ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから 目次
これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
最新分は http://blog.knak.jp/
7月28日のブログで、ニューヨーク市場の原油先物相場のWTI原油価格が下降に転じ、15日には140ドルを割り、17日には130ドルを割って、25日の終値は123.26ドルとなったと伝えた。
但し、このまま下がり続けるかどうかは分からないとした。
2008/7/28 最近の原油事情
その後も、一時的な値上がりはあったものの、下降を続け、15日には一時、111.34ドルまで下がった。(終値は113.77ドル)
途中でトルコのパイプライン爆発、グルジア紛争などで一時戻したが、すぐに下落に転じている。
13日には、同日発表の米週間石油在庫統計でガソリン在庫が予想以上の大幅減となったことが理由とされ、急反発して
2.99ドル高となった。
(ガソリン在庫は予想の3倍の640万バレルの減少となったが、これは製油所の稼働率が85.9%に止まったためで、米国のガソリン消費は過去4週間で2%減少している。)
しかし景気減速に伴う需要鈍化懸念が売りを誘発し、再び下落した。
年初来平均価格は114.6ドルとなっている。
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背景には最近のドル高と、世界的な景気減速に伴う需要鈍化懸念がある。
7月に欧州経済の悪化懸念でドル高・ユーロ安に転じた。
欧州連合は8月14日、ユーロ圏15カ国の第2四半期のGDPが前期に比べ実質ベースで0.2%減となったと発表、マイナスは1999年の通貨統合以来初めて。加盟27カ国全体でも0.1%減となった。
また、米国の投機規制強化の動きを嫌ったマネーが商品市場から米ドルに流入している。
最近の商品市況は、原油(最高値比 23.3%のダウン)のほか、金(20.3%)、白金(34.3%)、銅(20.0%)、アルミ(18.0%)、トウモロコシ(33.5%)、大豆(26.6%)、小麦(40.8%)など、軒並最高値から大幅に下落している。(2008/8/14 日本経済新聞)
米国エネルギー省のエネルギー情報局(EIA)は8月12日、エネルギー短期見通しを発表した。
http://www.eia.doe.gov/emeu/steo/pub/contents.html?featureclicked=1&
今後の18ヶ月の石油市場のファンダメンタルからは、需給緩和と価格弱含みが予想される。
米国とグローバルの石油需要の伸びの鈍化、第3四半期からのOPECの原油・NGLの能力増、非OPECでの供給増があいまって、OPEC原油に対する需要減、過剰能力の増加が予想される。
景気のダウンがもっとひどいとか長引くことが予想されたり、高価格のために予想以上に需要が減少した場合、値下げ圧力が更に強まる。
勿論、需要が予想以上に増えたり、能力増が予想以下の場合に、値下がりが少なかったり短期間となる可能性もあり、地域紛争やハリケーン、OPECの自主減産などが価格に影響を与える可能性もある。2008年上半期の世界の需要は前年比で日量50万バレルの増加となった。
OECD以外で日量130万バレル増加したが、米国需要が80万バレル減少した。
2008年下半期は日量100万バレルの増、2009年は通期で日量100万バレルの増(前回予想より46万バレル減)が予想される。米国の需要は1-5月が前年比で日量90万バレルの減、6-7月が40万バレル減となった。
1-6月の80万バレルの減少は1982年上半期に前年比80万バレル減となって以来の26年ぶり。WTI価格は2007年平均が72ドルであったが、2008年平均は119ドル、2009年は124ドルと予想する。
(8/15までの単純平均は114.6ドルで、年平均119ドルになるには残り期間の平均は127ドルとなる)
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なお、米連邦取引委員会(FTC)は13日、石油産業による相場操縦を禁じるための規制案を公表した。
原油やガソリン、天然ガスなどの市場を人為的に操作するのを目的にウソの情報を流すなどの不正行為をした者に対し、1日あたり最大100万ドルの罰金を科せるようにするというもので、9月18日まで一般の意見を募る。
The FTC's proposed rule would make it unlawful for any person, directly or indirectly, in connection with the purchase or sale of crude oil, gasoline, or petroleum distillates at wholesale:
a. To use or employ any device, scheme, or artifice to defraud, b. To make any untrue statement of a material fact or to omit to state a material fact necessary in order to make the statements made, in the light of the circumstances under which they were made, not misleading, or c. To engage in any act, practice, or course of business that operates or would operate as a fraud or deceit upon any person.
