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2024/6/17   米最高裁、「飲む中絶薬」の認可差し止めを認めず

米連邦最高裁は6月13日、人工妊娠中絶のための飲み薬(経口中絶薬)「ミフェプリストン」の認可差し止めをめぐる訴訟で、訴えた中絶反対派の医師たちに原告となる資格がないと判断した。

米食品医薬品局(FDA)の承認の是非については判断せず、米国でこの経口中絶薬を使い続けられることになった。この判断には9人の最高裁判事全員が賛成した。

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米食品医薬品局(FDA)は2023年1月、妊娠中絶に使用される経口薬「ミフェプリストン」の薬局での販売を許可すると発表した。

商品名:Mifeprex(一般名:mifepristone)は、妊娠を続けるために必要な黄体ホルモンのはたらきを抑える経口薬で、この薬をのんだ後、子宮を収縮させる働きがあるミソプロストールをのむことで中絶を起こすもので、世界で普及している。

日本では2023年4月28日、「子宮内妊娠が確認された妊娠63 日(妊娠9 週0 日)以下の者に対する人工妊娠中絶」を効能又は効果として製造販売承認された。日本では、母体保護法に基づき、母体保護法指定医師のみが人工妊娠中絶を実施することとされており、本剤の使用についても同様の扱いとなる。

米国では以前はこの錠剤は専門の医院でのみ調剤され、女性は直接受け取る必要があった。今回、小売薬局を通じての販売を可能にし、薬局はこれまで患者が直接受け取る必要があった錠剤を郵送で送ることができるようになる。

FDAの規則緩和を受け、米国での中絶処置の半数以上を占める経口中絶薬へのアクセスは中絶が合法とされている州では容易になる。

中絶に反対する医師らが2022年、FDAが2000年に承認したmifepriston は安全でないとしてFDAによる承認を無効にするよう求めて提訴した。

米テキサス州連邦地裁は2023年4月7日、認可を差し止める判断を下した。

Matthew Kacsmaryk判事は訴えを認め、FDAによる認可は、特定の医薬品に関する迅速認可のルールに違反したとの判断を示した。さらに、mifepristoneの「心理的影響」をFDAが「十分に考慮しなかった」ことの「重大性は看過できない」と指摘し、「生殖機能が発達中の18歳未満の少女への影響」が確認されていなかったと述べた。

その上で、FDAに控訴する時間を与えるため、判事自身がこの決定を7日間 一時停止(stay)した。

米司法省は、テキサス州地裁の判断を不服として連邦高裁に控訴した。

mifepristoneが禁止されればもう一方の薬ミソプロストールだけで処置することになり、効果が低下する。

司法省は最高裁に介入を求め、係争中は流通を全面的に認めることを求めた。

政権側の控訴を受けて連邦控訴裁は2023年8月、流通は認めたものの医師による対面の診察と処方を義務付け、郵送を禁止するなど入手を困難にする判断を出した。政権側がこれを不服として最高裁に上訴した。

2023/4/10     米国で経口中絶薬で相反する判決 を補正

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政権側の上訴を受け、米連邦最高裁は2024年3月26日、「ミフェプリストン」の流通規制の是非について口頭弁論を開いた。

保守派判事を含む多くの判事から規制に懐疑的な発言が相次いだ。

口頭弁論では原告の医師らに訴えを起こす権利があるかどうかが焦点の一つとなった。

原告は中絶薬の流通による具体的な損害を証明する必要がある。医師らは中絶薬の合併症の患者への対応を迫られれば中絶に反対する信念に反し、倫理的な損害を被ると主張した。

リベラル派のジャクソン判事は医師は信念に反する措置を拒否することが可能で、中絶薬の流通全体を禁止する必要はないと指摘した。

保守派のゴーサッチ判事やカバノー判事、バレット判事も同様の見解を示唆した。

最高裁は22年6月に中絶の権利を否定する判断を下し、主に保守地盤の州が中絶を禁止したり規制を強化したりした。米国では中絶を望む人の半数以上が中絶薬を使用している。流通が規制されれば、合法の州でも中絶が困難になると懸念されている。

また政権や製薬会社側は最高裁が原告の主張を認めてFDAの承認を無効にすれば、FDAの判断に疑問を呈することになり、FDAが承認する他の薬や医療機器などにも影響が及びかねないと警告した。

