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これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2019/4/1 第一三共、抗がん剤で
AstraZenecaと戦略的提携、最大で69億ドル受領  

第一三共は3月29日、抗がん剤でAstraZenecaと戦略的提携すると発表した。

同社が保有する抗体薬物複合体(antibody drug conjugate: ADC) のトラスツズマブ デルクステカン([fam-] trastuzumab deruxtecan)について、乳がん、胃がん、非小細胞肺がん及び大腸がんを含むHER2発現がんを対象としたグローバルな開発及び商業化契約を締結した。

抗体薬物複合体(ADC)は、抗体と薬物(低分子化合物)を適切なリンカーを介して結合させた薬剤で、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつがん細胞への攻撃力を高め る。

本剤は、独自のリンカーを介して新規のトポイソメラーゼI 阻害剤(薬物)を抗HER2抗体に結合させた薬剤。抗HER2抗体とリンカー、ペイロード(トポイソメラーゼI 阻害剤)のすべてを自社技術で構築した。

トポイソメラーゼI 阻害剤は、癌細胞のDNAの2重らせん構造のうち1本を切断し、異常な細胞増殖を抑えることでがん細胞を殺す。

乳がんなどには、細胞の表面に、がん細胞に「増殖しろ」という指令を出す「HER2タンパク」をもっているものがあるが、トラスツズマブは、HER2タンパクの働きをブロックし,がん細胞の増殖を抑える 。

本剤は、まだ承認されていない治験薬で、安全性及び有効性は確定していない。

北米、欧州及び日本を含むアジアにおいて、本剤を用いた広範かつ包括的な臨床試験が進行中。

米国食品医薬品局(FDA)より、HER2陽性の再発・転移性乳がん治療を対象として画期的治療薬(Breakthrough Therapy)指定及びファストトラック指定を受けている。

付記

第一三共とアストラゼネカは12月23日、ENHERTU®(トラスツズマブ デルクステカン)について、米国食品医薬品局より「転移性の乳がんに対する治療として2つ以上の抗HER2療法を受けたHER2陽性の手術不能又は転移性乳がん」を適応として販売承認を取得したと発表した。

 

また、HER2過剰発現の進行・再発胃がん治療を対象として厚生労働省より先駆け審査指定を受けている。

第一三共では、HER2陽性の再発・転移性乳がんを対象としたFDAへの承認申請目標時期を2020年として いたが、今回、2019年度前半に前倒しすることを決めた。

ーーー

両社は日本を除く全世界において、本剤の単剤療法及び併用療法を共同で開発し、商業化する。第一三共は本剤の製造及び供給に責任を持つ。

サイエンス・テクノロジーに強みを持つ第一三共と、がん領域のグローバル事業に豊富な経験とリソースを持つAstraZenecaとの戦略的提携により、様々なHER2発現がんにおける単剤療法及び併用療法でのトラスツズマブ デルクステカン (DS-8201)の価値を最大化する。

AstraZenecaのCEOは、「DS-8201は、HER2陽性乳がん及び胃がん治療に変革をもたらす新薬になり得ると考えています。また、HER2低発現乳がんにおけるファーストインクラスとして乳がん治療を再定義する可能性があります。さらに、本剤は、肺がんと大腸がんを含む他のHER2変異・HER2過剰発現がんにおいて、抗HER2療法の恩恵を受ける患者さんの対象を広げる可能性があります。他の疾患領域においても長期的に協業している第一三共と今回提携することを誇りに思います」と述べてい る。

日本を除く全世界での開発・販売等の費用と利益は両社で折半する。

売上計上は、日本、米国、及び第一三共が拠点を有する欧州及びその他地域の複数国では第一三共が、中国、豪州、カナダ、ロシア及びその他地域ではAstraZenecaが行う。

AstraZenekaは第一三共に下記の対価を支払う。

契約一時金 13.5億米ドル
開発マイルストン達成等で  最大 38億米ドル
販売マイルストン達成で  最大 17.5億米ドル
支払総額 最大 69億米ドル

  
 


2019/4/2 英下院、再び示唆的投票で過半数無しに 

期限の4月12日まで2週間しかない4月1日、英下院はEU離脱に関し過半数の支持が得られる代替案を模索するための投票を再び実施した。


3月27日に16の案のなかから8案を選び、
「示唆的投票」 ("indicative" vote) を行ったが、いずれも過半数を得られなかった。

国民投票案が最大の268票を得た。関税同盟案が2位、労働党案は3位となり、親EU 派の案に多くの票が集まった。合意なき離脱には反対票が400票もあった。

2019/3/28 英議会 離脱延期を正式決定 代替案8案いずれも過半数に満たず

今回、当日に過半数を得られなかったものを含め、合計8つの案に投票する。過半数の支持が得られる代替案を模索するためという。

なお、メイ首相はその後、早ければ4月2日に自身の離脱案を再び採決にかける可能性がある。


ガーク司法相はBBCテレビに対し「現在は理想的な選択肢がなく、想定されるいかなる結果についても説得力ある反対論がある。それでもわれわれは何かをしなくてはならない」と強調した。

 

「首相は残された選択肢を検討しており、何が起こり得るか考えているが、何らかの決定が下されたとは私は思わない」と述べた。

保守党の議員314人のうち170人はメイ氏に書簡を送り、合意の有無にかかわらず数カ月内に Brexitを実施するよう求めたという。


示唆的投票の候補は次の通り。当初の16案のうち、3月27日に8案が採決に掛けられたが、今回はこのうちの4案と、前回採用されなかった1案及び新たな3案の合計8案が 候補となった。前回3位だった労働党案は入っていない。

しかし、最終段階では前回の4案(Revoke article 50を追加)が採決にかかった。結果は、前回に続き全て否決された。「EUとの関税同盟に恒久的に残留する案」が支持を集めたが、過半数までは届かなかった。

    3/27    4/1
賛成 反対 議案 ポイント 賛成 反対
Labour plan EUとの緊密な経済関係の維持
・全面的な関税同盟
・単一市場との緊密な連携
・新しいEUの権利と保護に対応
・EUの機関、資金拠出計画への参加
・将来のセキュリティ関連の合意
237 307        
Common market 2.0 欧州自由貿易連合(EFTA)、欧州経済領域(EEA) への参加
(EFTA加盟国はEUに加盟することなく、EUの単一市場に参加)
188 283

英はEUの単一市場に参加
居住、労働可能(互いに)
261 282
Confirmatory public vote 議会で通ったBrexit は批准前に国民投票にかける。          268 295 議会で通ったBrexit は、どんな案でも、批准前に国民投票にかける。 280 292
Public vote to prevent no deal       X 議会で「合意なき離脱」となった場合は国民投票にかける。    
Customs union 英国全体が永久の全面的なEUとの関税同盟を締結 264 272 アイルランド国境管理不要
他国と別に貿易協定を結べない。
273 276
Malthouse compromise Plan A 協定案のアイルランドとの国境に関するbackstopを他の案に置き換える。          
Revoke article 50 協定案否決の場合、合意なき離脱について投票する。
合意なき離脱が否決の場合、首相はBrexit を中止する。
184 293 〇+   191 292
Revocation instead of no deal 議会が協定案を否決する場合、政府はBrexit 取り止めに必要な法案を緊急に提出する。          
New customs union EUとの関税同盟を含む貿易協定を結ぶ。          
EEA/EFTA without customs union 欧州経済領域(EEA)にとどまり、欧州自由貿易連合(EFTA)に再加入するが、EUとの関税同盟からは外れる。 65 37        
EFTA and EEA      

X

 

EFTA and EEAに参加、EUの単一市場に参加
アイルランド国境問題と農産品貿易問題の解決のため追加の協定を交渉
   
No deal 合意なき離脱 160 400

X

協定案反対なら4/12に離脱    
Unilateral right of exit from backstop 北アイルランドのBackstop から英国が一方的に離脱できるよう、協定案を修正 (whenever it wants, without the EU's permission).  

X

 

BackstopではEUから抜けられない、北アイルランドが別扱いになるという反対に対応。但し、EUは再交渉しないとしている。    
Consent of devolved institutions 合意なき離脱はしない、離脱に際してはスコットランド議会、ウェールス議会の同意を要する。          
Contingent preferential arrangements EUとの離脱協定が出来ない場合、EUとの特恵貿易協定を結ぶ。 139 422        
Contingent reciprocal arrangements EUとの協定が出来ない場合、EU及びメンバー国とのアレンジは相互的なものとする。          
Respect the referendum results 英国がEUから離脱するという国民投票の結果を尊重することを議会が再確認する。          
Constitutional and accountable government EU離脱を支持、政府の協定案を拒否。新しい試みには2/3の多数を必要とするよう下院ルールを修正。          
 Parliamentary supremacy    

X

 

合意なき離脱回避のステップ
@政府は4/12の2日前に離脱の延期を求める。
AEUが認めない場合、議員に合意なき離脱か離脱中止の選択を求める。
B離脱中止が選ばれた場合、将来のEUとの関係について、何が英国で最も支持され、かつEUが了承するかの調査を行う。
   

 


2019/4/3 Saudi Aramco の財務分析 

Saudi Aramcoは3月27日、SABICの株式の70%を政府系ファンドのPublic Investment Fund (PIF) から691億ドルで買い取ることで正式に合意したと発表した。

