ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

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2021/3/15 日米豪印ワクチンパートナーシップ

 

日米豪印4か国の首脳(菅首相、Biden大統領、Morrison首相、Modi首相)は3月12日、テレビ会議を行い、共同声明(“The Spirit of the Quad") とFact Sheetを発表した。

首脳は、様々な分野で実践的な協力が進展していることを歓迎するとともに、ワクチン、気候変動、重要・新興技術について、それぞれ作業部会を立ち上げることで一致した。

世界保健機関やCOVAXファシリティを含む既存の関連する多国間組織との緊密な連携の下、インド太平洋へのワクチンの公平なアクセスを強化すべく協働する。

気候変動が世界的な優先課題であるとの認識の下で団結し、パリ協定に沿った気温の制限を実現可能とし続けることを含む全ての国の気候行動を強化すべく行動する。

イノベーションが自由で開かれ、包摂的で、かつ強靭なインド太平洋と一致することを確保するために、将来の重要技術に関する協力を開始する。

東シナ海及び南シナ海におけるルールに基づく海洋秩序に対する挑戦に対応するべく、海洋安全保障を含む協力を促進する。
国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化への我々のコミットメントを再確認し、また、日本人拉致問題の即時の解決の必要性を確認する。
ミャンマーにおける民主主義を回復させる喫緊の必要性と、民主的強靭性の強化を優先することを強調する。

ワクチンについては以下の通り。

「Quad」のパートナーは、パンデミックの収束を更に加速させるための画期的なワクチンパートナーシップを立ち上げる。

世界保健機関(WHO)やCOVAXファシリティを含む既存の関連する多国間メカニズムと緊密に連携し、インド太平洋の国々におけるワクチン接種を強化し支援すべく協働する。

安全で有効なワクチンを世界中での利用可能性を確保することから始める。承認されているワクチンの製造能力の増大を優先させ、インド国内の施設における安全で有効な新型コロナ・ワクチンの製造拡大を達成するために連携する。

安全で有効なワクチンの製造、調達及び配送のために、資金面及び物流面での需要に対応する。

米国は、米国国際開発金融公社(DFC)を通じて、インドのBiological E Ltd. と連携し、同社が2022年末までに、Johnson & Johnson製のワクチンを含めたワクチンを少なくとも10億回分製造できるよう製造能力を増やすための資金協力を行う。

日本は、JICAを通じ、輸出向けの新型コロナ・ワクチンの製造を拡大するためにインド政府に対して円借款を供与するための議論を行っている。

Biological E は、米国のBaylor College of Medicine 及びDynavax Technologies Corp.と協力しワクチンを開発している。Baylor CollegeのBCM Ventureの抗原と、Dynavaxのアジュタント(CpG 1018)を使ったワクチンで、最近 Phase T/ U 治験を完了し、間もなくPhaseVに入る.

同社は別途、Johnson & Johnsonとの間でインドでの生産受託の契約を結んだ。年間6億回分のワクチン製造及び充填の受託とされる。

日米豪印のパートナーは、既存の健康安全保障・開発プログラムを活かし、「最後の1マイル」(全ての人への)のワクチン接種のための取組を強化する。ワクチンの受入れ準備と配送、ワクチンの調達、保健医療人材の即応性、ワクチンに関する誤った情報への対応、地域社会の関与、予防接種能力等に関する各国への支援を含む。

米国は、既存のプログラムを活用してワクチン接種能力をさらに高め、予防接種に焦点を当てた地域のプログラムに少なくとも1億ドルを活用する。

日本はCOVAXファシリティとの連携及び支援を確保しつつ、4千百万ドルの無償資金の提供や新たな円借款の供与等を通じ、ワクチンの購入、コールド・チェーン支援といった途上国のワクチン接種プログラムを支援する。

豪州は、大洋州の9か国及び東ティモール向けのワクチンへのアクセスと健康安全保障を確保するための4億7百万米ドルの既存のコミットメントに加えて、東南アジアに焦点を当てたワクチンの提供と「最後の1マイル」の配送支援のため、7千7百万米ドルを貢献し、調達を支援し、ワクチンの配送を準備し、東南アジアの保健システムを強化していく。

 

インドでは3社がワクチンを開発している。インド政府は1月にBharat Biotechのワクチン Covaxin を承認した。

Developer/manufacturer Platform Type doses Timing
 
days
Route Phase 承認
Bharat Biotech International
with
Indian Council of Medical Research - National Institute of Virology
Inactivated Whole-Virion Inactivated SARS-CoV-2 Vaccine (BBV152) 2 0, 14 IM V Covaxin
インド 2021/1/3

