2006-5-1

ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は http://blog.knak.jp


2015/12/16   中国人民銀行、人民元の新指数導入

人民元は米ドルに対して下落を続けている。

しかし、国際通貨基金(IMF)は5月26日に公表した中国経済に対する年次審査報告書で、中国の人民元はもはや過小評価されていない、と指摘した。
「人民元の過小評価がこれまで大きな不均衡の要因だったが、実効為替レートの過去1年間の大幅上昇により、もはや過小評価されているとは言えない水準になった。」

米ドルに対して下落しているのは、ドル高の影響であり、人民元は、ドル以外の大半の通貨に対しては上昇している。

2015/5/30 IMF、「人民元はもはや過小評価でない」 

中国人民銀行は12月11日、為替相場は複数の国々との貿易と投資を反映するものであり、 米ドルに対する変動のみでなく、通貨バスケットに対する人民元の変動を考慮する必要があると説明、人民銀行が運営する中国外国為替取引システム(CFETS)は、13の通貨 (下の表に記載)で構成される新たな人民元の指数を公表した。

「人民元はドルだけを参考にすべきではない」とのコメントを、市場では「中国政府は対ドルでの人民元の下落を容認している」と受けとめられ、人民元は続落した。

CFETSは合わせて、BIS(国際決済銀行)通貨バスケットの為替レート指数と、SDR決済通貨バスケットの為替レート指数を発表した。

いずれも2014年12月末を100とする指数で、結果は下記の通り。

  CFETS指数 BIS 指数 SDR 指数 人民元/US$
2014/12/31 100.00 100.00 100.00 6.2040 100.00
2015/11/30 102.93 103.50 101.56 6.3981 96.97
12/11 101.45 102.28 99.52 6.4553 96.11

11月30日の指数では、対米ドルでは2014年末比で3.03%の元安だが、CFETS指数では2.93%、BISバスケットでは3.50%、SDRバスケットでは1.56%の元高となっている。
(12月11日のスタート日ではSDRバスケットは0.48%の元安となったが、対米ドルの3.89%の元安よりも、元安の程度ははるかに小さい)

各バスケットでの各国通貨の比率(%)は下記の通りで、CFETS指数は再輸出を調整した国際貿易のウェイトにより計算される。
SDR指数は2011-2015年の構成比率。

CFETS指数では米ドルの比率は26.40%に過ぎない。

  CFETS 指数 BIS 指数 SDR 指数
米 ドル 26.40 17.80 41.90
ユーロ 21.39 18.70 37.40
日本 円 14.68 14.10 9.40
香港 ドル 6.55 0.80 -
英 ポンド 3.86 2.90 11.30
豪 ドル 6.27 1.50 -
NZ ドル 0.65 0.20 -
シンガポール ドル 3.82 2.70 -
スイス フラン 1.51 1.40 -
カナダ ドル 2.53 2.10 -
マレーシア リンギッド 4.67 2.20 -
ロシア ルーブル 4.36 1.80 -
タイ バーツ 3.33 2.10 -
他 27カ国通貨 - 31.70 -
合計 100 100 100

 


2015/12/17 ブリヂストン、Carl Icahn と米国大手自動車用品小売チェーンの買収合戦 

ブリヂストンは12月12日、さきに買収契約を締結していた米国の大手自動車用品小売チェーン The Pep Boys - Manny, Moe & Jack との間で、買収契約の内容改定を行ったと発表した。

Carl Icahn が、ブリヂストンの買値よりも高い価格での買収提案を行ったのに対し、ブリヂストンがこれに追随したもの。

ーーー

ブリヂストンは10月26日、Bridgestone Americas, Inc. 子会社のBridgestone Retail Operations, LLC が米国でタイヤ販売などを行っている大手自動車用品小売チェーンのPep Boys を買収する最終契約を締結したと発表した

株式公開買付けにより、Pep Boys の株式を1株当たり現金15.00ドル、株式買収総額約8億35百万ドルで取得する手続きを開始、2016年初に終了する見込みとした。

Pep Boys は1921年創業の自動車アフターマーケットの大手で、自動車タイヤの販売、整備・補修及び自動車用品の販売を行う小売店を米国35州とプエルトリコに800店舗以上を展開している。

Bridgestone Retail Operationsは、Firestone Complete Auto Care などのブランドで全米に2,200店舗以上の自動車タイヤ販売、自動車整備・補修及び自動車用品を販売する小売店を運営しているが、Pep Boys の買収により、小売店網は約35%拡大する。

ーーー

これを受け、ブリヂストンは12月12日、買収価格を15.50ドルに引き上げると発表した。当初価格は15.00ドルであったが、Icahnが15.50ドルを提示したのを受け、同額に引き上げた。

これにより、買収総額は、8億35百万ドルから8億63百万ドルに増えることになる。

Pep Boys側はブリヂストンが買収価格を引き上げたことで、これを受け入れて買収契約の内容改定を行い、「株主にブリヂストン案を推奨する」とし、Icahn 側の提案について、「もはや優位性はない」と発表した。

ブリヂストンの改正価格はIchanの価格と同額だが、ブリヂストン側は既に独占禁止法など規制面での承認を受けており、金額以外の条件が評価された。

今回の株式公開買付けは、今後延長されない限り、2016年1月4日に完了する予定。

ブリヂストン側がIcahn側の提案価格と同額にしたことから、後、Ichan側がさらに価格を上げるかどうか、注目される。

先週末 12月11日のPep Boysの株価(NYSE:PBY)は、高値16.59ドル、終値 16.34ドルで、買収価格(15.50ドル)より高い。


2015/12/17  米国、利上げ

米連邦準備理事会(FRB)は12月16日、米連邦公開市場委員会(FOMC)で、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を 0%〜0.25% から0.25%〜0.50% に引き上げることを決めた。

利上げは約10年ぶりで、米経済は2007-09年の金融危機による打撃を概ね克服したとの認識を示した。

 

FRBは2014年1月29日に開いた会合で、債券買い入れ規模を減らし、量的緩和(QE3)の縮小を継続する方針を決めた。
アメリカ経済は消費や設備投資が一段と改善し、景気は「上向いた」という見方を示した。

FRBは2012年9月以来、毎月850億ドルの債券買い入れを続けていたが、2013年6月にバーナンキFRB議長が、経済指標次第としつつも「年内に証券購入ペースを緩めるのが適切」と述べた。

2013年11月の会合では縮小見送りを決めたが、12月の会合では2014年1月の買い入れ額を100億ドル減らすことを決めた。

2014/2/4 米国の量的緩和縮小とその影響 

その後の推移は下記の通りで、FRBは2014年10月29日、QE3での資産購入を10月いっぱいで終了することを決めた。
なお、その時点では、ゼロ金利政策は「相当な期間、維持するのが適切」とした。

2014/1   750 億ドル (← 850億ドル
2   650    
4   550    
5   450    
7   350    
8   250    
10   150    
11   0    
         

付記 

FRBの保有資産は2008年の危機前は1兆ドルを割り込んでいた。
2008年からの量的緩和(QE1 〜 QE3)での買い入れで、現在では4兆5千億ドルとなっている。

これを圧縮すれば、利上げとともに二重の引き締めとなるため、簡単には出来ない。

これを圧縮するには10年以上かかるとされる。真の「出口」はこれからである。
現在は満期を迎えても償還分を再投資して資産規模を維持している。

 

参考  日本の金利

付記

速水優総裁は2000年8月11日の会合で、「少なくとも日本経済はデフレ懸念の払拭が展望できる情勢に至ったと判断する」と総括、「政策判断としてどれでいくか決定するのは、日銀法第3条で認められた我々の自主性である」と言明し、政府の議決延期請求を否決してゼロ金利政策の解除を決めた。

ゼロ金利解除後、ITバブル崩壊で景気の雲行きが怪しくなり、速水総裁が2000年10月の会合で「米経済が少し変調をきたしているとの心配がある」と指摘。
日銀は2000年12月の会合で景気判断を下方修正、2001年2月には政策金利を引き下げ、3月に量的緩和政策という異例の措置に踏み切った。

米国経済がITバブル崩壊から立ち直ると日本の景気も回復に向かい、2006年に入ると消費者物価は前年比で上昇するようになった。
その後も景気回復が続き、物価下落の圧力も低下したことから、7月14日にゼロ金利政策の解除が全会一致で決定され、短期金利が実質的にゼロという状況は2001年3月以来、5年4か月ぶりに解除された。

2010年10月に三度目のゼロ金利政策が導入され、現在に至っている。


2015/12/18 消費税の軽減税率適用範囲の拡大の影響 

消費税の軽減税率(8%) 適用の範囲が、酒と外食を除く全ての飲食料品となった。


民主党政権下の2012年8月に、民主、自民、公明の3党合意で成立した消費増税法では、税収増加分すべてを社会保障費にあてることとしている。

これまで検討されてきた増収分の使途は下記の通り。

  当初 2015年度 引き上げ後
消費税率 5% 8% 10%
うち、地方分 2.18% 3.10% 3.72%
 
(既存)高齢者年金・医療・介護 13 兆円 13 兆円 13 兆円
 (増税分)      
基礎年金国庫負担割合 1/2との差額 先取り   3 兆円 3.2 兆円
診療報酬、介護報酬、年金、子育て支援等の物価上昇分 残り 1/3     0.35 兆円 0.8 兆円
社会保障充実
総合合算制度
  1.35 兆円
 
2.4 兆円
0.4 兆円
後代への負担の付回しの軽減   2/3   3.4 兆円 7.3 兆円
(消費税アップ分 計) - 8 兆円 14 兆円

社会保障の充実:子供・子育て支援の充実、医療・介護の充実、年金制度の改善
総合合算制度:消費増税に伴う低所得者対策として、医療、介護、保育などの自己負担総額に上限を設けるもの。

後代への負担の付回しの軽減 :既存の社会保障費(高齢化等での自然増を含む)のうち、安定財源が確保できていないもの。
                国の借金増を防ぐためのもの。

軽減税率を適用する場合、減収分を上記の使途のどれかを減らすか、他の財源から確保する必要がある。

財務省と自民党は軽減税率に充てられる財源は「総合合算制度」の導入に充てる予定だった「4000億円が上限」と主張してきた。
生鮮食品のみに軽減税率を適用する場合は3400億円程度である。

