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ペロシ米下院議長の台湾訪問に対抗して8月4日から軍事訓練を実施した中国は8月11日、1993年と2000年に続いて3度目となる台湾白書を発表した。
「台湾問題と新時代の中国統一事業」という白書で、中国は「一国二制度と平和統一」を戦略として前に出した。
白書はまず、「台湾は中国の一部だという歴史的、法的事実に疑いの余地はない」とし、台湾統一の歴史的正当性を強調した。
中国は1971年の第26回国連総会で「中華人民共和国は中国政府を代表する唯一の法的代表者」という2758号決議案を通過させた。
続いて1978年に「外交関係樹立に関する共同コミュニケ」で「米国は中国が唯一の法的政府であることを認め、台湾とは文化、商業、その他の非公式的関係を維持」することにした。
白書は、「事実を歪曲し、一つの中国の原則を否定するすべての行動は失敗に終わるだろう」と警告した。
白書は統一の正当性を前提にした後、「平和統一と一国二制度」を戦略として強調した。核心は、両岸(中国と台湾)の長い間の政治的違いを認めながら統一を推進するというもので、「統一を促進するために両岸の多様な政党と各界要人の民主的協議を推進する用意がある」とした。
一国二制度は「中国特色社会主義の偉大な構想であり、中国共産党が平和統一を達成するために用意した重要な制度的装置」と強調した。
「これは台湾の現実を十分に考慮すると同時に、統一後の台湾の長期的な安定に寄与する」とし「統一以降、台湾が本土と異なる社会制度を施行することが可能で、法に基づき高度な自治権を行使できる。2つの社会制度が長く共存発展するだろう」とした。
なお、1993年と2000年の過去2回の白書は、統一後に「台湾に駐留軍や行政官を派遣しない」とし、台湾が中国の特別行政区となった後も自治を認める方針を示していたが、最新の白書にはそのような文章は消えている。
また2000年の白書は、台湾が一つの中国の概念を受け入れ独立を追求しない限り「何でも交渉できる」としていたが、今回の白書からはそれも消えている。
白書は「それぞれ異なる体制は統一の障害物でも分断の口実でもない」とし「時間が経過するにつれて多くの台湾同胞が『一国ニ制度』を理解することになる」と断言した。
統一を妨害するのは政治制度の差でなく外部勢力の介入のためという認識で、「米国の一部の勢力が中国を統制するために意図的に『台湾カード』を使用し、『台湾独立』勢力を刺激している」とし「これは中国政府の平和統一努力を妨害するだけでなく、中米関係を転覆させ、米国の利益に深刻な被害をもたらすだろう」と指摘した。
台湾の対中国政策を主管する大陸委員会は、白書は「希望的観測の嘘に満ち、事実を無視している」と非難した。
中華民国は主権国家であり、中共政権は1日たりとも台湾・澎湖・金門・馬祖を統治したことがない。その事実を捻じ曲げた「一つの中国原則」は国連憲章を誤って引用することで台湾に対する主権をでたらめに主張し、国際ルールに挑戦している。
中国共産党第20回全国代表大会を控えて国内に向けたものであり、嘘でかためた宣伝工作に過ぎない。
台湾は主権国家であり「台湾の将来を決める権利があるのは2300万人の住民だけで、独裁政権が決めた結果を受け入れることは決してない。
2022/8/16 第一三共の抗体薬物複合体技術に関する Seagen Inc.との紛争
第一三共は4月9日、テキサス州東部地区連邦地方裁判所の陪審が、同社の抗がん剤 ENHERTU ®(トラスツズマブ デルクステカン)が Seagen Inc.の米国特許No.10,808,039('039 特許)を侵害しているとの評決を下したと発表した。
陪審員は'039特許の故意侵害があったと認定、陪審審理に至るまでの期間のSeagen社の損害額が41,820千ドルであると判断した。Seagen社は2024年の'039特許の期間満了までの売上に対するロイヤリティ支払い命令を出すよう、裁判所に求めている。
これについて、テキサス州東部地区連邦地方裁判所は7月20日、Seagen社の主張を認める判決を下した。
他方、デラウェア州連邦地方裁判所へのSeagenを被告とした確認訴訟で裁判所は仲裁による解決を指示したが、第一三共は8月13日、仲裁廷が Seagenの主張を全面的に否定する判断を下した と発表した。
前者は第一三共がSeagenの'039 特許侵害を判断、後者は'039 特許侵害はないとの判断である。
本来、仲裁が最終の筈だが、Seagenは法的アクションを継続するとしている。
付記
Seagen Inc.は2022年11月10日、ワシントン州西部地区連邦地方裁判所に第一三共の抗体薬物複合体(「ADC」)技術に関する仲裁判断の取消を求める申立てを提出した。
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本剤は、新規の薬物トポイソメラーゼI 阻害剤を、独自のリンカーを介して、HER2発現がん(乳がん、胃がん、非小細胞肺がん及び大腸がんなど)を対象とする抗HER2抗体に結合させた抗体薬物複合体(ADC)である。
がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつがん細胞への攻撃力を高める。
トポイソメラーゼI 阻害剤は、癌細胞のDNAの2重らせん構造のうち1本を切断し、異常な細胞増殖を抑えることでがん細胞を殺す。
第一三共はこのADCについて、抗HER2抗体とリンカー、ペイロード(トポイソメラーゼI 阻害剤)のすべてを自社技術で構築した。
第一三共は、2008年7月からSeattle Genetics, Inc.(現在のSeagen)と抗体薬物複合体(「ADC」)の共同研究を実施したが、新薬開発の成果がでないとして2015年6月に関係を解消していた。
2019年にSeattle Geneticsから第一三共のADC品に関する特定の知的財産権の帰属を主張して異議の通知をうけた。しかし、ADCの共同研究は現在の第一三共のADC品とは全く異なるため、同社の主張は根拠がないと考えており、デラウェア州連邦地方裁判所に同社を被告として確認訴訟を提起した経緯がある。
2022/4/13 第一三共の抗がん剤に米連邦地裁で陪審が「特許侵害」の評決
本件については3つの案件が進行していた。
1) ENHERTU ®の Seagen Inc.の'039 特許侵害
裁判所の今回の判決は、今年4月8日の陪審評決を確認したものとなっている。ただ、第一三共の発表によると、陪審が故意侵害であると認定したにもかかわらず、同裁判所は、状況を総合的に判断し、損害賠償額を増額しなかったとしている。
裁判所は、2024年に期間満了を迎える'039特許の存続期間中の本剤の将来売上に対するロイヤルティ支払について、まだ判断してい ない。
第一三共は同日、「今回の判決及びSeagen社への損害賠償等に対し、引き続き当社の権利を守るべく判決後の申立て等のあらゆる法的措置を検討する」とのコメントを発表した。
2)第一三共側の'039 特許の無効の訴え
第一三共は2020年12月23日、'039特許が無効であるとして米国特許商標庁に同特許の有効性を審査する特許付与後レビュー(PGR:Post Grant Review)の開始を請求した。
