ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2017/10/16 Bayer、Monsanto買収の独禁法対策で、BASFに一部事業を売却 

Bayerは10月13日、Monsanto買収を考慮し、特定の Crop Science事業をBASFに59億ユーロで売却すると発表した。売却事業の2016年の売上高は約13億ユーロ。Monsantoの買収の完了を条件とする。

付記 Bayerは2018年2月、EUの野菜種子事業の売却を考えていることを明らかにした。.EUは 買収承認時期を3月12日に延ばしたが、更に4月5日に延ばした。

付記 ブラジルは2018年2月7日、買収を承認した。(2017年10月の処理を条件に)

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Bayerは2016年9月14日、債務込みで約660億ドル(債務除きでは570億ドル)でのMonsantoの買収で合意したと発表した。

買収は2017年末までに完了する見通しであった。

しかし、EUは2017年8月22日、本件についてのin-depth investigation を開始した。
買収によって農薬や種子などの分野で、競争が損なわれ、販売価格の上昇や品質の低下、選択肢の減少、技術革新の停滞などにつながる懸念があるとの暫定的な判断を示した。

除草剤については、グルホシネートを問題とした。欧州ではこの分野で新しい製品や処方を開発できるのはBayer とMonsanto の2社であるとしている。

種子についても、両社が植物種子を育てるのに活発で、多くの種子で両社を合わせるとシェアが高く、特定の種子では両社が競合しているとした。

EUは2018年1月8日までに買収を承認するかどうか判断する。

2016/9/19  Bayer、Monsantoを買収 

Bayerは、EUの反応から、このままでは承認が難しいと判断、今回の事業切り離しで承認を一気に前進させる。

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売却する事業は次の通り。

1) 非選択性のアミノ酸系除草剤グルホシネートアンモニウム塩(製品名:Liberty®、Basta® 、Finale® ) 対象地域は全世界。

2) 下記の種子事業

北米でのハイブリッド キャノーラ油 InVigor®(LibertyLink® 技術使用:除草剤Liberty に耐性を持つ)
欧州での菜種(oilseed rape)
欧州、米大陸での棉(インドと南アは対象外)
米大陸での大豆
関連知財、設備、育種技術
 LibertyLink® 形質 及び trademark
 従業員1,800 人超 (主として、米国、ドイツ、ブラジル、カナダ、ベルギー。BASFは最低3年の雇用継続を約束)


2017/10/16 日本ゼオン、新第一塩ビ持株をトクヤマに譲渡 

新第一塩ビを運営するトクヤマは10月13日、同日付で日本ゼオンの新第一塩ビ持株全てを取得したと発表した。

これにより新第一塩ビの出資比率は、トクヤマ 85.5%、住友化学 14.5%となる。

 

付記

トクヤマは、2023年4月1日付けで連結子会社である新第一塩ビについて、住友化学が保有する全株式14.5%を取得し、完全子会社化した。

新第一塩ビは、トクヤマの完全子会社化後、住友化学愛媛工場内にある新第一塩ビ愛媛工場の設備資産一式を住友化学へ譲渡し、同工場で生産していたペースト塩ビの製造を引き続き住友化学に委託する。徳山工場で製造する汎用塩ビとともに、自社の高度な技術を生かしたペースト塩ビを、従来通り供給する。

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新第一塩ビは1995年7月に、日本ゼオン(水島工場、高岡工場)、住友化学(千葉工場、愛媛工場)、サンアロー化学(現トクヤマ、徳山工場)のPVC事業を統合してスタートした。

これら3社と呉羽化学(現クレハ)は塩ビ共販会社の第一塩ビ販売のメンバーであったが、呉羽化学は参加しなかった。

出資比率は、日本ゼオン 40%、住友化学 30%、サン・アロ− 20%、トクヤマ 10%で、当時の能力は430千トンであった。

2006/9/14 日本のPVC業界の変遷と現状−2 

その後、1999年に決めた再構築計画で、日本ゼオンと住友化学が実質的に退き、経営権がトクヤマに移った。

出資比率は トクヤマ  71.0%、日本ゼオン 14.5%、住友化学 14.5%となった。

再構築計画の一環として、2000年3月末に水島工場(汎用PVCを製造)を停止した。

日本ゼオンは同時に水島の塩ビモノマー製造の山陽モノマー(日本ゼオン 55%、旭化成 25%、チッソ 20%)も操業を停止し、解散した。


新第一塩ビは2008年3月末に老朽化した高岡工場(ペーストを製造)を停止した。

同社の2007年12月末の能力は292千トンとなっていたが、高岡工場(ペースト)の40千トンが停止、逆に愛媛工場(ペースト)を7千トン増強したため、3月末の能力は259千トンとなった。

2008/4/5 新第一塩ビ、高岡工場を停止


トクヤマは2014年10月、塩化ビニル事業の抜本的な収益構造の改革を行うため、2015年9月末を目処に新第一塩ビの千葉工場の生産を停止すると発表した。
競争力のある徳山工場へ生産を集約することによる製造出荷体制の再構築を実施する。

2014/11/5 トクヤマ、新第一塩ビ千葉工場を停止 

千葉工場(汎用塩ビ 年産80,000トン)の生産停止に伴い、新第一塩ビの生産体制は、汎用塩ビ生産の徳山工場(145,000トン)、ペースト塩ビ生産の愛媛工場(30,000トン)、合計 175,000トンとなっている。

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日本ゼオンは、水島工場と高岡工場の停止で、元の同社のPVCプラントはすべて無くなったが、新第一塩ビへの出資は残していた。

今回、持株をトクヤマに譲渡し、名実ともに塩ビ業界から離れることとなる。

 


2017/10/17 トランプ政権、石炭火力発電所規制を撤廃へ 

EPAのPruitt 長官は10月10日、オバマ前米大統領が進めた石炭火力発電所規制(火力発電所から出るCO2を2030年までに2005年比で32%削減)を撤廃する案を発表した。
二酸化炭素(CO2)排出量が多い石炭火力発電所の閉鎖を促した規制を撤廃し、化石燃料資源の開発を進める。

但し、この規制案は2016年2月に連邦最高裁が差し止めを命じ、実施は見送られているため、いま撤廃しても大きな影響はないとみられる。

声明で、前政権の規制はEPAの法的権限を超えたものだと指摘し、「オバマ前政権の過ちをただす」と強調、規制撤廃に向け60日間の意見公募の手続きを始めた。

Trump 大統領は3月28日、Obama 前政権の地球温暖化対策を全面的に見直す大統領令に署名し、「私の政権は石炭との戦争を終わらせる」と述べ、温暖化関連の規制を180日以内に見直すよう指示していた。

Executive Order Presidential Executive Order on Promoting Energy Independence and Economic Growth

長官は10月9日のケンタッキー州の炭鉱労働者とのイベントで、「石炭との戦争は終わった」と述べ、再生可能エネルギーへの税額控除などの援助措置を中止する考えを明らかにした。

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オバマ米大統領は2015年8月3日、石炭火力発電所からの二酸化炭素(CO2)排出に対する規制強化を正式に発表した。
新規制では、火力発電からのCO2排出量を2030年までに2005年比32%削減することを目指す。

米EPAは2014年6月、火力発電所から出るCO2を2030年までに05年比で30%削減するとの規制案を公表していた。
オバマ大統領はこの削減幅を同 32%に拡大する。大統領権限で実施する。

2015/8/7 オバマ政権、火力発電のCO2排出規制を強化   

米最高裁判所は2016年2月9日、このCO2排出規制「Clean Power Plan」の実施を一時的に差し止める判断を示した。賛成5人、反対4人であった。

石炭生産が盛んなウエストバージニア州など国内27州と複数の企業、業界団体が規制の実施を差し止めるよう最高裁に求めていた。

この規制の合法性をめぐる裁判が続く間、実施は見送られることになる。

「Clean Power Plan」は、COP21で米国が公約した温室効果ガス削減目標の達成に欠かせない規制であったが、Trump大統領は6月1日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から米国が離脱すると正式表明した。
 


2017/10/17 EU、ルクセンブルグにアマゾンへの追徴を指示

欧州委員会は10月4日、ルクセンブルク政府が Amazon に最大2.5億ユーロの違法な税優遇を与えていたと認定し、追徴課税で取り戻すよう同国に指示した。

欧州委はこれまでも、巨大企業の「税逃れ」を厳しく指摘してきた。

2012/12/14  スターバックスの移転価格税制問題
2014/10/20 買収・合併による節税目的の海外移転禁止の動き強まる
2014/11/27 欧州委員会、オランダのStarbucks への税優遇の内容を公表
2015/10/27 欧州委員会、StarbucksとFiatの税優遇を違法と認定、追加徴税を指示
2015/12/9 EU、McDonald'sに対するルクセンブルグの法人税優遇措置を調査
2016/1/14 EU、ベルギーの「税優遇制度」は違法
2016/1/26 Google、追加納税で英税務当局と合意
2016/3/8 Facebook、英で法人税納付拡大
2016/9/1  EU、アイルランド政府にApple への130億ユーロの追徴を命令
2017/7/4 EU、Google に24億2千万ユーロの制裁金


