2006-5-1

ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は  2015 http://blog.knak.jp
 



2015/7/1  Nord Stream 倍増計画 

 ロシアのGazpromは、シベリアの天然ガスをサンクトペテルブルク北方のビポルクからバルト海海底約1200キロを通ってドイツ北東部グライフスバルトまで供給するNord Stream Pipelineの倍増計画に着手した。

Gazpromは6月18日、同計画での協力についての覚書を、Royal Dutch Shell、ドイツのE.ON、オーストリアのOMV との間で締結した。
GazpromではBASFとBASF子会社
Wintershall とも協議をしており、9月までに参加することを期待していると述べた。

付記 BASFは2015年7月31日、Wintershall の参加を発表した。

付記 2015/9/4 Shareholders’ Agreementが調印された。新会社 New European Pipeline AGを設立する。

既存のNord Stream Pipelineは、Gazprom 51%、E.ON 15.5%、Wintershall 15.5%、Nederlandse Gasunie 9%、 GDF SUEZ 9% の出資となっている。
Gazprom は今回も51%を出資する予定。

付記 2015/9/4 出資比率決定

  Nord Stream -1 Nord Stream -2
Gazprom 51.0% 51.0%
E.ON 15.5% 10.0%
Wintershall 15.5% 10.0%
Nederlandse Gasunie 9.0%
GDF SUEZ 9.0%
Shell 10.0%
OMV 10.0%
ENGIE 
 仏
電気・ガス事業者
9.0%

既存のNord Stream Pipelineは2011年11月に供給を開始した。
2012年4月に2本目の敷設工事が完了、現在の能力は年間550億m3
となっている。

Nord Stream がドイツのLubminで地上に出たところからドイツとチェコの国境のOlbernhau までの全長470kmのOPAL natural gas pipelineと接続している。

 

2011/8/27 Nord Stream Pipeline、欧州ネットワークに接続 


今回は新しく2本のパイプラインを建設する。能力は
年間550億m3で、倍増となる。

ーーー

ロシアの天然ガスの欧州での販売については、EUが問題視し、クレームをつけている。

EUの欧州委員会は2015年4月22日、ロシアの天然ガス会社 Gazprom にEU競争法違反の疑いがあるとし、異議告知書を送付した。

欧州委員会はロシア産ガスに大きく依存する中東欧諸国のガス市場で、独占的な地位を乱用して競争を妨げたとの暫定的な判断を示した。
ブルガリア、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、スロバキアの計8カ国のガス市場で独禁法に違反したとみている。

2015/4/27 EU、ロシアのGazpromにEU競争法違反の警告    

ロシアは2014年12月1日、ウクライナを迂回してロシアから欧州南部に天然ガスを輸送するパイプライン South Stream の敷設計画を撤回した。
実際には、パイプラインの海底部分建設のための140億ユーロの調達がEUの制裁で困難になっていることがあるが、EUによる反対が口実となった。

EUは2013年12月4日、各国が締結したSouth Stream pipeline 建設契約はEUの法に違反しており、ゼロから再交渉する必要があるとした。

2007年9月に採択された第三次電力・ガス自由化パッケージではエネルギーの生産と輸送ネットワークの所有を分離することとしており、South Stream pipeline 建設契約がこれに反しているとした。

EU規則は2007年9月のものだが、2013年12月までは EUはSouth Stream 計画について何も問題視していない。

2014/12/4   ロシア、South Stream 計画を取り止め

ウクライナ問題で対ロ制裁が続く中、EUの対応が注目される。


 


2015/7/1    ギリシャ支援が失効    

EU やIMFによるギリシャへの支援が6月30日に失効した。凍結されたままとなっていた 72億ユーロの融資枠が消滅した。

ギリシャは支援が切れる直前に、「欧州安定メカニズム(ESM)」に対して2年間の資金繰り支援や債務再編、つなぎ資金を確保する現行支援の延長を求めた。(今回はIMFへの要請はせず)
新提案が受け入れられれば、国民投票を中止する用意があるとの考えを示した。
但し、財政緊縮策の受入では譲歩姿勢を示していない。

ギリシャ政府はまた、欧州中央銀行(ECB)に対し、緊急流動性支援(ELA)枠の拡大を検討するよう要請した。

欧州中央銀行(ECB)は6月28日、緊急理事会を開催し、緊急流動性支援(ELA)での資金供給を増額しないことを決めた。
緊急支援枠は6月23日の引き上げで890億ユーロ前後とされる。

ギリシャの銀行が担保として差し入れているギリシャ国債は2月11日をもって適格担保要件を失ったため、ギリシャの銀行にとってはELAでの資金供給が唯一の道である。

2015/2/9 ギリシャ問題 

この増額が拒否された結果、銀行の資金繰りがつかないため、チプラス首相は6月29日から銀行を休業させ、資本規制を導入した。
銀行は6月29日から7月6日まで6営業日を休業する。6月29日はATMを含め、金融サービスが全面的に止まり、6月30日以降は1日の預金引き出し額が60ユーロに制限された。 

付記 高齢者の多くがキャッシュカードを持たないため、銀行は7月1日から120ユーロまでの年金引き出しに限り窓口業務を再開した。

             ECBは7月1日の理事会で上限を890億ユーロで据置くことを決めた。毎週見直す。

IMFは、ギリシャが6月30日の期限までに15.5億ユーロの債務を返済しなかったことを確認し、ギリシャを先進国として初めての「延滞国」に認定した。

過去の延滞は、ソマリア、スーダン、ジンバブエのみ。

ギリシャは、6月5日のIMFへの債務返済を月末に先送りした。
6月中に期限を迎える4回分の返済計15.5億ユーロは、6月30日にまとめて支払うこととしていた。

6/5 3.0

億ユーロ

6/12 3.4  
6/16  5.7  
6/19  3.4  
合計 15.5  

ギリシャ財務相は6月30日、IMFへの債務を返済しないと述べた。
政府は6月30日支払予定の年金についても一部で遅れが生じると発表したが、こちらはなんとか支払が出来た。

IMFの報道官はギリシャが同日、返済期限の延期を要請したことを明らかにし、IMFは理事会で検討すると述べた。
一方、追加融資については、債務を返済しなければ受けられないと述べた。

ユーログループは7月1日に電話会議を開き、ギリシャ問題について討議する。

付記 ユーロ圏財務相会合で、7月5日の国民投票の結果が出るまでギリシャ側と交渉はできないとの見解で一致した。

ーーー

ギリシャの債務の8割は公的部門向けとなっており、民間保有の国債は390億ユーロ(12%)に止まる。
このためギリシャがデフォルトになっても、影響は大きくないと見られている。

  EU(欧州金融安定基金:EFSF) 1310億ユーロ(42%)
欧州中央銀行(ECB)  国債 270億ユーロ(9%)
IMF 7%

 

2015/7/1 日本経済新聞  2015年3月末時点

 

ギリシャは6月30日にIMFへの返済ができなかった。7月13日にはIMFへの4億5千万ユーロの返済を控える。
S&Pは公的機関であるIMFへの返済が滞ってもデフォルトにはあたらないとの見方を示している。

しかし、7月14日 にはギリシャ政府が抱える債務返済案件のうち、1995年に発行した20年物のサムライ債の約117億円(約8300万ユーロ)償還がある。
また7月17日は、2014年7月発行の3年もの国債の利払い(7100万ユーロ)がある。

これらの支払が滞った場合、格付会社はギリシャ国債をデフォルトと判断するとみられる。

更に、7月20日 にはECBへの 35億ユーロ、8月20日には同じくECBへの32億ユーロの返済を控えている。

S&Pは6月29日、状況が好転しなければ6ヶ月以内のデフォルトは避けられないとし、ギリシャ国債の格付けをCCCからCCC-に一段階下げた。
ギリシャがユーロ圏から離脱する可能性は50%程度あるとしている。

ギリシャ国債の格付け推移

S&P Moody's
B (ギリシャ ↓  2015/2/6) B2
B- (ギリシャ ↓  2015/4/15) B3
CCC+ (ギリシャ ↓  2015/6/10) Caa1 (ギリシャ ↓  2015/4/29) 
CCC (ギリシャ ↓  2015/6/29) Caa2 ギリシャ
CCC- ギリシャ Caa3

付記 Mpody'sは7月1日、ギリシャをCaa3 に引き下げた。

ーーー

米自治領プエルトリコは6月29日、「720億ドルに上る負債を返済できない」として、事実上のデフォルト宣言をした。

2008年のリーマン・ショック前後から、石油高などで苦しみ、経済立て直しが進まない中で歳入の見通しが甘く、想定以上に財政赤字が増えたという。

今後は債権者との協議で数年間の支払い猶予を求める方針。

ギリシャに加え、プエルトリコの債務問題も新たな懸念材料となる。

 


2015/7/2 アジアインフラ投資銀行(AIIB)の概要  

アジアインフラ投資銀行(AIIB)は6月29日、北京の人民大会堂で設立協定の調印式を行った。

フィリッピン、デンマーク、クウェート、マレーシア、ポーランド、南アフリカ、タイの7カ国は調印していない。

2015/6/30   アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立協定調印式 


AIIBのArticles of Agreement などによると、AIIBの概要は下記の通り。
    

1.資本金

資本金は1000億ドル。うち、当面の払込資本金 (paid-in shares) は200億ドルで、残り 800億ドルは Callable shares。

資本金1000億ドルのうち、域内を750億ドル、域外を250億ドルとする。

1000億ドルのうち、981億5140万ドルを設立加盟国に割り当て、残り18億4860万ドルは今後の加盟国のために空けておく。
出資比率は各国のGDPと購買力平価を基に決定した。

