ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
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2006/10/3 SABIC、Huntsmanから英国の石化子会社を買収

2006/8/22 SABIC Europe とその前身」 で、以下のように述べた。

SABIC Europe は先月末にドイツのGelsenkirchen工場でのHDPE 25万トンプラント建設でUhdeと契約を交わした。完成後は同工場にある10万トンプラントをスクラップする。インフラ整備を加え、投資額は2億ユーロとなる。
同社はもう一つのサイトのオランダの
Geleen工場で52万トンのエチレンクラッカーを新設し、Gelsenkirchen工場でポリマーを増設する「Europe 1」計画を立てていたが、こちらは過剰投資が原因の建設費アップで経済性が問題としてペンディングとしている。」

上記の「Europe 1」計画は投資額が15億ユーロ(18.6億ドル)であったが、SABICは安上がりの代替案を見つけた。

9月28日、SABICはHuntsmanの英国の石化子会社 Huntsman Petrochemicals (UK) Ltd の株式100%を7億ドルで買収すると発表した。

買収するHuntsman Petrochemicals (UK) は、英国のWiltonに865千トンのエチレンと400千トンのプロピレンのクラッカー、130万トンの芳香族のプラントを有している。Huntsmanはこれまでエチレンを主に輸出していたが、2004年に400千トンのLDPEプラントの建設を決め、2005年10月に着工した。2007年末完成を目指して建設中だが、SABICは150百万ドルを投じてこれを完成させる。
(買収代金と含めると8.5億ドル)

Huntsmanは1999年6月にポリウレタンや酸化チタン事業とともにオレフィン、芳香族事業をICI から買収した。当初はHuntsman 70%、ICI 30% 出資のHuntsman ICI が運営していたが、2002年にICIが持分を投資会社に売却、2003年にHuntsmanが投資会社から持分を買い取って100%子会社とした。なお、ICIのWiltonのLDPEプラントは1982年にBPが買収し、2001年に閉鎖している。

Huntsman は英国の顔料事業と、ポリウレタン部門に属するアニリン、ニトロベンゼンは売却せず、維持する。

ーーー

SABIC2002年にDSMの石化部門を買収し、SABIC Europe を設立した。オランダのGeleen工場にエチレン、HDPELDPELLDPEPPプラント、ドイツのGelsenkirchen工場にHDPEPPプラントをもつ。エチレン能力は125万トン、PEは148万トン、PP109.5万トン。

今回の買収及び建設中のドイツと英国のPEが完成すると、SABICの欧州の能力は
 エチレン 211.5万トン 
 PE     203.0万トン (148+25-10+40)
 PP    109.5万トン
となり、欧州でも大メーカーとなる。
 

ーーー

一方、Huntsmanはこれまで買収により大きくなってきたが、汎用品から差別化製品に路線を変更しつつある。

2006年2Qの売上高とEBITDA(金利・税金・償却前利益)構成は次の通り。

  売上高比率 EBITDA比率
差別化製品 ポリウレタン   26%   50%
先端材料    9   10
機能製品   15   11
(小計)   (50)   (71)
顔料    8   10
コモディティ 基礎化学品   28    8
ポリマー   14   11
(小計)   (42)   (19)
合計   100   100

2006年6月、米国のブタジェン、MTBE事業をTexas Petrochemicals に売却
2006年6月、チバ・スペシャルティ・ケミカルズのテキスタイル機能材ビジネスの買収完了
2006年9月、今回の石化事業のSABICへの売却

これらの処理を折り込むと、2006年2Qの売上高及びEBITDAの構成は次の通りとなる。

  売上高比率 EBITDA比率
差別化製品 ポリウレタン   39%   57%
テキスタイル機能材ほか   26   19
機能製品   23   13
(小計)   (88)   (89)
顔料   12   11
コモディティ    0    0
合計   100   100

なお、上海ケミカルパークではBASF/ハンツマンのイソシアネートコンプレックスが本年8月に竣工している。


2006/10/4 SABICとExxonMobil、ポリエチレン製造に関する技術及び特許紛争を和解

SABICは9月28日、ExxonMobil とのポリエチレン製造に関する技術及び特許紛争を完全に最終的に解決したと発表、ExxonMobil もこれを認めた。今後、SABICと世界中の子会社はこの技術を無料で使用でき、過去及び将来のExxonMobil による第三者へのライセンス収入を分け合うとしている。

