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これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2016/12/16 米FRB、1年ぶり利上げ 

米連邦準備理事会(FRB)は12月13-14日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で1年ぶりに利上げを決めた。

政策金利であるFederal Fund 金利(FF金利)の誘導目標を0.25%引き上げ、0.50〜0.75%とした。新たな政策金利は15日から適用する。

利上げはイエレン議長ら投票メンバー10人の全員一致で決めた。

さらに今後、2017年に3回、2018年に3回の利上げを見込んだ。

付記 2017年3月15日、利上げを決めた。(0.75〜1.00%)

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米国は、金融危機に対応するため、2008年11月〜2010年6月に量的緩和策 QE1(Quantiative Easing Program-1 )を実施し、1兆7250億ドルが供給された。

米国の景気回復ペースの鈍化を受けて、2010年11月〜2011年6月に実施されたQE2では6000億ドルが供給された。

更に、労働市場を刺激して景気を回復させるため、2012年9月にQE3 を開始し、以降、毎月850億ドルの債券買い入れを行ってきた。

2014年1月には、債券買い入れ規模を減らし、量的緩和(QE3)の縮小を継続する方針を決めた。

2014/2/4 米国の量的緩和縮小とその影響 

その後、毎月の債券買い入れを月850億ドルから順次減少させ、2014年11月には買い入れをゼロとした。

そして、2015年12月16日に、米経済は2007-09年の金融危機による打撃を概ね克服したとの認識 に立ち、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を 0%〜0.25% から0.25%〜0.50% に引き上げ、2016年中に4回の利上げを予想した。

今後の利上げの条件としては、「雇用情勢」と「物価」を挙げた。

2015/12/17  米国、利上げ

当初、2016年に4回の利上げを想定したが、5回開催された連邦公開市場委員会ではいずれも見送られた。

8月26日にJanet Yellen FRB議長がJackson Hole Economic Policy Symposium での講演で、「米雇用が改善し、追加利上げの条件は整ってきた」と述べたことで米国の利上げ観測が強まった。

2016/8/29 米国の利上げ観測強まる

9月は利上げを見送ったが、年内の追加利上げに意欲を示した。3人の委員が利上げを主張した。

11月 は利上げの条件は整ってきたとしつつも、米大統領選挙の結果などを見極める考えを示唆した。8名がこれに賛成し、2名が利上げを主張した。

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今回の声明文では「労働環境と物価上昇率の実績と見通しに鑑みて、政策金利を引き上げると決断した」と強調した。

米国の2016年第3四半期のGDPは、速報では年率 +2.9% であったが、確定値は 3.2% となった。 付記 12/22 発表の最終確定値は更にアップし 3.5%

米労働省が12月2日に発表した11月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が 178千人増となった。失業率は4.6%と、約9年ぶりの水準に改善した。

 
     

消費者物価指数の動きは下記の通り。11月実績は前年比+1.7%に上昇した。

 

FRBでは、過去のエネルギー・輸入価格の低下による一時的な影響が消え、労働市場がさらに力強さを増すにつれ、中期的に2%に向かって上昇すると予測する。


2016/12/17     中国、「市場経済国」待遇で米欧をWTO提訴  

中国商務部は12月12日、同国の「市場経済国」認定を見送った米国とEUをWTOに提訴したと発表した。日本に対しても近く提訴に踏み切るとみられる。

WTOの紛争処理手続きに基づく個別協議を米国とEUに要請、協議が平行線をたどった場合、WTOの紛争処理小委員会(パネル)を設置して判断を委ねることになる。

付記

公表されていないが、中国は2019年にWTOの中間ルーリングで敗訴していた。

これを受け、中国はWTO提訴を一時的に中断した。

その期限が2020年6月15日であったが、中国は提訴を再開せず、この問題は中国の敗訴に終わった。

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中国は2001年12月にWTOに加盟した。

その際、中国以外のWTO加盟国が、中国産品についてアンチダンピング 措置又は相殺措置に係る調査を行う際の価格比較及び補助金額の算定に関し、中国を「非市場経済国 (Non Market Economy)」として扱う特例が、加盟後15年間認められた。

WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国で、すべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能な価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める」と規定している。

この結果、「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。

これまでにロシア、ブラジル、ニュージーランド、スイス、オーストラリアなど81国(2016/2時点)が中国の市場経済国家の地位を認めた。

中国はWTO加盟後 15年が過ぎた12月11日付けで市場経済国に認定される取り決めだと主張してきたが、日米欧は受け入れなかった。

中国は過剰生産設備の解消が遅れ、鉄鋼などのダンピングが世界的に問題視されている。

中国が「市場経済国」になれば、ダンピングの判断は中国の輸出価格が中国国内の価格に比べて安い場合となる。
しかし、国内の設備過剰により鉄鋼製品の国内価格が国際価格よりも大幅に安いため、輸出価格が第三国の国内価格より安くてもダンピングとみなされないこととなる。

  中国国内価格 中国輸出価格 第三国国内価格
非市場経済国の場合:    

ダンピング認定可

市場経済国の場合:

ダンピングでない

   

米政府は11月23日、中国を「市場経済国」と認定しない方針を明らかにした。

欧州委員会は11月9日、輸入製品が不当にEU域内で安く販売された場合に適用する、反ダンピング課税の算出に関する制度改正案をまとめた。

WTO上の義務に違反して中国から損害賠償を求められるおそれのある事態を回避し、同時に「市場経済国」として認定することによってもたらされると考えられる安値競争に対抗できなくなるという事態をも回避するために、EU域内での新たな通商上の救済措置を策定することを選択したこととな る。

経済産業省は12月8日、中国のWTOでの立場について、引き続き「市場経済国」と認定しないことを決めたと発表した。

2016/12/1 米、中国の「市場経済国」認定見送り

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中国のWTO加盟の際の協定の15条でこれに関して規定している。

Article VI of the GATT 1994, the Agreement on Implementation of Article VI of the General Agreement on Tariffs and Trade 1994 ("Anti-Dumping Agreement") and the SCM Agreement shall apply in proceedings involving imports of Chinese origin into a WTO Member consistent with the following: 

            (a)        In determining price comparability under Article VI of the GATT 1994 and the Anti‑Dumping Agreement, the importing WTO Member shall use either Chinese prices or costs for the industry under investigation or a methodology that is not based on a strict comparison with domestic prices or costs in China based on the following rules:

 (i) If the producers under investigation can clearly show that market economy conditions prevail in the industry producing the like product with regard to the manufacture, production and sale of that product, the importing WTO Member shall use Chinese prices or costs for the industry under investigation in determining price comparability;

(ii) The importing WTO Member may use a methodology that is not based on a strict comparison with domestic prices or costs in China if the producers under investigation cannot clearly show that market economy conditions prevail in the industry producing the like product with regard to manufacture, production and sale of that product.

            (d)        Once China has established, under the national law of the importing WTO Member, that it is a market economy, the provisions of subparagraph (a) shall be terminated provided that the importing Member's national law contains market economy criteria as of the date of accession. 

       In any event, the provisions of subparagraph (a)(ii) shall expire 15 years after the date of accession.  In addition, should China establish, pursuant to the national law of the importing WTO Member, that market economy conditions prevail in a particular industry or sector, the non‑market economy provisions of subparagraph (a) shall no longer apply to that industry or sector.

まとめると次のとおりとなる。

  Case 輸出価格との対比
Article VI of the GATT 1994 等の適用 すべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合
(具体的定義なく、各国が判断)
代替国の価格
中国との条約  (a)(i) 明らかに市場経済条件を満たす場合 中国の価格
 (a)(ii) 市場経済条件を満たすとは明確にいえない場合 最初の15年間 代替国の価格
15年経過後 ??(規定がexpire)

問題は、 (a)(ii) の条項が expire した場合で、市場経済条件を満たすとは明確にいえない場合にどうするかが明記されていないことである。
(輸入国が、中国の市場経済を認めた場合は、規定(a) は終了するとしている。)

中国の立場は、15年経過で(a)(ii) が規定する「代替国の価格」適用が無くなり、中国の価格との対比とすべきだということになる。

それに対し、日米欧の立場は、原則の代替国価格とすべきだということになる。
(しかし、それなら、
(a)(ii) が15年経過でexpire するという条項を入れる必要はない。)

WTOの紛争処理小委員会の判断がどうなるかで決まる。

なお、米国では、1930年関税法第771条(18)(B)で、ある国が非市場経済国であるかどうかを判断する基準が決められて おり、これに従って判断するとしているが、国内法よりも条約が優先する筈で、WTOの判断が出れば、これに従う必要がある。



2016/12/19 日欧 EPA、年内合意困難に、韓国はEU離脱の英国とFTA交渉
 

日本とEUはEPA(経済連携協定)の年内の大枠合意を目指し交渉を続けてきたが、断念した。

安倍晋三首相は12月9日の参議院のTPP 特別委員会で、「本年中の大枠合意の実現を目指して精力的に交渉を進める」と述べ、意欲を示していた。

しかし、交渉のため来日していたEUのペトリチオーネ首席交渉官は12月17日、「いくつかの論点で思っていた以上に妥協が難しい状況だ」と述べ、双方の溝が埋まらないまま終了したことを明らかにした。

交渉では日本はEUに、自動車に10%、テレビに14%かかる関税の即時撤廃を要求、EUはチーズや豚肉、ワインなどの関税引き下げを求めていたが、難航した。

EU側は、日本製の自動車を巡っては「関税撤廃の準備はある」としたが、日本がEU産農産品の関税を撤廃することと「バランスが重要だ」と述べた。EUが日本に輸入自由化を求める豚肉に関しては今回の交渉で「大きな進展があった」と表明しているが、チーズについては「より問題が複雑だ」として決着が難しい段階にあると示唆した。

EU側は「来週以降も合意に向けて作業を進め、来年初頭にも残る課題の解決を目指したい」としているが、来年はフランス大統領選など欧州主要国で重要な選挙があり、欧州側の政治決断は難しくなるため、しばらく進展しない可能性もある。

