2024/9/16     米、対中制裁関税 9月27日に引き上げ 

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2024/8/1  日韓主導で供給網の危機対応へ IPEF危機対応ネットワーク  

米商務省は7月30日、日米など14カ国が参加するインド太平洋経済枠組み(IPEF)のサプライチェーン協定に基づいて新設した3組織・・・サプライチェーン評議会(Supply Chain Council)、危機対応ネットワーク(Crisis Response Network)、労働権諮問委員会((Labor Rights Advisory Boardの初会合をオンラインで開いたと発表した。

会議では、3つのサプライチェーン団体のそれぞれが議長と副議長を選出した。任期は2年。

サプライチェーン評議会では、議長に米国、副議長にインドを選出。
危機対応ネットワークでは、議長に韓国、副議長に日本を選出。
労働権諮問委員会では、議長に米国、副議長にフィジーが選出された。

発表に関するプレスリリースでは、「これらの会議は、IPEFサプライチェーン協定に基づくパートナーの共同目標の実現に向けた画期的な一歩となる。この協定は、14のIPEFパートナー間の緊密な協力を促進し、重要なサプライチェーンの回復力と競争力を強化し、経済的繁栄にリスクをもたらすサプライチェーンの混乱に備え、対応を強化するとともに、地域全体で労働者の権利を強化し、労働者の地位を向上させることを目指している」と述べている。

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バイデン米大統領は2022年5月23日、新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を表明した。日米と韓国、インドなど計13カ国を創設メンバーとし、中国に対抗してサプライチェーン(供給網)の再構築やデジタル貿易のルールづくりなどで連携する。5月26日にフィジーが加盟、加盟国は14カ国となった。

加盟国 14カ国

 米国、日本、韓国、インド
 豪州、NZ、フィジー
 ASEAN:マレーシア、シンガポール、ベトナム、ブルネイ、フィリッピン、インドネシア、タイ (10カ国中の7カ国) 

IPEFは「デジタル経済のルール作りや強固で強じんなサプライチェーンの確保、エネルギーの転換など、新たな経済の課題に立ち向かうためにデザインされた21世紀の新たな枠組み。

(1)公平で強靭性のある貿易、(2)サプライチェーンの強靭性、(3)インフラ、脱炭素化、クリーンエネルギー、(4)税、反腐敗の4つの柱から構成される通商枠組みで、米国の輸入拡大につながる関税の引き下げは交渉しないとしている点が、TPPとは大きく異なる。通常の多国間協定とは違い、議会の承認は得ず、緩やかな連携を目指す。

2022年5月、バイデン大統領の訪日に合わせて東京で立ち上げが発表された。
同年9月、IPEF閣僚会合において、貿易、サプライチェーン、クリーン経済及び公正な経済の4つの柱について、交渉対象に関する合意がなされた。
IPEF立ち上げから一年後の2023年5月のIPEF閣僚会合で、柱2として交渉が進んでいたIPEFサプライチェーン協定の実質妥結が発表された。
さらに、同年11月の閣僚会合が開催され、IPEFサプライチェーン協定の署名式が行われたほか、IPEFクリーン経済協定及びIPEF公正な経済協定の実質妥結が発表された。

2022/5/21 インド太平洋経済枠組み(IPEF:Indo-Pacific Economic Framework)

IPEF傘下にはサプライチェーン危機対応目的の危機対応ネットワークと共に、平時サプライチェーン協力促進のためのサプライチェーン 評議会、労働権増進を目標とする労働権諮問委員会の3大履行機構がある。


今回、韓国が全会一致でサプライチェーン危機対応国際機構の初代議長国に選出された。副議長国には日本が選ばれた。

韓国は危機対応ネットワークの議長国としてサプライチェーン危機発生時に緊急会議を招集し、協力案を模索する。 自然災害やサイバー攻撃による物流機能の停止といった危機を想定する。

特定の品目に不足が生じれば加盟国間で連絡を取り合って在庫状況などを確認・共有する。複数国で緊急需要がある場合、在庫を融通し合ったり代替調達ルートを検討したりする。

平時から危機に備えた訓練を企画する。危機発生時に各国が輸出管理の例外措置など行政手続きを迅速に取れるよう備える。加盟国が個別に不足物資を買い占める事態を抑制し、各国に必要な分を行き渡らせることができるよう連携をとる。

加盟国が会議招集を要請すれば15日以内に会議を開かなければならない。懸案によって閣僚級または首脳級に格上げされる可能性もある。

会議では▼代替供給先の確保▼共同調達▼代替運送経路発掘▼迅速通関−−などの支援案を議論する。

平常時にはサプライチェーン問題への対応戦略樹立、模擬訓練、既存経験・政策の評価などの活動をする。



2024/8/2 米、対中制裁関税の引き上げ延期

米政府は8月1日に予定していた中国からの輸入品への制裁関税引き上げを半月ほど延期する。

関税引き上げについて意見募集をしたところ1100件超の意見が寄せられ、想定した期限までにまとめきれなかった。

特に港湾クレーン(税率0%→25%)を巡って業界団体から強い反対が出ている。

全米港湾協会は、米国内で大型クレーンを製造できる企業がなく、中国製クレーンが事実上輸入できなくなれば「港の効率と取扱量に深刻な被害を与える」と訴えた。関税引き上げの発表前に米国内から計35台のクレーンが中国に発注されていたが、代替調達先がなく、8月に関税が上がれば少なくとも1億3100万ドルのコスト増になるとして延期を求めている。

USTRは、8月中に意見を反映して最終決定を公表、公表から約2週間後に関税を上げる。

 

付記 2024/9/16 米、対中制裁関税 9月27日に引き上げ

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米国は5月14日、中国製EV関税などを大幅に引き上げると発表した。

