2021/4/1 Pfizer / BioNTech、ワクチン年産25億回分に拡大
BioNTechは3月30日、米Pfizerと共同開発した新型コロナウイルスワクチンについて、2021年末までにPfizerと合わせた生産能力を25億回分に拡大させると表明した。従来計画より2割高め、各国からの需要に応える。
BioNTechはドイツのMarburgの新製造施設のほか、他の製造業者や供給業者とのネットワーク拡張などで増産が可能になったと説明した。生産能力拡大は需要増に対応したものとし、一段の拡大に向け協議を進めていると明らかにした。
BioNTechは受注残を踏まえるとコロナワクチンの今年の売上高は98億ユーロになるとの見通しを表明した。「コロナワクチンによる売上高を新たなワクチンや治療薬の研究と開発に投資する大きな機会が見え始めている」としている。同社の2020年12月通期の売上高は前の期の4.4倍の4億8232万ユーロだった。2021年の売上高は2019年の売上高の約100倍となる。
状況は次の通り。
供給
BioNTechのワクチンは現在、緊急承認等を含め65か国以上で承認されている。
BioNTechとPfizerは3月23日時点で2億回分を供給、2021年の供給分として14億回分以上の受注が確定している。
本年2月に米国政府は1億回分の追加のオプションを実行し、19.5億ドルを支払った。米国向けは合計3億回分となった。
同じく2月にECとの間で2億回分の追加の契約を結んだ。2021年末までの供給は合計5億回分となるが、更に1億回分の追加のオプション契約を結んでいる。
ワクチン生産
BioNTechとPfizerは2021年末までに生産能力を25億回分に引き上げる。
これは、生産プロセスの最適化、最近のBioNTechのドイツ
Marburg工場での生産開始、 1つの小瓶( vial) からの接種が5回分 としていたのを6回分とすることが認められたこと、製造・供給ネットワークの拡大による。更なる改善策が検討されている。
Marburg工場:
BioNTech は供給量の拡大のため2020年10月にNovartis AGからドイツ のMarburgのGMP製造施設を取得した。
European Medicines
Agencyは2021年3月26日にMarburg工場でのワクチン製造を承認した。
製造能力は年間10億回分で、世界最大のmRNAワクチン製造施設の一つとなる。4月後半に最初の出荷が行われる。
Marburg
工場は、最先端の multi-platform
GMP認定製造施設で、組換えタンパク質の生産設備を完備しており、細胞培養ラボとウイルスベクター生産機能を備えている。
長期的な成長と拡大の余地がある。
工場には100年の伝統がある。ジフテリアと破傷風の抗毒素を開発した Emil von
Behringによって1904年に設立された。 1901年にノーベル医学賞を受賞した賞金を製造現場の資金として使用した。 1904年の設立以来、ワクチンの製造を含む医薬品および生物学的イノベーションの最前線に立っており、その結果、高度に確立されたインフラストラクチャが備わっている。
世界の生産設備
Pfizerは米国3工場とベルギー工場、BioNTechはドイツ2工場
別途、LNP(脂質ナノ粒子)の生産やワクチン充填については能力を拡張している。
利益配分
Pfizerとは中国を除く世界全体で利益 (gross profit )
を50:50で配分する。
BioNTechは中国ではFosun Pharma ( 上海復星医薬 )と提携している。
中国でのGross Profit の35〜40%を受け取る。
2021/4/2 バイデン大統領、American Jobs Plan
発表、8年間で2兆2500億ドル投資
バイデン大統領は3月31日、国内のインフラの整備等に8年間で2兆2500億ドル、日本円で220兆円を投入する新たな計画を発表した。
3月11日に1.9兆ドル(約200兆円)規模の新型コロナウイルス対策法案(American Rescue Plan )
が成立したが、今回は大規模な財政出動で雇用を作り出すとしている。
米国は金持ちだけではなく、全員が豊かになることが必要であるとし、フェアで、世界で最強で、最も回復力があり、イノベーティブな経済をつくるとしている。
「(過去の経済成長では米国社会の多くの層が取り残されていたが、)われわれは誰も置き去りにすることはない。誰もが成功すれば、皆がもっとうまくいく」と述べた。
大統領スピーチ全文
全体の計画は、American Jobs Plan とAmerican Families Planの2部に分かれ、今回はAmerican
Jobs Plan を発表した。数週間後に 医療など社会福祉の拡充策のAmerican
Families Planを発表する。
「American Jobs Plan」と題した同プログラムの期間は8年。 老朽化した道路や橋の補修や 電気自動車の充電ステーション設置など交通インフラに6,210億ドルを投じるほか、飲料水・電力網・ブロードバンドに3,110億ドル、福祉施設
に4,000億ドル、 半導体などの製造業のサプライチェーンの強化や人工知能の開発などに5,800億ドルを投じる。
「第2次世界大戦以降、最大の雇用に対する投資だ。何百万もの賃金の高い雇用を生み出し経済を成長させ、中国との競争に勝てるようにする」と強調した。
計画内容は下記参照。詳細はFACT
SHEET: The American Jobs Plan
財源として、増税を発表した。15年かけて今回のコストをすべて賄えるとしている。
現行で21%の法人所得税率を28%に引き上げる。各国が行っている税率引き下げ競争を米国は止める。
Tax Haven
国への本社移転で税回避するのを防ぐため、種々の対策を折り込む。 世界的に事業展開する企業の利益に税率21%のミニマム税を適用するが、国別に計算することで、Tax Haven国での利益にも課税する。
今後、ホワイトハウスは法制化に向け、与野党の議会指導部と交渉に入るが、コロナ対策とは異なり、簡単ではない。
投資計画の内容は下記の通り。(億ドル)
交通インフラ
5,210
+1,000
*
道路、橋梁の修理
1,150
公共交通の近代化
850
鉄道サービス
800
電気自動車
1,740
港湾、水路、空港の改良
250
未来の交通インフラ
200
その他
220
インフラ改善
500
洪水、山火事、ハリケーン、その他リスク対応
500
飲料水、電気、ブロードバンド
3,110
クリーンな飲料水
1,110
電力網
1,000
high-speed broadband
1,000
住宅、公共施設
2,130
2,130
教育施設
1,370
学校建設、改善
1,000
地域短大
120
保育施設
250
退役軍人病院ほか
280
退役軍人病院
180
連邦ビルの近代化
100
福祉施設
4,000
老人、障碍者のケア
4,000
R&D、製造近代化、中小企業
5,800
R&D、未来の技術への投資
1,800
製造業、中小企業活性化
3,000
Workforce Development
1,000
その他
100
100
合計
22,500
22,500
* 他の項目に含まれる。
2021/4/2 Johnson &
Johnson、ワクチン製造でトラブル
Johnson & Johnson は3月31日、「COVID-19ワクチン製造に関する声明」
という奇妙な発表を行なった。
J&Jは2020年初めからグローバルなパンデミックを終わらせるため、各国政府、各機関、他社と協力してきた。現時点でも、2021年末までに10億回分以上の割合でワクチンを供給できると期待している。
1回接種で済むワクチンを3月末までに米国で20百万人以上に供給できた。これは2021年上半期(出来れば5月末まで)に米国で1億人に供給する計画の部分である。
ワクチンのような製品の製造では新プロセスのスタートアップに当たり試作と品質チェックを行い、製造に問題がなく、最終製品が高品質の基準を満たしていることを確認している
。
この品質チェックのプロセスで、委託先のEmergent
Biosolutions(まだCOVID-19ワクチン製造の承認を得ていない)でワクチン成分(drug substance)の1バッチが品質基準に合致していないことを見つけた
。
これは品質チェックが厳重に行われていることの証であり、FDAにも報告している。
品質管理と安全性は我々の最優先事項であり、Emergent BiosolutionsのBayview設備の緊急使用承認を得るべく、FDAやEmergent Biosolutionsと作業を続けている。
委託先のEmergent Biosolutionsでトラブルがあったことが分かるが、その内容や影響は分からない。年末までに10億回分以上の割合での供給は可能としているが、年末までに10億回分の供給ではない。
at a rate of more than one billion
dosesという表現は恐らく、(当面は減産となるが)年末時点の能力がそうなるということのように見られる。
これについて、New York
Timesは3月31日、情報源を明らかにせず、次のように報じた。