2021/1/4 インド、COVID-19 国産ワクチン承認 

Biological E Ltd 
with Baylor College of Medicine / Dynavax Technologies (USA)
Protein Subunit BECOV2 2 0, 28 IM T/U  
Cadila Healthcare
(
Zydus Cadila
DNA DNA plasmid vaccine
()  
3 0, 28, 56 ID V

付記
 ZyCoV-D
インド 2021/8/20

Zydus Cadila のワクチンは次にインドで承認を受けると見られている。 → 2021/8/20 承認
2〜8℃での保管でよく、承認前から世界中から能力以上の注文が来ているという。

 

なお、AstraZenecaは2010年6月4日、ワクチンを増設し、開発途上国にも供給すると発表したが、インドのワクチン大手Serum Institute of India (SII) とライセンス契約を締結、10億回分を低・中所得国に供給する。

このうち、一定量(発表なし)はインド向けで、残りはGAVI によって他の低所得国に配られる。

2020/6/8 AstraZeneca、新型コロナウイルスワクチン増産、開発途上国に供給 



2021/3/16 大日本住友製薬の再生医療事業 

日本経済新聞(2021/3/14)は、大日本住友製薬がパーキンソン病の患者に再生医療を施す臨床試験を2022年度に米国で始めると報じた。

パーキンソン病は有効な治療法がなく、症状の進行をゆるやかに抑える対症療法しかない。iPS細胞で実際に症状を改善する治療法開発につなげたい考えだ。


京都大学医学部附属病院は2018年7月30日、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験を8月1日より開始すると発表した。

パーキンソン病は脳で神経伝達物質のドパミンを分泌する神経細胞が失われる難病で、体が震えたり筋肉がこわばったりする。

再生医療用iPS細胞ストックから提供されたiPS細胞をドパミン神経前駆細胞へ分化させ、分化誘導したドパミン神経前駆細胞(計約500万個)を、定位脳手術により、患者の脳の線条体部分(左右両側)に移植する。 手術は、頭部を固定した上で頭蓋骨に直径12mmの穴を開け、そこから注射針のような器具を用い、細胞を注入する。

本治験は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)と大日本住友製薬より支援を受けて実施される。治験が成功すれば大日本住友製薬が開発を引き継ぎ、実用化を目指す。

2018/7/30 京大がiPS細胞でパーキンソン病治療臨床試験へ

ーーー

大日本住友製薬の再生・細胞医薬分野の事業化計画は下記の通りで、本件は2022年度上市目標としている。

 

1.  小児先天性無胸腺症(RVT-802)

T細胞の正常な発達に必要である胸腺が存在しないか未発達のため、T細胞の数が少なく、様々な感染症に対する抵抗力が不十分で、生後まもなく感染症にかかり、再発を繰り返す。

RVT-802は、先天性無胸腺症の小児患者に移植されて免疫応答機能を発揮するように作成された培養ヒト胸腺組織で、生涯に1回きりの再生医療である。

本剤は心臓病の小児の心臓手術中に除去されたヒト胸腺組織で患者の大腿四頭筋に移植される。患者自身の骨髄由来幹細胞が本剤に移動して成熟T細胞に分化することによって、感染を防御する。治療後612カ月で感染を防御するのに十分な胸腺機能が発達する。

20194月に米国で申請、201912月審査結果通知を受領、再申請の準備中。


2. 加齢黄斑変性

大日本住友製薬と理研認定ベンチャーのヘリオス(旧称 日本網膜研究所)は2013年12月2日、再生・細胞医薬事業に関する提携を発表した。

加齢黄斑変性等の眼疾患を対象としたiPS細胞由来網膜色素上皮細胞(RPE細胞)を用いるもので、世界初のiPS細胞技術を用いた再生・細胞医薬事業に向けたもの。

2013/12/4  大日本住友製薬と理研認定ベンチャーのヘリオス、iPS細胞由来医薬品を共同開発

3. パーキンソン病  上記


4. 網膜色素変性

神戸市立神戸アイセンター病院は、「網膜色素変性に対するiPS細胞由来網膜シート移植に関する臨床研究」について、2020年611日の厚生科学審議会再生医療等評価部会了承されたと発表した。

