ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから 目
ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから
目次
これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
最新分は http://blog.knak.jp
2016/7/16 パナソニックの欧州ブラウン管カルテルの制裁金確定
パナソニックは欧州ブラウン管事業でのカルテル制裁金に関する欧州普通裁判所の判決について欧州司法裁判所に上告していたが、7月8日、これを却下する決定の通知を受けた。
これにより、パナソニックの制裁金128,866千ユーロ(約143億円)が確定した。既に引当金を計上しており、2017年3月期連結決算への影響はない。
子会社MT映像ディスプレイ(及びその前身の松下東芝映像ディスプレイ)については上告せず、同社負担分(62,747千ユーロ)は納付済み。
パナソニックとMT映像ディスプレイはブラウン管事業から撤退している。
ーーー
EUは2012年12月5日、テレビやコンピューターモニター用のブラウン管(CRT)について、1996年から2006年までの10年にわたり価格カルテルを結んだとして、パナソニックや東芝を含む6社に対し、過去最高となる総額14億7000万ユーロの制裁金を科した。
2012/12/6 EU、ブラウン管カルテルに制裁金
これに対し、中華映管とTechnicolor を除く各社が欧州一般裁判所に訴えた。
欧州一般裁判所は2015年9月9日、Samsung、Philips、LGについては制裁金を据置き、日本勢については減額(東芝単独はゼロ)の判決を下した。
東芝はテレビ向けのブラウン管についてのカルテルに加わっていたかどうかについて証明できていないとした。
パナソニックは子会社分についてはこれを受け入れたが、単独分については、事実認定や法令適用に疑義あるとして、欧州司法裁判所に上告した。
今回、欧州司法裁判所がこれを却下し、確定した。
|
減免率 |
制裁金(千ユーロ) |
欧州一般裁
2015/9/9 |
欧州司法裁
2016/7/8 |
TV用 |
モニター用 |
合計 |
台湾・中華映管(Chunghwa) |
100% |
0
(8,385) |
0
(8,594) |
0
(16,979) |
|
|
Samsung SDI |
40% |
81,424 |
69,418 |
150,842 |
→ 150,842 |
|
Philips |
30% |
240,171 |
73,185 |
313,356 |
→ 313,356 |
|
LG Electronics |
0% |
179,061 |
116,536 |
295,597 |
→ 295,597 |
|
Philips/LG
Electronics |
Philips分30% |
322,892 |
69,048 |
391,940 |
→ 391,940 |
|
フランス Technicolor
|
10% |
38,631 |
- |
38,631 |
|
|
パナソニック |
0% |
157,478 |
- |
157,478 |
128,866 |
→ 128,866 |
東芝 |
0% |
28,048 |
- |
28,048 |
0 |
|
パナソニック/東芝/松下東芝映像ディスプレイ |
0% |
86,738 |
- |
86,738 |
82,826 |
|
パナソニック/MT映像ディスプレイ |
0% |
7,885 |
- |
7,885 |
7,530 |
|
合計 |
|
1,142,328 |
328,187 |
1,470,515 |
|
|
松下電器産業と東芝はブラウン管事業を統合、2003年4月に松下東芝映像ディスプレイを設立、
2006年にドイツとアメリカの子会社での生産を停止し、清算。
2007年に松下が東芝持株(35.5%)を買い取り、完全子会社化し、MT映像ディスプレイに改称。
パナソニックは子会社分については負担分を62,747千ユーロとしている。
計算上は、松下東芝映像ディスプレイ分の2/3と、MT映像ディスプレイ分の全額の合計となる。
ーーー
公取委は2009年10月7日、MT映像ディスプレイと韓国、台湾、タイのテレビ用ブラウン管の製造販売業者らに排除措置命令及び課徴金納付命令を出したと発表した。
日本のブラウン管テレビ製造販売業者の現地製造子会社等が購入するテレビ用ブラウン管について、最低目標価格等を設定する旨を合意することにより、公共の利益に反して、特定ブラウン管の販売分野における競争を実質的に制限していた。
公取委が国際カルテルで海外企業に課徴金納付を命じたのは初めて。
2009/10/9 公取委、外国事業者に排除措置命令と課徴金納付命令
MT映像ディスプレイ自体も、Samsung
SDIなどとともに排除措置命令を受けたが、両社については、排除措置命令時において既に当該行為がなくなっていると認められ、取り消された。
MT映像ディスプレイと海外子会社3社による価格カルテルに関する審決取消請求事件について、東京高裁は2016年4月13日、原告の請求を棄却した。
2016/4/23 日本企業の海外子会社による他の日本企業の海外子会社向けの価格カルテルで有罪
2016/7/16
デンソー、米国の自動車部品カルテルの集団民事訴訟で和解
デンソーは7月15日、米国において自動車ディーラー原告と最終購入者原告より提起されていた集団民事訴訟で和解に合意したと発表した。
自動車部品に関する米国独禁法違反により損害を被ったとして、2011年10月以降、集団民事訴訟を提起されていた。
この訴訟は複数裁判地訴訟としてミシガン州東部連邦地裁において手続が併合審理されていたが、この度、和解合意に至った。
和解金は下記の通り。
自動車ディーラー |
61.2百万ドル(約 64億円) |
最終購入者 |
193.8百万ドル(約204億円) |
合計 |
255.0百万ドル(約268億円) |
ーーー
米司法省は2012年1月30日、矢崎総業とデンソーが米国での自動車部品カルテルで有罪を認め、548百万ドルの罰金を支払うことで合意したと発表した。
矢崎総業はワイヤーハーネス、インパネクラスター、ヒューエルセンサーの3件で、罰金は470百万ドル。
デンソーは電子制御ユニット(ECU)とヒーター操作パネル(HCP)の2件で、罰金は78百万ドル。
2012/2/1 矢崎総業とデンソー、自動車用ワイヤーハーネス等のカルテル問題で米司法省と司法取引
デンソーは、罰金は78百万ドルで済んだが、カルテル行為に関わった社員が6名、1年以上(最高16ヶ月)の禁固刑と各2万ドルの罰金刑を受けている。
自動車部品カルテル罰金等一覧表 参照
今回、政府への罰金に加え、これをはるかに上回る和解金を払うこととなる。
2016/7/16 大飯原発の基準地震動問題
規制委の前委員長代理の島崎邦彦・東京大名誉教授が6月に規制委の田中俊一委員長らと面会し、基準地震動の算定に使う計算式に問題があるとして、特に影響の大きい大飯原発で再計算するよう求めた。
算定に使われた「入倉・三宅式」(入倉孝次郎京都大名誉教授らが提唱し、震源の断層面積から地震規模を算出するもの)で、大飯原発の震源など地表に対して垂直に近い断層に適用すると、地震規模が他の計算式に比べて四分の一程度に過小評価されるという。
これを受け、原子力規制委員会は6月20日、関西電力大飯原発の基準地震動を他の手法で再計算することを決めた。
2016/6/21 大飯原発 基準地震動再計算へ
今回、揺れの大きさを断層の長さから求める「武村式」を使って再計算した結果、現在の基準地震動の856ガルに対し、再計算では644ガルだった。
規制委員会は7月13日、関電の想定を下回ったため、基準地震動の見直しは必要ないとの見解をとりまとめた。
これを受け、他原発では再計算しない
としている。
ーーー
しかし、島崎邦彦・東大名誉教授(地震学)は7月14日、「結論には納得できない」として再々計算を求める抗議文を送った。
問題点は下記の通り。
1)
規制委の計算では、入倉・三宅式で計算した結果が356ガルで、関電の596ガルと比べ、約6割となっている。
島崎氏は「関電と同様の設定で計算すべきなのに、されておらず、関電の計算結果に比べて約6割と過小評価になった。補正すべきだ」とする。
規制委の計算の武村式についても、同様に、低く出ていると見ている。
2)基準地震動の策定は、基本パターンといわれる地震動を作ったあと、これに「不確かさの考慮」を上乗せ補正する。
大飯原発の審査では、過去に、別の原発で想定を大幅に上回る周期の短い地震の揺れが観測された実例を踏まえて補正をしている。