Aramcoは買収資金を自ら調達し、PIFに691億ドルを支払う。

2019/3/30 Saudi Aramco、SABIC株式の70%を取得 

ーーー

Aramcoは30年の長期を含む初のドル建て債を100億ドル規模で発行する。JPMorgan Chase とMorgan Stanleyの米投資銀行2社が主幹事を務める。

Aramco は初の債券発行を控え、投資家向けに業績を公表した

Bloomberg などによると、概要は次の通り。

1)   財務数値 単位:億ドル (億単位 四捨五入)

  2016 2017 2018
売上高 1,350 2,630 3,560
EBITDA 940 1,650 2,240
法人税 380 790 1,020
純利益 130 760 1,110
営業Cash flow 290 890 1,210
Free Cash flow 20 560 860
配当 - 500 520


2)  2018年の純利益は、Apple とGoogle とExxonMobil の合計に等しい。

3) しかし、採掘費は安いが、税金が非常に高く、バレル当たりのCash flowは中位である。

サウジは国の運営資金をSaudi Aramco に頼っており、所得税は50%で、ロイヤリティは収入の20%から始まり、最高 50% にまでなる。

4) サウジの実力者であるムハンマド皇太子はSaudi Aramcoの企業価値について2兆ドルを上回ると指摘している。市場ではサウジ側のSaudi Aramco評価が過大だとの見方も出ている。

Bloombergは、2018年に同社が520億ドルもの配当をさせられていることから、1兆2千億ドル程度ではないかとしている。

5)  借入に問題なし

米格付け会社Moody's は4月1日、Saudi Aramcoの格付けを「A1」とし、「トリプルA」のExxonMobilと差を付けた。「Saudi Aramcoは生産規模の大きさや豊富な化石燃料資源などトリプルAに値する性質を多く持つ」と指摘する一方、「政府との密接なつながり」が評価を下げたと説明した。

しかし、Saudi Aramco の負債は少ない。

6)  問題は Saudi Aramco には多くのリスクがあること。

同社は以下のリスクがあることを明らかにしている。

・ 同社の設備へのミサイル攻撃
・ 米国がOPECを独禁法違反とする恐れ
・ 気候変動問題 (
ニューヨーク市が、ExxonMobil やBPなどの国際石油会社に対し「気候変動の原因を招いた」として提訴)
・ サウジリアルと米ドルとの連動(固定相場制)がなくなる可能性
・ サイバー攻撃 (2012年に被害を受け、一部の作業をマニュアルに変えざるを得なかった事実がある。)
・ 石油価格下落 2016年にBrent原油が45ドルまで下がり、OPECが減産した際、同社は損益トントンとなった。
  (年間の純利益は130億ドルまで下がり、free cash flowはたった20億ドルであった。)

このほか、米同時テロに関与した疑いがある外国政府に、遺族らが損害賠償を請求する訴えを起こすことができる「テロ支援者制裁法(JASTA)」が成立している。


2019/4/3 メイ首相、離脱の短期延期を要請へ 

メイ首相は4月2日、約7時間に及ぶ閣議で対応策を協議したあと、首相官邸で声明を読み上げた。

1) 4月12日の合意なき離脱を回避するため、離脱の短期間の延期をEUに要請する。

欧州議会選に参加しなくて済むよう、5月22日までに離脱関連法を成立させたいとしている。

2) そのうえで、秩序立った離脱を実現するため、最大野党・労働党のコービン党首と直接話し合い、合意形成を目指す。

EU側は離脱案のうち、離脱条件を定めた協定の再交渉には応じない構えであるため、英・EUの将来関係の大枠をうたう「政治宣言」に絞って超党派で妥協を引き出し、離脱案全体を可決に持ち込む。

 @ここで合意に達した場合、共同案の議会承認を求める。

 A合意に達しない場合、 「将来の関係について複数の選択肢」を下院で採決に付す。議会の決定がどのようなものであれ政府は実行を約束する。

 いずれのケースも、結果を4月10日のEU首脳会議に諮る。

 

上のいずれも、実現は難しい。

1) EU側は下記の理由で離脱の延期を認めないと思われる。(前回が最後通告)

延期しても英国側がまとまるとは思えない。

新たな欧州議会が開会する7月2日以降も英国がEUにとどまる場合、英国は欧州議会選挙を実施する必要がある。
欧州議会選挙は5月23日〜26日に行われる。4月12日は5月23日〜26日に行われる欧州議会選挙の立候補締め切り日。

現在、英国の離脱を前提に議席の再割り当てをしており、離脱が未定のままでは選挙を進められない。

2) メイ首相は、自分の離脱協定案は譲れないとしており、EU関税同盟への残留を主張する労働党や、現行案ではEUからの離脱がいつまでも出来ないと懸念する与党強硬派が歩み寄るとは思えない。

長期延期がないのなら、合意なき離脱の可能性が強まる。

 


2019/4/4     ジャパンディスプレイの 動き

ジャパンディスプレイ(JDI)は4月1日、下記の発表を行った。

当社は、既に発表のとおり、筆頭株主である株式会社INCJ(旧産業革新機構)とも連携しながら外部との提携交渉を行っております。

現在、当社は 当該提携に伴う600800億円規模の株式及び債券の発行による資金調達及び株式会社INCJによる既存債権に対する優先株式の引受けを含めたリファイナンスにより総額1,100億円超の資本増強について関係者との今週中の合意を目指しており、合意いたしましたら速やかにお知らせします。

日本経済新聞は4月3日、同社が中台連合3社から、出資などを含む600億〜800億円の金融支援を受け入れることで合意する見通しと報じた。中台連合が議決権の5割弱を握る筆頭株主となり、JDIは連合の傘下に入るとしている。

ロイターは4月3日、JDIが今年後半から米 Appleの腕時計型端末「アップルウオッチ」向けに有機ELパネルを供給することが分かったと報じた。

JDIにとっては、この供給が有機EL市場への初参入となる。

JDIは現在、茂原工場で蒸着式有機ELパネルのパイロット生産を始めており、供給体制を整えつつある。本格生産のためには、中台連合の中国計画(下記)が必要になる。

ーーー

経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は、中国と台湾の企業連合(下記のメンバー)から600億円規模の出資を受ける方向で交渉を進めてきた。

中国シルクロード・インベストメントキャピタル(中投絲路資本 CSIC
中国最大の資産運用会社の嘉実基金管理(Harvest Fund Management)
台湾のタッチパネルメーカーの宸鴻集団(TPK Holding)
中国の自動車部品メーカーの敏実集団(Minth Group)

4月3日の日経は、宸鴻光電科技(TPK)や台湾金融大手の富邦グループ、中国大手ファンドの嘉実基金管理グループとしている。

中台連合は、JDIの技術を活用して浙江省に有機ELパネル工場を建設することを計画している。

計画は、第6世代の基盤を3万枚/月、6型パネル 400万台/月の工場の建設で、投資額が約5000億円で、資金は中国政府の補助金を活用する。
早ければ2019年中に建設を開始し、2021年の量産開始を見込む。

しかし、この交渉は下記の理由で難航していた。

その問題がどうなったのか不明だが、今回は下記の線でまとまりつつあるとされる。

中台連合: 600〜800億円 うち普通株が400億円、残りは新株予約権付社債
INCJ :残りを既存債権を優先株に切り替え
合計:1100億円超


問題点:

JDIは2015年3月6日、石川県白山市に第6世代(1500×1850ミリメートル)液晶新工場を建設すると発表した。月産2万5000枚の能力で、投資額は1700億円。

新工場の建設はAppleからの増産依頼によるもので、投資資金の大半はAppleからの前受け金1700億円で賄った。但し、Apple専用とせず、中国スマホメーカーなど他社へも供給する予定。

問題は、JDIと Apple の契約である。この前受金の契約には下記の条項がある。

・JDIは年間2億ドルまたは売上高の4%のいずれか高い金額を四半期ごとに返済する。

・JDIの現預金残高は300億円以上を維持する。

・上記2つの条項を守れなければ、Appleは、前受け金の即時全額返済、または白山工場の差し押さえを要求できる権利を持つ。

返済原資は貸し手であるAppleからの注文次第であることが問題で、Apple側の理由で注文が減ると、 たちまち返済原資に行き詰まる。
工場がApple専用であれば、それなりの条項が入れられたと思われるが、他社への供給もできるようにしたのが逆目に出る形とな った。(Appleが減った分は他社に売ればよいとの言い訳ができる)

中台連合としては、JDIに600億円を注入しても、Appleが注文を減らせば、返済不能となり、600億円はAppleに流れることとなる。

実際に、Appleの「iPhoneXR」の販売が低迷している。

今期のXR向け液晶の出荷量は、計画比で半減する見込みで、2月に入って主力の白山工場の稼働率は50%前後まで落ちている。これにより、昨年9月末に600億円あった現預金が1月に入って急激に減り始めたとされる。

前記のトリガー条項により、Appleから前受け金の即時全額返済を求められる可能性が強まっている。

中台連合の要求に基づいて、2019年以降の返済減額を訴えるため、INCJの志賀会長と経済産業省幹部の2人がApple本社へ乗り込んだが、3月23日に事実上のゼロ回答があった とされる。