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東京市場ではドバイ原油、ナフサとも、WTIに合わせ下落している。
ドバイ原油は7月4日の過去最高 140.60ドルに対し、15日は108.45ドルと、32ドルの下落となっている。
オープンスペックナフサも、7月4日の過去最高
1,248ドル/トンに対し、12日には980ドルとなった。1,000ドル以下となったのは5月13日の991ドル以来初めて。(15日終値は999ドル)
2008/8/19 スペインのCEPSA、上海でフェノール/アセトン生産を計画
スペインの石油・石油化学メーカーCEPSA(Compania Espanola de Petroleos)
は上海ケミカルパークでフェノール(年産25万トン)/アセトン(15万トン)プラント建設を計画している。政府の認可待ちの状況。
Sunoco/UOP 法を採用し、キュメン法で生産する。キュメンは当面は輸入する。
上海ケミカルパークではBayer がPCプラントを持ち、10万トンを稼動中(第ニ期で倍増)で、同地に20万トンのビスフェノールAの建設を計画しており、これにフェノールを供給する考え。
同地にはシノペック高橋石油化学がフェノール(124千トン)、アセトン(76千トン)、キュメン(162.4千トン)を生産しているが、こちらは同地に建設中の上海石化と三井化学のビスフェノールA(120千トン)に供給する。
BPA | PC | |
Bayer | 立地:上海ケミカルパーク 能力:200千トン(時期未定) |
立地:上海ケミカルパーク 能力:200千トン(第一期 100千トン稼動) JV :Bayer 90%/上海クロルアルカリ10% |
三井化学 | 立地:上海ケミカルパーク 能力:120千トン(建設中) JV :上海石化三井化工 (Sinopecと50/50) |
(帝人化成に供給) 立地:浙江省嘉興市 能力:100千トン(60千トン) |
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CEPSAは石油・石油化学の総合メーカーで、石油の探鉱・開発から精製、輸送、販売と合成樹脂、合成繊維、洗剤原料等の生産販売を行っている。
石油化学については、これまで、子会社ERTISA(フェノール)、Petresa(アルキルベンゼン)、Interquisa (PTA)で製造販売し、製油所で生産したプロピレンやBTXなどの石化製品についてはPetrocepsa で販売していたが、本年5月、これらを1社にまとめ、
CEPSA Quimica
とすることを決定した。
新しいCEPSA Quimica の体制は以下の通り。
製品 | 従来 | 能力 (千トン) | 備考 |
洗剤原料(LAB) | Petresa (Spain) | 220 | |
Petresa-Canada | 120 | CEPSA 51%/SGF 49% | |
Deten Quimica -Brazil | 220 | CEPSA 72%/Petrobras 28% | |
Polyester
原料 (PTA、DMT、PIPA: purified isophthalic acid) |
Interquisa (Spain) | PTA 750、DMT 80、PIPA 30 | |
Interquisa-Canada | PTA 500 | CEPSA 51%/SGF 49% | |
Phenol
/ Acetone/Cumene Methylamines |
Ertisa (Spain) | Phenol
550/ Acetone 340 (現状は合計で970) Cumene 800 |
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石化製品 (BTX, PX, OX, シクロヘキサン、プロピレン) |
2つの製油所で生産 Petrocepsa で販売 |
1,110 |
注 SGF はSociété Generale de Financement du Quebec
なお、昨年12月にCEPSA はスペインのLa Seda
de Barcelona, S.A に対してInterquisa を595百万ユーロで売却することで合意した。カナダ事業の持分(51%)を含む。
見返りにCepsa はLa Seda の株式
12% を取得することとなっていた。
La Seda は2006年に、元はDuPontとトルコのSabanci の合弁で、Sabanci の100%子会社となっているAdvansa から英国Wilton のPTA工場 (670千トン)と英国とトルコのPET工場(合計能力 280千トン)を買収している。
しかし、本年1月に入り、La Seda の株価が12月中旬の2.40ユーロから1.44ユーロに急落したため、この取引は無期限に延期された。
2008/8/20 BASF、スチレン系事業の売却準備 進める
BASFは2007年7月、スチレン事業一部の「戦略的な選択肢」を検討していることを発表した。
効率的な最適化対策と、戦略の微調整により、BASF のスチレン事業の業績は大幅に向上しているが、収益性を適切な水準とするためには、さらなる見直しが求められているとし、他のオプションとともに事業売却も検討するとしている。
同社は2007年8月の第2四半期の業績発表の席上、
スチレン事業の一部の売却に関して、買い手候補のある1社と極めて建設的な交渉を行っていることを明らかにした。
この交渉相手がBasell (元 BASF/Shell
の50/50JV)であると伝えた新聞もあった。(現在の相手は不明)
売却対象はコモディティのSM、PS、ABS、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体)であった。
2007/8/6 BASF、スチレン事業一部の売却交渉進展
BASF は2008年1月1日に組織改正を行なった。
Plastics部門では、Styrenics の売却を前提に、Styrenics のなかで売却対象外のSpecialty Plastics とFoams をStyrenicsからPerformance Polymersへ移動した。
2007/12/12 BASF の組織改正
BASFは2008年2月に、売却交渉が進んでおり上半期中に決定するだろうとしていたが、結局妥結しなかった。
金融情勢の悪化で、買い手が自己資本を増やす必要が出たこと、金利の上昇などが理由で、BASFでは無理に安売りする必要なしとしている。
ーーー
BASFは8月18日、スチレン部門売却準備を更に進めることを決めた。
2009年1月付けで売却対象事業を子会社(複数)に分離する。
また、これまで対象外としていたスチレンコポリマー事業を分離対象に加える。ドイツのLudwigshafen、Schwarzheide 両工場のコポリマー生産プラントとグローバルな販売流通組織が新しく分離対象となる。
BASFに残るFoams (発泡PS)事業はPerformance
Polymers division に帰属する。
BASFでは今回の再編は、スチレン事業の将来の成功を推し進めるとともに、BASF外でのオプションをBASFに与えるとしている。
この結果、新しい子会社(複数)は以下の体制となる。
製品
・Commodities :
SM
PS
ABS
SBS (スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体)
・コポリマー:
Luran®
(SAN) :スチレン/アクリロニトリル
コポリマー
Luran®
HH (AMSAN):α-Methylstyrene-acrylonitrile
copolymers
Luran®
S (ASA):styrene acrylonitrile copolymers
that have been impact-modified with acrylic ester rubber
Terblend®
N (ABS/PA):ABS/Polyamide
6
Terluran®
HH (ABS-High Heat):modified ABS that meets the
requirements for thermally stressed components)
Terlux®
(MABS):Methyl methacrylate-acrylonitrile-
butadiene-styrene-polymer
Styroflex®
(SBS):
Styrene/butadiene block copolymer
製造基地
Antwerp,
Belgium
Ludwigshafen and
Schwarzheide, Germany;
Altamira, Mexico
São José dos Campos, Brazil
Dahej, India
Ulsan, South Korea
2008/8/21 BHP Billiton 2008年6月期決算
BHP Billiton は8月18日、2008年6月決算を発表した。
増収増益で、売上高、純利益とも7年連続で最高益となった。
営業損益(金利控除前)は241億ドルとなり、前年比で22%増、前々年比では54%増となった。