中国の場合、297億8040万ドルの割り当てで、出資比率は30.34%となる。

2.議決権

85%は出資比率で、15%は一律とする。
中国の場合、(30.34% x 0.85) + (0.15 / 57) で議決権は26.06%となる。

重要事項の決定には75%以上の議決権が必要としており、中国は1カ国で議題を否決できる事実上の「拒否権」も持つ。

IMFも重要事項の議決には投票権で85%以上の賛成が必要で、唯一15%超の比率を持つ米国が事実上の拒否権 を行使しており、
2010年に合意した「新興国の出資比率を引き上げ、理事会への登用を増やすIMF改革」が棚上げとなっている。)

3.国別の資本金、出資比率、議決権は下記の通り。

調印していない7カ国(青色枠)についても、本年末までに調印すればよいため、含まれている。

   

出資(億ドル)

出資比率
(%)
議決権
(%)
域内 域外
1 中国 297.804   30.34 26.06
2 インド 83.673   8.52 7.50
3 ロシア 65.362   6.66 5.93
4 ドイツ   44.842 4.57 4.15
5 韓国 37.388   3.81 3.50
6 オーストラリア 36.912   3.76 3.46
7 フランス   33.756 3.44 3.19
8 インドネシア 33.607   3.42 3.17
9 ブラジル   31.810 3.24 3.02
10 英国   30.547 3.11 2.91
11 トルコ 26.099   2.66 2.52
12 イタリー   25.718 2.62 2.49
13 サウジアラビア 25.446   2.59 2.47
14 スペイン   17.615 1.79 1.79
15 イラン 15.808   1.61 1.63
16 タイ 14.275   1.45 1.50
17 UAE 11.857   1.21 1.29
18 パキスタン 10.341   1.05 1.16
19 オランダ   10.313 1.05 1.16
20 フィリッピン 9.791   1.00 1.11
21 ポーランド   8.318 0.85 0.98
22 イスラエル 7.499   0.76 0.91
23 カザフスタン 7.293   0.74 0.89
24 スイス   7.064 0.72 0.87
25 ベトナム 6.633   0.68 0.84
26 バングラデシュ 6.605   0.67 0.83
27 エジプト   6.505 0.66 0.83
28 スウェーデン   6.300 0.64 0.81
29 カタール 6.044   0.62 0.79
30 南アフリカ   5.905 0.60 0.77
31 ノルウェー   5.506 0.56 0.74
32 クウェート 5.360   0.55 0.73
33 オーストリア   5.008 0.51 0.70
34 ニュージーランド 4.615   0.47 0.66
35 デンマーク   3.695 0.38 0.58
36 フィンランド   3.103 0.32 0.53
37 スリランカ 2.690   0.27 0.50
38 ミャンマー 2.645   0.27 0.49
39 オマーン 2.592   0.26 0.49
40 アゼルバイジャン 2.541   0.26 0.48
41 シンガポール 2.500   0.25 0.48
42 ウズベキスタン 2.198   0.22 0.45
43 ヨルダン 1.192   0.12 0.37
44 マレーシア 1.095   0.11 0.36
45 ネパール 0.809   0.08 0.33
46 ルクセンブルグ   0.697 0.07 0.32
47 ポルトガル   0.650 0.07 0.32
48 カンボジャ 0.623   0.06 0.32
49 ジョージア 0.539   0.05 0.31
50 ブルネイ 0.524   0.05 0.31
51 ラオス 0.430   0.04 0.30
52 モンゴリア 0.411   0.04 0.30
53 タジキスタン 0.309   0.03 0.29
54 キルギス 0.268   0.03 0.29
55 アイスランド   0.176 0.02 0.28
56 マルタ   0.136 0.01 0.27
57 モルディバ 0.072   0.01 0.27
小計 733.850 247.664 100.00 100.00

981.514

未割当 16.150 2.336  

18.486

合計 750.000 250.000

1,000.000

4.組織

本部は北京に置く。

理事会 域内9人、域外3人の計12人で構成する。理事は北京に常駐しない。

任期5年の総裁は初代ポストを中国が握り、金立群・元財政次官が就く見通し。



2015/7/3    三井化学SKCポリウレタン、営業開始

三井化学と韓国 SKC のポリウレタン材料事業における合弁会社である三井化学SKCポリウレタン(略号 MCNS) が 7月1日に営業を開始した。

ーーー

三井化学は2014年12月22日、韓国SKCと両社のポリウレタン材料事業を統合する合弁契約を締結したと発表した。

ポリウレタン材料の総合メーカーとして、極東アジアから中国、ASEAN、欧州、米州まで、両社のネットワークを利用してグローバルに顧客に価値を提供する。

三井化学は2015年3月23日、ポリウレタン材料事業の統合について、合弁会社の骨子を発表した。

 (1)韓国法人 Mitsui Chemicals & SKC Polyurethanes Inc.  三井化学 50%、SKC 50%
 (2)日本法人 
三井化学SKCポリウレタン          韓国法人の100%子会社 

2014/12/23     三井化学、韓国SKCとポリウレタン事業統合
 

狙いは下記の通り。

 1) TDI、MDI、ポリオール、システム製品全てを保有するアジア最大の総合ポリウレタン材料メーカー創設

 2)    両社の優位性を更に強化し、自動車・家電分野でのグローバル展開を強化

    3)   原料POからの一貫体制構築による競争力の強化

   

 SKCは蔚山にPO/SM併産設備(180/400千トン)とEvonik/Uhde法の100千トンのHPPO processの2系列のPOプラントを持つ。

 

ーーー

MCNSの体制は下記の通り。

三井化学の大牟田工場、鹿島工場は新会社には移さず、三井化学が新会社からTDI、MDIの製造を受託する。

 


 

TDI 三井 大牟田 120         製造受託
鹿島 (117) 2016年停止   製造受託
 
MDI 三井 韓国・麗水 200 錦湖三井化学 (KMCI)
(錦湖化学50%)
大牟田 (60) 2016年停止   製造受託
 
ポリオール 三井 名古屋 50  
徳山 40  
インド 8 Vithal Castor Polyols (VCP)
SKC 蔚山 180
 
システム製品
ポリオール、その他原料、および添加剤の混合物)
三井

天津

天津天寰ポリウレタン(TCPC)

蘇州
佛山 佛山三井化学ポリウレタン
佛山三井化学SKCポリウレタン (MCNS-F)
タイ Thai Mitsui Specialty Chemicals   (TMSC)
マレーシア Cosmo Scientex (M) SDN. BHD.
MCNSポリウレタンマレーシア(MCNS-M)
インドネシア P.T. Cosmo Polyurethane Indonesia
MCNSポリウレタンインドネシア (MCNS-I)
SKC 中国 北京 SKC (Beijing) Polyurethane
北京三井化学SKCポリウレタン (MCNS-B)
米国 SKC Inc. 
MCNSポリウレタンUSA   (MCNS-U)
ポーランド SKC Europe PU
MCNSポリウレタンヨーロッパ   (MCNS-E)

 


 


2015/7/4 英BP、メキシコ湾原油流出事故で米政府等と和解   

BPは7月2日、2010年4月にメキシコ湾で起こした原油流出事故を巡り、米連邦政府やメキシコ湾岸の5州(Alabama、Florida、Louisiana、Mississippi、Texas)と総額で最大187億ドルを18年間にわたって支払うことで和解した。

今後、本件を裁いていた
New Orleans
District Court のCarl Barbier 判事の承認を得る必要がある。

概要は次の通り。

支払先 内容 金額 支払期間
米政府 Clean Water Act (CWA)による罰金 55億ドル 15年
米政府、5州 天然資源被害
(NRD)
既決の10億ドルに加算 71億ドル 15年
未知の被害 2.32億ドル 終了時
5州 経済的被害、その他被害 49億ドル 18年
400以上の地方公共団体 最高10億ドル  

CWAとNRDの分割払いの未払い分の金利は5月末の米財務省債の利率(2年物、3年物平均)による複利で支払完了時に支払う。

Clean Water Actの罰金はこれまでは政府収入であったが、2012年のRestore Actで罰金の80%は影響を受けた州に入る。

今回の和解総額は187億ドルだが、一部を引当しているため、事故による費用総額(税引前)は2015年3月末時点の438億ドルから100億ドル程度増加する。


 

ーーー

BPは2012年11月15日、司法省によるすべての刑事訴訟で和解したと発表した。合わせて米証券取引委員会(SEC)とも和解した。

刑事訴訟については、11名死亡に関する11の違法行為とClean Water Act、渡り鳥条約、議会妨害に関する違法行為の合計14について有罪を認めた。

BPは約40億ドルを5年分割で支払う。このうち、罰金は1,256百万ドルで、これとは別に、National Fish & Wildlife Foundation に2,394百万ドル、National Academy of Sciences に350百万ドルを支払う。

SECに関しては、事故当初の漏出量予想の報告が問題とされた。これに関し、BPは罰金525百万ドルを3年分割で支払う。

2012/11/17  BP、Deepwater Horizon事故に関する米政府の全ての刑事訴訟で和解 


しかし、これには水質浄化法に基づく(政府による)民事訴訟や天然資源の損害賠償、過去の和解に含まれない個人による請求は含まれない。

水質浄化法Clean Water Act)では原油の流出量 1バレルに対して、1,100ドルの罰金が決められている。
但し、重大な過失による場合は、罰金は4,300ドルとなる。

