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目次
これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
最新分は
http://blog.knak.jp
2014/4/1 米国からの欧州向けLNG輸出
2014/3/27の記事(米エネルギー省、西海岸からの非FTA締結国向けLNG輸出を承認)で以下の通り付記した。
米議会は3月25日、ウクライナ情勢を受け、米同盟国がロシアの天然ガスに依存しなくても済むよう、WTO加盟国に政府の許可なしでLNG輸出を認める法案の審議を開始した。但し、仮にこの法案が通っても、実際の輸出には5〜6年かかる。
この法案はH.R.
6(Domestic Prosperity and Global Freedom Act)で、3月6日にコロラド州出身の下院議員Cory Gardner
その他により下院 Energy and Commerce Committeeに超党派で提出された。
ロシアにエネルギー供給を依存し翻弄されているウクライナや他の東欧諸国を含む世界の同盟国に米国のLNGを輸出するのが目的で、内容は以下の通り。
LNGの輸出を規制しているNatural Gas Act を下記の通り修正する。
・現在は「FTA締結国」向けにはLNGの輸出は認められているが、これを「WTOメンバー国」向けに変更する。
・現在、輸出承認を待つ全ての申請(3月6日までのFederal
Register記載=24件)について遅滞無く承認する。
Gardner議員は、「この法案は、東欧及び世界の同盟国を支援するとともに、コロラドで雇用を生み、経済繁栄をもたらすものだ」としている。
Energy and Commerce CommitteeのFred
Upton委員長も、「この法案を通すことは、米国が米国のエネルギー資源を活用し、自国のためだけでなく同盟国にも供給し、Putin大統領に断固として譲らず、ロシアの影響力を抑えるという明確なシグナルを送ることとなる」と述べた。
ーーー
既報のとおり、この法案が通っても、実際の輸出には5〜6年かかり、当面の解決策にはならない。
WTOメンバー国に認めるように変更すると、中国等も対象となる。これは米国内で問題となるのは必至である。
しかし、中国のみ除外することはWTOの規定で認められない。
従来どおり「FTA締結国」向けとし、
EUとのFTAを早期に締結する方がよいかも分からない。
なお、米国の天然ガス輸出規制そのものがGATT違反との説がある
2013/2/5 米国の天然ガス輸出規制はGATT違反?
欧州向けの輸出が認められた場合、欧州着の価格の試算は次の通り。(百万BTU当たり)
米国天然ガス価格(仮) |
|
6ドル |
液化費用 |
|
3ドル |
運賃 |
|
1ドル (Platts LNG Forum, Tokyo
2012/9/25資料では東海岸→西欧は1.05ドル) |
再ガス化費用(既存設備) |
|
0.5ドル |
合計 |
|
10.5ドル |
欧州での天然ガス価格は以下の通りで、米国のガス価格が6ドルであれば、ほぼ見合うこととなる。
但し、LNG輸出が自由となった場合(環境規制でシェールガスの新規採掘が難しくなる可能性もあり)、Dow Chemical
が懸念するように天然ガス価格がもっと上昇し、米国産LNGを使用するメリットが減る恐れがある。天然ガス価格上昇は日本にも影響する。
ーーー
現在、米国で非FTA国向け輸出の承認を待っているのは、下記の24件。
|
Docket No. |
名称 |
運営企業 |
立地 |
数量 |
期間 |
備考 |
1 |
12-77-LNG |
Oregon LNG |
Leucadia National Corporation |
Warrenton,
Oregon |
1.3bcf/d |
25年 |
カナダ産天然ガスが主体 |
2 |
12-97-LNG |
Corpus Christi
Liquefaction Project |
Cheniere Marketing, LLC |
Corpus Christi
|
2.2 Bcf/d |
22年 |
|
3 |
12-146-LNG |
ELS Project |
Excelerate Liquefaction Solutions I, LLC |
Calhoun County, Texas
|
1.33 Bcf/d (1000万トン/y) |
22年 |
|
4 |
11-141-LNG |
Carib Energy (USA) LLC |
EFG Industries |
未定 |
3.44
Bcf/d |
25年 |
中南米、カリブ向け輸出 |
5 |
12-05-LNG |
Gulf Coast LNG Export,
LLC |
個人企業 |
Brownsville, TX |
2.8Bcf/d |
25年 |
|
6 |
12-100-LNG |
Southern LNG Company,
L.L.C. |
|
Savannah,
Georgia |
0.5Bcf/d (400万トン/y) |
20年 |
|
7 |
12-101-LNG |
Gulf LNG Liquefaction
Company, LLC |
|
Pascagoula, Mississippi |
1.5 Bcf/d (1150万トン/y) |
20年 |
|
8 |
12-123-LNG |
CE FLNG, LLC |
Cambridge Energy Group |
Plaquemines Parish, LA |
1.07 Bcf/d (800万トン/y) |
|
|
9 |
12-156-LNG |
Golden Pass Products LLC |
Qatar
Petroleum (70%), ExxonMobil (17.6%) and ConocoPhillips (12.4%). |
Sabine Pass, TX |
1560万トン/y |
25年 |
千代田化工が液化設備・輸出設備の
基本設計を受注 |
10 |
12-184-LNG |
South Texas LNG Export Project |
Pangea LNG
(North America) |
Corpus Christi |
800万トン/y |
25年 |
|
11 |
13-04-LNG |
Trunkline LNG Export,
LLC |
TLNG Export |
Lake Charles |
1500万トン/y
|
25年 |
|
12 |
13-26-LNG |
Freeport-McMoRan Energy
LLC |
McMoRan Exploration Co. |
Main Pass Energy Hub
Deepwater Port, LA |
2400万トン/y |
30年 |
|
13 |
13-30-LNG |
Sabine Pass
Liquefaction, LLC |
Cheniere Energy |
Cameron Parish, Louisiana |
0.28Bcf/d |
20年 |
Total
Gas & Power North America向け |
14 |
13-42-LNG |
Sabine Pass
Liquefaction, LLC |
Cheniere Energy |
Cameron Parish, Louisiana |
0.24Bcf/d |
20年 |
Centrica plc向け |
15 |
13-69-LNG |
Venture Global LNG, LLC |
|
Cameron Parish, Louisiana |
500万トン/y |
25年 |
|
16 |
13-116-LNG |
Eos LNG LLC |
|
Brownsville, TX |
1.6Bcf/d
|
25年 |
African American minority-owned business |
17 |
13-118-LNG |
Barca LNG LLC |
|
Brownsville, TX |
1.6Bcf/d |
25年 |
|
18 |
13-121-LNG |
Sabine Pass
Liquefaction, LLC |
Cheniere Energy |
Cameron Parish, Louisiana |
0.86Bcf/d |
20年 |
|
19 |
13-132-LNG |
Magnolia LNG, LLC |
Liquefied Natural Gas Limited |
Lake
Charles, Louisiana |
1.08Bcf/d |
25年 |
|
20 |
13-147-LNG |
Delfin LNG LLC |
Fairwood Group |
floating liquefaction project West Cameron Block 167 of Gulf of Mexico |
1.8Bcf/d (1300万トン/y) |
20年 |
|
21 |
13-153-LNG |
Waller LNG Services, LLC |
|
Cameron Parish, Louisiana |
0.19Bcf/d (150万トン/y ) |
25年 |
|
22 |
13-161-LNG |
Gasfin Development USA,
LLC |
|
Cameron Parish, Louisiana |
0.2Bcf/d (150万トン/y ) |
20年 |
|
23 |
13-160-LNG |
Texas LNG LLC |
|
Brownsville, TX |
0.27Bcf/d (200万トン/y ) |
25年 |
|
24 |
14-29-LNG |
