ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は http://blog.knak.jp



 
2023/2/1 咳止めシロップで子供が多数死亡、工業用EG、DEGが混入

世界保健機関(WHO)は1月23日、有害物質の入った咳止めシロップの服用により昨年インドネシアなどで子どもの死亡が相次いだことを受け、「即時かつ協調的な行動」をとるよう呼びかけた。

WHOによると、有毒で急性腎障害につながる恐れのあるエチレングリコール(EG)とジエチレングリコール(DEG)とが許容量を超えて検出された。いずれも不凍液などに使われる。

 

インドネシア、ウズベキスタン、西アフリカのガンビアで昨年、300人以上の子どもらが急性腎不全で死亡、ほとんどが5歳未満だった。

WHOはアフリカ西部ガンビアでの66人の児童の死亡はインドの製薬会社が製造した咳止めシロップの服用と関係している疑いがあるという声明を表した。
インド政権は、シロップを製造した製薬会社Maiden Pharmaceuticalsを検査し、製造に一連の違反が見つかったとして工場閉鎖を命じた。インド保健省によると、Maiden Pharmaceuticalsの4製品はインドでは現在売られておらず、輸出もガンビア向けだけという。

ウズベキスタン保健省はインドの製薬会社が製造したシロップを服用した子ども21人のうち18人が死亡したと発表した。死亡した子どもたちが飲んだ薬は、インドのMarion Biotech が製造したもの。

インドネシアの医薬品食品監督庁は2022年10月31日、国内で流通する子ども用シロップ薬から基準を大幅に超えるエチレングリコールとジエチレングリコールが確認されたと明らかにした。インドネシアでは子どもの間で腎臓の疾患症状の報告が相次いでいて、150人以上が死亡、特に8月以降はその数が急増していた。

 

WHOは1月23日、咳止めシロップの有毒物質が原因だと発表した。「少量でも致命的で、医薬品に含まれるべきでない」安価なジエチレングリコールとエチレングリコールが大量に含まれていたという。

フィリピン、東ティモール、セネガル、カンボジアでも市販の可能性があり、影響があるとし、これ以上の死者を出さないため加盟194カ国に行動を求めた。

この咳止めに関連する各社は否定しているか、調査中だとしてコメントしていない。 WHOは、政府や規制当局に監督強化を求めたほか、医薬品メーカーにはより徹底的な臨床試験と過程の記録を要請した。


WHOはこれまでに、問題のシロップを製造していたインドとインドネシアの製薬会社6社を特定した。

被害国 製品名 メーカー
ガンビア Promethazine Oral Solution
Kofexmalin Baby Cough Syrup
Makoff Baby Cough Syrup
Magrip N Cold Syrup
.
Maiden Pharmaceuticals
 (Haryana, India)
インドネシア Termorex syrup PT Konimex いずれも
インドネシアメーカー
Flurin DMP syrup PT Yarindo Farmatama
Unibebi Cough Syrup
Unibebi Demam Paracetamol Drops
Unibebi Demam Paracetamol Syrup
PT Universal Pharmaceutical Industries
Paracetamol Drops
Paracetamol Syrup (mint)
Vipcol Syrup
PT Afi Farma
ウズベキスタン AMBRONOL syrup
DOK-1 Max syrup
Marion Biotech
 (Uttar Pradesh, India).
 

6社は、調査に対して回答を拒否、または死亡原因とされる有毒物質の使用を否定している。

WHOが特定した6社が不正行為を行ったことを示す証拠を持っていない。WHOは6社の間に何らかの関連があるかどうか調査している。

事情に詳しい人物によると、6社は同じサプライヤーから原材料を仕入れていたという。

WHOは、問題の製品と同じものが販売されていた可能性があるカンボジア、フィリピン、東ティモール、セネガルの4カ国でも行うと発表した。

WHOは各国の政府や製薬業界に対し、規格外医薬品の根絶と規制強化のための対応を急ぐよう求めている。

ーーー

インドネシア警察は1月30日、同地の化学品のトレーダーのCV Samudera Chemical

が工業用グレードのEGとDECを、Dow Chemical Thailand が製造した医薬グレードのプロピレングリコールとして販売し、その結果、シロップの生産に使われたと明らかにした。

医薬グレードのプロピレングリコールは、注射剤、内用剤などの溶解補助剤、軟膏基剤として調剤に用いられる。

同社で見つかった9つのドラムサンプルからは、EG/DEGが最大52%、一部は最大99%検出された。つまり、ほぼ100%がEG / DEGコンテンツであった。

警察はSamudera Chemical とディストリビューターのCV Anugrah Perdana Gemilang の責任者を逮捕した。

ーーー

2006年9月以降、パナマで多数の死者が出た謎の疾病の原因について、米国疾病予防管理センター(CDC)は同年11月に「CDCがパナマの謎の疾病の解決を支援」と題するニュースを配信した。

パナマ保健省の発表で34名の死者が出た謎の疾病について、パナマ社会保障機関が製造した無糖咳止め・抗アレルギーシロップ剤に混入されたジエチレングリコールが原因であったことを突き止めた。

 



2023/2/2   サムスン電子半導体ショックは韓国経済の危機 

韓国中央日報は2月1日付けで上記のタイトルでサムスン電子の昨年10−12月期の業績を報じている。

営業利益が4兆3061億ウォンにとどまり前年同期より69%減った。何より半導体(DS)部門の営業利益が97%減り、2700億ウォンにとどまった。かろうじて赤字を免れた。半導体はサムスン電子の営業利益の60〜70%を占める主力事業だ。このため同社の年間売り上げが302兆ウォンで過去最大を達成したというニュースも色あせた。」

注 1 ウオンは 0.11円
 

しかもこうした不振が今年上半期も続くだろうと予想されており、市場アナリストはサムスン電子半導体部門が今年1−3月期に兆単位の営業赤字を出すだろうという暗い見通しを出している。

半導体は昨年韓国の輸出の約19%を占めた輸出1位品目で、韓国経済で半導体の割合はそれだけ絶対的であり、歴史的にも半導体が深刻な不況に陥った時に例外なく韓国経済が危機にさらされた。

同紙は、「景気サイクルが回れば状況が好転するだろうという漠然とした楽観論は引っ込めなければならない。すでに世界的半導体大戦の真っ最中で、米国をはじめとする各国が天文学的な資金をばらまいて自国の半導体産業を支援している。政府と政界は設備投資と研究開発投資支援だけでなく、人材育成策などを細かく整えることを望む。業界の奮発も重要だ。どんな状況でも韓国の誇りである半導体産業が競争力を失うことがあってはならない」と述べている。

付記

韓国の1月の貿易赤字、過去最大127億ドル(半導体輸出 前年比44.5%減、中国向け輸出 31.4%減)   半導体の輸出は、昨年8月(7.8%減)以降、6ヵ月連続で前年比減少
 

 
 
