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目次
これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
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2013/10/16 TPP交渉の行方
インドネシアのバリ島で開かれていたTPP首脳会合は、10月8日、下記の概要の声明を出して終了した。
・妥結に向かっている。
・
年内妥結に向け、課題解決に取り組む
・TPPは包括的で次世代のモデルになる
・
深く広範な貿易・投資自由化で最大限の利益を確保
・
APEC目標の自由貿易圏構築への有望な道筋
目標としていた「交渉大筋合意」は折り込まれなかった。
焦点となっている関税の撤廃では、今回、自由化率について、具体的な議論は行われなかったという。
首脳会合の直前、マレーシアのナジブ首相は「年内妥結というスケジュールよりもっと時間がかかるかもしれない」「TPPのいくつかの分野に関して大きな懸念をもっている」とあえて発言し、年内妥結を訴える米国をけん制した。
詳細は不明だが、新聞情報では状況は下記の通りで、多くの重要な問題が残っている。
項目 |
内容 |
状況 |
(1)物品市場アクセス |
(作業部会としては、農業、繊維・衣料品、工業)
物品の貿易に関して、関税の撤廃や削減の方法等を定めるとともに、内国民待遇など物品の貿易を行う上での基本的なルールを定める。
参考 2010/11/10
TPP参加と農業問題 |
多くの進展が見られたが、
各国にとって配慮が必要な項目に関する合意は未解決の問題として残っている。関税全廃について
賛成:豪、チリ、NZ、シンガポール
慎重:日、米、加、ベトナム |
(2)原産地規則 |
関税の減免の対象となる「締約国の原産品(=締約国で生産された産品)」として認められる基準や証明制度等について定める。 |
減免対象物品の基準づくりでほぼ合意 |
(3)貿易円滑化 |
貿易規則の透明性の向上や貿易手続きの簡素化等について定める。 |
合意に向けて交渉が進んでいる |
(4)SPS(衛生植物検疫)
Sanitary
and Phytosanitary
Measures |
食品の安全を確保したり、動物や植物が病気にかからないようにするための措置の実施に関するルールについて定める。 |
|
(5)TBT(貿易の技術的障害)
Technical Barriers to Trade |
安全や環境保全等の目的から製品の特質やその生産工程等について「規格」が定められることがあるところ、これが貿易の不必要な障害とならないように、ルールを定める。 |
ほぼ合意 |
(6)貿易救済(セーフガード等) |
ある産品の輸入が急増し、国内産業に被害が生じたり、そのおそれがある場合、国内産業保護のために当該産品に対して、一時的にとることのできる緊急措置(セーフガード措置)について定める。 |
|
(7)政府調達 |
中央政府や地方政府等による物品・サービスの調達に関して、内国民待遇の原則や入札の手続等のルールについて定める。 |
公共事業の外資への市場開放について
賛成:日本
慎重:マレーシア、ベトナム、米 |
(8)知的財産 |
知的財産の十分で効果的な保護、模倣品や海賊版に対する取締り等について定める。 |
新薬保護期間延長について
賛成:日、米
慎重:マレーシア、ベトナム、ブルネイ |
(9)競争政策 |
貿易・投資の自由化で得られる利益が、カルテル等により害されるのを防ぐため、競争法・政策の強化・改善、政府間の協力等について定める。 |
国有企業の優遇措置廃止で、
賛成:日、米
慎重:マレーシア、ベトナム、シンガポール |
サービス |
(10)越境サービス |
国境を越えるサービスの提供(サービス貿易)に対する無差別待遇や数量規制等の貿易制限的な措置に関するルールを定めるとともに、市場アクセスを改善する。 |
国際宅配サービスの公正な競争条件の確保でほぼ合意 |
(11)商用関係者の移動 |
貿易・投資等のビジネスに従事する自然人の入国及び一時的な滞在の要件や手続等に関するルールを定める。 |
|
(12)金融サービス |
金融分野の国境を越えるサービスの提供について、金融サービス分野に特有の定義やルールを定める。 |
|
(13)電気通信サービス |
電気通信サービスの分野について、通信インフラを有する主要なサービス提供者の義務等に関するルールを定める。 |
|
(14)電子商取引 |
電子商取引のための環境・ルールを整備する上で必要となる原則等について定める |
ルールづくりはほぼ合意 |
(15)投資 |
内外投資家の無差別原則(内国民待遇、最恵国待遇)、投資に関する紛争解決手続等について定める。 |
ISDA条項
で
賛成:日、米
慎重:マレーシア、ベトナム、豪 |
(16)環境 |
貿易や投資の促進のために環境基準を緩和しないこと等を定める。 |
排ガス規制で
賛成:日、米、加
慎重:マレーシア、ベトナム |
(17)労働 |
貿易・投資の促進を目的とした労働基準の緩和の禁止、労働者の権利保護等 |
|
(18)制度的事項 |
協定の運用に関する協議等に必要な合同委員会の設置等 |
|
(19)紛争解決 |
締約国間の紛争を協議や仲裁裁判等にて解決する際の手続 |
|
(20)協力 |
TPP発効後の締約国間の協力メカニズム等 |
|
(21)分野横断的事項 |
・規制度間の整合性
・競争力及びビジネス円滑化
・中小企業(中小企業による国際的な取引の促進)
・開発(途上国が直面する課題) |
|
付記 知的財産の新薬保護期間は新薬を開発した企業のデータを後発医薬品の承認のために使わない年数。
マレーシア、ベトナム、豪州、NZなどは原則5年、日本は8年。
米国は原則5年だが、TPP交渉で10年への延長を主張。
関税撤廃を扱う「市場アクセス分野」では、農産物が最大の焦点。日本はコメなど重要5項目、米国は砂糖、カナダは乳製品などを関税撤廃の例外にするよう求めている。
日本は、聖域としてきた5項目、およそ580品目の関税の一部撤廃をめぐって、早くも国内で強い反発が起こっている。
政府・与党は聖域5品目586品目のうち、複数の原料を混ぜるなどした調製品や加工品の約220品目の関税をなくすことができるかを、検討する方針を固めた。年内妥結を念頭に、11月中旬にも検討結果を取りまとめる。
聖域5品目:コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖
関税撤廃試算
過去に完全撤廃の例があるものを撤廃:89.7%
5項目以外の全てを撤廃:93.5%
5項目のうち、影響の特に大きな約360品目以外の約220品目を撤廃:約96%
なお、5項目以外の鶏肉、合板なども撤廃対象外とすべきとの声も強い。
「各国の関心は、米国がどこまで譲歩するかに絞られている」との声が強い。
そもそも「年内妥結」は来秋の中間選挙前に成果を上げたい米オバマ政権の意向で、交渉参加国からは「急ぎたいのは米国だけ」との冷ややかな声も聞かれる。
ーーー
日本政府は年内合意を目指し、難しい国内調整に乗り出した。
しかし、誰も公言はしないものの、TPP交渉には大きな問題がある。
仮に妥協の末にTPP交渉がまとまったとして、米国議会がこれを承認するかどうかという問題である。
京都議定書の場合、当時のゴア副大統領がまとめ上げたが、米国議会の承認が得られず、レーガン政権は離脱した。
模倣品・海賊版拡散防止条約(Anti-Counterfeiting Trade Agreement)も議会の承認が得られなかった。
通商条約については、以前には、Trade Promotion
Authority法によりファスト・トラック権限(fast track negotiating
authority)が認められ、議会は、大統領と外国政府との通商合意の個別内容の修正を求めずに、一括承認するか不承認とかのどちらかであった。
しかし、これは2007年7月1日に失効したままになっている。
アメリカ合衆国憲法第2章第2条第2項では、大統領は上院の助言と承認を得て条約を締結する権限を有するとされるが、同憲法第1章第8条第3項では、連邦議会の立法権限として諸外国との通商を規制する権限も認めている。
ジョージ・W・ブッシュ政権は、2002年8月に成立したTrade
Promotion Authority法(2002年超党派貿易促進権限法)によって貿易促進権限(TPA)を得た。
これによって、議会への事前通告や交渉内容の限定などの条件を満たす限り、議会側は行政府の結んだ外国政府との通商合意について、個々の内容の修正を求めず迅速な審議により一括して諾否のみ決することとされた。
TPAは2005年6月に延長されたが、その後は再延長が認められず、2007年7月1日に失効したまま現在に至っている。
この被害を受けたのが韓米FTAである。
米国と韓国が進めていた自由貿易協定(FTA)締結交渉は2007年4月2日、期限切れ直前に妥結した。
最後まで争点となった牛肉を含む農業と自動車分野でも合意した。
しかし、議会の承認が得られなかった。
自動車分野の環境規制のような非関税障壁の緩和や30ヵ月以上の全年齢の牛肉輸入許可などが障害となった。
2010年7月の韓国・EUのFTA妥結(10月6日調印)を受け、米国でもムードが変わってきた。
米国は牛肉問題はFTAと別の問題とする韓国の主張を受け入れ、韓国は自動車で大きな妥協を行った結果、2010年12月にようやく妥結、2012年3月15日に発効した。最初の交渉妥結から5年かかった。
今回は12か国の交渉である。
交渉をまとめるには、多くの妥協が必要であるが、米国議会がそれを無条件に認めるであろうか。
不満な点を認めなければ、今度は相手国との修正交渉となるが、うまくいくであろうか。
主義主張のためには予算を通さずに政府機関を閉鎖させ、米国をデフォルトに追い込むこととなりかねない債務上限引き上げも容易に認めない議会である。
特に、現在強硬なTea Partyは、医療保険法
(Obama Care)は、ヒスパニックが主な対象であり、自分たちの税金が不必要に使われることに反対している。
根源には、グローバル化により製造業が中国等海外に奪われて職を失い、残る職業も移民や不法移民に奪われる白人中低所得層の不満がある。
更なる市場開放に賛成する可能性は少ない。
また、米国には党議拘束はなく、議員が特定の業界の要求を求める可能性もある。
(米韓FTAでは自動車業界の要望が通った。)
オバマ大統領の理想はよいとして、実際にはかなり難しいと思われる。
