神戸大学は2024年4月30日、大学院工学研究科の森田健太助教・丸山達生教授と、藤田医科大学病院、名古屋市立大学、藤田医科大学、神戸大学大学院医学研究科の研究グループが、水中で「塊」状に凝集して働く酵素阻害剤を発見したと発表した。

 

近年、劇症型溶連菌感染症の症例が増えている。発症すると急激に症状が悪化して手足の壊死や多臓器不全を起こし、30%が死に至ることから、「人食いバクテリア感染症」とも呼ばれている。

溶連菌はDNA分解酵素(DNase)を分泌してヒトの白血球が持つ感染防御機構を破壊することで感染を有利に進める。

DNaseを阻害すれば劇症型溶連菌感染症の治療につながると思われるが、これまでに人体に投与可能なDNase阻害剤は見つかっていなかった。

今回発見した水中で「塊」状に凝集して働く酵素阻害剤は、溶連菌感染症治療に役立つ可能性があり、今後、この現象を詳細に解明することでこれまでとは全く異なる視点での酵素阻害剤開発および感染症治療への応用が期待される。

この研究成果は、4月16日に、米国化学会が発行する「JACS Au」に掲載された。 

 

研究グループではMannan 007 (Mn007)という分子がDNA分解酵素(DNase)を阻害することを発見した。調査したところ、Mn007は水中で凝集して初めてDNaseを阻害する 。

一方、DNase以外の酵素にMn007凝集体を作用させても、酵素の阻害は起こらない。つまり、Mn007凝集体はDNase特異的な阻害剤であることが分かった。これまで、酵素阻害剤は対象の酵素と1対1で反応することが一般的であり、特定の酵素だけを阻害する低分子の凝集体は世界初の発見。


溶連菌は、DNA分解酵素(DNase)を分泌し、ヒトの白血球が持つ感染防御機構を破壊し、感染させる。

 今回発見した酵素阻害剤 Mn007は、
  
  単独ではDNA分解酵素を阻害しない。
  DNase以外の酵素は阻害しない。

  水中で凝集すると、初めて、DNA分解酵素を阻害する。(DNase以外の酵素は阻害しない)

 

 

次に研究グループは、Mn007が劇症型溶連菌感染症の治療薬になり得るかどうかを検討した。

白血球を含むヒトの血液にMn007と溶連菌を加え、しばらく溶連菌を培養した後、溶連菌の数を数えたところ、Mn007を加えた血液中では溶連菌は増殖しにくいということがわか った。
Mn007凝集体が溶連菌の分泌するDNaseを阻害し、白血球の持つ感染防御機構が正しく働いたためだと考えられる。

Mn007の濃度が上がるにしたがってMn007の凝集体が増え、それに伴いDNaseが阻害されていることがわかる。

 

研究グループは、今後の展開として、病気の原因となっている様々な酵素に対してMn007のような凝集性の酵素阻害剤を個別にデザインすることで治療薬開発ができるようになるかもしれ ないとしている。