ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから 目次
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2007年10月、West Virginia 州のHarrison CountyのSpelter の町で、112エーカーの土地を砒素、鉛、カドミウムの産業廃棄物で汚染し、地域住民の健康に被害を与えたとして、DuPont に対して住民代表の10人による集団訴訟の裁判が行なわれた。
陪審員の決定は以下の通りであった。
1)廃棄物処理に関するDuPont の責任:DuPont に責任と過失
2)住民側の健康診断要求:今後40年間、DuPont が検査費用を負担
3)公害物質除去費用の負担:55.5 百万ドルの負担
4)懲罰的賠償:196.2百万ドルの懲罰的賠償
2007/10/23 DuPont、廃棄物問題裁判で敗訴
2008年2月25日、Harrison
County 巡回裁判の判事は、上記の
196.2百万ドルの懲罰的賠償の決定を支持した。
判事はまた、住民側の健康診断の費用はDuPont
が実費を負担とするが、DuPontに対して 130百万ドルを
escrow account (その目的のための特別口座)に預金することを命じ、口座の管理者を指名した。
この結果、DuPontの負担総額は381百万ドルとなる。
判事はDuPont
の裁判のやり直しの要求を拒否した。
また、弁護士費用等として135百万ドルを認めた。これは健康診断費用や公害物質除去費用には影響させず、懲罰的賠償額から引かれることとなる。
なお、数千人の住民を代表して集団訴訟を行なった10人の原告が求めた75千ドルの報奨金は認められなかった。
ーーー
DuPontは今回の130百万ドルの健康診断費用を不満とし、州最高裁への控訴を検討している。
実際に必要な費用より数千万ドル高く、高額の弁護士費用を正当化するためのものだとし、肺がん検査のための低線量CTスキャンなどの必要性の科学的根拠は無く、むしろスキャンによる放射線の方が害があるとしている。
付記 2008年6月24日控訴した。
ーーー
付記
2010年11月、約150百万ドルで和解。
・ $70
million
・30年間の健康チェック(予想 $80 million)
BASFの2007年の決算は、増収増益で、売上高で前年比10%増、EBIT(税引前当期利益+支払利息)は8%増となった。
売上高の増加は 5,341百万ユーロに達するが、内訳は以下の通り。事業買収が大きく貢献している。 | ||
数量増 | 2,557百万ユーロ | |
価格 | 1,321 | |
為替差 | - | 1,989 (ユーロ高:1.26$/Euro→1.37$/Euro) |
事業買収、新規 | 3,598 (下記) | |
事業売却 | - | 146 (Fine Chemicals:lysine, premix) |
合計 | 5,341 |
各部門売上高の製品グループ別内訳は以下の通り。
部門 | 内訳 | 2006 | 2007 | 伸率 |
Chemicals | Inorganics | 1,134 | 1,192 | 105 |
Catalysts *1 | 2,411 | 4,804 | 199 | |
Petrochemicals | 5,754 | 5,696 | 99 | |
Intermediates | 2,273 | 2,470 | 109 | |
合計 | 11,572 | 14,162 | 122 | |
Plastics | Styrenics *2 | 4,994 | 5,306 | 106 |
Performance Polymers | 2,932 | 3,024 | 103 | |
Polyurethanes | 4,849 | 5,166 | 107 | |
合計 | 12,775 | 13,496 | 106 | |
Performance Products |
Construction Chemicals *3 | 1,081 | 2,100 | 194 |
Coatings | 2,414 | 2,587 | 107 | |
Functional Polymers | 3,387 | 3,522 | 104 | |
Performance Chemicals | 3,251 | 3,488 | 107 | |
合計 | 10,133 | 11,697 | 115 | |
Agricultural
Products & Nutrition |
Agricultural Products | 3,079 | 3,137 | 102 |
Fine Chemicals *4 | 1,855 | 1,852 | 100 | |
合計 | 4,934 | 4,989 | 101 | |
Oil & Gas | Exploration and production | 4,555 | 4,365 | 96 |
Natural gas trading | 6,132 | 6,152 | 100 | |
合計 | 10,687 | 10,517 | 98 | |
Others | 2,509 | 3,090 | 123 | |
Total | 52,610 | 57,951 | 110 |
2001年に売上高が減少しているが、同社は2000年12月に医薬品事業をAbbott Laboratories へ69億ドルで売却している。
同社はこの数年前から、医薬品事業の将来についてあらゆる選択肢を検討していた。
医薬品事業売却に合わせ、American Home Products より農薬事業(American Cyanamid社)を買収し、BASF武田ビタミンの武田薬品持分を買収するなど農薬とファインケミカル事業を急速に拡大した。
*1 Catalysts
BASF は2006年にEngelhard を買収した。
2006/6/12 2つの買収劇
*2 Styrenics
BASFのCEOは2007年8月の2007年第2四半期の業績発表の席上、
スチレン事業の一部の売却に関して、
買い手候補のある1社と極めて建設的な交渉を行っていることを明らかにした。
2007/8/6 BASF、スチレン事業一部の売却交渉進展
最近の報道では近いうちに発表がある模様。
*3 Construction
Chemicals
2006年3月、DegussaからConstruction chemicals business を27億ユーロで買収
混和剤システム(北米、欧州、アジア太平洋)
建材システム(北米、欧州)
*4 Fine Chemicals
2007年3月、Lysine
撤退を決定、韓国群山工場(10万トン)を閉鎖、11月に売却が決定した。
今後は非アミノ酸に集中する。
また、日本を含む各地の飼料用プレミックス(ビタミンと飼料添加物を混合)から撤退した。
2007年2月に多くの国の事業をオランダのNutrecoに売却、日本の事業は12月に伊藤忠に売却した。
部門別の営業損益(EBIT:税引前当期利益+支払利息)は以下の通り。
原料高はほぼ転嫁できているが、Oil & Gasの減益は原油価格アップによる。
Fine Chemicalsの黒字転換は、赤字の lysine と premix
からの撤退の影響が大きい。
部門 | 2006 | 2007 | 増減 |
Chemicals | 1,380 | 1,995 | 615 |
Plastics | 1,192 | 1,236 | 44 |