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米連邦最高裁判所は6月13日、国内に普及している経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の入手や使用を全面的に認めるべきだとの見解を示した。
 
郵送禁止など、一定の制限を加えることを決めた下級審の判断を覆した。

最高裁の判事9人全員が制限導入に反対し、そうした措置を求めている原告側は訴訟を続ける上で必要となる法的な要件を満たしていないと指摘した。



ただ、判断は中絶薬の是非そのものには踏み込んでおらず、アメリカのメディアは今後またこの薬をめぐる新たな訴えが起こされる可能性があると指摘している。

中絶問題は11月の大統領選でも争点の一つになっている。トランプ前大統領は「各州の判断に委ねるべきだ」との立場をとっている。


2024/6/18 グリーンイノベーション基金「浮体式洋上風力発電実証事業」の実施海域及び事業者を決定 

経済産業省は6月11日、浮体式洋上風力発電の導入に向けた実証事業について、「秋田県南部沖」、「愛知県田原市・豊橋市沖」の2海域で実施すると発表した。

 

政府は2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガス(GHG)の排出量を全体としてゼロにする目標を掲げた。この目標は従来の政府方針を大幅に前倒しするものであり、実現するにはエネルギー・産業部門の構造転換や大胆な投資によるイノベーションなど、現行の取り組みを大きく加速させる必要がある。

このため、経済産業省はNEDOに総額2兆円の基金を造成し、官民で野心的かつ具体的な目標を共有した上で、これに経営課題として取り組む企業などを研究開発・実証から社会実装まで10年間継続して支援するグリーンイノベーション基金事業を立ち上げた。

本プロジェクトでは洋上風力産業のうち、現状では技術成熟度が比較的低いながらも、長期的な支援によって技術開発の進展と大きな政策効果が見込める分野を支援対象としている。具体的には「洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発ロードマップ」に基づくサプライチェーン8分野のうち、対象として「風車」、「浮体式基礎製造」、「浮体式設置」、「電気システム」、「運転保守」を重点化した上で、まずはフェーズ1として要素技術の開発を進めてきた。

次世代浮体式洋上風力の技術開発のイメージは下図の通り。(出典 NEDO)

 

今回はフェーズ1での成果も踏まえ、浮体式洋上風力発電設備の将来的な大量生産に向けコスト低減を図るため、10MW以上の大型風車を用いた実海域での実証事業を実施し、早期のコスト低減を実現することで、浮体式洋上風力の早期社会実装を図るとともに、日本の洋上風力産業の競争力強化を目指す。

候補として、2023年10月に「北海道石狩市浜益沖」、「北海道岩宇・南後志地区沖」、「秋田県南部沖」「愛知県田原市・豊橋市沖」の4海域を選定していた。今回、北海道の2地域は採用されなかった。

 

選択された2候補の計画概要は以下の通り。

  秋田県南部沖 愛知県田原市・豊橋市沖
場所 由利本荘市、にかほ市の沖合約25km、水深約400m  
事業者 丸紅洋上風力開発(幹事会社)
東北電力、秋田県南部沖浮体式洋上風力、
ジャパン マリンユナイテッド、東亜建設工業、
東京製綱繊維ロープ、関電プラント、JFEエンジニアリング、
中日本航空
シーテック(幹事会社)
日立造船、鹿島建設、北拓、商船三井
計画 風車出力:15MW超
基数:2基

浮体形式:セミサブ浮体

風車出力:15MW超
基数:1基

浮体形式:セミサブ浮体

 

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これとは別に、浮体式に限らない「洋上風力発電」の決定を順次行っており、第3ラウンドとして「青森県沖日本海(南側)」「山形県遊佐町沖」の2つを2024年1月19日〜2024年7月19日の間で公募している。

      選定事業者 運転開始
促進地域 @長崎県五島市沖 1.7万kw 戸田建設グループ  
A秋田県能代市・三種町・男鹿市沖 47.88万kw 三菱商事連合  
B秋田県由利本荘市沖 81.9万kw 三菱商事連合  
C千葉県銚子市沖 39.06万kw 三菱商事連合  
D秋田県八峰町・能代市沖 37.5万kw ジャパン・リニューアブル・エナジー(ENEOS グループ)
イベルドローラ・リニューアブルズ・ジャパン、
東北電力 
2029/6/30
有望な区域 E長崎県西海市江島沖 42.0万kw 住友商事、東京電力リニューアブルパワー 2029/8/31
F青森県沖日本海(南側)

