日本経済新聞 2002/9/16

味の素に特許の対価請求 甘味料発明 元社員が20億円

 味の素の有力食品である人工甘味料「パルスイート」の製法特許を巡り、発明を担当した元社員が、「正当な対価を受け取っていない」として20億円の支払いを同社に求める訴訟を15日までに東京地裁に起こした。元社員はこれまでに報奨金1千万円を受け取ったが、同社が米国企業などから受け取ったライセンス使用契約料など約240億円についての対価は受け取っていないと主張している。
 今月19日に東京地裁で判決が言い渡される青色発光ダイオード(LED)の特許権帰属訴訟など同種訴訟が相次いでおり、企業は「社内発明」を巡る知的財産管理について改めて対応を迫られそうだ。
 訴えたのは元味の素中央研究所プロセス開発研究所長、成瀬昌芳氏(61)。成瀬氏は現在、同社の関連会社、味の素製油の技術顧問を務めている。訴状などによると、成瀬氏は1982年、パルスイートに使われる人工甘味料「
アスパルテーム」を大量に製造する製法を別の社員らと開発し、味の素が日米で特許を出願、後に認められた。味の素はこの製法特許を欧米の関連会社に譲渡するなどした際に約241億円を受け取っているが、成瀬氏側は「このうち少なくとも100億円を超す譲渡対価を受ける権利を持っている」(原告代理人の升永英俊弁護土)と主張している。
 味の素は99年に制定した「特許報奨金規定」に基づき、1200万円を支払った。この際、発明者の間で成瀬氏の寄与率について6分の5と認定、成瀬氏は1千万円を受け取ったが、「発明を関連会社に譲渡した対価については受け取っていない」と主張している。

知的財産権 多様な利益 請求も様々  企業に対応迫る

 味の素の元社員が起こした訴訟は、会社が得たライセンス権供与の利益について、「発明者の持ち分」を求めた。最近はさらに、元社員らが特許権そのものの移転登記を求めたり、独占販売で得た利益の一部を「対価」として支払わせるなど、多様な請求が法廷に持ち込まれている。
 社員発明者に対して数十%の対価を認める判決も相次いでおり、様々な利益を生み出す知的財産をめぐっては、日本企業に新たな対応を迫っている。
 味の素訴訟で原告側は企業の命令で社員研究者が業務の一環として発明した「職務発明」と位置づけている。この場合、特許の実施権は基本的に企業に帰属する。元社員もこれを前提に、特許を応用した商品の販売利益までは求めていない。ただ特許権そのものの売買でも200億円を超す巨額の利益が発生しており、これについて権利を主張しているのが特徴だ。
 これに対し、中村修二・カリフォルニア大サンタバーバラ校教授が、所属していた日亜化学工業(徳島県阿南市)について起こした青色LED訴訟では、「企業の命令に反して研究を続けて発明した」として、企業に束縛されない「自由発明」だったと主張している。中村氏は特許の1000分の1の権利の移転登録と、その対価として1億円の支払いを求めている。日亜は他社に青色LEDのライセンス契約を認めていないが、それでも少なくとも1千億円の利益があったとの主張だ。
 知的財産権が生んだ利益に対し、数十%の貫献度を認めるケースも出ている。缶詰検査機の発明を巡り、検査機メーカーの元従業員が発明の対価を求めた訴訟では、東京地裁が今月、会社の貢献度を4割程度と認定して約52万円の支払いを認めた。また、今年5月に大阪地裁では金属抽出法の特許を巡り、元従業員の貢献度を50%とする判断が出ている。

味の素 他製品への波及警戒 元社員提訴 「アミノ酸」特許多数

 低カロリー甘味料「アスパルテーム」の製法特許の報酬を巡って、味の素が元社員から訴えられた。同社はアスパルテームの世界シェア約35%を持ち、今後も経営資源を集中させる分野の一つだ。アミノ酸関連で同社はアスパルテームに限らず多数の特許を取得しており、味の素側は同様の動きが広がるのを警戒している。
 アスパルテームは米サ−ル(米モンサントが吸収合併)の研究者らが1965年に発見。味の素は同社から甘味料としての物質特許(すでに失効)の利用権を取得し、82年に商業生産に乗り出した。これに伴い味の素は独自に製造のための技術改良を重ね、取得した製法特許は数十に上る。元社員は大量生産する際に必要な技術である「静置晶析法」と呼ぶ製法の確立などで中心メンバーだったとされる。
 味の素は99年、会社への貢献度合いによって上限を定めずに報奨金を支払う特許報奨制度を導入。静置晶析法開発は制度適用第1号だった。食品、飼料添加物、医薬中間体など様々な分野でアミノ酸関連の特許技術を使った製品を味の素は生産・販売している。同様の訴訟が他の製品や事業に波及すると、経営への影響も無視できなくなる可能性がある。
 味の素はアスパルテームを東海工場(三重県四日市市)と味の素ユー口・アスパルテーム(フランス)で生産し、120カ国を超える国で販売している。


2002/11/22 味の素株式会社

アスパルテーム職務発明訴訟に関する弊社の見解

(1) 本件発明は、青色ダイオードのケースとは異なり、発明が会社に帰属することは明らかな事件です。また、同様に、青色ダイオードの場合と異なり、数多くあるアスパルテーム製法特許の一つに過ぎません。この事業における基本特許は、
サール社のアスパルテームの甘味剤特許です。
 一部のマスコミが報じているように、あたかも成瀬氏の発明によって、アスパルテームの製品そのものの開発や事業がなされたというのは、事実に反します。また、発明の特許化に関しては成瀬氏以外の研究者の貢献が大きいです。
 会社は、アスパルテームを製造するため、原料であるフェニルアラニンの製法、アスパルテームの製法に加えて、アスパラギン酸の製法、アスパルテームの用途も含め1400件以上にのぼる特許を国内外に出願し特許化してきています。成瀬氏の発明にかかる特許は、まさにそのうちの極一部に過ぎないものです。

(2) 当該特許のロイヤリティといえども、アスパルテーム事業が存在するから、収入として成り立っているのであり、事業化のために、まず、当社がいち早く、サール社のアスパルテーム利用特許の情報を得て、製法に関する開発を指示し、実行してきました。その実績が評価され、数ある競合他社との競争に勝って、日本でのサール社の基本特許のライセンスを受け、同社から製造を依頼されるようになりました。まさに、当時の経営判断の成果です。この判断なくしてアスパルテーム事業はありえませんでした。

 次に、アスパルテーム事業にとって、米国における食品薬事局(FDA)の認可は、必須でした。このため、会社として長年、莫大な費用をかけて試験研究を続けて蓄積してきた、グルタミン酸ナトリウムの安全性に関する数多の実験、知識、ノウハウが有効に機能しました。これなくしてはアスパルテーム事業は存在しませんでした。また、このようなFDAの認可がなされないかもしれない中、リスクを犯して、会社として巨額の投資をし、数多くの特許も取得し、まさに、ventureと同様の危険負担をしてきたのが会社であり、成瀬氏がそういうリスクを負ったものではありません。

 これ以外にもアスパルテームの研究開発に関し、会社は施設、設備の提供、人員の維持、研究者の人件費を含む研究開発費などなど莫大な投資を行っています。

 一方、成瀬氏がかかわった発明により、ロイヤリティ収入が得られたからといって、何十億もの対価を要求するというのは行き過ぎです。成瀬氏個人は、venture企業の創業者や個人企業者のようなリスクを負わず、味の素という企業の1組織人として、業務として開発をしてきたものです。会社としても、成瀬氏の発明については、特許報奨規程に基づき同氏に1000万円の報奨を支払っているし、人事的処遇としても基幹職、研究所長、工場長、関係会社社長などの地位を歴任させ、また今日まで関係会社技術コンサルタントとして厚遇しています。こうした報奨や処遇は、他社と比較しても充分といえるものであると確信します。