今回、出資交渉が進んだのは、なんらかの解決策が得られたとみられる。

ーーー

JDIの概要は下記の通り。

日本の液晶パネルメーカーは「2012年問題」に直面した。大型では日本勢は韓国、台湾勢に押され、シェアは落ちた。
中小型液晶については日本勢はまだ頑張っていたが、各社が単独で事業を進めた場合、十分な能力増強投資ができず、競争力を失ったテレビ用パネルの二の舞いになる可能性が高い。

2011/10/31 液晶パネル事業の現状と課題  

東芝、ソニー、日立製作所と官民ファンドの産業革新機構は2011年8月31日、2012年春に中小型液晶パネル事業の統合会社JDIを設立すると発表した。

3社は当初10%ずつ出資したが、その後売却した。

2011/6/9 東芝・ソニーが携帯向け液晶統合、産業革新機構が出資

経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は2018年3月30日、第三者割当増資などで約350億円 、資産売却で200億円、合計550億円を調達すると発表した。

第三者割当増資(海外機関投資家)  300億円  
第三者割当増資(日亜化学工業)  50億円  
能美工場の資産の産業革新機構への売却  200億円 産業革新機構はこれをJOLEDに現物出資
合計 550億円  

資本関係は次の通りとなった。 (億円)

  2018/3/31 2018/12/31 増減
資本金 969 1,144 175
資本剰余金 2,136 2,311 175
合計 3,105 3,455 350
利益剰余金 -2,333 -2,441 -108
資本合計 772 1,014 242

 

  当初 現状 増資後
産業革新機構  70% 35.58% 26.81%
ソニー 10% 1.78% 1.34%
東芝 10%
日立 10%
日亜化学   3.52%
海外機関投資家計   21.12%
その他現行株主   62.64% 47.21%
合計 100% 100% 100%

合わせて、2017年12月に稼働を停止した能美工場の資産を産業革新機構に約200億円で譲渡する。

2018/4/3   ジャパンディスプレイ、550億円を調達 

同社の工場は下記の通り。

国内:

石川工場 東芝モバイル(松下電器)  
能美工場 東芝モバイル(東芝) 停止→ 産業革新機構に譲渡 → JOLEDに現物出資
白山工場 JDIとして新設   2016/12 稼働 Appleからの前受け金で建設
鳥取工場 ソニーモバイル(鳥取三洋)  
東浦工場 ソニーモバイル 付記 2023/3に停止
茂原工場 日立ディスプレイズ  
深谷工場 東芝モバイル(東芝) 2016/4 閉鎖

海外:

Suzhou JDI Devices 江蘇省蘇州市 旧 日立顕示器件(蘇州)  
Suzhou JDI Electronics 素尼移動顕示器(蘇州)を買収  
Shenzhen JDI 広東省深圳市 旧 深圳日立賽格顕示器 2018 中国企業に売却
Nanox Philippines Philippines ナノックスより、81%取得  
Kaohsiung Opto-Electronics Taiwan 旧 高雄日立電子 付記 2021/10  Wistron (Taiwanese EMS) に売却


2019/4/5   東芝メモリ、1.3兆円調達

東芝メモリが1.3兆円を調達することが分かった。

三菱UFJ銀行と三井住友銀行みずほ銀行の大手3行が合計9千億円を融資し、別に1千億円の融資枠を設ける。

日本政策投資銀行も3千億円の議決権のない社債型優先株を引き受ける。出資の意向を表明していたINCJ(旧産業革新機構)は資金を出さない方針に転じた。
(現在東芝が所有する40.2%相当の議決権のうち、33.4%分は、将来的に資本参加を表明している産業革新機構と日本政策投資銀行に対し指図権を付与している。)

付記

東芝メモリは5月31日、日本政策投資銀行による出資とメガバンク3行からの借り入れで、6月末までに総額1兆2000億円を調達すると発表した。3行は1000億円の追加融資枠も設定する。

なお、同社は5月17日、北上工場第1製造棟でWestern Digital と共同で設備投資を行う正式契約を締結した。3次元フラッシュメモリを生産する。2019年秋の竣工予定。

 

背景は次の通り。

東芝は2017年9月28日、東芝メモリの株式譲渡契約を締結したと発表した。

売却先はBain Capitalがこの目的のために設立し、参加各社が出資する Pangeaで、譲渡価額は2兆円。

2018年6月1日に譲渡が完了した。

東芝メモリ株式譲渡とともに、東芝は譲受会社のPangeaに合計3,505億円を再出資し、Pangeaの議決権のある普通株式を約1,096億円分(約40.2%)、転換権付き優先株式を約2,409億
円分(総数の約40.8%)取得し、その結果、約40.2%の議決権を取得した。

Apple、Seagate、Kingston Technology、Dell Technologies Capitalの需要家4社が(議決権無しで)4,155億円を出資している。

2017/9/30 東芝メモリの株式譲渡契約締結

 

東芝メモリは設備投資に充てる成長資金を確保するため、2019年11月以降に新規株式公開(IPO)を検討しているが、「取引先が株式を持つ現状では上場審査に不利」とされ る。

このため、Appleなど4社が持つ優先株を買い戻しておく必要がある。

今回の調達資金 1.2兆円(他に融資枠1千億円)で Apple等4社の持つ優先株(取得価額4,155億円)を約5,300億円で買戻し、消却する。
残りの資金で金融機関からの借入金 6千億円を返済する。現金700億円が手元に残ることとなる。

 

単位:億円) 出資 合計 転換
社債
借入金 再計 今回 処理後
議決権 優先株
東芝 40.2% 1,096 2,409 3,505     3,505   3,505
HOYA 9.9% 270   270     270   270
(日本側) (50.1%) (1,366) (2,409) (3,775)     (3,775)   (3,775)
Bain 49.9% 1,361 759 2,120     2,120   2,120
SK Hynix     2,660 2,660 1,290   3,950   3,950
(Bain / SK) (49.9%) (1,361) (3,419) (4,780) (1,290)   (6,070)   (6,070)
Apple ほか4社
(買戻し額)
    4,155 4,155     4,155

-4,155
(-5,300)

0

金融機関           6,000 6,000

-6,000
9,000

9,000
日本政策投資銀行               3,000 3,000
INCJ
(産業革新機構)
              0  
合計 2,727 9,983 12,710 1,290 6,000 20,000 1,845 21,845
(今回のCash 増)             700  


 



2019/4/5 英国の混乱続く 


メイ首相は4月5日、EUのトゥスク大統領に書簡を送り、12日に迫ったEU離脱期限を6月30日に再延期するよう要請した。

もし、議会が離脱協定案を承認すれば、5月23日の欧州議会選挙の前に離脱ができるとし、承認を得られない場合は議員候補を出すとしている。

しかし、4月12日が立候補締め切り日であり、英国の離脱を前提に議席の再割り当てをしているため、離脱が未定のままでは選挙を進められない。

既にEUのユンケル欧州委員長は4月3日に「離脱協定案を英議会が承認しなければ、短期延期は不可能」と明言している。

ーーー

英国のEU 離脱に伴う混乱を避けるため、英政府に対してさらなる離脱延期をEUに申し入れるよう義務付けた法案が、4月3日にわずか1日で下院を通過した。

労働党のYvette Cooper 議員が提出したもので、賛成313票、反対312票の僅差で可決された。 保守党から14人の造反者が出た。

  投票権者 賛成 反対 棄権
保守党 312 14 290 8
民主統一党 10   10  
(与党 (322) (14) (300) (8)
労働党 243 229 9 5
スコットランド国民党 35 35    
自由民主党 11 11    
独立党 11 8 3  
独立グループ 11 11    
シン・フェイン党 7     7
プライド・カムリ 4 4    
緑の党 1 1    
合計(欠員 1) 645 313 312 20

政府は声明で、「首相はすでにEUから協定にもとづいて離脱するための明確なプロセスを提示しており、政府もすでにさらなる延長に向けて尽力している」と述べ、「もしこの法案が可決されれば、政府の延長交渉に深刻な制限がかかることになり、4月12日までに新たな離脱日を英国法に示すことが難しくなる」 としている。

メイ首相は4月2日、約7時間に及ぶ閣議で対応策を協議したあと、首相官邸で声明を読み上げた。

1) 4月12日の合意なき離脱を回避するため、離脱の短期間の延期をEUに要請する。

2) そのうえで、秩序立った離脱を実現するため、最大野党・労働党のコービン党首と直接話し合い、合意形成を目指す。

2019/4/3 メイ首相、離脱の短期延期を要請へ 

これまでの「示唆的投票」は可決されても政府を拘束するものではないが、今回の法案は上院貴族院に廻り、上院で可決すれば法律となり、政府を拘束する。

但し、EUに離脱を申し入れても、EUが受け入れるとは思えない。

メイ首相の発言を受け、EUのユンケル欧州委員長は4月3日、「離脱協定案を英議会が承認しなければ、短期延期は不可能」と明言した。合意なき離脱の可能性が高まっているとし、「どんな結果になるかは英国側にかかっている」と述べた。

7月2日に開かれる新たな欧州議会の議員を選ぶ選挙は5月23日〜26日に行われるが4月12日は立候補締め切り日である。
英国の離脱を前提に議席の再割り当てをしており、離脱が未定のままでは選挙を進められない。