売上高利益率は40.6%にも上る。
部門別の売上高、営業損益の推移は以下の通り。(単位:百万ドル)
Sales | Profit from Operations | 売上高 利益率 |
||||||
2006/6 | 2007/6 | 2008/6 | 2006/6 | 2007/6 | 2008/6 | 前年比 | 2008/6 | |
Base
Metals (銅、銀、鉛、亜鉛、モリブデン、ウラン、金) |
10,294 | 12,635 | 14,774 | 5,873 | 6,875 | 7,890 | 115% | 53.4% |
Petroleum | 5,230 | 5,885 | 9,547 | 2,968 | 3,014 | 5,489 | 182 | 57.5 |
Iron Ore | 4,782 | 5,524 | 9,455 | 2,533 | 2,728 | 4,631 | 170 | 49.0 |
Manganese (マンガン) | 1,037 | 1,244 | 2,912 | 132 | 253 | 1,644 | 650 | 56.5 |
Aluminium (ボーキサイト、アルミナ、アルミ) |
5,084 | 5,879 | 5,746 | 1,186 | 1,856 | 1,465 | 79 | 25.5 |
Stainless Steel Materials (ニッケル) | 2,955 | 6,901 | 5,088 | 878 | 3,675 | 1,237 | 34 | 24.3 |
Energy Coal (燃料炭) | 3,965 | 4,576 | 6,560 | 326 | 305 | 1,057 | 347 | 16.1 |
Metallurgical Coal (原料炭) | 3,941 | 3,769 | 3,941 | 1,834 | 1,247 | 937 | 75 | 23.8 |
Diamonds
and Speciality Products (ダイヤ、チタン) |
1,263 | 893 | 969 | 287 | 197 | 189 | 96 | 19.5 |
全社 | 548 | 167 | 481 | -301 | -426 | -394 | ||
合計 | 39,099 | 47,473 | 59,473 | 15,716 | 19,724 | 24,145 | 122 | 40.6 |
金利 (net) | -600 | -512 | -662 | |||||
税金 | -4,582 | -5,716 | -7,521 | |||||
税引後利益 | 10,534 | 13,496 | 15,962 | 118 | 26.8 |
鉄鉱石、石油、マンガン、燃料炭などが前年比大幅増益となったのに対して、アルミ、原料炭、ダイヤ、ニッケルなどが減益となった。
これはほとんどが価格変動によるもので、同社によると、本年6月と前年6月の価格差は65億ドルに達するが、鉄鉱石、石油、マンガン、燃料炭、銅が大幅な値上がりメリットを得たのに対して、ニッケルは大幅値下がり、アルミ(ドル安が影響)も若干の値下がりで、原料炭、ダイヤなどはほとんど変動がない。(原料炭は今後大幅に値上がりする)
ーーー
付記
Rio Tinto は8月28日、2008年上期(1-6月)の中間決算を発表した。
大幅増収増益となっている。(単位:百万米ドル)
アルミの増収増益はRio Tintoが2007年10月にAlcan
を買収したため。
2007/7/17 Rio Tinto、Alcanを買収 アルミ生産で世界最大に
2008/上 | 2007/上 | 増減 | |
Gross sales revenue | 30,005 | 13,930 | 16,075 |
Consolidated sales revenue | 27,192 | 12,055 | 15,137 |
Operating profit | 9,838 | 3,797 | 6,041 |
Profit before finance items and taxation | 10,751 | 4,662 | 6,089 |
Profit before taxation | 9,686 | 4,659 | 5,027 |
Net earnings | 6,914 | 3,253 | 3,661 |
Gross sales | EBITDA | Net earnings | |||||||
2008/上 | 2007/上 | 増減 | 2008/上 | 2007/上 | 増減 | 2008/上 | 2007/上 | 増減 | |
Iron Ore | 8,086 | 3,780 | 4,306 | 4,860 | 1,941 | 2,919 | 2,877 | 1,099 | 1,778 |
Aluminium | 12,562 | 1,766 | 10,796 | 2,519 | 739 | 1,780 | 995 | 406 | 589 |
Copper & Diamonds | 4,705 | 4,769 | -64 | 2,951 | 3,268 | -317 | 1,693 | 1,905 | -212 |
Energy & Minerals | 4,649 | 3,589 | 1,060 | 1,510 | 905 | 605 | 679 | 370 | 309 |
Other Operations | 3 | 26 | -23 | -73 | -6 | -67 | -39 | -4 | -35 |
(Total) | (11,767) | (6,847) | (4,920) | (6,205) | (3,776) | (2,429) | |||
costs ほか | 1,723 | -224 | 1,947 | 709 | -523 | 1,232 | |||
償却費 | -2,739 | -1,961 | -778 | ||||||
金利・税金前損益 | 10,751 | 4,662 | 6,089 | ||||||
Net | 30,005 | 13,930 | 16,075 | 6,914 | 3,253 | 3,661 |
2008/8/22 Invista、ナイロン原料技術でDuPont とRhodia を提訴
Koch Industries が2004年に DuPont から買収した Invista は、本年春に、DuPont から買収した工場に安全面、環境面で広範かつ重大な違反があったとして8億ドルの補償と、懲罰的賠償を求め、マンハッタンの連邦地裁に訴訟をおこした。
2008/4/2 Invista、DuPontに8億ドル以上の損害賠償請求
Invista は8月15日、DuPont 及び フランスのRhodia (Rhone-Poulenc の化学品事業部と繊維・ポリマー事業部が分離独立)をNew York地裁に訴えた。
今回の訴訟はナイロン原料のアジポニトリルの製造技術に関するもので、 Rhodia とDuPont が組んで、Invista の機密の、世界のトップレベルの技術を、アジアでの競合工場建設のために不当に利用しようとしているとしており、これの差し止めと、被害に対する補償を求めている。
Invista によると、同社はこの技術を42億ドルの買収の一部として、DuPont
から取得した。
この際、DuPont
は一定期間について、Invista
との競合及び競合メーカーへの投資を禁止する契約にサインしており、まだ有効である。
Rhodia はInvista子会社とRhodia とのフランスのJVから不当にこの技術を入手し、アジアで工場を建設しようとしており、DuPont は最近、この計画に出資することを明らかにしたとしている。
ーーー
DuPont はこれに対し「事実無根」とし、強く対抗すると述べた。
DuPont は科学企業として自社の知的財産権の保護と他社の知的財産権の尊重に注意を払っているとしている。
付記
Rhodiaはこの訴訟を
“completely without merit”とし、同社がポリアミド分野での
Invista のトップシェアを脅かすのを避けるためのいろいろの試みの一つであると批判した。
Invista は2007年10月にテキサスで同じようにRhodia を訴えたが、本年8月15日にこれを自発的に取り下げている。
付記
2008年10月30日、ニューヨーク地裁は手続面の問題で訴えを却下したが、Invista は11月6日、修正して再提訴した。
付記
2008年11月、DuPont は、ナイロン6.6
エンプラで特許を侵害しているとして、逆にInvistaを訴えた。
エンプラについては権利を与えていないとしている。
付記
Rhodiaは米裁判所に対し、本件はフランスでの調停でのみ決着すべきものと主張したが、2010年2月、裁判所はこれを否定、契約上、調停にかける問題でないと決定した。
2010年9月13日、DuPontとInvista は3つの訴訟(polymers technology、adiponitrile technology、disputes related to existing supply agreements)で和解したと発表した。両社の権利と義務を明らかにしたとするが、詳細は明らかにしていない。.