問題となった取引の仕組みは次の通りで、これは、ルクセンブルグとAmazonが2003年に締結し、2011年に延長した tax ruling に基づいている。

Amazon は欧州事業を全てルクセンブルグの子会社Amazon EU で実施している。

Amazon EU は従業員500人以上で、製品を選択し、メーカーから製品を購入、欧州全体でオンラインセールスを行い、製品を配送している。
この結果、Amazon の欧州全体の売上高、販売利益はすべてAmazon EU で計上される。

しかし、Amazonはルクセンブルグにもう一つ、Amazon Europe Holding Technologies という “limited partnership” を持つ。

従業員はゼロで、事務所もなく、事業活動はしていない。

米国のAmazon本社との間で"cost-sharing agreement"を締結し、欧州での知的財産権を所有している。

この知的財産権の独占実施権をAmazon EU に与え、ライセンス料を受け取る。

cost-sharing agreementに基づき、知的財産の開発を行っている米のAmazon本社に対価を支払う。

Amazon Europe Holding Technologies は limited partnership であるため、それ自体は非課税で、オーナーである米のAmazon本社に利益が帰属するが、ルクセンブルグでは非居住者のため非課税となる。

米のAmazon本社は、この利益を米国に還流した時点で米国税法で課税されるが、還流せず、海外に留保したままである。

問題は、Amazon EU からAmazon Europe Holding Technologies へのライセンス料が異状に高いことで、これにより、Amazon EU の利益が減り、ルクセンブルグでの課税も減る。

欧州委の調査では、ライセンス料は平均して Amazon EUの利益の90%以上となっている。これはcost-sharing agreementでAmazon本社に支払う額の1.5倍となる。
実際の事業活動を行い、知的財産を実行しているのは
Amazon EUであるのに、その利益は異状に少ない。

欧州委の計算では、Amazon EUの課税所得は本来あるべき金額の1/4に縮減されており、3/4は不当にAmazon Europe Holding Technologies に移され、非課税となっている。

Amazon Europe Holding Technologies の利益は大きいが、ルクセンブルグでは課税されない。利益を留保しているため、米国でも課税されていない。

 

今回、欧州委員会はAmazon が受けた税優遇はEU法が禁じる「国家補助」に当たるとの判断を示した。ルクセンブルクが2003年から提供した税優遇措置に関し、公正な競争を妨げると断じた。

これに対し、Amazonは「ルクセンブルクからいかなる特別な優遇も受けていない。同国の税法と国際租税法に完全に従って納税している」と反論し、徹底抗戦する構え。

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欧州では、Google、Apple、Facebook、Amazon などのデジタル多国籍企業による市場支配や課税回避が問題とされ、4社の頭文字をとった GAFA という言葉が盛んに使用されている。

EUは9月中旬の非公式財務相会合で、デジタル多国籍企業への課税強化の検討で一致した。12月のEU首脳会議までに加盟国の意見を集約し、来春に欧州委が法案提出をめざす。


2017/10/18   トランプ政権のオバマケア骨抜き策に対し、州が訴訟

トランプ政権は、議会共和党指導部が医療保険制度改革法(Obama Care)の廃止・代替の法制化に失敗したことを受け、自力でObama Care を骨抜きにする取り組みを開始した。

オバマケアの見直しをめぐって、与党・共和党は新たな法案の採決を目指していたが、党内で再び反対意見が出て可決が見込めないことから、9月26日に採決を見送ることを決めた。

トランプ大統領は、「数人の共和党の議員には失望した」と述べ、不快感をあらわにした。

2017/10/4  オバマケア見直し 採決見送り

大統領は10月12日、連邦省庁に対し、オバマケアの中核理念の多くを損なうような幾つかの措置を検討するよう指示する大統領令を出した。

更に、政府は同日、オバマケアに基づき低所得者の保険料を割り引くために保険会社に支払われる補助金を即時停止すると発表した。次回の補助金支払いは10月18日の予定だった。

これに対し、カリフォルニアなど米国の18州とコロンビア特別区(首都ワシントン)の司法長官は10月13日、低所得者向け医療補助金を停止するとの政府の決定撤回を求め、トランプ大統領と担当閣僚らを相手取りカリフォルニア州の連邦地裁に提訴した。

補助金停止による保険料高騰や無保険者の増加が懸念されており、カリフォルニア州のベセラ司法長官は「全米の家族を守るために立ち上がる」として、米政府に補助金支払いの継続を要求すると述べた。2018年の補助金総額は100億ドルに上る見通し。

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大統領は10月12日、連邦省庁に対し、オバマケアの中核理念の多くを損なうような幾つかの措置を検討するよう指示する大統領令を出した。

Presidential Executive Order Promoting Healthcare Choice and Competition Across the United States

大統領令に署名する際、「われわれはObama Careの大弊害を長い間、耳にしてきた。そして撤廃と代替についても長々と聞き続けている」と語った。

Twitterでは「オバマケアは混乱の極みだ。順番に潰していくが、先ず保険料を上げる」と呟いた。
  ObamaCare is causing such grief and tragedy for so many. It is being dismantled but in the meantime, premiums & deductibles are way up!

大統領令では、先ず3項目の改善を優先するとし、これらに代わるものを広げていくための規則などの策定を求めた。

1) Association health plans (AHPs)

大企業はプールが大きいため、リスクが拡散でき、コストも安く、中小企業より有利である。
中小企業に共同で保険を購入する Association health plans を採用できるようにする。

2) Short-term, limited-duration insurance (STLDI) 

短期保険プランは規則や手続きが簡単で、勤務先の保険に入れない人が入る政府運営のExchange(保険取引所)よりも好ましい。
しかし、現制度では、保険期間を12カ月から3か月に引き下げ、延長を認めない。
これを改善する。

3) Health reimbursement arrangements (HRAs )

雇用者が従業員の医療費支出や保険料を負担する制度で、IRSが損金算入を認めている。
中小企業も含めて、これを拡大する。

これらを含め、オマバケアの高コストで規制の多い保険の代替案を拡大していく。

保険市場に競争を再投入し、改善する。

情報開示を改善し、保険の選択を改善するとともに、報告事務を減らす。

 

政府は同日、オバマケアに基づき低所得者の保険料を割り引くために保険会社に支払われる補助金を即時停止すると発表した。次回の補助金支払いは10月18日の予定だった。
2018年の補助金総額は100億ドルに上る見通し。

これは、保険会社が低所得加入者に割安な保険を提供できるように設けられた「コスト・シェアリング・リダクション」(Cost-Sharing Reduction, CSR)と呼ばれる補助金制
度である。

“Deductible”(保険料金が支払われるまでの自己負担額)、“Coinsurance”(診察時に生体を送って検査をする等やレントゲン、妊娠中であればエコ−や手術など医者の診断以外にかかる医療費)、 “Copayment”(診察のたびに必ず支払う必要がある金額)など、患者が自己負担する医療費の金額のディスカウントのこと。 

コスト・シェアリング・リダクションを受けられると、年間に自己負担する額の上限(Out of Pocket Maximum)も低くなる。

ただし、コスト・シェアリング・リダクションを受けられるのは、ある特定レベルの収入で、健康保険マーケットプレイスを利用して加入したプランのうち、Enhanced Silver Planを選択した場合のみで、これは世帯収入がFederal Poverty Level (2017年では単身 $12,060、2人所帯 $16,240)の100%-250%のもの

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2014年下院議会の共和党は、Cost-Sharing Reductionの支払いは非合法であるとしてオバマ政権を告訴した。

2016年5月、ワシントン州の地方裁判所は配当なしに助成金を支払うことを政府に禁止したが、前政権が上訴し、判決は保留となっている。

補助金停止による保険料高騰や無保険者の増加が懸念されており、米国の18州とコロンビア特別区の司法長官は10月13日、政府の決定撤回を求め、トランプ大統領と担当閣僚らを相手取りカリフォルニア州の連邦地裁に提訴した。

カリフォルニア州のベセラ司法長官は「全米の家族を守るために立ち上がる」と述べた。

 

付記

サンフランシスコ連邦地裁の判事は10月18日、10月23日の週に判断を下すとの見通しを示した。

米上院でオバマケアを扱う委員会の共和、民主のトップ2人は10月17日、保険会社への補助金を当面維持することで合意した。補助金の拠出を今後2年続ける半面、保険会社が扱う保険に関する規制を緩める法案を提出する。

トランプ大統領は今回の超党派議員の合意に関わったことを明かしたうえで「短期的な取引だ」と容認する考えを示唆した。

しかし、トランプ大統領は10月18日、当面維持するとしていた超党派議員の合意を支持しない方針を表明した。
「オバマケアでもうけてきた保険会社の救済を支持できない」とツイッターに投稿した。サンダース大統領報道官も「完全な手段ではない」と述べ、議会に再考を促した。

 


2017/10/19  JERA、米のガス火力発電事業を拡大

東京電力と中部電力の既存の火力発電事業等を統合して2015年4月に発足した JERAは10月12日、ニュージャージー州における天然ガス火力発電事業の権益保有者(Oaktree社、Ares社)との間で、権益取得にかかる契約を締結したと発表した。

事業権益の50%を取得するLinden発電所(出力97.2万kW)は、発電した電力を主にニューヨーク州の卸電力市場等に販売するとともに、発電の過程で発生する蒸気を産業向けに供給・販売している。
ニューヨーク市の電力需要の約1割を供給する重要な役割を担っており、1992年の運転開始以降、高い総合熱効率の達成により、同エリアでも競争優位な発電所として高稼働率での運転を維持し、電力の安定供給に貢献している。