仮に京都議定書の場合のように米国が離脱した場合、日本はどうするのだろうか。
ーーー
なお、日本のTPP参加にあたり、各国との交渉が行われたが、これらは、仮にTPPが最終的にまとまらないとしても、拘束されることとなる可能性がある。
米国との間では、以下の交渉が行われた。
1 |
|
日本が他の交渉参加国とともに、「TPPの輪郭」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことを確認するともに、日米両国が経済成長促進、二国間貿易拡大、及び法の支配を更に強化するため、共に取り組んでいくこととなった。 |
2 |
|
この目的のため、日米間でTPP交渉と並行して非関税措置に取り組むことを決定。 |
|
|
対象分野:保険、透明性/貿易円滑化、投資、規格・基準、衛生植物検疫措置等 |
3 |
|
また米国が長期にわたり懸念を継続して表明してきた自動車分野の貿易に関し、 |
|
・ |
TPP交渉と並行して自動車貿易に関する交渉を行なうことを決定。
対象事項:透明性、流通、基準、環境対応車/新技術搭載車、財政上のインセンティブ等 |
・ |
TPPの市場アクセス交渉を行なう中で、米国の自動車関税がTPP交渉における最も長い段階的な引き下げ期間によって撤廃され、かつ、最大限に後ろ倒しされること、及び、この扱いは米韓FTAにおける米国の自動車関税の取り扱いを実質的に上回るものとなることを確認。 |
4 |
|
日本には一定の農産物、米国には一定の工業製品といった二国間貿易上のセンシティビティが両国にあることを認識しつつ、TPPにおけるルール作り及び市場アクセス交渉において緊密に共に取り組むことで一致 |
非関税措置については、米国側発表では以下の通りとなっている。
保険 |
|
かんぽ生命との公平な競争環境 |
投資 |
|
外部取締役の役割強化などを含む日本企業へのM&Aの機会増 |
急送便 |
|
日本郵便の手がけるEMS(国際スピード郵便) |
SPS(植物検疫) |
|
日本の食品添加物の審査手続きを早めて効率を上げるよう求める |
2013/10/17 ミドリムシが地球を救う!
伊藤忠商事と潟ーグレナは10月10日、微細藻類のユーグレナ(euglena:ミドリムシ)を配合したヨーグルト「ユーグレナ&ヨーグルト」を発売すると発表した。
ミドリムシを原料に用いたヨーグルトは世界初で、59種類の栄養素を含むミドリムシにアロエ果肉を加えた。
ユーグレナが沖縄県石垣島で生産するミドリムシを提供、伊藤忠が商品の企画から製造・販売先の確保を担当し、協同乳業が製造・販売元となり、ファミリーマートをはじめ全国
のコンビニエンスストアやスーパーで販売する。
ーーー
ユーグレナ(ミドリムシ)は湖沼、池、水たまりなどの淡水域に生息する微細藻類で、植物として葉緑体を持ち、光合成を行うが、鞭毛運動をする動物的性質を持つ。
この動物と植物の両方の特徴を併せ持つ微生物は、59種類もの栄養素を生み出し、光合成により二酸化炭素を吸収し、しかも「バイオ燃料」を取り出すこともできる。
人間の体内に入ると、生活に必要なほぼ全ての栄養をカバーできる。
ビタミン類 |
14種 |
α-カロチン、β-カロチン、ビタミンB1、B2、B6、B12、C、D、E、K1、ナイシン、パントテン酸、ビオチン、葉酸 |
ミネラル |
9種 |
マンガン、銅、鉄、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、カリウム、リン、ナトリウム |
アミノ酸 |
18種 |
バリン、ロイシン、イソロイシン、アラニン、アルギニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、プロリン、スレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、チロシン、トリプトファン、グリシン、セリン、シスチン |
不飽和脂肪酸 |
11種 |
DHA、EPA、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサジエン酸、アラキドン酸、ドコサテトラエン酸、ドコサペンタエン酸、ジホモγ-リノレン酸 |
その他 |
7種 |
パラミロン、クロロフィル、ルテイン、ゼアキサンチン、GABA、スペルミジン、ブトレッシン |
合計 |
59種 |
|
東大発バイオベンチャーの潟ーグレナの創設者、出雲 充社長は、学生時代にバングラデシュのGrameen
Bankで働いたが、バングラでは飢えはないが、栄養失調が多いことを知った。炭水化物はとれるが、肉・魚・野菜・果物などをとれないためである。
炭水化物は世界の人口を賄えるが、肉・魚・野菜・果物などはそれだけの量を賄えないし、輸送や貯蔵も出来ない。
東大で農学部に移り、ミドリムシに出会い、これが解決策になるのではないかと考えた。
ミドリムシは1980年代から研究されていたが、培養が困難で、かつバクテリアなど他の生物に捕食されるため、実用化は無理とされた。
仲間との共同での長期の研究の結果、ミドリムシが増殖しやすい環境であるが他の生物にとっては生きづらい環境を構築することにより、2005年12月に世界で初めて研究室外での培養に成功した。
(2005年8月に「人と地球を健康にする」を経営理念として潟ーグレナ社を設立)
培養プールにCO2を吹き込んで、ミドリムシの光合成を活発にしている。
(CO2を吹き込むと水が酸性化するが、ミドリムシ以外の藻類は酸性に弱いため、この方法は使えない。)
大量培養技術は詳細の公開を避け、秘匿情報とし、特許を申請していない。
同社では当初、機能性食品、医療品素材としての販売を試みたが、1社も採用しなかった。
最後に接触した伊藤忠商事が同社の事業に注目、資本・業務提携をし、食品販売を自社の流通網を通じて実施するとともに、様々な支援をした。伊藤忠の支援で、石垣島に培養プールを建設した。
そして、伊藤忠との提携後には、いろいろの分野の多くの企業が開発に参加している。
@食糧問題、A環境問題(二酸化炭素を吸収・固定化)、
Bエネルギー問題
の解決を狙う。
潟ーグレナは2012年12月、東京証券取引所マザーズに上場した。
2003年10月1日に初の海外拠点として創業のきっかけの地・バングラデシュの首都ダッカに「バングラデシュ事務所」を開設した。
栄養問題の解決を目指したユーグレナ入り食品の普及を行うための拠点とし、バングラデシュ国内の企業やNGOとの連携構築を行う。
当面、母親と子供に錠剤を配布する。
付記
2014年10月、ユーグレナと武田薬品はユーグレナを配合する新たな製品の開発可能性を共同で検討する包括的提携契約を締結した。
一般用医薬品、医薬部外品、食品(特定保健用食品・栄養機能食品およびいわゆる健康食品)などにおける、ユーグレナ(または特有成分であるパラミロン)配合の新たな製品の開発可能性を共同で検討する。
ーーー
潟ーグレナは、バイオマスとしての多岐に及ぶ利用可能性を重量単価が高いものから順次参入する戦略をとっている。
まず、ヘルスケア分野で収益をあげ、エネルギー・環境事業の研究開発を他社と共同で実施している。
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燃料開発
油脂を多く含むユーグレナを活用したジェット燃料開発
飼料開発
高蛋白質ユーグレナを活用した水産、家畜飼料開発
CO2固定化技術開発
高濃度CO2耐性ユーグレナを活用したCO2固定化技術開発
水質浄化技術開発
水中有機物を活用するユーグレナによる水質浄化技術開発
ーーー
化粧品
ユーグレナの加水分解エキスを活用した化粧品事業
|
バイオジェット燃料の開発体制は下記の通り。
ジェット燃料は軽質油であることが必要だが、他のバイオ燃料はこれに向かない。ミドリムシがつくり出す油はジェット燃料に近い。
燃料供給のためには、現在の食品生産のレベルとはけた違いの量が必要になるため、量産用の大きなプールで安定生産ができるかどうかがキイとなる。培養に必要な機器は日立プラントテクノロジー、培養に必要な管理技術はユーグレナが担当する。
抽出した油脂は脂肪酸のため、水素化により液体燃料に転換することが必要で、JX日鉱日石が担当する。
ーーー
出雲社長の本
ダイヤモンド社
僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。――東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦
2013/10/17 速報 米国、政府デフォルトを直前に回避
米議会の上・下院は10月16日深夜、米政府の債務上限を来年2月7日まで引き上げ、政府の一部閉鎖も解消する法案を可決した。
米政府の債務不履行(デフォルト)がギリギリで回避された。
オバマ大統領は16日夜にホワイトハウスで記者団に対し、「与野党の指導部が合意に至ったことに感謝している。法案が届けば即座に署名し、すぐに政府を再開させる」と語った。
法案の骨子は以下の通り。
・米政府の国債発行を2014年2月7日まで認める。
最終的には債務上限の引き上げ期限を3月ごろまで先送りできる可能性がある。
・2014年1月15日まで政府を動かせる暫定予算を認め、政府機関の一部閉鎖をすぐに解消する。
・「医療保険改革法」(オバマケア)で補助金の受給者の所得確認を厳格化する
共和党強硬派のTea Partyは妥協として正副大統領や連邦議員、議会スタッフらを補助金対象から外すことを求めたが、盛り込まれなかった。
与野党は同時に、年金など社会保障制度の見直しや税制の抜本改革といった中長期の財政再建計画を話し合う超党派の協議機関を立ち上げることも決めた。12月13日までに結論を出し、来年1月15日以降も政府機関を運営させる予算措置に反映させる。
ーーー
先ず上院が法案を賛成多数で通した。(上院議長は副大統領、投票せず)
|
議席数 |
賛成 |
反対 |
同一
会派 |
民主党 |
53 |
54 |
0 |
無所属 |
2 |
共和党 |
45 |
27 |
18 |
合計 |
100 |
81 |
18 |
下院では共和党のベイナー議長が、共和党のマジョリティが賛成しない法案は進めないという非公式のルールに反し、上院の合意を容認する意向を表明した。
上院が可決した法案を修正せずに同日中に下院も採決した。
投票結果は以下の通りで、賛成多数となった。
|
議席数 |
賛成 |
反対 |
民主党 |
200 |
198 |
0 |
共和党 |
232 |
87 |
144 |
合計 |
432 |
285 |
144 |