米国特許商標庁は2022年4月7日に、PGRの開始を決定した。
しかし、米国特許商標庁は
本年7月、Seagenの再審理請求を認め、PGR手続きを進めないことを決定した。
当該決定は、米国特許商標庁が'039
特許の有効性について判断したものではない。
第一三共は、米国特許商標庁が、PGRを開始した後にSeagen社の再審理請求を認めたことに不服で、米国特許商標庁がPGR手続きを完了するよう、今後あらゆる法的手段等を検討
するとしている。
3) デラウェア州連邦地方裁判所へのSeagenを被告とした確認訴訟
2019年にSeattle Genetics(現在のSeagen )から第一三共のADC品に関する特定の知的財産権の帰属を主張して異議の通知をうけた。しかし、ADCの共同研究は現在の第一三共のADC品とは全く異なるため、同社の主張は根拠がないと考えており、2019年11月にデラウェア州連邦地方裁判所に同社を被告として確認訴訟を提起した。
裁判所は仲裁による解決を指示、Seagenが同月に当該主張に関して米国仲裁協会 に仲裁を申立てた。
第一三共は8月13日、仲裁廷が Seagenの主張を全面的に否定する判断を下した と発表した。
仲裁判断により、Seagen の主張は退けられ、第一三共は係争対象となった ADC 技術に関する当該知的財産権をこれまでどおり保持し、今後も計画通りにADC 製品の開発および商業化を進めていくことにな るとしている。
これに対しSeagenは、仲裁判断には失望するが、法的アクションは継続すると述べた。
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現在、裁判所は第一三共がSeagen特許を侵害していると見做している。
特許商標庁は、第一三共が '039特許が無効であるとして同特許の有効性を審査する特許付与後レビューを進めないこととした。
仲裁廷は Seagenの主張を全面的に否定する判断を下した 。
裁判所が仲裁による解決を指示、Seagenが申し立てた仲裁で仲裁廷がSeagenの主張を全面的に否定する判断を下した のであれば、第一三共がSeagen特許を侵害していないこととなる。
Seagenが法的アクションは継続するとしているが、裁判所が仲裁による解決を指示した際に、仲裁が最終としていなかったのだろうか?
仲裁判断は、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(通称、ニューヨーク条約)により、160を超える締約国の裁判所を通じて、その国の裁判所の確定判決と同一の効力を有するものとして取り扱われ、その内容を強制執行することができます。
(JCAA 日本商事仲裁協定)
2022/8/17 英政府、オミクロン株対応のModernaの2価ワクチンを承認、日本も秋に2価ワクチンの接種開始へ
英政府は8月15日、新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」に対応したワクチンを承認したと発表した。米Moderna製で、成人のブースター接種(追加接種)に用いる。
英メディアによると、従来型とオミクロン型の両方に対応する「2価ワクチン」(“bivalent” vaccine)が承認されるのは世界初という。
英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は今回の承認について、追加接種によって従来株とオミクロン株「BA.1」の両方に対して「強い免疫反応」が見られたことを示す臨床試験のデータを基に判断したと説明している。
また、現在主流となっているオミクロン株の派生型「BA.4」と「BA.5」に対しても「良好な免疫反応」が見られることが予備的な分析で示されているとしている。
Modernaによると、オーストラリア、カナダ、欧州連合(EU)で同じワクチンの承認を申請しており、数週間程度で複数の承認を得られる見通しという。
付記
米国 FDAは8月31日、Moderna とPfizerがそれぞれ開発した「2価ワクチン」(従来の新型コロナウイルスに対応する成分と、オミクロン株の「BA.4」と「BA.5」に対応するワクチンの2種類を含む)について、追加接種に対する緊急使用の許可を出した。
Modernaのワクチンについては18歳以上、Pfizerワクチンについては12歳以上で、ワクチンを2回接種したり、さらにブースター接種をしたりしてから少なくとも2カ月経過した人が対象。
副反応については、これまでのワクチンと同様の症状が出るとみられるという。
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厚生労働省は8月8日、高齢者の重症化を防ぐとともに若い世代も含め社会全体の免疫をあげるため、新型コロナウイルスのオミクロン株に対応したワクチンの接種を、2回目までのワクチン接種を終えたすべての人を対象に、10月中旬以降に開始する方針を決めた。
新しいワクチンは、従来株に由来する成分とオミクロン株のひとつ、「BA.1」の2種類を組み合わせた「2価ワクチン」と呼ばれるもの。
使用を想定しているのはPfizerとModernaが開発中のワクチンで、薬事承認されれば来月にも輸入し、自治体への配送を開始する。
新型コロナウイルス(SARS-CoV 2)の起源株とオミクロン株BA.1系統のスパイクタンパク質をそれぞれコードする2種類のメッセンジャーRNAを含む2価ワクチンであり、生理食塩水での希釈が不要な製剤(RTU製剤)になる。
本剤は、BioNTech が所有するmRNAワクチン技術に基づき、BioNTech とPfizerが共同開発している。
Moderna日本法人は8月10日、追加接種用 2価ワクチンを、18 歳以上を対象とした追加接種用ワクチンとして厚生労働省に承認事項一部変更申請を行った。
従来のワクチンのmRNA-1273 とオミクロン株対応のmRNA を含んでいる。
付記
新型コロナウイルスのオミクロン株に対応したPfizer/BioNTechとModernaの2価ワクチンについて、厚生労働省は9月12日、専門家部会の審議を経て、国内での製造販売を特例承認した。
9月19日の週にも、4回目接種の対象となっている60歳以上の高齢者、持病のある18歳以上、医療従事者から接種を始める。
ファイザー製は12歳以上、モデルナ製は18歳以上に使う。
2022/8/20 韓国企業、日本政府にコロナ診断キット供給
供給する製品は、新型コロナとインフルエンザを一度に診断する同時診断キットと、新型コロナの自己検査キット で、年内に納品が完了する。
同社は、日本政府が新型コロナとインフルエンザを同じレベルで管理することを検討しているため、同時診断キットの需要が増加したと説明し ている。
日本政府の発表はないが、これはスイスのRoche による製造販売承認に基づくものと思われる。
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Rocheの日本法人ロシュ・ダイアグノスティックスは2020年10月に新型コロナウイルスの簡易型迅速抗原検査キットについて、体外診断用医薬品の製造販売承認を厚生労働省に申請した。