単位;兆 韓国ウオン

2021

2022

2021/Q1

Q2

Q3

Q4

2022/Q1

Q2

Q3

Q4

DX

Visual Display/Digital Appliances

1.12

1.06

0.76

0.7

0.8

0.36

0.25

-0.06

Mobile eXperience/Networks

4.39

3.23

3.36

2.66

3.82

2.62

3.24

1.7

DX orhers

0

0.05

0.03

0.02

-0.14

0.04

0.04

0

DS

Device Solutions

3.36

6.93

10.07

8.83

8.45

9.98

5.12

0.27

SDC

Samsung Display

0.36

1.28

1.49

1.32

1.09

1.06

1.98

1.82

Harman

Harman

0.11

0.11

0.15

0.22

0.1

0.1

0.31

0.37

Others

0.04

-0.09

-0.04

0.12

-0.06

-0.09

0.21

Total

9.38

12.57

15.82

13.87

14.12

14.1

10.85

4.31

 

 

韓国Samsung Electronicsは2021年12月にテレビなどのビジュアルディスプレイ事業とGalaxyシリーズなどを担うモバイル部門とを統合すると発表した。新部門の正式名称を「DX」部門とする。

DXは「Device eXperience」に由来し、「顧客にとって新しく有意義な体験を生み出す」という取り組みを反映しているという。

ビジュアルディスプレイ事業、デジタルアプライアンス事業、健康・医療機器事業、MX事業、ネットワーク事業で構成され、「サービスやユーザーのニーズだけでなく、スマートフォンから家電までの幅広いソルーションを提供することにフォーカスする」としている。

 

「デバイス・ソリューション(DS)」は半導体やディスプレー事業で構成される。

 

Samsung Electronicsと米Harman Internationalは2016年11月14日、SamsungによるHarman買収を発表した。買収総額は約80億ドルで、この買収により、Samsungは自動車関連事業の強化を図る。
この買収には、Harmanの自動車向け技術のほか、Harman Kardon、JBL、Mark Levinson、AKGなどのオーディオ事業も含まれている。

Harmanが持つ自動車向けのデザイン/設計技術や自動車メーカーとの長期的な関係と、Samsungのモバイル、半導体、ユーザーインターフェイス、ディスプレイ技術や流通網を融合し、自動車向けエレクトロニクス製品の強化を図る。買収完了は2017年の中頃を見込む。

 


2023/2/3   テラドローン、サウジのアラムコVCから資金調達 

「空から、世界を進化させる」を謳い文句とするドローン関連サービスの 東京都のテラドローン梶iTerra Drone )は1月25日、サウジアラビアの国営石油会社 Saudi Aramcoのベンチャーキャピタル Wa'ed Venturesから$14 million(18.5億円)を調達したと発表した。

この資金で2023年春にも現地子会社Terra Drone Arabiaを設立し、石油タンクを超音波で検査するドローン点検サービスの案件獲得を目指す。

都市開発で需要が高まる測量サービスなども受注したい考え で、サウジを起点に中東市場を開拓する。

 

テラドローンは2016年2月に設立された。

本社を東京におき、全国6支社と海外2か所に拠点を構え、国内外にてドローンを用いたレーザー・写真測量を実施、高精度3次元図面を短時間で作成、施工管理に役立つサー ビスを提供。

独自技術、ノウハウによる高精度の担保、データ解析の高速化、柔軟な対応力、自社開発のソフトウェア等が特徴で、大手ゼネコン・建機メーカー・測量会社等からの受注を中心に、400回以上のUAV測量実績を有し、i-ConstructionのUA V測量実績も全国トッ プクラス。2時間飛行が可能な固定無人機も自社で開発。

同社は2022年3月に、シリーズBラウンドで総額80億円の資金調達を実施した。三井物産、SBIインベストメント、東急不動産HD、九州電力送配電、西華産業 の5社に加え、既存投資家であるベンチャーラボインベストメントから追加投資を行い、引受先とした。加えて、国土交通省傘下の官民ファンドである海外交通・都市開発事業支援機構より、特別目的会社を通じて関係会社であるUnifly N.V.への共同出資枠を確保した。

 

グループ会社にはアジアで電動二輪、三輪を製造、販売し、海外売上比率85%、年間3 万台を売り上げるテラモーターズがある。

ドローン運行管理システム (UTM)事業では、世界有数のUnifly社と提携し、約5億円の資本を投入し筆頭株主として次世代のシステム開発を行う。

Unifly NV (本社ベルギー):

Flemish institute for technological research(VITO)から事業を独立化し2015年に設立。ドローンと有人航空機の航空関連ソリューションの提供を行っているソフトウェア企業。現在提供しているサービスはUNIFLY LAUNCHPADとUNIFLY PRO、UNIFLY SENTRY、UNIFLY CONNECTの4つ。

テラドローンは2016年11月、ドローンの運行管理システムであるUTM(UAV Traffic Management)事業の開始を発表した。また、UTM業界において世界的なリーディングカンパニーであるベルギーのUnifly NVと戦略的パートナーシップを締結し、本サービスの世界展開を目指した。

UTMとは、リアルタイムに無人航空機の位置情報を把握し、複数のドローンの効率的で安全なフライトを支援するシステムで、UTMを利用することにより以下のことが実現可能とな る。

  1. ドローンのフライトプランの管理
    ・飛行計画、飛行ログの管理
    ・UAV飛行情報(位置、高度、速度、角度・バッテリー残量等)のリアルタイム管理
     
  2. 飛行エリアの管理
    ・ジオフェンス:重要施設等飛行禁止区域、ユーザーにより設定されたエリア内への進入禁止
    ・ジオケージ(ジオフィルター):指定エリア内のみでの運行
     
  3. 複数のUAV間・障害物間の衝突防止、緊急時の停止・自動帰還

 

ラドローンは世界的なドローン市場調査機関Drone Industry Insightsの「ドローンサービス企業世界ランキング」で、3年連続世界Top 3に選出されている。

テラドローンは2018年が9位であったが、2019年が2位、2020年が1位、2021年が2位とトップレベルを維持している。2021年の1位はマレーシアのAerodyne、3位は米国のCyberhawkであった。

 

同社はドローンを活用した土木測量、橋梁や工場施設といったインフラを点検するサービスなどを世界10カ国で提供している。その実績やグループ企業のドローン人材開発が評価され、Aramco からの出資が決まったという。

サウジでは国家プロジェクトの次世代都市「NEOM」の建設が進む。「広大な土地を測量する必要があり、ドローン測量の市場は大きい」(徳重徹社長)という。テラドローンは数年で100人程度を現地採用し、ドローン人材を育てる。測量用機器などの生産拠点設立も検討している。

サウジのNeom Cityは@環境にやさしい直線都市「The Line」と、A海の上に浮かぶ八角形の先端産業団地「Oxagon」、B環境にやさしい山岳観光団地「Trojena」の3つのプロジェクトで構成される。