EUのトゥスク大統領は、離脱期限について、12カ月の「柔軟な」延期を英国側に提示することを提案している。 BBCがEU高官の話として4月5日に報じた。

この場合は欧州議会に議員を出す必要がある。現時点ではメイ首相は、欧州議会選に参加しなくて済むよう、5月22日までに離脱関連法を成立させたいとしている。

ーーー

上院では4月4日にこの法案の審議が始まったが、保守党の7時間に及びフィリバスターで、まだ投票には至っていない。(通常は下院で通った法律は上院でも通る。)

議長の調整の結果、4月8日に投票することとなった。

上院の構成:

  一代貴族 世襲貴族 聖職貴族 合計
聖職貴族     26 26
Conservative 199 48   247
中立派 152 32   184
Labour 181 4   185
Liberal Democrat 91 4   95
議長 1     1
無所属 26 3   29
その他 15     15
合計 665 91 26 782

聖職貴族:国教会の高位聖職者であるカンタベリー大主教、ヨーク大主教、ロンドン主教、ダラム主教、ウィンチェスター主教の5人と、そのほかの21名の教区主教をあわせた計26名。

 

ーーー

メイ首相は4月3日、膠着状態の打開策を探るため、労働党のコービン党首と会談した。

首相府はコービン党首との会談について、「建設的な対話だった」と位置付けているが、コービン党首は、「有意義だったが結論は出なかった」と し、メイ首相の姿勢は期待したほどには変わらなかったとも言い添えた。4日に再度協議を行うと述べた。

首相の労働党との協議の戦略は与党内から強い反発を招き、閣僚2人が辞任、議会でも与党議員からメイ首相を批判する発言が相次いだ。

4日の与野党協議には、労働党からは影のEU離脱相、影のビジネス相も参加した。

「協議を続けたし、これからも政府と協議を続ける」と述べた。

 

 


2019/4/6 米国下院もイエメンでのサウジ支援停止案を可決 

米下院は4月4日、イエメン内戦に介入するサウジアラビアへの軍事支援を停止するよう求める決議案を賛成多数で可決した。共和党から16名が賛成にまわった。

  共和党 民主党 合計
賛成 16 231 247
反対 175   175
棄権 5 4 9
合計 196 235  431
欠席 3   3
欠員 1434*3/4

1973年の戦争権限法に基づき、サウジ主導連合軍による空爆への支援を含め、米軍が議会の承認を経ずにイエメン内戦に関与することを停止するよう求めている。

本件では、上院は2018年12月に決議案を可決したが、当時は下院の多数派だった共和党が下院での採決を阻止したため頓挫した

上院は本年1月末に再度、決議案を提出した。
民主党が多数派となった下院も、上院案を修正したうえで本年2月13日に決議案を248対177の賛成多数で可決した。230人の野党・民主党議員に加え、与党・共和党からも18人が賛成に回った。

米上院は3月13日、イエメン内戦に介入するサウジアラビアへの軍事支援を停止するよう求める決議案(1月末に提案)を賛成多数で可決した。
  共和党 民主党 民主系
無所属
合計
賛成 7 45 2 54
反対 46     46
合計 53 45 2 100

2019/3/16 米上院、イエメンでのサウジ支援停止案を可決  

この上院の決議案は、下院が2月13日に可決した案と異なっているため、今回下院で再度決議したもの。

米国の戦争権限法は、大統領の戦争宣言などを経ずに米軍が外国での「敵対行為」に携わる場合に、上下両院で決議案を可決すると敵対行為を停止できると規定している。

しかし、ホワイトハウスは2月の下院の議決時に、トランプ大統領は拒否権を行使する方針だと明らかにしている。

トランプ大統領は3月15日、国家非常事態宣言を巡り議会が可決した同宣言を無効とする決議案に拒否権を発動したが、これに次ぐ2件目となる。

付記 大統領は4月16日、拒否権を発動した。

議会が拒否権を覆すには両院で 2/3 以上の票が必要だが、現状では難しい。

 


2019/4/6 合意なき離脱の場合のアイルランドの扱い 

Brexitの最大の問題はアイルランド問題である。

英国のEU離脱で、アイルランド島の内部で、英国の北アイルランドとEUに残るアイルランド共和国との間に再度国境管理が行われると、1998年4月10日のベルファスト合意(聖金曜日協定)で収拾した北アイルランド紛争の再発が懸念される。

共通旅行区域(CTA)制度は両国のEU加盟以前からある取り決めであると指摘し、税関や検疫も含め、物理的な国境設備の設置を避けることを目指すと明言し、日常的に住民や農業従事者、小規模な商業従事者が往来し物資の移動が行われている現状に配慮する必要性を訴え、通関申告を免除するなど「可能な限り摩擦のない陸上国境の実現」を目指すべきとしている。

また、ベルファスト合意を全面的に支持する姿勢を強調、同合意で定められた通り、北アイルランドの住民には両国間の往来の自由を認めると共に、両国の二重国籍を取得する権利やアイルランド国籍に由来するEU市民権も認めるよう求めている。

2019/2/11 Brexitの問題の根源(続き)−「北アイルランド国境問題」

英政府は本年3月13日、合意なき離脱となった場合、アイルランドと北アイルランドの厳格な国境管理を回避すると表明した。

合意なき離脱となった場合、アイルランドから北アイルランドへの商品の輸入について新たな検査や管理を導入しない。企業の自己申告に頼り、国境を越えた取引を記録するためアプリベースのシステムを活用するという。新たな輸入関税制度は適用しない。

この計画は一時的かつ一方向のもので、長期的な対策については、EU・アイルランド政府と早急に協議を開始するとしている。

英政府は同日、合意なき離脱となった場合、輸入関税を引き下げると発表した。

金額ベースで英国への輸入品の87%に相当する商品が無関税となる。現在は80%が無関税。

EUからの輸入品は現在は100%が無関税だが、82%が無関税となる。
EU以外からの輸入品は現在は56%が無関税だが、92%が無関税となる。

これは、英国の輸入関税の話であり、輸出先はこれと無関係に、(従来のEUメンバーとしての関税ではなく)WTOルールで関税をかける。
輸出産業は被害を受けることとなる。

英国の生産者を保護するための措置も継続する。自動車メーカー、牛肉、ラム肉、豚肉、鶏肉、酪農製品の生産者などが対象となる。

2019/3/14  英下院、「合意なき離脱」を否決 

 

しかし欧州側は、合意なき離脱に備え、アイルランドには国境を越えた貿易の検査体制を準備すべきだと圧力をかけている。アイルランド・英国間の貿易に対して大規模な検査体制を敷く必要があるとする。

アイルランド首相は、合意なき離脱の場合でも、国境を越えた貿易の検査は避けられると期待していたが、EUは、監視が少しでも欠けたら欧州の単一市場に大きな穴が開くことを懸念し、この方針を退けた。

欧州のある有力外交官は、「アイルランドの友人たちは、まだ現実を見ていない。我々は壁の建設について話しているわけではないが、単一市場の一体性を守る必要がある。加盟国の間では、アイルランドの準備不足を心配する人が増えている」と述べている。

アイルランド政府内では、国境を越える貿易に関税をかけ、通関手続きや食品・動物の検疫を実施するために対策が必要なことは暗に受け入れた。

工場や輸送中の製品など、国境から離れた場所での検査について議論している。

首相は4月3日、アイルランド議会に対し、関税や通関料はオンラインないし税務署で徴収できると述べ、合意なき離脱の場合も多くの検査は遠隔で実施できると語った。

しかし、問題は動物の検疫で、獣医によって物理的に行うしか方法がない。「そうした検疫は港で実施されるべきで、衛生基準と植物検疫基準についてはアイルランド島が島全体として扱われるべきだというのが我々の見解だ。それには英国の協力が必要になる」と語った。

 


2019/4/7 メイ首相、労働党との妥協に理解求める 
 

メイ英首相は4月6日深夜、Brexitについて、野党・労働党の支持を取り付ける以外に事態打開の道はないとする声明を出した。

離脱協定案は英議会で3回否決されていると指摘し、与党・保守党内部と、閣外協力する北アイルランドの地域政党の民主統一党から過半数の支持が得られないなら、新しいアプローチ:労働党と妥協するしかないと明言した。市民は国の危機に際して政治家が一緒に解決することを期待していると述べた。

“The choice that lies ahead of us, is either leaving the European Union with a deal or not leaving at all.

“I think the government thinks we must absolutely leave the European Union.

“We must deliver Brexit. That means we need to get a deal over the line.

"And that's why we've been looking for new ways to find an agreement in Parliament, and that means cross-party talks.

“There's lots of things which I disagree with the Labour Party on policy issues.

“But on Brexit, there are some things we agree on.

“Ending free movement, ensuring we leave with a good deal, protecting jobs, protecting security.

“It'll mean compromise on both sides, but I believe delivering Brexit is the most important thing for us.”