 

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東京電力と中部電力は2015年4月30日、燃料上流・調達から発電まで、火力発電事業のサプライチェーン全体に係る包括的アライアンスに伴う共同事業会社 JERA をに 両社50%ずつの出資で設立した。
社名は JAPANとERA(時代)を組み合わせた。
両社は2014年10月7日に基本合意書を締結し、2015年2月9日に合弁契約を締結した。

下記スケデュールで順次統合するが、既存火力発電事業のJERAへの統合は白紙で、2017年春頃 判断するとした。

スタート時 新規分
@新規の燃料上流事業開発・燃料調達事業
A国内火力発電所の新設・リプレース事業
B新規の海外発電事業開発
2015/10/1 両社の燃料輸送事業、燃料トレーディング事業をJERAに統合
2016年夏頃 両社の既存燃料事業(上流事業、調達事業、受入・貯蔵・送ガス事業等)や既存の海外発電・エネルギーインフラ事業をJERAに統合
2015/4/20     東京電力と中部電力、共同事業会社JERAを設立     

東京電力と中部電力は2017年3月28日、燃料受入・貯蔵・送ガス事業と既存火力発電事業をJERAに統合することで基本合意書を締結した。

公取委は10月12日までにこれを承認した。

JERAは折半出資のため、今後の資産査定の結果、資産額が低い中部電力は差額をJERAに現金で納める。

2017/3/31 東電と中部電力、既存火力発電事業の統合に係る基本合意書の締結 

 

JERAは海外で多くの事業に参画している。

  http://www.jera.co.jp/business/power/

国の火力発電事業については、中部電力の2つの事業を移管、新たにJERAとして1件を取得している。今回の取得は4件目となる。

(中部電力から移管)

Tenaska Gas Thermal IPP Project

中部電力と伊藤忠商事が2010年に米国IPP事業者であるTenaska 他が保有する米国の5つの天然ガス火力発電所の一部事業権益を取得した。
2016年7月に中部電力から事業を承継した。

PROJECT NAME

mw

FUEL TYPE LOCATION STATUS 伊藤忠以外の日本企業
Alabama II 885 Natural Gas or Fuel Oil Autauga County, AL Operating JERA
Gateway 845 Natural Gas or Fuel Oil Rusk County, TX Operating JERA、Diamond、大阪ガス
Georgia 945 Natural Gas or Fuel Oil Heard County, GA Operating JERA、Diamond
Kiamichi 1,220 Natural Gas Kiowa, OK Operating JERA
Virginia 885 Natural Gas or Fuel Oil Fluvanna County, VA Operating JERA、JーPower

2017/8/22   伊藤忠と関電、米国でガス火力発電所建設

Carroll County Gas Thermal IPP Project

中部電力が2015年4月に米国オハイオ州において天然ガス火力発電事業を行う事業会社であるCarroll County Energy の出資権益の20%を取得した。
2017年度にCarroll County天然ガス火力発電所(発電容量約70万kW)の完工・商業運転開始を予定、高効率の新規電源として米国北東部への電力供給を行う予定。
2016年7月に中部電力から事業を承継した。

(JERAとして参画)

Cricket Valley Gas Thermal IPP Project

2017年1月に米国ニューヨーク州において天然ガス火力発電事業を行う事業会社であるCricket Valley Energy Center の約44%の出資権益を取得した。
2020年の商業運転開始を目指して、出力約110万kWの天然ガスコンバインドサイクル発電設備を建設、ニューヨーク州の卸電力市場を通じて販売する。

 


2017/10/20 アサヒビール、青島ビールの持ち株を売却へ       キリンとサントリー付記

アサヒグループホールディングスは10月12日、中国の「青島ビール」の持株を売却する方針を明らかにした。

昨年来、SABMiller の西欧事業、中東欧事業を取得するなど、国際事業の成長エンジン化を推進するとともに、資産効率を重視した事業ポートフォリオの再構築に取り組んでおり、中国のビール事業への投資を再検討した結果、青島ビールの持ち株の全部または一部の売却の検討を開始する。

売却先は今後、入札を行って決める。

アサヒは株式を売却したあとも青島ビールとの合弁の深圳青島ビールを継続し、ビールの共同生産を続けるとしている。
下記の中国の他のJVについては、どうするか未定。

アサヒは6月30日に、持ち分法適用会社で中国飲料大手の康師傅飲品の保有株全てを売却すると発表している。

2017/7/8    アサヒビール、中国飲料JVの株式を売却

付記

アサヒグループホールディングスは12月20日、保有する青島ビール株式19.99%の全てを中国複合企業、復星集団(Fosun International)などに売却する契約を結んだ。売却額は1千億円強。2018年6月までに売却を終える。

 
売却先 株数 株価 持株比率 金額
復星集団 243,108,236 @27.22HK$ 17.99% 847百万US$   (6,617百万HK$)
青島啤酒集団 27,019,600 @27.22HK$ 2.00% 735百万HK$        (94百万US$)
合計 270,127,836   19.99% 約1060億円       (941百万US$) 

 

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ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev (AB InBev)は2015年11月11日、英のSAB Miller を697億8000万英ポンド(約13兆円)で買収することに正式合意したと発表した。

これは独禁法で問題になるのは必然であるため、米国ではSAB Millerが保有するMillerCoorsの持株 58%を合弁相手の米 Molson Coors Brewing に120億ドルで売却した。

2015/10/14   ビール世界最大手のAnheuser-Busch InBev、2位のSAB Millerを買収へ   

欧州については、SABMillerの欧州のブランド、Grolsch ビールとPeroni ビールを売りに出すことを明らかにした。

アサヒビールは2016年10月11日、SABMillerのイタリア、オランダ、英国の事業を構成する会社の全株式と、3ブランドの知的財産権その他関連資産を2,550百万ユーロで買収した。

更に2016年12月13日、SAB社が保有していた中東欧5カ国市場における事業及びその他関連事業を構成する会社(計8社)の全株式の73億ユーロでの買収を発表した。2017年3月31日に取得を完了した。

2016/2/16 アサヒビール、英SABMillerの欧州事業の一部を買収 

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青島ビールにはAnheuser Busch が27%出資していた。

2008年6月にベルギーのビール会社 InBev Anheuser Busch に買収を提案した。

中国商務部は2008年11月、これを以下の条件付きで許可する通告を出した。

青島ビールに対するAnheuserの株式保有率27%を増加してはならない (以下略)

2008/12/1 中国の独禁法、初の海外での合併ケース

2009年1月、アサヒビールは統合した Anheuser-Busch InBev SA が保有する青島ビールの株式の一部、約19.99%を約6億6,650万米ドルで取得する契約に調印した。

青島ビールは2009年8月27日、アサヒビールグループと「戦略的協力合意」を締結したことを発表した。

アサヒビールは青島ビールによる書面での同意がない限り、青島ビール株の保有率をいかなる状況でも19.99%を超えるものとしないことを約束した。
アサヒビールはさらに、協力合意の有効期間中、青島ビールをアサヒビールの中国ビール業での唯一の戦略協力パートナーとすることにも合意した。

今回、この19.99%の全て又は一部を売却する。

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サヒビールの中国での他のビール事業は下記の通り。北京ビールと煙台ビールの扱いは未定。

  現在の出資比率
杭州ビール

北京ビール 90.00%
煙台ビール 40.00%
深圳青島ビール 29.00%

同社は当初、伊藤忠商事とのJVの朝日啤酒伊藤忠(Asahi Breweries Itochu)で中国に進出した。現在はこのJVは解散している。

1994 年に朝日啤酒伊藤忠は杭州ビールに55% 出資した。

その後、JV相手の杭州市工業資産経営有限公司が持分を華潤雪花に売却したため、青島ビールと提携していたアサヒは2011年、持分を華潤雪花に売却した。

1995年には朝日啤酒伊藤忠 は北京ビールと煙台ビールの経営権を取得した。

北京ビールへの出資比率は55%で、北京一軽が45%であった。

煙台ビールは、当初は朝日啤酒伊藤忠 51%、煙台集団 49% であったが、2008年11月に青島ビールが煙台集団から39%分を取得した。

1996 年に、更にビール事業を強化するため、青島ビールとの提携協議を開始し、1997年には 合弁で深圳青島ビールを設立した。

「スーパードライ」や、「青島ビール」を製造する。
2002 年には日本での青島ビールの販売も開始している。

アサヒは青島ビールの株式を売却したあとも青島ビールとの合弁の深圳青島ビールを継続し、ビールの共同生産を続けるとしている。

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キリンとサントリーの中国事業の状況は下記の通り。

キリンビール

麒麟(中国)投資有限公司のもとで酒類事業を展開し、キリンブランドや各社ブランドの育成・販売を行っている。

1999年に台湾の統一企業とのJVで麒麟啤酒(珠海)を設立し、2007年にこれを100%化した。

また、2011年に華潤創業との合弁清涼飲料事業の華潤麒麟飲料(大中華)を設立し、両社の強みを融合することで主力である水事業の拡大や新たな商品カテゴリーの創出を加速してい く。

付記

キリンHDは2022年2月16日、華潤集団との清涼飲料の合弁の「華潤麒麟飲料」(キリン40%、華潤60%)を解消すると発表した。
持ち分すべてを10億ドルで中国系ファンドの
Plateau Consumer Limitedに売却した。