アスパルテーム
 砂糖の200倍の甘みを持つ人工甘味料。砂糖と同等の甘みを得るためには200分の1の量で済むことになり、ダイエット食品や糖尿病患者の治療食品などにも応用されている。これを加工した一般向け商品が味の素の「パルスイート」。
 アスパルテームの市場は全世界で年間1万3千ー1万4千トンとされ、味の素はこのうち3分の1程度のシェアを持つ。日本国内は全世界の約2%、米国では30−40%の需要がある。

・アスパルテーム (商品名) は、1966 年、南アフリカで最初に合成された人工甘味料です。
・アスパルテーム以外の商品名としてキャンデレル、イコール、ニュートラスイート、サネクタ、トリ-スイート、ベネビアなどがあります。
・日本における商品名はパルスイートです。
・アスパルテームの化学名はアスパルチルフェニルアラニンメチルエステルです。
・アスパルテームは、2 個のアミノ酸 (アスパラギン酸とフェニルアラニン) の結合物 (ジペプチド:アスパルチルフェニルアラニン)に、さらに、メチル基 (CH3)が結合した物質です。

James Schlatter was researching amino acids in 1965 for the pharmaceutical firm, G.D. Searle, and specifically the combination of aspartic acid and phenylalinine. He licked his fingers to leaf through some papers and discovered an intensely sweet taste.

Some eight years later in 1973, after testing to establish the safety of aspartame, Searle applied for FDA approval of aspartame. Some of the preliminary research showed a possible link with brain tumours in laboratory animals, but the product was nevertheless approved for limited food uses.


日本経済新聞 2004/2/25

味の素甘味料特許訴訟 1億8900万円支払い命令 東京地裁 外国分も認定

 味の素の主力商品の一つである人工甘味料「アスパルテーム」の製法特許を開発した元社員、成瀬昌芳氏(63)が発明対価の一部として同社に
20億円の支払いを求めた訴訟の判決が24日、東京地裁であった。高部真規子裁判長は外国特許の対価を発明者が受け取る権利を認めたうえ、発明対価を約1億9900万円と認定。報奨金額を差し引いた約1億8900万円を支払うよう味の素に命じた。
 発明対価を巡る訴訟では、会社側に200億円の支払いを命じた今年1月の青色発光ダイオード(LED)訴訟の東京地裁判決に次ぐ、過去2番目に高額の支払い命令。日立製作所の光ディスク読み取り技術を巡る訴訟の東京高裁判決と同様に、外国特許分の対価も認めた。
 高部裁判長はまず「外国で特許を受ける権利の承継の対価を含め、対価の額を算定すべきだ」と判示。その上で「発明により会社が受ける利益」を計79億7400万円と算定した。
 さらに、会社を挙げて関連の研究開発を行ったり特許出願に労力を費やしたりしたなどの会社の貢献度を全体の95%、成瀬氏を含めた共同発明者6人の寄与度を残りの5%と認定。共同発明者の中での成瀬氏の寄与度を50%として成瀬氏の全体の寄与度を2.5%と算出した。1億9900万円が相当対価だとし、会社が成瀬氏に支払った報奨金1千万円を除いた約1億8900万円の支払いを命じた。

高額報酬 流れ定着 
特許利益、広く認定 企業の貢献「95%」と評価

 24日の東京地裁判決は人工甘味料「アスパルテーム」の製法特許を巡り、味の素に発明の対価として約1億8900万円を元社員に支払うよう命じた。特許がもたらした収益を幅広く認定、発明した技術者に高額報酬を認める流れが強まった。味の素は判決に反発、原告側もなお不満を表明し、双方とも控訴を検討している。「社員の発明」をどう評価すべきか、経営者と技術者の溝は埋まっていない。
 今回の判決は会社の貢献度を95%と過去の係争に比べ高く評価したものの、会社が特許で得た利益には海外での特許収入も含まれるとの判断を示した。その結果、元社員が受け取るべき「相当の対価」は会社が実際に支払った報酬の約20倍に膨らんだ。
 日亜化学工業に200億円の支払いを命じた青色・発光ダイオード(LED)訴訟の東京地裁判決は会社の貢献度を50%とした。「小企業の貧弱な研究環境の下で発明された」と、発明者の個人的能力を高く評価した。
 光ディスク読み取り技術を巡り、日立製作所に1億6300万円の支払いを命じた東京高裁判決が認めた会社の貢献度は80%。高度な研究施設を整備し、光ディスク研究を蓄積していた企業努力を認め「会社の貢献は相当大きい」とした。
 今回は2つの例に比べ企業の貢献の範囲も広く認めた。施設整備や研究の蓄積に加え、特許出願、ライセンス契約の締結、商品の販売契約、発明者の処遇なども貢献ととらえ、95%という高い貢献度を導いた。
 企業の貢献度と並んで対価算定のカギを握る、企業が特許から得る利益の額は、日立の控訴審判決に続き「外国特許の対価も含めて算定すべきだ」と判断した。
 外国特許の対価を認めなかった日立の一審判決は発明者の受け取る対価は約3400万円にすぎなかった。控訴審判決では企業が海外企業から受け取る特許使用料に見合った対価も発明者に支払うべきだとして、相当対価が一挙に1億6300万円まで膨らんだ。
 今回の判決でも米仏の企業から得たライセンス収入計約47億円も算入。同社が得た利益は合計で約79億円と膨れ上がり、過去2番目に高額の判断につながった。

経営側と技術者意識のズレ鮮明
 今回の判決は発明対価の高騰が避けられないことを印象づけた。日本経団連の澤井敬史知的財産部会長代行は「投じた研究開発費のうち1%の成功でよいとする企業もある。そのわずかな成功を取り上げて多額の対価を要求するのはどうか」と主張する。メーカー800社が加入する日本知的財産協会の土井英男政策・国際部長も2億円以上の判決が相次いでおり、この金額が相場になりかねない」と懸念する。
 一方、技術者側には「成果が報われていない」との意識が強い。リクルートが24日まとめた技術者アンケート(対象3100人)によると、特許などの見返りとして得たいのは「賞与・報奨金などの金銭」が91%(複数回答)。職位は22%、社会的名誉は3%にとどまった。現在の年収に不満な技術者も7割弱いた。

双方、控訴を検討

評価まだ低い
 高額の発明対価が認められた元社員、成瀬昌芳氏(63)の代理人、升永英俊弁護士は判決後に記者会見し、対価の金額や発明者間の寄与度で原告の評価が低いなどとして今後、控訴を含めて検討するとの意向を示した。
 企業側に高額の支払い命令が続いていることについて「発明の対価は企業から発明者への単なるご褒美ではなく、特許権の譲渡に伴う正当な請求との認識が定着した」と評価した。その一方、原告が会見に姿を見せなかったことに触れ「原告に対し『世話になった会社を訴えるとは恩知らず』という見方がある。法に基づく権利を堂々と主張できるような社会にしたい」と述べた。

改良にすぎぬ
 味の素は24日、都内の本社で記者会見し、控訴する意向を明らかにした。杉崎宏光・知的財産センター長は「(人工甘味料の)アスパルテーム事業は前段階の研究蓄積がすでにあり、試作段階の投資や許認可のための実験を含めて多くの人が携わった。(成瀬昌芳氏の取り組みは)製法改良にすぎない」と反論した。味の素は1999年に設けた社内の特許報奨規定の第1号として成瀬氏に1千万円を支払った。杉崎センター長は「工場長のほか、関係会社の社長に任用するなど厚遇した点も評価されず残念」とも語った。「すぐに訴訟となると企業は対応が難しい。日本企業の国際競争力を損なうことにもなる」と強調した。