SARS-CoV-2 抗原を、鼻咽頭ぬぐい液を用いて迅速に検出する検査薬で、専用の装置は必要なく、約 15 分で陽性/陰性の検出結果を判定する。
本検査キットは、Rocheがグローバルで販売代理店契約を締結している SD Biosensor Inc.との提携により販売するとしていた。
詳細は不明だが、韓国のSD Biosensor Inc に製造委託をしているものとみられ、それを前提とした製造販売承認申請とみられる。
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Rocheは2020年9月4日、検体から新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスA型・B型を検出する検査薬「cobas SARS-CoV-2
& Influenza A/B」が、米食品医薬品局(FDA)より緊急使用許可(EUA)を取得したと発表した。
同検査薬は、EUでもCEマークを取得したため、EU加盟国でも使用可能となる。
同検査薬は、最短時間での新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスA型・B型の判別が可能。インフルエンザC型の判別はできない。
新型コロナウイルス感染症とインフルエンザは症状が似ているケースがあり、一度の検査で双方の可能性を調べることができるようになる。
ロシュ・ダイアグノスティックスは、一つの検体から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、A型インフルエンザウイルスおよびB型インフルエンザウイルスを検出する体外診断用医薬品「コバス® SARS-CoV-2 & Flu A/B」の製造販売承認を2020年11月13日に取得し、同日付けで保険適用されたと発表した。
今回、日本政府はロシュが製造販売承認を取得したこれらの製品を、Rocheの製造委託先の韓国のSD Biosensor Inc.から買い上げたものとみられる。
2022/8/22 韓国最高裁 徴用めぐる三菱重工業の再抗告 判断を見送り
太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題で、韓国の最高裁判所は、三菱重工業が韓国国内にもつ資産の売却命令に対する会社側の再抗告について、再抗告の受理から4か月にあたる8月19日にこれを退けて売却命令を初めて確定させることになるのではないかという見方が出ていた。
しかし、最高裁はひとまず判断を見送った。審理は継続される。三菱重工業の訴訟を担当する大法院判事が9月4日に任期満了で退任予定とされており、「遅くとも8月中に決定が出る見通し」とされる。
資産を売却する「現金化」の前に韓国政府が打開策を打ち出せるのかが引き続き焦点となるが、時間は余りない。
付記
特許権売却事件の主審であるキム・ジェヒョン大法官(最高裁判事)が結論を出せないまま9月2日に任期を終えて退任式を行った。後任の裁判部がいつ構成されるかも分からない状況。
大法院側はこれに先立って「大法院がこの事件をいつまでに決めると方針を固めたり、大法官の間で合意されたものはない」とし「キム・ジェヒョン大法官退任前までに決定するよう方針を固めたわけではない」と説明していた。
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韓国大法院(最高裁判所)は2018年11月29日、三菱重工業に対し、第2次世界大戦中に同社の軍需工場で労働を強制された韓国人の元徴用工らに対する賠償支払いを命じる判決を下した。大法院は、損害賠償訴訟2件について、三菱重工業の上告を棄却し、2件の訴訟の原告に対し、1人あたり最大で1億5000万ウォン(約1500万円)の支払いを命じた。
韓国の大田地裁は2019年3月25日、三菱重工業の韓国内資産の差し押さえを決定した。
原告側が裁判所に強制執行を申請していたのは三菱重工業の商標権2件と 、三菱重工業が韓国国内に保有中の770件余りの特許権のうち発電技術特許などの特許権6件で、現金換算で8億400万ウォン(約7200万円) に相当する。三菱重工業は同資産の使用、売買や譲渡ができなくなる。
三菱重工業が資産売却に関する関連書類の受け取りを拒否しているため、大田地裁は9月7日に三菱重工側から意見を聞くための「審問」に関してウェブサイトに「公示送達」を掲載した。「公示送達」は12月30日に効力が発生するとしており、地裁は、双方の公示送達の効力が生まれる12月30日以降、現金化に向けた次の判断を下すとみられた。
三菱重工業は、「公示送達」成立を受け、差し止めを求める即時抗告を行なった。
2020/11/3 韓国地裁、朝鮮女子挺身隊訴訟で 三菱重工資産の売却へ手続き
2021年8月には水原地裁安養支部が、韓国企業との取引で発生した三菱重工の物品代金債権に対する差し押さえと取り立て命令を決定した。しかし、韓国企業が「当社の取引企業は三菱重工業ではなく三菱重工業エンジンシステム」と説明、命令が取り消された。
2021/8/20 三菱重工の韓国内現金資産、初の差し押さえ
三菱重工業の差押えの差し止めを求める即時抗告は棄却され、資産売却の可能性が強まった。
三菱重工業は2022年4月15日に特許権の売却命令に対して、4月26日に商標権に関わる資産売却命令を不服とし、大法院(最高裁)に再抗告した。
2022年4月29日に、元女子勤労挺身隊員らへの賠償を命じた判決をめぐり、韓国の大田地裁が同社の差し押さえ資産のうち、さらに特許権2件の売却命令を出した。裁判所が差し押さえた同社の特許権6件と商標権2件のすべてに、売却命令が出たことになる。
上告審手続きに関する特例法によると、大法院は再抗告を受け付けてから4か月以内であれば理由を示さずに「審理不続行」との判断で棄却できる。
4か月の期限にあたるのが8月19日で、大法院の判断が注目されていた。
韓国外務省は7月26日、元徴用工問題の解決に向けた外交的な努力を説明する意見書を韓国大法院(最高裁)に提出した。
公益に関連する事項について、国と地方自治体は意見書を提出できると定めた最高裁の民事訴訟規則に則るもの。
「韓日の共通利益に合致する合理的な解決策」を探るため、外交協議を続けているとの立場を強調する内容で、解決策を協議するため同省が7月に設けた官民協議会について「原告側や各界各層の意見を集めるなど、多角的な外交努力を傾けている」と説明した。
尹錫悦政権は、資産の現金化によって日韓関係が一段と悪化する事態を懸念している。現金化の判断を先延ばしできれば、その間に原告を交えた国内の意見集約や日本との外交協議を前進させられると考えている。
文在寅前政権は司法判決を尊重する立場をとり、現金化を回避するための具体的な行動は取らなかった。
韓国の尹錫悦大統領は8月17日、日韓の懸案になっている戦時中の元徴用工の訴訟をめぐる問題について、「日本が憂慮する主権問題に抵触することなく、債権者(の原告)が補償を受けられるような案を、十分に考えている。合理的に導き出す」と述べた。
日本企業の資産を売却する「現金化」の手続きが近く終わる可能性もあり、日韓関係がさらに悪化するとの懸念が出ている。