Rhodiaとの争いについては不明
DuPontの安全・環境問題についての争いについても不明
2008/8/23 三菱ガス化学、汚染土壌除去費用訴訟で 2審でも敗訴
三菱ガス化学の前身の日本瓦斯化学が所有していた工場跡地で見つかった有害物質をめぐり、東京都が公害防止事業者負担法に基づき除去費用の一部約11億6000万円の負担を命じたのを不服として、三菱ガス化学が決定取り消しを求めた訴訟の控訴審(一審は同社の敗訴)の判決が20日、東京高裁であった。
大坪丘裁判長は、「有害物質は、跡地で以前操業していた別の会社が更地にした過程で投棄された」と判断、「以前、操業していた会社を引き継いだ日本瓦斯化学と合併した三菱ガス化学は、法律の『公害の原因を作った会社』にあたり、除去費用を負担しなければならない」として1審東京地裁判決を支持、三菱ガス化学の控訴を棄却した。
付記
三菱ガス化学は9月8日、本件訴訟について、8月29日付で最高裁判所に対し上告手続および上告受理申立手続を行ったと発表した。
当該行政処分は、汚染原因者の調査が不十分で、法律の適用に誤りがあることから、取り消しを求めて提訴し係争を続けてきたが、8月20日付の控訴審判決には全く理由がなく、過去の判例にも違背しており不当であると判断したとしている。付記
最高裁は2010年5月25日付で同社の上告を棄却する決定を出し、東京都の決定の取り消しを求めた同社の請求の棄却が確定した。
事態:
東京都下水道局が、2000年2月ころ、共栄化成の工場跡地である東京都大田区大森南の区道で行った工事の掘削土からPCBが検出された。
大田区でボーリング調査を行った結果、高濃度のPCB及び土壌環境基準の16倍に当たるダイオキシン類が検出された。
東京都は、工場撤去時に埋められたとして、ダイオキシン類対策特別措置法及び公害防止事業費事業者負担法に基づき、「土壌汚染対策計画」及び「費用負担計画」を告示、2001年と2003年に計約11億6000万円の除去費用を三菱ガス化学に負担させる決定をした。
三菱ガス化学は2001年11月にこれを不当として決定取り消しを求めた訴訟を行なったが、2006年2月、地裁は請求を棄却した。
今回の裁判は、三菱ガス化学がこの判決を不服として控訴していたもの。
背景:
共栄化成は昭和28年、東京都大田区の工場で無水フタル酸の製造、販売を開始した。
同社は昭和35年ころ以降、原料ナフタレンを過熱して液状にするための熱媒体として、燃えにくいPCBを使用した。
日本瓦斯化学は、無水フタル酸の安定供給を確保することを目的として、昭和35年に共栄化成の株式10万株を取得、昭和37年には30万株を取得して100%子会社とした。
更に、工場用地も買い取って同社に賃貸した。
共栄化成はその後、業績が悪化、昭和39年2月に不渡りで事実上倒産した。操業を停止し、債権者とのやり取りの結果、金融機関に対する借入金の代位弁済、一般の債権者からの債権の買取り等により、日本瓦斯化学が共栄化成に対する唯一の私債権者となった。
日本瓦斯化学では、水島工場で無水フタル酸の精製増加を計画し、共栄化成の精製装置の一部を買い取ることとした。
昭和39年末から40年3月にかけて、同社が斡旋・選定した外部業者に委託して、工場の建物等の解体作業を行った。
工場設備は撤去され、工場跡地は更地化され、共栄化成は解散した。
その後、日本瓦斯化学の所有する土地は分筆され、一部は大田区に売却され、他も各社に売却された。
昭和46年、三菱江戸川化学と日本瓦斯化学が対等合併し、三菱ガス化学が発足した。
ーーー
東京地裁判決:
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060406111718.pdf
争点は次の2点であった。
(1) 本件PCBは、共栄化成の工場跡地を更地化した際に地中に排出したものか否か。
(2)
三菱ガス化学が、負担法3条の規定する「事業者」に該当するか否か。
判決は以下の通り。
(1)について
工場の建物設備の撤去及び跡地の更地化の過程で、広範かつ大がかりな土地の掘削と埋め戻しが行われ、その際、工場で熱媒体として使用されていたPCBが、潤滑油として使用されていた油分及び解体、撤去時に生じたレンガ片、コンクリート塊、ガラ、瓦礫類等とともに、埋め戻しの土に混入され、地中に埋められた蓋然性は高い。
共栄化成以外の第三者によるPCBの使用あるいは地中への排出を疑わせる具体的事実がうかがえない。
PCBは加熱により劣化しにくく、再利用が可能であることから、共栄化成が通常の操業継続中の時期に、大量にこれを投棄する理由が存したとは考え難く、また、大量に地中に漏出したことをうかがわせる証拠もない。
(2)について
三菱ガス化学は、共栄化成がPCBを工場跡地の地中に排出したしても、共栄化成と別人格であり、自らPCBを使用する事業を継続して行っていたわけではない日本瓦斯化学を合併した三菱ガス化学は、「公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動」を行った事業者に当たるとはいえないと主張した。
しかし、負担法は、公害が環境に及ぼす有害な結果の重大性にかんがみ、公害防止事業に要する費用を、広く当該公害の原因を作出した者に負担させることを企図しているものと解され、このような法の趣旨にかんがみると、負担法3条の「当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動」を行った事業者について、自ら当該PCBを使用する事業を継続して行う者に限定して解する理由はなく、また、その事業活動を継続的なものに限定する理由もないというべきである。
ダイオキシン類が排出されたのは、共栄化成の私的整理から清算に至る過程でのことで、日本瓦斯化学は、 | |
・ | 当時、共栄化成の全株式を保有し、役員を派遣するなどして経営を支配しており、 |
・ | PCBを使用していた工場の敷地及び建物の約半分につき所有権を取得して共栄化成に賃貸し、 |
