ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
最新分は http://blog.knak.jp/


2008/10/1 Sinopec、シリアで活動するカナダの石油会社を買収

Sinopec 927日、カナダのTanganyika Oil Co. Ltd. を20米ドルで買収する契約を結んだことを明らかにした。
子会社の
Sinopec International Petroleum Exploration and Production Corp. (SIPC) が全株式を買収する。

Sinopec の提示価額はライバルのインドのOil and Natural Gas Corporation (ONGC) の提示価額の2であったと言われている。

ONGC は826ロシアで石油開発をしている英国 Imperial Energy Sinopec と競り合い、26億米ドルで買収することで合意している。

  2008/9/3 SinopecImperial Energy の買収をギブアップ 

同社を含め、中国(及びインド)の海外油田を求めての活動は急である。

 

Tanganyika Oil はトロントとストックホルムで上場、シリアに55バレル以上の貯蔵量の油田の開発、生産を行なっている。
2008
上半期に平均で、日量16,670バレルの生産を行なった。

同社が権益を持つ油田は以下の通りで、新技術(Cyclic Steam Stimulation:CCSの採用で生産量を増やすことを目的としている。

CCS:油層に蒸気を注入、重質油を熱して、回収するもの。

    オイルサンドの回収に使用されている。
     2008/2/4 Dow Canada、オイルサンドからのエタン、エチレン購入契約

Oudeh Block
2003年にシリア政府と開発・生産契約を締結し、100%の権益を取得した。
20
の契約期間(5の延長可能)で、新しい技術を採用し、原油生産を増やすという内容の契約。

Tishrine BlockSheikh Mansour Block
2004年11
月にシリア石油、シリア政府と契約、20052月に国会承認を得た。
Tanganyika は100%権益を持ち、操業する。


2008/10/2 HuntsmanHexion に勝訴

2007年7月、Hexion Specialty Chemicals (投資会社Apollo Management の100%子会社)が、借入金込みで106億ドルで Huntsman を買収する契約を締結したが、Hexionは本年6月18日、この買収契約が実行不能であると宣言する訴えをDelaware の裁判所に提出したと発表した。損害賠償や違約金(325百万ドル)の支払義務がないという決定を求めるもの。

これに対して、Huntsman 、合併を邪魔したとしてHexionの親会社のApollo Management をテキサス州法廷に訴えた。

2008/9/2 Hexion によるHuntsmanの買収問題、新展開  

Hexion が買収契約を破棄できるかどうかを決める裁判が98から始まった。

Huntsman CEOは裁判で、以下の通り主張した。
買収によるこの合併は両社にとりメリットがあるもので、合併会社は負債は増えるものの、十分やっていける。
世界最大のスペシャルティケミカル企業の一つとなり、グローバルな存在で、購買力も増える。
Hexion 側が、シナジー効果は250百万ドル程度に過ぎないとしたのに対し、)個別で運営するよりも400百万ドル以上のメリットがある。
Huntsmanの業績悪化は原料価格高騰と外貨の交換比率のためであり、ポリウレタンなどのコア事業は非常に強いポジションにある。
   
   
9月29日、デラウエア州裁判所は、Huntsman 勝訴の決定を下した。
買収を取り止める根拠はない。
Apollo とHexionが求めていた損害賠償や違約金(325百万ドル)の義務免除を否定。
Hexion が契約を実行しなければ、325百万ドルの違約金以上の賠償義務を負う。
Hexionに対して最善の努力をして合併契約を遂行するよう命じ、Hexion が義務を果たしたと裁判所が認めるまで、契約の終息期日を延長。
更に、Hexionが契約のなかの多くの義務を意図的に果たしていないと認定。
   

Huntsmanは30億ドルを超える損害賠償を求めたテキサス州での裁判を継続するとしている。

この結果を受け、同社の株価は72%上昇した。

Hexion は判決を検討するとしているが、合併を専門とする法律家は控訴しても逆転は難しいだろうとしている。

ーーー

Huntsman 930日、買収資金を供給する契約を結んでいたCredit Suisse Deutsche Bank を訴えた。
両行が
Apollo と組んで、Huntsmanがその前にBasell と締結した買収契約を邪魔し、更にHexion との間の買収契約も邪魔して、自らの利益のためにHuntsman の権利を侵害したというもの。

同日午後テキサス地裁は、裁判の結果が出るまでに両行が融資契約を打ち切れば、取り返しのつかない害を与えるとして緊急差し止め命令を出した。

ーーー

Hexion は、Basell の買収契約(1株 25.25ドル)を破棄させ、1株28ドルで買収した。

これはサブプライムローンの問題が表面化して世界的な信用収縮不安で投資家がリスク資産から資金を引き揚げる動きが始まる直前、バブルのピークの時点での買収であった。
アナリストは、今の状態なら、
$13 $15が妥当だろうとしている。
Huntsman の株価は本年6月のHexionの買収取止め発表を受け、$12.50から $8.36 に下落した。今回の判決後に $12.60 になった。

ーーー

付記

Hexion Specialty Chemicals 102日、Huntsman との合併に関して、米国及びEUの承認を得たと発表した。

FTC Hexion が特殊エポキシ樹脂の一部をチェコのSpolchemie に売却したのを受け、承認した。
EUもこれを条件として承認していたが、今回のSpolchemieへの売却を承認した。

チェコの合成樹脂メーカーのSpolchemie 919日、Hexion の特殊エポキシ樹脂事業の購入契約の締結を発表した。
ドイツの
Stuttgart Duisburg の製造設備、米国のArgo, Illinois Norco, Louisiana の工場及びHouston Research Center を購入する。

Hexion の会長兼CEO は「合併に必要な独禁法上の承認が取れて喜ばしい」と述べた。


2008/10/3 豪州の独禁法当局BHP Billton Rio Tinto 買収にOK

豪州の独禁法当局 Australian Competition and Consumer Commission (ACCC) 10月1日、BHP Billton Rio Tinto 買収に反対しない旨、発表した。買収が競争を著しく減らす可能性は少ないと判断した。

ACCC 822日、"statement of issues" を出し、本合併の問題点を明らかにした。

合併が鉄鉱石の取引に対する影響(特に豪州の製鉄メーカーへの影響)が大きいとする一方、銅、金、ウラン、ボーキサイト、アルミに関しては競争上の大きな問題はないとした。

鉄鉱石でのシェアはブラジルのVale に次いで、 Rio Tinto 2位、BHP 3位で、合併すれば海上取引の35%を押さえることを問題視した。

今回は、利害関係者から幅広く聴取し、両社の内部資料も十分検討して結論を出したとし、以下の理由を挙げた。

合併会社は鉄鉱石、石炭、ボーキサイト、アルミナ、銅、ウランなど、幅広いコモディティのグローバルなサプライヤーになり、特に鉄鉱石では三大サプライヤーのうちの2社を統合することとなる。
内外から懸念が出されているが、
ACCCは合併が市場での競争を著しく減らすことはないと判断する。
   
