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目次
これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
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2017/1/4 アベノミクス4年
アベノミクスは「デフレは貨幣現象である」という考えに立ち、「三本の矢」を基本方針とした。
(1) 大胆な金融政策
(2) 機動的な財政政策
(3) 成長戦略
2013年3月に就任した黒田東彦・日銀総裁は、デフレ経済を克服するために2%のインフレターゲットを設定し、無制限の量的緩和を行った。目標の達成期限は「2年程度を念頭に置く」とした。
量的緩和だけでは効果が出ないため、日本銀行は2016年1月29日、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を導入することを決定、2月16日から金融機関が保有する日本銀行当座預金の一部に▲0.1%のマイナス金利を適用した。
しかし、CPIの状態は次の通りで
、2016年11月の生鮮食品を除くコアCPIが-0.4%で、生鮮食品とエネルギーを除く日銀コアコアで +0.2に過ぎない。
目的の「2%の物価安定目標の早期実現」の兆しは見えない。
逆にマイナス金利の悪影響はいろいろ出ている。
2016/8/17 マイナス金利の影響
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ここにきて、アベノミクスの理論的支柱である浜田宏一・内閣官房参与が変身し、「デフレはもっぱら貨幣的現象であり、金融政策によって影響できる」との考えが変わったことを認めた。
アベノミクスが実質的に始まった2012年11月16日の衆院解散から4年がたった2016年11月15日付の日本経済新聞に浜田宏一・内閣官房参与のインタビューが載った。
「私がかつて『デフレは(通貨供給量の少なさに起因する)マネタリーな現象だ』と主張していたのは事実で、学者として以前言っていたことと考えが変わったことは認めなければならない」
「クリストファー・シムズ米プリンストン大教授が8月のジャクソンホール会議で発表した論文を紹介され、目からウロコが落ちた。金利がゼロに近くては量的緩和は効かなくなるし、マイナス金利を深掘りすると金融機関のバランスシートを損ねる。今後は減税も含めた財政の拡大が必要だ。もちろん、ただ歳出を増やすのではなく何に使うかは考えないといけない」
浜田氏は文芸春秋 2017年1月号に、「アベノミクス」私は考え直した というタイトルで寄稿した。
2013年4月、日本銀行の黒田東彦総裁は前年比 2%というインフレ目標を掲げ、量的・質的金融緩和(QQE)を打ち出しました。アベノミクスの「第一の矢」です。
QQEは当初、抜群の効果を発揮しました。
民主党政権時代8千円台だった日経平均株価はグングン伸びて、15年7月には15年ぶりに2万585円に到達しました。
効果は実体経済にも波及し、雇用者は第二次安倍政権発足後3年間で約150万人増。
15年4〜6月期の企業収益は過去最高を更新。そして、16年度の政府の税収は約58兆円と、バブル期の1991年度(約60兆円) 以来の高水準になる見通しです。
そして私も、「デフレはもっぱら貨幣的現象であり、金融政策によって影響できる」と説明してきましたし、アベノミクス発足当初は、金融政策という"薬"だけで日本経済は立ち直ると思っていました。
ところが、昨年末から「QQEは頭打ちになっているのではないか」と思える事態が次々と起こり始めました。
QQEの効果に翳りが出てきたのです。また、14年の消費増税の消費抑制効果によるQQEの効果が出ていない期間は、予想を超える長さで続いています。
さらに、金融政策の効果を緩める現象が二つ起こりました。
一つ目が、外為市場でおこった異変です。ドナルド・トランプ氏が米大統領選挙で当選するまでの1年間はQQEの結果、日本の金利が下がっても円安にならなくなっていたのです。
二つ目が、日銀が16年1月に導入したマイナス金利政策の効果が出ていないことです。
ブリンストン大学教授のクリストファー・シムズの論文を読み、衝撃を受けました。「金融政策はなぜ効かないのか」という問いに、明快な答えを与えていたからです。シムズ氏は「金融政策が効かない原因は『財政』にある」というのです。
つまり、私は「(人々の)資源配分を改善するような政府支出や減税などによる財政政策を、金融緩和の手助けに使ったほうが良い」という点で考えを変えたわけです。
留保した利益を投資に回した企業を減税する、あるいは内部留保そのものに課税するなど、財政政策で工夫すれば良いわけです。
インフレ目標と消費増税は"2つで1つ”と考えて、連動させるのです。例えば、食料とエネルギーを除くコアコアCPI(消費者物価指数)が目標の2%を達成できた場合に限り、消費税を年々1%ずつ段階的にあげる。逆に、目標を達成できない場合、消費増税はずっと凍結し続ける、といった具合です。
現在のように、インフレ目標は金融政策だけで目指して、増税だけあらかじめ時期を決めてしまうのでは金融と財政の足並みは揃いません。
ーーー
浜田氏は、当初QQEが抜群の効果を示したとして株価、雇用増、企業収益などの改善を挙げている。
竹中平蔵氏は講演での笑い話で、浜田氏がアベノミクスのなかの金融政策を高く評価していることを示した。
アベノミクスの理論の柱で内閣官房参与の浜田宏一教授がアベノミクスを採点した。米国式に5段階評価である。
第一の矢の金融緩和は成功 |
A |
第二の矢の機動的財政政策は、短期の財政拡大は出来たが、中長期の財政再建は駄目なため |
B |
第三の矢の成長戦略は全く駄目で |
E |
即ちABEノミクス。
しかし、これらはアベノミクスにより需要が増えたためではない。
(企業収益)
政府と日銀が、デフレ経済を克服するために2%のインフレターゲットを設定し、無制限の量的緩和
を行うと表明すれば、トレーダーが円を売るのは当然であり、円安はその結果である。
輸出産業にとっては円安は大きな恩恵であり、輸出製品の採算は向上している。
しかし、輸出数量は増えていない。赤字輸出が黒字になり、企業採算が向上しただけである。
2013年10月の貿易統計によると、貿易収支は1兆907億円の赤字で、貿易赤字は16カ月連続で、1979年以降で最長を更新した。
輸入の方が輸出より多いため、円安は全体としては不利であり、非輸出産業や家計にとっては影響が大きい。
(株価)
2012年11月からの株高は、円安と同時に始まったもので、ほとんど円ドル相場と連動しており、外人投資家によって日本株が買われているだけである。
円安になれば、日本の株価はドル建てでは下がることになり、外人株主の買いが増え、値上がりする。日本の経済が活況になることによって株価が上がっているのではない。
東京証券取引所によると、2012年11月第2週からの1年間で、外国人の累計買越額は12兆7500億円になった。
12カ月ベースでは過去最高で、この間に日経平均株価が7割近く上昇するけん引役になった。
投機マネーが日本に流れ込むか、それとも出ていくかだけの違いである。
(雇用)
雇用数は確かに増えているが、雇用増の大半は非正規雇用である。需要が増えていないため、正規雇用は増えていない。