・ | 共栄化成が事実上倒産した後、残存原材料を日本瓦斯化学の水島工場で利用する目的を有し、共栄化成の従業員の多数を雇用するなど、実質的に共栄化成の営業の一部又は重要な財産の一部を承継する一方、 |
・ | 共栄化成の他の債権者からその債権を買い取り、自己の債権回収を進める中で、 |
・ | 工場撤去や資産の売却方針の決定等に主導的役割を果たしていたもので、工場設備の撤去の作業に対して指揮監督を及ぼすことが可能であったことが認められる。 |
このような事実関係の下では、日本瓦斯化学と三菱江戸川化学が対等合併して発足した三菱ガス化学は、負担法3条所定の「当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動」を行った者に当たるとみるのが相当である。
ーーー
今回の高裁判決は、この地裁判決を支持したもの。
2008/8/25 ベトナム最大の石化コンプレックス、9月に建設着工
ベトナム首相はこのたび、Ba Ria-Vung Tau 省のHo Chi Minh市近郊での石化コンプレックスを9月末に建設着工することを承認した。
事業主体はタイのSiam Cementグループとベトナム側のJVのLong Son Petrochemical で、37.7億ドルを投じて建設する。
SiamグループでPVC事業を行うThai Plastic and
Chemicals (TPC)
と、TPCの子会社でベトナムでPVC事業を行うVina SCG
Chemicals が合計で71%を出資、残りをPetroVietnam
とVietnam
Chemical (Vinachem)が出資する。
付記 2012年1月、Qatar Petroleum がこれに参加することが明らかになった。(出資比率は明らかでない)
付記 その後、出資比率が明らかになった。Vinachemは撤退。
Siam Cement Group 46%
Qatar Petroleum 25%
PetroVietnam 29%付記 2015年10月30日、Qatarは撤退を発表、開発戦略の変更によるとしている。
メンバーは9月に集まり、対策を検討したが、結論が出なかった。
Siamは中東の石油会社を誘致したい意向とされ、石化事業で実績のあるイラン国営石油(NPC) が有力候補に浮上している。付記 2017年3月、Siam Cement はQatar Petroleumの持ち株25%を買収し、71%とした。
工場は、Dung Quat Refinery 、Nghi Son Refinery に次ぐ同国第3の製油所 Long Son Refinery に隣接して建設される。
報道によると、コンプレックスはオレフィン 165万トン、ポリオレフィン(HDPE、LDPE、PP) 145万トン、苛性ソーダ 28万トン、EDC 33万トン、VCM 40万トンなどからなる。
VCM系が先行し2013年後半に、残りは2016年にスタートする予定。
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ベトナムには2つのPVCメーカー(TPC Vina Plastic & Chemical と Phu My Plastics & Chemicals)があるが、VCMは製造しておらず、全量を輸入している。
TPC Vina は三井化学、三井物産とTPC及びベトナム側2社のJVであったが、三井 2社が撤退し、TPCが肩代わりした。
現在のTPCの出資比率は70%。
PVC能力は190千トン。(既存の100千トンにタイから移設した60千トンプラントを90千トンに増強)Phu My は計画段階はOccidental 40%、丸紅 30%、ベトナム側 30% であったが、先ずOccidental が、次いで丸紅が撤退し、現在はマレーシアのPetronas が93%を出資している。能力は100千トン。
両社ともVCMはマレーシアのVinylchloride Malaysia から輸入している。
同社には当初は三井化学と三井物産が合計 40%を出資していたが、その後撤退し、現在はPetronas 100% となっている。
Siam Cementグループは1990年からベトナムに進出、塩ビのほか、製紙、建設資材、物流などの事業を行なっている。
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Long Son Refinery は能力が日量24万バレルで建設費は70億ドルの予定。
消費地に近いという立地面から多くの海外企業が合弁を希望しており、PetroVietnam はベネズエラ国営石油公社(PVDSA)と交渉をしている。
PetroVietnam は第1の日量14万バレルのDung Quat Refinery の建設を進めており、2009年2月の操業開始を目指している。
付記
Vietnam News Agency は2008年9月19日、丸紅がPetroVietnamとの間で、2009年と2010年に生産されるプロピレン全量(75,000t〜150,000t)を購入する契約を締結したと報じた。
PetroVietnam は2007年12月に同地で年産15万トンのPPプラントの建設を開始しており、2010年に生産開始する予定で、それまでの間、プロピレンを外販する。
第2のRefinery のNghi Son Refinery には2008年3月に、出光興産と三井化学がNghi Son Refinery & Petrochemical コンプレックスの建設に向け、装置の詳細設計や経済性、資金調達方法などを検討する合弁会社への参加を決定したと発表した。
計画では合弁会社にはPetroVietnam が25.2%、Kuwait Petroleum が35.1%、出光が35.1%、三井化学が4.7% 出資し、Nghi Son 経済区に日量20万バレルの製油所を建設する。2013年末の操業開始を目指す。
付記 その後、2013年第2四半期 着工、2017年第2四半期 商業生産開始に変更
出光は、出資理由を以下の通りとしている。