鉄鉱石に関しては、投資が多大であるため新規参入へのバリアは高いが、調査によると、最近の需要増大に伴い、新規参入や拡大計画が増えている。それらの多くは、鉄鋼メーカーによる購入保証や投資がベースとなっている。
   
他のソースがあることや鉄鋼メーカーの支援による増産などで、合併会社が鉄鉱石のグローバルな需給バランスを左右することは難しいと考える。
   
既存サプライヤーや新規サプライヤーの存在のため、合併会社が鉄鉱石の供給を制限することはないと思われる。
   
豪州での鉄鉱石の供給に関しては、豪州に鉄道や港湾設備を有する他のサプライヤーがあるため、豪州の鉄鋼メーカーが高い価格で買わされることはない。
   

ーーー

米司法省とFTCは、買収の事前通知に対し、調査活動を開始しないことを決めている。

EUは事前調査に1ヶ月かけたが、世界最大と世界第二位の鉱山業者の統合には多くの懸念があるとし、7月4日に徹底調査を開始した。
12月上旬とみられていた最終判断の期日は年明けにずれ込む模様。

2008/8/28 BHP Billiton によるRio Tinto 買収のその後 


付記

BHP Billiton は11月4日、欧州委員会から本件に関する異議告知書を受け取ったと発表した。

異議告知書は合併の問題点を挙げたもので、会社側はこれに反論したり、承認を得るために問題点を是正することとなる。
同社では今後とも欧州委員会とは協力するとし、挙げられた問題点について速やかに対応するとしている。

ーーー

日本の公取委も調査を開始している。

公取委は8月以来、領事送達や郵送による書類の送付で報告命令を出しているが、
BHP Billton は受領を拒否している。

公取委事務総長は9月24日の定例記者会見で、同日、公示送達の手続を採ることとしたと述べた。公示送達の掲示を始めた日から6週間を経過することにより、報告命令を送達したと いう効果が発生する。

BHP Billton からの報告がなくても、他のいろいろな手段の情報収集によっ て審査活動を進め、独占禁止法第10条で禁止しているような一定の取引分野における競争を実質的に 制限することとなれば、排除措置命令を出す可能性があるとしている。
    http://www.jftc.go.jp/teirei/h20/kaikenkiroku080924.html#k080924_2

独禁法では確定した排除措置命令に違反した者には2年以下の懲役又は300万円以下の罰金(併科が可能)に処せられ、法人については3億円以下の罰金(私的独占、不当な取引制限においては差止めを命ぜられた部分以外については、300万円以下)の両罰規定が設けられている。

付記

公取委は11月14日、BHP Billiton から買収計画などの資料を受け取った。
(提出がない場合は罰金などの処分を科す可能性もあった。)


2008/10/4  2008年イグ・ノーベル賞

イグ・ノーベル賞(The Ig Nobel )の第18回授賞式が10月2日夜、米ハーバード大学サンダース・シアターで催された。

Cognitive Science Prize(認知科学賞)に北海道大学の中垣俊之准教授、広島大学の小林亮教授、東北大学の石黒章夫教授ほかが受賞した。

2000年9月のNature に掲載された "Intelligence: Maze-Solving by an Amoeboid Organism" が受賞の対象。

北大のホームページに中垣 准教授の研究アクティビティーとして
「不思議なアメーバ生物粘菌に学ぶ賢い計算法〜ネットワークの設計を例題として〜」
が載っている。これが受賞対象。

粘菌類である「モジホコリ(Physarum polycephalum)」の変形体(アメーバ状の原形質の塊で多核である)を小さく分けて、3cm四方の迷路に置くと、広がって互いに合体し、入り込める空間すべてを埋める。(図の左)

しかし、迷路の入口と出口に食物を置くと、モジホコリの変形体は「体」を行き止まりから離して、入口と出口を結ぶ最短の道をつなぐ形になる。(図の右)

真正粘菌変形体という巨大なアメーバ様生物は、単細胞生物にもかかわらず迷路の最短経路を探し当てることができるのだ。粘菌の賢さは果たしてどれほどだろうか? 脳も神経もないのにどうやって答えを導き出しているのだろうか? 私たちは、この不思議な生物粘菌の底知れぬ計算能力を解き明かし、さらにその計算方法を学ぶことを目指している。

最終的には粘菌に学んだ計算方法を利用して現代社会のインフラ基盤である通信網・道路網・上下水道網などのネットワークの新しいデザインに役立てたい。

受賞あいさつで、中垣氏が「日本の辞書で単細胞は頭が悪いと書かれているが、単細胞はわれわれが考えてきたよりずっと賢い」と話すと、数百人の観客から拍手と歓声を浴びた。

2008年の他の受賞者は以下の通り。

○栄養学賞:「同じ食べ物でも、名前の聞こえが良い方がおいしく感じる」ことを示したイタリア・トレント大学のMassimiliano Zampini と英オックスフォード大学のCharles Spence。
論文:"The Role of Auditory Cues in Modulating the Perceived Crispness and Staleness of Potato Chips"

○平和賞:「植物にも人間と同様に尊厳がある」ことを法的に定めた、スイスの人間以外の生物工学に関する連邦倫理委員会とスイス国民。

○考古学賞:考古学の発掘現場付近に生息するアルマジロが、発掘品をより深く埋めたり持ち去ったりすることで、発掘現場がメチャクチャになるだけではな く、歴史が変わってしまう可能性があることを示した、ブラジル・サンパウロ大学のAstolfo G. Mello AraujoとJosé Carlos Marcelino。
論文: "The Role of Armadillos in the Movement of Archaeological Materials: An Experimental Approach"

○生物学賞:「イヌに寄生するノミは、ネコに寄生する個体よりも、より高く飛ぶことができる」ことを発見した、フランス国立トゥールーズ獣医大学のMarie-Christine Cadiergues、Christel Joubert、Michel Francの3氏。
論文:"A Comparison of Jump Performances of the Dog Flea, Ctenocephalides canis and the Cat Flea, Ctenocephalides felis felis"

○医学賞:「高価な偽薬(プラセボ)は安価な偽薬よりも効果が高い」ことを確認した米デューク大学のDan Ariely行動経済学教授。
「何かを期待すれば、人間の脳はそれを実現させるよう働く」と述べ、価格が安い後発医薬品「ジェネリック医薬品」も、名前と値段を変えれば高い効果が上がると主張している。
論文: "Commercial Features of Placebo and Therapeutic Efficacy"

○経済学賞:プロのストリッパーの排卵周期が、チップ収入に影響を与えることを発見した米ニューメキシコ大学のGeoffrey Miller、Joshua Tybur、Brent Jordanの3氏。
ストリッパーが最も稼ぐのは、生殖能力が最も高い時期であるという。
論文: "Ovulatory Cycle Effects on Tip Earnings by Lap Dancers: Economic Evidence for Human Estrus?"