2004/2/24 味の素

アミノ酸系甘味料アスパルテーム職務発明訴訟判決について
http://www.ajinomoto.co.jp/press/2004_02_24_1.html??top3=press20040224

 本日、東京地方裁判所において、当社元従業員の提起したアスパルテーム職務発明訴訟について、判決がなされました。当社の主張が認められなかったのは、大変残念です。
判決書の内容を十分検討のうえ、控訴の方向で対応を考えていきます。

<各論点についてのコメント> 
(1)事業の位置づけ、職務発明の位置づけ
 当社はアスパルテームの研究開発を、すでに1970年代から進めていました。当社がアスパルテームの基本特許を持つサール社と信頼関係を築いてライセンスを受け、原告の発明とはなんらの関係なしに製法を開発しました。またアスパルテームを商業的に販売するためには食品添加物の許認可が必要であり、当社が裏づけとなる膨大な実験をして商品化しました。
 アスパルテームの製造には100件以上の特許が使用されていますが、その核心技術は、原料アミノ酸(L−アスパラギン酸、L−フェニルアラニン)の製造技術と原料からのアスパルテーム製造技術であり、本件職務発明ではありません。それは、あくまでも製造工程の一部についての製法改良の発明にすぎません。

(2)会社貢献について
 判決は会社貢献を95%と認定しましたが、上記の会社貢献や原告以外の人々が営々として行ってきた、アスパルテーム事業に関する努力や協力を正当に評価していないものであり、甚だ遺憾です。

(3)外国特許、消滅時効について
 判決で外国特許の分についてまで対価の算定根拠とされたのは、改正法の立法経過に鑑み、納得がいきません。時効については、会社の善意で報奨金1千万円を支払ったことが、時効主張を許さない結果となり、割り切れません。

(4)その他
 会社としては、原告を上級基幹職としてまた関係会社社長にまで任用し、退職後も技術顧問として厚遇しました。また、規程に則った、相当な報奨金1千万円を贈呈したにもかかわらず、このような処遇や対応について適正な評価がなされなかったことは、遺憾です。


日本経済新聞 2004/11/20

1億5000万円で和解 発明対価訴訟 味の素、元社員と

 味の素の人工甘味料
「アスパルテーム」の製法特許を開発した元社員、成瀬昌芳氏(63)が、発明対価の一部として同社に約6億8900万円の支払いを求めた訴訟の控訴審は19日、同社が和解金1億5千万円を支払うことを条件に東京高裁(北山元章裁判長)で和解が成立した。
 発明対価を巡る訴訟で裁判所が命じる支払額は青色発光ダイオード(LED)訴訟の200億円など高額化しているが、判決確定や和解で会社側が支払う額は今回が過去最高とみられる。1億円を超えたのは初めて。
 
一審・東京地裁判決は、青色LED訴訟に次ぐ約1億8900万円の支払いを味の素に命令し、双方が控訴。控訴審では東京高裁が9月に和解勧告し、話し合っていた。
 成瀬氏の代理人の升永英俊弁護士は「一定の成果はあったと本人は納得している」と話した。味の素は「主張が十分反映された結果」とした。

「報奨」見直し影響も 来春法改正 合理的な基準焦点

味の素と元社員の間で争われた人工甘味料の発明対価をめぐる訴訟は、会社側が1億5千万円を元社員に支払う内容で和解が成立した。現在、企業は来年4月の改正特許法施行に合わせて社内発明報奨規定の見直しの最中。今回の和解がその作業に影響を与える可能性がある。
 一審判決が原告に認めた発明対価は約2億円だった。焦点となった特許により味の素が得た利益を約80億円、会社の取り分を95%、原告と共同発明者を合わせた社員の取り分を5%(原告取り分は2.5%)と認定した。今回の和解で、味の素側は社員側の貢献度として4%近くまで実質的に認めた、とみることも可能だ。
 味の素は裁判になる以前、社内規定により原告に1千万円の発明報奨金を支払っていたが、利益に対する原告の貢献は0.1%だった。原告代理人の升永英俊弁護士は「味の素は裁判を経て、従業員の貢献度を大幅に引き上げた」と強調する。
 味の素に限らず、大手企業の現状の報奨規定は社員への配分を利益の0.1−1%に抑えている例が多い。「裁判に訴えた者に多くの貢献を認め、社内規定に忠実な者への還元は0.1%か」と不満を抱きかねない。発明対価訴訟の根拠となっている特許法35条は改正され、来年4月からは企業が「合理的な報奨基準」をもっていれば裁判でもその基準や対価が尊重される仕組みに変わる。裁判所に「合理的な基準」と判断してもらうには現状の「利益の0.1%」で十分かどうか、微妙になってきた。

職務発明の対価を巡る主な裁判の動向

訴えられた企業 裁判の状況 対象となった技術 発明者の請求額 裁判所が
支払いを
命じた金額
オリンパス 最高裁判決 光デイスク技術 5200万円 約230万円
日立製作所 最高裁審理中 CD読み取り技術 2億5000万円 約1億6300万円
日亜化学工業 東京高裁審理中 青色発光ダイオード 201億円 200億円
味の素 東京高裁で和解 甘味料 約6億9000万円 約1億8900万円
日立金属 最高裁審理中 窒素磁石 約4000万円 1265万円
キヤノン 東京地裁審理中 プリンタ一技術 10億円
東芝 東京地裁審理中 フラッシュメモリー 10億円

日本経済新聞 2002/9/20

青色LED 日亜に特許帰属 東京地裁 中村氏の主張認めず

 青色発光ダイオード(LED)の開発者として知られる中村修二・米カリフオルニア大サンタバーバラ校教授(48)が、勤務していた日亜化学工業(徳島県阿南市)に青色LEDの製法特許の帰属認定などを求めていた訴訟の判決が19日、東京地裁であった。三村量一裁判長は「日亜に特許の権利を譲渡するとの黙示の合意があった」と日亜側へ帰属することを認めた。
 判決は民事訴訟法に基づき「中間判決」として東京地裁の審理が継続。中村氏が請求していた、
特許の対価として20億円を支払うよう求めている訴えについて争われる。
 「会社の発明は誰のものか」が争われた訴訟は日亜側の勝訴となったが、中村氏側は特許が会社に帰属するとした中間判決を不服として、20億円の請求が認められた場合でも控訴する方針。日亜化学工業は「判決文をよく読んで、コメントしたい」としている。
 裁判では青色LEDの製法特許について、企業の指示などで行われた「職務発明」か、個人に帰属する「自由発明」かが最大の争点となった。
 中村氏側は「開発中止という会社の命令に反して発明したので、自由発明にあたる」と主張したが、三村裁判長は「勤務時間中に会社の設備などを使って発明している」として退けた。
 特許権の譲渡については、中村氏側が「譲渡証には鉛筆でサインして押印もないため無効」と主張。三村裁判長は、社内規定により企業側へ権利を譲渡する黙示の合意の存在を認め、「署名・押印に決まった形式が要求されていなかった」として譲渡の有効性を認定した。

青色LED 日亜に特許帰属 発明の対価 次の焦点に
 研究者の処遇 企業と温度差

 青色発光ダイオード(LED)訴訟で、東京地裁が19日、中村修二・カリフォルニア大サンタバーバラ校教授へ特許の帰属を認めなかったことで、審理の焦点は中村氏が発明した特許への対価を巡る争いに移る。今回の提訴後、社内研究者らの訴訟が相次いでおり、企業は知的財産管理について新たな対応を迫られている。
 