Performance Products | 669 | 704 | 35 |
Agricultural Products | 447 | 489 | 42 |
Fine Chemicals | -66 | 171 | 237 |
Oil & Gas | 3,250 | 3,014 | -236 |
Others | -122 | -293 | -171 |
Total | 6,750 | 7,316 | 566 |
全社損益の推移は下記の通り。
(今後、各社決算分析を順次掲載します。)
Solutiaは2月28日、会社更生手続き(Chapter 11)を終了し、再生に向けスタートした。
Solutiaは1997年9月にMonsantoの化学部門が分離独立して設立された会社である。
・ Monsantoは1901年設立の化学会社だが、1985年にバイオケミストリー分野での事業展開のため、G.D.Searle を買収した。 ・ 1997年に化学部門をSolutia として分離した。 ・ 1998年に American Home Products と合併で合意したが、破談となっている。 ・ 2000年4月にPharmacia & Upjohn と合併し、Pharmacia となった。 ・ Pharmacia は2002年に農薬部門を再度 Monsanto として分離した。 ・ Pharmaciaは2003年にPfizer に買収された。
2003年12月17日、Solutia は日本の会社更生法に当たる連邦破産法11条申請を行ったと発表した。
Monsanto
からスピンオフした際に引き継いだ法的債務(訴訟費用・賠償金、環境対策費用、退職者医療費債務等)で毎年1億ドル程度を支払い、これが負担となっていた。
2003年8月には、旧Monsantoがアラバマ州で健康への危険を隠蔽しながら河川にPCBを投棄したとの住民訴訟に対し和解が行われ、Solutia、Monsanto、Pharmacia の3社が不正行為を認めないまま総額6億ドルの賠償を行なうこととなり、Solutia
はそのうち5千万ドルを負担した。
破産法11条申請は、コストダウン等による対応が限界にきたとして、これらの負担を免れるために行ったもので、業務は引き続き継続した。
参考 セブンーイレブン
米国連邦破産法はChapter 7 で破産手続き、Chapter 11で会社更生手続きを規定している。
長期間の交渉の結果、2007年9月にようやく再建計画について債権者、株主、Monsanto、Pharmacia、退職年金その他、主要な利害関係人すべてとの合意が成立した。
・20億ドルの新規借入(exit financing)
既存借入金の一部の返済と運営費用に充てる。
・250百万ドルの新株発行
退職年金等に充てる。
2007年10月15日に破産裁判所に再建計画を提出、11月29日に裁判所の承認を得た。
2008年2月28日、新規借入が実行され、Chapter 11手続きが完了した。
SolutiaのCEOは、「長期間のChapter 11 の期間中に、Solutia を変身させ、再生させた。事業を強化し、13億ドルの負債を減らした。成長力と活気のある会社として再スタートする。」と述べた。
年間売上高38億ドル、従業員は世界全体で5,700人。
主に、自動車、建築、輸送、産業用に機能材料を生産するが、主要製品は以下の5つ。
・Saflex®:合わせガラス用 polyvinyl butyral (PVB) 中間膜
・CPFilm® :窓ガラス用フィルム
・Nylon Plastic & Fibers:アジピン酸、ヘキサメチレンジアミン、Nylon 66、ナイロン繊維
・Flexsys® :合成ゴム加硫剤
・Specialty Products :高温合成系熱媒体、航空機用作動油、航空機用洗浄溶剤、ポリビニルブチラール樹脂、
ジフェニルオキサイド
なお、日本のソルーシア・ジャパンは、1952年にMonsanto
と三菱化成との49/51 JV の三菱モンサント化成として設立された。
1990年に三菱モンサント化成を解消し、化学品部門の一部を、日本モンサント(1957年設立)へ移管、1997年のMonsanto
による Solutia 分離で9月1日にソルーシア・ジャパンとなった。
Bayerの2007年の決算も増収増益であった。
部門別実績は以下の通り。(単位:百万ユーロ) (EBIT :税引前利益+金利)
Sales | EBIT | ||||||
2006 | 2007 | 差異 | 2006 | 2007 | 差異 | ||
HealthCare | Pharmaceuticals | 7,478 | 10,267 | 2,789 | 563 | 741 | 178 |
Consumer Care (Consumer Care) (Diabetes Care) (Animal Health) |
4,246 (2,531) (810) (905) |
4,540 (2,634) (950) (956) |
294 (103) (140) (51) |
750 | 823 | 73 | |
小計 | 11,724 | 14,807 | 3,083 | 1,313 | 1,564 | 251 | |
CropScience | CropScience | 4,644 | 4,781 | 137 | 384 | 537 | 153 |
Environmental Science Bioscience (Environmental Science) (BioScience) |
1,056 (714) (342) |
1,045 (663) (382) |
-11 (-51) (40) |
200 | 119 | -81 | |
小計 | 5,700 | 5,826 | 126 | 584 | 656 | 72 | |
MaterialScience | Materials (PC) (Polyurethanes) |
2,925 (2,720) (205) |
3,041 (2,811) (230) |
116 ( 91) ( 25) |
289 | 100 | -189 |
Systems (Polyurethanes ) (Coatings, Adhesives, Sealants) (他) |
7,236 (5,182) (1,488) (566) |
7,394 (5,224) (1,598) (572) |
158 (42) (110) (6) |
703 | 942 | 239 | |
小計 | 10,161 | 10,435 | 274 | 992 | 1,042 | 50 | |
調整 | 1,371 | 1,317 | -54 | -127 | -108 | 19 | |
合計 | 28,956 | 32,385 | 3,429 | 2,762 | 3,154 | 392 |
Bayerは2006年6月にSchering
AG の買収を決めた。
2006/6/12 2つの買収劇
2006年決算にはSchering 分が半年分しか入っていないが、2007年にはフルに入っている。
売上高 2006年:3,082百万ユーロ、2007年:5,921百万ユーロ (+ 2,839百万ユーロ)
Materials (PC、Polyurethanes) の減益が大きいが、原料、用役価格の上昇と売価ダウンによるとしている。
売上高
部門別営業損益 (EBIT :earnings before interest and taxes)
Bayer は2004年7月にBayer Chemicalsの大半とBayer Polymersの一部を新会社 Lanxess として分離し、2005年に上場した。