同日発表したFact Sheetで次のように述べている。

中国の不公正な貿易慣行に対応し、それによって生じる損害を補償するために、バイデン大統領は本日、通商代表に対して、1974年の通商法のセクション301に基づいて中国からの180億ドル相当の輸入品に対する関税を引き上げるよう指示した。

大統領はアメリカの労働者と企業を中国の不公正な貿易慣行から保護するための行動を取る。
中国に技術移転、知的財産、革新に関する不公正な貿易慣行を廃止するよう促すため、大統領は鋼鉄、アルミニウム、半導体、電気自動車、バッテリー、重要鉱物、太陽電池、岸壁クレーン、医療製品などの戦略的セクター全般で関税を引き上げるよう指示した。

2024/5/15 米国、中国製EV関税など大幅引き上げ 

この時点では、品目別の引き上げ後の関税率と、関税引き上げ年(2024年&2025年、2026年)が記載されているが、政府は5月29日のコメント要請で、2024年分は2024年8月1日、2025年分は2025年8月1日、2026年分は2026年8月1日に関税を引き上げるとした。

本年8月1日に引き上げる予定だった品目例は下記の通り。

品目 現行税率 引き上げ後
鉄鋼・アルミ製品 0〜7.5% 25%
EV 25% 100%
EVバッテリー、部品 7.5% 25%
太陽電池 25% 50%
港湾クレーン 0% 25%
注射器 0% 50%
呼吸器、フェイスマスク 0〜7.5% 25%

なお、2025年、2026年8月1日に引き上げる品目は下記の通り。

品目 現行税率 引き上げ後
(2025/8/1)    
Semiconductors 25% 50%
     
(2026/8/1)    
非EVバッテリー 7.5% 25%
天然黒鉛と永久磁石 0% 25%
医療用、手術用手袋 0% 25%

 


2024/8/5 Eli Lillyの肥満症治療薬、心不全重症化リスクも軽減

Eli Lillyは肥満症治療薬Zepbound®tirzepatide)について、心不全の重症化リスクを軽減する効果が確認できたと発表した。心不全の肥満患者を対象とした後期の臨床治験でわかったという。  

米国などの700人余りの患者を対象とした治験で、52週間にわたりtirzepatide を投与したグループと、偽薬を投与したグループについて心不全の病状を観察した。

その結果、tirzepatideを投与したグループは偽薬を投与したグループに比べ、緊急受診や入院、心血管死など重症化のリスクが38%低かった。

また、tirzepatideは 息切れや疲労、不整脈といった心不全の症状も有意に軽減した。

tirzepatideは、2型糖尿病の有無にかかわらず、混合集団において15.7%の体重減少をもたらした。

健康状態を左右する重要な要素を改善するという証拠が増えることで、保険会社による支払いを促すことにもつながる可能性がある。

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Eli Lillyは有効成分tirzepatideについて、医薬品として2つのFDA承認をとっている。

FDAは2022年5月13日、米Eli Lillyの世界初のGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)受容体作動薬およびGLP-1(グルカゴン様ペプチド1)作動薬のMounjaroについて成人における2型糖尿病における食事療法および運動の補助療法としての血糖改善の適応で承認した。Mounjaroは、世界初かつ唯一のFDA承認GIP受容体作動薬およびGLP-1受容体作動薬となった。

FDAは2023年11月8日、同じ有効成分tirzepatideを使ったZepbound® 肥満症治療薬として承認した。

  2024/5/30  米Eli Lilly、肥満症薬を増産

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Eli Lillyは、需要拡大により品薄となっている肥満症治療薬tirzepatideについて、米国内の供給不足が「間もなく」解消すると見込んでいる。デービッド・リックス最高経営責任者(CEO)の発言として報じられた。

FDAのウェブサイトでは、Mounjaroと
Zepboundの一部規格を供給が限られた医薬品に指定している。Mounjaroは2022年終盤から供給不足リストに掲載されている。

Eli Lilly は本年4月に
Zepboundの供給が短期・中期的にかなり逼迫した状態が続くとの見通しを示していた。


2024/8/6    日産自動車とHonda、開発力強化へ協業  両社の戦略的パートナーシップ検討に三菱自動車も参画

日産自動車と本田技研工業(Honda)は、2024年3月15日に締結した自動車の知能化・電動化時代に向けた戦略的パートナーシップの検討開始に関する覚書に基づき協議を進めてきたが、このたび、
次世代ソフトウェアデファインドビークル(SDV)向けプラットフォームの領域
において、基礎的要素技術の共同研究契約を締結した。
また、幅広いスコープで協議・検討を進める戦略的パートナーシップの枠組みについてもさらなる深化を図るべく、戦略的パートナーシップ深化に関する覚書を締結した。

両社が2024年3月15日に締結した自動車の電動化・知能化に向け、戦略的パートナーシップの検討を開始する覚書に、三菱自動車が新たに参画し、三社で協議を進めることについて8月1日に覚書を締結した。3社による具体的な協業範囲は今後詰める。

両社は、カーボンニュートラルおよび交通事故ゼロ社会に向けた取り組みのさらなる加速を目指し、環境対応技術・電動化技術・ソフトウェア開発などの領域での協業を見据え、幅広いスコープでの検討・協議を進めている。この検討を加速度的に進めていくにあたっては、各社が培ってきた技術や知識を集約することで生まれる新たな価値創出や、事業の効率化が不可欠だが、今回、三菱自動車が参画することで、新たな知見と強みが加わることはもちろん、三社でしか生み出すことのできないさらなるシナジー効果と、新たな事業機会が得られることを目指し、三社で協議を進めていくとしている。

3社の販売台数は800万台を超え、国内はトヨタ自動車グループとホンダ・日産連合の2大勢力に集約される。米テスラや中国勢は電気自動車(EV)に巨額投資し、日本勢単独では限界がある。自動車産業の大転換が、国内の大型再編につながる。