特に、Neom Cityの中心であるThe Lineは、道路や車のない炭素排出ゼロ都市を目指す。高度500メートルの直線型垂直都市で、長さが170km、幅が200mで砂漠を横切って造成される。

      次世代都市「NEOM」については 2022/11/21 サウジのムハンマド皇太子、韓国訪問、来日は中止  に詳細記事

 


2023/2/4  田辺三菱製薬、新型コロナワクチンから撤退、カナダ子会社を精算へ 

田辺三菱製薬のカナダ子会社 Medicago Inc.は、植物由来ウイルス様粒子(VLP)技術を用いた新規ワクチンの研究開発に特化したカナダのバイオ医薬品会社であり、2022 年2月には新型コロナウイルス感染症の予防を適応として開発してきた VLP ワクチン「COVIFENZ®」がカナダにおいて承認され、商用規模生産の移行に向け準備を進めてきた。

しかし、田辺三菱製薬は2月3日、Medicago Inc.の全事業から撤退することを決定したと発表した。

新型コロナウイルス感染症を取り巻く環境は大きく変化しており、現状の新型コロナウイルスワクチンの世界的な需要及び市場環境と、商用規模生産の移行への同社の課題を包括的に検討した結果、COVIFENZ®の商用化を断念するという結論に至り、精算を進める。

付記 三菱ケミカルHDは2月7日の四半期決算報告で減損損失が480億円であることを発表した。

同社のワクチン製造設備及び同社の事業に関連するのれんについて帳簿価額を回収可能価額まで減額し、減損損失△48,029百万円を計上しました。

経緯は下記の通り。

なお、Medicagoは現在、田辺三菱製薬の100% 子会社となっている。

田辺三菱製薬は2013年7月12日、Philip Morrisと共同で、カナダのMedicago Inc.の全株式を取得することで同社取締役会と合意したと発表した。
両社は買収後のMedicagoを、田辺三菱60%、Philip Morris 40%のJVとして運営する。

2013/7/19 田辺三菱製薬、カナダ医薬品会社Medicagoを子会社化

その後の報道では最近の出資比率は田辺三菱が79%、Philip Morrisが21%とされていた。

WHOの関係者は2022年3月16日、Medicagoが開発した植物由来の新型コロナウイルスワクチンは、同社がタバコメーカーのPhilip Morrisからの出資(Philip Morris 21%)を受けていることを理由に、WHOの緊急使用承認を「受けられない可能性が非常に高い」と発表した。

タバコや武器会社との提携に関するWHOの「非常に厳しい」ポリシーに抵触する恐れがあるため、緊急使用承認が一時停止されているという。

その後、Medicago はWHOへの申請を取り下げたと報じられている。

2022年12月にMedicagoはPhilip Morrisとの関係を絶ち、同社は田辺三菱製薬の100%子会社となった。

ーーー

Medicagoは植物由来のウイルス様粒子(VLP:Virus Like Particle)技術を用いた新規ワクチンの研究開発に特化したバイオ医薬品会社で、遺伝子操作によって植物の細胞内にVLPを生成させ、効率的に抽出・精製する独自技術を有している。

Medicagoは下記の技術を持つ。

 Proficia™  植物の葉でのワクチン製造 

インフルワクチンの製造は鶏卵を使ってウイルスを培養するのが一般的で、ウイルスが人の体内で働かないよう不活化処理を行うが、6ヶ月ほどかかる。
これに対し、Medicagoの開発したProficia™ はタバコの1種 ベンサミアナタバコ(学名 Nicotiana benthamiana)を使うもので、1ヶ月で製造できる。

         2016/2/26 田辺三菱製薬、タバコの葉からインフルエンザワクチン
 
 VLP    遺伝子情報を持たないウイルス様粒子(
体内でウイルスの増殖がなく安全性に優れる)


 VLPExpress™  新ワクチンを早く見つける手法

田辺三菱製薬は2013年7月12日、Philip Morrisと共同で、カナダのMedicago Inc.の全株式を取得することで同社取締役会と合意したと発表した。
両社は買収後のMedicagoを、田辺三菱60%、Philip Morris 40%のJVとして運営する。(その後
の出資比率は田辺三菱が79%、Philip Morrisが21%となっていた。)

2013/7/19 田辺三菱製薬、カナダ医薬品会社Medicagoを子会社化

田辺三菱製薬は2021年9月30日、連結子会社のカナダのMedicagoが開発しているCOVID-19の植物由来のウイルス様粒子ワクチン(開発番号:MT-2766)について、10月2日より日本において第1/2相臨床試験を開始すると発表した。2022年3月までに日本での承認申請をめざすとした。

国内の承認申請時までに米国、英国、カナダ、ドイツ、フランスのいずれかで承認又は緊急使用許可(EUA)が取れていると「特例承認」が得られる。

田辺三菱製薬は2022年2月24日、カナダで承認を取得した。商品名:COVIFENZ)

なお、MedicagoはWHOに承認申請したが、WHOの関係者は2022年3月16日、Medicagoが開発した植物由来の新型コロナウイルスワクチンは、同社がタバコメーカーのPhilip Morrisからの出資(Philip Morris 21%)を受けていることを理由に、WHOの緊急使用承認を「受けられない可能性が非常に高い」と発表した。Medicago はWHOへの申請を取り下げたと報じられている。

田辺三菱製薬の連結子会社のカナダのMedicagoが開発しているCOVID-19の植物由来のウイルス様粒子ワクチン(商品名 :COVIFENZ)は2022年2月にカナダで承認を取得したが、2022年夏に米国工場で商用規模への量産に課題が見つかり、事業計画を見直 した。

たばこ属の葉に遺伝子を組み込んで抗原を作るが、段階的に生産を引き上げる「スケールアップ」に課題が見つかり、計画通りに量産できない状況という。

最大7600万回分の契約を結ぶカナダ政府への供給ができない状態で、9月までに承認申請する計画だった日本の実用化も遅れる。

2022/8/6 

 

田辺三菱製薬では当初、「カナダで承認されれば、世界初の植物由来ワクチンとしてお墨付きを得る。これをトリガーにしてワクチンを世界展開できるプラットフォームを確立していきたい」と述べ、世界中での販売を目指していた。

しかし、Philip Morrisからの出資が障害となってWHOへの申請を取り下げ、さらに米国工場で商用規模への量産に課題が見つかった。

量産への見通しは不明だが、世界中でPfizerとModernaのワクチンが席巻しているなか、時間と費用をかけて量産体制に成功したとしても、事業として成り立たないと判断したと思われる。

ーーー

同社では、コア営業損益のほとんどを占めていたロイヤリティ収入が激減し、大幅減収減益となっている。

問題は多発性硬化症治療剤「ジレニア」のロイヤリティ収入である。

2019年2月、ノバルティスから本件契約の規定の一部の有効性について疑義が提起され、2019年2月15日、国際商業会議所より、ノバルティスを申立人とする仲裁の申立てがあった旨の通知を受領した。