 第3ラウンド

G青森県沖日本海(北側)      
H秋田県男鹿市、潟上市及び秋田市沖 31.5万kw JERA、電源開発、伊藤忠商事、東北電力 2028/6/30
I山形県遊佐町沖

第3ラウンド

J新潟県村上市及び胎内市沖 68.4万kw 三井物産、RWE Offshore Wind Japan村上胎内、大阪瓦斯 2029/6/30
K千葉県いすみ市沖      

 


 
2024/6/19 大阪大学、腹部大動脈瘤患者に対する 世界初のトリカプリン投与試験を開始 
 

大阪大学は5月31日、大学院医学系研究科中性脂肪学共同研究講座、循環器内科学講座、心臓血管外科学講座、放射線統合医学講座の研究グループが、腹部大動脈瘤の患者に対して、トリカプリンを投与する世界初の臨床試験を開始したと発表した。

腹部大動脈瘤は、腹部大動脈が部分的に拡張する疾患で、大動脈瘤のなかで最も発症頻度が高くなっている。腹部大動脈の拡張は、無自覚、無症状であることが多く、無自覚のまま腹部大動脈瘤が突然破裂することもあるため、「サイレントキラー」とも呼ばれている。

米国では毎年約20万人が腹部大動脈瘤と診断され、55歳以上の男性の死因では15位前後、英国では10位前後に位置している。日本における正確な患者数は不明だが、「大動脈瘤及び解離(腹部大動脈瘤以外の大動脈瘤や動脈解離を含む)」は死因の10位前後となっている。

これだけ患者が多い疾患にも関わらず、現状腹部大動脈瘤の治療法は手術に限られており、破裂の危険がある大きな動脈瘤(直径50mm以上)になるまでは、経過観察されている。血圧やコレステロール値を薬で下げ、動脈瘤が破裂することを防ぐ方法はあるが、大動脈瘤自体を縮小させる、あるいは予防する治療薬は現状存在しない。

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2023年2月3日に、近畿大学農学部応用生命化学科、大阪大学大学院医学系研究科中性脂肪学共同研究講座らの研究グループが、母乳にも含まれる栄養成分であるトリカプリンを腹部大動脈瘤のラットに与えると、一度できた腹部大動脈瘤が退縮(縮小)することや、発症前に投与しておくと腹部大動脈瘤ができなくなることを発見したと発表した。

研究グループは、中性脂肪の一種でありながら、動脈硬化や心不全といった疾患の改善効果が知られるトリカプリンに注目し、腹部大動脈瘤のモデルラットを用いて治療効果を検証した。その結果、トリカプリンが腹部大動脈瘤の発症を抑制し、破裂を完全に防ぐことができることが明らかとなった。また、患部の直径の縮小も確認でき、動脈の硬化抑制など血管の健全性を保つ効果があることも明らかになった。

トリカプリン(C10:TG)を投与した動物では、腹部大動脈瘤の形成・進展抑制が観察されたほか、形成後からトリカプリン(C10:TG)を投与すると、腹部大動脈瘤が退縮することがわかった。

  @形成された腹部大動脈瘤 → Aトリカプリン投与後経過 → Bトリカプリン投与により腹部大動脈瘤が縮小

トリカプリンを投与した動物では、動脈の硬化、血管線維成分の破壊、線維分解酵素の増加(マトリックスメタロプロテアーゼなど)、血管平滑筋の低下、栄養血管の狭窄など、多くの腹部大動脈瘤関連病態が抑制されていることがわかった。

さらに、同じ中性脂肪の一種で、炭素の数が2個だけ少ないトリカプリリン(C8:TG)を投与した場合は腹部大動脈瘤抑制効果が観察されず、抑制効果はトリカプリン(C10:TG)に特有のものである可能性が示された。

本研究成果により、将来的に腹部大動脈瘤治療薬を創出できる可能性が示唆された。


トリカプリンは、炭素(C)の数が10個の脂肪酸で構成される中性脂肪(TG)の一種で、C10-TGと表記されることもある。
分子式 :  [CH3(CH2)8COOCH2]2CHOCO(CH2)8CH3   分子量 : 554.84