資本提携の可能性については日産の内田社長は「現時点で検討していない」といい、ホンダの三部社長も「ビジネスの可能性として否定するものではないが、話をしていない」と述べた。


今回、日産とホンダが締結した次世代SDVプラットフォームの基礎的要素技術の共同研究契約の概要は以下の通り。

 知能化・電動化において注力すべき検討スコープとなるEV、特にSDV(Software Defined Vehicle)の普及と進化に向けては、両社それぞれでも各種技術の研究開発や投資を進め、強化を図っている。

SDV(Software Defined Vehicle)は、車と外部との間の双方向通信機能を使って車を制御するソフトウェアを更新し、販売後も機能を増やしたり性能を高めたりできる自動車のこと。
例えば、運転支援機能や事故防止機能の改善や新機能の追加、さらに今後、自動運転の精度向上などにも貢献する。

 その一方で、自動運転やコネクティビティ、AIなど、今後クルマの価値を決定づけ、競争力の源泉となるソフトウェアの領域は、技術革新のスピードが非常に速く、両社の技術的知見や人材など、リソースの融合による相乗効果が得やすい領域である。

 こうした共通の課題認識から、次世代SDVプラットフォームについて基礎的要素技術の共同研究契約を締結し、両社の共創による新たな価値の提供を目指して検討を進めていく。

両社で協議・検討を進めている戦略的パートナーシップについても、より具体的な協業領域を定め、具現化に向けて加速するため、戦略的パートナーシップ深化に関する覚書をあらためて締結した。

バッテリー領域

e-Axle領域 (EVが「走る」ために必要なギア、モーター、インバーターなどを1つにまとめ、パッケージ化したもの)

 ◎最大の問題点:両社とも、部品を系列化している。ホンダは日立Astemoに出資、日産は子会社にジャトコを抱える。共用はどちらかの選択(選ばれない方の破綻)を意味する。「統合か、淘汰される選択肢しかない」


車両の相互補完

国内のエネルギーサービス、資源循環領域


2024/8/7 Google、独禁法訴訟で敗訴、検索で違法な独占 

米首都ワシントンの連邦地裁は8月5日、米アルファベット傘下のGoogleが検索エンジン市場などで反トラスト法(独占禁止法)に違反したとの判断を下した。グーグルの敗訴となる。

付記 米司法省は11月20日、Google の検索サービスの独占を解消するため、インターネット閲覧ソフトChrome事業の売却を含む是正案を米連邦地方裁判所に提出


この裁判は、2020年にアメリカ司法省などが提訴したもの。 米司法省が巨大IT企業を相手取って起こした独禁法訴訟で実質的に勝利するのはMicrosoft以来約20年ぶり。ガーランド司法長官は「米国民にとって歴史的な勝利だ」とコメントした。

司法省などは1998年、基本ソフト(OS)とウェブブラウザー(閲覧ソフト)の抱き合わせ販売が反競争的だと主張し、Microsoftを提訴 、OSの技術情報を開示することで2004年に最終的な和解にこぎ着けた。

裁判所はGoogleに制裁を科していないが、巨大ITの商慣習にメスが入ったことで、競争手法の見直しを迫られる可能性が出てきた。

GoogleがAppleなどのスマートフォンメーカーに巨額の資金を支払いGoogleの検索エンジンをスマホに標準搭載させる契約が競合他社を排除する参入障壁となり、独占の維持につながっていると認定した。

判決によると、2020年の段階でGoogleは全検索の約9割を占めた。スマートフォンなどの携帯機器に限ると95%に近かった。英語でも「ググる(Google it!)」は「検索する」と同義語で使われている。

審理の中ではGoogleが自社の検索サービスをスマートフォンの初期設定として使ってもらうために、Appleなどに対し2021年だけで総額263億ドル、日本円でおよそ4兆円を支払っていたことなどが分かってい る。

多くのユーザーが初期設定のままで使うため、Googleの検索に伴う広告収入は2021年には1460億ドル(約21.3兆円)に達した。

一方、ライバルのMicrosoftが開発した検索エンジン Bingのシェアは約5%に過ぎない。MicrosoftはAppleに初期設定のエンジンとして採用してもらうことをもちかけているが、交渉は難航。判決によると、Apple幹部は「Microsoftがどんな金額を提示しても受けない」と述べたという。

判決はMicrosoftのブラウザー EdgeではBingが初期設定され、検索の80%に使われていると指摘。他のブラウザーなどでGoogleが初期設定を独占していることが、新規参入を妨げている証拠の一つとした。

判事はGoogleがこうした契約で、他社製品の参入を阻害し、違法に独占状態を維持していたと認めた。

Appleなどが初期設定の検索エンジンを変えたり、契約条件を変更したりすることも検討しながら、「Googleからの巨額収入を失うことになり、断念している。」 

Googleの契約が「他社の競争機会を損ねており、Googleの独占に重要な役割を果たしている」

慎重に証言や証拠を検討した結果、Googleは独占企業であり、独占維持を目的に行動してきた。

これに対しGoogle側は、9割を超える市場シェアについて、「消費者が満足する製品を生み出した結果である」と主張した。

GoogleのKent Walker Global Affairs担当プレジデントは次のように述べた。

この判決は、Googleが最高の検索エンジンを提供していることを認めているが、それを簡単に利用できるようにすることは許さないとしている。

Googleは「業界最高品質の検索エンジンであり、何億人もの毎日のユーザーから信頼を得ている」、「特にモバイル デバイスでは長年最高の検索エンジンであり続けている」、「AppleとMozilla (Firefoxを提供)は、Googleの検索品質を競合他社と比較して評価し、Googleの方が優れていると判断することがある」という裁判所の判断を高く評価する。

しかし、簡単に利用できるようにするべきではないと結論付けた。

人々がさまざまな方法で情報を探していることを考慮し、我々は控訴する。

問題は複雑で、控訴審でどうなるかは不明である。

判事は他社製品の参入を阻害し、違法に独占状態を維持していたと認めたが、Googleの広告ツールがMicrosoftのBingよりも有利になるように不当に設計されているとの主張は退けた。