キリンHDの紅茶飲料「午後の紅茶」などを製造・販売したものの、華潤が手がけるミネラルウオーターの売り上げが中心で、キリンHDの商品群のブランド浸透にはつながらなかった。

なお、キリンは2022年2月14日、ミャンマーから撤退すると発表した。

2015年に約700億円を投じてミャンマーのビール最大手、ミャンマー・ブルワリーに出資、現在は株式の51%を保有し、クーデター直前には年間60億円の事業利益を見込んでいた。クーデター以降、キリンは国軍系企業に合弁解消を繰り返し働き掛けたが、相手は応じず、撤退を決めた。保有する全株を売却する。

サントリー

サントリーは2015年10月19日、中国子会社が青島啤酒(青島ビール)との50/50 合弁企業の2社「三得利青島啤酒(上海)」と「青島啤酒三得利(上海)銷售」の同社保有の全株式を翌年の春をめどに青島ビールに譲渡することで合意し、10月18日に契約調印したと発表した。 売却額は156億円とされる。

2015/10/24 サントリー、中国のビール合弁企業の株式譲渡 

 




2017/10/21    韓国と中国、通貨スワップを延長

ワシントンを訪問中の韓国の金東兗・副首相兼企画財政相は10月12日、記者団に対し、中国との「通貨スワップ協定」を3年間延長することで合意したと明らかにした。

金融危機の際に、両国の中央銀行同士で最大560億ドルを融通しあう仕組みで、韓国の全体通貨スワップ(1168億ドル)の約半分を占める。
2009年4月に締結され、2011年に融通枠を拡大し、2014年に3年延長した。

今回も韓国は延長を求めていたが、米軍のTHAADの韓国配備を巡って両国関係が冷え込む中、期限を迎える10月10日になっても、延長の発表がなかった。

朝日新聞は10月11日、「中韓通貨スワップが終了 韓国の延長要求、中国拒否か」と報じた。

実際には延長で合意していたが、THAADの韓国配備を巡って中国国内で韓国に対する反感が出ている中、中国政府に配慮し、正式発表をしなかったとされる。

しかし、「スワップが終了」との情報が広まったため、今回の形での公表となった。

韓国の中央日報は次の通り報じている。

韓国の外貨準備高は9月末現在3847億ドルに達し、すぐに外貨不足を心配する状況ではないが、国際経済の変動性が大きくなり、韓国経済の弱点も少なくなく、あらゆることで最悪のケースに備えていくのが正しい。
両国代表が延長交渉で終始「政経分離」を強調したのも適切だった。中国がこの論理を受け入れたのも評価に値する。

もうひとつ注目すべきことは韓中通貨スワップが中国にも必要な協定という点だ。人民元の国際化という中長期戦略に韓国の助けは切実だろう。
中国は外貨準備高も多く、9月末現在3兆1090億ドルに達するが、昨年初めにヘッジファンドの「為替攻撃」を受けた時は人民元相場が揺らぎ、外貨準備高が急減したりもした。

 

なお、日本と韓国の通貨スワップは2015年2月に終了した。

2015年2月、日本政府と韓国政府は「日韓スワップ協定を延長せず、予定通り2月23日で終了する」と発表した。これによりチェンマイ・イニシアチブ下の100億ドルの融資枠が延長されず、2001年7月に始まり13年半の間続いた日韓スワップ協定が終了した。

財務省は「両国の金融情勢・経済情勢から判断した」と説明し、韓国企画財政省幹部は「経済指標が良好であり、延長しなくても特別な悪影響はない」とした。

一方で日本政府関係者は「(その時点で出国禁止になっていた)産経新聞前ソウル支局長の問題があり、日本政府として延長を断った」との見方を示した。

付記

日本と韓国両政府は2023年6月29日、金融危機の際に通貨を融通する通貨交換(スワップ)協定を再開することで合意した。融通枠は100億ドル(1兆4000億円程度)に設定した。元徴用工問題などで悪化していた両国関係は、経済・金融分野でも改善が進む。

アジア通貨危機を受けて当初は韓国を支援する枠組みとして2001年に運用を始め、日韓関係が悪化して2015年に失効した。今回の融通枠は15年の失効時とほぼ同水準だ。

 

 

付記

韓国銀行とカナダ中央銀行は11月15日、韓国通貨ウォンとカナダドルの貨幣間の限度と満期のない通貨スワップ協定を締結した。協定後、効力が開始した。

韓国が外国と無期限・無制限に通貨スワップ協定を結んだのは初めて。



2017/10/23  大塚製薬の「減酒薬」

大塚製薬とデンマークのH. Lundbeck A/Sは6月8日、飲酒量を低減する治療薬「ナルメフェン」(nalmefene)の国内フェーズ3試験において主要評価項目と副次的評価項目を達成したと発表した。

大塚製薬は年内にアルコール依存症治療薬の製造販売承認を申請する。厚生労働省の承認を得られれば2018年度中にも発売する見通し。(10/16 日経夕刊)

断酒ではなく欧米で普及する「減酒」治療を目的とした日本初の新薬となる。

ナルメフェンは、飲酒要求時に服用することで、中枢神経系に広く存在するオピオイド受容体を拮抗し、飲酒欲求を抑制 する初めての頓用薬としてH. Lundbeck が開発を進めてきた。

2013年4月からSelincroの製品名で販売を開始している欧州では、多量飲酒リスク高値(男性では1日60g、女性では1日40g以上の飲酒量)の成人のアルコール摂取量を低減させるという適応をもつ 。

オピオイド(opioid)とは、麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイドおよびモルヒネ様活性を有する内因性または合成ペプチド類の総称 。

アヘン(opium)は昔から鎮痛薬として用いられ、19世紀初頭には、その主成分としてモルヒネが単離された 。

1970年代には、オピオイドの作用点として受容体 (ホルモン等と結合し、細胞内に反応を起こす細胞中のタンパク質)が存在することが証明された。

オピオイド受容体は、中枢神経系に広く分布し、脳内報酬系や情動制御、痛みのコントロールなどを司り、これまでに3つのサブタイプ(μ、κ、δ)が知られてい る。

ナルメフェンは、μ受容体に働きかけて報酬効果を調整し、κ受容体を介して嫌悪感を抑制することによって、飲酒誘因刺激への過度な反応を抑え、減酒に伴うストレスを緩和させることが可能と考えられ る。また受容体親和性が高く、半減期も長いことから、飲酒欲求を抑制することに繋がる。

 

大塚製薬は2013年10月31日、H. Lundbeck A/Sとの間で、ナルメフェンを日本で共同開発・商業化することについて合意した と発表した。

大塚製薬は、H. Lundbeck に契約一時金として50百万ユーロを支払い、この一時金に開発・承認ならびに売上達成金を加えると最大で約100百万ユーロを支払 う。

H. Lundbeck は、日本での開発費を負担し、共同販促の権利を有する。日本向けの錠剤バルク生産を担当 する。

大塚製薬とH. Lundbeck は2011年11月に、グローバル中枢薬事業で、大塚製薬創製の アリピプラゾール持効性注射剤(エビリファイ メンテナ)、OPC‐34712(ブレクスピプラゾール)とH. Lundbeck の「Lu AE58054」を含む3つの化合物を共同開発、共同販売する契約を締結した。

アリピプラゾール持効性注射剤については、H. Lundbeckは開発費用を米国で20%、欧州主要5カ国・北欧4カ国・カナダで50%負担し、大塚製薬から売り上げのそれぞれ20%、50%を分配金として 受け取る。
日本を含むアジア9カ国・地域、トルコ、エジプトでは、大塚製薬が権利を保有する。
その他の国は、H. Lundbeckが単独販売を行う。

OPC‐34712については、大塚製薬はH. Lundbeckに対し、米国で売上の45%、欧州主要5カ国・北欧4カ国・カナダでは売上の50%を支払う。開発費用は、一定金額まで大塚が費用を負担し、それ以上は両社で均等に折半する。

ナルメフェンの日本での共同開発・商業化で、両社の協力体制はますます強固なものとなるとした。
両社は今後も世界の中枢神経領域の治療発展を重視していくとした。

ーーー

日本では下記の「断酒」治療薬が使われている。

1) 抗酒剤  

田辺三菱製薬のシアナマイド(一般名:シアナマイド)

アセトアルデヒドを分解する酵素ALDHの働きをブロックする薬で、体内でアルコールが最後まで分解されず、少量のお酒で酔っ払 う。

田辺三菱製薬のジスルフィラム(一般名:ノックビン)

ALHDと結合してアセトアルデヒドの分解効率を低下させる。ノックビンの場合服用中に生成されるALHDと結合するのに時間を要 するが、新たなALHDが生成されるまでその効果が持続する。

ーーー

アルコールは体内にはいると「アセトアルデヒド」になり、これが顔を赤くしたり、頭痛や吐き気を起こしたりする。

アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH) がこれを分解して酢酸とし、その後、炭酸ガスと水に変える。抗 酒剤は、この働きをブロックし、飲めなくするもの。  

http://www.meiji.ac.jp/campus/hoken_ei/alcohol.html

2) アルコール依存症治療薬 アカンプロセート(日本新薬が商標名 レグテクトで販売)