尹氏は会見で、徴用工問題などについて「両国が未来志向的な協力関係を強めた時、譲歩と理解を通じて円満に解決できる」と述べた。厳しさを増す安全保障環境や経済協力の必要性にも触れ、日韓が「未来のために緊密に協力しなければならない」と語った。そのうえで、徴用工問題などの解決に向けて「合理的な案を導き出すことができる」と説明した。
「判決の(強制)執行の過程で、日本政府が憂慮する主権問題と衝突することなく、原告が補償を受けられるようにする解決案を検討している」と述べ、敗訴した日本企業の資産の現金化に伴う実害が出ない措置を準備していることを示唆した。
これを受け、韓国最高裁は8月19日にひとまず判断を見送った。審理は継続されるため、資産を売却する「現金化」の前に韓国政府が打開策を打ち出せるのかが引き続き焦点となる。
ロシア国営 Gazprom は6月14日、天然ガスパイプラインNordstream 1 の供給量を40%減らすと発表、翌15日、さらに33%削減すると発表した。従来の日量最大1億6700万立方メートルから60%カットし、最大6700万立方メートルになる。
ドイツ重電大手Siemens Energyなどによると、パイプライン内のガス圧力を高めるために使われるガスタービン 1基をカナダで修理したが、カナダ政府の制裁措置によってGazpromに提供できなくなったという。Siemens Energyではドイツとカナダ政府に事態を連絡し、解決策を協議していると発表した。
カナダ政府は7月9日、修理したタービンをドイツに返却すると発表した。
2022/6/17 Gazprom、ドイツ向けの天然ガス供給を削減
その後、Gazpromは7月27日から供給量を日量3300万立方メートルに落とした。従来の供給量の2割程度である。
タービンについては、5月の時点でシーメンスから修理済みのエンジンを受け取る予定だったが、7月末時点でエンジンを受け取っていないとした。
Gazprom は8月19日、定期メンテナンスのためNordstream 1を8月31日から3日間停止すると発表した。点検終了後に故障などがなければ、日量3300万立方メートルの供給を再開する計画としている。
供給停止の発表後、ヨーロッパのガス価格は7%跳ね上がった。
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この状況を受け、ドイツと南欧を結ぶ新たな天然ガスのパイプライン敷設計画が浮上している。2019年に一度中断したが、ロシアからのガス供給が削減されるなか、 スペイン政府が再提起した。
アルジェリアは天然ガスと石油を多く産し、天然ガスは地中海の海底パイプライン4本でイタリア、スペインに送られており、欧州の経済を支えている。
他に、ナイジェリアのガスをこれらのパイプラインで欧州に輸出するために、ナイジェリアとアルジェリアを結ぶパイプラン建設の計画がある。
2013/1/21 アルジェリアの石油と石油化学産業
今回の計画は、アルジェリアからスペインに海底トンネルで送られる天然ガスを、ピレネー山脈を貫くパイプライン約200キロメートルを新設して既存のフランス・ドイツ間のパイプライン経由でドイツに送るもの。
同区間がつながれば、スペインが海底パイプラインで輸入するアルジェリア産ガスをドイツなどへ送れる。さらにスペインとポルトガルが米国などから輸入している液化天然ガス(LNG)の大量供給も可能になる。
ピレネー山脈を貫く建設費の試算は4億4000万ユーロ(約600億円)で、環境保護団体の反発もあり、2019年に計画は頓挫していたが、 スペイン政府が提案した。ショルツ独首相は8月11日、関係する3カ国、欧州連合(EU)の首脳と協議したうえで「現在の厳しい供給状況を大幅に改善できる」と計画推進の考えを示した。
スペインのリベラ環境保護相は「協力を得られれば8〜9カ月で稼働可能」としており、EUも資金支援に前向きとみられる。
ガス依存度が低いフランスはこれまで計画に否定的だったが、現在は水不足や定期修繕の影響で全体の半分の原発が稼働を制限されている。ドイツから大量の電力供給を受けており、方針を変える可能性がある。
なお、下記の通り、アルジェリアとモロッコの国交断絶によりパイプライン2本のうち、モロッコ経由の1本が使えなくなり、十分な量が追加で送れるかどうかが問題となる。
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アルジェリアからスペインには2本のパイプラインが通っている。
Maghreb Burrop Gas Pipeline (MEG)はアルジェリアからモロッコを経由し、スペインと結ぶ。
2011年完成のMedgaz Pipelineは、アルジェリアのBeni-SafからスペインのAlmeriaまで地中海の深さ2160mの海底200kmを結ぶ。
アルジェリアのエネルギー鉱業相はスペイン向けガス輸出について、モロッコ領内を経由する「マグリブ・ヨーロッパ・ガスパイプライン」を2021年10月末で停止し、全てのガス輸出はスペイン・アルジェリア間を直接結ぶ「メドガス・ガスパイプライン」を介して行う方針を発表した。
また、炭化水素公社「Sonatrach」によると、北西部ベニー・サーフでの新たなガス圧縮機の運転に伴い、メドガス・ガスパイプラインの年間輸送量が現在の80億立方メートルから105億立方メートルまで増加する見通しを発表した。
アルジェリアのガス供給網の変更により、モロッコはアルジェリアからガス供給を受けられなくなり、ガスパイプラインの通過料収入も失う 。
モロッコ政府は、当面はスペインの受け入れ基地を通じてLNGを輸入して再ガス化した上で、同パイプライン経由でスペインからモロッコに逆送するかたちで供給を受ける。
2022/8/24 米「インフレ抑制法案」成立 電気自動車補助金で波紋
バイデン米大統領は8月16日にインフレ対策法案:Inflation Reduction Act of 2022 に署名し、成立した。大統領は「気候変動に関するこれまでで最大の前進だ」と強調した。
エネルギーコスト引き下げ、クリーンな生産、2030年までにカーボン排出の40%削減を狙い、3,690億ドルを投じる。
新法では、
低・中所得者がエコカーなどの新車を購入する際に1台当たり最大7500ドルの税控除を受けられる。
既存のEV減税は適用対象を自動車メーカーごとに20万台と定めていたが、台数の上限を撤廃する。
ただ、EV減税の対象となる新車について、北米地域での最終組み立てを義務付けた。さらにEV用電池の原材料である重要鉱物の調達先を、米国か、米国と自由貿易協定(FTA)を結んでいる国に事実上制限する。世界シェアの高い中国製品をサプライチェーン(供給網)から排除する狙い。
付記 最終の条件
主な要件(控除額は個人の場合) 達成により加算される
税額控除額(1)価格が5.5万ドル(バンやSUV、ピックアップトラックは8万ドル)未満であること 必須 - (2)車両の最終組み立てが北米(米国、カナダ、メキシコ)で行われていること 必須 - (3)電池材料の重要鉱物のうち、調達価格の40%が自由貿易協定を結ぶ国で採掘あるいは精製されるか、北米でリサイクルされていること どちらか必須 3,750ドル (4)電池用部品の50%が北米で製造されていること 3,750ドル 但し、財務省は2022年12月19日、2023年1月1日からの控除対象のバッテリー調達基準に関する指針の詳細公表時期を2023年3月中に延期すると発表した。変更の可能性がある。