また、GoogleがSearch Ads 360ツール(市場の絶え間ない変化にリアルタイムで大規模に対応) を通じて競合他社の広告に必要不可欠な機能を提供しなかったという非難については、Googleはライバルを受け入れることで競争を促進する必要はないとし、Googleに同意した。

これは、サードパーティーの開発者に制限を課すことは反競争的ではなく、技術の共有を強制されることはイノベーションを阻害するとして、棄却を求めているAppleにとって重要な意味を持つ可能性がある。

 

付記

米司法省が市場の違法な独占を是正するためにグーグルの事業分割の提案を検討している。複数の米メディアが8月14日に報じた。

米メディアの報道によると、下記の案が検討されている。

  事業売却:インターネット閲覧ソフトGoogle Chrome
       OS Android

  検索データの競合他社への提供の強制

  iPhoneにGoogle 検索を標準搭載する巨額の契約(本文参照)の破棄の義務付け  


2024/8/9 住友化学、PetroRabigh持ち株の一部を売却

住友化学は8月7日、持分法適用会社PetroRabigh株式の一部を売却するとともに、同社向け貸付金の債権放棄をすると発表した。

Petro Rabighについては下記を参照

2006/3/25 ペトロラービグ起工式
2009/4/10 Petro-Rabigh スタート・アップ
2009/4/21 住友化学とアラムコ、「ラービグ第2期計画」の共同FS実施
2009/11/9 ペトロラービグ竣工式
2012/5/28 住友化学、サウジ・アラムコとの「ラービグ第2期計画」実施へ
2018/1/10 PetroRabigh 第2期の完工間近

Saudi Aramcoが西海岸に建設したRabigh製油所は重油中心で採算が悪かった。Aramcoは採算向上と地域振興のため、同社としては国内で初めての石油化学に乗り出すことを決めたもの で、住友化学が参加してJV PetroRabigh とした。

2018年に2期計画が完成し、すでに稼働している。

しかし、石油化学市況の低迷と、同社の精製装置の問題から赤字が続いている。

2024/5/2 住友化学、過去最大の最終赤字に

住友化学とアラムコは、本年5月に共同タスクフォースを結成し、短期集中で議論、今回、合意に達した。

住友化学とアラムコはラービグの収益改善に向けて議論してきたが、住友化学は精製装置の高度化などの追加投資はしない方針を貫いていた。(日経)

今回の出資分を現金化しRabighに還流する仕組みは「できうるほとんど唯一の解だった。現時点で取り得るベストな選択だと考えている」(岩田社長)。

 

具体的な方策は下記の通り。

発表にはないが、2023年末の累損は17億ドルだが、2024年の損失を12億ドルと予想し、累損29億ドルを一掃しようというものと思われる。

@ ペトロ・ラービグの資本体制を見直し、住化はペトロ・ラービグ社株式の 住化持分約22.5%をサウジ・アラムコ社に売却 する。(売却対価1株当たり7サウジリヤル。総額約702百万米ドル)。
 これに伴い、ペトロ・ラービグ社に対する持分比
率は売却前のサウジ・アラムコ社
37.5%、 住化37.5%、一般株主25%から、サウジ・アラムコ社60%住化15%、一般株主25%に再編され る。

A
上記再編の完了を前提として、後日ペトロ・ラービグ社と合意し、公表される予定の方法によって、住化の株式売却対価約702百万米ドルと、それに加えてサウジ・アラムコ社から同額をペトロ・ラービグ社へ拠出 する。
 これで、累損のうち14億ドルが消える。


B
ペトロ・ラービグ社の財務改善策として住化およびサウジ・アラムコ社の両社は、それぞれ 750 百万米ドル、合計 1,500 百万米ドルの貸付金の債権放棄を実施する(実施予定時期は、2024 年8月に1,000 百万米ドル、2025 年1月に 500 百万米ドル)。
 これで累損合計29億ドルが一掃される。

 

 2023/12/末累損 17億ドル
 2024年赤字予想 12億ドル
 累損      29億ドル

 対策
  拠出    14億ドル(確定)
  債権放棄  15億ドル(貸付限度一杯)
  合計    29億ドル 赤字一掃

 累損が29億ドルを超えると、一掃できず、赤字が残る

 

親会社貸付契約は、当初にはなく、恐らく赤字が増えたため、本格的な対策(追加銀行借入等)ができるまでのつなぎとして結んだものと思われる。限度額は各750百万ドルとなっており、2023年末の貸付は各470百万ドルであり、今回の計画では2024暦年に限度一杯(各280百万ドル)を貸し付けたうえで、これを一掃するもの。

2024年の赤字が想定を超える場合、限度以上の親会社貸付はせず、累積損失を残すと思われる。

赤字が想定以下の場合、必要以上の貸付は必要がないため、赤字を消すだけの貸付とし、債権放棄も減ることになると思われる。債権放棄を2回に分けたのはそのためであろう。(以上筆者推測)

累損を一掃したあとは、住友化学は、石油化学を生んだ責任上、株主には残るが、マイナー株主として、今後の損益の責任を負わず、経営をアラムコに任せることになると思われる。  

上記の再編は規制当局および第三者の承認を含む条件を前提としており、また、ペトロ・ラービグ社に対する支援策の実施に際しては、規制当局およびペトロ・ラービグ社の借入銀行による承認等、必要な手続きを行った上で進めることにな る。

 


2024/8/12 ウクライナ軍による大規模な越境攻撃

ウクライナ軍部隊は8月6日朝、ロシア西部クルスク州へ侵入し、最大かつ最も成功した越境攻撃を仕掛けた。 国境から少なくとも10キロまで侵入、ウクライナ軍は最大で20集落を制圧したとみられる。
9日からウクライナ兵が「スジャはわれわれの支配下にある」と主張する動画が拡散した。

