化学工業日報 2002/8/27

2001年度の国内塩ビ事業 経常損失120億円規模に
 メーカー10社計、内需低迷が響く

 2001年度の国内塩化ビニル樹脂事業の収益状況が100億円を大きく超える赤字となったことが分かった。メーカーの当該事業の損失の合計額が2000年度の倍増に近い120億ー130億円となった模様だ。国内塩ビ樹脂事業の収益が赤字となるのはこれで10年連続。2002年度に入っても、内需の不振や原料価格の高騰などで収益は一向に回復しておらず、このままでは11年連続の赤字となることが確実な情勢だ。深刻化する業績悪化にともない、設備廃棄の動きやそのための業界再編が加速していくことになりそうだ。
 赤字となったのは、国内メーカ11社(生産委託によって事業化している企業も含む)の塩ビ樹脂部門の経常損益。大半の企業が収益を上げられず、合計の赤字額が前年度の76億円から一挙に120億ー130億円程度となったものとみられる。部門の売上高も、前年の1948億円から2割近いマイナスを示したようだ。
 同損益は、1992年に赤字に転じて以来、水面下から浮上できない状態が続いている。しかし2000年度には、値上げ効果や各社の合理化努力でこの間に最も少ない76億円にとどまるなど赤字幅の縮小が進んだ。ところが、2001年度に入って再び拡大の様相を呈し始め、2001年度の上半期は42億円の損失となった。さらに下期は上期以上に採算が悪化し、年度べースで100億を超える赤字となったものと思われる。収益状況が悪化したのは、内需の低迷やそれにともなう市況の低下が主な要因。下期には輸出価格も低迷し、採算低迷に拍車をかけた。このため、輸出量の多いメーカーと少ないメーカー間での格差も出たようだ。ここにきて内需には底打ち感も一部で出つつあるが、本格回復にはまだ遠く、今年度もさらに苦しい展開が予想される。
 輸出は好調となっているが、一方で原料価格の高騰が追い打ちをかけており、何もしないでいれば2001年度を上回る赤字となる可能性が高い。そのため価格の修正が急務となっている。
 国内の総生産能力は約250万トン。これに対して出荷は内需と輸出合わせて昨年度は約217万トンで、30万トンに及ぶ需給乖離がすでに現出している。現在もメーカーでは減産体制を恒常化させており、不採算状態が続くなか業界規模で構造改革の機運が高まっている。なお、塩ビ各社の事業収益状況は、経済産業省が毎年公表しているが、2001年度分については発表されない方向。


(2002/3/29 Chemnet Tokyo)

中国政府、塩ビ樹脂で日本など4カ国に「アンチダンピング調査」正式公告

 経産省によると、中国政府(対外貿易経済合作部)は29日、米国、韓国、日本、ロシアの4カ国の塩ビ樹脂(ポリビニール・クロライド)を対象に「アンチダンピング」調査を開始すると「公告」した。
 
 3月1日付で上海、天津、北京などの塩ビメーカー5社から調査開始依頼の申請を受けた。
 
 同国政府は今後、同国の「アンチダンピング条例」に基づき、対象各国からの塩ビ樹脂の輸入についてダンピングの状況や、中国の国内産業における損害の実態などを調査する。決定は通常調査開始日から1年以内に行われる。
 
 中国のアンチダンピング調査は1997年以来今回が17件目。このうち日本の製品を対象にしたものは8件。また全17件のうち化学品は12件(うち日本を対象にしたもの6件)を占めるなど化学品のウエートが高い。


Platts--2Apr2002

China starts investigating allegations of PVC dumping

The Chinese government announced Mar 29 that it would start an investigation on allegations of PVC dumping from Japan, South Korea, Russia, Taiwan, and the US, an official from the Chinese government confirmed Tuesday. The Chinese government studied the case from three months ago, after receiving the requests from five major PVC manufactures in China such as
Shanghai Chlor Alkali Chemical Co, Teijin Dougue Chemical Co, Cang Zhou Chemical Industry, Beijing No 2 Chemical and Cang Zhou Chemical Industry. "There were only five applicants but other PVC makers were supporting this case," the official commented and added that the investigation would take a year to a year and a half.
A official from Shanghai Chlor Alkali earlier told Platts that "if the Chinese government would start investigations anytime within March 2002,
they would study the import statistic for 2001, but if they started investigations after April, the government would study statistics for the first quarter of 2002." The five makers, which had made requests are the largest ethylene dichloride importers in China. Several sources said that as these producers have to import EDC, it would be difficult for them to compete with other Chinese domestic PVC makers which use an alternate production process that does not use EDC.