体内ですぐにエネルギー源として使用されるため、摂取しても血中の中性脂肪値や血糖値の悪化が起こりづらい。母乳やココナッツミルク、チーズ等に含まれるが、その含有量はごくわずかで腹部大動脈瘤に対して効果が期待できる量が入っていないため、動物実験にはトリカプリンを精製して純度を高めたものが使用された。

 

ーーー

この成果をもとに研究グループは、腹部大動脈瘤の患者に対して世界で初めて、高純度トリカプリンカプセル「カプリンHI®」を経口投与する臨床試験を開始した。

カプリンHI® はトリカプリンを高純度で含有した健康食品。大阪大学と栩野財団との共同研究「中性脂肪蓄積心筋血管症に対するトリカプリン栄養療法の開発研究」において開発され、大阪大学と栩野財団の共有成果物である。

本臨床試験は大阪大学医学部附属病院 認定臨床研究審査委員会にて2024年5月9日に承認され、大阪大学と栩野財団との共同研究「血管疾患に対するトリカプリンを用いた治療法の開発研究」を基盤として2024年5月17日より大阪大学医学部附属病院 循環器内科で開始された。

腹部大動脈瘤の患者(50歳〜85歳)に1日3回トリカプリンのカプセル(カプリンHI®、一般財団法人栩野財団がメーカー)を毎日服用してもらう方法で安全性・有効性を検証する世界初の特定臨床研究で、@栄養成分トリカプリンが、腹部大動脈瘤の患者で安全に使用できるか、Aラットで見られた腹部大動脈瘤の退縮(縮小)効果がヒトで確認できるか、について10名の小さな腹部大動脈瘤(直径45mm以下)を持つ患者に1年間かけて確かめる。

腹部大動脈瘤の退縮(縮小)が数例でも見られれば、今後さらに大規模な臨床試験でトリカプリンの有効性を検証し、将来的に腹部大動脈瘤の薬物治療が実現できる可能性がある。またトリカプリンによる治療が、今までにない手術以外の進行予防法となれば、医学界に与えるインパクトはとても大きく、治療指針(ガイドライン)や医療経済にも大きな影響を及ぼす。


2024/6/21 韓国政府「人口国家非常事態」宣言

韓国統計庁が2月28日に発表した「2023年人口動向調査」によると、2023年の出生数は前年から1万9,186人減少し、23万人だった。また、合計特殊出生率は前年に比べ0.06低い0.72で、8年連続で過去最低を更新した。

合計特殊出生率0.72はOECD加盟国の中で最低で、1.00を切ったのは韓国のみだ。同時に発表した2023年第4四半期(10〜12月)の合計特殊出生率は0.65で、四半期ベースで過去最低、初めて0.70を割った。

   なお、中国については下記参照

    2022/1/20
 中国の出生率、建国以来最低、2021年1,062万人で5年連続減

 

尹錫悦大統領直属の「低出産高齢社会委員会」は6月19日、大統領の主宰で会議を開き、次のような内容の「少子化傾向反転のための対策」を発表した。

ケア支援制度も強化される。現在0〜2歳だけが対象の無償教育・保育を来年5歳、その後は2027年までに3〜4歳に拡大することにした。
モデル事業を通じて外国人家事管理士も100人投じることにした。雇用労働部関係者は「成果評価に基づいて来年上半期までに規模を1200人水準に増やすのが目標」と話した。


住居支援も大幅に増強し、結婚と出産がマイホーム購入のメリットになるようにした。今年グリーンベルトを解除して新規宅地を2万戸用意するが、このうち新婚・出産・多子世帯に70%の1万4000戸を供給することにした。

国民対象の少子化克服公募展で1等を取ったアイデアも対策に含まれた。公共賃貸住宅に居住する新婚夫婦が子どもを産めばさらに大きな坪数の家に引越しできるようにサポートし、再契約も最大20年まで許容する。結婚特別税額控除を100万ウォン限度で新設する。

新生児特例融資を受けることができる夫婦合算所得要件も来年1月1日から3年間、出産した世帯に限って年間2億5000万ウォンに増える。
所得制限を事実上廃止して高所得の共稼ぎ夫婦も低金利の新生児特例融資を受けられるようにした。