ウクライナのゼレンスキーは8月10日、国境を接するロシア西部クルスク州で自軍が越境攻撃を行っていることを初めて認めた。10日夜のテレビ演説で、ウクライナ軍が「侵略者の領内へと」戦争を押し込んでいると述べた。

ロシアは国境地域から住民7万6000人以上を避難させ、「対テロ作戦」を開始した。

スジャの北東にあるクルスク原子力発電所には現時点では攻撃はないが、8日に原発敷地内に撃墜されたミサイルの破片とみられるものが見つかった。
国際原子力機関(IAEA)の事務局長は9日、ロシア最大級の原子力発電所がある西部クルスク州で戦闘を続けているウクライナとロシアに対し自制を呼びかけた。

クルスク原発は、チェルノブイリ原発と同型の黒鉛減速沸騰軽水圧力管原子炉(RBMK-1000)4基で、能力は各1000MW(正味発電量 925MW)、うち1号機(1977/10 商業運転開始)は2021/12に永久閉鎖した。

5号機、6号機も建設を開始したが、途中で建設を中止した。

なお、同地で第2発電所の建設が計画されている。

 

スジャ(下図ではSudzha と表示) はウクライナ経由で欧州に輸出されるロシア産天然ガスの中継拠点。9日には、スジャの主要ガス施設を制圧したと主張するウクライナの武装兵とされる動画が浮上した。

ウクライナ当局は8日、パイプラインは正常に機能していると明らかにしていた。


 

ロシア国防省は10日朝、ロシア部隊はウクライナ部隊による「侵攻の試みを撃退し続けている」との最新報告を発表。ウクライナが「ロシア領の奥深くまで突破」しようとする動きは、阻止したと主張した。

ウクライナ軍が、兵力不足の中、過去最大規模の越境攻撃に踏み切ったのは、将来のロシアとの交渉を優位に進める狙いがあると見られる。ゼレンスキー大統領は英BBCのインタビューで「全ての領土を武力で取り返す必要はない。ロシアに圧力をかけ、外交的な解決に合意することは可能だ」と発言した。


2024/8/19 バイデン政権、メディケア対象医薬品の薬価引き下げを実現

米保健福祉省は昨年(2023年)8月29日、高齢者向け公的医療保険「メディケア」の対象となる医療用医薬品(処方薬)の価格を交渉で決める制度を最初に適用する10品目を発表した。

米国の法律は従来、約20年前に始まった処方薬制度の一環としてメディケアの対象となる処方薬の価格交渉は禁止していた。

バイデン大統領が2022年署名して成立したインフレ抑制法(Inflation Reduction Act:IRA)では、65歳以上の米国人を対象とし、約6600万人に適用されているメディケアに関し、最も高額な医薬品の一部の薬価引き下げ交渉を認めた。

交渉は2023〜2024年に行われ、新たな価格は2024年9月に公表し、2026年1月から導入する。この仕組みにより、2031年までに年間250億ドルの薬価削減を目指している。

MerckやJohndon & Johnsonなどの製薬大手は収益減への懸念から、メディケアの薬価交渉をめぐって米国政府を提訴している。インフレ抑制法の薬価交渉に関連する部分が米憲法違反だと主張している。

2023/8/31 米国、メディケア対象医薬品の薬価交渉対象の第一弾10品目を発表

今回の10品目は下記の通り。メーカーは13社。

製品名 一般名 用途 メーカー
Eliquis アポキサバン 血栓塞栓症の治療・予防に用いられる経口投与が可能な抗凝固剤の1つ。 Bristol Myers Squibb    
Pfizer                                 
Jardiance エンパグリフロジン ナトリウム・グルコース共輸送体-2 阻害作用を有する糖尿病治療薬 Boehringer Ingelheim     
Eli Lilly                              
Xarelto リバロキサバン 経口抗凝固薬の一つ Bayer                               
Janssen Pharmaceuticals 
Januvia シタグリプチン 経口血糖降下薬、2型糖尿病の治療薬 Merck & Co.                    
Farxiga ダパグリフロジン 2型糖尿病治療薬の内、SGLT-2阻害薬に分類される医薬品 AstraZeneca                    
Entresto サクバトリル/
バルサルタン
心不全・高血圧症治療のための合剤 Novartis                            
Enbrel エタネルセプト 分子標的治療薬の一つで関節リウマチなどの膠原病・自己免疫疾患の治療薬 Amgen  (Immunex)                      
Imbruvica イブルチニブ B細胞性腫瘍の治療に用いられる抗がん剤 Pharmacyclics              
Janssen Biotech          
Stalara ウステキヌマブ ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体製剤
日本では乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎に対して適応
Janssen Biotech
Fiasp; NovoLog 等 インスリンアスパル 1型および2型糖尿病の治療に使用される超速効型インスリン Novo Nordisk                

バイデン政権は2024年8月15日、薬価引き下げ交渉の対象となっていた10種類の医薬品について、全ての交渉参加メーカーと合意に達したと発表した。

対象となった医薬品はMedicareの医薬品のうちの高額のもので、薬価は38〜79%引き下げられ、2023年の使用ベースではMedicareとして約60億ドルの節約ができたとみられる。