2006/9/6 Bayer と Lanxess
上記グラフは
2003年は旧組織ベースとLanxessへの分離後の両方を示し、
2004年はLanxessを含んだものと、含まないものの両方を示している。
その後は、Lanxess分は含んでいない。
2003年の赤字は以下の特別損益を含んでいる。
評価損 -1,927 百万ユーロ 合理化、資産償却 -508 部門売却(家庭用品事業など) 469 その他 -619 合計 -2,585
全社損益推移
2007年の全社損益には下記の事業の売却損益(税引後合計
2,395百万ユーロ)を含んでいる。
(2007年の税引前損益は継続事業のもの)
1)診断薬事業
2006年6月、Bayer は診断薬事業を Siemens に43億ユーロで売却した。
2006/7/4 シーメンス バイエル診断薬買収
売却益は税引き後で2,065百万ユーロ。
2)H.C. Starck
Bayerは子会社H.C. Starck を入札方式により売却先を選定していたが、投資会社の Advent International とCarlyle Group に売却することに決めた。売却金額は12億ユーロ、売却益は税引き後で91百万ユーロ。収入は Schering 買収費用に充てる。
H.C. Starck はタングステン、モリブデン等の希少金属の粉末及びコンパウンド、セラミック粉末、エレクトロニクス用スペシャリティケミカル等のメーカーで1986年にBayerグループに入った。
2006/12/2 Bayer、子会社 H.C. Starck を売却
3)Wolff Walsrode
2006年12月、主にセルロース事業を行っているWolff Walsrode business group をダウに売却することで合意した。
売却益は税引き後で239百万ユーロ。2006/12/26 ダウ、Bayerからセルロース事業を買収
2008/3/5 速報 三菱化学鹿島事業所第2エチレンプラント、使用停止命令一部解除
2008年3月5日、第2エチレンプラントの使用停止命令が一部解除された。
1
使用停止命令の一部解除を受けた設備プラント
・2F-201から2F-205までの分解炉(第2エチレンの8基の分解炉のうち5基)
・急冷系、圧縮系、低温精製系、高温精製系の各設備
※火災事故が発生した分解炉2F-208及び同炉隣の2F-207については、再開の目処は立っていない。
分解炉2F-206については、検査、補修及び安全対策工事を実施中で、今後操業再開について監督官庁と相談する。
2 操業再開目標時期 3月中旬〜3月下旬
3 操業再開後の生産能力 約32万トン/年(第2エチレン能力476千トンの67%程度)
三菱化学のエチレン能力は以下の通り。(2006/12/末時点 単位:千トン/年)
定修あり 定修なし 全国比
(定修なし)鹿島第1 375 410 5.1% 鹿島第2 476 516 6.4% (小計) (851) (926) ( 11.5%) 水島 450 496 6.2% 三菱合計 (1,301) (1,422) 17.7% 全国 〔7,289〕 〔8,023〕
2007/12/24 三菱化学鹿島事業所 火災事故
ーーー
付記
2008年5月15日、6号炉(2F-206)についても使用停止命令の解除を受け、操業を再開。
2008年9月12日、7号炉(2F-207)についても停止命令の解除を受け、操業再開。
分解炉のうち残る8号炉(2F-208)については、損傷状況の検査中であることから、現段階で再開の目途は立っていない。
【参考:第2
エチレンプラントのエチレン生産能力(8号炉の稼働を除く)】
約45万3千トン/年 (火災事故前(47万6
千トン/年)の約95%)
付記
茨城県警鹿嶋署捜査本部は2009年3月16日、三菱化学の当時の鷲見富士雄・執行役員兼鹿島事業所長や同事業所幹部ら計8人を業務上過失致死の疑いで水戸地検に書類送検した。
捜査本部では、空気弁の元弁を閉めていれば、事故は防げたと判断。所長らが危険性を認識していながらも、必要な安全措置を怠ったことを重く見て立件した。
薬害エイズ事件で、エイズウイルス(HIV)に汚染された非加熱血液製剤の回収指示などを怠ったとして、業務上過失致死罪に問われた元厚生省生物製剤課長、松村明仁被告に対し、最高裁第2小法廷(古田佑紀裁判長)は3月3日付で、上告を棄却する決定を出した。
禁固1年、執行猶予2年とした1、2審判決が確定する。
官僚個人の「不作為」が初めて罪に問われ最高裁で有罪が確定するのは初めて。小法廷は「薬務行政上必要かつ十分な対応を図るべき義務があったことは明らか」と指弾した。
薬害エイズ事件及びこれに関する他の訴訟については
2008/1/24 資料 薬害エイズ事件
ーーー
1996年10月、2件の被害事実について、厚生省の元生物製剤課長である松村明仁が、業務上過失致死罪で東京地裁に起訴された。
@帝京大病院で1985年5-6月に非加熱製剤を投与された血友病患者の死亡(帝京大ルート)
A大阪医科大学附属病院で1986年4月に旧ミドリ十字の非加熱製剤を投与された肝臓病患者の死亡(ミドリ十字ルート)
2001年9月、一審判決が出た。
地裁は非加熱製剤の危険性を認識できた時期を1985年12月末と判断し、@については無罪とした。
Aについては有罪で、禁固1年、執行猶予2年とした。(双方が控訴)
ーーー
2005年3月25日、東京高裁(河辺義正裁判長)の判決が出た。
裁判長は非加熱製剤の危険性を認識できた時期を一審判決と同様に1985年12月末と判断した。
(1)85年3月に旧厚生省の専門家会議で初めてエイズ認定がなされた
(2)85年12月の同省審議会で「安全な加熱製剤が承認されたときには非加熱製剤は使用させないようにすべきだ」との意見が出た。
85年12月下旬には安全性の高い加熱製剤が承認され、供給可能量に達していた。(加熱製剤への切り替えが可能)
@(1985年5-6月投与)については、「患者が感染した当時は、大多数の医師が加熱製剤への転換を提唱していなかった。非加熱製剤の投与を控えさせるように方針転換するのは現実的に不可能だった」として、一審判決と同様に無罪。
A(1986年4月投与)については、「危険な製剤の投与を控えさせる最後の手段を怠った」として有罪と認定、一審東京地裁判決を支持、被告、検察側双方の控訴を棄却した。
弁護側は「原則として公務員の権限行使に法的義務はない」としたが、裁判長は、「当時は(危険を回避するための)権限行使が裁量の余地のない状況に至っていた」、「製薬会社を通じて医師に危険情報を提供し、非加熱製剤の投与を控えさせることが不可欠だった」と松村被告の刑事責任を認定した。
これに対し、松村被告は上告したが、東京高検は上告期限である2005年4月8日、刑事訴訟法上の上告理由が見当たらなかったなどとして、上告を正式に断念したと発表した。
これにより、@については無罪が確定した。
上告理由は限定されており、刑事訴訟法・民事訴訟法によってそれぞれ限られている。
刑事訴訟法405条
- 判決に憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤りがあること(1号)
- 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと(2号)
- 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又は刑事訴訟法施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと(3号)