Louisiana LNG Energy LLC |
|
East Bank of the Mississippi River down-river from the
Port of New Orleans |
200万トン/y |
25年 |
|
注 Sabine Pass
Liquefaction, LLC は承認第1号として2.2 Bcf/d(年間1600万トン)
の輸出を認められている。
2014/4/2 マイクロ波で化学品量産
大阪大学発ベンチャーのマイクロ波化学株式会社は4月、マイクロ波を使った世界初の化学品量産工場を大阪市で稼働させる。工場廃油などを原料に環境負荷の低い脂肪酸エステルを製造、東洋インキなどに供給する。マイクロ波を使うと、熱と圧力で化学反応を起こす従来の製造法に比べ、エネルギー消費量を約3分の1に減らせるという。
(2014/3/31 日本経済新聞)
付記
三井化学は2017年9月14日、マイクロ波化学と戦略的提携関係を構築し、マイクロ波を活用した次世代化学プロセス技術を共同開発していくと発表した。
マイクロ波化学社に対して出資や研究者派遣を行い、新規化学プロセスや新製品、新事業創出に生かす。
三井化学とマイクロ波化学は2021年11月18日、マイクロ波技術を用いて、これまでリサイクルが難しかったポリプロピレンを主成分とする混合プラスチックである ASR(自動車シュレッダーダスト)や、バスタブや自動車部品などに使用される SMC(熱硬化性シートモールディングコンパウンド)などの廃プラスチックを、直接、原料モノマーにケミカルリサイクルする技術の実用化を目指した取り組みを開始したと発表した。
様々な化学プロセスへのマイクロ波技術の活用について検討を進めている。
脂肪酸エステルは、インキやプラスチックなど幅広い用途で製品の原料となるが、石油や大豆油などを原料としている。
マイクロ波化学では、工場から排出される動植物系の工業廃油から脂肪酸エステルを製造するプロセスを開発した。
動植物系の工業廃油には遊離脂肪酸が多く含まれており、従来法では2段階反応が必要であった。
反応性の高いマイクロ波プロセスを用いることでワンポット合成が可能となり、商業レベルでの製品供給を実現した。
生産される脂肪酸エステルは、超低エネルギー反応で、 高純度の特性を有している。
マイクロ波化学は2013年2月、世界初となる量産型マイクロ波化学プロセスを本格稼働させ、東洋インキ向けに、商業化ベースで環境対応型化成品である脂肪酸エステルの出荷を開始した。
このたび、年産3200トンの大規模マザー工場を立ち上げ、試運転中で、4月下旬にも出荷を始める。付記
BASFとマイクロ波化学は2014年10月、ポリマー製品の製造工程においてエネルギーの効率化を目指し、マイクロ波化学技術を適用したパイロットスケールでの共同開発に取り組む契約を締結した。
マイクロ波化学技術を使用した製造技術工程の有用性の確認し、将来的には商業化に向けた本格導入を目指す。
ポリマー分野において世界初となるパイロットスケールでの連続型マイクロ波装置(年間処理量/1000トン)を用いた試験運転を実施予定で、その前段階として大阪工場でBASFのポリマー製品の試作実験とプロセス開発を開始する。
付記
昭和電工とマイクロ波化学は2015年5月、印刷技術によって透明導電パターンを形成する銀ナノワイヤーインクについて、共同で量産技術を開発したと発表した。
ーーー
マイクロ波化学は2007年8月に設立された(当初名はマイクロ波環境化学)。
大阪大学工学研究科マイクロ波化学共同研究講座と共同で、「省エネ・高効率・コンパクト」 な革新的技術であるマイクロ波プロセスの開発を進めてきた。
取締役CSOの塚原保徳氏は大阪大学大学院工学研究科特任准教授で、マイクロ波化学、光化学専攻。
マイクロ波はレーダーや加速器、電子レンジなど幅広く利用されている。
化学反応にマイクロ波を適用した場合、革新的な新規反応場を用いた魅力的な化学プロセスとなることは知られている。
|
|
マイクロ波利用で期待できる効果
・急速・選択加熱
・内部均一加熱
・非平衡局所過熱
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|
→ |
化学プロセスでの利点
・反応温度の低下
・反応時間の短縮
・消費エネルギーの削減
・装置の小型化 |
|
これまで化学プロセスにおいて実用化されてこなかったのは、スケールアップが困難であったことが一因である。
同社では2009年春に世界初となる日産2トンレベルの燃料製造用の
完全フロー型マイクロ波リアクター(1号機)の開発に成功、2011年には化成品製造用の日産2トンレベルの大規模完全フロー型マイクロ波リアクター(2号機)を立上げた。
同社はさらに、化学反応をより効率よく促進させるため、マイクロ波に適したハイブリッド触媒を開発した。
同社では、将来的にはエステル化反応を核として、油脂化学の上流から下流までの各種プロセスにマイクロ波を用いて天然資源から燃料からプラスチックまで製造することのできるバイオリファイナリーの実現を目指
す。
1) 基礎化成品 〜石油由来のガスやポリマー
マイクロ波化学プロセスは、ガスやポリマーの製造プロセスにおける気固反応系や液固反応系において、マイクロ波に適した触媒を用いることにより、反応温度低下、反応時間短縮が可能にな
る。
それに伴い、製品の高純度化、触媒の長寿命化を実現する。
2) 機能性化成品 〜ナノ粒子の製造
電子材料を構成する化成品においても高純度化、ナノ粒子化が求められている。
マイクロ波利用の利点
・反応溶液の急速加熱
・均一な粒子が合成可能
・内分均一加熱
・選択加熱が可能
・短時間で反応終了
3) 未利用資源の活用 〜バイオディーゼル燃料
エネルギー源として期待されているのが、油脂を細胞内に含み「石油を作る藻」と言われる微細藻類だが、細胞内に油脂があるため細胞壁を壊し油脂を抽出しないとバイオ燃料として利用できなかった。
デンソーとマイクロ波化学は共同で、マイクロ波を用いて、世界で初めて藻から抽出したクルードオイルをバイオ燃料(
脂肪酸メチルエステル:FAME)へ変換することに成功した。
2014/4/3
熊本地裁、水俣病未認定患者3人への賠償を命令、5人は棄却
水俣病被害者互助会の8人が、国と県、原因企業チッソに総額2億1200万円の損害賠償を求めた訴訟で、熊本地裁は3月31日、3人の損害を認め、被告に賠償を命じる判決を言い渡した。5人については棄却した。
重症で介護が必要な男性1人には、認定患者がチッソと交わす補償協定の慰謝料(1600万〜1800万円)を大きく超える額が認められた。
症状を訴えて県に水俣病認定申請をしたが、認められず棄却されたり、結論の出ていない9人が、2007年10月に提訴したもので、うち1人は2013年11月に国の公害健康被害補償不服審査会の逆転裁決を受けて熊本県から患者認定され、訴えを取り下げた。
概要は下記の通り。
1人 |
|
(2013年11月
行政認定→訴え取り下げ) |
1600万円 |
(チッソと補償協定) |
1人 |
請求 1億円
(全身の機能障害) |
手足のしびれ(感覚障害)などの症状とメチル水銀との因果関係を認定
・同居家族や出生地周辺で認定患者がいること
・残されていた臍の緒のメチル水銀値など |
1億500万円 |
介護費用や後遺症への慰謝料など |
2人 |
請求
各1600万円
(チッソ慰謝料
最低額) |
220万円 |
控訴する方針 |
440万円 |
5人 |
各症状は心因性や他の病気が原因の可能性が高い
・家族に認定患者がいないこと
・家族の水銀摂取状況など |
棄却 |
原告は熊本、鹿児島両県に住む54〜61歳の男女8人。
1953〜1960年(水俣病公式確認は1956年)に水俣市、津奈木町、芦北町、鹿児島県長島町で出生した。
胎児期・小児期からチッソの排水でメチル水銀に汚染された魚介類を食べた影響で、水俣病の典型症状である手足の感覚障害や、頭痛、めまい、こむら返りなどがあり、肉体的・精神的な苦痛を受けていると訴えた。
「ほかに原因を証明できなければ水俣病と判断できる」と主張した。
うち7人は、認定患者がチッソとの協定に基づいて受け取る慰謝料の最低額と同じ1600万円、全身の機能障害がある1人は1億円を請求した。
被告側は、原告がメチル水銀を摂取した客観的証拠は乏しく、症状は別の病気などが原因と反論。
仮にメチル水銀中毒が原因としても、2001年の関西訴訟大阪高裁判決が認めた損害額と比べ、「原告7人の症状は特に強いとも言えず、1600万円は高額すぎる」と主張した。
2001年の高裁判決は、排水規制をしなかった国と県の過失を指摘、水俣病の認定基準も間違っているという判断を下し、「汚染された魚介類を多く食べ、指先や舌先の感覚に障害があれば認定できる」との基準を示し、女性ら37人を水俣病と認定、国と県、チッソに原告1人あたり障害の程度を考慮して400万円、600万円、800万円の賠償責任があることを認めた。
2004年10月の最高裁判決は二審・大阪高裁判決が示した基準を支持し、高裁判決が確定した。
ーーー
水俣病を巡っては、最高裁が2013年4月、複数症状を要件とした現行の認定基準よりも幅広く患者認定する道筋を示した。
・司法が独自に患者認定審査審査しうる。
・環境庁の「手足のしびれや視野狭さく、運動障害など複数の症状の組み合わせ」を条件とするという「52年判断条件」に基づく高裁判決を破棄。
「52年基準」に合うものは個別的な因果関係について立証の必要がないとするものにすぎない。
それ以外でも諸般の事情と関係証拠を総合的に検討し、水俣病と認定する余地を排除するものとはいえない。
2013/4/17 水俣訴訟、最高裁判決
これを受けて環境省が2014年3月に打ち出した新指針は、「水俣病を発症するに至る程度のメチル水銀」の摂取を証明する客観的な資料の提出を求めている。