両社とも和解の条件については公表せず、いずれも両社の長期にわたる関係を高く評価し、今後ともJVの成功に向け努力し、更に関係の拡大を図るとしている。

両社の紛争は1998年に始まり、Delaware州の地裁〜最高裁、及び連邦地裁〜連邦最高裁と広範にわたり、いまだに裁判での解決を得ていなかった。

関係者

・1980年にSABICとMobilは50/50JVの Yanbu Petrochemical Co.(YANPET)を設立した。
・同年、SABICとExxonは50/50JVのAl-Jubail Petrochemical Co.(KEMYA)を設立した。
・1999年にExxonとMobilが統合し、ExxonMobilとなった。
  この結果、YanpetとKemyaはSABICとExxonMobilの50/50JVとなった。

事態の推移

1998年10月、SABICはNew Jersey連邦地裁に対し、PEの生産性アップ、能力アップの改良技術がExxonではなくKEMYAに帰属するのを認めるよう、Exxonを訴えた。(この技術が今回の和解で述べられている技術と思われる)

この訴訟の途中で、SABICUnion Carbideからライセンスを受けたUnipol 法PE技術をKEMYAYANPETに再ライセンスした際に、再ライセンスでは利益を上乗せしないというJV契約の規定に反して利益を上乗せしていたことが判明した。

2000年7月、和解が失敗した翌日に、SABICはExxonMobil を相手にして、上乗せはJV契約の他の規定に基づくもので問題はないとの判断をDelaware州裁判所に求めた。ExxonMobil側はNew Jersey連邦地裁に契約違反としてSABICを訴えた。

判断はDelaware州最高裁に持ち込まれた。

JV契約は準拠法をサウジ法としているため、サウジ法に基づいて審議が行われた。陪審員の選択に当たっては、当時の反アラブ感情を配慮して慎重に行われた。
ExxonMobil側は「再ライセンスでは利益を上乗せしない」という条項を基に契約違反を主張、SABIC側は別の規定に基づくと主張したため、契約交渉時の当事者を証人にしたが、時間が経過しているため、誰の記憶が正しいのかが問題となった。

最終的に2003年3月に陪審員は、SABICがJV契約に反して再ライセンスで利益を上乗せしたこと、これがサウジ法のghasb (略奪)の不法行為にあたるとして、SABIC敗訴とし、417百万$の損害賠償を課した。
利益上乗せ額は
184百万$50/50JVのためExxonMobil求償分は半分の92百万$とし、これにサウジ法による略奪賠償324.8百万$が加えられた。

これに対し、SABICは控訴し、Delaware州最高裁で未決のままとなっている。

この判決の前に、SABICは外国政府免責を主張してExxonMobil側の連邦地裁訴訟を却下するよう求めたが、連邦地裁はこれを却下した。しかし、控訴審で判事がRooker-Feldman doctrine という、これまで2件しか判例のない理論を持ち出し、既に州地裁で審議をしている事案は連邦裁判所に訴えられないとした。
本件は最終的に連邦最高裁までいき、Rooker-Feldman doctrine の適用事案ではないとして否定された。

 

今回の和解で本件にかかわる全問題が解決したこととなる。


2006/10/5 ダウ、天然油ポリオール開発に成功

ダウは9月25日、天然油ポリオール(Natural Oil PolyolsNOPs) の開発に成功、直ちに需要家とテストを開始すると発表した。同社では2007年に次世代ポリオールの市場開発のための生産を開始するとしている。

同社は2005年6月に本事業を発表、開発を続けてきた。その結果、ハイドロカーボンベースの製品に対等、又は、より優れた製品の開発に成功した。

NOPsの場合、油の中の脂肪酸の構成が異なるため、これのコントロールが製品の性能に影響する。ダウは多段階のプロセスで天然油の構成を理想のものに変更するのに成功した。

当初は製品の引っ張り強度、弾力性、圧縮永久ひずみ等で問題が発生し、また、NOPsの含有比率を高めると製品の加工性にも影響が出た。ダウではNOPsとプロピレンオキサイドポリオールの最適な混合比率を見つけ、これらの問題を解決した。

NOPsは大豆、ヒマワリ、菜種から生産できるが、ダウの技術は、大豆油を中心にしている。

当初は最大のマーケットの軟質スラブ用ポリウレタンに焦点を絞るが、最終的には軟質スラブ、成形、CASE applicationsCoatingsAdhesivesSealantsElastomers)などの用途で需要家のニーズにあった多世代のNOPベースの製品ラインを開発したいとしている。また、ダウの他の部門(例えば Dow Automotive)も自動車用途等での利用で需要家と研究している。
需要の伸びに合わせて製造プラントの新設も検討する。