○物理学賞:大量の糸や髪の毛は、外部要因がなくとも必ず絡まることを数学的に証明した、スクリップス海洋研究所のDorian Raymerと、米カリフォルニア大学サンディエゴ校のDouglas Smith。
論文:"Spontaneous Knotting of an Agitated String"

○化学賞:「コカ・コーラの避妊効果」についての研究で、ボストン大学医学部のDeborah J. Anderson 教授ほか、ならびに台湾の台北医科大学の研究グルー プ。
アンダーソン教授らはコーラが避妊薬として利用されていたことから研究に着手。その後、エイズウイルスの感染を防ぐ効果もあることも突き止めたと している。特にダイエット・コークの避妊効果が最も高かったという。
論文: "Effect of 'Coke' on Sperm Motility"

台北医科大学の研究は「効果がない」と、全く正反対の結果となっている。
論文: "The Spermicidal Potency of Coca-Cola and Pepsi-Cola"

○文学賞:「バカ野郎:物語的手法を用いた、組織内で経験した憤慨についての分析」研究で、英カス・ビジネス・スクールのDavid Sims。
論文: "You Bastard: A Narrative Exploration of the Experience of Indignation within Organizations"

参考  2006/10/13 ノーベル賞とイグ・ノーベル賞  

     2007/10/8  2007年イグ・ノーベル賞  


2008/10/6 EU、パラフィンワックスのカルテルで制裁金

EUの欧州委員会は101日、European Economic Area (EEA)パラフィンワックスの価格カルテルを結び、市場を分割していたとして、石油化学会社9社に合計676百万ユーロの制裁金支払いを命じた。

摘発された企業と制裁金(千ユーロ)は以下の通り。

Sasol はリーダーとして制裁金 50%増し、ENIShell は重犯で60%増しとなった。
但し、
Shellは自主申告したため、制裁金を免除された。
Sasol, RepsolExxonMobil は調査協力で制裁金を一部免除された。

  自主申告・協力
での免除
 制裁金  
免除率 免除額
Sasol, South Africa and Germany   50%  318,200  318,200 リーダーとして50%増し、調査協力で50%カット
Shell, UK/The Netherlands  100   96,000      0 重犯で60%増し、自主申告で制裁金免除
Total, France      128,163  
ExxonMobil, USA   7   6,291.6   83,588.4  
RRWE, Germany       37,440   
ENI, Italy       29,120 重犯で60%増し
Hansen & Rosenthal, Germany       24,000  
MOL, Hungary       23,700  
Repsol, Spain   25   6,600   19,800  
Tudapetrol, Germany       12,000  
TOTAL      676,011.4  

パラフィンワックスはキャンドルから紙カップ、紙皿、チーズのコーティング、タイヤ、チューインガムなど、いろいろな用途があり、EUでは欧州でほとんどの家計がこのカルテルの影響を受けているとしている。

EUはこのカルテルで被害を受けた個人又は企業は、各国の裁判所に損害賠償の訴えをすることができると述べている。

EUによると、Shell 内部ではカルテルは "paraffin mafia" と呼ばれ、Sasol では会合が行なわれるハンブルグのホテルのバーの名前をとって "Blauer Saloon (Blue Saloon) " と呼ばれていた。
EUでは、各社は違法行為であることを認識していたとしている。

カルテル活動は1992年から2005年の間に行なわれ、2005年にシェルからの内報で調査が行なわれた。

EUでは、この制裁金は過去4番目の大きさのもの。

@エレベーターカルテル(2007年) 992.3百万ユーロ
   2007/2/28 
EU、エレベーターのカルテルで過去最高の罰金 

Aビタミンカルテル(2001年) 790.5百万ユーロ(当初は855.2百万ユーロ、2社減額)

   
Hoffman-La Roche (462百万ユーロ)BASF(296.16236.8)Aventis(5.04)
   
Solvay Pharmaceuticals(9.1)Merck(9.24)
    武田薬品工業
(37.05)、エーザイ(13.23)、第一工業製薬(23.418)

   *米国でも課徴金

B電力用ガス絶縁開閉装置(2007) 750.5 百万ユーロ
   
2007/1/26 EU、電力用ガス絶縁開閉装置のカルテルで1200億円の制裁金

ーーー

Sasol では制裁金が多額であることに驚き、理解できないとして、第一審裁判所に控訴するとしている。

同社は1995年にSchümann group のワックス事業の共同経営者となり、20027月に買収で100%所有としたが、20054月にEUが調査を開始するまで、カルテルの存在を知らなかったとしている。
調査にも協力し、制裁金の
50%カットを受けている。

ENIも、EUは同社の関与が限定的、短期的であることを認めているとし、控訴するとしている。


2008/10/7 サリドマイド、年内にも発売へ 

厚生労働省の薬事分科会は10月3日、深刻な薬害を引き起こした催眠鎮静薬「サリドマイド」をめぐり、血液がんの一つ「多発性骨髄腫」の治療薬として、安全管理を徹底することを条件に販売再開を認める決定を舛添要一厚生労働相に答申した。

10月中旬には厚生労働相が承認し、薬価基準の手続きを経て、「再発または難治性の多発性骨髄腫」の治療薬として製造販売される予定で、46年ぶりの発売再開となる。

付記 

舛添厚生労働相は10月16日、サリドマイドを多発性骨髄腫の治療薬として承認した。

 

申請者は藤本製薬で、サリドマイド製剤の販売名は「サレドカプセル100」。

藤本製薬
  本社 大阪府松原市
  創業 昭和8年8月
  資本金 3億円
  株主 同族
  取扱品目 医療用医薬品
    ・持続性癌疼痛治療剤   ・便秘治療剤   ・経口胆石溶解剤・疼痛性アレルギー性疾患治療剤  
・胃炎、消化性潰瘍治療剤   ・血管拡張剤  
     
 * ピップフジモトとは別の会社。

この日の分科会では、
(1)使用する医師や薬剤師、患者を登録するなどとした「サリドマイド製剤安全管理手順」の順守
(2)妊婦の服用を避けるため、医師による患者やその家族への十分な説明
(3)製造販売後、一定数のデータが集まるまで、全症例を対象にした使用成績調査とその結果の公表――
などが、条件として示された。
国にも、副作用被害の救済制度の徹底や、個人輸入によって取り寄せられた場合の管理体制づくりを急ぐように求めた。