入倉・三宅式 596ガル→
補正後 856ガル
今回はなぜか、この補正をせず、入倉・三宅式、武村式の結果だけを示している。
島崎氏は、1)と2)の補正をすれば、推定で1550ガルになるという。
3)東電・福島第1原発事故後の安全評価(ストレステスト)で、関電は、炉心冷却が確保できなくなる下限値を
1260ガルとしている。
島崎氏の推定の1550ガルはこれを上回る。
2014年5月21日の福井地裁での再稼動を認めない判決では以下の通り述べている。
1260ガルを超える地震によってこのシステムは崩壊し、非常用設備ないし予備的手段による補完もほぼ不可能となり、メルトダウンに結びつく。この規模の地震が起きた場合には打つべき有効な手段がほとんどないことは被告において自認しているところである
。
2014/5/30 大飯原発差し止め訴訟判決
4) なお、基準値振動は平均値であって、上限値ではなく、これを上回る可能性はある。
上記判決では、基準地振動そのものの問題について述べている。
全国で20箇所にも満たない原発のうち4つの原発に5回にわたり想定した地振動を超える地震が平成17年以後10年足らずの間に到来しているという事実を重視すべきは当然である。
2005/8/16 |
宮城沖地震 |
女川原発 |
2007/3/25 |
能登半島地震 |
志賀原発 |
2007/7/16 |
新潟県中越沖地震 |
柏崎刈羽原発 |
2011/3/11 |
東北地方太平洋沖地震 |
福島第一原発 |
女川原発 |
規制委員会では7月19日に、田中委員長が改めて島崎元委員と会って話を聞き、指摘に対する対応を検討するとしている。
再計算で「不確かさ」を考慮した評価をしていないことについては
、「今回使った計算式では不確かさをどこまで見込むべきかの評価がされておらず、専門的な判断が必要になる。どういう評価をすべきかは、今後、専門家の中で、やってもらうしかない」と述べた。
そのうえで、「規制委員会は学問的な議論をする場ではないので、一般的専門家の中で検証され新しい知見があれば、積極的に取り入れていく」と述べた。
ーーー
島崎氏は地震学の専門家である。
2016/7/18 再生医療による脱毛症の治療
京セラ、理化学研究所およびオーガンテクノロジーズは7月12日、再生医療分野である「毛包器官再生による脱毛症の治療」に関する共同研究契約を締結し、今後、毛包器官を再生して脱毛症を治療する技術や製品の開発を共同で実施すると発表した。
脱毛症は、男性型脱毛症をはじめ、先天性脱毛や瘢痕 · 熱傷性脱毛、女性の休止期脱毛などが知られ、現在、日本全国で1,800万人以上の患者がいる。
育毛剤や脱毛阻害薬、自家単毛包移植術など、幅広い治療が行われているが、これらの治療技術は全ての症例に有効ではなく、自家単毛包移植術による外科的処置によっても毛包の数を増加させることはできない。
研究チームは2012年、成体マウスのひげや体毛の毛包器官から、バルジ領域に存在する上皮性幹細胞と、間葉性幹細胞(毛乳頭細胞)を分離し、研究チームが開発した「器官原基法」により毛包原基を再生する技術を開発した。
「器官原基法」は、器官原基を再生する三次元的な細胞操作技術で、コラーゲンゲルの中で、上皮性幹細胞と間葉性幹細胞を高密度に区画化して再構成することにより器官原基を再生する。
技術の詳細:
この再生毛包原基を毛のないヌードマウスに移植し、毛幹(毛)を再生できることを実証した。
また色素性幹細胞を組み込むことにより毛髪の色を制御できるほか、再生毛包原基が再生する毛包器官の数を制御することも可能である。
今後、京セラと理研、オーガンテクノロジーズの三者が協力し、ヒトへの臨床応用に向けた共同研究を実施する。
京セラ |
細胞加工機器開発など
(長年培ってきた微細加工技術や生産技術を応用) |
理研、
オーガンテクノロジーズ |
幹細胞培養 · 増幅技術開発、細胞操作技術の開発、製造工程の確立、前臨床試験など |
オーガンテクノロジーズは2008年4月設立。
理研の多細胞システム形成研究センター器官誘導研究チーム(辻孝チームリーダー)と共に、「器官原基法」を世界に先駆けて開発した。
毛包再生医療は、医療機関で少数の毛包を採取し、受託製造会社はその毛包から幹細胞を分離して、培養、増幅し、器官原基法により再生毛包原基を製造、この再生毛包原基をパッケージして医療機関へと搬送し、医療機関で患者に移植治療する。
京セラは、オーガンテクノロジーズと連携してこのビジネスモデルの受託製造会社へと発展することを目指す。
ーーーーーーーーーーーーー
参考 2016/6/18 世界初の新手法を用いた育毛効果を示す薬用商品開発に成功
2016/7/19 LNG Canada 計画、投資決定延期
Shellは7月12日、カナダ西海岸で進める大型のLNG輸出事業(LNG Canada)
の最終的な投資決定の時期を、2016年末から遅らせると発表した。新たな決定時期は未定。2021年としていた生産開始についても後ろ倒しになる可能性がある。
(当初は投資決定を2016年2月としていたが、2016年末まで延ばした。今回、無期限の延期となる。)
「LNG Canada」は、カナダ西部ブリティッシュコロンビア州からLNGを輸出する計画。
三菱商事は2012年5月16日、シェルカナダ、韓国ガス公社(Kogas)、中国石油天然気(PetroChina)とのLNG輸出計画、「LNG
Canada」構想を発表した。
4社でカナダのブリティッシュ・コロンビア州 Kitimat港周辺においてLNG輸出基地を共同開発する。
権益比率 |
|
シェル |
50% |
三菱商事 |
15% |
Kogas |
15% |
PetroChina |
20% |
|
|
|
液化設備 |
|
600万トン/年x2=1,200万トン
将来2,400万トンに拡張可能性 |
生産開始 |
|
2010年代末→2012年 |
投資規模 |
|
120 億C$ |
|
|
最近は400億米ドルともされる。 |
カナダのNational
Energy Board は2013年2月4日、この計画に輸出ライセンスを与えた。
25年間で670百万トンまでの輸出を承認した。
2012/5/17
Shell、三菱商事等の「LNG」
Shellによると、本計画はBritish Columbia州当局やFirst
Nations (Haisla族、Kitimat 族などの先住民)の協力を得て、非常に順調に進んでいる。
しかし、予算の制約を含むグローバルな業界の課題から、最終の投資決定を行うのにもっと時間が必要との結論に達した。いつ最終決定をするかは現時点では言えないとする。
LNG Canada
は魅力的なプロジェクトではあるが、Shellのグローバルな計画のなかで、他のプロジェクトに競合してやっていける必要があるとしている。
LNG Canada のCEO
は、世界の天然ガス価格の下落、特にアジアでの下落により、現時点では本計画は割高となった述べた。石油・ガス価格が回復することが必要としている。
実際に日本のLNGの輸入価格は急激に下落している。
現在輸入しているのは、東南アジアや豪州産のLNGで、これらの購入価格は原油価格スライドとなっている。数年前は原油価格が高騰し、アジアのLNG価格も高値になった。
しかし、2014年夏の原油価格の急落で、東南アジアや豪州産のLNGの価格は大幅に下がった。
2016年6月の輸入LNG通関価格は33.19円/kgで、換算すると5.75$/MMBTU
となる。2013-14年の16$から大幅に下落している。
これに対し、米国ではLNGの原料となる天然ガスの価格は原油価格とは連動せず、天然ガスそのものの需給に応じて市場で決まる。
シェール革命に沸く米国では天然ガスの供給が増え、市場価格が下がった。現在の米国の天然ガスのスポット価格は1.92$である。
これを元に、LNGの輸入価格を試算するとGulf
Coastからは8.21$となり、運賃差を調整するとKitmatからは6.45$となり、実輸入価格より割高となる。
注)いずれも試算。
Gulf Coastの場合、Henry
Hub価格x1.15(口銭15%)+加工費3$+運賃3$
Kitmatの場合は、上記数式で運賃を1.24$とした。
ーーー
今回の投資決定延期の背景にはShell の方針変更もある。
Shell は6月7日、LNG事業から“shift away”
し、LNGへの新投資のペースを遅らせると述べた。
Shellにとって統合ガス事業はこれまでは“growth
priority”であったが、2月にBG Groupの買収が完了し、“critical mass” に達したとしている。
2015/4/13 Shellが英BG
Groupの買収で合意