米国政府は法律が成立した8月16日から北米での組み立てでない電気自動車へのエコカー補助を中断した。
米自動車イノベーション協会は声明を出し、新法の成立により、米市場で販売されているEV72モデルの約7割が、直ちに減税の対象外になると警告した。
EUや韓国は、米産品を優遇するEV減税について、内外無差別をうたったWTOルールに反すると主張している。
エネルギー省は法案成立に伴い、北米での組み立て電気自動車のリストを発表した。Manufacturer sales cap metと注意書きがあるのは「累計20万台まで」との現在の制限にかかるもの。2023年からは制限が外れるとされる。
BMW・アウディ・ベンツや日産、ボルボは電気自動車とPHEVのうち1−2車種が補助金の対象となるが、米国で自動車を組み立てていない韓国の現代自動車は、電気自動車5車種のほかプラグイン・ハイブリッド(PHEV)の5車種もエコカー補助金の支給対象から外される。
現代自動車グループが米国で販売中のトゥサン、サンタフェ、スポーティジ、ソレント、ニロのPHEVは全て16日からエコカー補助金支給対象から外れた。米国の消費者が現代自のPHEVを購入する際に受け取っていた6587ドル(約90万5000円)を上限とする補助金が全てなくなった。今回補助金の支給対象から外れた現代自グループのエコカー10車種は今年上半期の米国での販売台数が5万台近くに達していた。
日産はNissan Leafが対象となる。トヨタは含まれていない。
逆にテスラやGMは、「1ブランド当たりの補助金支給は累計20万台まで」という従来の規制が2023年からなくなり、米国市場でさらに有利な立場に置かれるようになった。
テスラは2019年、GMは2020年に電気自動車とPHEVの補助金支給台数が累計で20万台を上回ったため、ここ2−3年は米国で両社の電気自動車を購入しても補助金は受けられなかった。
GMなど米国の自動車メーカー各社はインフレ削減法が成立する直前まで「補助金対象上限20万台」の規制撤廃に向けロビー活動に力を入れていたが、これを最後まで貫徹した形だ。
一方で、中国製バッテリーと中国産のレアメタルを使用した電気自動車は税控除の対象外になるということで、米国で生産設備を増やしてきたLGエネルギーソリューションとSKオン、サムスンSDIなど韓国のバッテリー企業は、補助金の支給による市場拡大と、中国へのけん制による反射的利益を得ることになる。
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なお、現代自動車は5月21日、米ジョージア州に電気自動車(EV)の専用工場を新設すると発表した。
投資額は55億ドルで、2025年の稼働を目指す。生産能力は年産30万台規模で、車載電池工場も併設する。
2022/5/24 現代自動車、米にEV工場
米ジョージア州経済開発省長官は8月18日、現代自動車の同州におけるEV工場が目標時期を前倒しし、2年以内に稼働できるよう全力を尽くしていると述べた。「今年10月25日に着工し、2024年10月に稼働することが目標だ」と表明した。
韓国のバイオ医薬品メーカーのSK BioScienceは、新型コロナウイルスの国産ワクチン スカイコビワン(SKYCovione)の量産を始めた。韓国防疫当局と供給契約を結び、8月末に出荷する。
東部の安東市で生産し、今後2年間で1000万回分を供給する契約を政府と結んだ。
欧州当局にも承認を申請しており、国際的な枠組み「COVAX」を通じ、世界各地への供給を目指す。
SKY Covione は、ノババックス製ワクチンのように遺伝子組換え技術(抗原タンパク質を直接注入して免疫反応を誘導)に基づいて作られた。
18歳以上の成人を対象とし、4週間おきに計2回接種する。2〜8℃の冷蔵流通と長期保管が可能で、発展途上国にも供給しやすい特長がある。
臨床試験は韓国、フィリピン、ウクライナ、タイ、ベトナム、ニュージーランドの6カ国で行われた。
満18歳以上の成人4037人を対象にしたグローバル臨床3相の結果、ワクチン接種後、中和抗体が4倍以上上昇した対象者の割合を意味する抗体転換率が98%以上であることが確認された。
中和抗体も接種前に比べて33倍増加し、対照ワクチンと比べて3倍高い中和抗体が形成された。
安全性の側面でも対照ワクチンに比べ、類似した水準で異常反応率を示し、臨床試験期間中に特別な安全性問題が報告されなかった。
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韓国食品医薬品安全処は6月29日、SK BioScienceが開発した「韓国製第1号」の新型コロナウイルス感染症ワクチン「SKY Covione」の使用を最終承認する「品目許可」決定を下した。
最終点検委員会の会議を経て、臨床試験の最終結果報告書を提出する条件で、SKY Covioneに対する品目許可を決定した。
これにより、韓国は新型コロナワクチンと治療薬(レッキロナ)を開発した国になった。ワクチンと治療薬の開発技術をいずれも保有している国は米国、英国に続き韓国が3番目とされる。
韓国のバイオ製薬企業Celltrion グループは2021年11月、同社のモノクローナル抗体治療薬「レッキロナ:Regkirona」(Regdanvimab)が新型コロナ治療薬として欧州委員会から承認されたと発表した。第3相臨床試験で、入院または死亡のリスクを72%低減することが示された。
既に韓国でも承認済みで、インドネシアとブラジルで緊急使用認可を得ている。同社は現在、世界30カ国以上の規制当局とも協議中で、世界市場での提供を進めている。
2020/7/24 韓国のセルトリオン、COVID-19の治療薬の臨床試験開始
SK BioScienceは7月13日、SKY Covioneを追加接種(ブースターショット) した時、オミクロン(BA.1)に対する免疫反応が現れたと明らかにした。
健康な成人81人を対象に基礎接種(2回)後、7ヵ月が過ぎた時点で、追加接種した結果、オミクロン株を中和して予防効果を誘導できる中和抗体価が2回接種直後と比べ、25倍増加した。 また、2回接種後、7ヵ月経過時点(ブースターショット接種直前)に比べ、72倍高かった。
2022/8/26 政府 原発7基 再稼働目指す、次世代の原子炉開発検討
政府は8月24日の脱炭素社会の実現に向けた「グリーントランスフォーメーション実行会議」で、電力の需給がひっ迫する状況やエネルギー安全保障に対応するため、来年の夏以降、原発7基の再稼働を追加で目指す方針を確認した。また、安全第一での運転期間延長、次世代の原子炉の開発や建設を検討することを明らかにした。
首相は、「今日の会議では、再稼働にむけた関係者の総力の結集、安全性の確保を大前提とした運転延長など原発の最大限の活用、次世代革新炉の開発建設など、今後も政治判断が必要な項目が示された。あらゆる方策について、年末に具体的な結論を出せるよう検討を加速してもらいたい」と述べ、次世代の原子炉の開発や建設などを年末までに検討するよう指示した。