Johnson & Johnson の委託先のEmergent BiosolutionsのBaltimore州 Bayviewの工場は、AstraZenecaのワクチンの受託もしているが、数週間前に両社のワクチン成分を混合してしまい、Johnson
& Johnsonのワクチン1500万回分が不良品となり、米国での今後の出荷が遅延する。
FDAは原因をヒューマンエラーと判断し、同工場でのワクチン生産の承認を延期した。
Johnson &
Johnsonは更なる問題を避けるため、Emergent BioSolutionsの品質管理を強化する。
現在米国で使われているJohnson
&Johnsonワクチンはオランダ製であるが、来月の2400万回分はここから出荷する予定であった。
FDAがEmergent BioSolutionsでのワクチン生産を認めない限り、ここからの出荷は出来ず、単にダメになった1500万回分だけの問題ではない。
Johnson &
Johnson声明では、ミスが見つかったのは品質チェックが厳重に行われているためとしているが、AstraZenecaのワクチン成分を混合するなどは品質管理の基礎が出来ていないことを示している。
日本でも 小林化工で水虫などの皮膚病用の飲み薬に睡眠導入剤が混入した問題があったが、ルール通りにやっておれば、起こりえないミスである。
2021/4/3 三井金属鉱業、銅鉱山から撤退
三 井 金属 鉱業 は 3月24日、 同社が保有するチリ共和国・ コジャワシ
(Collahuasi) 銅鉱山権益 について、 三井物産 に譲渡すると発表した。
同社はこれに先立ち、チリのカセロネス銅鉱山の権益も売却しており、今回の売却で銅鉱山から撤退し、排ガス触媒など需要が見込める機能材料に経営資源を集中する。
三 井 金属 鉱業 は 1996 年から 2 5 年に わたり Japan
Collahuasi Resources (JCR)を通じて 三井物産(及び2018年まではJX金属)と共に コジャワシ 銅鉱山の権益を保有してきたが、今回、同社が保有する JCR 株式 8.1 % 全量 ( コジャワシ銅鉱山権益 見合 0.97% ) を三井物産に譲渡する。
同鉱山は年約50万トンの銅を生産する。
売却額は非公表としているが、譲渡に伴って2021年3月期に95億円の特別利益を見込む。
なお、売却先の三井物産は 、チリでコジャワシ 銅鉱山のJCRと
、 ロス・ペランブレス(Los
Pelambres) 銅鉱山のNippon
LP Resources(NLP)の権益を持っていたが、2018年2月にJX金属から JCR の権益を取得し、 NLPの権益をJX金属と丸紅に譲渡した。
今回の取引で三井物産はJCRの全権益を取得する。
* 三菱コンソーシアムは三菱マテリアル(10%)と三菱商事(5%)
ーーー
チリのカセロネス銅鉱山(Caserones Copper Mine)は三井金属工業とJX金属、三井物産が共同出資していた。
2020年11月9日にJX金属は、三井金属鉱業及び三井物産から両社保有の全てのカセロネス銅鉱山権益(三井金属:25.87%、三井物産22.63%)を譲り受けることについて基本合意し
、2021年2月初めに取引が完了した。
現在までに生産は安定化し、収益性が確保できる状況となったため、今後、さらなる生産量増大に向けた新たな段階に入ろうとしているが、三井金属は他事業への経営資源投入を優先することとし、三井物産は金属資源事業ポートフォリオを見直すこととしたため、今後は、JX金属がカセロネス銅鉱山の経営を担うこととしたもの。
三井金属は2020年3月期の有価証券報告書で「リスク」として次のように述べていた。
チリのカセロネス銅鉱山事業は、大雪等の悪天候による操業停止、生産効率低下、銅価変動による減損リスクを抱えております。これまで4回の減損損失を計上しており、その状態が長期間続いた場合には、減損リスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。
権益の売却に当たり、三井金属は200億円の減損損失を計上した。
2020/11/14 JX金属、チリのカセロネス銅鉱山の全権益取得
これについて、SKは「長年独自に蓄積してきたバッテリー技術力を認められたものだ。数年の歳月をかけてリチウムイオン電池の技術を開発した」とコメントした。「今回訴訟の対象となった特許4件のうち3件は10年前に韓国国内でも訴訟になり、SKが勝訴している」としている。
そして、「今回の決定でSKが特許権などの知的財産権を侵害していないと認定されたことで、米大統領がさきのITC決定に拒否権を行使できる名分が生じた」と述べた。またLGとの賠償金額交渉でも優位になるとしている。
LGは「今回のITCによる決定は残念だが尊重する。仮決定で分離膜のコーティングに関する重要特許は有効性が認められており、最終決定でSKによる侵害を立証したい。残りの3件でも、特許の有効性を認められるよう準備する」とコメントした。
今回の決定は、1)
には直接影響を与えないが、SKによる独自の技術力がある程度認められたことになり、両社による和解金交渉や「世論戦」でSKに有利な要因になり得ると見られる。
3)のSKがLGを提訴した特許権侵害訴訟に関し、LGは2020年8月にITCに対しこの訴訟を却下することを求めていた。SKが営業秘密侵害に関連した「文書削除」をしたことを理由にしている。
しかし、ITCは4月2日、LG側の要請を棄却した。LGの要請事項は一方的な主張にすぎず、特許の件に関してはSK側の文書がよく保全されているなどの理由を挙げた。
このため、SK側が提起した特許訴訟も予定通りITCの調査を受けることになった。
ITCはSKが提起した特許訴訟の予備判決を7月30日に出す予定で、LGの特許侵害が認められる場合、LGバッテリー製品に対して米国内輸入禁止措置が取られる可能性がある。
2021/4/5 LG
Electronics、 スマホ事業撤退を発表
韓国 LG
Electronics は4月5日、スマートフォン事業から撤退すると発表した。
中価格帯のスマホ市場で劣勢だった同社は2022年1月の米家電見本市「Consumer Electronics
Show」でディスプレー画面を巻物のように伸縮可能な新型スマホン「LG
Rollable 」 を発表し、高価格帯にシフトする姿勢を示したばかりだった。
「LG Rollable 」は その後、開発を中止した。
同社は昨年9月にT字型ディスプレイ搭載スマホ「WING」を発売し注目をあびたが、ほとんど売れていない。
LG Electronics は北米や中南米、韓国中心に世界でスマホを販売しているが、2020年12月期の販売台数は約2500万台で、売上高は5兆2171億ウォン(約5100億円)、営業損益は8412億ウォンの赤字だった。
赤字は2015年から6期連続で、この期間の累積赤字は4兆7100万ウォン(約4600億円)規模に膨らんでいた。
単位:兆ウオン( 1ウォン=0.098円)
売上高
営業損益
2015
14.34
-0.12
2016
12.24
-1.22
2017
11.16
-0.74
2018
7.88
-0.78
2019
5.97
-1.01
2020
5.22
-0.84
累積
-4.71
2020年の韓国市場では、Samsungが65%を占め、次がAppleの20%、LGは13%(前年は16%)に留まっていた。中国勢に押され、グローバル市場でのシェアは1%程度とされる。
これまで国内生産の撤退や外部委託の活用などでコスト削減を進めたが、黒字化の道筋が見えなかった。
同社は2019年に、国内最大のスマートフォンの生産拠点だった平沢工場をベトナムに移転した。
これによってスマートフォンの工場はすべてベトナム・中国・ブラジル・インドなどの海外に所在している。
このため、同事業の売却を図り、交渉を行ったが、うまくいかず、最終的に外部への技術流出を懸念して売却を断念し、事業撤退を決めた。
当初、有力な売却先としてベトナムのVingroupやドイツのVolkswagenと交渉したが成立しなかった。
Vingroupはベトナムのコングロマリットで、 事業は不動産、ホテル・リゾート開発、遊園地事業、小売業、病院事業、教育事業など多岐に渡る。
Vingroupがスマホ事業に乗り出したのは2018年で、それ以来LGと提携しODM生産を行っているため、スマホ事業売却先としてVingroupの名前が浮上した
。
しかし、 Vingroupが提示した金額がLG側の希望額に及ばなかったため、破談になったとされる。
グローバル市場でのシェアが低く、高い価格で購入する買い手を探せなかった。
7月末をメドに自社スマホの販売を終了する。「スマホの競争激化で事業不振が続いており、主力事業に集中する」と撤退の理由を説明した。
約3700人いるスマホ部門の人材は業績好調の家電やテレビ部門に転籍し技術を生かす。車載電池を手掛けるLG化学でも受け入れる。
2021/4/6 SinochemとChemChinaが合併
国務院国有資産監督管理委員会( The
State-owned Assets Supervision and Administration Commission of the
