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これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2024/3/1 米最高裁、トランプ氏の免責特権について審理入りを決定

スミス特別検察官は、トランプ前大統領を2回起訴した。2020年大統領選の結果を覆そうとしたとされる事件と、機密資料を不正に取り扱ったとされる事件での違法行為40件についてである。

トランプ氏は大統領免責特権で刑事裁判の被告になり得ないと申し立てていた。

しかし、首都ワシントンの連邦地裁は2023年12月1日、大統領の免責特権が適用されるとしたトランプ氏側の主張を退けた。

首都ワシントンの連邦控訴裁判所は2月6日、トランプ前大統領について大統領免責特権を認めず、2020年大統領選の結果を覆そうと企てた罪で起訴されうるとの判決を出した。

連邦控訴裁の判事3人は全員一致でトランプの主張を退けた。判決は、「選挙結果の承認と実施という、行政権に対する最も基本的なチェック機能を無力化するような犯罪も犯せる、無制限の権限を大統領はもっているとするトランプ前大統領の主張は、受け入れることができない」とした。

トランプ陣営は、判決直後に声明を発表。「(前大統領は)DC巡回控訴裁判所の判決に謹んで異を唱え、上訴する」とした。また、「大統領に免責が認められないなら、今後退任する大統領はすべて、対立政党から即座に起訴されることになる」、「完全な免責がなければ、米大統領はまともに機能できない」と主張した。

トランプ前大統領は2月12日、大統領の免責特権を認めないとした連邦控訴裁の判決を保留するよう最高裁に要請した。

2024/2/13    トランプ前大統領は最終的に大統領選に出馬できるのか 

米連邦最高裁は2月28日、大統領の免責特権を認めるかどうかを審理すると発表した。4月22日の週に口頭弁論を開くとしている。

最高裁は「前大統領が任期中の公務に関わると主張する行為に対する刑事訴追について、大統領の免責特権を享受するか、するとすればどこまで享受するか」を審理すると説明した。

最高裁が免責特権の是非について判断を下すまで、連邦地裁は大統領選敗北の結果を覆そうとした罪を巡る前大統領の刑事裁判手続きを開始できない。

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イリノイ州のクック郡巡回裁判所は2月28日、トランプ前大統領が2024年大統領選の同州での予備選に立候補できないとの判断を示した。2021年1月の連邦議会議事堂襲撃にトランプ氏が関わったことが、反乱に関与した人物の公職就任を禁じた憲法の修正条項に触れるとした。

トランプ氏の予備選への立候補をめぐっては、これまでにコロラド州とメイン州で、修正第14条3項を理由に、立候補資格を認めない判断が下されている。

2024/1/5  トランプ前大統領の大統領選出馬問題

この2州については判決は最高裁の判決が出るまで保留されており、3月5日の予備選には参加できる。


2024/3/4   韓国の科学技術水準、初めて中国に抜かれる

韓国の科学技術水準が初めて中国に抜かれた。韓国の朝鮮日報、東亜日報が報じた。

韓国政府は科学技術水準をチェックするため11の技術について2年ごとに米国、EU、日本、中国、韓国を比較・評価している。

今回の評価は建設・交通、災害安全、宇宙・航空・海洋、国防、機械・製造、素材・ナノ、農林水産・食品、生命・保健医療、エネルギー・資源、環境・気象、情報技術(ICT)・ソフトウェアの11分野136技術を対象に、論文や特許件数などを評価する定量分析と専門家の評価を並行して行った。

その結果、各国の科学技術水準は米国を100%とした場合、EU 94.7%、日本 86.4%、中国 82.6%、韓国 81.5%となった。

韓国の技術水準は2020年に比べて1.4ポイント上昇したが、同じ期間に中国は2.6 ポイント上昇し、最終的に中国が韓国を上回った。

中国が韓国を上回るのはこの調査が始まった2012年以来初めて。米国の現時点の技術水準と同程度になるまでに必要な時間を意味する技術格差は中国が3年、韓国は3.2年だった。