@ベトナムのエネルギー供給事業に参画することで、同国とのパートナーシップのさらなる発展に貢献、
Aクウェート原油の安定供給、出光の石油・石油化学事業で培ってきた建設・運転技術、ベトナムで急増する石油製品需要という三つの条件が揃った案件で、ベトナムでの収益基盤が構築できる。
Bアジアでのさらなる事業拡大のチャンス、
Cクウェートとベトナムとの一層の関係強化が図れ、安定した原油調達の確保にも寄与する。
三井化学はアロマ原料を安定的に調達することにより、PTAおよびフェノール事業の安定化と収益拡大につなげるとしている。
2008/8/26 中国石油、CDM事業で中国初の排出権取得
中国石油天然気集団公司(CNPC=PetroChina)は8月19日、同社子会社の遼陽石化公司の亜酸化窒素(N2O)削減プロジェクトがこのほど、国際ク リーン開発メカニズム(CDM)の基準を通過し、中国で初めてCO2排出権の取引が認可されたことを明らかにした。
CDM理事会はPetroChina に100万t
弱の排出権を売却することを認めた。
カナダのNAM とGoldman Sachs が排出権を購入する。
亜酸化窒素(N2O)は笑気ガスとも呼ばれ、「京都議定書」の削減対象となっている6種類の温室効果ガスの一つ。
N2Oの温室効果は二酸化炭素(CO2) の310倍といわれる。
遼陽石化は年間4万トン以上のN2Oを放出していたが、排ガス削減装置を設置後はN2Oを酸素(O2)と窒素(N2)に分解でき、 CO2に換算すると年間1,000万トン分の削減が見込まれている。
PetroChinaは2006年12月にBASFからN2Oの排出削減技術の供与を受けた。契約金額は明らかにされていない。
同社はこれを遼陽石化のアジピン酸工場に導入、本年3月に完成し、稼動した。
同工場のアジピン酸能力は14万トンで、これまでは年間4万トン以上のN2Oを放出していた。
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ク
リーン開発メカニズム(CDM)は通常は先進国企業が開発途上国でプロジェクトを行い、排出権を取得するもの。
また「共同実施」(J1)は先進国での共同のプロジェクト。
今回は中国(途上国)企業が中国(途上国)で単独で行うもの。(BASF技術だが、PetroChinaはこの技術を購入して自社のプロジェクトとして実施した。)
CDM:クリーン開発メカニズム(対 途上国) | J1:共同実施(対 先進国) | |
付記
韓国の中央日報によると、韓国の水資源公社は8月初め、オランダのABNアムロ銀行に1億7000万ウォン(約1,719万円)分の二酸化炭素排出権を販売した。
2007年に、安東ダム、長興ダム、城南浄水場から水力発電で得た電気1万3,463メガワット時が国連で温室効果ガス削減の実績と認められたもの。
海外企業との共同事業では既に、日本のイオネスと韓国Foosungが共同で蔚山ハイドロフルオロカーボン(HFC)分解事業を通 じて二酸化炭素(140万トン)を削減し、排出権をイオネスに販売、エネルギー管理公団はフランスのローディア社と一緒に温山N20削減事業で二酸化炭素(915万)トンを削減し、フランス企業に販売している。
2008/8/27 Abu Dhabi のIPIC、中央アジアに進出
Abu Dhabi 政府の投資会社 International Petroleum Investment Company (IPIC) と、同社が65%出資する石化会社 Borealis はこのたび、Uzbekistan のUzkimyosanoat (ウズベキスタン化学品公団)との間で、ワールドスケールの肥料コンプレックス建設のFS実施に関する契約に調印した。
アンモニア工場と尿素工場を建設する計画で、FSを年末までに終え、2009年初めに決定する。2012年のスタートを目指している。
Uzkimyosanoat は国営で、12の化学工場、13の販売会社などを運営している。
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IPIC は海外の石油・ガス事業を急速に拡大している。
IPICは本年7月、 Kazakhstan 政府との間で、エネルギーその他への投資のため10億ドルのファンドを設定することで合意した。
それぞれが5億ドルずつを出資する。詳細は明らかにされていない。
同社はまた、同国での大規模な石油ガス化学事業への参加を検討している。
同国は石油・ガスの販売から、付加価値製品販売への転換を図る多くの計画を持っており、本件はその一つ。
50億ドルを投じて、年産80万トンのPE、40万トンのPPを生産、世界中に輸出しようというもの。
AO Kazakhstan Petrochemical Industries (KPI) が50%を出資、IPIC とBasell が提携相手候補にあがっている。
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本年8月初めに、UAEの国営報道機関WAMはIPICとShellがTurkmenistan
で共同で石油・ガスの採掘を検討していると報じた。
Shellは、IPICとともに同国でこの事業を行うのは成長率の高いこの地域でのShellの立場を強化する絶好の機会であると述べている。
IPICはまた、同国との間で5億ドルを投じて年産70万トンの尿素プラントを建設することを協議している。
WAMはIPIC社長と同国大統領が会談したと報じた。
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なお、Abu Dhabi
National Oil と
Borealis
のJVの
Abu Dhabi Polymers Company Limited
(Borouge)はこのたび、Abu
DhabiのAgility社との間で上海にコンパウンド基地と物流ハブを建設し、2010年から10年間、Borouge
の需要家への物流サービスを行なう契約を締結した。