子どもを産みたいと思う不妊治療中の夫婦に対する支援も手厚くなる。不妊治療支援に関連し、年齢や回数制限をすべて緩和した。
年齢を問わず不妊治療施術の時に健康保険本人負担率を30%に引き下げ(現在は45歳以上に50%支援)と施術支援も子女当たり25回(体外受精20回、人工受精5回)に拡大することにした。


 

「育児休職の回数を増やして分けることはどれも良いが、企業がそれを了承してくれるか心配」で、「正直言って、今でも妊娠された方々が周囲の目を気にして短縮勤務を十分活用することができないでいる」との意見もある。

今回の政府の方針について、従来の福祉強化政策の枠組みから抜け出せていないという指摘が出る。

ソウル大学保健大学院のチョ・ヨンテ教授は「構造的な対応策が抜けている」と話した。

例えば教育体系や大学入試制度を出生児童20万人時代に合わせ変えるべきなのに70万人時代のやり方を固守しているということだ。

人口非常事態を宣言したが核心政策である外国人・移民政策がほとんど検討されていない点も限界と指摘される。

人口戦略企画部に少子化予算事前審議権を与えることにしているが、審議結果を企画財政部がそのまま受け入れるかもカギだ。育児休職大幅拡大などが目立つのは事実だが、日本のように子ども3人以上の世帯の子ども(但し2人まで)の大学授業料免除、高校生までの児童手当て支援のような破格な対策はない。

結婚と出産を敬遠する若年層の考えを変えられるか疑問だ。今回の対策に対する20〜30代の反応は交錯している。

「育児休職給与の引き上げはとても肯定的だ。政府が何かをしようという意志があるようだ」、「育児休職給与の引き上げと事後支給金廃止はとてもよい」との意見がある 反面、企業と社会の認識変化がなければ実効性が落ちるという懸念も聞かれる。

(主に韓国の中央日報の記事による)


2024/6/24   米国、貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書を公表、日本は再度「監視リスト」に

米財務省は6月20日、貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書を公表した。2023年12月までの4四半期の外国為替動向を対象としている。

     https://home.treasury.gov/system/files/136/June-2024-FX-Report.pdf

「為替操作国」基準にかかった貿易相手国・地域はなかった。

2019年8月に中国が、2020年12月にスイスとベトナムが「為替操作国」となった。それ以降、2022年11月までの間は、基準では対象となる国があったが、米財務省の判断で実際は非認定となった。
今回は基準でも対象となる国はなかった。

米財務省は為替操作国に指定する条件として(1) 対米貿易黒字の規模 (2) 経常黒字の規模 (3) 継続的な通貨売り介入――を掲げている。

  従来の基準 2019/5より改正
@重大な対米貿易黒字 対米貿易黒字が200億ドル(米国GDPの約0.1%) 以上 同左
A実質的な経常黒字 経常黒字がその国のGDPの3.0%以上 GDPの2.0%以上
B外為市場に対する介入 GDPの2%以上(ネットで)の額の外貨を繰り返し購入
(12カ月のうち、8カ月
同左
(12カ月のうち、6カ月

3基準全てに該当すれば「為替操作国」となる。

次の場合、「監視リスト」に入る。
  2基準に該当 & 1基準だが、前年「監視リスト」の場合
  なお、中国は常時、「監視リスト」

日本は永く2項目でひっかかり、「監視リスト」に入っていた。2022年11月から1項目だけとなり、2023年6月と2023年11月は「監視リスト」から外れた。しかし今回、@対米貿易黒字に加え、A実質的な経常黒字で該当し、再度、『監視リスト」に入った。

日本の経常黒字は、下図(報告書に記載)の通り、2015年以降、GDPの3%(2019/5より2.0%)を超え、対米黒字と合わせ2基準でかかっていた。2022年は2%を下回り、(時期のずれで)2022/11〜2023/11の3期が1項目だけ該当となった。しかし、2023年には経常黒字は再び2%を上回り、今回、2項目で該当することとなった。日本の経常黒字は最近はGDPの2〜4%の範囲で動いており、米国が基準を2%としたために、基準に該当したり、しなかったりするだけである。

今回、操作国に戻ったことについて、鈴木財務相は、「米国が日本の為替政策を問題視していることを意味するものではない」としている。

日本は2023年12月までの4四半期には外為市場への介入していない。(本年4〜5月の介入は、通貨安誘導ではなく、為替操作国の基準にも該当しない。)