共和党の首脳は敗北を認めた。
政府機関の閉鎖が長引き、債務不履行の恐れが強まり、共和党の強硬姿勢に世論の批判が集中した。
米政府が債務不履行に陥れば来年の中間選挙への影響も避けられず、強硬姿勢をこれ以上続けることは得策ではないとの判断に傾いた。
背景 2013/10/1
米国、予算成立せず、政府機関を一部閉鎖
2013/10/18 Dow Chemical、PP ライセンス・触媒事業を売却
Dow Chemicalは10月11日、Global PP Licensing &
Catalysts 事業をW.R.Graceに5億ドルで売却する契約に調印したと発表した。
売却対象には知財、顧客とのライセンス契約、触媒製造工場(ルイジアナ州 NorcoのUCCの工場内)、触媒在庫などを含んでいる。
PP Licensing and Catalystsは下記のPP技術、触媒を扱っている。
UNIPOL PP 技術
SHAC Catalyst
CONSISTA D7000 Donor
Advanced Donor Technology (ADT)
(Donorは触媒性能を向上させる添加物で、下記組み合わせで使用)
Dowは本年3月に、今後1年半で15億ドルの資産を売却すると発表、その対象としてPP
Licensing & Catalysts 事業とプラスチック添加剤事業を挙げていた。
但し、同社は9月17日の説明会で、プラスチック添加剤事業については買い手の価格が安すぎるため、売却を中止すると発表した。
2013/3/19
Dow Chemical、非中核事業の資産売却を促進
同社では、引き続き全ての事業の見直しを行っており、事業価値の最適化を図るため、戦略に合わないものや採算が合わないものを洗い出し、売却するとしている。
ーーー
売却先のW. R. Grace
はスペシャリティケミカル会社。
1854年にWilliam Russell Grace が南米ペルーで W. R. Grace & Co. を設立
した。
当初は北米と南米の間の船輸送を行った。
1865年にニューヨークに移転、米国、欧州、南米の三
角貿易を開始した。1884年には自由の女神像をフランスからNew Yorkに輸送している。
1954年にDavison Chemical を買収
した。
同社は1832年にWilliam T. Davison
が Davison, Kettlewell & Co. として設立したもの。
現在のW. R. Grace
は@Catalysts
Technologies、AMaterials
Technologies 、BConstruction Products
の3部門を持つが、前二者は2012年初めまではGrace
Davison
部門と呼ばれていた。
各部門の内容と売上高(2012年、百万ドル)は以下の通り。
Catalysts
Technologies |
Fluid Catalytic
Cracking Catalysts |
986.8 |
Hydroprocessing
Catalysts |
Polyolefin Catalysts |
281.3 |
Sub-total |
1,268.1 |
Materials
Technologies |
Silica-based
engineered materials |
478.3 |
Packaging materials(缶関連) |
384.3
|
Sub-total |
862.6 |
Construction Products |
Construction Chemicals |
680.7 |
Building materials |
344.1 |
Sub-total
|
1,024.8 |
Total |
3,155.5
|
Catalysts
Technologiesの地域別売上高比率は以下の通りで、グローバルに販売している。
北米 |
|
30.1% |
欧州・中東・アフリカ |
|
42.8% |
アジア・太平洋 |
|
20.3% |
ラテンアメリカ |
|
6.8% |
同社ではCatalysts
Technologiesの実力を下記の通り評価している。
PE触媒ではMarket leader、PP触媒ではStrong
positionと自認しているが、同社では今回の買収により、世界中のPPメーカーに幅広い技術を供給できるようになるとしている。
なお実現しなかったが、2008年にBASFがW.
R. Grace
の買収を検討していると報じられた。
BASFは2006年6月に触媒メーカーのEngelhard
を48億ドルで買収したが、2007年にBASFのCFOはインタビューで、新しい買収のために100億ユーロを新規に借り入れる用意があることを明らかにしていた。
2008/8/1 BASFがW.
R. Grace 買収?
ーーー
W.R. Graceは2001年4月にアスベスト関連で13万件の訴訟を受け、Chapter
11 (会社更生法)を申請した。
2000年以前は、交渉や裁判で20年間で裁判費用を含め20億ドルを支払って解決してきたが、その後訴訟が急増し、止むを得ずChapter 11を申請した。
その後現在に至るまで、裁判所の承認を得たつなぎ資金(debtor-in-possession)で運営している。
裁判所からは好意的な判断を得ており、同社では近く Chapter 11
から離脱できると見ている。
2013/10/19 10月23日は「化学の日」
日本化学会、化学工学会、新化学技術推進協会、日本化学工業協会は10月23日を「化学の日」、10月23日を含む週(月曜日〜日曜日)を「化学週間」と制定したと発表した。
10月23日は、アボガドロ定数(Avogadro constant:1
molの物質中に存在する粒子の数≒6.02×10の23乗)に由来する。
イタリア出身の化学者、Amedeo
Avogadroにちなんで名付けられたもので、記号 NA で表す。
質量数12の炭素(12C)の12グラム中に含まれる炭素原子の数で定義され、6.022045×1023mol−1の値をもつ。
4団体では、「化学の日」「化学週間」について広く市民、社会に広報・周知を図り、化学への理解増進・啓発活動に取り組むとしている。
ーーー
米国でも10月23日を National Mole
Day(モルは記号はMolだが、英語はMole)、この週をChemistry Week と定め、さまざまなイベントが行われている。
但し、米国ではChemistry Week は10月20日(日曜)〜10月26日(土)となっている。
Mole Dayは最初、1980年代にThe Science
Teacher誌に記事が出た。これを見てMaurice Oehlerという教師が1991年に National Mole Day Foundation
を設立した。
National Chemistry Week は1987年にNational
Chemistry Dayとしてスタートした。
1997年に毎年のテーマを決めることとなった。
本年のテーマは“Energy: Now and Forever!”となっている。
http://www.acs.org/content/acs/en/education/outreach/ncw.html
2013/10/21 会計検査院による原子力損害賠償に関する会計検査
会計検査院は10月16日、国会法の規定による検査要請を受けた「東京電力に係る原子力損害の賠償に関する国の支援等の実施状況に関する会計検査の結果」を報告した。(要旨)
2013年9月末時点での損害賠償関連の状況は以下の通り。
@ |
原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応する支援組織=原子力損害賠償支援機構 |
|
原子力事業者である電力会社に機構への参加を義務づける。
|
|
・資本金 140億円
東電 2,379百万円、北海道 254百万円、東北 418百万円、中部 622百万円、北陸 236百万円、
関西 1,229百万円、中国 331百万円、四国 254百万円、九州 660百万円、日本原子力発電 332百万円、
Jパワー 168百万円、日本原燃 117百万円
民間合計 7,000百万円
政府 7,000百万円 |
|
|
|
・ 一般負担金(日本原子力発電、Jパワー、日本原燃も負担) |
|
2011年度 通年で1630億円だが、2011年9月発足のため、815億円で合意
東電 283億円、関電 157億円、九電 84億円、中部電 62億円、東北電 53億円など
2012年度 1008億円(うち、上期 504億円)
東電 388億円、関電 184億円、九電 99億円、中部電 72億円、東北電 62億円など |
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・特別負担金
東電は毎年の事業収益等を踏まえて設定される特別負担金の支払を行う。
東電は現在は赤字のため、特別負担金を免除されている。 |
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B |
政府は、機構に対し5兆円の交付国債の交付、政府保証の付与等必要な援助を行う。
交付国債:
政府が現金を支払う代わりに発行し、交付する無利子の国債。
金額が見通せないときなどに活用され、受け取った側が資金が必要な時にその都度現金化できる。
発行時に全額予算計上する必要がないため、当面の国の財政悪化を防ぐことができる。
5兆円のうち、既に3兆483億円を現金化し、東電に支給
但し、下記の通り、負担金収入から1285億円を国庫に納付
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C |
機構は、原子力事業者からの負担金等をもって必要な国庫納付を行う。 |
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2011年分の一般負担金収入815億円のうち、799億円を納付
2012年上期分の一般負担金収入504億円のうち、 486億円を納付 |
D東電の収支は以下の通り。
・政府からの出資受け 1兆円
・機構への出資 23.79億円
・機構への一般納付金 2011年分 283億円、2012年上期分 199億円
・賠償資金交付受け 3兆483億円(交付決定額 3兆7893億円)
・賠償金支払い額 2兆9100億円
会計検査院は上記の数値をもとに、3つのケースで下記の分析を行った。
総合特別事業計画に記載の収支計画等をもとに