協定案で議員のマジョリティを得ることが、英国がEUから離脱する唯一の方法である。時間がかかればかかるほど、英国がEUを離脱しないリスクが高まるとする。

単一市場への残留や再国民投票の可能性を否定せず、与野党が合意している分野もあると強調。「双方とも域内での人の自由な移動は認めず、良い条件で離脱し、雇用を守ることを望んでいる」と語り、「これが議会で過半数を獲得できる妥協案の基になる」との見方を示した。

 

保守党の離脱派はメイ首相が労働党の要求、特にEUとの関税同盟、を受け入れるのではないかと、メイ首相の発言に怒りを示す。
関税同盟の場合、EUとは関税無しとなるが、英国が他国とFTAを締結することができなくなる。

 

実際には、単一市場に残りながら移民を制限する「いいとこ取り」の “soft Brexit ” は、EUが認めないことが確実で、これが“hard Brexit" に踏み切った理由である。

May首相は2017年1月17日、EUからの離脱を巡り、移民制限や司法権独立など英国の権限回復を優先し、EU単一市場から完全に離脱すると表明した。

2017/1/19 BREXIT の12のポイント 


しかし、労働党との協議が成功する保証はない。

労働党との3日間の協議は金曜に合意なしで終わった。労働党のCorbyn党首は、政府側のポジションに大きな変化は見られないとしている。

 


2019/4/8      米下院、国境の壁建設は憲法違反として提訴

米民主党が主導する下院は4月5日、トランプ大統領の国家非常事態宣言に基づいて政権がメキシコ国境の壁建設を進めるのは合衆国憲法に違反するとして、宣言に基づく建設費捻出の違憲確認と支出差し止めなどを求めて首都ワシントンの連邦地裁に提訴した。

下院のBipartisan Legal Advisory Group(民主党のトップ3人と共和党のトップ2人で構成)が3対2 で承認した。

訴状は、米議会が議決した国防総省などの予算を非常事態宣言に基づいて目的外の壁建設費に使うのは「憲法が定めた議会の予算編成権を侵害している」と主張した。

合衆国憲法Article I, Section 8 は議会に予算編成権を認めている。

The Congress shall have Power To lay and collect Taxes, Duties, Imposts and Excises, to pay the Debts and provide for the common Defence and general Welfare of the United States; but all Duties, Imposts and Excises shall be uniform throughout the United States;

ペロシ下院議長は「大統領のごまかしの非常事態宣言と資金の違法な流用は民主主義を弱め、議会の投票結果、国民の意思、合衆国憲法に背くものである。議会は、憲法で議会のみに認められた責任を取り戻し、チェック アンド バランスのシステムを守らねばならない」と述べた。

米議会では上下両院が非常事態宣言を無効とする決議を可決したが、大統領が3月15日に拒否権を発動、下院は3分の2以上の賛成で決議を再可決することができず、拒否権は覆らなかった。

米上院は3月14日、トランプ大統領が「国境の壁」建設のために出した非常事態宣言を阻止する決議案を可決した。野党・民主党のほか、与党・共和党からも Romney 議員ら 12人の造反が出た。

米下院は既に2月26日、国家非常事態宣言を無効にする決議案を245対182の賛成多数で可決している。政権を支える共和党からも13人が賛成した。

トランプ大統領は3月15日、国家非常事態宣言を巡り議会が可決した同宣言を無効とする決議案に拒否権を発動した。

下院は3月26日、大統領の拒否権を覆すための採決を行ったが、必要な2/3の賛成票を得られなかった。共和党からは14人しか賛成しなかった。

2019/3/27 米下院、非常事態宣言無効化に対する大統領の拒否権発動の阻止に失敗 

政権は3月下旬、国防総省の予算の一部を壁建設費に転用する手続きを始めた。

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今回の議会による政府の訴訟が裁判所に認められるかどうかが問題であるが、過去に共和党が格好の前例をつくっている。

民主党は、大統領が憲法で議会に認められた権力を無視したと主張するが、2014年に共和党がObama政権を同じ理由で訴えている。


2019/4/9 腎臓の再生医療実現に向けた取り組み開始 

慈恵大学・東京慈恵会医科大学、明治大学、バイオス、ポル・メド・テック、大日本住友製薬は4月5日、iPS細胞を用いた「胎生臓器ニッチ法」による腎臓再生医療の2020年代での実現を目標として、共同研究・開発などの取り組みを開始すると発表した。

「胎生臓器ニッチ法」とは、東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科学横尾教授らの研究成果で、動物の発生段階である胎仔の中で臓器が発生する場所に、別の動物から目的とする臓器の前駆細胞を注入し、臓器に分化誘導する方法。

このたびの腎臓再生には、ヒトiPS細胞から分化誘導したネフロン前駆細胞を、明治大学長嶋比呂志所長・教授らの研究成果である「ヒト腎臓再生医療用遺伝子改変ブタ」の胎仔から採取した腎原基に注入し、その後、腎原基を患者に移植することによって、臓器ニッチを利用した機能的腎臓の再生を目指すもの

「胎生臓器ニッチ法」はバイオスが、「ヒト腎臓再生医療用遺伝子改変ブタ」はポル・メド・テックが、それぞれの技術に関わる再生医療ベンチャーとして設立されており 、「胎生臓器ニッチ法」用いた腎臓再生医療の事業化は、5者協力のもと大日本住友製薬が担う。

バイオスの経営陣は、東京大学発再生医療ベンチャーのTESホールディングスの経営陣が中心となって組成された。腎臓再生医療の技術確立において、最先端の研究を行う教授陣との強固なアライアンスを構築している。横尾隆教授の腎臓再生医療に関する「移植用臓器及び臓器構造体」およびその海外出願特許を、バイオスが取得し保有している。

ポル・メド・テックは、明治大学の長嶋比呂志教授が作製した疾患モデルブタなどの研究成果をベースとして、2017年2月に設立されたベンチャー企業。

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腎機能が正常の10-15%以下になると、透析や移植などの腎代替療法が必要で、腎移植や透析療法が必要な末期腎不全患者は世界中で増加傾向にあり、530万人〜1050万人と推計される。

しかし、腎臓移植は国内のドナー不足の問題がある。透析関連医療費は一人当たり年間500万円であり、その年間総額は1兆円以上にのぼり、国の医療費増加の一因となってる。
日本では、2017年の腎臓移植希望登録数の約12,500件に対して、腎臓移植例は約1,750件にとどまる。

この様な現状から、慈恵医大腎臓再生グループでは、腎臓を臓器としてまるまる『再生』する腎臓再生に取り組んできた。

ところが腎臓の場合は複雑な構造で、ネフロンという100万個もあるような構造体を作らなければ尿は出ない。こんな複雑な構造体を作るのは難しい。

 

このため、「胎生臓器ニッチ法」の研究を始めた。

生まれたての子供はみんな腎臓を持っているが、ヒトの場合は子宮の中でわずか2日間くらいでつくられる。

腎臓の元の細胞が腎臓になるタイミングが来たら、精巧なプログラムがその2日間に働いて、そこにある細胞が勝手分化し、どんどんどんどん腎臓になっていく。

豚の胎児が腎臓を作っている最中にその環境を借り、患者から取った幹細胞に腎臓に分化するプログラム を入れ、ヒトの腎臓にして患者に戻す手法である。

具体的手法は以下の通り。

@ヒトiPS細胞からネフロン前駆細胞(腎臓になることが分かっている幹細胞)へ分化誘導する 。

A遺伝子改変ブタ 胎仔の膀胱付き腎原基に ネフロン前駆細胞を注入する。

腎原器とは胎児期の腎臓のことで、哺乳類では後腎にあたる。

豚の胎児が腎臓を作っている最中にその環境を借りると、患者から取った幹細胞に腎臓に分化するプログラムが入る 。

豚の胎児にもともと備わっているプログラムと場所(ニッチ)を「借りる」ことで、患者由来の細胞から再生腎臓の芽(原基)を作る。

Bネフロン前駆細胞 から成長した膀胱付き腎原基を患者に移植し 、臓器初期発生プログラムを遂行させる。

胎児期の膀胱〜尿管〜後腎組織を一塊として『クロアカ』移植片と呼ぶ。

幹細胞はもうプログラムされているので、取り出しても後は勝手に腎臓になっていく。管が侵入して発育が継続し、正常な腎臓の持つ機能である尿やエリスロポエチンなどのホルモンを産生する 。

腎臓に分化するプログラムは元の動物のプログラムのため、所定の大きさになると「そこで止まる」という命令がでる。マウスの場合は小さな腎臓となる。
豚のプログラムを借りると、豚の腎臓の大きさ(ヒトと同じくらいの大きさ)となる。

C腎原基を移植した患者に尿路形成術を行い、機能的腎臓を実現 する。

発育した膀胱と 患者の尿管をマイクロサージャリー技術を導入して吻合することで、再生腎臓が産生する尿が 尿管を通じてヒトの膀胱内に持続的に排泄 する。

参考資料 慈恵医大横尾教授に聞く「再生腎臓の今、そして未来」

    再生腎臓からの尿排泄に成功 〜臨床応用に向けた大きな一歩〜


 

2019/4/9 英議会、Brexit 再延期要請法案を承認 

英国のEU 離脱に伴う混乱を避けるため、英政府に対してさらなる離脱延期をEUに申し入れるよう義務付けた法案が、4月3日にわずか1日で下院を通過した。

労働党のYvette Cooper 議員が提出したもので、賛成313票、反対312票の1票差で可決された。

上院貴族院では4月4日にこの法案の審議が始まったが、保守党の7時間に及びフィリバスターで、投票には至らず、議長の調整の結果、4月8日に投票することとなった。

2019/4/5 英国の混乱続く  

貴族院は4月8日、この法案に若干の修正を加え、可決した。修正後の法案は下院に戻され、再度可決された。

この後、女王の承認 (Her Royal Assent )を得て法律となった。

 

メイ首相は既に4月5日に、EUのトゥスク大統領に書簡を送り、12日に迫ったEU離脱期限を6月30日に再延期するよう要請している。首相は4月9日にBrussels にわたり、10日のEU首脳会議に出席する。