EUは圏内人口5億人で、世界のGDPの2割を占める巨大市場。日本の輸出入総額の約10%を占め、中国、米国に続き第三位を占める重要な貿易相手で、日本にとっては米国に次ぐ第2位の投資先であり、また、日本への投資元として、EUは第1位。

ーーー

韓国とEUは2010年10月6日、自由貿易協定(FTA)の締結で正式署名、2011年7月1日に発効した。

双方は、相手地域で生産した自動車・冷蔵庫・カラーTVなど工業品に対しFTA発効5年以内に全関税を撤廃することで合意した。
EUの関税は、自動車で10%、テレビで14%と高率で、関税撤廃による韓国企業の輸出拡大が予想される。

工業製品関税については、原則 5年間で関税を完全撤廃。
  自動車部品は協定発効と同時に関税を撤廃、
  中大型乗用車は3年、小型自動車は5年内に撤廃
韓国は例外として40余りのセンシティブ品目について7年内の関税撤廃。
 (関税率が16%のその他機械類、純毛織物など)

見返りとして、農業品などの関税撤廃についても大部分は合意した。
韓国政府は、期間10年、総額270億ドルの国内農家向け支援策をまとめた。

EU産ワインは、直ちに撤廃
EU産豚肉に対する関税は、冷蔵肉全体とバラ肉冷凍肉は10年以内に、その他の部位の冷凍肉は5年以内に撤廃。

但し、韓国のコメ市場は開放しない。トウガラシ、ニンニク、タマネギも「主要調味料」として関税を据え置く。

韓国の自動車メーカーと部品メーカーの輸出競争力が飛躍的に高まる。
まず、エンジン、変速機など大半の部品に対する関税(現行 2.7−19%)が撤廃され、欧州の自動車メーカーは韓国製部品の調達を増やすものとみられる。

自動車メーカーの輸出の伸びも見込まれる。既に強力なブランドを持ち、ウォン安の追い風を受けている現代自動車など韓国のライバル企業が一段と有利になる。

逆に、ドイツやフランスなどが強みとする精密化学、機械分野では、欧州製品の攻勢で韓国企業が打撃を受ける見通し。医薬品、医療機器などの輸入も増えるとみられる。

2010/10/12  韓国とEU、自由貿易協定締結

 

韓国は米国、EU、ASEAN、インド、チリ、ペルー、コロンビアなどの国・地域との間でFTAを締結し、欧州―東アジア―米国をつなぐ「東アジアのFTAハブ」と自称したが、その後、中国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどとも締結した。

米国、カナダ、EU、中国の大国・地域については、日本はFTAを締結しておらず、差がついている。

 

その韓国は、英国がEU離脱の交渉を始める前に、早くもEU離脱後の英国との2国間FTA交渉を開始する。

両国は、来年2月に1回目の貿易作業班会議を開き、両国の新しい通商協定を英国のEU離脱と同時に発効させることを目指して協議する。 韓国の産業通商資源部と英国の国際通商省は12月15日、ロンドンで3回目の「経済通商共同委員会」を開いて合意した。

英国がEUから離脱すれば、英国に輸出される韓国製品に対して適用されていた韓国とEUとのFTAに基づく特恵関税が適用されなくなることから、韓国とEUとのFTAを承継する形で、韓国と英国のFTAを早期に締結すべきと指摘する声が上がっていた。

 


 

2016/12/20   公取委、出光興産による昭和シェル石油の株式取得と JXホールディングスによる東燃ゼネラル石油の株式取得を承認 

公取委は、出光興産による昭和シェル石油の株式取得と JXホールディングスによる東燃ゼネラル石油の株式取得について、そのままでは競争を実質的に制限するとみなした。

しかし、当事会社が申し出た問題解消措置を講じることを前提とすれば、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認め、12月19日に排除措置命令を行わない旨の通知を行い、本件審査を終了した。


1 出光統合:出光が昭和シェルの議決権をShellから20%を超えて取得することを計画しているもの。

2014/12/22 出光興産、昭和シェル買収へ 

2 JX統合:JXホールディングスが、東燃ゼネラルの議決権を50%を超えて取得することを計画しているもの。

2016/9/2  JXホールディングスと東燃ゼネラル石油、経営統合の最終合意

出光統合については、本日の別記事参照。

JXと東燃は2017年4月1日の統合に向け、準備を進める。

付記 両社は12月21日、それぞれ臨時株主総会を開き、議案とした両社の経営統合案を賛成多数で承認した。

2016/9/2  JXホールディングスと東燃ゼネラル石油、経営統合の最終合意

 

公取委の判断と、当時会社が申し出た問題解消策は次の通り。

1) プロパン

出光が51%出資するアストモスエネルギー、JXの子会社 ENEOSグローブ、ジャパンガスエナジーと昭和シェル及び東燃ゼネラルが各25%を出資するジクシスが、それぞれLPガス元売業を行っている。

統合により、ジクシスにJXの統合会社の出光の統合会社が出資することとなる。


 

対策は次のとおりで、JX統合会社はジクシスから離脱、出光統合会社も支配権をなくす。

出光統合会社  昭和シェルが保有するジクシス株式について、出資比率を20%に引き下げる
                          会社法上認められる権利を超えた権利を行使しない

付記

昭和シェルは2017年9月19日、ジクシス株主と、保有株式の一部を売却する契約を締結した。

 

JX統合会社  東燃ゼネラルが保有するジクシス株式全ての譲渡

いずれも、ジクシスに対する工場生産品の供給を継続する、設備の賃貸を継続する(or 基地提供を継続する)が、情報遮断措置の実施に係る措置を採る。

2)    ガソリン、灯油、軽油及びA重油

いずれもシェアが高まり、
@競争事業者の数が減少すること、
A同質的な商品であり、販売条件について競争する余地が少ないこと、
Bコスト構造が類似すること、
C業界紙による通知価格の掲載等により、各石油元売会社は適時に他社の通知価格の変動状況等に係る情報を入手できることから、互いの行動を高い確度で予測できるようになると考えられる事情が認められる。

【平成26年度におけるの市場シェア】

  ガソリン 灯油 軽油 A重油
JX 約35% 約35% 約35% 約40%
東燃ゼネラル 約15% 約15% 約10% 約10%
昭和シェル 約15% 約15% 約15% 約15%
出光 約15% 約20% 約20% 約25%
他社 約10% 約10% 約10% 約15%
他社  0−5%      
その他 0−5% 約5% 約10% 0−5%
合計 100% 100% 100% 100% 
合わない

 

 問題解消策は次の通りで、輸入の障害を取り除き、輸入をしやすくするもの。

(1) 輸入促進措置(備蓄義務の肩代わり)
油種ごとに、石油元売会社以外の事業者によって輸入される数量が内需の10%に相当する数量になるまで備蓄義務の肩代わりを行う。

(2) 輸入促進措置(不利益取扱いをしないことの確約)
当事会社は、取引先に対して、主燃油の輸入を行ったことを理由として、主燃油の販売取引において不利益を与えないことを公取委に確約し、その旨周知する。

 

 その他の問題解消措置(競争事業者の競争力維持のための措置)

公取委は、競争事業者とのバーター取引の解消等により、競争事業者からの競争圧力が減少するおそれがある旨の問題点を指摘した。
これに対し、競争事業者の競争力を維持するため、当事会社からは現行のバーター取引の維持等に係る措置の申出を受けた。


2016/12/20   出光興産、シェルから昭和シェル株式取得

出光興産は12月19日、公取委の承認を受け、シェルから昭和シェル株式 31.3% を158,978百万円(1株当たり1,350円)で取得した。

当初、33.3%を169,103百万円(1株当たり1,350円)で取得すると発表していたが、出光興産と昭和シェル石油の合併に反対している出光創業家が昭和シェル株式を0.1%強を取得したと表明しており、出光興産の昭和シェル株式購入はこれを合わせると 1/3 を超えることとなり、TOBが必要となる。

2016/8/5 出光創業家、合併阻止へ強攻策 

今回、これを避けるため、購入株数を減らした。

 

これで出光興産は昭和シェルの親会社となったが、当初の目的の合併は、親会社の反対で見通しがつかないままである。(出光興産と昭和シェルは10月13日、2017年4月1日に予定した統合を延期することを決めた。)

付記 両社は2017年5月9日、アライアンス(Brighter Energy Alliance)を発表した。アライアンスにより統合シナジー効果の先取りを実現するとしている。

 

創業家側は出光興産の議決権の33.92%を握っており、総会決議で拒否権を持つ。

日章興産 * 16.95%
出光文化福祉財団 7.75%
出光美術館 5.00%
(小計) (29.70%)
名誉会長 * 1.21%
長男 * 1.51%
次男 * 1.51%
合計 33.92%

創業家側は8月8日、上記*の共同保有の届出を行った。21.18%となる。


出光興産の創業家の反対を受け、出光興産と昭和シェル石油の合併の件は頓挫しているが、両社は先行して資本・業務提携する調整に入ったと報じられた。

互いに2割前後の株式を持ち合い、製油所や石油製品の物流などの一体運営を始めるというものである。

しかし、合併に反対する出光創業家を刺激する恐れがあるうえ、出光が自ら出資比率を下げることに対し、「自社の利益を損ない、役員の責任が法的に問われる」と社内から問題視する指摘が出たため、断念した。

ーーー

相互出資案は12月7日付けの日本経済新聞が伝えた。

両社は合併に向け、公正取引委員会による審査を受けているが、公取委からの承認を得た後、下記により、資本業務提携を行う。

出光はRoyal Dutch Shell から33.24%の昭和シェル株を取得する。

しかし、このうち8%超の株式を信託銀行に預けることで、議決権ベースの出資比率を25%未満に抑える。

一方、昭シェルは2割程度の出光株を取得する。
取得方法など詳細は今後検討する。(市場での取得、出光による第三者割当増資の引き受けなど)

具体例は下記の通り。

合併は株主総会の決議案件で、33.92%の出光株を持つ創業家が反対すれば合併はできない。
しかし、今回のような資本業務提携なら、総会案件ではないため、両社が合意すれば実現する。