 この発明で中村氏が得た報酬は、社内規定に基づく2万円の報奨金のみ。同氏側は今後の裁判で、青色発光半導体素子の皮膜をつくるためには、この特許技術が欠かせないと主張。特許は日亜化学工業に属することを前提に、特許を譲渡した対価として20億円の支払いを日亜に求めていく。
 これまで、法廷では対価の審理は一切ないが、日亜は全面的に争う構え。青色LEDの周辺技術の特許は多数の社内研究者が関与しており、今回の特許に関する寄与度はそれほど大きくないとの立場を取る。
 今回の訴訟をひとつのきっかけに、社内研究者が企業に「職務発明」の対価を求める訴訟が相次いでいる。今月14日に味の素の人工甘味料の発明を担当した元社員が、同社が関連会社から受け取ったライセンス使用契約料の持ち分をめぐり、20億円の支払いを求める訴訟を起こした。
 日立製作所の元社員が光ディスクの再生用光ヘッドの発明対価として約9億7千万円の支払いを求めた訴訟も11月に判決が言い渡される。
 いずれの訴訟も企業内で発明の功績が表彰されたことを「企業が社内研究者の貢献度を認めた」と主張しており、「対価は支払い済み」などとする企業側と争っている。

 ◇
 「納得できない」。青色LEDを巡る特許が日亜化学工業に帰属するとした19日の判決を受け、発明者の中村修二氏と代理人の升永英俊弁護士が記者会見。不満をあらわにする一方、「研究者が特許法を知るきっかけにもなった」と提訴の“成果”を強調した。
 升永弁護士は、会社に特許の帰属を認める根拠になった黙示の合意成立について「成立に厳しい枠をはめた最高裁判例と明らかに違う判断にもかかわらず、判決を適用しない理由が述べられていない。高裁で十分に争う余地がある』と主張。中村氏は「仮に20億円が認められても控訴する」と特許の帰属についてはあくまで争う姿勢だ。

▼青色発光ダイオード(LED)
電圧をかけると青い光を出す半導体素子。主に携帯電話機や信号機の光源、大型の表示装置に使われる。赤、緑、青の光の三原色のうち、青色LEDの開発が遅れていたが、中村修二氏が在籍中の1993年に日亜化学工業が製品化に成功。光の三原色がすべて出そろったことで、ほぼすべての色をLEDで表現できるようになった。将来は照明灯を置き換える光源としても期待される。2005年には世界市場の規模は2千億円程度になるとの予測もある。
▼中間判決
民事訴訟で、審理の方針や対象を整理し、訴訟の進行を促進するために、審理の途中で言い渡される判決。訴訟の当事者は、中間判決には不服申し立てや上訴はできず、結審後に言い渡される終局判決に対する上訴の中で、中間判決の判断についても主張することになる。

青色LED訴訟 90年代前半 特許知識乏しく
 中村氏「法律知らなかった」 日亜も訴訟後制度変更

 青色発光ダイオード(LED)訴訟の審理の過程で、中村修二・カリフォルニア大サンタバーバラ校教授と日亜化学工業(徳島県阿南市)の双方とも、発明当初の1990年代前半には特許に対する知識が乏しく、意識も低かった実情が浮かび上がった。
 「発明した人間に特許を出願する権利があって、成立した特許権も個人に権利があると知っている人が日亜にはいますか」「思ってなかったです」
 今年2月、証人尋問に立った日亜の特許部の担当者が原告側の質問に答えた。争点となった特許を出願した段階で、日亜側に特許法の知識がなかったことが明らかになった。当時、発明を会社に譲渡する書面に押印されていないケースも多かったという。
 特許の権利確認を主張した中村氏も同様。退社後に渡米して、2万円の報奨金だけしか受け取っていなかったことを米国の研究者に驚かれ、発明者の権利について知ったという。この日の判決後の記者会見でも「特許法について提訴するまで全く知らなかった」と述べた。
 今回の訴訟はそうした双方の意識の薄さが招いたトラブルだったともいえる。ここ数年、大企業が中心となって発明の報奨制度を充実させているのも、同種の訴訟が相次いだことが引き金になっている。日亜もその後、報奨金の額を引き上げ、複数の発明者がいる場合は、寄与率まで確定させるなど制度を変えた。
 東京地裁は判決で、特許帰属の請求を退けたものの、「相当対価の支払いを受ける権利」によって発明者の権利が保護されると述べている。同じ東京地裁で企業から発明者へ権利を帰属させる判決が出たケースもある。
 「双方の無知」から発明者の権利保護の充実へ、具体的な環境整備は始まったばかりだ。


企業が報奨制度充実
 算定基準は不透明 評価機関設立も

 社員の職務上の発明の帰属や対価を巡る裁判が相次ぐなかで、発明者から特許権の譲渡を受けるのと引き換えに支払う報奨金を引き上げる企業が増えている。特許などの価値を正確に評価する中立機関を設置する動きもある。米国などの関連法を参考に、職務発明規定を改めるべきだとする声もある。
 報奨金制度の拡充は、遺伝子特許の出願などが増えている医薬業界などで目立つ。三菱ウェルファーマ、エーザイ、田辺製薬などは発明をもとに開発した新薬の売り上げの一定比率を報奨金として支払う制度を導入した。支払額に上限はないが、実際にはこれまでの最高額は1億円程度だ。
 報奨金は発明者への「ご褒美」の色彩が濃く、特許法に定める「相当な対価」の厳密な計算には基づいていない。技術が複雑化し、一つの発明にかかわる社員も増え、一人当たりの報奨金受取額も小さくなりがちだ。
 日本弁理士会は日本公認会計土協会、日本弁護士連合会と共同で、知的財産価値評価機構を設立する検討を始めた。メーカーなどの依頼を受けて特許などの価値を判断し、発明者に支払う「相当な対価」を割り出すのに役立てる。2004年の発足を目指す。
 弁理士会の伊藤高英副会長は「対価の判断には、発明の結果としての昇進や昇給も考慮するべきだ」と指摘。知的財産権問題に詳しい隅蔵康一・政策研究大学院大学助教授も「経営や営業面の貢献も正当に評価する必要がある」と見る。
 メーカー会員が多い日本知的財産協会は、特許権の譲渡や対価は米国のように個別契約に委ねるべきだと提案している。米国では自分の意に反する契約は結ばず、他社に移る社員も多い。日本でも「発明者が相応の扱いを受けている企業には、優秀な人材が集まるはず」とキャノンの丸山儀一顧問は指摘する。
 ただ「米国方式の前提として、研究者が実力に合わせて自由に動ける環境が大切。現状のままでは優秀な頭脳は国外に流出する」(大野聖二弁護士)との指摘もある。

職務発明に対する報奨制度の例

企業・組織名 報奨制度の柱 開始時期
武田薬品工業 年間売上額1500億円以上に最大3000万円、最長で5年間 02年
エ一ザイ 発売から5年度分の売上額の0.05% 01年
三菱ウェルファーマ 発売から3年間の売上額の0.05% 02年
田辺製薬 累積売上額100億円以上に売上額の1% 00年
協和発酵 累積売上額1000億円以上に2000万円以上 02年
パイオニア ライセンス料収入の一定割合 99年
日本ビクター 年間特許料収人1億円以上に対し1%、 年間最大1億円 99年
三菱化学 5年間で最大2億5000万円 01年
産業技術総合研究所 ライセンス料収人の25% 01年