2014年9月4日、米政府による水質浄化法に基く民事訴訟の裁判で、New Orleansの District Court のCarl Barbier 裁判官は、BPに「重大な過失」(gross negligence )と「故意の不法行為」(willful misconduct)があり、これが大量流出の原因となったとし、BPは水質浄化法によるバレル当たり4,300ドルの罰金に値するとの判決を言い渡した。

責任割合について、判事は、BPが67%、Transoceanが30%、Halliburton が3%と認定した。

2014/9/8    2010年の原油流出事故、「BPに重大な過失」と認定

Carl Barbier 判事は2015年1月15日、責任流出量を319万バレルと認定する判断を下した。

実際の流出量は400万バレル以上であるが、回収努力を考慮し、責任流出量を319万バレルとした。

政府は流出量を490万バレルとし、そのうち420万バレルはBPの責任だとしていた。
他方、
BPでは流出量を320万バレルとし、バレル1100ドルを適用し、35億ドルを引き当て ている。

これによると、罰金額は137億ドルとなる。(BPの責任割合は67%のため、91.8億ドルとなる)

2015/1/19 メキシコ湾原油流出事故の責任流出量 認定 

BPは罰金を1990年時代の最高額であるバレル当たり 3,000ドルに引き下げるよう要請したが(罰金は95.7億ドルに減る)、判事は却下した。
(EPAはその後、インフレ対応で罰金を引き上げたが、判事はこの引き上げを妥当とみなした。)

罰金額は計算上は上記の通り 91.8億ドルとなるが、判事による最終判決はまだで、間もなく行われるとされていた。

罰金額の決定に当たっては、下記の点が考慮される。

・被告側の流出量を抑える努力
・法律違反の重大性
・被告側の流出量を抑える努力の内容、程度、効果
・罰金が被告に与える経済的影響
・違反により被告が得る利益(もし在れば)
・有責性の程度
・同様事故での罰金
・以前の違反の事例

また、他の関係者の問題もある。

Operator 責任比率 Owner 出資比率 水質浄化法責任
BP 67% BP 65%  
Anadarko 25% @判事「Ownerとしての責任のみ」
A政府は10億ドルを求める。
(2014/12)
Mitsui 10% 2012/2/20  メキシコ湾原油流出事故で三井石油開発が米政府と和解
  罰金 70百万ドル+環境保全 20百万ドル
Transocean 30%   2013/1/8 Transocean Deepwater Horizon 事故で罰金14億ドル支払い
Halliburton 3%    

今回、米国政府はBPとの間で55億ドルの罰金で和解した。

詳細は不明だが、司法長官は、「数週間にわたる最近の交渉で、政府や州の主張に合った、湾岸地域に今後にわたり利便をもたらすような合意に達した」としている。

各州にとっては、Restore Actによる水質浄化法の罰金の80%を含めると、裁判ではとても得られない多額の収入となる。

BPにとっては、これでほぼ全ての問題が解決する。

ーーー

罰金は下記の通り分割払いされる。(億ドル)

CWA NRD NRD 追加 5州
0           10.00
1 3.79 4.89    
2 1.89 2.45    
3 3.79 4.89   2.60
4 3.79 4.89   2.60
5 3.79 4.89   2.60
6 3.79 4.89   2.60
7 3.79 4.89   2.60
8 3.79 4.89   2.60
9 3.79 4.89   2.60
10 3.79 4.89   2.60
11 3.79 4.89   2.60
12 3.79 4.89   2.60
13 3.79 4.89   2.60
14 3.79 4.89   2.60
15 3.79 4.89   2.60
16     2.32 2.60
17       2.60
Totals 55.00 71.00 2.32 49.00

2015/7/6  ギリシャ国民投票、EUの財政緊縮策に反対   

ギリシャの国民投票が7月5日午前7時(日本時間午後1時)に始まり、午後7時(同6日午前1時)に終わった。
投票権者は18歳以上の約985万人で、投票率が40%を超えなければ、結果は無効になる。

日本時間午前6時現在、開票率90%で緊縮策に反対が61.45%で、賛成 38.55%を大きく上回り、チプラス首相は 「ギリシャは歴史的なページを開いた」と述べ、反対派の勝利を宣言した。
   
付記 最終的に、投票率 62.5%で、反対が61.31%、賛成が38.69%だった。

ギリシャ側は民意を背景に緊縮策の修正をEU側に迫りながら金融支援の実行を求めるものと見られるが、EU側がこれに応じ追加支援を行う可能性は低いとみられる。

EUは7月6日朝にトゥスク大統領、ユンケル委員長、ヨーロッパ中央銀行のドラギ総裁、ユーロ圏財務相会議のダイセルブルーム議長が電話による会議を開き、対応を協議する。


IMF債務は既に「延滞」(実質デフォルト)しており、最大の債権者の欧州金融安定ファシリティー(EFSF)は 、下記のとおり、ギリシャがデフォルト状態にあると認定し、即時支払要求の権利を留保した。

S&Pは公的機関であるIMFへの返済が滞ってもデフォルトにはあたらないとの見方を示しているが、7月14日にはギリシャ政府が抱える債務返済案件のうち、1995年に発行した20年物のサムライ債の約117億円(約8300万ユーロ)償還がある。
また7月17日は、2014年7月発行の3年もの国債の利払い(7100万ユーロ)がある。

これらの支払が滞った場合、格付会社はギリシャ国債をデフォルトと判断するとみられる。

IMFの報告書では、2018年末までにギリシャは500億ユーロが必要であるとしている。

ヨーロッパ中央銀行も、ギリシャの中央銀行を通じて行ってきた ギリシャの銀行への緊急流動性支援(ELA)を打ち切る可能性が高く、ギリシャの銀行は破綻が相次ぐ恐れがある。

付記

ヨーロッパ中央銀行は7月6日、ギリシャ銀行向け緊急流動性支援(ELA)を現行水準に据え置くと同時に、銀行が差し出す担保のヘアカット(割引率)を調整したと明らかにした。

これにより、資金繰りに余裕のないギリシャ国内行は休業を続ける。

そうなれば、ユーロ圏離脱がいよいよ現実味を帯びてくる 。

ギリシャにはロシアや中国が接近している。地中海の要衝でNATO加盟国のギリシャの混乱は安全保障問題に直結しており、米国は懸念している。

ーーー

ギリシャの債務状況は非常に厳しい。

1)ギリシャの対EFSF債務をデフォルトと認定

ギリシャが6月末にIMF債務を返済しなかったことを受け、ギリシャの最大の債権者である欧州金融安定ファシリティー(EFSF)は7月3日、ギリシャの対EFSF債務がデフォルト(債務不履行)状態にあると認定した。

ギリシャとEFSFとの取り決めで、IMFへの返済の延滞により、「ギリシャのデフォルト事由発生に至った」との認識を示した。

IMFはデフォルトという言葉を使わずに「延滞」と表現した。

デフォルトの場合の処理としては、
 
@ 債権の即時支払い要求
  A 債権放棄
   B 即時支払い要求の権利留保

があるが、EFSAは今回は権利留保を選択した。

EFSFによると、現在の対象債権は合計 1446億ユーロとなる。 (これまで1310億ユーロ程度とされていた)

Master Financial Assistance Facility Agreement  1091億ユーロ
Bond Interest Facility Agreement                               55億ユーロ
Private Sector Involvement Facility Agreement          300億ユーロ

EFSFは「全ての債権者に対する財政上の義務を履行するというギリシャの約束を破るもので、ギリシャ経済や国民に深刻な影響が及ぶ可能性が生じている」としている。

2009年10月にギリシャの財政赤字粉飾が表面化し、支援が必要になったため、ユーロ圏16カ国は2010年5月、緊急支援の基金で3年間の時限措置の欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の設立と、これを引き継ぐ恒久的支援組織の欧州金融安定化メカニズム (ESM)の2013年7月設立を決めた。

EFSFは各国政府による保証を基に市場から資金を調達し、支援を必要とする国に融資を行うもので、当初の保証負担額は合計4400億ユーロであった。
2011年6月にEFSFの拡充を決定、現在は7798億ユーロとなっている。

各国が負担する保証負担額は以下のとおり。(百万ユーロ)

  保証負担額 拡大後
オーストリア 12,241    21,639
フィンランド 7,905 13,974
フランス 89,657 158,488
ドイツ 119,390 211,046
ルクセンブルグ 1,101 1,947
オランダ 25,144 44,446
AAA格付 6か国合計 255,439 451,540
その他 184,561 328,243
合計 440,000 779,783

EFSFは、今回のギリシャのデフォルトについて、「強固な保証の枠組みに支えられており、EFSF債の保有者への返済能力に影響しない」と説明した。
 

2)IMFによるギリシャ分析   

IMFは6月26日付けで、IMF Country Report “Greece : Preliminary draft  Debt Sustainability Analysis” を発表した。 (国民投票が決まる前のものである)

それによると、前回の2014年5月の分析時には、計画通りにいけば、更なる救済は不要と思われたが、本年初め以降 、緊縮策や構造改革の取り組みが遅れて状況が変わった。 

2018年末までの間で、総額500億ユーロの資金が必要となる。

 