@特別負担金を免除する場合
A特別負担金として、税引前当期純利益の1/2を納付させる場合
B特別負担金として、税引前当期純利益の3/4を納付させる場合
(実際には、原発の稼働も容易ではなく、利益が出ない恐れが強く、ケース@の公算が大きいと思われる)
1) 資金交付額を5兆円とした場合の回収
(実際にはもっと膨らむ恐れが強い)
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回収期間 |
東電負担 |
他電力負担 |
一般負担金 |
特別負担金 |
合計 |
一般負担金 |
ケース@ |
31年 |
1兆7441億円 |
0 |
1兆7441億円 |
3兆2558億円 |
ケースA |
17年 |
9564億円 |
2兆2626億円 |
3兆2191億円 |
1兆7808億円 |
ケースB |
14年 |
7893億円 |
2兆7426億円 |
3兆5320億円 |
1兆4679億円 |
* 一般負担金の総額を2011年度の納付水準と同じ年1630億円と仮定
2) 回収を終えるまでに国が負担することとなる借入れ(借換え)等に係る支払利息の総額
(国は交付国債換金を銀行からの借り入れで手当てしている)
ケース@ 約794億円
ケースA 約450億円
ケースB 約374億円
* 借入利率を1年物国債と同水準の0.1%と仮定(今後利率上昇の可能性あり)
3) 国は金融機関への利息の支払用に、原子力損害賠償支援資金として100億円を保有している。
しかし、その資金は2015年度中に全額が取り崩され、追加の資金投入が必要となる。
その額は、
ケース@ 約682億円
ケースA 約338億円
ケースB 約262億円
会計検査院の所見
2013年9月27日までに計2兆9100億余円の賠償金が被害者に支払われているものの、個々の事態に即して被害者との交渉を経て金額が確定するという賠償の性格上、賠償金の総額についての十分な見通しはいまだ得られておらず、また、除染に係る費用が本格的に賠償の対象として加わることになった場合には、賠償の規模は更に増大する。
一方、原子力損害の賠償に関する国の支援は、今後とも継続することが見込まれ、機構を通じた資金交付の規模は更に増加することも予想される。
このため、賠償の総額及び時期について確度の高い見通しをできるだけ早期に立てた上で、財政負担の規模と時期について的確な見通しを明らかにすることが、東京電力に対する国の支援について国民の理解を得る前提となる。そして、このような前提を整えることと併せて、原発事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の対応ばかりでなく、機構法の本来の仕組みについて関係者が十分な説明を行うことにより、東京電力に対する支援に係る国民負担について理解を得ていく必要がある。
会計検査院としては、除染に係る費用の見通しとその負担が不透明であることや、柏崎刈羽原発が2013年9月末現在稼働していないなど、東京電力の業務運営が総合特別事業計画における見込みとは異なるものとなっていることなどのために、総合特別事業計画の大幅な改定が見込まれるなどの状況を踏まえた上で、2013年度以降に実施された支援等について引き続き検査を実施して、検査の結果については取りまとめが出来次第報告することとする。
なお、会計検査院が東京電力が保有する資産を調べたところ、活用されていない資金や売却できる不動産が約220億円分あることが分かった。東電は福島第1原発事故の賠償や除染にかかる費用を確保するために不要財産の売却を進めているが、検査院はさらに検討を加えるよう求めた。
2013/10/22 米国原発会社、三菱重工業の蒸気発生器の欠陥で仲裁申立て
カリフォルニア州でサンオノフレ原子力発電所(San
Onofre Nuclear Generating Station)を運営するSouthern California Edison(SCE)と100%子会社のEdison Material Supply
LLCは10月17日、三菱重工が設計・製作した同発電所の蒸気発生器の欠陥について、三菱重工を相手に国際商業会議所に仲裁を申し立てた。
2013年7月に三菱重工に対し紛争通知を提出したが、解決に至らなかったため、仲裁を申立てた。
仲裁結果は拘束力を持つ。
San Onofre原発はSCEが78.2%、San Diego Gas &
Electric が20%、Riverside市が1.8%の比率で共同所有している。
仲裁申立ては、取替用蒸気発生器の欠陥についての三菱の責任を問うもので、この欠陥によって発電所は永久廃炉となり、数十億ドルの損害が生じてい
るとし、契約の保証義務違反等に基づき、40億ドル以上の損害賠償を求めている。
取替用蒸気発生器の計画と実行に関する設計その他の関連文書を提出するよう求めていたが、三菱がこれを受け入れなかったとも主張している。
これに対し、三菱重工では、これは交渉の経緯、契約履行の事実を正確に反映していない不適切な内容であり、根拠のないものとし、今後の仲裁手続きを通じて、事実、根拠となる法令を正確に説明することによってSCEの主張および要求が不当であることを主張して
いくとしている。三菱重工によると、契約上の同社の責任上限は約1億3,700万米ドルであり、代替燃料コストを含め間接損害は排除
されている。
更に、SCEの不適切な
原発再稼働や補修・取替に対する対応に伴い、三菱重工は損害を被っており、仲裁手続き内で反対請求をするとしている。
付記
2015年10月、請求額が75.7億米ドルで確定
2016年7月14日、請求額を66.67億米ドルに変更したことが判明
ーーー
San Onofre原発には現在、2号機と3号機があり、2号機は1983年、3号機は1984年にスタートした。
三菱重工業は2号機、3号機の取替用蒸気発生器を各2基 納入したが、2012年1月31日、3号機の蒸気発生器の1次側から2次側への配管から
微量の冷却水が漏れて緊急停止、微量の放射性物質が漏れた可能性もある。
定期点検中の2号機でも配管摩耗が見つかり、Nuclear Regulatory Commission(NRC)はすべての稼働を禁じた。
漏えいの直接的原因は、U字管部における伝熱管同士の接触による摩耗と判断された。この摩耗現象は
これまで発生していない。
三菱重工ではこの蒸気発生器はSCEの承認を得て製作されたとしている。
SCEは2012年10月に、2基のうち1基を7割の出力で稼働する計画をNRCに出したが、市民団体や一部議員が反対、NRCも公聴会を重ねた。
このためSCEは2013年6月、「再稼働できるかどうか、できるとしてもいつになるか不安定な状態がこれ以上続くのは、利用者や投資家にとってよくないとの結論に至った」と
し、2号機、3号機を永久に停止し、廃炉処理に入ると発表した。
NRCは2013年9月、設計用コンピューターコードの使用方法に欠陥があったことを確認したと発表した。
三菱重工による熱水力現象の不正確な予測によって管が振動・消耗し、蒸気漏れを起こしたと指摘、コンピューターモデリングに関するコンサルタントらの懸念を厳密に評価しなかった点にも言及した。
(同じモデリングエラーは、他の原発4基の蒸気発生器の設計でも発見されたが、San Onofreで見られた現象は確認されていない。)
ーーー
米国では、シェールガスの生産増加の影響で天然ガス価格が低くとどまり、発電コストの競争力が低下したことや安全性や信頼性向上のために多額の費用がかかることなどから、問題を抱える古い原発を停止する例が相次いでいる。
更に申請していた新設計画の断念も3件ある。
2013/9/2 米・電力大手Entergy、Vermont
Yankee原発の廃炉を決定
2013/10/23 米国の政治・経済の問題点
米国の予算問題、債務上限問題が解決したが、これは来年早々までの一時のものであり、問題を先延ばししただけである。
ネジレ議会で野党共和党がObama
Care(米医療保険法案)の廃止を求め、予算と債務不履行を人質にする戦術をとった。
医療保険法は2010年3月に議会を通り法律となった。
これが憲法に違反するとする訴訟に対しては、米最高裁判所が2012年6月28日に違反でないとの判断を下した。
10月1日にはこの柱の一つの、経済的に余裕のない人に安価な保険を提供する保険市場が発足することになっていた。
この時点で医療保険法関連の項目を含めた予算を認めないというのは不当である。
実際には、強硬なのは共和党の中のTea Partyである。
Tea
Partyは人口比率が低下しつつある白人中低所得層の意見を代表するグループで、米議会ではTea Party系は下院約50人、上院5人で全員共和党に属している。
正式な党ではなく、個人により考え方は異なるが、共通の主張点は以下の通りで、基本は「小さな政府」である。
・不法移民は違法な存在
・国内雇用は不可欠
・強力な軍は必須
・銃の所有権は尊い
・小さな政府
・連邦予算は歳出入の均衡が必要
・増税反対:Tea Party のTea は Taxed
Enough Already(税金はもう沢山だ!)の意味だとされる。
・伝統的な家族の価値観の奨励
医療保険法については、ヒスパニックが主な対象であり、自分たちの税金が不必要に使われるということからの反対である。
根源には、グローバル化により製造業が中国等海外に奪われて職を失い、残る職業も移民や不法移民に奪われる白人中低所得層の不満がある。
Tea
Partyの強硬な姿勢に対し、上院民主党トップのリード院内総務は「異様な集団だ」と不快感を示し、下院民主党のペロシ院内総務は「共和党は自分の党を取り戻せ」と呼び掛けた。
Tea Party系への世論の支持率は2割程度で、共和党穏健派からも不満が強いとされる。
ーーー
Tea
Partyは、グローバル化により製造業が中国等海外に奪われて職を失おうとする白人中低所得層の意見を代表するグループで、更に下層のヒスパニック系や不法移民等に敵意を示している。
しかし白人中低所得層が対抗すべきなのは、彼らより経済的に下層のヒスパニック系や黒人、不法移民ではなく、トップのたった1%が全所得の25%を得ているという不公平な状況と、それを正当化する政官財とマスコミの一体の体制である。
これに対する不満は増大しつつあるが、強硬な体制であるため、これに対抗できず、当面、より弱い方に不満のはけ口を求めているように思われる。
不満が更に増大し、爆発すると、米国は収拾がつかない混乱に追い込まれる。
以下は下記の本による。
Robert Reich Aftershock:The next
