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目次
これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
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2024/10/1 米FDA、Bristol-Myers
Squibbの統合失調症薬を承認
米食品医薬品局(FDA)は9月27日までに米製薬大手のBristol-Myers Squibbの統合失調症薬「KarXT」(キサノメリン・トロスピウム:xasomeline/trospium)を承認した。商品名は「Cobenfy」。
統合失調症の治療薬としてはクロルプロマジン以来70年ぶりの新しい作用機序の薬となった。
クロルプロマジン(Chlorpromazine)は1950年にフランスの製薬会社Rhône-Poulenc、現
Sanofi Aventis)により、抗ヒスタミン薬として開発されたものの、鎮静作用が強すぎる上、抗ヒスタミン作用が少ないと当時は評価された。
1952年2月、フランスの外科医、生化学者Henri Laboritが麻酔とクロルプロマジンを併用したところ、精神症状の変化に気づき、精神科治療での有用性を示唆した。
同年3月に精神疾患患者でのクロルプロマジンの効果がみられ、その後1年の間にフランス全土で統合失調症に用いられるようになった。翌年にはヨーロッパ全土で用いられるようになった。
Bristol-Myers Squibbの新薬は1日に2回飲むカプセル型の治療薬で、価格は月1850ドル(約26万円)。販売は10月下旬までに始める。
「KarXT」は
同社が2023年に140億ドルで買収したKaruna Therapeutics の製品である。
これは従来の統合失調症薬に比べて副作用が少ないことが評価されている。
従来の統合失調症薬は眠気や手足の震え、体重増加などの副作用があり、治療を継続しない患者が多かった。これに対し、FDAによれば「KarXT」
の主な副作用は吐き気や便秘などである。
統合失調症は幻覚や妄想などさまざまな症状を引き起こす精神疾患で、WHOによれば、統合失調症の患者数は世界で2400万人いる。米国で約280万人、日本では約80万人の患者がいるとされている。
ーーー
Bristol-Myers
Squibbは2023年12月22日、新種の統合失調症治療薬を開発するKaruna Therapeutics
Inc.を140億ドルで買収することで合意したと発表した。
Bristolは、二大主力薬である抗凝固薬「エリキュース」とがん免疫治療薬「オプジーボ」は数年以内に特許切れとなり、売り上げの減少が予想されており、Karunaの買収を成長につなげる。
BristolのCEOは、Karunaの統合失調症の経口治療薬KarXTは双極性障害(そううつ病)I型や重度の精神疾患、アルツハイマー病に由来する興奮状態にも効果を発揮する可能性があり、売り上げは数十億ドル規模に達し得るとの見通しを示した。
KarXTは2024年9月までに統合失調症治療薬としての承認決定を控えていたため、Karuna株の前日終値に53.4%のプレミアムを乗せた1株=330ドルを支払うことで合意した。
2024/10/4 新型コロナ定期接種ワクチン
10月から始まる新型コロナの定期接種で使用するワクチンについて、厚生労働省の分科会は9月19日、「レプリコン」と呼ばれる新しいタイプのワクチンなど5つの製品を了承した。
「レプリコン」はウイルスへの抗体を作る作用のあるmRNAを体内で複製する新しいタイプのワクチン。このほか、これまでも使用されてきたmRNAワクチンの3製品と、組み換えタンパクワクチンも了承された。
企業名 |
ワクチン名 |
種別 |
|
ファイザー |
コミナティ® |
mRNA |
使用済 |
モデルナ |
スパイクバックス® |
第一三共 |
ダイチロナ® |
武田薬品 |
ヌバキソビッド® |
組替えタンパク |
Meiji Seika
ファルマ |
コスタイベ® |
mRNA(レプリコン) |
新規供給 |
対象者は、65歳以上の高齢者と、60歳から64歳までの重症化リスクの高い人で、季節性インフルエンザと同様に原則、接種費用の一部自己負担が求められる。
