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文芸春秋 1998/10月号                         PVCへ

ダイオキシン猛毒の虚構   日垣 隆(作家)
 
 母乳が危ない、焚火をやめろ、子どもを産むな。根拠なきアジテーションこそ問題だ

 私はこれから、ダイオキシンをめぐる日本の「常識」を真っ向から否定しようと思う。 

 第一に、ダイオキシンは人の生命を奪う史上最強の猛毒である、という誤解。

 第二に、母乳の汚染もアトピーも少子化もダイオキシンのせいだ、という誤解。

 第三に、ベトナム戦争の枯葉剤などで深刻な被害が実証されている、という誤解。

 第四に、主な発生源は一般廃棄物焼却場の煙突からだ、という誤解。

 第五に、ダイオキシンを分解してしまうほど高温で焼却すれば安全だ、という誤解。

 第六に、ダイオキシンを完全退治することが環境問題の最優先課題だ、という誤解。

 これらの誤解と、誤解が引き起こしている被害を「ダイオキシン症候群」と呼びたい。いくつかの国のダイオキシン被災地、日本国内の焼却場と埋立地を歩き、ダイオキシンにかかわる膨大な報道と、単行本はもとより学術論文のすべてに目を通すにしたがい、私は「常識」に根源的な疑念を抱くに至った。多くの研究者、市民運動家、環境記者たちにも、それをぶつけてみた。ふいをつかれて驚きはしたものの、みな深刻に考え始めてくれた。結局、大半の同意が得られた。抵抗がなかったわけではない。だが、それもみな「どこかに書いてあった」という根拠以外は提示されなかった。海外の文献や研究者や臨床家にも当たってみることにした。確信は深まった。私たちに伝えられていなかっただけなのだ。

 毒性倍率
 数字の罠
 被災地から
 母乳報道
 焼却灰
 大型高温化