ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
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2011/6/16 福島原発、汚染水浄化装置 

東京電力は6月14日、福島第1原発で放射性物質を高濃度に含む汚染水を浄化するシステムの一部の試運転を始めた。

水漏れや流量不足が見つかったが、その後の補修や点検で改善した。

先ず、放射性セシウムなどを取り除く米 Kurion社の装置で動作を確認したところ、セシウムの量を最大3300分の1にできた。

15日午後からストロンチウムなどを処理するフランスのAreva製の装置に低濃度の汚染水を流し、性能をチェックする。
次にKurionの装置と組み合わせた最終試験も実施し、高濃度汚染水の処理を17日から行う。

すべての装置が順調に動けば、1日1,200トンの高濃度汚染水を流して浄化、放射線物質の濃度を1000分の1から1万分の1まで下げられるという。

6月末〜7月初めには原子炉の冷却水として再利用する「循環注水冷却」を始める。

高濃度汚染水はタービン建屋などに10万トン以上たまっており、日々増え続けている。来年3月末までに計25万トンを処理する計画。

費用は年末までに合計で531億円となる。

 

汚染水浄化装置の概要は以下の通り。

1.油分離装置 (東芝) 

滞留水に含まれる油分及びスラッジを自然浮上分離により除去する。

2.セシウム吸着塔 (米 Kurion社)

3種類の吸着剤を装填した吸着塔で放射性セシウムやヨウ素を除去する。
交換式の吸着剤が入った容器が6本1組で4列配置されている。

Kurionが独占権を持つ無機吸着媒体 "Ion Specific Media"によって水から放射性物質を取り除き、ガラス固化により容量を減らして永久的に固定化する。
これは、スリーマイル島原子力発電所における汚染水除去の手法を改良したもの。

他の基材の場合は海水ではうまく機能しないが、これは、pH、海水、表面活性剤に対してほとんど問題なく利用できるという。

Kurion社は3月29日にこの媒体の供給が可能なことを発表、東電が交渉して決定した。
決定後、わずか5週間で主要機器と媒体が到着した。

Kurion発表 http://www.businesswire.com/news/home/20110606005809/ja/

Kurion社は2008年創業で、名前は Marie Curie からのKur Ion を合わせた造語。

3.除染装置 (仏 Areva社)

汚染水を攪拌しながら特殊な薬剤を注入、沈殿を生成させて浄化された上澄みを抜き取る。
セシウムのほかストロンチウムなどを砂に吸着させる。

4.淡水化装置

海水の塩分を除去(@逆浸透膜、A蒸発濃縮)

 Aは8月及び10月に稼働の予定。

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東電ではこの処理で発生する汚泥の1cm3あたり1億ベクレルという高濃度の放射性廃棄物が年末までに2000m3(ドラム缶1万本)発生するとみている。
そこに含まれる放射性物質は20京ベクレルに達する。

この高濃度放射性廃棄物は、一時的に敷地内に保管する計画は示されているが、最終処分までの道筋は未定となっている。

現行の原子炉等規制法では今回の廃棄物を処理するための規定がなく、保安院は専門家の意見を聞きながら基準作りを進める。

 


2011/6/17 SABIC、カーボンファイバーの技術導入;DowJV設立の覚書 

SABIC615日、イタリアのMontefibreとの間でカーボンファイバーの技術導入契約を締結したと発表した。

SABIC及び全世界の子会社で技術を使用できるが、まず、サウジに建設するカーボンファイバー工場に適用する。

両社はまた、Montefibreのスペインの既存のアクリル繊維製造工場に隣接して、新しくカーボンファイバー工場を建設するFSを実施する覚書も締結した。これによりサウジプラントの製品開発を早め、需要家に先行販売を行うもの。

サウジの計画は能力は年産3,000トンで、中東及び国際市場での販売を目指す。

SABIC2009年にSipchemとの間で新プロジェクトでの相互協力覚書を締結したが、その中に、この計画が含まれている。

その後、MMA関連については三菱レイヨンと、アクリロニトリルについては旭化成と契約を締結している。

SABICの計画:投資額 32億ドル

 MMA  250千トン  三菱レイヨンとJV Saudi Methacrylates Company
 PMMA   30千トン
 アクリロニトリル  200千トン  旭化成とJV Saudi Japanese Acrylonitrile Company
 青酸ソーダ   40千トン
 ポリアクリロニトリル   50千トン  
 ポリアセタール   50千トン  
 カーボンファイバー   3千トン  

2009/5/11  サウジのSABICSipchem、新プロジェクトで相互協力の覚書

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Montefibre1972年にMontedison の繊維関連企業を統合して設立された。

その後、順次事業を分離し、現在はアクリル繊維のみを扱っている。

工場は2か所
@スペインの
100%子会社Montefibre Hispania 
  年産
95千トン
A中国の吉林市 
Jilin Qifeng Chemical Fiber (吉林奇峰化繊)との50/50JVのJilin Jimont Acrylic Fiber
  年産100千トン

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これとは別に、Dow Chemical 66日にトルコのアクリル繊維メーカーのAksa Akrilik Kimya Sanayiiとの間で、カーボンファイバーと誘導品を製造するJV設立の覚書を締結したと発表した。

付記

Dowは2012年6月29日、JV設立を発表した。
社名:DowAksa Advanced Composites Holdings BV
出資:50/50

既存のYalovaの工場を拡張、将来、大規模プラントを建設する。

Aksa のアクリル繊維の製造能力は年産308千トンで、1プラントでは世界最大。

Aksa1968年に設立され、トルコのYalova市に1971年に年産5千トンのアクリル繊維プラントを建設、1986に100千トンに、1997に200千トンに拡大、2007年に現在の能力に引き上げた。

カーボンファイバーの能力は年産1,500トンで、現在倍増中とされる。→付記  グラフの通り3500トンに増強中

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PAN系炭素繊維では東レ、東邦テナックス、三菱レイヨンの3社が海外の拠点を持ち、世界市場のほとんどを押さえている。

    現在の能力

東レ  17,900トン
東邦テナックス 13,500トン
三菱レイヨン 8,150トン
3社 計 39,550トン

2006/9/9 炭素繊維

なお、東レは2011年1月に、韓国で年産2,200トンの量産工場を建設し、2013年に稼働すると発表している。

これに対し、韓国の暁星は6月14日、韓国企業で初めて炭素繊維の開発に成功したと発表した。
2013年までに2500億ウォン(約186億円)を投じ、全羅北道全州市の親環境複合産業団地に年産2
,000トン規模の炭素繊維工場を建設する。
2020年までに総額1兆2000億ウォンを投じ、年産17,000トンを確保する計画という。