State Council :SASAC )は3月31日、
傘下の 国有化学会社の中国中化集団(Sinochem)と中国化工集団(China
National Chemical Corporation: ChemChina )の
統合を承認した。
国有企業を重視する習近平指導部の下、鉄鋼や造船などの業界で国有大手同士の合併が続いている。
統合会社はグローバルな化学会社となり、「資源配分の最適化をさらに進め、イノベーションを強化し事業の成長を促
し、中国の化学産業の発展にも寄与する」としている。
Sinochemはエネルギー、農業資材、化学品、ファイナンス、不動産をコア事業として展開する国営企業。
ChemChinaは2004年 5月に国営のChina
National Blue Star Group(藍星グループ)と China Haohua Chemical Industrial (Group)
(昊華化工)を統合して設立された。 両社はSASACが運営する新たな持ち株会社の完全子会社になる。
両社を統合し、異なる基幹産業を連携した、国際競争力を持つ巨大企業を創出する取り組みは以前から行われていた。
両社の会長を兼任するNing Gao Ning( 宁高宁) は2019年当時から両社を統合すれば原料の石油から化学製品製造までの一貫した事業を担う1000億ドル規模の企業が誕生すると語り、意欲を示していた。
2020年には両社の農薬事業を統合している。
ChemChinaは2016年2月にはスイスの農薬・種子メーカー、Syngentaを430億ドル余りで買収することで合意した。
2016/2/5 中国化工集団(ChemChina)、スイス農薬のSyngentaを買収
買収に際し米国当局は、ChemChinaが株式の60%を取得したイスラエルのADAMA
Agricultural Solutions とSyngenta の両社が米国でともに扱う除草剤、殺虫剤、殺菌剤の3剤を売却するなどの条件付きで承認を与えた。
2020年6月、ChemChinaは、グループ子会社のスイス農薬・種子大手Syngenta、グループ子会社のイスラエル農薬大手ADAMA
Agricultural Solutions、Sinochemの農業関連事業部門の3者を統合し、Syngenta
Groupを設立すると発表した。
Syngenta Groupの下に、Syngenta Crop
Protection、Syngenta Seeds、Syngenta Group China、ADAMA Agricultural
Solutionsの 4中核会社体制となる。
ADAMA Agricultural Solutionsは旧称Makhteshim
Agan で、イスラエルに本拠を置くジェネリック農薬の最大手。2011年に
ChemChinaが株式の60%を取得し、上場を廃止した。
ーーー
ChemChinaは2004年 5月に国営のChina
National Blue Star Group(藍星グループ)と China Haohua Chemical Industrial (Group)
(昊華化工)を統合して設立された。
同社はこれまでに多数の買収を行ってきた。
2005年10月に豪州の石化会社Qenosを買収した。
2006年1月にはCVC Capital Partners
から子会社で動物用栄養製品メーカーの Adisseoを買収している。
2006年10月26日にフランスのローディアとの間でローディアのシリコーン事業を買収する契約を締結した。
2006/10/30 中国化工集団公司(ChemChina)の海外進出
2015年3月23日、イタリアのタイヤ大手Pirelli
を買収すると発表した。
2015/3/27 ChemChina 、伊タイヤ大手ピレリを買収
2016年1月11日、ドイツの射出成型機械メーカーのKraussMaffei
をカナダのOnex Corp.から925百万ユーロで買収すると発表した。
2016年2月にはスイスの農薬・種子メーカー、Syngentaを430億ドル余りで買収することで合意した。
2016/2/5 中国化工集団(ChemChina)、スイス農薬のSyngentaを買収
ーーー
トランプ米大統領は2020年11月12日、中国軍によって所有または支配されていると米政権がみなす中国企業 (“Communist Chinese
military company” )について、米国人による投資を禁止する大統領令に署名した。
“Communist Chinese military company”
は国防長官が指定する。当初20社が指定されていたが、2020年8月28日に11社を追加、現在31社となっている。
追加分には 中国中化集団
(Sinochem)と中国化工集団( China
National Chemical Corporation: ChemChina )両社が含まれている。
2020/11/13 米国、中国軍支援企業への投資を禁止
2021/4/7 Johnson
& Johnsonのワクチン製造トラブルのその後
Johnson & Johnson (J&J)の委託先のEmergent BiosolutionsのBaltimore州 Bayviewの工場は、AstraZenecaのワクチンの受託もしているが、数週間前に両社のワクチン成分を混合してしまい、J&Jのワクチン1500万回分が不良品と
なり、米国での今後の出荷が遅延することが判明した。
2021/4/2 Johnson
& Johnson、ワクチン製造でトラブル
J&Jの発表後すぐに、Biden政権はこれに介入した。 NY
Times によると米保健福祉省はJ&Jに対し、新しいリーダーシップチームを派遣し、 Bayview工場でのワクチン製造の全ての面で引き継ぐよう指示した。
同工場ではこれまで、J&JのワクチンとAstraZenecaのワクチンを製造していたが、保健福祉省によれば、今後はJ&Jのワクチンのみを製造する。 保健福祉省 はAstraZenecaと協力し、AstraZenecaのワクチン生産を別の場所に移すことで合意した。
専門家によれば、以前はFDAはこのような事故を避けるために1工場で2つの生ウイルスベクターワクチン
を生産するのを認めていなかったという。いつ、なぜ、この方針がなくなったのか不明。
J&Jは Bayview工場での生産に全責任を持つ述べた。ワクチン製造で提携したMerckからも人員が派遣される。
Biden大統領は3月2日、新型コロナウイルスワクチンについて、5月末までに米国の全ての成人の接種分を確保できる見通しだと述べた。
大統領は、米MerckがJohnson &
Johnsonの新型コロナウイルスワクチンを生産すると発表した。J&Jの「1回接種ワクチン」の生産を加速する目的で政府がアレンジした。
Merckは米国の2つの製造設備をJ&Jのワクチン生産に充てる。1つの設備でワクチンそのものを生産し、もう一つの設備で小瓶(vial)に充填する。
同工場はFDAの承認を受けていないため、工場で正常に生産されたワクチンもまだ出荷されていない。これまで米国で使用されたのは全てJ&Jのオランダ工場の生産品である。
J&Jによると、EmergentはJ&Jがワクチン生産で提携する8社のうちの1社に過ぎず、現時点でも5月末までに米政府に1億回分のワクチンを引き渡せられると見ている。
ーーー
Emergent Biosolutionsは米政府のバイオテロ防衛のコントラクターで、炭疽菌ワクチン BioThrax
の唯一のメーカーである。政治力があり、安売り作戦で他社を圧し、ワクチンに関して政府の購入方針に影響を与えている。
2020年に同社はJ&JとAstraZenecaのワクチン生産で740百万ドルの契約を結んだ。さらにトランプ政権のOperation
Warp Speedの部分として Bayview工場の生産余力を保持することで政府と628百万ドルの契約を結んだ。(この契約を結んだ保健福祉省の部門の長は Kadlec次官で、同氏は就任前は Emergentのコンサルタントであった。)
Washington
Postによると、政府とのこの契約の直後に、FDAの係官が工場にいくつかの問題があるとの報告を行っている。従業員の一部は適正な訓練を受けておらず、記録が適正に保存されておらず、試験手続きは守られていない。コンタミを防ぐ手段は十分ではない、としているという。
J&JやAstraZenecaは委託契約を結ぶ際に、これらの情報を全く知らなかったのだろうか。
2021/4/8 米FTC、Illumina によるGRAIL買収に異議
米FTCは2021年3月30日、IlluminaによるGRAILの買収を差し止めを求める訴訟を首都ワシントンの連邦地裁に起こした。
米国の遺伝子解析ツール開発会社Illumina,
Inc.は2020年9月21日、がん検査技術の開発を手掛ける米新興企業 GRAILを80億ドルで買収することで合意した。
Grailの株主は35億ドルの現金とIlluminaの普通株45億ドル相当を受け取る。両社の取締役会はすでに買収を承認している。
Illuminaは現在、GRAIL株式の14.5%を保有している。