会社法では25%以上の株式を保有された会社は、相手先の企業の株式を取得しても議決権が無効になる規定がある。
25%未満にとどめることで、互いに議決権を持ち、両社の資本提携となる。

株式の持ち合いと並行し、国内に7カ所ある製油所の一体運営や、約7000カ所の給油所への製品供給などで提携する。
合併では年500億円の統合効果を予想するが、事業提携で年300億円程度の収益改善を見込む。

両社の幹部は「合併を目指す方針に変わりはない。まず業務提携で効果を先行して出していきたい」としていた。

ーーー

これに対し、創業家側は早速反論した。

1)  信託銀行への委託

議決権行使について信託銀行に委託する形式により金融商品取引法の公開買付義務を回避しようという意図のようです。

しかし、これは金融商品取引法の公開買付義務を形式的に潜り抜けるための、いわゆる脱法行為の実現を目的とした信託であり、正当な信託目的が認められません。
信託期間についても創業家と合意できるまで、という通常の信託契約では考えられない定めになると推測され、このような信託は、全うな信託銀行であれば、受託しないと考えられます。

また出光興産の経営判断の観点からも、議決権を行使しない昭和シェル石油株式8%を数百億円も拠出して取得する合理性は認められません。

2) 昭和シェル向けの増資の場合(市場で20%の取得は難しい)

合併という会社の根幹にかかわる事項に関し、見解が異なる状況下での増資は、株主の反対により株主総会で決議できない合併議案を、取締役らが合併に賛同する者に対し議決権を付与して合併議案を通そうというものであって、到底承服できません。
そのような増資をする場合は、発行差止のための法的措置を講じます。


出光興産は、昭和シェル石油との合併を目的に、同株式を取得したが、後日、合併に必要な株主総会の決議が可決できないことを認めざるを得なくなった経緯です。しかし、同株式の取得契約を解除すると多額の損害賠償が生じ責任を問われかねないために、これを履行するための方便として、今になって事業提携を持ち出さざるをえなくなったと考えられます。
以上のとおりですので、出光興産は、本日の報道の内容を、今後実行されることはないと考えております。

 

付記 創業家側の代理人の浜田卓二郎弁護士は2017年2月9日、辞任した。創業家との間で見解の食い違いが生じたもよう。

付記 

浜田氏と交代した創業家の代理人は2018年3月28日、経営統合に反対した上で独自の経営戦略を策定して実行するよう月岡隆社長に申し入れたと発表した。「経営統合が株主総会で承認される見込みはない」とし、経営統合の撤回が「最善の方策」としている。

 



2016/12/21 日ロ経済協力

12月16日の 日ロ首脳会談にあわせて、8項目の経済協力プランに沿って、両国の企業の間でエネルギー分野を中心に当初の見込みの2倍近い68件のプロジェクトの覚書などが交わされた。

政府関係者によると、日本側の総額は約 3000億円規模となる見通しだという。

8項目の経済協力プラン:

(1)健康寿命の伸長
(2)快適・清潔で住みやすく,活動しやすい都市作り
(3)中小企業交流・協力の抜本的拡大
(4)エネルギー
(5)ロシアの産業多様化・生産性向上
(6)極東の産業振興・輸出基地化
(7)先端技術協力
(8)人的交流の抜本的拡大

 

主な内容は次の通り。

エネルギー関連:

1)  Gazprom   下記の契約を締結

@ 三井物産

Sakhalin II 拡張、LNG bunkering (船舶へのLNG燃料供給)を含む戦略的協力協定

A 三菱商事

Sakhalin II LNG plantの第3系列追加を含むLNG部門での協力についての戦略的協力協定
また、現在のLNG計画に限らず、いろいろな事業分野での協力拡大も。

(三菱商事発表)
これまでの両社の信頼関係をさらに発展させ、エネルギー事業分野での協業のみならず、資機材調達など幅広い分野を対象に、更なる協業を検討

B 国際協力銀行(JBIC)

日本企業が参加する Gazpromの計画への資金確保の原則の覚書


参考 Sakhalin II
プロジェクト

事業主体 Shell 55%→27.5%-1株
・Gazprom 0%→50%+1株
・三井物産 25%→12.5%
・三菱商事 20%→10%
投 資 額 200億ドル
開発鉱区 ピルトン・アストフスコエ、ルンスコエ
推定可採
埋蔵量
@原油 10億バレル
A天然ガス 4,080億立方メートル

<石油>プリゴロドノエまでパイプラインで運搬後、新設港湾よりタンカーで日本等へ輸出
<ガス>プリゴロドノエまでパイプラインで運搬、液化後、LNGをタンカーで輸出  

2007/1/9 サハリン2計画 再スタートとその背景

 

2) Rosneft と 丸紅、国際石油開発帝石、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)

ロシア・サハリン島南西海域における炭化水素の共同での探査・開発及び生産に係る協力基本合意

経済産業省資源エネルギー庁が所有する物理探査船「資源」を本海域の一部において活用することや、JOGMECの「知見活用型構造調査」のスキームを活用することも検討 。

地質調査や探鉱を進め、2020年代後半以降の本格生産開始を目指す。サハリン北東部のSakhalin II と並ぶ大型のLNG事業に育つ可能性がある。

日本勢は最終的に上流権益への出資比率を3分の1程度確保したい考え。

 

 

3)   丸紅、三菱重工、Rosneft

極東でのワールドクラスのガス化学設備建設のFS実施の協力協定

 

4) 丸紅、Novatek(ロシア民間最大のガス生産販売会社)

石油ガス分野での協力を目的とした覚書を締結。

Novatekがロシア北極圏ギダン半島にて計画する新規の北極 LNG-2プロジェクトの上中流開発、LNG 取引及び輸送、ガス関連インフラの開発、石油製品取引に関する協業機会を検討する。

 

5)  石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (JOGMEC) とイルクーツク石油 (Irkutsk Oil)

東シベリア地域における新たな共同探鉱事業創設、油ガス田の生産性向上に資する共同スタディ実施等に向けた覚書

JOGMECは、2003年1月の日露首脳会談で採択された「日露行動計画」、その後2007年6月の日露首脳会談での「極東・東シベリア地域での日露間協力強化に関するイニシアティブ」に基づき、極東・東シベリア地域における探鉱促進による我が国への石油供給源の多様化ならびに日露民間企業の協力促進の一環として、2007年からINKと共同で地質構造調査事業を実施した。

これまでの探鉱作業により、複数鉱区で原油・ガスを確認しており、一部鉱区での発見油田については、テスト生産を経て、現在、開発・生産段階への移行をロシア当局に申請中であり、2016年末までの承認取得を見込んでい る。

今回、隣接地域に連携を広げる。
 

Irkutsk Oil は、イルクーツク州で最大の上流開発会社で、主な事業は原油・コンデンセートの生産販売。イルクーツク州およびサハ共和国(ヤクーチア)を中心に23の探鉱・生産ライセンスを保有。

6) 日揮

サハリン州政府と超小型 LNG の事業可能性を探る調査に向けて覚書を交わす。
年産12千トンの液化設備をサハリン東部に設け、LNGを同州西部に運んで家庭や産業向けに供給する。
ガスパイプラインの設置が難しい地域もあり、液化して輸送することで、これまでディーゼルや石炭だったエネルギー源を多様化する。


極東地域の産業振興:

1) 双日、日本空港ビルデング、海外交通・都市開発事業支援機構、ロシア連邦ハバロフスク空港会社

ロシア連邦極東地域に所在するハバロフスク国際空港において新旅客ターミナル整備運営事業を共同で実施するための協議を更に推進することを確認した。

2) 北海道銀行などが出資する「北海道総合商事」や、野菜の栽培施設の建設などを手がける「ホッコウ」

極東のサハ共和国の首都ヤクーツクに 1000平方メートルの温室ハウスを建設し、9月からトマトの試験栽培に取り組んできたが、事業化のメドが立ったことから、今の30倍あまりにあたる3.2 ヘクタールのハウスを新たに建設することで合意した 。
 

医療・健康分野:

1) 三井物産

@ ロシアの食糧大手 Rusargo と資本・業務提携をめざす覚書を交わす。出資額は数十億円とみられる。

Rusagro は穀物や食用油、畜産を手がけ、2015年度の売上高は約1400億円 で、ロンドン証券取引所に上場している。

経営ノウハウや日本の農業技術をRusagro に提供し、アジアやロシア国内での販売拡大を後押しする。既に出資するロシアの食用油と穀物を扱う企業との相乗効果も探る。

A ロシアの製薬大手R-Pharm に出資したうえで医薬品の販路拡大などで提携

R-Pharm はインドなどの製薬会社からライセンス供与を受けた医薬品を製造する。

三井物産は150億〜200億円を投じて株式の約10%を取得する見通しで、提携によって医薬品の種類を増やし、海外の販路も開拓する。

なお、富士フイルムは、12月14日、ロシア有数の製薬企業であるR-Pharm JSCと、ヘルスケア領域を中心に包括的な事業提携を進めることで合意したと発表した。

先端技術の分野:

1) 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、Ruselectronics(ロシア最大級の国営企業 Rostecの子会社)

リチウム資源開発に関する覚書を締結。

Ruselectronicsのリチウム回収技術を用いて塩湖からリチウムを回収する事業について、JOGMECが日本企業との橋渡し役を務める内容。

 

2) 富士通、ロシアのソフトウェア大手アビーなど

AI (人工知能) を使った文書管理のシステム開発で協力

 



2016/12/22 富士フィルム、和光純薬を買収、
ロシア有数の製薬企業 R-PHARM と事業提携 

富士フィルムは12月15日、武田薬品から和光純薬工業を買収する契約を締結した。富士フィルムが2017年2月に実施するTOBに武田薬品が応募するもの。

付記 2018年4月1日に富士フィルムファインケミカルズと統合、「富士フィルム和光純薬」に改称

富士フィルムファインケミカルズは旧称三協化学で、写真用原料メーカーで1990年代に医薬品製品に進出した。
富士フィルムは 1971年に40%出資し、2006年にこれを100%子会社とし、富士フイルムファインケミカルズに改称した。