NOPsの開発はダウが20065月に発表した「2015年サステナビリティ目標」に合ったものである。ダウは今後10年間の目標として以下の点をあげている。

食料供給、住宅、水問題、健康と安全などの問題解決のため、最低3つのブレイクスルーを達成する。
   
省エネルギーの達成、代替エネルギーの開発、化石燃料消費に伴うグローバルな気候変化へのチャレンジ
 ダウは過去
10年で製品当たり20%以上の化石燃料消費節減を達成したが、更に25%の改善を目標とする。
 ダウの温室効果ガス排出を
2015年まで毎年2.5%減らす。
   
ダウにおける従業員の健康と安全の確保
   
周辺コミュニティとの協力メカニズム
   
「サステナブル ケミストリー」へのコミット
   
リスク評価に関してダウ製品の透明性の増加
   
ダウ製品の総合安全管理についての外部評価

 


2006/10/6 タイで年産100万トンエチレン建設

東洋エンジニアリングは2日、PTT ポリエチレン社(PTTPE)がラヨン県・マプタプットに新設する年産100万トンのエチレン製造設備を受注したと発表した。米国ABBルーマス社の技術をベースに、設計から工事/試運転までのEPC業務を実施する。

PTTPEはPTT(タイ石油公社)傘下の企業で、現在はPTTとPTT子会社のPTT Chemical とのJVであるが、近くPTT Chemical の100%子会社となる。東南アジアで初めてメタロセン触媒を使う 400千トンLDPEを建設中。
PTT Chemical は又、HDPEメーカーでPTTとのJVであるBPE Bangkok Polyethylene)も100%子会社とする。

PTT Chemical は、いずれもPTTが大株主であったNPC(National Petrochemical Corp.)TOC(Thai Olefins) が合併してできた会社で、旧NPCにエチレン461千トン、旧TOCにエチレン685千トン(915千トンに増強中)をもっているが、これに加えて新設のPTTPEで100万トン設備を建設する。当初の案はエチレン41トン、LDPE 30トンであったが、エチレン100万トン、LDPE 40万トンに変更した。

プラントの完成は2009 10 月末を予定している。

タイのエチレン能力は以下の通り。(単位:千トン)

   現状 完成後
PTT Chemical  1,146  1,376
 PTTPE    1,000
(PTTグループ合計)  1,146  2,376
ROC (Rayong Olefins Co.)   800  
TPI (Thai Petrochemical Industry)   360  
合計  2,306  3,536

サイアムグループのROCの80万トンエチレンに次いで100万トン系列ができることとなり、大規模化では既に日本を抜いている。

参考 2006/6/8 「タイの石油化学の現状」  

なお、本件はTECの39件目の新設エチレンプラントで、TECにとってタイでは、NPCROCに次ぐ3件目のエチレンプラントとなる。

 


2006/10/7 PS業界の変遷


2006/10/9 アザデガン油田の開発権引き下げでイランと合意 

イラン南西部のアザデガンAzadegan 油田の開発問題で、開発権を持つ国際石油開発とイラン政府は、日本側の開発権の保有割合(出資比率)を大幅に引き下げることで大筋合意した。
国際石油開発が保有する75%の開発権のうち65%分をイランの国営石油会社に譲渡し日本の開発権は10%とする。
日本政府は国際協力銀行の融資や石油天然ガス・金属鉱物資源機構(旧石油公団の機能を承継)による出資など、油田開発への公的支援を見送る。

同油田はイランの核開発問題で着工が遅れていたが、米国に配慮する一方、懸念されていた全面撤退は当面避け、同油田からの原油輸入に道を残す。

米国政府はこの決定に対し、従来通り、「いまイランに投資することは望ましくない」とし、今後の交渉を見守るとしている。

2008/10/31  小説 「エネルギー」

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1999年に発見されたアザデガン油田は,イラン最大級の油田であり、確認埋蔵量は約260億バレルとされる。 

2000年のハタミ大統領訪日時に両国間で交渉開始に合意し、2001年7月、平沼赳夫経済産業相がテヘランでハタミ大統領と会談し、開発の早期契約に向けて努力することで合意した。

当初の日本側メンバーは、国際石油開発、石油資源開発、トーメンの3社であった。

このアザデガン油田には採算を疑問視する声もあったが、2000年に失効したアラビア石油のサウジアラビア・カフジ油田をめぐる交渉失敗のばん回を狙う経済産業省、2005年3月に廃止される石油公団の天下り先確保、再建中のトーメン(イラン原油取扱い量が全世界におけるビッグ
で、その後豊田通商に統合される)の生き残り作戦などの思惑が絡んだ。

