ブログ 化学業界の話題     目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2022/2/15  東芝、分割案について株主の意向を確認するための株主総会を開催 

東芝は2月7日、企業価値を高めようと打ち出した「会社を3つに分割する」という方針を一転して見直し、半導体などのデバイス事業だけを分離して2分割とする と発表した。

株主還元は当初案より増やした。

2022/2/8 東芝 「3分割」を「2分割」に見直し 

3分割案、2分割案には一部の大株主から反対の声が上がっているが、東芝は2月14日、分割案について株主の意向を確認するための株主総会を3月24日に開催すると発表した。

株主の意向確認に加え、株主の3D Investment Value Master Fundからの株主提案も付議する。

同社はシンガポール拠点の日本特化型の独立系資産運用会社で、東芝への出資比率は7.57%とされる。

本株主提案は1月6日付で行われており、「3分割案」を前提にしている。但し、内容としては「2分割」の場合にも当てはまるものである。

なお、臨時株主総会について、会社法第 306 条第1項に基づき、東京地方裁判所に対して、株主総会検査役の選任の申立てを行うとしている。

株主提案などの場合、後日、株主総会決議取消訴訟や決議不存在確認訴訟等が提起され、決議の有効性が争われることがあるため、そのような事態に備えるため、裁判所に検査役の選任を申し立てることがある。

会社法第306条
@ 株式会社又は総株主の議決権の100分の1以上の議決権を有する株主は、株主総会に係る招集の手続及び決議の方法を調査させるため、当該株主総会に先立ち、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができる。


議案は次の通りで、株主提案の第2号、第3号議案には会社側は反対している。

第1号議案(会社提案) 戦略的再編の検討を進めることに関する株主の皆様のご意見確認の件

今回の戦略的再編の検討を進めることについて株主の意見を確認することを目的としており、法的拘束力を有するものではない。本議案の決議要件は普通決議(過半数の賛成で可決)とする。

戦略的再編の実施について法的拘束力のある株主総会決議については、再編の内容を最終的に確定させたうえで、別途、2023年に開催する株主総会に上程する

しかし、過半数の賛成を得られるかどうかは不透明で、仮に過半数の賛成が得られなければ、計画は見直しを迫られる。綱川智社長は14日の会見で、否決の場合は「会社分割の内容を修正するか、まったく別の選択肢にするか再度検討する」と話した。


第2号議案(株主提案) 
定款一部変更の件(定款変更は「特別決議」事項で、可決には3分の2以上の賛成が必要)

以下の章を新設

第6章 戦略的再編の実施

32 当会社は、2021625日に設置された戦略委員会が策定し、取締役会が承認した戦略的再編について、会社法その他の適用法令の要請に従って、取締役会が決定した方法により、取締役会が決定した時期に実施することとする。20211112日に当会社が公表した当社グループを 3つの独立した会社とする戦略的再編は本条の適用を受ける戦略的再編に該当する。

会社側は次の理由でこれに反対している。

・後日法的拘束力のある決議を得る予定であること: 現時点においては、本戦略的再編に関する法的拘束力のある決議を行うことは適切でない

定款に馴染まないこと

極めて異例な提案であること−提案者ですら反対していること:提案者は、自らは反対の議決権行使をする意向を示している。

3D Investment Value Master Fundは、「莫大な経費が必要な3社分割案は、臨時株主総会における3分の2以上の株主の賛成を得ずして、推進すべきではありません」とし、「この議案に反対する」が、「すべての株主が、東芝が3社分割案を真に進めるべきかについて、投票を行う機会を得るべきであるため、今回の株主提案に至った」としている。
 

付記 第2号議案については、東芝は当該株主から撤回する旨の書面を2月21日付で受領した。


第3号議案
(株主提案)  戦略委員会及び取締役会における戦略の再検討の件

すべての企業価値向上策既に推奨されている戦略的再編と比較・評価するため、検討手続を継続する。

(i)非公開化又はマイノリティ出資に関して積極的に検討を行い、
(ii)べての検討内容、受領した提案及び検討結果の詳細を株主に対して定期的に報告する

3D Investment Value Master Fundは「3分割案」(「2分割案」も同様と思われる)に反対している。

「東芝は、東芝の全部又は一部の事業の売却に関する提案を募集しませんでした。また、潜在的な戦略的買収者と協議することはありませんでした。更に、大規模なマイノリティ出資に関するPEファンドとの協議についても、十分に行うことなく打ち切りました」とし、非公開化又はマイノリティ出資等に関して積極的に検討を行うことを求めている。

2021年4月7日に英投資ファンドのCVC Capital Partnersが買収を提案したが、東芝は4月20日、買収交渉の中断を発表した。

2021/4/14   英投資ファンド、東芝に買収提案

会社側は次の理由でこれに反対している。

会社は本戦略的再編が最善の方策であると考えていること

他の戦略的選択肢を排除していないものの、このような選択肢をどの程度検討するかは経営判断に委ねられていること

情報の全面開示は当社及び株主の利益に反する


なお、会社側は非公開化、マイノリティ出資に関しても、これまで検討を行っており、11月の「3分割案」発表時に説明を行っている。

https://www.global.toshiba/jp/news/corporate/2021/11/news-20211112-06.html


付記

東芝の社外取締役のGeorge Zage Vは3月17日、会社側が反対している第3号議案に賛成すると表明した。3月24日の臨時株主総会では、株主の一人として賛成票を投じるという。
非上場化を検討することで、「株主に追加情報を提供できる可能性がある」としている。

会社2分割計画への賛否は示さなかった。

 

 

「物言う株主」は、所有株を高く売ることが目的である。

上述のCVC Capital Partnersの買収提案では、前日の終値に約30%のプレミアムを加えるものであった。

1株5000円での購入で、前日の時価総額 1兆7437億円に対し、2兆3,000億円弱での購入となる。数日後に株価はこれに近いところまで上昇した。
しかし、3分割発表、2分割発表で、株価は上昇していない。