結果としては、経済実態はよくなっていない。良くなったといっている部分の大半は円安によるもので、「為替操作」ギリギリである。
今回、浜田氏は、「(人々の)資源配分を改善するような政府支出や減税などによる財政政策を、金融緩和の手助けに使ったほうが良い」という点で考えを変えた
。
留保した利益を投資に回した企業を減税する、あるいは内部留保そのものに課税するなど、財政政策で工夫すれば良いとする。
しかし、企業の内部留保は、需要がないために投資ができないからであり、個人預金は、将来の不安と、買いたいものがないということのためである。政府が課税などの脅しをしても、投資や消費は増え
ない。
また、政府が公共投資をしても、その金がまわる先の企業や個人は金を使わないため、効果は限られ、財政赤字が増えるだけである。
ーーー
浜田氏は当初、デフレは貨幣現象であるとし、量的緩和で解決するとした。現在は、それに財政政策を加えるべきだとするが、財政政策も既に実施して効果がなかった。
根本的な問題点は、需要と供給を、アダムスミスの時代の需要と供給で考えていることである。
商品Aが余り、商品Bが不足すると、Aの価格が下がり、Bの価格が上がるため、職人はAの生産を減らし、Bの生産を増やす。
需要と供給は「神の見えざる手」で一致する。
この時代であれば、潜在需要と供給は一致しているため、たまたま資金不足で需要が不足しておれば、金融緩和により需要と供給は一致する。
もし、買い控えがあれば、金融緩和による将来の値上げ予想で需要が顕在化し、需要と供給は一致する。
しかし、今の時代では、「見えざる神の手」は十分には機能しない。
生産や販売のためには、膨大な投資、組織、体制が必要で、商品Aが余り、商品Bが不足しても、企業は簡単にはAの生産を減らし、Bの生産を増やすことは出来ないし、しない。
既存勢力は政治と結びつき、古い体制を守ろうとし、新勢力の進出を規制により邪魔をする。
これが需要と供給のアンバランスを生んでいるのであり、この解決には昔の解決法では無理である。
現在の需要不足は、買い手の資金不足ではない。膨大な個人預金、企業の内部留保があり、金融緩和は意味がない。
短期の需要不足なら、デフレでの今後の値下がりを予想しての買い控えもありうるが、10年以上にわたる買い控えなどありえない。また、2%程度のインフレ予想で需要が増える
とも思えない。
実際には、デフレは貨幣現象ではなく、需要の変化に供給が対応できないためである。
白川前日銀総裁は2012年11月12日に「物価安定のもとでの持続的成長に向けて」という講演で、次のように述べている。
日本でも、高齢化や女性の社会進出、価値観の多様化などによって、新しいタイプの需要が潜在的にはどんどん生まれていると考えられます。例えば、医療・福祉産業では、高齢化により潜在需要が急拡大しているにもかかわらず、各種の規制や現場の人手不足などから、需要に見合うサービスが提供できていないとの声が多く聞かれています。また最近注目が集まっている高齢者の消費についても、所得、健康状態、嗜好の違いなどから若年層の消費よりも個別性が強く、供給者サイドの工夫如何でさらに拡大する余地があることが指摘されています。
いずれにせよ、こうした未充足の需要、すなわち成長分野における「供給不足」は、需給ギャップにカウントされていません。
本来「需給のミスマッチ」と認識すべき部分まで、「需要不足」という形で示されているということです。
持続的に需給ギャップを改善していくためには、潜在需要を顕在化させるように、経済の変化に合わせて供給構造を作り変えていくことが必要です。
2013/1/5 日銀総裁の変心?
政府も自民党も政治献金をしている財界(大部分が需要が減った産業を代表)を保護し、代替しようとする新興産業を規制して
おり、結果として、需要の減った産業が残り、新しい需要に対応する供給が増えない。
米国の場合、新規事業への規制は少なく、古い事業から新しい事業に資金や人の移動が行われる。
また、上場会社であれば、将来性のない事業を続けておれば、経営者は確実に首になる。だから改革が進む。
しかし、日本の場合はそれがない。
長年にわたる規制で供給と実需要の差がどんどん広がっていった。
この解決には、需要のなくなった産業への保護をやめ、新しい需要に対応する産業への規制をやめて、供給構造を改変するしかない。
しかし、現在の規制改革会議のように、政財界や官庁が中心となる「規制改革」では効果はないが、抜本的な改革は日本では期待できない。
例えば、古い体制を保護している一つが租税特別措置法である。本来は一時的措置である筈が延々と継続している。
農業改革も、税制改革も、中途半端である。
選挙に影響すれば、取りやめられる。・・・・
最高裁の判例で、解雇が実質的に禁止されているのも障害になる。企業は本来やめるべき事業でも、雇用の維持のため、事業を継続する。
その結果、新産業に人が移動せず、資金も固定されてしまっている。
孫正義氏は1000億ドルのファンドをつくり、米国に500億ドルの投資を約束し、英国でもアームを240億英ポンド(約3兆3千億円)で買収し、英首相に雇用の倍増を約束した。
日本で大きな投資をしないのは規制のせいだろう。
逆に、アベノミクスのようなやり方でデフレ体制を結果として継続し、古い体制が破たんするのを待つのも一策かもわからない。
付記 小宮山宏氏との対談でコマツの坂根相談役が次のように述べている。(小宮山宏・山田興一 「新ビジョン2050」)
「コマツの場合、1回大きな構造改革をして人を減らし、グローバルで1,2位を目指せない事業は撤退して、今はIoTを積極的に活用して新しい事業の進め方をしている。
デフレ脱却というのは、こういうことなんです。政府日銀がいくら金融緩和しても民間が当事者意識を持ってこういう動きをしない限り、絶対に脱却できない。」
2017/1/5
米フォード、メキシコ工場建設を中止
Ford Motor は1月3日、メキシコでの工場新設(投資額 16億ドル)をとりやめ、代わりに米ミシガン州
Flat Rock工場で7億ドルを投じて電気自動車と自動運転車をつくると発表した。700人を雇用する。
ミシガン州から補助金が出るとみられる。
Trump次期大統領はメキシコ計画に強く反対していた。
しかし Ford のMark Fields
CEOは、メキシコ計画取止めは北米での小型車需要の低迷によるもので、Trump氏が大統領選に勝ったためではないと述べた。選挙結果に関係なく、自動車メーカーなら同じ決定をするだろうとしている。
一方で、もう一つの要素として、Trump次期大統領のもとでのこれまでよりも好ましい事業環境や次期大統領の話している成長政策があるとしている。
Trump次期大統領はtwitterで早速これを取り上げた。
“Ford to scrap Mexico plant, invest
in Michigan due to Trump policies”
同時に、GMがChevy Cruzeをメキシコで生産し、無関税で米国に輸入しているとし、米国で生産するか、高関税をはらうかどちらかだと脅かしている。
“General Motors is sending Mexican
made model of Chevy Cruze to U.S. car dealers-tax free across border.