中枢神経系に作用して、飲酒欲求を抑える作用を持つ。アルコール依存症で乱された脳の化学的なバランスを安定化させる薬物であると考えられている。

ーーー

話のタネ

ALDHの一種であるALDH2をつくる遺伝子には、元々の人類が持つ分解能力が高いとされるN型(ALDH2*1)と、中国南部で突然変異で分解能力が低下したD型(ALDH2*2 )がある。

両親からいずれか一つずつを受け継ぐので、人間にはNN型、ND型、DD型の3パターンある。
NN型は酒豪タイプ、ND型はそこそこ飲めるタイプ、DD型は下戸タイプ。

  日本人 白人
NN型 50%強 99%以上
ND型 40%弱 1%未満
DD型 5%前後
白人は悪酔いしない代わりに、飲み過ぎてアル中になる可能性がある。

北海道、東北、九州、沖縄地方に酒豪遺伝子であるN型遺伝子の割合が多い。

日本民族が、列島先住民の縄文人(N型)と、中国南部で突然変異で発生したD型を持つ弥生時代以降に大陸からきた渡来人の「二重構造」を持つことを示すものとされる。

都道府県別に見たN型遺伝子(ALDH2*1)の頻度
https://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000000176_all.html

 


2017/10/24 米上院、下院に続き新年度の予算決議を可決 

10月1日に米国の新年度(2017/10/1〜2018/9/30)の予算審議が始まった。

トランプ大統領は9月8日夜、12月中旬までの債務上限棚上げと暫定予算、およびハリケーン被災者支援の法案にサインし、法案が成立、デフォルトは回避された。

2017/9/9 米国、12月中旬までの債務上限棚上げと暫定予算法案成立、デフォルト

米下院は10月5日、2018会計年度(2017年10月〜2018年9月)予算の大枠となる 「予算決議案」を賛成多数で可決した。
民主党は全員が反対した。共和党からも18名が反対、3名が棄権した。(3議席の補欠選挙の結果、欠員は1名になった。)

  共和党 民主党 合計
賛成 219 0 219
反対 18 188 206
棄権 3 6 9
合計 240 194 434

予算決議案」は歳出、歳入、財政収支など予算の全体像を示すもので、この後、これに抵触しない範囲で減税案等の歳入法案や13本の歳出法案の審議が順次行われる。

予算委員会は予算の裁量的経費と義務的経費を包括し、歳出と歳入のバランスを踏まえて予算編成の方向性を大枠で示す。

実際の立法作業は管轄権のある13の小委員会が、予算委員会が指示する支出の上限の範囲内で行う。

その結果が本会議で審議される。

下院の予算決議は、低所得者向け公的医療保険などの義務的経費を10年で2,030億ドル削減することなどを盛り込んだ。

 

上院は10月19日、51対49の僅差で可決した。共和党から1名が反対した。

  共和党 民主党 無所属 合計
賛成 51 0 0 51
反対 1 46 2 49
棄権 0 0 0 0
合計 52 46 2 100

 

10年間で1.5兆ドルの減税を認める内容で、トランプ政権の税制改革法案を与党・共和党が単独で可決できる環境が整う。

トランプ米大統領と共和党指導部は9月27日、税制改革案を公表した。法人税率は現行の35%から20%に引き下げられる。

2017/10/2 トランプ政権の税制改革案

付記

上院で可決した「予算決議案」は、下院の決議案とは異なるため、再度下院に回された。

下院は10月26日、これを賛成多数で可決した。

  共和党 民主党 合計
賛成 216 0 216
反対 20 192 212
棄権 3 2 5
欠席 1 0 1
合計 240 194 434

予算決議の成立によって上院では過半数の51票の賛成で税制改革法案が可決できるようになる。

トランプ政権と共和党議会指導部は、連邦法人税率を35%から20%に引き下げる案を柱とした税制改革の基本計画を公表しており、議会指導部は26日、11月1日に詳細な法案を提示して議会審議に入る考えを表明した。

2017/10/2 トランプ政権の税制改革案

 

具体的な予算案の採決では、上院ではフィリバスター制度があるため、可決には60票が必要であるが、共和党は52名しかいない。

しかし、上下両院で調整した予算決議案を可決すれば、財政調整法に基づき、上院で単純過半数の51票で予算法案を通過させることが可能になる。

財政調整措置とは、本来、財政収支の改善を目的として、それに関わる法案に関して審議のスピードを速めるためのもので、審議時間が20時間に限られており、フィリバスターができない。

なお、財政調整法は予算の対象期間に限定された時限立法である。

ただし、上院共和党がそもそも一枚岩ではなく、オバマケア改正でも3人が反対し、つぶした経緯があり、今回も1人が反対した。楽観視はできない。

 

上下両院本会議でそれぞれの法案が可決された後は、両院協議会においてそれらの差異が調整される。

その後、両院協議会報告書が上下両院に戻されて再び採決が行われる。この際、両院は修正はできず、採決でイエスまたはノーの意思表明を行うだけである。

両院協議会報告書が再び上下両院で可決されると、その法案は両院一致で可決された法案となって議会を通過し、ホワイトハウスに送付される。

 


2017/10/25    デンソー海外子会社のタックスヘイブン対策税制問題で最高裁が課税取り消し 

 
海外子会社の所得にタックスヘイブン対策税制を適用した課税処分をめぐり、自動車部品大手のデンソーが処分取り消しを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁第3小法廷は10月24日、デンソー側の主張を認め、名古屋国税局による約12億円の課税を認めた二審判決を破棄、デンソーの逆転勝訴が確定した。

デンソーの上告に対し、最高裁は9月26日に弁論を行うとしたため、2審の結論が変更 されることが予想されていた。


訴訟は、2009年3月期までの2年間の所得と2011年3月期までの2年間の所得 の2件あり、今回は最初のもの。

後のものについては、10月18日に名古屋高裁がデンソー勝訴の判決を出している。今回の最高裁の判断により、国側は上告しないと思われ、合計約73億円の追徴課税が戻されることとなる。

 

 
名古屋国税局は、デンソーのシンガポールの子会社の所得をめぐり、 タックスヘイブン対策税制を適用し、下記の通り追徴課税した。
  対象 申告漏れ 課税
2010/6/28 2009年3月期までの2年間の所得 約114億円 約12億円
2012/6/22 2011年3月期までの2年間 約138億円 約61億円

子会社に「タックスヘイブン(租税回避地)対策税制」が適用されるかどうかが争われた。

同税制は、税率が低い国や地域の子会社の所得を日本の親会社の所得に合算して課税する制度で、その子会社に事業実態があるなど、一定の要件を満たせば適用が除外される。

外国子会社等の留保所得が、法人所得税がないか、20%以下の場合、株式の所有割合に応じて、当該株主の所得と合算して日本で課税される。
シンガポールの法人税は17%のため、これに該当する。

但し、下記の条件の場合、適用除外となる。

事業基準 主な事業が株式等の保有、工業所有権等や著作権の提供、船舶または航空機の貸付けなどの事業ではない
実体基準 主な事業を行うために必要な事務所、店舗、工場などの固定施設を有している
管理支配基準 事業の管理、支配、運営を自ら行っている
非関連者基準他  

なお、2010年の税制改正で地域統括業務を行う子会社については、主な事業が「株の保有」でも対策税制の適用除外となっている。

シンガポール子会社は、現地事務所があり、20人以上の従業員が地域統括業務を担当している。税引前利益の8〜9割は株の配当が占めるが、地域の物流を改善する業務の売上が収入の約86%となっている。

同社は以下の通り述べている。

1990年にシンガポールへ進出して以来、地域統括サービスを中心とした事業展開を推進しており、在籍する人員の殆どが地域統括事業に従事し、それに必要な固定施設等の実態も備わった健全な事業展開をして参りました。

名古屋国税局は、主な事業が株式等の保有であるとし、事業基準でタックスヘイブン対策税制を適用したのに対し、デンソー側は、物流と財務の統括が主な事業であり、実体基準にも該当するとして、適用除外を主張して いる。

名古屋国税局による追徴課税に対し、デンソーは取り消しを求め、訴訟を行った。

これまでの経緯は次の通り。

  2009年3月期までの2年間の所得 2011年3月期までの2年間 の所得
国税局 2010/6/28
主な事業は「株式保有」で事業実態はなし。
114億円の申告漏れ、約12億円を追徴課税
2012/6/22
主な事業は「株式保有」で事業実態はなし。
約138億円の申告漏れ、約61億円を追徴課税
デンソー 2011/8/8 更正処分の取消請求訴訟 2014/6 更正処分の取消請求訴訟
1審 2014/9/4  名古屋地裁 デンソー勝訴
 主たる事業は物流改善など、オーストラリア・アジア地域での
 「地域統括事業」で、適用除外要件を満たす。
 但し、所得金額約114億円のうち、約10億円については認めず。
 
2017/1/26 名古屋地裁  デンソー勝訴
  事業活動の経済的合理性があるか否かの観点から、
  子会社の主たる事業が地域統括だったと判断
控訴
デンソー:所得10億円分
2審 2016/2/10 名古屋高裁 デンソー敗訴
 「株式の保有が主たる事業」で適用除外要件を満たさない
 これにより、所得 10億円分のデンソーの控訴は棄却
 
2017/10/18 名古屋高裁   デンソー勝訴
  一審の判断は妥当
上告 デンソー 付記 国は上告せず、高裁判決が確定した。
最高裁 2017/10/24 判決  デンソー勝訴  