2013/1/14
水俣病認定基準
今回の判決は「汚染された魚を多食した」という証言だけでは証明が不十分との立場を示した。
2014/4/4 ロシアGazprom、ウクライナ向けガス価格を大幅に引き上げ
ロシアの政府系天然ガス大手Gazpromは4月1日、ウクライナ向けのガス価格を40%以上引き上げ
、1000m3当たり385.5ドルにすると発表した。
4月3日には更に485ドルに引き上げた。これまでの価格の1.8倍となる。(付記 輸出関税割引制度の撤廃)
現状: |
268.5$/1000m3 |
(6.7125$/MMBTU) |
2014/4-6: |
385.5$/1000m3 |
(9.6375$/MMBTU) |
→ |
485.0$/1000m3 |
(12.125$/MMBTU) |
注) 天然ガス 1,000m3=40MMBTU
1
Btu = 1.054 kJ = 0.252 kcal
1
MMBtu =1,054 MJ = 252,000 kcal
≒ 天然ガス25m3
天然ガス 1000m3 = 40MMBtu
|
アレクセイ・ミレルCEOは、ウクライナのガス料金未払い分が17億ドルに達しているため、値上げは必要だとの見解を示し、「2013年12月合意の割引はもはや適用できない」と述べた。
GazpromのEU向けの平均ガス価格は370$/1000m3 (9.25$/MMBTU)となっている。
ウクライナは旧ソ連ということで国際価格よりもはるかに安い価格で天然ガスの供給を受けてきた。
今回も大幅値上げといっても、EU並みの国際価格であり、日本のLNGでの購入価格(16ドル前後)よりもはるかに安い。
仮に将来、米国からのLNG輸入が可能となっても、これより大幅に安くなることはないと思われる。
2014/4/1 米国からの欧州向けLNG輸出
ーーー
2013年のウクライナ向け天然ガス価格は401$/1,000m3(10.025$/MMBTU)であった。
ウクライナは2013年に欧州連合との政治・貿易協定の仮調印を済ませたが、ロシア寄りの姿勢を見せるヤヌコビッチ大統領は2013年11月、EUとの関係を強化する「連合協定」の締結を見送り、ロシアとの協力関係を密にする方針に転換した。
ヤヌコビッチ大統領は2013年12月17日にモスクワでプーチン大統領と会談、ロシアはウクライナに対し150億ドルの金融支援を実施し、天然ガスの価格を2014年1月から約3分の1引き下げることで合意した。
2013年: |
401$/1000m3 |
(10.025$/MMBTU) |
2014年: |
268.5$/1000m3 |
(
6.7125$/MMBTU) |
親EUから親ロへの転換で、欧州連合寄りの野党勢力から強い反発が起こり、ウクライナ国内は大規模な反政府デモが発生するなど騒乱状態に陥った。
事態収拾のためヤヌコビッチ大統領は2014年2月21日には挙国一致内閣の樹立や大統領選挙繰り上げなどの譲歩を示したがデモ隊の動きを止めることはできず、2月22日に首都キエフを脱出、政権は崩壊した。
2014年3月、ロシア軍はクリミア半島の一部の施設を占拠して半島を実効支配、3月16日にクリミア自治共和国およびセヴァストーポリ特別市で、ロシアへの編入を問う住民投票が行われ、96.77%がロシアへの編入への賛成を示した。
翌17日、クリミア最高会議はウクライナからの独立とロシア連邦への編入を決議した。
ーーー
ロシアは天然ガスを武器に旧ソ連各国をロシア圏にとどめようとしている。
ベラルーシとの間でも2007年に紛争が起こった。同国は現在は親ロであり、安い価格で天然ガスの供給を受けている。
2007/1/15 ロシア・ベラルーシ石油抗争 解決
ベラルーシやウクライナ向けのパイプラインは欧州につながっており、欧州各国も紛争の余波を受けた。
ウクライナ向け天然ガス価格は2006年以降、下図のような推移をたどっている。
1)2006年
ウクライナは2004年暮の「オレンジ革命」以来、親ロシア政策を放棄して、EUとNATOへの加盟を志向する親自由主義国家となった。
2005年4月、ガスプロムがウクライナ政府に対し、それまでの1,000立方メートルあたり50ドルから160ドルへの値上げを提示、後に更に230ドルに引き上げた。
交渉は紛糾し、2006年に入り、ガスプロムはがウクライナ向けのガス供給を停止した。
(EU向けと同じパイプのため、ウクライナ向け対応の30%を削減した)
しかしウクライナ側は、これを無視してガスの取得を続けたため、パイプライン末端のEU諸国のガス圧が低下し、各国は大混乱となった。
問題が二国間の問題に止まらず国際問題となったため、両者は急速に歩み寄りを見せ、1月4日に期間5年、95ドルで妥協した。
2005年: |
50$/1000m3 |
(1.25$/MMBTU) |
2006年ロシア要求: |
230$/1000m3 |
(5.75$/MMBTU) |
決着: |
95$/1000m3 |
(2.375$/MMBTU) |
2) 2009年
ロシアの独占天然ガス会社 Gazprom
は2009年1月1日、ウクライナへの天然ガス供給を完全に停止した。
両国は、20億ドル以上とする天然ガス供給の代金未払いや債務、滞納の罰金支払いの調整及び2009年からの価格について年末から協議していたが、31日までの交渉が不調に終わったため、強硬措置に訴えた。
2008年のウクライナ向け天然ガス価格は179$/1000m3
だが、両国は今後段階的に引き上げることで合意、ガスプロムは250ドルを提案したが、ウクライナは201ドルを主張してこれを拒否した。ガスプロムは1月4日、価格を450ドルに引き上げると発表した。
1月18日、ロシアのプーチン首相とウクライナのティモシェンコ首相がガス価格の引き上げに大筋で合意、19日に今後10年間のヨーロッパ向けガス輸送と、ウクライナへのガス供給を確認する合意文書に調印した。
・2009年のガス料金は欧州向け価格より20%割り引く。
・2010年以降のガス料金は欧州並とする。(石油価格と連動)
2009/1/2 ロシア、ウクライナ向け天然ガス供給停止
3) 2010年
2010年4月21日、ウクライナのヤヌコビッチ大統領はロシアのメドべージェフ大統領と会談し、焦点のウクライナ向け天然ガス輸出価格の引き下げで合意した。ロシアは見返りにクリミア半島の黒海艦隊の基地貸与の延長を取り付けた。
旧ソ連の黒海艦隊は、ソ連崩壊後、ロシアとウクライナに分割され、1997年の協定でロシア艦隊の20年間駐留が決まった。
2010年に25年間延長が決まった。
天然ガス価格は既存の契約(1000立方メートルあたり
330ドル)から3割引き下げとなる。総額では年40億ドルに達する見込み。ウクライナはガス価格の引き下げで財政負担を軽減し、中断している国際通貨基金からの融資再開に弾みを付ける。
市場価格に連動した現行協定を踏まえつつ、1000m3あたり330ドルを超えた場合には100ドル分を値引き、それ以下の場合には3割値引きする。
ロシアは価格引き下げと引き換えにクリミア半島に駐留するロシア黒海艦隊への基地貸与を期限の2017年から、最大30年間延長することで合意した。ユーシェンコ前大統領は延長を認めない構えだった。
4)2013年
2013年に入り、ロシアのGazprom はウクライナのNaftogaz
に対し、70億ドルの請求を行った。
2009年の売買契約での"Take or Pay" 条項に基づくとしている。
これに対しNaftogasは、以前から2009年の契約が価格その他の条項がアンフェアだとして再交渉を要求している。
ウクライナの姿勢は価格面でロシアから譲歩を引き出す戦術とも見られるが、これに対しロシア側は、値引きの条件として、ウクライナが関税同盟(ロシア、ベラルーシ、カザフスタンが加盟)に参加するか、欧州に通じるパイプラインの経営権を渡すことを挙げた。
2013/2/19 ロシアとウクライナ、天然ガス
で再び抗争
最終的には上記の通り、ヤヌコビッチ大統領はEUとの関係を強化する「連合協定」の締結を見送り、ロシアとの協力関係を密にする方針に転換し、ロシアはウクライナに対し150億ドルの金融支援を実施し、天然ガスの価格を2014年1月から約3分の1引き下げることで合意した。
しかし、ヤヌコビッチ政権の倒壊、クリミアのウクライナからの独立とロシア連邦への編入で、ロシアにとってはウクライナは同盟国扱いの対象ではなくなった。
ロシアは2010年4月の値下げの見返りにクリミア半島の黒海艦隊の基地貸与の延長を取り付けた
が、本年3月下旬に、クリミアが自国の一部になったとして、黒海艦隊の駐留に関する契約を破棄をウクライナに通告している。
4月2日、プーチン大統領は、ロシア艦隊の駐留に関する全ての合意を破棄する法案に署名した。年間1億ドルの基地使用料支払いもなくなる。
ーーー
ウクライナ新政権は3月27日、IMFとの交渉で140億ドル以上の金融支援融資を受けることで基本合意した。
これには、電気、ガス料金の大幅引き上げ、年金改革や公務員の給与凍結等の厳しい条件がついている。
ウクライナ政府は長年にわたってガスを低価格で国民に供給するため年間100億ドル規模の巨額の補助金を投入しており、財政悪化やエネルギー産業の非効率の一因となってきた。
ウクライナ最大の国営ガス会社ナフトガスは3月26日、一般家庭向けのガス料金を5月1日から5割値上げすると発表した。
今回のロシアによる天然ガスの大幅値上げ通告で値上げ幅は更に拡大する。新政権は近く社会保障給付の削減にも踏み切る方針で、生活水準悪化に対する国民の不満が高まることが予想される。
2014/4/5 EU、高圧電力ケーブルカルテルに制裁金
欧州委員会は4月2日、欧州内で日本メーカーを含む企業が、10年近くにわたって電力網の構築などに使う地下及び海底の高圧電力ケーブルでカルテル行為を実施したとして、総額で3億164万ユーロの制裁金を科したと発表した。