これに対し、イランの核問題を懸念する米国政府が公式に開発中止要請を行った。
2003年6月に
国務省報道官が「この時期にイランの石油・ガス開発を進めるのは不適切」との見解を示し、当時のライス大統領補佐官やアーミテージ国務副長官が加藤良三駐米大使を呼び、イランの核開発疑惑が米政府の安全保障政策の重大な懸念であることを強調した上で「同盟国の日本がイランに誤ったメッセージを伝えることを憂慮する」などと指摘し、事実上開発計画からの撤退を迫ったといわれる。イランの資源開発に投資した企業を大統領権限で米市場から締め出す「イラン・リビア制裁強化法」(ILSA)の発動もちらつかせた。

イラン側の要求が厳しいことや米国の反対もあって優先交渉期限であった2003年6月末までに交渉は妥結せず、優先交渉権は消滅したが、以降も引き続き交渉は継続した。

2003年12月にイランが核査察強化に向けた国際原子力機関(IAEA)の追加議定書に調印するなど姿勢が軟化してきたことで同油田の交渉も進展し始めた。

2004年2月、国際石油開発インペックス)はイラン国営石油との間でアザデガン油田の評価・開発に係わる契約に調印した。

内容は
インペックスとイラン国営石油子会社NICOが、それぞれ75%と25%の参加権益で、アザデガン油田の評価・開発作業を推進する。
開発第一段階は契約調印後4年4ヶ月後から日量15万バレルの生産を予定し、その後開発第二段階として、契約調印後8年(96ヶ月)後から日量26万バレルの生産を計画。
契約調印後3年4ヶ月間で日量5万バレルのレベルで生産開始を予定。

総投資額は、20億ドル。
契約上の投資額の回収期間は、開発第一段階では6年半、開発第二段階では6年
で、合計12年半に限られる。

投資額が計画を上回った場合、投資が回収できないおそれもある。

2004年度の日本の原油輸入量は日量417万バレルで、このうち自主開発原油は45万バレル。仮に26万バレル増えると、自主開発原油の比率は10%から17%に増える計算になる。

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契約後もイランの核開発疑惑を強く批判する米国がイランへの石油投資に反対の姿勢を崩さず、日本側に契約延期を要請していたが、国際石油は2005年末に、「着手が遅れると権益を失いかねない」と判断し、本格生産に向けた開発を2006年中に始める方針を固めた。

アザデガン油田はイラン・イラク国境に近く、イラン・イラク戦争で100万発といわれる地雷が敷設され、そのままになっているため、地雷の除去を始めた。

その後、イランの核問題は解決のきざしが見えず、開発に着手出来ない状況が続いた。
国際石油開発はイラン側が約束した油田の地雷除去を終えていないことが遅れの主因と主張したが、イラン側は地雷除去は96%終わっており、作業に問題はないと反論し、本年9月末までに開発を始めない場合、同社に与えた開発権を取り消し、イラン政府が引き取るとし、早期着工を促した。

今回の妥結はこれを受けて行われたものである。

しかし、開発コストは2500〜3000億円に膨らむとの予想もあり、イランは自主開発を主張するが技術面でも資金面でも無理とみられ、代わりの参加者が見つからなければ日本に出資増を求める可能性もあるとされており、まだ決着したとはいえない。

付記
イラン国営テレビは2008年2月18日、アザデガン油田で、日量2万バレルの原油の生産が始まったと報じた。
国営テレビは「初期的な生産」と伝えており、技術的な問題などで本格生産には至っていないとみられる。

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なお、中国のシノペックは 2004年にイラン政府との間で、今後30年間にわたり石油・天然ガスの供給を受けることで合意し、総額で700億ドルの契約の覚書に調印した。シノペックが今後30年間にわたり毎年2億5千万トンの液化天然ガスを購入するほか、イランのヤダバラン油田の開発権を得るというもので、同油田の開発が成功した場合、中国側は25年間にわたって、毎日15万バレルの原油の供給を受けることでも合意している。

このヤダバラン油田はアザデガン油田に隣接しており、両油田は地下ではつながっているとの説もある。
中国も米国から牽制を受けたが、中国は「米国が反対するのなら代わりの原油を供給せよ」として無視している。

付記

Sinopec とイラン石油省は2007129日、 Yadavaran油田開発の契約に調印した。

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国際石油開発インペックス)は1966年に北スマトラ海洋石油資源開発として設立された。
1975年 5月に社名をインドネシア石油と変更、2004年に東京証券取引所市場第1部に上場した。
2001年9月、国際石油開発(INPEX CORPORATION)と改称。