economy & America's Future
Jeffrey Sachs The Price of
Civilization
Robert Reichはその著 “Aftershock”で、米国の不況の原因は富の偏重
であるとし、このまま放置すると以下のようなことが起こり、米国のみでなく全世界に悪影響を与えると予測、こうならないような対策の実施を求めている。
時は2020年11月3日。その年の大統領選で新党である「独立党」は、共和党、民主党の両候補を尻目に、独自候補マーガレット・ジョーンズを擁立。一般投票で大差をつけ、選挙人投票でも勝利し、次期大統領の座を獲得した。
独立党は議会でも、共和党、民主党の議席を大量に奪い取った。
独立党の政治要綱とメッセージは、明快で妥脇を許さない。その内容は以下のとおりだ。(分類はブログ筆者)
(雇用の確保)
・不法移民に対するゼロ・トレランス(いかなる例外もなく取り締まる)政策
・ラテンアメリカ、アフリカ、アジアからの合法移民の凍結
・全輸入品の関税引き上げ
・米国企業の外国への事業移転や海外へのアウトソーシングを禁止
・利益の出ている企業には労働者の解雇や給料カットを禁止
(モンロー主義への復帰、小さな政府)
・海外の政府系ファンドによる米国への投資の禁止
・国連、WTO、世界銀行、IMFから脱退
・外国への政治的「関与」はすべて禁止
・連邦政府予算は常に均衡させる
・連邦準備制度も廃止
(中国への不満)
・中国に対する負債の利子支払いを今後拒否し基本的には債務不履行とする
・中国が変動相場制へ移行しない限りは同国との取引を停止
(金融機関への不満)
・銀行は預金と融資のみを扱うことができるものとし、投資銀行は禁止
・インサイダー取引、株価操作、証券詐欺に関与した者は10年に及ぶ禁固刑
(金持ち優遇への不満、政府予算均衡のため使用)
・個人の年収は50万ドルを上限とし、これを超える収人は税率100パーセントで課税
・25万ドルを超える収入は税率80パーセントで課税
・キャピタルゲイン税も80パーセント
・10万ドルを超える純資産には一律年間2パーセントの財産税を課税
・海外での資産隠しが発覚した場合は米国籍を剥奪
ジョーンズ次期大統領は、挑戦的な勝利宣言スピーチを行った。
国民のみなさん、みなさんは米国を立ち直らせるために投票したのです。
大きな政府、大企業、そして大手金融機関からアメリカを取り戻すために投票したのです。
私たちから自由を奪う政治家から、
私たちの雇用を奪う外国人から、
国家への忠誠心を持たない金持ちから、
そして私たちの重労働に寄生する移民から、この国を取り戻すために。(大喝采)
私たちは米国を立ち直らせるのです。
自分に利するよう制度を不正に操作するエリートたちの手から取り戻すのです。
ウォール街でカネを操る人々や、企業の重役室にいる強欲な雇用主の手から。
ワシントンの利権や腐敗した輩の手から。
つまり私たちに対する陰謀を企ててきたすべての特権階級と権力あるものの手から、この国を取り戻すのです。(大喝采と歓声) 彼らはもはや、国民をグローバルマネーに売り渡すことはできません。また私たちの仕事と生活を奪い去ることにより、私腹を肥やすこともありません。
米国では国民のたった1%が全所得の25%を得ている。
1980年代初めには10%程度に過ぎなかったが、その後、急増した。Reagan大統領の時代である。
一方、米国の生産性は上昇を続けているのに対し、労働者の所得は1980年代から横ばいになっている。
米国の所得税は累進税であるが、最高税率の推移は以下のとおり。
第二次大戦後、最高税率は90%であったが、Reagan大統領は就任時に70%であったのを、退任時には28%まで下げた。その間、福祉は大幅にカットした。
その後、39.6%に戻ったが、Bush減税で35%に下げた。
2012年末にBush減税の期限切れで、大騒ぎをしたうえで、年末ぎりぎりにObama大統領が共和党を押し切り、金持ち限定で減税をやめたが、元の39.6%に戻しただけである。
これに加え、金持ちにはキャピタルゲインが多いが、キャピタルゲインの税率はたった15%である。
ヘッジファンドマネージャーは通常、管理報酬と成功報酬を受け取るが、「
管理報酬は預かり資産の2%、成功報酬は預かり資産の上昇幅から20%を徴収する」2:20ルールが通常である。
投資には当然、益も損も出るが、益のときに膨大な報酬を稼ぎ、損が出れば報酬がないだけである。
IRSのルールで、管理報酬に対しては35%が課税されるが、成功報酬には15%のキャピタルゲイン課税が適用されるため、納税額はきわめて少ない。
ヘッジファンドマネジャーの高収入をみて、大企業の経営者が自分たちももっともらっても当然と考え、互いに就任している社外取締役として報酬アップを提案して決めているとされる。
法人税についても、大企業の場合はTax Haven を利用して税金を免れている。
Googleがアイルランド子会社を利用して欧州の事業の利益にほとんど課税されていないことが問題となったが、Jeffrey
Sachsによると、2006年にIRSとGoogleが秘密協定を結び、米国本社からアイルランド子会社に非常に安い対価で技術をライセンスするのを認めたという。
米国の政治の最大の問題は、4つのグループが選挙費用の寄付を通じて政治家を動かし、米国を牛耳っていることである。
Obama大統領も庶民の寄付で選挙を戦ったとされるが、多額の選挙費用はそれだけでは全く不足で、大口寄付に頼っている。
1)軍産複合体(Military-industrial complex)
2)Wall Street - White House complex
Wall StreetのトップがFRBや財務長官などを勤め、退職後は再度 Wall Street に戻る。
3)Big oil - Transport - Military complex
公共輸送に反対、京都議定書から離脱。
元HalliburtonのCEOであったDick
Cheney副大統領が、シェールガス開発で危険物質を使用するのを認め、物質の開示さえも不要とした。「Halliburtonの抜け穴」と呼ばれる。
4)Healthcare Indstry
Obama大統領もObama
Careから薬価基準を除外し、医薬品会社は特許を理由に自由に薬価を決められる。
企業や団体が特定の候補者の選挙費用を支出することを連邦法は制限していたが、米連邦最高裁は2010年1月21日、企業の選挙資金拠出を制限した連邦法は言論の自由を保障した憲法に違反するとの判断を下した。
2013/10/24 「原発ホワイトアウト」
若杉冽著 「原発ホワイトアウト」を読んだ。
講談社から出版された「原発ホワイトアウト(若杉冽著)」という本が、登場人物は仮名ながら、原子力利権について赤裸々に書いてあると話題になっている。
役所の中ではきっと官僚が書いたに違いないと、犯人探しまで始まっているそうだ。
(河野議員は同書で、保守党で原発反対の一匹狼議員 山野一郎 として登場する)
恐ろしくなる本である。
総括原価主義であることを利用し、コストに上乗せした金の一部を業者から預かり、政治に使う電力会社。
原発がなくなると、その金がなくなるため、原発再開に動く政治家。
電力会社と組んで原発再開の計画を立て、首相を動かし、首相を使って検事総長まで動かすエネ庁幹部。
テロ対策や、中国でさえ導入されている炉心溶融に備える『コアキャッチャー』などを無視し、あっという間に再開承認。
真冬にテロが送電線の鉄塔を2本爆破するだけで炉心溶融に。
凍結で非常用発電機や電源車を動かせず、孫受けの判断による工事でベントの配管が漏れるなど。
避難する車の衝突多発で道路が不通に。(泉田新潟県知事の懸念していること)
驚いたことに毎日新聞夕刊(2013/10/22)に著者の若杉冽のインタビューが出た。
特集ワイド:「内部告発小説」の現役官僚に聞く 「再稼働いいのか」問いたい (全文)
■「日本の原発は世界一安全」はウソ
■政界への献金「モンスターシステム」
注目ポイント
「柱の部分は私の知る事実がベース。役所では表立って話題にしませんが、裏ではみんな『詳しすぎる。作者はだれだ』と大騒ぎです」。
「現実世界は原発再稼働に向けて着々と動いています。
一方で私は、電力業界のずるさや安倍(晋三)首相の言う『日本の原発は世界一安全』がウソなのを知っている。
私は公僕です。そうした情報は国民の税金で入手したとも言える。もちろん国家公務員として守秘義務もある。だから小説の体裁を借りて『みなさん、このまま再稼働を認めていいんですか』と問いかけたかった」。
(「モンスターシステム」と呼ぶ巨大な集金・献金システム)
「これは私が見聞きした事実を基にしています。東京電力福島第1原発事故後、東電の経営状況を調べた国の調査委は、東電が競争入札にした場合より1割強、割高な価格で業務発注していたことを明らかにしました。私は昔は2割だったと聞いていますが」。
電力会社は資材や施設の修繕工事などを、随意契約で相場より割高な価格で業者に発注する。業者は割高分の一部を加盟する電力業界団体に預ける。団体はその預託金を政治献金やパーティー券購入に充て、「大学客員教授」などのポストを買い、浪人中の政治家にあてがう。
業界団体「日本電力連盟」に“上納”される預託金は年間400億円。これで業界に有利な政治状況をつくり出す、というわけだ。
(公正であるべき官僚は)
「上層部ほど電力業界にねじ曲げられている。退職後の天下りポストが欲しいというのもありますが、一番の理由は出世です」
(新規制基準の「穴」)
「欧州や中国で導入されている最新型原子炉は炉心溶融に備え、溶けた核燃料を冷却する『コアキャッチャー』という仕組みがある。抜本的な安全策ではないが、万が一の際にかなりの時間稼ぎができるのです。これが日本の新規制基準では無視された。電力業界や役所、原子炉メーカーも高額の費用がかかるから国民に知らせない。今や世界的に見ても日本の原発の安全性が劣るのは明らかです」
(毎日新聞 2013/10/14 風知草)
原発は、送電線の中継鉄塔が倒壊するだけでメルトダウンに至る可能性がある。鉄塔を守れという議論は2011年の事故直後からあった。
原発につながる1000本以上の鉄塔は今も無防備のまま放置されている。
アメリカは核兵器と原発の維持管理に同じレベルのセキュリティーを施している。
原発従業員の徹底的な身元調査、思想調査、武装警備員による厳戒にもかかわらず、原発や関連施設の敷地に部外者が侵入してしまうことはある……。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるんです。こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにもね」