しかし、今回の法案は、4月12日の合意なき離脱を絶対に避けることを目的に、メイ首相がBrusselsに移動する前に議会と協議することを義務付けた。
首相の提案する延期期日(現在のところ6月30日)を変更する機会を議員に与える。

今回の法案の提案者Yvette Cooper議員は、「本日両院は、合意なき離脱が英国の雇用、製造、安全保障をひどく傷つけるという見解を極めて明確にした」と述べた。

英政府は政府は9日の議会審議をへて、翌10日に開催されるEU首脳会議で離脱再延期を求める見込み。

 

EUのトゥスク首脳会議常任議長は、最長1年間の延期を英国に打診する意向で、協定案が承認され次第、離脱できるという条件もつけるとされる。


なお、労働党との協議は8日も行われたが、まとまっていない。9日も継続する。

8日には「技術的な」話し合いが行われたが、メイ首相は労働党が求めていEUとの関税同盟締結には応じていない。

EUとの将来の関係を示した法的拘束力のない「政治宣言」については、変更を加える方向で協議が進んでいるという。

労働党のジェレミー・コービン党首は、政府はまだ「最後の一線」を越えていないと話した。

 

 


2019/4/10   JOLED、千葉事業所に印刷方式有機ELディスプレイの後工程製造ラインを構築

有機ELディスプレイを開発・製造・販売し、世界初の印刷方式有機ELディスプレイ量産ラインの構築を進めている JOLEDは4月8日、このたび開設した「千葉事業所」において、「後工程」製造ラインの構築を開始したと発表した。

千葉事業所は本年4月1日の開設で、
茂原市のJDI茂原工場(旧 日立ディスプレイズ)内に設置した。

印刷方式の有機ELディスプレイパネルの後工程製造ラインを設ける。能力は有機ELディスプレイ 約220,000台/月。

2818年7月開設の能美事業所でアレイ工程から印刷OLED工程までの「前工程」を行ったあと、千葉事業所にて「後工程」であるモジュール工程を行い、最終検査を経て製品として顧客に出荷する。

両事業所は2020年に同時に稼働する予定。

JOLEDは、RGB印刷方式による21.6型4K高精細の有機ELパネルを世界で初めて製品化し、2017年12月5日より出荷を開始した。
大画面に均一に一括塗布する設備技術・プロセス技術の実用化とともに、光取り出し効率が高い独自の「トップエミッション構造」により、優れた色再現性や広視野角を実現した。

住友化学が開発した高分子発光材料を使用する。印刷方式は蒸着よりコストが安い半面、パネルが大型になるほど均一に材料を塗布するのが難しかったが、これを使えば塗布のムラができにくくなる。 

2018/3/24 デンソー、JOLEDに300億円出資

 

今回の設備投資には、INCJ、ソニー、NISSHAを引受先とする第三者割当増資により調達した総額255億円の資金の一部を活用する。
3社のうち、INCJは200億円の出資を発表している。残り55億円の内訳は不明。

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JOLEDは2015年1月、有機ELディスプレイの量産開発加速および早期事業化を目的として、ソニーとパナソニックの有機ELディスプレイの開発部門を統合して設立された。

産業革新機構が75%、ソニーとパナソニックが各5%出資し、有機EL事業の進出を図るジャパンディスプレイ(JDI) も15%出資した。

JDIは2016年12月にJOLEDに51%の出資とすることを決めたが、中期経営戦略の見直しに伴い、2018年3月30日にこの出資方針を取り消した。
但し、今後の追加出資で、議決権比率を15%から20%台に引き上げる予定とした。

 

JOLEDは石川、京都、神奈川の技術開発センターを拠点に開発を進め、2016年にパイロットラインを立ち上げ、印刷方式による有機ELディスプレイ量産技術を確立した。2017年に石川技術開発センターから製品出荷を開始している。

経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)は2018年3月30日、能美工場を産業革新機構に200億円で売却すると発表した。産業革新機構はこれをJOLEDに現物出資するとされた。(現物出資をしたのかどうか は発表がなく、JOLEDが増資で取得した資金で買収した可能性もある。)

JOLEDは2018年8月23日、第3者割当増資により、総額470億円を調達したと発表した。

引受先の内訳はデンソーが300億円、豊田通商が100億円、住友化学が50億円、SCREENファインテックソリューションズが20億円。
デンソーとは車載向けディスプレイの開発で協力するほか、豊田通商には販売面の協力を仰ぐ。住友化学とは材料開発での協力体制を強化する。

JOLEDは2019年中に世界初となる低コスト方式での有機ELパネルの量産を始めるが、デンソーとパネルを共同開発して車載分野を強化し、先行する韓国勢に対抗する。

2018/3/24 デンソー、JOLEDに300億円出資

今回、既存株主のINCJ(旧 産業革新機構)とソニーに加え、NISSHAが出資する。NISSHAはフィルムベースのタッチセンサーを主力製品のひとつとしており、タッチセンサーでJOLEDと協業する。

 

同社の出資関係はよく分からない。

最新の同社の資本金は 625億3,758万円となっている。出資額 は資本金と剰余金に分けられるが、その情報がなく、各社の出資額と出資比率の関係が不明。

今回の報道では、出資比率はINCJが36.1%、JDIが27.2%、デンソーが18.3%となっているが、JDIによる追加出資の発表はなく、比率アップの理由不明。

これまで発表されているのは下記(単位:億円)のとおり。

  増資前 2018年出資 現物出資 今回出資
産業革新機構→INCJ 75%   200? 200
JDI 15%      
Sony 5%     55
NISSHA      
Panasonic 5%      
デンソー   300    
豊田通商   100    
住友化学   50    
SCREEN   20    
合計 470 200? 255

 


2019/4/10 Saudi Aramco の起債 

Saudi Aramcoの社債発行の概要が主幹事銀行の資料で明らかになった。

発行額は 当初、100億ドルとされていたが、120億ドルになった。

これに対し、応募が殺到し、4月9日には購入希望額が1000億ドルに達した。

JPMorgan Chase とMorgan Stanleyの米投資銀行2社が主幹事を務める。

内訳は、次の通り。

  今回のSaudi Aramco 債 参考 サウジ国債(2019/1発行)
金額 利回り 金額 利回り
3年債 10億ドル 米国債+0.55%    
5年債 20億ドル 米国債+0.75%    
10年債 30億ドル 米国債+1.05% 40億ドル 米国債+1.75%
20年債 30億ドル 米国債+1.40%    
30年債 30億ドル 米国債+1.55% 35億ドル 米国債+2.30%
合計

120億ドル

  75億ドル  

利回りはサウジのソブリン債を下回る。

国有企業の社債利回りが、その国のソブリン債利回りを下回るのはまれで、旺盛な需要は、質の高い債券に投資する意欲を映している。

サウジアラビアは2019年1月9日、国際市場で75億ドル相当の債券を発行した。
カショギ氏殺害事件後初の起債で、投資家の購入意欲が注目されたが、応募は275億ドルと3倍余りに上った。

ーーー

Saudi Aramcoは3月27日、SABICの株式の70%を政府系ファンドのPublic Investment Fund (PIF) から691億ドルで買い取ることで正式に合意したと発表した。

Aramcoは買収資金を自ら調達し、PIFに691億ドルを支払う。

2019/3/30 Saudi Aramco、SABIC株式の70%を取得

Aramcoは30年の長期を含む初のドル建て債を100億ドル規模で発行することとし、初の債券発行を控え、投資家向けに業績を公表した

2019/4/3  Saudi Aramco の財務分析

 

 



2019/4/11 愛媛大学と大日本住友製薬のマラリアワクチン開発 

愛媛大学と大日本住友製薬は4月9日、アフリカやアジアなどで猛威を振るうマラリアのワクチン開発につながる抗原を発見したと発表した。

今後、研究を継続し、2020年代にワクチンの実用化を目指す。

このたび、世界初の革新的な官民パートナーシップのグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)から93,057千円の研究助成金を受け取った。

GHIT Fundは、政府・企業・財団が出資するもので2013年4月に設立された。開発途上国に蔓延する感染症の新薬やワクチン等の新しい医薬品の研究開発および製品化を促進することにより、グローバルヘルスへ貢献することを目的にしている。

GHIT Fundは3月28日、上記を含め、マラリア、結核、デング熱、リーシュマニア症、住血吸虫症に対する新薬開発10件に対して、総額約28.6億円の投資を行うことを決定した。

マラリア関連では他に、下記がある。

エーザイ&ブロード研究所:

 @新規作用機序を有し、多段階の生活環において効果を示す抗マラリア薬の開発 536,822千円
 
Aマラリア治療のための新規マラリア原虫 DHODH阻害剤の前臨床開発 421,418千円

田辺三菱製薬&Medicines for Malaria Venture:抗マラリア剤リード化合物最適化研究 192,247千円

武田薬品&Medicines for Malaria Venture:抗マラリア薬としてのリード化合物探索プログラム 52,800千円

ーーー

マラリアワクチン開発は他に次がある。

塩野義は2月28日、長崎大学とマラリア研究について包括連携協定を結んだと発表した。
長崎大の熱帯医学研究所に研究部門を新設し、塩野義の研究者を派遣。基礎研究と並行して治療薬やワクチンの研究開発に取り組む。
長崎大は「細胞性免疫誘導ワクチン」の研究を進めており、塩野義はワクチンの効果を高められる「アジュバント」(マラリアタンパク質に抗体をつくらせる)などで連携する。