実際にはGRAILの他の株主に現金で31億ドル、株式で40億ドル相当、合計で71億ドルを渡すとされる。(計算不明)
GRAIL株主は、12年間にわたり、一定のGRAIL関連収益に応じて支払いを毎年受ける。
取引完了後、Illumina株主は統合会社の93%を所有することとなり、GRAIL株主は7%を所有する。
GRAILは元々、Illuminaが設立した。
世界最大のDNAシーケンサー(塩基配列読み取り装置)メーカーであるIlluminaは2016年1月10日、簡単な血液検査からがんスクリーニングを可能にするため、新会社GRAILの設立を発表した。
Illumina のsequencing
technologyを使用し、血中の循環核酸を直接測定する全がんのスクリーニング検査を開発する。
「シンプルな血液スクリーニングにより無症状の個人でがんの早期検出を可能にすることで、治療可能なステージで疾患を検出し、がん死亡数を大きく減らすことを目標としている」としている。
GRAILはIlluminaが過半数を所有する別会社として設立、シカゴ大学での革新的な技術事業化イニシアティブをスピンオフして1986年に設立されたベンチャーキャピタルのARCH
Venture Partners、アマゾン創業者のBezos Expeditions、Microsoft創業者のBill
Gates、ベンチャーキャピタルのSutter Hill Venturesの参加型投資を得ている。
今回の合併について、IlluminaとGRAILが協力すれば、GRAILの革新的な複数がん早期発見用の血液検査をより幅広くより早く普及させることができるとしている。
ーーー
血中には血中系細胞の死滅時に細胞外に放出される細胞由来のDNA断片( cell-free nucleic acids:cfNAs)が循環しているが、がん細胞が原因で放出されたcfDNAには、DNA中のメチル基のヒドロキシル化が生ずる「DNAメチル化」に異常が起きている。
GRAILは、がん化によって組織ごとに特有に生じるcfDNAのメチル化パターンの異常を同定した。
患者の血中のcfDNAを検査することで、がんの有無とその原発部位を特定する。
同社の技術ですべてのステージを対象にし、5大がんを含む20種類以上のがんをカバーした試験において、特異度が99%であった。
血液中のアミノ酸濃度測定によるスクリーニングテストは5つの癌(乳がん、肺がん、大腸がん、 前立腺がん、 子宮頸がん
)に限られ、1つのテストで1つの癌しか判定できない。
GRAILの手法では50以上の癌が1回の血液検査で分かる。
この技術はGalleriTM multi-cancer
screening testと名付けられた。
ctDNAはごく微量なため、cfDNAを解析するためには検出感度の高い検査が必要で
、IlluminaのNext-Generation Sequencing(NGS)が使用される。
ーーー
米FTCは2021年3月30日、買収を差し止めを求める訴訟を首都ワシントンの連邦地裁に起こした。
委員会は民主党系2名、共和党系2名の委員で構成されるが、4-0の賛成での決定である。
買収によって競争が阻害され、技術革新が停滞すると主張した。競合しない企業同士の統合について、米当局が「もの言い」をつけるのは珍しい。
FTCは、早期の癌検出技術は非常に有用であるが、遺伝子解析装置の購入先としては Illumina以外の選択肢が乏しいとする。
IlluminaがGRAILを買収すれば、GRAIL以外の会社に装置を高く売りつけ、技術革新を阻害する可能性があると指摘した。
民主党系の委員はツイッターに「ヘルスケア業界の垂直統合は競争を阻害し、新たな発見の芽を潰す。患者の費用負担増にもつながる」と書き込んだ。
バイデン政権と民主党は競争政策の見直しを進めている。競争を阻害しかねない合併に対し、より高いハードルを設けるほか、政府の反トラスト法執行要員を増やす
ことを検討している。
これに対しIlluminaはFTCによる発表の直後に声明を出し、FTCによる買収差し止めの動きは、長年の反トラスト法執行実務からかけ離れて
おり、買収計画の遂行に向けて裁判で争う姿勢を示した。
IlluminaとGRAILは競合せず、需要家には契約で遺伝子解析装置の“equal
and fair access”
を保証しており、さらに2025年までに40%以上の値引きを約束していると主張している。
FTCは2019年にもIlluminaによる買収阻止に動いている。
Illuminaは2018年11月1日、米国のPacific
Biosciencesを12億ドルで買収すると発表した。
Illuminaのshort-read sequencing platforms
は正確で手頃であることから、多くのアプリケーションに活用されているが、ゲノムのde
novoシーケンシングや相同性の高いゲノム領域の解析といった一部のアプリケーションに対しては正確なlong-read sequencing
platforsのほうが適している。Pacific Biosciencesのlong-read sequencing platforsが加わることで、統合したワークフローと新たな技術革新を提供する立場となる。
FTCは2019年12月17日、買収について異議を表明し、買収を阻止するための行動を起こした。
Illuminaが買収により新たな競争上の脅威となり得るPacific
Biosciencesを排除することで次世代遺伝子解析システムの米市場における独占を不法に維持しようとしていると指摘した。
これについては英国のCMA(競争・市場庁)も2019年11月に、買収案は差し止めるべきとの判断を発表した。その理由として、器具の抱き合わせ販売の制限といった行動的問題解消措置や、知的財産権の分割といった構造的問題解消措置がとられていない点を挙げた。
IlluminaとPacific Biosciences
は2020年1月2日、買収契約を解除したと発表した。Illuminaが契約解除手数料9800万ドルを支払い、合併提案は撤回された。
2021/4/9 ウクライナ、中国対策で軍需企業を国有化
ウクライナ政府が中国企業によるウクライナの航空用エンジン製造大手 Motor Sich
の買収を阻止するため、同社の国有化に踏み切った。
中国はウクライナの軍事技術を次々と購入してきたが、今回の決定の背景には高度な技術流出を懸念する米国の意向が働いたとみられている。
ーーー
ウクライナと中国の軍事面での関係は深い。
中国の最初の空母「遼寧」はウクライナから購入したものである。
ソ連のクズネツォフ級空母ヴァリャーグはソ連崩壊後、ロシア海軍が保有権を放棄、ウクライナで放置されていたが、中国が買い取り、改修したうえで「遼寧」と命名した。
中国は2019年末には「遼寧」からのリバースエンジニアリングで同型の初の国産空母「山東」を就航させた。
空母に搭載される艦載機についても、旧ソ連で開発が進められていたSu-33艦上戦闘機の試作機T-10Kがウクライナから中国に引き渡され、現在中国で開発が進められているJ-15艦上戦闘機のベースになった。
中国海軍がアメリカ・フランスからの技術導入で建造した052A型駆逐艦は、1番艦は米国製ガスタービンを搭載しているが、天安門事件以降に起工された2番艦はウクライナ製ガスタービンを搭載している。
近年は自国での艦艇用ガスタービンの国産化に成功した。
ーーー
Motor Sich
は、ウクライナのザポリージャに本社を置く航空用エンジンや産業用ガスタービンエンジンの製造メーカーで、ソビエト連邦時代からアントノフ An-124とアントノフ
An-225に搭載されるD-18TターボファンやD-36/D-436シリーズなど様々な航空機の航空用エンジンを生産してき
た。
ソビエト連邦の崩壊後もカモフとミルのMi-24やMi-28などロシア連邦のヘリコプターの80%以上にエンジンを供給していた。
2014年9月にウクライナのロシアとの取引が2014年クリミア危機の影響で制約を受けるようになった。
苦境に陥った同社に投資したのが北京天驕航空産業投資有限公司(Skyrizon) で、2016年には株式の56%を取得した。
最終的に他の中国企業と合わせ約75%を取得した。
しかし、中国重慶に合弁のエンジン工場を作る計画( ウクライナの「世界最大の飛行機」と呼ばれる6発エンジンの大型輸送機
AN-225 のエンジンを重慶で生産する計画) が明らかになり、技術流出を警戒するウクライナ当局が買収の経緯について捜査を始め、2018年には裁判所が中国側が取得した株式の凍結を命じ、買収計画を停止させた。
ーーー
トランプ政権は政権交代直前に対中規制を相次いで発動し、バイデン次期政権にも圧力を続けるよう迫った。
国防総省は1月14日、「共産主義中国の軍事企業(Communist
Chinese military companies) 」のリストにスマートフォン世界3位の小米( Xiaomi
Corp)のほか、航空機メーカーの中国商用飛機(COMAC)など9社を追加した。 米国人はリストに掲載された企業の新たな株式購入が禁じられ、持ち分も売却する必要がある。
商務省はまた中国企業
北京天驕航空産業投資 (Skyrizon) をMilitary