しかし今回、自民党の選挙対策で軽減税率適用範囲が拡大し、必要な財源は1兆円規模となるが、財源は確保できていない。

政府は財政健全化策として、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年度に黒字化するとした閣議決定を行なっているが、その際、軽減税率を導入した場合の税収減については触れていない。

与党合意では「2016年度末までに安定的な恒久財源を確保。財政健全化目標などを踏まえ、消費税を含む税制改革や社会保障制度改革など歳入・歳出のあり方を検討し、必要な措置を講じる」としている。

予定していた社会保障の充実がさらに見送られれば、国民からの批判は必至である。
谷垣幹事長は消費税率10%超への再増税について記者団に「将来の課題だ」と述べ、否定しなかった。


2015/12/19 仏Sanofi と独 Boehringer Ingelheim、事業交換の交渉  

Sanofi とBoehringer Ingelheim は12月15日、両社が事業交換に関して独占的な交渉に入っていると発表した。

両社は2016年10−12月の取引完了を目指しており、実現すれば、Sanofi はConsumer Healthcareでグローバルリーダーとなり、 Boehringer Ingelheimは動物医薬品で世界二位となる。

付記 両社は2016年6月、契約を締結した。

付記 独禁法の問題を避けるため、下記の処理を行う。

 (欧州)Merialの特定の動物用ワクチンと医薬品(米国を除く)をCeva Santé Animaleに売却 
 (米国)Boehringer Ingelheimの愛玩動物用ワクチンを
Eli Lilly(Elanco Animal Health部門)に、寄生虫駆除製品をBayer に売却

Sanofi の評価額114億ユーロの動物医薬品事業(子会社"Merial")  と Boehringer Ingelheim の評価額 67億ドルの Consumer healthcare 事業を交換するもの。
Boehringer Ingelheim の中国のconsumer healthcare 事業は交換の対象外となっている。 

Sanofi は評価額の差額の47億ユーロを現金で Boehringer Ingelheimから受け取る。

Sanofi

 

Boehringer Ingelheim

動物医薬品事業(子会社"Merial")
           評価額 114億ユーロ
 
 
Consumer healthcare 事業
    (中国事業を除く)
   評価額 67億ユーロ
現金     47億ユーロ

Sanofi のconsumer healthcare の2015年の売上高は、Boehringer Ingelheimの16億ユーロを加え、約51億ユーロとなり、グローバルなマーケットシェア 4.6%で、トッププレーヤーとなる。
両社の事業は製品でも地域でも極めて補完的である。

Sanofi は比較的弱かったドイツと日本での地位を高める。米国、欧州、ラテンアメリカ、ユーラシアでも事業を拡大する。
Boehringer Ingelheim は日本でエスエス製薬を傘下に持つ。
  
2010/2/16 Boehringer Ingelheim、エスエス製薬にTOB

Sanofi はまた、鎮けい薬、胃腸薬、ビタミン・ミネラル・サプリメント、鎮痛薬で有力ブランドを確保し、風邪薬では売上が増大する。

Boehringer Ingelheimの動物医薬品は、Sanofi のMerial の売上高25億ユーロを加え、売上高38億ユーロの世界二位の企業となる。

Merialは愛玩動物や家禽に強く、Boehringer Ingelheimは豚に強く、補完的である。

統合後の両社の分野別のグローバルの地位は下記の通り。

 Sanofi の Consumer Healthcare

  市場規模
 億ユーロ
統合後の
地位
痛み止め 132 #2
アレルギー 31 #3
風邪薬 172 #6
女性用品  8 #1
消化薬  144 #1
ビタミン・ミネラル・サプリメント  276 #3

 Boehringer Ingelheimの動物医薬品

  市場規模
 億ユーロ
統合後の
地位
小動物 71 #1
反芻動物  58 #4
26 #1
家禽 24 #3
6 #1

 

Sanofi (2011/5 Sanofi-Aventis から改称)はHoechstと Rhone Poulenc が合併してできたAventisと、フランスのSanofi-Synthelaboが2004年に合併したもの。

2011/2/17 Sanofi-Aventis、Genzymeを買収 
 

Boehringer Ingelheim は世界で20位以内に入る医薬会社で、1885年に設立されたドイツに本拠を置く家族経営の企業。

子会社の日本ベーリンガーインゲルハイムがエスエス製薬の株の約60.2%を所有していたが、2010年にTOBを行い、出資比率を93.83%とし、その後100%子会社とした。


2015/12/21 米議会、予算案を可決、原油輸出解禁、IMF出資比率見直しも 

米議会下院と上院は12月18日、1兆1500億ドル規模の予算法案を可決した。大統領がサインし、同日成立した。

下院は12月17日に、6220億ドル規模の企業向け優遇税制法案を賛成318、反対109で可決した。
法案は上院に送られ、歳出法案とともに採決され、可決した。

これまで一時的な措置だった研究開発費用の優遇税制などを恒久化する内容で、学生や低所得者、教師など中間層を支援する措置も盛り込まれており、民主党の支持も得られた。

共和党は、現在の租税政策をおおむね踏襲する内容だとした上で、多くの優遇税制が恒久化されることで、「議会が特定の減税措置を延長するかどうかについて米国民は毎年12月に心配する必要がなくなる」としている。

予算法案の議決は下記の通り。

  上院   下院
共和党 民主党 無所属 合計 共和党 民主党 合計
賛成 27 37 1 65 150 166 316
反対 26 6 1 33 95 18 113
棄権 1 1 - 2 1 4 5
合計 54 44 2 100 246 188 434

米国では2016年予算案(2015/10〜2016/9)が決まらず、ギリギリの9月30日に、12月11日までの暫定予算法案を可決した。

オバマ大統領は10月2日、債務上限問題について、解決する責任は議会にあるとして、野党共和党とは「交渉しない」と改めて表明。議会が上限を引き上げなければ、米国債のデフォルトが発生し「金融システムは危機に陥る」と警告した。 

これを受け、米政府と議会指導部は協議を続け、10月26日遅く、連邦債務上限の引き上げと2年間の予算案の概要で合意に至った。

債務上限引き上げ:

米財務省は債務上限凍結が切れた2015年3月以降、緊急の資金繰り策によって債務残高を上限の18兆1000億ドル以内に抑えてきた。
今回、債務上限凍結を2017年3月15日まで再び延長し、それ以降については期限までに行った借り入れを含む金額を新たな上限として設定する。

 予算合意

2017年9月30日までの全体的な資金調達額が決まった。

ただし、2017年9月までの2年分の予算は大枠が決まったが、予算執行の細かな配分を定める関連法案が成立しておらず、暫定予算の期限の12月11日を迎えた。

このため、米下院は12月11日、12日から5日間のつなぎ予算案を賛成多数で可決した。上院は可決済みで、オバマ大統領の署名を経て成立した。
12月16日には、更に12月17日〜22日のつなぎ予算を可決した。

これでようやく、2016年予算案(2015/10〜2016/9)が決まった。

ーーー

今回の予算案には、両党の妥協で長年の懸案が抱き合わせで含まれ、いずれも可決された。

1)原油輸出解禁

米議会与野党の幹部は12月15日、1975年から原則禁止してきた国産原油の輸出を解禁することで合意した。

米国では1970年代の第1次石油危機をきっかけに、安全保障上の理由から原油の輸出が原則禁止され、ガソリンなど精製された石油製品の輸出に限ってきた。

1973年のアラブ石油禁輸に伴い、 米国の石油資源を保護し、米国の消費者が値上げショックを受けるのを防ぐため、1975年12月にEnergy Policy and Conservation Act (EPCA) を成立させ、原油の輸出を禁止した。 カナダ向けは特別に輸出可能。

2014年6月25日、Pioneer Natural ResourcesとEnterprise Products Partners  は商務省がテキサスのEagle Ford Shaleの超軽質油を輸出する計画を承認したと発表した。 いずれも個別の申請による承認(private ruling)である。
制度は変えず、最小限の加工をした「コンデンセート」と呼ばれる原油の一種を禁輸対象外の「石油製品」とみなしたもの。

2014/6/30 米国が原油輸出を一部解禁 

シェール革命を背景に、原油生産がこの7年間で8割以上増え、原油の在庫がだぶつき、石油関連企業が輸出解禁を主張し、共和党が支援していた。

オバマ大統領や民主党は「地球温暖化対策に逆行する」などと反対してきたが、再生可能エネルギーの支援策(風力・太陽光発電への税制優遇の継続)と引き換えに野党側と折り合った。

付記

米パイプライン大手Enterprise Products Partnersは12月23日、1月の第1週に60万バレルの米国産原油をタンカーに積むと発表した。

スイスの商社 Vitol が購入するが、最終買い手は明らかにしていない。

2)IMFの資本改革案

IMFは2010年に、新興国の出資比率を引き上げ、理事会への登用を増やす「IMF改革」に合意した。
改革案が実現すれば、IMFへの出資比率で米国、中国が日本に続く第3位に浮上、更に上位10カ国にインド、ロシア、ブラジルが入り、新興国の発言力が増す。

IMFへの出資比率 (%)
現状   改革後
米国 17.67 米国 17.41
日本 6.56 日本 6.46
ドイツ 6.11 中国 6.39
英国 4.51 ドイツ 5.59
フランス 4.51 英国 4.23
中国 4.00 フランス 4.23
イタリア 3.31 イタリア 3.16
サウジ 2.93 インド 2.75
カナダ 2.67 ロシア 2.71
ロシア 2.50 ブラジル 2.32

しかし、重要事項の議決には投票権で85%以上の賛成が必要で、唯一15%超の比率を持つ米国が事実上の拒否権を持つ。

米国では台頭する中国への警戒心が強く、共和党を中心とする議会の反対で承認を見送ってきた。

BRICSの第6回首脳会議は2014年7月15日、「2010年に採択されたIMF改革案が実行されないことに失望し、深刻な懸念を持っている。これはIMFの正当性、信用性、有効性を傷つけている」と厳しく批判した。

ルー米財務長官は3月18日、議会での証言で、IMFの改革を議会が承認しないことは戦略的に危険で、中国が主導するアジアインフラ銀行創設といった問題で米国の影響力が低下するとの懸念を示した。改革案の米議会での批准が遅れていることで、新興国の間でIMF以外の機関から資金を調達する傾向が出ているとの認識を示した。

