理を積極的に行い、成長市場分野への特化を進める。

独禁当局の手続きなどを経て、2015年第1四半期に取引を完了させる予定。取引条件は明らかにしていない。

Archromaは、Specialty Materials &Chemicals とHealthcare分野のニッチ市場のリーダー企業を買収しているSK Capital Partners、2013年10月にClariantから買収したTextile Specialties、Paper Solutions 及びEmulsion Products 事業の運営のために設立した。

2008年にClariant の分割の噂が報じられた。

同社は
@Textile, Leather & Paper Chemicals、APigments & Additives、
BMasterbatches、CFunctional Chemicals
の4部門から成るが、報道によると、
@のTextile, Leather & Paper Chemicals は投資会社に、AのPigments & Additives は競争相手に売却され、BCだけが残るというもの。

報道の通り、Textile Specialties、Paper Solutions 及びEmulsion Products 事業がSK Capital Partners に売却された。

2008/9/27 Clariant、会社分割か?

SK Capital Partnersについては、2013/5/18 SK Capital Partners の事業


Archromaの事業内容は以下の通り。 
 Textile Specialties:テキスタイルの前処理、染色、印刷、最終加工に使う特殊ケミカル
 Paper Solutions:あらゆる種類の紙の脱色、着色、特殊コーティング、強化処理
 Emulsion Products :ペイント、接着剤、建設、テキスタイル、製紙など幅広い分野での問題解決

ArchromaはBASFから買収するテキスタイルケミカル事業を同社のTextile Specialty 事業(こちらもシンガポールに本拠を置く)に統合する。

Archroma はPaper Solutions 事業はスイスに、Emulsion Products 事業はブラジルに本拠を置く。.

Clariantは1995年に Sandoz の化学品部門がスピンオフして出来た企業で、1997年にはHoechst の化成品部門を買収しており、ArchromaのTextile Specialty 事業はSandoz、Hoechst、Clariant の技術を引き継いでいるが、今回、これにBASFの技術が加わる。

Archromaは2014年5月には、自動車、カーペット、アパレル向けの染料、化学品を生産するドイツのM. Dohmen SA の49%を買収している。

 


2014/10/22 米製薬会社 Allergan を巡る買収合戦 

米製薬会社 Allergan を巡る買収合戦が輻輳している。

カナダの製薬会社 Valeant とAllerganの大株主である物言う株主William Ackmanが組んでAllergan買収を目指し、Allerganがこれを拒否し続けている。

他方、Actavis がAllergan買収提案をし、拒否されたが、再度買収を図っている。

AllerganはValeantの買収を防ぐため、Salix Pharmaceuticals の買収を図っている。

付記

Allerganは2014年11月17日、Actavisによる660億ドルの買収案に合意した。

この額は、Valeantが最後に提示した額を60億ドル超上回っており、Valeantは、これだけ高額な買収額をAllerganに支払うことは正当化できないとし、買収を断念する考えを示唆した。
 

ーーー

カナダの医薬企業のValeantが2014年4月、Allerganに約450億ドルで買収提案をした 。

Activist Investor(物言う株主)として知られるWilliam Ackmanが率いる投資会社 Pershing Square Capital Management LP は既にAllergan株を10%弱保有しており、Valeantの買収案を支持している。

一方、AllerganはValeantの買収提案を「求められていない提案」と評し、Valeantの提案に抗戦する構えを示した。

Valeantは買取条件を二度にわたり引き上げ総額約530億ドルとしたが、Allerganは6月に、提案金額が同社の価値を著しく過小評価していることに加え、Valeantとの事業方針の違いなどを理由に、取締役会が全会一致で拒否を決めた。

Valeantは、Allerganの高コスト体質が、同社の株主価値を低めていると批判し、Allergan株主に対し、買収実現後は大幅なコスト削減を進めるとアピールしてきた 。
しかしAllerganはValeant に対し、「買収とコスト削減に頼るValeantの成長は持続可能ではない」と批判、Valeantが買収の利点として主張する節約効果を実現するため Allerganの研究開発費削減を進めれば「Allerganの長期的な価値が破壊されることを確信している」と主張した。