億ユーロ

借入金返済 298
金利支払 172
支払遅延分 70
民営化 -20
基礎財政収支 -94
その他 93
差引 519

うち、借入金返済は下記の通り、EFSFが143億ユーロ、IMFが99億ユーロとなっている。

ギリシャが市場からこのような多額の資金を調達することは不可能である。

このため、ユーロ圏諸国が少なくとも360億ユーロを追加で、しかも超有利な条件(AAA向けの利率、長期融資、利子猶予期間つき)で融資する必要がある。

しかし、このような融資が2018年まで維持され、最も楽観的なIMFの現在の見通しに基づいたとしても、ギリシャの債務のGDP比率は2020年は150%、2022年でも140%になると予想される。

付記

この報告書をめぐり、ユーロ圏諸国が公表をやめるよう働き掛けていたことが、関係筋の話で分かった。IMFで大きな影響を持つ米国は公表を支持していたという。

ある外交筋はIMFの報告書公表について、欧州諸国が債務軽減を盛り込まない限り、今後のギリシャ追加支援にIMFは関わらないという意思表示だと語った。

 

チプラス首相は7月3日に行った国民向けのテレビ演説で、債権団の支援条件受け入れ拒否を国民に勧めている自身の判断の正当性が、IMFの報告書により裏付けられたと主張した。

IMFのラガルド専務理事は7月8日、ワシントン市内で講演し、財政危機で金融支援を受けたポルトガルやアイルランドなどが改革に取り組んだことを踏まえ、ギリシャについても「財政健全化と重要な改革が必要だ」と強調する一方、EUに対しては「ギリシャのケースでは、財政持続のために債務の再編が必要だ」と述べ、借金の減免や返済期限の延期を促した。

IMFについては、「ルールを曲げるわけにはいかない」と述べ、返済されるまでは新たな金融支援を行わない考えを改めて示した。



2015/7/7     国際石油開発帝石のインドネシアの油田権益 大幅減   

国際石油開発帝石(INPEX)とフランスのTotal が50%ずつ権益を保有し、Total がオペレートしているインドネシアの東カリマンタン州のマハカム(Mahakam)沖鉱区は2017年末に鉱区の期限を迎える。

両社は2018年以降の契約期間の延長を目指し、インドネシア当局と協議を進めてきた。
2015年3月に来日したジョコウィドド大統領へ安倍首相から同鉱区の契約延長に関しての要請を行った。

しかし、インドネシアのエネルギー・鉱物資源省は6月19日、国営石油会社プルタミナ(Pertamina)に権益の70%を与えると発表した。
このうち、10%分は東カリマンタンの地方企業に配分することとなっている。

残りの30%は、ほとんど50年にわたり鉱区を運営してきたことに対する感謝として、INPEXとTotalに与えるとしている。

2018年1月以降はPertaminaがTotalに代わり、鉱区のオペレーターとなる。

付記

2018年1月1日よりPertaminaが新生産分与契約に基づき同鉱区の全権益を保有した上で、現オペレーターであるTotalより操業を引き継ぐ。

 

ーーー

国際石油開発帝石(INPEX)は1966年10月にインドネシア政府と生産分与契約を締結し、マハカム沖鉱区の100%権益を取得した。

しかし、1969年に同鉱区で第一坑井を試掘したが出油せず、1970年7月に権益の50%をCFP社(現TOTAL)に譲渡した。
その後、ブカパイ油田、ハンディル油田、タンボラ油ガス田、トゥヌガス田、ペチコガス田、シシ・ヌビガス田などが順次発見され、以降、生産を続けている。

両社は2007年3月、マハカム沖鉱区に隣接する南東マハカム鉱区の権益を取得した。
2012年10月末に生産開始した。

生産された原油とコンデンセートは、積み出し基地であるサンタンターミナル、およびスニパターミナルから日本の石油精製会社、電力会社などへ出荷し、天然ガスは主にボンタンLNGプラントでLNGにして日本をはじめとする需要家向けに出荷している。

なお、アタカユニットは、1970年4 月にINPEXとUnocal(現Chevron)が50%ずつの権益比率で双方の隣接鉱区の一部を統合して設定され、1972年から原油・天然ガスの生産を続けている。

付記

インペックスアタカ鉱区は、2017年末の現行生産分与契約期限をもってインドネシア政府に返還する。

現在の生産量は、
 原油・コンデンセート:日量 約7.1万バレル
 LPG:日量 約6千バレル
 天然ガス:日量 約14.9億立方フィート
となっている。

ーーー

インドネシアのKompas紙によると、Pertaminaの労働組合幹部はマハカム鉱区に関し、エネルギー開発の独立性を維持するため外資の参画を認めず、100%をプルタミナが握るべきだとジョコ大統領に伝えた。

鉱区のような大型の石油・ガス田を運営には、巨額のの資金と高度な技術が必要で、大きなリスクも伴うが、「今こそ政府はプルタミナの能力を信用すべきだ」と訴えている。

東カリマンタンの鉱業保護の活動家は「ジャワ島東部 BojonegoroのCepu鉱区の例をあげ、民間の参画を警戒すべきだとしている。

しかし、インドネシアの一小企業の行動と、
ほとんど50年にわたり鉱区を運営してきた両社を一緒にするのはおかしく、Pertaminaが運営を担当することからも、この決定は変わらないと思われる。

Cepu鉱区のバンユー・ウリップ油田は2014年に生産開始した。

同鉱区の権益所有は下記の通りとなっている。

エクソンモービル(オペレーター) 45%
プルタミナ   45%
地方企業 10%
 Surya Energy Raya       3.375%
 Asri Dharma Sejahtera        1.125%
    Sarana Patra Hulu Cepu                1.100%
    Blora Patragas Hulu                       2.200%
    Petrogas Jatim Utama Cendana    2.200%

このうち、Surya Energy Rayaが自社の負債の解消のため、アフリカその他での石油開発に注力している中国人の徐京華 (Sam Pa) の企業 China Sonangol International (安中國際石油) から2億ドルを借り、見返りに権益を同社に貸与したとされる。

*
Sonangol はアンゴラの国営石油会社の社名。Sam Pa はアンゴラにも進出している。


ーーー

国際石油開発帝石のインドネシアでの活動は下記の通り。

各プロジェクトの詳細は下記参照

http://www.inpex.co.jp/business/indonesia.html

 


2015/7/8   東レ、欧州の燃料電池および水電解装置の部材開発・製造・販売会社を買収   

東レは、燃料電池および水電解装置の部材開発・製造・販売会社で、Umicore とSolvay の50/50JVのドイツの SolviCore の株式を取得し、7月1日付けで100%子会社化し、Greenerity と改称した。

新社名「Greenerity」は、「Greener(より環境に優しく)」+「-ity(状態を表す抽象名詞語尾)」として、より環境に優しい社会の創造を目指していくことを意図したもの。

SolviCoreは2006年7月にUmicoreとSolvayが折半出資して設立、燃料電池や水電解装置の部材となる触媒層付き膜「Catalyst Coated Membrane(CCM)」、膜・電極接合体「Membrane Electrode Assembly(MEA)」の開発・製造・販売を行っている。

燃料電池は、水素と酸素を反応させて電気を発生させる発電装置で、水しか排出しない次世代のエネルギー源として期待されている。

触媒層付き膜「Catalyst Coated Membrane(CCM)」 は、触媒層と電解質膜からなる燃料電池用電極膜。 
膜・電極接合体「Membrane Electrode Assembly(MEA)」は、触媒層と電解質膜とガス拡散層からなる燃料電池用膜電極接合体 。

東レは、中期経営課題 “プロジェクト AP-G 2016”で進める全社プロジェクトの一つとして「グリーンイノベーション事業拡大プロジェクト」を掲げ、地球環境問題や資源・エネルギー問題の解決を通じて社会に貢献することで、東レグループの持続的成長を支えることを目指している。

今回の買収は、このプロジェクトの一環であり、今後もGreenerity社の事業推進を通じて、水素製造(水電解)、水素インフラ(圧縮・貯蔵)、水素利用(燃料電池)技術の発展に貢献し、持続可能な低炭素・循環型社会の実現を目指していく としている。

 

SolviCoreは2006年7月にUmicoreとSolvayが折半出資して設立した。

Solvay はポリマー膜の技術を、Umicore は貴金属をベースとする触媒の技術を持ち寄ることで、燃料電池という新技術分野で重要な役割を演ずることを目指した。
工場はUmicoreのR&DセンターのあるドイツのHanau にある。

Solvayのポリマー膜は、Solvayが2011年に友好的買収を行ったRhodia の技術。

Umicoreは1805年設立のベルギーの会社で、貴金属リサイクル、自動車用触媒、バッテリー材料などの研究・開発・生産、MEA の開発・製造のため、電気触媒とポリマー膜の組み立てを行う。

同社の燃料電池関係事業は元はDegussa-Huls (現在のEvonik)の事業で、1999年にSpecialty Chemical に集中することを決め、燃料電池事業を分割し、Degussa Metals Catalysts Cerdec を設立した。
2001年にOM Group が
Degussa Metals Catalysts Cerdec
を買収、2002年にUmicoreがOM Group を買収した。


Solvay とUmicore はいずれも、今後も燃料電池部門で活動を続ける。
Solvayは先進的新素材の分野で、Umicore は触媒分野で活動する。

 