政府(当初は石油公団)が普通株式36.06%をもつとともに、拒否権のある甲種類株式(黄金株)1株を所有していた。
普通株式の株主は他に、石油資源開発が 13.46%、三菱商事 9.88%、三井石油開発 9.21% 等々であった。

2005年11月、インペックスと帝国石油は共同株式移転契約を締結、2006年4月に持株会社・国際石油開発帝石ホールディングスが設立され、インペックスは同社の子会社となった。

経営統合の株式移転でインペックス株主は普通株式1株に対して1株、甲種類株式(黄金株)1株に対し1株(政府のみ)が割り当てられ、帝国石油普通株式1株に対しては普通株式0.00144 株が割り当てられた。従来通り政府が拒否権を有する。


2006/10/10  信越化学、ヨーロッパのメチルセルロース能力増強完了 

信越化学は5日、メチルセルロースのヨーロッパでの生産拠点、SEタイローズ社(SE Tylose GmbH & Co.KG)の増設を完了し、本格稼動を開始したと発表した。同社は直江津工場と合わせて能力63千トンとなり、これまでの首位の米ダウケミカル(約45千トン)を抜き世界第1位の座を確固たるものとした。

同社は200億円をかけて日独で増強をおこなったもので、昨年12月に直江津工場(新潟県上越市)の生産能力を年産20千トンから23千トンに増強、今回ドイツのSEタイローズ社の能力を27千トンから40千トンに増強して、合計能力を63千トンとした。

セルロース誘導体はパルプを主原料とする水溶性高分子で、建材用、医薬用を主要用途に、食品、トイレタリー、土木など幅広い用途分野を持つ。
信越化学は用途別に見ても現在、医薬用途で世界トップ、建材用途でも世界トップクラスのシェアを有している。今回の増設は
建材および医薬向けが順調に伸びる見通しであるため実施した。

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SEタイローズは信越化学が2004年1月にスイスのクラリアント社(1955年にSandozの化学品部門がスピンオフしたもの)からセルロース部門を買収したもので、Shin-Etsu International Europe 100%子会社とした。買収額は 241百万ユーロ(約310億円)で、社長は欧州の塩化ビニル樹脂の拠点、Shin-Etsu PVC B.V.の荒井文男社長が兼務している。

信越化学のセルロースが主に医薬・工業用途なのに対し、クラリアント社のセルロースは主に建材用途。日・欧の2拠点を確保しセルロース事業の欧州での拡大を図りたい信越化学と、事業の選択と集中を進めたいクラリアント社の意向が一致した。

SEタイローズはメチルセルロースのほかにヒドロキシエチルセルロースも10千トン生産しており、建築・塗料用を中心に全世界に販売している。

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なお、同事業で首位の座を奪われたダウも巻き返しを図っている。
まず、ドイツの
Stade工場で本年に3千トンの増設を実施、次いで2007年にMichigan 州 Midland、2008年に Louisiana.州 Plaquemineで合計 17千トンの増設を行い、合計能力を65千トンとする。

セルロース需要が堅調なことから両社ともさらに増産に踏み切る可能性があり、首位争いが激化しそうだ。

付記 2006/12/26 「ダウ、Bayerからセルロース事業を買収

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信越化学の決算(下記)でセルロース部門は有機・無機化学品部門の「その他」に含まれる。ほかに日本酢ビ・ポバール鰍ェ含まれるが、かなりの部分がセルロースと思われる。
2006年3月期の決算説明では以下の通り記載されている。

 セルロース 
  国内事業が医薬品向けや自動車関連向けを中心に堅調に推移したほか、ドイツのSEタイローズ社も建材向けの販売が好調だった。  ドイツのSEタイローズ社で増設を行うとともに、国内では昨年末増設が完了した製造設備の安定操業に取り組み、
  事業の拡大に努めている。

日本で20千トンの能力しか持たなかった信越化学がM&Aにより2極で47千トンと世界の1/3のシェアを確保し、ダウとの上位2社で7割近いシェアを占めることで、価格を安定させ、収益向上を実現した。続いて大増設で短期間に世界一に仕上げた。
塩ビ、シリコーン、半導体シリコンなど得意とする製品に経営資源を集中し、それぞれをまたたく間に世界的な事業に育てた、金川社長の決断はやはり、さすがである。

信越化学の塩ビ事業、シリコーン事業、半導体シリコン事業についてはそれぞれ以下を参照

2006/5/16 世界一の塩ビ会社 信越化学
2006/9/21 GE、シリコーン事業を売却
2006/9/27 
信越化学、300mmウエハー生産能力の大幅増強を決定