和光純薬は、1922年に当時の武田長兵衞商店から化学薬品部門が分離したもので、当初は武田化学薬品と称した。1947年に和光純薬工業と改称した。

「科学技術の振興と学術研究の進展に寄与し、人々の豊かな暮らしに貢献する」との一貫した経営理念のもと、最先端分野の研究ニーズに応えうる総合試薬メーカーとして高品位の製品を開発・製造してきた。現在では、独自の技術力を活かして、「試薬事業」をはじめ「化成品事業」「臨床検査薬事業」を柱としている。ES細胞やiPS細胞の培養につかう試薬など有望技術を持つ。

現在、武田薬品が69.42%を出資する。

富士フィルムも1960年に和光純薬と提携、9.50%を出資している。これまで長年にわたり、写真感光材料の生産に必要な発色剤などの化成品の供給を受けてきており、現在では写真感光材料だけではなく、半導体材料をはじめとする高機能材料などの製品に和光純薬の製品を活用するなど、事業面でも強固な関係を築いている。

武田薬品は現在、重点疾患領域である「オンコロジー(がん)」「消化器系疾患領域」「中枢神経系疾患領域」ならびに「ワクチン」への研究開発資源の重点的な配分を通じてイノベーションを推進することで、革新的な新薬の創出を目指している。

このため、膨大な費用がかかる新薬開発に経営資源を集中するため、和光純薬の売却を決めた。売却価額は 1,985億円で、株式売却益(税引き前)1000億円を計上する。

富士フィルムのほか、日立化成、Carlyle Groupが応札していたとされる。富士では、「入札方式だったため、ある程度買収金額がつりあがった面は否めない。ただ、そろばんをはじいて企業価値を見極めて応札しており、妥当な範囲におさまる金額だと考えている」としている。

富士フィルムによると、「再生医療などヘルスケア分野の成長を模索するなか、4〜5年前に武田薬品工業の長谷川閑史・現会長との話のなかで持ちかけた。その頃からずっと欲しいと考えていた。武田側の事業改革のなかでこのたび売りに出ることになり、名乗りをあげた。買収は当社にとり重要なマイルストーンだ」という。

 

富士フィルムでは、買収により多くのシナジー効果を期待している。

1) 再生医療

富士フイルムグループには、iPS細胞の開発・製造のリーディングカンパニーであるCellular Dynamics International、国内で最初に再生医療製品を上市したジャパン・ティッシュ・エンジニアリングがある。

2016/6/28 富士フィルム子会社のCellular Dynamics、米国国立眼科研究所と加齢黄斑変性の治療に関する共同研究開発契約を締結 

2010/9/3 富士フイルム、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングと資本提携

富士は再生医療に関して、iPS細胞作製などに関する主要特許や細胞の開発・製造ノウハウ(Cellular Dynamics)、フィルム事業などで開発してきた細胞培養に必要な足場材(リコンビナントペプチド)、一定条件生産技術や微小環境でのコントロール技術などを持つ。

和光純薬は細胞の培養に必要な「培地」(細胞が必要とするアミノ酸、糖、脂質、ビタミン、ミネラルに、成長因子などをバランス良く含む栄養液)を手がけており、「我々に欠けていた部分がそろう」こととなる。

2) 体外診断分野(メディカルシステム事業)

富士フイルムは、血液中の化学成分を正確かつ高精度に測定できる臨床化学分析システムやインフルエンザウイルスを高感度で検出できる免疫診断システムなど体外診断システムを展開し、同システムの売上を年率10%以上で伸長させている。

今回、和光純薬が持つ免疫分析装置や生化学分析試薬などの製品群を加えることで、クリニックから大病院までのニーズに対応できる製品ラインアップを拡大。さらに院内検査を実施している国内のほぼすべての施設にアクセスできる和光純薬の営業網と、画像診断装置をはじめとした医療機器や医療ITシステムなどの販売を通じて構築した富士フイルムの海外ネットワークを活かして、それぞれのルートで相互に製品を拡販していく。

3) 医薬品の開発製造受託(CDMO)分野(医薬品事業)

富士フイルムグループは、FUJIFILM Diosynth Biotechnologies でバイオ医薬品の開発製造受託を行っており、また富士フイルムファインケミカルズでは低分子医薬品の開発製造受託を展開している。

今回、和光純薬の化学合成技術や培地の生産技術などと、富士フイルムグループが持つ低分子医薬の化学合成技術やバイオ医薬品の生産技術などを活用して、医薬品のCDMOビジネスを拡大させていく。

4) 電子材料事業

富士フイルムは、フォトレジストやイメージセンサー用材料、CMPスラリーなどの半導体材料製品をラインアップし、なかでも最先端の半導体材料分野で競争力の高い製品を供給することで、年率10%以上の売上成長を実現している。
 
今回、和光純薬が持つ、半導体の生産プロセスで使用される洗浄剤などを加えて、さらなる事業成長を図る。
 

5) 産業機材事業

富士フイルムが写真フィルムなどで培ってきた20万種の化合物ライブラリを試薬ビジネスに展開していくが、和光純薬の重合開始剤の次世代品などの開発を進めるとともに、富士フイルムの海外ネットワークを活用して、化成品ビジネスをグローバルに拡大していく。

 

ーーー

 
富士フイルムは、12月14日、ロシア有数の製薬企業であるR-Pharm JSCと、ヘルスケア領域を中心に包括的な事業提携を進めることで合意したと発表した。

R-Pharmは、2001年に設立された、ロシア国内約60か所に拠点を有する製薬会社で、欧米の製薬会社などと、がん、感染症、リウマチなど、幅広い領域の新薬を共同開発し、ロシア国内で販売している。

また、子会社では医療機器を扱っており、今後、医療機器の開発・製造・販売にも注力する意向を示している。

今後、富士フイルムは、R-Pharmと、以下のテーマを含めたヘルスケア領域で幅広く協業を進める。

  1. 富士フイルムグループが有する医薬品、再生医療などのヘルスケアビジネスのロシアにおける事業展開
  2. 富士フイルムグループの医療機器のロシアでの事業展開
  3. 機能性化粧品やサプリメントのロシアでの事業展開
  4. 上記を実現するための合弁会社など設立の検討

なお、富士フイルムグループ会社の富山化学は、2015年に、R-Pharmの傘下企業であるトルコの製薬企業TR-Pharmと抗リウマチ薬「イグラチモド」に関するライセンス契約を締結している。

TR-Pharmは、トルコ・中東・北アフリカにおける開発・製造拠点として設立された会社で、事業拡大に向けて、がん、炎症、感染症などの領域に注力し、10以上の新薬を開発中。

富山化学は、本契約に基づき、TR-Pharmにトルコ・中東・北アフリカにおけるリウマチ治療を目的とした「イグラチモド」の開発、製造、販売の独占的実施権を付与し、TR-Pharmより一時金およびロイヤリティを受け取る。

 


2016/12/23 Dow Chemical、高金利の優先株をようやく転換 


Dow は最近の株価高騰で長年の課題であった優先株の普通株への転換に成功する。

12月15日の株価が転換価格に到達したため、40億ドルの優先株を12月30日付で普通株に転換すると発表した。

 

Dowは2009年4月1日にRohm & Haasの買収を完了した。

2009/4/3 ダウ、Rohm & Haas の買収を完了

Dow はR&H 買収資金の188億ドルを、つなぎ融資130億ドルと、Warren Buffett のBerkshire Hathaway Inc. からの投資 30億ドル、Kuwait Investment Authorirty からの投資10億ドルで賄うことにした。

同社はクウェートのPICとの米国石油化学合弁 K-Dow Petrochemicals 設立で、事業売却額マイナス出資で75億ドル、配当15億ドルで、合計90億ドル(税引後では70億ドル)を受け取ることとなっており、これでつなぎ融資の一部を返済する予定であった。

しかし、2008年12月28日にこのJVが設立寸前に破談となった。このためDowは多くの事業の売却に踏み切ることとなる。

2008/12/29 ダウと、一転破談に  

なお、DowはPICから2013年5月に22億ドルの損害賠償を受け取っている。

2012/5/25     Dow、石化JV中止問題での調停で勝利、21.6億ドルを獲得

Buffett とKIUは2009年4月にそれぞれ30億ドル、10億ドルの優先株を購入した。

2009年時点では金融危機で米国のFF金利は2007年8月までの5.25%から暴落し、0%になっていたが、Dowは8.5%という高金利を払わざるを得なかった。

年間の利払いは255百万ドルと85百万ドルの合計340百万ドルに達し、これがそれ以降今まで続いていた。

契約では、2014年4月以降に、株価が取引日30日のうち20日間、53.72ドルを超えた場合に転換できることとなっている。一時的に超えた日は何回かあったが、継続して超えることはこれまでなかった。(Dowは、誰かが空売りして株価を抑えているのではと見ていたとされる。)

転換により、BuffettにはDowの普通株約6%、KIUには約2%を渡す。普通株への転換により、配当は年間 180百万ドル(1株 1.84ドル)に減少する。

Dowは2009年に大幅な減配としたが、その後順次増配し、現在では以前の水準を超えている。


Buffettの場合、普通株 72.6 百万株、現時点の時価で約42億ドル分を受け取る。Buffettはこれを売却すると思われる。

Berkshire は2009年末には5つの大会社の優先株を持ち、配当だけで年間21億ドルを稼いでいた。

 



 

2016/12/23  イタリア政府、モンテパスキ銀行の支援決定

多額の不良債権を抱えるイタリア第3位の銀行 モンテ・パスキ(Banca Monte dei Paschi di Siena:Monte Paschi)は12月22日、増資と劣後債の株式交換などを通じて50億ユーロを調達する計画は失敗に終わったと発表した。

アンカー投資家としてカタール投資庁(QIA)との間で10億ユーロの増資引き受けを交渉したが、まとまらなかった。アンカー投資家不在となったことで、他の機関投資家が増資を引き受ける見込みがなくなった。