BGはBritish Columbia州Prince Rupert の近くのRidley
Islandで年産2100万トンのPrince Rupert LNG計画を推進していた。
しかし、2014年10月、ガス価格が弱含みであること、米国からのLNG 輸出が積み上がっていること、コストの上昇等から、LNG
市場が供給過剰となるリスクがあるとみて、プロジェクトを休止した。
BG買収後にShellが発表した計画のなかには、本プロジェクトは含まれていない。
ーーー
LNGの価格問題は、日本企業が参加する他の米国計画も同様である。
東海岸の場合は、パナマ運河を通るため、運賃は、上記の通り、西海岸の倍以上になる。
大阪ガスは220万トンのうち自社で必要なのは1/4程度で、残りは売却先を見つける必要がある。
中部電力(東電とのエネルギー事業JVのJERA) は、欧州のエネルギー商社に最大150万トンを売る契約を結んだ。
東芝はFreeport
LNGの増設分220万トンの契約を締結した。全量について外販先を探す必要がある。
これらは全て Take or Pay
の契約であり、市況が下がっても契約価格での引取りが必要である。
更に、日本の現在のLNG購入契約(原油価格スライドなど)については経産省が是正に向けて動いている。(LNG市場戦略)
またLNGの転売禁止条項について、市場での自由な競争を制限している恐れがあるとして、公取委が予備的な調査を始めたと報じられている。
今後、仮に原油価格が上がったとしても、日本のLNG輸入価格が従来のような高値に戻る保証はない。
2016/7/20 BP、原油流出事故の損害、累計616億ドル
BPは7月14日、2010年のメキシコ湾の海洋掘削プラットフォームDeepwater
Horizonの原油流出事件の損害賠償の処理が進み、残る債務をほぼ確定できるところまできたと発表した。
2016年第2四半期に事業会社や個人に対する支払として約52億ドルを引き当てる。
この結果、累積の損失は616億ドル、税引き後で440億ドルとなる。
ーーー
2015年決算では、累計を555億ドルとしていた。その後、9億ドルの支払があった模様(うち175百万ドルは債権価値下落訴訟の和解)で、今回の52億ドルの引当を加え616億ドルとなる。
本年の支払を全額損害賠償と仮定すると、内訳は下記の通りとなる。(億ドル)
三井石油開発やAnadarko などからの和解金57億ドルを相殺している。
|
〜2015 |
2016 |
合計 |
事故対応費用 |
143 |
|
143 |
環境費用 |
86 |
|
86 |
損害賠償 |
226 |
61 |
287 |
Clear
Water Act 罰金 |
41 |
|
41 |
その他罰金 |
45 |
|
45 |
運営費 |
14 |
|
14 |
合計 |
555 |
61 |
616 |
ーーー
支払の主たるものは下記の通り。
1)米国政府等との民事訴訟の和解
内容 |
金額 |
|
Clean Water Act (CWA)による罰金+金利 |
55億ドル |
80%は RESTORE
Actに基づき湾岸の復興に使用 |
天然資源被害(NRD) |
81億ドル |
うち10億ドルは既に支払約束済みのもの |
7億ドル |
未知の被害に対するもの |
経済的被害、その他被害 |
6億ドル |
|
湾岸5州への支払 |
49億ドル |
|
地方自治体への支払 |
10億ドル |
|
合計 |
208億ドル |
|
2015/10/12
BP、メキシコ湾原油流出事故の民事訴訟で米政府等と和解
2)米国政府の刑事訴訟の和解 45億ドル
1)刑事訴訟
11名死亡に関する11の違法行為とClean Water Act、渡り鳥条約、議会妨害に関する違法行為の合計14件 約40億ドル
2)SEC
罰金525百万ドル
2012/11/17
BP、Deepwater Horizon事故に関する米政府の全ての刑事訴訟で和解
3)損害賠償
BPは原油流出事故の補償コストをカバーする200億ドルの基金Gulf
Coast Claims Facility (GCCF)を創設した。
2012年2月までに個人と企業からの22万件以上のクレームの解決に61億ドルが払われた。
2012年3月3日、New
Orleansでの個人や企業を原告とする訴訟の併合審理手続き(Multi-District
Litigation)で、原告側の運営委員会との間で和解に達したと発表した。
基金からの賠償額に不満を持つ個人や企業が訴訟を起こしたもので、漁業関係者、清掃業者、ホテル、不動産会社など10万以上に及ぶ。弁護士は340人。
一つは経済的損失で、これにはメキシコ湾の海産物業界への経済的損害(補償額
23億ドル)やメキシコ湾岸の観光促進のための宣伝費支援などが含まれる。
もう一つは医療費で、現実の健康被害の補償や、21年間の健康相談、今後の健康被害への対応など。
BPの推定では和解で払われる総額は約78億ドルで、全額が被害補償のための200億ドルの基金(Gulf
Coast Claims Facility)から払われる。
2012/3/5 BP、メキシコ湾岸原油流出事故で漁業関係者などと和解
2015年に既に226億ドルで200億ドルの基金は使い切っており、合計で287億ドルとなる。
4)パートナーからの戻入(罰金、その他から控除)
三井石油開発はBPに対し、10億6500万ドルを支払
った。
2011/5/20 BPと三井石油開発、メキシコ湾原油流出事故損失負担で和解
Anadarko
はClean
Water Actによる民事訴訟を除く全てについてBPが肩代わりすることで、BPに40億ドルを支払った。
その他、掘削機器の部品を供給したWeatherford
U.S.が75百万ドル、Blowout
preventerの設計・製造をおこなったCameron International が250百万ドルを払った。
2011/10/19
BP、メキシコ湾原油流出事故でAnadarko Petroleum と和解
損害額合計は、以上の差引合計に、事故処理費用や運営費用を加えたもの。
2016/7/20 大飯原発の基準地震動問題 その後
大飯原発で想定される地震の揺れが、過小評価のおそれがあると指摘した原子力規制委員会の島崎元委員と、田中俊一委員長らが7月19日面談した。
元委員が規制委員会の再計算で過小評価が裏付けられたと述べたのに対し、田中委員長は再計算に用いた武村式は評価手法として確立していないとし、見直す考えがないとした。
武村式は、「不確かさ」の考慮をどこまですればよいかなど、原発の揺れを計算する手法としては確立されていない。
「武村式は実績がなく、今すぐに取り入れるのは難しい。今回の計算は、木に竹を接いだようなもの」(石渡明委員)
武村式によって行った再計算については、再計算自体に無理があったとし、「元委員の指摘だからといって、やってはいけない計算を職員にやらせてしまった」と述べた。
そのうえで、「まずは専門家できちんと議論し、標準となるものを出していただきたい」と述べた。
付記
規制庁担当者は同じ会見で、規制庁が二つの計算方法で出した結果については相対的に比較できるとの見解を示し、判断が分かれた。
付記
原子力規制委員会は7月27日の定例会で、見直さないことを決めた。
武村式について改めて検討し、「規制において推奨すべきアプローチと位置づけるまでの科学的・技術的な熟度には至っていない」と判断した。
付記
2017年2月22日、大飯3、4号機が新規制基準に適合しているとする審査書案をまとめた。4月にも正式決定する。
福井地裁が運転差し止めを認めた裁判の2審名古屋高裁は4月にも島崎氏を証人喚問する予定。
問題点は下記の通り。
2016/7/16 大飯原発の基準地震動問題
入倉・三宅式 596ガル→「不確かさの考慮」を上乗せ補正→補正後
856ガル
なお、関電によると、炉心冷却が確保できなくなる下限値は
1260ガル
ーーー
島崎元委員
「入倉・三宅式」では、地表に対して垂直に近い断層に適用すると、地震規模が他の計算式に比べて四分の一程度に過小評価される。
他の手法による再計算を要請
規制委
「武村式」を使って再計算
現在の基準地震動の856ガル、武村式では644ガル→基準地震動の見直しは不要
島崎元委員
規制庁の計算に誤り
@ 基準地振動の計算のパラメーターの設定に違い
現行の入倉・三宅式 596ガル
再計算の入倉・三宅式 356ガル
武村式 644ガル
A 現行 入倉・三宅式の結果(596ガル)に「不確かさの考慮」を上乗せ補正(→856ガル)
再計算では補正なし
島崎元委員の試算では、1550ガル
「高い精度の推定ではないが、現在の基準地震動が過小評価されているのは間違いない」。
ーーー