2011/6/18 清水建設の月面太陽光発電プロジェクト 

米国の未来予測専門誌The Futurist (May-June 2011)のカバーストーリーは「Solar Power from the Moon」で、月面に太陽光パネルベルトを設置して電力を生産する「月太陽発電 Luna Ring」プロジェクトを紹介した。  

これは清水建設の技術研究所が推進する7つの未来型メガプロジェクト「シミズ・ドリーム」の一つ。

月太陽発電 Luna Ring  
Green Float 環境アイランド 「植物質な都市」の提案
Try 2004 ピラミット型 空中立体都市構想
インターセルシティ 持続可能な環境調和型都市
宇宙ホテル 宇宙観光旅行
月面基地 月の資源を利用した基地計画
アーバン・ジオ・グリッド構想 地上と地下の共存
デザート・アクア・ネット 砂漠に湖を。運河ネットワークによる新しい地球利用の提案。

月太陽発電 Luna Ringは清水建設の20余年にわたる宇宙建設研究をべスに、夢のある将来像を描いたもの。

エネルギーを化石燃料に依存するパラダイムから月からの無限に近いクリーンエネルギーを自由に使うという発想へ転換するもので、月の赤道を周回する太陽電池を設置し発電した電力をマイクロ波などで地上へ伝送する
人類が使うエネルギーの全部の量を月から送り、電力供給と水素製造を行う
食糧・水の確保や水素社会が促進されると同時に化石燃料の燃焼を停止させ、炭酸ガスの排出を低下させる

・絶え間なく太陽光発電をするため月赤道上の全周11,000km、幅数kmから最大400kmに成長する太陽電池群を設置。

・月が地球に向いている「月の表側」にエネルギー伝送施設を配置、
 「月の裏側」に太陽光が当たる場合は、このケーブルで伝送施設まで送電。


2011/6/20 人民元 弾力化1周年

中国の中央銀行である中国人民銀行は20106月19日、「人民元相場の弾力性を強化する」との声明を発表、 2008年8月から固定していた人民元を再び管理フロート制に戻した。

それから1年が経過した6月17日、中国人民銀行は人民元の対ドル基準値を6.4716元と、最高値に設定した。
これを受け、人民元は一時1ドル=6.4634人民元の最高値を記録、終値も前日同値の6.4744人民元で最高値となった。

一時最高値は弾力化後 5.61%の上昇となる。

中国政府はインフレ対策のため、人民元の緩やかな上昇を容認している。

市場では中国政府が、元相場の1日の値幅制限を緩和し、基準値からの変動幅を現在の±0.5%から±1.0%に広げるのではないかと取沙汰されている。

元相場の対ドル上昇は輸出企業に悪影響を与えている。
但し、対ユーロ、対日本円では1年前に比べ下落しており、EUや日本向け輸出条件は好転している。

 


2011/6/21 公取委、企業合併の審査指針を公表 

公正取引委員会は6月14日、企業合併の新たな審査指針(ガイドライン)を公表した。

政府は昨年6月に、合併審査の迅速性、透明性を高めるために基準を見直す方針を決定。公取委はパブリックコメントを募集し、最終案作りを進めていた。

2011/3/8 公取委、企業結合規制の見直し案に対する意見募集

1)手続き

公取委は、「企業結合審査の手続に関する対応方針」を決め、従来の「企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針」を廃止する。(7月1日適用)

審査期間において、届出会社から説明を求められた場合又は必要と認める場合には、その時点における論点等について説明する。また、届出会社は、審査期間において、いつでも意見書又は必要と考える資料(問題解消措置含む)を提出することができる。

2011/2/26 公取委、合併の事前審査を廃止 

2)運用指針

公取委は、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」を見直し、審査の目安となるシェアについて、国内だけでなく世界的な競争状況を勘案する。

また、市場規模が縮小している場合は合併を認めやすくすることも明記した。企業合併で値上げしようとしても需要家が調達先を別の競争相手の企業に乗り換えることが可能なため、合併が競争を制限するとは考えにくいと判断する。

主なポイントは以下の通り。青字部分が追加)

1)「一定の取引分野」の「地理的範囲」で以下を追加

国境を越えて地理的範囲が画定される場合についての考え方

前記(1)の基本的考え方は、国境を越える場合にも当てはまる。すなわち、ある商品について、内外の需要者が内外の供給者を差別することなく取引しているような場合には、日本において価格が引き上げられたとしても、日本の需要者が、海外の供給者にも当該商品の購入を代替し得るために、日本における価格引上げが妨げられることがあり得るので、このような場合には、国境を越えて地理的範囲が画定されることとなる。
例えば、内外の主要な供給者が世界(又は東アジア)中の販売地域において実質的に同等の価格で販売しており、需要者が世界(又は東アジア)各地の供給者から主要な調達先を選定しているような場合は、世界(又は東アジア)市場が画定され得る。

2)単独行動による競争の実質的制限についての判断要素

(1) 当事会社グループの地位及び競争者の状況

逆に、当該商品の需要が継続的構造的に減少しており、競争者の供給余力が十分である場合には、当事会社グループの価格引上げに対する牽制力となり得る。

(2) 輸入

輸入圧力が十分働いているか否かについては、現在輸入が行われているかどうかにかかわらず、次の@〜Cのような輸入に係る状況をすべて検討の上、商品の価格が引き上げられた場合に、輸入の増加が一定の期間に生じ、当事会社グループがある程度自由に価格等を左右することを妨げる要因となり得るか否かについて考慮する。

(4) 隣接市場からの競争圧力

隣接市場において十分に活発な競争が行われている場合や、近い将来において競合品が当該商品に対する需要を代替する蓋然性が高い場合には、当該一定の取引分野における競争を促進する要素として評価し得る場合がある。

需要の減少により市場が縮小している商品について、競合品が当該商品に対する需要を代替する蓋然性が高い場合も同様である。

(5) 需要者からの競争圧力

市場の縮小
当該商品の需要が減少して継続的構造的に需要量が供給量を大きく下回ることにより、需要者からの競争圧力が働いている場合には、当事会社グループが価格等をある程度自由に左右することをある程度妨げる要因となり得る。