ノバルティスは、米国、EU等における製品の売上ベースのロイヤリティ支払い義務を定める本件契約の規定の一部は無効であり、ノバルティスにはロイヤリティの一部の支払義務がないことの確認を求めている。

このため、IFRSルールで、未収分を収益から除外している。

同社ではこのなかで、 VLP ワクチン「COVIFENZ®」で起死回生を図っていたと思われるが、画餅に帰した形となった。


2023/2/6 FRB 0.25%の利上げ決定

FRBは2月1日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、Federal Fund金利の誘導目標を0.25%ポイント引き上げ4.50〜4.75%とした。決定は全会一致。

2022年6月から4回連続で0.75%の引き上げを続けたが、前回の2022年12月には0.50%の引き上げとし、今回は0.25%と、引き上げ幅を縮小した。

同時に公表した声明文では政策金利の先行きについて「継続的な引き上げが適切」とした前回までの表現を維持し、利上げの停止時期がまだ先であることを示唆した。

 
2018/12 2.25%〜2.50% +0.25%
2019/7

2.00%〜2.25%

-0.25%
2019/9

   1.75%〜2.00%

-0.25%
2019/10

1.50%〜1.75%

-0.25%
2020/3

1.00%〜1.25%

-0.50%
2020/3

0.00%〜0.25%

-1.00%
2022/3 0.25%〜0.50% +0.25%
2022/5 0.75%〜1.00% +0.50%
2022/6 1.50%〜1.75% +0.75%
2022/7 2.25%〜2.50% +0.75%
2022/9 3.00%〜3.25% +0.75%
2022/11 3.75%〜4.00% +0.75%
2022/12 4.25%〜4.50% +0.50%
2023/2 4.50%〜4.75% +0.25%

FRBは声明で「最近の指標では消費と生産が緩やかに増加していることが示されている。ここ数カ月、雇用の増加は堅調で、失業率は低水準にとどまっている。インフレ率はやや鈍化したが、依然として高い水準にある」と述べた。

FOMCは最大雇用とインフレ率2%を長期的に達成することを目指しており、これらの目標を支えるため、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを4.5〜4.75%に引き上げることを決定したとしている。

 

なお、EUと英国も同時点で利上げを決定した。

ーーー

2022年12月の米国の物価は下図の通り。かなり下がってきたが、FRBが目的とする2.0%程度には遠い。             

           

2023年1月の雇用統計では、非農業部門の雇用は51.7万人と大幅に増えた。

1月の失業率は3.4%で、これは1969/5以来の低水準である。(最近では、2019/9、11、12月、2020/2月、2022/7、9、12月に3.5%を記録)

これまでのところ、金利引き上げは雇用に悪影響を与えてはいない。

 

問題は、2022年3月にFRBが金利を引き上げて以来、物価は順調に下がってきているが、更に金利を上げていって、物価が目標の2%まで下がるかどうかである。

本ブログでは、下がらないだろうとの見方を2つ挙げた。

2023/1/5 米国のインフレの見通し

1つは「粘着インフレ論」である。

粘着価格(Sticky-price)CPI は、家賃や外食料金、公共交通、医療関係など、あまり変化しないもの(平均して4.3ヶ月以上は変わらない)で、但し、いったん上昇し始めるとなかなか下がらない品目を集めた物価指標である。

逆に、弾力価格(Flexible-price)CPIはガソリン価格や新車価格、生鮮食品など振れやすい品目を集めた物価指標である。

粘着価格(Sticky-price)CPI は長く2%台で推移していたが、2021/6に3%台、2022/1に4%台に上がり、その後上がり続けて12月は6.7%まで上昇、1982年の不況期以来、40年ぶりの高さとなった。

もう1つは、渡辺務 東京大学大学院経済学研究科教授の「世界インフレの謎」に示されている。

今回のインフレは、ロシアのウクライナ侵攻の前に起こった。原因は新型コロナの蔓延であると推測する。

これによる3つの事態で供給不足が起こったとみる。これにウクライナ問題が加わった。上記の粘着価格の上昇はこれによるものと思われる。

特に米国では、コロナ下で退職したまま、コロナが終焉に向かっても職探しをしない非労働力人口が目立つ。コロナ前から400万人ほど増えたまま、働かない米国人はざっと1億人に上る。

米国には定年制はなく、完全に自分の意思による非就業である。

参考

 

FRBは物価を2%まで下げるため、当面、金利の引き上げを続けようとしている。しかし、供給不足により物価が上がっているとすると、金利を上げても物価は下がらない。

逆に、金利引き上げで供給増のための投資が止まり、物価が下がらず、不況になる恐れもある。

 


2023/2/7  「年収の壁」問題

岸田文雄首相が国会答弁で、配偶者が働く時間を抑える一因とされる「年収の壁」への対応策を検討する考えを示した。

現行では、配偶者を持つパート労働者は年収106万円または130万円を超えると扶養から外れ、社会保険料の負担が生じる。手取りが減ってしまうため、特にパート主婦は働きたくても、上限額を超えないように就労調整を余儀なくされてきた。  

施政方針演説で「年収の壁」の見直しを表明した岸田首相に対し、自民党の平議員が予算委で、「働き控えが起き、人手不足が進む。時給を上げても、さらに時間を削るという“無間地獄”になっている」などと指摘。働き手を確保するため、「壁」にブチ当たった際に所得が減らないよう、社会保険料分に対し時限的な給付金の支給を提案した。  

共働き世代が増える中、サラリーマンの妻が『年収の壁』を超えない限り扶養の恩恵を受けている現行制度は、“専業主婦の優遇”と批判されてきた。このため、一時的な給付金にしろ、『壁』となっている収入上限を取っ払うにしろ、さらに優遇するのかという批判が噴出しかねない。

社会保険に関しては、年収106万円(月収8.8万円)以上の人は従業員数や週の労働時間などに応じて保険料を負担しなければならない『106万円の壁』もある。現行は従業員数の条件が『101人以上』だが、2024年10月から『51人以上』に変更される予定である。

政府が社会保険料を広く集めようとする一方、これについてのみ見直すのは問題である。

ーーー

現在の「年収の壁」には下記がある。

以下、所得が給与収入のみとする。実際には課税所得で決まるため、他の所得や控除項目があれば、それも加算される。

1.103万円の壁  

 所得が給与収入のみ場合、所得税と住民税が発生する。(住民税は場所により基礎控除が変わる。)

 給与所得控除が55万円、基礎控除が48万円あるため、103万円までは課税されない。これを超えると課税される。また、多くの企業で配偶者手当がなくなる。
    東京都の場合、地方税は108万円まで課税されない。

  所得税 地方税
 
給与収入 103 108
給与所得控除 -55 -65
課税対象所得 48 43
基礎控除 -48 -43
課税所得 0 0

 (基礎控除は東京ケース)