そう言いながらも、Allerganは 7月には
全従業員の13%に当たる約1500人を削減すると発表した。
組織の簡略化や拠点統廃合などの合理化も進め、2015年中に4億7500万ドルのコスト削減を目指し、株主価値を高めてValeantによる敵対的買収に対抗するもの

Allergan は一方でValeant の敵対買収を防ぐため、8月に下痢や潰瘍性大腸炎の薬を扱うSalix Pharmaceuticals Ltd. に対し買収の申し入れを行った。
第三者と組んで買収を行うと報じられた。

Salixの市場価値は100億ドル以上のため、買収が成功すればAllerganの価値が高まるため、Valeant とAckman氏によるAllergan買収は難しくなる。

SalixはイタリアのCosmo Pharmaceuticalsの100%子会社Cosmo Technologies Limitedの買収を決め、本社をアイルランドに移すとしていた。
法人税率が安い国への本社移転を狙う“inversion” 取引であり、仮にAllerganがSalixを買収した場合、これを利用して本社を海外に移す可能性も考えられた。

しかし、既報の通り、9月に米国が節税のための本社移転の抑制を狙った新規則を発表した。
このため、Salixはメリットが不透明になったとして、25百万ドルの違約金を払って契約を解除した。

Valeant とAckman氏はAllergan の株主の25%の支持を得ているとされ、AllerganのSalix買収の動きに対し、Achman氏はAllerganの取締役会に対し、Salix買収の賛否を問う株主投票を実施せず買収に踏み切る場合には訴訟を検討するとの書簡を送った 。

これを受け、Allerganは12月18日に臨時株主総会を開くこととした。

ーーー

Valeantとは別に、2014年8月に米国の医薬品メーカー Actavis plc がAllerganに対し、買収の提案を行った。

Aktavisは日本ではあすか製薬とのJVの「あすかAktavis製薬」を持っている。

これに対し、AllerganはSalixの買収を検討中として提案を拒否した。

しかし、Aktavisは諦めておらず、更にAktavisの筆頭株主の投資信託Fidelity InvestmentsもAllerganの株式を買い増し、買収を後押ししている。

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今後、最終的にどこがどこを買収するのか、注目される。

 


 

2014/10/23   日本触媒、食品添加物用有機酸でハラル認証を取得 

日本触媒は10月20日、姫路製造所で製造する食品添加物のコハク酸 、コハク酸2ナトリウム、フマル酸、及びその原料となる無水マレイン酸について、拓殖大学イスラーム研究所判定のもと、日本スリム協会より「ハラル認証」を取得したと 発表した。

ハラル(halal)とはイスラム法において合法なもののことで、逆に非合法なものはハラーム(haram)と呼ばれる。

アッラーが創造したものは、特に禁止された幾つかの例外を除き、ハラルである。
ハラルとされないものの例として、豚肉、血液、お酒があげられる。不浄でもあり、害になるものとされる。

その他ハラルとされないもの
〇シャリア法(コーランとムハンマドの言行を法源とする法)に則って食肉処理されていないもの
〇かぎ爪や鋭い牙がある動物
〇ワニ、亀、蛙など水陸両用の動物
〇かぎ爪のある鳥、捕食性のある鳥
〇ネズミ、ムカデ、サソリ等の有害生物および類似するその他の動物
〇シラミ、ハエ等、不快とみなされる生物

生命に危険を及ぼす海洋動物、植物から作られた飲料、食品は、シャリア法に則って解毒処理が行われた後にハラルとなる。

(ハラル・ジャパン協会による)

今回、イスラム法に照らし合わせ厳しい査察・検査を行った結果、イスラム教徒も安心して食し、利用できる製品であることが認証された。
今回の取得を機に、成長市場である東南アジアなどイスラム圏における販売拡大につなげるとしている。

 

日本触媒は世界で有数の無水マレイン酸で、これを原料に同社の有機酸類が製造されている。

食品添加物用有機酸とその製法は下記の通り。


 