2015/7/9   SK Chemical とSABIC、ポリエチレンJV設立   

SABICとSK総合化学(SK Global Chemical)は2014年5月26日、SKの最新ポリエチレン技術(Nexlene™ )を使って高機能ポリエチレン製品を製造するための50/50JVを設立する合弁契約に調印した。

2014/5/31 SABIC、韓国のSK総合化学と高機能ポリエチレンのJVを設立

Nexlene™ はSKが2010年に触媒からプロセス、製品設計まで全体を自社技術で開発した高機能ポリエチレンで、メタロセンLLDPE とポリオレフィン・プラストマー(octene-1 コポリマー)、ポリオレフィン・エラストマーを製造する。
既存のポリエチレンと比較し、インパクトに強く、透明性に優れ、加工性もよい。

SKは年産23万トン第一工場を蔚山に建設し、2014年に5月に生産を開始した。

両社はその後、詳細を詰めていたが、今回7月5日に合弁契約書を締結した。

合弁会社の詳細は下記の通り。
社名: Sabic SK Nexlene Company (SSNC)
資金: 7100億ウォン (632百万米ドル)
出資比率:SK Global Chemical 50%、SABIC 50%
本社:シンガポール

JVは韓国に100%子会社Korea Nexlene Company (KNC) を設立し、SKの蔚山の上記の年産23万トンのプラントを買収して運営する。

SK Global Chemicalと親会社のSK Innovation(旧称SK Energy)は技術供与と工場の拠出で5400億ウォン(480百万ドル)を現金で受け取る。

付記 2015年10月8日、蔚山工場の開所式が行われた。

2〜3年先にサウジに第二工場を建設し、その後、生産基地を世界中に広げたいとしている。

SKは、「SKの技術とSABICの競争力ある原料とマーケティング能力で、手を携えて世界市場に進出する。Nexleneに続き、高価値の化学製品で事業を拡大する」としている。

SABICにとっては、2009年のSinopecとのJV SINOPEC SABIC Tianjin Petrochemical に続く第二のアジア拠点となる。

2009/7/13 中国、シノペック天津石化計画へのSABICの参加を承認

この提携は、SKグループのChey Tae-won会長が2011年3月のサウジ訪問の際に、SABICのAl-Mady副会長に提案し、その後、協議を続けてきた。

付記 両社は2022年8月、増設で合意した。

$150 millionを投じ、現在21万トンの能力を30万トンにする。

なお、SK総合化学は2021年に社名を「SK geo centric」に変更した。


2015/7/9 メルケル首相への公開書簡   

トマ・ピケティなどギリシャへのEUの財政緊縮政策に批判的な経済学者ら5人が、ドイツのメルケル首相にギリシャの債務減免を求める公開書簡を出した。
書簡はブリュッセルでギリシャへの金融支援を協議するユーロ圏首脳会議が開かれた7月7日、ドイツ国内のメディアに公開された。

書簡に署名したのは次の5名:

Thomas Piketty:Professor of Economics at the Paris School of Economics
Jeffrey Sachs:Professor and Director of the Earth Institute at Columbia University
Heiner Flassbeck:former State Secretary in the German Federal Ministry of Finance
Dani Rodrik:Ford Foundation Professor of International Political Economy, Harvard Kennedy School
Simon Wren-Lewis:Professor of Economic Policy, Blavatnik School of Government, University of Oxford Piketty
 

書簡は次の通り。

欧州がギリシャに課している緊縮策は機能しない。ギリシャはもう沢山だと声高に叫んだ。

世界の多くが予想した通り、欧州の要求はギリシャ経済を押しつぶし、大量失業、銀行制度の破綻につながり、債務危機を悪化させ、債務はGDPの175%にもなった。税収は激減、生産と雇用は抑えられ、企業は資金不足となり、経済は破綻している。

人道的影響も巨大である。子供の40%は貧困生活を送り、幼児の死亡率は急増、若者の失業率は50%近くになった。

不正や脱税や以前のギリシャ政府による粉飾会計が債務問題を生んだ。ギリシャ人はAngela Merkelの、賃下げ、政府支出のカット、年金引き下げ、民営化、規制緩和、増税などの緊縮策に応じてきた。

しかし、ギリシャなどに課せられた調整計画は欧州では1929-33年以来起こっていない大不況を生んだだけである。ドイツ財務省やEUの処方箋は病気を治さず、患者を出血させている。

我々は共に、更なる被害を避け、ギリシャがユーロゾーンに留まれるよう、Merkel首相とトロイカに方針変更を求める。
現在、ギリシャ政府は銃を頭に向け、引き金を引くことを求められている。銃弾は欧州におけるギリシャの将来を潰すだけではない。これに付随して、希望と民主主義と繁栄のビーコンとしてのユーロゾーンも殺すこととなる。

1950年代に欧州は過去の負債、特にドイツの負債を免除して基礎をつくった。これが戦後の経済成長と平和に大きく貢献した。
今日、我々はギリシャの負債を再編、縮減し、経済回復の余地を与え、ギリシャが軽減された負債を長期にわたって返済できるようにする必要がある。
今こそ、この数年の懲罰的で失敗した緊縮策を人道的に再考し、もっと必要なギリシャの改革との関連でギリシャ債務の大幅削減に応じる時だ。

Merkel首相への我々のメッセージは明白だ。ギリシャとドイツのため、更に世界のため、行動のリーダーシップをとることだ。今週の首相の行動を歴史は記憶するだろう。ギリシャに対し、大胆で思いやりある行動をとって欲しい。それが将来の欧州に寄与することとなる。

ーーー

Thomas Pikettyは独週刊紙 Die Zeit とのインタビューで、ドイツは第1次世界大戦後の対外債務も、第2次世界大戦後の債務も返済しなかったと指摘、「他の国に説教できるような立場にはない」と述べた。

「ドイツは歴史を通じて対外債務を返済していない唯一の例だ。第一次大戦でも、第二次大戦でも。
そのくせ、他の国にはしばしば支払をさせている。1870年のFranco-Prussian Warではフランスに多額の支払を要求、実際に支払を受けている。フランスはこれで何十年も苦しんだ。公共負債の歴史は皮肉に満ちている。規律と正義という考えには合わない」

また、戦後のドイツ経済の奇跡的復活は少なくとも過去に債務免除を受けたことが一助になったとの見方を示し、ギリシャに対しても同様の措置が取られるべきだと主張した。

「1945年の終戦時にドイツの負債はGDPの200%を超えた。10年後、ほとんど残っていない。公共負債はGDPの20%に過ぎない。ーーー
1953年のLondon Debt Agreementでドイツの対外債務の60%は免除された。未来のことを考えてのことだ。これを忘れてはならない」

ドイツはギリシャに寛大だとは思いませんかとの質問に対し、

「何の話? 寛大? 現在ドイツは高い利率でギリシャに融資し、利益を得ているではないか」

ーーー

Thomas Pikettyがフランスの新聞に連載したコラムをまとめた『トマ・ピケティの新・資本論』では、ギリシャ問題も取り上げている。

2010年3月時点で、ギリシャ人が生産する以上に消費する怠け者であったために財政危機が生まれたという論調に対して批判しており、ギリシャを倫理的に非難し国民に耐乏生活を強いるよりは、ユーロ共同債を実現し、ギリシャもドイツも含む欧州の納税者が負担を分かち合うべきであると主張した。

2011年11月の時点で、フランスとドイツを初めとする欧州の主要国が、公的債務の共同管理を行うための協定を結び、財政上の決定を単一の政治主体に委ねることを提言している。
欧州の各国首脳が互いに自国の利害を主張し、小幅の譲歩や妥協を重ねるやり方は打ち止めにすべきと主張した。

林秀毅の欧州経済・金融リポート2.0  ピケティがみたユーロ危機 ―始まり・深刻化と処方箋―


付記

IMF のラガルド専務理事は7月8日、ワシントン市内で講演し、財政危機で金融支援を受けたポルトガルやアイルランドなどが改革に取り組んだことを踏まえ、ギリシャについても「財政健全化と重要な改革が必要だ」と強調する一方、EUに対しては「ギリシャのケースでは、財政持続のために債務の再編が必要だ」と述べ、借金の減免や返済期限の延期を促した。

IMFについては、「ルールを曲げるわけにはいかない」と述べ、返済されるまでは新たな金融支援を行わない考えを改めて示した。

 


2015/7/10   東洋エンジニアリング、インドネシアの合成ゴムプロジェクトを受注    

東洋エンジニアリングは7月6日、PT. Synthetic Rubber Indonesia からインドネシア・ジャワ島西部チレゴンでの合成ゴムプラント建設プロジェクトを受注したと発表した。

PT. Synthetic Rubber Indonesia はMichelin とChandra Asri Petrochemical の子会社のStyrindo Mono Indonesia のJVで、Michelin の技術でSSBR(溶液重合スチレンブタジエンゴム)とPBR(ポリブタジエンラバー)年産12万トンを製造する。

Michelin とインドネシアのChandra Asri は2013年6月17日、インドネシアに合成ゴム製造JVを設立する契約に調印した。

Michelin が55%、Chandra Asriの100%子会社のPT Petrokimia Butadiene Indonesia (PBI)が45%出資するとしていた。
投資額は435百万ドルで、工場建設は2015年初めに開始、2017年初めのスタートアップを目指す。

Michelin は、新興国での自動車産業の高成長とグローバルな高機能タイヤ(安全で長持ちし、燃料効率がよい)への傾向で、より技術的な合成ゴムの需要が増えているとしており、溶液重合SBRなどではないかと思われる。