欧州6グループ (ABB、Brugg、Nexans、NKT、Prysmian、Silec)、日本3グループ(J-Power、ビスキャス、エクシム)、韓国2社(LS
Cable、大韓電線)の11グループが1999年から2009年1月(調査開始時)までの間、カルテルを結び、欧州メーカーと日韓メーカーが相手のホームテリトリーに入らないこと、その他の市場を分け合うことを決めていた。
欧州メーカーは欧州経済領域(European Economic Area:EEA)内でプロジェクトを分け合っていた。日韓メーカーが欧州需要家から要請を受けた場合は、欧州メーカーに連絡した上で断った。各社は価格情報を交換し、決められたメーカーが受注できるようにし、他のメーカーは入札を取り止めるとか、受けられない高い価格を提示した。
ABBはカルテルの存在を通知し、
33百万ユーロの制裁金を免除された。
J-Power Systems
と株主の住友電工、日立金属は調査に協力し、制裁金の45%を免除された。
3社はまた、最初に証拠を提出したため、カルテルの最初の2年間については制裁金を免除された。
付記
フジクラ及びビスキャスは、事実認定や法令適用に疑義があるとして、2014年6月に欧州普通裁判所に提訴した。
ーーー
日本企業が取り決めに従って欧州で応札せず、直接的に欧州での競争を制限したとして、多額の制裁金を課せられたのには、電力用ガス絶縁開閉装置のケースがある。
2007/1/26 EU、電力用ガス絶縁開閉装置のカルテルで1200億円の制裁金
欧州企業は日本での競争を制限しているため、日本で課徴金を課せられる筈だが、この例では、欧州委からの通報がなかったために、時効により公取委はカルテルの調査に入れなかった。
2008/4/19 電力用ガス絶縁開閉装置のカルテルの日本での扱い
付記 他に変圧器カルテルも。
2009/10/8 最近の欧州の独禁法の事例
ーーー
今回の制裁金は以下の通り。
|
Leniency |
Fine (1000€) |
ABB |
100% |
0 |
Brugg Cables
|
|
8,490,000 |
Nexans |
|
70,670,000 |
NKT Cables |
|
3,887,000 |
Prysmian Group |
|
104,613,000 |
(内 Pirelli
Group) |
|
(67,310,000) |
(内 Goldman
Sachs)
2005年 Pirelli Cable & System買収、改称、調査開始後に売却した。 |
|
(37,303,000) |
Silec Cable
|
|
1,976,000
|
(内 General
Cable) |
|
(1,852,500) |
(内 Safran) |
|
(123,500) |
Safran
2005年、Silec Cable をGeneral Cable に売却 |
|
8,567,000 |
J-Power Systems
2001/10住友電工、日立電線 50/50
2014/4 住友電工100% |
45 % |
20,741,000 |
住友電工
|
45 % |
2,630,000 |
日立電線(現 日立金属) |
45 % |
2,346,000 |
ビスキャス(VISCAS)
2001/10 古河電工、フジクラ 50/50 |
|
34,992,000 |
古河電工 |
|
8,858,000 |
フジクラ |
|
8,152,000 |
エクシム(EXSYM)
2012/4 昭和電線 60%、三菱電線 40% |
|
6,551,000 |
昭和電線 |
|
844,000 |
三菱電線 |
|
750,000 |
LS Cable |
|
11,349,000 |
大韓電線(Taihan
Electric Wire) |
|
6,223,000 |
TOTAL |
|
301,639,000 |
欧州委員会は3月19日、自動車向けのベアリングで、日本企業と欧州企業 5社に9億5300万ユーロの制裁金を科したが、この際は全社がカルテルへの参加を認め、責任を認めて示談制度による10%減額を受けている。
2014/3/22 EU、ベアリングカルテルで制裁金
今回はどの社も減額を受けていない。
日本の公取委による解説では以下の通り。
和解手続は,審査手続の迅速化・簡略化を目的としていますが、すべてのカルテル事件に適用されるわけではありません。欧州委員会は、事業者との間で事件についての共通理解が得られるか、手続をどの程度効率化できるかといったことを踏まえて、和解手続を適用するかどうかを判断します。
本件の場合、この決定が不服で、裁判で争うとする企業が多い。
このうち、特に問題となるのは「投資会社」のGoldman
Sachsである。
Goldman Sachs では、カルテル行為は同社がPrysmian
を買収する数年前に始まっていたが、そういう行為を全く気がつかなかったとし、裁判で争うとしている。
これに対し欧州委員会は、Goldman
Sachs はPrysmian に
5〜6名の取締役を派遣しており、定期的に戦略的決定についての報告を受けているとし、投資会社であっても法令順守のカルチャーを維持する義務があるとしている。
ーーー
日本では、発電所から変電所に高圧電力を送る電力ケーブルを巡るカルテルについては、2000年1月に下記の3社に排除措置命令と課徴金納付命令を出した。
3社は2005年以降、国内の電力会社が発電所から変電所への送電に用いる高圧電力ケーブルについて、担当者が受注割合や価格などを話し合って決めていた。
課徴金(千円) |
|
東京電力
電源開発 |
東北
電力 |
中部
電力 |
北陸
電力 |
中国
電力 |
九州
電力 |
沖縄
電力 |
合計 |
エクシム |
100,070 |
12,600 |
30,010 |
29,220 |
9,060 |
62,400 |
8,210 |
251,570 |
J-Power Systems |
128,580 |
5,610 |
14,940 |
15,220 |
22,530 |
33,600 |
7,620 |
228,100 |
ビスキャス |
54,680 |
17,680 |
34,440 |
2,470 |
9,370 |
25,130 |
9,570 |
153,340 |
課徴金合計 |
283,330 |
35,890 |
79,390 |
46,910 |
40,960 |
121,130 |
25,400 |
633,010 |
|
報道によると、公取委は2009年1月、欧州企業を含めた国際的な受注調整が行われていたとみて欧州委員会や米司法省と同時に調査を開始したが、証拠が足りないため国際カルテルの解明は断念したとされる。
今回、欧州委員会は証拠をもとに欧州で販売していない日本企業にも多額の制裁金を課したが、日本の公取委は日本で販売しないことで日本での競争を制限した欧州企業及び韓国企業に対し、措置を取るのであろうか。
同じ事件で欧州と日本で扱いが異なるのはおかしい。
付記
後藤晃氏の「独占禁止法と日本経済」によると、このような場合、日本の市場の競争を阻害することで排除命令の対象とはなるが、日本国内では売上が発生しないため、課徴金の対象とならない。(EUは違反企業の年間売上高を基準に裁量的に制裁金を計算)
マリーンホースで外国企業に排除命令
なお、日本市場での電線カルテルについては、他に下記のものがある。
2010/5/26 光ファイバーケーブルのカルテルで過去最高の課徴金
2010/11/30
公取委、建設・電販向け電線カルテルで排除措置命令及び課徴金納付命令
2014/4/7 ウクライナ問題の背景
麻生副総理の3月25日の会見での発言が問題となった。
キエフ公国というのはロシアのもとですよ。ロシアというのはここから始まったんだから。そのキエフ公国がロシアのもとなんだから、キエフがバルカンだのクリミア半島と別れて、キエフだけヨーロッパに行っちゃうみたいな話は、ロシアとしてはなかなか、日本で言えば宮崎県が独立して高天原がいなくなっちゃうみたいな話なんじゃないの。知らないけど。よくあの辺のことはわからないけど。そんな簡単な話ではないんだという話ですし。
これについてはHenry Kissinger も3月6日付けのWashington
Post でこう述べている。
ウクライナが生き残り、繁栄するためには、ウクライナはロシア側、西欧側のどちらかに立って相手側に立ち向かうべきでなく、双方の間の架け橋となるべきだ。
西側は、ロシアにとってウクライナは単なる外国の一つではあり得ないことを理解しなければならない。ロシアの歴史はKievan-Rus
と呼ばれるところに始まった。ロシア正教はそこから広がっていった。ウクライナは数世紀にわたってロシアの一部だったし、その以前にもロシアとウクライナの歴史は絡み合っていた。1709年の
Poltavaの戦いに始まるロシアの自由にとってもっとも重要ないくつかの戦いはウクライナの地で戦われた。黒海艦隊は長期のリース契約に基づきクリミアのSevastopolに基地を置いている。Aleksandr
Solzhenitsyn やJoseph Brodskyのような反体制派ですら、ウクライナはロシアの歴史、というよりロシアそのものの不可欠な一部だと主張した。
ウクライナ問題はもっと複雑である。
ウクライナのデシツァ外相は4月1日、「法制上、現時点でNATO加盟を申請することはできない」とする一方、国会が法制を変更すれば「他の選択肢も議論になる」と述べ、将来についてはNATO参加に含みを残した。
NATOは、ソビエト連邦との冷戦が激しさを増す中で、英仏が主体となり、1949年4月4日に締結された北大西洋条約により誕生した。
結成当初は、ソ連邦中心とする共産圏に対抗するための西側陣営の多国間軍事同盟であった。