ーーー
今回最高裁は、被告と弁護人の上告趣意は実質は事実誤認、単なる法令違反の主張であり、上告理由に当たらないとして棄却した。
その上で、業務上過失致死罪の成否について職権で判断した。要旨は次の通り。
・ | 行政指導自体は任意の措置を促すものであり、薬害発生の防止は一次的には製薬会社や医師の責任で、国の監督権限は二次的・後見的なもの。 これらの措置に関する不作為が公務員の服務上の責任や国の賠償責任を生じさせる場合があるとしても、これを超えて公務員に個人としての刑事法上の責任を直ちに生じさせるものではない。 |
・ | しかし、当時広範に使用されていた非加熱製剤中にはHIVに汚染されていたものが相当量含まれており、HIVに感染してエイズを発症する者が出現し、いったんエイズを発症すると有効な治療の方法がなく、多数の者が高度のがい然性をもって死に至ること自体はほぼ必然的なものとして予測された。 |
しかし当時は同製剤の危険性についての認識が関係者に必ずしも共有されていたとはいえず、医師や患者においてHIV感染の結果を回避することは期待できなかった。 | |
・ | 同製剤は、国によって承認が与えられていたものであり、国が明確な方針を示さなければ引き続き安易な販売や使用が行われる恐れがあった。その取り扱いを製薬会社等に委ねれば、その恐れが現実化する具体的な危険が存在していた。 |
・ | このような状況の下では、薬務行政上、その防止のために必要かつ十分な措置を取るべき具体的義務が生じたといえるのみならず、刑事法上も、非加熱製剤の製造、使用や安全確保に係る薬務行政を担当する者には、社会生活上、薬品による危害発生の防止の業務に従事する者としての注意義務が生じていた。 |
・ | 被告は、非加熱製剤が生物製剤課の所管に係る血液製剤であることから、厚生省における同製剤に係るエイズ対策に関して中心的な立場にあった。厚相を補佐して、薬品による危害の防止という薬務行政を一体的に遂行すべき立場にあったのであるから、被告には、必要に応じて他の部局等と協議して所要の措置を取ることを促すことを含め、薬務行政上必要かつ十分な対応を図るべき義務があったことも明らかである。 |
・ | 非加熱製剤の販売中止・回収や、医師に不要不急の投与を控えさせる措置を取ることを不可能または困難とするような重大な法律上または事実上の支障も認められないのであって、被告においてその責任を免れるものではない。 |
さきにBayer の失血予防薬 Trasylol (Aprotinin) の薬害問題について報じた。
2008/2/21 Bayer の薬害問題
Product Liability で厳しい米国で、被害者からの損害賠償請求がどうなるのだろうと思っているときに、ある判決が出た。
事件はWarner-Lambert
Co. v. Kent と呼ばれるが、Warner-Lambert の糖尿病の処方薬
Rezulin に関するもので、1997年にFDAの承認を得たが、これによる死亡が63件に達し、2000年にFDAの指示で販売停止となった。
ミシガン州の糖尿病の患者27人が肝機能障害でWarner-Lambert
を訴えた。
ーーー
この裁判の問題は2点ある。
米国ではFDAが承認した薬品についてはProduct Liability の訴訟は認められていないが、FDAの承認を得るときに fraud (不正、ごまかし)があった場合はどうかということである。
2001年のBuckman v. Plaintiffs' Legal Committee 事件で最高裁はこの場合も訴訟を認めないという判断を示した。
Rehnquist 最高裁長官は、fraud に対してはFDAに処罰や是正の権限が与えられており、FDAに任せるべきであり、訴訟はFDAの処分を歪曲することになるとした。
もう一つは、連邦法が州法に優先するのかどうかという問題である。この問題は Pre-emption と呼ばれる。
ミシガン州法によれば、FDAが承認した薬品についてはProduct Liability の訴訟は認めないが、FDAの承認を得るときに fraud があれば訴訟が認められるとなっている。
これと上記の最高裁の判例と、どちらが優先するのかという問題である。
最高裁は本年2月、Medtronic v. Riegel 事件で連邦法優先の判決を出した。
血管形成手術を受けた患者(Charles Riegel )が医者が規定以上の圧力をかけたためバルーンカルーテルが破裂し重傷を負ったとしてカルーテルのメーカーのMedtronic を訴えた裁判で、医療器具に関してはFood, Drug, and Cosmetic Act の医療器具修正条項で明確に州法に優先すると記載されているのが理由であった。
ーーー
この事件で、第一審ではミシガン州法よりもFDAにfraud の処罰の権利を与えた連邦法が優先するとして却下された。
しかしニューヨーク連邦控訴裁判所は逆転判決を出した。
ミシガン州法はfraud
の処罰を決めたものではなく、製造業者の不正により市場に出た製品で被害を受けた消費者に製造物責任の訴訟をする窓口を造るだけのものであるとした。
3月初めの本件の最高裁の協議では判断が
4対4となり、結論が出なかった。
John Roberts Jr. 最高裁長官が被告のWarner-Lambert の親会社のPfizer の株式を所有しているため、棄権せざるを得なくなったためである。
最高裁で控訴審判決を否定できなかったため、控訴審判決が有効となった。
但し、最高裁で決定に至らなかったため、判例とはならない。
この秋に予定されているWyeth v. Levine でどんな判決がでるかが注目されている。
Diana Levine が偏頭痛によるめまいで病院に行った。医者はWyeth 製造の薬 Phenergan * を腕に注射した。
*塩酸プロメタジン、抗ヒスタミン剤で吐き気止めに使われる。
めまいが治らないため医者は静脈注射を行なった。薬が動脈に接触し、壊疽をおこし、腕を切断せざるを得なくなった。薬のラベルには動脈に触れると壊疽をおこすので注意が必要と明記されている。静脈注射については触れておらず、FDAも静脈注射によるリスクについてラベルに書くようには指示していない。
バーモント州の陪審員は静脈注射のリスクが書かれていないとして、670万ドルの賠償を命じた。
州最高裁もこれを認めた。
この判決次第では、少なくともミシガン州のTrasylol の被害者はBayerを訴えることができるかも知れない。
2008/3/8 アルミナメーカー、ボーキサイトの国内精製から撤退へ
昭和電工、日本軽金属、住友化学のアルミナメーカー3社が環境問題から2015年までにボーキサイトの国内精製から撤退すると報じられた。(3/7日本経済新聞)
各社は輸入したボーキサイトを苛性ソーダで溶融し、水酸化アルミニウムとし、更にこれを焼成してアルミナを製造している。
アルミナの電解でアルミニウムができるが、日本では後記のとおり各社が撤退し、日本軽金属の蒲原製造所で唯一、少量の生産を行なっている。
水酸化アルミの生産時に膨大な量の赤泥ができる。酸化鉄を主成分とし、SiO2とTiO2が混在している。
赤泥は以前は海岸の埋め立てに使い、工場用地を拡大していたが、最近は用途がなく、止む無く海洋投棄を行なっている。
赤泥は産業廃棄物であり、産業廃棄物の海洋投棄は、1972年にできたロンドン条約(「1972年の廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」)で原則禁止されている。(日本では1973年11月発効)