多発性骨髄腫の患者は国内に約1万4000人いるが、登録できるのはこのうち、再発性・難治性の患者。

ーーー

サリドマイドは「イソミン」の商品名で大日本製薬(当時)が1958年に発売。「安全な」睡眠薬として開発・販売されたが、妊娠初期の妊婦が用いた場合に催奇形性があり、四肢の全部あるいは一部が短いなどの独特の奇形をもつ新生児が多数生じた。

サリドマイドは一般名で、化合物名は3'-(N-フタルイミド)グルタルイミド。
無水フタル酸とアミノグルタルイミドの縮合反応により合成できる。
分子の中に一箇所 不斉炭素を持ち、R体とS体の鏡像異性体が存在する。

開発された当時の技術では分離が難しく、等量のR体とS体が混ざったラセミ体として発売された。
後に、R体は無害であるがS体は非常に高い催奇性をもっており、高い頻度で胎児に異常をひき起こすこと、さらに流産防止作用もあるとの報告があった。
但し、R体のみを使用しても比較的速やかに生体内でラセミ化することが分かっている

日本においては、諸外国が回収した後も販売が続けられ、この約半年の遅れの間に被害児の半分が出生したと推定されている。
大日本製薬と厚生省は、西ドイツでの警告や回収措置を無視してこの危険な薬を売り続けた。

19741013日、全国サリドマイド訴訟統一原告団と国及び大日本製薬との間で和解の確認書を調印、続いて26日には東京地裁で和解が成立した。以後、1112日までの間に、全国8地裁で順次和解が成立した。(企業と国の負担比率は2:1)

ーーー

1965年にイスラエルの医師がハンセン病患者に鎮痛剤としてサリドマイドを処方したところハンセン病特有の皮膚症状の改善がみられた。
ブラジルや米国で
ハンセン病治療薬として認可された。

さらに、1990年代に入り、血液がんの一つの多発性骨髄腫への有効性が認められ、米国など17カ国では承認されている。

米国では1986年にCelenaseより分社化したCelgene Corporation が、Thalomid のブランドで、ハンセン病のらい性結節性紅斑および多発性骨髄腫の治療薬として販売している。

日本でも医師が個人輸入して使うケースが増え、血液がん患者らが早期承認を求めていた。

個人輸入によりどれだけの量が輸入されたのか把握するのは難しく、患者に処方したサリドマイドの一部が未回収のまま自宅などに残されているという問題がある。これを放置しておけば再び被害が出ないとも限らない。

厚生労働省薬事・食品衛生審議会は、2005年1月21日、藤本製薬による申請を受けて、サリドマイドを、国が開発を支援し、助成金や優先的な承認審査などの優遇措置がある「希少疾病用医薬品(orphan drug)」に指定した。

藤本製薬は2005年8月からサリドマイドを多発性骨髄腫の治療薬として、治験を開始、2006年8月8日厚生労働省に製造販売の「承認申請」を行った。

厚労省の薬事・食品衛生審議会の医薬品部会が本年8月27日開かれ、多発性骨髄腫の治療薬としてのサリドマイド有効性と安全性を審議、安全対策の徹底などを条件に、「承認しても差し支えない」との結論をまとめた。
承認の条件を付けた上で、「サリドマイドは社会的関心の極めて高い医薬品」として、審査報告書を公開し、一般からの意見募集を実施したうえで、薬事分科会にかけた。

 


2008/10/7 WTI原油価格、90ドル割れ

世界で株安が加速し、10月6日のニューヨーク株式市場でダウ工業株30種平均が終値で 9955.50ドルとなり、1万ドルを割ったが、金融市場の混乱に出口が見えない中、WTI原油先物も石油需要の後退観測を背景に売りが続いた。

6日のNY原油先物の終値は87.81ドル/バレルと、先週末比で6.07ドル(6.47%)のマイナスとなった。
4日連続の下落で、90ドル割れは2月7日以来となる。

東京市場ドバイ原油も82.55ドル/バレルとなった。


2008/10/8 Solvay、フランスの水銀法電解をイオン交換膜法に転換 

Solvay 9月29日、55百万ドルを投じて、フランスのTavaux 工場の塩素工場の水銀法設備をイオン交換膜法に転換すると発表した。
節電効果と環境負荷の減少を狙うもので、2010
末に完成する。能力は変更しない。

 

日本では水俣病問題を受け、1973年4月に通産省がソーダ業界に非水銀法への転換を要請、1986年までに隔膜法やイオン交換膜法にすべて転換された。隔膜法苛性ソーダ は品質が悪く、コストも高いという欠点があったため、当時新しい技術として注目されていたイオン交換膜法の技術開発に業界をあげて取り組み、1999年には日本の製法はすべてイオン交換膜法になった。

このため、今頃 何だとの感じがする。
しかし、欧州では今も多数の水銀法プラントが稼動している。

ECは2002年7月に塩素業界に対し、水銀排出の自己規制システム導入を要請したが、当時の水銀法能力は600万トンで、全生産量の54%を占めていた。

欧州の塩素の業界団体Euro Chlor は20032月の総会で、2020年までに水銀法の能力を全廃する目標を決めた。

2007年にイオン交換膜法の能力は初めて水銀法能力を上回った。

  イオン交換膜法 45.6%
  水銀法 37.7%
  隔膜法 13.6%
  その他  3.1%

        

欧州の現在の塩素能力は以下の通りで、Solvayのほか、BASFBayerAkzo NobelINEOS ChlorVinyls などもまだ、水銀法プラントを持っている。(ソース:Euro Chlor