金川社長はカントリーリスクを理由に塩ビでの中国進出はしないとしているが、中国の需要の伸びの大きいシリコーンでは例外的に進出している(投資額は大きくない)。

同社は将来の事業リスクに備え、今期から国内のウエハー設備の減価償却を従来の5年から3年に短縮、年間130億円の償却負担となるが、3月期予想の連結営業利益は前年比30%増の2410億円となり、12期連続で過去最高を更新するとみられる。



2006/10/11   ABS業界の変遷 


2006/10/12 BASF、北米事業を強化 

BASFは北米の事業の強化を進めている。

同社は5、2002年に収益性を高めるため始めた2段階のリストラ計画の第1段階の年間4億ドルの固定費削減計画を、2007央という目標に先立ち達成したと発表した。

2段階として、2006年ー07年に年間5億ドル以上の投資、買収を北米で実施し、利益ある成長路線を追求する。

BASFでは、この間買収した事業(下記)の統合は予定通りスムースに進展しており、合理化、投資、買収を通じて、今やBASFは売上高と収益性の面で北米第二の化学会社になったとし、米国は化学品に関して世界で最大の単一市場であり、BASFはここで一定のシェアを取りたいとしている。

現在北米で実施中の投資計画には以下のものがある。

最新の吸水性樹脂のプラントをテキサス州Freeport に建設中(能力や詳細は非公表)で、2007年央に完成予定。新工場稼動後には現在の2工場( Aberdeen, Miss. Portsmouth, Va.)は停止する。
   
ナイロン中間体プラントを Freeport に建設中で2007年にスタートする。完成後はEnka, North Carolinaのプラントを停止する。
   
Pasadena, Texas60百万ドルを投じて可塑剤プラント増設を実施中で、完成後に新規可塑剤を北米市場で発売する。
   
Geismar, Louisiana でポリオール工場を125百万ドルを投じて増設しており、2008年に稼動する。ここではアルキルエタノールアミンも2007年にスタートする。

買収した事業は次の3つ。

1)Engelhard
BASFは本年6にエンゲルハードを48億ドルで買収した。

BASFは昨年末にエンゲルハードの友好的買収を提案したが拒否されたため、本年1月3日に総額49億ドル(1株当たり37ドル)で買収する敵対的買収を発表した。

これに対してエンゲルハードはBASFに対してオファー価格を引き上げるよう要請し、BASFは38ドルを提案したが、エンゲルハードはこれを拒否したため、4月26日にBASFに対抗して株数の20%相当分について1株45ドルで自社株買いを行うことや、コスト削減策などを決めた。

BASFではこれを受け、5月1日にTOB価格を1株38ドルに引き上げると発表した。しかし、このTOBへの応募が少ないことから、エンゲルハードの大株主とも協議した結果、22日に買収価格を39ドルに引き上げるとともに、「これが最良の、最後のオファーであり、これ以上価格を引き上げる考えはなく、これが受け入れられないなら撤退する」と宣言した。

エンゲルハード側がこの案を評価し、株主に対し、BASFによる1株39ドルでのTOBに応じるよう勧めるとともに、同社が出していた45ドルでの株式20%分の自社株買いのオファーを取り下げた。

BASF は買収後グループに取り込み、同社を BASF Catalysts LLC と改称した。

BASFはこれにより、20カ国以上で50製造基地、22研究センター、7300人の従業員をもつ、高成長の触媒市場でleading supplier となった。

2)Degussa の建設用化学品事業
Degussa の建設用化学品事業の買収は本年7月に完了した。買収額は22億ユーロで、他に5億ユーロの借入金を引き継ぐ。

同社の建設用化学品事業は建設業界の顧客を対象とした化学システムとフォーミュレーションから成り立ち、北米と欧州で混和剤システム、建材システムを、アジアパシフィック地域で混和剤システム事業を行っている。日本ではデグサ 100%の株式会社エヌエムビーコンクリ−ト用化学混和剤等を扱っている。

3)Johnson Polymer(水性樹脂)
Johnson PolymerS.C. Johnson & Sons, IncOwner一族の経営するJohnsonDiversey, Inc.の子会社で、水生樹脂のトップメーカー。
BASFは本年7
、470百万ドルで買収した。
同社は日本で東洋インキとのJVのジョンソンポリマーをもっていたが、
2月に合弁を解消、現在はBASFジャパンに吸収されている。