中国は11の主要分野での136のコア技術で初めて韓国を追い抜いた。

韓国は10年間で米国とのギャップを約1.5年縮めた(10年前は4.7年の差であったが、現在は3.2年の差)。これに対し、中国は10年前に6.6年の差があったが、現在は3.0年と著しく差を縮めた。

50の戦略的技術だけでみると、中国はずいぶん先を行っている。米国との差は86.5%で、韓国の81.7%、日本の85.2%を超えている。(EUは92.3%) 量子コンピューター、航空機、AI では急速に米国に追いついている。

2015年に‘Made in China 2025’ 政策を打ち出して以来、中国は人材と国家予算をハイテク産業に集中させ、技術レベルを向上させてきた。 その結果、中国は昨年、電気自動車を筆頭に世界第1位の自動車輸出国となり、AI やロボティクスなど将来の主要産業で米国と競争している。

それに対し、かつてはR&D分野で優等生だった韓国の技術競争力は後退している。他国と比較し最も進んでいるのは2次バッテリーだけである。簡単な仕事に重点を置き、革新ではなく安定を求め、民間の研究開発投資を刺激するために必要な規制緩和や財政支援が不足してきた。 昨年、政府は十分な準備をせずに今年度の研究開発予算を大幅に削減し、科学界との対立を引き起こした。

東亜日報はますます激化する世界的なハイテク戦争を生き抜くために、挑戦する意欲のある研究を積極的に支援し、人材を育成し、技術競争力を回復する必要があると述べている。

日本もこのままでは近いうちに中国に追い抜かれる恐れがある。


2024/3/5    韓国が輸出したUAEのバラカ原発4号機が稼働

韓国が初めて海外に輸出した原発、アラブ首長国連邦(UAE)西部のバラカ(Barakah )原発4号機が3月2日、出力100%に到達した。 韓国電力とUAEの原子力公社 (Emirates Nuclear Energy Corporation:ENEC ) の投資で設立されたUAE原発運営会社 (Nawah Energy Company:韓国電力18% / ENEC 82%) によると、4号機はこの日、昨年12月に燃料装填を完了してから3カ月後に初臨界に達した。

バラカ原発は韓国型原発の1400MW級APR1400炉型。アラブ地域初の商業用原発で最大クリーン電力源に挙げられる。

韓国初の海外原発事業で、斗山重工業・現代建設・サムスン物産などの韓国企業が参画し、韓国電力は主契約者として原発の設計・製作・施工・試運転および運営支援までを担当 した。

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韓国電力コンソーシアムは2009年12月にバラカ原発事業を契約金約186億ドルで受注した。韓国の次世代原発の加圧軽水炉型原発(APR1400)140万kW を4基建設するもので、全部が稼働すれば、UAEの電力需要の25%を賄う。

APR1400は、米Combustion Engineering の130万kW級PWR「システム80+」をベースに、韓国電力公社(KEPCO)の指揮の下、韓国の原子力産業界が約10年かけて開発したもの 。

Combustion Engineeringは1990年代初めにABBグループ買収され、2000年にボイラーおよび化石燃料事業がAlstomに、原子力事業がWestinghouse Electricにそれぞれ売却された。

アラブ首長国連邦(UAE)の国営通信は2020年8月1日、韓国電力コンソーシアムが受注した西部のブラカ原子力発電所の1号機の稼働に成功したと伝えた。

2012年7月に着工、当初2017年上半期に1号機を試験運転する計画だったが、UAE政府が安全と自国民高級運用人材養成などを理由に運転時期を数回延期した。 最終的に2021年4月1日に営業運転を開始した。

原発稼働はアラブ諸国で初めてで、サウジアラビアは、最大16基の原子炉を建設する計画を発表しているが、まだ実現に至っていない。

2020/8/7 アラブ首長国連邦の原子力発電所1号機稼働

2号機は2013年4月に着工、2022年3月に営業運転を開始した。

2014年9月に本格着工した3号機は2023年2月に営業運転を開始した。

最後の4号機は2015年7月に建設を開始、2024年3月2日に原子力出力が100%に到達した。

下図の右端が1号機、左へ2〜4号機。

UAEの原子力公社 (Emirates Nuclear Energy Corporation:ENEC ) は当初、原発建設のみを韓電に発注したが、原発を運営する専門人材やノウハウが不足しているため、運営も韓電に委託した。