コハク酸 清酒、合成酒、味噌、醤油、清涼飲料水、製菓等の調味料用
フマル酸
(マレイン酸の幾何異性体)
酸味料、ジュース・サイダー・ラムネ・ドロップ・アイスクリーム・ゼリー・果実缶詰・ベーキングパウダー・水産練製品
SS-50
(コハク酸2ナトリウム6水和物)
「貝の味」を個性味として、シーフード向けに最適な旨味成分、単味で使用される ほか、グルタミン酸ナトリウムとの一定割合併用によって、旨味の相乗効果が高まる。

 

上記の食品添加物用有機酸は一見、ハラルには無関係のように思われるが、単純ではない。

2001年に「インドネシア味の素」事件が発生した。

同社のグルタミン酸ソーダに豚肉の成分が使われているにもかかわらず、ハラル表示をしていたとして、商品の回収命令が出され、日本人役員ら6人が逮捕された。

同社は材料には豚の成分を使用してはいなかったが、グルタミン酸ソーダ生産のための菌の保存用培地に、豚由来の酵素を触媒として作られた大豆蛋白分解物質が一部使用されていた。

豚由来の酵素はインドネシア味の素の工場で使用されたのではない。

グルタミン酸ソーダは、糖蜜やでんぷんを発酵させてつくるが、発酵菌の栄養源となる培地として、米国から輸入された大豆分解物が使用されていた。
豚由来の酵素は米国で大豆分解物を作る際に使用されていた。

インドネシア食品医薬局としても、最終製品には豚由来の物質は含まれていないとの声明を発表したが、ハラル委員会が当該大豆蛋白分解物質使用はハラル上適切でないと判断し
たため、
インドネシアの社会保健省は「製造過程で豚の酵素が使用されていたのは、イスラムの教えに反し、消費者保護法に違反する」とし、回収の指示を出した。

 


2014/10/24  Janet Yellen 米連邦準備理事会議長、米国の不平等の深刻化を懸念 

米連邦準備理事会のJanet Yellen 議長は10月17日、ボストン連邦準備銀行が開催したカンファレンスで講演し、「所得や富の不平等は100年ぶりに最高レベルに近づいている」とし、「米国で不平等が深刻化していることは、大変懸念すべきことだ」と 述べた。

スピーチ:Perspectives on Inequality and Opportunity from the Survey of Consumer Finances


講演の内容は以下の通り。

米国における不平等の拡大が心配である。

過去数十年間の格差拡大を要約すれば、富裕層の所得や富が著しく増大する一方、大半の所得層では生活水準が低迷している状態と言える。

こうした傾向が、わが国の歴史に根ざした価値観、中でも米国民が伝統的に重きを置いてきた機会の平等に照らしてどうなのかと問うことが適切だ。


 

機会そのものが資産の多少の影響を受けるため、所得の不平等は機会の不平等を生み、それがまた所得の不平等を生むこととなる。
Council of Economic Advisers の議長のAlan Kruegerが2012年に提案した"Great Gatsby Curve"に見られるように、米国では1985年から2010年に不平等が拡大するとともに、親の所得がより影響を与えるようになった。 (
スコット・フィッツジェラルドの小説 『グレート・ギャツビー』からとった。)

Great Gatsby Curveは所得の不平等と世代間の所得の弾力性を示す。

下図で横軸はGini係数で、右へいくほど不平等が大きい。
縦軸は父親の収入が1%上昇するとその子供の予想される収入にどの程度影響するかを示す指標で、上にいくほど親の所得が子供の将来の所得に大きく影響する。
即ち、この数値が高いほど格差が次世代にわたり、固定化しており、社会的流動性が低くなっていることを示す。

米国では1985年から2010年に、右へ、上へ、移動している。

 

Bloomberg

このような状況で、機会の平等をどうしたら推進していけるのだろうか。

本日の目的は、問題の回答を示すことではなく、今後の議論のための基礎事実を述べることである。
今後議論を進め、解決策を出して欲しい。

Federal ReserveのSurvey of Consumer Finances によると、米国では上位5%の所得が全体の37%を占める。(1989年の31%から増加)
これに対し、下位の50%、中間の45%のシェアは減少している。