2013/6/26   Michelin とChandra Asri 、インドネシアに合成ゴム製造JV設立

今回、東洋エンジニアリングと、同社が2012年に47%出資し、筆頭株主となっているインドネシアの大手エンジニアリング PT. Inti Karya Persada Tehnik (IKPT)が、詳細設計、機器資材の調達および工事までを一括請負受注した。東洋エンジがインドネシア国外での調達業務を、IKPTが設計・調達・建設業務を担当する。

東洋エンジニアリングはChandra Asri向けに、2011年にブタジエンプラント、2013年にエチレンプラント能力増を受注している。

合成ゴム計画の概要は下記の通り。

 JV:PT. Synthetic Rubber Indonesia
   
Michelin 55%、PT Styrindo Mono Indonesia 45% (当初のPT Petrokimia Butadiene Indonesiaから変更)

 建設地:インドネシア ジャワ島西部の Cilegon
    製品:合成ゴムプラント:年産12万トン
     溶液重合スチレンブタジエンゴム(SSBR)とポリブタジエンラバー
 完成予定:2018年初め
 原料:スチレンモノマー: PT Styrindo Mono Indonesia
    ブタジエン:
PT Petrokimia Butadiene Indonesia

ーーー

Chandra Asri は当初、Barito group75%日本インドネシア石油化学投資(丸85%、昭和電工 10%TEC 5%)が25%出資して設立され、1995年に生産を開始したが、2005年に日本側は撤退した。

2006/4/26  インドネシアのエチレン計画への日本企業の参加−1

その後、株主が次々に代わった。

PT Chandra Asri2007年に豊田通商からスチレンモノマー製造・販売の PT.Styrindo Mono Indonesia を買収し、2011年11日付でPPメーカーの PT Tri Polyta Indonesiaを統合し、新社名PT. Chandra Asri Petrochemical Tbk.として上場した。

タイのSiam Cement Group は2011年9月、Chandra Asriの株式30%を取得、経営に参画した。
シンガポールのTemasekから23%、Baritoから残り7%を買収した。

Barito Pacific    59.35%    当初の株主
Temasek Holdings      シンガポールの政府系投資機関
Siam Cement Group   30.06%    
Marigold Resources   5.52%    
一般株主   5.07%    (上場)

Chandra Asri はジャワ島西部の Cilegon にナフサクラッカーを持ち、各社に製品を供給している。

Chandra Asri は増設計画(エチレン +400、LLDPE +200、BTX、ブタジエン、ブテン-1 新設)を持っていたが、ブタジエンを除き、棚上げにしている。

2011/6/8  Chandra Asri の増設計画

 


2015/7/11 エチレンセンター10社の収益状況(2014年度)  
 

経済産業省は7月8日、2014年度のエチレンセンター10社の収益状況を発表した。

エチレンセンター10社の石油化学部門の売上高は、改善傾向にあったものの、昨年後半の原料価格の下落に伴う販売価格の低下や買い控えの動き等により、前年同期に比べ 7.4%の減少となった。

経常利益については、急激な原油安による在庫評価損等により、前年同期に比べ、84.7%の大幅減少となった。

石油化学部門の損益の推移は以下の通り。(億円)

年度 経常損益 営業損益
単独 単独 連結
2000 913 - 1,338
01 75 211 643
02 431 613 1,236
03 654 709 1,380
04 2,132 2,156 3,338
05 1,753 1,770 2,946
06 2,725 2,455 3,856
07 2,108 1,900 2,973
08 -1,825 -2,016 -2,034
09 -94 3 338
10 749 689 1,768
11 1,002 705 1,994
12 679 460 839
13 1,548 1,443 2,112
14 213 221 1,716


集計対象は下記の通り。大阪石油化学は三井化学子会社のため、実質10社である。

単独ベース  連結ベース 対象部門(いずれも)
旭化成ケミカルズ 旭化成 ケミカル・繊維部門
出光興産 出光興産 石油化学製品部門
昭和電工 昭和電工 石油化学部門
JX日鉱日石エネルギー JX日鉱日石エネルギー 石油化学部門
住友化学 住友化学 基礎化学部門、石油化学部門
東ソー 東ソー  石油化学部門
東燃化学 東燃ゼネラル石油 石油化学事業部門
丸善石油化学 丸善石油化学 (全社)
三井化学 三井化学 石化部門、基礎化学品部門、
機能樹脂部門
大阪石油化学
三菱化学 三菱ケミカルHD ケミカル部門、ポリマーズ部門

連結ベースは、国内及び海外の連結対象会社の変更等があるので、前年度と単純な比較は出来ない。


2015/7/13   ギリシャ対策 難航   

ギリシャへの新たな金融支援の協議を始めるかどうかを決めるユーロ圏財務相会議は7月11日に8時間半にわたり改革案の実効性や信頼性について議論したが、結論が出ず、一旦終了した。

財政改革案をおおむね支持するフランスやイタリアと、不十分だとするドイツやフィンランドの意見が対立した。

デイセルブルム議長は、「信頼性が大きな問題になっている。ギリシャ政府が今後数年にわたり約束を実行すると信じていいのかという問題」としている。

ドイツはギリシャ側の提案は「重要な改革が欠けており」、新たな3年間の支援計画の基礎にはなり得ないと し、ギリシャのユーロ圏からの一時離脱さえ提案した。

ドイツは、ギリシャが議会の支持を得て「迅速かつ大幅に」改革案を改善させることとし、具体的には、
 1)  独立した信託会社に国有企業や資産 500億ユーロ分を移管しその売却益を債務返済に充てること、
 2)  欧州委員会の監督の下で行政改革を進めること、
 3)  財政赤字削減が目標に届かなかった場合に自動的な歳出削減を発動するため法を整備すること
を提案している。

その上で、信頼性のある改革案がなければ、ギリシャはEUには残留した上で、少なくとも5年間ユーロ圏から離脱し、人道援助などを受けながら債務を整理すべきだとの案を出した。

債務の元本削減はユーロ圏内では違法になるとしている。

さすがに、このアイディアは、違法かつナンセンスとしてEU側に無視され、財務相会議では議論されなかった。

フィンランドでは連立与党の一つが連立離脱をちらつかせ、ギリシャ支援反対を求めたため、合意文書に署名できなかったとされる。

財務相会議は7月12日に再開されたが、結論には至らず、ユーロ圏首脳会議での政治判断に委ねた。

声明案では、ギリシャは7月20日(ECB保有債券の償還期限)までに70億ユーロが必要で、8月半ばに満期となる分も合わせると120億ユーロが必要になるが、第3次支援交渉を開始するためには、ギリシャが、付加価値税引き上げ、年金制度改革、企業破綻制度の見直し、統計局の独立性強化を7月15日夜までに法制化する必要があるとしている。

また今回は、支援の条件を満たせなかった場合に一時的にユーロ圏から事実上離脱させるというドイツ案も盛り込んだ。
(ただし、この文言はカッコでくくられており、同意していない財務相がいるとみられる。
EUの高官は、ユーロ圏からの一時的な離脱は違法との見方を示した。)

これを受け、ユーロ圏首脳会議が開催されたが、各国の意見が割れた。

ギリシャのチプラス首相は、欧州の結束維持に向け「さらなる誠実な妥協」を望むとしたが、ドイツのメルケル首相は、支援協議を開始する状況にはないとの認識を示し「最も重要である信頼が失われてしまった。それは、厳しい協議になることを意味する」と語った。

フランスのオランド大統領は、フランスはギリシャをユーロ圏に留めるため「あらゆる方策」を尽くすと述べ、「ギリシャの一時的なユーロ離脱」を否定した。

イタリアのレンツィ首相は、ギリシャの財政再建策は「EU側が求めた内容に沿っている」と指摘し「われわれは絶対に合意しなければならない。ほぼ全て譲歩したパートナーに恥をかかせるのは考えられない」と語った。

こうしたなか、ギリシャ政府が15日までに財政再建策の一部を法制化し、その出方を見た上でEU側が15日以降に金融支援の開始を決めるという段取りで、ギリギリの調整が続いた。ギリシャ側は難色を示している模様。
(記事作成時点では終了していない。発表あれば追記します。)

7月12日に予定していたEU全体の首脳会議は取りやめとなった。
ここでは、
ギリシャのユーロ圏離脱をどう扱うか協議することが目的だったとされる。ギリシャに3日間の猶予が与えられたとの報道がある。

「サムライ債」約117億円の償還期限が7月14日に迫っている。

ーーー

ギリシャのAlexis Tsipras 首相は6月27日の午前1時、突然テレビ演説し、EUなどから金融支援の条件として提案されている改革案の受け入れの是非を問う国民投票を7月5日に行うと表明した。

2015/6/8   ギリシャ、IMFへの6月分債務返済の一本化、月末先送りを要請
2015/6/20   ギリシャ支援合意できず
2015/6/27   ギリシャ、EU支援条件巡り7月5日に国民投票
2015/7/1   ギリシャ支援が失効 

7月5日の国民投票では、反対が61.31%、賛成が38.69%で、チプラス首相は 「ギリシャは歴史的なページを開いた」と述べ、反対派の勝利を宣言した。 

2015/7/6   ギリシャ国民投票、EUの財政緊縮策に反対

しかし、ギリシャは7月9日夜、新たな金融支援の条件としてEUから求められた財政改革案を提出した。
ギリシャ議会は7月11日未明、チプラス政権がEUなど債権者側に示した120億ユーロ規模の財政改革案を 、賛成 251、反対 32、棄権 8、欠席 9 で承認した。