(注)売上額規模が小さい場合に少額を支払う企業や、開発販売権を他社に供与した段階で一部を支払う企業もある。


朝日新聞 2003/1/11

どっちが本当?
2650億−15億円 青色LED収益

 青色発光ダイオード(LED)の発明をめぐって、中村修二・米カリフォルニア大学教授が、勤務先だった日亜化学工業(徳島県阿南市)に正当な対価を求めている訴訟で、特許が同社にもたらした収益について双方がそれぞれ大手監査法人に依頼した鑑定結果が、2650億円とマイナス15億円と大幅に食い違っていることがわかった。東京地裁は今月30日の判決で、これらの鑑定を参考に、中村氏への対価について判断を示す。

 中村氏側が鑑定を依頼した監査法人トーマツは日亜の青色LED事業の売上高を、米国系調査会社の市場予測などを基に特許が失効する2010年10月まで試算した。そこから営業費用や事業継続に必要なコストを差し引いた額を特許がもたらした「超過収益」とし、最大2650億円になるとはじき出した。裁判で中村氏はこのうち200億円を要求している。

 一方、日亜側の新日本監査法人は、依頼時に商法上確定していた01年度までの青色LED事業による当期利益を積算。そこから開発コストなどを差し引き、15億円の損失になるとしている。

 主に対象期間の差によるためだが、コストの算出などでも両者の鑑定は違いが少なくない。

 特許法では、発明者に「相当の対価」を支払うことが規定されている。しかし、その算定方法があいまいで、政府は特許法を改正する方針を打ち出している。

 東大先端科学技術研究センターの玉井克哉教授(知的財産法)は「大手監査法人でこれだけ食い違うのは、いかに評価法が確立していないかを象徴している。判例を重ねていては時間がかかる。踏み込んだ制度改正が必要だ」と指摘する。


日本経済新聞インターネット 2004/1/30         詳細  判決要旨

青色LED訴訟、日亜化学は中村教授へ200億円支払いを

 青色発光ダイオード(LED)の開発者として知られる中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(49)が、勤務していた日亜化学工業(徳島県阿南市)に発明の対価の一部として200億円を求めた訴訟の判決が30日、東京地裁であった。三村量一裁判長は発明の対価を約604億円と認定し、請求通り日亜に200億円の支払いを命じた。

 同種訴訟での発明対価としては、光ディスク関連特許について東京高裁が29日に日立製作所に支払いを命じた1億6300万円を超え、過去最高額を大幅に更新した。

 訴訟の対象となっていたのは、中村氏が発明し、青色LEDの基本技術とされる「404特許」。
2002年9月の中間判決は「職務発明のため特許権は会社に帰属する」との判断を示し、その後は日亜側が中村氏に支払うべき発明対価の額が争われていた。

 


2002年9月17日 豊田合成/日亜化学工業

青色LED訴訟、全面和解の件
http://www.toyoda-gosei.co.jp/news/02/02_0917.html

 豊田合成株式会社(本社:愛知県西春日井郡春日町、代表取締役社長:松浦剛、以下、「豊田合成」という)と、日亜化学工業株式会社(本社:徳島県阿南市、代表取締役社長:小川英治、以下、「日亜化学」という)とは、2002年9月17日、青色発光ダイオード(LED)に代表されるIII族窒化物系半導体の技術について、互いに相手方が所有する全ての特許権等を尊重し、両社間で約6年にわたって繰り広げられたすべての訴訟等を終結させ、かつ将来における新たな係争を予防ないし適切に解決することについて下記の内容を骨子とする和解合意書を締結いたしました。

 青色発光ダイオードは、世界的に見て名古屋大学工学部の赤崎勇教授(現・名古屋大学名誉教授、名城大学教授)の先駆的かつ基本的技術がベースになって開発されて参りました。豊田合成は、1986年、赤崎勇教授の指導と豊田中央研究所の協力を受けて、窒化ガリウム(GaN)をベースとした青色LEDの開発に着手、翌1987年には、科学技術振興事業団から青色LEDの製造技術開発を受託し、1991年に成功認定を受けました。そして、1995年10月に高輝度の青色LEDの量産を開始し、その後も次々と新製品を開発し市場に投入してきました。

 一方、日亜化学は、1989年に青色LEDの開発に着手、1991年に窒化ガリウム系青色LEDの工業化技術を確立しました。そして、1993年11月には、世界で初めて高輝度の青色LEDの量産化に成功。さらに、蛍光体専門メーカーである特長を生かし、YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)蛍光体と青色LEDとを組合せ、1996年に、世界で初めて白色LEDの開発・量産化を実現。その後も次々と新製品を開発し市場に投入してきました。

 以上の経緯から明らかなように、主として日亜化学及び豊田合成による技術開発競争を通じ、青色LEDの発光輝度や生産効率がめざましく向上し、その結果、フルカラーディスプレイ、信号機、携帯電話用バックライト、車載照明や室内照明などに応用されるようになりました。今後はDVDプレイヤー用のレーザーや、地球温暖化防止・省エネルギーの観点から照明への適用、ブロードバンド時代に要求される高速通信用デバイスの開発実用化が期待され、将来的にも、巨大な市場へと発展することが予測されています。

 今後は、市場における公正な競争を通じて、日本で生まれた先駆的技術をさらに発展させていく所存です。

1. 両者は、相手方に対し、自社の保有する特許に基づく製造・販売の差止請求や損害賠償請求等をしない。
2. 両者は、相手方に対し、相手方が現在保有する特許(訴訟の対象となっている特許を含む)に関して、損害賠償金(和解金を含む)の支払義務や自社製品の製造・販売の中止義務を負わない。
3. 両者は、両者間の全ての侵害訴訟、無効審判及び審決取消訴訟を取り下げる。
4. 両者は、将来の製品につき相手方の将来の特許を実施する場合、合理的な料率の実施料を支払う。
5. YAG蛍光体を用いた白色LEDに関する日亜化学の特許について、豊田合成は、日亜化学に対し、当該特許を実施するYAGを用いた将来の製品につき、両者で合意した実施料を支払う。

日本経済新聞 2002/9/19

特許制度見直しスタート 発明報酬焦点に 産業構造審 小委を新設

 経済産業相の諮問機関である産業構造審議会は18日、特許制度小委員会を新設、日本の産業競争力強化につながる特許制度のあり方について検討を始めた。従業員の発明に対する報酬の支払いを定めた特許法の「職務発明」規定を見直すかどうかが焦点になる。年内に中間報告をまとめる。
 特許法35条は社員が企業の命令や指示に基づいて発明をした場合、従業員に「相当の対価」を支払えば企業が特許権を取得できると定めている。しかし「相当の対価」に関する具体的な基準がないため、報酬額などを巡って社員が企業を訴える例が後を絶たない。
 19日には青色発光ダイオード(LED)の特許権帰属訴訟の刊決が東京地裁で言い渡される。味の素の人工甘味料の製法特許を巡っても、発明を担当した元社員が20億円の支払いを同社に求める訴訟を起こした。こうした状況を受け、産業界からは職務発明規定の廃止を求める声が強まっている。
 ただ、職務発明規定を廃止すれば発明に携わる社員の立場が弱くなるとする意見も多く、小委員会が中間報告で一定の方向を打ち出せるかどうかは不透明だ。 小委員会では、特許審査料の引き上げも検討する。日本の審査料は欧米より安いため、大企業は大量出願でひとまず知的財産を確保しようとする傾向が強い。しかし特許庁の審査体制は追いつかず、これが特許成立までの審査期間が長くなる原因になっている。
 特許庁は審査料の引き上げで大量出願を抑制できるとみている。小委員会は現在1件当たり約10万円の審査料を、欧米並みに20万−30万円まで引き上げることを検討する。