Make in U.S.A. or pay big border tax!"
これに対しては、GMは声明を発表した。
「米国で売られているChevrolet Cruze のセダンはすべてオハイオ州の Lordstownで生産されている。メキシコでは海外向けのChevrolet
Cruzeのハッチバックを生産しており、米国ではごく少量が販売されているに過ぎない」
なお、米航空機エンジン・機械大手 United Technologies
傘下の空調大手 Carrier は11月30日、メキシコに移転予定だったインディアナ州のIndianapolis
工場の1,000人の雇用を維持することで、Trump 次期大統領と Pence 次期副大統領(同州知事)と合意したと発表した。
2016/12/6
Trump 次期大統領、米空調大手のメキシコ移転阻止
Trump氏はtwitterで、約束した雇用を既にもたらしていると述べた。
“Trump is already delivering the
jobs he promised America”
引用している記事では、@Trump氏と会談した孫正義氏のソフトバンク傘下のSprintが5,000人、出資を決めた衛星通信ベンチャーのOneWeb
が3,000人の雇用増を行うこと、ACarrierの移転阻止で1,000人の雇用が維持されることを報じている。
付記 Trump氏は1月5日のtwitterでトヨタのメキシコを取り上げた。米国に工場をつくるか、それとも多額の国境税を払えとする。
トヨタのメキシコ新工場は総投資額が約10億ドルで、現地で約2千人を雇用し、2019年から年間約20万台のカローラを生産する。
トヨタ自動車の豊田章男社長は、その直前に、「工場建設はひとたび決めた以上は雇用と地域への責任がある。現地に行く以上はそこで貢献したい。決断はしっかりやりながら、動き出してからは粘り強くやる」と述べ、現時点で見直す予定はないという考えを示し
ていた。
なお、トヨタの工場はBaja
California州ではなく、Guanajuato州に建設中で、カナダから生産を移す。
ーーー
Ford は2016年4月5日、メキシコのSan Luis Potosi に小型車の工場を新設すると発表した。投資額は16億ドル
で2018年に生産を始める。
夏に着工し、2020年までに直接雇用だけで2,800人分を創出する。
米国と比べ低い人件費であることがメキシコを選んだ理由で、北米自由貿易協定(NAFTA) を活用し、米国に低関税で輸出できる。
Trump大統領候補はこれを「全くの恥」と呼び、「私が大統領になったら、こうした雇用をつぶすばかげた取引を認めるつもりはない」と表明した。
しかし、Ford は9月14日、米国での小型車生産を全面的にメキシコの工場へ移管すると発表した。
コスト競争の厳しい小型車をメキシコに移管し、収益の改善につなげる。
他方、収益性の高いピックアップトラックやSUVの生産は米国に集約し、雇用を維持する。
Ford は、Trump
の大統領選勝利後の11月15日にも、米国からメキシコに小型車生産を移管する計画を引き続き進めると表明していた。
ーーー
今回、Fordは次の点を明らかにした。
1) 世界で13の電気自動車を計画しているが、そのうち7つを発表した。
|
時期 |
生産工場 |
販売先 |
all-new fully electric small SUV
(最低300マイル走行) |
2020 |
Flat Rock Plant |
北米、欧州、アジア |
high-volume autonomous vehicle |
2021 |
Flat Rock Plant |
北米 |
hybrid version of F-150 pickup |
|
Dearborn Truck Plant |
北米、中東 |
hybrid version of Mustang |
2020 |
Flat Rock Plant |
北米 |
Transit Custom plug-in hybrid |
2019 |
|
欧州 |
hybrid police vehicle(2種) |
|
|
北米 |
2) ミシガンFlat
Rockの組み立て工場を7億ドルで拡張、700人を直接雇用する。
これは2020年までに電気自動車に45億ドルを投資する計画の一部である。
3) メキシコのSan Luis Potosi
での新工場建設計画は取りやめる。
ただし、メキシコの既存のHermosilloで次世代のFocusを生産する。
現在 Focusを生産するMichigan組み立て工場では2種の新しい車種を生産し、3,500人の雇用を維持する。
ーーー
メキシコには日本の完成車、部品メーカーも多数進出している。
Trump次期大統領が、高関税をかけると脅して米国のメーカーの進出をやめさせた以上、本当に関税を上げなければならなくなったのではなかろうか。
日本のメーカーの業績に影響がでる恐れがある。
付記 日本の自動車メーカーのメキシコ進出
2017/1/6
中国、東芝メディカル買収でキヤノンに罰金の行政処分
中国商務省は1月4日、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの買収に関連し、キヤノン
(佳能)に30万元(約500万円)の
罰金を科す「行政処罰決定書」をウェブサイトで公表した。
独占禁止法に基づく買収の事前届け出義務違反を問題とするもので、競争制限はないとして買収自体は認めている。
ーーー
キヤノンは2016年3月17日、東芝の医療機器子会社、東芝メディカルシステムズを買収する契約を結んだと発表した。
3月9日に東芝から独占交渉権を得て協議を続け、合意したもの。買収額は6655億円で3月17日に決済した。
日本の独禁法第10条では、(株式取得で)一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、取得してはならないとしており、第10条2項で、会社が他の会社の株式取得する際、一定の基準に当たる場合には、公正取引委員会に事前に届出しなければならないとされている。
しかし、東芝は、債務超過を避けるためには、2016年3月期に売却益
5900億円を計上する必要があり、各国の審査を待っていては間に合わない。
このため、下記の手続きをとった。
A種類株(議決権あり)20株を特別目的会社(株主は東芝とキヤノンのいずれからも独立した第三者の3人)のMSホールディングに譲渡(対価
98,600円)。
B種類株(議決権なし)1株と新株予約権をキヤノンに譲渡(対価 6,655億円)
(B種類株には議決権はないが、組織再編などの重要事項について拒否権を行使できる条項あり)
独禁法第10条2項の規定は、具体的には、取得後の議決権の数の割合が新たに20%又は50%を超えることとなる場合となっている。
議決権は第三者のMSホールディングが保有するため、条文の上からは公取委の承認前の株式取得は認められることになる。
2016/3/18 キヤノン、東芝メディカル買収を発表、独禁法対策で奇手
東芝メディカルの議決権の対価がたった10万円で、キヤノンは議決権無しの株と新株予約権に6,655億円も払うというのは通常は考えられず、わざわざこういう手続きを取る他の理由も考えられない。また、議決権無しの株には重要事項に対する拒否権があ
る。各国の承認を得れば直ちにキヤノンが議決権を100%取得する。事前に承認を得るという規定を避けるための便法であることは明白である。
公取委は6月30日、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの株式取得について、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとはならないと認められたので、排除措置命令を行わない旨の通知を行い、審査を終了したと発表した。
しかし、株式取得のスキームが、事前届出制度の趣旨を逸脱し、独占禁止法第10条第2項の規定に違反する行為につながるおそれがあることから、両者に対し異例の注意を行った。