このため、同行は
債務の株式交換計画の撤回も意味すると表明。20億ユーロを確保したが、提供された債券は返却する。
増資などに関与したJPMorganMediobanca などのアドバイザーに対し手数料は支払わないとし ている

増資とともに不良債権の売却も計画していたが、増資が失敗に終わったことで不良債権売却も進めることができなくなった。

Monte Paschiの自主再建の失敗を受け、イタリア政府は12月23日未明の閣議で、民間銀行支援のための200億ユーロの基金設立を了承した。

Monte Paschiは直ちに資本注入を要請した。イタリアでは過去最大規模の銀行国有化となる。

 

付記

Monte Paschi は12月26日、欧州中央銀行(ECB)が同行について88億ドルの資本不足を指摘したことを明らかにした。

50億ドルの調達で自力再建を目指したが、財務基盤が一段と悪化した。


付記

欧州委員会は2017年6月1日、Monte Paschi への公的支援を承認することで、イタリア政府と大筋合意したと公表した。Monte Paschi の「予防的な資本増強」を巡って伊政府と大筋合意した。

伊政府は「納税者の負担を抑えつつ、EU規則に沿って、予防措置としてMonte Paschi へ公的資金を注入できる」との声明を発表した。

ーーー

イタリア大手銀行のMonte Paschi は7月4日、欧州中央銀行(ECB)から不良債権比率を下げるように求める書簡を受け取ったと発表した。不良債権の総額を昨年の469億ユーロから2018年までに約30%削減するように求められた。

イタリア政府は公的資金注入による救済の検討を始めたが、EUが定めた銀行再建ルールが障碍となった。

金融危機を受け、EUでユーロを使う国々は各国でばらばらだった金融行政を一元化する「銀行同盟」を進めた。
銀行の破綻処理のルールも1月から施行し、まず銀行の債券などを持つ投資家に一定の割合の損失を負わせることにし
(Bail-in 制度)、公的資金の利用を制限する仕組みにした。

しかし、イタリアでは銀行の債権者に個人投資家も多いため(個人が銀行債を預金に近い感覚で購入している)、このルールを適用すれば大問題となる。

Monte Paschi の劣後債は45億ユーロある。内訳は次の通りで、保護されない側の大半が個人である。

  保護の順序 保有者 金額
Tier 1 best-protected 機関投資家等 21億ユーロ
Tier 2 中間 大部分が個人 20億ユーロ
Tier 3 least-protected 機関投資家等 4億ユーロ

このため、イタリア政府は欧州委員会に特例を求め たが、欧州委やドイツは、導入したばかりのルールを破ることに難色を示した。

 

さらに、欧州銀行監督機構(EBA)は7月29日、大手51銀行(EU:50、ノルウェー:1)を対象に実施したストレステスト(健全性審査)の結果を公表した が、Monte Paschi は、景気が大幅に悪化した場合、中核的自己資本比率 (Tier 1)が唯一マイナス(-2.44%) で最悪となり、同行の経営基盤の脆弱さが突出した。

 

Monte Paschiは7月29日、資本増強や不良債権売却を柱とする再建計画を発表した。

JPMorgan とイタリアのMediobanca が主導でまとめた案で、まず92億ユーロの不良債権を証券化する。その後、再建策のとりまとめを手掛けたJPMorgan、Mediobanca などの銀行団を引受先に最大50億ユーロの増資を年末までに実施するというもの。

不良債権の証券化については、政府の呼びかけで同国の銀行や保険会社が参加した民間投資ファンドが一部を引き受け、残りは既存株主などに売る。
Monte Paschi は不良債権を簿価の33%で売却することを決めた。

2016/8/1 欧州銀行監督機構の欧州の銀行の健全性審査とMonte dei Paschi 銀行の再建策 

欧州中央銀行(ECB)は増資を年末までに完了することを求めた。
 

イタリアの憲法改正の是非を問う国民投票は12月4日開票され、改正案は賛成 40.89%、反対 59.11% で否決された。

これを受けて、改憲を推進していたレンツィ首相は引責辞任した。

憲法改正案が否決され、首相が辞意を表明したことから政治的不透明感が高まり、Monte Paschi の資金調達が難しくなった。

Monte Paschi はECBに対して増資計画の完了期限を3週間延長し、2017年1月20日とするよう要請したが、ECBはこれを拒否した。

ECBは、期限延長により同行の流動性、および資本比率が一段と悪化する可能性があり、存続に対するリスクとなる恐れがあると説明。
増資計画を1月に延期することで市況が改善するとの保証もないとの考えを示した。

ーーー

イタリア政府は、Monte Paschi の国有化について、詳細は今後詰めるとするが、概要は明らかにした。

4万人の小口投資家が保有するTier 2の劣後債については、購入時にリスクを認識してなかったとして保全する方針で、額面で株式に転換する。逆に機関投資家などが保有する Tier 1 債は額面の75%で株式に転換する。

個人の損失回避のため、強制転換された株式を普通社債とスワップし、この株式を政府に売却する仕組みも導入する。

政府による資本注入のほか、流動性への対応として借り入れへの保証も行う可能性を示した。

こうした投資家保護は、厳格に救済ルールを適用すると金融システムに深刻な悪影響を及ぼす場合や、救済額が少額の場合、当該銀行が他の方法ですでに資金を得ている場合にのみ認められる。
政府は保護の対象を小口の投資家に限定することで欧州委員会の理解を得る狙いとみられるが、今後の例となるため、EUがどうするか注目される。

 


2016/12/24   独 Linde、米 Praxair と対等合併  

独産業ガス大手 Linde AGは12月20日、米同業のPraxair, Inc. と対等合併することで基本合意したと発表した。新会社の時価総額は650億ドル超と業界最大手が誕生する見通し。

業界2位のLindeと3位のPraxair は2016年8月、合併交渉を行ったが、9月12日、合併交渉の打ち切りを発表した。

Linde は当局への届け出で、合併の戦略的な根拠は原則的に確認したものの、ガバナンスの問題で両社は合意に至らなかったとコメントした。
独メディアによると、両社は新会社の取締役の選任や本社所在地などで溝があったという。  

Linde AG は12月7日、Praxair との合併交渉を再開すると発表していた。

新会社の名称は世界的に認知度の高いLindeとし、ニューヨークとフランクフルトに二重上場する方針。取締役会には両社から同数の役員が送られる。

Lindeの株主はLiinde株1株につき新会社の1.54株を受け取り、Praxairの株主に対しては等価交換が行われる。この結果、出資比率はLinde側とPraxair側の株主がほぼ50%ずつとなる。

年商は300億ドルに達し、スケールメリットやコスト節減、効率性の改善などで年間のシナジー効果は10億ドルに上る見通し。

付記 2018/7/13 大陽日酸、米国Praxairの欧州事業を買収

付記 2018/10/22 2019年1月29日までに下記事業の売却を条件に、米当局の承認を取得

all of Linde’s US bulk business
certain carbon monoxide, hydrogen and steam methane reforming businesses

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産業ガスでは、世界大手のフランスのAir Liquid が2015年11月17日、米同業のAirgas を買収することで合意したと発表した。

2016年5月13日、FTC は一部設備の売却を条件にこれを承認した。

大陽日酸は2016年5月に米国子会社のMatheson Tri-Gas, Inc. を通じて、フランスのAir Liquide と米同業のAirgas の資産を買収した。

これを受け、Air Liquideは5月23日にAirgas 買収を完了した。

Air Liquid はドイツのLinde と世界シェア首位の座を激しく争っているが、世界最大の産業ガス市場である米国地盤のAirgasを傘下に収め、Lindeを突き放した。

2015/11/24 産業ガス世界大手のAir Liquide、米同業のAirgas を買収

しかし、Linde と Praxair が統合すれば、圧倒的な業界第1位企業となる。


2016/12/24 エボラ熱予防にワクチン効果確認 

WHOは12月23日、西アフリカを中心に流行したエボラ出血熱について、カナダ政府が開発したワクチンが予防に高い効果を示したと発表した。
昨年の臨床試験で効果が確認できており、WHOは「致死率の高さで知られるエボラ熱の感染を防ぐ最初のワクチンだ」として早期の実用化に期待を示している。

データは12月22日付のThe Lancet で報告された。
  http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(16)32621-6/fulltext

このワクチンはPublic Health Agency of Canadaが最初に開発した rVSV-EBOV で、NewLink Geneticsの100%子会社のBioProtection Systemsが独占実施権を得た。

FDAは2014年9月、これをエボラワクチン候補のフェース1の臨床テストを承認した。 エボラウイルスに感染した動物のテストでは好結果を得ており、FDAは人間での臨床テストを承認した。

フェース1の安全試験実施に当たり、国防総省の国防脅威削減局(DTRA) と Walter Reed 陸軍研究所 (WRAIR)と協力している。

BioProtection Systemsは8月にDTRAから臨床試験に先立つ追加の毒性試験目的で100万ドルの資金提供を受けている。


米 Merckは2014年11月24日、NewLink Geneticsとの間で
rVSV-EBOV について研究、開発、製造、販売のグローバルの独占実施権を受けるライセンス契約を締結したと発表した。

Merk は2015年7月31日、WHO等が進める臨床試験の中間結果で、上記ワクチンが予防に100%の有効性を持つことが確認されたと発表した。

2014/10/29  エボラ出血熱ワクチンの開発進む 

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 rVSV-EBOVの臨床試験はWHOがギニアの保健省、国境なき医師団、ノルウェー保健省その他の協力を得てギニアで実施した。

2015年に11,841人でテストを行ったが、ワクチンを接種した5,837人は、誰もエボラにかからなかった。逆にワクチン接種をしなかったグループでは23人がエボラにかかった。

これにより、rVSV-EBOVが予防に高い効果を持つと判断した。

現在、子供やエイズ患者などへのワクチンの安全性についてさらなる研究を行っている。

 

エボラは1976年に最初に見つかったが、2013−2016年の西アフリカでの大流行で11,300人以上が死亡し、ワクチンの必要性が叫ばれた。

富士フイルムグループの富山化学が開発した抗インフルエンザウイルス薬「アビガン® 錠200mg」:一般名 ファビピラビル(favipiravir) も、エボラ出血熱に罹患した患者の治療のため、使用された。

2014/9/27    富士フィルム、エボラ出血熱患者に「アビガン」提供 


 

2016/12/26  オバマ大統領、北極海の新規掘削を無期限禁止 

オバマ米大統領は12月20日、北極海と大西洋の一部で石油と天然ガスの新規掘削を無期限に禁止するとの決定を下した。
外縁大陸棚法(Outer Continental Shelf Lands Act )2条(a) によるもの。

1953年の外縁大陸棚法(Outer Continental Shelf Lands Act )で、外縁大陸棚(米国領の大陸棚でありながらも、どの州にも属していない地域)の 鉱業権のリ ースについては連邦政府の権限が確立し、内務省の管轄の下、公開入札によって 鉱区のリースが行われる。

アラスカ地区の外縁大陸棚:

2条(a)では、一部の資源区域をリース・掘削の対象から除外する権限を大統領に認めている。

The President of the United States may, from time to time, withdraw from disposition any of the unleased lands of the outer Continental Shelf.