2006/10/13 ノーベル賞とイグ・ノーベル賞 (ちょっと息抜き)

ノーベル生理学・医学賞は米スタンフォード大学のAndrew Z. Fire教授と米マサチューセッツ大学のCraig C. Mello教授が受賞した。
授賞理由は「RNA干渉―二本鎖構造のRNAによる遺伝子の沈黙」で、遺伝子情報からたんぱく質を作る過程が、どのような場合に妨げられるかを解明した。遺伝子の機能を最適に制御する上で大きな役割を果たしている。生物を有害なウイルスの感染から守るのにも役立っており、遺伝子組み換えによる品種改良や新薬開発などへの応用が期待されている。

2006年のノーベル化学賞は米国スタンフォード大学医学部のRoger D. Kornberg 教授が受賞した。
授賞理由は「真核生物の転写についての分子的基盤に関する研究」で、細胞の遺伝情報が読み取られる仕組み(細胞に核を持つ真核生物のDNAにある遺伝情報を、伝達役であるRNA:リボ核酸が写し取り、それを基にタンパク質が合成される仕組み)を解明した。
RNAポリメラーゼは、DNAの二重らせんの必要な部分をほどき、ばねのような構造で少しずつDNAを動かしながら、遺伝情報の文字(塩基)を一つずつ読み込んで、mRNAを作ってゆく。1文字分の極めて小さい空洞を作り、適切な部品をはめてゆく仕組みで、間違った部品は型が合わずはまらない。
遺伝情報の転写ミスと関係があるとされているがんや心臓病、炎症などの研究にも役立ったと評価された。

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2006年のイグ・ノーベル賞(The Ig Nobel )授賞式は5日、米ハーバード大サンダース講堂で行われた。
ignoble(=nobleでない)とNobel をかけたもので、「人を笑わせ考えさせてくれる研究」に対して贈られ、裏ノーベル賞といわれている。

イグ・ノーベル賞は1991年、ハーバード大系の科学雑誌「ありそうもない研究」(Improbable Research ・・・Research that makes people LAUGH and then THINK)の編集者Marc Abraham が創設した。

2006年の平和賞には高周波雑音発生装置「Electromechanical Teenager Repellant」、通称「モスキート」を発明した英国のHoward Stapletonが選ばれた。
人間は年をとるに従い、高周波の音が聞き取れなくなる。「モスキート」はこれを利用して、若者しか聞き取れない高周波の雑音を発して、街にたむろするteenagerを追い払うための装置(repellant)として開発された。
しかし、この装置は生徒が教室で先生には聞き取れない着信音で携帯電話を掛け合うのに利用されているのが分かり、問題となった。

医学賞は "digital rectal massage" 触指による直腸マッサージ)がシャックリの確実な治し方である」ことを発見したFrancis Fesmire に贈られた。
急性すい炎を発症して経鼻チューブを挿入された60歳男性が、経鼻チューブがきっかけでしゃっくりが止まらなくなった。しつこいしゃっくりは、チューブを外したり薬物を投与しても止まらなかったが、直腸刺激によって止めることに成功。数時間後に再びしゃっくりが始まった際も、同様に止めることができたという。

栄養学賞は「フンコロガシの食嗜好についての研究」で、フンコロガシが肉食動物よりも草食動物の糞を好み、草食動物の中でも、馬が一番で、続いて羊、ラクダの糞の順に好みがあることを明らかにした。

化学賞は「温度影響を受けるチェダーチーズの超音波速度」だが、タイトルを見てもよく分からない。説明を読んでも同じです。
The ultrasonic velocity in Cheddar cheese is temperature dependent.
This relationship can be used to make corrections when determining ultrasonic texture or to determine mean temperatures in cooling/heating processes. At 0 < T < 35
ultrasonic velocity was 1590 to 1696 m/s, at 0 and 35, respectively. Differential Scanning Calorimetry thermograms linked the temperature dependence of ultrasonic velocity to fat melting. Three parts are distinguished in the curve as a consequence of the fat melting and the appearance of free oil. The most reliable temperature interval to carry out ultrasonic measurements in Cheddar cheese is identified as 0 to 17 .