韓電は9億ドルを投資して原発運営会社Nawah Energy CompanyをENECと合弁で設立し、実質的に原発の運営管理を受託し、電力を60年間にわたりENECに販売する。

東芝は2023年7月21日、東芝エネルギーシステムズがUAEの原子力企業傘下のNawah Energy Company と提携したと発表した。東芝が原子力発電に関わる企業や機器を選定する際のノウハウなど、原発運営について幅広い情報を提供する。

韓電は原発整備人材約 1千人を10年間派遣する契約を追加締結した。

韓電関係者は「60年間原発を運営すれば、電力販売で494億ドルの売り上げが見込まれ、建設受注額よりもはるかに規模が大きい。自動車228万台、携帯電話端末約5200万台の輸出に匹敵する経済効果が期待される」と述べた。

韓電社長は「UAEの原発運営権を獲得し、原発の建設から運営に至る一貫した原発事業モデルを構築した。原発輸出を活性化する契機となる」と指摘した。

2016/10/27   韓国電力、アラブ首長国連邦の原発運営に60年間参加


2024/3/5   米最高裁、トランプ氏の大統領選出馬認める

米連邦最高裁は3月4日、トランプ前大統領の2024年大統領選への出馬は可能との意見書を公表した。判断は最高裁判事の全会一致。

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コロラド州、メーン州、イリノイ州は、2021年1月の連邦議会議事堂襲撃にトランプ氏が関わったことが、反乱に関与した人物の公職就任を禁じた憲法の修正条項に触れるとし、それぞれの州の予備選に立候補できないした。

米連邦最高裁は2月28日、大統領の免責特権を認めるかどうかを審理すると発表した。4月22日の週に口頭弁論を開くとしている。付記 4月25日に行う。

最高裁は「前大統領が任期中の公務に関わると主張する行為に対する刑事訴追について、大統領の免責特権を享受するか、するとすればどこまで享受するか」を審理すると説明した。

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3月5日には前大統領がその州の予備選に立候補できないとするコロラド州を含め予備選・党員集会が集中するSuper Tuesdayが控えているが、最高裁はその前日に意見書を公表した。

国家への反乱に加担した者が官職に就くことを禁じる米国憲法修正14条3項の規定が焦点となっているが、最高裁は無署名の意見書で、「連邦政府高官や候補者に対して3項の規定を執行する責任は州ではなく議会にある」と述べた。

今回の連邦最高裁の判断により、他の州のこれに関する動きは事実上全て終了する。

最高裁の意見書は下記の通り。

コロラド州最高裁は、大統領候補が立候補できるかどうかを州が決めることができると誤って考えている。

州に判断を委ねれば、同じ候補者について州ごとに異なる判断が出る可能性がある。

連邦の役員について憲法修正14条3項の規定をどう適用するかを決めるのは州ではなく連邦議会である。どの州も同じである。州は、州の役員についてはこの規定で立候補を禁止できる。

最高裁は今回、手続きの法的問題を決めただけで、トランプ前大統領の2021年1月の行動が「反乱」(insurrection) に該当するかどうかについては何も触れていない。


トランプ前大統領は直後にソーシャルメディアTruth Social に "Big  win for America" と書いた。


2024/3/6 米FTCのスーパーマーケットの買収阻止問題

米連邦取引委員会(FTC)と8つの州およびコロンビア特別区は、米スーパーマーケット・チェーン大手クローガーによる同業アルバートソンズ買収阻止を図り、2月26日に連邦裁判所に提訴した。両社が合併すれば労働者の賃金が低下し、食品の値段が上がると主張し、計画の阻止を求めている。

米食品スーパー最大手のクローガー(The Kroger Co.)は2022年10月14日、業界2位のアルバートソンズ(Albertsons Companies, Inc)と合併することで両社が最終合意したと発表した。アルバートソンズの株式を総額約246億ドル(約3兆6000億円)で買い取る。