 

最高裁の判決理由は次の通り。

子会社にはASEAN地域の事業を効率化する目的があり、活動に経済合理性があった。財務や物流改善などの業務は多岐にわたり、相当の規模と実体があった。

子会社の「主な事業」が何かを判断する基準について、事業活動の収入や所得、人数、店舗、工場などの状況を総合的に考慮するのが相当である。

 


 

2017/10/26 韓国大統領、新古里原発5、6号機の建設再開を表明 

韓国の文在寅大統領は10月22日、建設途中の新古里原発5、6号機(蔚山市)の工事再開を有識者らでつくる公論化委員会が勧告したことを受け「建設を早期に再開する」と表明した。

発電に占める原発の比率を段階的に下げる「脱原発」政策の継続も指示した。
脱原発を円滑に実行するため、原発解体研究所を韓国の東南部に設立することも併せて公表した。欧米など海外で解体作業の受注につなげる狙いもあるという。

文大統領は、脱原発政策を支障なく進める考えを強調した。「これ以上の新規の原発建設計画を全面中止し、エネルギー需給の安定性を確認次第、設計寿命を延長し、稼動中の月城1号機の運転を中止する」とした。

月城1号機は、2012年に設計寿命の30年を迎えて運転停止したが、原子力安全委員会が安全性を審査した上で2022年までの運転延長を許可、これを無効とする行政訴訟で2017年2月に延長を取り消す判決があった。 新政府はこの控訴を取り下げている。

公論化委については、「熟議民主主義の模範を示した。韓国国民を誇りに思い、尊敬する」とし、「今回の公論化の経験を通じて、社会的葛藤懸案を解決する多様な社会的対話と大妥協がさらに活発になることを期待する」と述べた。

野党は一斉に反発、保守系最大野党「自由韓国党」は、「拙速な原発中断に対する謝罪が大統領の道理」とし、「公論化委で経済的な損失と社会的葛藤を誘発させておいて、それを熟議民主主義という詭弁で覆うことは実に失望させられる発表だ」と批判した。
中道系野党「国民の党」は、「建設がすでに進んでいる事案に対して1000億ウォンを超える莫大な費用を無駄にし、一言の謝罪もなく『意味深い過程』とだけ述べたことは残念」とした。

政府は年内に中長期の電力需要の展望と、これに伴う発電設備計画を含む「電力需給基本計画」を発表する。原発と石炭火力に代わり、LNG火力と再生エネルギーを柱とする方針で、新たな電源構成を示す。

脱原発の基本路線に変化はないことから、電気料金の将来的な上昇による競争力低下の懸念は残る。産業通商資源省は「脱原発でも電力需給を適切に管理すれば2022年まで電気料金は上がらず、それ以降も再生エネの単価下落などで値上げ幅は気にするほどではない」と説明するが、そのとおりに進むかは不透明 。

 

韓国政府は10月24日、閣議を開き、新古里原発5、6号機の建設を再開する一方、脱原発と再生可能エネルギーの拡大を中心としたエネルギー転換政策を引き続き推進することを決めた。
また、新規原発6基の白紙化と老朽化した原発14基の設計寿命の延長を禁じることにより、現在24基ある韓国の原発を2038年まで段階的に14基に減らす。
これらの計画は7月19日に発表された「国政運営5カ年計画」に含まれているが、新古里原発5、6号機の建設再開が確定したことで、残りの原発に対する計画も明文化した。

新ハンウル原発3、4号機(蔚珍市)、天地1、2号機(盈徳郡)、建設予定地・名称未定の原発2基の計6基の新規原発計画を白紙に戻す。
2038年までに寿命を迎える老朽化した原発14基は設計寿命を延長しての稼働を禁止し、月城原発1号機は電力供給の安定性などを考慮して早期に廃炉にする。
これにより、韓国の原発は2017年の24基から2022年に28基へと増えるが、2031年には18基、2038年には14基と段階的に減少することになる。

他方、韓国は国際原子力機関(IAEA)が10月30日からUAEのアブダビで開く世界原子力閣僚会議に特使を派遣し、韓国がUAEに建設している原子力発電所の優秀性をアピールする。
韓国は英国、サウジアラビア、チェコなどが推進する原発建設計画の受注を狙っている。

ーーー

大統領は選挙運動中に「新規の原発建設を全面中断し、建設計画を白紙化する」と公言している。
就任後の5月17日に、老朽火力発電の一時停止を命じたが、原発についても、老朽のものを閉鎖、建設中のものは見直し、今後40年で原発に頼らないエネルギー政策に切り替えると述べた。

同氏は大統領選挙前の2017年4月14日、脱原発市民団体6団体と反原発についての下記の政策協定を結んだ。

原発の危険から国民の生命を守り、 安全で持続可能なエネルギー政策策定のために次期政府は積極的な 脱核・エネルギー転換政策を推進しなければならない。
ここに、文在寅候補は、次期政府において、 以下の政策課題を即座に推進することを約束する。

1.現在建設中の新古里4号機と新ハンウル 1・ 2号機の建設を暫定的に中止し、 社会的合意を通じて運転の是非を決定する。

2.現在建設中の新古里5・6号機と建設計画中の新ハンウル3・ 4号機を白紙に戻し、許可を取り消す。

新古里5号機は2021年、6号機は2022年、新ハンウル3号機 は2022年、4号機は2023年の稼働を予定していた。

 
以下 略

各原発の状況は下記を参照

  2017/6/1  韓国、建設予定の原発の設計を中断、新大統領の脱原発方針の一環
 

文政権は新規原発の全面的な建設中断を柱とする脱原発政策を掲げたが、工事の進捗率が既に30%に達する新古里5・6号機については 、経済的な影響が大きいため、存続の是非は国民の判断を仰ぐとし、有識者の公論化委員会に判断を委ねた。

新古里5・6号機は、具体的には、設計が79%、機材購入が53%行われ、実際の施工工程は9%ぐらいである。

工事継続の是非を議論してきた公論化委員会は10月20日、建設の再開を政府に勧告した。

委員会は新古里5、6号機についてはすでに1兆6000億ウォン(約1600億円)を投じ、工事の進捗率が30%に達しているため、再開が現実的と判断した。

同委員会は「討論型世論調査」を実施する方針を決め、8月25日から9月9日に1次調査となる電話調査で2万人の国民から回答を得て、その中から500人を抽出。うち478人が2次調査に参加した。10月13日に2次調査参加者の98.5%に当たる471人が2泊3日間の総合討論会で3次調査に参加し、討論会最終日の15日に4次調査を終えた。
最終の4次調査で、建設再開を求める意見が59.5%、建設中断が40.5%だったと発表した。

同委員会の金委員長は、双方の差は19ポイントで「統計的に意味のある差だ」と指摘した。また「全ての年齢層で調査を重ねるごとに建設再開の比率が高まった。20代、30代で上昇率が特に大きかった」と説明した。

ただ、再開にあたっては、原発の安全基準の強化や再生可能エネルギーを増やす投資の拡大、使用済み核燃料の処理問題の早期解決が必要との条件をつけた。

 


 

2017/10/27 エーザイとバイオジェン、アルツハイマー治療剤での提携契約を拡大 

エーザイとBiogen は10月23日、臨床第III相試験進行中のaducanumabを含むアルツハイマー病治療剤の開発・販売に向けた提携契約を拡大すると発表した。

両社はアルツハイマー関連で下記の製品を開発しており、エーザイが以前から販売しているアリセプトを除き、開発で提携している。

エーザイ アリセプト 〈既存製品〉
(donepezil)
エーザイの杉本八郎博士らが開発
 
アルツハイマーでは、神経伝達物質のアセチルコリンが脳内で減少している。

アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害することで、アセチルコリンの濃度を高める。

新規ヒト化モノクローナル抗体
「BAN2401」
2007/12 スウェーデンのBioArctic Neuroscience ABから全世界の研究・開発、製造、販売の独占ライセンスを受ける。 アルツハイマー病の原因と考えられるベータ・アミロイド成分を除去
βサイト切断酵素(BACE)阻害剤
「E2609」
エーザイが創製

 

βアミロイドの脳内の沈着はアルツハイマー型認知症の病因の一つ
アミロイド前駆体タンパク質のβサイト切断酵素であるBACEを阻害することでβアミロイドの総量を低下させる。
Biogen 抗アミロイドβ(Aβ)抗体
aducanumab
(BIIB037)
Neurimmune社より共同開発およびライセンス契約締結のもとに導入 アミロイド斑(プラーク)は、アミロイドβ蛋白が蓄積したもので、アルツハイマー病患者の脳にみられる。

aducanumab 投与でアミロイドプラークのレベルを下げる

バイオジェンの歴史
  1978   科学者グループと投資家が Biogen NV を設立
  2003  Biogen と 1986年設立のIDEC Pharmaceuticalsが合併し、Biogen Idecとなる。
  2015  社名を元のBiogenに戻す。

エーザイは2005年にスウェーデンのBioArctic Neuroscience ABと共同研究契約を締結、成果として出てきた抗体医薬に対する第一次優先交渉権を行使し、2007年12月にBAN2401
について、全世界での研究・開発、製造、販売に関する独占ライセンス契約を締結した。