ーーー

今回は、日本に加え、前回に続き2項目の台湾、ドイツ、ベトナム、シンガポールと、今回1項目となったが前年監視リストに入っていたマレーシア、1項目だが常時「監視リスト」の中国の合計7カ国が「監視リスト」に載った。

昨年の監視リスト入りの6カ国に、新しく日本が加わる形となった。なお、B「外為市場に対する介入」でひっかかったのはシンガポールだけであった。 

操作国
3基準  
監視国
2基準  
監視国
1前年監視対象 &中国    丸数字は問題となった項目
                 
  日本 中国 韓国 台湾 ドイツ スイス インド アイルランド ベトナム イタリア マレーシア シンガポール タイ メキシコ
2016/4
2016/10
2017/4
2017/10
2018/4
2018/10
2019/5
 

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2019/8   操作国  
2020/1
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2020/12
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操作国
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操作国
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2021/4
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操作国
非認定

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操作国
非認定

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操作国
非認定

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AB

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2021/12
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操作国
非認定

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@B

@B

A
操作国
非認定

@A

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AB

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2022/6
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操作国
非認定

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2022/11
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操作国
非認定

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2023/6
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2023/11
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2024/6
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 赤字が為替操作国基準にひっかかった項目


2024/6/25 南鳥島周辺海底にレアメタル含有の鉱物資源が大量分布―日本財団・東大 が発見

日本財団と東京大学は6月21日、南鳥島周辺の排他的経済水域内で行った調査で、水深5千数百メートルの海底にニッケル、コバルトなどのレアメタルを豊富に含む海底鉱物資源「マンガンノジュール」が大量にあるのを発見したと発表した。100キロ四方の調査海域での総量は約2億3400万トンと見積もられ、含まれるコバルトとニッケルは国内消費量のそれぞれ75年分 (61万トン)、11年分(74万トン)に相当する。

採取や精錬などのコストを踏まえても商業化可能な資源量だといい、日本財団などは早ければ来年度中に、1日2500トン規模の採取実証を行う。

マンガンノジュール(Manganese Nodules:マンガン団塊)とは,深海底に分布する海底鉱物資源のひとつで,直径数〜十数cmの球状の団塊。岩石の欠片やサメの歯などを核として、その周りに鉄やマンガンの酸化物が沈積し、同心円状に成長する。

 

有人潜水調査船「しんかい6500」によって日本の南鳥島EEZの深海底から採取されたもの。

銅・ニッケル・コバルトなどを豊富に含むため、1970年代から開発に向けた取組みが進められており、ハワイ沖のClarion-Clipperton 断裂帯海域には国際的な鉱区も設定されている。

JOGMECは1975年以降、経産省の委託を受けて、ハワイ南東海域の公海においてマンガン団塊の探査活動に着手するとともに、深海底鉱物資源の探査専用船「第2白嶺丸」を建造し、1980年から本格的な調査を開始した。
1982年9月には探査開発の推進母体となる「深海資源開発」(DORD)が設立された。
1987年12月に国連海洋法条約の下で、ハワイ南東沖にマンガン団塊鉱区75千km2を登録し、2001年6月に深海資源開発は国際海底機構との探査契約を締結した。

ーーー

東京大学大学院の加藤泰浩教授(地球資源学)らの研究グループは、2012年6月28日に資源地質学会で、「レアアース」を豊富に含む泥を南鳥島周辺の海底で発見したと発表した。

加藤教授らは、国際共同研究などで採取された南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ)内の海底堆積物のボーリング試料を分析した結果、南鳥島の南西約300キロメートル、水深約5600メートルの海底の泥に最大約1700ppm、平均約1100ppmの高濃度でレアアースが含まれることを突きとめた。

2012/7/2  南鳥島沖にレアアース 

経済産業省は2013年7月20日、南鳥島の沖合の海底に存在するレアメタルについて、国際海底機構から探査の承認が得られたと発表した。
今後15年間にわたって日本が独占的にレアメタルの探査を行うことになる。

2013/7/24    南鳥島沖のレアメタル探査へ 

海洋研究開発機構、東京大学および千葉工業大学などの研究グループは、2010年から2016年にかけての複数の航海により、南鳥島周辺の排他的経済水域の南部から東部にかけての深海底(水深5,500–5,800 m)に広大なマンガンノジュールの密集域を発見した。