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「Meiji Seika ファルマ」が供給、販売するレプリコンワクチンは、接種するとウイルスから体を守るための抗体ができる仕組みは、これまで使われてきたファイザーやモデルナのmRNAワクチンと同じだが、それに加えて、レプリコンワクチンのmRNAには、mRNA自体を複製する酵素(レプリカーゼ)を作る設計がある。この酵素が働き細胞内でmRNAが複製されるため、mRNAの接種量は従来のものと比べて6分の1から10分の1ほどとなっている。
https://soujinkai.or.jp/himawariNaiHifu/replicon-vaccine/
厚労省の専門部会は2023年11月27日、Meiji Seika ファルマの新型コロナワクチン「コスタイベ筋注用」の製造販売承認を了承した。
米国のバイオ企業
Arcturus Therapeutics が開発したレプリコンワクチンと呼ばれるタイプ(与後に体内で成分が増える自己増殖型ワクチン)で、PfizerやModerna製の既存ワクチンに比べ、少ない接種量でワクチンの効果が持続することが期待されている。
Arcturus
Therapeuticsは2013年に設立された米国を拠点とする製薬企業で、後期臨床ステージの感染症用ワクチンをはじめ、肝臓や呼吸器の希少疾患に有効なmRNA医薬品の研究開発を行っている。Meiji
Seikaファルマが日本での供給や販売を担う。
Meiji
Seikaファルマはワクチンを医薬品の受託製造会社のアルカリス(千葉県柏市)と連携し、福島県南相馬市の工場で生産する。
Meiji Seika
ファルマは2024年7月12日付けで新型コロナワクチン・コスタイベ筋注用について、国内製造所を追加する一変申請を行った。同社は2024年12月以降に国内生産品の出荷を開始する予定で、現在の海外生産品から順次、国内生産品に切り替えていく。
今回の申請は、▽アルカリス南相馬工場(福島県南相馬市)で原薬製造すること、▽Meiji Seika
ファルマテック(神奈川県小田原市)で製剤製造することで、アルカリスと連携して、原薬から製剤までを国内で一貫して製造できる体制を構築している。
アルカリスは、2017 年に武田薬品の創薬プラットフォーム事業を継承し事業を開始した日本初の創薬ソリューションプロバイダーである Axcelead
Drug Discovery Partnersのグループ企業アクセリードが、Arcturus
Therapeutics とのJVで設立したもの。
Arcturus
Therapeuticsの研究開発パイプラインの製造拠点としての責任を果たしつつ、世界中の製薬会社、創薬ベンチャー、アカデミアなど幅広い顧客に高品質のmRNA医薬品の安定供給を約束する世界初の統合型mRNA医薬品CDMOを目指している。
2023/11/30 国産の新型コロナワクチン、接種で使用へ
ーーー
武田薬品の組換えタンパクワクチン(ノババックス)は、ウイルス抗原(SARS-CoV-2スパイクタンパク)の遺伝子をもとに、昆虫細胞を用いて発現させた遺伝子組換えSARS-CoV-2スパイクタンパク質をナノ粒子化して製造されたワクチンで、免疫の活性化を促進するためにアジュバントが添加されている。
組換えタンパクワクチンは不活化ワクチンの一種であり、B型肝炎ウイルスワクチンをはじめ幅広く使用されている技術。
本剤の接種により、抗原提示細胞がSARS-CoV-2の組換えスパイク蛋白質を取り込む。リンパ組織にて抗原提示細胞がT細胞に抗原提示を行い、T細胞がB細胞を刺激することによりCOVID-19
感染症に対する抗体を産生する。Matrix-Mアジュバントは接種部位、リンパ組織での免疫細胞の働きを促進する。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/31_takeda.pdf
2024/10/7
「心不全」を根治する心臓再生医療
全世界での独占的技術提携・ライセンス契約
Novoは日本以外の全世界でHS-001を開発、製造、販売する独占的な権利を獲得
NovoはHeartseedに最大5億9800万ドルを支払うとともに、海外の年間純売上に応じて漸増する1桁後半〜2桁前半パーセントのロイヤルティも支払う。
日本ではHeartseedが単独で開発するとともに、両社が利益・コストを50:50で案分する形で事業化する。
課題は、iPS細胞から心筋細胞を作ったときに発生する余計な細胞を取り除くこと。この未純化細胞も一緒に心臓に移植してしまうと、腫瘍となる。