付記

学生で、父親の扶養家族控除の対象となっている場合、所得が103万円を超えると扶養家族から外れ、父親の税金が増える。

控除対象扶養親族になれるのは、年間の合計所得が48万円以下

所得103万円の場合、給与所得控除55万円で課税所得は48万円となる。

2.106万円の壁

 年収106万円(月収が8.8万円)を超える人で下記の条件にすべて該当する人は、社会保険への加入義務が発生する。

雇用期間見込みが1年以上
所定労働時間が1週間あたり20時間以上
社員が501人以上(
来年10月から『51人以上』に変更される。
学生でない。

付記 月額88,000円は契約時の所定内賃金で決まり、残業代、賞与、通勤手当などは含まない。年末に残業を減らしても関係ない。

付記 2025年改正で「年収106万円」を削除の方向 但し「週20時間以上」「学生でない」は残す。 最低賃金上昇で106万円は意味無しとなる。
   社会保険加入で、将来の年金増、傷病手当金などメリットあり。

3.130万円の壁(60歳以上または障がい者の場合は「年間収入180万円」)

 「配偶者」と「3親等内の親族」は年収が130万円未満までは、「扶養者の社会保険」の被扶養者となれる。(この場合は総年収)

 年収が130万円を超える場合、社会保険の扶養から外れるため、「106万円の壁」から外れたとしても、自ら社会保険へ加入が必要となる。

4.配偶者控除

(1) 配偶者控除が段階的に縮小  「150万円の壁」

    所得48万円までは配偶者控除、それ以上は配偶者特別控除となる。

    配偶者特別控除は、所得95万円(収入150万円)までは配偶者控除と同額である。これを超えると、所得に応じ段階的に減額となる。

    なお、配偶者控除、配偶者特別控除とも、納税者本人の所得により、控除額が変わる。納税者所得が1000万円以上は控除はなくなる。

(2) 配偶者特別控除がなくなる   「201万円の壁」

    所得133万円(収入201万円)以上は配偶者特別控除は対象外となる。

給与のみの収入の場合、所得=給与収入 マイナス 給与所得控除

給与収入 給与所得控除
〜1,625千円 550千円
〜1,800千円 収入金額X40%ー100千円
〜3,600千円 収入金額X30%+80千円
〜6,600千円 収入金額X20%+440千円
〜8,500千円 収入金額X10%+1100千円
8,500千円〜 1,950千円

 

付記 

本人の社会保険(健康保険)、年金保険の加入条件は下記の通り。保険料支払いは必要だが、将来年金が受け取れるうえ、被扶養者の場合は受け取れない傷病手当金や出産手当金なども受け取れる 。


  被扶養者から外れた場合で、この条件を満たさない場合は、加入できない。(健康保険については、国民健康保険に加入できる。)


2023/2/8  2023/2/8   異次元の少子化対策:「N分N乗方式」

1月25、26日に開かれた衆院本会議の代表質問で、自民、日本維新の会、国民民主の3党がそろって、子どもの多い世帯ほど所得税が軽減される「N分N乗方式」の導入に言及した。

N分N乗方式」はフランスで1946年に始まった税制で、フランスが先の大戦後、戦争で減った人口を増やそうと導入した。英語ではfamily-quotient system(家族係数システム)という。

日本の所得税が個人の所得に課税するのに対し、世帯単位なのが特徴で、世帯の総所得を家族の人数で割り出した「所得」に課税するため、子どもが多いほど税率は低くなる。

フランスでは、世帯所得を家族の係数である「N」で割り、家族係数1あたりの所得税額を算出する。この所得税額に再び「N」をかけ、世帯全体の所得税額を算出する。「N分N乗」

子供は2人までは各0.5、3人目以降は各1で計算する。

「N」は夫婦だけなら2,子供1人なら2.5(2+0.5)、2人なら3(2+0.5+0.5)、子ども3人なら4(2+0.5+0.5+1) になる。

子供が多いほど税金が安くなり、少子化対策に有効とされる。

1月25日の衆院本会議で自民党の茂木幹事長はN分N乗方式を「画期的な税制」と指摘した。26日には日本維新の会の馬場代表が 「日本は人口危機という有事に直面している。個人ごとの課税方式を改め、N分N乗方式を導入すべきだ」と主張、国民民主党の玉木代表も「政府として検討すべきだ」と述べた。

今後、岸田文雄首相が掲げた「異次元の少子化対策」を巡り、この方式の導入が与野党の政策連携のテーマとなる可能性があるが、首相官邸は自民党側から「事前の説明を受けていない」としており、党主導の発信に警戒感も広がっているとされる。

 

国民民主党は、日本の税制のもとで年収1200万円の世帯(片働き及び共稼ぎ、夫婦と子供2人:N=3)を例に所得税を試算している。

片働きの場合 112万円
共稼ぎの場合   66万円(夫61万円、妻5万円)

これに対し、N分N乗では48万円となり、現方式での片働きと比べ64万円、共稼ぎと比べ18万円だけ税金が安くなる。

因みに、子供が3人になった場合(N=4)、税金は38万円となり、子供1人増で税金が10万円減ることになる。
(実際には子供が3人になった場合、扶養家族控除が増えるため、現在の税金もN分N乗ケースの計算も異なる。)

計算の詳細は下記の通り。課税所得の計算は省略(社会保険料は年収の15%)

  例1 例2 例3 N分N乗 N=3 例4 N=4
合計
年収 1200万円 900万円 300万円 1200万円 1200万円 1200万円
課税所得 762万円 517万円 109万円 626万円 762/3=254万円 762/4=190.5万円
税金 税率 (23%) (20%) (5%)   (10%) (5%)
計算 175.3 103.4 5.45   25.4 9.5
控除 -63.6 -42.8 0   -9.75 0
合計 112万円 61万円 5万円 66万円 16万円x348万円 9.5万円x438万円
例3との差 64万円                   18万円     
例4との差 74万円 28万円    

税額計算

課税所得 税率 控除額
〜1,949千円 5% ゼロ
1,950〜3,299千円 10% 97,500円
3,300〜6,949千円 20% 427,500円
6,950〜8,999千円 23% 636,000円
9,000〜17,999千円 33% 1,536,000円
18,000〜39,999千円 40% 2,796,000円
40,000千円以上 45% 4,796,000円

 


 

2023/2/9 経産省、価格転嫁に後ろ向きな企業の実名公開 

経済産業省は2月7日、下請け企業との価格交渉でコスト上昇による転嫁に後ろ向きな企業を初めて実名で公表した。

エネルギー価格や原材料費、労務費などが上昇する中、中小企業が適切に価格転嫁をしやすい環境を作るため、2021年9月より、毎年9月と3月を「価格交渉促進月間」と設定。この「月間」おいて、価格交渉・価格転嫁を促進するため、広報や講習会、業界団体を通じた価格転嫁の要請等を実施している。