ギリシャの譲歩案は国民投票で拒否したEU側の要求にほぼ沿ったものだが、その見返りに、総額535億ユーロ(約7兆2000億円)の3年間の金融支援を「欧州安定メカニズム(ESM)」に求めている。
(債権団の実務者チームは金融支援に必要な額は740億ユーロに達するとの審査結果をまとめている。)

また、3000億ユーロに膨らんだ公的債務の返済負担軽減のための債務再編も要請している。

ーーー

改革案の中身を検討していたEU欧州委員会とIMF、欧州中央銀行(ECB)は7月10日夜、財務相会合に対し、ギリシャの提案は「交渉再開の土台になる」と内容に前向きの評価を報告した。

IMFのラガルド専務理事は7月8日、ワシントン市内で講演し、財政危機で金融支援を受けたポルトガルやアイルランドなどが改革に取り組んだことを踏まえ、ギリシャについても「財政健全化と重要な改革が必要だ」と強調する一方、EUに対しては「ギリシャのケースでは、財政持続のために債務の再編が必要だ」と述べ、借金の減免や返済期限の延期を促した。

ダウ・ジョーンズ通信は7月11日、IMFが、ギリシャの債務返済期限を現在の平均約30年から60年に延長することを提案していると報じた。

米国のルー財務長官は7月10日の講演で、ギリシャ政府の債務はGDPの約1.8倍もあり、「財政は持ちこたえられない」と指摘し、ギリシャ政府に対し厳しい改革を求める一方、「ギリシャ政府が抱える債務を整理する必要がある」と述べ、EUに対して返済条件の見直しを改めて求めた。

中国やロシアがギリシャに接近している。地中海の要衝でNATO加盟国のギリシャの混乱は安全保障問題に直結しており、米国は懸念している。

クリミアの二の舞を踏むことのないように、場合によってはギリシャでクーデターを起こすとの噂も飛び交った。
仮にギリシャがNATOから離れれば、その次はトルコだという不安がある。

ドイツの態度を批判する声も出ている。

2015/7/9    メルケル首相への公開書簡

ーーー

各紙の報道によると、ギリシャ側の財政改革案は下記のとおり。

  EC側要求 ギリシャ譲歩案
予算目標 基礎的財政収支の黒字を
 
2015年はGDPの1%
    2016年は2%
    2017年は3%
    2018年は3.5%
受入
Sales tax

 現状 一般税率23%
       軽減税率13%,  6.5%
           (電気料金は13%)

  ギリシャ危機前の税率
             一般税率19%
      軽減税率 9%,  4.5%
GDPの1%分増税

ホテル、レストラン等の税率引き上げ

電気料金の23%への引き上げも

(本年10月実施)
ホテル 6.5%→13%
レストラン等 13%→23%

軽減税率13%:食料品、エネルギー、水(電気料金は据置き)
軽減税率 6.5%:医薬品、書籍、劇場

離島向け軽減税率廃止
(現在は通常税率から30%軽減)
遠隔地以外は廃止

先ず最も人気のある島(Mykonos、Santorini、Rhodes、Kos)から実施
他は2016年末までに実施

防衛費 4億ユーロ削減 2015年に1億ユーロ削減、
2016年に2億ユーロ削減
法人税率 ギリシャ政府の当初案は厳しすぎる。
企業へのしわ寄せは望ましくない。
 
当初案 26%→29%
               +大企業に一度だけの12%課税

修正 26%→28%

農家の優遇税制と燃料補助を廃止
造船業は従量税率引き上げ、優遇税制の順次撤廃
長さ5メートル以上のレジャー船に贅沢税を賦課
贅沢税率 10%→13%
年金 GDPの1%(約18億ユーロ)削減 2015年にGDPの0.25〜0.5%の節減
2016年以降は1%節減
支給開始年齢引き上げ前倒し 早期支給を廃止する方向

2022年までに支給年齢67歳を基準に
(困難な仕事、障碍児を育てる母親は除く )
民間セクター改革   2019年までに賃金の下方修正、技能・業績・責任を重視
有給休暇や旅費補助などはEU基準にあわせ簡素化
公共セクターの従業員を必要な場所に移せるように調整
月末までに不正防止策
政党の資金の透明化
経済犯罪調査への政治介入を防止
徴税 徴税制度の改革
 
独立したtax revenue agencyの設置
徴税、脱税摘発、燃料密輸の体制整備
金融   破産法改正でローンを返済させる
不良債権処理のためにコンサルタント起用
外人投資家にギリシャの銀行に投資させる手段をとる。
市場   規制緩和で事業開始を容易にする。
天然ガス市場の改革
民営化 民営化推進 電線網、地方空港、港湾の民営化
Pireaus港、Thessaloniki 港の売却を含む

ーーー

ギリシャ人たちが危機に陥っているのは、彼らが怠け者で借金を踏み倒す連中だからだ、というのは正しいか?

Wall Street Journal のオピニオン欄 「ギリシャ危機、金融メディアが語らない10のこと」は、全く正しくないとしている。
  
http://jp.wsj.com/articles/SB10468926462754674708104581085121389238598

1. ギリシャ人は既に要請されている以上に緊縮している。

2. 本当の問題はトロイカの薬が効かなかったということだ。

3. 引用される「専門家」の発言は、皆バイアスがかかっている。

4. (返済を停止したり、ユーロから離脱したりすれば、経済的な災厄に直面するとの主張があるが)
  ギリシャは既に破局している。

5. 国というものは、財政緊縮でマネーを「創出」できない。

6. 本当は、ギリシャのドラクマ再導入は極めて容易だ。

7. 本当は、ユーロ無しでもギリシャはやっていける。

8. ギリシャだけがこの危機の原因だったのではない。非は「ユーロ」構想

9. パニックになるな。今回のギリシャ危機は他の世界にとって大きな問題にならないはずだ。

10. トロイカの提案する「治療薬」は無意味だ。
 

作家 三橋貴明のブログでも下記のように述べている。

ギリシャ人の労働時間は、OECD諸国の中では最長です。ドイツ人はもちろんのこと、日本人よりも多いのです。

そして、2014年のギリシャ政府はプライマリーバランス(基礎的財政収支)が黒字化していました。

さらに、パパンドレウ政権までのギリシャの公務員数が妙に多かったのは確かですが、今は激減し、主要先進国の中では「日本に次いで」少なくなっています。


2015/7/14 ユーロ圏首脳会議、ギリシャ金融支援で合意  

ユーロ圏首脳会議は7月13日午前、約17時間にわたる協議を終え、ギリシャへの金融支援を行うことで大筋合意した。

ギリシャは当初、譲歩を渋ったものの、最も強硬なドイツの主張をほぼ全面的に受け入れ、ギリシャのユーロ圏からの離脱は、ひとまず回避された。

ドイツは、信頼性のある改革案がなければ、ギリシャはEUには残留した上で、少なくとも5年間ユーロ圏から離脱し、人道援助などを受けながら債務を整理すべきだとの案を出していた。 ドイツはこれを合意文書に入れようとしたが、さすがに各国が反対した。

EUはギリシャ議会での法制化を待って、7月15日にユーロ圏財務相会合を開催して改革の実行を確認し、各国議会での承認を経て、正式に支援策の交渉を開始する。
債務削減に反対するドイツの主張により、 債務元本は削減せずとしており、債務返済期間の延長などを検討する。 

最初の関門となるのがギリシャ議会で、今回の改革案は、Pual Krugmanが「気違いじみている。国の主権を完全に破壊するもの」とするほど厳しいもので、しかも実質2日間で可決せよというもの。否決されれば、EUとの合意は白紙に戻る。

第3次ギリシャ支援に向けた合意事項の要旨は以下の通り。

◎ギリシャは2016年3月以降もIMF支援を要請。

◎ギリシャは7月15日までに以下の施策を議会で可決する。

 ― 付加価値税率の簡素化
 ― 広範な課税
 ― 年金削減
 ― 国家統計局の独立

◎ギリシャは7月22日までに民事司法改革やEUの銀行破綻ルール実施を可決。

◎以下の改革について明確な日程を設定。
   
     ― 大胆な年金改革
     ― 製品市場の改革
     ― 送電網の民営化
     ― 団体交渉、ストライキ、集団解雇などの見直し
     ― 不良資産への対応や政治的介入の阻止など金融セクターの強化

◎以下の措置を講じる。

    ― 民営化や資産移管による独立基金で500億ユーロを設定。このうち3分の2は、銀行の資本増強や債務削減に充当。
    ― 行政コスト削減と政治的な影響力を抑制。7月20日までに最初の提案。
    ― 主要法案を議会などに提示する前に債権団の承認を得る

これらの措置へのコミットメントは、協議開始への最低条件であるとしている。

◎必要資金は820億―860億ユーロ。
      7月20日までに70億ユーロ、
      8月半ばまでにさらに50億ユーロが必要で、早急な決定が必要。

◎欧州安定メカニズム(ESM)の新プログラムには100億―250億ユーロの銀行対策を含む。

◎債務の再構築(reprofiling)は可能だが元本は削減せず。

ーーー

会見したドイツのメルケル首相は、今後3年間の金融支援の規模が約820億ユーロから860億ユーロになると説明。資本規制の導入などで経営が悪化しているギリシャ銀行への資本注入も進める。空港など約500億ユーロ相当の国有資産を外部ファンドを通じて売却・民営化し、債務返済に充てる。ファンドはギリシャに拠点を置く。