そこで心筋細胞だけを残す純化精製の方法が必要になった。
福田教授は、同じ慶大医学部の末松誠教授と共同研究を進め、それぞれの細胞のエネルギー源の違いに着目した。
iPS細胞やES細胞はブドウ糖を取り込んで増殖するのに対し、心筋細胞は乳酸をエネルギー源として利用することができる。
培地からブドウ糖やグルタミンを除き、乳酸を入れたところ、未分化のiPS細胞は死滅し、心筋細胞だけが生き残った。これにより純化が可能になり腫瘍ができる危険性はなくなった。(純化精製)
ようやく人に移植できる再生心筋細胞ができたとはいえ、実際の移植治療に使うには大量の細胞が必要で、自動大量培養プラントを開発した。プラントは現在、第2世代の開発に取り掛かっていて、一回で10億個の心筋細胞を生産できる。
心筋細胞を用意できれば、次は移植方法を考える必要がある。心筋細胞は非常に弱いため、普通に心臓に移植したのではすぐに死んでしまう。
この問題を解決するために、心筋細胞を球状の塊にして移植する方法を考えた。
当初、バラバラの状態で心筋細胞を移植したところ、せいぜい5%ぐらいしか、生き残らなかったが、心筋細胞を約1000個集めた「心筋球」を作ることで、生着する効率を20倍以上上げることができた。
「これによって、我々だけが世界の中で初めて臨床治験にたどり着くことができたと考えています。」
ニコンの子会社であるニコン・セル・イノベーションは、Heartseedから治験用のiPS細胞由来心筋細胞・心筋球の製造を受託している。
ニコン・セル・イノベーションとHeartseedは、両社の持つノウハウや技術を最大限に生かし、日本における商用段階の安定供給にむけた製造にも取り組んでいる。
心臓に注射して心筋細胞を移植する際、通常の注射針を使用すると血管を傷つけてしまう。血液が流出し、それとともにほとんどの心筋細胞も流出してしまう。
試行錯誤の末、いくら刺しても出血することがない鍼灸用の針を参考にした。
一般的な注射針は、薬などの液体を体内に注入する目的上、管状になっている。先端はナイフのように鋭く、皮膚面を切るようにして体に刺し込むので、痛みを感じる。
鍼治療用の鍼は、先が縫針のようになっていて、縫針よりもずっと細く、皮膚に滑り込むよう刺さっていくので、刺激が少なく痛みを感じにくい。
鍼はとても細いうえ、皮膚を切らずに皮膚をかき分けて刺入されるため皮膚自体は原則切れておらず、切れていないため血も出ない。(毛細血管に当たると少量の出血が見られることがある。)
|
|
注射針の先端 |
鍼の先端 |
ただ鍼灸用の鍼は、先端に穴が開いておらず、そのままでは心筋細胞を注入できない。
そこで、太さ0.5mmの針の横に穴を開けるという特殊な形状になった。この特殊な注射針の製造は非常に難しく、福田教授は全国各地の中小企業を巡り、その結果、微細な金属加工を得意とするスズキプレシオン(栃木県鹿沼市)が製造を引き受けた。
日本の中小企業のモノづくり技術が課題克服に大いに役立った。
福田教授は今後の展開について次のように述べている。
「いま使用しているiPS細胞は、山中先生が作られた特別なiPS細胞です。いずれは、多くの人が免疫抑制剤を使わずに治療できるように、患者さん本人からiPS細胞を作って治療するいわば『My
iPS細胞』の実用化ができればと思っています。」
「投与方法も重要です。今は開胸が必要ですが、実臨床では心臓外科の施設がある病院ばかりではありませんし、バイパス手術が必要でない患者もいる。そのため、(血管からの)カテーテルでの投与についても研究を進めています。」
「研究の道のりというのはまさに、“ネバーエンディングストーリー”なんです。」
ーーー
Heartseed代表取締役社長(CEO)の福田恵一教授は、2022年度日本医師会医学賞を受賞した。
日本医師会医学賞は、医学上重要な業績をあげたものに授与されるもので、今回、「難治性重症心不全に対する再生心筋細胞移植による新規治療法の確立と産業化」の研究題目で受賞した。
2024/10/10 Rio Tinto、Arcadium
Lithiumを買収
資源大手 Rio Tintoは10月9日、オーストラリアに拠点を置くリチウム生産のArcadium
Lithiumを買収することで合意したと発表した。買収額は67億ドル。
ロイターは4日、両社が協議に入っており、アルカディウムの評価額は40億─60億ドルかそれ以上になる可能性があると伝えていた。
Rio Tintoはリチウム供給でAlbemarleとSQMに次ぐ世界最大手の一角に躍り出る。
Albemarle