原子力規制委員会は7月13日、武村式による再計算の結果、最大の揺れは644ガルで、審査で了承した856ガルを下回ったとし、「揺れの大きさを見直す必要はない」と結論づけた。
しかし、この計算がおかしいと指摘されると、今度は、武村式は確立されたものではないとし、再計算について、「やってはいけない計算を職員にやらせてしまった」としている。
「入倉・三宅式」では、地表に対して垂直に近い断層に適用すると、地震規模が他の計算式に比べて四分の一程度に過小評価されるとの意見を入れて再計算をしながら、「入倉・三宅式」しかないとする。
島崎元委員の試算では1550ガルにもなり、炉心冷却が確保できなくなる下限値の1260ガルを上回る。
(既報の通り、基準値振動は平均値であって、上限値ではなく、これを上回る可能性はある。)
しかも、島崎氏の退任後、規制委員会には地震の専門家がいないという。
(現在の地震担当の石渡明委員は地質学が専門)
今回のドタバタで規制委員会の審査に対する信頼性がゆらぐ恐れがあるし、今後の裁判にも影響を与えるとみられる。
実際に事故が起これば、また「想定外」というのだろうか。
2016/7/20 エチレンセンター10社の収益状況(2015年度)
経済産業省は7月20日、2015年度のエチレンセンター10社の収益状況を発表した。
エチレンセンター10社の石油化学部門の売上高は原油やナフサ価格の下落に伴い、石油化学製品の販売価格が低下したことにより、3兆9,462億円と前年同期に比べ19.7%の減少となった。
経常利益については、市況が堅調に推移したことや交易条件の改善により、1,868億円と、前年同期に比べ約8.8倍の大幅な増加となった。
石油化学部門の損益の推移は以下の通り。(億円)
年度 |
経常損益 |
営業損益 |
単独 |
単独 |
連結 |
2000 |
913 |
- |
1,338 |
01 |
75 |
211 |
643 |
02 |
431 |
613 |
1,236 |
03 |
654 |
709 |
1,380 |
04 |
2,132 |
2,156 |
3,338 |
05 |
1,753 |
1,770 |
2,946 |
06 |
2,725 |
2,455 |
3,856 |
07 |
2,108 |
1,900 |
2,973 |
08 |
-1,825 |
-2,016 |
-2,034 |
09 |
-94 |
3 |
338 |
10 |
749 |
689 |
1,768 |
11 |
1,002 |
705 |
1,994 |
12 |
679 |
460 |
839 |
13 |
1,548 |
1,443 |
2,112 |
14 |
213 |
221 |
1,716 |
15 |
1,868 |
2,022 |
4,266 |
集計対象は下記の通り。大阪石油化学は三井化学子会社のため、実質10社である。
単独ベース |
連結ベース |
対象部門(いずれも) |
旭化成 |
旭化成 |
ケミカル・繊維部門 |
出光興産 |
出光興産 |
石油化学製品部門 |
昭和電工 |
昭和電工 |
石油化学部門 |
JXエネルギー |
JXエネルギー |
石油化学部門 |
住友化学 |
住友化学 |
石油化学部門、エネルギー・機能材料部門 |
東ソー |
東ソー |
石油化学部門 |
東燃化学 |
東燃ゼネラル石油 |
石油化学事業部門 |
丸善石油化学 |
丸善石油化学 |
(全社) |
三井化学 |
三井化学 |
石化部門、基礎化学品部門、機能樹脂部門 |
大阪石油化学 |
三菱化学 |
三菱ケミカルHD |
ケミカル部門、ポリマーズ部門 |
連結ベースは、国内及び海外の連結対象会社の変更等があるので、前年度と単純な比較は出来ない。
なお、エチレンセンターの石化部門の経常損益の1984年からの推移は下記の通り。
2016/7/21 世界の石油化学製品の需給動向 (2016)
METIは7月8日、例年の「世界の石油化学製品の需給動向」を発表した。
世界の石油化学製品の今後の需給動向(PDF形式)
まず、世界の石油化学産業に大きな影響を与える中国の石炭化学と、米国のシェール革命の影響について、下記の通り説明している。
1.中国の石炭化学の動向
(1)石炭化学プロジェクトは、公表済の50近い計画(エチレン換算で約1.7千万トン)のうち、稼働済みのものも含め、2017年末までに18プロジェクト(同585万トン)が実行される見込み。しかし、原油安等の影響により、全体的に稼働予定時期に1年程度の遅れが見られ、2018年以降、どの程度実行されるかは不透明
。
(2)エチレンの生産能力は、ナフサクラッカーも含めた新増設計画の進展に伴い、2.1千万トン(2014年)から3.1千万トン(2020年)まで増加する見込み
。
(3)プロピレンについては、PDHの新規プロジェクトが増加し、MTPも合わせたプロピレンの生産能力は2.4千万トン(2014年)から3.7千万トン(2020年)まで増加する見込み
。
2.米国のシェール革命の影響
(1)シェール由来の新増設エチレンプロジェクトは、原油価格の値下がりによる優位性の低下や建設コストの上昇等の影響を受けるものの、ナフサに対する絶対的な価格競争力は変わらない
。
(2)昨年の調査では、エチレンプラントの稼働開始時期に遅れが見られたが、今回調査では全体として稼働が早まる方向となっており、2017年、
2018年をピークに1千万トンを超える能力増強が引き続き見込まれる。その結果、エチレンの生産能力は2.7千万トン(2014年)から3.4千万トン(2020年)まで増加する見込み
。
概要は以下の通り。
1.世界のエチレン系誘導品
1)生産能力
北米のシェールや中国の石炭化学によるプラントの生産能力の増加が主な要因となり、エチレンを含む世界のエチレン系誘導品の生産能力は増加する見通しである。
しかし、北米では新増設計画が建設コストの上昇を招いていることに加えて、原油価格の下落がナフサに対するエタンの優位性を低下させ、それらがプラントの稼働開始時期を遅らせる動きにつながっている。
世界のエチレン系誘導品の生産能力(エチレン換算)は、2014 年末時点で164.2百万トンであった。
現時点の予想では、2020 年末の生産能力は198.5 百万トン(2014 年比で34.3 百万トン増)で、年平均3.2%で増加する見通し。
日本の存在感は薄い。
2) 需要
2014
年の世界のエチレン系誘導品需要実績(エチレン換算)は、原油や石油製品の価格が大きく変動している状況の中で、前年比2.6%増と堅調に推移し、131.4
百万トンとなった。
2020 年末の世界全体の需要量合計は162.5百万トン(2014 年比で31.2 百万トン増)、2014 年〜2020
年の需要の伸びは年平均3.6%となる見通し。
2.世界のプロピレン系誘導品
1) 生産能力
世界のプロピレン系誘導品の生産能力(プロピレン換算)は、2014 年初時点で112.6 百万トン。
2020 年末の生産能力は138.8 百万トンで、年平均3.5%で増加する見通し。
中東や北米のエタンクラッカーからはプロピレンはほとんど生産されないため、石炭化学やプロパン脱水素法(PDH)によりプロピレンの生産を進める中国の占める割合が大きくなり、アジアが全世界の半分以上を占める。
2)需要
世界の需要(プロピレン換算)は、2014 年の88.8 百万トンから2020 年には114.1
百万トンに増加し、年平均伸び率は4.3%と見込まれる。
3.主要製品の需給 (総能力、総生産と地域別需要)
製品別の、能力・需要・生産の地域別推移と、各国・地域ごとの能力・需要・生産の推移を下記のサイトでグラフ化した。
http://www.knak.jp/METI-world/meti-2016/index.html
2016/7/22 LG Chem、NASAに宇宙服用電池を供給
LG Chemは7月17日、NASA
の宇宙服用のリチウムイオン二次電池の供給メーカーに選定されたと発表した。
電池は新規に開発された製品で、今年下半期から納入する。
宇宙服に電源を供給する用途として使われる。宇宙服には宇宙飛行士の命を保つために酸素供給装備や通信装備、放射能測定器など、多様な機能が搭載されており、「LG Chemのバッテリーが、このような最先端装備の心臓のような役割を果たすことになるだろう」としている。
NASAはこれまで、宇宙探査用宇宙服に日本企業が供給する銀亜鉛バッテリーを搭載してきたが、緊急時も含め必要に応じ船外活動時間を延長する必要があることを考慮し、より軽量かつ容量の大きな電力が必要とし、リチウムイオンバッテリーに交替することを検討してきた。
銀亜鉛バッテリーは26.6A/H、重量4.3kgで、6〜8時間程度の船外活動が可能な容量となっている。
これに対し、リチウムイオンバッテリーは寿命は約5倍長く、価格は低い。