製法
: Hg: MercuryM: MembraneNa: Sodium
   
D: Diaphragm (隔膜法)、HCI: Electolysis of HCI to Cl2

社名 立地 製法 千トン
Austria Donau Chemie Bruckl M   65
Belgium SolVin Antwerp Hg, M   474
Jemeppe M   176
Tessenderlo Chemie Tessenderlo Hg, M   400
Bulgaria Polimeri Devnya D   124
Czech Rep. Spolana Neratovice Hg   135
Spolchemie Usti Hg   61
Finland AkzoNobel Oulu Hg   43
Finnish Chemicals Joutseno M   75
France PPC Thann Hg   72
Rhodia Pont de Claix D   155
Arkema Fos D, M   270
Jarrie Hg   170
Lavera Hg, D   341
MSSA Pomblieres Na   42
Prod. Chim. d'Harbonnieres Harbonnieres Hg   23
Solvay Tavaux Hg, M   375
Tessenderlo Chemie Loos Hg   18
Germany BASF Ludwigshafen Hg, M   385
Bayer Dormagen M, HCl   480
Leverkusen M, HCl   360
Uerdingen Hg, M   240
Brunsbuttel HCl   210
Dow Schkopau M   250
Stade D, M 11,585
Vinnolit Knapsack Hg, M   310
CABB Gersthofen M   40
AkzoNobel Ibbenburen Hg   125
Bitterfeld M   83
Evonik Degussa Lulsdorf Hg   136
INEOS ChlorVinyls Wilhelmshaven Hg   149
LII Europe Frankfurt Hg   167
Solvay Rheinberg D, M   200
Vestolit Marl M   260
Vinnolit Gendorf Hg   82
Wacker Chemie Burghausen M   50
Greece Hellenic Petroleum Thessaloniki Hg   40
Hungary BorsodChem Kazincbarcika Hg, M   301
Ireland MicroBio Fermoy M    9
Italy Altair Chimica Volterra Hg   27
Solvay Bussi Hg   87
Rosignano M   150
Caffaro Torviscosa Hg   68
Syndial Assemini/Cagliari M   153
Porto Marghera Hg   200
Eredi Zarelli Picinisco Hg    6
Tessenderlo Chemie Pieve Vergonte Hg   42
Netherlands AkzoNobel Botlek M   633
Delfzijl M   108
SABIC GE Plastics Bergen op Zoom M   89
Norway Borregaard Sarpsborg M   45
Elkem Bremanger M   10
INEOS ChlorVinyls Rafnes M   260
Poland PCC Rokita Brzeg Dolny Hg   125
ZACHEM Bydgoszcz D   60
Anwil Wloclawek M   214
Tarnow Tarnow Hg   43
Portugal Solvay Povoa M   29
CUF Quimicos Industriais Estarreja M   68
Romania Oltchim Ramnicu Valcea Hg, M   260
ChimComplex Borzesti M   110
Slovak Rep. Novacke chemicke zavody Novaky Hg   76
Slovenia TKI Hrastnik Hrastnik M   15
Spain Ercros Huelva Hg   101
Sabinanigo Hg   25
Vilaseca Hg, M   190
Flix Hg   150
Electroquimica de Hernani Hernani M   15
ELNOSA Lourizan Hg   34
Quimica del Cinca Monzon Hg   31
SolVin Martorell Hg   218
Solvay Torrelavega Hg   63
Sweden AkzoNobel Skoghall M   95
INEOS ChlorVinyls Stenungsund Hg   120
Switzerland SF-Chem Pratteln Hg   27
Borregaard Atisholtz M   10
UK INEOS ChlorVinyls Runcorn Hg, M   767
Albion Thetford M    7
TOTAL       13,209

Euro Chlor メンバー以外も含む


2008/10/9  帝人、「ボトルtoボトル」リサイクルを休止

帝人グループは、世界に先駆けて開発したポリエステル製品のケミカルリサイクル技術により、200311月より使用済みペットボトルから新たなペットボトル用樹脂を再生する「ボトルtoボトル」リサイクルを展開してきたが、使用済みペットボトルが入手困難な状況になってきた等の理由から、「ボトルtoボトル」リサイクルを休止する。

ーーー

ペッ トボトルのリサイクルは、容器包装リサイクル法(容リ法)により、各自治体によって回収された使用済みペットボトルが容器包装リサイクル協会(容リ協)の運営による入札制度により、当初は処理委託費付きで再商品化事業者に割り振られた。

その後、中国をはじめとして使用済みペットボトルの需要が急増して、容リ協を介さない独自ルートで有価取り引きされるようになり、2006年度からは容リ協の入札においても有価で割り振られる状況となった。
これに伴い、使用済みペットボトルは入手困難な状況になっており、同社は本年は、容リ協の入札において落札することができなかった。

他方、 国内におけるペットボトル用樹脂の年間需要約60万 トンの過半を占める非耐熱ボトル(無菌充填に使用)用樹脂は輸入品が主体であり、逆に国産品中心の耐熱ボトル(高温充填に使用)用樹脂の需要は漸減している。
昨今の原燃料価格高騰も加わり、ペットボトル用樹脂の事業環境は非常に厳しく なっている。

ーーー

帝人グループでは帝人ファイバーが、
 徳山事業所で「ボトル
toボトル」リサイクル(PETボトル62千トン→PETレジン50千トン)
 松山事業所で購入TPAによるPETレジン生産(40千トン)
 松山事業所で「繊維to繊維」リサイクル(処理能力10千トン)
を行なっている。
(PETレジン販売は帝人化成が担当)

徳山事業所の「ボトルtoボトル」リサイクルの工程は以下の通り。
 
TPA回収工程
   ・使用済みペットボトルから
DMT:テレフタル酸ジメチルおよびEG:エチレングリコールを回収。
   ・その
DMTをペットボトル用樹脂の原料として最適なTPA(高純度テレフタル酸)に変換。
 
PET製造工程
  ・TPAと
EGを反応させてペットボトル用樹脂を生産。

今回、徳山事業所でのTPA回収工程を休止する。
(昨年度の未処理分約
4,000トンを6月までにリサイクルし、本年度の「ボトルtoボトル」による樹脂生産は終えている。)
この設備は、「ボトル
to繊維」リサイクル(松山事業所)への転活用を図る。

徳山(50千トン)と松山(40千トン)に分かれているPETレジン生産を徳山に統合し、併せて銘柄の統廃合なども行う。
徳山では原料をリサイクルTPAから購入TPAに切り替える。

ーーー

同社のPET製品リサイクルの歩みは以下の通り。

1958 ポリエステル繊維生産開始からまもなく、製造工程で発生する繊維屑を化学的に分解して原料に戻すケミカルリサイクルを開始。
1995 PETボトルリサイクル繊維「エコペット」(再生ポリエステル短繊維)を製造・販売開始。
1996 「エコペット」の本格展開を開始。
1999 ポリエステル繊維製品リサイクルで長繊維「エコペットプラス」の製造・販売を開始。
2000 「ボトル to ボトル」リサイクルの技術を確立。
2002 徳山事業所で「ボトル to ボトル」リサイクル操業開始(回収PETボトル30千トン→PETレジン24千トン)
徳山事業所で「繊維to繊維」の展開を開始(処理能力10千トン)。
2003 徳山事業所 「ボトル to ボトル」リサイクル 本格事業化(回収PETボトル60千トン→PETレジン50千トン)
PETレジン能力は松山の40千トンと合わせ90千トンに。
2004 徳山事業所の「繊維to繊維」を繊維事業のある松山事業所に移転、同所の繊維屑等のリサイクル設備(遊休)も活用。

 


2008/10/10 FAOのバイオ燃料評価 

国連食糧農業機関(FAO)は107日、2008年版の食糧農業報告(The State of Food and Agriculture 2008)を発表した。

これについて、全く異なる報道がなされた。

日本経済新聞は「バイオ燃料をFAOが肯定 長期的には農業振興」のタイトルで、以下の通り報じた。

(FAOは)「短期的には食糧の不足を招く可能性があるが、長期的には農業と地域の振興につながる」と肯定的な見解を示した。

FAOは「バイオ燃料は食糧価格を上昇させている数ある要因の1つ」とし、アフリカ諸国などが唱える"主犯説"を否定した。同時に食糧から生産するばかりではなく「木材の繊維質などから取り出す次世代バイオ燃料の開発が重要」と訴えた。