ほかに以下の賞が与えられた。

文学賞:「必要性に関係なく用いられる学問的専門用語がもたらす影響についてー不必要に長い単語の使用における問題」、
音響学賞:「黒板をつめで引っかく音をなぜ人間は嫌うかの実験」、
鳥類学賞:「頭を振り続けるキツツキはなぜ頭が痛くならないのか」、
物理学賞:「乾燥スパゲティを曲げると、しばしば二つより多い部分に折れてしまうのはなぜか」、
数学賞:「だれも目を閉じていない集合写真を撮るには、何枚撮影すればいいか」、
生物学賞:「マラリア媒介蚊のメスが、リンブルガー・チーズと人間の足のにおいを好むこと」

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今年は日本人の受賞者はいなかったが、過去に以下の11件の研究がイグ・ノーベル賞を受賞している。

名前 部門   受賞理由
1992 神田不二宏, E. Yagi,
M. Fukuda
K. Nakajima,
T. Ohta and O. Nakata
(資生堂研究センター)
薬学賞 足の匂いの原因となる混合物の解明
1994 気象庁 物理学賞 地震が尾を振るナマズによって引き起こされるかどうかを7年間研究した功績
1995 渡辺茂(慶應義塾大学)
坂本淳子
脇田真清(京都大学)
心理学賞 ハトの絵画弁別(ハトを訓練してピカソとモネの絵を区別できるようにした)功績
1996 岡村長之助
(岡村化石研究所)
生物学的
多様性賞
岩手県の岩石から古生代石炭紀(約3億年前)の石灰岩中に超ミニ恐竜化石を
発見した功績
(小さな石を顕微鏡で見て超ミニ恐竜化石だと主張して発表)
1997 舞田あき(バンダイ)
横井昭宏(ウィズ)
経済学賞 バーチャルペット(たまごっち)の開発によりバーチャルペットへの労働時間を
費やさせた功績
1997 柳生隆視 他
(関西医科大学)
生物学賞 様々な味のガムをかんでいる人の脳波を研究
1999 牧野武
(セーフティ探偵社)
化学賞 妻や夫の下着に適用して精液の跡を発見できる浮気検出スプレーの開発.
2002 佐藤慶太(タカラ社社長)
鈴木松美(日本音響研究所)
小暮規夫(獣医学博士)
平和賞 コンピュータ・ベースでの犬と人間の言葉を自動翻訳するデバイス「バウリンガル」開発
2003 広瀬幸雄 教授
(金沢大学)
化学賞 銅像に鳥が寄りつかないことをヒントに、カラスを撃退できる合金開発
2004 井上大佑 平和賞 カラオケを発明し、人々に互いに寛容になる新しい手段を提供
2005 中松義郎
(ドクター中松) 
栄養学賞  36年間にわたり自分が食べたすべての食事を撮影し、食べ物が頭の働きや体調に
与える影響を分析

付記 2007/10/8  2007年イグ・ノーベル賞 

  山本麻由さん(26)が「牛糞からバニラの芳香成分 vanillin の抽出」で化学賞を受賞した。


2006/10/14 韓国企業、円安ウォン高で悲鳴

韓国企業が最近の円安ウォン高に悲鳴をあげている。韓国の新聞では、「日本製品と競争できない」、「靖国参拝よりさらに大きな問題」などの記事が並んでいる。


2006/8/26 「
韓国の上場企業、10社中3社が赤字」では以下のように述べた。

「投資・消費・雇用が不振の中で物価が上昇しており、経済の支柱となってきた経常収支までが原油価格の高騰とウォン高の影響で悪化し始めた。 5年前は1ドル1,300ウォンだったのが、今では1ドル970ウォンとなっている。」

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現在も1ドル970ウォン近辺だが、円安が進み、なんとか100円=800ウォンを維持しているが、「韓国政府当局が積極的に為替防衛をしなければ、今月中に700ウォン台に下落する可能性が高い」とされている。(13日の外国為替市場で一時100円=800ウォンを割った。)

経済界では「円安発輸出不振」を訴える悲鳴が出ており、アナリストは「為替レートが100円=830ウォンだったころ、韓国製品は日本製品よりも価格競争力で10%程度優勢だったが、為替レートが700ウォン台に下落すれば価格競争力が完全に相殺される」と指摘している。

特に世界市場で日本製品と直接競争している自動車・電子・鉄鋼分野では、韓国製品が価格競争力を得た日本製品の攻勢を受ける状況に陥っている。

韓国企業は米国市場で日本企業の安値攻勢を受けており、日本に直接輸出する韓国企業の中には、輸出中断の決定を下す企業が増えているという。

英国の経済週刊誌『エコノミスト』最新号も「世界で最も平価が切り下げられている通貨は日本円だ。日本の輸出企業は円安を背景に、最近ウォン高傾向にある韓国企業などに対し、大きなアドバンテージを得ている」と報じている。




日本の化学会社の輸出の好調も、円安の恩典がかなり大きい。


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