第1条
締約国は、海洋環境を汚染するすべての原因を効果的に規制することを単独で及び共同して促進するものとし、また、特に、人の健康に危険をもたらし、生物資源及び海洋生物に害を与え、海洋の快適性を損ない又は他の適法な海洋の利用を妨げるおそれがある廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染を防止するために実行可能なあらゆる措置をとることを誓約する。
しかし、ロンドン条約の付属書Tの中に例外として産業廃棄物に当たらないという項目がある。
その一つが
「汚染されていない不活性な地質学的物質であって、その化学的構成物質が海洋環境に放出されるおそれのないもの」。
日本国内法では、赤泥がこの条件に当てはまるとし、例外項目として赤泥の海洋投棄を「特別」に認めている。
グリーンピースの調査では海洋投棄の状況は以下の通り。
年間投棄量 | 年間投棄回数 | 一回の投棄量 | 投棄海域 | |
日本軽金属 | 672千トン | 計67回 | 10,000トン | 八丈島南東沖 |
住友化学 | 484千トン | 約90回 | 5,300トン | 高知沖 |
昭和電工 | 453千トン | 計99回 | 4,600トン | 八丈島沖 |
合計 | 1,609千トン | 19,900トン |
(この数字は、海洋に投棄するために中和された汚泥状の重量で、すべてを乾燥させるとおよそ3分の1の重量になる)
3社は海洋汚染の影響などを考慮、自主的に撤退の方針を決めたもの。
昭電と日軽金は海外の資源大手と同様にボーキサイトを採掘場近くで精製し、残渣を採掘場に埋め戻す体制を取る。
*ボーキサイトの産地のJamaicaには「Grass & Sheep Law」があり、残渣を採掘場に埋め戻した上で、牧草の種を蒔き、羊を飼うことが義務付けられている。
住友化学はボーキサイト精製から完全撤退し水酸化アルミを海外メーカーから購入する。
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昭和電工は2007年3月、インドネシアでのアルミナ工場建設に関して、事業性評価を行うための合弁会社 P.T. Indonesia Chemical Aluminaを、インドネシアのPT. Antam Tbk、シンガポールのStraits Trading Amalgamated Resources (スター社)および丸紅と共同で設立することで合意した。
インドネシアのカリマンタン州タヤン地区で原料ボーキサイト鉱石の採掘からケミカル用アルミナ製品(水酸化アルミニウムとアルミナ)までの一貫生産を行なうもので、アルミナ製品の生産能力は年産30万トンを予定している。
同社は赤泥の海洋投入を2015年度までに全面的に終了することにしている。
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日本軽金属と双日、ベトナム化学公団、同公団の100%子会社のSouth Basic Chemical の4社は2006年11月、ケミカル用途水酸化アルミニウム工場建設に向け 事業性調査の基本合意契約を締結した。
2006年7月にベトナム首相府からプロジェクト推進の承認を取得しており、ベトナム南部のラムドン省にて、原料となるボーキサイトの埋蔵量確定作業に着手するとともに、工場建設に伴う環境アセスメント調査を開始した。
2008年末までにボーキサイト鉱区の探査により最終的な工場建設地を選定し、合弁会社を設立して、工場建設を開始する。
新工場の水酸化アルミニウムの生産能力は年間約55万トンを予定している。
プロジェクトの総事業費は約400億円の見込み。
同社は清水工場で水酸化アルミニウムとアルミナを生産しているが、ベトナムの新工場に水酸化アルミニウムの生産拠点を移転する。
South Basic Chemical
は傘下にボーキサイト鉱区を持つ鉱山会社を保有し、水酸化アルミニウムの生産を行っている。
付記
日本軽金属は2008年7月、本計画からの撤退を決めた。工場建設費高騰と世界経済の不透明感から採算確保が難しいと判断。
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アルミナの電解によるアルミニウム精錬は、日本では1978年頃には6社で164万トンの能力があった。
しかし「電気の缶詰」と言われるアルミニウムは石油危機による電力料の高騰で競争力を失い、1979年には「110万体制」、1982年に「70万体制」、1986年には「35万体制」となり、1988年には日本軽金属・蒲原の3.5万トンのみとなった。
現在は同工場1万トンが動いているだけである。
各社はブラジル、ベネズエラ、カナダ、インドネシア、豪州、ニュージーランド等、海外での開発に参加し、製品を引き取っている。
詳細 http://www.knak.jp/livedoor/25/aluminium.htm
2008/3/10 OPEC総会、原油生産据え置き決定、原油価格 高騰
OPECの定例総会が3月5日、ウィーンで開幕、4月からの加盟12カ国(イラクを除く)の原油生産量を現状の日量2,967万バレルのまま据え置くことを決めた。
イラクを除く 10カ国 : 2,725万バレル アンゴラ(2007/1加盟) 190万バレル エクアドル(2007/12復帰) 52万バレル 合計(イラク除く 12カ国) 2,967万バレル * エクアドルは1963年から1993年まで加盟していたが、拠出金の負担が重いなどの理由で脱退していた。
発表は以下の通り。
・ | 米国の景気下降と金融市場危機が世界の経済成長、及び、その結果として石油需要の減少リスクを増大させていることを認識している。 |
・ | しかし、石油の供給は十分にあり、石油在庫は過去5年の平均を上回っている。 現在の石油価格は市場のファンダメンタルを反映しておらず、米ドルの弱さ、インフレ、コモディティ市場への資金の流入によるところが大きいことを懸念する。 |
・ | 季節的に第2四半期は需要が減退するが、OPECは生産レベルを維持することとした。 引き続き市場の安定を図り、適切な供給を行なう。 |
OPECはベネズエラの石油国有化に関するExxonMobil との紛争(2008/2/20 速報 WTI原油価格 過去最高値更新 )に関して、下記のコメントを行なった。 http://www.knak.jp/blog/2008-02-2.htm#wti
OPECはベネズエラの天然資源に関する主権の行使を支持する。国際法で認められ、アルジェ、カラカス、リヤドのOPECのサミットで確認した権利である。
OPECは紛争が誠意をもった、友好的な交渉で解決されることを望む。
また、温暖化問題でエクアドル大統領が国連に提案したYasuni-ITT Initiative が、OPECのエネルギーと環境保護の目的に合致するとし、これを支持した。
2007年9月24日に国連温暖化会議で提案したもので、原住民が自発的に外界から隔離して居住し、世界で最も biodiverse な(生物が多様化した)場所のひとつであるYasuni National Park で、自然保護のため、約10億バレルの油田を開発せずに放置するという提案である。
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OPECの決定を受け、原油価格は高騰し、史上最高値を更新している。
3月7日のNew York 市場のWTI原油先物相場は一時106.54ドル/bbl と、初めて106ドルを超えた。