End-User List に加えた。 同リストに記載された企業に対しては、米国製品を輸出・再輸出・国内移送する場合はBISの許可が必要となるが、事実上「原則不許可(presumption
of denial)」となり、取引が一切禁止される。
Skyrizonは 以前からウクライナの航空機エンジンメーカー
Motor Sich の買収に動いており、同社が重慶で中国とのJVで航空機エンジンを生産する計画について、エンジン技術が中国側に渡れば、海洋進出を強める南シナ海などでの軍事力増強につながるとして 米国は繰り返し懸念を示していた。
2021/1/15 トランプ政権、政権交代直前に対中圧力を強化
日本政府も Motor Sich
の買収に反対していたとされる。
ーーー
ウクライナの国家安全保障国防会議は1月28日、大統領令に基づき、中国の航空関連企業Skyrizon グループに対する制限措置を決定した。同時に、Skyrizon グループの王靖会長対しても、ウクライナにおける経済活動、ウクライナ領内の移動、株式取引などが禁止された。
2021年3月11日、ウクライナ国家安全保障国防会議は Motor Sich
を「戦略的重要性」などを理由に再国有化することを決定、3月20日には同国裁判所が同社の全株式と資産を国の管理下に移すことを決定した。国有化に際し、同国は同社株式の過半数を保有する中国企業「北京天驕航空産業投資有限公司」などに補償を行う。
3月23日にゼレンスキー大統領が大統領令に署名して翌日に発効した。
中国はウクライナに反発しており、今後の両国関係に影響が及ぶ可能性もある。ウクライナにとって中国は輸出・輸入とも1位の貿易相手国である。
2021/4/10 米財務省、法人増税計画を発表
バイデン大統領は3月31日、国内のインフラの整備等に8年間で2兆2500億ドル、日本円で220兆円を投入する新たな計画(American
Jobs Plan ) を発表した。
財源として、増税を発表した。15年かけて今回のコストをすべて賄えるとしている。
現行で21%の法人所得税率を28%に引き上げる。 各国が行っている税率引き下げ競争を米国は止める。
Tax Haven
国への本社移転で税回避するのを防ぐため、種々の対策を折り込む。 世界的に事業展開する企業の利益に税率21%のミニマム税を適用するが、国別に計算することで、 Tax
Haven国での利益にも課税する。
2021/4/2 バイデン大統領、American
Jobs Plan 発表、8年間で2兆2500億ドル投資
米財務省は4月7日、バイデン大統領が提案した American
Jobs Plan の財源となる法人増税計画(The Made in America Tax Plan )の詳細を発表した。
イエレン財務長官は新たな法人税制案について「全ての米国在住者にとってより公平なものになる」と指摘、企業が投資や利益を国外に移すインセンティブを排除し、国内での極めて重要なニーズに充てる資金を増やすための計画だと述べた。
考え方
1.
必要な投資を賄うため十分な税収を集める。
トランプ 大統領と共和党は2017年12月の税制改正 (Tax
Cuts and Jobs Act)で35%の連邦法人税率を2018年から21%に引き下げた。
2017/12/18 米共和党、税制改革で統一案、減税規模10年で1.5兆ドル 法人税21%で決着
この結果、それまで法人税収入はGDPの2%を占めていたが、1%に下がった。各国と比較すると非常に低い。
2.
労働 に対してフェアな税制
最近は労働からの国民所得のシェアが資本からの所得に比較し低減している。これを是正する。
3. 海外投資による利益移転を減らす。
4. 国際的な税率引き下げ競争の停止
5.
全ての企業がフェアに納税 利益に 対して納税の少ない企業に最低税率を適用
The Made in America tax planの内容
今後15年間で2兆5000億ドルの追加税収を目指す。
1.
法人税率(現在21%)を28%に引き上げ
2.
米の多国籍企業にグローバルな最低税率
米国の多国籍企業は、タックスヘイブンの活用で実効法人税率が8%にとどまっている。
多国籍企業の海外子会社の収益への課税を現行の2倍の21%に引き上げるなど、利益の海外移転に対する税制上のメリットを縮小する。
3.
各国の税率引き下げ競争の停止
4.
多額の利益を計上しながら課税所得が低い大企業に対し、計上利益に15%のミニマムタックス
決算報告で年間20億ドル以上の利益を計上した大企業に対して、税制優遇などで法人税の課税額がゼロになる場合でも、決算上の利益に対して最低15%を課税する。
この制度が導入されれば、米企業45社の納税額が平均で年間3億ドル増えるという。
5.
新規R&Dにインセンティブを与える。
6. 化石燃料補助金からクリーンエネルギーへの投資の補助に。
7.
企業の租税回避への対策の強化
法人税率の大幅引き上げには反対が強い。
バイデン大統領は4月7日、記者団から28%を下回る税率でも合意するつもりかと問われ、「進んで耳を傾ける。条件を付けずに臨む」と述べ、妥協に前向きな姿勢を示した。
最終的に25%程度で落ち着くとの見方が強い。
付記 上記の3.
各国の税率引き下げ競争の停止に関して:
米財務省は5月20日、低税率で企業を誘致し税収を損なう結果を招く各国の税率引き下げ競争を終わらせることを目指したOECDの協議で、同国が法人税の国際的な最低税率として15%を提案したと発表した。
「法人税を巡る競争と法人税源浸食の圧力を終わらせるために多国間での取り組みが不可欠だ」とし、
「米財務省は15%が下限だとし、野心的な議論を続けて税率を引き上げていくべきだと強調した」ことを明らかにした。
上記の2の通り、米国企業の海外利益に21%の税率を課すとしている。
ーーー
バイデン米政権は別途、国際的な合意形成に向け、多国籍企業への課税に関する新たな提案を、デジタル課税とグローバルミニマム税に関するOECDの協議に参加する約140カ国に送付した。
提案文書が公表されていないが、関係者によると、この案ではそれぞれの国で上げた売上高の比率に基づき各国に課税権を配分することを呼び掛けている。
公式が一律に適用され、デジタル企業だけではなく、売上高の大きい「多国籍企業100社程度」が対象になるという。
法人税率の低い国での税逃れを防ぐため、共通の最低税率を導入することも改めて求めた。
トランプ前政権の「他国による米企業への課税拒否」方針を変更するもの。
経済協力開発機構(OECD)は2020年2月13日、多国籍企業への課税に関する新しい国際ルールが適用された場合、世界の法人税収の4%に相当する年1000億ドルの税収増が見込まれるとの試算を公表した。
2020/2/18 OECD、多国籍企業課税新ルールの影響の試算発表
トランプ前政権はデジタル税を巡る国際協議から撤退した。
2020/6/23
米、デジタル税を巡る国際協議からの撤退を示唆
トランプ前大統領は、各国によるデジタル税は米国企業に対する他国の不当な課税であるとの認識で、制裁関税を課すると主張していた。
米通商代表部(USTR)は2021年1月7日、フランスが導入した「デジタルサービス税」への対抗措置として計画した制裁関税を巡り、発動を無期限で延期すると発表した。
2020/10/23 フランス、デジタル税を再開 の付記
2021/4/12 米の大学開発の低コストのワクチン ベトナムやタイで治験へ
米国の大学が開発した新しいタイプの新型コロナウイルスワクチンがこのほど、ベトナムなど数カ国で臨床試験(治験)に入った。
既存のインフルエンザワクチンと似た製造手法で安価に大量生産でき、一般の冷蔵設備
(2〜8℃) で数週間にわたり保管が可能という。
新ワクチン「NDV-HXP-S」は、University of Texas at Austin と、Icahn School of Medicine
at Mount Sinai 及び National Institute of Allergy and Infectious Diseases
Vaccine Research Center の研究グループが共同で開発した。
University of Texas at Austinの研究チームは、コロナウイルスを長年研究してきた実績を持つが、
新型コロナウイルスの発生で「スパイクタンパク質」に着目した。
中国の研究者によるゲノム配列の発表後、「極低温電子顕微鏡法」と呼ばれる最新鋭の技術を用いて新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の分子構造をマップ化し
、2020年2月19日にScience誌に発表した。
スパイクタンパク質は容易に形を変えるため、
これをもとにワクチンをつくっても、そのままでは人体は認識できない。このためチームは、ワクチンが体内に入っても形を維持するよう、スパイクタンパク質のS2
subunit の2か所を変えている。チームはこれ以前に中東呼吸器症候群(MERS )のウイルスのスパイクに変更を加え成功した実績があり、そのまま使った。
Pfizer、Moderna、J&Jなどのワクチンはすべてこの改良スパイクタンパク質を利用している。
チームはその後も研究を進め、コロナ由来のスパイクタンパク質をさらに加工し、安定性を高めることに成功した。これまでのワクチンはスパイクタンパク質の S2