平均所得を見ても、上位5%のみが大きく増加している。

所得ではなく、財産でみると、もっと明らかである。

上位5%の財産は1989年の54%から63%に増え、下位50%は3%から1%に減少、中間の45%も43%から36%に減少している。

上位5%の平均財産は1989年の360万ドルから2013年には680万ドルにほぼ倍増しているが、下位50%の財産は1989年の半分の11千ドルに過ぎず、その1/4は財産ゼロかマイナス(住宅ローンなど)である。 (住宅バブルで増加しつつあったが、バブル崩壊で急減した。)

機会の平等に影響する要素が4つある。

1)子供の発育期に使う金

下位層には社会的セーフティネットが重要だが、予算カットの影響を受ける。
初等教育は米国では市町村ごとのセールスタックスによるため、富裕地区と貧民地区では大きな差が出る。
優秀な教員も富裕地区に行きたがる。

2)高等教育の費用

大学の授業料の高騰で奨学資金ローン残は2004年の2600億ドルから本年は1兆1000億ドルにまで増大。
支払い負担により若い人が高等教育を受ける機会がどんどん減っている。

参考 http://www.nicmr.com/nicmr/report/repo/2012/2012aut07web.pdf

3)ファミリービジネス

新しく事業を始めるのは難しくなりつつある。
下位50%層のうち、たった3%だけが事業を行っている。

4)財産相続

上位5%層の財産相続額は平均110万ドル、次の45%の層は183千ドル、残り50%の層の平均は68千ドル。

これらの問題について検討して欲しい。

ーーー

参考    2013/10/23 米国の政治・経済の問題点 

 


2014/10/25 SABIC、ShellとのJVのSADAFの増設を取り止め 

SABICは10月23日、ShellとのJVのSADAFで計画していた増設計画を取り止めると発表した。

FSの結果が好ましくなかったとし、両社は引き続き他の拡張計画の可能性を検討するとしている。

Saudi Petrochemical Company(SADAF)は Al Jubail industrial zoneにあり、現在の製品は下記の通り。

SABIC and Shell は2012年11月に増設計画を明らかにした。

Shellの技術を使用してフルレンジのポリオールとSM/POを新設するもの。

Shell はPOを原料とするポリエーテルポリオールのメーカーであり、シンガポールでは2つのPO/SM製造会社を持っている。

1つはSeraya Chemicals Singaporeで、能力はPO 315千トン/SM 140千トン、当初はShell 70%/三菱化学 30% のJVであったが、現在はShell 100%。

2つ目はELLBA Eastern で、PO 550千トン/SM 250千トンで、Shell とBASFの50/50JVとなっている。

三菱化学はShellがBASFとのJVで2期計画を実施するのを期にJVから撤退、当初はSMの引取権を維持したが、2006年に撤退した。

Shell はシンガポールにPO/SMに加え、PG、ポリエーテルポリオール、EG、oleo-alcohol ethoxylatesを生産している。

当初両社はフルレンジのポリオールとSM/POは中東で初めてのものとしていたが、POについてはPetro Rabigh が住友化学の単産法で年産20万トンの生産をしており、2期計画では1期でのPOとEOを原料にポリオールを生産するため、完全に競合する。

Petro Rabigh 


2014/10/27 番外編 

データベースに「化学各社の海外進出」を追加しました。

クリックしてください。データベースのトップページからも入れます。

既に撤退したものも含め、各社の海外進出状況をまとめています。各社の発表文や本ブログ記事にリンクして詳細がわかるようにしています。

以前に他のところで公開していたものを整理し直しました。

今後も新規分を追加するとともに、過去の分についても、補正・修正する予定です。


2014/10/27  イタリアのタイヤメーカー Pirelli とロシアのRosneft、ナホトカでSBR製造へ 

イタリアのタイヤメーカー Pirelli とロシアのRosneftは10月17日、ロシアのナホトカでSBRを含む合成ゴムの生産を行うことについて新しい覚書を締結し、3ヶ月以内に技術パートナーを選ぶことを決めた。