ホワイトハウスによると、海洋生物などの環境を保護するのが目的で、Chukchi Seaの米管轄海域全域やBeaufort Seaの大半などが対象。(既に認められた地域は除く)

カナダもこれに合わせ、北極圏のカナダ海域全域を今後の洋上石油・ガス権益リースの除外区域に指定した。5年ごとに見直す。

オバマ大統領は、「両国の高い安全基準をもってしても、同海域への油流出リスクは非常に高く、厳しい自然条件下でわれわれが流出油を除去できる力は限られるとの科学的な評価に基づく」と説明した。

オバマ大統領はこれまでも大統領令によって北極海や太平洋、大西洋での新規掘削を制限してきており、先月には北極海の一部で今後5年間、新たな掘削権益の許可を停止すると発表した。

オバマ政権は11月18日、北極海地域にある外縁大陸棚での石油とガス採掘を来年から5年間禁止することを決めた。2017年から2022年まで5年間の開発計画の許認可の審査が進んでいたが、Beaufort と Chukchi seas については開発許可を出さないことを決めた。アラスカでは対象となっていた3区域のうち、Cook Inlet の開発は認められた。

今回は、法律を無期限に適用するという形になるため、簡単に覆すことができない。トランプ次期大統領はエネルギー開発の推進を掲げているが、この法律にはこれを取り消す条項はなく、覆すには法廷で争うしかないが、何年もかかるとみられている。

オバマ大統領が掘削を禁止した区域は、アラスカ沖のChukchi SeaBeaufort Seaの大半、北東部ニューイングランドからチェサピーク湾までの大西洋海域。

 
 

 

禁止区域は北極海で115百万エーカー、大西洋岸で3.8百万エーカーに及ぶ。

これらの地域で既にリースされているところと、Beaufort Seaの沿岸部は禁止の対象外。

米石油業界はこの動きに強く反発し、米国がエネルギー生産の大きなチャンスを逃して今後何十年も外国に依存することになると主張している。
業界団体「米国独立系石油協会(IPAA)」の幹部は、任期切れを1カ月後に控えた大統領が「環境過激派の要求に屈した」と非難した。

 

Ronald Trump は10月下旬に、大統領に選ばれた場合の公約 "Donald Trump's Contract With The American Voter" を発表した。

大統領就任の1日目に、米国の労働者保護のため、7つのアクションを行うとし、NAFTA再交渉、TPP離脱等を挙げているが、そのなかにエネルギー関連がある。

5) シェール、原油、天然ガス、クリーンな石炭など50兆ドルものエネルギーの開発への制限を取り除く。

6) Obama-Clinton が停めた Keystone Pipelineなどのエネルギー関係のインフラ計画を進める。

7) 国連の気候変動計画への数十億ドルの支払を取り止め、その資金を米国の水と環境のインフラの補強に使用する。

2016/11/11 トランプの公約 

オバマ大統領は自身の政策を守るため、最後に強力な手を打ったことになる。

 

なお、米政府は2015年8月17日、ShellのChukchi Sea の6カ所での石油や天然ガスを掘削を最終承認したが、Shellは9月28日、チュクチ海のBurger J 油田の探査活動を停止したことを発表した。「バーガーJ 油田の採掘活動の結果、石油とガス田の発見に至ったが、今後も掘削を続けても十分な埋蔵量を持つ油田の発見に至る十分な保証を得ることはできないことが判った」としている。

2015/5/26  米、シェルの北極海での石油開発を承認
 

 



2016/12/27  日英、原発建設協力で覚書、日立・東芝の案件対象
 
日英両政府は12月22日、原子力分野で包括的に協力する覚書を結んだ。世耕弘成経済産業相が同日、来日したGreg Clark ビジネス・エネルギー・産業戦略相と会談し、覚書を結んだ。

・Decommissioning and Decontamination  廃炉、除染での協力
・Research and Development
・Global safety and Security Practices
・Nuclear New Build

覚書では、日立傘下のHorizon Nuclear Power が英中部Wylfa で、東芝傘下のNuGenが英中部 Moorside(Sellafield)でそれぞれ計画する原発について言及した。
(In particular, both sides note the proposals for nuclear power stations in the UK put forward by Japanese companies, namely the Horizon project at Wylfa in Anglesey and the NuGen project at Moorside in Cumbria. Both sides note the progress made to date by the developers and welcome the opportunity to continue to discuss the development of their proposals.)

また、原子力の研究開発や、福島第1原子力発電所の廃炉や除染などでも協力を深めることを確認した。

日本政府は原発の輸出を促進するため、今後英国側と資金支援の詳細な検討を進める方針で、まず、国際協力銀行(JBIC)や日本政策投資銀行を活用したHorizonへの投融資の検討作業を英国側と進める。
原発稼働後の電力の買い取り価格や買い取り期間、事故が起きた場合の賠償の仕組みなどについても英政府と協議し、持続可能な枠組みづくりをめざす。

支援総額は1兆円規模になる公算が大きく、2017年中にも大枠を固める。

Clark 氏は会談の中で、原発の新増設について「英国の産業戦略、クリーンなエネルギー開発を考える上で非常に重要だ」と指摘した。

安倍政権には、新興国での初の原発受注で、インフラ輸出に弾みがつくと期待していたベトナムでの原発計画が中止になり、あせりがある。

2016/11/14  ベトナムの原発建設計画 中止へ

ーーー

英国では19基の原発が稼働しているが、英国政府は2009年11月に原発拡大策を発表した。
10か所に原発を新設し、2025年までに全電力の25%を原発で賄う計画(当時は全電力の13%)。

  稼働中 廃止 政府案
Dounreay 実験炉
(Scotland 北端)
  2基   
Hunterston  2基   2基   
Torness  2基     
Chapelcross    4基   
Calder Hall    4基   
Braystones    
Sellafield
(Moorside)
   
Windscale(Sellafield)    1基   
Kirksanton    
Hartlepool  2基   
Heysham  4基   
Wylfa  2基   
Trawsfynydo    2基   
Sizewell  1基   2基 
Berkeley    2基   
Bradwell    2基 
Oldbury  2基   
Hinkley Point  2基   2基 
Dungeness  2基   2基   
Winfrith SGHWR    1基   
合計  19基   26基   
   


 

しかし、福島事故で原発の安全確保のためのコストが見直された結果、2012年以降、ドイツ、英国の企業が原発計画から撤退した。

安倍首相は日本の原発の新規制基準は「世界一厳しい基準」と自画自賛している。

しかし、英国のHinkly Point やSizewellで計画中で、フランスのフラマンビル、フィンランドのオルキルオト、中国の台山で建設中の欧州加圧水型原子炉(EPR) は日本よりもはるかに厳しい基準であり、これが建設費高騰の理由である。

安全システムは日本の2系統に対し、4系統あり、飛行機の衝突や内圧に耐える合計の厚さが2.6mの2層のコンクリート壁 を持つ。

事故で炉心溶融が起きても溶け落ちた核燃料は「コアキャッチャー」と呼ばれる巨大な受け皿に流れ込む仕組みを備える。その上部にある貯水タンクは高温になると蓋が自動的に溶けて弁が開き、その結果コアキャッチャーを水が満たして溶け落ちた燃料(デブリ)を冷やす機能がある。

新規制基準制定時のパブリックコメントではコアキャッチャーの義務化を求める意見があったが、無視された。

しかも、日本との違いは、これらは地震の恐れのないところで建設される。地震のない所でも日本よりはるかに厳しい基準が求められている。

http://maptd.com/map/earthquake_activity_vs_nuclear_power_plants/

地図を拡大すると、日本以外の原発のほとんどが地震発生の歴史がないことが分かる。米国西海岸の原発はほとんど停止した。

各社の撤退を受け、英国政府は原発推進のため自然エネルギーの普及に使われている「固定価格買取制度」を原発に導入した。

フランスのEDF と英国政府は2013年10月、Hinkley Pointに欧州加圧水型原子炉(EPR) 2基 総出力320万kWを建設することで合意した。(追加2基も計画)
中国広核集団(CGN) が33.5%を出資、残りをEDFが出資する。

英国政府とEDFは今回、原子力発電での電力の固定価格買取価格(35年間)について、下記の通り合意した。

Sizewell での建設を決める場合 £89.50/MWh(約14.1円/kWh)
Hinkley Point単独の場合    £92.50/MWh(約14.6円/kWh)

* この計画については、英国新政権が中国の進出を懸念し、7月29日に「待った」をかけたが、9月15日に承認した。

2016/8/4 フランスと中国の企業による英国Hinkley Point C 原発計画に黄信号

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日立製作所は2012年10月30日、ドイツのエネルギー会社のE.ON及びRWEからHorizon 全株式を買収する契約を締結した。
買収額は
6億7000万ポンド(約850億円)。

2012/11/1   日立製作所、英の原発会社買収

Horizon は、北ウエールズのAnglesey島のWylfa Newydd とSouth Gloucestershire のOldbury-on-Severn の2カ所で、5,400MW級以上の原発(1,300MW級をそれぞれ 2〜3基)を建設する。

