日本経済の根本的問題(土地問題)


 確かに欧米と違い日本の場合は東京への一極集中の問題がある。

 アメリカの場合は地方都市に本社を置く企業が多いし、政治(ワシントン)と経済(ニューヨークほか)の中心も異なっている。

 それに対し日本では「お上頼り」のために政治の中心の東京に集まらざるを得ないという問題がある。

 逆に言えばいま議論されている首都機能の移転も今の政官財体制の下では同じことがおこる可能性がある。

 しかし現在の土地の価格は(最近の地価下落の後でも)正当なものとはいえない。

 地価は特定の利益集団のために意図的に上げられている

 国民はそれを当然と思いこみ、犠牲となっているのである。

 土地は田中元首相の例にみられるように利益を上げる絶好の手段である。

 土地も一般の財貨と同様に需要と供給により価格が決まる。供給に対して需要が多ければ価格は上がる。土地は輸入できないため、一極集中で需要が増えれば価格は上がるしかない。

 銀行にとっては価格が上がる一方の土地を担保にいくらでも融資ができる。

 大企業も昔から所有し簿価がただに近い土地が大きな価値を生み、それを担保に金を借りられ、それでまた土地やビルを買い、転売して利益を得る。
 事業で失敗しても土地を一部売れば穴埋めができ株主からの追求を阻止できる。土地の取引の仲介や斡旋で利益を得る人も、土地の含み益で株価が上がりそれで儲ける人も出る。

 「数年後には膨大なオフィス面積が不足する」との予測を調査会社が出し、更に地価が上昇する。

 こうしてバブルが生じ、土地を持たない国民は、外国では普通の生活をするのをあきらめざるをえない状況に追い込まれた。

 バブルがはじけ、地価が大幅に下落しても、状況はあまり変わらない。
今も土地の価格は高すぎるのである。

 では日本ではこれは仕方のないことなのか。

 実際には日本は土地が狭いためというのは意図的につくられた神話である。

 第一には東京への一極集中が問題である。官僚が政治の実権を握り、企業も護送船団方式の下で所轄官庁との日頃の接触、同業間での連絡が不可欠となった結果、企業は東京に本社を置かざるを得ず、本社を地方に置く企業も実働部隊は順次東京に移さざるを得なくなっている。これは先進国では日本だけに見られる状況である。

 しかし、東京に本当に土地がないであろうか。

 

  住宅面積は無限にある

 グレゴリ−・クラ−ク氏は『異説・日本経済 通説の誤謬を撃つ』のなかの『一極集中、何がそんなに悪いのか』の項で、
「東京の問題は過密ではなく過疎」であり、「土地の利用の仕方が悪い」と述べている。

 また同書の『地価上昇、恐るるに足りず』の項のなかで、リチャ−ド・ク−氏は「規制緩和により土地の生産性を高める」ことを主張している。 

 確かに東京タワ−に上って見れば、最近こそ新宿その他で高層ビルがちょこちょこと見られるが大部分はせいぜい数階の低層ビルである。また千代田区、中央区や港区などの中心地はオフィス中心で、夜間人口は激減し小学校の閉鎖も続いている。

 ニュ−ヨ−クのマンハッタンは世界の経済の中心であるが、ここは同時に住宅地でもある。有名なトランプ・タワ−はあの5番街の、しかもティファニ−の隣の数十階建ての高層マンションである。
ここから少し5番街を北に行くとセントラルパ−ク沿いに高級マンションが並んでいる。
 また、オフィス街のパ−ク・アベニュ−から少し東に入った3番街、2番街、1番街付近には多数の「アパ−ト」(日本の「マンション」よりはるかに広く立派)が並んでいる。

 土地がただのように安いアメリカでは郊外の住宅地はゆったりと利用されているが、マンハッタンなどの便利な場所では土地は極めて有効に利用されている。

 アメリカにもいろいろの規制はあるが融通無碍に解決している。例えばトランプ・タワ−は高さの制限にひっかかったが、これを避けるため隣のティファニ−のビルの空中権を買った。二つ合わせた平均で高さ制限を解決した。注1

 アメリカにもビルの建設に当たり敷地の一部に一定の空間を要求する条例がある。
 これに対しては、1−2階部分を公開の空間にして解決しているビルが多い。この部分の利用を放棄する代わりにそれ以上の階はフル面積を使用し延床面積をはるかに増やしている。

 これに比べて東京の場合はマンハッタンよりもはるかに高い土地を非常に効率悪く利用し、しかも昼間オフィスとして利用するだけである。

 東京の地価は異常に高いが、数十階にすれば1階当たりでは安くなる。
地価が下がるのを待たなくとも、今のままでも安く利用できる。
逆にそうなれば需給関係で自動的に地価も下がることになる。

 仮に低層の雑居ビルの集合の区画(その中の道路も含めて)を整理し直して高層ビルを建てれば、アメリカ並みの住宅環境が可能となるだけでなく、道路も拡幅できる。

 電線や電話線を地下の共同溝に入れれば電柱の撤去で更に道路が広がる。道路が広がると郊外にも簡単に行ける。

 日本は土地が狭いと言いながら農村地帯は本当の過疎であるためコンクリ−ト・ジャングルでの生活が嫌な人は平日は職住近接で都市に住み、休日には農村で自然の中で暮らすというのも夢ではなくなる。

 例えば山手線その他の線路や東京近辺の操車場の上に人口地盤をつくり、その上に高層住宅を建設することも考えられる。土地を買う必要はなく、適切な価格で線路、操車場等の上空の不要の空間の使用権だけを政府が買えばよい。注2