また、今後、企業結合を計画する者が仮にこのようなスキームを採る必要があるのであれば、当該スキームの一部を実行する前に届出を行うことが求められるとした。
日本の独禁法の規定の文言上は「株式取得」にはならないが、制度の趣旨を逸脱するものであると明言しており、今後は認めないとしている。
2016/7/4
公取委、キヤノンによる東芝メディカルシステムズの株式取得を承認
なお、キヤノンは12月19日、申請を行っていた各国・地域において所要の競争法規制当局のクリアランス取得が完了したため、東芝メディカルの株式取得(子会社化)を行うことを、取締役会で決議した。
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中国商務部も、キヤノンが当局に買収計画を届け出る前に、東芝側に買収代金を支払って第三者会社に議決権を移したことを問題視した。
経営危機にある東芝にできるだけ早く代金を支払うのが複雑な取引の理由であるとしている。
キヤノン広報は「異議を申し立てるかどうか社内で検討している」とコメントした。
しかし、日本では独禁法の文言上では「シロ」となったが、公取委も実質的には「クロ」とみて、異例の注意をするとともに、今後はこの手法を認めないとしている。
中国の「株式取得」の定義がどうなっているか不明だが、争って勝てる見込みはないだろう。
2017/1/7 住友ゴム、海外のDUNLOPブランド事業を買収
住友ゴム工業は12月27日、英国のSports Direct International
plc から、海外のDUNLOP商標権と DUNLOPブランドのスポーツ用品事業およびライセンス事業を137.5百万ドルで買収することについて合意したと発表した。
英国のDunlop Tyre は、Johm Boyd
Dunlopが1888年に発明した空気入りタイヤを事業化するため、1889年に設立された。
1910年にゴムのゴルフボールの製造を開始し、スポーツ製品に進出した。
その後、いろいろな分野に進出するとともに、DUNLOPブランドのライセンス事業を行った。
住友ゴムは当初、英国のDunlop
Rubber の日本工場としてスタートした。
Dunlop Tyre は1980年代前半に経営が悪化し、事業の売却を始めた。
1983 |
住友ゴム持株40%全てを売却 |
1984 |
英独仏6工場を住友ゴムに売却 |
1985 |
BTRがDunlop を買収
タイヤ部門は住友ゴムに売却
(他の部門も順次売却) |
1986 |
Dunlop USAを住友ゴムに売却 |
スポーツ部門やライセンス事業のDunlop Slazenger は1996年にPrivate
Equity FundのCinvenが買収した。Cinvenは借入金返済のため、ゴルフボールのSlazenger
Golf やMaxfli を売却した。
2004年にSports Direct International がDunlop
Slazengerを買収した。
今回、住友ゴムがDunlopの商標権と事業を買収する。
(1) DUNLOP商標権 |
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【タイヤ】 |
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タイ、インドネシア、ブラジル、南アフリカなど86カ国で使用権者(ライセンシー)から所有権者(ライセンサー)へ |
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現状のビジネス(下記)については影響なし |
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【スポーツ/産業品】 |
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テリトリー : 全世界
(日本・韓国・台湾はすでに商標権を所有) |
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商品 :
既ライセンシーがいない限り、全ての商品に拡大 |
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(2)
DUNLOPブランドのスポーツ用品事業 |
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スポーツ用品の製造・販売
(日本・韓国・台湾はすでに商標権を所有) |
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(3)
DUNLOPブランドのライセンス事業 |
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ウエア、シューズ、バッグ、メガネ、時計、傘等 (日本・韓国・台湾はすでに商標権を所有) |
住友ゴムは当初、英国のDunlop
Rubber の日本工場としてスタートしたが、1963年に住友ゴムとなり、1999年にGoodyear
Tire & Rubber
と全世界のタイヤ事業で提携した。
しかし、住友ゴムは2015年10月1日付でGoodyearとのアライアンスを解消した。
北米JVと「ダンロップグッドイヤータイヤ」は住友ゴムが買取り
欧州JVと「日本グッドイヤー」はGoodyear社が買取り
共同購買及び技術交流、共同開発JVは解散
住友ゴムは、Goodyearから271百万USドルを受領
これに伴い、タイヤでのDunlopブランド商標使用権の帰属は下記のとおりとなり、現在に至っている。
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従来 |
解消後 |
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住友 |
Goodyear |
北米(米・加・メキシコ) |
米国JV |
新車用 |
日系自動車新車用 |
非日系自動車新車用 |
市販用 |
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市販用 |
モーターサイクル |
新車用、市販用 |
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欧州 |
欧州JV |
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新車用、市販用 |
日本 |
日本JV |
新車用 |
新車用、市販用 |
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住友ゴム |
市販用 |
旧ソ連・トルコ・西アフリカ等33カ国 |
住友ゴム/
欧州JV |
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新車用、市販用 |
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現在も今後も商標権保有 |
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アジア、中東、中南米、東アフリカ
(インドを除く)* |
豪州・NZ |
* 今回、タイ、インドネシア、ブラジル、南アフリカなど86カ国で使用権者(ライセンシー)から所有権者(ライセンサー)へ
なおインドはRuia Group が商標権を保有(Dunlop India
は1984年にJumbo Groupに売却され、2005年にRuiaが買収した。)
2015/6/8
住友ゴム、Goodyearとのアライアンスを解消
ーーー
なお、住友ゴムは本年1月5日、欧州におけるタイヤ事業拡大のため、英国のタイヤ卸・小売会社のMicheldever Tyre Services Ltd.