上海物流ハブでは年間60万トンのポリオレフィンを扱う予定。
BorougeはAbu DhabiのRuwais でエチレン60万トン、HDPE/LLDPE 60万トンを生産しているが、加えてエチレン150万トン、オレフィン転換75万トン、PP 2系列計80万トン、PE 54万トンを建設中で、中国への輸出を促進する。
参考 2006/6/2 湾岸諸国の石油化学ー3 アラブ首長国連邦(UAE)
2008/8/28 BHP Billiton によるRio Tinto 買収のその後
2008年2月のブログで、中国のアルミ大手、Aluminum Corporation of China (Chinalco)と米国のAlcoa (The Aluminum Company of America)が Rio Tintoの株式の12%を141億ドルで取得したと報告した。
正しくは、Rio Tinto
は英国と豪州の両本社制で、取得は英国本社のものであり、Rio
Tinto 全体への出資比率は9%となる。
取得は、この目的のためにChinalco 100% 出資でシンガポールで設立された特別目的事業体(SPPL)によって行なわれ、Alcoa はSPPLが発行する12億ドル分の転換社債を引き受ける。
2008/2/8 中国アルミとアルコア、Rio
Tinto に出資、BHP Billiton はオファー引き上げ
2008年8月24日、豪州の財務相は中国アルミがRio
Tinto の英国本社の株を14.99%まで買収することを承認した。
これにより中国アルミはRio Tinto全体の約11%を取得することとなる。
買収について、豪州政府は次の2つの条件をつけた。
・中国アルミは豪州政府の承認なしに、これ以上の取得を行なわない。
・持株比率が15%以下である限り、Rio Tinto に取締役を派遣しない。
中国アルミ社長は、Rio Tinto 株取得は戦略的投資であるとしたが、同時にBHPによる買収に懸念を示した。
日本経済新聞によると、豪州では買収相手の企業の発行済み株式の9割を取得すれば、残りは強制的に買収できることとなっているが、中国アルミの出資比率が11%に高まれば、買収には中国アルミの同意が不可欠になる。
ーーー
BHP Billiton によるRio Tinto 買収に関しては、米司法省とFTCは、買収の事前通知に対し、調査活動を開始しないことを決めた。
しかし、EUは、事前調査に1ヶ月かけたが、世界最大と世界第二位の鉱山業者の統合には多くの懸念があるとし、7月4日、徹底調査を開始した。12月9日に最終決定を行なう。
2008/7/5 BHP Billiton の Rio Tinto 買収、EUが徹底調査を決定
豪州の独禁法当局 Australian Competition and Consumer Commission (ACCC) は本件の10月1日の正式決定の前に、8月22日、"statement of issues" を出し、本合併の問題点を明らかにした。
合併が鉄鉱石の取引に対する影響(特に豪州の製鉄メーカーへの影響)が大きいとする一方、銅、金、ウラン、ボーキサイト、アルミに関しては競争上の大きな問題はないとしている。
鉄鉱石でのシェアはブラジルのVale に次いで、 Rio Tinto が2位、BHP が3位で、合併すれば海上取引の35%を押さえることを問題視している。
最終的にシェアが大きくなり過ぎると判断すれば、資産の売却を命じる可能性が強い。
両社はそれぞれ、西オーストラリア州Pilbara地域で鉄鉱石の開発を行なっており、仮にこれの売却が命じられると厄介なこととなる。
BHP BillitonはPilbara地域の鉄鉱山拡張プロジェクトを決め、鉄鉱石の生産能力を129百万t/年から2010年末までに155百万t/年にする。
Rio TintoもPilbaraでの増産を計画中で、140百万tの能力を2008年末までに220百万t/年とする。
BHP は独禁法が施行された中国にも書類を提出している。
付記
2008年9月、日本の公取委はBHP Billitonに対して、Rio Tinto 買収計画の提出を求める報告命令を出す方針と伝えられた。
日本企業のM&Aにかかる審査は法律上は株式取得後だが、通常、事前に任意で実施する。今回もBHP Billitoに任意で買収計画の提出を求めてき たが、BHP Billitonは応じなかった。1998年の独禁法改正で設けた海外企業同士のM&A審査規定を初適用し、強制的に計画を提出させることにした。
2008/8/28 2008年7月のナフサ輸入価格 81,933円
財務省が28日に集計した7月の輸入通関速報によると、7月の輸入ナフサの加重平均価格は81,933円/kl となった。
5月初旬から同月末にかけての国際市場における契約価格が急上昇したことによる。
前年同月の輸入価格に比べると21,727円/kl (36.1%)もの上昇となる。
国産ナフサ基準価格(3ヶ月平均輸入価格
+ 2,000円/kl)ベースでは 83,900円/kl となる。
本年第2四半期の価格は70,900円/kl であった。
シノペックは8月25日、上半期の決算を発表した。
中国会計基準による損益は以下の通り。(単位:百万人民元)
2008/上 | 2007/上 | 増減 | |
営業損益 | -23,784 | 53,285 | -77,069 |
赤字補填 | 33,400 | 0 | 33,400 |
税引後損益 | 9,339 | 35,110 | -25,771 |
営業損益の大幅悪化は、本年に入って原油価格が高騰するなかで、政府が石油製品の価格を統制しているため。
政府から334億人民元の赤字補填を受けた結果、税引後損益は93億人民元となった。
(2007年は49億人民元の補填を受けているが、受領は本年3月であり、2007/上の損益には含まれていない)
赤字補填内訳:
2008/1Q 赤字補填 74.0億人民元
2008/2Q 赤字補填 229.3億人民元
2008/2Q 増価税戻し 30.7億人民元
合計 334.0億人民元