株価が大幅に上がる案でないと、物言う株主の賛成を得るのは難しいだろう。


2022/2/16 台湾積体電路製造の熊本工場にデンソーが出資 

台湾積体電路製造(TSMC)は2021年11月9日、日本で初めてとなる工場をソニーグループと共同で熊本県に建設すると発表した。

子会社 Japan Advanced Semiconductor Manufacturing (JASM)を熊本県に設立、ソニーセミコンダクタソリューションズは約5億米ドルを資本金として出資し、20%未満の株式を取得する。

22/28nmプロセスを皮切りとした半導体の製造受託サービスを提供する。当初の設備投資額は約70億米ドルで、2022年の建設開始を予定しており、2024年末までに生産開始を目指す。

 TSMCとソニー、半導体ファウンドリ計画を発表 

 

付記   

経済産業省は6月17日、TSMCが熊本県で建設中の半導体の工場に最大4760億円の助成をすると決めた。TSMCとJASMが申請していた計画を同日付で認可した。
半導体産業の強化に向けた6170億円の基金から補助する第1号の案件になる。

 

今回(2月15日)、デンソーの少数持分出資と生産計画の変更が発表された。

  当初発表 今回追加、変更
少数持分出資 ソニーセミコンダクタソリューションズ
 約5億米ドル(20%未満)
デンソー 追加
 約3.5億米ドル(10%超)
製品 22nm、28nm半導体 12nm、16nm半導体追加
(高度は演算処理に使用)
月間生産能力 45,000枚(300mmウェーハ換算) 55,000枚(300mmウェーハ換算)
当初設備投資 約70億米ドル 約86億米ドル

注)
TSMCは米国アリゾナでは回路線幅が小さい最先端型の工場(5nm)を建設中で、更に3nmの工場の建設を計画している。
台湾では台南で3、5nmの工場を建設中で、新竹では2nmの新工場を計画している。
今回の日本での生産は最先端のものではない。

ーーー

先端半導体工場の新増設を支援する改正法が2021年12月20日の参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。

高速・大容量通信規格「5G」のシステム構築に不可欠な「特定半導体」を製造する事業者が対象で、継続的な生産、需給逼迫時の増産対応などを条件とし、工場の新増設にかかる設備費用の最大半額を補助する。(その後、最低10年間は生産を続けることを求めることとした。)

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に設置する基金から複数年にまたがって拠出する。2021年度補正予算でまず6170億円を計上した。

 


2022/2/17    クロロホルムからイソシアネートとポリウレタンを合成 

神戸大学大学院理学研究科の研究グループは2月9日、AGCと協力して、光で酸化したクロロホルムを使って、ポリウレタンやその原料となるイソシアネート、および尿素誘導体の合成に成功したと発表した。

イソシアネートは、毒性が高く危険なホスゲン(COCl2)を用いて製造されているが、本合成法では、必要な時、必要な量だけ、溶媒のクロロホルム中に光でホスゲンを任意に発生させて、それを溶液から出さずにそのまま次の合成に用いることができるため、安全性が高い。

クロロホルムは高い化学的安定性、揮発性を持ち、多くの有機化合物を溶解させることができる汎用の有機溶媒で、世界中で大量に生産・消費されている。

クロロホルム:CHCL3

製法:
 CH4 + Cl2 → CH3Cl + HCl
 CH3Cl + Cl2 → CH2Cl2 + HCl
 CH2Cl2 + Cl2CHCl3 + HCl

分解すると、その分解物には人体に極めて有害なホスゲン、一酸化炭素、塩素、塩化水素などが含まれていることが知られている。クロロホルムを効率良く分解する方法は確立されておらず、含まれるこれらを実用的な有機合成に利用した例はこれまでなかった。

研究グループは、フッ素化学品およびその原料としてのクロロホルムの製造企業であるAGCとの産学共同研究に取り組み、クロロホルムを原料として、ポリウレタンやその原料となるイソシアネート、および尿素誘導体の合成に成功した。

(1) 尿素誘導体

アミンと触媒を溶解させたクロロホルム溶液に紫外光を照射するだけで、それらが化学反応を引き起こし、簡単かつ高収率で尿素誘導体を合成できることを発見した。

アミンと有機塩基を含むクロロホルム溶液に、酸素バブリングしながら、20〜40℃の反応温度で低圧水銀ランプから紫外光を照射して尿素誘導体を合成した。

(2) イソシアネート

あらかじめクロロホルム溶媒のみを低温で光酸化して、クロロホルムのホスゲン溶液を調製し、そこにアミンと触媒を添加すると、イソシアネートが高収率で合成できることを確認した。

クロロホルム溶媒に、酸素バブリングしながら、0 ℃で低圧水銀から紫外光を照射してクロロホルムを光酸化して、その溶液にアミンと有機塩基を順次注入する 2 段階のプロセスを経て、イソシアネートを高収率で合成できた。

具体的には、下記のイソシアネートの合成に適用できることを確認した。

ヘキシルイソシアネート、フェニルイソシアネート、3-(トリアルキルシリル)プロピルイソシアネート、トルエンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、パラフェニレンジイソシアネート(PPDI)、ヘキサメチレンジイソシアナート(HDI)、ペンタメチレンジイソシアナート(PDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)など

さらに、それらにアルコールを添加することによってワンポットで(容器を変えずに)相当するポリウレタンを合成できることを確認した。

 
さらに、この新たな方法を応用して、フッ素化ポリウレタンの合成に成功した。
フッ素原子を主鎖に組み込んだ機能性ポリウレタンは、高い撥水性、耐候性、防汚性、および低誘電性などの性質を持つ機能性プラスチック材料などとしての利用が期待されている。

 


2022/2/18   欧州司法裁、「法の支配」違反国へのEU資金停止を合法と判決 

EUの最高裁判所に当たる欧州司法裁判所は2月16日、加盟国が「法の支配」の原則を順守しない場合、資金の支払いを停止できるとの規定は合法との判決を下した。
法の支配の後退が目立つハンガリーとポーランドの異議申し立てを退けた。両国は強く反発している。

ーーー

EU首脳会議は2020年7月17〜21日、90時間以上にも及ぶ連続協議の末、「歴史的」とも評される復興パッケージ(新型コロナウイルスで傷んだ経済の再生を目指す復興基金と中期予算)に合意した。
中期予算計画(多年度財政枠組み)の議論で、予算の主要拠出国だった英国のEU離脱を受けて大幅な歳入減となる中、復興パッケージの予算規模などをめぐって加盟国間の対立が先鋭化していた。