ーーー

公取委は現在、新日本製鉄と住友金属工業の合併計画の1次審査を6月30日まで行っているが、これには改正後の基準を前倒しで適用する。

2012年10月の合併を目指す新日鉄と住友金属の粗鋼生産シェアは、国内で合計40%だが、世界では3%強にとどまる。
東アジアでのシェアは国内に比べて大幅に下がる。

なお、本年度の「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」改正(5月成立、7月施行)では、「公正取引委員会との協議制度」が創設された。

「主務大臣が計画を認定をしようとするに際して、当該計画に従って行おうとする措置が、事業者の営む事業の属する事業分野における適正な競争が確保されないおそれがある場合として政令で定める場合に該当するときは、あらかじめ公正取引委員会に協議するものとすること」

新日本製鉄と住友金属工業は7月に改正産活法の適用を経産省に申請する。

経産相と公取委の協議により合併審査の透明性・迅速性の向上が期待できる。
改正後は、公取委は経産相の意見に回答しなればならない。


2011/6/22  ベルギーのTessenderlo、塩ビ関連事業をIneosグループに売却 

ベルギーのTessenderloに本拠を置くTessenderlo Group614日、塩ビ関連事業をIneosグループのKerlingに売却すると発表した。

Kerlingは旧称 Hydro Polymerで、Ineos2007年にNorsk Hydro から買収した。
    
2007/5/25 INEOSNorsk Hydro からポリマー事業を買収

今回Tessenderlo Groupが売却するのは次の事業:

  ・クロルアルカリ  ベルギー・Tessenderlo  塩素 400千トン
  ・VCM  (子会社LVM Tessenderlo   550千トン
  ・PVC  (元DSM) オランダ・Beek
 (元SAV)  フランス・Mazingarbe  

合計
480千トン
  ・有機塩素誘導品  主としてトルエン系  

同社の塩ビ事業は元はDSMとフランスのSAV(Société Artésienne de Vinyle)の事業。
Tessenderlo 1976年にSAVを買収、Tessenderlo市にクロルアルカリを建設した。
DSMSAV1983年に塩ビ事業を統合してLVM(Limburgse Vinyl Maatschappij)としたが、1989年にTessenderloDSMの持分(50%)を買収し、LVM100%子会社とした。
現在は
VCMプラントをLVMの名前で運営している。

塩ビパイプ事業やプロファイル(塩ビ窓枠、ドア材など)は継続するため、今後はPVCを購入する。

付記

Tessenderlo Group2013年6月、熱可塑性エラストマーおよび塩ビコンパウンドの製造販売事業であるCTS(Compound Technology Services)事業ユニット を三菱化学に売却した。

ーーー

Tessenderlo Group19世紀末に設立され、現在下記の6つの事業を行っている。

1)無機  硫酸カリ(肥料)、燐鉱石(家畜飼料)
   
2)クロルアルカリ、塩ビ  上記
   
3)Tessenderlo Kerley  硫黄ベースの液体肥料
   
4)塩ビパイプ、プロファイル  
   
5)ジェラチン  
   
6)その他  医薬品、有機塩素誘導品、コンパウンド

同社は今回の売却で汎用品事業から離れ、スペシャルティ事業に専念する。
今後の中心は、
 食品、農業関連 (
Tessenderlo Kerley
 ジェラチン関連
 塩ビパイプ、水処理事業

ーーー

Ineos2001年にEVCICIEniChem50/50JV)の過半を取得、2005年に100%子会社とした。
   
2006/6/14  事業買収で急成長した化学会社

2007年にKerling(旧称 Hydro Polymer)をNorsk Hydro から買収した。
    
2007/5/25 INEOSNorsk Hydro からポリマー事業を買収

今回の買収でIneosの欧州の塩ビ事業は更に増大する。  

欧州のPVC能力
Norsk Hydro 2007/2報告 単位:千トン)
EVC  1,340
Solvin  1,195
Atofina   905
Hydro PolymerKerling   625
Vinnolit   620
LVMTessenderlo   450
Shinetsu   400
Vestolit   360
Cires(信越 100%)   200
Aragonesas   190
Hellenic Petrol   100

  


2011/6/22 原発の安全対策 

共産党の小池晃氏のツイッター(6月20日)が話題になっている。

共産党が今日、原子力安全保安院から受けた説明によれば、原発の安全対策が十分だと判断した理由のうち、水素爆発対策ができたと判断したのは、「原子炉建屋に穴を開けるドリル」が揃ったからだそうです。

ーーー

これは事実である。

原子力安全・保安院は6月7日、シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応する観点から措置すべき事項のうち、直ちに取り組むべき措置として、福島第一以外の原子力発電所においてシビアアクシデントへの対応に関する事項について実施するとともに、その状況を報告することを求め、原子力保安検査官が立入検査等を行い、シビアアクシデントへの対応に関する措置の実施状況について厳格な確認を行った。

これについて6月18日に発表した。
  
他の原子力発電所におけるシビアアクシデントへの対応に関する措置の実施状況の確認結果について

海江田万里経済産業相は6月18日、シビアアクシデント対策について「安全性について厳しいチェックをし、着実に実施されていることを確認した」として、安全確認が完了したと宣言した。

確認事項は以下の通り。

@ 中央制御室の作業環境の確保
A 緊急時における発電所構内通信手段の確保
B 高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備
C
水素爆発防止対策
D がれき撤去用の重機の配備

C 水素爆発防止対策は、
炉心損傷等により生じる水素の爆発による施設の損壊を防止するため、緊急時において炉心損傷等により生じる水素が原子炉建屋等に多量に滞留することを防止するための措置が講じられていることを確認する。

これについての確認結果(沸騰水型原子炉:BWRの場合)は以下の通りとなっている。

全ての交流電源が喪失した時において、炉心損傷等により発生した水素が原子炉建屋内に漏れ出した場合、原子炉建屋内への多量の水素の滞留を防止するため、原子炉建屋屋上に穴あけにより排気口を設けることとし、穴あけ作業に必要な資機材(ドリル等)を配備し、または手配済みであることを確認した。また、水素が滞留する前に作業が完了できること等、作業の安全性や確実性を十分に考慮した手順書を整備するとともに、訓練等を通じ継続的に改善することを確認した。
穴あけ作業に関する訓練への立会い等により、原子炉建屋屋上に梯子を通じて登り作業資機材を運び上げる作業、建屋天井を模擬したコンクリートに資機材を用いて穴を開ける作業が実施可能(事例として、事務所出発から穴あけ完了までに約80分)であることを確認した。
中長期的措置として、原子炉建屋の頂部に水素ベント装置を設置するとともに、原子炉建屋内に水素検知器を設置する計画であることを確認した。