クローガーはスーパーマーケット運営会社で、「Kroger」「Fred Meyer」「Fry’s」などのブランドで米国で店舗を展開しており、肉、魚介類、ベーカリ ー、乳製品、冷凍食品、掃除、キッチン、飲料、健康、エレクトロニクス、玩具、野菜、果物、理美容用品、家庭用品を提供する。2021年度の売上高は1378億ドル、調整後EBITDA(税・金利・減価償却前利益)は71億ドル、純利益は16億ドルだった。

アルバートソンズ(Albertsons Companies, Inc.)は2015年にSafewayと合併し、「Vons」「Jewel-Osco」「Shaw’s」など24のブランドで2273店舗を展開する食品・医薬品小売会社。果物、野菜、缶詰、医薬品、その他関連製品を提供する。21年度の売上高は718億ドル、調整後EBITDAは43億ドル、純利益は16億ドルだった。

UBSによれば、食品小売市場におけるシェアは首位Walmart の22.3%に対し、クローガーが9.9%、アルバートソンズが5.2%となっている。両社は合併によって仕入交渉力を高め、Walmart に対する価格競争力を強化する。

クローガーは合併後の4年間で約40億ドルのコスト削減効果があると見込んでおり、この一部を価格引き下げに充てる。

また、両社はEC(ネット通販)事業の強化を進めているが、配送インフラへの投資や物流コスト上昇で苦しんでいる。合併によってEC事業の収益改善効果も見込める。特にクローガーは、英ネットスーパーのOcado Groupと提携したEC専用の大型物流センターの建設を全米各地で進めており、その投資負担が重荷となっているが、合併で顧客基盤が広がれば、投資回収が早まる ことも期待できる。

単純合計すると両社の従業員数は約71万人、店舗数は4996店舗、物流拠点は66カ所、プライベートブランド商品などの製造工場は52カ所、会員プログラムの会員数は約8500万人となる。

FTCの承認を得るためには、両社の店舗が重複する地域で店舗を売却しなければならない可能性が高い。

このため、両社はソフトバンクグループが支援するC&S Wholesale Grocersに西部と中西部に集中する413店舗を19億ドルで売却することで合意した。C&S は株式非公開で、New Hampshire.に本拠を置き、Grand Union  と Piggly Wiggly Carolinaのチェーンを展開する米国全国規模の食料品卸売会社 。

ソフトバンクグループとサプライチェーン向けAI搭載自動化技術のリーディングカンパニーのSymbotic Inc.は2023年7月、ジョイントベンチャー GreenBox Systems LLCを設立した。

Symboticの倉庫向け先進AIおよび自動化テクノロジーを運用し、サプライチェーン・ネットワークを世界中で自動化することを狙う。自動化システムは、高度な視認・検知機能を備えた完全自律型ロボット群で構成されており、業界屈指のスループット率かつ99.9999%の精度で商品の梱包から保管、回収、パレタイズまで行う。

Symboticのシステムは、Walmartなどの世界的大手小売業者、食料品業者、卸売業者の 2,600 以上の店舗で利用されているが、C&S Wholesale Grocersもその一つ。

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FTCは、合併が両社の激しい競争を排除し、数百万人のアメリカ人にとって食料品やその他の生活必需品の値上げをもたらすと主張している。競争の喪失は 又、製品やサービスの品質低下をもたらし、消費者が食料品を買い物する場所を選択する選択肢を狭めるとする。数千人の食料品店従業員にとっては、買収は、従業員の賃金を上げ、福利厚生を改善し、労働条件を改善する競争を 打ち消すもので、脅威となるとする。

また、クローガーとアルバートソンズの店舗売却案は、クローガーの反トラスト弁護士がまとめたつながりのない店舗、バナー、ブランド、および他の資産の寄せ集めであり、クローガーとアルバートソンズ間の失われた競争を緩和するには程遠いと主張している。

8州とDCの検事総長からなる両党派のグループが 同じ見解で FTCの連邦裁判所訴訟に参加している。

これに対し、クローガーは「合併は米国の消費者にとってさらなる低価格の商品と選択肢の拡大を意味する」「当社は2012年以来、高賃金の組合雇用を10万人以上増やしており、今回の合併は組合員の雇用を確保する最善の方法だ」と主張した。