1990年10月にドイツが再統一され、NATOは旧東独に進出した。
1991年12月にソ連が崩壊した。その後、旧ソ連諸国が相次いでNATOに加盟した。
1999年 チェコ、ハンガリー、ポーランド
2004年 エストニア、ラトビア
、リトアニア、ブルガリア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア
2009年 アルバニア、クロアチア
NATOの東進には複雑な背景がある。
Oliver StoneとPeter Kuznickの共著の“The Untold History of the United States”によると、ドイツ再統一にあたり、以下のような交渉があった。
1990年2月、Bush大統領とBaker国務長官、Helrmut Kohl西独首相は、Gorbachev
に東独駐在の38万人のソ連軍を撤退させ、1945年のドイツ敗戦に伴う駐留権を放棄させるのに苦慮した。
Bakerは2月9日にGorbachevと会見し、「統一ドイツがNATOから外れるのと、統一ドイツがNATOに残るが、NATOは現状から1インチたりとも東に入らないのと、どちらを好むか?」と質問した。BakerはGorbachevの「NATOの地域の拡大は受け入れられない」との答えを記録している。
Helmut Kohl は翌日Gorbachev
と会い、「当然、NATOは領域を東独に拡大しない」と述べた。
2月10日にはドイツのGenscher外相がEduard Shevarnadze外相に同じことを伝え、「統一ドイツのNATO加盟は複雑な問題を生むが、一つだけ確実なことは、NATOは東に拡大しないということだ」と述べた。
これがドイツだけではなく、全ての東欧諸国に適用されることを理解させるため、Genscherは「NATOが拡大しないことに関しては、全般に適用される」と付け加えた。
Kohlの保証を受け、Gorbachevはドイツ再統一を認めた。しかし、法的文書のサインはなく、言葉だけであった。
Gorbachev
は同年9月、どうしても必要であったドイツからの資金援助と見返りに、東独へのNATOの進出に同意し、問題を複雑化した。
Gorbachev
は明らかに合意があったと考えており、米国と西独はNATOを一歩たりとも東に拡大しないと約束した、と述べた。
プーチン大統領はGorbachev が米国に騙されたと考えている。
現在、ロシアの西側でNATOに参加していないのは、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバだけとなり、ウクライナが加盟すると、NATOがロシアの隣に進出することとなる。(例えて言えば、ソ連が西欧を制覇し、カナダとメキシコを同盟に入れようというようなものである。)
プーチンにとってみれば、旧東独は別として、他の旧ソ連諸国へのNATOの進出そのものが約束違反ということになる。
今回、ヤヌコビッチ大統領が独仏ポーランドの3カ国外相と危機の打開策を協議し、2月21日に野党3党の代表と政治危機の解決に向けた合意文書に署名し、大統領選の年内前倒し実施や大統領権限を大幅に議会に移す憲法改正を9月までに行うことなどを決めた。
しかし、その直後に野党が政権を打倒、欧米諸国は新政権を支持した。
これについてプーチン大統領は、「憲法に反するクーデターが起きた」とし、新政権を法的な正統性がないとして否定する立場を表明している。
ーーー
クリミア半島も複雑な歴史を持つ。
戦後、クリミア半島はロシアに帰属する自治共和国であった。
1954年、クリミアはロシアからウクライナへ移管された。
当時のフルシチョフ書記長の決定で、公式には「ロシアとウクライナの友好のため」だったが、フルシチョフがクリミアを自分の生まれ故郷のウクライナに与えたかったからという話もある。
当時はソ連内部での移管であり、問題にはならなかった。
1992年1月にロシア議会が「ソ連がクリミアをロシアからウクライナへ移管したことは違法だ」と決議し、同年5月にクリミア議会がウクライナから独立を宣言し、クリミア共和国憲法を制定
したが、ロシアは軍事介入もクリミア共和国の承認もしなかったため、クリミヤ議会が独立宣言を取り消
した。
1994年の初代クリミア大統領選で、独立を主張するメシコフが当選し、議会も再度独立を決定した。
しかし、ウクライナはクリミアへの武力介入を構えを見せつつ、大統領と独自憲法を廃止させ、クリミアは1995年3月、ウクライナの統治下に戻った。
ソ連崩壊の過程で、主要基地であったセヴァストポリ軍港がウクライナ領になったことから、長らく二国間で協議が進められ
、艦隊の分割と基地の使用権に関する協定が結ばれた。この協定により、ロシア海軍は2017年までセヴァストポリに駐留することが認められた。
しかし、2004年にウクライナで親欧米派のユーシェンコ政権が誕生、EUやNATOへの接近を図る同政権は、黒海艦隊の早期撤退を求めた。
これに対し、ロシアはウクライナへの天然ガスの大幅値上げで応じた。
2010年の選挙で親露派と目されるヴィクトル・ヤヌコーヴィチ政権が成立、同年4月、ヤヌコーヴィチはクリミアに駐留するロシア黒海艦隊の駐留を25年間延長することに合意した。
ティモシェンコ前首相は、ヤヌコーヴィチ大統領は外国の軍事基地駐留を認めない憲法17条を侵害したと非難した。
しかし、憲法裁判所長官は、ユーシチェンコ前大統領による合憲判断要請を法的根拠がないとして却下した。
プーチンは1954年のフルシチョフによるクリミア移管を批判しており、ウクライナの政変でウクライナがNATOに加盟し、黒海艦隊の早期撤退を求められることを恐れたと見られる。
ーーー
Kissingerは上記の寄稿のなかで、以下の通り述べている。
1. ウクライナは経済的、政治的な協力関係をどこと結ぶのか、自分で選択する権利がある。
2. ウクライナはNATOに参加すべきでない。(7年前からの主張である)
3. ウクライナは国民の意思に合った政権を創る自由がある。賢明なリーダーなら自国内の各層の間の調和を図るべきだ。
フィンランドがよい手本となる。独立心を持ち、多くの分野で西側と協力するが、ロシアとの敵対は注意深く避けている。
4. ロシアのクリミア併合は国際ルールに違反する。
ロシアはクリミアに対するウクライナの主権を認め、ウクライナはクリミアの自治権を強めるべきだ。
黒海艦隊の駐留に関しては曖昧な表現は排除すべきだ。
2014/4/8 DuPont と韓国Kolonのアラミド繊維の技術盗用裁判、差し戻し
米国連邦第4巡回区控訴裁判所は4月3日、アラミド繊維の営業秘密をめぐって Dupon と韓国のKolon Industries
の間で起こされていた訴訟の控訴審で「Kolonが敗訴した一審判決は無効であり、再審を命じる」との判決を下した。
これにより、KolonがDuPontに920.3百万ドルの賠償金を支払うよう命じるとともに、全世界で20年間、アラミド製品の生産や販売を禁止するとしていた判決は破棄された。
但し控訴裁判所は、DuPontが米国市場でアラミド繊維の独占を図ったとするKolon側の独禁法違反の訴えについては却下した。
ーーー
Kolonは1979年にアラミドの基礎研究を開始、1994年に完成させ、2005年末から商業生産を開始した。
DuPontは2007年に、同社を2006年初めに退職し、その後Kolon のために
Aramid Fiber Systems LLC を設立した技術者の行動に疑念を持ち、FBIと商務省に懸念を伝え、共同で調査を続けた。
DuPontは2009年2月にKolon を商業秘密盗用で訴えた。
これに対し、KolonはDuPont技術の盗用を否定、自社技術で生産していると反論していた。
バージニア州Richmondの連邦裁判所の陪審は2011年9月、Kolonに対し、DuPontのアラミド繊維(Kevlar)に関する商業秘密を盗んだとして、919.9百万ドルの損害賠償を支払うよう命じた。
2011/9/21 DuPont、アラミド繊維の技術盗用裁判で韓国のKolonに勝訴
DuPontは判決後、裁判長に対し、追加の懲罰賠償と裁判費用の支払い、Kolonの米国資産の凍結、DuPont技術の使用禁止の命令を求めた。
米地裁は2011年11月、懲罰賠償として35万ドル、合計920.3百万ドルの支払いを命じ、2012年8月
には Kolonに対し Heracron® Aramid Fiber の20年間の製造停止を命じた。
2012/9/3 米地裁、DuPontのアラミド繊維技術盗用で韓国Kolonに20年間の製造販売停止命令
但し、製造停止命令は控訴審で差し止められ、実施されていない。
ーーー
今回、控訴裁判所は、Richmondの連邦裁判所の裁判長が、問題となった商業秘密が無効であるとの証拠を採用しなかったこと、商業秘密の一部をDuPontが以前のAkzo
Nobelとの裁判で開示しているとのKolonの主張を受け入れなかったことは、思慮を欠く独断的な行為であるとし、再審を命じた。
どの証拠を認めるべきであったとするのではなく、証拠の全面除外("blanket exclusion")は著しく差別的であるとした。
Kolonとその5人の役員が、FBIが入手したKolonの明らかな違法行為の証拠に基づき、2012年8月に商業秘密盗用で起訴されたことを指摘し、しぶしぶ("with
reluctance")この判断を下したとしている。
Kolonの勝訴ということではなく、手続き上の誤りで再審を命じたと見られる。
但し、Kolonは新しい裁判で、過去に提示できなかった証拠を提示し、主張を述べることが出来ることとなった。
Kolon 側が当初の裁判長を利害相反で忌避したため、再審は異なる裁判長の下で行われる。