また、各「月間」終了後には、多数の中小企業に対して、主な取引先との価格交渉・価格転嫁の状況についてのフォローアップ調査を実施し、価格転嫁率や業界ごとの結果、順位付け等の結果をとりまとめるとともに、状況の芳しくない親事業者に対しては下請中小企業振興法に基づき、大臣名での指導・助言を実施している。

 

今回発表した企業リストは、価格交渉促進月間(2022年9月)のフォローアップ調査において、10 社以上の受注側中小企業から「主要な取引先」として挙げられた発注側企業について、受注側中小企業からの
「A価格交渉の回答状況」
「B価格転嫁の回答状況」について点数付けし、整理してリスト化したもの。

各社ごとに、受注側中小企業からの回答を点数化し、その平均値を求め、点数付けし、「ア」、「イ」、「ウ」、「エ」の評価を行った。

ア: 回答の平均が7点以上
イ: 回答の平均が7点未満、4点以上
回答の平均が4点未満、0点以上
回答の平均が0点未満

調査対象全社の評価は下記に記載。

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/follow-up/dl/202209list.pdf

このうち、「エ」(回答の平均が0点未満)があるのは次の2社。

  価格交渉 価格転嫁
日本郵便
不二越

両方が「ウ」(回答の平均が4点未満、0点以上)の企業は次の通り。

五洋建設、三井住友建設、東芝プラントシステム、オカムラ、NTN、関西電力、一条工務店、ダイフク、前田道路、オリックス自動車、凸版印刷、 日立グローバルライフソリューションズ、佐川急便、関電工、 日本郵便輸送、中電工

 

日本郵便は本社と子会社の日本郵便輸送が挙がっている。

中小企業の価格転嫁は政府が目指す物価上昇率を超える賃上げにも影響があることなどから、経産省は評価が良くなかった約30社を指導、助言し、是正を促していくとしている。

調査結果の公表を受け、日本郵便は「非常に厳しいものであるが、真摯に受け止めたい」、不二越は「適正な価格転嫁の実現は重要であると認識しており、取引先とのコミュニケーションを一層強化していきたい」とそれぞれコメントした。


逆に両方が最も高い「ア」の評価を得たのは、次の7社:

住友化学、東洋紡、日本製鉄、村田製作所、王子製紙、旭化成、グローリー

ーーー

なお、公正取引委員会は2022年12月27日、原燃料費や人件費などコスト上昇分を下請け企業などとの取引価格に反映しなかった企業として佐川急便や全国農業協同組合連合会(JA全農)、デンソーなど13社の社名を公表した。

2022/12/28   公取委、価格転嫁拒否で企業名公表

 


2023/2/10  原子力規制委員会、原発60年超運転に向けた規制制度案の承認持ち越し→承認 

原子力規制委員会は2月8日の定例会合で、原発の60年超運転に向けた新たな規制制度案を正式決定するかを議論したが、石渡明委員が「安全側への改変とは言えない」と述べて反対し、決定を見送った。来週、定例会で改めて議論する。


付記

原子力規制委員会は2月13日夜に臨時の委員会を開き、運転開始から60年を超える原子力発電所の安全規制の新たな制度案と原子炉等規制法の改正条文案を多数決で了承した。

石渡明委員が反対するなか、山中伸介委員長と他の委員の計4人が賛成した。政府は今国会に関連法案の提出をめざす。

 

原子力規制委員会は2022年12月21日、原子力発電所の運転開始から30年以降10年以内ごとに繰り返し運転を認可する新ルール案を了承した。現行ルールを上回る「60年超」運転が可能になる。

付記

原子力規制委員会は2024年10月16日の定例会合で、関西電力高浜原発1号機(福井県)の今後10年間の管理方針を認可した。

高浜原発1号機は11月14日に運転開始50年となる。30年を超えて原発を運転する場合、事業者は10年ごとに安全上重要な構造物の劣化予測を踏まえた管理方針について規制委の認可を受ける必要がある。関電が23年11月に管理方針を定めた保安規定の変更認可を申請していた。

50年超の運転が認可されるのは国内初となる。
 

現行ルールでは、運転開始から40年を迎える原発は、規制委の運転延長の審査に合格した場合に限り1回のみ最長20年の延長が認可される。また、これとは別に、運転開始から30年以降の原発は、10年ごとに「高経年化対策」も実施されている。

新ルールはこれらを一本化する内容で、規制委は電力会社に対し、施設の劣化を管理する長期計画の作成を義務づけ、安全性を確認すれば運転延長を繰り返し認可する。

福島原発事故以前の規制に戻すこととなる。

2023/1/4   原発運転期間延長 

 

この時点では、石渡明委員を含め、全員が賛成した。

一般からの意見公募を経て、現行ルールを定めた原子炉等規制法の改正案について通常国会への提出を目指した。

今回の定例会合では、国民からの意見公募(パブリックコメント)の結果を受けて、最終案を議論した。

意見公募に寄せられた2016件の大半は制度の見直しに反対する内容だったが、規制委事務局は規制案の内容を変更することなく、案を正式決定するかどうかを定例会に諮った。
 

委員5人のうち、山中伸介委員長ら4人は案に賛成した。

しかし、石渡委員は反対を表明した。

 「今回の改変は科学的な新知見があって変えるものではない。運転期間を法律から落とすことになり、安全側への改変とは言えない。われわれが自ら進んで法改正する必要はない」 と述べた。

現在、審査中の10基は電力会社の説明が不十分で長引いているケースがほとんど。地震津波対策の審査を担当する石渡委員は「いたずらに審査を延ばしているのではなく、残念ながら時間がかかっている。審査が長引くほど、その分だけ運転期間が延び、将来的により高経年化(老朽化)した原発が動くことになる」と指摘した。

山中委員長が「どういう運転期間になっても規制ができるようにする仕組みだ」などと説明したが、石渡委員は「私の考えは述べた通り」と引かなかった。

 

定例会後の記者会見で山中委員長は「(石渡委員に)誤解もあると思う。基準を満たさなければ運転を認めない。運転期間が延びたら危ないということにはならない」、「反対意見があること自体は問題とは思わない。委員の間で議論を深めたい」と話した。

原子力規制委員会設置法は委員会の議事について「出席者の過半数」で決めると規定する。過去には多数決をとって決定した例がある。

しかし、山中委員長は「私はこれまで多数決を一度もとったことがない。時間的余裕があれば議論を尽くしたい」と強調、改めて石渡氏と議論する考えを示した。

 

政府は昨年12月、原発の再稼働審査や司法判断などで停止した期間を運転年数から除外し、実質的に60年超の運転を可能にする方針を決定、関連法の改正案を今国会に提出することを目指している。

 

付記

2月10日、「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定された。

気候変動問題への対応に加え、ロシア連邦によるウクライナ侵略を受け、国民生活及び経済活動の基盤となるエネルギー安定供給を確保するとともに、経済成長を同時に実現するため、主に以下二点の取組を進める。