両社の合併による店舗閉鎖がないことや、医療・年金給付、賃金交渉、現場従業員の雇用維持を含む現行の労働協約を全て維持することを保障している。

従来と同じ時代遅れの見解を用いていることに失望したとコメントし、合併阻止はむしろ、Walmart、Costco、Amazon のような大規模で組合非加入の小売業者による食料品業界の支配力をさらに高めることを可能にするだけだとする。

Walmart 「Everyday low price」を掲げ、商品を大量に仕入れることで低価格を実現し、コストを抑えるために店員の数や人件費を抑えて、薄利多売を実現し、安売り攻勢で地元の競合商店を次々と倒産、廃業に追い込んだ挙句、不採算を理由に撤退するという例が相次ぎ、批判された。

従業員の労働条件の悪さも有名で、低賃金の非正規雇用従業員を多く採用する一方、正社員の採用には消極的で労働組合がなく、組合を結成する動きがあれば社員を即刻解雇するなどの不当労働行為が続いた。

   
Costco 会員制で、入荷したままのパレットに乗っている商品を大型の倉庫に並べ、パレットに載せたままの状態で販売することにより、商品管理や陳列にかかるコスト(費用)や手間を、徹底的に抑える倉庫店スタイル。
   
Amazon Internet通販

いずれもクローガーやアルバートソンズ などのスーパーマーケットと異なるやり方で同じ市場で販売を拡大しており、一般のスーパーマーケットを圧迫している。

クローガーは、大企業が同じ市場で異なるやり方でシェアを拡大している状況下で、アルバートソンズ との合併を阻止することは、これらの企業の支配力を更に高めると主張しており、この主張には一理あると思われる。

 



2024/3/7   三菱商事、カナダ・PAKリチウムプロジェクトへの新規参画
 
三菱商事は3月5日、カナダ鉱山会社のFrontier Lithiumが100%保有するカナダのPAKリチウムプロジェクトへの新規参画を目的とし、同プロジェクト権益を引き継ぐ新設会社宛に、25百万カナダドル(約26億円)を出資し、同社の7.5%株式を取得することについてFrontier社と合意したと発表した。同社は併せて、25%迄の株式買増しに係る優先交渉権も取得している。
 
今回 F/S完了後
Frontier 92.5%

三菱商事 7.5% (+優先交渉権 17.5%)
Frontier 75%

三菱商事 25%
今回の出資の25百万カナダドルは、本プロジェクトの事業化調査や環境許認可取得準備等、プロジェクト建設開始前に必要となる資金に充当される。
 
カナダ・オンタリオ州のPAKリチウムプロジェクトは、鉱山と精製プラントを含む開発案件で、2013年にリチウム資源のポテンシャルが確認され、その後の探査活動によって順調に資源量が積み増された結果、炭酸リチウム換算で年間約2万トンの生産(EV約30万台相当)が20年超にわたって期待されている。
 
三菱商事は、PAKリチウムプロジェクトの資源量が北米有数であることに加え、鉱石品位が北米最高水準にあると評価し、リチウム資源の獲得を決定した。
 
また、本プロジェクトは鉱業が盛んなオンタリオ州に所在し、水力発電由来のクリーンな電力が活用できるため、環境負荷の低いリチウムプロジェクトとなることが期待されていると共に、北米EV市場へのアクセスも良好である。

北米で鉱山の開発から操業、鉱石の精製までの一貫体制を確立し、中国を介さない供給網を整備する。米国は2025年から消費者がEVを購入する際の税優遇で、中国産リチウムを適用外にする方針 で、米中摩擦が激化しても安定供給できる体制を整える。

加えて、採掘予定の鉱区以外に複数の探査鉱区を有しており、今後の探査状況次第では、更なる資源量のアップサイドが見込まれる。
 

 
 
 
今後は、2027年頃にガラス・セラミック等の工業用途の高品質精鉱、2030年頃に電池用途のリチウム化成品の生産開始を目指し、本プロジェクトの立ち上げに向けてFrontier社との協議を重ねる。
 