終値は6日が105.47ドルで史上最高。3月7日の東京市場ドバイ原油 終値は 96.95ドル/bbl と過去最高を更新した。
東京市場オープンスペックナフサは2月29日に過去最高の910ドルとなっている。
各分野とも増収、増益となった。
部門別実績は以下の通り。(単位:百万ドル)
|
売上高
Textiles & Interiors 部門のINVISTA は2004年にKoch Industries に売却
DuPont Pharmaceuticals は2001年6月に Bristol-Myers Squibbに売却
営業損益(特別損益を除く)
Textiles & Interiors 部門のINVISTA は2004年にKoch Industries に売却
Pharmaceuticals は2001年6月に Bristol-Myers Squibbに売却
売却済みのPharmaceuticals で多額の利益が発生している理由は以下の通り。
2001年、DuPontは世界の事業の構造改革を実施した。4月に競争力を失ってきたポリエステルおよびナイロン工場の閉鎖を発表、3カ月後にはポリエステル事業の一部を売却した。
同年6月、DuPont Pharmaceuticals をBristol-Myers Squibbに売却するという決断をした。医薬品事業に必要な巨額投資は、同社にとっても、あまりにリスキーだったからである。売却額は78億ドルで、税引き後利益は38億6,600万ドルである。
但し、条件として、抗高血圧薬のCozaar(R)、Cozaar とチアジド系利尿剤 との合剤 Hyzaar(R) の権利は DuPont が維持し、Merckにライセンスした。
「医薬部門」の利益はこの特許料で、実績は以下の通り(百万ドル)。
2002 2003 2004 2005 2006 2007 468 548 681 751 819 949 2007/3/30 デュポンの部門別損益
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同社の各部門の製品は以下の通り。
Agriculture & Nutrition | ||||||
: |
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Coatings & Color Technologies | ||||||
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||||||
Electronic & Communication Technologies | ||||||
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Performance Materials | ||||||
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Safety & Protection | ||||||
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全社損益の推移は以下の通り。
2001-03の大幅増減は下記の特別損益(税引前)によるもの。
2001 DuPont Pharmaceuticals 売却益 6,136百万ドル
2002 会計制度変更 -2,944百万ドル
2003 Invista分離関連 -1,915百万ドル
Westlake Chemical は10日、同社の創設者で元会長のT.T. Chao が3月7日に逝去したと発表した。86歳だった。
同氏は1921年、蘇州に生まれ、1946年に台湾に移住した。
1954年に台湾初のPVC工場を建設、1964年にCGPC
を設立した。
CGPCは当初は米国 Gulf とのJVで、China Gulf Petrochemical Corp と称したが、その後
Gulf 撤退で、China
General Petrochemical Corp.に改称した。(略称は同じ)
その後、T.T. Chao
は同社を手放しているが、現在、CGPCは自社でPVC関連を、子会社の台湾VCMでVCM、台湾PPでPP、台達化学でPS/ABS、Asian
Polymer でLDPEと、幅広く事業を行っている。
T.T. Chao は1986年に米国に進出、Westlake Chemical
を設立した。
その後、事業を拡大し、ルイジアナ州に2箇所、ケンタッキー州に1箇所のコンプレックスでエチレン、塩素、LDPE/LLDPE、VCM、PVC、SMを生産、他に、PVCパイプ、窓枠/ドア材なども扱っている。
1992年には故郷の蘇州にWestlakeとNorsk Hydro 他とのJVのSuzhou Huasu Plastics を設立し、PVC、PVCフィルムを生産している。
詳細は 2006/9/16 Westlake Chemical、20周年
Westlake Chemical の現在の能力は以下の通り。(単位:100万ポンド、2.2で割ると千トン能力)
事業部 | 製品 | 立地 | 合計 | ||
Lake
Charles (LA) |
Calvert
City (KY) |
Geismar (LA) |
|||
Westlake Petrochemicals | エチレン | 2,400 | |||
Westlake CA&O | エチレン | 450 | 2,850 | ||
塩素 | 410 | 410 | |||
ソーダ | 450 | 450 | |||
Westlake Polymers | LDPE | 850 | 850 | ||
LLDPE | 550 | 550 | |||
Westlake Monomers | VCM | 1,300 | 600 | 1,900 | |
Westlake PVC | PVC | 800 | 600 | 1,400 | |
Westlake Styrene | SM | 485 | 485 | ||
North American Pipe | PVC Pipe | Booneville(MS), Springfield(KY), Litchfield(IL),Wichita Falls(TX), Van Buren(AK),Bristol(IN), Leola(PA),Greensboro(GA) |
810 | ||
Westech Building Products | Fence, Deck and Railing | Evansville(IN) | 75 | ||
Doors and Window Profiles | Calgary(Alberta), Pawling(NY) | 30 | |||
Suzhou Huasu Plastics Company (蘇州) |
PVC | Westlake
43%/Norsk Hydro 32%/ Jiangsu Chemical Pesticide Group 14%/ China Taicang Petrochemical 3% |
726 | ||
PVC film & Sheet | 132 |
更に1989年にはマレーシアに進出、Chao Group (53.2%)、マレーシア政府のPNB(45.5%)ほかが出資してTitan Chemicals を設立し、マレー半島南端のパシールクダンにエチレン、HDPE、LDPE、プロピレン、PPのコンプレックスを建設、運営している。
付記