subunit の2カ所を変えているが、この「NDV-HXP-S」は
S1
subunitの4か所を加え、 6か所を改良した もので"HexaPro"
と呼ばれる。 ( 4
beneficial proline substitutions :
F817P, A892P,
A899P, A942P and
2 proline
substitutions in the S2 subunit)
下図は改良スパイクタンパク質の模型で、赤は追加の4つのproline と呼ばれる改良点
ワクチンのベ クターとして、 無害化した組換えニューカッスル病ウイルス( Newcastle
disease virus)を使用する。
NDV-HXP-Sの名前はN ewcastle
D isease
V irus ー
H ex aP ro
s pike
から採ったものである。
新しい改良により熱や化学品に対する耐性が強まり、一般の冷蔵設備(2〜8℃)で数週間にわたり保管が可能という。
ModernaやPfizer/BioNTech
のワクチンは特別な施設で高価な材料を使って作成されるが、「NDV-HXP-S」はインフルエンザワクチンと同様、鶏卵を使って作成するため非常に安価である。
この点は中低所得国にとって特に重要である。
テキサス大とマウントサイナイ大は、このワクチンの製造ライセンス管理で米非営利団体でGlobal Health Organization
のPATHと提携した。
PATHを通し新興国などに幅広く無料でのライセンス供与を進め、ワクチンへのアクセス拡大を支援する 。
これまでにベトナムやタイ、ブ ラジル、メキシコなど多くの国がこのワクチンの国内生産・治験に向けたライセンスを取得した。
ベトナムは同国保健省傘下のワクチン・医学生物学研究所(IVAC)、タイは保健省管轄下で医薬品を製造供給するタイ国営製薬公社(GPO)の主導で治験を進める。
ブラジルでは、サンパウロ州立のButantan
Institute が"ButanVac"という名前を付け、 当局に治験認可を申請した。
2021/4/13
中国政府、独禁法違反でアリババに罰金3000億円
中国の独禁法を管轄する国家市場監督管理総局は4月10日、電子商取引大手のアリババ集団(Alibaba
Group)に対して182億2800万元(約3000億円)の罰金処分を科す決定を出した。
これまで中国の独禁法は当初、下記の体制で実施されてきた。
反壟断委員会(国務院直属)
独占禁止政策の調査、市場動向のモニター、執行機関間の政策の調整
実務
機関
発展改革委員会 価格調査局
価格独占行為の調査・処分
商務部 反独占局
事業者結合行為
国家工商行政管理総局
(工商総局)
独占協定、市場支配的地位の濫用、行政権力を濫用した競争の排除・制限(価格独占を除く)
2018年3月、中国の「構造改革」の一環として、独禁法関連の 各機能と、品質検験権益総局(輸出入品質検査検疫を除く)、食品薬品監督管理総局の機能が新設の 国務院直属機構 の国家市場監督管理総局に移管された。
今回の罰金182億2800万元同法違反としては過去最大となる。罰金額はアリババの2019年の中国国内の売上高(4557億1200万元)の4%が対象となった。
同法違反による制裁金は、2015年に半導体大手の米クアルコムが支払いを命じられた60億8800万元(約1000億円)がこれまでの最高だった。
2015/2/14 中国、独禁法違反でQualcomm に975
百万ドル の罰金
当局の発表によると、アリババは2015年から市場での支配的な地位を乱用し、同社のライバルのEC企業と取引しないよう出店企業などに求めてきた。
「二者択一」と呼ばれる行為で、商品やサービスの自由な流通を妨げ、消費者や競合企業の利益を侵害してきたとしている。
下記の通り、中国の規制当局は2020年12月24日に、アリババ(阿里巴巴)集団の「二者択一」などが独禁法に違反した疑いがあるとして調査を始めたと発表した。
当局はアリババに対して法令順守の水準を高めるように内部管理の強化などを求める。また、今後3年間は法令順守に関する報告書の当局への提出も義務付ける。
欧米メディアは中国政府がアリババに対し、傘下のメディア関連の一部の資産を処分するように要求したとも報じている。香港英字紙South
China Morning Postなどが売却対象となる可能性があるという。
アリババは同日、「今回の決定を誠実に受け入れ、罰則に従う。法令順守体制の構築を一層強化し、社会的責任を果たしていく」との声明を公表した。
ーーー
昨年来、下記の経緯があった。
アリババ集団の実質的オーナーである 馬雲( Jack
Ma) は2020年10月下旬、講演で金融当局の監督姿勢に不満を述べたが、習近平国家主席はJack
Ma による政府批判に激怒、自身による支配や安定性への挑戦と受け止めたという。
アリババ集団傘下の金融会社でスマートフォンの決済サービス「アリペイ」などを運営する Ant
Group ( 螞蟻集團 ) は2020年11月に上海と香港に上場し、4兆円規模の資金を調達する予定だった。
だが、直前にアリババ創業者の馬雲(Jack
Ma )氏とアントの幹部が金融当局の聴取を受け、11月3日に急遽
上場延期が決まった。アント・グループによる新規株式公開(IPO)の延期について、決定したのは習主席だったと報じられた。
中国の市場監督管理総局は12月14日、過去の買収案件で当局に申請して承認を得なかったとしてAlibaba(阿里巴巴)と阅文集团(China
Literature)に罰金を科すと発表した。Alibaba、China Literatureともに50万元(約800万円)の罰金が科される。
Alibabaは2017年1月、中国大手モール運営会社Intown
の買収を明らかにした。Intownは中国に29の百貨店と17のショッピングモールを運営している。3年前に一部出資したが、100%買収し、上場廃止とするもの。AlibabaとChina
Literatureは当局に買収を申請しなかった。しかし買収はいずれも「マーケットの競争を阻害するもの」とみなされず、中国の独禁法に則って買収を破棄するのではなく罰金を科した。
AlibabaやTencentをはじめ、中国のインターネット企業の多くは、中国人によって創業され、経営陣も中国人が中心となっているが、海外で上場しており、その株の過半数が外国投資家によって保有されるという意味において、中国にとって「外資企業」である。
中国政府は、インターネット産業に対して、外資の参入を制限しているが、多くのインターネット企業は、VIEスキームを採用することを通じて、これらの規制を回避している。
中国の規制当局は12月24日、中国ネット大手のアリババ(阿里巴巴)集団を独禁法違反の疑いで調査を始めたと発表した。アリババ集団傘下の金融会社 Ant
Group ( 螞蟻集團 ) に対しても近く指導する。
中国で独占禁止法を管轄する国家市場監督管理総局は、取引先の企業にライバル企業と取引しないよう求める「二者択一」などが独禁法に違反した疑いがあるとして立件に向けて調査を始めたと発表した。家電大手との取引が問題となっていた経緯がある。
中国当局は12月30日、アリババグループの傘下企業などに対し、価格法に違反したとして罰金50万元(約800万円)を科す決定を出した。
アリババは傘下のネット通販「天猫(Tmall)」は11月11日の「独身の日」に、セール価格として27.9元でコメを販売していたが、実際には前日に24.9元で販売していた商品を値上げしていた。
2020/12/31
中国もインターネット企業を規制
アント・グループは2021年3月12日、最高経営責任者(CEO)兼業務取締役の胡暁明(Simon
Hu)が「個人的理由で」同日付で辞任したことを明らかにした。後任のCEOには、2016年から2019年までCEOを務めた井賢棟(Eric
Jing )会長が就任する。
2021/4/13 SK Innovation と LG Chem、車載電池の特許紛争で和解
SK Innovation と LG Chemは車載電池の特許紛争で争ってきた。
LG Chemは2019年4月30日、SK
InnovationがLG技術者を採用することにより、リチウムイオン電池技術を盗用したとし、LGの米国子会社と共同で米国ITCと Delawareの連邦地裁 に提訴したと発表した。
SK
InnovationがLGのリチウムイオン電池部門の77人の高度の技術と経験を持つ従業員を雇用し、LGの企業秘密を取得したと主張した。
ITCは 2月10日、 SK
InnovationがLG Chemの営業秘密を侵害したと判断し、関税法第337条の違反を適用し、営業秘密を侵害したバッテリーと部品に対する「アメリカ国内への輸入禁止10年」を命じた。
2021/2/12
米ITC、SK Innovation に輸入禁止命令
上記は企業秘密侵害であるが、特許権侵害については、LG Chemは2019年9月にSK Innovation をITCに提訴したが、ITCは 3月31日、SK側の主張を認める仮決定を下した。