三菱商事は、「中期経営戦略2024」において、リチウム資源事業への投資を含むEX(エネルギー・トランスフォーメーション)関連投資を成長戦略の1つに掲げており、今回の投資はその一環として位置づけられる。今後もリチウムをはじめとした電化に資する金属資源の確保と安定供給に取り組む。

 


2024/3/8   公取委、日産自動車に下請法に基づき勧告

公取委は3月7日、日産自動車に対し、下請代金支払遅延等防止法第4条第1項第3号(下請代金の減額の禁止)の規定に違反する行為が認められたとし、同社に勧告を行った。

それによると、同社はコスト削減目標を達成するため、2021年1月から2023年4月までの約2年間、部品メーカーなど下請け事業者36社に対し、一度決まった支払い代金から数%を「割戻金」として減額していた。

総額30億2368万円を減額しており、1社当たりの最高額は約11億円だった。

なお、日産は減額分をすでに下請け業者へ支払い、割戻金の運用も廃止したとしている。

減額の幅は下請け事業者の意向も踏まえて両社間で協議して決めており、覚書として書面にも残していた。

下請法では、下請け側に責任がある場合などを除き、両社間の合意があっても発注金額から減額することを禁じている。

第四条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
 
 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。

今回違反の認定をした期間は約2年間だが、関係者によると、同様の行為は約30年前には行われており、社内で常態化していたとみられる。勧告では、経営責任者が中心となって順法管理体制の整備をはかることも求めた。

付記

本件により日産自動車は、賃上げに取り組んだ企業の法人税を優遇する「賃上げ促進税制」の利用資格を失った。資格喪失後は少なくとも1年間は利用できない。

賃上げ促進税制は法人税負担を軽くするための税優遇で、優遇率は企業の規模や賃上げの幅などの条件で決まる。大企業では2024年度以降、給与の増額分の最大35%が法人税から差し引かれる仕組み。

大企業が同税制を利用する場合、自社のホームページに取引先への配慮などに関する経営方針を掲載したうえで、専用サイトに適正な取引価格の実現を企業が表明する「パートナーシップ構築宣言」を公表しなければならない。

日産は3月、下請法違反で公正取引委員会から再発防止を求める勧告を受けた。このため、パートナーシップ構築宣言の専用サイトから日産の掲載が削除され、賃上げ税優遇の資格を失った。

 

公取委によると、自動車・トラック・バス製造業で減額に関する下請法違反の勧告は公表を始めた2004年以降で14件目で、日産と同様に発注代金から「一時金」や「口銭」の名目で不当に支払金額を減額する事例も目立つといい、日本自動車工業会に再発防止を申し入れる。

業界団体に対する周知・啓発活動

自動車製造業においては、近年、本件と類似の違反行為が生じ、公正取引委員会が下請法に基づく勧告を行っている。

また、下請法に違反するおそれのある行為についても継続して生じており、指導等の対象ともなっている。

公正取引委員会としては、このような状況を踏まえ、引き続き、自動車製造業における下請法違反行為に対し、厳正に対処していくとともに、改めて業界団体への周知等を通じた啓発活動を行っていくこととしている。

ーーー

公取委は2022年12月27日、下請け企業などとの間で原燃料費や人件費といったコスト上昇分を取引価格に反映する協議をしなかったとして佐川急便や全国農業協同組合連合会(JA全農)、デンソーなど13社・団体の名前を公表した。

こうした行為は独占禁止法の「優越的地位の乱用」に該当する恐れがある。

下請け側が価格転嫁を要請していなくても、立場の強い発注側が自発的に協議するよう求め、社名公表に踏み切った。

3社・団体はほかに、三協立山、大和物流、東急コミュニティー、豊田自動織機、トランコム、ドン・キホーテ、日本アクセス、丸和運輸機関、三菱食品、三菱電機ロジスティクスで、公取委は法令違反を認定したわけではないと説明している。