オズボーン英財務相は12月7日、IMFでの中国の役割拡大に反対する米議会の姿勢について「悲劇」だと批判した。

IMFでは、中国やインドなど一部の国だけに割当を増やす暫定策も検討していた。この場合、米国は増資がないため、議会の承認は必要がない。

今回、与野党幹部は、歳出法案にIMF改革の承認を盛り込むことで合意した。
共和党が希望していた原油の輸出解禁などをのむ一方、民主党側がIMF改革などを入れるよう求め、折り合った。

付記

IMFは1月27日、2010年にうち出した出資比率およびガバナンスの改革プランが正式に発効したことを明らかにした。


2015/12/21  Moody's、韓国の格付けを引き上げ

Moody'sは12月19日、韓国の格付けを、従来の「Aa3」から同国として過去最高水準となる「Aa2」に引き上げた。

声明で「韓国の極めて頑強な制度は構造改革の継続を支援し、経済および財政の回復力をさらに高めるだろう」と指摘した。

韓国と日本、中国の格付けは以下の通り。

S&P Moody's- Fitch
AAA   Aaa   AAA  
AA+ Aa1
AA   Aa2 韓国 AA  
AA-
韓国
中国
Aa3
中国
AA-
韓国
A+
日本
A1
日本
A+ 中国
A   A2   A 日本


現在の各国の格付け


2015/12/22 AstraZeneca、買収による事業拡大 

2014年1月に、PfizerがAstraZenecaに対する買収提案を行った。

買収目的の一つが買収後は英国に多くの利益を留保・移転し、米国の高い税を回避するという「効果的な租税負担を構築する」ことであった。

これに対しAstraZenecaは、コスト節約と節税という財務面での利点がPfizerの買収の主な動機になっているようだと指摘、戦略上の魅力を感じなかったとして、この提案を拒否、Pfizerは買収断念を発表した。

Pfizerは2015年11月23日、アイルランドに拠点を置く同業のAllergan との合併で合意し、この目的を果たした。

2014/5/12   Pfizer が AstraZenecaに買収提案

AstraZenecaはその後、事業買収や提携で急速に事業を拡大している。

1. AstraZenecaは2015年2月5日、Actavis Plc から米国とカナダの呼吸器疾患薬事業を買収する契約を締結した。
現金6億ドルでの買収で、他に低率のロイヤリティを支払う。
 
2. 富士フイルムと協和発酵キリンは2015年7月24日、両社の共同出資会社協和発酵キリン富士フィルムバイオロジクス(FKB)が開発中のバイオ後続品(バイオシミラー)で、英 AstraZeneca と提携すると発表した。

2015/7/27 富士フイルム協和発酵キリン、バイオシミラー医薬品の開発・販売で AstraZeneca と提携  

3. AstraZenecaは11月6日、米のバイオ医薬品会社 ZS Pharma を27億ドルで買収すると発表した。
主力の高脂血症治療薬
Crestor ®の特許が米国で切れたことを受け、心疾患治療薬のポートフォリオ拡充を目指す。

2015/11/12 AstraZeneca、米製薬会社 ZS Pharma を27億ドルで買収

AstraZenecaは12月16日、中国の医薬品開発受託大手、薬明康徳新薬開發(WuXi AppTec) と提携し、中国でのバイオ医薬品事業を強化すると発表した。

薬明康徳新薬開發(WuXi AppTec) は2000年12月の設立で、中国及びアメリカを拠点とする医薬品・生物医薬品・医療機器業務を取り扱う世界有数の受託会社。技術革新主導型、顧客志向の会社として、創薬研究及び開発プロセスにおける広範で統合型のサービスを提供している。

両社で中国向け製剤を共同開発し、薬明康徳の生産拠点を買収する権利も取得する。
薬明康徳のバイオ医薬品の生産拠点に総額1億ドルを投じる計画

AstraZenecaの米子会社 MedImmune と薬明康徳の合弁会社が開発中の製剤の開発のスピードも上げ、炎症や免疫治療での用途を見込む。

AstraZenecaは2007年4月23日、米バイオテクノロジー会社 MedImmune, Inc.を150億ドル以上で買収することで合意したと発表した。

MedImmune は2012年9月10日、薬明康徳新薬開發との間で、自己免疫疾患と炎症性疾患に用いる新規の生物製剤 MEDI5117 を中国で開発、販売するためのJVを設立すると発表した。

MedImmune は技術開発を担当、薬明康徳新薬開發は登録、臨床試験、製造を担当する。

更に、中国での従来型の低分子医薬品の研究設備にも5千万ドルを充て、競合が激しい同分野で研究開発力を高める。

   
5. AstraZenecaは12月16日、武田薬品の呼吸器系疾患領域事業を5億7500万ドルで買収することで合意した。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療薬ダクサス(一般名:roflumilast、武田が買収したナイコメッドの画期的新薬)、呼吸器疾患治療剤 アルベスコおよびアレルギー用点鼻薬オムナリス(一般名:ciclesonide)を含む呼吸器系疾患領域事業を取得する。

各国・地域で販売されている同領域の製品や複数の前臨床段階にある化合物も移管される。
移管の完了にあたり、一定数の従業員がAstraZenecaに移籍する。

武田は2014年に、消化器系疾患領域、オンコロジー、中枢神経系疾患領域、代謝性・循環器系疾患領域を4つの重点疾患領域と定めている。

なお、AstraZeneca米国でroflumilastを「Daliresp」の商品名で販売している。上記のActavis から取得したもの。

   
6. AstraZenecaは12月17日、オランダとカリフォルニアに拠点を持ち、癌関連の薬を開発する私企業 Acerta Pharma の株の過半を40億ドルで買収することで合意した。

先ず、Acertaの55%を25億ドルで買収する。
Acertaの開発している血液癌治療用の薬 acalabrutinib が米国で承認された時、又は2018年末に、15億ドルを支払う。

AstraZenecaは更に、欧州と米国での同剤の承認後に、残りの株を30億ドルで買収するオプションを持つ。

同社では、同剤の年間売上高が世界中で50億ドルを超えると期待している。

 

AstraZenecaはICIから独立したZenecaとスウェーデンのAstraが統合したもの。


2015/12/23 GlaxoSmithKline子会社ViiV Healthcare 、Bristol-Myers Squibbの開発中のHIV治療薬を取得 

英製薬大手 GlaxoSmithKlineの子会社でPfizer と塩野義製薬が出資するViiV Healthcareは12月18日、米国のBristol-Myers Squibbから、開発中のHIV治療薬(最終開発段階のものと、臨床試験前の研究段階の一連のもの)を最大15億ドルで買収する契約を締結した。

最終段階の治療薬は下記を含む。
 現在、患者を対象とした
phase III 開発段階にある阻害薬 fostemsavir (BMS-663068)  (2018年に承認申請予定)
 phase IIb 段階の成熟抑制剤BMS-955176
 予備の成熟抑制剤 (BMS-986173)

研究中のもの
 成熟抑制剤、アロステリック
インテグラーゼ阻害剤、キャプシド禁止剤の3つの機能を併せ持つ生物剤
(BMS-986197)

ViiV HealthcareはBristol-Myers Squibb の研究員も受け入れる。

買収対価は、最終段階のものが一時払い 317百万ドルで、商業販売開始後に最大 518百万ドル+ロイヤリティ。
研究段階のものは、一時払いが33百万ドルで、販売開始後に最大587百万ドルとなっており、将来の販売実績によっては更なる支払もある。

 
今回の取引で、GlaxoSmithKlineは過半数株を保有するHIV事業の合弁会社、ViiV Healthcare のパイプラインを拡充できるようになる。
ViiVはHIV治療薬の市場シェアで米バイオ医薬品会社 Gilead Sciences Inc に次ぐ2位。

ViiV Healthcare は下記の変遷を経ている。

塩野義は2001年9月に、GlaxoSmithKline (GSK) との間で、両社の所有する複数の疾患領域における開発化合物を開発・販売することを目的とした合弁会社Shionogi-GSK Healthcare を設立した。

2002年8月に、両社はこのJVでHIV インテグレース阻害薬に関する共同研究を開始した。

2009年10月に、GSKとPfizerは両社のHIV 治療薬を供出し、英国にViiV Healthcareを設立した。(GSK:85%、Pfizer:15%)
GSKはShionogi-GSKHealthcareの持分をViiVに譲渡し、名称をShionogi-ViiV Healthcareと改称した。

2012年10月に塩野義はJVの50%持分をViiV Healthcareに譲渡し見返りにViiV Healthcareの10%の権利を取得した。
塩野義は、
知的財産の権利(50%持分)は継続して保持し、ViiV に供与、ドルテグラビル及び関連製品の販売高に応じ、平均10%台後半、一部地域では20%台前半のロイヤリティーを得る。

2012/11/2  塩野義製薬、HIV治療薬JVの枠組み変更


GlaxoSmithKlineの歴史は下記の通り。



SmithKline BeckmanとBeechamが合併して SmithKline Beecham
Glaxo とWellcomeが合併して Glaxo Wellcome

1998年にSmithKline BeechamとAmerican Home Products が合併合意破談
SmithKline Beecham Plc とGlaxo Wellcome Plc が合併合意破談

2000年にSmithKline BeechamとGlaxo Wellcomeが再度合併に合意し、Glaxo SmithKline となる。

 


2015/12/23 中国・深圳の工業団地の地滑り 

中国広東省深圳市光明新区の柳溪工業団地で12月20日11時40分、建物33棟を巻き込む大規模な地滑りが発生した。

朝日新聞によると、土砂を流出させた残土受け入れ場の工事にあたって実施された環境影響評価(アセスメント)の報告書(2015年1月)が、地滑り発生の危険性を指摘していたことが分かった。

工事は、残土などを高さ155メートル、容積800万立方メートルまで受け入れられるようにするもの。

Google Map でビューを傾斜させると下のとおりで、工業団地の上にそびえている。
(广东省深圳市光明新区凤凰社区红坳村恒泰裕工业园)