復興基金の総額のうち返済が不要な補助金が3900億ユーロ、残り3600億ユーロが低利融資となる。 

さらに「倹約4カ国」(スウェーデン、デンマーク、オーストリア、 オランダ)に、EU予算に拠出した分担金を払い戻す「リベート」の金額の積み増しを行なう。この結果、気候変動対策や技術革新などに割り当てられるはずだった分は削られた。

2020/7/23    EU、新型コロナ復興基金案で合意 

しかし、復興基金案の成立が遅れた。

ハンガリーとポーランドは11月16日、大使級会合でこの基金を組み込んだ次期中期予算(2021〜2027年)案の承認手続きへの同意を拒んだ。
権力の乱用を防ぐため「法の支配」が順守されているかどうかを資金配分の条件とする仕組みに反発した。

ハンガリーやポーランドの政権は近年、国民の反移民・反難民感情やEU内経済格差への不満を背景に、権威主義的な体制を強めている。両国の司法介入がEUの基本価値に違反するとして問題になっている。

EU基本条約第7条に基づく制裁手続きについて、加盟国の権利停止につながる重大且つ持続的な基本価値違反があるかの決定には、問題国を除く加盟国による全会一致の同意が必要となる。これを特定多数決(国数で55%以上、人口規模65%以上)の投票に基づき決定することが可能になるように変更しようとしているため、両国は拒否権を発揮した。


その後、交渉が続き、EU首脳会議は12月10日、復興基金と中期予算を7月の案のままで合意した。承認を拒否してきたハンガリーとポーランドが妥協に応じた。

基金の分配条件として権力の乱用を法で縛る「法の支配」を条件としたが、ポーランドとハンガリーに配慮し、同メカニズムの対象や条件を明確にしたガイドラインを作成するほか、両国が同規則案の適法性に関してEU司法裁判所へ付託した場合に、その判断を待った上で運用を開始するとした。

2020/12/21 EU、コロナ復興基金と中期予算でようやく合意 


ポーランドとハンガリーは2021年3月、条件の無効を求め、EU司法裁に提訴した。(今回、これに対する判決があった。)

その後、欧州委員会と欧州司法裁判所は両国の行為を問題視した。

欧州委員会は2021年7月15日、ハンガリーとポーランドでLGBTQ(性的少数者)市民に対して差別的とされる措置が導入されたことを受け、両国の保守政権に対する法的措置を開始した。
欧州委員会はEU加盟国に対し、違反手続きを開始する権限を持っており、最終的には欧州司法裁判所への提訴と経済制裁につながる。

ハンガリーは前週、EU指導部や加盟各国の首脳からの警告を押し切り、「反小児性愛法」を施行し、未成年者に対して同性愛や性別移行を「助長」する行為などを禁止した。
ポーランドでは、国土の3分の1ほどを占める約100の自治体が「反LGBT」決議を採択している。

欧州委員会は2021年9月7日、ポーランドが導入した裁判官の懲戒制度をめぐり、同国に制裁金を科すようEU司法裁判所に請求すると発表した。 

「司法の独立性侵害」として制度の停止を迫った司法裁の命令にポーランドが背いたと判断した。

欧州司法裁判所は2021年7月20日、ポーランド南西部トゥルフの褐炭鉱山について、5月に下した操業停止命令に従うまで1日50万ユーロの制裁金を欧州委員会に支払うようポーランド政府に命じた。

環境悪化を懸念する隣国チェコが2021年2月に、ポーランドが適切な環境アセスメントを経ずに操業延長を承認しEU法に違反したなどとして提訴し、司法裁は判決まで操業を停止させる仮処分措置を決定したが、ポーランドは抵抗してきた。

ポーランド憲法裁判所は2021年10月、「EU司法裁判所による同国の司法制度への介入はポーランド憲法の優越性の原則に違反する」と判断した。

「EU法が加盟国の法律に優先される」とするEUの原則に反しており、欧州統合の基盤が揺らぐ事態となった。欧州委員会委員長は、「ヨーロッパの法秩序の一体性に真っ向から挑戦するものだ」と指摘した。

EU司法裁判所は2021年10月27日、EUが求めた裁判官の懲戒制度の中止にポーランドが応じていないとして、同国に1日あたり100万ユーロの制裁金の支払いを命じた。

欧州委員会は2021年12月22日、ポーランドの憲法裁判所がEU法の一部を「違憲」と判断した問題などをめぐり、EU法違反だとして法的措置に着手すると発表した。
ポーランドが2カ月以内に十分な回答をしなければ、EU司法裁判所に提訴する。

 

今回、欧州司法裁判所は「法の支配」を無視するポーランドとハンガリーに対する資金提供の停止を合法とする判決を下した。

EUは、両国が司法やメディアを政治支配し国民の権利を制限することで、欧州の法の支配に違反していると主張しており、順守しない場合には、両国への資金提供を停止する方針を示していた。
両国は異議を申し立てていたが、司法裁がこれを退けた。

EUの欧州委員長は、「EUが正しい軌道に乗っていることが確認された」と歓迎、欧州委員会が数日中に対応を決めると述べた。

両国に対する数十億ユーロの資金提供停止に道が開かれたが、両国は強く反発しており、EU内部の対立が強まる恐れもある。

 


2022/2/19  円の実力、50年ぶりの低水準

国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlements)が2月17日に発表した今年1月時点の円の「実質実効為替レート」(2010年=100)は67.55 となり、2015年6月の67.63を下回り、1972年6月(67.49)以来の円安水準となった。

BIS effective exchange rate:Real (CPI-based), Broad Indices Monthly averages; 2010=100

最高値の1995年4月(円相場が初めて1ドル=70円台に突入)の150.85 の半分以下(44.8%)に過ぎない。

実質実効為替レートは、特定の2通貨間の為替レートとは異なり、総合的な通貨の実力をみる指標で、BISは約60カ国・地域の為替レートや貿易量に、物価変動なども加味して算出した。(ユーロ圏でも国により異なる。)

高いほど対外的な購買力があり、海外製品を割安に購入できることを示す。 実質実効レートの低下は円安と物価低迷が相まって円の対外的な購買力が下がっていることを示す。

 