日本経済新聞 2002/11/30

光ディスク特許発明者に3400万円 東京地裁 日立に支払い命令

 DVD(デジタル多用途ディスク)など光ディスクの読み取り装置に関する特許をめぐり、日立製作所の元社員、米沢成二氏(63)が特許の「相当対価」約9億7千万円の支払いを求めた訴訟の判決が29日、東京地裁であった。森義之裁判長は約3489万円の支払いを命じたが、海外分の特許については認めなかった。
 同種の知的財産訴訟が相次ぐ中、原告代理人によると、裁判所が認めた相当対価では過去最高額だが、双方とも判決を不服として控訴する方針。
 森裁判長は、対象となった3つの特許で日立側の利益総額を2億5千万円と認定。共同発明者の貢献度を20−30%としたうえで、このうちの米沢氏の貢献度を70−40%として、相当対価を約3500万円と算定。在職時に支給済みの報奨金を差し引いた約3489万円の支払いを命じた。

日立製作所の話
主張が認められず残念。報奨に関する会社規則や運用は適正と考えており、上級審で主張していく。

発明対価なお手探り  定まらぬ基準、火種に

 職務上の発明をめぐる訴訟が相次ぐ中、日立製作所DVD特許対価訴訟は高額の報酬を求める元社員の訴えに司法がどんな判断を下すかが注目された。判決では対価の算定式なども示されたが、裁量部分もあり原告、被告双方に不満が残った。産業界には規定のあいまいな特許法35条を見直すべきだとの主張もある。「知財立国」へ乗り越えるべき課題は多い。
 元社員側の升永英俊弁護士は29日の会見で「約3500万円の支払いしか認められなかったのは残念」と語った。一方、「社内規定に沿って原告に230万円を支払い済み」とする日立側は、今回の判決が将来の企業と研究者の特許係争のひな型となることを警戒する。
 かなり高額の支払い命令が出るのではとの見方もあったため、対価が高すぎるとの受け止め方は少ない。半面、「裁判所が過去最高の支払いを認めたことについては画期的」(荒井寿光元特許庁長官)との指摘もある。
 判決では問題の特許のライセンス料などで得た利益約2億5千万円のうち、会社の貢献度80%、原告の米沢成二氏と共同発明者の2人が20%とし、その上で約3500万円を「相当の対価」と導き出した。
 問題は会社と発明者の貢献度の認定の際の基準がはっきり見えないこと。特許法に詳しい大野聖二弁護士は「裁判所の裁量に頼らざるを得ない部分が大きく、客観性に乏しい」と指摘する。実際、過去の同種の裁判でも、発明者の貢献度はその基準が示されないまま認定がばらついている。
 日亜化学工業(徳島県)の青色発光ダイオード(LED)訴訟などをきっかけに成果に対する報酬への意識が高まった。企業が従来の家族主義、終身雇用から成果主義型の賃金体系に移行していることも背景にある。
 社員側の権利意識の高まりに対し、製薬業界が1億円を超える報奨制度を設けたり、ホンダが従業員の発明に対する特許報奨金の上限を撤廃する動きがある。単純にコストを抑えるだけでは開発力強化につながらず、人材流出につながることを企業は認識している。
 ただ、昨年判決のあったオリンパス光学工業の例では、報奨の社内規定がある場合でも「発明の対価は企業が一方的に決められない」との見解を東京高裁が示した。このままでは「相当の対価」を求める訴訟が続く可能性がある。
 民間企業850社で構成する日本知的財産協会(前田勝之助会長)は、訴訟頻発を防ぐには特許法35条を改正し、米国のように企業と個人との契約で対価を決めるべきだと提言している。政府は7月に特許など知的財産をテコに産業競争力強化を目指す「知的財産戦略大綱」を決定した。だが、発明者の権利保護で明確な方向付けができなければ紛争の連鎖から抜け出せず、知財立国への道も遠い。

海外分は門前払い
 青色発光ダイオード(LED)訴訟と違って、日立製作所の元社員が起こした今回のDVD訴訟では、「特許権は会社側に譲渡した」との前提に立ち、帰属先を争っていない。社員の発明の正当な対価はいくらになるのか−−が焦点だった。
 この日の判決は、商品の開発研究や出願手続き、ライセンス契約の締結にいたるまでの社内体制などを詳細に検討して、原告の貢献度をはじき出しており、対価の算定根拠をある程度、明確にしたものといえる。
 青色LED訴訟の提訴をきっかけに、電子やバイオなどの特許で元社員が高額の発明報酬を求める訴訟が相次いだ。判決は、特許権の譲渡を巡る訴訟で過去最高の金額を認定しており、同種訴訟のさらなる「呼び水」になるとの見方もある。
 しかし、判決は、「特許権の効力はその国の領域内にしか及ばない」とする「属地主義」の判例を援用し、海外でのライセンス契約分の対価請求を認めなかった。この日の司法判断に従えば、原告の元社員は、それぞれの国で日立製作所を相手に訴訟を起こさなければ、請求の道はない。
 人工甘味料の特許を巡り味の素に20億円の対価を求めた訴訟では、同社から海外子会社に譲渡されたパテント料の一部が請求の対象だ。判決が踏襲されれば、門前払いになる可能性もある。
 著名な職務発明ほど、世界中で特許が使われているケースが多い。請求の範囲を国内に限定した判断は、訴訟コスト面から企業内発明者の権利保護に大きな制約になりかねず、「司法の壁」を浮き彫りとする形となった。

▼特許法35条
会社の命令による発明「職務発明」について、会社と従業員の権利について定めている。会社は従業員の職務発明に関する特許権について、使用する権利「通常実施権」を持つ。特許を受ける権利を会社に譲渡した場合は、従業員は特許の「相当対価」の支払いを受けることができると定めている。その際の対価については、「会社の受けるべき利益」や「貫献度」を考慮して決定されると規定している。

特許対価をめぐる訴訟

被告企業 請求額 認容額 特許内容
日立製作所 9億7000万円 3489万円
(一審)
光ディスクの読み取り装置に関する特許
オリンパス
光学工業
5000万円 228万円
(二審、上告中)
ビデオディスクの読み取り技術の特許
→ 
確定
味の素 20億円 一審審理中 人工甘味料の製法特許
日亜化学工業 20億円 一審審理中 青色発光ダイオードに関する特許
敷島スターチ 15億9000万円 一審審理中 肝機能の働きをよく する成分の製法特許

(注)オリンパスヘの請求は二審段階で減額


日本経済新聞夕刊 2004/1/29

日立特許訴訟 発明者に1億6300万円
 東京高裁判決 外国特許の対価認定

 DVD(デジタル多用途ディスク)などの光ディスク読み取り技術の特許を巡り、日立製作所の元社員で会社経営、米沢成二氏(65)が発明対価として2億5千万円を求めた訴訟の控訴審判決が29日、東京高裁であった。山下和明裁判長は外国特許の対価を発明者が受ける権利を初めて認めて
一審・東京地裁判決を一部取り消し、総額約1億6300万円の支払いを命じた。
 企業の研究者による発明対価の判例は、これまで日立の一審判決の約3480万円が最高額だったが、今回はこれを14.6倍に増額、過去最高額を更新した。同様の訴訟が相次ぐ中、外国特許についても対価を認めた今回の判決は、他訴訟にも影響を与えそうだ。
 山下裁判長は「職務発明の譲渡についての対価は外国の特許も含め日本の法律で一元的に決定されるべき」と初めて判示した。一審判決は「日本の特許法は外国特許には及ばない」と日立側の主張を認めていた。
 また山下裁判長は、他メーカーと互いの特許使用を無償で認めあう「包括的クロスライセンス」契約が日立にもたらした利益もより大きく算定。その結果、特許による日立の利益が約11億8千万円と一審判決の算定より増額し、米沢氏の貢献度は同じでも、発明対価は約1億6500万円(報奨としてすでに支払われた約230万円を含む)と高額になった。