Titan Chemicals は2006年3月にインドネシアのPEメーカー P.T. PENI (BP/三井物産/住友商事合弁、LLDPE/HDPE 450千トン)を買収し、PT. TITAN Petrokimia Nusantara と改称した。
2010年、湖南石油化学がマレーシアのTitanを買収、この結果、湖南石油化学がPT Titan Kimia NusantaraとPT. TITAN Petrokimiaのオーナーになった。
2014年現在の能力は以下の通り。
3月10日の日本経済新聞は 「中国・華南 コスト高の荒波 『世界の工場』 一部外資撤退」を伝えている。
労働契約法改正などに伴う人件費の高騰や人民元相場の上昇、税制面での外資優遇廃止、付加価値の低い加工工場への優遇策縮小などで、一部外資に撤退の動きが出ている。
これは華南だけでなく、中国全体の問題である。
ーーー
全国人民代表大会の常務委員会で2007年6月29日、労働者の解雇を制限する「労働契約法」が可決、成立した。
2008年1月1日施行で、事実上、労使間で「終身雇用」契約を結ぶよう求め、違反した雇用者の賠償金支払いを義務付けた。
2007/7/3 中国、労働契約法を可決
労働契約法の施行で人件費が上昇している。広州市は最低賃金を10%増の860元(約12,400円)に設定、上海市などを上回り、国内最高額に達するという。
朝鮮日報 によると、労働契約法施行で人件費が25−40%上昇している。
また、人民元の昨年の対米ドル上昇率は6.9%に達し、中国製品の価格競争力は低下している。
「中華人民共和国企業所得税法」、「中華人民共和国企業所得税法実施条例」が2008年1月1日から施行された。
外国企業は優遇税率が適用されていたが、2008年1月1日からは国内外企業に対する所得税率が一律25%に統一される。
(一部、過渡的措置あり)
2008/1/4 中国、新企業所得税法施行
中国商務部と関税総署は2007年12月24日、共同で第2回目の「加工貿易禁止商品目録」を発表した。
2008年1月21日から実施され、対象製品の加工貿易の税制面のメリットがなくなる。
中国政府は付加価値の低い商品や、加工技術レベルの低い商品の輸出を抑制し、加工貿易をレベルアップさせ、貿易拡大方式への転換を目的としている。
2008/1/12 中国、第2回「加工貿易禁止商品目録」 589件を発表
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現時点では日系工場の撤退はなく、香港や台湾、韓国企業が運営する下請け工場の閉鎖が目立つ。
山東省煙台市で1月に工業団地に進出していた韓国系繊維会社の韓国人役員10人余りが従業員3,000人余りと生産設備を置き去りにし、夜逃げ同様に姿をくらました。下請け会社に約4億5000万円の債務があり、従業員に対する賃金支払いが滞っているという。
大韓商工会議所が中国韓国商会加盟350社を対象に行なった経営環境実態調査の結果では、25%が「中国での事業清算を真剣に検討したことがある」、3.1%が「現在清算準備を進めている」と答えた。
韓国輸出入銀行の報告書では、山東省青島地区に進出した韓国企業のうち2.5%に当たる206社が無断撤退した。
会社を清算する場合、債務や賃金の支払いのほか、複雑な清算手続き、過去にさかのぼって減免された土地使用料や税金の納付を求められる、地方政府の非協力的態度などがあり、無断撤退に走るという。
大韓貿易投資振興公社(KOTRA)は中国の青島、上海、北京、広州にある韓国投資企業支援センターに「経営リスク支援デスク」を設置した。
進出企業に労務、税務、会計など経営上の問題点のほか、中国の他地域や第三国への生産移転、中国からの撤退などに関するアドバイスを与える。
しかし、大韓商工会議所は、「経営環境の悪化で撤収まで考えている企業が増えているが、大多数の進出企業は依然として中国での事業継続を望んでおり、中長期的な政府、関係機関の経営支援策が必要だ」としている。
ーーー
労働契約法に関しては、ダノンとの争いを続けているワハハの宗慶後会長(全国人民代表大会の浙江省代表)は3月9日、次のように批判し、変更を要求した。
新しい労働法は昔の国有企業の「鉄茶碗」(割れない=従業員は全て公務員で失業はあり得なかった)時代に戻すものであり、企業の競争力維持のためには変更が必要である。
労働者の権利を守るべきだが、企業が競争力を失くすと労働者はもっと傷つくことになる。
付記
2008/3/25の日経には、「玩具生産 中国集中見直し」の記事が掲載されている。
タカラトミーはベトナムの工場に新製造ラインを建設し、中国でのミニカー生産を全面移管する。
バンダイはタイの工場を増強、主に中国から生産を移管する。
エポックも現在9割の中国生産比率を7割に下げる。
人件費上昇に加え、輸出産業への優遇策縮小で低コスト生産拠点としての優位性が低下したのが理由。
厚生労働省は10日、血液凝固防止作用があり、透析治療に不可欠なヘパリン ナトリウム製剤について、米国内で副作用が疑われる報告が相次いだことから、予防的な措置として、国内メーカー3社が自主回収を始めたと発表した。
米食品医薬品局(FDA)が2月28日、昨年12月以降に米Baxter 製のヘパリン製剤を投与された448人がアレルギー反応を起こし、21人が死亡したと発表した。FDAによると、Baxter が仕入れている米国のScientific Protein Laboratories (SPL) と、同社の中国JVのChangzhou (常州)SPLの原液を使ったヘパリン製剤の一部から不純物が見つかった。
扶桑薬品工業、大塚製薬工場、テルモの3社が、米国SPL社から原液を輸入していた。
ヘパリンは透析中や手術後に血栓ができて血管が詰まる血栓塞栓症の予防や治療、血管にカテーテルを挿入する際の血液凝固防止などに広く使われている。
米国ではBaxterが約半分のシェアを持っており、APP Pharmaceuticals が同社と競っている。APP のヘパリンでは問題は出ていない。
参考
1915年、Johns Hopkins大学の学生であったMacLeanが偶然に犬の肝臓から抗凝固作用のある物質を発見した。
肝臓に多く存在すると考えられたため"heparin"
と名付けられた(hepato-
は「肝の」という意味)。
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米紙によると、原因はまだ不明だが、中国のChangzhou SPL製の原液が疑われている。
まず、Changzhou SPL は化学会社として扱われており、中国医薬食品局の管轄下になく、米FDAも米国で販売される医薬品原体の製造開始以後、検査をしたことがない。
また、中国では昨年来、ヘパリンで混乱を生じている。
ヘパリンは豚の小腸からつくられるが、全国で豚の病気が蔓延しているため、ヘパリンの製造者は原料収集に駆け回っている状況にある。
この結果、仲買人が、不衛生的な、政府の監視を受けない、小さな村工場からも買い集めており、原料ソースが不明の状態にある。
噂では、羊の狂牛病であるスクレイピーの懸念から欧米では10年以上前から使用を止めている羊の小腸を使っているところとか、コストダウンのため、blue-ear disease という疫病にかかった豚の小腸を使っているところもあるといわれている。
2月にFDAがChangzhou SPL を視察した結果、記録に不備があること、ヘパリン原液のコンタミを防ぐ手段をとっている証拠がないことが明らかにされた。また製造指示書も不十分なものであるしている。