糖尿病治療薬のジャヌビアやジャーディアンス、血液サラサラ薬のエリキスやイグザレルト、白血病治療薬のインブルビカなどが価格交渉の対象となる。

医薬品名 2023年に使用した
Medicare対象人数
2023年価格
(30日分)
2026年価格
(30日分)
節減額 (%)
Eliquis 3,928,000 $521 $231 $290 (-56%)
Jardiance 1,883,000 $573 $197 $376 (-66%)
Xarelto 1,324,000 $517 $197 $320 (-62%)
Januvia 843,000 $527 $113 $414 (-79%)
Farxiga 994,000 $556 $178.50 $377.50 (-68%)
Entresto 664,000 $628 $295 $333 (-53%)
Enbrel 48,000 $7,106 $2,355 $4,751 (-67%)
Imbruvica 17,000 $14,934 $9,319 $5,615 (-38%)
Stelara 23,000 $13,836 $4,695 $9,141 (-66%)
Fiasp; Fiasp FlexTouch;
Fiasp PenFill;
NovoLog;
NovoLog FlexPen;
NovoLog PenFill
785,000 $495 $119 $376 (-76%)

2026年に発効する引き下げにより、政府による60億ドルの節約に加え、メディケア加入者の自己負担額を計15億ドル節約できると推計している。

バイデン政権は今後も毎年薬価引き下げ交渉の対象を増やしていく方針で、2025年は最大15種類を対象として選定する見込み。

本交渉を巡っては、複数の製薬会社から訴訟が提起されるなど業界の強い反発が示されてきたが、こうした大企業の反発を乗り越えるかたちで交渉妥結にこぎ着けたことは、政権にとって大きな政治的成果といえる。

バイデン大統領は「我々はついにビッグ・ファーマを打ち負かした」と成果を強調した。

ハリス大統領候補(副大統領)は、
カリフォルニア州司法長官時代にコスト削減への努力と製薬会社の責任を追及してきた実績を強調し、「私のキャリア全体を通して製薬会社の責任を追及し、処方薬のコストを下げるために働いてきた」と述べ、「メディケアは、その(団体交渉)力を使い、大手製薬会社と直接対決し、薬価引き下げの交渉をすることができる」と述べた。


ただし、今回の引き下げ幅ほどには国民負担の軽減にはつながらないとの指摘もある。

製薬業界がメディケアの交渉に強く反対しているにもかかわらず、いくつかの製薬メーカーは、政府の極秘価格設定を検討した結果、新価格が発効しても事業に大きな影響はないと先月述べた。

今回対象となった10種類の医薬品はいずれもメディケア・パートD(高齢者向け処方薬保険)の対象となっており、現行でも製薬会社からメディケアに対して一定のリベートが支払われ、メディケアはこれを加味し値引きをした上で加入者に医薬品を提供している。しかし、リベートの額は公表されておらず、仮に薬価引き下げが実現したとしても、リベートの額も減少する場合には、加入者が実際に支払う正味の価格はさほど引き下がらないこともあり得る。

米国研究製薬工業協会のスティーブ・ユーブル会長は「政権は(IRAの)価格設定スキームを利用して政治的な見出しを盛り上げているが、患者はそれが自分たちにとって何を意味するかを知ったらがっかりするだろう。患者の自己負担が減るという保証はない」と述べ、効果を疑問視している。(この項 JETRO ビジネス短信)


2024/8/20 

Infineon Technologies、マレーシアに世界最大かつ最も効率的なSiCパワー半導体工場を開設 

 ドイツに本社を置くインフィニオン テクノロジーズ (Infineon Technologies)は8月9日、世界最大かつ最も競争力のある200mm  炭化ケイ素 (SiC) パワー半導体工場となるマレーシアのKulimの新工場の第1フェーズを正式に開設 した。式典にはマレーシアのアンワル首相およびケダ州のサヌシ首相が参加した。

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Infineonは1973年に ドイツのSiemensの半導体グループの一部としてマレーシアのマラッカ州工場で操業を開始した。

1999年にシーメンスから分離・独立して誕生した。

2006年5月1日に、半導体メモリ部門を新子会社Qimonda AG として分割した。(設立後すぐにニューヨーク証券取引所に上場したが、2009年1月破産を申請した。 )

現在、Infineon Technologies AGは、自動車メーカーや各種産業向けに半導体を製造する多国籍企業で、パワー半導体、特にIGBTおよびパワーMOSFETにおいて世界トップクラスの市場シェアを有する。

ドイツ・ミュンヘン近郊のノイビーベルクに本社を置き、世界30カ国以上に現地法人を持つ。

自動車用や産業用の他、様々な分野へ、半導体製品の設計、開発、製造、販売、およびシステムソリューションの提供を行っている。またアメリカのカリフォルニア州サンノゼ、シンガポール、東京に子会社を置き、世界展開している。

2011年には、主に携帯電話用のモデムチップを開発販売していた無線ソリューション事業 (WLS) を約14億米ドルで米国の半導体会社インテルに売却し同事業から撤退した。インフィニオン製のモデムチップはAppleのiPhone 4に採用されるなどの実績を持っていた。

2014年8月20日、米国インターナショナル・レクティファイアーを現金約30億米ドルで買収することで合意した。この買収によりインフィニオンはパワー半導体市場のシェアにおいて、2位の東芝に2倍以上の差をつけて引き離す 。

2016年7月14日、米国Cree 社からパワー&RF事業部として分社化したWolfspeed社を8億5000万米ドルで買収すると発表。

2020年4月16日、米国の同業サイプレス・セミコンダクターを買収し子会社とした。

メモリーやプロセッサーなどを除いた、半導体市場全体の約3分の2の市場を狙っており、特にパワー半導体に注力している。

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マレーシアにおけるInfineonの事業は主に以下の3つに分かれている。

社名 場所 事業
Infineon Technologies (Kulim) Sdn Bhd ケダ州Kulim フロントエンド業務(ウェーハ製造)
Infineon Technologies (M) Sdn. Bhd. マラッカ州Batu Berendam自由貿易区 先端ロジック系半導体を用いたマイクロエレクトロニクス製品のバックエンド業務
Infineon Technologies (Advanced Logic) Sdn. Bhd. 電力、ディスクリートおよびセンサー半導体を用いたマイクロエレクトロニクス製品のバックエンド業務