@エネルギー安定供給の確保に向け、徹底した省エネに加え、再エネや原子力などのエネルギー自給率の向上に資する脱炭素電源への転換などGXに向けた脱炭素の取組を進めること。

AGXの実現に向け、「GX経済移行債」等を活用した大胆な先行投資支援、カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ、新たな金融手法の活用などを含む「成長志向型カーボンプライシング構想」の実現・実行を行うこと。

 

GX実現に向けた基本方針

GX実現に向けた基本方針の概要

GX実現に向けた基本方針参考資料

 

原子力については、下記の通り。

 原子力の活用

安全性の確保を大前提に、廃炉を決定した原発の敷地内での次世代革新炉への建て替えを具体化する。その他の開発・建設は、各地域における再稼働状況や理解確保等の進展等、今後の状況を踏まえて検討していく。

厳格な安全審査を前提に、40年+20年の運転期間制限を設けた上で、一定の停止期間に限り、追加的な延長を認める。その他、核燃料サイクル推進、廃炉の着実かつ効率的な実現に向けた知見の共有や資金確保等の仕組みの整備や最終処分の実現に向けた国主導での国民理解の促進や自治体等への主体的な働き掛けの抜本強化を行う。

 


2023/2/13 ジャパンディスプレイ、株式転換や債権放棄で無借金会社へ 

ジャパンディスプレイ(JDI)は2月10日、筆頭株主のいちごトラストの支援をうけ、借入金1016億円を圧縮し、ゼロにすると発表した。

加えて、いちごを引受先とする新株予約権を発行し、最大1735億円を調達する。

財務体質を強化するのと同時に成長投資の原資を確保する。

2026年に向けた基本方針は下記の通り。

 https://www.j-display.com/ir/news/pdf/20230210_j_2235353_02.pdf

 
 @ いちごトラストから新規に200億円を借入れ、筆頭株主のINCJ(元 産業革新機構)からの同額の借入金を弁済する。

 A 上記@の実行後に INCJ の保有するA種優先株式の全ての無償取得、消却

 B これらの実行後に、INCJ からの債務536.8億円をいちごトラストに譲渡 (@〜Bで、INCJ は貸付金736.8億円を実質的にいちごを通じて返済を受け、見返りにINCJの優先株を無償で放棄する。)

 C その後、いちごトラストの貸付金債権合計1016.8億円のうち、150億円を債権放棄 (残る債権866.9億円)

 D その後、いちごトラストの貸付金債権合計 868億円を出資の目的とするDES(Debt Equity Swap):普通株19.3億株と交換

 (いちごは200億円を追加貸付した上で、INCJの貸付金を肩代わりし、すべての貸付金を放棄して、いちごの普通株19.3億株を無償で受け取る。)

この取引のすべてが完了した時点で、いちごトラストの議決権割合は現状の49.28%から91.57%になる。その場合、東京証券取引所の上場維持基準に抵触する可能性があり、JDIのCEOは「どこかのタイミングでいちごの保有株を減らす方法を考えている」と説明した。

まとめると、借入金、株式は下記のとおりとなる。

  借入金 株式
INCJ いちご 合計 INCJ いちご 合計
優先株 普通株 優先株 普通株 新株予約 普通株  
2022/12/末  736.8 280 1016.8億円 4.5億株 2.1億株 29.7億株 4.5億株   6.3億株 47.2億株
借入/返済 -200 200                
譲渡 -536.8 536.8   -4.5億株           -4.5億株
債権放棄   -150                
(小計) (0) (866.8) 866.5億円              
転換           -6.6億株 +6.6億株      
Debt/Equity Swap   -866.8 0       +19.3億株     +19.3億株
予約               +38.5億株   +38.5億株
残高 0 0 0 0 2.1億株 23.1億株 30.4億株 38.5億株 6.3億株 100.4億株

 

ーーーーーーー

経緯は次の通り。

経営再建中のジャパンディスプレイは2019年8月9日、4-6月期の決算を発表した。

顧客の在庫調整や米中貿易摩擦の影響を受けた需要減により売上高が減少したほか、白山工場の減損を含む517億円の事業構造改善費用を特別損失として計上した。

この結果、連結純損益は833億円の赤字となり、債務超過となった。

2019/8/14   JDIが債務超過に

ジャパンディスプレイ(JDI)は2019年12月12日、独立系投資顧問のいちごアセットグループからの資金調達に関する基本合意書を締結したと発表した。

いちごアセットは、日本開発銀行客員研究員やモルガン・スタンレー証券の株式統括本部長を務めたScott Callon 氏が2006年5月に設立した

社名の「いちご」は千利休が説いた茶人の心構え「一期一会」から採った。経営理念は、 「日本を世界一豊かに。その未来へ心を尽くす一期一会の『いちご』」である。

Callon 社長の投資スタンスは長期保有が原則とされる。

2019/12/19 ジャパンディスプレイ、いちごアセットグループからの資金調達に関する基本合意書締結 

 

JDIは2020年7月21日、いちごアセットからの追加出資受け入れで最終契約を締結したと発表した。

  2020/7/21最終契約
払い込み 金額 転換 株数
B種優先株 2020/3 504億円 @50 10.08億株
D種優先株 2020/8/28 50億円 @50 1.00億株
C種優先株        
E種優先株 2020/10〜
2024/6
554億円 @24 23.08億株
合計   1108億円 @32.44 34.16億株

2020/7/24    JDI、いちごアセットと追加出資受け入れの最終契約締結

 

ジャパンディスプレイ(JDI) は2022年1月12日、資本金を2152億円から1億円に減資すると発表した。

減資の2151億円と資本準備金の247億円、その他資本剰余金の一部で累積赤字の2882億円を一掃する。

資本金を1億円とすることで、税務上は「中小企業」(資本金1億円以下)と位置づけられ、軽減税率適用、年800万円以下の交際費枠等々、いろいろのメリットを得る。

資本勘定の異動は次の通り(百万円)。
  処分前 処分 処分後
資本金 215,223 -215,123 100
資本準備金 24,660 -24,660 0
利益剰余金 -288,193 288,193 0
その他資本剰余金 73,310 -48,410 24,900
合計 25,000 0 25,000

 2022/1/14   JDI、減資で累損一掃

 

同社の損益推移は次の通り。

最近は、世界的なインフレ高進による民生機器の需要減速、ウクライナ情勢や中国のコロナウイルス対策に起因するサプライチェーンの混乱、半導体等の部材不足の継続、部材・エネルギー・輸送費の高騰等により、厳しい経営環境となっている。

スマートフォン向けなどの需要が鈍く、在庫調整が長引いている。

ジャパンディスプレイ(JDI) は2022年1月12日、資本金を2152億円から1億円に減資すると発表した。

減資の2151億円と資本準備金の247億円、その他資本剰余金の一部で累積赤字の2882億円を一掃する。

2022/1/14   JDI、減資で累損一掃

 