等を保有する持株会社 Micheldever Group Ltd. を買収すると発表した。
取得価額(有利子負債等を含む)は215百万ポンド(約312億円)。
欧州では Goodyear とのJV(住友ゴム25%出資)のGoodyear
Dunlop Tires Europe でタイヤの製造・販売事業を行っていたが、提携解消でこれはGoodyear 100%
となり、Dunlopブランドの権利も失った。
住友ゴムは2003年にオーツタイヤと合併し、ファルケンブランドの権利を全世界で持つ。
2015年稼働のトルコ工場を活用して、英国向けにで長寿命で滑りにくい高性能タイヤを生産し、Micheldeverの経営を再建しつつ、Falkenブランドのタイヤを拡販する。
2017/1/9 中国国務院、第13次排出削減総合対策五カ年計画を通達
国務院は1月7日、李克強総理の承認を得て、「十三五(第13次五カ年計画:2016-2020年)排出削減総合対策計画」を通達した。
排出削減の主要な目標と重点的課題を明確にし、全国の省エネ・排出削減の取り組みについて全面的な計画を示した。
2020年までに全国のエネルギー消費を2015年比で15%削減し、全国の化学的酸素要求量、アンモニア
性窒素、二酸化硫黄、窒素酸化物の排出総量はそれぞれ2001万トン、207万トン、1580万トン、1574万トン以内に抑え、2015年比でそれぞれ10%、10%、15%、15%削減する。
揮発性有機物排出量は10%以上削減する。
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第12次五カ年計画
2011-2015年 |
第13次五カ年計画
2016-2020年 |
数量 |
2015年比 |
エネルギー消費
(GDP 当たり) |
18.4%減
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標準石炭換算
50億トン以内 |
15%減 |
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化学的酸素要求量 |
12.9%減 |
2001万トン以内 |
10%減 |
アンモニア性窒素排出量 |
13%減 |
207万トン以内 |
10%減 |
二酸化硫黄排出量 |
18%減 |
1580万トン以内 |
15%減 |
窒素酸化物排出量 |
18.6%減 |
1574万トン以内 |
15%減 |
揮発性有機物排出量 |
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10%以上減 |
この実現のため、産業・エネルギー構造の最適化、省エネの推進、汚染源の対策、循環経済の推進など11の対策を挙げている。
高排出産業を減らし、最先端の情報技術、新材料、新エネルギー、バイオテクノロジー、省エネ産業、デジタル創造産業を含む新たな産業を推進する。
石炭使用を減らし、再生可能エネルギーを促進する。石炭の使用は、2020年に全エネルギー消費の58%以下に減らす。
製造、建設、輸送、商業、農業、公共施設などでの省エネを推進する。また、製造業、輸送、日常生活、農業からの汚染排出を削減する。
特に大気汚染がひどい地域については、石炭消費を管理し、石炭代替に天然ガスを推奨する。揚子江、黄河、珠江など主要河川流域の高汚染産業は水汚染防止のため管理される。
監督官庁は産業汚染源に排出基準を守らせるよう、環境影響評価の実施や排出ライセンス発行など、対策を取る。自動車や船などについては排出基準を高める。
循環経済を推進する。産業、農業、都市住民からの廃棄物はリサイクルする。政府は資源リサイクル企業を支援する。
2017/1/10 国際宇宙ステーション(ISS) に初めて日本製バッテリー設置
NASAは1月6日、国際宇宙ステーション(ISS)で米国の飛行士2人が船外活動を行い、日本製バッテリー3個を初めて設置したと発表した。
これまで米国製のニッケル水素電池が使われているが、劣化が進むと予想されることから、NASAは交換が必要だと判断し、新しいバッテリーに日本製のリチウムイオン電池が採用された。
バッテリーはGSユアサ製の高性能宇宙用リチウムイオン電池セル(縦26cm、横13cm、幅5cm)を数十個束ねたもので、1個あたり、縦横それぞれ約1m、高さ48cm、重さ197kg。
6個が昨年12月に日本の無人補給船「こうのとり」6号機でISSに運ばれた。1月13日にも船外活動を行い、残り3個を設置する予定。
ISSの電源はすべて太陽光だが、太陽光を受けられない時間帯があるため、バッテリーが欠かせない。
1周約90分で地球を回っているISSは、1日に16回も地球の影に入るので、そのたびに発電がストップする。1日に16回訪れる夜間の電力は、すべてバッテリーからの供給に頼ることになる。
このリチウムイオン電池は、高エネルギー密度、長寿命であり、また高率充放電が要求されるISS運用に最適な設計の電池で、現在搭載されているニッケル水素電池と比較して、質量あたり約3倍の高エネルギー密度であることから、現在の48個のバッテリーと相当の能力を半数の24個で実現することができる。
現在、ISSのバッテリを輸送できるのは、「こうのとり」のみで、今後9号機まで3回で残り18個を運ぶ。
ISS用リチウムイオン電池の特長は次の通り。
1.高いエネルギー密度
現在ISSで使用されているニッケル水素電池と比較して、質量あたり約3倍の高エネルギー密度
2.長寿命
満充電、完全放電を1サイクルとした場合、5000サイクル以上の利用が可能
3.高率充放電での利用に適した設計
短時間でも十分な充電と高い出力性能を備える
ISSには8つの系列の太陽光発電チャネルがあり、それぞれにニッケル水素電池を2つ束ねた3つのバッテリーがついている。(下の写真の赤丸内)
合計では48個のニッケル水素電池が使われている。
今回は、ニッケル水素電池を2つ束ねていたものをリチウムイオン電池1つで代替する。
ニッケル水素電池の場合は、継ぎ足し充電したことで、放電中に、一時的な電圧降下を起こす「メモリー効果」があるが、リチウムイオン電池の場合は発生しない。
一般のリチウムイオン電池はニッケル水素電池より寿命が短いが、ISS用リチウムイオン電池は10年の寿命がある。
2013年に発生したボーイング機の発火事故の教訓を踏まえ、厳重なテストに合格した。
GSユアサのリチウムイオン電池は、2006年に国産大型ロケットH-UA
8号機に搭載され、宇宙用電池としての評価を高めた。その後、JAXAとの共同研究などによって機能性と信頼性をいっそう高め、H-UBロケット、陸域観測技術衛星「だいち2号」、「こうのとり」など数多くの宇宙機に採用された。
これらの実績から、2009年にISSの新型バッテリー用電池として、NASAから候補指名を受けることになった。