アベノミクスは「デフレは貨幣現象である」という考えに立ち、「三本の矢」を基本方針とした。
(1) 大胆な金融政策
(2) 機動的な財政政策
(3) 成長戦略

2013年3月に就任した黒田東彦・日銀総裁は、デフレ経済を克服するために2%のインフレターゲットを設定し、無制限の量的緩和を行った。目標の達成期限は「2年程度を念頭に置く」とした。

政府・日銀主導の円安政策により円の実質実効為替レートは急降下し、その後、低迷が続いている。
 

ーーー

各国・地域の「実質実効為替レート」(2010年=100)の推移は下記の通り。

   
   

 


2022/2/21 米国で新しいLNGプラントが稼働

Venture Global LNG社のCalcasieu Pass LNGが2月中にも稼働する。ルイジアナ州のLake Charlesの南のCalcasieu Lake南岸にあり、年産能力は公称1000万トンで、最大1100万トンとされる。
同社は、「1月29日に最初のLNGを生産した」と発表している。

正式稼働すれば、米国で7番目の大規模LNG輸出基地になる。

同社はルイジアナ州Plaquemines Parishのミシシッピー川沿岸のPlaquemines LNGで年産2000万トンのプラントを建設中。

さらにPlaquemines LNGの近辺で年産2000万トンのDelta LNG を開発しているほか、2021年12月にCalcasieu Pass LNGに隣接して年産2000万トンのCP2 LNG計画を発表した。

すべてが完成すると、能力は年産7000万トンとなる。

  立地 公称能力  
Calcasieu Pass LNG south of Lake Charles City 10 MTPA 2022/2稼働
CP2 LNG 上記に隣接 20 MTPA 2021/12 計画発表
Plaquemines LNG Plaquemines Parish 20 MTPA 建設中
Delta LNG 上記の近辺 20 MTPA 開発中
合計   70 MTPA  

付記

Venture Global LNG とドイツの電力会社EnBWは6月21日、年150万トンのLNGを2026年から20年間にわたって売買する長期契約で合意したと発表した。

Plaquemines LNGから年75万トン、CP2 LNGから75万トンを購入する。

ドイツが米国産LNGの長期購入契約を結ぶのは初めて

同社のプラントは、1体 626千トンの液化プラントモデュールを外部で組み立て、テストを行い、現場に輸送して組み立てる。

今回稼働するCalcasieu Pass, LLCは、9つの区画に18のモデュールを設置している。(計算上は11.27 MTPAとなる)

 

同社は Shell、BP、Edison、Galp、Repsol、PGNiG、Sinopec、CNOOCとの間で供給契約を締結している。

2016年2月にShellと年間100万トン、20年間の契約を締結

2018年5月、BPと年間200万トン、20年間の契約を締結

2018年9月、Repsolと年間100万トン、20年間の契約を締結

2021年9月にポーランド石油・ガス(PGNiG)と契約(2018年の契約を修正)
 Calcasieu Pass LNGから150万トン、Plaquemines LNGから400万トン、合計550万トン、各20年間。

2021年11月にSinopecと年間400万トン、20年間の契約を締結、別途Sinopec子会社UNIPECが短期的に350万トンを購入する。

2021年12月にCNOOCと年間200万トン、20年間の契約を締結(Plaquemines LNGから)
 他に、Calcasieu Pass LNGから短期間、150万トンのLNGを購入

2021/11/11 Sinopec、米企業と20年間のLNG売買契約に調印 


バイデン大統領は2月18日、前回のつなぎ予算の期限切れの当日、3月11日までの短期のつなぎ予算案(Continuing Resolution )にサイン、政府機関の閉鎖を避けた。

 

本年度(2021年10月〜2022年9月)の予算案は与野党で合意できず、議会はまず2021年12月3日までのつなぎ予算を、更に、翌日で期限切れとなる12月2日 にこれを2022年2月18日まで延長する法案を賛成多数で可決した。

2021/12/4 米議会、つなぎ予算案を可決 

その後、本予算(2021年10月〜2022年9月)成立に向け、与野党で協議を続けてきたが、あと少し時間がかかるため、短期のつなぎ予算を作成した。

まず下院が3月11日に賛成多数で可決した。

  共和党 民主党 合計 欠員
賛成 51 222 272  
反対 161 1 162  
合計 212 222 434 1

続いて上院が3月17日深夜、共和党からの19議員の賛成を得て、必要賛成票(60)を超える賛成多数で可決した。

  共和党 民主党 民主系
無所属
合計
賛成 19 44 2 65
反対 27     27
棄権 4 4   8
合計 50 48 2 100

本人や家族の病気などで欠席者が相次ぎ、一時は民主党内で可決できないのではとの懸念が出た。

しかし、与野党ともに秋の選挙を控え、かつ、コロナ問題やウクライナ問題でのロシアとの対立の時期に政府機関の閉鎖は政治的にダメージがあるとの判断が働いた。

 

与野党は今後、3月11日までに本予算を通す必要がある。

報道では、予算規模は1兆5,000億ドル程度で与野党間で合意しているとされているが、国防費と非国防費の割合や非国防費における個別分野の予算配分については各委員会などで調整する必要がある。
また、バイデン政権は新型コロナウイルス対策資金が払底してきているとして、本予算に追加で300億ドルを要求しているとされており、新たな調整事項も生じている。


2022/2/22  iPS網膜細胞、ひも状に加工し移植

神戸市立神戸アイセンター病院は、「網膜色素上皮(RPE)不全症に対する同種iPS 細胞由来 RPE 細胞凝集紐移植に関する臨床研究」が2月17日の厚生科学審議会 再生医療等評価部会で了承されたと発表した。

 

付記

厚生労働省の再生医療等評価部会は2024年12月16日、神戸市立神戸アイセンター病院が計画する「網膜色素上皮(RPE)不全症に対する同種 iPS 細胞由来 RPE 細胞凝集紐移植に関する先進医療」、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作った網膜の細胞をひも状に加工し、重い目の病気の患者に移植する臨床研究について、大筋で承認した。