当初の裁判長は、DuPontとAkzo との間の裁判の当時、DuPont側に立っていたMcGuireWoods法律事務所のパートナーであった。
但し、2011年の裁判時にはKolonは裁判長忌避を行わなかった。
DuPontがアラミド繊維で米国で70%以上のシェアを持ち、大需要家に需要の80%以上を同社から買うよう求めているというKolon側からの独禁法
違反の訴えについては、控訴裁判所は、DuPontのシェアは2006年から2009年の間に60%以下に低下し、日本の帝人に着実にシェアを奪われつつあるとした。
そして、DuPontがシェアを失いつつあること、長期の市場支配力を欠いていることから、DuPontが価格を支配したり、競争を排除したりする能力は持たず、市場を支配しているとは言えないとした。
2014/4/9 BASF
と戸田工業、日本でリチウムイオン電池用正極材の合弁事業に向けた協議を開始
BASFと戸田工業は4月3日、日本を拠点にリチウムイオン電池用正極材を展開する合弁事業に向けた独占交渉を開始したと発表した。
日本において、NCA(ニッケル系正極材)、LMO(マンガン系正極材)、NCM(三元系正極材)といったさまざまな正極材料の製造、マーケティング、販売に注力する予定で、両社はそれぞれの正極材ビジネス、知的財産権、日本における製造設備・拠点などを結集し、バッテリー産業における正極材のポートフォリオを拡大する。
合弁事業ではBASFが過半数の株式を保有する予定。
戸田工業の久保田社長は、「リチウムイオン電池市場における成長の鍵は、製品開発、性能、コスト、供給規模・能力の4つで、BASF
との合弁事業のシナジー効果として、この4つのすべてが強化でき、その結果今後拡大する市場に的確に対応できる、望ましい提携である」としている。
戸田工業は負極材の事業を行っており、また、正極材事業では米国に進出している。ドイツ、中国、韓国にも販売拠点がある。
これらの事業がどうなるのか、不明である。
ーーー
戸田工業はベンガラ製造業としての創業から、およそ2世紀にわたる長い歴史をもつ企業で、現在は、金属酸化物の湿式合成技術を基盤とし、リチウムイオン電池正極材、顔料・トナーなどの各種着色材料、磁性体粉末材料・フェライト材料などの磁性体の多様な商品を製造している。
顔料(コンクリート用、アスファルト用、CSファルト用着色材料)
デジタル記録材料(タル磁気記録材料、磁気記録用下層材料)
環境機能材料(ダイオキシン制御材料、土壌・地下水浄化、重金属不溶化剤)
電子印刷材料(カラープリンター用キャリア及びトナー材料)
リチウムイオン電池用材料
リチウムイオン電池の構成は以下の通り。
正極材としては、コバルト産リチウム(LiCoO2)以外に、3元系(LiNiMnCoO2)、マンガン系(LiMn2O4)、ニッケル系(LiNiCoAIO2)、鉄系(LiFePO4などがある。
戸田工業の電池事業の歴史は以下の通り。
1990's |
正極材研究に着手 |
|
2000 |
LiCoO2事業開始 |
|
2002 |
LiNiCoAlO2事業化 |
富士化学工業から複数の特許を引継ぎ |
2007 |
Ni(OH2)/LiNiCoMO2/CoOx事業化 |
HC.Starckより事業買収、カナダの正極材料および正極材料前駆体製造工場も。
→Toda Advanced Materials Inc.(カナダオンタリオ州Sarnia、年産4,000 トン) |
2008 |
LiMn2O4事業化 |
|
三成分系(LiNiMnCoO2)事業化 |
Argonne National
Laboratories
からライセンス受け |
2009 |
米国工場建設開始 |
Toda America、立地:Battle
Creek, Michigan
エネルギー省のAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009による助成金交付
ニッケル系、三元系を中心とした正極材、及びマンガン系(LiMn2O4)、年産4,000 トン |
2010 |
米・加子会社を伊藤忠とのJV化 |
戸田50%、伊藤忠
50%
米国:Toda America
カナダ:Toda Advanced Materials |
2011 |
正極材用リン酸鉄リチウム生産設備建設 |
M&Tオリビン(三井造船51%、戸田49%)が三井造船千葉事業所に年産2100トンプラント建設 |
2013 |
負極用炭素材料マーケティング開始 |
三菱商事とのJV MTケミカル(V焼石油コークス製造のSGケミカル:旧三井鉱山化成の敷地内で生産) |
H.C.
Starck:
H.C.
Starck はタングステン、モリブデン等の希少金属の粉末及びコンパウンド、セラミック粉末、エレクトロニクス用スペシャリティケミカル等のメーカーで1986年にBayerグループに入った。
BayerはH.C. Starck
を入札方式により売却先を選定していたが、2006年12月に投資会社の
Advent International とCarlyle Group
に売却することに決めた。
2006/12/2 Bayer、子会社
H.C. Starck を売却
H.C.Starck
の電池材料事業部門は、ドイツに経営・開発拠点を置き(主な商品はLi-ion電池用正極材料の前駆体、Ni-MH電池正極材料
及び 触媒,メッキ用特殊Ni材料など)、カナダ、オンタリオ州
サーニャ市に年間4000トンのNi系電池用の正極材料および正極材料前駆体の工場を有していた。
戸田工業は2007年にH.C.Starckの電池材料事業部門を買収する契約を締結した。
ーーー
BASFはHED™ブランドでいろいろな正極
材を扱っている。
同社は戸田工業と同じく、ニッケル・コバルト・マンガンの3元系技術のグローバルリーダーのArgonne
National Laboratories からライセンスを受けている。
更に、燐酸鉄リチウム技術のリーダーのLiFePO4+C Licensing
からもライセンスを受けている。
2014/4/10 第一三共、ランバクシーを実質売却
第一三共は4月7日、子会社 Ranbaxy Laboratories をインドのSun Pharmaceutical Industries Ltd. (Sun
Pharma) が株式交換により吸収合併することでSun Pharmaと合意したと発表した。2014年12 月末迄に完了する予定。
付記
合併合意が発表される前にインサイダー取引があったとされたため、インドの高等裁判所は、4月25日、合併契約について一時差し止め命令を下したが、5月26日までにこれを解除した。
2015年3月24日、取引きが完了した。子会社合併差益(税効果考慮前)として3,400億円
を計上する。
株式交換で取得するサンファーマ株の時価と現在の簿価の差額。
付記
第一三共は2015年4月にサンファーマの持株全てを3,784億円で売却した。
Lanbaxyの2013年の売上高は18億ドル、Sun Pharmaの売上高は25億ドルで、統合後のSun
Pharmaは売上高43億ドルで世界5位の後発薬メーカー、インド最大の医薬品メーカーとなる。
株式交換比率は、Ranbaxy株式 1に対し、Sun Pharma株式 0.8で、第一三共はRanbaxy株式の約63.4
%を保有しているが、合併により Sun Pharma株式の約9%を取得し、取締役1 名を派遣する権利を有する。
この交換比率はRanbaxy
1株を457ルピーで評価したもので、過去30日の加重平均株価に18%、過去60日の加重平均株価に24.3%のプレミアムを乗せたもの。
但し、ほぼ同規模の会社が統合し、Ranbaxyの63%株主の第一三共が新会社の9%
しか得られないというのは理解しにくい。
入手しうる資料からは下記の通り第一三共の比率は15.6%となる。
全くの推測だが、これでは連結対象となる
(取締役派遣の場合は15%以上の出資で持分法連結対象となる)ため、一部を売却した可能性もある。
付記 その後、2014/3までにSun Pharmaの株式が倍増されていたことが判明(「ボーナス株発行」とされている)
|
株数 |
第一三共 |
比率 |
Ranbaxy (2012/12) |
422,913,803 |
268,711,323 |
63.4% |
|
Sun Pharma (2013/3) |
1,035,581,955 |
|
|
Sun Pharma (2014/3) |
2,071,163,910 |
|
|
Ranbaxyへ割当 |
338,331,042 |
214,969,058 |
|
割当後 |
2,409,494,952 |
214,969,058 |
8.92% |
ーーー
第一三共は2008年11月7日、Ranbaxy株の63.9%を取得したと発表した。
公開買付けを行ったうえ、創業家一族からの取得、第三者割当増資、新株予約権の引受けを行ったもので、取得価格は1株当たり 737ルピーで、総額4,950億円になる。
この買収の最中の2008年9月16日に、米国FDAは品質管理等に問題があるとして、Ranbaxyの医薬品30種以上の輸入を一時停止した。
第一三共は2009年1月、2009年3月期第3四半期に、連結子会社であるRanbaxyに関し、連結決算において3,540億円ののれん一時償却の特別損失を計上すると発表した。
2009/1/8 第一三共、ランバクシーの評価損計上
Ranbaxyは、製品の米国向け輸出が出来なくなったため、インドで生産した原薬を米国で製剤する方策を採ったが、その後も品質問題は解決せず、原薬工場も禁止対象となった。
2011/12/28 ランバクシー、米FDAと同意協定書締結
2013/9/21
米FDA、第一三共子会社Ranbaxyに再び輸入差し止め
2014/1/18
第一三共のRanbaxy、原体製造工場も問題か?