独禁法の運用方針は
@受注企業と発注企業の価格交渉の場で価格転嫁の必要性について協議しない、または
A価格転嫁の要請があったのに拒否し、その理由を回答しない
のいずれかの場合で取引価格を据え置けば「優越的地位の乱用」に該当する恐れがあると明記しており、今回は@に該当すると判断した。

このほか@またはAに該当する4030社に対し懸念事項を示した注意喚起文書を送付した。

 


2024/3/11 米予算の一部可決成立

バイデン米大統領は3月9日、2024年会計年度(2023年10月−2024年9月)予算案の一部(総額4600億ドルに署名した。3度のつなぎ予算で賄ってきた昨年10月からの予算が5ヶ月遅れで成立した。3度目のつなぎ予算の一部が8日に期限を迎えるため、9日に政府機関が一部閉鎖される恐れがあったが、ぎりぎりのタイミングで閉鎖を回避する予算が成立した。 

2度目のつなぎ予算で予算を2分割して、それぞれ期限を設けたもので、今回成立したのは、農務、内務、商務、司法、運輸、住宅都市開発、エネルギー、退役軍人省と食品医薬品局(FDA)、環境保護局(EPA)、航空宇宙局(NASA)の予算を盛り込んだ歳出法案である。

残るのは、 金融・サービス、商務・司法・科学、労働・保健・教育、国防、国土安全、内務・環境、立法、外交の8分野 で、つなぎ予算は3月22日までであり、22日までに可決・成立しなければ、これらの政府機関が23日に閉鎖される危険が残る。

与野党交渉担当者は3月初めの時点で、今回分については昨年合意したレベルにすることで合意しており、これについて最終文書を策定し3月8日までに上下院で可決させるとしていた。可決は予定通りである。
残る歳出分野でも詰めの交渉を進め、3月22日までに可決させるとしたが、現時点で基本的に合意しているかどうか、不明。

今回は、下院は3月6日に賛成339票、反対85票で可決した。共和党の83人が反対した。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 132 207 339  
反対 83 2 85  
棄権 4 4 8  
合計 219 213 432 3

 

上院はこれを賛成75、反対22の賛成多数で8日に可決した。

  共和党 民主党系 合計
民主党 民主系無所属 無所属
賛成 26 46 2 1 75
反対 21 1     22
棄権 2 1     3
合計 49 48 2 1 100

         民主系無所属はSanders, King 両議員、無所属は元民主党のSinema議員

なお、今回分と3月22日が期限の残り分にはウクライナやイスラエル等への支援は含まれていない。

これらについては2月13日に上院が法案(国境移民対策を除く)を可決したが、下院には反対が多く、審議していない。

秋の大統領選挙の結果次第である。

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本年度の米国の予算審議の状況は下記の通り。

 

 @退役軍人省やエネルギー省、農務省、運輸省、住宅都市開発省向け
   A金融・サービス、商務・司法・科学、労働・保健・教育、国防、国土安全、内務・環境、立法、外交の8分野

  第1回つなぎ予算 第2回つなぎ予算 第3回つなぎ予算 ウクライナ等支援予算 本予算@ 本予算A
期限 11月半ばまで45日分
 
@2024/1/19まで 
A2024/2/2まで
@2024/3/8
A2024/3/22
  2024/3/8
期限内成立
2024/3/22
 
条件 ウクライナ支援除外 ウクライナ、イスラエル
支援除外
ウクライナ、イスラエル
支援除外
国境移民対策除外    
可決 下院 2023/9/30 a 2023/11/14 2024/1/18 c 審議せず→法案成立せず 2024/3/6  
上院 2023/10/1未明 2023/11/15深夜 2024/2/13    d 2024/3/8  

a 2023/10/2 米議会、土壇場で政府機関閉鎖を回避 

b 2023/11/15 米下院、政府機関閉鎖回避へつなぎ予算案可決 上院に送付

c 2024/1/22 米国つなぎ予算案成立、政府機関の閉鎖回避

d 2024/2/29 米議会指導部、年度予算案を3月22日までに成立させることで合意 


2024/3/12  鉄道で超電動送電システム

鉄道総合技術研究所は、電気を無駄なく電車に送る「超電導送電システム」を伊豆箱根鉄道の一部区間で稼働させる。営業路線への導入は世界で初めて。

伊豆箱根鉄道の駿豆線(三島ー修善寺)の一部区間で、送電ロスを発生せずに電気を電車に届ける超電動送電システムを稼働する。専用の送電ケーブルは冷却すると電気抵抗がゼロになる超伝導素材が用いられる。電力損失を減らせ、ブレーキ時に発生する回生電力も、より効率的に活用でき、冷却代を差し引いても、従来より5%ほど消費電力が抑えられる予定。

