日本経済新聞 2003/6/16          発起人会の開催

ナノテク振興300社連携 
 日立や松下 医療など実用化へ 政府支援、9月に協議会

 次世代の成長分野である
ナノテクノロジー(超微細技術)を活用した産業の振興に向け、政府が支援する産学連携組織が9月に発足する。日立製作所やベンチャーキャピタルなど約300社と大学の研究者らで構成。難病治療の効果を高める薬物送達システム(DDS)などの産業化を目指す。政府も来年度から予算面で後押しする方針で、産学官の連携で2010年に20兆円規模を見込む巨大市場の開拓を急ぐ。
 新組織は「ナノテクビジネス協議会」で、日立のほか松下電器産業、三菱商事など約30社が7月に発起人会を設置。幅広い業種や技術移転機関(TLO)、大学研究者などの参加を募り、9月をめどに正式に発足させる。会長には日立製作所の金井務会長が就任する予定だ。
 協議会は大学や公的研究機関が開発した最新技術を迅速に産業化するため、会員相互の情報交換や人材交流などを通じて技術移転や企業提携、ベンチャー企業の設立などを促す。
 日本はナノテクとバイオテクノロジーの融合技術である「ナノバイオ」や次世代のディスプレーなどを開発する「ナノデバイス(微小装置)」などの研究開発で比較的優位に立っており、これらの分野を中心に産学連携でいち早く実用的な商品化を進め、国際競争力を強化したい考えだ。
 ナノバイオ分野では薬の治療効果を高める技術であるDDSの開発などを柱に据え、副作用がなくがん細胞を死滅させるためのDDS製剤や、注射剤しかなかった薬を口から飲めるようにするDDS製剤化技術、難病の遺伝子治療に使う遺伝子の運び屋(ベクター)の実用化などを目指す。
 こうした活動を後押しするため、政府は来年度からナノバイオや革新的材料開発などの分野で「連携プロジェクト」を開始する方針だ。「民需誘発型予算」のモデルと位置づけ、新組織と連携しながら民間の活動を財政面で支援したり、必要な規制緩和を進めたりする予定だ。
 政府は今年度、ナノテク分野に米国並みの970億円の予算を計上したが、小泉純一郎首相が議長を務める総合科学技術会議で近く、実際に取り組む連携プロジェクトを選定。必要な予算要求をまとめ来年度予算概算要求に盛り込む方針だ。

政府が検討中のナノテク連携プロジェクト

産業分野と
市場規模(2010年予想)
技術領域
デバイス
(17兆ー20兆円)
絶対破られない暗号通信が可能な量子コンピューター
図書館情報をすべてつめ込んだ超小型記憶装置
波長の短い紫外線で素材を微細加工
バイオ
(6000億ー8000億円)
患部に直接投与できる薬剤(DDS)
環境エネルギー
(9000億ー1兆7000億円)
有害物質だけを取り込む超高感度環境センサー
超微細な穴を利用した石油製品の効率的な分離精製
材料
(6000億ー1兆4000億円)
金属結晶の粒を小さくして高強度化した鋼
極細化で吸湿性を高めた化学繊維
加工・計測
(8000億ー2兆2000億円)
排ガス中に含まれ、健康への影響が懸念される超微粒子の測定技術

 


2008/3/7 毎日新聞

「ナノチューブ」でがん マウスに中皮腫形状が誘発か 国立食品研確認

 電気製品などへの応用が期待される筒状の炭素ナノ材料「カーボンナノチューブ」を投与したマウスに中皮腫ができたことを、国立医薬品食品衛生研究所などが確認した。厚生労働省はナノ材料の安全対策や製造現場での予防策について報告書をまとめる方針。
 カーボンナノチューブは、発がん物質のアスベストと形状が似ていると指摘されている。ただ、アスベストをマウスに吸入させる実験では中皮腫が発生しにくいため、研究チームは腹腔内に注射する方法を採用した。
 マウス(生後9〜11週)を4群に分け、粒径が平均約100ナノメートルで長さの異なるカーボンナノチューブ、アスベスト(青石綿)、炭素ナノ材料で球形の「フラーレン」、何も含まない液体を注射。
 カーボンナノチューブ群では、腹腔内に中皮腫が16匹中14匹にできた。青石綿でも18匹中14匹で見つかったが、フラーレンと液体の群では腫瘍は見られなかった。腫瘍の近くにはカーボンナノチューブや青石綿が沈着。研究チームはカーボンナノチューブの細長い形状やマウス体内での分解しにくさなどが影響したと分析した。
 同研究所の菅野純・毒性部長は「今後の製品開発ではこうした性質を考慮し、労働者が工場内で吸い込まないよう大量生産前の現段階から予防策をとるべきだ。人での影響を予測するには体内でどのぐらい残留するのかが重要だ」と話す。
津田洋幸・名古屋市立大教授(発がん毒性)の話
 腹腔内投与という現実に起こりえない方法で評価した。製造過程でどの程度吸入する可能性があるのかを調べ、人へのリスクを評価する必要がある。