また、SKがLGをITCに提訴した特許権侵害訴訟に関しては、LGがこの訴訟を却下することを求めていたが、ITCは4月2日、LG側の要請を棄却した。この訴訟は継続する。
ITCは上記の営業秘密侵害については、事実上の猶予期間を設定し、LG
Chemとの和解を促した。
しかし、SKは1兆ウォン(約980億円)前後の和解金をLG側に提示しているのに対し、LGは少なくとも3兆ウォンを求めているとされ、SK側は「LGの要求はバッテリー事業をやめろというに等しい」と主張している。
ITCの2月10日の「輸入禁止」の決定は、大統領の60日間のレビュー期間がある。
SKは3月30日、Biden大統領が60日間のレビュー期間内
(4月11日まで)にITCの判断を覆さない場合、米国から撤退し、欧州か中国に移転すると発表した。
SKは最悪のシナリオを想定し、建設中のバッテリー工場を(他社への売却でなく)欧州に移転する作業に着手した。これまでに投入された約1兆5000億ウォンのうち生産設備など1兆ウォン程度は回収が可能だと判断している。
2021/4/5 SK
Innovation と LG Chem の特許侵害紛争、更に複雑に
今回両社は、Biden大統領が最終判断を下す期限の数時間前に和解した。
和解条件は次の通り。
SKはLGに対し、18億ドル(両社の主張額のほぼ中間)を支払う。うち9億ドルは現金、残り9億ドルは売上高の数%相当のロイヤリティで支払う。
SKとLGはともに、国内外の全ての訴訟を取り下げ、今後10年間互いを訴訟しない。
この結果、SKはジョージア州Commerceで建設中の自動車用リチウムイオン電池工場を完成し、契約済みのFord
とVolkswagenに電池を供給することが可能となった。
バイデン大統領は3月31日、国内のインフラの整備等に8年間で2兆2500億ドルを投入する新たな計画American Jobs Plan
を発表したが、そのなかには電気自動車関連として1740億ドルが含まれている。
SKの工場の欧州への移転、それによる雇用の減は大統領にとって避けたいものであるが、営業秘密の侵害を認定したITCの決定を(SKの米国からの移転の脅迫を受け)覆すのも好ましいものではない。
これが避けられたことで、バイデン大統領は和解について、「米国の労働者と米国の自動車産業にとっての勝利である」と呼んだ。
「米国には、強く、多様化した、弾力性のある米国ベースの電気自動車用電池のサプライチェーンが必要である。それにより、需要がグローバルに拡大する電気自動車と電池を供給し、雇用を増やし、将来の雇用への基礎をつくることが出来る」と述べた。
SKとLGに対し、米国政府と韓国政府から和解に向けての強い圧力があったと見られる。
2021/4/14 英投資ファンド、東芝に買収提案
東芝が4月7日に英投資ファンドのCVC Capital Partnersから買収を提案された。
CVCは前日6日終値に約30%のプレミアムを加え、1株5000円での買い取り価格を提案した。6日時点の東芝の時価総額は1兆7437億円で、TOBが成立した場合の買収額は2兆3,000億円弱となる。
産業革新投資機構(JIC)や事業会社の参加を想定し、早ければ10月の上場廃止を見込む。
背景には東芝とアクティビスト(物言う株主)との対立がある。
付記
東芝は4月20日、買収交渉の中断を発表した。
4月19日に CVC から新たな書面 を受領した もののなん ら具体的な詳細情報が記載されていない。 「 非公開化が東芝経営陣及び取締役会の戦略的目 的に合致するかについてのガイダンス を待つため暫時検討を中断する 」( step
aside to
await your guidance as to whether a privatization of Toshiba will suit
management’s
and the Board of Directors’ strategic objectives )という内容である。
買収者の資本構成や買収後の具体的な経営方針、安全保障法制・外国 投資規制・競争法制の適用関係等は、取締役会が提案の検討を行う上で必要不可欠な もので あり、かかる情報が提供されないまま提案の検討を開始すること は できない。
3年半ぶりの 東京証券 取引所 、名古屋証券取引所市場第 一部 に 復帰を果たしたことを誇りに思って いる。
非上場化を含め様々な企業価値向上のための提案を選択肢として排除する ものでは ないが、 非上場化には様々な課題も存在する 。
客観的に見て具体的かつ実現可能性のある真摯な買収提案がなされた場合には 真摯に評価・検討するが、その場合のプロセス及び内容 は、株主をはじめとする当社ステークホルダーの多くが納得するものでなければならない。
ーーー
東芝子会社のWestinghouse
は2017年3月29日、ニューヨーク州連邦破産裁判所に米国連邦倒産法第11章に基づく再生手続申し立てた。
2017/3/30 Westinghouse、Chapter11 申請
2017年7月、米連邦破産法11条の適用を申請中の Westinghouse
が手がける原発建設をめぐり、親会社の東芝が発注元の米電力会社に支払う債務保証額が 計6561億円に確定した。
2017/7/31 東芝、米原発の保証債務 6561億円で確定
東芝株式は2017年8月1日、東京証券取引所の第1部から第2部に「降格」となった。2017年3月末時点で債務超過となり、1部上場基準に抵触した。
2018年3月末までに @債務超過の解消、 A2017年3月期有価証券報告書での適正意見、 B特定注意市場銘柄指定解除の3つのハードルの全てをクリアできないと上場廃止となる。
2017/8/2 東芝、東証2部降格
東芝2017年9月28日、東芝メモリの株式譲渡契約を締結したと発表した。
売却先はBain Capitalがこの目的のために設立し、参加各社が出資する Pangeaで、 売却額は2兆円、税引前利益で1兆800億円を見込む。メモリ事業承継に係る課税影響を加味しても約7400億円の増益が見込めるため、2017年度末には債務超過状態を解消できるとみている。
しかし、各国の独禁法当局の承認が2018年3月末までに取得できなければ、売却益を計上できず、2期連続の債務超過となり、上場廃止となる。特に中国の承認が得られるかどうか、懸念された。
(中国の独占禁止法当局が売却案を承認したことが2018年5月17日に分かった。既に日米欧など他の全ての国の独禁法当局の承認は得ている。6月1日付で売却した。)
2017/9/30 東芝メモリの株式譲渡契約締結
東芝は2017年11月19日開催の取締役会において、第三者割当による新株式の発行を決議した。
新株式の発行総額は約 6000億円(新株式1株あたりの発行価格262.8円)
で払込みは12月5日に完了する予定。
経営再建の途上にある東芝が、公募増資を実施するのは事実上
困難なため、第三者増資を行う。旧村上ファンド出身者が設立したシンガポールのEffissimo Capital Management や米King Street
Capital Managementなど、Goldman Sachs が集めた海外約60社の投資家に割り当てる。主な投資家には「物言う株主」も多い。
調達した資金は、Westinghouseの米国原子力発電所建設プロジェクトに関する親会社保証の一括弁済に充てる。
2017/11/24 東芝、増資を決定
2018年4月、車谷暢昭氏が東芝の代表執行役社長 兼
最高経営責任者に就任、負の遺産処理を加速した。並行して、家電事業に加えパソコン事業を売却、東芝の事業ポートフォリオをB
to B中心に再編した。
付記 正確には2018年4月に車谷氏は会長兼CEOに就任、綱川智氏が社長で、 2020年4月に綱川会長、車谷社長兼CEOとなった。
2018/6/7 東芝、パソコン事業をシャープに売却
車谷社長は、旧三井銀行に入行、2015年に三井住友フィナンシャルグループ副社長 兼 三井住友銀行副頭取となる。
2017年にCVC Capital
Partnersの日本法人の代表取締役会長に就任したが、翌2018年2月、経営危機にあった東芝の取締役会指名委員会から指名を受け、2018年4月に正式就任した。
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2017年の増資は上場廃止を避けるための苦肉の策であったが、東芝には株主を選ぶ余裕は全く無く、Goldman Sachs
が集めた海外約60社の投資家に割り当てた。Harvard Investmentのような大学のファンドもあるが、「物言う株主」のEffissimo
Capital Management も含まれている。
筆頭株主で9.9%を所有するシンガポールのEffissimo Capital
Management は2020年7月の定時株主総会で、ガバナンス強化などを求めて、取締役に同社の今井陽一郎氏ら3人を選任するよう要求した。
また、3D Investment Partners
も自社の推薦する社外取締役2人の選任を提案し、車谷CEOらの選任への反対も表明した。
東芝は取締役選任案に反対を表明し、この案は総会で否決された。ただ、東芝の車谷CEOの賛成比率は57.96%にとどま
った。