2017/1/11 Tesla Motors とパナソニック、「Gigafactory」でバッテリーの生産開始
Tesla Motors とパナソニックは1月4日、Tesla
が米ネバダ州に建設した「Gigafactory」で円筒形リチウムイオン電池セルの量産を開始すると発表した。
Gigafactory内に設置されたパナソニックの電池セル工場で 新型EV(電気自動車)「モデル
3」およびTeslaの住宅用蓄電池「PowerWall」、産業用蓄電池「PowerPack」向けに、「2170」サイズの円筒形電池セルを生産する。
Teslaが現行車で採用しているパナソニック製の「18650」バッテリー(直径18×長さ65mm)は、エネルギー密度が250Wh/kg程度、コストが2万円/kWh程度であるといわれている。
Teslaとパナソニックが共同開発した高性能な円筒形「2170」は、詳細は発表されていないが、電気自動車とエネルギー製品に最適なフォームファクタを採用し、最高の性能を低コストで実現しているとされる。
電池セルが搭載される「モデル
3」は、本体価格3万5000ドルからと、Teslaのラインアップのなかでは最も低価格なモデルとなっており、Gigafactoryの稼働が鍵になる。
モデル3は新工場で生産する円筒型小型電池を数千本搭載し、1回の充電で300キロ以上走行可能。
モデル3は新工場で生産する円筒型小型電池を数千本搭載し、1回の充電で300キロ以上走行可能。
円筒型小型電池を数千本搭載し、0 - 100km/h
加速は6秒以下、1回の充電で500kmの航続距離を目指しているという。
航続距離を700kmまで上げることを考えている。また、急速充電も可能になる。
検証用の2170セルの生産は2016年12月に開始されており、1月4日にTesla
PowerWall 2 とPowerPack 2
用のセルの生産が開始された。新型EV Model
3用のセルの生産開始は第2四半期を予定している。
Gigafactoryにおけるリチウムイオン
バッテリーセルの生産量は、2018年までに年間35 GWhに達する見込みで、これはGigafactoryを除く全世界で生産されるバッテリーの総量とほぼ同量となる。
Teslaとパナソニックは2016年12月、ニューヨーク州バッファロー工場で太陽電池セルとモジュールの生産を開始することで合意した。
Teslaはバッファローで製造業500人以上、合計1,400人以上の雇用を生むというSolarCityのコミットメントを改めて表明した。
契約の一環として、パナソニックはバッファローの工場で必要な投資の一部を負担し、Teslaはパナソニックから、工場で生産された太陽電池を長期間にわたり購入する。
2017年夏にも太陽電池モジュールの生産を開始し、2019年までに1GWの生産能力に拡大するという。
両社は、この協業により、TeslaのGigafactoryにおける電気自動車用電池や蓄電池の生産により構築された関係を、更に、強化、拡大させる。
ーーー
パナソニックは2010年11月にTeslaに3000万米ドルを出資したと発表した。
Teslaは、Tesla製の先進的な電池パックにパナソニックのリチウムイオン電池を搭載しており、またEV用の次世代リチウムイオン電池を共同で開発するなどパナソニックとは親密な関係があり
、パナソニックを優先サプライヤーとして位置づけている。
パナソニック
は、2013年6月でTesla Mortorsの高級EVセダン「モデルS」向けリチウムイオン電池セルの累計出荷
1億個を達成した。
パナソニックとTeslaは2013年10月30日、パナソニックがTeslaにEV用リチウムイオン電池の供給を拡大する契約を締結した。
パナソニックは2014年〜2017年に約20億セルのリチウムイオン電池を供給する。
Teslaがパナソニックから購入する電池は、モデルSと同様に2014年末までに量産予定の多目的車のモデルXにも搭載される。
Tesla
は2014年2月26日、転換社債によって16億米ドルを調達する計画を発表するとともに、米国南西部に「Gigafactory」と呼ぶ大規模なリチウムイオン電池工場を建設する方針を明らかにした。
同社が販売するEV「モデルS」などに搭載されている
18650サイズ(直径18×長さ65mm)のリチウムイオン電池セルと、その電池セルを使った電池パックをこれまでにない規模で大量に生産する。2017年に稼働を開始し、2020年にはフル生産に入る計画で、フル生産時の年間生産規模は、電池セルで35GWh相当、電池パックで50GWh相当に達する。
パナソニックとTesla Mortorsは2014年7月31日、Gigafactoryの建設に関して、両社が協力することに合意した。
Teslaは土地、建物、そして工場設備を準備し、提供・管理する。
パナソニックは、双方同意のもと、円筒形リチウムイオン電池セルを生産・供給し、リチウムイオン電池セルの生産に必要な設備、機械、およびその他の治工具などに投資する。
ギガファクトリーで必要な材料の前駆体は、パートナーサプライヤーで構成されるネットワーク内での生産を計画しており、Teslaは、セルや他の部品を用いて電池モジュールおよびパックを製造する。
ギガファクトリーでは
2020年までに年間 35GWh 相当のセルと 50GWh 相当のパックを製造することを計画している。
パナソニックは2014年10月1日、リチウムイオン電池セルを生産する新会社 Panasonic Energy
Corporation of North America をネバダ州スパークスに設立した。
新会社は、同社とTesla
Mortorsが連携して設置を検討してきたGigafactory内で、リチウムイオン電池の生産を行う。
この新工場の立ち上げにより、長い航続距離を実現するリチウムイオン電池パックの製造コストを削減し続けるとともに、Tesla
Mortorsが計画している大衆向け電気自動車用に必要となる生産量を確保し、電気自動車の普及に貢献する。
今回、このGigafactoryが生産を開始した。
2014/10/8 パナソニック、リチウムイオン電池の生産会社を米国に設立
パナソニックは2016年10月17日、太陽電池分野でTesla
Motorsとの協業に向けた検討を開始した。
北米市場向けに、Teslaのバッファロー工場(ニューヨーク州)での太陽電池セル、モジュールの生産協業に関する検討を行うことで、同社との間で法的拘束力のない
Letter of Intent を締結した。
パナソニックが太陽電池分野で持つ技術・製造力の強みと、Tesla
の強い販売力との相乗効果など、両社が持つ強みを生かした協業を検討していく。
2016年12月に、両社はバッファロー工場での太陽電池セルとモジュールの生産開始で合意した。