これまで、我が国のEEZでは海山の緩斜面にコバルトリッチクラストに伴って存在する小規模なマンガンノジュールの分布は知られていたが、深海底に広大なマンガンノジュールの分布が見つかったのは初めて。

本年4〜6月に海底資源調査船を用いてより詳しく調査し、今回の発表となった。

ーーー

東京大学大学院の加藤泰浩教授の考えている採掘方法は下図の通り。

バックホウ(backhoe):油圧ショベルの中でも、ショベル(バケット)をオペレータ側向きに取り付けたもののこと。オペレータ側向きのショベルでオペレータは自分に引き寄せる(抱え込む)方向に操作する。地表面より低い場所の掘削に適している。
AUV(Autonomous Underwater Vehicle):人が操作せずに全自動で行動する自律型海中ロボット
ROV(Remotely Operated Vehicle:ケーブルを介して人が操縦する遠隔操縦ロボット
エアリフト:
パイプに圧縮空気を送り込んで泥水に空気を混ぜ、浮力を利用して引き揚げるもの

東大では、南鳥島海域で約1ヶ月の調査航海を行い、実際に採取したレアアース泥を用いて「選鉱→製錬→分離・精製→製品作成」という一連のフローの実証試験を行う計画で、南鳥島における調査航海には1回につき約1億5000万円が必要としている。

公的資金を活用しつつ、不足する部分を広く国民と、レアアースを活用する様々な産業界からの寄付によって支えてほしいとして寄付を募っている。

  https://utf.u-tokyo.ac.jp/project/pjt124

 


2024/6/27 関西電力大飯原発3・4号機、新制度で30年超運転認可 

原子力規制委員会は6月26日、関西電力大飯原発3、4号機について運転開始40年までの管理計画を認可した。2023年5月の法改正で導入が決まった運転開始30年を起点に最長10年ごとに計画を審査する新制度に基づく対応で、認可は全国の原発で初めて。

 

原子力発電所の運転期間の60年超への延長を盛り込んだGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法は2023年5月31日の参院本会議で可決、成立した。既存の原発を可能な限り活用し、電力の安定供給と温暖化ガスの排出削減を目指す。

原子力規制委員会は2022年12月21日、原子力発電所の運転開始から30年以降10年以内ごとに繰り返し運転を認可する新ルール案を了承した。現行ルールを上回る「60年超」運転が可能になる。 

法改正前のルールでは、運転開始から40年を迎える原発は、規制委の運転延長の審査に合格した場合に限り1回のみ最長20年の延長が認可される。また、これとは別に、運転開始から30年以降の原発は、10年ごとに「高経年化対策」も実施されている。

新ルールはこれらを一本化する内容で、規制委は電力会社に対し、施設の劣化を管理する長期計画の作成を義務づけ、安全性を確認すれば運転延長を繰り返し認可する。福島原発事故以前の規制に戻すこととなる。

電力会社は運転開始30年を起点に最長10年ごとの管理計画をつくり、規制委の審査を受ける必要がある

下図は2023年5月31日の法改正時点のもので、「現行」は法改正前のもの。「規制委検討案」が現在のもの。

2023/6/1 GX脱炭素電源法が成立、原発運転「60年超」可能に 

法の成立を受け、関西電力が2023年12月に規制委に申請した。

3号機は運転開始から今年で33年目、4号機は31年を超えている。

2基とも旧制度で設備の劣化点検の結果などを踏まえて40年までの運転が認められていたが、新制度ではさらに、安全確保に必要な部品や設備が製造中止になった場合に備えて、情報収集の仕組みや代替品の活用といった対応方針も審査した。

今回の認可で、大飯3号機は2031年12月、4号機は33年2月まで運転できるようになった。

今後も運転を延長する場合、10年以内ごとに同様の認可を受ける必要がある。

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なお、原子力規制委員会は5月29日、来年で運転開始40年を迎える関西電力高浜原発3号機、4号機について、60年までの運転を認可した。同原発の1号機、2号機はすでに延長の認可を得ており、4基全てが60年稼働となる。