3Dは総会後、議決権の一部が結果に反映されていないとして投票の処理が適切だったか外部調査を要請し、東芝は議決権行使書を集計した三井住友信託銀行に調査を依頼した。
その結果、
集計作業した三井住友信託銀行が事前に郵送された1000通以上の議決権行使書を無効扱いにしていたことが判明した。
2020年12月に無効票を含めて議決権行使を再集計した結果、車谷社長の賛成比率を57.96%から57.20%に、反対比率を18.96%から20.13%にそれぞれ訂正した。
Effissimo は「議決権行使をめぐり、株主への不当な圧力があった」とも指摘した。一部の株主が圧力を受けて議決権を行使しなかったと報じられた
。
複数の外電が、東芝の議決権の4%を持つアメリカのハーバード大学の基金運用ファンドに対し、経済産業省の関係者が圧力をかけたと報じた。
東芝は監査委員会による調査の結果、「さらなる調査は必要ない」としたが、Effissimo は第三者委員会による再調査を要求。これを東芝が拒否したため、Effissimo
などが臨時株主総会招集を求めた。
Effissimo は、2020年7月の定時株主総会が公正に運営されたかどうかを調査するために弁護士などの選任を要求
。
第二位株主で米ヘッジファンドのFarallon
Capital Managementは、 成長投資の方針についての合理的な説明を含む資本政策案の策定及び株主総会への上程を求めた。
東芝は2021年3月18日、都内で臨時株主総会を開催し、昨年7月に開催した定時総会の運営の適正性について独立した調査を求める筆頭株主 Effissimo の株主提案を可決した。
調査の期間は3カ月で、調査者として3人の弁護士を選任した。
Farallon Capital Managementの提案は否決された。
2020年5月時点の株主名簿には証券会社が記載されており、各社の出資比率は不明だが、下記の通りとされる。
Effissimo
Capital Management 9.9% 筆頭株主
Farallon Capital
Management (Chinook Holdings との共同で)5.37% (うちFarallonは2.12%)
Harvard Investment (Harvard Universityのファンド)4.7% →0 %
3D Investment Partners (Singapore) 2.5% → 7.2% 2位株主に
Harvardを除き、全てが「物言う株主」で、他にKing
Street Capital Management、BlackRock
Fund Advisors などを加えると全株主の3割強となるとされる。
2021年3月29日に異動があった。シンガポールの資産運用会社、3D Investment
Partnersは3月29日付で市場外でHarvard Investment から
4.7%分を取得し7.2%となり、第2位の株主になった。
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東芝は今後も株主対応に苦労すると見られた。
しかし、臨時株主総会でEffissimo の株主提案が可決された直後の4月7日、CVC Capital Partners
が買収提案を行った。
東芝の車谷CEOは東芝の社長兼CEOに就任する前はCVC Capital
Partnersの日本法人の代表取締役会長であった。また、東芝の藤森義明・社外取締役は現在、CVC日本法人の最高顧問である。
このことから、物言う株主との対立が続いている東芝の株式を非公開化して、経営判断を速めるため、東芝側から持ち込んだものではないかと
の見方もある。
東芝は、「詳細情報を受領した場合は慎重に検討する」としている。永山取締役会議長は声明の中で「(買収提案は)当社の要請によるものではなく、当社の事業についての詳細な検討を経た上で行われていない」としている。
筆頭株主のEffissimo
Capital Managementや2位株主に浮上した 3D
Investment Partners
などの対応が注目される。
また、東芝買収は他にも問題がある。
原子力事業を持つ東芝は2020年に施行した改正外為法で重点審査の対象となっており、財務省と経済産業省が事前審査することになる。
東芝はWestinghouseからは撤退したが、分社した東芝エネルギーシステムズに原子力事業部を持ち、原子力プラントの建設・メンテナンス・再稼動対応から福島第一原発の廃炉対応、廃止措置対応、燃料サイクル、
さらには次世代炉や高速炉などの未来に向けたエネルギー開発など、幅広い事業領域に積極的に取組んでいる。
東北電力の女川・東通、東電の福島・柏崎刈羽、中部電力の浜岡原発は主に東芝が担当している。
半導体や防衛関連の技術もあり、安全保障の観点から技術流出の恐れも懸念される。
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CVC Capital Partnersはこれまでに 外食チェーンの「すかいらーく」など、 日本でもいろいろの投資をしてきた。
資生堂は2月3日、アジアを中心に「TSUBAKI」「SENKA」などのブランドでヘアケア商品やスキンケア商品を展開するパーソナルケア事業を
CVC Capital Partnersに1,600億円で売却すると発表した。
資生堂は売却先である事業運営会社の株式を35%取得し、合弁事業として運営に引き続き関与する。
2021/4/14 東芝 車谷社長辞任
東芝の車谷社長兼CEOが4月14日付で辞任した。取締役会で辞任を表明した。
後任は前任社長の綱川智会長が復帰する。
本日の記事の通り、東芝は物言う株主との間で揉めており、3月18日の臨時株主総会では物言う株主の提案が通った。
東芝は2015年に発覚した不正会計問題に経営トップが関与していたことへの反省から2016年以降、社外を除く取締役や主要子会社社長、本社の部長級社員ら計100人規模を対象に毎年1回、社長への信任を調査している。
車谷社長に対する不信任は、2019年12月の調査では1割弱だったが、今年1月の調査で2割を超えた。
そのため、対象を執行役や事業部長クラスの30人弱に絞り、2月から3月にかけて再度聞き取り調査を実施した結果、不信任が半数を超えたという。結果については3月下旬に車谷氏にも伝えられている。
東芝の指名委員会が、次の株主総会にかける取締役人事案で車谷社長を指名する可能性はほぼゼロだったとされる。
CVCによる買収は車谷氏が持ちかけたとみられ、永山治・取締役会議長
兼 指名委員会委員長(中外製薬名誉会長)らは、こうした動きを「私物化」と判断し、本日の 取締役会には車谷氏の解任動議を提出する予定だったとされる。
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東芝は2021年3月18日、都内で臨時株主総会を開催し、昨年7月に開催した定時総会の運営の適正性について独立した調査を求める筆頭株主 Effissimo の株主提案を可決した。調査の期間は3カ月で、調査者として3人の弁護士を選任した。
付記
東芝は6月10日、昨年7月の株主総会に関する調査報告書を公表し、同株主総会では、経済産業省と一体となって筆頭株主Effissimo
の株主提案権の行使を妨げようと画策 したなどと指摘されたことを明らかにした。報告書は、株主総会は「公正に運営されたものとはいえない」と結論付けている。
当時の菅官房長官への接触も出ている。
https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20210610_1.pdf?_ga=2.228070685.1234270687.1623310389-617751326.1623310389
臨時株主総会でEffissimo の株主提案が可決された直後の4月7日、CVC Capital Partners
が買収提案を行った。
東芝の車谷CEOは東芝の社長兼CEOに就任する前はCVC Capital
Partnersの日本法人の代表取締役会長であった。また、東芝の藤森義明・社外取締役は現在、CVC日本法人の最高顧問である。
このことから、物言う株主との対立が続いている東芝の株式を非公開化して、経営判断を速めるため、東芝側から持ち込んだものではないかと
の見方もある。
CVCの買収提案について東芝の永山取締役会議長は「(買収提案は)当社の要請によるものではなく、当社の事業についての詳細な検討を経た上で行われていない」としている。
しかし、「現代ビジネス」によると、CVC提案には車谷氏の留任を求める文言はしっかり明記されていた。また、経済産業省は、車谷氏を留任させてCVCの提案を受け入れれば、障害になりかねないと懸念される外為法の事前審査にゴーサインを出すとの意向を東芝側に伝えたという。
「現代ビジネス」は、次の通り述べている。
身の危険を察知した車谷氏サイドが動きを封じるため、CVCと経済産業省に周到な根回しをしていた疑いと、今回の買収提案が、M&Aの世界で禁じ手とされる「経営陣の自己保身」だった可能性は濃厚と言わざるを得ないだろう。
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