若杉さんは再び街に溶け込んでいった。次回作の構想は「すでに固まりつつある」と言い残して。
2013/10/25 ブラジル海底油田「Pre-Salt」開発始動
ブラジルの南東部沖合にある大規模な海底油田「Pre-Salt」の開発権を巡る入札が10月21日に初めて実施され、Total、Shell、中国石油天然気集団(CNPC)
、中国海洋石油(CNOOC)のコンソーシアムが落札した。
Pre-Salt
はブラジル沖合のエスピリトサント盆地、カンポス盆地、サントス盆地の大水深に存在する延長約1,000km、幅数100kmに及ぶ大水深・大深度の新プレイの呼称。
ペトロブラスは2007年11月、サントス盆地のTupi石油・ガス田の可採埋蔵量は原油換算で50〜80億バレルであると発表、プレソルトの海域全体に大量の炭化水素資源が埋蔵されている可能性があるとの見解を表明した。
その後、サントス盆地のプレソルトではJupiterガス・コンデンセート田、Guara油田、Iara油田などが発見された。
カンポス盆地のプレソルトでもMarlim、Albacora Lesteなど岩塩層の上部ですでに生産を行っている油田の下のプレソルトで発見が続いている。
今回の入札の対象鉱区は、2010 年にPetroBrasが
国家石油庁の委託を受けて発見した Libra地区。回収可能埋蔵量は原油換算 80 億〜120 億バレルを上回る。
新しいルールでは、政府の利益を代表し、生産分与契約の管理を行う政府機関 Pre-Sal
Petroleo 及びPetroBrasとコンソーシアムを組むこと、PetroBrasがオペレーターとなり、最低限30%のシェアを持つこと、組成企業数は最大で5社となっている。
この結果、開発は下記の体制で行われる。
PetroBras |
|
40% |
Total |
|
20% |
Shell |
|
20% |
中国石油天然気集団(CNPC) |
|
10% |
中国海洋石油(CNOOC) |
|
10% |
当初、ポルトガルのGalp、スペイン・中国資本のRepsol-
Sinopec、マレーシアの Petoronas、インド資本の
ON-GC、コロンビアの Ecopetrol、日本の三井物産など11社が入札参加を
表明していたが、最終的に参加したのは落札した企業連合だけであった。最低価格の150億レアル(70億ドル)で落札した。
契約では、油田そのものは政府所有のままであり、参加する外国の4社は石油の一定分を受け取る。
コンソーシアムは初期の調査・開発費用を控除した後、利益の41.65%をブラジル政府に支払う。
ーーー
今回の入札に関して、労働組合連合などがブラジルの天然ガス資産を外国資本に安売りするものだとし、反対している。
入札に反対するデモ隊を鎮圧するために、連邦政府は1,110人の軍隊を投入して警備にあたらせ、会場に乱入しようとする組合員などに催涙ガスやゴム弾を発射した。
PetroBrasの元役員も、「Pre-Saltは既に発見済みであり、入札など必要ない」とし、国は主権を放棄しているとして入札禁止を求める訴訟を行った。
2013/10/26 人民元上昇
人民元の対ドル相場が上昇している。
このところ、基準値の
±1.0%の変動幅の上限で推移し、終値はほぼ毎日最高値を更新、一時高値も更新している。
10月25日の終値は1ドル=6.0840人民元で前日比若干の元安となったが、一時6.0802人民元で最高値を更新した。
これは人民元弾力化前の2010年6月18日の終値に対し、12.24%のアップとなった。
人民銀行も短期的には元高を容認している模様で、基準値を順次引き上げている。
心理的な節目とされる1ドル=6.00人民元を突破する可能性も出てきた。
|
基準値 |
下限 |
上限 |
終値 |
2010/6/18比 |
一時高値 |
10/14 |
6.1406 |
6.2020 |
6.0792 |
6.1079 |
11.76% |
6.1073 |
10/15 |
6.1412 |
6.2026 |
6.0798 |
6.1026 |
11.86% |
6.1007 |
10/16 |
6.1408 |
6.2022 |
6.0794 |
6.0995 |
11.91% |
6.0965 |
10/17 |
6.1431 |
6.2045 |
6.0817 |
6.0982 |
11.94% |
6.0950 |
10/18 |
6.1372 |
6.1986 |
6.0758 |
6.0968 |
11.96% |
6.0915 |
10/21 |
6.1352 |
6.1966 |
6.0738 |
6.0925 |
12.04% |
|
10/22 |
6.1395 |
6.2009 |
6.0781 |
6.0935 |
12.02% |
|
10/23 |
6.1330 |
6.1943 |
6.0717 |
6.0835 |
12.21% |
|
10/24 |
6.1335 |
6.1948 |
6.0722 |
6.0820 |
12.24% |
6.0808 |
10/25 |
6.1333 |
6.1946 |
6.0720 |
6.0840 |
12.20% |
6.0802 |
青字は記録更新
最近の人民元高には以下の点が背景にある。
1)米国の量的緩和の早期縮小がなくなったとの観測
米国の量的緩和が年内にも縮小されるとの予想で中国やインドなど各国からドルが引き上げられ、インドのルピーなど各国通貨は大幅に下落した。
しかし、最近では来年3月以降との観測が浮上、このため、ドルが再び各国に流入している。
2)中国経済への悲観論の後退
本年3QのGDPは7.8%となり、上昇に転じた。
中国の製造業活動を測る10月の中国製造業購買担当者指数(PMI)も市場予想を上回る上昇を示している。
購買担当者指数(PMI)は国際的に用いられている経済指標の1つで、「新規受注」、「生産高」、「雇用」、「供給者の納期」、「購買品在庫」の
5 項目について企業からの回答を集計し、各指数を加重平均したもの。
香港上海銀行(HSBC)が10月24日に発表した今年10月の速報値は50.9ポイントで、過去7カ月間で最も高い数字となり、3カ月連続での50ポイント超えにもなった。
個別指数をみると、生産指数が51ポイントで前月の50.2ポイントを上回り、6カ月ぶりの高い水準となった。
新規受注指数と雇用指数は過去7カ月間で最高だった。新規輸出受注指数は2カ月連続で50ポイントを上回った。
在庫の調達指数は今年1月以降で初めて50ポイントを上回り、調達価格指数と生産価格指数はどちらも低下した。
2013/10/28 米国製造業イノベーション構想
最近、米国経済の問題点について書いた。
2013/10/16 TPP交渉の行方
TPP交渉がまとまったとして、米国議会がこれを承認するかどうか
2013/10/23 米国の政治・経済の問題点
基本は富の偏在
グローバル化により製造業が中国等海外に→雇用を巡っての白人中低所得層とヒスパニック等との争い
米国の基本的な問題は富の偏在であるが、製造の海外移管に伴う雇用減が直接の問題となっている。
「米国製造業イノベーション構想」は雇用対策としての製造業復活構想で、これらの問題に対処するものである。
米国は、万一、TPP交渉がまとまらないことも考え、TPPに依存しなくともやっていける体制づくりを狙っている。
以下は、政策大学院大学での米国在留の弁護士 Thomas
Kato氏の講演(2013/9/17 )に基づく。
「米国製造業イノベーション構想」の出発点はObamaの個人構想であるという。
グローバル化により製造が中国等に移管された。
新しい技術は米国の政府機関や大学で開発されるが、実際の生産は海外に移り、米国内が空洞化した。
更に、製造国は技術の模倣、盗用により、単なる組み立てから技術開発にまで展開している。
ドイツでは基礎研究は Max Plancが、応用研究はFraunhofer研究所が行い、その成果を使い、民間が生産しているが、米国では基礎研究は政府機関や大学が行うが、応用研究が抜けている。これを補充すべきだ考えた。
この構想に対しては当初、金融重視のSummers(国家経済会議委員長)、Geithner(財務長官)、Christina
Romer(経済諮問会議議長)などが反対した。
しかし、Summers等の退任後、Biden副大統領やRon
Blume 参与の助言を受け、構想を進めた。
2012年1月、Obamaは演説で、“Economy
recovery and growth begins with manufacturing” と述べた。
2011年11月にCEA議長に就任した
Alan Kruegerは、海外Trans-plant
の遠因は海外賃金の安さだけではなく、米国に労働力をスキルアップする教育インフラが欠けていることだと述べた。
従来の考えは、失業は一過性であり、GDPの
1%増が100万人の雇用を生み、雇用があれば何でもよいというもので、先進国で雇用がサービスにシフトするのは当然であり、Innovation誕生拠点が米国にあれば、低賃金国で生産すればよいというものであった。
Bernanke FRB議長も2012年3月に、雇用減は労働者のスキル不足からくる構造的なもので、このままでは解決は難しいと述べた。
オバマ大統領は2011年6月、訪問先のカーネギーメロン大学で、「先端製造パートナーシップ」(Advanced Manufacturing Partnership
=AMP)の立ち上げを発表した。http://www.nedodcweb.org/report/2011-7-8.html
AMPは、製造部門の雇用創出および米国の国際競争力強化を可能にする新興技術への投資を、産業界・大学・連邦政府をあげて行っていくという国家的な取組みである。
既存のプログラムやプロポーザルにてこ入れをするというもので、下記の5つの重要分野に5億ドル以上を投資することになる。
- 重要な国家安全保障産業の国内製造能力を構築
- 工業製品に使用される先端材料の生産所要時間を短縮
- 次世代ロボティクスにおける米国リーダーシップの確立
- 製造工程のエネルギー効率を改善
- 製品の設計・作成・実験に要する時間を大幅に短縮する新技術を開発
ホワイトハウス国家経済会議、科学技術政策局、及び大統領科学技術諮問委員会との緊密な協力で、米国の大手メーカーや一流の工科大学を結集していくことになる。
オバマ大統領はAMPの立ち上げに伴い、先端製造に対するコミットメントを表明し、連邦政府が取り組むべき重要対策として下記を挙げた。