はアメリカノースカロライナ州に本社をおく機能化学品の会社で、2015年にリチウム製品大手Rockwood
Lithiumを62億ドルで買収し、これまでの臭素事業部、触媒事業部にリチウム事業部を加えた3つの事業を大きな柱にしている。
北米唯一のリチウム鉱山を運営し、チリと西オーストラリアにも拠点を持っている。
チリと米国ネバダ州でリチウムを採掘・生産し、ドイツのLangelsheim
でリチウムコンパウンド、リチウムメタルの生産をしている。
|
立地 |
製品 |
チリ |
Antofagasta (Atacama塩湖) |
リチウムカーボネート、リチウムクロライド、
カリ、Bischofite(塩化マグネシウム) |
米国 |
Silver Peak, Nevada |
リチウムカーボネート、リチウム |
SQM (Sociedad
Química y Minera de Chile S.A. )はチリを代表する化学メーカーで、ヨウ素やリチウムの生産を行っている。
中国の天斉リチウム(Tianqi Lithium)はSQMの大口株主となっている。
ーーー
オーストラリアに拠点を置くリチウム資源開発大手Allkemと同業米Livent
は2023年5月10日、対等全額株式交換方式で合併すると発表した。統合会社の社名はArcadium
Lithium plcである。2024年1月4日、両社の株式合併が完了した。
Allkem Limited(旧称 Orocobre Limited )は特殊リチウム化学品会社。
主な事業には、アルゼンチンのリチウム塩水およびホウ砂事業、オーストラリアの硬岩
(ハードロック)リチウム事業、および日本の水酸化リチウムがある。
豊田通商は、2014年にAllkem
Limitedと共に、アルゼンチンのオラロス塩湖のリチウム生産拠点Sales de
Jujuyで、炭酸リチウムの生産を開始した。その後、炭酸リチウムの供給にとどまらず、高品質な水酸化リチウムを国内外のメーカーに安定的に供給するため、2018年に豊通リチウムを設立し、福島県楢葉町に国内初となる水酸化リチウムの製造工場建設を進めてきた。
同工場では、Sales de
Jujuyで生産された炭酸リチウムを水酸化リチウムに加工する。生産能力は10,000トン/年で、豊通マテリアルを通じ、車載向けなどの電池用途に限らず工業用途も含め、国内外のメーカーに販売する。
Livent Corp は、完全に統合されたリチウム会社である。
主にリチウムベースの電池、特殊ポリマー、および化学合成アプリケーションに使用される様々なリチウム製品で使用するためのリチウムを製造する。
電気自動車(EV)およびより広範な電池市場への高性能リチウム化合物の供給に焦点を当てる。
高性能リチウムイオン電池で使用するための電池グレードの水酸化リチウムを含むリチウム化合物を製造する。また、ポリマーや医薬品の製造に使用されるブチルリチウムのほか、非二次電池や航空宇宙用途の軽量材料の製造に使用される高純度リチウム金属など、様々な特殊リチウム化合物も供給する。製品カテゴリーには、「バッテリーグレード水酸化リチウム」、「非バッテリー水酸化リチウム」、「ブチルリチウム」、「高純度リチウムメタル」などの特殊製品が含まれる。
リチウムをテスラ、GM、BMWなど自動車メーカーへEVバッテリー材料を供給している。
同社は金属投資家グループとともに、Nemaska Lithium
Inc.が経営破綻した後、今年に設立されたQuebec Lithium
Partners の50%を買収した。
ソフトバンクグループが出資するカナダのリチウム鉱山会社、Nemaska
Lithium Inc.は2019年12月23日、ケベック州高等裁判所に日本の会社更生法に相当する企業債権者調整法(Companies'
Creditors Arrangement Act )の適用を申請すると発表した。
同社はリチウムの採掘や精錬を手掛けるが、リチウムはEV市場の拡大を見込んだ増産が相次ぎ、2018年以降は供給過剰への懸念から相場が低迷している。ネマスカも2019年に入り資金繰りが急速に悪化。ケベック州内で進めていた採掘・製錬場の新規開発案件などが暗礁に乗り上げていた。
Arcadium Lithium の事業
|
場所 |
所有比率 |
製品、能力 |
状況 |
炭酸リチウム |
Hombre
Muerto塩湖 |
アルゼンチン、CATAMARCA州 |
100%所有 |
炭酸リチウム、
塩化リチウム |
稼働中・拡張中 |
Olaroz