2002/4/25 化学工業日報

VEC首脳会見 「中国の対応は心外」、ダンピング調査開始で

 塩ビ工業・環境協会(VEC)は24日、田代圓会長ら首脳陣による定例記者会見を開いた。田代会長は、中国による塩ビ樹脂への反ダンピング調査が先月開始されたことを受け、「日本としても中国市場を大事にしてきたつもりで、いきなりの調査開始は心外」と発言。同時に国内価格の修正について「各社の問題意識が高まっている」状況を説明した。
 また田代会長は「中国市場は、需要が急激に伸びているなかで樹脂の輸入を必要としており、円滑な輸入がなければ加工業や製品業界が大きな影響を受ける」と同国の需給構造を説明。「日本からの輸出量は伸びているものの、輸入品に占めるシエアは逆に減少しており、決して押し込み輸出されているわけではない」と語った。そのうえで今回の調査開始については「不可解であり、WTO加盟後の何かしら牽制の意味もあるかもしれない」と分析。今後の対応については「基本的には個々の企業の対応」としながらも「双方の理解を深めるべく、対話を深めていく」とした。


化学通信 2002/9/9

塩ビ樹脂業界、中国のダンピングに意見書を提出

 鐘化・信越・大洋塩ビ(東ソーの子会社)の塩ビ樹脂メーカーの大手3社は先週末、経済産業省に対し中国が打ち出した塩ビ樹脂のアンチダンピングに対し日本メーカーの考え方をまとめ、意見書として中国政府へ提出する考えを明らかにし、同省のバックアップを期待するとしている。この3社の考え方に他社も同調しており、塩ビ樹脂業界の総意であるとしている。
 内容の主な諸点は、@中国の国内塩ビ樹脂メーカーが生産を行うと共に日本品の輸入販売も行っているケースがあリ、このメーカーが日本品のダンピングに同調するのは問題であるA中国の塩ビ加工メーカーで日本品を輸入利用し加工を行い、加工製品を第三国へ輸出し利益を出しているケースが多く、このようなケースをどう考えているのかB中国の塩ビ業界が日本品の入津により赤字採算になったとしているが、この実態に不明な点が多い等の点を指摘し、日本の塩ビ樹脂アンチダンピングに問題は多いとの意見書を提出する予定。


Chemnet Tokyo 2002/11/5

塩ビ・TDI訪中団出発「ダンピング事実ない」訴え

 中国政府のアンチダンピング調査に応訴中の大洋塩ビ、鐘淵化学工業など、塩ビ樹脂メ-カー4社代表は、5日朝10時40分成田発の日航機で北京に向けて出発した。帰国は7日午後の予定。同じくダンピング調査を受けているTDIメーカー代表も参加した。経産省からは本庄孝志化学課長が同行した。

 一行は、日野清司・大洋塩ビ社長、乾佐太郎・鐘淵化学工業専務、松田康夫・ヴイテック常務、東幸次・信越化学工業塩ビ部長の4人と、TDIメーカーから吉田浩二・三井武田ケミカル常務の合わせて5人。中国産業に損害を与えていないことなどを直接訴える。
 
 中国政府(対外貿易経済合作部=MOFTEC)は、今年3月29日付で日本、台湾、韓国、ロシア、米国を原産とする塩ビ樹脂(関税番号=3904-1000)を対象に「アンチダンピング調査」を開始すると公告した。中国内のメーカー5社が提訴したもので、これを受けてMOFTECは、輸入の実態や、国内産業への損害状況などについて調査を行っている。
 