日本全体で8基が60年稼働となる。

これが適用されたこれまでのルールでは、運転開始から40年を迎える原発は、規制委の運転延長の審査に合格した場合に限り1回のみ最長20年の延長が認可された。また、これとは別に、運転開始から30年以降の原発は、10年ごとに「高経年化対策」も実施されていた。(上図の「現行」参照)

2024/6/1 関西電力高浜原発3、4号機、60年稼働へ 


2024/6/28 EUでユーロを導入していない6カ国、導入基準未達

欧州委員会は6月26日、ユーロを導入していない加盟国の進展状況を評価する2024年のConvergence Reportを発表した。

EC条約においては,EU加盟国は,基本的にEMU(経済通貨同盟)に参加し,単一通貨ユーロを導入することが想定されている。

但し,EC条約第122条に適用除外規定が認められており,デンマーク(とその後に離脱した英国)は適用除外が認められている。

現在、EU加盟27カ国のうち、適用除外が認められているデンマークを除き、6カ国(スウェーデン、ポーランド、チェコ、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア)がユーロ導入義務があるのに導入していない。

時期 EU ユーロ導入
1952 フランス 1999
(西)ドイツ 1999
イタリア 1999
オランダ 1999
ベルギー 1999
ルクセンブルグ 1999
1973 英国  適用除外
アイルランド 1999
デンマーク  適用除外 欧州為替相場メカニズム
1981 ギリシャ 2001
1986 スペイン 1999
ポルトガル 1999
1995 オーストリア 1999
フィンランド 1999
スウェーデン  国民投票で反対
2004 エストニア 2011/1/1
ラトビア 2014/1
リトアニア 2015/1
ポーランド  
チェコ  
スロバキア 2009
ハンガリー  
スロベニア 2007
キプロス 2008
マルタ 2008
2007 ブルガリア  
ルーマニア  
2013 クロアチア 2023/1/1                           
2020 英国離脱  
合計  27カ国  20か国

 

報告書は、ユーロを導入する法的義務がある6つの非ユーロ圏加盟国(ブルガリア、チェコ、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スウェーデン)を対象としている。

報告書は、欧州連合の機能に関する条約の第140条1項に定められた収束基準( convergence criteria)、いわゆる「マーストリヒト基準」に基づいている。

ア 物価安定性:過去1年間,消費者物価上昇率が,消費者物価上昇率の最も低い3か国の平均値を1.5%超上回らないこと。

イ 健全な財政:過剰財政赤字状態でないこと。(財政赤字GDP比3%以下,債務残高GDP比60%以下)

ウ 為替安定:少なくとも2年間,欧州通貨制度(European Stability Mechanism : ESM)の為替相場メカニズム(European Rate Mechanism:ERM II)に深刻な緊張状態を与えることなく参加し,
  ユーロに対して自国通貨の切り下げを行わないこと。

エ 長期金利の安定性:過去1年間,長期金利が消費者物価上昇率の最も低い3か国の平均値を2%超上回らないこと。 このほか,市場統合性や国際収支の状況等も考慮される。

現在、これらの加盟国のうち、どの国もユーロ圏加入のための全ての基準を満たしていない。

欧州メディアによると、ブルガリアは2025年1月のユーロ導入を目指していたが、延期は避けられない。

報告書の内容は次の通り。

  物価安定性 健全な財政 為替安定 長期金利の安定性
ブルガリア  
チェコ   (○)  
ハンガリー        
ポーランド        
ルーマニア        
スウェーデン  

・スウェーデンは物価安定基準を満たしている。

・ブルガリアとスウェーデンは財政基準を満たしており、チェコは6月19日の第126条3項に基づく委員会報告書に基づいて満たすことが予想されている。

・ブルガリア、チェコ、スウェーデンは長期金利基準を満たしている。ブルガリアは為替レート基準を満たしている。

・その他の加盟国は為替相場メカニズム(ERM II)のメンバーでない。ユーロ圏加入前に少なくとも2年間のメカニズムへの参加が必要。

なお、欧州中央銀行によるとブルガリアの物価上昇率は5月までの1年間の平均で5.1%と高止まりし、基準の3%強を上回った。

 

・ブルガリアの立法が収束報告書に定められた条件と解釈に従ってEU法と適合すると結論付けている。

・他の5つの非ユーロ圏EU加盟国では、通貨分野の国家立法は経済通貨統合の規則と完全には適合していない。

 


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