ーーー

あるブログでは次のように述べている。

福島事故でもドリルで穴を開けて水素ガスを逃がす議論があって、電気ドリルでやれば引火するとして避けられたと記憶します。だから「ガスが溜まる前に行って、穴を開けてこい」になっているのですが、全電源喪失で過酷重大事故が進行している混乱の最中に、誰が適切なタイミングで指示を出せるのでしょうか。行かせるタイミングを誤れば爆発させに行くことになるのですよ。

付記

6月22日付の河野太郎議員ブログ「ごまめの歯ぎしり」は、全ての原発がシビアアクシデントへの対応を終えていないとして、問題点を列挙している。
水素対策については、水素放出用穴あけ作業必要機材配備でさえ、志賀原発では6月末、女川原発、浜岡原発では7月末完了予定となっている。


2011/6/23 日本赤十字社と田辺三菱製薬、血漿分画事業統合の検討開始 

田辺三菱製薬と日本赤十字社は6月17日、田辺三菱製薬の子会社血漿分画製剤の製造販売会社のベネシスと日本赤十字社のそれぞれの血漿分画事業部門を2012年4月1日を目途に統合する検討を開始することに合意した。

新法人は、献血者の善意に基づき無償で得られた血液を原料とし た血液製剤の国内自給の達成という公益性の高い目標のために取り組む営利を目的としない法人とする。

付記

日本赤十字と田辺三菱製薬は2012年5月8日、「一般社団法人 日本血液製剤機構」を設立し、10月1日から事業を開始することで合意した、と発表した。

売上高:約370億円(現在の両社売上高合算、薬価ベース)
主な製品:人免疫グロブリン製剤、人血清アルブミン製剤、血液凝固第[因子製剤、抗HBs人免疫グロブリン製剤、乾燥濃縮人アンチトロンビン3製剤、人ハプトグロビン製剤

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田辺三菱製薬は2014年5月29日、100%出資連結子会社のベネシスを2014年10月1日付で吸収合併すると発表した。

血漿分画事業を日本血液製剤機構への譲渡が決まり、従業員の転籍も終えたところから、ベネシスの役割は終了したと判断した。

血漿分画製剤の国内必要原料を一括して処理できる能力を持つ大規模アルコール分画工場の新設を行い、効率的な生産体制によって血液製剤の国内製造における中核的役割を担うことを目指す。

血漿分画製剤は 、献血で得られた血漿成分をプールして、治療に有益なタンパク質を取り出し、高純度に精製したもので、以下のものがある。

 ・アルブミン製剤:
出血性ショック、熱傷、難治性ネフローゼ、低蛋白血症
     (血液中の水分などを血管内に保持、種々の物質を運搬)

 ・免疫グロブリン製剤:先天性無γ-グロブリン血症、川崎病
     (ウイルスなどの病原体の感染を予防、免疫機能調整)

 ・血液凝固因子製剤(第[因子、
第\因子、フィブリノゲン、アンチトロピンなど):出血の際の止血、血友病

これらの製造は、ハーバード大学のEdwin J. Cohn 教授が開発した低温エタノール分画法で行われる。
低温下でエタノー ル濃度、pH等を調整することにより血漿から、グロブリン、アルブミンなどの血漿タンパク質を次々に分離させていくもの。

   日本血液製剤協会資料 http://www.ketsukyo.or.jp/glossary/ka14.html

2003年7月施行の「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」(血液法)では、基本理念の一つとして血液製剤の国内自給の確保と安定供給が定められている。

また世界保健機関は加盟国に対して国内自給の達成を目的とした国家的、効率的かつ持続可能な血液事業を求めている。

しかし、現状では、国内各メーカーの生産規模が海外競合メーカーに比べて小さく、製造コストを含め事業の効率化にも限界があることから、国内自給は達成されておらず、特にアルブミン製剤については58.7%で、国内製造が全く行われていない製剤もある。

このため、両社は事業統合により、スケールメリットを生かして生産および供給段階でのコストを低減し、事業の健全性を確保することによって、血液製剤の国内自給達成をめざす。

平成21年度薬価ベースでの両社の血漿分画製剤売上高の合計は約370億円となっている。

ーーー

ベネシスは、田辺製薬と合併前の三菱ウェルファーマが2002年10月に血漿分画製剤の製造部門を会社分割し、新設した。
(その後、R&D、営業企画・学術機能などを移管)

血液分画製剤事業の元はミドリ十字の事業である。

ミドリ十字は過去に、この事業で薬害エイズ事件、薬害肝炎事件を起こしている。

2008/1/24 資料 薬害エイズ事件

2008/1/16 薬害肝炎救済法 成立


2011/6/24 再生可能エネルギー法案 

会期末を迎えた通常国会は6月22日の衆院本会議で、会期を8月31日まで70日間延長することを民主党などの賛成多数で議決したが、ここに至るまで、菅首相と民主党幹部との間で猛烈なやり取りがあった。首相は第2次補正予算案と特例公債法案に加え、再生可能エネルギー法案の成立を求め、野党の反対に備え、60日ルール適用を前提に70日延長で押し切った。この法案は正式には「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法案」で、震災当日の3月11日午前に閣議決定した。

  1.法案の背景・目的

エネルギー安定供給の確保、地球温暖化問題への対応、経済成長の柱である環境関連産業の育成のためには再生可能エネルギーの利用拡大が急務であり、昨年6月に閣議決定された「エネルギー基本計画」、「新成長戦略」に盛り込まれている再生可能エネルギーの固定価格買取制度を導入する。

  2.法律案の概要

再生可能エネルギー源を用いて発電された電気について、国が定める一定の期間・価格で電気事業者が買い取ることを義務付ける。

また、買取に要した費用に充てるため各電気事業者がそれぞれの需要家に対して使用電力量に比例した賦課金(サーチャージ)の支払を請求することを認めるとともに、地域間でサーチャージの負担に不均衡が生じないよう必要な措置を講じる。