ーーー

日本人研究者が創業した米国メリーランド州の創薬ベンチャー VLP Therapeuticsは2月4日、独自技術 i-αVLP (inserted alpha VLP) Technology で開発したマラリアワクチン候補 VLPM01の新薬臨床試験開始届がFDAにより認可され、フェーズ I/IIa の患者登録を開始したことを明らかにした。

2019/3/5   マラリアワクチンの臨床試験 開始

 

愛媛大学と大日本住友製薬の計画は次の通り。

マラリアワクチンは、マラリア原虫のタンパク質とアジュバンド(免疫増強剤:マラリアタンパク質に対する抗体をつくらせる)でつくるものだが、マラリア原虫を形作るタンパク質は約5400種類 もあり、どれを選んでワクチンにすればいいのか分からない 状況であった。

愛媛大学の遠藤弥重太特別栄誉教授 はコムギ無細胞タンパク質合成法を世界に先駆けて実用化に成功している。

小麦の種子は、主に外皮、胚乳、胚芽の3つから構成され、胚芽にはタンパク合成に必要な翻訳因子が豊富に含まれてい る。

コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を使えば、真核生物、原核生物、ウィルスなど多様な生物種由来のタンパク質をつくることが可能 。

コムギ抽出液に対象のDNAを入れると、転写、翻訳され、タンパク質がつくられる。

愛媛大学のプロテオサイエンスセンターでは、この技術を利用して、マラリア原虫タンパク質を作成した。

精製したマラリアタンパク質をウサギに注射すると、148種の抗体が出来た。

マラリア原虫と148種の抗体を1日培養し、原虫増殖阻害効果が高く、遺伝子変異による耐性化の可能性が非常に低い抗体 PfRipr を見つけた。

しかし、PfRiprは複雑すぎ、多量に合成できない という問題があった.

このたんぱく質を小さく断片化し、強い薬効を 有し、大量合成が可能なPfRipr5 を見出した。

作用機序は、抗PfRipr5抗体がマラリア原虫の赤血球侵入を阻害することも判明した。

 

今後の開発体制は次の通り。

1) GMP準拠の PfRipr5 を大量合成する。担当:ポルトガルiBET(Institute of Experimental Biology and Technology)

2) 適切なアジュバントと混合してワクチンをつくる。担当:ドイツEVI(European Vaccine Initiative)

3)  ワクチン効果の確認  担当:愛媛大学のプロテオサイエンスセンター(PROS)

大日本住友製薬は全体のアドバイザーとなる。

 

EVIは Stockholm University と Heidelberg Universityにより設立され、下記の組織が加入している。

Biomedical Primate Research Centre (BPRC) in The Netherlands
Jenner Vaccine Foundation, University of Oxford
National Institute for Public Health and the Environment (Intravacc)
Royal College of Surgeons in Ireland (RCSI)
Institut Pasteur (IP)

iBETはバイオとライフサイエンス分野での民営の非営利研究組織で1989年に設立された。Health & Pharma Food & Health の分野で大学と企業の開発をつなぐ。
分析サービス、質量分析部門を持ち、パイロットプラントを持っている。


2019/4/11 英離脱、10月31日まで再延期 

EUと英国は4月11日、英国の離脱期限を10月31日まで再延長(“flexible extension”)することで合意した。

当初の離脱日は3月29日であった。

EUは3月21日、首脳会議を開き、EU離脱について下記の通り決めた。

1)英国下院が3月29日までに離脱協定案を可決すれば、協定案の批准手続きのため5月22日までの延期を認める。

2)下院が3月29日までに可決できない場合、離脱日を本来の3月29日から4月12日まで延期する。

メイ首相は、協定案による離脱か、合意なき離脱のどちらかしかないとして、協定案への賛成を得るため労働党との協議を行ったが、合意に至っていない。

メイ首相は6月30日までの再延期をEUに要請した。

離脱日の前日の4月11日にEU首脳会議は10月31日までの再延長で合意し、英国も受け入れた。

EUのDonald Tusk大統領は1年間の延長を提案した。
多くの首脳は本年末、又は2020年3月までの延長を主張した。
しかし、フランスのMacron 大統領が長期延期に強く反対した。

10月31日はユンケル欧州委員長など、EUの現執行部の任期が切れるタイミングでもある。

早期離脱条項も入った。メイ首相は、議会が離脱協定案を承認すれば、英国は6月30日以前に離脱できると述べた。

Tusk大統領は、延期期間中に英国には離脱協定案の承認や離脱戦略の変更、離脱そのものの取り止めといった選択肢が引き続きあると説明した。

EU首脳らは6月の定例首脳会合で進捗状況を確認する。

 

EU側は以前から、長期延期の場合英国は5月の欧州議会選挙に加わる必要があるとしてきたが、英国は議員を送ることとなる。離脱時点で辞職する。

EUのDonald Tusk大統領は英国に対し、6カ月の延長期間を無駄にするなと要請した。

“Let me finish with the message to our British friends: Please do not waste this time.”

 


2019/4/11 Brexit 合意書 

速報の通り、EUと英国は4月11日早朝、英国の離脱期限を10月31日まで再延長することで合意した。

4月10日にEUの臨時首脳会議がEU案を決め、翌早朝、英国のメイ首相と合意した。

最長で10月31日までの延長で、英国は、双方が離脱協定案を批准した場合は、その翌月1日に離脱し、そうでない場合は11月1日に離脱する。
但し、英国が欧州議会選挙に参加しない場合は、延期は5月31日までとする。(5月22日までに離脱協定案を批准する予定の場合はこの限りでない)

 

合意書の内容は次の通り。

まず、これまでの経緯と、延期の前提を記している。

(1) 2017/3/29 英国の離脱通知

(2) EUはTreaty on European UnionのArticle 50 に基づき、英国と交渉した。

(3) 2018/11/25  英国と離脱協定案と政治宣言案で合意した。

(4) Article 50(3) では、通告の2年後に離脱する。EUの満場一致の決定で延長可能。

(5) 2019/3/20 英国は2019/6/30までの延期を要請した。

(6) これに対し、EUは英国下院が3/29までに協定案を承認した場合は5/22までの延期を、そうでない場合は4/12までの延期を認めることとした。

(7) 英国下院は3/29までに協定案を承認しなかった。

(8) 英国は4/5のレターで、協定案の承認を得るため、6/30までの延期を求めた。

(9) EUは4/10に、協定の双方による批准を求め、延期に合意した。
  延期は必要な限りとし、最長 10/31 までとする。

  双方がそれ以前に協定を批准した場合、10/31以前に離脱協定は発効する。

  この結果、批准の翌月1日か11月1日に離脱する。

(10) (延期の悪影響の回避)
 延期により、EUの機能が損なわれない。
 英国は離脱日までは、本来の権利と義務をもって残留する。
 英国はいつでも離脱を撤回する権利を持つ。

 英国が5/23〜26の欧州議会選挙中にメンバーである場合、英国は欧州議会選挙の義務を持つ。

 それにも関わらず欧州議会選挙をしない場合、延期は5月31日に終了する。

  英国は、EUの意思決定に参加する場合、EUの目的達成を邪魔する行動を行わない。

(11) 離脱時点でEUの取り決めの英国への適用を中止する。

(12) 延期により、離脱協定の再交渉はしない。

(13 EUは2019年6月に進行状況をレビューする。


結論

Article 1  離脱日を2019年10月31日まで延長する。

The period provided for in Article 50(3) TEU (Treaty on European Union), as extended by the European Council Decision (EU) 2019/476, is hereby further extended until 31 October 2019.

Article 2 この決定は、英国が欧州議会選挙に参加せず、かつ5月22日までに協定書を批准しない場合、5月31日に終了する。

This decision shall enter into force on the day of its adoption.
This decision shall cease to apply on 31 May 2019 in the event that the United Kingdom has not held elections to the European Parliament in accordance with applicable Union law and has not ratified the Withdrawal Agreement by 22 May 2019.

 

なお、EUのTusk大統領は4月10日のEUの臨時首脳会議の終了後、次の通り述べた。

その間、フルメンバー国として協力する。

最後に英国の友人へ: Please do not waste this time.