残土は地下鉄の工事現場から運び込まれていた。
深圳市は現在5本の地下鉄網を、5年後の2020年に11本まで拡大する計画で、市内各地で工事を急いでいる。

報告書は、工事で地形が変わり、土砂や水の流出が激しくなることから、有効な措置がとられなければ、地滑りの危険性があると指摘している。
特に土砂の流出を防ぐ堰が崩れた場合は、ふもとの工業団地の安全にも影響を及ぼすとして、夜間も含めたパトロールや危険を知らせる警報の整備、観測施設の設置などを求めていた。

ただし、結論としては「残土受け入れ場そのものが環境改善に役立つ。適切な措置をとれば、工事を進めてもよい」と評価しており、区政府も3月に許可していた。

 

2015年9月
 
事故後
 

2015/12/24  2015年 回顧と展望 再び 「ガラパゴス鎖国」論 

Dow Chemical と DuPontは12月11日、対等で経営統合すると発表した。

Dow も DuPont も、物言う株主から事業分割などドラスティックな手段による企業価値の向上の要求を受けていた。

両社とも、不採算事業のみならず、儲かってはいるが将来の成長が見込めない等の事業についても売却したり、スピンオフしてきたが、経営改革を迫る「物言う株主」から対応が遅いと批判されていた。

2015/12/14  Dow と DuPont、経営統合を発表

 

欧米では上場企業の経営者は、株主からの更なる成長、更なる収益性の向上による株主価値の増大を常に求められる。
それに対応できない場合、株価が下落するだけでなく、物言う株主からは退任を求められる。

DuPontのEllen J. Kullman 会長兼CEOは10月16日に退陣したが、物言う株主からの事業改革の要求を株主総会で辛うじて退けたが、これまでのやり方で収益が悪化することが分かり、退陣した。

特に、景気変動に影響が受けやすい事業や、石油化学などのように原油価格などの変動で損益が大きく左右されるような事業の継続は、それ相当の理由があり、実際に対応できる案がある場合を除き、正当化されない。

原油価格が上がったとか、不景気で業績が悪化したというのは株主にとっては関係ないこと。
そんな事業はさっさと止めろ。
事業を続ける場合、うまく対応して株主価値を上げるのが経営者の使命であり、それが出来ないなら辞めるべきだという考え方。

このため、欧米の化学会社は抜本的な対策をとってきている。

最も早いのはICIであった。

1997年に同社は事業を化学品のなかでも、付加価値が高く、投下資本が少なく、景気変動の影響が少なく、研究開発により重点を置いた事業に急速に転換することを決めた。1997年7月、ICIは英蘭系Unileverの特殊化学品4社を買収し、同時に既存事業を順次分離・売却していった。

2006/3/7 ICIの抜本的構造改革

2007年8月にAkzoはICIを買収することで合意した。
1926年に設立され、高圧法ポリエチレンを開発した名門 ICI は消え去ることとなった。多岐に亘った事業がバラバラにされ、元のICIは跡形もなくなった。

2007/8/13 Akzo が ICI を買収

Bayerは、2004年7月にBayer Chemicalsの大半とBayer Polymersの一部を新会社 Lanxess として分離し、2005年に上場したが、更に2015年9月1日にMaterial Science 部門をCovestro として分離し、今後は完全にLife Science 事業(HealthCare と CropScience )に注力することとした。

2014/9/22   Bayer、ライフサイエンス事業に注力、MaterialScienceを分離、上場

2015/9/2    Bayer のMaterial Science 部門、Covestro として分離独立

BASFは2009年にスイスの特殊化学薬品メーカー Ciba を買収、今後はスペシャリティケミカル分野を拡大し、主導的地位を高めるとした。
一方で、
Dowとともに世界のリーダーであったポリスチレン事業を
2011年10月に IneosとのJVのStyrolutionに統合、2014年11月にその持分をIneosに売却し、同事業から撤退した。

2009/4/6 BASFCiba買収承認

第二次大戦前に I.G. Farben を構成していた3社のうち、Hoechst は医薬会社のSanofi Aventis となっている。
(買収したCelanese を再度分離し、Rhodia を分離したRhone Poulenc と合併して Aventis となり、フランスのSanofi Synthelaboと合併した。)

石油化学については、Dowだけが他社と異なる政策をとる。

同社はasset light strategy (JV化)を採用し、石油化学を継続しながら、そのリスクを軽減する方策をとった。

Kuwait Petroleum Corporation と50/50JVのMEGlobalを設立してダウの設備を出したのが最初だが、2007年にクウェート国営石化会社 PIC との間でグローバルな石化JVを設立すると発表した。

他方、Saudi Aramco とのJVででサウジのJubail Industrial Cityにワールドクラスの統合石化コンプレックスを建設することとした。

その後、米国でのシェールガスの優位性が明確になり、米国については自ら石油化学事業を再興する方策をとった。
安価なコストのエタン、プロパンを原料に、原油価格に左右されない状況が確保できたと考えたもの。

PICとのグローバル石化JVは土壇場でPICが方針を撤回して破断となったが、これが結果としては有利に働いた。
2013年5月に、PICから損害賠償として 22億ドルを受け取ったのに加え、JVに出すはずであった米国事業が原料安で収益性が増大した。

2014/7/2 Dow Chemicl、新エチレン設備の建設着工

Dow を除く多くの企業が石油化学から離脱するなか、IneosBasell (その後 Lyondellと合併し、LyondellBasell)のような個人企業がこれらを取得し、世界中で拡大していった。

株主の意見に左右されないため、購入した企業を担保に新しい企業を購入する形で拡大した。
当然、
グローバルな経済危機の影響を受けると、販売が激減し、借入金の返済が行き詰まり、苦境に陥るが、なんとか、克服してきている。

2009/7/20 Ineos、75億ユーロの借入契約条件変更に成功 

ーーー

日本についてはどうであろうか。

本ブログでは2007年末の「回顧と展望」で、2007年は石油化学業界にとって激動の年であったとし、原料価格の高騰による採算悪化を背景に欧米各社は「選択と集中」を一層進めたが、そのなかで日本のみが、この激動の蚊帳の外であるとした。

「日本の石化事業もガラパゴスのように『危機遺産』とならなけばよいが」としている。
 

2007/12/26 2007年回顧と展望 「ガラパゴス鎖国」論

 

2015年に住友化学が千葉のエチレンやSM/POなどを停止、京葉エチレン(3月に三井化学が離脱)にエチレンを依存することとした。

2013/2/4 住友化学、エチレン国内生産から撤退

三菱化学と旭化成は2016年4月に水島地区でのエチレン共同生産の三菱化学旭化成エチレンを設立することを決めた。
旭化成の年産 50万トンのエチレン設備は廃棄し、三菱化学の50万トン設備をを57万トンに増強する。

2015/5/29   水島地区エチレン設備運営会社 

なお、三菱化学は鹿島1の390千トンを2014年の定期修理をもって停止している。

2012/6/27 三菱化学、鹿島事業所における基礎石油化学事業の構造改革 

しかし、エチレン能力は700万トンを若干切る程度であり、2014年の生産実績を上回り、日本の内需をはるかに上回る。

 

欧米では、石油化学は景気変動に影響が受けやすいこと、原油価格などの変動に左右されることが問題視されているが、日本ではこれに加え、次のような問題点がある。

1) コストの高いナフサを原料とし、(原油価格が下がっても)国際競争力はない。

   昭和電工 新中期経営計画

本図は、原油が100ドルから50ドルに下がり、エチレンコストが下がるような印象を与えるが、その保証はなく、仮にこれで意思決定を行うとすれば誤りである。

2) 内需は減少しており、人口減も考えると、さらに減少すると見込まれる。
  他方、中国の増産に加え、サウジなどで汎用品以外の製品も生産を始めるため、輸出も減少する。

3) そのなかで、過剰能力を抱え、過当競争が行われている。

4) 輸入品の圧力で、アルミやメタノールがずっと昔に全滅したが、PEやPPのような合成樹脂はいまだに存続している。
 これは、競争力があるためではなく、余りにも不合理な慣習のため、輸入品では採算が取れず、海外から入ってこないだけである。

・需要家の必要とする機能を満たすため、高機能化を推進しており、自動車初め、需要業界に大きな貢献をしている。

 しかし、欧米と異なり、高品質化のための追加コスト(開発費等)を請求できていない。
 グレード数が大幅に増え、頻繁なグレード切替(切替時にオフスペックが発生)で製造面でもコスト高となっている。
 連続生産による大量生産のメリットが得られていない。

・米国では前月に注文を受け、連続生産し、90トンローリー貨車で輸送するのが一般的で、包装品や小口輸送はコンパウンダーが行う。
  日本ではJust-in-time 方式が普通で、前日に注文を受け、ほとんどが包装品をトラックで輸送している。

このような状況下で、株主に対し、石油化学事業への注力をどのように説明できるのか。

三菱ケミカルは12月9日の説明会で国内の石油化学の方針を次のように述べている。

  石化原料:

• 2016年の水島エチレンセンター統合によりクラッカー構造改革を実施
• 国内需要規模に応じた供給体制を構築し、長期的な安定収益事業体質へ改善
• ユーティリティーの構造改革推進によりコストダウン実現

 要は縮小生産であり、更なる需要減もありうるし、コストダウンにも限界がある。

 ポリオレフィン:

• 生産の合理化を進めコスト削減
• 製品の高機能化を推進し、高付加価値製品の比率UP

各社とも同様であり、欧米なら、この説明で納得する株主はいないであろう。

日本の化学企業のうち、住友化学だけは石油化学の日本での継続について絵を描いている。

住友化学は千葉のエチレンを停止したが、今後、バルク製品はサウジで展開し、シンガポールを高付加価値製品の供給拠点とし、千葉工場はマザー工場として、生産技術・製品・ノウハウの発信拠点としても活用していくという方針で、不採算の誘導品は大胆に停止した。

高機能化で競っている日本はマザー工場としては最適である。

三菱ケミカルの小林社長(当時)は社長就任後の2008年7月の欧米での会社説明会で、「石油化学をなぜ止めないのか」と聞かれたという。
しかし、その後も株主を納得させる回答を行っていない。