 平成11年1月29日に「生活空間倍増戦略プラン」が閣議決定された。
小渕内閣の目玉といわれるが、これが本当に出きれば貿易黒字問題は解決する。
(参考)生活空間倍増戦略プラン

 しかし、今のやり方では不可能である。

    

                     次は 日本経済の根本的問題3 (規制の排除)

 


注1 2002/5/24  日本経済新聞

 東京都周辺の土地有効活用 余った容積率取引可能に   
    都が認める 高層建てやすく

 東京都は、余った敷地の容積率を別の敷地に移すことを認める。対象は千代田、中央両区にまたがる大手町、丸の内、有楽町地区の約117ヘクタールで、29日に開く東京都都市計画審議会で正式に決める。容積率の移転で高層建築物が建てやすくなる。まず、大規模なビル建て替えが相次いでいるJR東京駅周辺で土地の有効利用を促進する。
 
容積率移転は行政が定める区域内で余っている容積率を別の敷地の容積率に上乗せして使う仕組み。所有者が異なる土地、建物の間で容積率を移す場合は、案件ごとに契約を結び、都に申請する。  
 移転する条件は容積率を使い切っていない歴史的建造物などが建っていること。2000年の都市計画法などの改正で新設した「
特例容積率適用区域制度」に基づく初の指定となる。  
 一体的な街区の中で容積率を融通する制度はあったが、離れたビル同士で移転できるようになるのは初めて。今後、移転の実例が増えてくれば、複数の地権者や開発事業者間で容積率をやりとりする新たな市場が生まれる可能性もある。
 
 JR東京駅とJRの線路の上は容積率が900%ある。都とJR東日本は赤れんが造りの丸の内駅舎を保存・復元して駅周辺を整備することにしており、容積率にかなり余裕が出る。
 一方、駅周辺では新丸ビルなど大規模な建築物の建設が進行中。今後の大規模な建て替えやビル建設時に、駅舎の容積率を利用できることになる。

▼容積率 ビルや住宅など建築物の延べ床面積が、敷地面積に対してどのくらいの割合になっているかを示す数字。建築.基準法で土地の用途別に容積率を決めることになっている。例えば東京駅周辺は商業地域のため、容積率は900−1000%と決められている。地上に公開空地を設けることなどを条件に容積率を上乗せできる制度もあるが、大都市圏の再開発を促進するために一段の容積率の緩和を求める声が根強い。


2002/5/30 日本経済新聞

JR東京駅の容積率移転 三菱地所のビル建て替え
  33階建て超高層ビルに

 三菱地所は29日、東京・丸の内に保有する「東京ビルヂング」の建て替えで、JR東京駅が使い切っていない容積率を移転して、地上33階の超高層ビルを建設すると発表した。2001年5月に施行された「特例容積率適用区域制度」を活用、東京都の都市計画審議会が同日、容積率移転を認める制度を決定したのを受けた。離れた場所の容積率移転は日本では初めて。

 三菱地所の本社がある東京ビルヂングは1951年に完成した10階建てのオフィスビル。延べ床面積は6万8200平方メートルで、容積率は800%ほど。老朽化が進んでおり、昨年春に建て替えを明らかにしていた。現行の容積率の限度は1300%だが、これに東京駅分の容積率を含めて1650%にまで増やす。新しいビルの延べ床面積は約15万平方メートルとなる。来年夏に着工、2006年度中に完成予定。総事業費は約450億円。
 東日本旅客鉄道(JR東日本)は建て替えの共同事業者として加わり、東京ビルヂングの一部を保有し、テナント賃料得る。


注2 2000/7/23日本経済新聞

線路上に駅前広場 人工地盤で再開発
 高層住宅を併設 建設・運輸省

 建設、運輸両省は大都市間の鉄道線路上の空間に人工的な地盤を建設して、歩行者が自由に行き来できる駅前広場づくりに取り組む。線路で分断されている駅周辺を面でつなぐことにより、大規模な歩行者空間に改造する再開発事業。職住近接型の高層住宅やスーパー、ホテルなど商業施設を歩行者空間の近くに建設する。東京都内など複数の地区を選び、事業費を2001年度予算で概算要求する。
 この再開発事業は都市の中核である駅の利便性を向上させるのが狙い。
「ステーションオアシス構想」と名付けた。両省は来年度予算で新設される「日本新生特別枠」に盛り込むことを目指している。同特別枠は情報技術(IT)や都市基盤整備へ特別に予算配分することになっている。
 駅周辺部は線路、駅によって市街地が分断されている例が多い。人工地盤によってこうした市街地を面でつなぐと、歩行者は階段を使わず駅周辺施設を自由に移動できる。高齢者や障害者も移動しやすいよう段差などのないバリアフリーとする。
 線路の上の人工地盤は東京・新宿駅南口の再開発の例があるが、今回は高層住宅も併設するのが特徴。住民は通勤・通学に要する時間を短縮したり、屋根付き歩道を通じて傘を使わずに通勤できたりするようになる。 駅前広場は国からの補助を得て都道府県などが設置する。
自治体はJRなど鉄道事業者から空間の提供を受け、この一部を使ってスーパーやホテルを経営する事業者から使用料を徴収する。駅前広場建設に対する国の補助率を現在の3分の1から2分の1に引き上げる。併設する住宅については、都市基盤整備公団が賃貸住宅を、民問の不動産会祉が分譲マンションを建設することを見込んでいる。
 また、両省は来年1月に国土交通省に統合されるのに合わせて「通勤時間を短縮するための行動計画」も作成する。鉄道の乗り換えが容易なターミナル駅の建て替えや鉄道の高速化により、東京圏で通勤・通学時間が90分以上かかる人の割合を25%(1995年時点)から20%以下にすることを目標にする。