|
アルゼンチン、
JUJUY州 |
66.5%所有 |
炭酸リチウム |
稼働中・拡張中 |
Sal de Vida
|
アルゼンチン、CATAMARCA 州 |
100%所有 |
炭酸リチウム |
開発中 |
Cauchari
|
アルゼンチン、JUJUY州 |
100%所有 |
炭酸リチウム |
開発前 |
水酸化リチウム
アルゼンチン産の
炭酸リチウムを原料 |
Bessemer
City
|
米国 |
100%所有 |
15,000トン |
生産と試運転 |
如皋市 |
中国 |
独占受託製造 |
30,000トン |
生産と試運転 |
浙江省 |
楢葉 |
日本 |
75%所有(豊田通商25%) |
10,000トン |
試運転 |
Nemaska
Lithium
|
カナダ QUÉBEC |
50%所有
州政府のInvestissement Québeが50% |
スポジュメンから
水酸化リチウムへ |
開発中 |
ブチルリチウム |
Bessemer
City |
ノースカロライナ州 |
|
合計3,265トンの生産能力 |
|
Bromborough |
英国 |
張家港市 |
中国 |
リチウム金属&
その他 |
Bessemer
City |
米国ノースカロライナ州 |
100%所有 |
高純度リチウム金属、
特殊有機物、その他。
250トン
西半球では唯一のメーカー |
稼働中 |
LIOVIX® |
ノースカロライナ州 |
米国 |
100%所有 |
リチウムイオンバッテリーの性能を向上 |
開発中 |
スポジュメン精鉱 |
Mt Cattlin
|
西豪州 |
100%所有 |
スポジュメン精鉱 |
稼働中 |
Galaxy
|
カナダ、ケベック |
100%所有 |
スポジュメン精鉱 |
開発中 |
2024/10/14 中国、豪州産ロブスター輸入再開へ 各製品の貿易制限を解除
中国の李強首相は10月10日、訪問先のラオスで豪州のアルバニージー首相と会談した。
会談後、アルバニージー首相は、中国が2020年から豪州産ロブスターに課してきた輸入制限を撤廃し、年内に貿易を再開することで合意したと明らかにした。
これで中国が豪州に課している貿易制限は一部肉製品を除いて全て解除される。
李首相は会談で豪州との関係は「着実に進展している」と評価した。
ーーー
中国は2020年に入り、関係が悪化している豪州からの多額の輸入を妨げる貿易制限措置を相次ぎ講じた。
豪州が中国通信機器最大手の華為技術(Huawei)の次世代高速通信「5G」への参入を禁じたことなどを契機に関係が悪化していた。
豪州政府は2019年8月に、次世代通信規格「5G」の通信網について、「安全保障上の懸念」から、Huawei
とZTEの参加を認めない方針を出した。
中国人富豪の永住権取り消し
2019/3/2 豪州と中国の関係悪化か?
更に、モリソン豪首相が2020年4月23日に、新型コロナウイルスの感染経路について独立した調査が必要と主張、中国が猛反発した。
豪州産の牛肉や大麦、石炭、ロブスター、ワイン、木材を対象とした制限措置はさまざまな形態で導入された。(下記)
2020/12/20 中国・豪州の関係悪化、豪州が中国をWTOに提訴
2022年5月の豪州の労働党政権への交代後は、中国との関係改善に向けて豪州から要人が訪中するなどしたことで、順次、問題は解決、ロブスターの輸入制限だけが残っていた。
経緯
石炭:
2020年10月に中国で豪州産石炭の通関手続きに遅れが出ていることが明らかになった。
中国の国有発電大手関係者が「税関当局の指導を受け、発電用の石炭の輸入手続きに支障が出ている」と述べた。
中国の税関当局は同日、輸入管理を強化していることを認めた。「関係する産品の輸入の監督管理をさらに強化している」と、水面下で輸入手続きを遅らせていることを示唆した。
中国の2019年の石炭の消費量は約28億トンで、輸入量は約1割の約3億トン。豪州からの輸入量は7700万トンで、インドネシア(約1億3700万トン)に次いで国別で2位。
事情に詳しい複数の関係者が明らかにしたところによると、中国は発電所や鉄鋼メーカーに豪州産石炭の輸入を一時停止するよう口頭で指示した。このため、停止措置がいつまで続くのかや既存の長期契約にどのような影響が及ぶのかを巡り不透明感が漂っていた。
人民日報系の環球時報や財新など複数の中国メディアは12月14日、中国当局が国内発電所に対して、豪州産の石炭は除いて、制限なしに石炭輸入を認めることを決定したと報じた。
ーーー