* 現行の余剰電力買取制度で既に電気代のうちに「太陽光発電促進付加金」が含まれている。

自然エネルギー普及を目指す超党派議員や民間人による集会が、6月15日、衆院議員会館大会議室で開かれた。孫社長は、「再生可能エネルギー法案成立に向けて」のプレゼンテーションを行い、法案成立を強く要請した。

孫社長の大規模太陽光発電所(メガソーラー)計画はこの法律を前提にしている。

菅首相も出席し、「私の顔を本当に見たくないなら、早くこの法案を通した方がいい」と述べた。谷垣自民党総裁は、首相が退陣時期を明確にすれば特例公債法案と2次補正の成立に協力する構えであったが、再生エネルギー法案に関しては首相発言を「立法府を侮辱する発言だ」と批判した。ーーー

太陽光発電については、既に2009年11月から余剰電力買取制度が開始されている。

買取期間は10年で、余剰分買取
概要は以下の通り。( )は2011年度契約申込みの場合

  10kW未満 10〜500kW 500kW以上
住宅用 48円/kWh
(42円)
24円/kWh 買取なし
非住宅用 24円/kWh
(40円)
24円/kWh 買取なし
発電用 買取なし 買取なし 買取なし

新しい再生可能エネルギー法案では、住宅用の10kW未満については現行通りの余剰買取とし、その他については全量買取とする。

  10kW未満 10〜500kW 500kW以上
住宅用 現行通り
余剰買取
全量買取 全量買取
非住宅用 全量買取 全量買取 全量買取
発電用 全量買取 全量買取 全量買取

法案の概要は以下の通り。

1. 買取対象
 太陽光、風力、水力(3万kW未満の中小水力)、地熱、バイオマスを用いて発電された電気。

2.買取義務の内容
 一般電気事業者等が、買取義務(買取に必要な接続・契約の締結に応じる義務)を負う。

3.買取期間・価格
   以下の点を勘案して、経済産業大臣が定める。
    買取期間: 再生可能エネルギーの発電設備が設置されてから設備の更新が必要になるまでの標準的な期間
    買取価格: 再生可能エネルギーの発電設備を設置し電気を供給する場合に通常必要となる発電コスト

   制度開始時点においては、以下の買取価格と買取期間を定めることを想定。

  太陽光発電以外 太陽光発電
住宅用     左記以外の事業所用、発電事業用等
買取価格 15〜20円/kWhの範囲内 当初は高い買取価格を設定。
太陽光発電システムの価格低下に応じて、徐々に低減させる
買取期間 15〜20年の範囲内 10年 15〜20年の範囲内

4.買取費用の負担方法
  買取に要した費用に充てるため、使用電力量に比例したサーチャージの支払を請求することを認める。

  地域間でサーチャージ単価が同額となるよう、サーチャージ単価は国が定める。
  電気事業者の買取費用の負担の不均衡を解消するため、国が指定する費用負担調整機関を通じて調整する。

5.その他

  少なくとも3年ごとに、再生可能エネルギーの導入量、サーチャージの負担の影響等を勘案し、制度の見直しを行う。
  2020年度を目途に廃止を含めた見直しを行う。

付記

同法案は与野党協議を経た修正案が8月23日の衆院経済産業委員会で可決され、同日中に衆院を通過、参院審議を経て8月26日に成立する。

修正案のポイントは以下の通り。

  政府案 修正案
産業用電気料 一律上乗せ 電気使用量が製造業平均の8倍を超える企業は負担を8割以上緩和
買い取り価格 経産相諮問機関が決定 調達価格等算定委員会(国会同意人事)の意見を聴取
被災地電気料 特措法施工時から上乗せ 2013年3月まで上乗せせず。

ーーー

問題点

1.基本となる「エネルギー基本計画」は見直しが決まっており、基本がないままで、計画のみ先行。

2.自然エネルギー推進のため高値での全量買取となる。
  結果としてサーチャージが高くなり、電力使用の高い事業の採算が悪化する。家計にも影響。

 


2011/6/25 欧州の原発の状況

European Nuclear Societyによると、20111月現在の欧州の原子力発電所は以下の通り。

  操業中
MWe
Belgium 7 5,926
Bulgaria 2 1,906
Czech Repuplic 6 3,722
Finland 4 2,716
France   58 63,130
Germany 17 20,490
Hungary 4 1,889
Netherlands 1 487
Romania 2 1,300
Slovakian Republic 4 1,792
Slovenia 1 666
Spain 8 7,516
Sweden 10 9,303
United Kingdom 19 10,137
EU 合計 143  130,978
Switzerland 5 3,238
Russia 32 22,693
Uklaine 15 13,107
Armenia 1 408

これらのうち、フランスとイギリスは原発推進派で、ドイツは、2022年までにすべて閉鎖することを閣議決定した。

2011/6/15 イタリア、国民投票で原発反対

このうち、イギリスは日本と同様、海岸立地だが、フランスとドイツは内陸の川沿いが多い。
その他の国でも内陸立地が多い。

以下、国別の所在地の地図は高度情報科学技術研究機構の「原子力百科事典ATONICA」による。
但し、資料が若干古く、表の数値(
EU発表ベース)と若干異なる。  

フランス

  稼働中 廃止 建設中
Belleville  2基     
Bugey  4基   1基   
Cattenom  4基     
Chinon  4基   3基   
Chooz  2基  1  
Civaux  2基     
Cruas  4基     
Dampierre  4基     
Fessenheim  2基     
Flamnville  2基     1基 
Golfech  2基     
Gravelines  6基     
Le Blayais  4     
Monts D'arree    1基   
Marcoule    4基   
Nogent Sur Seine  2基     
Paluel  4基     
Penly  2基     
St.Alban-St.Maurice  2基     
St.Laurent-Des-Eaux  2基   2基   
Super Phenix    1基   
Tricastin  4基     
合計  58基   13基   1基 

ーーー-

ドイツ

  稼働中 廃止 建設中
Avr Juelich    1基   
Biblis  2基     
Brokdorf  1基     
Brunsbuettel  1基     
Emsland  1基     
Grafenrheinfeld  1基     
Greifswald    5基   
Grohnde  1基     
Grosswelzheim    1基   
Gundremmingen  2基   1基   
Isar  2基     
KNK    2基   
Kruemmel  1基     
Lingen    1基   
Muelheim-Kaerlich    1基   
MZFR    1基   
Neckarwestheim  2基     
Niederaichbach    1基   
Obrigheim    1基   
Philippsburg  2基     
Rheinsberg    1基   
Stade    1基   
THTR-300    1基   
Unterweser  1基     
Vak Kahl    1基   
Wuergassen    1基   
合計  17基   20基   