NASAは宇宙飛行状況でバッテリーの熱による爆発が起きる場合には深刻な事故につながりかねないという点を考慮し、厳格なバッテリー安全性テストを進めた。
宇宙という極限の環境が対象であるだけに、なんらかの原因による内容物が漏れることによる装着者及び宇宙服へ影響を及ぼさないようにする必要もある。
NASAは主要バッテリーメーカーらのサンプルを対象に、独自に開発した安全性能診断装置(Internal
Short-Circuit Stability Test
Device)を通じてバッテリー安全性テストを行った。
LG ChemはNASAが要求する厳格な条件のバッテリー性能の実現のため、独自に開発したSRS®(安全性強化分離膜)技術などを適用、日本や韓国の競合会社を押さえて1位を占め、バッテリー供給企業に選ばれた。
SRS®
( Safety Reinforced Separator)
はセパレータの基材をセラミックでコーティングすることにより、セパレータの耐温度性能や機械強度を強化するもので、リチウムイオン電池内部でのショート発生のリスクを大きく低減することができる。
LG
Chemは「LG
Chemのバッテリー技術力を世界市場で改めて立証した。NASAとパートナーシップを強化して多様な航空・宇宙機器にバッテリーを適用する」としている。
ーーー
今回の契約締結により
LG Chemは陸・海・空に続き宇宙市場にまで事業範囲を広げた。
陸:
LG
Chemは現代・起亜自動車をはじめ、GM、Ford、Renault、Volvo、Audi、上海汽車、長城汽車、第一汽車、奇瑞汽車など電気自動車メーカー20社ほどを顧客に確保している。
海:
2015年6月にはノルウェーの造船会社 Eidesvik が開発した世界初のハイブリッド船 Viking Queen にリチウムイオンバッテリーを供給した。
6000トン級の大型船舶で、普段はLNGで運航し、低速運航と港内待機時にバッテリーを動力とする。バッテリーは650kWh。
空:
最近では主要なドローンメーカーにもバッテリーを供給している。
2016/7/23 世界の石油化学製品の需給動向から、中国の動向
METIが7月8日に発表した「世界の石油化学製品の需給動向」では、中国の動向は下記の通り。
このうち、LDPE、HDPEについては、今後も需要の伸びが大きく、自国の能力をはるかに超えるため、大量の輸入が続くとみられる。
世界合計 |
|
2014 |
2020 |
能 力 |
155,706 |
199,932 |
生 産 |
136,381 |
168,201 |
需 要 |
136,315 |
162,127 |
|
|
|
世界合計 |
|
2014 |
2020 |
能
力 |
114,647 |
141,782 |
生
産 |
87,849 |
115,027 |
需
要 |
88,801 |
113,821 |
|
|
|
|
世界合計 |
|
2014 |
2020 |
能
力 |
56,620 |
71,127 |
生
産 |
47,263 |
59,532 |
需
要 |
44,945 |
57,983 |
|
|
|
|
世界合計 |
|
2014 |
2020 |
能
力 |
44,257 |
54,254 |
生
産 |
37,203 |
46,670 |
需
要 |
34,830 |
43,477 |
|
|
|
|
世界合計 |
|
2014 |
2020 |
能
力 |
33,494 |
36,720 |
生
産 |
28,052 |
31,872 |
需
要 |
27,772 |
31,719 |
|
|
|
|
世界合計 |
|
2014 |
2020 |
能
力 |
22,382 |
23,558 |
生
産 |
15,412 |
15,647 |
需
要 |
15,619 |
16,647 |
|
|
|
|
世界合計 |
|
2014 |
2020 |
能
力 |
59,511 |
65,861 |
生
産 |
40,193 |
45,552 |
需
要 |
39,977 |
46,964 |
|
|
|
|
世界合計 |
|
2014 |
2020 |
能
力 |
70,299 |
88,841 |
生
産 |
58,613 |
76,451 |
需
要 |
55,751 |
73,629 |
|
|
|
|
世界合計 |
|
2014 |
2020 |
能
力 |
83,386 |
85,326 |
生
産 |
51,759 |
70,753 |
需
要 |
51,641 |
69,678 |
|
|
|
2016/7/25 アンモニアから燃料電池自動車用水素燃料を製造
広島大学、昭和電工、産業技術総合研究所、豊田自動織機、大陽日酸は7月19日、共同研究により、アンモニアから燃料電池自動車用高純度水素を製造する技術の開発に成功したと発表した。
本研究開発は平成26年度からスタートした内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」の一課題として実施されている。
アンモニアは多くの水素を含んでおり、エネルギーキャリアとして期待されているが、アンモニア水素ステーション実現のためにブレイクスルーしなければならない大きな技術障壁としては次の3点がある。
今回、下記の成果を得て、世界で初めてアンモニア由来水素から燃料電池自動車用水素燃料の国際規格をクリアする水素が製造出来る事を明らかにした。
分解装置 |
産業技術総合研究所 |
高性能ルテニウム系触媒
(Ru/MgO)を開発 |
残存アンモニア濃度1,000ppm以下
(ルテニウム系触媒 約70,000ppm) |
昭和電工/
豊田自動織機 |
アンモニア分解装置
(実証システムの1/10スケール) |
NH3濃度1,000ppm以下の分解ガス(水素75%、窒素25%)生成 |
除去装置 |
広島大学 |
無機系除去材料 |
従来の硫酸水素アンモニウムに比べ除去量を3倍に増加でき、加熱再生も可能に。 |
昭和電工 |
アンモニア除去装置
(実証システムの1/10スケール) |
上記分解ガスを供給、アンモニア残存濃度を国際規格である0.1ppm以下まで低減
実用可能レベルにあることを確認 |
精製装置 |
大陽日酸 |
水素精製装置を開発 |
窒素を1ppm以下まで、その他不純物もppmからppbのオーダーまで同時に一段で除去する技術を確立 |
今回開発した、アンモニア分解装置、アンモニア除去装置と水素精製装置を組み合わせることで、燃料電池自動車用水素燃料製造が可能となる。
現在、チームでは、昭和電工叶崎事業所において10Nm3/hスケールのシステム実証を行うべく、プロセス検討を行っている。
燃料電池自動車用水素ステーションの実現が期待されるとしている。
ーーー
なお、同じ戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」の一課題として、2015年7月に、京都大学、ノリタケカンパニー、三井化学、トクヤマが、アンモニアを燃料とした燃料電池による発電に成功している。
アンモニアを直接燃料とした固体酸化物形燃料電池(SOFC)で、世界最高レベル(200Wクラス)の発電に成功したもの。
電解質であるジルコニアの片面に取り付けた燃料極に発電の燃料となるアンモニアガスを直接供給し、反対側の空気極に空気を供給することによって、両極の間で電力を発生させる原理に基づいている。
@ 燃料極に送り込まれたアンモニア分子は、水素分子と窒素分子に分かれる。
A 窒素分子は空気中に放出され、水素分子は電解質を移動してきた酸素イオンと結び付いて水になる。そのとき、電子を放出する。
B 電子は回路を経由して空気極に移動する(回路に電流が流れる)。
C 空気極に移動した電子は、空気極に供給された酸素と結び付き、酸素イオンを作る。酸素イオンは、電解質を通って燃料極に移動する。
アンモニア燃料に適用するための各種部材を選定し、アンモニア燃料専用の新規SOFC スタックを開発した。
アンモニア燃料は、部材の接合部からリークすると、配管部が腐食したりするという課題があるが、アンモニア燃料をリークなく封止できる特殊なガラスを開発した。
本スタックに、直接アンモニア燃料を供給して発電を行ったところ、純水素と比較して、同等レベルの良好な発電特性が確認された。
また、燃料電池の直流発電効率は255Wにおいて53%(LHV)が達成された。
2016/7/26 中国化工集団(ChemChina) 、イスラエルの農薬JVのAdama を100%子会社に
イスラエルのIDB Holdingの子会社Discount Investment
Corporation は7月18日、ChemChinaとの農薬JVのAdama の持株40%をChemChinaに14億ドルで売却することに合意したと発表した。
