- 耐環境性と安定した記録動作が可能なスピンメモリスタを開発
- CEAの協力を得て、開発したスピンメモリスタがニューロモルフィックデバイスの基本素子として機能することを実証
- 実用化に向けて半導体工程における試作について東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センターと連携
- CEAと東北大学との国際連携で開発を推進
TDKは、スピントロニクス技術を用いた超低消費電力のニューロモルフィック素子、スピンメモリスタを開発したことを発表します。
スピンメモリスタがニューロモルフィックデバイスの基本素子として機能することをフランスの原子力・代替エネルギー庁(Commissariat à l'énergie atomique et aux énergies alternatives:CEA)の協力を得て実証し、今後は実用化に向けて東北大学の国際集積エレクトロニクス研究開発センター(東北大学)と連携していきます。消費電力を100分の1に低減できるニューロモルフィックデバイスの実用化を目指し、産学官の国際連携で開発を推進します。
スピントロニクス:電子が持つ電荷とスピンの両方、あるいはスピンの要素を用いる技術
近年のAIの発展やビッグデータの活用によりDX化が進み、生活が豊かになる一方で、膨大なデータの演算処理やAIの発展に伴う電力消費の増大という課題が更に顕在化してくることが予想されます。当社はDXに貢献すると共に、DXによる社会課題の解決にも貢献します。
人間の脳はおよそ20Wで動作しており、現在使われているデジタルAI計算と比較して、より複雑な判断を行うことができる超低消費エネルギーデバイスと言えます。ニューロモルフィックデバイス開発においては、人間の脳のシナプスとニューロンを電気的に模倣したデバイスを開発することを目指しており、メモリスタは脳のシナプスを模倣した素子です。従来の記録素子は0もしくは1のデータを記録するデジタル記録に対し、当社のスピントロニクス技術を用いて開発したスピンメモリスタは、脳と同じようにアナログで記録できることが特徴です。これによって脳で行っているような複雑な演算処理が低消費電力で可能となります。これまでの既存のニューロモルフィックデバイスに用いられているメモリスタは、抵抗の経時変化や正確なデータ書き込みには制御が困難、データを保持させるために制御が必要といった課題がありました。スピンメモリスタはそれらの課題を解決できる素子として、耐環境性と安定した記録動作が期待でき、リーク電流を低減することで省電力化が実現できます。
当社は2020年からCEAと連携を開始し、スピンメモリスタを用いたAIデバイスの開発に取り組んでいます。CEAの協力を得ることで、スピンメモリスタを搭載したAI回路(3素子×2セット×4チップ)を開発し、音声分離デモンストレーションで機能することを確認しました。これによって、AI回路においてスピンメモリスタが基本素子として機能することを実証しました。
このデモンストレーションでは、3種の音声(音楽とスピーチとノイズ)を任意の比率で混ぜても、開発したAI回路が3種の音声をリアルタイムで学習しながら分離することができます。一般的な機械学習では事前に学習したデータに基づいてAI動作をさせることに対して、本デバイスは環境の変化をリアルタイム学習できることが特徴です。
この度、当社はスピンメモリスタがニューロモルフィックデバイスの基本素子として機能することを確認し、要素開発のステージから実用化に向けた開発ステージにプロジェクトを移行します。実用化に向けた製品製造においては半導体製造工程とスピントロニクス製造工程の融合が必要となります。スピンメモリスタと類似した製品であるMRAMの製造ではこの融合が実現されており、当社はMRAMの研究・開発で有力な学術機関である東北大学 国際集積エレクトロニクス研究開発センター(遠藤哲郎 センター長)と共同で、融合技術開発を推進することを決定しました。
今後当社は、CEAと東北大学との産学官の国際連携で、AI消費電力を100分の1に低減できるニューロモルフィックデバイスの開発を推進していきます。
CEAからのコメント
Senior Fellow Dr.
Marc Duranton
「TDKとCEAの相乗効果は顕著であり、互いの専門知識が補完し合うことで、非常に創造的かつ建設的な協力関係が育まれています。この研究パートナーシップは、現代のAIアプリケーションの需要の高まりに応え、より持続可能で信頼性が高く、非常に効率的なソリューションの開発という新たな分野を開拓しています。」
東北大学からのコメント
国際集積エレクトロニクス研究開発センターセンター長、 教授遠藤 哲郎
「今後の情報化社会にとって、AI半導体は非常に重要であるが、AI処理能力の向上と低消費電力化が、喫緊の課題である。この社会的要請に鑑みて、メモリスタ技術とスピントロニクス技術を融合するTDK様の本AI半導体開発プログラムは非常に重要です。東北大学が保有する学術的知見と12インチ試作ラインでのモノづくり技術などで、東北大学が本事業に貢献できるように頑張って参ります。」
主な特長と利点
- AI計算における消費電力を脳の計算エネルギーに近づける技術
- スピントロニクスを用いたスピンメモリスタ
- スピンメモリスタはこれまでのメモリスタの信頼性の課題を解決できる
- 産学官の国際連携で、AIにおける社会問題の解決を目指す