発明者、高額報酬に道 対価最高、一気に4.6倍 企業、対応迫られる

 光ディスク読み取り技術を巡る日立特許訴訟の29日の東京高裁判決は、外国特許についても発明者が企業に適正な対価を請求する権利を初めて認め、一審判決の4.6倍、過去最高額の約1億6300万円を支払うよう日立に命じた。画期的な発明ほど世界中で特許が利用されて企業を潤わせており、特許の発明者が「相当の対価」として高額の報酬を手にすることに道を開いたといえそうだ。
 特許法35条は、発明者が特許権を企業に譲渡した場合、相当な対価を受ける権利があるとした上で、対価の額は企業が特許によって得る利益などを考慮するように定めている。
 今回の訴訟では、特許法35条の効力が外国特許にも及ぶかどうかが争点となり、東京高裁は「相当の対価は、外国特許を受ける権利に関するものも含めて、日本の法律により一元的に決定されるべきだ」と判示。一審判決は「日本の特許法が認めている対価請求の権利は外国特許には及ばない」と“属地主義”を採用したが、控訴審は「発明者がいずれの国でも権利保護を受けられない事態が生じたり、裁判所が各国の法制度を調査して対価を判断する必要が生じかねない」と退けた。
 さらに今回の判決は、他メーカーと互いの特許使用を無償で認めあう「包括的クロスライセンス」契約が企業にもたらす利益の算定に関し、他メーカーの製品売り上げを基にして計算する手法を採用。ソニーのCDプレーヤーの合計生産額約2兆円を基に、ソニーが支払うべき特許料を約60億円と算定。このうち訴訟の対象となった特許分は6億円とはじき出すなど、発明者にとって有利な算定方法を採った。
 東京高裁のこうした判断が、発明者が高額の対価を企業に求めている他訴訟に極めて大きな影響を与えそうだ。例えぱ、人工甘味料の製法特許を巡り、味の素の元従業員が20億円の発明対価を求めた訴訟では、元従業員側は「味の素は米国などの外国法人へ製法特許を譲渡し、約241億円の利益を得た」と主張している。外国特許による対価が認められれば、発明対価は跳ね上がるとみられる。
 逆に海外特許分の請求権を認めなければ、味の素のケースは元従業員の請求が門前払いされる可能性がある。
 海外特許について対価の支払い義務が生じる判例が今後定着すれば、企業にとって負担増は避けられず、対応を迫られることになる。

主な職務発明を巡る訴訟での対価認容額

被告企業 技術 請求額 認容額
カネシン 建築用金物の意匠、実用新案 3089万円 1292万円
象印マホービン ステンレス鋼製二重容器 1億5000万円 640万円
ゴーセン 釣り糸関連特許、実用新案 1600万円 166万円
オリンパス光学工業 光ディスク 関連特許 2億円
(2審で5200万円に減額)
228万円
日立製作所 光ディスク関連特許 9億7000万円
(2審で2億5000万円に減額)
約1億
6300万円

 


日本経済新聞夕刊 2003/4/22

社員の発明対価 社内規定超え請求可能
 オリンパス敗訴確定 最高裁が初判断

 オリンパス光学工業の光ディスクの読み取り装置をめぐり、会社の命令による発明「職務発明」の対価を、社内規定を超えて請求することができるかどうかが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第三小法廷(上田豊三裁判長)は22日、「勤務規則などに報償などの規定があっても、特許法が定める『相当な対価』に満たない場合は不足額を請求できる」との初判断を示した。
 そのうえで、元社員に約228万円を支払うようオリンパスに命じた二審・東京高裁判決を支持し、同社の上告を棄却、同社の敗訴が確定した。
 職務発明の対価を巡っては、日亜化学工業の青色発光ダイオード(LED)、日立製作所の光ディスク読み取り装置など、発明者が高額の対価を請求する訴訟が相次いでいるほか、報奨金を引き上げる企業も出てきている。今回の最高裁の判断はこうした動きに影響を与えそうだ。
 今回、問題となったのは、光ディスクの読み取り装置の小型化を可能にする特許技術。元社員は報奨金名目などで支払われた21万1千円では発明の対価には不十分として、退社後に2億円(二審段階で約5200万円に変更)の支払いを求めていた。
 第三小法廷は、会社側があらかじめ勤務規則などで特許の帰属が会社に移ることや対価の額などを定めておくことは可能としたうえで、「特許の価値などが具体化する前に対価額を確定的に定めることはできず、勤務規則で定めた額が対価のすべてとみることはできない」と判示した。
 一審・東京地裁は、職務発明の対価は会社が得るべき利益や貢献の程度などを考慮して定めるべきだと規定した特許法35条を踏まえ「不足額を請求できる」と判断。二審もこれを支持した。

指針示されず残念 オリンパス広報・IR室の話
 職務発明をした社員に対し、どう処遇すべきかの指針が判決で示されなかったのは残念。実務処理の困難は解決されておらず、処理可能な法改正の必要性を痛感する。

高額報酬 流れ加速も 「相当」の基準は不明確

 社内規定を超す特許の対価請求を認めた22日の最高裁判決は、高額の対価支払いを命じた下級審の判決や、報奨金を高額化させる企業の制度改正の動きを、後押しする判断といえる。これまで多くの日本企業は、職務発明の対価を社内規定で比較的少額に定め、それ以上の対価請求には応じない姿勢をとっていたが、判決はこうした社内規定には必ずしも拘束力がないことを示した。
 特許法35条は、勤務規則などで定めがあれば職務発明は会社の帰属になるが、発明者は「相当の対価」の支払いを受ける権利があると規定している。今回の最高裁判決は同条を踏まえ、帰属が会社に移る以上、対価まで会社側が一方的に上限を定めることは許されないことを明示した。
 特許の対価を巡り発明者が高額の対価を請求した訴訟では、青色LEDについて東京地裁が昨年9月、中間判決で特許は日亜化学工業側に帰属するとの判断を示す一方、「相当対価の支払いを受ける権利があるため発明者の権利が保護される」と指摘。現在、対価の額を争点に審理中だ。
 また日立製作所の光ディスク読み取り装置の特許では、昨年11月の同地裁判決が貢献度を14%と算定、対価としては過去最高額の3500万円を認定した。
 一方、最高2億4千万円(三菱化学)、ライセンス料収入の25%(産業技術総合研究所)、発売から5年度分の売上額の0.05%(エーザイ)など、企業も報奨金の額を引き上げる動きが目立つ。判決がこうした動きに拍車をかける可能性もある。
 ただ、判決後オリンパスが「職務発明した社員をどう処遇すべきかの指針が示されず残念」とコメントしたように、判決はあくまで対価が相当なものかどうかを追加請求の可否の判断材料としているにすぎない。
 オリンパスに約228万円を支払うよう命じた一、二審判決はその算定根拠を@装置は複数の特許で構成されており、元社員の発明で会社が受ける利益は5千万円Aうち会社側の貫献度は95%B元社員は残り5%に当たる250万円を受け取れるCすでに受け取った20万円余を差し引くーーと示したが、産業界からは「一般的な算定基準が明確になっていない」と不満の声がくすぶっている。
 一つの製品を作るには複数の特許がからむだけに、製品における当該特許の重要度や会社が受ける利益、発明者の貢献度など様々な要素を複合的に判断し「相当」とはどれだけなのかを算定する必要があり、対価をめぐる企業と発明者の間の駆け引きは、これからが本番ともいえそうだ。