次世代革新炉については、小型モジュール原子炉など革新的原子炉に注目している。建設に当たっては国が前面に立って地元理解の醸成に取り組むなど、環境整備に万全を期す考え。
2021/5/31 日揮とIHI、小型モジュール原子炉事業に参画
2021/12/9 カナダ社、日立ニュークリア・エナジーの「BWRX-300」小型モジュール式原子炉技術を採用
参考 池田信夫 「次世代革新炉」でエネルギー問題は解決するか
この中で、これまでに再稼働した原発10基に加え、来年の夏以降、追加で7基の再稼働を目指す方針を確認した。
原発の再稼働には、「特定重大事故等対処施設」が完成すること、地方自治体の同意が得られることが必要である。
テロ対策施設は「特定重大事故等対処施設」と呼ばれ、2011年の福島第一原発事故後にできた新規制基準で設置が義務付けられた。
原子炉から離れた場所に建て、遠隔制御で原子炉を冷やす設備を備える。原子炉が航空機の衝突などによる攻撃を受けても、電源や冷却機能などを失わないようにする。テロ対策施設の設置期限は、当初は新基準の施行から5年の2018年7月だった。
規制委は2015年、原発本体の審査が長引いていたことをふまえ、「工事計画の審査終了後 5年」に先延ばしを決めた。原子力規制委員会は2019年4月24日の定例会合で、原発に設置が義務付けられているテロ対策施設が期限内に完成しない場合、期限の延長を認めないことを決めた。原則として原発の運転停止を命じる。
2019/4/25 テロ対策施設未完成の原発、運転停止へ
これまでに再稼働した10基のうち、美浜3号、大飯3号、玄海3号、玄海4号が工事中である。美浜3号は放射性物質を含んだ水が漏れ、8月12日の再稼働を延期した。
現在 運転
再開特定重大事故等対策 運転再開 2023/2までの稼働期間 次期定検 政府案 期限
停止完了 再
稼
働関電 高浜 3号 定検 8月 v 8月〜 〇 4号 定検 10/21 v 10/21〜 〇 美浜 3号 特定 2021/10 7月下旬 8/12→延期 〇 大飯 3号 〇 8/24 12月 12月〜 〇 4号 〇 8月 (8/24) 8月 8/15 〇 四国 伊方 3号 〇 v 〜2023/2/23 2023/2/23 〇 九州 玄海 3号 定検
特定8/24 2023/1/20 2023/1/20〜 〇 4号 定検 8月 9/13 2023/2 ----
x 川内 1号 〇 v 2月中旬まで 2023/2月中旬 〇 2号 〇 v 通期 2023/5 〇 合計 10基 4基 9基
これ以外で認可済みだが稼働をしていない原発は下記の通り。
特定重大事故等対策 運転再開 政府方針 期限
停止完了 認
可
済東電 柏崎
刈羽6号 2022/7 地元の理解を得るため、国が前面に立って対応 7号 原電 東海 2号 2024/9 関電 高浜 1号 2023/5 2023/6 安全確保の工事完了待ち 2号 2023/7 東北 女川 2号 2023/11 2024/2 中国 島根 2号 今年度中 合計 7基 原子力規制委員会は7月13日、柏崎刈羽原発6、7号機のテロ対策施設「特定重大事故等対処施設」について、「新規制基準に適合している」とした審査書案を了承した。
柏崎刈羽原発と東海第二原発は、地元からの同意が得られていない。
新潟県の花角知事は原発の安全性に関する県独自の「三つの検証」が終わるまでは再稼働を「議論しない」としており、再稼働の時期は見通せない。
東海第二原発は、安全対策工事を2024年9月に終える予定だが、周辺自治体の避難計画の策定が終わっておらず、再稼働の時期が見通せない。
原子力規制を監視する市民の会は、「東海第二原発の再稼働に反対するこれだけの理由 」として以下を挙げている。1.危険な老朽・被災原発を動かす理由がない
2.「経理的基礎」がない/東電からの資金支援は論外2012年以降、発電量はゼロだが、各電力から毎年1,000億円以上 、総額7,350億円にものぼる(2012〜2017年度)電気料金収入を得て、延命
3.「債務保証」?
規制委は、日本原電に対して、債務保証の枠組みを質問したが、東京電力と東北電力の2社が、債務保証のみならず「電気料金前払」という言葉を入れた。
4.事故の際の賠償は?
5. 設置変更許可申請を何度も何度も出し直し
6. 懸念だらけの安全対策
7.避難計画の実効性は誰も審査しない
原発30km圏には96万人が居住
加えて、柏崎刈羽原発は去年、テロ対策上の重大な不備が相次いで発覚し、原子力規制委員会による検査が現在も継続している。
原子力規制委員会は2021年4月14日、柏崎刈羽原発のテロ対策の不備を問題視し、原発再稼働に必要な核燃料の移動や装塡を禁じる行政処分の是正措置命令を決定した。事態が改善されたと判断されるまでは再稼働ができない状態が続くことにな る。
2021/3/29 柏崎刈羽原発の再稼働、見通しつかず
今回、政府は地元の理解を得るため、国が前面に立って対応
するとしている。なにかあれば、国の責任となる。
他の原発でも反対が強い。
東北電力女川原発2号機の再稼働を巡り、石巻市の住民が2021年5月28日、東北電の再稼働の差し止めを求める訴えを仙台地裁に起こした。重大事故を想定した広域避難計画の実効性を問う。
原告は原発から16〜25キロの緊急防護措置区域に住む男女17人。住民らは「女川地域原子力防災協議会は避難計画の実効性を調査、確認していない」と主張し、「交通渋滞で30キロ圏内を脱出できない」「病院や高齢者・障害者施設の入院患者や入所者は避難困難」と計画の問題点を列挙。計画の実行可能性や実施体制を疑問視し「住民らの生命や身体を侵害する具体的危険性がある」と訴えた。
全国で唯一、県庁所在地にある中国電力島根原発所(松江市)をめぐり、島根県の丸山達也知事は6月2日、2012年から定期検査のため運転を停止している2号機(出力82万キロワット)の再稼働に同意を表明したが、再稼働をめぐり、残された課題の一つは重大事故が発生した際の避難計画の実効性だ。
原発30キロ圏にある島根、鳥取両県の6市には計約46万人が暮らす。これは日本原子力発電東海第二の約94万人、中部電力浜岡原発の約83万人に次ぎ、全国3番目に多い。
高齢化も進み、自力で避難することが困難な「避難行動要支援者」は約5万8千人にのぼる。
東日本大震災のような大地震と原発事故が複合して起きた場合、中国山地を越える道路は通行できるのか、5万人を超える要支援者を支えきれるかなどの疑問は根強い。
政府は、「地元の理解を得るため、国が前面に立って対応する」としている。現在、避難計画は地方任せだが、政府が避難計画に責任をもつのだろうか。
付記
使用済み核燃料の処理の問題も未解決である。特に関西電力は大変である。
関電は2015年以降、使用済み燃料を一時保管する中間貯蔵施設を県外に建設する方針を示してきた。
2017年11月、福井県知事が関電大飯原発3、4号機の再稼働に同意する際、関電は2018年に県外候補地を示すと約束した。だが選考は難航し「2020年を念頭に」と先送りしたが、まだ「関電から報告はない」。