Aducanumab(BIIB037)は、Neurimmune社のReverse Translational Medicine と呼ばれるテクノロジー・プラットフォームを用いて作成されたヒト遺伝子組換えモノクローナル抗体(mAb)であり、認知障害の兆候のない健康な高齢者、または進行が異常に遅い認知機能障害のある高齢者から採取した、非特定化B細胞ライブラリーに由来 する。
Biogenは、Neurimmune社より共同開発およびライセンス契約締結のもとにaducanumabを導入した。


両社は2014年3月に、
エーザイが開発している次世代アルツハイマー型認知症治療剤であるBACE 阻害剤 「E2609」、および抗アミロイドβプロトフィブリル抗体「BAN2401」に関する共同開発・共同販促契約を締結した。

合わせて、エーザイはBiogenが開発している抗Αβ抗体BIIB037および抗tau 抗体の共同開発・共同販促に係るオプション権を保有した。

両社はE2609とBAN2401について、エーザイ主導のもとグローバルでの承認取得に向けた開発を進め、承認取得後は欧米などの主要な地域において共同販促を行う。

両社はE2609とBAN2401に係る研究開発費等の費用を分担し、共同販促に基づく売上高はエーザイに計上され、利益は両社で分配する。

エーザイは Biogen より契約一時金、本共同研究の進捗および売上高達成に応じたマイルストン支払いを受け取り、今後、日本を共同開発・共同販促の地域に追加する場合、一定の一時金を受領する権利を保有する。

その後、2014年5月に、エーザイは共同開発・共同販促契約に関して、日本を対象地域に追加するオプション権を行使した。

日本においても、エーザイが開発している「E2609」および「BAN2401」について、エーザイ主導のもとで共同開発を進めるとともに、承認取得後は共同販促を行う。

また、日本における両剤の開発に関わる研究開発費等の費用は両社で分担し、承認取得・発売後の売上高はエーザイに計上され、利益は両社で分配する。

エーザイは、今回のオプション権行使に伴い、Biogenより一定の一時金を受領するとともに、本共同開発の進捗に応じたマイルストン支払い受領の権利を得る。

ーーー

今回の提携契約拡大で、エーザイは、Biogenの抗アミロイドβ(Aβ)抗体BIIB037=aducanumab に対する共同開発・共同販促オプション権を行使した。 (一時金 なし)

両社は、aducanumabの販売に向けて各地域において各社が有する強みや販売基盤をレバレッジするとともに、売上に応じて各社が得る地域別利益配分を調整する。

 

  売上計上

利益帰属

エーザイ Biogen
日本とアジア(中国と韓国を除く) エーザイ 80% 20%
米国 Biogen 45% 55%
欧州 31.5% 68.5%
その他地域 50% 50%

開発費負担:

  Biogen エーザイ
〜2018/3 100%
2018/4〜2018/12 85% 15%
2019/1〜 55% 45%

なお、2014年3月の当初の共同開発・共同販促契約では、共同研究の進捗および売上高達成に応じたマイルストン支払いの条項があるが、今回、双方ともマイルストンの支払いは解消する

 

両社は今回、Biogenの多発性硬化症治療剤「Avonex®」、「Tysabri」、「Tecfidera®」について、日本で現在Biogenが訪問 していない施設に対する共同販促を行うことに合意した。
また、エーザイは、アジア(中国除く)において、上記3製品と「Plegridy®」について独占的販売権を取得した。

多発性硬化症は中枢神経系の脳、脊髄、視神経などに炎症を起こす慢性疾患のひとつ。症状は四肢のしびれから運動麻痺、視力低下まで様々ある。

 


 

2017/10/28    塩野義製薬、新規インフルエンザ治療薬の国内製造販売承認申請

塩野義製薬は10月25日、同社創製の新規キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬S-033188について、成人および小児におけるA型又はB型インフルエンザウイルス感染症を適応症として、日本国内における製造販売承認申請を行ったと発表した。

S-033188は、既存の薬剤とは異なる作用機序でインフルエンザウイルスの増殖を抑制する新規化合物であり、2015年10月に厚生労働省より先駆け審査指定制度の対象品目に指定されている。

先駆け審査指定制度は、2014年6月に厚労省が取りまとめた「先駆けパッケージ戦略」の重点施策や、「日本再興戦略」改訂2014を踏まえて導入したもの。

患者に世界で最先端の治療薬を最も早く提供することを目指し、一定の要件を満たす画期的な新薬等について、開発の比較的早期の段階から対象品目に指定し、薬事承認に係る相談・審査における優先的な取扱いの対象とするとともに、承認審査のスケジュールに沿って申請者における製造体制の整備や承認後円滑に医療現場に提供するための対応が十分になされることで、更なる迅速な実用化を図る。

原則として既承認薬と異なる作用機序により、生命に重大な影響がある重篤な疾患等に対して、極めて高い有効性が期待される医薬品を指定する。

審査期間をこれまでの半分の6ヶ月まで短縮することを目指す。

ーーー

現在、治療に用いられている抗ウイルス剤はノイラミニダーゼ阻害剤(Neuraminidase inhibitors)で、増殖されたウイルスの放出を阻害して感染の拡大を防ぐもの。

オセルタミビル(oseltamivir)  Roche 商品名 タミフル
ラニナミビル(Laninamivir) 第一三共 商品名 イナビル
ペラミビル (Peramivir)     米国 BioCryst Pharmaceuticals

発症後48時間以内に服用しなければ効果が得られず、タミフルの場合は5日間程度服用を続ける必要がある。

エボラ出血熱の治療に使われた富士フィルムのファビピラビル(favipiravir)(商品名アビガン)は元々インフルエンザ用治験薬で、ウイルスの細胞内での遺伝子複製を阻害することで増殖を防ぐRNAポリメラーゼ阻害剤である。

これに対し、塩野義の新薬(S-033188)はウイルスが細胞に進入後、最初の反応となるmRNA合成の開始を特異的に阻害するCapエンドヌクレアーゼ阻害剤である。
ウイルスの増殖に必要なタンパク質が合成できなくなり、ウイルス粒子が形成されなくなる。
タミフルが5日間の服用が必要なのに対し、1回の服用で治療できる。

2015/11/6  塩野義製薬、インフルエンザ新薬を開発、1回投与で治療

S- 033188は、成人または小児を問わず、経口による1回のみの錠剤の服用で治療が完結するため、利便性が高く、確実なアドヒアランス(患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けること)が期待できる。

これまで に実施した健常なインフルエンザ患者を対象とした臨床試験では、既存薬の タミフル®と比較して、抗ウイルス効果が高く、投与翌日には50%以上の 患者(小児を含む)でウイルス力価(感染性を有するインフルエンザウイルス粒子の指標)の陰性化が認められている。

そのため、家庭内や学校、職場等でのウイルス伝播、飛沫/空気感染拡大に対しても一定の抑制効果を示すことが期待される。

また、副作用の発現率がタミフル®と比較して有意に低く、 従来の治療と同等以上の安全性を示すと考えられる。

なお現在、 重症化、合併症を起こしやすいリスク因子を持つハイリスク患者を対象とした臨床試験を スイスのF. Hoffmann-La Roche との提携下、塩野義製薬が実施中。

塩野義製薬は2016年2月29日、S-033188の提携に関するライセンス契約を Roche との間で締結したと発表した。

日本と台湾を除く全世界におけるS-033188の開発をRocheとの提携下で進める。(日本では、Roche が61.62%出資する中外製薬がタミフルを販売している。)

2016/3/2   塩野義製薬、新規インフルエンザ治療薬の開発でRocheと提携 


2017年10月30日 建設現場でのアスベスト被害で高裁で賠償命令、一審逆転 

建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み健康被害を受けたとして、神奈川県の元建設作業員と遺族計89人が国と建材メーカー43社に総額28億8750万円の損害賠償を求めた「建設石綿横浜第1陣集団訴訟」の控訴審判決で、東京高裁は10月27日、請求を棄却した2012年5月の1審・横浜地裁判決を取り消し、国とメーカー4社の責任を認めて計約3億7200万円の支払いを命じた。

国が1975年に建設作業での石綿吹き付けを原則禁じるなどの対策を講じてから5年たった1980年までに、事業者に対して屋内建設現場で作業する労働者に防じんマスクを着用させる罰則付きの義務化を図らなかった点などを違法と判断 した。(1981年1月以降を違法とした。これまでは、1975年以降を違法とする判断があった。)

建設石綿訴訟では、これまで7件の地裁判決があり、国の責任をみとめたものが6件、メーカーの責任を認めたものが2件あった。
今回の控訴審で国の責任を認めなかった横浜地裁判決が否定され、全てで国の責任が認められることとなった。メーカー責任を認めるのは3件となった。

下記の通り、工場労働者型(屋内型)については、国は最高裁判決に基づき、被害者が新たに同種訴訟を起こせば賠償に応じる方針であるが、建設石綿訴訟では今後も争う立場をとっている。

最高裁判所の判例(筑豊じん肺訴訟最高裁判所判決等)では、規制権限の不行使が国家賠償法上違法となるのは、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、当時の具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに限られる。

国は、戦前から、石綿についても粉じんの一つとしてその衛生上の有害性を認識し、その時々の医学的知見、工学的知見に応じ、使用者に一定の義務を課すなどの措置を講じ、適時にかつ適切に、措置を強化してきたものであり、建築現場における実態をも踏まえると、国の規制権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くとは認められず、国家賠償法上の違法は認められないと主張している。