これに対して共同通信は「バイオ燃料生産見直しを  FAO、温暖化防止に疑問」と報じた。

(FAOは)バイオ燃料について、地球温暖化防止効果は予想以下で、石油など化石燃料を代替するほどの生産も見込めないなどとして、生産拡大のための補助金支出や税制面の優遇策を見直すよう各国に求めた。

温暖化防止効果について、報告書は同燃料の原料となるトウモロコシやサトウキビ栽培のために草原や熱帯雨林が伐採されることで、逆に二酸化炭素(CO2)の吸収が阻害されると指摘。

さらに、栽培のため使われる化学肥料や殺虫剤の生産、作物輸送などが温室効果ガス発生源になっており、結果的に化石燃料より同ガスを多く発生する場合があるとした。

FAOは食糧農業報告の概要を以下のように説明している。
報告本文は 
http://www.fao.org/docrep/011/i0100e/i0100e00.htm

Biofuels にはopportunities risks がある。国や採用政策により異なる。
現在の政策は先進国の生産者に有利となっているが、リスクを減らし、メリットを広めることが必要。

Biofuel 生産は2000年から2007で3以上になったが、世界の輸送用燃料の2%にしかならない。
今後も食用の砂糖、とうもろこし、オイルシード等への需要は増え、食品価格上昇のプレッシャーとなる。

Opportunities for the poor
先進国の農業補助金、Biofuel 補助金、貿易障害などが途上国の生産者の犠牲で人為的市場をつくり、先進国の生産者を利しているが、これらが取り除かれ、途上国の生産者がメリットを受けるなら、農村開発に役立つ。

化石燃料との混合比率をきめる法律や、税優遇策なども経済的、社会的、環境的コストとなり、再検討すべきだ。

Food security
Biofuel
の需要増大とその結果の農産品価格の上昇は途上国にとり重要な好機である。
Biofuel 用農産品の生産は所得と雇用を生み、貧しい農民の農地拡大、市場へのアクセスを支援する。

しかし、食料安保への懸念も大きい。食糧価格上昇は既に輸入食糧に依存する途上国にマイナスの影響を与えている。
「人類を飢えから救うという究極の目的を守る努力が必要である」

Greenhouse gases
環境面からみて、バランスはプラスではない。
Biofuel の使用、生産の増大は以前に想定されていたほど温室効果ガスを下げていない。

土地利用の変化(農地拡大のための森林伐採など)は土地の質、生物学的多様性、温室効果ガスへの脅威となる。

Second generation
木材、高草イネ科植物、木材・植物の残渣等を利用する次世代biofuels は化石燃料と温室効果ガスのバランスを改善しよう。

この研究開発に金をかけるべきだ。


2008/10/11 中国PTA最大手 浙江華聯サンシャイン石化、経営危機?

China Union Holdings (華聯発展集団)は10月7、同社が26.4%を所有するPTAメーカー 浙江華聯サンシャイン石化 (Zhejiang Hualian Sunshine Petrochemicals) が生産を停止しており、リストラを検討していることを明らかにした。

Shanghai Securities News 10月6日、サンシャイン石化が資金不足に陥り、支払不能の可能性があると報じた。
鄭州商品取引所での先物取引で
PTAの先物を大量に買い、大きな損を出した。10万トン以上の現物を買い取る羽目になり、資金不足になったという。

Platts によると、9月中旬に現物を引き取らざるを得なくなり、計算では支払額は1億ドルを超えるという。

China Union はサンシャイン石化に対し、この報道についての情報を求めている。

生産停止が長期に亘るのか、株主が資金を出して早期に生産を再開するのか、いろいろな情報が飛び交い、市場は混乱している。

ーーー

浙江華聯サンシャイン石化(Hualian Sunshine PetroChemical)は20033月にChina Union HoldingsZhejiang Zhanwang Holding (Group)Zhejiang Gabriel Holding (Group)により設立された。

紹興市の北にある紹興県 斉賢工業園区(Binhai Industrial Zone) にプラントを持つ。

同社は2007年に同社の3基目の60万トンPTAプラントを稼動させた。
2005年4月に最初の60万トンプラント、2006年10月に第2基60万トンがスタートしており、合計能力はこれで180万トンとなり、中国最大のPTAメーカーとなった。

    2007/2/15  中国のPTAと原料パラキシレンの状況 

中国の化学繊維の不振により、PTAの価格は過去2年低水準にあり、エネルギー価格高騰もあって中国のPTAメーカーは赤字に苦しんでいる。
サンシャイン石化は2007年に960百万人民元の赤字を出した。

アジアのPTAメーカー各社は適正価格を確保していけなくなり、相次いで減産を行なっている。

不動産事業が中心のChina Union ではサンシャイン石化の赤字の影響を減らすため、本年8月にサンシャイン石化の増資の引受を断り、出資比率を35%から26.4%に減らした。

 

PTA価格の値下がりが予想されるなか、サンシャイン石化が何故、大量の先物の購入取引をしたのか、分からない。

 

付記

10/16のShanghai Securities News は、サンシャインが15億人民元(220百万ドル)の資金援助を受けると伝えた。
10億人民元を Jiangsu Huaxi Group 5億人民元を斉賢工業園区投資会社が出す。また、地方政府も全面支援するとしている。


2008/10/11  株と原油、暴落

金融危機のひろがりを受けて世界中で株安となっている。

10日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、8営業日続落し、2003年4月以来、5年半ぶりの安値水準となる8451.19ドル(前日比128.00ドル安)で取引を終えた。
朝方は5年半ぶりに8000ドルを割り込んで、7882ドル51セントまで下がった。

日経平均は7日続落、10日の終値は8276円43銭と5年4ヶ月ぶりの安値となった。

景気後退懸念が膨らむ中、原油需要減少観測が根強く、ニューヨーク先物市場のWTI原油価格は前日比8.89ドル(10.27%)下落し、終値は77.70ドル/バレルとなった。

WTI原油は本年初日(1月2日)に一時100.00ドルと、史上初めて100ドルを超え、7月11日には一時147.27ドルを記録した。
その後は急落している。

本年の年初来の平均は112.6ドルとなっている。

2003年からのWTI原油価格の推移は以下の通り。(週末価格)

10日の東京市場でも、ドバイ原油は7月4日の過去最高値 140.60ドル/バレルから72.75ドルに、オープンスペックナフサも7月4日の過去最高値 1248ドル/トンから632ドルへ、いずれもほぼ半減している。

 


2008/10/13 BASFの重慶MDI計画,進展か

BASFはHuntsman 及び中国側とのJVで上海にイソシアネート・コンプレックスを建設した。
同コンプレックスは次の3つのJVから成っており、2006年に稼動した。