 一方、TDI(トルイレン・ジイソシアネート)は同じく今年5月22日、日本、韓国、米国を対象に(関税番号=2929-1010)調査開始を公告。MOFTECは現在輸入実態や損害状況などを調べている。

中国 アンチダンピング乱発  日本政府反応 


(化学工業日報 2002/4/30)

日中共同フォーラム成功裡に  中国市場の重要度増す塩ビ産業
    WTO加盟で構造調整、事業機会広がる一方 環境対策も本格化へ

 化学工業日報社は中国化工報と共同で、東京・新宿の東京厚生年金会館に日中両国の関係者などを集め「塩化ビニル産業日中共同フォーラム」を4月22、23の2日間にわたって開催した。中国は、日本の樹脂生産量の4分の1近くが輸出されている一大消費地。爆発的な市場拡大も予想されており、いまや中国抜きで塩ビ産業を考えることはできなくなっている。今回のフォーラムでは、両国の業界関係者によって市場の現状や将来予測、環境問題への対応など幅広い観点からの講演や論議がなされ、今後の動向に関して多くの示唆が得られた。

 初日の第一講演では、張国民中国クロロアルカリ工業協会秘書長が、同国の樹脂メーカーが67社あり、そのうち
力ーバイド法が44%の生産量を占めていることなどを報告した。これを受けるかたちで字田川憲一東ソー理事が日本における塩ビ工業の状況について、需給実績や原料バランス、業界再編などの面から説明。前田宣忠新第一塩ビ常務は、土木・建設関係が大半を占める日本の樹脂需要など需給に的を絞って講演した。
 さらに干生春河北槍州化工実業集団副総経理が、中国では生産プロセスの石油法への転換が進んでいる点やEDC、VCMの輸入が増えている状況に触れるとともに、2001年は中国PVC業界が完全赤字にあったことを明らかにした。また同副総経理は、現在明らかになっている総拡張能力200万トン以上に及ぶ2005年までの新増設について、具体的な計画を明らかにして注目を浴びた。
 一方、李軍上海クロロアルカリ化工股イ分総経理は、中国のメーカーの規模が小さく、集中が進んでいないなか、WTO加盟後に業界の構造調整が進むと予測。中国政府が外国企業に貿易や国内の販売権利を与える見通しにあることも加え、リスクは少なくないながらも原料、樹脂の両面で外資のビジネスチャンスはますます広がると見通した。
 日本側の講演では、ほかに環境問題での講演が多くなされ、これから本格的な環境対応を余儀なくされる中国側の関心か集めた。乾佐太郎鐘淵化学工業専務は、リサイクルに関して国内法への対応状況や最新の技術開発動向を交えて紹介。久我直温信越化学工業環境保安部長はVCM放出対策を中心に説明した。また佐々木修一塩ビ工業・環境協会専務理事も塩ビの環境優位性を力説し、塩ビ樹脂の優れた特性や環境対応性を論じた牧野哲哉塩化ビニル環境対策協議会運営委員長の講演と合わせて、両国の参加者に勇気を与えた。
 フォーラムの最後を飾るパネルディスカッションでは、パネラーの日野清司大洋塩ビ社長が、汎太平洋における塩ビ樹脂需要は2005年には1400万トンに及び、うち中国が800万トンを占めると発言。先行き中国市場の重要性は、ますます高まるとの認識でおおむねの一致を得た。
 なお今回のフォーラムは、折りしも中国の反ダンピング調査の開始という時期に開催されたこともあり、相互交流のために意義があったという参加者が日中双方に少なからず散見された。


各社関連記事 

  2002/11   塩ビ再編、総仕上げ段階、相次ぐ撤退、需給均衡へ
       
ヴイテック
  2003/7   ヴイテック平井社長 インタビュー
  2003/3   三菱化学の冨沢社長、"基本方針"不変を強調
  2002/12   ヴイテック、塩化ビニル事業の競争力を強化
  2000/4   ヴイテック設立     同社発表     → 川崎有機その後
  1998/1   川崎有機 塩ビ新プラント完成
  1997/8   東亞合成徳島工場生産停止
  1996/5   三菱化学/東亜合成 提携
  1995/9   三菱化学、塩ビ樹脂設備を新製法に転換 水島 64 千tスクラップ、10万t建設へ
  1994/8   化成・油化合併で「化学」が塩ビ製販 化成ビニル 樹脂加工専業に
       