Rosneftと新パートナーはナホトカでの合成ゴム製造のやり方を検討し、Pirelli はこれに協力する。

両社は本年5月に本件でのMOUを締結している。

実現すれば、Pirelliは生産されるSBRを含む合成ゴムを購入する長期契約を締結する。

付記

両社とポーランドの石油化学会社 Synthos は2015年4月にMOUを締結、Synthosが計画の技術パートナーとなった。

3社は2015年10月22日、FS結果を承認、今後の 協力について覚書を締結した。FEPCO (Far East Petrochemical Company) という名称を使っている。

生産するSBRは溶液重合法SBRで、省燃費型高性能タイヤ(いわゆる Green Tire)用に使われており、各地で増設されている。            

2013年12月にRosneftとPirelliはアルメニアのOil Technoとの間で、アルメニアでの合成ゴム、特にSBRの生産をすることに関し、共同でR&Dを実施する覚書を締結している。

主体はRosneftで、PirelliはRosneftに協力し、実現した場合には長期的に購入する意向を示した。

Rosneft は2014年3月17日、間接的にイタリアのタイヤメーカーPirelli の筆頭株主になる契約を締結した。

最終的にRosneft のPirelliへの出資比率は13.1%となり、Marco Tronchetti Provera会長の10.5%を上回り、最大株主となる。

RosneftとPirelliは2012年12月に契約を結び、RosneftのガソリンスタンドでPirelliのタイヤを販売しており、原料の供給も行っているが、関係を更に強化する。

2014/3/25 ロシアのRosneft、イタリアのタイヤメーカー Pirelli の筆頭株主に

 

ナホトカの石油化学計画については次回。


2014/10/28 Rosneft のナホトカ石油化学計画 

昨日の記事で、イタリアのタイヤメーカー Pirelli とロシアのRosneft がロシアのナホトカでSBRを含む合成ゴムの生産を計画していることを述べた。

Rosneftはナホトカ近郊で大規模な石油精製・石油化学の計画を進めている。

西シベリアから東シベリア太平洋石油パイプライン(ESPO) で運ばれる原油を利用し、年産2400万トンの石油製品と600万トンのナフサを生産し、ナフサから石油化学製品を生産するもの。
(2013年に増量の改正を行った計画では、1期は石油1200万トン、2期はナフサ340万トン、3期は石油1200万トンとナフサ260万トンで、3期をやるかどうかは市場の状況による。)

立地は、ナホトカ近郊のPervostroyiteley villageのPrimorsk Regionに決まった。

この計画は次の問題点の解決策となる。

1)極東で需要が増加しつつある高品質自動車燃料の供給 
   ピーク時に月に10万トン以上の自動車燃料を供給

2)単なる原油の輸出から、付加価値を付けた石油化学製品の輸出へ
   石化製品はアジア、オセアニアに輸出するとともに、国内での川下製品の製造にも使用する。

Rosneftはこの事業の推進のため、Far Eastern Petrochemical Company (FEPCO)を設立した。

石油化学では、エチレン140万トンと誘導品として PP、PE (LDPE、HDPE)、EG、その他を計画している。

東シベリアやその西方の油田地帯から原油を輸送する東シベリア太平洋石油パイプライン(ESPO)は2012年12月にナホトカ近郊のコズミノまでの全線で稼働した。

2012/12/27  東シベリア太平洋石油パイプラインが全線で稼働 

 

三井物産は2013年4月、FEPCOへの石油化学計画への参加の覚書に調印した。
安倍晋三首相は4月に訪露し、プーチン大統領と極東開発やエネルギー協力などで合意したが、両首脳はこの調印式に参加した。

両社は設計などで協力し、その結果により参加を決定する。
 

三井物産は合わせて、Rosneftとの間で、オホーツク海北部のマガダン州沖鉱区の油田開発に参画することで合意した。


 

2014/10/29  エボラ出血熱ワクチンの開発進む 

Johnson & Johnson (J&J) は10月22日、エボラ出血熱のワクチンの効果や安全性を確認するための 臨床試験を2015年1月から始めると発表した。