これまでの建設石綿訴訟の判決は次の通り。(〇は有罪、Xは無罪)

  判決 メーカー  
横浜地裁(1陣)
  
2012/5 X X

原告の請求を全て棄却

「1972年時点で、石綿粉じん曝露により肺がん及び中皮腫を発症するとの医学的知見が確立した」
2006年に至るまでアスベスト建材の使用を全面禁止しなかったこと等について、「著しく合理性を欠く」と言うことまではできない。

   東京高裁 2017/10 国とメーカー4社の責任を認めて計約3億7200万円  

1972年ごろまでには石綿が健康被害を及ぼすとの医学的知見が確立していた。
国が1975年に建設作業での石綿吹き付けを原則禁じるなどの対策を講じてから5年たった1980年までに、事業者に対して屋内建設現場で作業する労働者に防じんマスクを着用させる罰則付きの義務化を図らなかった点などを違法と判断。 (1981年1月以降は違法)
義務化が実現した1995年4月までに現場で作業していた本人や遺族計44人への賠償を認めた。

(メーカー)
1975年時点で石綿の危険性などを建材に警告表示する義務があった。
石綿製品のシェアなどから、エーアンドエーマテリアル、ニチアス、エム・エム・ケイ、神島化学工業に賠償責任があるとし、本人や遺族計39人への賠償を認めた。

(一人親方)
労働関係法令が保護対象とする「労働者」には当たらず、国は賠償責任を負わない。

東京地裁
  
2012/12 X 国に対する請求を一部認容
170人に総額10億6394万円の賠償命令

国は石綿の吹き付け作業では1974年、切断などでは1981年に規制の義務を負っていたが怠り、違法だ。

遅くとも1981年以降
・事業者に防じんマスクの着用を罰則つきで義務づける
・建材に「肺がんなどを生じさせる」と警告表示する
などの対策をとれば、多くの被害を防止できたと結論づけた。

 

この時期以降に屋内で建築作業に従事した労働者に限り、国の賠償責任がある。
 
屋外作業では危険性を容易に認識できたと言えず、零細事業主や個人事業主についても国は責任を負わない。

(メーカー)石綿を含有した建材の製造販売企業に共同不法行為は成立しない。

2012/12/10 建設労働者アスベスト訴訟、国に初の賠償命令

  東京高裁 2018/3 X 付記 2018/3/19 建設石綿訴訟の控訴裁判決、一人親方も救済
福岡地裁
  
2014/11 X 国に対する請求を一部認容
36人に総額1億3700万円の賠償命令

建設現場での防じんマスク着用は「被害防止対策としては唯一有効な手段」

国は遅くとも1975年までには石綿被害の危険性を認識できた。
同年から罰則付きでマスク着用を義務づけるべきだった。
危険性を知らせる警告表示について、建材や建設現場などで義務づけるべきだった。

1995年まで国がこうした規制を怠ったのは「違法」

(メーカー)
加害企業の特定が出来ない。
「建材メーカーは製造販売の時期や製品がそれぞれ異なり、加害行為の一体性を一律に認めることはできない」
「42社以外に損害を与える企業がなかったと証明されていない」

(一人親方)
個人事業主で労働基準法が適用される労働者に当たらない。

大阪地裁 2016/1 X 国の責任を一部認める。
原告14人に計9746万円

国は遅くとも1975年には、石綿吹き付けなどに従事した作業員が石綿関連疾患を患う危険性を認識できた。
国は1975年時点で、事業者に対して労働者に防じんマスクを使用させるべき義務を明示的に定めるべきだった。

(メーカー)被害者が実際に扱った石綿建材を具体的に特定するものではない。

(一人親方)労働関係法令の保護対象ではない

2016/1/27 建設アスベスト訴訟で国が3度目の敗訴

京都地裁 2016/1 国に対しては原告15人に総額1億418万円、建材企業9社に対しては原告23人に総額1億1245万円の支払いを命じる

国については、
・吹付作業者に対する規制については1972年10月1日以降、
・建設屋内での石綿切断等作業については1974年1月1日以降、
・屋外での石綿切断等作業については2002年1月1日以降、
国が、アスベスト建材について防じんマスクの着用や集じん機つき電動工具の使用、さらには警告表示を義務づけることの規制を怠ったことの違法性を認めた。

(メーカー)
主要なアスベスト建材企業であるエーアンドエーマテリアルやニチアス、ノザワなど9社について、被害者23名との関係で共同不法行為責任(民法719条2項)を肯定し、同種訴訟で初めて企業の賠償責任を認めた。
国の賠償の対象とされてこなかった「一人親方」ら個人事業主も含まれる。

(一人親方)
労働安全衛生法の保護対象に含まれないとして救済を否定したものの、「(一人親方を)保護する法律を定めなかった立法府の責任を問うことで解決されるべき問題

2016/2/2 アスベスト訴訟でメーカーに初の賠償命令

札幌地裁 2017/2 X 国に計1億7600万円の賠償を命じた。

国は1979年には建設現場での石綿の危険性を認識していたと指摘した。
1979年以前に就労していた元労働者には賠償を認めず

(メーカー)
発症原因の企業を特定できないとして退けたが、国と建材メーカーによる損害補償制度の創設の必要性を指摘した。

(一人親方)
「一人親方」として働いた期間の国の責任も認めなかった。

横浜地裁(2陣) 2017/10 国とメーカー2社 (ニチアスとノザワ) に対し、計約3億円を原告39人に支払うよう命じた。国とメーカーの賠償対象が8人。
国のみが29人。メーカーのみが2人。

国は遅くとも1976年までには防じんマスクなどの使用や作業現場への警告表示を義務付けるべきだった。

(メーカー)
同時期までにアスベストの危険性を警告する義務があったのに怠ったと認定
発症原因だとほぼ特定できた建材メーカー2社に賠償を命じた。
 

 

なお、工場労働者型(屋内型)については、石綿産業が集中していた大阪府南部・泉南地域の石綿工場の元労働者等や近隣住民及びその遺族を原告とする訴訟について、最高裁判所は、2014年10月9日、元労働者及びその遺族に対する関係で、国の局所排気装置の設置義務付けに係る規制権限不行使の違法を肯定する判断を示した。

大阪アスベスト訴訟(第1陣)については国の責任を全部否定した大阪高裁の判決を破棄・差戻し、大阪アスベスト訴訟(第2陣)については、国の責任を一部認めた大阪高等裁判所の判決を維持した。

その後、大阪アスベスト訴訟(第1陣)については、差戻し後の大阪高等裁判所において、和解の成立に向けた協議を行った結果、同年12月26日、原告との和解が成立した。

2014/10/10 アスベスト訴訟、最高裁 「国に責任」の判断
 

2014年の最高裁判決後の和解で、条件に合う被害者が新たに同種訴訟を起こせば賠償に応じる方針であるが、対象者のうち多数が訴訟を起こしておらず、賠償金を受け取っていないままである。

厚生労働省は2017年10月2日、アスベスト工場の元労働者や遺族ら2,314人に対し、国賠訴訟を起こすよう個別に通知する方針を正式に発表した。裁判を起こせば、積極的に和解手続きを進めて賠償金を支払う。

2017/10/3  厚労省、アスベスト被害者に国に対する訴訟を督促

 


2017/10/31  住友化学、新タイプの屋外用蚊よけ製品発売へ

住友化学は10月27日、子会社の 住化エンバイロメンタルサイエンスと共同開発した「STRONTEC®屋外用蚊よけ」が防除用医薬部外品として承認されたと発表した。2018年3月に発売する。

住友化学が開発した高い揮散性を有するピレスロイド系化合物メトフルトリンを有効成分とする薬液を超音波振動で微細な霧にして30秒に1回、噴霧する 。

電池式で携帯可能(横 112mm、高さ 105mm) で、交換式の薬液ボトルは 1本で約30時間使用できる。
また、約40u(半径約 3.6m)の範囲で効果を発揮することから、キャンプ場やオープンテラス、ガーデニング、スポーツ観戦、野外コンサート、花火大会などのアウトドアシーンで活躍 する。

 

超音波噴霧技術とは、電圧をかけることで伸縮するピエゾ素子を応用した噴霧技術で、ピエゾ素子の伸縮エネルギーを液体に伝えることで液体を微粒子化し、噴霧 する。

ピエゾ素子(圧電素子)は、小型・省電力でありながら、電圧をかけると振動するという特徴のため、携帯電話のスピーカー、インクジェットプリンターの吐出機構、超音波モーターなどに利用されてきた。 (ピエゾはギリシャ語の piezein:押すに由来している。)

圧電効果は、水晶や特定の種類のセラミックなどに圧力を加えることで生じるひずみに応じて、電圧が発生する現象で、1880年にピエール・キュリーと兄のジャック・キュリーが発見した。
圧電効果を利用して電気を取り出したり、逆に電圧をかけることで振動を取り出す電子部品が「圧電素子」である。

圧電素子の基本的な構造は、圧電材料を電極で挟むだけの単純なもの。
     http://www.tdk.co.jp/techmag/knowledge/200803u/

住友化学では、この特徴に着目して超音波噴霧という技術に応用し、ピエゾ素子の振動エネルギーを液体に伝えることで微粒子化し、省電力ながら、虫よけ剤の有効成分を効率的・安定的に噴霧・拡散できる技術を確立 した。


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