知事は12月2日、「提示が既に2年遅れ、地元と関電の信頼関係が崩れている」とし、40年超原発(高浜3、4号、美浜3号)の同意判断に当たり、年内提示が「全ての条件に先んじる」と踏み込んだ。
結局、関電は年内に県外候補地を示せなかった。
知事は、「(再稼働の)議論の入り口には入れない」とする一方、「最大限努力するということなので、それを待ちたい」とも述べた。
県幹部は「関電が『早く報告に来る』というから了とした。貯蔵プールの満杯も迫っているので、今回は期待もしていたが……」と話した。
電気事業連合会は12月18日、経済産業省の幹部とともに、むつ市役所に市長を訪ね「中間貯蔵施設」について、電力各社との共同利用に向けて検討に入りたいとする考えを伝えた。
これに対し市長は「青森県やむつ市は核のごみ捨て場ではない。中間貯蔵場所は全国で探すべきなのに、それがないまま突然『むつ市でお願いします』とはならない」と述べ、強い不快感を示した。
むつ市に拒否されると、高浜3、4号、美浜3号の再稼働の同意が得られなくなる。
福井県がこれまで関西電力に求めていた使用済み燃料の中間貯蔵施設県外候補地選定について、関西電力はたびたび延期していた回答期限を2023年に再延期し、福井県はこれを了承。40年超運転となる美浜3号、高浜1・2号の再稼働を容認した。
関電は2023年末までに確定できない場合、稼働停止を約束しているが、県外移転先が見つかる可能性はない。
2020/12/21 日本の原発の最近の諸問題
2020年の大統領選挙で公約 していた。
パンデミック下で特に大きな打撃を受けた労働者や中流階級の人々のための措置だとし、高所得世帯 (所得上位5%)は対象外とする。
延長を繰り返し、8月末としていた学生ローンの返済猶予措置を年末まで延長するほか、年収125千ドル以下、夫婦の場合は合計25万ドル以下の世帯に対し1万ドルの学生ローンの返済を免除する。
低所得者層の学生を対象とするPell Grantsと呼ばれる連邦補助金の受給者に対しては最大2万ドルの免除を行う。
学生ローンの対象は約43百万人で、うち20百万人が債務全額免除となる。
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米国の学生ローンは1兆7500億ドルで、大半が連邦政府のローンである。
連邦学生ローンは民間の学生ローンに比べて低金利で借りられ、返済プランが柔軟であるなど、民間の学生ローンよりも有利な点が多いが、全期間にわたって金利は定率であり、低利子のローンに借り換えすることが困難である上に、破産免責されないことが通常であるといった不利な点がある。
自己破産の場合、連邦政府の資金が返済されないことから、これを防ぐため、1998年10月8日以降、連邦学生ローンは自己破産した後も免責とならない厳しい措置がとられている。破産しても、取り立て業者から返済を迫られる。
John Grishamの小説 The rooster bar はこの問題を扱っている。
悪質業者が多くの法律大学を設立し、学生を集めるが、一流大学でないこれらの大学の学生は卒業しても高収入を得られず、借金まみれになって破産に追い込まれる状況を描いている。
一般的な米大学の1年当たりの学費は1万〜7万ドルで、大卒者は社会人になると同時に多額の債務を負い、返済に数十年かかることもある。政府の推計によると、約2万5千ドルの負債を抱えて大学を卒業する。大統領は、「負債が重すぎて大学を卒業しても中間層の生活が送れない。多くの人が住宅ローンを組めない」とし、返済免除を労働者階級に資する政策とした。
低所得者層の学生を対象とするPell Grantsと呼ばれる連邦補助金がある。これは返済不要である。これは1965年に設立されたが、時間の経過で教育費が大幅に増加したが、補助金の額はわずかに増加しただけである。
以前は4年制の公立大学の費用の80%を占めたが、現在では約30%とされる。 追加で一般の連邦学生ローンを借りざるを得ない。
今回、Pell Grantsと呼ばれる連邦補助金の受給者に対しては、連邦学生ローンについて最大2万ドルの免除を行う。
今回の発表を受け、米上院共和党トップのマコネル院内総務は、学生ローン返済免除は「犠牲を払って大学資金を貯めた全ての家庭、負債を返済した全ての卒業生、そして負債を背負わないために特定のキャリアパスを選んだり、軍隊に志願したりした全ての米国人に対する平手打ちだ」と非難 した。
TotalEnergiesは8月26日、ロシアで天然ガスを生産するTerneftgasの持分49%をパートナーで51%を保有するNovatekに売却すると発表した。
TotalEnergiesは2016年5月20日、ロシアのヤマロ・ネネツ自治管区で天然ガスとコンデンセートの生産を開始すると発表した。生産を開始したのは Termokarstovoye オンショア油田で、1日当たりの生産能力は天然ガスが 660 万立方メートル、コンデンセートが 2 万バレル。総生産能力は石油換算で 1 日当たり 6 万 5,000 バレルとなる。
運営はTotalが 49%、ロシア 2 位の天然ガス会社Novatekが 51%出資して設立した合弁会社Terneftegas が担当する。
Total とNovatek は7月18日に合弁解消で合意、ロシア当局に承認を求めていたが、8月25日に認可が下り、譲渡契約に調印した。「投資残高を回収できる条件」で合意したとしている。
Totalは7月に、ロシアのハリヤガ油田(Kharyaga)で保有している権益(20%)の全てをロシア国営の石油会社ザルベジネフチ(Zarubezhneft)に譲渡することで合意したと明らかにしている。
ハリヤガ油田事業は生産分与契約で運営しており、この契約の一環でTotalは毎月約10万トンの輸出用石油を受け取っていた。
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Terneftgasに関してはルモンド紙の報道で騒ぎとなっていた。
仏紙ルモンドが8月24日に報じたところによると、ロシア空軍の2カ所の基地に供給されたジェット燃料は、TotalEnergies とロシアのNovatekの合弁会社Terneftegas(Novatek 51%、Total 49%)が供給するガスコンデンセートから製造された。
フランスのボーヌ交通担当相は8月25日、この報道を巡り、Totalの関与があったか検証が必要との認識を示した。
交通担当相は「これは極めて深刻な問題だ」と述べ、ロシアに対する制裁を回避する行為があったか検証する必要があると主張した。
これを受け、TotalEnergiesはNovatekに問い合わせたうえで、下記の発表を行った。
Terneftegasを含むNovatekの子会社や他の合弁会社で生産される不安定なコンデンセートは、すべてNovatekのPurovsky コンデンセート処理プラントに送られる。 Purovsky プラントでは、ロシアの他の生産者からのコンデンセートも処理しているが、その比率は20%を超えていない。
Purovsky コンデンセート処理プラントで生産された安定コンデンセートは、すべてレニングラード地域のUst-Luga工場に納入される。 Ust-Luga工場で加工される製品にはジェット燃料(Jet A-1)が含まれるが、これはロシア国外に輸出され、国内での販売許可を得ていない。