人体への安全性と効果を確認できれば、欧州拠点で量産を始める。

J&Jはワクチンの開発と量産体制を確立するために最大で2億ドルを投じる。

National Institutes of Health (NIH) と協力して行うワクチン投与計画では、子会社のJanssen Pharmaceutical Companiesの部門である Crucell Holland B.V.のワクチンAdVac®と、デンマークに拠点を置くバイオ企業のBavarian NordicのワクチンMVA-BN®を組み合わせる。

この組み合わせはサルヘの実験では、2回の接種で現在流行している種類のエボラ出血熱ウイルスヘの感染を予防する効果が確認されており、来年1月から欧州、米国、アフリカの健康なボランティアを使って安全性と免疫原性のテストを行う。

Janssenでは2015年中に100万回分の生産を行う計画で、このうち5月までに臨床テスト用に25万回分を生産する。

Johnson & Johnson では、ワクチンの臨床テスト、開発、生産、配分について、WHO、アメリカ国立衛生研究所(NIAID)、各国の政府や保健機構と密接な連絡をとっている。

ーーー

GlaxoSmithKlineは10月18日、同社のエボラワクチンの状況を発表した。

ワクチン候補の開発はかってない早さで進んでおり、フェース1の安全性チェックは米国、英国、マリで進行中で年末には結果が出る。うまくいけば、更なるテストが2015年早々に始まり、シエラレオネ、ギニア、リベリアの3国で数千人の医療関係者に接種を行う。

GlaxoSmithKlineのワクチン候補は、2013年5月に買収したスイスのバイオ企業のOkairosが開発したもので、買収後、アメリカ国立衛生研究所と協力して開発を進めている。

GlaxoSmithKlineは2013年5月に、予防接種事業の拡大のため250百万ユーロでスイスのバイオ企業Okairos AGを買収した。
元の持ち主は、BioMedInvest、Boehringer Ingelheim Venture Fund、LSP、Novartis Venture Funds、Versant Ventures など。

買収分には、呼吸器合胞体ウイルス(RSウイルス)、C型肝炎ウイルス、マラリア、結核、エボラ、HIVの初期段階の製品を含んでいる。

Okairosは遺伝子を組み込んだ不活性化アデノウイルスベクターを用いてT細胞による免疫活性化を図る予防・治療ワクチンを開発している。

GlaxoSmithKlineはインフルエンザ、肝炎、ロタウイルスなどを既に販売しており、マラリアの予防接種を開発中で、2013年のワクチン事業の売上は33億英ポンドとなっている。

ーーー

NewLink Genetics Corporationは9月4日、FDAが同社のエボラワクチン候補のフェース1の臨床テストを承認したと発表した。

このワクチンはPublic Health Agency of Canadaが最初に開発したもので、NewLink Geneticsの100%子会社のBioProtection Systemsが独占実施権を得ている。

エボラウイルスに感染した動物のテストでは好結果を得ており、FDAは人間での臨床テストを承認した。

フェース1の安全試験実施に当たり、国防総省の国防脅威削減局(DTRA) と Walter Reed 陸軍研究所 (WRAIR)と協力している。

BioProtection Systemsは8月にDTRAから臨床試験に先立つ追加の毒性試験目的で100万ドルの資金提供を受けている。

付記  

米国のMerckは2014年11月24日、NewLink Geneticsとの間でNewLinkのエボラワクチン rVSV-EBOV について研究、開発、製造、販売のグローバルの独占実施権を受けるライセンス契約を締結したと発表した。

2015年初めの第1段階の臨床試験で好結果が出れば、大規模な試験が行われる。

付記

Merk は2015年7月31日、WHO等が進める臨床試験の中間結果で、上記ワクチンが予防に100%の有効性を持つことが確認されたと発表した。

ーーー

Tekmira Pharmaceuticals Corporationは10月21日、エボラ対策の状況を発表した。

同社はRNA干渉治療の主導的開発者だが、現在問題となっているエボラのギニア変種を対象とするワクチンのGMP製造を限定的に開始した。12月にも供給が開始される。

RNA干渉(RNAi:RNA interference)は、二本鎖RNAと相補的な塩基配列を持つmRNAが分解される現象で、この現象を利用して人工的に二本鎖RNAを導入することにより、任意の遺伝子の発現を抑制する手法。病気を起こす遺伝子を眠らせる もの。