鉄道総研は2007頃年から開発に着手し、他の鉄道路線の営業時間外に実証実験を行ってきた。今回は営業時間内の取り組みとしては世界初となる。

 

付記

鉄道総合技術研究所と伊豆箱根鉄道は3月13日、「超電導送電システム」を同鉄道の一部区間で稼働させたと発表した。営業路線への導入は世界で初めて。

駿豆線の大仁駅そばに鉄道総研が開発した長さ約100メートルの超電導送電ケーブルと冷凍機、ポンプなどを設置し、13日の始発から新システムによる送電を開始した。

新システムによる送電は22日まで続ける。その後一旦停止して点検する。システムの状況を確認しながら常時稼働を目指す。

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都市鉄道をはじめとする直流電化区間では数キロメートルごとに変電所を設けて、「き電線」(饋電線)を通じて電気を送り出している。電線の電気抵抗や電車の走行によって、変電所間には電圧降下が発生する。電圧が著しく低いと電車の走行に影響を及ぶため、運行本数の多い区間では変電所を細かく設置しなければならない。

直流電気鉄道は変電所から架線に電気を送り届ける「き電線」の電気抵抗に起因する回生失効や送電損失、変電所間での電圧降下といった課題がある。

「き電線」は鉄道の架線に電力を供給するために、主に架線と並行して設けられる電力線のことである。

 NR電車線テクノ

超電導材料を「き電線」に適用することで電気抵抗ゼロでの送電を可能にするのが「超電導き電ケーブル」で、その実用化によって上述の課題がなくなり、省エネルギー化、また電圧補償や変電所の負荷平準化といった様々な効果が期待される。

この超電導き電ケーブルの実用化に向けた基礎的な技術検証を主目的に、鉄道総研は2015年3月、静岡県を走る伊豆箱根鉄道の駿豆線で列車走行試験を実施、超電導き電ケーブルを液体窒素で−196度に浸積冷却して、超電導送電を行った。

田京〜修善寺間の5.6kmを往復する試験電車(伊豆箱根鉄道3000系、3両編成)に超電導き電ケーブルを通じて電気を供給。国内外で初めて、営業線における超電導送電による列車走行実験に成功した 。

 

開発のポイント:

1) 超電導ケーブルの開発

超電導材料の評価結果をもとに超電導ケーブルを試作し、通電試験や課電試験などにより鉄道用途に必要な性能を有していることを確認している。特に通電試験においては、最大で16 kAの通電容量を実現した。

2) 接続技術

運搬上の制約から、超電導ケーブルの1本あたりの長さは500 m程度となり、都市部の変電所間隔は数kmであるため、導入の際は現場でこれを接続していく必要がある。

2022年1月、鉄道総合技術研究所が送電時の電力ロスをほとんどゼロにする超電導技術を用いた世界最長級の送電線を開発したと報じられた。この送電線は長さ1.5km、鉄道に必要な電圧1,500V、電流数百アンペアを流すことが可能という実用性の高さからも鉄道業界で注目を集めている。

3) 冷却技術

長距離にわたる超電導ケーブルを安定冷却するための冷却システム、およびその構成機器の開発を行っている。

4) 超電導き電システムを用いた走行試験

超電導き電システムを鉄道に適用するため、同システムを用いた車両の走行試験を実施した。所内の試験線で試験した後、伊豆箱根鉄道駿豆線、東京さくらトラム(都電荒川線)、東京メトロ丸ノ内線、中央線の各路線で行った。

 

 

10年後の超電導ケーブルシステム (自然エネルギー利用)

 


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