付記

米議決権行使助言会社のInstitutional Shareholder Services Inc.は2016年3月期株主総会で、三菱ケミカルHDに関し、過去5年平均のROEが5%未満(4.4%)で改善傾向がないことを理由に小林会長と越智社長の再任反対を推奨した。小林会長の賛成率は87.71%、越智社長は87.98%で、96〜99%の賛成率だったほかの11人の取締役と大差がついた。

実際に各社の株価は低迷している。

 三菱ケミカル発足時と同じ水準である。三菱化学2株を1株に変換しているため、実質ベースでは実際の株価の半値である。
 
 三菱(医薬あり)、住化(医薬、農薬あり)と異なり、石油化学品の比重が高い。株価は低迷。
 
 両社よりも上がっているが、下の日触と比べると、上昇率は低い。
 
 2003年比で4倍近い値上がりとなっている。

石油化学と同様に、産業競争力強化法第50条に基づいて、調査報告がなされた石油精製産業では、出光興産と昭和シェルJXと東燃ゼネラル石油の統合が決まり、後者の場合は大胆な設備廃棄が想定されている。

医薬業界でも各社は大胆な対応をしており、武田薬品は売上高で大きな比率を占める「長期収載品」をTeva とのJVに出す。

日本の化学会社も、日本での石化原料や汎用樹脂などをどうするか、戦略を考える時期に来ているのではないか。

東京理科大学の伊丹敬之教授が述べている通り、日本の産業はエレクトロニクスから化学に、産業科学は物理学から化学に転換し、化学反応(例えば燃料電池)や化学素材(デジタル電子機器のフィルター、導光板、偏向膜など)が必須の部分として使われるようになっている。

論文 日本産業の化学化 参照

今後とも、各社が注力する高機能製品の原料として石化原料は必要だが、今のように各社が石化原料から一貫で生産する必要はない。

日本化学工業協会の小林喜光会長(三菱ケミカルホールディングス会長)は、12月22日の定例会見で、「海外ではダウとデュポンの合併やファイザーのアラガン社買収など、ダイナミックな動きが見られる。日本の各社も今の好業績に満足することなく、将来の発展に向けて、さらなる新陳代謝が必要だ」と力を込めた。
 


2015/12/25 化学工場で膀胱癌発症 

厚生労働省は12月18日、顔料の原料を製造する国内の化学メーカーの工場従業員と退職者の計5人が膀胱癌を発症したと発表した。

問題の工場は三星(みつぼし)化学工業の福井工場で、12月3日、工場の従業員約40人のうち47〜56歳の男性4人と、約12年前に退職した43歳の男性1人が 膀胱癌を発症したと労働局に報告した。5人の勤務歴は7年半〜24年で、2014年2月〜2015年11月の診察で判明した。

付記

厚生労働省は、同じ化学物質などを扱う全国の68の事業所を調査し、2016年1月の中間報告では4つの事業所で6人が膀胱がんを発症していたと公表した。
このうちの1人は三星化学工業の他県の工場の従業員である。

厚生労働省は2016年3月4日、同じ福井工場で新たに従業員1人が発症したと発表した。

また、新たに3つの事業所で3人が発症していたことが分かった。

  当初 2016/1 2016/3 合計
三星化学工業 福井工場 5人   1人 6人
三星化学工業 他工場   1人   1人
他社5工場   2人 3人 5人
        1工場   3人   3人
合計 8工場  5人 6人 4人 15人

 


工場では膀胱癌を引き起こすとの指摘があるオルト−トルイジンのほか、発がん性が指摘されるオルト−アニシジン、2、4−キシリジン 、パラ−トルイジン、アニリンの計5種類の芳香族アミンを使用、ドラム缶に入った芳香族アミンの液体をポンプを使って反応器に移し、他の物質と合成して 染料や顔料の中間体を製造していた。

厚労省によると、「芳香族アミンには、問題が起きて製造禁止になっている物質もあるが、オルト―トルイジンなど5物質については、国内でがんの報告は初めて。」

同社ではこの物質の危険性を認識し「防じん・防毒マスクはして換気もしていた」と説明している が、厚労省は「どこかで漏れがあったと判断せざるを得ない」としている。5人には労災申請を勧めている。

福井新聞によると、一人の男性は、18年余り、福井工場に勤務。オルト―トルイジンからつくった粉末状の物質を袋詰めする作業や、機器の修理の際に機器にこびりついた粉末の結晶をへらで落とす作業に従事し 、「作業が終わると顔が(粉で)真っ白になった」と振り返る。

工場では、芳香族アミンの動物への発がん性を指摘する文書が約4年前に従業員に配布され、この男性は「みんなびっくりした」と話し、「そのときから粉じんにさらされていることを上司に言い続けてきたが、会社は『今まで通りやれ』と言うだけだった」と憤った。

作業実態や発生原因について所轄の労働局・労働基準監督署及び労働安全衛生総合研究所で調査を行っている。


厚労省は、予防的観点から、12月18日、日本化学工業協会及び化成品工業協会に対して、芳香族アミンによる健康障害の防止対策の適切な実施を要請した。
 

また、緊急対応として、当該事業場で取り扱われている芳香族アミンのうち、膀胱癌との関連があるとされているオルト−トルイジンを取り扱う事業場として厚労省が把握している 約40事業所を対象に、防毒マスクの着用など労働者のばく露防止と健康管理の徹底が図られるよう、労働局・労働基準監督署による調査・指導を実施する。

ーーー

三星化学工業は1953年設立で、有機顔料中間体をコア事業とし、医農薬中間体や写真薬、機能性色素など様々な分野に事業を展開して いる。

福井のほか、相馬、埼玉に工場を持つ。

福井工場   アセト酢酸アニライド系化合物の製造 (有機顔料中間体)
相馬工場   アミノベンゼン系化合物、フタルイミド系化合物、アセト酢酸アニライド系化合物の製造
埼玉工場   顔料、写真薬、医薬、農業等の中間体の開発、製造 

福井工場で取り扱う芳香族アミンは下記の通り。

  用途

有害性情報

IARC(国際がん研究機関) 日本産業衛生学会 ACGIH(米国産業衛生専門家会議)
オルト−
トルイジン
染料・顔料の中間体原料、エポキシ樹脂硬化剤原料 グループ1
(ヒトに対して発がん性がある)
発がん分類 2A
(ヒトに対しておそらく発がん性がある)
許容濃度 1ppm
発がん性区分 A3
(動物に対して発がん性がある)
TLV-TWA 2ppm
オルト−
アニシジン
染料中間体 グループ2B
(ヒトに対する発がん性が疑われる)
発がん分類 2B
(ヒトに対する発がん性が疑われる)
許容濃度 0.1ppm
発がん性区分 A3
(動物に対して発がん性がある) 
TLV-TWA 0.5mg/m3
2, 4−キシリジン 染料・顔料中間体 グループ3
(分類できない)
  発がん性区分 A3
(動物に対して発がん性がある)
※Xylidine(異性体混合物)について
p−トルイジン 顔料中間体・農薬合成原料 評価なし   発がん性区分 A3
(動物に対して発がん性がある)
TLV-TWA 2ppm
アニリン ウレタン中間体合成原料、染料・ゴム製造用薬品・医薬・農薬合成原料 グループ3
(分類できない)
  発がん性区分 A3
(動物に対して発がん性がある) 
TLV-TWA 0.5ppm skin

安衛法上の位置付けは、いずれもSafety Data Sheet 交付対象物質で、当該物質を取り扱う事業者は、労働安全衛生法第28 条の2に基づき、化学物質による危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)等の実施に努めること、労働安全衛生規則に基づく一般的健康障害防止措置を講ずることが求められる。



2015/12/25 ブリヂストンとCarl Icahn による米国大手自動車用品小売チェーンの買収合戦のその後 

ブリヂストンは12月12日、さきに買収契約を締結していた米国の大手自動車用品小売チェーン The Pep Boys - Manny, Moe & Jack との間で、買収契約の内容改定を行ったと発表した。Carl Icahn が、ブリヂストンの買値よりも高い価格での買収提案を行ったのに対し、ブリヂストンがこれに追随したもの。

経緯
10月26日 ブリヂストン、買収契約を締結 1株当たり現金15.00ドル 総額約8億35百万ドル
12月7日 Icahn Enterprises 提案 1株15.50ドル 総額約8億63百万ドル
12月12日 ブリヂストン、買収契約を締結 同上 同上
 同額だが、ブリヂストン側は既に独占禁止法など規制面での承認を受けており、金額以外の条件が評価された。

2015/12/17 ブリヂストン、Carl Icahn と米国大手自動車用品小売チェーンの買収合戦 

本ブログは最後に、「ブリヂストン側がIcahn側の提案価格と同額にしたことから、後、Ichan側がさらに価格を上げるかどうか、注目される 」とした。

やはり、Icahn は動いた。

12月18日に、Carl Icahn は買収提案価格を1ドル引き上げ、1株当たり16.50ドルとした。
Pep Boys はブリリヂストンの15.50ドルよりも「優れた提案だ」と評価し、ブリヂストンに12月23日までに対案を出すよう求めた。

Icahnは更に、ブリヂストンの対案が出る前に、新しい提案を行った。
ブリヂストンの提案価格に0.1ドルを上乗せするというもので、上限は18.1ドル (総額では10億8百万ドル)となっている。

しかし、ブリヂストンは12月24日、Pep Boys との間で、買収契約の内容改定を完了した。

株式公開買付け価格を1株当たり現金17.00ドル、株式買収総額で約9億47百万ドルに上げた。
(10/26の当初の契約より1億12百万ドル増、12/12の改定契約より84百万ドル増)

Pep Boysの取締役会は、Icahnから受領した最大で10億8百万ドルの提案はもはや優位な提案とは考えないと発表した。

株式公開買付けは、今後更なる延長がない限り、2016年1月13日に完了する予定。

もし Pep Boysが解約した場合の違約金は39.5百万ドルに変更された。(当初は35百万ドル)

米紙によると、Icahan はインタビューで、「全ての株主の価値が大いに高まったことはうれしい」と述べた上で、Pep Boysの株価はまだ過小評価されており同社取締役会は引き上げの好機を逃したと指摘し、「われわれが17ドルより高い金額を提示する意欲があったことを知りながらの取締役会の行動は理解できない」と付け加えた。