西アフリカで流行するエボラウイルスの遺伝子配列が確定され、 'Ebola-Guinea' と呼ばれる変種のウイルスのRNA干渉治療が完成した。

同社は、WHO、疾病管理センター、国境なき医師団、国際重症急性呼吸器感染コンソーシアム (ISARIC) などとのコンソーシアムと協力している。


2014/10/30 

LG Science Park 起工式

LGグループは10月23日、ソウル市江西区の麻谷産業団地(Magok Industrial Complex )で韓国最大規模の「融複合研究団地」であるLG Science Parkの起工式を行った。
朴槿恵大統領、具本茂会長ら約500人が出席した。

投資額は4兆ウォン(約4090億円)で、研究開発投資としては会社設立以来で最大規模となる。

朴大統領は「困難な時期だが、韓国企業が先手を打った投資と技術革新を通じ、新たな付加価値を創出すれば、韓国経済が追い上げ型から先導型へ飛躍する重要なきっかけになるはずだ」、「LG Science Park は困難な時期であるほど、未来に果敢に投資し、たゆまぬ革新を追求するチャレンジ精神を示している」と述べた。

1990年代にはこの地域は農園であったが、LG Science Parkの建設で一大研究センターとなる。

同パークは17万m2で、18棟の建物から成り、LGグループの10社が入る。
IT、Biology、Chemistry、Energy 関連の25千人の技術者が集まる。
18棟のビルのうち、2棟は「コア センター」で、異なる分野の知識、アイディアをここで統合する。

第一期が完成する2017年に入居
LG Electronics
LG Display
LG Uplus(LGテレコム)
LG CNS (旧称
LG-EDSシステム)
 

その後、入居
LG Chem
LG Hausys(2009年にLG Chemの産業材事業部門を分社化)
LG Household & Health Care(LGの創業事業の化粧品や歯磨き粉を承継した韓国トップの生活用品・化粧品専門企業)
LG Life Sciences(2002年8月に生命科学の専門企業として発足)
SERVEONE(太陽光発電事業)
 

建物には7,000の太陽電池モデュールを据え、毎時3メガワットを発電、LEDを使用する
 

2014/10/31 富士フィルム、ワクチン受託製造市場へ参入 

富士フィルムは10月27日、米国の子会社 FUJIFILM Diosynth Biotechnologies USA.バイオ医薬品受託製造会社(CMO:Contract Manufacturing Organization)でワクチン製造に強みを持つKalon Biotherapeutics, LLCを買収すると発表した。ワクチンCMO市場に参入し、バイオ医薬品事業をさらに拡大する。

Kalon社の持分所有者であるテキサス州およびテキサス A&M大学から全持分の49%を取得する。今後、数か月以内に決済手続きを行う。買収金額は公表していない。
また、同社の取締役の過半数を富士フイルムグループから任命する。

今後、売買契約に規定されたマイルストーンに沿って持分比率を100%まで引き上げる。

富士フイルムは、Kalon社がエボラウイルスや炭疽菌などの感染症向けワクチンを安全、安定的に製造できる点を評価し、買収により世界的な事業拡大が見込めると判断した。


Kalon社は2011年9月にTexas A&M University System によって設立された高度な技術と最先端の設備を持つバイオ医薬品CMO会社。

米国保健福祉省傘下の米国生物医学先端研究開発局から、バイオテロや新型インフルエンザのパンデミックなどの非常時に公共の健康を守るための医療手段を開発・ 製造する重要拠点 “Center For Innovation In Advanced Development and Manufacturing” の1つとして指定されている。

テキサス州はテキサス新興技術基金を通して、本拠点の建設・運営を援助している。

ワクチンを(鶏卵ではなく)動物細胞培養法で製造することに強みを持 つ。

ワクチン製造に必要なウイルスを製造工程内にとどめる世界トップレベルの高度な封じ込め技術を保有。
新型インフルエンザウイルスやエボラウイルス、炭疽菌などに対するワクチンを安全かつ安定的に製造することができる。