ーーー

英国

  稼働中 廃止 建設中
Berkeley    2基   
Bradwell    2基   
Calder Hall    4基   
Chapelcross    4基   
Dounreay DFR    2基   
Dungeness  2基   2基   
Hartlepool  2基     
Heysham  4基     
Hinkley Point  2基   2基   
Hunterston  2基   2基   
Oldbury  2基     
Sizewell  1基   2基   
Torness  2基     
Trawsfynydo    2基   
Windscale    1基   
Winfrith SGHWR    1基   
Wylfa  2基     
合計  19基   26基   

 


2011/6/27 IEAが石油備蓄放出 

国際エネルギー機関(IEA)は623日、加盟28カ国がリビアからの石油供給が絶えていることに対応して6000万バレルの石油備蓄を放出することで合意したと発表した。

リビアからの石油途絶の継続で影響が出てきているとし、夏の季節需要により不足が深刻になり、世界の景気回復の支障となるとしている。

加盟国は日量200万バレルを30日間、計6000万バレル放出する。
うち、米国の放出量が全体の
50%、欧州が約30%、アジアが残り20%となる。

日本は民間備蓄義務量を国内消費の70日分から67日分に引き下げ、27日から1か月間実施する。
合計
790万バレルの放出で、加盟国全体の13%に相当する。

IEAではリビアの輸出減は日量150万バレルだが、リビア危機により5月末までに合計で13200万バレルが輸出減となったとしている。

付記 IEAは7月21日、石油備蓄放出の終了を決めた。
    今後も動向を注視し、必要に応じて再放出などの追加措置をとる方針も確認した。

IEAメンバー国の石油備蓄は合計41億バレルで、そのうち約16億バレルが緊急目的用に国により備蓄されている。
ネット輸入国はネット輸入量の
90日分の備蓄義務を有するが、現状は最低量をはるかに超える約146日分を備蓄している。
http://www.iea.org/netimports.asp

IEAルールのルールでは、放出は、
1)加盟各国が協調する場合
2)石油供給途絶またはその恐れがある場合
となっており、価格対策のための放出は行わない。

IEAの緊急石油備蓄放出は1974年の設立以来3回目で、最初は1990/91年の湾岸戦争時、2回目は2005年にHurricane Katrinaによりメキシコ湾岸の石油設備が破壊された時で、2001年の米同時テロ時も検討されたが見送られた。

IEAの発表を受け、北海ブレント先物は約5%安の1バレル=108ドル近辺に下落。米原油先物も5%近く下げて91ドルを割り込み、2月以来の低水準となった。

石油価格引き下げのためではないのかとの質問に対し、IEAでは、リビアの輸出減と石油の需要増が、回復途上にある世界経済にダメージを与えるのを避けるのが目的であり、価格問題ではないとしている。

現実には投機筋をけん制し、価格引き下げにつながっているが、逆に年金資金などを運用するファンドが原油価格急落の損失補てんのため株を売る可能性も指摘されている。株安が進み、消費が一段と冷え込む可能性もある。

オバマ大統領は、石油市場のひっ迫は世界経済を圧迫する可能性があるとし、今回のIEA決定を歓迎すると表明した。

一方、米石油業界とOPEC加盟国は、供給をめぐる非常事態はないとしてこれを批判した。
米石油協会は、「戦略石油備蓄は供給の非常時に利用することを意図しているが、非常事態は存在しない」としている。

イランなどOPEC加盟国も備蓄放出は正当化できないとしている。ある湾岸国のOPEC代表は「1バレル150ドルに上昇したわけでもなく、このような動きにでる理由はない。市場は供給不足に陥っていない。クウェートやサウジはこれまでも増産しているが、買い手はそれほど多くない。IEAは米国とともに政治的に動いているだけだ」と述べた。 

ーーー

OPEC20091月から生産枠を、イラクを除く「11カ国の20089月の生産量2,904.5万バレルから420万バレルカット」する2484.5万バレルとしている。(200811月時点の枠 2730万バレルからは245万バレルの減となる)

2008/12/18 OPEC 大幅減産決定

その後、相場は回復し、実際の産油量も今年4月にはイラクも含めて日量2880万バレルまで増えていた。
(イラクの生産量は250万バレル程度)

今年6月のOPEC総会で、サウジ、クウェート、カタール、アラブ首長国連邦の4カ国はアジアの需要増などを理由に、さらに150万バレル多い日量3030万バレルへの引き上げを提案した。
「石油離れ」を加速しかねない1バレル100ドル超の原油価格は望まないと考えた。

しかし、議長国であるイランが他の6カ国とともに増産を拒否した。

サウジは総会に先んじて静かに増産に乗り出しており、生産量は2008年以降初めて日量900万バレルを超えていた。
サウジは第
3四半期までに生産量を日量1000万バレルまで増やす可能性がある。
(2008年末までのサウジの生産枠は847.7万バレル)

この結果、1986年以降のOPECの生産枠制度が事実上、なくなり、サウジは好きなだけ原油できることとなった。

サウジのヌアイミ石油鉱物資源相は総会後に、「市場では不足が生じない」と述べた。

しかし、IEAはサウジによる増産のスピードと、リビアが供給していた軽質原油を確保できるかといった点に疑問を呈しており、これが今回の備蓄放出の理由とされている。

JPモルガンは、「今戦略備蓄を放出すれば、消費国は生産国の増産余力をほとんど信用していないというメッセージや、OPECの短期的・長期的な価格戦略への懸念を表明することになる」とし、懸念を表している。