Pep Boysの株価は12月24日のニューヨーク市場で17.51ドルで終了、取引終了後にブリヂストンの提案が行われた。


2015/12/26  Samsung BioLogics、バイオ医薬品受託生産 世界首位へ

Samsung BioLogicsは12月21日、韓国Incheon Free Economic ZoneのSongdo(松島)で同社3番目となるバイオ医薬品受託生産プラントの起工式を挙行した。
起工式には、サムスン電子の李在鎔副会長ら500人以上が参加した。

第3プラントは総投資額8500億ウォンをかけ、生産能力(18万リットル)と生産効率の両面で世界をリードする設備になる。
同プラントは2017年までに完成する予定で、検証後、2018年の第4四半期に操業を開始する。

同プラントが操業を開始すれば、Samsung BioLogicsの総生産能力は36万リットルとなり、
スイスのLonza(26万リットル)、ドイツのBoehringer-Ingelheim(24万リットル)を抜き、世界最大のバイオロジクスの受託生産機関(CMO)になる 。

第1プラント 3万リットル 最近米FDAから正式に生産認可
第2プラント 15万リットル 2016年3月に操業開始の予定
第3プラント 18万リットル 2018年の第4四半期に操業を開始
合計 36万リットル  

第1プラントでは、FDAから品質安全性など3つの核心基準ですべて「無欠点」通知を受けた。

同社のCEOは、「われわれは、飛躍的に成長している市場であるバイオ医薬品の安定供給を行うため、そして世界のバイオ医薬品会社からの生産需要に応えるため、第3プラントに投資している。世界最大の生産能力と年中無休の稼働能力によって、この第3プラントは世界クラスの品質と生産性を誇ることになるだろう」と語った。

第3プラントが全面稼動すれば、年間売上高2兆ウォン、営業利益1兆ウォンを達成できるとみている。
同社は長期的には、さらに第4、第5プラントに投資することによりCMO事業を継続的に拡大していく計画である。

Samsungによると、第3プラント着工を決めたのは、「半導体成功神話」をバイオ医薬品受託生産分野で再現できるという自信からという。

「30年前にサムスンが半導体投資決定をした当時、主要電子企業が自主的に半導体を生産していたため成功するかどうか心配されたが、結局、世界市場はサムスン電子など専門企業中心に変わった。」

この4年間、バイオシミラー(バイオ後続品)開発などを通じて、「ライバル企業が追うことができない果敢な攻撃投資で後発企業をかわした半導体の成功方程式がバイオ医薬品でも可能だ」という結論を出した。

半導体プラントの設計と建設で得たノウハウをバイオ工場に移植した。

今回の第3 プラント(18万リットル)の建設費は8500億ウォンで工事期間は35ヶ月。
これに対しAmgen
は9万リットル規模で10億ドル(約1兆1000億ウォン)、41ヶ月。
1リットル当たりの建設費は40%弱で、工事期間も短い。


第3 プラントはバイオ医薬品工場では初めて365日稼働が可能なシステムを整える。

ーーー

三星グループは2010年5月11日に新事業戦略を発表した。

2010年3月に経営の第一線に復帰した李健煕会長主宰で新事業関連社長会議を開き、確定したもので、未来の新事業は、太陽電池、自動車用電池、発光ダイオード(LED)、バイオ製薬、医療機器の5つ、2020年まで23兆3000億ウォン(約1兆9000億円)を投資するというもの。(うち、バイオ医薬には2兆1000億ウォン)

  2010/5/12 三星グループの新事業戦略

三星グループは2011年2月25日、遺伝子組み換え技術などを使うバイオ医薬品事業に新規参入すると発表した。

第1弾として受託生産事業に乗り出すため、米Quintiles Transnational Corp. とのJVのSamsung BioLogicsを設立した。
サムスン電子とグループの持株会社
Samsung Everlandが40%ずつ出資し、Samsung C&TとQuintilesが各10%出資した。

2011/3/7  サムスン・グループ、バイオ医薬品事業に進出

Samsung Everland は2015年9月1日に三星物産と合併し、三星物産となった。

現在のSamsung BioLogics の出資比率は、サムスン電子が46.8%、三星物産が51.0%、Quintiles Transnationalが2.2%となっている。

2011年5月に松島に生産施設と研究センターの建設に着工した。

2013年に、Bristol-Myers Squibb とRoche との間でバイオ医薬品の製造受託契約を締結した。

ーーー

Samsung BioLogicsは2011年12月、バイオシミラー(バイオ医薬品後発薬)の生産のため、米国のBiogen と合併会社 Samsung Bioepis 設立の契約を締結した。

出資比率はSamsung BioLogicsが85%、Biogen が15%であったが、現在はそれぞれ 91.28%と8.8%となっている。2016年から大量生産する予定。
同社はMerck とも開発で提携しており、両社は2015年9月8日、TNFα阻害薬「ブレンザイス」(一般名=エタネルセプト)が韓国で承認を取得したと発表した。

韓国のSK証券はBioepisの売上高が2022年に1兆2000億ウォン、営業利益は5400億ウォンになると見込んでいる。


2015/12/26 アジアインフラ投資銀行 発足 

中国財政部は12月25日、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が発足したと発表した。

2016年1月16〜18日に、北京で参加各国の代表を集めた開業式典を開く。
初代総裁には、元中国財政次官の金立群氏を選出する見通し。

初年度の融資規模を20億ドルと見込んでおり、2016年4月以降の融資開始を目指す。

付記

2016年1月16日、AIIBの開業式典が習近平国家主席が出席して北京市内で開かれた。

習主席は式典で、中国が出資した資本金とは別に「プロジェクト準備特別基金」として5000万ドルを投入することを表明した。

ーーー

AIIBの加盟国は当初、東南アジア諸国などが中心だったが、3月に英国が参加表明したことをきっかけに、57カ国に拡大した。

2015年6月29日、北京の人民大会堂で設立協定の調印式を開いた。
この時点では、創設メンバーとして参加を表明していた57か国のうち、フィリピンなど7か国が設立協定への署名を見送った。

2015/6/30   アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立協定調印式 

その後、マレーシアが8月21日、タイが9月29日、ポーランドが10月12日、デンマークが10月28日 、南アが12月3日、クウェートが12月4日に署名し、残るのは南シナ海の領有権を巡って中国と対立、中国が埋め立てを強行したことで関係がさらに悪化したフィリピンのみとなった。

フィリピンは年内の正式署名を見送る可能性が高まった。本年末までに署名しない場合、発言権などで優遇される「創設メンバー」の地位を失う。

付記

フィリピン政府は12月30日に声明を発表し、「銀行の運営面で透明性や独立性などが確保されている」として、創設メンバーとして参加するための期限である12月31日に北京で協定に署名することを明らかにした。

南シナ海の領有権を巡って中国と激しく対立しているが、経済成長や人口増加を背景に、交通網や発電所などの社会基盤整備が急務となっており、最終的には経済的な実利を取る判断を下したとみられる。

財務相は声明で「インフラ整備目標の達成に向けて、ASEANなど加盟国との協力関係を拡大する機会となる」と強調した。

ーーー

AIIBは、協定に署名した国々のうち10カ国以上が協定を批准し、批准国の出資金の合計が全体の50%以上に達した段階で設立される仕組み。

中国は11月4日に批准した。英国のオズボーン財務相は12月3日、 英国がG7の中で最初に批准したことを明らかにした。
その後、ドイツ、韓国、オーストラリアなどが批准し、12月25日時点で17カ国・出資金の合計 50.08%となり、発足した。

AIIBの参加国と出資比率、議決権比率は下記の通り。 (青色は批准国、フィリッピンは正式署名をしていない → 付記 12/31署名

付記

カナダ財務相は2016年8月31日、AIIBへの参加を申請すると発表した。

   

出資(億ドル)

出資比率
(%)
議決権
(%)
域内 域外
1 中国 297.804   30.34 26.06
2 インド 83.673   8.52 7.50
3 ロシア 65.362   6.66 5.93
4 ドイツ   44.842 4.57 4.15
5 韓国 37.388   3.81 3.50
6 オーストラリア 36.912   3.76 3.46
7 フランス   33.756 3.44 3.19
8 インドネシア 33.607   3.42 3.17
9 ブラジル   31.810 3.24 3.02
10 英国   30.547 3.11 2.91
11 トルコ 26.099   2.66 2.52
12 イタリー   25.718 2.62 2.49
13 サウジアラビア 25.446   2.59 2.47
14 スペイン   17.615 1.79 1.79
15 イラン 15.808   1.61 1.63
16 タイ 14.275   1.45 1.50
17 UAE 11.857   1.21 1.29
18 パキスタン 10.341   1.05 1.16
19 オランダ   10.313 1.05 1.16
20 フィリッピン 9.791   1.00 1.11
21 ポーランド   8.318 0.85 0.98
22 イスラエル 7.499   0.76 0.91
23 カザフスタン 7.293   0.74 0.89
24 スイス   7.064 0.72 0.87
25 ベトナム 6.633   0.68 0.84
26 バングラデシュ 6.605   0.67 0.83
27 エジプト   6.505 0.66 0.83
28 スウェーデン   6.300 0.64 0.81
29 カタール 6.044   0.62 0.79
30 南アフリカ   5.905 0.60 0.77
31 ノルウェー   5.506 0.56 0.74
32 クウェート 5.360   0.55 0.73
33 オーストリア   5.008 0.51 0.70
34 ニュージーランド 4.615   0.47 0.66
35 デンマーク   3.695 0.38 0.58
36 フィンランド   3.103 0.32 0.53
37 スリランカ 2.690   0.27 0.50
38 ミャンマー 2.645   0.27 0.49
39 オマーン 2.592   0.26 0.49
40 アゼルバイジャン 2.541   0.26 0.48
41 シンガポール 2.500   0.25 0.48
42 ウズベキスタン 2.198   0.22 0.45
43 ヨルダン 1.192   0.12 0.37
44 マレーシア 1.095   0.11 0.36
45 ネパール 0.809   0.08 0.33
46 ルクセンブルグ   0.697 0.07 0.32
47 ポルトガル   0.650 0.07 0.32
48 カンボジャ 0.623   0.06 0.32
49 ジョージア 0.539   0.05 0.31
50 ブルネイ 0.524   0.05 0.31
51 ラオス 0.430   0.04 0.30
52 モンゴリア 0.411   0.04 0.30
53 タジキスタン 0.309   0.03 0.29
54 キルギス 0.268   0.03 0.29
55 アイスランド   0.176 0.02 0.28
56 マルタ   0.136 0.01 0.27
57 モルディバ 0.072   0.01 0.27
小計 733.850 247.664 100.00 100.00