これにより、AdamaはChemChinaの100%子会社となる。
Adamaは世界7位、ジェネリック農薬では世界最大の農薬会社で、旧称はMakhteshim Agan
、2014年4月に改称した。
Adamaはヘブライ語で「地球」、「土」を意味する。英語圏の人に発音し易い名前にした。
ChemChinaは2月にスイスの農薬・種子メーカー、Syngentaを430億ドル余りで買収することで合意した。
ChemChina は先般、TOB期限を9月13日まで延長したが、年末には買収が完了する見込み。
2016/2/5 中国化工集団(ChemChina)、スイス農薬のSyngentaを買収
ChemChinaはまた、中国に農薬子会社の湖北沙隆達(Hubei
Sanonda)を持つ。
1958年に国営の農薬工場として設立され、1992年に再編し、上場した。
ChemChinaでは中国の農薬市場を重視しており、今後、これら3社の再編も検討する。
Adamaと湖北沙隆達との統合は既に2015年夏に発表されており、2017年上半期にも実現する見込みで、統合会社は深圳株式市場に上場される。
本拠はイスラエルに置き、世界に展開する。債券はTel
Aviv 株式市場で従来どおり取引される。
ーーー
ChemChina は2011年10月、Makhteshim Agan Group
の株の60%を約24億ドルで取得した。残り40%はIDB GroupのKoor Industriesが保有する。
IDB Groupは資金繰りに困っており、この時点でChemChinaはIDBに7年の期限で960百万ドルを融資、Makhteshim Aganの株(40%)が担保になった。
現時点では、これは1,172百万ドルに膨れている。
その後、IDBはアルゼンチンの富豪 Eduardo Elsztainなどに買収された。
ChemChinaがスイスのSyngenta(Adamaと競合)を買収した件では、IDB
GroupはChemChinaを訴えた。
今回の取引で全てが解消する。ChemChinaのIDBへの融資はゼロとし、ChemChinaは差額の230百万ドルを現金で支払う。
2016/7/27 米司法省、2件の医療保険会社の買収の撤回求め、提訴
米司法省は7月21日、米医療保険で売上高2位の Anthemによる5位Cigna
の買収と、3位Aetnaによる4位Humanaの買収が、それぞれ反トラストに違反するとして、撤回を求めて首都ワシントンの連邦地裁に提訴した。
買収により米国の大手医療保険会社5社が3社に減るが、価格競争が制限され、給付が減り、新しいウエルネス制度の供与のインセンティブが減り、治療の質が低下することで、老人、患者、医師、ヘルスケア団体に不利益を与えるとしている。
司法省は、国民が手頃な価格で高品質のヘルスケアを享受するには医療保険会社の競合が必須であるとし、これらの買収による合併はCigna
とHumana を除外することで、米国の健康保険に対する強大なパワーをたった3社に与えることになるとする。
11の州とDC がAnthemによるCigna
買収に対する司法省の訴訟に加わり、8つの州とDCがAetnaによるHumana買収に対する訴訟に加わる。
保険会社側は「提訴は誤った分析に基づいている」などとして争う構え。
付記
米連邦地裁は2017年1月23日、3位Aetnaによる4位Humanaの
買収計画を差し止める判断を下した。
米連邦最高裁判所は2015年6月25日、オバマ米大統領が推進するObamaCare
(医療保険制度改革法)の一部の政府補助金支給の是非について争われた裁判で、6対3で支給は合法とする判断を下した。
ObamaCareは医療保険に未加入だった低所得者に安価な保険を提供するため、民間の医療保険購入者に政府が補助金を支給する仕組み。
2015/6/27 米最高裁、ObamaCare補助金支給は合法と判断
これを受け、事業基盤強化へ向けた医療保険会社の再編が加速している。
米医療保険3位のAetnaは2015年7月3日、同4位のHumanaを370億ドルで買収すると発表した。
Aetnaは雇用者向け医療保険が事業の柱で、Humanaは高齢者を対象にしたMediCare
Advantageで320万人の顧客を持つ。
買収で高利益分野の拡大を目指す。
反トラスト法上の理由で取引が成立しなければ、Aetnaは違約金
10億ドルをHumanaに支払う。
Aetna はHartford,
Connecticut に本拠を置く。2015年の売上高は600億ドル。
Humana はLouisville, Kentuckyに本拠を置く。2015年の売上高は540億ドル。
米医療保険2位のAnthemは2015年6月から同5位のCigna
に買収提案を行い、数度にわたって買収額を引き上げた結果、7月24日に負債を含め542億ドルで買収すると発表した。
AnthemとCigna
加入者数は単純合計で約5300万人で、加入者数で最大手のUnitedHealth Groupを抜き、首位に立つ見通し。
AnthemはIndianapolis,
Indiana に本拠を置く。2015年の売上高は790億ドル。
CignaはHartford, Connecticut に本拠を置く。2015の売上高は380億ドル。
1位のUnitedHealth Group も2015年6月に
Aetna の買収を打診した。買収額は400億ドルを超えるとみられていた。
UnitedHealth Group
はMinneapolis, Minnesota に本拠を置く。2015年の売上高は1,571億ドル。
これらとは別に、「オマハの賢人」Warren
Buffett が率いる投資持株会社Berkshire Hathaway は7月18日、医療損害保険会社
Medical Liability Mutual Insurance を推定27億ドルで買収した。
2016/7/28 ExxonMobil、パプアニューギニアの天然ガス採掘業者を買収
ExxonMobilは7月21日、Papua
New Guineaで天然ガス掘削事業を展開するInterOil を最大36億ドルで買収すると発表した。原油価格底入れを受け、事業拡大へ同業の買収に踏み切る。
InterOil は1997年に設立された独立系の石油・ガス開発業者で、主にPapua
New Guineaで活動する。資産にはアジア最大の未開発ガス田のElk-Antelopeを含む。
ExxonMobilはPapua
New GuineaでLNG事業を展開しており、InterOil はアジア最大規模の未開発天然ガス鉱区とされる権益をPapua
New Guineaで保有していることから、相乗効果が大きいと判断した。「既に成功を収めているPapua
New Guineaのビジネスをさらに強化する」としている。
ExxonMobilはInterOil の株式を自社株を活用して買い取る。
1株当たり45ドルに加え、InterOilがPapua
New Guineaに保有するガス田の資源量に基づくContingent
Resource Payment (CRP) を加える。
この結果、買収金額は25億〜36億ドルの範囲になる。
資源量 |
6.2 tcfe |
7.0 tcfe |
8.0 tcfe |
9.0 tcfe |
10.0
tcfe |
CRP |
ー |
$5.66 |
$12.73 |
$19.80 |
$26.87 |
買収価格 |
$45.00 |
$50.66 |
$57.73 |
$64.80 |
$71.87 |
Premium |
42% |
60% |
82% |
105% |
127% |
InterOil は既に合意が成立していたOil SearchとTotalへの22億ドルでの
売却(下記)を撤回する。合意破棄で発生した違約金についてはExxonMobil が肩代わりする
。
ーーー
Elkガス田は2006年、Antelopeガス田は2008年に発見
された。
これらを含むPRL 15 (Petroleum
Retention License 15) の権益は当初、InterOilが75.6%、Pacific
LNG Groupが22.8%、IPI
Holdersが1.6%を保有していた。
2014年にPapua New Guinea の石油・天然ガス開発企業
のOil Search がPacific LNG
Groupの22.8%を買収、InterOilは持株のうちの40.1%をTotal に売却した。
2015年にTotal をPRL 15
のOperatorとすることを決め、Papua
LNG (年産690万トン)の建設を決めた。