メルケル首相は「ギリシャは信頼を回復しなければならない」と発言。ギリシャ議会が年金や増税などの一連の財政改革を15日までに法制化できるかを見極めて、支援再開する姿勢を強調した。

ドイツは、ドイツ案が途上国の債務再編を行うパリクラブ(主要債権国会議)とギリシャの交渉が巨額債務を再編する「唯一の道」と強調、ギリシャを途上国扱いした。

7月12日夜に、バルセロナの物理学教師を名乗るSandro Maccarrone という男性がツイッターで
「ユーログループの提案はギリシャ国民に対する隠れたクーデターだ。#ThisIsACoup」
とつぶやいたのが始まりで、それから数時間で、#ThisIsACoupのハッシュタグが付いた投稿は約20万回にのぼった。

特に非難の対象となったのが、500億ユーロの国の資産をギリシャの政治家の手の及ばない独立した信託会社に移し、その売却資金を直接、借入金返済に充てるという条件 である。

ドイツは1990年の東西統一後にこの手法を使い、旧東独の国営企業資産を売却した。

ノーベル経済学賞受賞者のPual KrugmanもNew York Timesのブログで、次の通り述べた。

ユーログループの要求は気違いじみている。話題のツイッター #ThisIsACoup は全く正しい。厳しいを通り越し、執念深く、国の主権を完全に破壊するもので、救いがない。ギリシャが受け入れられないもので、欧州がよって立つ全てをグロテスクに裏切るものだ。

イタリアやフランスがなんとかしようとしているが、既にダメージが出ている。今後、誰がドイツの善意を信用するだろうか?

この数週間で分かったことは、ユーロ圏のメンバーであることは、一歩踏み外せば債権者が国の経済を破壊するということだ。

私が賞賛し支持してきた欧州のプロジェクトは、恐ろしく、多分 致命的な打撃を受けた。ギリシャについてどう考えているかに係わらず、やったのはギリシャではない。

Thomas Piketty や Jeffrey SachsなどギリシャへのEUの財政緊縮政策に批判的な経済学者ら5人も、メルケル首相にギリシャの債務減免を求める公開書簡を出している。

2015/7/9    メルケル首相への公開書簡

イタリアのレンツィ首相は、ギリシャ金融支援協議で強硬姿勢を崩さないドイツに関し「イタリアはギリシャのユーロ圏離脱を望まない。ドイツにはこう言いたい。もうたくさんだ」と述べたと報じられている。

フランス人 Emmanuel Toddのインタビュー集「ドイツ帝国が世界を破滅させる」がベストセラーとなっている。

冷戦終結と欧州統合が生み出した「ドイツ帝国」。EUとユーロは欧州諸国民を閉じ込め、ドイツが一人勝ちするシステムと化している。ウクライナ問題で緊張を高めているのもロシアではなくドイツだ。かつての悪夢が再び甦るのか?

共通通貨ユーロの導入で実質的に通貨安の恩恵を受けて輸出増で一人勝ちし、低コストの東欧を下請けにすることで支配した。逆にユーロ導入で通貨の切り下げが出来ず、経済が立ち行かなくなったギリシャや南欧諸国(ユーロの制度の欠陥の犠牲者である)を政治的に支配しようとしている。「ドイツ帝国」 の復活である。

安井至先生の「市民のための環境学ガイド」 (2015/7/15) も「ギリシャの今後を考えるために」として、この本を取り上げ、「ドイツ帝国」は力で支配する権威主義的な文化を強めるだろうと思うね、としている。

http://www.yasuienv.net/GreeceEU.htm

 

付記

ギリシャの円建て国債「サムライ債」のうち7月14日に償還期限が来た約117億円は全額返済された。

しかし、7月13日が期限のIMFからの借入金 4.5億ユーロは返済されなかった。


2015/7/15    ギリシャへの中国、ロシアの接近    

中国とロシアは今回のギリシャ支援の合意を歓迎しているが、いずれもギリシャに接近している。

 

ギリシャのチプラス首相は4月と6月に訪露してプーチン露大統領と会談し、ウクライナ危機での米欧の制裁を「経済戦争」と呼んでロシア寄りの姿勢を見せた。

プーチン大統領は6月19日、ギリシャとの間で、ロシアからの天然ガスパイプラインTurkish Stream をトルコを経由してギリシャにつなげる計画に基本合意した。
ギリシャの農産品の輸入についても話し合われた。ロシアはEUの制裁に対抗し、EUからの農産品の輸入を禁止しているが、ギリシャの例外扱いを検討している。

ロシアのエネルギー相は7月12日、ギリシャ経済てこ入れのため、ロシアはギリシャに燃料を直接供給することを検討中だと語った。
「ロシアはエネルギー部門での協力拡大を通じてギリシャ経済の再生を支援するつもりだ。このため、われわれはギリシャへのエネルギー資源の直接供給の可能性を検討している。直接供給は近く始まる」と述べた。

 

Turkish Stream の概要は下記の通り。

ロシアは2014年12月1日、ウクライナを迂回してロシアから欧州南部に天然ガスを輸送するパイプライン South Stream の敷設計画を撤回した。

EUの反対でブルガリアの許可が得られないためとし、「EUの立場は非建設的であり、そのためロシアは他の地域にエネルギー輸送先を切り替え、またはLNGに軸足を置き替える」と語った。

2014/12/4   ロシア、South Stream 計画を取り止め

ロシアはその後、新ガスパイプライン Turkish Stream 構想を打ち出し、本年初めにルートが確定した。

South Stream と同様に4本のラインが敷設される予定で、海底部分のうち660kmはSouth Stream用に予定されていたルート、その他に 250kmがトルコ向けの新ルートとなる。
黒海南西部沿岸の都市キイキョイから陸上に入り、ギリシア国境のイプサラまでの180kmが敷設される。

年間輸送能力は630億m3で、うちトルコが140億m3 を引き取る。
第1ラインの完工は2016年12月を予定しており、全てトルコに供給される。トルコ向け天然ガス価格は 6%値引きする。

South Streamとの大きな違いは、パイプラインのEU内の部分でGazpromがその建設や操業に関与しないことである。EUの干渉に嫌気がさしたと思われる。

今後の計画も含め、欧州の天然ガス輸入の南部ラインはすべてトルコを経由することとなる。

付記

2015年11月にトルコ軍によるロシア軍機撃墜事件があり、両国の関係が悪化し、本件も棚上げされた。

2016年7月15日のトルコのクーデター未遂事件で、政権は反対派を一掃、事件の首謀とする宗教指導者で滞米のギュレン師の引渡しを求め、米国との関係が悪化した。
同時にロシアとの関係回復を図った。

2016年10月10日、ロシアとトルコは 「トルコストリーム」建設の政府間協定を締結した。
建設の合意の一環としてガス価格の値引きで合意した。
ロシアは撃墜事件後に発動したトルコ産農産品への禁輸措置解除も表明した。

ーーー

ギリシャの生産再建・環境・エネルギー相は5月29日、ギリシャがBRICS開発銀行への参加を検討していると発言した。
ロシアもギリシャの意向を関知しているとしている。

5カ国は7月7日、モスクワでBRICS開発銀行の第1回総会を開いたが、ギリシャ問題は取り扱われていない。

初代総裁にはインドの民間銀行元会長 K.V. Kamath が就任した。
当初の資本金は500億ドルで5カ国が均等出資する。将来は1千億ドル規模へ拡大する。
年内にも業務を開始する。

ーーー

中国の李克強首相は6月29日、ブリュッセルでEU首脳との会談後の記者会見で質問に対し、「中国はこれまでも、ギリシャが危機を抜け出すための要求に応えてきた。問題解決に建設的な役割を果たしたい」と述べた。

「シルクロード経済ベルト」と「21世紀の海のシルクロード」計画 (一帯一路構想)を進める中国にとっては、ギリシャは欧州への入り口として重要である。

今回のギリシャの財政改革案に含まれる民営化のうち、アテネ郊外のPireaus港については中国遠洋運輸公司(COSCO) への売却が有力である。

ギリシャ政府は2008年にCOSCO との間で、ピレウス港の2号・3号コンテナ埠頭の35年間リース契約を締結し、2010年にCOSCOは正式運営を始めた。
COSCOは本年に入り、3号埠頭の拡張工事に着手している。

中国製の製品などをピレウス港に運び、そこから鉄道で中欧や東欧各国に輸送する。

2012年11月には、COSCOとHewlett-Packard とギリシャ国営鉄道会社Torainose が製品輸送契約を締結した。

アジア諸国の工場で生産されたHewlett-Packard の製品をPireas港で陸揚げし、新設の17kmの貨物線で貨物ターミナル駅まで運び、そこからマケドニア、セルビア、ハンガリー、オーストリア、チェコなど東欧や中欧の各地に輸送する。

本年2月には中国の軍艦が寄港した。

ギリシャ政府はピレウス港の権益67%を売却する計画で、COSCO等が名乗りを挙げている。 売却額は5億ユーロ規模とされる。
(当初、本年初めの入札を予定したが、就任したチプラス首相が選挙の公約通り、国有資産売却を見送った。今回、売却を決めた。)

 


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