981.514

未割当 16.150 2.336  

18.486

合計 750.000 250.000

1,000.000

 


2015/12/28 抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤「レミケード®」、川崎病の承認取得 

田辺三菱製薬は、12月21日、抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤「レミケード®点滴静注用100」(一般名:Infliximab)について、既存治療では効果不十分な川崎病の急性期に対する効能・効果追加の承認を取得したと発表した。

生物学的製剤として、世界で初めての「川崎病」の効能・効果の承認取得となる。

川崎病の急性期では、冠動脈病変(冠動脈の拡大や瘤の形成)の発生を抑えるために、発熱などの急性期症状を早期に鎮静化することが治療目標とされているが、実際には既存治療では効果不十分で追加治療が必要な患者が存在し、そのうち、およそ4人に1人の患者に冠動脈病変をきたしてしまうとの報告もあることから、新たな治療薬の開発が望まれていた。

この高い医療ニーズを受け、同社は既存治療に効果不十分な急性期の川崎病患者を対象とした国内臨床試験を実施し、その結果、レミケード®の有効性ならびに安全性が認められた。

ーーー

川崎病は1967年に川崎富作博士が、小児の「急性熱性皮膚粘膜リンパ腺症候群」として発表し、現在は「川崎病」という病名になった。

川崎病は主に4歳以下の乳幼児に発生し、次の6症状のうち、5つを満たせば川崎病と診断する。

1. 5日以上続く発熱(38℃以上)
2. 発疹
3. 両目の充血
4. 唇が赤くなり、舌の表面に苺のようなブツブツができる(いちご舌)
5. 初期に手のひらや足裏がはれあがったり、赤くなったりする。熱が下がってから指先や手全体の皮がむけることがある。
6. 首のリンパ節がはれる。

最も問題になるのは、冠動脈に炎症が起きて、冠動脈瘤ができてしまうこと。

原因が不明のため根本的な治療法はないが、症状を軽くしたり、冠動脈瘤ができないようにするために、いくつかの治療が行われている。

(1) 急性期
 a.アスピリンの内服
 b.γ‐グロブリン療法:冠動脈瘤をつくりにくくさせる
      γ‐グロブリンが効かない重症の場合は、ステロイド薬の投与や血漿交換療法を行うこともある。

 ◎実際には既存治療では効果不十分で追加治療が必要な患者が存在、
  そのうち、およそ4人に1人の患者に冠動脈病変をきたしてしまうとの報告もある。
  今回の承認取得により、既存治療では効果不十分な川崎病患者の治療選択肢が拡大した。

(2) 急性期以後
 冠動脈瘤ができた場合:
         こぶの程度に合わせてアスピリンの内服を続ける。
  巨大なこぶの場合、アスピリンに、別の抗凝固薬の内服を加える。

 血管が詰まってしまう可能性が高い人:
  血管バイパス手術や、カテーテルを血管に入れ、風船をふくらませて押し広げたり、
  血管の壁が厚くなって内腔が狭くなっているところを削る治療も行われている。

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抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤「レミケード®点滴静注用100」(REMICADE、一般名:Infliximab)は、Johnson & Johnson の子会社 Janssen Biotech(旧 Centocor Biotech) が創製した関節リウマチ等の治療薬で、1993年に田辺製薬が、日本及びインドネシア、台湾における本剤の開発・販売に関する契約を締結し、2002年にクローン病治療薬として日本での販売を開始した。
(田辺製薬は2007年10月1日に三菱ウェルファーマと合併し、田辺三菱製薬となった。)

田辺三菱製薬は、Unmet medical needs に応えるため、稀少疾病を含めた各種難病に対するレミケードの開発と適応性の拡大に取り組んでおり、今回の川崎病を含め13の適応症を有している。

適応症 承認時期
クローン病 2002年1月
関節リウマチ 2003年7月
べーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎 2007年1月
尋常性乾癬 2010年1月
関節症性乾癬
膿疱性乾癬
乾癬性紅皮症
強直性脊椎炎 2010年4月
潰瘍性大腸炎 2010年6月
腸管型ベーチェット病 2015年8月
神経性ベーチェット病
血管性ベーチェット病
川崎病(急性期) 2015年12月

なお、本剤は2012年に「難治性川崎病」に対して希少疾病用医薬品に指定されている。

希少疾病用医薬品は、次の指定基準に合致するものとして指定される。
希少疾病用医薬品の指定が、直ちに製造販売承認に結びつくものではない。

  1. 当該医薬品の用途に係る対象者の数が、本邦において5万人未満であること。
     
  2. 医療上の必要性
     
    • 代替する適切な医薬品・医療機器又は治療法がないこと。
    • 既存の医薬品・医療機器と比較して著しく高い有効性又は安全性が期待されること。
       
  3. 対象疾病に対して当該医薬品を使用する理論的根拠があるとともに、その開発に係る計画が妥当であると認められること。

2015/12/28 武田薬品とTeva Pharmaceutical の日本の合弁会社の概要 

ジェネリック世界最大手のイスラエルのTeva Pharmaceutical と武田薬品は11月30日、日本で両社によるジェネリック医薬品の合弁会社を設立する基本合意契約を締結したと発表した。

Tevaの高品質なジェネリック医薬品と武田薬品の「長期収載品」と呼ばれる特許切れの医療用医薬品を日本で販売する。


2015/12/2   武田薬品とイスラエルのTeva Pharmaceutical
、日本でジェネリック医薬品のJV設立

 

武田薬品は12月28日、合弁会社の詳細について発表した。

Tevaの100%子会社のテバ製薬とその100%子会社の大正薬品工業及び武田薬品の間における三角吸収分割を行う。

 武田薬品は長期収載品事業を分割し、ジェネリック医薬品事業を営む大正薬品に承継する。
 大正薬品は武田テバ薬品と改称する。

 武田薬品は対価としてテバ製薬の株式49%を取得する。

 ジェネリック医薬品事業を営むテバ製薬は武田テバファーマと改称する。

参考 テバ製薬の歴史は下記の通り。

移管を予定している武田薬品の長期収載品の2014年度の実績は約1,250億円。

このうち、高血圧症治療剤「ブロプレス」をはじめとする大型の長期収載品はジェネリック医薬品の市場浸透による影響を受けて2015年度は大きく減収となっている。
2016年度も一定の減収が想定される。

付記

2016年4月、武田テバ薬品の設立時に、「ブロプレス(単剤)」「タケプロン(単剤)」「ベイスン」などの長期収載品を武田テバ薬品に資産移管した。
2017年5月1日に、長期収載品のうち、2型糖尿病治療剤「アクトス錠」「アクトスOD錠」「ソニアス配合錠」「メタクト配合錠」、高血圧症治療剤「エカード配合錠」「ユニシア配合錠」、(消化性潰瘍治療剤「タケプロン」(一般名:ランソプラゾール)と低用量アスピリンの配合剤)「タケルダ配合錠」7製品を追加する。

武田薬品としては、武田テバ薬品への長期収載品の供給の役務収益や、武田テバファーマと武田テバ薬品のジェネリック医薬品も含めた製品を武田薬品がその流通網を通じて販売する分があるため、2016年度の売り上げ減は差し引きで約500億円を見込んでいる。


2015/12/29 Dow、PICとのJVの再編の第一段階実施 

Dowは12月23日、クウェートのPICとの50/50JVのEQUATE Petrochemical の持分をMEGlobalに売却し、税引前で15億ドルを受け取ったと発表した。
PICも同様に処理し、EQUATE Petrochemical をMEGlobal の100%子会社とする。

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Dow Chemical は2014年11月12日、これまで進めてきた非戦略事業の売却目標を70億ドル〜85億ドルに増やすと発表したが、この一環として、KuwaitのPetrochemical Industries Company (PIC) とのJVを再編し、出資比率を下げると発表した。2015年央にも完了させる。

対象となるのは、エチレングリコールのワールドリーダーである
MEGlobal と、Kuwaitの石化コンビナートのGreater EQUATEである。
出資分のどれだけをどこに売るのかは明らかにしていない。

2014/11/17 Dow、非戦略事業の売却を拡大、KuwaitのPICとのJVの出資を減らす 

Dow と PICとの関係は下記の通り。

歴史
・1995年  Union Carbide PIC Equate を設立
2001 ダウがUnion Carbide を買収、 Equateのパートナーになる
・その後、Equate-2 建設開始
2004年 EquipolymersMEGlobal 設立(Dowの事業を拠出)
 
2008年12月1日  DowとPIC、K-Dow Petrochemicals 設立契約と付随契約に調印
・2008年12月28日 一転 破談
・2012年5月   Dow、本件調停で勝利、21.6億ドルの損害賠償

既存JV概要

  EQUATE Petrochemical EQUATE 2 MEGlobal Equipolymers
設立 1995   2004 2004
株主 Union CarbideDow 45%→42.5%
PIC 45%
42.5%
Boubyan Petrochemical
10%→ 9%  
Al-Qurain Petrochemical  0 6%
Dow 50%
PIC
  50%
当初
Dow
 50%
P
IC  50%

その後、
MEGlobal 100%
工場 Shuaiba, Kuwait Fort Saskatchewan and
Red Deer, Alberta, Canada
@Schkopau, Germany
AOttana, Italy 

その後
Aは売却
製品と能力
 (千トン) 
エチレン 650千トン→800千トン
LL/HDPE 450千トン→600千トン
EG     300千トン→400千トン

PP     100千トン→120千トン
PIC資産、Equateが製造受託)

エチレン 850千トン
PE    
300千トン
EG    
600千トン  
EO/EG

Fort Saskatchewan  340千トン
Prentiss I           310千トン
Prentiss II             350千トン
合計
        1,000千トン