医療費の一部に公的保険が適用される「先進医療」に認めるかの検討に進む。

研究計画によると、光を感知する機能の維持に関わる「網膜色素上皮細胞」を他者のiPS細胞から作製。ひも状にして「網膜色素上皮不全症」の患者15人に移植する。同病院ではこれまで、患者3人への移植を実施している(本ブログ)が、より多くの患者に届けるため、先進医療向けの計画をあらためて出していた。

iPS細胞の臨床研究で先進医療を申請するケースは初となるため、同日の部会で審査の流れを整理。この部会で承認後、先進医療会議などで議論し、再度部会で諮った上で提供できるようになるとした。

神戸アイセンター病院は2025年1月にも先進医療として申請を行う方針を明らかにしている。

ーーー

同病院は2021年3月12日、網膜色素上皮((RPE)不全症の患者にiPS細胞を含む液体を移植する手術(同種iPS細胞由来RPE細胞懸濁液移植)を行い、成功したと発表した。

RPE細胞は視細胞の外側にあり、視細胞を保護する役目を持つ。

RPE不全症、RPE細胞の遺伝子に異常があったり、近視がとても強かったり、加齢によるストレス、または炎症が起きたりすることでRPE細胞が働かなくなり、続いて、RPEに保護されなくなった視細胞も働かなくなるために、目が見えにくくなってしまう、いろいろな種類の病気が含まれる。

 

この臨床研究では、RPEシートの移植ではなく、他家(他人の細胞)のiPS細胞より作製したRPE細胞を含む液体(懸濁液)を、RPE不全症の患者に移植した。

2021/1/27 網膜色素上皮不全症に対するiPS細胞由来RPE細胞懸濁液の移植

ーーー

今回は、移植細胞の生着の更なる向上が期待できる剤型へ変更、他家(他人の細胞)の iPS 細胞より作製したRPE細胞を紐状に連なった状態に加工し、患者に移植する。

本研究での目標症例数は50例、移植後の観察期間は1年間を予定している。

なお、細胞調製作業の一部に汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」を利用する。

汎用ヒト型ロボット LabDroid「まほろ」安川電機の子会社のロボティック・バイオロジー・インスティテュートにより開発された生命科学実験用のヒューマノイドロボットシステム。
安川電機の産業用 7 軸双腕ロボットの周辺に、人間が実験で用いるものと同じ実験器具を配置することで、ピペット操作などの従来人間が手で行っていた実験操作が実行可能になった。


2022/2/22 DuPont、Mobility & Materials Segment の大半をCelaneseに売却 

DuPontは2月18日、Celanese Corporationとの間でMobility & Materials segment の大半を売却する契約を締結したと発表した。

売却対象は、Engineering Polymers 事業と、Performance Resins and Advanced Solutions business lines のなかの特定の製品ラインで、売却額は現金で110億ドルとしている。取引は2022年末頃に完了する予定。

これらの事業の2021年の売上高は約35億ドルで、EBITDA(税引前利益+支払利息、減価償却費)は8億ドルであった。

Mobility & Materials segmentのなかの Auto Adhesives, Multibase and Tedlar® product lines は対象に含まれていない。

DuPont は別途、某社とアセタールホモポリマーのDelrin® businesss の売却を進めている。

Mobility & Materials segment の製品で売却対象と対象外は下図のとおり。

今回の発表にはないが、DuPont Teijin Films JV も売却対象に挙がっている。(後記)

 

DuPontは2021年11月2日に「戦略的レビュープロセス」を発表した。

1)Rogers Corporation 買収

DuPontはエンジニアリング素材メーカーの米Rogers Corporation を約52億ドルで買収することで合意した。

Rogersは電気自動車(EV)や高速通信規格「5G」関連機器向けの高周波用プリント基板材料など、高機能・高付加価値の先端電子部材に特化し、北米、欧州、アジアに計14カ所の生産拠点を持つ。2021年通期の売上高見通しは約9億5000万ドル。

DuPontはEV向け部材など高付加価値製品を成長分野と見なし、事業シフトを進めている。

2) Mobility & Materials segmentの大半の事業の売却=今回発表

今回のCelanese向けの売却のほか、Delrinの売却交渉を行っているが、11月の発表では DuPont Teijin Films joint ventureの持分の売却も挙げている。(上図にも記載)

帝人は2017年10月10日、DuPontと共同で、米国、欧州及び中国のポリエステルフイルム事業の合弁会社4社の所有持分全てをIndorama Netherlands B.V.に売却することを決定したと発表した。

DuPontは、Dowとの統合により、本事業から完全撤退、帝人は、2016年にDuPontから持分を買い取った日本とインドネシアの事業の更なる高機能化に資源を集中的に投入する予定であった。

実際には、この売却が頓挫した。この結果、Indoramaに売却する予定であった4か国のJVだけが、いまだに帝人とDuPontの事業として残った形となっている。

2020/2/1 デュポンと帝人、フィルム合弁を再び売却へ

3) これらにより、electronics, water, protection, industrial technologies and next generation automotiveに焦点を当てた高成長、高収益市場での位置を高め、収益向上を図る。

 

 


2022/2/23   LG Energy Solution、NEC Energy Solutionsの買収完了

LG Energy Solutionは2月15日、米国の
NEC Energy Solutionsの買収が完了したと発表した。買収額は非公表。
買収は2021年9月に明らかになっていたが、
各国の規制当局の承認など必要な手続きの終了を条件としていた。

LG Energy SolutionsはLG化学の電池事業を引き継ぐ形で2020年12月に設立された100%子会社で、電気自動車、モビリティとITアプリケーション、蓄電システム向けのリチウムイオン電池事業を主な事業内容とする。

2020/9/19 LG Chem、電池部門を分社化 

日本電気は2021年9月3日、100%出資の米子会社 NEC Energy Solutions, Inc.の全ての株式を LG Energy Solution譲渡することを決めたと発表した。 
NEC Energy Solutionsは、電力向け大規模蓄電システムおよび産業用高性能リチウムイオン電池ALMシリーズの設計・製造およびシステムインテグレーションを行うメーカー。