鐘淵化学
  2003/4   鐘淵化学、高砂工場に140m大型設備が完成
  2002/11   鐘淵化学、PVC生産を来春再構築
 〜高砂でS&B/鹿島で一部廃棄、チッソ・水島への生産委託も中止
  1995/10   塩ビ・ソーダ事業の強化について
       
信越化学
  2002/6   信越化学金川社長 「塩ビ設備休止せず」
  1995/8   塩ビ生産能力 20%アップ  鹿島工場、年55万トンへ 来年内に実施
      信越化学社史より 鹿島コンビナートヘの参加
       
大洋塩ビ
  2002/11   大洋塩ビ 呉羽から事業買収 国内5社体制に
  2002/3   大洋塩ビ、大阪旧設備年1万t廃棄
  2000/4   大洋塩ビ改組(1996/1設立 96/4 営業開始)   同社発表

     
東ソー ビニルチェーン
  1997/3   三井東圧/電化 塩ビ製造合弁「日本ピーヴィシー」を解消 
  1996/4   大洋塩ビ営業開始 (96/1設立)
  1995/9   東ソー・三井東圧・電気化学 発表 
  1995/7   東ソー・三井東圧統合の観測記事
       
新第一塩ビ
  2002/9   新第一塩ビ、高岡で塩ビペースト生産系列を3割休止
  2000/3   新第一塩ビ水島工場停止(下記)  
  1999/6   新第一塩ビ改組     同社発表    幻の大統合案
  1998/3   新第一塩ビ 第一塩ビ製造の呉羽持分を買収

 →1998/秋 
千葉老朽プラント停止、第一塩ビ製造を吸収合併
  1995/7   新第一塩ビ 営業開始    呉羽不参加発表   第一塩ビ製造 改組
  1994/8   日経がPVC一体化のスクープ(合成樹脂一体化の第1号)
  1990/7   第一塩ビ製造設立
       
旭硝子
  2002/11   旭硝子、国内の塩ビ樹脂事業から撤退
  2000/4   旭硝子、PVC生産委託を呉羽化学に一本化
       
チッソ
  2002/11   チッソ、水島停止 塩ビ事業撤退
  2000/7   チッソ水俣工場停止(五井に続き) 
  2000/4   チッソ、鐘化に塩ビ商権譲渡
       
セントラル化学
  2002/10   セントラル化学 2003/3に塩ビ事業から撤退
       
日本カーバイド
  2003/3   積水化学に塩素化塩ビ樹脂の商権譲渡  

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(海外関係)

  2002/10   タイ、PVC合弁エイペツクス 伊藤忠など日本側資本撤収完了
       
信越化学
  2003/6   オランダ信越PVC社VCM工場増設
  2002/11   シンテックの上期業績好調、経常利益120億円と過去最高
  2001/12   信越化学、米国でBordenより工場買収、米国能力231万トンに
  2000/11   信越化学の米子会社シンテック 第1期増設完成  2001/末 第2期完成
  1999/12   信越化学、欧州でシェル/アクゾノーベルJVの塩ビ会社ロビンを買収
  1996-98   シンテック増設 環境問題
  1973    信越化学社史より Shintecの設立と100%子会社化
  1960/11   信越化学社史より Ciresの設立
       
東ソー
  2002/12   東ソー・旭硝子、アジアで電解・塩ビ関連の次期投資機会を模索
  2002/6   東ソー 比で塩ビ8割増産
  2002/2   東ソー、比で電解塩ビ事業拡大

  東ソー、フィリピンの電解設備をIM法に全面転換
  2002/1   東ソー、中国で量産 2004年メド50億円投資 年10万トン
  2001/12   インドネシア提携先サリム持分 香港のEmperor Group に (発表文
  2000/6   東ソー、フィリッピンでの増設決定 (→ 16万トン)  一時延期
      東ソー、インドネシアの状況
  1998/7   東ソー、フィリッピンで塩ビコンパウンドJV
       