- 重要な国家安全保障産業の国内製造能力を構築
- 先端材料の開発・導入に要する時間を短縮するMaterials
Genome Initiative
- 次世代ロボティクスへの投資
- エネルギー高効率な製造工程の開発:
大統領は、これは世界競争に立ち向かう米国製品をより良く、より廉価に製造することを意味すると述べた。
AMP運営委員会は2012年7月、『先端製造業における米国競争優位性の確保』という報告書を発表、米国で先端製造が促進・成長していくためには、コミュニティや教育者、労働者や企業、連邦・州・地方政府の積極的参加が必要であると指摘し、以下の提言を行った。
http://www.nedodcweb.org/report/2012-7-27.html
・イノベーションの実現 |
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提言1. |
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国家先端製造戦略の確立 |
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提言2. |
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分野横断的なトップ技術への研究開発(R&D)予算の増額 |
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提言3. |
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製造イノベーション研究所の全米ネットワークの構築
(官民パートナーシップとして設立) |
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提言4. |
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先端製造研究における産学協力の強化 |
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提言5. |
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先端製造技術の商業化に向け、より健全な環境の育成 |
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提言6 |
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国家先端製造ポータルの設置 |
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・人材パイプラインの確保 |
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提言7.
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一般市民の製造業に関する誤解の訂正 |
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提言8. |
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帰還した退役軍人の人材プールの活用 |
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提言9. |
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コミュニティカレッジ教育への投資 |
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提言10. |
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技能の認証・認定を提供するパートナーシップの構築 |
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提言11 |
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大学の先端製造プログラムの強化 |
提言12. |
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全米製造フェローシップ/インターンシップの立ち上げ |
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・ビジネス環境の整備 |
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提言13. |
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税制改革法を制定 |
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@ 国内製造活動に対する税率を引き下げ;A
R&D代替簡易税額控除を20%に引き上げ、これを恒久化;B米国内投資を奨励するため、企業税を全般的に引き下げ、海外収益に関する現行税法を改正 |
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提言14. |
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規制政策の簡素化 |
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提言15 |
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貿易政策の整備 |
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提言16. |
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エネルギー政策の更新 |
2013/10/29
水素エネルギーフロンティア国家戦略特区
安倍首相は10月24日の参議院予算委員会の基本的質疑で「国家戦略特区」について、「日本の経済社会の風景を変えるような大胆な規制改革によって成長戦略を実現するものだ」と述べ、国家戦略特区を地方全体の発展につなげたいという考えを示した。
産業競争力会議において、これまでとは次元の違う国家戦略特区の創設が提案された。
日本経済の再生に向けた第三の矢である日本再興戦略の要として、従来の取組の単なる延長線にある焼き直しや寄せ集めでなく、国家戦略としてふさわしいプロジェクトを推進することにより、「民間投資の喚起により日本経済を停滞から再生へ」導くことを目的としてい
る。2013年8月12〜9月11日の期間で提案を募集し、62件の提案があった。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/teian_hearing.html
ーーー
この中に、川崎市と千代田化工建設が提案した「水素エネルギーフロンティア国家戦略特区」がある。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc_wg/pdf/38-kawasaki.pdf
世界初となる水素の輸入・供給基地を川崎市に建設し、輸入した水素を使う世界初の商用水素発電所を建設するもの。
提案は3つのステップに分かれる。
@ 水素社会を支えるインフラの構築 |
|
(1) 世界初の水素供給グリッドの整備 |
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○ |
海外の原油随伴ガスなどから製造する水素を、「新たな水素の大量貯蔵・輸送技術」(有機ケミカルハイドライド法)を活用し、常温常圧で川崎臨海部に輸送するとともに、臨海部「水素供給グリッド」を企業間連携により
2015年を目途に新たに整備し、コンビナートにおける水素の産業利用を推進 |
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○ |
水素利用量 年間約 7億N㎥(予定) |
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|
(2) 世界初の商用水素発電所の建設 |
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○ |
「世界初の商用水素発電所」(9万kW=90MW 級)を川崎臨海部に 2015年を目途に建設し、CO2
を排出しない発電事業を開始するとともに、水素混焼データの収集と燃焼ノウハウを蓄積 |
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○ |
水素利用量 年間約 6.3億N㎥(予定) |
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|
(3) 水素発電所で発生する排熱の有効活用 |
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○ |
水素発電所で発生する排熱を水素供給グリッドにおいて有効活用することで、脱水素反応プロセスにおける省エネルギー化・高効率化を推進 |
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|
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A 水素供給モデルの全国展開と他分野への拡大展開 |
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(1)水素モデルの全国展開 |
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○ |
国内他地域のコンビナートや工業地帯において、脱水素プラントを整備し、新たな水素需要を創出するとともに、石油コンビナートにおける事業の再構築を支援 |
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○ |