朝日新聞 2003/10/20

キヤノン元社員、「発明の対価」10億円求め提訴

 キヤノン(東京都大田区)の主力商品であるレーザービームプリンターの関連技術を開発した元社員が、職務上の発明を会社に譲った際に正当な対価を受け取っていないとして、同社に10億円の支払いを求める訴えを20日、東京地裁に起こした。元社員側は「特許でキヤノンは多大な利益を得ており、発明者として400億円以上を受け取る権利がある」とし、今回はその一部を請求した。

 訴状によると、元社員は高画質で印刷できる技術を発明し、81年に同社は特許出願した。この功績で元社員は98年度の優秀社長賞に選ばれたが、報酬としては約86万円を受け取っただけ。同社に対価の再評価を求めたが応じないため提訴した。

 レーザービームプリンターの年間出荷台数は世界で約1500万台。キヤノンは6割以上のシェアを占めており、競合他社からも特許使用料を受け取っているという。

 <キヤノン広報部の話> 現時点ではコメントできない。


2004年3月10日 呉羽化学

特許実績補償制度の導入について
http://www.kureha.co.jp/topics/h160310.html

 呉羽化学工業株式会社(本社:東京都中央区、社長:田中宏)は、高付加価値製品の開発を促進するため、4月1日付けで特許の実施やライセンスによって得られた利益に応じて発明者に対して対価を支払う特許実績補償制度を導入いたします。

1. 目的
 高付加価値製品の開発を促進するため、特許実績補償制度の導入により、研究開発者の意欲をかき立て、ビジネスの核になる強力な特許を取得することを推進する。

2. 内容
 「特許実績補償規程」の制定および「職務発明取扱規程」の改訂

(1) 「特許実績補償規程」の制定
   職務発明に基づく特許権について、発明者の権利を補償する。その実施要項を「特許実績補償規程」に定める。
     
 [制定の骨子]
@ 特許実績補償審査の対象
  a  単年度の営業利益が1億円以上の製品にかかる特許権。
  b  ライセンスまたは譲渡による単年度の収入が1億円以上の特許権。
  c  ただし、登録特許のみを対象とする。従って、a, bに該当する特許のうち、登録前のもの、または放棄・無効により権利が消滅している特許は審査の対象から除外する。
A 対象の審査
  a  知的財産部で抽出した上記@の条件を満たす製品にかかる事業部門、研究開発部署と知的財産部により営業利益またはライセンス収入(譲渡価格を含む)への特許権の貢献度を考慮し、特許実績補償委員会*に上申するため、予備審査を行う。選定された登録特許の各々について、排他力(回避技術の有無)を考慮にA,Bの何れかのランク**付けを行う。
 ただし、営業利益またはライセンス収入(譲渡価格を含む)への貢献度が低い特許は対象から除外する。
  b  特許実績補償委員会を設置し予備審査の内容を審査することにより特許実績補償の実施、職務発明のランクに基づく金額を決定する。
     
  * 特許実績補償委員会構成メンバー:研究開発本部長を委員長とし、委員数名と事務局(知的財産部)
  ** 支払い金額ランク
    Aランク:営業利益またはライセンス収入(譲渡価格を含む)の0.1%
Bランク:営業利益またはライセンス収入(譲渡価格を含む)の0.03%
     
B 特許権に複数の発明者がある場合
   「職務発明取扱規程(改訂)」に定める発明者の認定に従い、発明部署で決定された寄与率に応じて支払う。
C 適用対象者
   呉羽化学の全在籍者、出向者・退職者(呉羽化学在職中の職務発明に対して)
     
(2) 「職務発明取扱規程」の改訂
  発明者の認定方法および認定に基づく寄与率に関する項目を追加する。
[制定の骨子]
@ 発明者の認定
  a  ある解決すべき課題について、実現可能な技術的解決手段を新しく着想して提案し、その着想の本質的事項が使用された結果、発明を完成に導いた者。
  b  ある解決すべき課題について、具体化するにはなお若干不完全な解決手段を着想し、更に他人より助言、指導、又は着想を得て、発明を完成に導いた者。
  c  容易に具体化できない程度の他人の着想に基づいて、その着想を具体化する技術的手段を案出し、発明を完成に導いた者。
  d  目的とする課題と異なる分野の着想、試験結果、発見された現象等を目的課題に応用して、発明を完成に導いた者。
  e  具体化するにはやや不完全な他人の着想に対して、さらに別の着想をつけ加えて具体的解決手段とし、発明を完成に導いた者。
  f  他の者の実験、試験等の結果に新しい着想を加えて、発明を完成に導いた者。
  g  課題解決のための有効な手段が見出されず、進むべき方向を失っているとき、新しい解決手段を指示し、具体的な指導、助言を行って研究に活路を与え、発明を完成に導いた者。
A 寄与率
職務発明の発明者は、この規程で定める発明者の認定に基づき、寄与率を遅滞なく会社に届け出る。

3. 運用開始時期
 2004年4月1日から、2003年度実績分についての評価を開始する。


特許実績補償制度の流れ図

知的財産部
前年度の決算をもとに、選定基準[単年度の営業利益またはライセンス収入(譲渡価格を含む)が
1億円以上]に該当する製品やライセンス契約を選ぶための資料を作成。

                    ↓

当該事業部、当該研究開発部署、知的財産部
相談しながら、選定基準に該当する製品やライセンス契約に、貢献する登録されている特許の中で
貢献度の大きいものを原則として1〜3件選定。
[貢献度の大きい特許が無い、即ち0件と判断された場合は、実績補償の対象外となる]

選定された特許の各々について、排他力(回避技術の有無)を考慮に A,Bの何れかのランク付け
(ランクA:利益の0.1%;ランクB:利益の0.03%)を行う。

                     ↓

最終選定機関 特許実績補償委員会
委員長 研究開発本部長
委員          人事部長、経理部長、研究企画部長、開発推進部長、総合企画部長、法務部長、知的財産部長、当該の事業部長、当該の研究所長、工場が発明部署の場合当該の部門長 
事務局 知的財産部
当該事業部、当該研究開発部署、知的財産部の協議で上がってきた案件が本当に実績補償に該当するか、選定された特許が妥当なものか、最終確認を行う。



2004/7/8 朝日新聞

武田薬品、発明に対する報奨金の上限撤廃

 武田薬品工業は7日、優れた新薬の発明に貢献した研究者への報奨制度を改定し、報奨金の上限を撤廃した、と発表した。今年4月にさかのぼって適用する。これまでの上限は年間3千万円、支払期間5年間で1億5千万円としていた。特許権をめぐる企業研究者の訴訟が相次いでいることから、制度を拡充することにした。

 報奨制度は98年に導入。全世界での年間売上高に応じて報奨金額を決めていた。従来の対象は97年以降に売り出された新薬で、支払期間は発売後3年目の4月から5年間だった。当初の上限は年間1千万円(5年で5千万円)だったが、02年に上限を年間3千万円に増やした。

 今回は上限を撤廃するとともに、対象を94年以降に発売された新薬に広げ、94〜96年発売の新薬開発に携わった研究者にも報奨金を支払う。

 今年度の支払額は9千万円超になる見通しだったが、新制度に切り替わり、額は「少なく見積もっても倍増する」と説明している。