2006年9月にKulim High-Tech Park内に、同社としてはアジア初のパワー半導体向け前工程工場 (第1工場)をオープンした。約10億米ドルを投資、最大生産能力は月間ウェハ投入量にして約10万枚(ウェハ径200mm)となっている。産業用・車載用のパワー半導体製品とロジック半導体製品が生産される 。

同社は、第1工場の優れた成長実績や安定性、そしてマレーシア投資開発庁の支援を追い風に、ウェーハ製造施設の拡大を決定した。第2工場施設は、エネルギー効率化および自動車産業向けのメガトレンド技術に重点を置いた製造コンピテンシー・センターとなる。

2022年2月、Kulim拠点に20億ユーロを投じ、第3製造棟としてSiC/GaN半導体の前工程工場を建設すると発表 した。(今回の第3工場第1フェーズ)

同工場の第1フェーズは、SiCパワー半導体の製造に重点を置き、窒化ガリウム (GaN) エピタキシーを含む予定。
SiC半導体は、電気をより効率的にスイッチングし、より小型の設計が可能であるため、高出力アプリケーションに革命をもたらし、電気自動車、急速充電ステーション、鉄道、再生可能エネルギーシステム、AIデータセンターなどの効率を高め る。第1フェーズで900人の高付加価値雇用が創出される。

2023年8月3日、200mmウエハーSiC(炭化ケイ素)工場を新設する計画を発表した。第3製造棟 第2フェーズとして今後5年で最大50億ユーロの追加投資を行う予定。完成すれば、「世界最大」の200mmウエハーSiCパワー半導体工場となる。 両フェーズを合わせたプロジェクト全体では最大4,000人の雇用が創出される。

なお、Infineonは既存および新規顧客から、車載および産業用アプリケーションにおける約50億ユーロの新規デザインウィンおよび、約10億ユーロの前払いを獲得している 。

車載部門の顧客には、Ford Motor Companyや上海汽車集団、奇瑞汽車などの自動車メーカー6社(うち中国企業は3社)が含まれている。再生可能エネルギー分野では、SolarEdgeや中国の太陽光発電/蓄電システム大手の3社が顧客となっている。
また、Schneider ElectricとSiCベースの製品に関し、前払いを含む生産能力確保について合意したことも明かした。

Kulim High-Tech Park 右端が第3工場   上からの写真 一番下が第3工場  
左側が第1フェーズ、右の空き地が第2フェーズ
..  

高効率の200mm SiCパワー半導体工場は、インフィニオンのパワー半導体の世界的リーダーとしての役割を強化 する。第2フェーズでは、最大50億ユーロを投資し、世界最大かつ最も効率的な200mm SiCパワー半導体工場が建設される。

 

Kulim第3工場はInfineonのパワー半導体のグローバル コンピテンス センターであるオーストリア Villachの製造拠点と密接な関係にある。Infineonは2023年にVillachのSiCおよびGaNパワー半導体の生産能力を増強してい る。これら2つの製造拠点はワイドバンドギャップ技術のための「1つのVirtual Fab」として、迅速な立ち上げとスムーズで高効率な運用を可能にする技術とプロセスを共有してい る。

 

Infineonは2023年5月に炭化ケイ素 (SiC) 材料の調達基盤を多様化し、競争力のあるSiC供給元をさらに確保するため、中国のSiCサプライヤーであるSICC(山東天岳先進科技股份)と契約を締結した。この契約により、SICCはInfineonに対して、競争力があり、高品質なSiC半導体製造用150 mmウエハーおよび結晶ブールを供給し、長期的に予測される需要に対して2桁のシェアをカバーする。

インフィニオンは現在、2030年までに世界シェア30%という目標を達成するために、SiCの製造能力を拡大しており、その能力は2027年までに現在の10倍になる見込み。すでに世界中で3,600社以上の自動車および産業分野の顧客にSiC半導体を提供している。

 

参考


武田薬品、米でデング熱用ワクチン販売の承認申請

武田薬品工業は米国でデング熱用ワクチンの販売の承認をFDAに申請する。クリストフ・ウェバーCEOが日本経済新聞に明らかにした。

承認されればワクチンで米市場に参入する初の日本企業となる。

デング熱は、最も急速に感染が拡大している蚊媒介の感染症で、世界保健機関(WHO)は、2019年のグローバルヘルスに対する10の脅威の1つにデング熱を挙げている。

主にネッタイシマカ、および比較的低い割合でヒトスジシマカによって媒介され、4種のウイルス血清型(DEN-1、DEN-2、DEN-3、DEN-4)すべてがデング熱または重症型デング出血熱を引き起こす可能性がある。個別の血清型羅患率は地理、地域、国や季節によって異なり、また時間の経過とともに変化していく。ある血清型のウイルスに感染した場合、その血清型に対する免疫は一生涯続くが、後に異なる血清型のウイルスに感染した場合、重症化のリスクが高まる。

 デング熱はパンデミックを起こしやすく、熱帯および亜熱帯地域で流行が認められており、最近では北米大陸やヨーロッパの一部で流行している。現在、世界の約半数がデング熱の脅威にさらされており、毎年世界中で3億9000万人が感染し、約2万人が死亡していると推定されている。デングウイルスはあらゆる年齢の人々に感染し、中南米およびアジアの一部の国では小児の重篤な疾患の主な原因となっている。


武田薬品の4価デング熱ワクチンQDENGA®(TAK-003)は、4種のワクチンウイルス型すべての遺伝子型の“バックボーン”として弱毒化された生の2型デングウイルスをベースに構築されている。

元々はバイオ企業Inviragen (米コロラド州) が開発してきた。 2013 年に武田薬品がワクチンパイプライン拡充の一環で同社を3500万ドルで買収した。

Inviragenは2005年に設立、デング熱のほか幼児がかかりやすい手足口病のワクチンの研究開発を進めている。 シンガポールに開発拠点を持つ。従業員は約50人。