同社は下記の歴史を持つ。

2006年に米国電池メーカ A123Systems のPack & System部門としてA123 Energy Solutionsが発足した。

独自のオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)ベースの正極材料「Nanophosphate」を使ったリチウムイオン電池や、蓄電技術/制御/設備を含めたパッケージ提供で実績のある電力会社向け蓄電システム「Grid Storage Solution」によるSI技術、および顧客の課題を解決する優れたシステム提案力が特徴。

2012年10月に連邦破産法11条の適用を申請した。同年12月に行われた同社の資産売却の入札で、NECと 中国の万向集団(Wanxiang Group)が競合し、最終的には万向集団が2億5660万米ドルで落札した。

NECは2014年3月、その万向集団(Wanxiang Group)からA123 Energy Solutionsを約1億米ドルで買収すると発表した。
スマートエネルギー事業と統合してNEC Energy Solutions社として再出発した。

万向集団は、売却収入で、経営破綻した米国の高級プラグインハイブリッド車(PHV)メーカーFisker Automotive Inc.の資産を買収した。

その後、再生可能エネルギーの普及にともない蓄電システム市場は拡大しているものの市場が激化しており、NEC Energy Solutionsは売上高が増加する一方で大規模な損失を改善できていなかった。

  売上高 営業損益
2019年3月期 7700万米ドル -4,310万米ドル
2020年3月期 1億5240万米ドル -9,100万米ドル
2021年3月期 2億0730万米ドル -5,720万米ドル

NEC 20206月に、新規受注を止し契約済プロジェクトの遂行および保守のみ継続することを決定た。

その後、事業収束プロセスと並行して株式譲渡の選択肢も検討した結果、LG Energy Solution への株式譲渡を決定した。

ーーー

LG Energy Solutionは買収したNEC Energy Solutionsを社名変更し、LG Energy Solution Vertech. Inc. とする。

競争力を強化するためシステムインテグレーション能力の内在化が必要だと判断し、買収した。今回の買収をもとに、単純なバッテリー供給を超えてシステムインテグレーションまで提供する完結型事業とする。

ESS(エネルギー貯蔵)事業企画、設計、設置、メンテナンス等をすべて行う計画で、バッテリー、電力変換装置(PCS)を含めた必須資材などを統合し、ESS事業の最適化に至るまですべてのサービスを提供する。既存のバッテリー生産能力に、ESSシステム統合の管理力量が加われば、十分なシナジー効果が出せると判断した。

「今回の買収を通じ、顧客別の要求事項にオーダーメードで対応できるESS統合ソリューションの競争力を確保することになった」とし「差別化された技術と品質競争力をさらに強化し、世界のESS市場を主導していく」としている。



2022/2/24 国の洋上風力発電公募入札の評価基準が問題に     

国の洋上風力発電公募入札の評価基準が問題になっている。

日本で洋上風力発電の導入が進んでいなかったのは、@海域の占用に関する統一的なルールがない、A先行利用者との調整の枠組みが存在しないのが問題である。

これらの課題の解決に向け、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(「再エネ海域利用法」)が成立、2019年4月に施行された。
選ばれた事業者はその区域内で最大30年間の占用許可を得る。

 政府による基本方針の作成→「促進区域」の指定→公募による事業者選定→固定価格買取制度(FIT)→占用許可(最大30年間)

「促進区域」: 自然的条件が適当であること、漁業や海運業等の先行利用に支障を及ぼさないこと、系統接続が適切に確保されること、等の要件に適合した一般海域内の区域のこと

現在、促進区域に5か所が指定され、それぞれ入札により4か所の事業者が選定された。 

      選定事業者
促進地域 @長崎県五島市沖 1.7万kw 戸田建設グループ
A秋田県能代市・三種町・男鹿市沖 47.88万kw 三菱商事連合 @13.26 (次点 @18.18)
B秋田県由利本荘市沖 81.9万kw 三菱商事連合 @11.99 (次点 @17.00)
C千葉県銚子市沖 39.06万kw 三菱商事連合 @16.49 (次点 @22.59)
D秋田県八峰町・能代市沖 36万kw  
有望な区域 E長崎県西海市江島沖 30万kw 2022/9/30 「促進区域」に指定
F青森県沖日本海(南側) 60万kw  
G青森県沖日本海(北側) 30万kw  
H秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖 21万kw 2022/9/30 「促進区域」に指定
I山形県遊佐町沖 45万kw  
J新潟県村上市及び胎内市沖 35 & 70万kw 2022/9/30「促進区域」に指定
K千葉県いすみ市沖 41万kw  
一定の準備段階に進んでいる区域 L北海道檜山沖    
M北海道岩宇及び南後志地区沖    
N北海道島牧沖    
O青森県陸奥湾    
P北海道松前沖    
Q北海道石狩市沖    
R岩手県久慈市沖    
S福井県あわら市沖    
福岡県響灘沖    
佐賀県唐津市沖    
 

A〜Cの公募入札で2021年12月、三菱商事を中心とする企業連合がすべてを勝ち取った。上の表のとおり、最安値は11.99円/kWhで、次点とは5円程度の差があった。

小泉進次郎前環境相は「運転開始時期が早いことはどのくらい評価されたのか」と疑問をぶつけた。2月3日の自民党の会合で河野太郎前規制改革相が「明らかに配点がおかしい」と経済産業省幹部に詰め寄った。

入札応募は供給価格評価120点、事業実現性評価120点の合計240点満点で順位が付けられる。

供給価格評価は、最低価格/入札価格 x 120 で、最低価格業者は120点を獲得する。

事業実現性評価は次の通りで、各項目で、トップランナーは10割、ミドルランナーは7割、最低限3割は必要


    
   

A〜Cの入札結果は次の通りであった。

  https://www.econ.kyoto-u.ac.jp/renewable_energy/stage2/contents/column0284.html

小泉進次郎前環境相の質問に対し、経産省の幹部は「早い方がいいし、点数もつけた」と説明した。

しかし、240点満点のうち120点が電気の供給価格で、運転開始時期は事業能力80点のうち「事業計画の実現性」20点分の一部 (点数不明)に過ぎない。

価格は最も安ければ自動的に120点を獲得できるが、運転開始はどれだけ早めても最大20点までしかとれない。 (「最も確実に事業を実現」が20点で、「早く」は評価するのか不明)