2016/7/9 日本原子力発電、日立の英国の原電事業に協力   

2020年代前半の稼働を目指すが、2基にかかる総事業費を現時点で約190億ポンド(約2.6兆円)と想定。日立が総事業費の1割程度、英国政府が25%以上を出す案が出ている。

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東芝は2014年1月15日、スペイン大手電力会社Iberdrola S.A.から、英原子力発電事業会社NewGeneration (NuGen)の株式50%を、GDF Suez から同社保有のNuGen社株式10%を、それぞれ譲り受けると発表した。取得額は総額で約1億ポンド。

NuGenは東芝 60%、GDF Suez 40%の出資となる。

NuGen は、英中部Sellafieldで合計出力360万キロワットの原発建設を予定している。

Westinghouse Electric のAP 1000 を3基建設する予定。東芝は 原発設備を納入した後に経営権を売却することを想定しているとされている。

2013/12/27 英国が原発建設再開、固定価格買取制度導入、東芝と中国企業が計画に参加

 


2016/12/28 BP、アゼルバイジャンの油田開発を2050年まで継続
 

BPは12月23日、同社主導のAIOC (the Azerbaijan International Operating Company) がアゼルバイジャンで操業中のカスピ海で最大の海底油田 Azeri-Chirag-Gunashli (ACG) の開発を2050年まで続けることで、同国国営石油会社 SOCAR (the State Oil Company of the Republic of Azerbaijan) と基本合意したと発表した。

既存の契約は1994年9月に30年間の期限で締結された。今回、これを2050年まで延長する。

付記  一部修正  

  2017/9/19 国際石油開発帝石、カスピ海ACG鉱区の権益期限延長

原油生産は1997年11月に開始され、今までに約330億ドルの投資で、30億バレル以上の原油を生産している。
現在の生産量は日量 632千バレル。

2006年にアゼルバイジャンのバクー市からグルジア共和国トビリシ市を経由し、地中海に面するトルコ共和国ジェイハン市を結ぶ総延長1,768kmの原油パイプライン BTC Pipe Line が完成し、6月4日にトルコ側の積み出し港から第一船の出荷が行われた。

輸送能力は日量120万バレル。

2006/6/7 BTCパイプライン完成

 

現在のAIOC (the Azerbaijan International Operating Company) とBTC Pipe Line 運営会社の株主は次の通りで、国際石油開発帝石と伊藤忠商事も権益を保有している。

  AIOC BTC
BP 35.78% 30.10%
Chevron 11.27% 8.90%
SOCAR(アゼルバイジャン国営石油会社) 11.65% ---
国際石油開発帝石(INPEX) 10.96% 2.50%
Statoil 8.56% 8.71%
ExxonMobil  8.00% ---
TPAO (トルコ) 6.75% 6.53%
伊藤忠商事 4.30% 3.40%
ONGC(インド)米Amerada Hess から買収  2.72% 2.36%
Azerbaijan (BTC) --- 25.00%
Eni  --- 5.00%
TOTAL  --- 5.00%
CIECO  --- 2.50%

2016/12/28  BP、アブダビの権益取得、見返りにアブダビ政府がBPに出資

BPは12月17日、アブダビ政府とアブダビ国営石油 (ADNOC) との間で、BPがAbu Dhabi Company for Onshore Petroleum Operations Limited(ADCO) に10%の出資をすることと、ADCOが保有する陸上権益の10%を取得する契約に調印したと発表した。見返りにアブダビ政府はBPに2% 出資する。

ADCO鉱区は4つの地域に分かれている。

1)SE Hub (South East Asset)

Asab 油田 
Sahil 油田 
   
Shah 油田    
Qusahwira 油田
Mender 油田  開発中、2017年生産開始予定

2)Bab Asset

3)Bu Hasa/Huwaila/BQ Assets

Bu Hasa 油田  
Huwaila 油田   
Bida Al-Qemzan (BQ) 油田 

4) North East Bab (NEB)

Dabbiya 油田
Rumaitha 油田
Shanayel 油田

 

アブダビの陸上油田は1939年以降、外国の石油会社に採掘権を与えられてきた。
1971年の独立を機に、
Abu Dhabi National Oil Company
(ADNOC)が参加し、Abu Dhabi Company for Onshore Oil Operations (ADCO)を設立した。

当初 ADNOCの出資比率は15%であったが、1974年に60%となった。
他のメンバーは以下の通り。

BP、Shell、Exxon Mobil、Total  各9.5%、計38%
PortugalのPatex Oil and Gas 2% (
Mr. 5% と呼ばれた石油商人 Calouste Gulbenkian の権益を引き継ぐ)

これら各社の権益は2014年1月10日に期限切れで失効した。

新しく40年間の権益が与えられることとなり、各社が応札した。

先ず2015年1月1日付けでフランスのTotal が10%の権益を取得した。

国際石油開発帝石(INPEXは2015年4月27日 、アブダビ首長国の陸上のADCO鉱区の5%の参加権益を取得し2015年1月1日からの40年間を契約期間とする利権契約を同国政府及びアブダビ国営石油会社(ADNOC)と締結したと発表した。

2015/4/29  国際石油開発帝石、アブダビ首長国の陸上ADCO鉱区の権益取得

その後、韓国のGS Energyが3%を取得している。

今回、BPが10%の権益を取得するとともに、ADCOそのものに10%の出資を行う。

今後ADNOCは海外パートナーに割り当てられた40%の権益の残り12%分について、パートナーを探す。

 

見返りにアブダビ政府はBPに2% 出資する。

BPは 3億9,290株の新株を1株あたり4.47ポンドでアブダビの政府系投資会社    Mubadala Development Company に発行する。12月16日のBP株価4.90ポンドで計算すると19.2億ポンドとなる。


 


2016/12/29 上海市、独禁法違反でGMに罰金 

上海市政府は12月23日、独占禁止法に違反したとして米自動車大手のGMの中国合弁会社に対し201百万元(約34億円)の罰金を科すと発表した。

上海市政府の物価管理当局が、GMと中国自動車大手の上海汽車集団(SAIC) との合弁会社であるShanghai General Motors(GM 49%、SAIC 51%)に対し、中国で販売するCadillac、Chevrolet、Buick などの一部車種について、販売会社に対し最低価格を指示したとして、年間販売額の4%の罰金額を設定した。

GM は声明で、事業を行っている国の法律、規則を尊重するとし、本件で適切な対応をすべく、中国のJVの支援を行うとしている。

これまでにも多くの自動車メーカーが摘発されている。

2014/9/15 中国、Volkswagen と Chrysler に独禁法違反で罰金 

これまでにもあった単なる独禁法違反事件であり、Trump次期大統領の反中国姿勢に対する反応とは見えないが、米国の対応により米中経済戦争につながる恐れがある。

 

本件に関しては、中国の英字紙 China Dailyは今月中旬、国家発展改革委員会の幹部の発言として、米自動車メーカーに制裁金を科す考えだと伝えていたが、Trump 次期大統領の政権移行チームの広報担当者は「Trump は米企業や雇用のために戦うと明言している」と強調していた。

12月21日には米通商代表部(USTR)が中国の電子商取引大手 アリババ集団のネット通販サービス淘宝網などを偽造品市場のブラックリスト(Notorious markets list」に組み入れた。4年前にリストから外した経緯があり、アリババ側は「政治的な意向が働いている」と反発。米中双方を代表する企業を狙った報復合戦の様相を呈している。

アリババグループの総裁は、「4年前、USTRは当社の名前をこのリストから削除した。それから4年間、当社はブランド所有者や法執行機関と共に、模倣品や海賊版を販売している業者に対する処罰を実際に展開し、先進的な方法で効果的に知的財産権の保護業務を展開してきた。それにもかかわらず、USTRは当社を再びリストに入れた。当社は、これが本当に事実に基づいた決定なのか、今の政治的雰囲気の影響を受けているのではないかと、疑いをかけざるを得ない」とすぐにコメントを出し、失望感を示した。

Trump次期大統領は12月21日、ホワイトハウス内に国家通商会議(National Trade Council)を新設し、トップに対中強硬路線を唱える Peter Navarro を指名した。「国家通商会議の創設は、米製造業を再び偉大にし、すべての米国民にきちんとした職で妥当な賃金を得る機会を提供するとの次期大統領の決意をあらためて示している」としている。

Peter Navarro 教授は、“The Coming China Wars”、“Crouching Tiger:What China’s Militarism Means for the World”、“Death by China”などの著書が世界で注目された。

“Death by China”では、中国共産党政権の下での環境汚染、資源の略奪、毒食品、政治腐敗、軍事拡張、為替操作など多くの面において、世界にとって脅威となっていると批判した。2012年に同著書のドキュメンタリー映画も製作された。

 


2016/12/30      東芝、Stone & Webster買収で数十億ドル規模の「のれん」計上の可能性

東芝は12月27日、同日の日本経済新聞の報道を受け、昨年末のStone & Webster (S&W) 買収で数十億ドル規模の 「のれん」計上の可能性が生じたことを明らかにした。

影響額の確定を待たずに、とりあえず発表した。

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東芝の米国子会社のWestinghouse は2015年12月31日、Shaw Group子会社で原子力の建設と統合的なサービスを担う Stone & Webster をCB&I から229百万ドルで買収した。

東芝は買収金額を公表していないが、米国証券取引委員会に提出された資料によると2億2900万ドルである。

Shaw Group を買収したCB&I が原子力関係事業からの撤退を決めたもの。

CB&I はEPC契約者としてSouth Texas Project から撤退するとともに、South Texas Project およびABWR事業開発会社 (Nuclear Innovation North America) に対し保持している債権を放棄する。

2016/5/16 東芝、米国大手エンジニアリング会社との原発建設に関する協力関係を解消 

この売買契約について、東芝は8月12日の発表で2つの問題を挙げている。

1) 売買契約には「価格調整条項」があるが、CB&Iは7月21日に 、株式購入契約において合意していた法的手続きを無効にする申し立てをデラウエア州公衡平法裁判所に行った。第三者会計士へ判断を委ねることの差し止めを求めた。