第一三共は経営陣を送り込み、品質問題に対処してきたが、「現場レベルまで行き届いた指導がなされなかった」という。
日経によると、現地では、「窓からハエが飛来している」「錠剤に異物が入っている」など、工場の品質問題を巡る報道が続いているという。
第一三共はRanbaxyの米国事業の早期解決が難しいと判断、Sun Pharma
に売却することとした。
なお、第一三共は2013年5月に「当社は、Ranbaxyの特定の以前の株主が、DOJおよびFDAの調査に関する重要な情報を隠蔽したものと判断し、現在、法的な措置を講じております」と述べている。
ーーー
日経は第一三共の社内事情も報じている。
第一三共は2005年に「対等の精神」で統合したが、旧第一製薬と旧三共の勢力争いが今も続いているという。
「旧三共案件」のランバクシーが窮地に陥り、今回のサンファーマとの合併は旧第一が主導し、旧三共を排除して行われたという。
いまだに全社一体での対応がなされていないのは問題である。
ーーー
Sun Pharmaはインドのムンバイに本社を置くジェネリックメーカーで、1983年に設立後、ICNのハンガリー事業、Caraco
Pharmaceutical、Taro Pharmaceutical などの買収、MSD(Merck)とのJV設立などで拡大、ジェネリック医薬品やノーブランド医薬品を中心に
米国やヨーロッパおよびアジアなど世界中に輸出している。
武田薬品は2012年にURL Pharmaを買収したが、その後同社の後発品事業をSun Pharmaの100%子会社のCaraco Pharmaceutical に譲渡し
ている。
武田薬品とURL Pharmaは2012年4月、武田がURL Pharmaを800百万米ドルで買収することについて合意した。買収完了後、武田ファーマシューティカルズUSAに統合した。
URL Pharmaの2011年の売上高は約600百万米ドルで、そのうち痛風の予防および治療薬であるColcrysの売上高が430百万米ドル強を占めている。
武田薬品は2013年6月、Sun Pharma 及びイスラエルのTeva Pharmaceutical
と特許侵害訴訟で和解している。
2013/6/19
武田薬品、米国での医薬品特許侵害訴訟で和解、但し和解金は収益にならず
統合後のSun Pharmaは売上高43億ドルで世界5位の後発薬メーカー、インド最大の医薬品メーカーとなる。
ソース:http://www.sunpharma.com/Media/Press-Releases/Sun-Ranbaxy
Investor Presentation.pdf
2014/4/11 米連邦地裁の陪審、武田薬品に60億ドルの懲罰的賠償支払の
評決
武田薬品工業は、米ルイジアナ州の連邦地裁の陪審が4月7日に糖尿病治療薬「アクトス」に関して、武田に60億ドルの懲罰的損害賠償の支払いを命じる評決を出したと発表した。
2014年2月3日から続いていたルイジアナ州西部連邦裁判所で行われた2型糖尿病治療剤「アクトス®」に起因する膀胱癌を主張する製造物責任訴訟において、原告の主張を認める陪審評決があった。
原告はTerrence
Allenで、被告は武田薬品及び米国でアクトスを共同で販売しているEli Lilly である。
|
総額 |
武田薬品 |
Eli Lilly |
補償的損害賠償 |
147.5万米ドル |
75% |
25% |
懲罰的損害賠償 |
90億米ドル |
60億米ドル |
30億米ドル |
武田薬品は、原告の膀胱癌はアクトスによるものではなく、また、この医薬品のリスクについては適切に注意書きをしているとし、「このたびの評決は大変遺憾であり、到底承服できない」としている。
Eli Lilly
も、アクトスは2型糖尿病には重要な治療薬であり、アクトスが原告の膀胱癌を起こしたとの証拠は無く、徹底的に争うとしている。
最終的には90億ドルの懲罰的賠償は大幅に引き下げられると見られている。
これまでの高額懲罰的賠償の10例では全てが破棄または大幅減額となっており、陪審の決定どうりのものはない。
米国の最高裁は、懲罰的賠償は補償的損害賠償や実際の被害額に見合ったものでないといけないとしており、いくつかのケースでは補償的損害賠償額の10倍なら認められるとした。
付記
米ルイジアナ州の連邦地方裁判所は8月27日、武田薬品に60億ドル、Eli
Lillyに30億ドルの懲罰的賠償金支払いを命じる陪審員評決を覆すよう求めた武田側の請求を退けた。
Rebecca
Doherty判事は「原告は、アクトスのラベルにぼうこうがんの発生リスク上昇に関する適切な警告を表示していなかったと陪審が判断するに足る証拠を提示した」と述べた。
裁判官による判決は確定しておらず、武田側は再審理を求めている。
一方、武田薬品工業は8月29日、「アクトス」について、専門機関による10年間の疫学研究の結果、統計学的に有意なぼうこうがんの発生リスクは認められなかったと発表した。同社は研究結果を日米欧など各国の規制当局に提出した。
ーーー
アクトスは糖尿病治療剤で、糖質の消化・吸収を遅らせる作用があり、2型糖尿病において、食事療法・運動療法を行っていても十分な効果が得られない場合の食後の過血糖を改善する薬。
糖尿病には2種類ある。
1型糖尿病はインスリン欠乏による糖尿病で、すい臓がインスリンをほとんど、またはまったく作ることができないため、インスリンの注射が必要。
2型糖尿病はすい臓がインスリンを作り出すが、量が十分ではない(インスリン分泌不全)か、インスリンが十分作用しない(インスリン抵抗性)場合で、10人に9人以上はこのタイプ。
2型糖尿病の薬は武田が開発したアクトスのみで、ピークの2007年度には世界で3962億円を売り上げた。2011年に特許が切れるまで収益の屋台骨であった。
武田薬品はアクトスに次ぐものとして一般名fasiglifamを開発していたが、肝臓における安全性の懸念から、2013年12月に自主的に開発を中止している。
ーーー
フランスの医薬品規制当局は2011年6月、
武田薬品の糖尿病治療薬アクトスとコンペタクト(アクトスとメトホルミンの配合剤)の新規患者への投与を禁止したと発表した。
当局が独自に行った疫学調査で、アクトス投与群は非投与群に比べ膀胱がんリスクが有意に高いことが確認されたためで、投与中の患者については、医師が個別に判断する。
2011年6月の厚労省の発表は以下の通り。
フランスの疫学研究の結果では、膀胱癌発生リスクは、非使用者と比較して約1.2倍増で、総投与量・期間の増加によるリスクが増加する傾向が認められた。
米国の疫学研究の結果では、膀胱癌発生リスクは、非使用者と比較して約1.2倍増で、全体解析では統計学的な差が認められなかったが、治療期間が長い場合にリスクが上昇する傾向が認められた。
一方、膀胱癌のリスクを上げないとする疫学研究等も複数報告されている。
以上の通り、わずかであるが、アクトス使用者において、投与期間に依存して膀胱癌の発生リスクが上昇する可能性があるため、当面の対応として、以下の内容の使用上の注意の改訂を指示する。
・ 膀胱癌治療中の患者等には使用を控える。
・ 膀胱癌のリスクについて患者への説明を行う。
・ 血尿等の兆候について定期的に検査する。
米国FDAは、「膀胱癌の患者にアクトスを使用しないこと」等の勧告を行った。
ーーー
米国では、アクトスの長期服用が原因で膀胱癌が発症したり、悪化したとの訴訟が約6000件起きている。
原告男性の弁護側は、アクトスと膀胱癌との関連性を示す研究結果について、武田が7年以上も具体的な警告を発するのを怠ったのは偶然や過失ではないと述べた。
これまで3件の州裁判所で判断が出ているが、カリフォルニア州とメリーランド州の州裁判所では陪審員が合計820万ドルの支払いを命じたが、裁判長がこれを却下、ラスベガスの州裁では本年、陪審員が原告の訴えを却下して
いる。
ーーー
この裁判では武田薬品が関連書類を意図的に破棄したとする原告側の主張
が取り上げられた。判事によると、武田の関係者は、アクトスの開発とマーケティング、販売に関わった現職および元従業員46人がまとめたファイルが見つからないことを認めた。幹部がアクトス関連資料を保持するよう従業員に指示したにもかわらず、一部のファイルは同社のコンピューターから削除されたという。
判事はファイルの削除・破棄は憂慮すべきことだと述べ、原告の弁護士が書類破棄について陪審の前で陳述することを認めた。
2014/4/12 ポーランドのSynthos、ブラジルでネオジウム触媒ポリプタジエンゴム製造へ
ポーランドの石油化学会社 Synthos は3月31日、ブラジルの Rio
Grande do Sul のTriunfo石化コンプレックスでネオジウム触媒ポリプタジエンゴム(Nd-BR)
の製造工場を建設する計画を明らかにした。
2013年に締結したBraskemとの間の原料ブタジエンの供給契約が発効次第、自動車やトラックの高機能タイヤや多くのゴム製品に使用されるNd-BRプラントの建設を開始する。
能力は年産8万トンで、輸入品を代替する。
本計画はMichelinからライセンスされた技術を使用する。
SynthosはタイヤメーカーのMichelin 及びPirelli
との間で、ブラジルの両社のタイヤ工場にNd-BR を供給する契約を締結している。
Synthosは以前から成長の著しい南米市場に注目しており、2012年の南米向け輸出は3.3%であったが、2013年には6.3%に上っている。