三菱商事側は2028〜30年の運転開始を掲げたが、数年早い計画を提案した企業連合もあったという。自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟は「今のままでは運転開始を早めても評価されない。より安く入札するために後ろにずらそうとするだろう」と問題視している。

金銭では解決できない立地地域の地元対応が大変だが、点数は小さい。「今後、地元調整など定性面へリソースを割きにくくなる。合理的な考えにならざるを得ない」との声がある。

今後、経産省は有識者会議でルールの見直しを検討するという。

 

付記

経済産業省は3月18日、洋上風力発電の事業者を公募する際の審査基準を見直す方針を発表した。ウクライナ危機を受け、国産エネルギーの導入を加速する必要があると判断し、早期に稼働できることを重視する方向で検討する。

3月22日の経産省などの審議会で具体的な議論を開始する。現在公募中の「秋田県八峰町・能代市沖」は、6月10日までとしていた公募期間を延長して新たな審査基準の適用を目指す。

 


2022/2/25 米、レアアース国内生産 

バイデン米大統領は2月22日、レアアースなど重要鉱物の国内生産を後押しするための投資計画を発表した。

バイデン米大統領は2021年2月24日、重要部材のサプライチェーン(供給網)を見直す大統領令に署名した。半導体や電池など重点4品目で安定した調達体制を整え、中国依存からの脱却を目指す。

先ず重要4品目の供給網を100日以内に見直す。リスクを調べ、それへの対応策の提案を求める。

担当 品目
商務長官 半導体と先端パッケージング
エネルギー省長官 電気自動車用を含む高容量電池
国防長官
(国家防衛備蓄を担当)
レアアースを含む重要な金属や特定の戦略的物質
保健福祉長官 医薬品及び医薬品有効成分

2021/3/1 米、半導体などの供給網見直し 

これを受け2021年6月8日に報告書が公表された。

国内の投資不足や競合国の不公正な貿易慣行により、米国の供給網が脆弱になっていると指摘している。

国内生産・研究開発支援に少なくとも500億ドルを投じるよう議会に要請したほか、日本や韓国など同盟国を巻き込んで世界的な安定供給体制を目指す「国際フォーラム」を開催する方針を示した。

2021/6/12 米国の重要部材のサプライチェーンの点検結果と対策 

今回、具体的な投資計画を発表した。

北米唯一のレアアース鉱山を米西部カリフォルニア州で運営するMP Materialsに対し、国防総省の支援プログラム(Department of Defense Industrial Base Analysis and Sustainment Program)から3500万ドルを投資し、Mountain Pass鉱山で重希土類元素(HREE) 採掘から分離・精製まで自前でできるようにする。

国防総省は2020年12月にMountain Pass鉱山で軽希土類元素の処理を復活させるため960万ドルを出している。

軽希土類に加え、重希土類の処理が出来ることで、MP Materials は高機能永久磁石を製造するのに必要な全てのレアアースを抽出・精製できるようになる。

Mountain Passでの採掘、処理に加え、MP Materialsは7億ドルを投じ、テキサス州Fort Worthでレアアースメタル、アロイ、磁石を製造するプラントを建設中である。Mountain Passで生産した原料をここで加工し、完全に国産の垂直統合の磁石のサプライチェーンを2024年に完成させる。

2021年12月に同社はGMとの間でGMのEVの電機モーター用にレアアース製品と磁石を供給する契約を締結した。

 現在、世界の永久磁石市場の87%を中国が支配している。

バイデン大統領は更に、下記を明らかにした。

今春、カリフォルニア州Imperial Countyで、次の5年でリチウム生産に数十億ドルを投資する計画の一環として、地熱塩水からリチウムを抽出する計画の商業的実現可能性のテストのための試験設備建設に着手する。

Ford とVolvoと組んで、ネバダの施設で使用済みリチウムイオン電池からリチウム、コバルト、ニッケル、黒鉛を回収するパイロットプラントを検討する。

ーーー

米国ではMolycorpがCaliforniaのMountain Passでレアアースの採掘と生産を行っていた。

同社は2015年6月25日、連邦破産法11条の適用を申請した。

2017年にMP Materials がMountain Pass鉱山と他のMolycorp の資産を買収し、2019年に凍結していた精製設備を再稼働することを決めた。

MP Materials は2020年7月31日、国防総省との間で米国でのHeavy Rare Earths 生産再開で契約を結んだと発表した。

2020/7/31 米国防総省、レアアース事業へ資金支援 

Mountain Pass全景


2022/2/26 ExxonMobil、Papua New Guinea政府との間でP'nyang LNG プロジェクトで合意

ExxonMobil は2月21日、Papua New Guinea 政府との間で、P'nyang LNGプロジェクトの開発案に関するP'nyangガス契約を締結したと発表した。

Papua New Guinea にはExxonMobil 主体のPNG LNGが稼働している。2014年央に生産を開始し、年産800万トン能力で、アジアの需要家にLNGを供給している。

出資は次の通り。

ExxonMobil 33.2%
Oil Search Ltd 29%
Kumul Petroeum (national oil and gas company) 16.8%
Santos (豪) 13.5%
JX石油開発 4.7%
Mineral Resources Development Co. (政府) 2.8%

Murukガス田のガスを海底パイプラインでPort Moresby近郊のLNGプラントに送り、LNGにしている。

今回のP'nyangガス契約は、Murukガス田の奥地にあるP'nyangガス田のガスを既存のパイプラインに接続し、PNG LNGプラントに送るもので、既存のガス田が枯渇した後に利用する。

このガス田の権利は、ExxonMobilとAmpolex(Papua New Guinea)Ltd が共同で49%を持ち、豪州のSantosが38.5%、JX石油開発が12.5%を所有する。

 

ExxonMobilは別途、TotalのPapua LNG計画にも参加している。

PNG LNGプラントに隣接して2系列年産560万トンのLNGプラントを建設、Elk/Antelopeガス田のガスをパイプラインで送付する。

Total は2023年に投資の最終決定をしたいとしている。

Elk/Antelopeガス田の権益は、Totalが31.1%、ExxonMobilが28.7%、Oil Searchが17.7%で、政府に22.5%のBack-in rightがある。