「網膜色素変性」は、遺伝子のキズが原因で光を感じる組織である網膜が少しずつ障害を受ける病気で、人口約5000人に1人の割合で患者がいるとされている。

京都大iPS細胞研究所(CiRA)が「iPS細胞ストック事業」で備蓄しているiPS細胞を使い、大日本住友製薬が網膜シートを作成する。 理化学研究所が免疫反応試験を行う。

2020/6/15 iPS網膜シートの移植、臨床研究開始へ 


5. 脊髄損傷

厚生労働省の専門部会は2月18日、iPS細胞を使って脊髄損傷を治療する慶応義塾大学の臨床研究計画を了承した。
慶應義塾特定認定再生医療等委員会が、2018年11月27日に計画を承認し、厚生労働大臣へ申請していた。

iPS細胞から作った神経のもとになる神経前駆細胞を患者に移植し、機能改善につなげる世界初の臨床研究である。

2019/2/20 iPS細胞で脊髄損傷治療

これに関し2020年11月、慶應義塾大学と大日本住友製薬の共同研究で、臨床用ヒトiPS細胞から効率的にグリア細胞(オリゴデンドロサイトなど)へ分化する臨床応用可能な誘導方法を開発し、脊髄損傷モデル動物の脊髄への投与により低下していた運動機能の改善を認めることを確認したことが発表された。

(1)作製された細胞は免疫染色、遺伝子発現解析でグリア細胞分化指向性が高いことを確認

(2)移植した細胞は多くがオリゴデンドロサイトに分化し、再髄鞘化を確認

(3)細胞移植したマウスで、脊髄損傷により低下した運動機能が改善

6. 腎不全

慈恵大学・東京慈恵会医科大学、明治大学、バイオス、ポル・メド・テック、大日本住友製薬は2019年4月5日、iPS細胞を用いた「胎生臓器ニッチ法」による腎臓再生医療の2020年代での実現を目標として、共同研究・開発などの取り組みを開始すると発表した。

ヒトiPS細胞から分化誘導したネフロン前駆細胞を、ヒト腎臓再生医療用遺伝子改変ブタ」の胎仔から採取した腎原基に注入し、その後、腎原基を患者に移植することによって、臓器ニッチを利用した機能的腎臓の再生を目指すもの

「胎生臓器ニッチ法」用いた腎臓再生医療の事業化は、5者協力のもと大日本住友製薬が担う。

2019/4/9 腎臓の再生医療実現に向けた取り組み開始 


2021/3/16  米国立衛生研究所、コロナ重症治療でアクテムラとデキサメタゾンの併用を推奨

米国立衛生研究所(NIH)は3月5日付で、新型コロナウイルス感染症の治療指針を更新し、重症患者に、関節リウマチなどの治療薬「トシリズマブ」(中外製薬のアクテムラ)を、既にコロナ治療で広く使われているステロイド系抗炎症薬の「デキサメタゾン」と併用して投与することを推奨した ことが判明した。

既報の通り、中外製薬は3月11日、COVID-19治療薬候補「アクテムラ」(Tocilizumab)の海外での試験で、主要評価項目を達成しなかったと発表した。
他に、主要評価項目を達成しなかった例と、主要評価項目を達成した例がある。

2021/3/12 中外製薬のCOVID-19治療薬候補「アクテムラ」、海外で効果確認できず 

一方、英政府は2021年1月7日、「アクテムラ」(Tocilizumab)と「サリルマブ」が新型コロナウイルス感染症の治療にも有効だと発表した。

1月8日から、英国全土の病院の集中治療室に入院中のコロナ患者を対象に投与する。
コロナの治療薬としては抗炎症薬「デキサメタゾン」などに続くものとなる。

2021/1/9 英政府、「中外製薬のリウマチ治療薬が新型コロナに有効」

今回、米国立衛生研究所(NIH)は英国での臨床試験で、酸素補給が必要な入院中の重症患者に、トシリズマブを抗炎症薬と共に投与すると死亡率の改善がみられたことを考慮し、トシリズマブとデキサメタゾンの併用を認めたと見られる。

 推奨は下記の通り。

「トシリズマブ」と「デキサメタゾン」の併用

対象の患者は、
過去24時間以内にICUに入院し、侵襲的人工呼吸器、非侵襲的人工呼吸器(NIV)、または
高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)を必要とする患者
ICUには入らないが、
NIVまたはHFNCを必要とし、炎症のマーカーが大幅に増加している、酸素の必要量が急速に増加している患者