旭硝子
  2002/12   東ソー・旭硝子、アジアで電解・塩ビ関連の次期投資機会を模索
  2002/8   旭硝子、インドネシアの電解増強完成、塩ビ原料全量自製
  1999/11   旭硝子の「エングロ旭ポリマーアンドケミカル」(パキスタン)のPVC工場完成
       
鐘淵化学
  2003/3   Kaneka Delaware Corporation 解散
  2001/1   鐘化、マレーシアのペースト工場稼動
  1996/2   鐘化、米国にペースト新会社
       
三井物産の活動 

徳山積水工業

1964/1   設立 積水化学、日信化学工業(チッソ/信越JV)
1964/12  東洋曹達工業が参加:積水 50%/日信化学 40%/東ソー10%

1965/11  日信化学が持株をチッソに譲渡、
         のちチッソは積水に譲渡 →
積水 70%/東曹 30%

1966/1   南陽でPVCの生産を開始


日経産業新聞 2002/6/13

塩ビ設備休止せず 信越化学社長、会見で表明

 信越化学工業の金川千尋社長は12日記者会見し、国内の塩化ビニール生産について「当社の生産設備を休止する考えはない」と述べ、市場に供給過剰感が増す中でもつ設備を維持していく考えを明らかにした。設備やコスト面で優位な点を強調し、環境が改善すれば十分な競争力を発揮できるとの考えを示した。
 塩ビ業界では国内需要の低迷により、業界全体の赤字が年間100億円近いと言われている。信越化学の塩ビ事業も低迷する内需を輸出でカバーしている。金川社長は会見の中で「あるべき姿ではない。内需に見合った生産能力となるよう業界全体で考えるべきだ」と語った。ただ、信越化学が鹿島コンビナート(茨城県)に持つ塩ビプラントは年産55万トンと単一プラントでは国内最大規模、生産効率が最も高いため率先して休止する理由は見当たらない点を強調した。
 また、同社はこれまでの方針を転換し、中国でシリコーン樹脂の工場投資に踏み切った。「今後の経済成長を考えて決めた。需要に応じた慎重な投資ならば問題ない」として、50億円程度の中規模投資を基準に中国投資を解禁する方針を示した。


日刊工業新聞 2002/7/9

苦悩する化学会社、事業再々編のジレンマ PVC
  各社、再編に二の足

 再々編に向けて重い腰をあげたポリスチレン業界。「経営環境からして再統合の流れは当然」と口をそろえて歓迎ムードの化学首脳らの表情が、ある製品群に話がおよぶと一斉に曇った。それが塩化ビニール樹脂(PVC)だ。
 水道管や農業用フィルムなどに使われるPVC。だが、塩ビ己避の風潮に加えて、公共投資の減少が痛手となって国内需要が低迷。01年度の内需は16期ぶりに150万トン台を割り込んだ。
 02年3月期決算で「新第一塩ビ」などの統合会社を含めた国内9社の経常損失は100億円に達し、過去10年の累積損失は1400億円を超えた。
 経済産業省の調べによると、PVC 9社合計の01年末の年産能力約257万トンに対し、輸出を含めた総需要は約220万トン。この需給バランスの乖離が市況を低迷させ、結果として収益を圧迫している。
 「売れば売るほど赤字が膨らんでしまう」。あるPVCメーカー幹部は苦しい胸の内を明かす。疲弊した業績を好転させるためには「適正な生産能力を実現し、再編を加速させること」(本庄孝志経産省化学課長)しかない。「新第一塩ビ」の筆頭株主であるトクヤマの中原茂明社長は「将来、決断する時がくるかもしれない」と含みをもたせる。一方、米国のPVC事業で好調な信越化学工業の金川千尋社長も「国内の塩ビ樹脂事業は単独ではどうにもできない」と、再々編の可能性を否定していない。
 中でも注目されているのが「ヴイテック」。発足から2期目で債務超過に陥った同社は03年度までに20億円規模のコスト削減を目指してはいるが、じり貧の国内需要をにらめば先行きは険しい。親会社として「赤字の垂れ流しをいつまでも放置できない」(冨沢龍一三菱化学社長)というのは東亜合成も同じ。「あとはタイミングの問題」という声さえある。
 とはいえ苦しい台所事情は他社も変わりない。統合先と目される大手幹部も「赤字会社同士を足してもマイナスにしかならない」ともらす。進退を決めかねている中堅他社の悩みもそこにある。
 PVCメーカーは現在、国内に10社。「3グループに集約化されるならば、収益改善も期待できる」。だが、だぶついた生産設備が各社の再編に二の足を踏ませている。「やるべきことはたくさんあるが、収益改善こそが第一だ」。塩ビ工業・環境協会会長の武田正利鐘淵化学工業社長はこう声をり上げる。とはいうものの「乾いたぞうきんを絞る」ような合理化もほぼ限界にある。
 もはや設備の整理は不可避。にもかかわらず需給ギャップが広がる中でも、国内生産量で首位の「大洋塩ビ」や2位の信越化学工業、3位の鐘淵化学など各社は慎重な姿勢を崩していない。余剰な生産設備を止めることを割り切ったとしても、それにより崩れたエチレンの消費比率が他の誘導品の生産に影響を及ぼしかねないことは、あまりにも深刻。原料や誘導品が複雑に絡み合うコンビナート経営のジレンマを物語っている。