ExxonMobilの権益はPapua New Guineaで天然ガス掘削事業を展開するInterOil が所有していた。

ExxonMobilは2016年7月にInterOil を最大36億ドルで買収すると発表した。

2016/7/28   ExxonMobil、パプアニューギニアの天然ガス採掘業者を買収

 

ExxonMobilの幹部は2021年12月に、パプアニューギニアで同社が権益を保有するP’nyangガス田と、Totalが進めるPapua LNG液化プロジェクトについて、今後10年で180億ドル以上の投資を予定していると明らかにした。Papua LNG 計画のあとに、P’nyangガス田を開発するとしている。


2022/2/28 ロシア追加制裁、国際決済網から排除 

米英独仏イタリア、カナダの6カ国と欧州委員会は2月26日、ロシアの大手銀行などを国際的な資金決済網 SWIFTから排除する追加の金融制裁を科すことで合意した。数日中に実行する。

SWIFTからの排除の対象になるのは、これまで金融制裁の対象となっていたロシアの大手銀行のほか、必要に応じてほかのロシアの銀行も追加する。

制裁にはロシア中央銀行の外貨準備に関する規制も含まれ、外貨準備を使って金融制裁全体の効果を弱められないようにする。

Joint Statement by European Commission, France, Germany, Italy, the United Kingdom, Canada, and the United States

First, we commit to ensuring that selected Russian banks are removed from the SWIFT messaging system. This will ensure that these banks are disconnected from the international financial system and harm their ability to operate globally.

Second, we commit to imposing restrictive measures that will prevent the Russian Central Bank from deploying its international reserves in ways that undermine the impact of our sanctions.

ロシアの全銀行を対象にしたSWIFTからの排除は、欧州経済への影響が大きすぎるため見送った。

また下記の通り、ロシアの天然ガスを欧州に輸入できない場合、他ソースからの補填はできず、欧州経済が大混乱に陥ることは必至である。

このため、エネルギー関連については対象外にするという考えが出ていると報道されている。

 

SWIFTから排除されたロシアの銀行は、世界での金融取引の大半ができなくなり、ロシアの輸出入を効果的に止めることになる 。

SWIFTは世界中の銀行が出資する民間の非営利団体 Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunicationが運営するシステムで、金融機関同士の決済や送金指示といった情報をやり取りする国際インフラである。

SWIFTから排除されてもメールやファクスで送金情報を連絡できるが、セキュリティーが不完全なうえ、膨大なデータを手作業で送信することになり、極めて脆弱になる。

SWIFTは全世界で1日あたり4200万件の送金情報を扱っており、このうちロシアの金融機関は2020年時点で1.5%(約63万件)を占めている。

ーーー

付記

SWIFTから排除された場合の抜け穴が2つある。

ロシアは2014年にウクライナ南部のクリミア半島を併合した際、SWIFTからのロシア排除案が浮上したのを機に、「SPFS」(FINANCIAL MESSAGING SYSTEM OF THE BANK OF RUSSIA)と呼ばれる独自の銀行間決済ネットワークを開発した。
現在、約400の金融機関などが利用しており、ロシア国内のSWIFT加盟数を上回っているが、ほとんどがロシア国内での利用にとどまっている。


http://www.cbr.ru/Content/Document/File/72210/pres_11102021.pdf

 

中国人民銀行は2015年、人民元の国際銀行間決済システム(CIPS :Cross-Border Inter-Bank Payments System)を導入した。

主な機能は、クロスボーダー人民元決済(貨物貿易、サービス貿易、直接投資、融資、個人送金など)にかかる顧客送金およびインターバンク決済となっている。

・直接参加行:CIPS内に専用口座を有し、直接CIPSにアクセス、中継銀行を介さず、中国人民銀行と決済することができる。
・間接参加行:直接参加行を通じてCIPSに参加

中国や欧米の大手金融機関のほか、日本勢からも三菱UFJ銀行とみずほ銀行の中国法人が同システムに接続しており、中継銀行を介さず、直接、人民銀と決済できるようになった。
中国は人民元建ての投資や貿易決済にCIPSを使うよう促しており、CIPSを使う取引は拡大傾向が続く公算が大きい。

ーーー

SWIFTからの遮断は「核兵器オプション」と呼ばれ、最終手段と位置付けられている。ロシアを追い詰める一方で、ロシアとの貿易が切れると欧州も大きな影響を受ける。

これまで欧州がこれに反対してきた理由である。

もし、ロシアの天然ガスが完全に遮断されると、現在高騰している価格が更に上がるほか、全体を他のソースに切り替えることは不可能である。欧州経済への影響は膨大である。

 

天然ガス価格の推移は下図の通り。これまでは欧州価格は米国のHenry Hub でのパイプライン渡し価格とほぼ同水準であったが、昨秋から欧州市況は急騰した。

欧州の天然ガスの4割はロシアからパイプラインで供給されている。

2021年夏のヨーロッパは風が弱く、各国の風力発電は軒並み不調に陥った。このため、ガス発電の比重が高まったが、ロシアが供給を削減した。(ロシアは否定)

このため、天然ガスのスポット価格は急騰した。

天然ガスの価格アップに加え、欧州に海外から天然ガスを供給する場合、液化して船で輸送する必要があり、液化費用と輸送費用がかかる。(試算では100万BTU当たりそれぞれ3ドル程度)

現状で既に、世界各地のLNGプラントから欧州にLNG船が大挙して向かっており、混乱が生じている。

 

仮にロシア産が輸入できない場合、価格の高騰だけでない。代替は不可能である。

天然ガスそのものの不足、液化設備の能力の不足、輸送船の不足から、ロシアからの輸入全量のカバーは不可能である。

 

なお、ドイツのショルツ首相は2022年2月22日、事実上の制裁としてノルドストリーム2の認可手続きを停止する考えを表明した。

2021/11/13

これも、場合によっては欧州側に不利に働く可能性もある。ロシア側が他のパイプラインを破壊すれば、天然ガスが受け入れられなくなる。

ウクライナ政府は2月27日、東部ハリコフにあるガスパイプラインがロシア軍の攻撃を受けて爆破したと発表した。

付記 パイプライン自体は破壊されておらず、天然ガスの輸送は行なわれている。


https://en.wikipedia.org/wiki/Natural_gas_transmission_system_of_Ukraine

 


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