2013年の1-9月に、ブラジルの新車向けタイヤの売上は前年同期比で9%増え、交換タイヤは11%増えており、ブラジルと他の南米諸国は極めて魅力的な市場であるとしている。
ーーー
Synthosは旧称 Firma Chemiczna Dwory
S.A で、ポーランド最大の化学品メーカーである。
2007年にチェコの化学会社 Kaucuk s.a を買収し、同年10月にSynthosに改称した。
主製品は合成ゴムとPSである。
PS部門ではPS、発泡ポリスチレン、押出発泡ポリスチレンを生産している。
合成ゴム部門では、乳化重合法SBR (E-SBR)、溶液重合法SBR (S-SBR)、Nd-BR、HSR(high
styrene rubber)、NBR などを生産している。
このうち、S-SBRとNd-BRが省燃費型高性能タイヤ(いわゆる
Green Tire)用に使われており、各地で増設されている。
2010/12/27
溶液重合法SBRの増設相次ぐ
Dowから分離したStyronもドイツのSchkopauでS-SBRを生産しているが、同社は2014年4月、Schkopauの高シスBRプラントをNd-BRに転換すると発表した。
2011/6/6 Lanxess、シンガポールでポリブタジエンゴムを生産
2008年10月にMichelinからNd-BRの技術を導入した。
同時に両社の間で、生産開始後少なくとも7年間、製品をMichelinに供給する契約が締結された。
年産8万トンのNd-BRの生産が2011年にチェコのKralupy
で開始された。
参考 Michelinはインドネシアで合成ゴムの生産を計画している。
2013/6/26
Michelin とChandra Asri 、インドネシアに合成ゴム製造JV設立
2012年6月、SynthosはThe
Goodyear Tire & Rubber CompanyからS-SBRの技術を導入した。
2015年にポーランドのKrakow で年産10万トンプラントが生産開始の予定。
2014/4/14
住友商事、CEPSA Quimica の上海のフェノール計画に参画
住友商事は4月11日、スペインの大手石油化学会社
CEPSA Química S.A.が中国で展開するフェノール製造事業に参画すると発表した。
CEPSA Químicaの中国子会社 CEPSA Chemical Shanghai
が上海ケミカルパークでフェノール製造工場を建設中だが、住友商事はCEPSA
QuímicaとのJV(CEPSA Quimica China) を設立し、これに参加する。
能力は中間体のキュメンが年産36万トン、製品のフェノールが25万トン、アセトンが15万トンで、2014年末には本格稼動する予定。
CEPSA Quimicaにとっては本事業が初めてのアジア進出で、同社の高い製造技術力と、住友商事の中国での事業経営ノウハウとマーケティング力を組み合わせることで、中国における石油化学品の製造・販売基盤を確立する。
住友商事はCEPSAグループと約25年間の取引関係があり、これを機会に、更なる取引拡大を計画している。
ーーー
CEPSA(Compañía
Española de Petróleos
S.A.)はスペインの石油・石油化学の総合メーカーで、石油の探鉱・開発から精製、輸送、販売と合成樹脂、合成繊維、洗剤原料等の生産販売を行っている。現在、アブダビ国営の投資会社
IPIC(International Petroleum
Investment Company )の100%子会社となっている。
IPICは1988年に初めてCEPSAに出資、2009年に47.1%まで増やし、2009年8月にTotal
所有の48.83% を買収、最終的に100%をおさえた。
石油化学事業については、子会社Ertisa(フェノール)、Petresa(アルキルベンゼン)、Interquisa
(PTA)で製造販売し、製油所で生産したプロピレンやBTXなどの石化製品についてはPetrocepsa
で販売していたが、2008年5月、これらを1社にまとめ、CEPSA Quimica とした。
CEPSA Quimica (Ertisa)はスペインのHuelvaに年産60万トンのフェノール、37万トンのアセトンのプラントを持っている。
同社は上海ケミカルパークでUOP のキュメン法によるフェノール/アセトン
プラント建設を決めた。
同社は2008年6月にBayerとの間でフェノールとアセトンの供給契約を締結した。
Bayerの欧州、タイ、中国の工場に供給するもので、Bayerは現在、上海ケミカルパークではBPA 20万トン、PC 20万トンを稼動中。
2008/8/19 スペインのCEPSA、上海でフェノール/アセトン生産を計画
中国国家発展改革委員会(NDRC)は2010年7月30日、CEPSAの子会社Ertisa(→CEPSA
Chemical Shanghai)の上海ケミカルパーク(SCIP)でのフェノール/アセトン計画を承認した。
環境面の承認は2008年に受けており、当初は2009年スタートを予定したが、グローバルな経済危機で延期されていた。
2010/8/9 スペインERTISAの上海フェノール計画、NDRCが承認、
ーーー
中国では、三井化学が2009年4月15日にシノペックとの間で協力関係拡大の覚書を締結、その一環として2010年8月にフェノール事業の合弁事業化で合意した。
50/50出資で上海中石化三井化工を設立し、既存プラントを継承するとともに、フェノール25万トンプラントを新設するもので、新プラントは本年5月に稼動する予定。
1. 所在地 |
上海市・上海化学工業区
|
2. 出資比率 |
50:50 |
3. 生産能力 |
|
フェノール |
アセトン |
BPA |
今回新設 |
25万トン |
15万トン |
|
既設(上海中石化三井化工) |
|
|
12万トン |
既設(上海中石化高橋分公司) |
12.5万トン |
7.5万トン |
|
合計 |
37.5万トン |
22.5万トン |
12万トン |
|
4. 新プラントプロセス |
三井化学技術 |
5. 営業運転開始時期 |
2014年5月稼動 |
2009/11/4 三井化学、シノペックとの合弁事業の基本合意
2011/9/8 三井化学、フェノール・チェーンを強化・拡大
現在、フェノール及びビスフェノールA事業は、中国での新増設ラッシュによる市況悪化のため収益が低迷している。
三井化学は、2011年頃にはフェノール・チェーンをグローバルに拡大させる競争優位5事業の1つと位置付けていたが、本年2月6日、再構築を発表、千葉フェノールを停止し、中国市場については上海の新プラントでカバーすることとした。
2014/2/10 三井化学の事業構造改善計画
2014/4/15 マレーシアのBASF-Petronas
Chemical、香料原料を生産
BASFとPetronasは4月9日、パハンのGebeng工業団地の両社のJV、BASF-Petronas
Chemical(BASF 60%, PETRONAS
40%)で5億米ドルを投資して、香料原料を製造する工場を建設すると発表した。
生産するのはシトラールやシトロネロール、L-メントールなどで、fragrance
& flavor産業における世界的な需要の高まり、特にアジア太平洋地域における需要に対応できるようになる。
開発は段階的に行われ、統合プロジェクトの最初のプラント群は2016年に稼働の予定。
ーーー
BASFとPetronasは1997年に、BASFが60%、Petronasが40%の合弁企業としてBASF-Petronas Chemicals
を設立した。
Gebeng工業団地では、PetronasのMTBE MalaysiaとPP Malaysia 及びBASF-Petronas が下記の製品を生産している。
今回の香料原料はイソブチレンとホルマリンを原料とする。
ーーー
BASFは香料原料製造におけるリーディングカンパニーとして、幅広い製品を提供している。
これらは、主にホーム&パーソナルケア製品、高級香料に用いられるほか、食品産業や医薬品にも応用されている。
シトラール(citral)はレモングラスなどから採れる精油の主成分で、fragrance
& flavor
製品においてフレッシュな柑橘類の香りやフルーティー感を出すために用いられが、ビタミンAやビタミンEの製造にも用いられる。
シトロネロール(citronellol)はフレッシュで強力かつ持続性の高いローズの香りを表現するために使用され、L-メントールはオーラルケア、ボディケア、香味料製品、医薬品に使用される。
BASFはシトラールの合成法を完成させ、1981年に製造を開始した。
2004年に年産4万トンの連続生産工場を完成した。
イソブチレンとホルマリンからシトラールを生産する。
BASFはその後、シトラールのvalue chain を拡大し、種々の製品を開発した。L-メントールの生産能力は2万トンである。
製法はシトラールをキラル触媒で不斉水素化してシトロネロールの光学異性体をつくり、これからL-メントールを生産するもの。
これを連続製法で行うため、速く生産できるとともに、純度99.7%以上のL-メントールが生産できる。
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