水素発電所の燃焼実績、ノウハウ等を活用し、国内他地域の既存 LNG火力発電所への水素混焼の展開を図ることで CO2
の大幅削減と水素需要を拡大 |
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(2)民生部門(市⺠生活・交通分野)への展開とグリーン水素との連携 |
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○ |
市民生活分野(定置型燃料電池)や交通分野(燃料電池自動車(FCV)、燃料電池バス、水素ステーションへの供給)などへ展開するとともに、市街地への安全かつ効率的な水素供給輸送システムを構築 |
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○ |
再生可能エネルギーの発電余剰電力により水素を製造・貯蔵し、必要な時に電力として活用するエネルギーシステムの構築
|
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B 水素供給モデルの海外展開 |
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○ |
官民が連携して水素供給グリッド・水素発電等をシステムも含めた統合パッケージ化し、海外に展開することにより、水素エネルギー分野において国際競争力を得るとともに、関連産業のビジネス機会を創出
|
このベースになるのは、千代田化工の「大規模水素貯蔵・輸送システム」である。
海外の油田等で出る水素をトルエンに反応させてメチルシクロヘキサンとし、常温で日本に輸送し、日本でこれから水素を取り出すもの。これまでメチルシクロヘキサンから水素を取り出すのは不可能とされていたが、同社が開発した触媒がこれを可能にした。
同社は2013年5月31日、子安オフィス・リサーチパークにて実施していた有機ケミカルハイドライド法による「大規模水素貯蔵・輸送システム」の実証試験で所期の性能を確認することができた
と発表した。
トルエンに水素を固定(水素化反応)させ、メチルシクロヘキサン(常温常圧の液体)に変換して貯蔵・輸送し、同社が開発した脱水素触媒を用いて、このメチルシクロヘキサンから再び水素として取り出し(脱水素反応)、供給するシステムを対象としたもの。
(海外油田等) 3H2+C6H5CH3→
C6H11CH3
↓ (常温輸送)
(川崎) C6H11CH3→3H2+C6H5CH3
メチルシクロヘキサンの場合、LNGや液化水素などのような極低温技術を必要とせず、通常の石油タンクやタンカーを利用できる
。
一連の工程を「大規模水素貯蔵・輸送システム」として確立することで、これまで困難とされてきた水素の大量輸送や長期貯蔵が、商業ベースで可能であることを実証できた。
同社は「SPERA水素」(ラテン語で「希望せよ」という意味)の愛称で水素供給事業実現を目指す。
水素エネルギーフロンティア国家戦略特区では川崎に世界初の水素供給グリッド
を整備する。
首都圏の水素ステーションを中心に圧縮、あるいは液化して専用車で配送する。
水素は石油精製に使われるため製油所にも供給する。
さらに、「世界初の商用水素発電所」(9万kW=90MW 級)を川崎臨海部に 2015年を目途に建設する。
水素発電は既存のLNG火力発電所の設備を基本的に利用できる。
発電所では水素をガスに混ぜて燃やすが、千代田化工の発電所では水素の比率は最大7割。
水素発電所で発生する排熱を水素供給グリッドにおいて有効活用することで、脱水素反応プロセスにおける省エネルギー化・高効率化を推進
する。
第二段階ではこれを全国展開し、第三段階では海外展開を図る。
ーーー
水素に関しては、川崎重工が6月21日にロシアのカムチャツカ半島に近いマガダン州に本拠を置く電力大手RusHydro(ルスギドロ
)とその子会社RAO Energy Systems of the Eastとの間でロシアで液化水素製造工場を建設する予備契約に調印した。
割安な余剰電力を使って水を電気分解し、水素を大量生産するもので、ロシア側が電力を供給、川崎重工が液化水素の製造・貯蔵・輸送の技術を供給、生産した液化水素は全量日本に輸送する。
川崎重工では2017年にも現地で液化水素生産の実証実験を開始し、その後に200億〜300億円を投資し大型工場(年産9万トン規模)を建設したい考えで、世界初の液化水素の専用船も開発し、各地に輸送する。
2013/10/30 出光興産、カナダのPetroGasに資本参加
出光興産は10月25日、同社とAltaGasの共同出資会社がカナダのPetroGas
Energy の発行済み株式の2/3を取得する契約を締結したと発表した。
2014年第1四半期の取引完了を目指す。
付記 2014年3月1日に手続き完了
AltaGasは2013年10月1日にPetroGasの発行済み株式の4分の1を取得したが、今回はこれを含め、PetroGasの株式の66.7%を
共同出資会社 AltaGas-Idemitsuが取得する。
出光の負担は合計の50%の約4.4億カナダドルと見込まれる。
PetroGasは1986年にカナダ・カルガリーに設立され、カナダ西部および米国を中心にNGL、LPGおよび原油のマーケティング、物流、貯蔵、トラック輸送、抗井掘削用液体の製造、販売を行っている。
出光興産は、カナダ産のLNGとLPGのアジア向け輸出・販売を目指し、本年初めに
AltaGasと50/50の合弁会社とパートナーシップを設立した。
AltaGasはカナダで、生ガス集積、ガス回収、NGL分留・販売、LPG・都市ガス販売、ガスパイプライン、発電事業(水力、ガス等)を行っている。
両社は、天然ガスの液化設備をカナダ西海岸に建設することについてFSを実施し、2014
年完了を目指す。
天然ガスの輸送は、AltaGas子会社のPacific Northern Gasのパイプラインを利用する。
2013/2/1
出光興産とAltaGas、カナダ産LNG、LPGのアジア向け輸出共同事業でパートナーシップを締結
出光では、PetroGasと資本関係を結ぶことで、AltaGasの持つLPG生産設備、PetroGasの持つ集荷・貯蔵・および鉄道貨車をはじめとする物流設備、
出光の販売ネットワークがつながることにより、LPG輸出事業の実現に貢献するとともに、原油・石油製品を日本や成長著しいアジア向けに輸出する機会を創出する等、出光の既存事業にもシナジー効果を生むものと考えている。
また、PetroGasの既存事業からもたらされる利益に加え、北米におけるNGLおよび原油の輸送ニーズの高まりによる、さらなる収益貢献が見込まれるとしている。
出光では自前の輸出基地の完成前に、PetroGasの持つ鉄道、トラック、貯蔵基地を活用し、PetroGasと関係の深い輸出基地を使ってLPGをアジアに輸出する方針という。
更に今後、カナダでガス田を取得し、ガスの開発から販売まで一貫した体制を構築するという意向を明らかにしている。
2013/10/31 住友商事、豪州クレアモント炭鉱事業買収
住友商事は10月25日、資源会社大手のGlencore
Xstrataと共同で、豪州クイーンズランド州のクレアモント炭鉱(Clermont thermal
coal mine) の権益の50.1%をRio Tinto
から総額1,015百万ドルで買収することに合意したと発表した。
両社が設立する50/50JVのGS
Coal Pty Ltd
を通じて取得する。(各社持分 25.05%)
他の株主(三菱商事ほか)が先買権を行使しなければ、2014年3
月を目途に買収を完了し、速やかにRio Tintoから炭鉱操業および石炭販売を継承する。
今後、Glencore XstrataがRio Tintoに代わって、炭鉱の運営と製品販売の役割を担当すると見られている。
Clermont炭鉱は、隣接するBlair
Athol
炭鉱(1984年から出炭を開始し、年間1,000万トンから1,200万トンを生産し、日本向け電力用海外炭の安定供給に寄与)が2010年代に生産終了するのに合わせ、2006年に開発が決定された。
一般炭の炭鉱としては豪州最大級の規模を誇る露天掘り炭鉱で、Blair
Athol の貨車積み設備、鉄道、港湾等のインフラを利用している。
90パーセント以上の石炭は選炭の必要が無いなど、豪州においてトップクラスのコスト競争力を有する。
2010年5月には第1船を日本向けに出荷、2010年の生産量は491万トンとなった。現在の生産能力は約12百万トンで、日本の電力各社を含む需要家に一般炭を供給している。
Clermont炭鉱の権益比率は以下の通り。
Queensland
Coal (Rio Tinto) |
50.1% |
→
住友商事とGlencore Xstrata の50/50JV GS Coal
|
Mitsubishi
Development(三菱商事100%) |
31.4% |
当初は34.9% |
J-POWER
オーストラリア(電源開発) |
15.0% |
|
JCD
オーストラリア(石炭資源開発) |
3.5% |
Mitsubishi
Development
から譲り受け |
三菱商事は2003年6月、同社100%出資の三菱デベロップメントと、Rio Tinto、電源開発の3社との間で、Clermont炭坑開発について基本合意に達したと発表した。
三菱商事は2005年7月、石炭資源開発との間で、Clermont炭鉱プロジェクト参画に係る合意に達し、権益譲渡契約を締結したと発表した。
石炭資源開発は同時に、日本の電力会社用に同炭鉱の出炭時から10年間、年間約2百万トンの石炭を購入する。
Glencore Xstrataはスイスの商品取引大手Glencoreと鉱山大手Xstrataが合併した会社。
2012/11/26 Glencore
とXstrataの合併
Rio Tintoはコア事業に集中するため、本年初めにこの権益を売りに出した。しかし、石炭価格が今後も下がると見られていることと豪州のコストが高いことで、買い手がないとみられていた。
1,015百万ドルでの売却は、220億ドルの負債を持ち、株主からは増配を求められているRioにとっては好ましいものと見られている。
住友商事では、中国などの需要低迷で石炭相場は落ち込み、日本の電力向け一般炭は3年ぶりの安値となっているが、中長期的に需要は回復すると見ており、コスト競争力の高さなどから割安とみて権益を取得した。
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