他方、Baxterと競合するAPP Pharmaceuticals は深センのShenzhen Hepalink Pharmaceutical Co から原液を輸入しているが、同社はFDAや中国当局などから何度も検査を受けて、承認を受けており、大量の記録を揃え、各ロットごとにソースがトレースできるようになっているとしている。
国内3社は「国内で製造販売したヘパリン製剤から、現時点では不純物は見つかっていない。副作用報告もない」としている。
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米国製の医薬品が実は中国の原料を使っており、それがこんな杜撰なやり方でつくられ、チェックもされていなかったとは驚きである。
ーーー
付記
その後785人に重いアレルギーなどの副作用が確認され、少なくとも81人の死亡例がheparin との関連が疑われている。
Baxter International のRobert Parkinson CEOは4月29日、米下院のエネルギー商業委員会小委員会の公聴会で、同社の血液凝固阻止剤 heparin に不純物が意図的に混入されていたとの見方を示した。
FDAは3月、heparin に含まれていた汚染物質を「過硫酸化コンドロイチン硫酸(OSCS)」と特定したと発表した。
Heparin は通常はブタの腸などから製造されるが、OSCSを使用すると安価に製造できるという。
動物軟骨由来のコンドロイチン硫酸は関節炎治療に広く使われているサプリメントで、抗凝血性はないが、分子の改変が抗凝固性をもたらす。
中国当局はOSCSが患者の死亡やアレルギー症状の原因だとするFDAの調査結果を否定している。
日本では伊藤ハム子会社伊藤ライフサイエンスが輸入した原薬からOSCSが検出された。国内での確認は3例目。
2008/3/15 ロシアのLukoil、ウクライナで塩ビ工場建設開始
ロシアのLukoil-Neftekhim のウクライナの子会社 KarpatNaftoKhim はウクライナのKalush (Kiev の南西500km)で同国初のPVC工場の建設を開始した。
能力は30万トンで、 Uhde がVinnolit の高機能リアクターを使った最新技術で建設する。投資額は200百万米ドル。
Uhde はPVCと同時に同地にイオン交換膜電解工場の建設も請け負っている。110百万ユーロを投じて、隔膜法に代えてイオン交換膜法のプラントを建設するもので、能力は塩素177千トン、ソーダ200千トンとなっている。本年央に完成の予定。
KarpatNaftoKhim
は同地でエチレン、プロピレン、PE、塩素/ソーダのほか、370千トンのVCM工場を有している。
しかし、東欧最大のPVCメーカーであるBorsodchem が自社VCM増設に伴い購入を取り止める決定を行なった結果、極めて低い操業となっており、PVC自製を決めたもの。
Lukoil はロシアの大石油会社で、石油化学に関してはKarpatNaftoKhim の他に、以下の子会社を有している。
Saratovorgsintez
立地:ロシア
Saratov
製品:アクリロニトリルほか
DuPont技術で青酸ソーダ(15千トン)を建設
Stavrolen
立地:ロシア
Budennovsk
製品:PP(ダウ技術
120千トン)、PE
LUKOIL
Neftokhim Burgas
立地:ブルガリア
Burgas
製品:ポリマー、有機薬品
なお、2004年9月に ConocoPhillips はLukoil の株式の7.6 %を購入、将来20%まで増やすことができる旨の契約を締結している。.
ーーー
これまで KarpatNaftoKhim のVCMを購入していたハンガリーのBorsodchem は塩ビとイソシアネートのメーカーで、製品は以下の通り。
塩素:水銀法 125千トン
VCM:現有能力 220千トン、増強後 320千トン
PVC:330千トン(うち、150千トンは信越化学が1973年にChemocomplex に技術供与したもの)
* 信越は1975年にポーランドのPolimex にも技術を供与している。(200千トン)
PVCコンパウンド
MDI:60千トン
TDI:60千トン(100千トンへの増設計画あり)
2006年に欧州最大の買収ファンドの英 Permira とオーストリアのVienna Capital Partners がつくったファンドがBorsodChem の全株式を取得した。
Permiraについては 2007/10/26
欧州最大買収ファンドのペルミラ、農薬大手アリスタ買収
これに至るまでには、Borsodchem とロシアの Gazprom との戦いがある。
2000年6月にBorsodchem はハンガリーのもう一つの石化会社Tiszai Vegyi Kombinat (TVK) の28.5%を取得したが、これをTVKに19.6%出資しているハンガリーの石油・ガス企業のMOLに譲渡しようとした。Borsodchem はエチレン取得のためTVK株式を購入したが、MOLが供給を保証したため、株式保有の必要性がなくなった。
TVKの事業 (現状)
エチレン:660千トン
LDPE: 97千トン
HDPE:420千トン
PP:280千トン
2000年下半期に大騒動が起こった。
アイルランドのMilford Holdings という名前だけの会社がBorsodchem
の24.8%を取得した。
更にオーストリアのCE OIL & GAS (本件のために設立された会社)が同社の59%を取得した。
Milford Holdings の背後に誰がいるのか分からないまま、Milford
は臨時株主総会を開催することを要求、取締役交代とTVK株式売却取り止めを求めた。
そのうち、Milford の背後にGazprom
がいることが分かり、CE OIL & GAS もGazprom
と組んでいるのではないかとの噂が流れた。
(CE OIL
& GAS は
VCP Capital Partners の子会社で、Gazprom
との結びつきはなかった)
*
Milford は一時、持株をGazprom
子会社の
SIBURに移した。
このため、SIBURがBorsodchem
を買収したという誤った記事が出ている。
Borsodchem は要求を拒否し、長い交渉が行なわれた。
この争いの最中に、BorsodChem
はGazprom
の子会社の
SIBUR からの原料購入の代わりに、Gazprom
の競争相手のLUKoil からエチレンとVCMを購入する契約を結んだ。これが上記のKarpatNaftoKhim のVCMである。
2001年6月には、遅まきながらハンガリー国会が乗っ取り防止の証券取引法改正を行なった。(この法律はLex
BorsodChem=BorsodChem法と呼ばれた)
2001年6月、Milford Holdings はBorsodchem に対する法的闘争をギブアップした。
2003年4月、CE OIL & GAS の親会社のVCP Capital Partner はMilford の所有するBorsodchem 株式を買収する契約を結び、同社株を合計88.97%取得した。その後、2004年に同社は株式の一部売却を決めた。
2006 年9 月、Permira Funds とVCP Capital Partner のファンドが BorsodChem の全株式を買収した。
なお、問題の原因となったTVKは、2007年2月にハンガリーの石油大手MOLが持株を2倍に増やし、84.86%を所有している。