化学工業日報 2002/8/2 

旭硝子・タイ クロルアルカリ、高収益市場にシフト               
子会社化
 新増設PC向けなど、製品構造見直し  需要急拡大、増強も着手

 旭硝子のタイ法人 THASCO CHEMICALは変化してきたタイ国内のクロルアルカリ需要に対応するため、プロダクトミックスの見直しに着手、高収益の市場にシフトする体制を作る。バイエルのポリカーボネート樹脂第二期が稼働に入ったことや、三菱エンジニアリングプラスチック系のTPCC(タイ・ポリカーボネート)の第二期が来年5月に完成することなどに対応する。能力増強では、ラヨンエ場でかねて計画していた電解ソーダ設備の増設に着手、力性ソーダ換算で年産2万トンの増強を図るが、現状ですでに2工場ともフル操業が続いていることから、新規の需要に対応するためには製品構造見直しが必要と判断している。
 THASCO CHEMICALは現在、パパデン、ラヨンの両工場に電解力性ソーダ設備を持っている。生産能力はパパデン工場が力性ソーダ換算で年産106千トン、ラヨン工場が同125千トン。同社ではタイ国内のクロルアルカリ需要に対応するため、イオン交換膜法複極層(バイポーラ)の増設による年産2万トンの増強に着手しているが現状、すでに同社の予想を上回る需要の伸びが続いていることから、両工場ともフル操業となっており、年産2万トンの増強では供給が不足する可能性が強いとしている。
 力性ソーダ、塩素の大口需要としては今年春、バイエルが年産13万トンのポリカーボネート樹脂設備を完工、稼働入りしているほか、来年5月にはTPCCが年産8万トンの新設備を稼働に入れることになっている。
 こうしたことから、THASCO CHEMICALでは「塩素供給が約1万トン前後不足する可能性が高い」(川合社長)とみて、「プロダクトミックスの見直しに着手する必要が出てくる」(同)とみている。
 さらにタイ国内の同業者から副生塩酸などを購入して、供給増強を図ることも検討している。同社では、すでにバイエルのポリカーボネート樹脂第二期の増強に対応した供給体制の強化や収益改善の一環として昨年末、高度サラシ粉年産5千トンの生産から撤退している。THASCO CHEMICALでは「ユーザーに迷惑をかけないかたちでプロダクトミックスの見直しを実施、高収益シフトを図っていく」(同)考え。
 同社ではポリカーボネート樹脂などの増強により今後、「市場バランスはさらに改善され、力性ソーダは不足気味、塩素はバランスがとれる構造になる」(同)とみている。