ウイルスの高度な封じ込めが可能な、小型で可動式のモバイルクリーンルームを完備してい る。
同社のワクチン製造施設、National Center for Therapeutics Manufacturing ビルに、最大20基まで設置することが可能で、多品種のワクチンを同時並行で製造することができる。

本クリーンルームは、動物細胞培養法によるワクチンはもちろんのこと、抗体医薬品を含むあらゆる種類のバイオ医薬品の製造も可能 。

 

バイオ医薬品CMO市場は年率約7%の成長が見込まれており、なかでもワクチンの用途が、従来の感染症予防に加え、がんの予防・治療にも広がっていることなどから、ワクチンのCMO市場は、年率10%以上と高い成長が予想されてい る。

富士フイルムは2011年2月に米国Merck & Co., Inc. から米、英のバイオ医薬品の受託製造会社2社を買収し、バイオ医薬品CMO事業に参入し、その後、バイオ医薬品を含む医薬品ビジネスで長年の経験を持つ三菱商事と業務提携し、 両社の事業体制を強化してきた。

社名 FUJIFILM Diosynth Biotechnologies UK Limited

旧称 MSD Biologics (UK)

FUJIFILM Diosynth Biotechnologies USA., Inc

旧称 Diosynth RTP Inc.

場所 英国 Billingham 米国ノースカロライナ州Morrisville
株主 富士フィルム 100%80%
三菱商事        0%
20%
  
当初 ICI
Zeneca
Avecia
BiologicsMerck 
富士フィルム 100%80%
三菱商事 
        0%20%

当初
Corning
CovanceAkzoSchering-PloughMerck 
                                                               2011年2月 富士フィルムがMerckから買収
                                                               20116 三菱商事が両社に各20%出資 
備考 微生物を用いたバイオ医薬品の開発・製造受託事業者。
バイオベンチャーや製薬企業からの業務を請け負う。
1996年、Zeneca社としてCMO事業を開始。微生物培養の研究開発・製造に優れ、独自の開発技術とバイオ医薬品の治験から商用生産まで一貫して対応が可能なGMP製造設備を有する。
FDAによる商用生産の許認可実績を持つ。
細胞や微生物を用いたバイオ医薬品の開発・製造受託事業者。
バイオベンチャーや製薬企業からの業務を請け負う。
バイオ医薬品の開発からラージスケールの量産製造まで豊富な経験とバイオ医薬品の治験から商用生産まで一貫して対応が可能なGMP承認を得た製造設備を有する。
FDAによる商用生産の許認可実績を持つ。
     2011/2/28  富士フイルム、米メルクからバイオ医薬事業買収

富士フイルムは、長年の写真フィルムで培った生産技術や品質管理技術などを両社に投入し、高品質なバイオ医薬品の効率的な生産を図ってい る。

今後、両社が持つ高度な動物細胞・微生物培養技術(Apollo ™、pAVEway ™)、および昆虫細胞培養技術に、Kalon社の強みを組み合わせて、さまざまなワクチン製造ニーズにワンストップで応えられるサービス体制を構築し、バイオ医薬品事業のさらなる拡大を図る。

富士フイルムホールディングスの医療機器を含めたヘルスケア事業の2013年度の売上高は3800億円。
グループの富山化学が開発した抗インフルエンザウイルス薬「アビガン® 錠200mg」(一般名 favipiravir) が、エボラ出血熱の治療に使われている。

同社ではバイオ医薬品の受託製造事業の売上高を2018年度までに300億円規模に拡大したい考え。

ーーー

富士フィルムは10月30日、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)新株予約権の全てを年内に行使することを決定したと発表した。
これにより持株比率は50.33%になり、連結子会社となる。

付記  2014年12月18日、行使完了。

2010年に国内で再生医療製品事業を展開するJ-TEC と資本提携を行い、41.29%の株式を取得した。
富士フイルムが開発した生体適合性に優れるリコンビナントペプチド(RCP)を活用した再生医療製品の開発をJ-TEC に委託し製品化を進めている。

2010/9/3 富士フイルム、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングと資本提携


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