Papua LNG計画は、Elk-Antelope ガス田のガスを 340kmのパイプライン(うち陸上75km) でPort Moresby近郊に運び、液化する
計画で、2020年代初めに稼動の予定。
InterOil、Oil Search、Total は2016年5月20日、2つの契約を締結した。
1) Oil Search はInterOil を22億ドルで買収する。
2) Oil Search は、InterOil
から取得したPRL 15
の権益の60%と、PRL 15以外の権益と資産の62%をTotal
に譲渡する。(取引価額は上記と同じレベル)
Oil Search と Total はPapua LNG計画を推進する
ことで合意した。ExxonMobil 主導のPNG
LNGとの協力又は統合の検討も行う。
今回、ExxonMobil が
InterOil を買収することとなり、PRL 15 の権益比率は下記の通りとなる。
|
取引前 |
5/20 取引 |
今回 |
|
政府権益込み |
|
政府権益込み |
InterOil |
36.5 |
ー |
ー |
ー |
ー |
ExxonMobil |
ー |
ー |
ー |
36.5 |
28.3 |
Oil Search |
22.8 |
37.4 |
29.0 |
22.8 |
17.7 |
Total |
40.2 |
62.1 |
48.1 |
40.2 |
31.1 |
IPI
Holders |
0.5 |
0.5 |
0.4 |
0.5 |
0.4 |
政府 |
|
|
20.5 |
|
20.5 |
地主 |
|
|
2.0 |
|
2.0 |
合計 |
100 |
100 |
100 |
100 |
100 |
PNG
LNGを主導し、OperatorであるExxonMobilがPRL
15に加わることで、Papua LNG計画はPNG
LNGとの統合の方向に向かうとみられる。
ーーー
Papua New GuineaではExxonMobil 主導のPNG LNG
(年産690万トン)が既に稼動している。(LNG液化設備はいずれもPort Moresby近郊)
ExxonMobil が主導のPNG
LNGは、パプアニューギニア内陸部のガス田(Hides、Juha、Angore)および油田随伴ガス(Kutubu、Moran、Gobe)から生産されるガスを首都Port
Moresby近郊のLNG液化施設までパイプラインで輸送して液化し、輸出するもの。
2014年4月に LNGの生産を開始した。販売契約のうち約50%が日本向けになっている。
PNG LNG の参加者は以下の通り。
|
権益比率 |
|
ExxonMobil
|
33.2% |
オペレーター |
Oil Search
|
29.0% |
PRL
15、Papua LNGにも参画 |
Santos
|
13.5% |
豪州大手石油会社 |
Nippon Papua
New Guinea LNG
(JX 98.4%、丸紅
) |
4.7% |
|
政府 |
16.8% |
|
Mineral
Resources Development |
2.8% |
パプアニューギニア政府系企業 |
ーーー
なお、双日は2015年10月14日、パプアニューギニアの国営石油公社
National Petroleum Company Papua New Guinea (NPCP)
との間で、同国において産出される天然ガスを利用したメタノール製造事業の開発のための合弁契約書に調印した。
2015年10月21日
双日、パプアニューギニアの国営石油公社との間でメタノール事業開発のための合弁契約書に調印
2016/7/28 SABIC とExxon Mobil、米国 Gulf Coast で石油化学JV構想
ExxonMobil は7月25日、SABIC とExxon
Mobil が米国 Gulf Coast で石油化学JV構想を検討していると発表した。
天然ガス原料に近いTexas州かLouisiana州に立地し、世界規模のスチームクラッカーと誘導品プラントを含むもの。
現在は検討の初期段階で、今後検討を進め、州や地方政府と話し合って立地を決めるとしている。
付記 両社は2017年4月19日、San
Patricio County, Texas
を選んだと発表した。年産180万トンのエチレンとエチレングリコール、2基のPEプラントを建設する。
2018年5月1日、JVを設立したと発表した。
SABICとしては、新しいマーケットへの供給のため生産基地の多様化を図る。競争力ある原料を確保し、SABICのポジションを更に強化する。
Exxon Mobil
は、今後数十年の化学品需要の大半は途上国にあると見ており、グローバルに競争力があることが必須で、そのための計画をつくる能力を持っているとしている。
報道では、Exxon Mobil が
Louisiana州のAscension
郡とSt. James郡、Texas州のVictoria郡とSan
Patricio郡の担当者と会っており、これらが候補になる可能性があるとしている。
ExxonMobil とSABIC はサウジのJubail地区に50/50JVのKemya(Al
Jubail Petrochemical Company)を持ち、35年間にわたり、石油化学事業を行っている。
2006/3/30 サウジアラビアの石油化学の歴史
ーーー
候補地は下記の通り。
付記 両社は2017年4月19日、San
Patricio County, Texas
を選んだと発表した。年産180万トンのエチレンとエチレングリコール、2基のPEプラントを建設する。
Louisiana州 Ascension Parish & St.
James Parish
Texas州
Victoria County & San Patricio County
2016/7/29
三菱化学、インドと中国の高純度テレフタル酸(PTA) 事業を売却
三菱化学は7月27日、インドでPTA事業を行うMCC PTA Idia、中国でPTA事業を行う寧波三菱化学、同じくポリテトラメチレンエーテルグリコール
(PTMG) 事業を行うMCC高新聚合産
品(寧波)の持分を譲渡すると発表した。
同社が進めている石化事業の構造改革の一環。
PTAについては、中国では極めて大規模な設備投資の結果、設備過剰状態が継続し、供給量が需要を大きく上回る市場環境となっている。
インドでも競合他社の増設等により供給過剰となるなか、中国での市況低迷の影響を受け、同様に厳しい事業環境が継続している。
三菱ケミカルホールディングスは本年2月、2015年第3四半期の決算を発表したが、PTA事業で減損損失を計上した。
同社は以下の発表を行った。
当社のテレフタル酸事業を運営する連結子会社であるMCC
PTA
India
及び
寧波三菱化学において、近年の業況の著しい悪化及び将来においても事業環境の回復が見込めないことから、両社が保有する固定資産の回収可能性を検討したところ、両社にて、628億円(MCC
PTA Indiaが424億円、寧波三菱化学が204億円)の固定資産減損損失を特別損失に計上しました。
*
最終的には、MCC
PTA Indiaが432億円、寧波三菱化学が204億円で、合計636億円となった。
2016/2/9 三菱化学、テレフタル酸で減損損失計上
同社は2015年12月9日の事業説明会で、素材分野のアクションプランで「テレフタル酸事業の抜本的対策の実施」を挙げている。
三菱化学石塚社長の年頭挨拶でも、「テレフタル酸は中国の過剰設備により厳しい状況が続いているが、2016年度中に抜本的な対策を行う」としていた。
なお、ポリテトラメチレンエーテルグリコール (PTMG:スパンデックス、ウレタン樹脂等の主原料)
についても、設備過剰の状態が継続し、スパンデックス市場の成長が鈍化しているため、今後の収益改善が見込めないことに加え、同工場が寧波三菱化学の構内にあってユーティリティの供給を受けており、事業継続には新たな投資が必要なことから、合わせて譲渡する。
中国の設備過剰については、実は、投資決定時点である程度は予測できた。
寧波三菱化学は2005年5月に建設に着手したが、完成前の2006年4月に本ブログは「しかし、こんなに増設して大丈夫であろうか。これもバブルではないのだろうか」と書いた。
2006/4/17
高純度テレフタル酸(PTA)の大増設
売却先は次のとおりで、各社の詳細は後記。
MCC
PTA Idia:Chatterjee Group 傘下のChatterjee Management Company(本社 New York)
寧波三菱化学及びMCC高新聚合産
品(寧波):香港の利万集団(Union King Holdings)とそのグループ会社の寧波宏邦石化