2016/10/24
パナソニック、Tesla Motors と太陽電池分野での協業に向けた検討を開始
付記
パナソニックとテスラは2017年夏からバッファロー工場での太陽電池セルとモジュールの生産を開始した。
しかし、パナソニックは2020年2月26日、Teslaと共同で運営していた米国バッファロー工場での太陽電池セルおよびモジュールの生産を2020年5月までに停止し、2020年9月に撤退すると発表した。
2017/1/12 武田薬品、米企業を54億ドルで、がん治療薬強化
武田薬品工業は1月9日、米ナスダック上場でがん治療薬を手がける製薬会社、ARIAD Pharmaceuticals, Inc
を約54億ドルで買収すると発表した。
TOBを実施し、完全子会社にする。
ARIADは血液がんの一種である慢性骨髄性白血病
(「CML」)およびフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(「Ph+
ALL」)の治療薬Iclusig®(一般名:ponatinib)を発売済みで、この薬は2016年12月期に1億8千万ドル程度の売り上げを見込む。非小細胞肺がんを対象とした薬も臨床試験を実施中で、将来は年10億ドル超の売上高を期待できるという。
後記の通り、大塚製薬
が日本を含むアジア10カ国・地域において、本剤の共同開発・商業化の権利を取得している。
もう一つの薬 brigatinibは2017年前半に米国
での承認取得を見込んでおり、ベスト・イン・クラスのALK
阻害薬(肺がんの遺伝子変異の治療)となる可能性がある。
武田薬品は消化器系疾患領域、オンコロジー(癌)、中枢神経系疾患領域の3分野(+ワクチン)を重点領域とし、これらの分野に経営資源を投じるため、事業の選択と集中を進めている。今回の買収で、グローバルなオンコロジー(がん)ポートフォリオをさらに拡大する。
ーーー
武田薬品は2008年4月に、米国バイオ医薬品会社
Millennium Pharmaceuticals, Inc.を約88億ドルで買収することを発表した。
同社は5月9日、91.9%の応募を受け、本TOBが成立したと発表した。
癌領域におけるリーディングカンパニーで、癌領域および炎症疾患領域において有望なパイプラインを保有する。
2011年5月19日、スイスのチューリッヒに本社を置く非上場製薬会社Nycomed
A/S を買収すると発表した。
同年9月30日に買収を完了し、同日をもって100%子会社とした。
2011/5/23 武田薬品、Nycomed社を買収
2014年6月にGlaxoSmithKline 出身のChristophe Weber
を代表取締役社長とし、翌年CEOになった。
その後同社は、重点領域の消化器系疾患領域、オンコロジー(癌)、中枢神経系疾患領域の3分野(+ワクチン)に経営資源を投じるため、事業の選択と集中を進めている。
2015年12月16日、呼吸器系疾患領域事業をAstraZenecaに5億7500万ドルで売却することで合意した。
2015/12/22 AstraZeneca、買収による事業拡大
2015年11月30日、後発薬世界最大手のイスラエルのTeva Pharmaceutical
と、日本で両社によるジェネリック医薬品の合弁会社を設立する基本合意契約を締結した。
武田薬品は長期収載品事業を分割し、ジェネリック医薬品事業を営む大正薬品に承継、大正薬品は武田テバ薬品と改称する。
2015/12/28 武田薬品とTeva
Pharmaceutical の日本の合弁会社の概要
武田薬品は2016年12月15日、子会社で試薬大手の和光純薬工業を富士フィルムに売却する契約を締結した。
2016/12/22 富士フィルム、和光純薬を買収
武田薬品は
2016年10月11日、がん領域における強力で非常に特徴的な抗体薬物複合体のHumabody®
製剤での創出・開発を行うバイオ医薬品会社の英国のCrescendo Biologics Limited
との間で、この技術を使ったがん治療薬の創製、開発および販売に関して、グローバルでの戦略的提携およびライセンス契約を締結した。
2016/10/14 武田薬品、がん治療薬開発で英
Crescendo と提携
ーーー
ARIADが既に販売しているIclusig®(一般名:ponatinib)は、慢性骨髄性白血病(「CML」)およびフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(「Ph+
ALL」)の治療薬である。
CMLやPh+ALLでは、22番染色体のbcr
遺伝子という領域と9番染色体のabl 遺伝子という領域での転座によって、これらの遺伝子が繋がり、bcr-abl という新しい遺伝子領域ができる。
この結果、Bcr-Abl
という異常なタンパクが作られるようになり、このタンパクの作用によってシグナル伝達の異常が発生し、白血病細胞の過剰な増殖が起こる。
日本ではCMLは10万人に1人程度の割合ですべての年齢層で発症
する。患者数は約11,000人と推定されている。
従来の治療薬の場合、Bcr-Abl
タンパクに突然変異が起こり、抵抗性が発生するが、Iclusigの場合はそれらにも効果がある。
2012年12月に米国FDAで承認され、2013年7月に欧州でも承認を取得した。
大塚製薬は2014年12月に日本、インドネシア、マレーシア、中国(香港含む)、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾、タイ、ベトナムのアジア10カ国・地域において、Iclusig
の共同開発・商業化の権利を取得した。
2016年1月に日本でCMLとPh+ALLの新規経口治療薬として申請を行い、2016年9月28日に「アイクルシグ®錠15mg(一般名:ポナチニブ塩酸塩)」の国内における製造販売承認を取得した。
日本で2015年9月にオーファンドラッグとしての指定を受けている。
韓国および台湾では現在審査中。
アステラス製薬は1月10日、UMNファーマと2010年9月21日付で締結した細胞培養インフルエンザワクチンプログラムASP7374(UMN-0502)及びASP7373(UMN-0501)の日本での共同開発及び独占的販売に関する共同事業契約について、解約権を行使した
と発表した。
UMNファーマにより付与された全ての権利を同社に返還、ASP7374の製造販売承認申請を取り下げ、ASP7373の開発を中止
する。
本件に関わるその他の無形資産の減損損失40億円を計上する予定。
UMNファーマは Unmet Medical Needs
を満たす薬剤を開発する創薬ベンチャーとして2004年に設立された。
米国 Protein Sciences Corp.が開発したBEVS (Baculovirus