2011/6/28 公取委、BHP・リオ事業統合の審査公表 

公取委は621日、平成22年度における主要な企業結合事例を発表した。
  
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/11.june/110621zirei.pdf

事例1としてBHP Billiton Rio Tintoによる鉄鉱石の生産JVの設立について説明している。

Rio Tinto BHP Billiton200965日、両社の西豪州の鉄鉱石資産を包含する製造JVの設立の基本契約に調印、同年125日に本契約に調印した。

両社の西オーストラリアにおける鉄鉱石の生産事業についてジョイントベンチャーを設立し、管理運営を委託するもので、販売は従来通りとした。

契約調印後、各国の独禁法当局に認可の申請をしていたが、認可を得るのが難しい状況となったため、20101018日、 鉄鉱石統合の断念を発表した。

2010/10/18 Rio Tinto BHP Billiton、鉄鉱石の製造JVを断念

公取委は、両社から本件JVの設立についての事前相談を受け、20106月に第1次審査を開始、同年7月に第2次審査に移行した。

同年9月に両社に対し、世界海上貿易によって供給される鉄鉱石の塊鉱及び粉鉱の生産・販売事業について競争が実質的に制限されることとなると考える旨の問題点の指摘を行った。

その後、両当事会社からの意見の提出がないまま、撤退の発表が行われ、事前審査を打ち切った。

今回、問題点の指摘を行った時点における公取委の考え方を以下の通り説明している。

ーーー

1.本件の概要

両社の西オーストラリアにおける鉄鉱石の生産事業について、両社出資の管理会社に管理運営を委託する。

生産能力の拡張については、他方が希望しないときは、一方が単独で生産能力の拡張を行うことが可能。

JVにより生産された鉄鉱石は、次の方法で各当事会社に配分される。

@
JVは、銘柄ごとに、各期(6か月間)の最大生産能力の見積りを両当事会社に通知
A 各社は、通知を受けて、当該期間に引受けを希望する銘柄ごとの最大生産能力に対する割合を管理会社に通知
B
JVは、各社からの通知に基づき、一定のルール(両社がともに50%以上の引受けを希望する場合は50%ずつを配分)に従って銘柄ごとの鉄鉱石を各当事会社に配分

各社への配分比率にかかわらず、各社は生産に要する費用を
50%ずつ負担

2.公取委の判断

1)一定の取引分野

 商品範囲:

 需要の代替性及び供給の代替性がないため、下記3つをそれぞれを別個の商品範囲として画定。
 ただし、ペレットは、両社のシェアが低く、競争に及ぼす影響は小さいと考えられるため、塊鉱及び粉鉱を検討対象とした。

  塊鉱:高炉に直接投入
  粉鉱:石灰石等と一緒に焼き固めて焼結鉱と呼ばれる塊にして高炉に投入
  ペレット:微粉状の鉄鉱石を石灰石等と混合し、球状に成形して焼き固めたもの

 地理的範囲:
 
 鉄鉱石の供給者は、海上貿易で鉄鉱石を調達する世界中の需要者に対して、ほぼ同一の価格水準で商品を供給する。
 海上貿易における鉄鉱石の価格は世界中で連動しており、地域的に差別された価格は観察されない。
 従い、世界海上貿易市場とする。

2)シェアと判断

 塊鉱

順位 会社名 市場シェア
1 Rio Tinto 3035
2 BHP Billiton 2530
3   1015
(1) 当事会社合算  5560

行為後のHHI  3,7503,850
HHI
増分     1,7501,850

* HHIは業界内の全企業のそれぞれのシェアを二乗して足し合わせるもの。
 競争を実質的に制限することとならない範囲(セーフハーバー)の指標は
 
HHI 2,500超の場合はHHIの増分150以下

塊鉱の世界海上貿易市場において、両社に対する有効な牽制力となる供給者は存在しない。
他の供給者は需要の大半を占める東アジアから遠く、両社と比較して海上輸送費の面で不利な状況にあるほか、供給余力を有していない状況にある。

両社はこれまで、異なる販売戦略を採り競争を行ってきているが、JVの設立で両社間に協調関係が生じることが、塊鉱の世界海上貿易市場の競争に与える影響は大きい。

近年の鉄鉱石需要の急増に伴う需給のひっ迫及び供給側の寡占化により、需要者からの競争圧力が働いている状況には無い。

結論:塊鉱の世界海上貿易市場における競争が実質的に制限されることとなる。

 粉鉱

順位 会社名 市場シェア
1 Vale do Rio Doce  
2 Rio Tinto 2025
3 BHP Billiton 1520
(1) 当事会社合算  4045

行為後のHHI  2,4502,550
HHI
増分      750〜 850

両社にとって有力な競争事業者が1社存在するが、東アジアから遠く、海上輸送費の面で不利な状況にある。
十分な供給余力を有していないと考えられ、両当事会社に対する有効な牽制力となっていない。

両社とその競争事業者が協調的行動を採ることにより、粉鉱の価格等をある程度自由に左右することが容易に現出し得る。

結論:粉鉱の世界海上貿易市場における競争が実質的に制限されることとなる。    

参考
三井物産資料

3)両社主張についてのコメント

両社主張

本件JVの下で生産能力の拡張が行われるものの、単独拡張の仕組みが存在することから、生産能力の拡張において両当事会社間の競争は維持される
   
各期の生産量については、両社は生産費用の50%を負担する仕組みのため、ほとんどのケースで最大生産能力まで生産が行われる。
   
両当事会社の販売部門は独立しており、各種の情報遮断措置が設けられていることから、販売面の競争は維持される。
   

公取委コメント

JVは両社の意向を汲んで、両社に通知する最大生産能力を決定することとなると考えられる。
   
両社の鉄鉱石事業の費用構造の大部分が共通化するため、両社が望ましいと考える価格水準が一致しやすくなると考えられ、どのような価格計算方法を用いるべきかについて、両社の利害が一致し、本件JV設立前と比較して、各社が競争的な行動を採るインセンティブが著しく減退する。
   
JVの設立によって、両社間では、競争的行動を採るインセンティブが減退し、両社間に協調関係が生じる。
   

4)結論

本件JVの設立により、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるおそれがある。

ーーー

このほか、下記の事例が説明されている。

北越紀州製紙による東洋ファイバーの株式取得
旭化成ケミカルズ及び三菱化学による水島地区におけるエチレン等製造事業の統合
東洋アルミニウムによる昭和アルミパウダーの株式取得
JX日鉱日石エネルギー及び三井丸紅液化ガスによる液化石油ガス事業の統合
その他

http://www.jftc.go.jp/pressrelease/11.june/110621zirei.pdf


2011/6/29  Eastman ChemicalSterling Chemicalsを買収

Eastman Chemical 622日、Sterling Chemicalsを現金1億ドルで買収する契約を締結したと発表した。

Sterling Texas City BPのプラント(PX及びMXプラント)に隣接し、酢酸と可塑剤のプラントを持っている。

酢酸は年産能力58万トンで、全量をBPに供給している。
可塑剤は全量を
BASFに供給していた。しかしBASF2010年末で購入契約を終結させた。このため、現在は休止中。