(Ningbo Hongbang Petrochemicals)
利万集団は寧波で石油精製・石油化学事業を行う中海石油寧波大榭石化に出資
今回の売却は、上記の2015年度の減損損失の計算に折り込んでおり、今後の損益への影響は軽微としている。
ーーー
各社の概要と売却の詳細は次のとおり。
1)
MCC PTA
India
社名 |
MCC PTA
India Corporation
Private Limited |
場所 |
西ベンガル州 Haldia |
株主 |
当初:
三菱化学 66%
西ベンガル州産業開発公社 5%
三菱商事 9%、日商岩井 8%、トーメン 5%、丸紅 5%、住金物産 2%現在:
三菱化学 95%
西ベンガル州産業開発公社 5%
* 発表はないが、今回の売却に備え、他株主の持分を買収したと思われる。 |
設立 |
1997/2 |
能力 |
第一期 350千トン→
470千トン
第二期 800千トン(現状 720千トン)
計 1,190千トン |
売却手続き 2016年7月27日付けで株式譲渡契約を締結する。譲渡期日は2016年10月末の予定。
|
現状 |
事前処理 |
処理後 |
株式譲渡 |
譲渡後 |
三菱化学 |
95% |
@貸付金の株式への転換
A三菱化学が増資引き受け |
99.4% |
-90.4% |
9.0% |
西ベンガル州産業開発公社
|
5% |
|
0.6% |
|
0.6% |
Chatterjee |
ー |
|
ー |
90.4% |
90.4% |
合計 |
100% |
|
100% |
|
100% |
売却額:48百万米ドル
2)
寧波三菱化学
社名 |
寧波三菱化学有限公司 |
場所 |
浙江省寧波市 |
株主 |
寧波PTA投資
90% (三菱化学 61%、伊藤忠商事 35%、三菱商事 4% )
中国中信集団(CITIC)10% |
設立 |
2004 |
能力 |
60万トン./年 |
備考 |
2007/3
運転開始 |
売却手続き 2016年7月27日付けで株式譲渡契約を締結する。譲渡期日は2016年12月末の予定。
|
現状 |
事前処理 |
処理後 |
株式譲渡 |
譲渡後 |
寧波PTA投資 |
90% |
CITIC持分買収 |
100% |
-100% |
ー |
中国中信集団(CITIC) |
10% |
ー |
|
ー |
利万集団 |
ー |
|
ー |
33% |
33% |
宏邦石化 |
ー |
|
ー |
67% |
67% |
合計 |
100% |
|
100% |
|
100% |
寧波PTA投資は解散する。
* 同社は三菱化学 61%、伊藤忠商事 35%、三菱商事 4%のJVであった。
発表にはないが、今回の売却に備え、他株主の持分を買収したと思われる。
売却額:470百万人民元(約 70百万米ドル)
3)
MCC高新聚合産品(寧波)
社名 |
MCC高新聚合産品(寧波)有限公司
MCC Advanced Polymers Ningbo Co., Ltd. |
場所 |
浙江省寧波市大榭開発区 |
株主 |
三菱化学100% |
設立 |
2007年 |
能力 |
PTMG 2.5 万トン/年 |
売却手続き 2016年7月27日付けで株式譲渡契約を締結する。譲渡期日は2016年12月末の予定。
|
現状 |
株式譲渡 |
譲渡後 |
三菱化学 |
100% |
-100% |
ー |
利万集団 |
ー |
33% |
33% |
宏邦石化 |
ー |
67% |
67% |
合計 |
100% |
|
100% |
売却額:26百万人民元(約 4百万米ドル)
ーーー
インド事業を買収するChatterjee Group は、ベンガル出身のDr.
Purnendu Chatterjeeが1989年に設立した投資会社で、米国に本拠を置き、米国・欧州・南アジアで石油化学、医薬、バイオ、金融、不動産、技術セクターに投資している。
石油化学ではMCC PTA IdiaのHaldia
工場の近隣で石化事業を行う Haldia Petrochemicals に出資しており、Biotech
Park やIT Parkなどを運営するTCG Real Estate、医薬品R&Dの TCG Lifesciences などを持つ。
Haldia Petrochemicals :
出資 |
Government of West Bengal
43%、Chatterjee
Group
43%、Tata
group 14%、Indian Oil
7.5% |
製品 |
エチレン
700千トン、LLDPE、HDPE、PP、ベンゼン、ブタジエン、シクロペンタン、ほか |
中国事業を買収する利万集団(Union
King Holdings)は香港を本拠とする。
寧波で石油精製・石油化学事業を行う中海石油寧波大榭石化に出資する。
中海石油寧波大榭石化の前身は2001年に利万集団が設立した寧波大榭利万石化で、2004年7月にCNOOCが参加し、改称した。
2005年設立で2009年にCNOOCが参加した舟山石化と一体運営されている。
石油製品のほか、プロパン、プロピレン、ペンタン、ヘキサンなどを生産する。
ーーー
三菱化学はインドと中国のほかに、インドネシアと韓国でPTA事業を行っている。
インドネシアについては、グループ向けの出荷が多いため、また、韓国については持分法JVであり、恐らくは他のパートナーの意向で、事業を継続する。
社名 |
PT. Mitsubishi Chemical
Indonesia
旧称 バクリー化成 (2000/10
改称) |
場所 |
インドネシア Cilegon |
株主 |
三菱化学 83.3%
日本アジア投資(JAIC) 16.7%
当初
三菱化学 57.4%
JAIC 17.1%
Bakrie & Brothers 25.5% |
設立 |
1991/3 |
能力 |
PTA 640千トン(320x2)
PET 52千トン |
備考 |
Bakrie &
Brothersは経営危機に陥り、金融機関から事業の再編成、化学事業からの撤退を要求され、2000年に全持株を日本側に売却 |
社名 |
Sam Nam Petrochemical Co.,
Ltd.
三南石油化学 |
場所 |
韓国 麗川 |
株主 |
三菱化学 40%
三養社 40%
LGカルテックス 20% |
設立 |
1988/1 |
能力 |
PTA 300千トン
QTA(一段酸化PTA) 1,200千トン |
ーーー
日経新聞(7/28) は本件について次のように述べている。
PTA撤退により、目立った不採算事業はなくなる。今後は炭素繊維や高機能樹脂など、成長が見込める分野に資金を配分する。
もっとも、注力する成長分野とて汎用化の波はいずれやってくる。中国・韓国勢も研究開発に力を入れており、高機能分野で日本勢の独壇場が続くとは限らない。三菱ケミカルの今回の事業売却が真に改革の総仕上げとなる保証はない。
日本企業の構造改革は、欧米の化学企業の構造改革には程遠いものである。
参考 2015/12/24 2015年
回顧と展望 再び 「ガラパゴス鎖国」論
2016/7/30 Microrobotによるがん治療
韓国全南大学機械工学部のSukho Park教授のチームは7月26日、大腸がん・乳がん・胃がん・肝臓がん・すい臓がんを治療できる直径20マイクロメートルの超小型ロボット
(Hybrid-Actuating Macrophage-Based Microrobots)
を世界で初めて開発したと明らかにした。
免疫細胞のひとつであるマクロファージが、体内に入った異物を取り込んで消化するという特性を利用し、タキサン系の抗癌剤DTX
を入れたPLGA(乳酸-グリコール酸共重合体)を取り込ませた。マクロファージが食べた抗がん剤が流れ出て、がん細胞を攻撃する。
このナノ粒子に抗がん剤に加え酸化鉄(Fe3O4)も一緒に入れた。
酸化鉄に磁場をかけることにより、マクロファージの動きを操縦することができる。電流量や電極を変えるなど磁場を調節すれば酸化鉄が望む方向に動く。
腫瘍血管は不規則な形のため、薬品を腫瘍まで送るのが難しいが、磁場でこの問題を解決した。
腫瘍中心部には血管がなく、これまでのがん治療薬は腫瘍の中心部までは入ることができなかったが、このロボットは腫瘍の核心である中心部分まで浸透する。
教授は、「マイクロロボットを投じて24時間で大腸がん細胞が45%、乳がん細胞が40%程度減った」としている。
研究成果はNature姉妹紙のScientific Report に6月27日付けで掲載された。
http://www.nature.com/articles/srep28717
次へ
最新分は http://blog.knak.jp