2019/4/12 化学会社へのサイバー攻撃 

Bayerはこのたび、サイバー攻撃を抑え込んだことを明らかにした。データを盗む目的と見られる。

ハッカーはWINNTIと呼ばれる破壊工作ソフト(Malware) を使用した。WINNTIは遠方からシステムに侵入し、侵入すると、どんなことでも出来るという。

専門家は、犯人は中国の「悪いパンダ(Wicked Panda)」と呼ばれるグループだと見ている。

かつてゲームサーバを攻撃し、現金化が可能なゲーム内仮想通貨を不正に取得し、オンラインゲームのソースコードを窃取した。

その後、製薬会社や電気通信会社などの企業も標的に加え攻撃対象を拡大した。

標的型サイバー攻撃を実施する悪名高い集団として知られるようになった。

グループはBayerのネットワークにWINNTIを忍び込ませた。

2018年初めにBayer側は侵入を察知し、1年にわたり、密かに監視を続け、Malwareの分析を行った。Bayerは2015年にBASFやVolkswagen、保険会社のAllianzと一緒にDCSOと呼ばれるサイバーセキュリティグループをつくっている。

本年3月末にMalwareをシステムから削除した。

データが盗まれた証拠はないとしている。しかし、何か被害が無いか、調査を続けており、政府機関も調査を開始した。


ーーー

Malwareが石油化学コンプレックス に侵入する事件もあった。

中東の某石油化学コンプレックスが2017年8月に緊急シャットダウンした。

Schneider Electric製の「Triconex」安全計装システムコントローラを不正に操作するように特別に設計された「TRITON」と名付けられた新種の破壊工作ソフト(Malware) が仕込まれていた。

幸い、「TRITON」が「Triconex」安全計装システムのプログラムを変えようとしたときに、安全装置が異状を察知し、緊急シャットダウンをしたとみられている。

サイバー・セキュリティ製品を提供するFireEyeが調査し、TRITONが侵入していることが判明した。

「Triconex」に仕込まれたMalwareであることから「TRITON」と名付けられた。

ハッカーは他のソフトでコントロールシステムにも侵入していることが分かった。

工場全体がハッカーに占拠され、ハッカーの思うがままになるところだった。

具体的に何をしようとしたかは不明だが、専門家は設備に物理的な被害を与え、工場のシャットダウンを狙ったのではとみている。ガスを放出させれば、大爆発の恐れもある。

どういうルートでMalwareが入ったかは分かっていない。


工場のコントロールシステムを対象とするMalwareは珍しい。

過去に「Stuxnet」(後述)がある。安全装置が稼働するのを妨害し、危害を与えたが、「TRITON」はこれに似ている。


本件を調査したFireEyeは2017/12/14付でTRITONの概要を発表した。

https://www.fireeye.com/blog/jp-threat-research/2017/12/attackers-deploy-new-ics-attack-framework-triton.html

 

その後、FireEyeは検証を続け、2018/10/23付で、犯行グループ(「TEMP.Veles」)をモスクワにあるロシアの国有の科学技術研究機関Central Scientific Research Institute of Chemistry and Mechanics(CNIIHM)が支援し、この攻撃に関与していたことを「強く確信」するに至ったと発表した。

単独または複数のCNIIHM従業員が、雇用主の承認なしにTEMP.VelesをCNIIHMに結びつける活動を遂行した可能性も残されているが、このシナリオは非現実的だとしている。

https://www.fireeye.com/blog/jp-threat-research/2018/10/triton-attribution-russian-government-owned-lab-most-likely-built-tools.html

仮にロシア政府が関与しているとすれば、一体どういう目的なのか、全く分からない。

 

2019年1月29日付で米上院諜報活動特別委員会は報告書 Worldwide Threat Assessment of the US Intelligence Community を発表した。その中に米国へのインフラへのサイバー攻撃の懸念を示している。

中国は、米国で天然ガスパイプラインのような重要なインフラを一時的に停止させるサイバー攻撃の能力を持つ。

ロシアは、2016年にウクライナでやったように、米国で送電ネットワークを止めるサイバー攻撃の能力を持つ。

IT系ネットワークからウクライナ国営電力会社の電力網の制御系システムに入り込み、「CrashOverRide」(Industroyer)と呼ばれる malwareを埋め込み、制御系システムを外部から操作して停電を引き起こした。

ーーー

「Stuxnet」は米国とイスラエルの両政府が開発した。

イランの国家政策である核開発を妨害し遅延させる目的で使用され、実際に、2009年から2010年にかけて、イランのナタンズ核燃料施設でウラン濃縮用遠心分離機を破壊する、という物理的実害を引き起こした。

遠心分離機の回転速度に関わる制御システムに特定のコマンドを出し 、約8,400台の遠心分離機の全てを稼働不能にした。システム管理者にはすべてが正常に稼動しているように見せかけた。

ナタンズ核施設でのウラン濃縮が停止し、イランの核開発は「2年前に後戻りした」。

「Olympic Games」というコード名で呼ばれたこの計画は、もともとはジョージ・W・ブッシュ前大統領が許可し、オバマ大統領が計画を継続した。(NY Times 情報)

インターネットに接続していない産業用制御システムにもUSBメモリーを介して感染・発症することから、産業用システムのセキュリティ管理のあり方を根本から考え直させた。
 



2019/4/13 東芝、米国のLNG購入契約 譲渡できず 

東芝は4月11日、中国の新奥生控股股(ENN Ecological Holdings )との間で2018年11月に締結したLNG購入契約の譲渡の契約につき、先方から譲渡契約解除の意向の連絡を受けたと発表した。

東芝では、状況把握に努め、LNG事業の今後の取扱いについて検討する。この契約に基づき2019年3月期決算で計上する予定であった特別損失(約930億円)は見直す。

付記 

東芝は4月17日、この契約を解除した。迅速に同事業の第三者への却プロセスを再開し、早期事業撤退を目指すとしている。

ーーー

東芝は、米国のFreeport LNGから、本をはじめとする各国の需要家へのLNG販売を目的として、2013年に年間220万トンの20年間(2019年から)の契約を締結した。
Freeport LNG

株主:
Michael Smith
Zachry
Dow(輸出には不参加)
大阪ガス

Freeport LNG Terminal
(Quintana Island, TX)
承認:2013/5(FTA締結国向けは 2011/2)
期間:20年間
液化開始:2018年(追加分2019年)
輸出契約:
 

大阪ガス

  220万トン
  中部電力   220万トン
  BP Energy   440万トン
  東芝   220万トン
  SK E&S LNG  

220万トン

  Trafigura  

50万トン

  再計  

1370万トン

東芝が契約した2013年当時は、東日本大震災後で日本では原子力発電所が停止し火力発電所に依存してLNGの需要が高まっていた。

東芝は、これを武器に日本の電力会社などに火力発電設備を売り込もうとしたとされる。

しかし、販売先は全く決まっていない。これらは全て Take or Pay の契約であり、市況が下がっても契約価格での引取りが必要である。このため、同社では(過去に)最大1兆円の損失の恐れがあるとしていた。

同社では、LNGについて、市況の悪化、より低コストのプロジェクトが今後開発されること等により当初想定していた取引条件を下回る条件、あるいはコストを下回る価格での販売を余儀なくされ、それにより将来的に損失が発生する可能性があるとした。

このため、2018年8月に入り、東芝はこれを売却する方針を固めた。10社程度が同事業の買収に関心を示していたとされた。


東芝は2018年11月8日、米国産液化天然ガス(LNG)に係る事業から撤退すると発表した。

LNG事業に係る全ての契約も移管または 解除することで、2019年3月31日までに本件譲渡を完了させて、LNG事業から撤退することを目指した。

相手先は中国の民間ガス大手奥生控股股份ENN Ecological Holdings である 。

売却先の奥生控股股份有限公司は、香港証券取引所に上場する中国の民間ガス大手。

譲渡の条件は次の通り。

・事業会社(東芝アメリカLNG)の売却 売却額15百万ドル

・LNG全量引取基本合意書でのLNG引取義務の引き継ぎ 821百万ドルを支払う。(約930億円の損失計上予定)

2018/11/9 東芝、米国LNG購入契約を譲渡 

ーーー

契約では、2019年3月31日までに本件譲渡を完了させるとしているが、東芝は本年4月1日、譲渡完了が4月以降となると発表していた。

その時点では、@対米外国投資委員会(CFIUS)の承認、A中国の国家外貨管理局(SAFE)の認可 等が未了であることが理由で、引き続き早期完了を目指し対応することで双方が確認していたという。

しかし、今回先方より、譲渡契約の期限が経過しており、短期間で条件充足が難しいため、契約を解除する意向の連絡があった。

 

現在、中国と米国との間で制裁関税の撤廃をめぐり貿易協議が進行中である。

中国はLNGなど米国製品の輸入拡大策を米国側に示しているとされるが、米国側は、「中国の譲歩策の度合いに応じ、関税を段階的に撤廃する」案や、中国が合意に違反したと判断すれば米国が制裁関税を再発動する「罰則条項」などを主張し、難航している。

これが決着しない段階では、米国も中国も個別のLNGの取引を事務的に承認することはあり得ない。

期限までに承認が得られないことから契約を解除したいという奥生控股股份の意向は批判できない。東芝は米中の紛争に巻き込まれたことになる。

しかし、中国と米国の合意がなされ、中国が大量のLNGを米国から購入することが決まれば、買い手は現れると思われる。


付記 

東芝は米国産LNGに係る事業Total S.A.のシンガポール子会社Total Gas & Power Asia Private Limited へ売却することを決定し、5月31日にLNGを扱う東芝アメリカLNGの発行済株式の全てを譲渡する契約を締結した。

東芝アメリカLNGの全株式をTotal社に対価15百万米ドル(約17億円)で譲渡する。20203月末までの完了を目指す。

LNG事業を所管す東芝エネルギーシステムズは、本件株式譲渡の完了と同時に東芝アメリカLNGと締結しているLNG全量引取基本合意書をTotalに譲渡し、LNG引取義務一切から免責される。
引取義務の引き受けに対する一時金費用として、Totalに 815百万米ドル(約912億円) を支払う。

東芝エネルギーシステムズ顧客と締結している既存のLNG販売契約についても当該顧客の同意を条件としてTotal社に移管する。

 

 


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