中国は2023年1月に輸入規制を解除した。
大麦:
中国商務部は2018年11月19日に豪州産の輸入大麦に反ダンピング調査を開始、同年12月21日には反補助金調査を開始したが、その後、進展がなかった。
豪州が華為技術(Huawei)の次世代高速通信「5G」への参入を禁じたことなどを契機に関係が悪化していたが、2020年4月23日にモリソン豪首相が新型コロナウイルスの感染経路について独立した調査が必要と主張、中国が猛反発した。
中国商務部は直後の5月18日に、反ダンピングと反補助金調査でクロの最終決定を行った。
豪州は2021年3月に世界貿易機関(WTO)へ提訴を行った。
中国外務部は、「豪州政府こそ中国側の懸念に真剣に対応し、中国企業に対する差別的なやり方を是正すべきだ」と反論した。Huawei
の問題などを指しているとみられる。
ーーー
2023年4月、中国側による豪州産大麦輸入に対する高関税の見直しと、豪州側によるWTO提訴の一時停止を行うことで合意した。
ワイン:
中国商務部は2021年3月26日、豪州産の輸入ワインについて反ダンピング及び反補助金調査でクロの最終決定を行なった。中国は2020年9月までの1年間で12億豪ドル(約920億円)相当を輸入しており、豪州産ワインの最大の購入国。
豪州政府は2021年6月28日、中国による豪州産ワインへの関税は不当としてWTOに提訴した。
一方中国は2021年6月24日、豪州が中国のステンレス製シンクなどに課した追加関税が不当だとして豪州をWTOに提訴した。
ーーー
中国商務部は2024年3月28日、豪州産ワインに対する反ダンピング関税と補助金相殺関税を撤廃すると発表した。3年間適用していた懲罰的な関税を解除する。
声明で「中国のワイン市場の状況が変わったため、豪州からの輸入ワインに課した反ダンピング・反補助金関税はもはや必要ない」と述べた。
豪州産ワインの関税は2015年のFTA締結後にゼロ%に引き下げられていた。
牛肉:
中国税関当局は2020年5月12日、豪州の食肉処理場4か所からの輸入を停止した。輸入停止はラベリング・衛生認定要件に関連しているとされた。
Kilcoy Pastoral Company、JBS(2工場)、Northern Cooperative Meat
Companyの食肉処理場4箇所が対象で、豪州の対中輸出の約35%を占める。
中国外務部報道官は世界の食肉処理場での新型コロナウイルス感染が報道される中で、国内消費者の健康と安全を守るための措置だと説明した。
新型コロナ発生源調査についての質問に、この2つの問題が結び付いていることはないとし、「間違った政治的解釈をすべきではない」などと語った。
続いて8月27日に、中国の税関総署は豪州産牛肉の輸入を一部停止したと発表した。豪食肉会社John
Dee Warwick
からの牛ヒレ肉から中豪両国が使用を禁じる薬物クロラムフェニコールが検出されたとのことで、薬物が検出された牛肉は廃棄処分され、市場には出回っていないという。
更に2022年1月に、中国は南豪州州のTeys AustraliaのNaracoorte処理場からの牛肉の輸入を停止した。
ーーー
豪州のワット農業相は2024年5月30日、牛肉生産を手掛ける国内主要業者に対する輸入禁止措置を中国が解除したと発表した。
木材:
中国外務省の汪文斌副報道局長は2020年11月2日の記者会見で、豪州産の原木の輸入を止めていると明かした。「害虫」がついていたためという。豪州産のロブスターの通関手続きが遅れていることも認めており、対豪圧力を強めている可能性がある。
汪氏は「今年に入り、豪州から輸入している木材から何度も害虫が検出された」と述べた。原因は豪州側にあると主張した。
ーーー
中国が豪州産木材の輸入を2023年5月18日に再開すると、肖千・駐豪大使が明らかにした。アルバニージー豪首相の中国訪問についても協議が行われているという。
ロブスター:
中国は豪州が新型コロナウイルスの起源に関する調査を求めたことに反発し、2020年終盤に豪州産ロブスターの輸入を事実上禁止した。
中国で豪州産ロブスターの通関手続きが遅れていることを中国側が認め、「中国の消費者の安全を守るためだ」と主張した。ロブスターにどんな問題があったのかは触れていない。
ーーー
その後、両国関係は改善に向かい、ロブスターを除く全ての輸入制限が解除されているが、今回、ロブスターも解除されることになった。
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