Expression Vector System) 技術のインフルエンザに関する日本での独占的ライセンス契約を2006年8月に締結している。
これは、人体に影響がないとされるウイルスに標的遺伝子情報を組み込んだ後、既存ワクチンのように鶏卵を使用するのではなく、昆虫細胞に感染させて目的タンパク質を大量に製造する技術で、UMNファーマはヨトウガ由来の細胞株を用い、UMN-0501、UMN-0502を製造する。
技術導入元であるProtein Sciences
Corporationが米国で2013年1月にFDAから承認を取得し、季節性組換えインフルエンザHA ワクチンFlublok®(UMN-0502
と同薬)を販売している。
2013 年1月に、FDA より
Flublok®3価製剤について、18 歳から49 歳までを対象として承認を取得し販売を開始、2014 年10 月には50
歳以上についても接種対象となっている。
2016年10月には、主流となりつつある4価インフルエンザワクチンについて、18 歳以上を対象として製造販売承認を取得した。
Flublok®(4価)は、50
歳以上の年齢層を対象とした9,000
例規模の臨床試験において、Flublok®(4価)を接種した群が、既承認孵化鶏卵不活化ワクチンを接種した群に比べ、インフルエンザの発症が40%以上少ないという結果が示された。
日本では、2014年5月30 日付で厚生労働省に対してインフルエンザの予防の効能・効果にて製造販売承認を申請、
医薬品医療機器総合機構による審査を受けていた。
今般、医薬品医療機器総合機構より、リスク・ベネフィットの観点に鑑み、本剤の臨床的意義は極めて乏しく、審査の継続はできないとの見解が示された
。
このため、アステラス製薬では、製造販売承認取得が困難と判断、申請取り下げ意思の決定に至った
。
(FDAが米国で承認しており、しかも孵化鶏卵不活化ワクチンよりも良い効果が出ているのを、医薬品医療機器総合機構がダメだとする根拠については、アステラスの発表にもUMNファーマの発表にもなく、不明)
UMNファーマでは、国内における本剤の臨床試験成績や、Protein
Sciences Corporationでの試験結果や米国での使用状況から、本剤の臨床的意義は高いと認識しており、再度の製造販売承認申請の検討を行う。
UMNファーマは2010年1月に、中国・韓国・台湾・香港・シンガポールにおけるインフルエンザワクチンの独占事業化権を取得している。
このうち、、韓国については、ライセンス許諾先である日東製薬で臨床試験に向けて準備を進めており、他の東アジアについてもProtein
Sciences CorporationがFlublok®4価製剤の製造販売承認をFDA より取得したことを契機に、引き合いがあることから、交渉を進める。
ーーー
UMNファーマはアステラス製薬との間で日本での共同開発及び独占的販売に関する共同事業契約を締結したが、生産面ではIHIと提携した。
IHIとUMNファーマは、2010年1月に細胞培養法を用いたインフルエンザワクチン原薬の製造事業に関する基本協定
を締結し、2010年6月に原薬の製造新会社 UNIGENを共同で設立した。
UMNファーマが秋田市に建設中の細胞培養法によるインフルエンザワクチン原薬製造工場における生産業務を担当する。現在の出資比率は50:50となっている。
従来の発育鶏卵を用いて製造するインフルエンザワクチンは製造に少なくとも約6ヶ月を要するが、UNIGENが原薬の製造を担当するUMN-0501では、ワクチンが必要とされてから市場に供給できるようになるまでの期間を約2ヶ月と、大幅に短縮できる。
2013年5月に岐阜工場を竣工した。21,000Lスケール培養槽を最大4基設置する予定で、完成後は、世界最大級のバイオ医薬品生産施設となる。
UMN ファーマは2016年2月、Protein
Sciences Corporationが米国で製造・販売している季節性組換えイ ンフルエンザ HA ワクチン Flublok®の原薬について、UNIGEN
岐阜工場から供給する正式合意書を締結した。FDA より認可を取得すべく協力して準備を進めている。
しかし、今般のアステラス製薬の撤退により、IHIは事業の継続が難しいと判断し、撤退を含め検討する。UNIGEN
の持ち分を売却する方針で既に複数の企業に打診した。
IHIはUNIGENの製造設備資金や運転資金の一部を債務保証しており、2016年12月末時点の残高は110億円
となっている。
2017/1/14 オランダの電車、全て風力発電で運行
オランダ鉄道(NS:Nederlandse Spoorwegen)の広報は1月10日、同鉄道のすべての
電車が1月1日から世界で初めて、風力発電による電力のみで運行していることを明らかにした。
NSは全電車を風力発電で運行する事業の入札を2年前に実施し、地元電力大手Enescoが落札した。
オランダは電気の輸入国で、余剰電力はないため、風力発電の新設が必要である。
両社は期間10年の契約を結び、2018年1月の実現を目指したが、1年前倒しで目標を達成した。
1日当たり約60万人の乗客が電源を全て風力発電とする列車で移動できるようになった。
オランダの他の鉄道会社も参加しており、NSはこれらを代表して電力を取得する。
風車1基で1時間発電すると、列車1編成を約200キロ走行させられるという。所要の電力は12億kWh で、これらはオランダ、ベルギー、スウェーデン、フィンランドの風力発電から得られる。
電力ソースは下記の風車群(Wind farm)。
国名のNLDはオランダ、BELはベルギー、ZWEはスウェーデン(オランダ語でZweden)
、FINはフィンランド。
最大の電力源のWestermeerwind
はオランダ最大の湖エイセル湖(深さは5〜6m、標高は海面下6m)の浅瀬にある 144MWの風車群(3MWの風車が48基)で
、2016年6月に稼働した。
ーーー
富士フィルムはオランダのTilburg
にCTPプレートなどの生産を担うFUJIFILM Manufacturing Europe B.V
を持つが、同社は2016年9月、工場の全電力をすべて風力発電でカバーすることになったと発表した。
Tilburg
工場では2011年9月に Enecoとの共同プロジェクトにより、工場敷地内に5基の風力発電タービンを設置し、工場の消費電力の15%を賄った。
今回、Enecoとの間で、北海に面するゼーラント州TholenのEnecoのAnna Vosdijkpolder wind
farmの大型風力タービン5基による年間100ギガワット時の電力供給を受ける契約を締結、風力発電による工場の全電力のカバーを可能にした。
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