TotalEnergies はロシア空軍にケロシンを供給していないことを確認した。ルモンドの批判は根拠のないものと考える。記事に怒りを感じる。
TotalEnergies はTerneftgasの少数株主(49%)であり、運営はNovatek が行なっている。2015年以降、追加出資をしておらず、2022年2月以降、配当を受け取っていない。
現在、Terneftgasの持分の売却手続きに入っている。
そもそも、特殊な部品が軍事用に使われたら問題であるが、天然ガスからのケロシンはどこの天然ガスからでもつくられるもので、(そうではなかったが)Total出資のJVの天然ガスが使われたと問題にすること自体がおかしい。ロシアの企業に出資していることを問題にするなら別であるが。
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TotalEnergiesはTerneftgasやハリヤガ油田権益を売却したが、ロシアからの撤退ではない。
TotalEnergiesはNovatek に19.4%出資している。
NovatekのYamal LNG計画に出資している。
Novatek 50.1% Total 20.0% 2011/3/2 調印 ロシアの天然ガス開発ーBP撤退、Total進出 CNPC 20.0% 2013/9 参加合意、2014/1/14 株式買収完了 絲路基金 9.9%
同じくNovatekのArcticLNG2プロジェクトに出資している。
Novatek 60% Total 10% CNODC 10% CNOOC 10% 三井物産/JOGMEC
(25%) (75%)10% 2019/4/30 北海LNG計画に中国2社が参加
英BBCは8月26日、ロシアがフィンランドとの国境近くにあるGazprom のPortovaya LNGプラントで、大量の天然ガスを焼却処分していると報じた。
Portovaya LNGプラントはNord Stream 1 pipelineの出発点 Vyborg のコンプレッサーステーションの近くにある。
専門家は1日に434万m3のガスが燃やされていると見ている。
1日に焼却されたガスを金額に換算すると、1000万ドルに上る。処分しているのはドイツに供給されるガスだったとみられ、他に売れずに焼却していると見られる。
Gazprom は6月14日、天然ガスパイプラインNordstream 1 の供給量を40%減らすと発表、翌15日、さらに33%削減すると発表した。従来の日量最大1億6700万立方メートルから60%カットし、最大6700万立方メートルになる。その後、Gazpromは7月27日から供給量を日量3300万立方メートルに落とした。従来の供給量の2割程度である。
このプラントでは6月頃から大量の天然ガスの焼却が確認されていた。焼却により排出されるCO2などの環境への影響が懸念されている。
フィンランド側から7月24日に撮影 source, Ari Laine
2022/8/31 厚労省、AstraZenecaの新型コロナ治療薬「エバシェルド」を承認
厚生労働省の薬食審・医薬品第二部会は8月29日、英国のAstraZenecaの新型コロナ抗体薬・エバシェルド(Evusheld) 筋注セット(一般名:tixagevimabと cilgavimabの同梱製剤)を特例承認することを了承した。適応症は「SARS-CoV-2による感染症及びその発症抑制」。厚労省は8月30日に特例承認した。
米国FDAは2021年12月8日、COVID-19の曝露前予防を適応として、AstraZenecaにEvusheldの緊急使用許可を与えた。
対象となるのは、病状あるいは免疫抑制剤により中等度から重度の免疫不全があり、COVID-19ワクチンに対して十分な免疫応答が得られない可能性がある、およびCOVID-19ワクチンの接種が推奨されていない成人および青年(12歳以上かつ40kg以上)で、現在感染している人、あるいはSARS-CoV-2の感染者と直近で接触があった人は投与を受けられない。
EUは2022年3月28日、これを承認した。
英国ではMHRA(医薬品・医療品庁)が2022年3月22日に承認している。
新型コロナ発症後の治療目的のほか、濃厚接触者ではない者(感染源への曝露前)に対する発症抑制の目的でも使える。
曝露前の発症抑制に用いる際の投与対象者は、▽ワクチン接種が推奨されない者▽ワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある者――となるが、より具体的な投与対象者は日本感染症学会のガイドラインで示される予定。
同剤は曝露前の発症抑制に係る治療選択肢を提供する初めての薬剤となる。
海外の研究では、オミクロン株の「BA.5」系統にも効果が確認されている。
全世界で供給量が限られていることから国が必要量を購入・確保する方針で、同省はこの日、15万人分を確保していることを明らかにした。流通方法は「調整中」。
Evusheld(開発コード AZD7442)は、新型コロナに感染して回復した患者により提供されたB細胞に由来する2種類の長時間作用型抗体(LAAB)であるtixagevimab(遺伝子組換え)とcilgavima(遺伝子組換え)を併用するもので、同社が独自に有する半減期延長技術を適用し、1回の投与後少なくとも6カ月間、ウイルスからの保護が持続される。
この2つのヒトモノクローナル抗体はSARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質の固有の部位に結合する。
米ヴァンダービルト大学メディカルセンターにより発見され、2020年6月にアストラゼネカにライセンス供与された。
発症後の主な投与対象者は、「重症化リスク因子を有する軽症〜中等症Iの患者」となる。
曝露前の発症抑制の主な投与対象者は今後、日本感染症学会ガイドラインで示されるが、厚労省によると、免疫不全症の患者、抗がん剤の投与を受けた患者、臓器移植を受けた患者などで、より詳細に示される。また、厚労省は、「感染症の予防の基本はワクチンによる予防であり、本剤はワクチンに置き換わるものではない。この点は十分に留意いただきたい」と述べ、あくまでワクチン接種が推奨されない者やワクチンでは十分な免疫応答が得られない可能性がある者に限られると強調した。
Evusheldの用法・用量は、新型コロナ発症後(治療目的)と曝露前の発症抑制で異なる。
発症後はtixagevimabと cilgavimabをそれぞれ300mgを筋肉内注射する。
オミクロン株BA.5系統に対しては、同剤の有効性が減弱する可能性があることから、「他の治療薬が使用できない場合」の治療選択肢と位置付ける。
(既承認の新型コロナ抗体薬・ロナプリーブ注射液などと同じ。)
曝露前の発症抑制では、tixagevimabと cilgavimabをそれぞれ150mgを筋肉内注射する。
変異株の流行状況等に応じて、それぞれ300mgを筋肉内注射することもできる。
オミクロン株BA.5系統に対しては、「同様の対象者に使用可能な他の治療薬がないことから、慎重に投与を検討することとし、その際の用量は、それぞれ300mgとすることを基本とする。