購入契約上、CB&Iは S&B の運転資本額として1,174百万ドル相当額を計上した状況で株式を譲渡する義務を負う。

買収完了後に運転資本額を精査し、運転資本額がこれを下回った場合は、差額をCB&Iが支払い、
逆に、上回った場合は、差額をCB&Iに支払うこととなっている。

見解に相違があった場合は、第三者の会計士が判断する。

Westinghouse では、これに基づく算定結果を含む書面をCB&Iに提出していた 。

2) 「のれん」の金額

米国会計基準に従い、算定中で、年末までに確定する。
この時点では87百万ドルと想定している。

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買収額は229百万ドルで、これと資産価値との差を87百万ドルとみていた。これは極めて妥当である。

しかし、現時点でこれが数十億ドルになるという。買値が2.29 億ドルのため、資産価値が仮にゼロであったとしても、「のれん」は2.29億ドルで、買値の10倍の赤字など考えられない。

S&B に数十億ドルもの損失(または潜在的な損失)が隠されており、それを知らずに買収したのかも分からない。通常は契約でそんな損失は負担しないようにしている筈であり、当然、相手方に損失を負担させるはずである。

それなのに、東芝が「のれんが数十億ドル規模にのぼる」可能性があるとするのは、契約上、負担せざるを得ないようになっているのかも分からない。

きわめて不可解であり、それが東芝トップにごく最近に報告されたというのも不可解である。

ーーー

不適切会計問題で揺れた東芝に、2015年11月、新たに原子力事業での赤字隠蔽疑惑が発生した。

11月12日の日経ビジネスオンラインが、「スクープ 東芝、米原発赤字も隠蔽 内部資料で判明した米ウエスチングハウスの巨額減損」という記事を掲載した。

東芝の米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)で、計1600億円の巨額減損が発生していたことが日経ビジネスの取材で分かった。WHの単体決算は2012年度と2013年度に赤字に陥っていたが、本誌が指摘するまで東芝は事実を開示しなかった

東芝は、原子力事業全体では減損処理が不要なため、WHの減損処理を発表しなかったと弁明した。

2015/12/8 東芝の原子力事業 

東芝が2016年2月4日に発表した2016年3月期の損益予想は7100億円の赤字で、何もしなければ債務超過となる。

東芝は3月17日に、実質的には独禁法に違反する奇手で、キヤノンに医療機器子会社 東芝メディカルシステムズを6655億円で売却し、債務超過を逃れた。

2016/3/18 キヤノン、東芝メディカル買収を発表、独禁法対策で奇手 

公取委は6月30日、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの株式取得を承認したが、株式取得のスキームが、事前届出制度の趣旨を逸脱し、独占禁止法第10条第2項の規定に違反する行為につながるおそれがあることから、両者に対し異例の注意を行った。

また、今後、企業結合を計画する者が仮にこのようなスキームを採る必要があるのであれば、当該スキームの一部を実行する前に届出を行うことが求められるとした。

2016/7/4   公取委、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの株式取得を承認


東芝は2016年4月26日、改めて原子力事業の減損チェックをした結果を発表した。

原子力事業の事業性に変更はないが、資金調達コストの上昇を受け、割引率を見直した結果、減損処理を行うとし、現段階で約2600億円を見込むとしている。

2016/5/12 発表(5/23 修正)の決算では、原子力事業の一時的費用として下記を計上した。

 
ノレン減損  -2,476億円
構造改革費用  -40億円
その他   -90億円
合計  -2,606億円

   

ーーー

東芝の2016年9月中間決算での連結資本勘定は3,632億円しかない。この時点での2017年3月末の年間純損益予想は1,450億円で、上期損益は1,153億円のため、下期損益は297億円に過ぎない。

損失額によっては債務超過に陥る恐れもある。

既に東芝メディカルなど、目ぼしい子会社は売却済みであり、一般投資家への増資も難しい。

東芝は2015年9月に東京証券取引所から特設注意市場銘に指定されたが、東証は12月19日、指定期間を延長すると発表した。
上場廃止の恐れが生じたものの、取引所の審査の結果、影響が重大とはいえないと認められて上場廃止に至らない場合で、かつ内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められる場合に指定される。

S&Pは12月28日、東芝の長期会社格付けを「B-」に、1段階引き下げたうえで、格下げ方向の「クレジット・ウォッチ」に指定したと発表した。

ムーディーズ・ジャパンは12月28日、東芝のシニア無担保債務格付けを「B3」から「Caa1」に格下げすると発表、さらに格下げ方向で見直すとした。

このため、東芝は主力取引銀行と金融支援に向けた協議に入ったが、銀行側にも東芝への不信感が強く、難航するとみられる。

 


2016/12/30    中国、人民元指数算出に用いるバスケットの構成通貨数をほぼ倍に

中国人民銀行(中央銀行)が運営する中国外貨取引センター(CFETS)は12月29日、人民元指数(
CFETS指数)の算出方法を調整すると明らかにした。

 

中国人民銀行は2015年12月11日、為替相場は複数の国々との貿易と投資を反映するものであり、 米ドルに対する変動のみでなく、通貨バスケットに対する人民元の変動を考慮する必要があると説明、13の通貨で構成される新たな人民元指数(CFETS指数を公表した。

2015/12/16   中国人民銀行、人民元の新指数導入

2014年12月31日を100とする。12月23日終値での指数は95.09であった。(対米ドルでは89.27%)

現在の指数は13の外貨で構成されるバスケットで算出されているが、2016年1月1日からはバスケットの構成通貨数を24に増やす。算出メカニズムを向上させることが目的という。

新たに追加する11通貨のバスケット全体へのウエートは21.09%。うち韓国が10.77%で日本円に近い。

変更を受けて、ドルのウエートは、現在の26.40%から22.40%に、ユーロは21.39%から16.34%に、日本円は 14.68%から11.53%に低下する。
バスケットでのドルの比率が下がることで、元の対ドルでの下落を容認しやすくなるとの見方もある。

CFETS指数の構成やウェートは毎年見直す方針。

従来と改定後の構成比率は下記の通り。

    CFETS 指数 2017改定

参考

BIS 指数 SDR 指数
1 米 ドル 26.40 22.40 17.80 41.90
2 ユーロ 21.39 16.34 18.70 37.40
3 日本 円 14.68 11.53 14.10 9.40
4 香港 ドル 6.55 4.28 0.80
5 英 ポンド 3.86 3.16 2.90 11.30
6 豪 ドル 6.27 4.40 1.50
7 NZ ドル 0.65 0.44 0.20
8 シンガポール ドル 3.82 3.21 2.70
9 スイス フラン 1.51 1.71 1.40
10 カナダ ドル 2.53 2.15 2.10
11 マレーシア リンギッド 4.67 3.75 2.20
12 ロシア ルーブル 4.36 2.63 1.80
13 タイ バーツ 3.33 2.91 2.10
14 南ア Rand 1.78 27か国
小計

31.70
15 韓国 Won 10.77
16 UAE Dirham 1.87
17 サウジ Riyal 1.99
18 ハンガリー Forint 0.31
19 ポーランド  Zloty 0.66
20 デンマーク Krone 0.40
21 スウェーデン Krona 0.52
22 ノルウェー Krone 0.27
23 トルコ Lira 0.83
24 メキシコ Peso 1.69
  others
  合計 100 100 100 100

 



2016/12/31  世界初の太陽光発電道路「Wattway」開通

フランスのノルマンディの町Tourouvre で12月22日、世界初の太陽光発電道路 “Wattway” の開通式が行われた。

「Wattway」は、フランスの道路建設会社のColasが、フランスの国立研究機関 INES (National Institute for Solar Energy) との 5年間の共同開発により確立した太陽光発電を行う道路。

開通した区間は約1kmで、基盤材とプラスチックで挟まれた2,800 m2の太陽光パネルで覆われている。この道路の交通量は1日2000台。
 

太陽電池を埋め込んだ道路としては、2014年にオランダ のアムステルダムの北西約15kmで開通した SolaRoad があるが、これは荷重の小さな自転車用の道路で、Wattway は自動車用道路として世界初を名乗っている。

道路の表面は太陽に照らされているが、車が通って日光がさえぎられるのは 10%程度であり、残りで発電しようというもの。但し、パネルを水平に置くため、効率は悪い。

Colas では、理論的にはフランスの100万kmの道路のたった 1/4に敷き詰めると、フランスはエネルギーを自給できるとしている。

Wattway の 建設コストは約500万ユーロで、2年間の試験運用の間に、道路周辺の住民3400人が暮らすのに必要な電力を供給できるかどうかを確認する。

仏エコロジー・持続可能開発・エネルギー大臣Ségolène Royalは開通式典で、「フランスを走る1000kmあまりのハイウェイがこの太陽光発電道路になることを望む」と語った。

ーーー

太陽光パネルは非常に頑丈なプラスチックで覆われており、テストでは100万個のトラックタイヤが通るのにも耐えられたとしている。重いトラックが走っても問題ない。

タイヤが滑るのを避けるため、表面のプラスチックには凹凸がつけてある。

但し、雨が降った場合、水がパネルの上にたまり、ハンドルやブレーキが利かなくなるハイドロプレーニングが起こらないか、懸念する声がある。
また、自動車の走行によるすり減りや耐久性に懸念もある。

これらの実現のためには技術的なブレイクスルーがあり、2つの特許でこれらを保護しているという。

道路工事の工程が必要なく、舗装道路上にそのまま装着できるようになっている。

Colasでは耐用年数を少なくとも10年としており、交通量が少ない場合は約20年としている。

問題はコストで、屋根に設置する太陽光発電が 1 kilowatt-peak (発電力が一定しない太陽光発電などの平均のキロワット)当たり 1.30ユーロなのに対し、17ユーロもかかる。
しかし、Colasでは2020年までに競争力あるものになるとしている。

寿命(20年)以内に投資を回収できるとみており、現在は投資回収期間を15年以内に短縮することを目指している。

 


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