2006年1月にBASFは上海イソシアネート・コンプレックス参加各社が中国で新しいMDIプラントの建設を考えていると発表した。

能力はワールドスケールの40万トンで、2010年頃の完成を目指し、いくつかの場所を評価しているとした。

2007年6月、BASFは新しいMDIプラントを重慶に建設することを検討していると発表した。
同社は
Chongqing Chemical and Pharmaceutical Holding (Group) Company (重慶化醫集團)及び地方政府との間で協力契約を締結した。
今後、この場所の競争力について詳細評価を行なうとした。

能力は40万トンで、2010年完成を目指している。
JVパートナーは決まっていないとした。
(この時点でこういう発表をしたのは、上海イソシアネート・コンプレックス参加各社は入らないように思われる)

BASFのTDI、MDIについては 2006/11/27 BASFとダウ、欧州で共同でTDIプラント建設のFS実施 

ーーー

重慶化醫集團は三菱ガス化学の重慶メタノール計画のパートナー。

三菱ガス化学 51%、重慶化医 49%出資で JV を設立し、天然ガス原料で公称能力85万トンのメタノールプラント建設を建設する計画であった。

2007年12月に定礎式が行なわれたが、進展しておらず、計画取り止めの可能性が強い。

2008/1/11  重慶ケミカルパークのメタノール事業 

ーーー

その後、BASFからは本件について何の発表もないが、
China Chemical Reporter は最近、以下を伝えた。

重慶化醫集團(2007年6月にBASFが重慶計画に関して協力契約を締結した相手)が8月29日に、主に上記のMDI計画の原料供給のために、4製品の建設開始の式典を行なった。

55億人民元を投じて、次のプラントを建設する。(それぞれ子会社を設立) 

・クロルアルカリ   30万トン  Tianyuan Chemical (天原化学)  (塩素、苛性ソーダ)
・フォルムアルデヒド  40万トン  Changfeng Chemical (長風化学) (原料はメタノール、
KingBoard Chemica
l
が重慶で生産している)
・硫酸  40万トン  JianfengChemical (建峰化学)  
・クロロプレンゴム    4万トン  Changshou Chemical (長壽化学) (原料は塩素、ブタジエン)

 

付記

BASFは
2009年1月12日、中国環境保護省から重慶ケミカルパークでのMDI計画の環境承認を取得した。
ニトロベンゼン400千トン、アニリン300千トン、粗MDI 400千トンと精製設備、MDI pre-polymer 20千トン、貯蔵設備、ユーティ
を建設する。

環境保護省の情報では、今回BASFは単独で実施する。

---

BASF2011325日、中国政府から認可を取得したと発表した。

投資額は860百万ユーロで、2014年にスタートの予定。立地は重慶長壽化学工業区。

付記

2009年3月の報道では、上海のERM (Environment Resource Management) はHuntsmanが上海でのMDI 増設のFSを実施していることを明らかにした。

現状の24万トン(BASFとのJV)を48万トンに増設、16万トンの精製(Huntsman)を40万トンに増設するとのこと。

前者の24万トン増設をJVとしてやるのか、単独でやるのかは不明。

 

MDIの製法は以下の通りで、原料として上記のうち、硫酸、フォルムアルデヒド、塩素を使用する。

ベンゼン+硫酸→ニトロベンゼン→アニリン
 アニリン+
フォルムアルデヒド(ホルマリン)→MDA (methylene dianiline)

塩素+CO→ホスゲン

MDA +ホスゲン→MDI+塩酸

 ーーー
 参考 TDIの製法

トルエン→ジニトロトルエン→トルイレンジアミン(TDA)

TDA + ホスゲン→TDI+塩酸


参考 

東ソーは日本ポリウレタン工業を子会社化し、ビニルチェーンの塩素をMDIに供給、副生塩酸をEDC原料とするビニル・イソシアネート・チェーンをつくった。

但し、重慶にはエチレンがないため、重慶化醫集團はエチレン法PVCはやらないと思われる。



2008/10/14 ノーベル化学賞に下村脩さん

スウェーデンの王立科学アカデミーは10月8日、今年のノーベル化学賞を下村脩・米ボストン大学名誉教授(80)=米マサチュー セッツ州在住=と、Martin Chalfie 米コロンビア大学教授(61)、Roger Y. Tsien 米カリフォルニア大学サンディエゴ校教授(56)の3人に贈ると発表した。授賞理由は、「緑色蛍光たんぱく質(GFP)の発見と開発」。
賞金1000万クローナ(約1億4000万円)は3人で等分する。

下村さんは、オワンクラゲの発光の仕組みを解明する過程で、緑色蛍光たんぱく質(GFP)を分離し、その構造を解明した。
GFPは、細胞内で動く分子を追跡する便利な「道具」として世界中で使われている。
たんぱく質は、酵素など別の物質の助けがなければ光らないという当時の常識を覆す革新的な成果だった。

Chalfie教授は、GFPを線虫などほかの生物の体内で光らせることに成功、さまざまな生理学的現象に応用できることを示した。

Tsien教授は、GFPの発光メカニズムについて詳しく研究し、緑色以外の色にも発光するような手法を開発、赤色や黄色などの色に光るたんぱく質をつくった。

ーーー

下村さんの生物発光との出合いは名古屋大の研究員時代、教授の薦めで甲殻類のウミホタルを研究したのがきっかけ。
米プリンストン大が20年かけてもできなかった発光成分の結晶化にわずか1年で成功、頭角を現した。

1961年に「オワンクラゲ」が放つ光の謎を突き止めるため、留学先の米プリンストン大から実験器具を車に積み込み、シアトル北部の臨海実験所へ向かった。

オワンクラゲは、おわん形の傘(直径10〜20cm)の縁が緑色に光る。

ホタル、深海魚、微生物などの生物の発光現象は
Luciferin という発光物質と酵素の反応で起きる。
このため無数のクラゲを網で捕獲し、体内の
Luciferin を抽出しようと実験を繰り返したが、見つからない。

Luciferinにこだわらず、何でもいいから光る物質を抽出しよう」という非常識な提案を教授は認めなかったが、自分で勝手に新しい実験を始めた。

発光物質を取り出すためには、光らない状態にしておく必要がある。(光った後では、その物質は分解されてしまう)
さまざまな薬剤を使って試したが、失敗の連続だった。

「生物の発光だから、タンパク質が関係しているはず。それならpH が影響するのではないか」と考え、実験したところ、溶液を酸性(pH4)にすると光らなくなることが判明。
気をよくして溶液を流しに捨てた瞬間、「流しの中がバーッと爆発的に青く光った」。実験所の流しには普段から海水が流れ込んでおり、海水中のカルシウムイオンと反応して強く光った。