2022 年8 月にまずインドネシアで「QDENGA®」の製品名で承認を取得した。

米国では一度承認申請している。2022年11月24日、デング熱ワクチン候補(TAK-003)が、米国食品医薬品局により生物学的製剤承認申請 (BLA)を受理され、優先審査に指定されたと発表した。米国では、TAK-003は4歳から60歳を接種対象とした4種すべてのデングウイルス血清型によって引き起こされるデング熱の予防を目的として審査され た。

TAK-003 の生物学的製剤承認申請は、グローバル臨床第3相試験であるTIDES試験の安全性および有効性データに基づいている。

しかし、同社は2023年7月、米国食品医薬品局(FDA)との現行の生物学的製剤承認申請(BLA)の審査サイクル内では解決できないデータ収集に関する議論を経て、米国におけるTAK-003のBLAを自主的に取り下げ た。

同社では、必要なデータ収集についてFDAの審査期間中に対応することができないとしていた。

米国では自治領プエルトリコなどデング熱流行地域に旅行する人やそこで暮らす人たちにとってワクチンが必要な点を踏まえ、米国における今後のTAK−003を巡る対応をさらに検討していくとした。
 
デング熱ワクチンは2015年にフランスの製薬大手Sanofiの製品が世界で初めて承認されたが、感染歴がない子どもが接種すると感染時に重症化するリスクが高まることが判明すると、使用が大幅に減少した。

2022年10月に欧州医薬品庁(EMA)の欧州医薬品評価委員会(CHMP)から肯定的な見解があったことを受け 、同年12月に欧州委員会により、EUでの4種すべてのデングウイルス血清型により引き起こされるデング熱の予防を目的として、4歳以上を接種対象者として承認された。

2023年3月、ブラジルで国家衛生監督庁により、4種すべてのデングウイルス血清型により引き起こされるデング熱の予防を目的として、4歳から60歳までを接種対象として承認された。QDENGAは、デングウイルス感染歴を問わず、またワクチン接種前の感染歴検査を必要としない、ブラジルで承認された唯一のデング熱ワクチンである。

28,000例を超える小児および成人を対象とした19件の臨床第1、2、3相試験にわたる結果に基づき、4.5年の追跡調査データより一貫した有効性が示され、重要な安全性リスクは特定されなかった。

ベトナム保健省の医薬品管理局は2024年5月14日、QDENGAの流通と使用を承認した。ベトナムでデング熱ワクチンが承認されるのは初めて。

世界保健機関は2024年5月15日、武田薬品工業のデング熱ワクチンQDENGA®(TAK-003)を事前認定したと発表した。WHOの医薬品事前認証プログラム (PQP) は、調達機関の供給する医薬品が品質、安全性、有効性の許容基準を満たすものであることを確証する支援プログラム。

国連機関などによる調達が可能になり、ワクチンの普及が進むと見込んでいる。WHOがデング熱ワクチンを事前認定したのは Sanofi PasteurのCYD-TDV vaccineにつぐ2例目。

WHOは、デング熱が大規模流行している地域で6〜16歳の子供に対してQDENGA®の接種を推奨。初回接種の3カ月後に、2回目を受けるよう求めている。

今回、WHOの推奨を受け、米国で再度申請する。

世界で最大年20億ドルの売上高を目指す。

武田薬品工業は2024年2月27日、デング熱ワクチンQDENGAの生産拡大のため、インドの大手ワクチン・医薬品製造のBiological E と協業することを発表した。今後、Biological E が年間最大5,000万回接種分のワクチンを製造することで武田のワクチン供給能力は2030年までに年間1億回接種分に増加する。

同ワクチンは現在、欧州、インドネシア、タイ、アルゼンチン、ブラジルなどで承認されているが、価格と生産量などが障壁となり、民間市場を通した接種がほとんどで、公共接種は限定的にとどまる。

今回の協業を通じ、インドで価格を抑えたワクチンの大量生産が実現すれば、蔓延国・地域で公共接種を中心としたワクチン提供の拡大が見込まれ、世界のデング熱対策に大きく貢献することになる。

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WHO 世界ワクチン市場レポート 2023 (2024年06月13日)

WHO は、世界のワクチン市場のダイナミクスに関する定期的な報告書を発行し、特に国際的な支援が限られている国々のワクチンへのアクセスを強化するという観点から、ワクチン市場の全体的な健康状態をまとめてい る。2023年版 報告書では、パンデミック協定の議論やアフリカ連合の「アフリカのための新たな公衆衛生秩序」の呼びかけなど、現在進行中の画期的な地域的 ・ グローバルなイニシアティブに照らして、主要な事実と数値に関する最新情報を提供し、行動への呼びかけを強化している。

《ポイント》

  1. Covid-19 ワクチンは引き続き世界のワクチン市場量の 60 % (2022年) を占めている。
  1. ワクチン製造の集中は依然として続いており、10 社だけでワクチン投与量 (Covid-19ワクチンを除く) の 75 % を供給し、金額の 85 % を獲得している。

      下図は2022年の売上高トップ10。上はCOVID-19用ワクチンを含むもので、PfizerとModernaが合計で50%を超える。下はCOVID-19用ワクチン以外のもの。
      日本のメーカーはなし。中国やインドは含まれている。

  1. 需要量の地理的シェアでは、WHO 南東アジア地域が引き続き世界のワクチンの約 30 % を消費している。
  1. 中所得国が購入するワクチンは世界の数量で 60 % 、金額で 34 % を占め、高所得国は、世界の数量で 29 % 、金額で 63 % を占めている。
  1. ワクチン調達メカニズムに関しては、自己調達が数量で市場の約75 % 、金額で市場の90 % を占め、ユニセフなどによるプール調達メカニズムが、それぞれ残りの 25 % と 10 % を補っている。

 

            2022年 ワクチン売上金額 トップ10  COVID-19ワクチンを含む


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