2023/2/14 日本産業パートナーズ、東芝買収の最終提案を提出 

日本産業パートナーズ(JIP)などの連合が2月9日、東芝に買収の最終提案を提出した。JIPに対し、銀行団が計1兆4千億円の融資を約束する文書を出し、資金調達にめどがついた。

海外投資家ら「物言う株主」の関係者を含む東芝の経営陣が提案を受け入れるかどうかが今後の焦点となる。

付記 東芝、買収案受諾を決議

東芝取締役会は3月23日、日本産業パートナーズ(JIP)などの連合による買収提案を受け入れることを決議した。7月下旬をめどにTOB(株式公開買い付け)を実施する。TOB価格は1株4620円で、買収額は2兆円となる。

https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/jp/ir/corporate/news/20230323_1.pdf

ーーー

東芝は2022年4月21日の取締役会で、パートナー候補となりうる潜在的な投資家やスポンサーから、企業価値向上に向けた戦略的選択肢(非公開化を含む)に関する提案を募集することを決議した。

東芝は7月19日の取締役会で、応募した10件のなかから第2次入札プロセスに招聘する複数の本パートナー候補を選定した。非公開化に関する提案と、上場維持を前提とした戦略的資本業務提携に関する提案が含まれている。

報道では、下記の各社が選ばれたとされた。

1.産業革新投資機構(JIC) / 日本産業パートナーズ(JIP)

2.  米大手投資ファンド Bain Capital

東芝の筆頭株主で旧村上ファンド出身者がシンガポールで設立した Effissimo Capital Managementは、Bain Capitalが東芝株を公開買い付けした場合、保有株をすべて応募する方針であることが、Effissimoが3月31日に関東財務局へ提出した変更報告書で明らかになった。

2022/4/5 Bain Capital が東芝の買収を検討

3.  欧州拠点のCVC Capital Partners

4.  カナダのBrookfield        唯一、東芝の上場維持を前提とした提案をしている。

東芝は改正外為法で国が特に重要な「コア業種」として位置付ける原子力事業を抱えており、買収には国の重点審査が不可欠である。このため、Bain CapitalやCVC Capital Partnersの単独での買収は難しい。日本企業による買収に融資または優先株による出資で参加するのではないかとみられる。

2022/7/22 東芝再編、4陣営に絞り込み? 

9月下旬に官民ファンドの産業革新投資機構(JIC)が共同で2次入札に進んだ日本産業パートナーズ(JIP)との連携を解消する方針であることがわかった。東芝への出資戦略をめぐり意見に隔たりが生じた。

日本産業パートナーズ(JIP)は国内企業の出資を募り2次入札に臨む方針で、オリックスなどの10社超に対し、東芝への出資に参加するよう打診し、日本企業を交えた連合体での落札を目指している。

これに対し、産業革新投資機構(JIC)は、事業会社の参加に消極的で、国内外のファンドとの連携を模索しており、同じく2次入札に進んでいる米Bain Capital と連合を組む方向で調整しているという。

東芝が国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)に優先権を与えたことが10月11日に報じられた。今後、買収価格などの詳細な条件の協議を始める。

2022/10/13 東芝再編の状況 



東芝の経営再建を巡り、優先交渉権を得た国内ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)が、日本企業十数社から買収資金として計約1兆円の出資の意向を取り付け東芝に提示したことが11月7日に分かった。

足元の株価をもとにした2兆2000億円程度で全株を買い取って非公開化することを軸とした正式提案を出したとされる。

関係者の話では、参画する企業は下記のとおりとされる。

オリックスが出資と融資で最大3000億円程度
中部電力が1000億円弱を出資
JIP自身も1000億円を出資
ロームの投資額は最大で3000億円規模と参加企業で最大級  半導体の原材料調達や生産での協業を探る
スズキも数百億円を出資  東芝から車載リチウムイオン電池を調達
大成建設も出資する見通し

日本企業全体で十数社が合計1兆円を出資
各社は東芝への出資を通じ、連携による事業拡大や技術の維持につなげる。

ただし、JIPは買収資金のうちの融資について銀行団からの確約を得られておらず、銀行が融資する意思を示したことを証明する「コミットメントレター」は期限の11月7日までに提出できなかった。

ーーー

今回、今回の融資を取りまとめる三井住友銀行が2月9日未明までにJIPに対し、総額1兆2000億円の融資を確約する「コミットメントレター」を送った。これとは別に東芝が決められた範囲で運転資金を引き出せる2000億円のコミットメントライン(融資枠)も設ける。

東洋経済によると、融資の内訳は次のとおり。合計1兆4000億円のうち、三井系の2行が過半数を負担することで、折り合いがついた。

三井住友銀行(主力行) 5,150億円  
三井住友信託(準主力) 2,200億円  
(三井系 合計) 7,350億円 52.5%
みずほ銀行 (主力行) 4,600億円 33%
三菱UFJ銀行 1,600億円  
あおぞら銀行 450億円  
合計 14,000億円 100%

あおぞら銀行は2013年2月に、オペレーショナル・リスク管理など金融機関の内部統制をサポートするソリューション分野で東芝ソリューションと本格的な協業を開始している。

各行は2022年12月までに融資の方針を固めていたが、財務制限条項(コベナンツ)の条件などをめぐってJIPなどと調整を続けていた。

財務制限条項とは、金融機関が債務者に対して貸付を行う際に付与する条件のひとつで、その契約において、債務者の財政状況が定めた基準条件を下まわった場合に、債務者は期限の利益を喪失し、金融機関に対して即座に貸付金の返済を行うことと定められている。 金融機関にとっては、融資先の倒産による貸し倒れリスクを予め軽減するための対策 である。

財務制限条項には、「経常利益が2期連続して赤字にならないこと」といった損益に関するものと、「純資産が前期比75%を下回らないこと」といった 財産に関するものなどがある。

最終的な条件は明らかになっていないが、「将来、財務が悪化した場合には、東芝が事業売却を迫られる可能性はある」という。業績不振事業を売却することや、銀行からの役員を受け入れること、経営監視のために投資家の代表者を含む委員会を設置するよう、求めているという。

 

JIPは出資金1兆円、銀行融資1兆2000億円(融資枠2000億円を除く)の合計2兆2000億円から、買収後の東芝の運転資金などは除き、買収に充てる額としては2兆円規模を想定している。

東芝の株価は再編への期待を織り込んで高値圏にあり、足元の東芝の時価総額は1.99兆円だから、ほとんどプレミアムはつかないことになる。

 

東芝はJIP案について社外取締役7人で構成する特別委員会で詳細を議論していたが、提案を受け入れるかどうか検討を急ぎ、最終的には12人いる取締役会で判断する。

東芝の業績は悪化しており、JIP案より好条件の提案が短期間で出てくるかは不透明である。

 


 

目次  次へ