中国財務部は 2008/2QからSinopecとPetroChinaの輸入する石油類について、増価税(17%)の75%を払い戻すと発表。
但し業界では政府はこれを今後は取り止めるのではと見ている。
過去の赤字補填は次の通りで、本年上期の赤字補填はこれらを遥かに上回る。
2005年 9,415百万人民元
2006年 5,000百万人民元
2007年 4,900百万人民元
国際会計基準ベースでのセグメント別営業損益(赤字補填を含む)は以下の通り。(単位:百万人民元)
2008/上 | 2007/上 | 増減 | |
Exploration and Production | 27,098 | 22,750 | 4,348 |
Refining | -46,021 | 5,730 | -51,751 |
Marketing and Distribution | 22,334 | 16,795 | 5,539 |
Chemicals | 4,533 | 8,542 | -4,009 |
Corporate and others | -722 | -233 | -489 |
営業損益合計 | 7,222 | 53,584 | -46,362 |
税引後損益 | 8,255 | 36,375 | -28,120 |
化学品部門の生産数量は以下の通り。(単位:千トン)
2008/上 | 2007/上 | |
エチレン | 3,307 | 3,273 |
合成樹脂 | 4,923 | 4,774 |
合繊原料 | 3,768 | 3,938 |
合成繊維 | 681 | 721 |
合成ゴム | 460 | 360 |
尿素 | 685 | 813 |
注)エチレンJVの BASF-YPC、SHANGHAI SECCO の生産量(100%)を含む。
ーーー
中国石油天然気(PetroChina)の利益も 53,620百万人民元となり、前年同期比 34%の減益となった。
このうち、石油精製事業は前年同期の営業損益が3,900百万人民元の利益であったのに対し、59,020百万人民元の赤字となっている。
他方、石油採掘事業では130,230百万人民元と、前年同期比
35%の増益となった。
このほか、化学事業は6,710百万人民元の益(24.4%増)、Natural
Gas and Pipeline は
8,400百万人民元の益(37%増)となっている。
石油採掘が中心で石油精製事業の比率の低い中国海洋石油(CNOOC)の利益は 27,540百万人民元と前年同期比 89%の大増益となった。
北京五輪が終了した。
8月23日の朝日新聞は、上記のタイトルの記事で、北京五輪の主会場「鳥の巣」の天井に中興化成工業が作った約6万m2の膜材が使われていること、屋根には旭硝子のフィルム素材が使われていることを報じている。
「鳥の巣」の屋根は2重になっており、外側の屋根は旭硝子の高機能フッ素樹脂ETFEフィルムが、内側の屋根および垂直面(聖火最終ランナーが走ったところ)は中興化成工業の膜材スカイトップが使われた。
また、旭硝子の高機能フッ素樹脂ETFEフィルムは、水泳会場のウォーターキューブ [H2O]3にも使用されている。
ーーー
中興化成工業の前身は長崎県の福島炭鉱などを経営した中興鉱業で、1963年にフッ素樹脂専門の加工メーカー(当初名は中興ファイバーズ)として設立された。
現在はフッ素樹脂製品の総合メーカーとして、国内はもとよりアジアを中心とした海外へもビジネスフィールドを広げている。
また、産業用ファブリックへのフッ素樹脂コーティング技術を他の樹脂にも応用し、シリコーンコーティングなど新技術、新用途の開発を行っている。
更に、生分解性プラスチックやバイオマスプラスチックの開発も行なっている。
「鳥の巣」で採用されたスカイトップは、グラスファイバー(Bヤーンクロス)にフッ素樹脂PTFE(四フッ化エチレン)を含浸、焼成したもの。
Bヤーンはスチールより優れた比強度、700〜800℃の耐熱性、低温や紫外線の影響を受けない、などの特性を有し、フッ素樹脂には耐熱性、耐候性に加え、非粘着性、撥水性などのユニークな特性がある。
スカイトップはこれらの特性を複合させた高機能性建築材料で以下の特長をもつ。
不燃性、強靭性、透光性、熱的特性、耐候性、セルフクリーニング性、吸音性
スカイトップは東京ドームやタイ・バンコクの空港など、多くの場所で使われており、2010年に開催されるサッカーのワールドカップ南アフリカ大会のスタジアムでも採用された。
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旭硝子は2006年10月、同社の高機能フッ素樹脂ETFEフィルムが北京五輪のメインスタジアム(鳥の巣)及び水泳会場の国家遊泳中心(ウォーターキューブ=[H2O]3)に採用され、供給を開始したと発表している。
ETFE は四フッ化エチレン・エチレン共重合体。ETFE フィルムは旭硝子が原料から一貫生産している高機能フィルムで、可塑剤等の添加剤、粘着剤などを一切含まず、フッ素樹脂の優れた特徴がそのまま生かされている。
このフィルムの特長である、(1)透明で光を十分に透過す
る、(2)軽量であり構造への負担が小さい、(3)劣化しにくく寿命が長い、
(4)意匠上、曲線的な加工が可能である、(5)特にメインスタジアムではフィルム表面に印刷を施すことにより光・熱を制御しながら意匠性を高められること等が認められ、採用された。
水泳会場については、水色に着色したフィルムも採用することで意匠面での様々な工夫が可能となることが評価された。
鳥の巣(フィルム加工・施工はCovertex Gmbh)では約5万m2、ウォーターキューブ(フィルム加工・施工はVector-Foiltec)では約30万m2のフッ素樹脂フィルムが使用された。
このフィルムはミュンヘン市のサッカースタジアム「Allianz-Arena」 でも採用されている。
* 総合目次、項目別目次は
http://www.knak.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。