この物質はオワンクラゲの学名(Aequorea victoria)にちなんで「イクオリンaequorin 」と命名した。

しかし、イクオリンは青色なのに、オワンクラゲはなぜ緑色に光るのか。
イクオリンを精製した際、緑色に輝く微量の副産物を見つけ、捨てずに分析を続けた。
その正体が緑色蛍光タンパク質(
Green Fluorescent Protein)で、青い光のエネルギーを受け取り、緑の光を放出していることを突き止めた。

イクオリンは、カルシウムと結合し、自らつくり出したエネルギーで青く光る。
GFPはこの時の発光エネルギーを奪って緑色に光る。

 

(この項は2008.1.14 産経ニュース 【知の先端】による)

ーーー

当初はGFPは 「美しいだけが取りえで、何の価値もない物質であり、応用なんて全く考えていなかった」。

しかし、GFPはタンパク質だけで自ら発光するため、生体内で作り出せる特徴があり、1994年にChalfie教授らが、ほかの生物の体の中でGFPを光らせることに成功し、医学研究に使えることが初めて明らかになった。

調べたいタンパク質の遺伝子に、GFPの遺伝子を融合させると、その蛍光が目印になり、目的のタンパク質が細胞内のどこに存在し、どのように運ばれるのかといった分布や挙動が、一目で分かるようになった。

がん細胞なら転移や増殖するかどうか、アルツハイマー病なら神経細胞がどうやって壊れていくのか、糖尿病なら膵臓の細胞がどのように血糖値を下げるインスリンを出しているかなどが分かる。

iPS細胞を世界で初めて作製した京都大学の山中伸哉教授も、GFPの目印を付けた4個の遺伝子を皮膚の細胞に入れ、GFPを手掛かりにいろいろな細胞に育つ「万能性」を持つかどうかを見極めた。
慶応大学の岡野栄之教授も万能細胞の一つの胚性幹細胞(ES細胞)から運動にかかわる神経伝達物質ドーパミンを作る細胞だけをGFPで光らせ、効率よく選ぶ手法を開発した。

ーーー

下村さんは2001年に米ウッズホール海洋生物研究所を退職後も自宅に研究室を移し、妻と研究を続ける。

研究テーマはもちろん生物発光。「次は光るキノコ。光る理由が分かっていないし、難しくて誰もやろうとしないから。人がやらないことをやるんですよ」という。

 

下村脩さんは1928年8月、京都府生まれ。1952年、長崎医科大付属薬学専門部(現長崎大薬学部)卒。助手を経て60年、名古屋大で理学博士号を取得、米プリンストン大研究員、名古屋大助教授などを経て、81年、米ボストン大客員教授、82年、米ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員。2001年、同研究所退職。

2006年度の朝日賞を受賞している。

米マサチューセッツ州で妻と2人暮らし。子供は1男1女。

なお、長男の下村務氏はコンピュータセキュリティ専門家で、有名なハッカーのKevin Mitnick の逮捕に関わった。
ケビンと下村の対決は、『ザ・ハッカー』(原題:Takedown)のタイトルで映画化されている。  


2008/10/14  週明け10月13日のニューヨーク市場

先週末に株価も原油価格も大暴落したが、週明けはいずれも上昇した。

先週末以降明らかになった各国の金融市場の安定化に向けた対策を好感した買いが入り、13日の米株式市場は9営業日ぶりに大幅反発し、ダウ工業株30種平均終値は9,387ドル61セントとなった。

これを受けて13日のニューヨーク原油先物相場のWTI原油の終値も先週末比3.49ドル高の81.19ドル/バレルとなった。
この日の高値は82.52ドル、安値は79.45ドルであった。

東京市場の原油、ナフサは祭日で取引なし。



2008/10/15 HexionHuntsman、合併へ更に進む

既報の通り、9月29日、デラウエア州裁判所は、Hexion が買収契約を破棄できるかどうかを決める裁判Huntsman 勝訴の決定を下した。

Huntsman はまた、買収資金を供給する契約を結んでいたCredit Suisse Deutsche Bank を訴えたが、9月30日、テキサス地裁は、裁判の結果が出るまでに両行が融資契約を打ち切れば、取り返しのつかない害を与えるとして緊急差し止め命令を出した。

    2008/10/2 HuntsmanHexion に勝訴  

ーーー

Huntsman は1014Hexion との合併に関し、裁判でまた勝利したと発表した。

108に始まり14日に終わった裁判で、銀行側はHuntsman には銀行に対する差し止め救済を求める権利はないと主張した。
しかし
判事は、Hexion/Huntsman の合併会社が支払不能になるとか、借入金を返済できないだろうとかを主張する裁判を銀行が起こすことを禁止するのが妥当であるとし、Huntsman の要望に応じ、緊急差し止め命令(10月8日まで)を11月1日までの差し止め命令に置き換えた。

Huntsman Apollo Management ほかに対して 30億ドルの損害賠償(+懲罰賠償、弁護士費用、金利)を求めており、更に銀行に対しては両行が Apolloと組んで、買収契約も邪魔し、自らの利益のためにHuntsmanの権利を侵害したとして訴えている。

今回、判事はこの2つの裁判を合わせ、裁判期日を来年2月9日に設定、陪審裁判を始めることとした。

Peter R. Huntsman CEO は、引き続き合併を推進するとし、銀行も今回の判決を受け、Hexion によるHuntsman 買収に向けて当初の資金供与の約束を果たすことを望むと述べた。

ーーー

Hexion 102日、Huntsman との合併に関して、米国及びEUの承認を得たと発表した。

FTC Hexion が特殊エポキシ樹脂の一部をチェコのSpolchemie に売却したのを受け、承認した。
EUもこれを条件として承認していたが、今回のSpolchemieへの売却を承認した。

チェコの合成樹脂メーカーのSpolchemie 919日、Hexion の特殊エポキシ樹脂事業の購入契約の締結を発表した。
ドイツの
Stuttgart Duisburg の製造設備、米国のArgo, Illinois Norco, Louisiana の工場及びHouston Research Center を購入する。

Hexion の会長兼CEO は「合併に必要な独禁法上の承認が取れて喜ばしい」と述べた。

ーーー

Hexion 親会社 Apollo Management 10月9日、Hexion に対して65億ドルの買収の推進のため 540百万ドルを供与すると発表した。

銀行が買収資金を供与するのを促すのが目的。
65億ドルの買収(負債込みで106億ドル)はほとんどが借入金で賄うこととなっているが、各銀行は融資を渋っており、上記の裁判につながっている。

付記

2008/10/24、Huntsman American Appraisal Associates Inc. から、統合会社がこのような取引で使われる典型的な solvency tests の全てに合格するとの評価意見を受け取ったと発表した。


続く

最新分は http://knak.cocolog-nifty.com/blog/