Eastman ではSterling の現在休止中の可塑剤設備を再稼働し、Eastman168などを含む非フタル酸系可塑剤を製造する計画で、非フタル酸系可塑剤の需要の伸びに対応する。

フタル酸エステル系可塑剤は各国で規制されている。
米国では、
 
DEHPDBPBBPはおもちゃと育児用品に使用禁止
 
DINPDIDPDNOPは子供の口に含まれる可能性があるおしゃぶりと育児用品に使用禁止
   おもちゃは
12 歳以下
   育児用品は
3 歳以下の子供を意図した製品

   DEHP:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、 DBP :フタル酸ジブチル、BBP :フタル酸ブチルベンジル、
   
DINP :フタル酸ジイソノニル、DIDP :フタル酸ジイソデシル 、 DNOP:フタル酸ジノルマルオクチル

付記

Eastman Chemical は9月1日、ブラジルの可塑剤メーカーのScandiflex do Brasil S.A. Indústrias Químicasを買収したと発表した。
ラテンアメリカでの非フタル酸系可塑剤の需要増大に対応する。

同社はまた、EstoniaのKohtla-Järve工場で可塑剤Benzoflexの11千トン増設を発表。更にChestertown, MDとKingsport, TNでのBenzoflex及び高分子可塑剤Admex の合計9千トンの増設計画も発表した。

ーーー

Sterling Monsanto Texas Cityの工場を買収し、運営するため、1986年に設立された。

工場では、スチレンモノマー、アクリロニトリル、酢酸、可塑剤、ターシャリブチルアミン、シアン化ナトリウムの6製品を生産していた。

Sterling 1992年に Tenneco Canadaからパルプケミカル部門を買収した。パルプの漂白剤の塩素酸ナトリウムの工場をカナダに4つ所有している。
同社はその後、ジョージア州
Valdostaに年産11万トンの塩素酸ナトリウム工場を建設した。
更に、豪州
New South Walesでの工場建設を発表した。(実現せず)

しかし、同社は経営が悪化、20017月にChapter 11を申請した。

同社は再建のため、カナダとValdostaの塩素酸ナトリウム工場を売却した。
カナダは
Canexus (旧称 Nexen Chemicals)に、Valdosta工場はErco Worldwideに売却。

アクリロニトリル事業については赤字が続き、2005年に撤退した。

ターシャリブチルアミンはMonsantoのゴムの生産に使用されていたが、1995年にMonsantoから分離したSolutia Akzo Nobelが両社のゴム薬品事業を統合して、50/50JVFlexsysを設立した際に、Solutiaがこの事業を買い戻した。
(その後、
2007年にSolutiaAkzo持分を買収し、現在はSolutia100%子会社となっている。)

スチレンモノマープラント(775千トン)は2007年のINEOS NOVA発足に当たり、NOVA Chemicalsがスチレンモノマーの独占権を取得したが、米国のスチレン過剰対策として、同年10月にプラントを買い取ったうえで、停止した。

シアン化ナトリウムについては全量をDuPontに供給していたが、2005年に契約を打ち切り、停止した。

この結果、現在は酢酸と可塑剤だけで、可塑剤は停止している。

 


2011/6/30 公取委、優越的地位の乱用で初の課徴金

公取委は6月22日、納入業者に対し従業員を無償で派遣させたなどとして、スーパー「マルナカ」を経営する「山陽マルナカ」(岡山市)に、2億2216万円の課徴金納付と排除措置を命じた。

優越的地位の乱用は、2010年1月施行の改正独禁法で課徴金の対象となったが、命令が出たのは今回が初めて。

ーーー

改正独禁法では課徴金の適用範囲が拡大、以下が追加された。

排除型私的独占  他の事業者の事業活動を排除することによる私的独占
不当廉売、差別対価、共同の取引拒絶、再販売価格の拘束

(それぞれ同一の違反行為を繰り返した場合)
 正当な理由がないのに、競争者と共同して、ある事業者に対し供給を拒絶し、・・・
 不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもって、・・・
 費用を著しく下回る対価で継続して供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせる・・・
 購入する相手方に対し、当該商品の販売価格を定めてこれを維持させること、・・・
優越的地位の濫用  自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、継続して取引する相手方に対し当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させる等の行為
・押し付け販売、経済上の利益を提供させる行為(協賛金・従業員派遣)、受領拒否、不当返品等

課徴金(違反行為に係る売上額に対する率)は以下の通り。

    製造業等 小売業  卸売業 
現行 不当な取引制限
 (中小企業)
 10%
 (4%)
 3%
(1.2%)
 2%
(1%)
支配型私的独占  10%  3%  2%
追加 (ア)排除型私的独占   6%  2%  1%
(イ) 不当廉売等
  (繰り返し)
  3%  2%  1%
(ウ)優越的地位の濫用       1%

   2009/6/5   独禁法改正案成立

ーーー

公取委によると、違反行為は以下の通り。

 

付記

公取委は2011年12月13日、日本トイザらスに対し、優越的地位の濫用で排除措置命令及び課徴金納付命令を行った。
課徴金は3億6908万円。

違反行為は以下の通り。
(1) 売上不振商品等の返品
(2) 自社が割引販売を行うこととした売上不振商品等を納入した業者に対し、割引予定額に相当する額の一部又は全部を代金から減額。

付記

公取委は2011年12月、家電量販大手のエディオンが納入業者に無報酬で店舗業務を手伝わせたとして、同社に約40億円の課徴金納付命令と再発防止を求める排除措置命令を出す方針を固め、同社に事前通知した。

優越的地位の乱用に課徴金が認められた2010年1月施行の改正独禁法の適用は3例目で、課徴金は最高額になる。

エディオンは新規出店や店舗改装時に家電のメーカーなど納入業者に従業員の派遣を要請。「デオデオ」や「エイデン」など傘下の店舗で、無報酬または交通費だけを支給し、商品の陳列や他社製品の搬入を手伝わせた疑いが持たれている。

公取委は2012年2月16日、エディオンに対し、40億4796万円の課徴金を納付するよう命じた。再発防止を求める排除措置命令も出した


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