他社製品の販売も実施

@PET 335千トン

APTA   190千トン
 PET 160千トン 

その後 Aは売却

 * Equipolymers のイタリアの工場は2010年7月、同地 のOttana Energia とタイのIndoramaのJVに売却。

Dow は2015年10月、PICとのJV再編の具体的計画を発表した。

 第一段階

2015年末に、EQUATEがMEGlobal (DowとPICの50/50JV) を買収する。
(DowはEQUATEに42.5%出資している。) 

 第二段階

2016年央にDowはEQUATEへの出資を減らす。

 その他

MEGlobal はU.S. Gulf Coast にMEG プラントを建設する。

ーーー

今回は第一段階を実施したもので、各社の関連は下記の通りとなる。

 


 2015/12/30 iPhone と iPad の特許をめぐるApple、Samsungとの特許係争、続く 

2011年4月にAppleが米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に、Samsung がスマートフォン「Galaxy S」やタブレット端末「Galaxy Tab」などでAppleの知的財産権を侵害したとして提訴した裁判が今も続いている。

経緯は後述するが、上記裁判についての本年5月18日の連邦控訴裁判所の判決を受け、本年12月3日に、Samusung が Appleに548百万ドルの損害賠償金を払うことで両社が合意し、12月14日に支払が行われた。

しかし、Samsung は12月14日、米最高裁判所に上告し、同社とAppleとの間で争われている知的財産侵害訴訟の判決を見直すよう求めた。

最高裁が意匠に関する訴訟を取り扱ったのは1800年代までで、 その後は扱っていない。
(その当時の訴訟は、スプーンの取っ手、カーペット、鞍、ラグなどに関するものだった。)

Samsungは最高裁に対し、意匠に関する権利がどの範囲まで適用されるのか、またどのような賠償を請求できるのかについて指針を示 すことを求めており、最高裁が上訴を受理した場合、最高裁の最終判断がハイテク業界や消費者の購入できるすべてのガジェット類に波及的な影響を及ぼす可能性がある。

Samsungは、「この判例が効力を持った場合に影響を受けかねない大小すべての米国企業のために、米最高裁判所に上訴することが重要であると考えている」と述べている。

一方、Appleは12月23日、2012年にSamsungによる特許侵害を認めた陪審判決が出た後に販売された分に関連して、「付随的賠償および利子」名目でさらに180百万ドルの支払いをSamsungに請求 する訴訟をカリフォルニア州北部の連邦地裁に起こした。

両社の争いは2016年も続くこととなった。

ーーー

2011年4月にAppleが米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に、Samsung がスマートフォン「Galaxy S」やタブレット端末「Galaxy Tab」などでAppleの知的財産権を侵害したとして提訴した。

陪審団は2012年8月24日、SamsungがAppleの一部特許を侵害したとして、1,050百万ドルのAppleの損害を認定した。

陪審団は、Samsungのスマートフォンの大半は、Appleの技術特許3件とデザイン特許4件のうちの3件(合計7件のうち6件)を侵害したと認めた。
このうち、指の動きをタッチパネルが感知する技術など5件はSamsungが「故意に侵害」したと認定した。

技術特許 
  @ Bounce back ('381):ページの端をスクロールしたとき跳ね返る機能
  A Single Scroll, Pinch to Zoom ('915):1本指でスロール、2本指でピンチ、ズーム
  B Tap to Zoom ('163)  :画面タップにより文書を拡大
     
デザイン特許
  @ iPhone Front (D'677) :Galaxy Ace以外が侵害
  A  iPhone Back (D'087):Galaxy S, the Galaxy S 4G, Vibrantが侵害
  B iPhone Home Screen (D'305):13機種全てが侵害
  C  iPad Design (D'889) :侵害無し

一方 、陪審団は、「Appleが自社の特許を侵害した」とするSamsungの主張は一件も認めなかった。

'516 特許   wireless technology
'941   wireless technology
'711   to play music while using other apps
'893   to scroll through the photo gallery, switch to the camera to take a pic, and then return to the same point
'460   to take a photo, preview it immediately, and email it off seamlessly

この裁判の裁判官は韓国系のLucy Kohで、当初は韓国企業と米国企業の裁判に韓国系の判事ということで話題となったが、訴訟指揮は高く評価された。

2012/8/28 Apple、Samsungとの特許係争で勝訴

これに対し、Lucy Koh判事は2013年3月1日、「1次評決で陪審員団が算定した1,050百万ドルの賠償金のうち43%に当たる450.5 百万ドルを削減する」と判決し、この部分について、新たな陪審員団に知的財産侵害の損害を再算出するよう命じた。

陪審員による賠償金額の算定方法に2つの法的な誤りが見つかったとしている。

@実用特許権の侵害に関する賠償金算出の際に、Samsungの利益に基づいて計算が行われた点で、このような計算方法は意匠権の侵害 の場合のみに適用される。

A賠償責任の対象となるのは、特許権が侵害されていると考えられる旨の通知をAppleがSamsungに対して行った後に発生した売上に限られる。
       2010年8月にサムスンと面談した際に示した特許権は1件のみ。
    その他の特許権は2011年4月に、また一部端末は同年6月以降に追加された。

2013年4月に同判事は、さきに削減したうち、Galaxy SII AT&T に関する賠償金 40百万ドルを承認した。

2013年11月21日、削減した分についての算出を担当する新しい陪審員は、Samsungに290 百万ドルの支払いを命じた。

この裁判では、Appleは380百万ドルを求め、Samsungは52百万ドルを主張していた 。

この結果、当初の1,050百万ドルの賠償金は、929百万ドルとなった。 (1,050ー451+40+290)

Samsungは控訴し、特許訴訟を専門に扱う米連邦巡回区控訴裁判所 (CAFC) は2015年5月18日、SamsungがAppleの複数の特許を侵害したと認定したが、賠償の一部は無効と判断した。

一般に認識されているiPhoneの特徴的な外観やデザインをSamsung がまねたとする「Trade dress」については、この点に関するAppleの主張は米商標法の保護対象にならないiPhoneの機能的要素に基づくものだと判断損害賠償額を見直すように、下級審に差し戻した。

日本でも、ある商品に必ずある機能的な形状、例えば、髭剃りは基本的にT字型、は立体商標として登録されないし、無効理由になる(商標法4条1項18号)。

Trade dressに違反する項目としては、四隅が均等に丸みを帯びた長方形の形状、製品の前面を覆うフラットでクリアな表面、そのクリアな表面の下のディスプレイ画面などが挙げられている。

判決では、「四隅が均等に丸みを帯びた」形状はポケットに入りやすく耐久性がある、「長方形」は表示を最大化する、というSamsungの主張を受け入れ、Appleはその主張を支える十分な証拠を示さなかったと述べた。

Trade dress 分は382百万ドルで、これを除くと548百万ドルとなる。

Samsungはデザイン特許等の侵害に対する賠償額の算定がおかしいとして、異議を申し立てたが、控訴裁は8月13日、異議申し立てを却下する決定を下した。

これに対し、Samsungは8月19日、控訴裁の判断の見直しを求め、最高裁に上告する方針を発表した。(上記の通り12月14日に上告)

 

Samsungは最高裁に上告する一方で、 Appleに548百万ドルの損害賠償金を払うこととした。

Samsung は、Apple が侵害だと主張する特許に無効などの措置が取られた場合には、支払った賠償金の一部または全額の返還を受ける権利を留保すると主張しているが、Apple 側はこのような権利を認めていない。


2015/12/30   ブリヂストン、Pep Boys 買収から撤退

ブリヂストンは12月24日、Pep Boys との間で、買収契約の内容改定を完了した。

株式公開買付け価格を1株当たり現金17.00ドル、株式買収総額で約9億47百万ドルに上げた。
(10/26の当初の契約より1億12百万ドル増、12/12の改定契約より84百万ドル増)

2015/12/25 ブリヂストンとCarl Icahn による米国大手自動車用品小売チェーンの買収合戦のその後

しかし、Carl Icahn は12月28日、1株当たりの買収提案金額を従来より2ドル引き上げて18.5ドルにすると発表した。
ブリヂストンの直近の提案額の1株17ドルを上回った。
また自らの前回の提案の「上限18.1ドル」を上回っており、今後も上積みしていく用意があると表明した。

Icahn の再提案を受け、Pep Boysは同日、Icahnの提案が優位となったとの意見を表明した。
ブリヂストンに対し、 12月31日午後5時を期限に新たな提案を示すよう要請、その内容次第では「買収合意を破棄し、推奨する売却相手を変える意思がある」とした。

これに対し、ブリヂストンの米国子会社が12月29日、「1株18.5ドルでの株式買い取りという Icahn 側の最新の提案に対して、対抗案を提出しない」と発表した。

経緯
10月26日 ブリヂストン、買収契約を締結 1株当たり現金15.00ドル 総額 約8億35百万ドル
12月7日 Icahn 提案 1株15.50ドル 総額 約8億63百万ドル
12月12日 ブリヂストン、買収契約を締結 同上 同上
12月18日 Icahn 提案 1株16.50ドル  
12月23日 Icahn 提案 ブリヂストン案に+0.1ドル
(上限 18.1ドル
 
12月24日 ブリヂストン、買収契約を締結 1株17ドル 総額 約9億47百万ドル
12月28日 Icahn 提案 1株18.5ドル  更に上積みの用意 総額 10億超
12月29日 ブリヂストン発表 「対抗案を提出しない」

ブリヂストンは12月24日の契約時に、Pep Boysが最終的に第三者の提案を優れていると判断した場合など一定の状況下で契約が終了した場合にPep Boysからブリヂストンへ支払われる違約金を35百万ドルから39.5百万ドルへと修正している。

Pep Boysが最終的にIcahnと契約する場合、この違約金を受け取ることとなる。
 

付記

Pep Boysは12月30日、先に締結していたブリヂストンとの合意を破棄し、Icahn Enterprisesに1株18.50ドルで身売りする最終合意に署名した。
Icahnは、Pep Boysの代りに違約金3950万ドルをブリヂストンに支払う。

Icahn は2015年2月9日にカナダの自動車製品のディストリビューターのUni-Select Inc.から買収したAuto Plus とPep Boysを統合する。
アナリストらの間では、Icahnの関心はPep Boysの小売り部門に限られ、タイヤとサービス部門については他の企業に売却する計画ではないかとの観測が広がっている。


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