なお、低酸素血症の患者で、通常の酸素補給が必要な患者にはレムデシビル、デキサメタゾン+レムデシビル、又はデキサメタゾン単剤 を推奨

https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/statement-on-tocilizumab/

中外製薬は、上記の海外試験での主要評価項目を達成しなかったとの発表に際し、年内に国内でCOVID-19治療薬として承認申請する計画に変更はないとしている。

ーーー

「トシリズマブ(Tocilizumab)」(中外製薬の製品名 アクテムラ):

トシリズマブは大阪大学と中外製薬が共同開発した日本発の治療薬で、ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体。関節リウマチ、若年性特発性関節炎、成人スチル病、高安動脈炎・巨細胞性動脈炎、 キャッスルマン病の治療に使われている。

日本では2020年5月から、新型コロナで肺炎が重症化した入院患者を対象に治験が実施されている。海外ではコロナ治療薬のレムデシビルと併用する治験が行われている。
中外製薬はこれらの治験結果を踏まえ、2021年中に日本で新型コロナ用として承認申請することを目指している。

欧州では中外製薬の親会社であるスイスのRocheが製造・販売している。

「サリルマブ(Sarilumab) 」(Sanofi の製品名 ケブザラ):

ヒト型モノクローナル抗体で、アクテムラに次ぐIL-6阻害薬。炎症を引き起こすIL-6の活性を抑制することで関節の炎症を改善し、全身症状(関節の破壊や変形から生じる機能障害、疲労、骨粗鬆症など)を緩和することが期待される。

Sanofiと米国のRegeneronが共同で開発を行い、米国、カナダ、欧州2017年に承認され た。日本ではサノフ2017927日 に既存治療で効果不十分な関節リウマチ」の効能・効果において製造販売承認を取得した

サノフィは2017年12月に旭化成ファーマと日本でのライセンス契約を締結した。サノフィおよびRegeneron社が製造を担い、旭化成ファーマが流通・販売を 担う。

抗炎症薬「デキサメタゾン」

英オックスフォード大は2020年6月16日、抗炎症作用のある一般的なステロイド剤デキサメタゾンが、新型コロナウイルスの重症患者の死亡率を減らすのに効果的だとする臨床試験の結果を公表した。

これを受けて英国の保健・社会福祉相は同日、新型ウイルス感染症の標準治療に午後からデキサメタゾンを含めると表明した。

日本の厚生労働省は、7月に新型コロナウイルス感染症の診療ガイドラインに「デキサメタゾン」を新たに掲載した。
効果が検証され国内で使用が認められた治療薬は、5月に特例承認された「レムデシビル」に続いて2例目。

既に承認、保険適用されていて、肺の疾患や重症の感染症も投与の対象となっている。低価格で手に入りやすいのが利点。


2021/3/17 新型コロナウイルス新規検査法を開発  

医療検査機器開発のマイテックと琉球大学は3月15日、「量子結晶」を用いたプラズモン増強効果により新型コロナウイルスを2分で可視化する新規検査法を共同開発した と発表した。

PCR検査はウイルス遺伝子を増幅して検出するため、手技が煩雑で結果を得るまでに数時間(通常、1〜4時間)かかる。また、迅速抗原検査はどこでも簡単に検査できるが、PCR検査と比較すると感度が低く一度に大量の検査はできない。

開発された検査法は、光がミラーボールの反射のように増強されるマイテックの技術を活用、蛍光顕微鏡で観察する。

マイテックは、バイオチップ(プロテオ®)表面に1分で金属錯体の結晶(量子結晶)を固相化させる特許技術を有しており、この技術を応用し、1滴の血液でがんを早期診断する新しい検査法を確立している。

今回、上記の技術をCOVID-19の診断に応用する研究開発を、琉球大学大学院医学研究科 感染症・呼吸器・消化器内科学の研究チームと共同で行った。

これまで2回の試験で、感染者と非感染者の計175人の検体を扱い、72〜94%の割合でPCR検査の陽性の判定と一致した。

この新しい検査手法をCV(Coronavirus Visualization)検査と命名した。CV検査では検査時間を大幅に短縮できることだけでなく、測定前の工程が2ステップと簡便で、かつ迅速抗原検査では検出できないような低ウイルス量の検体でも定量的にカウントすることができた。


仕組みは下図の通り。

手順1.光の増強効果がある量子結晶の試薬と、新型コロナウイルスに反応する抗体を付着させた プロテオ®バイオチップを準備する。量子結晶でナノレベルのくぼみをつくる。

マイテックは プロテオ®バイオチップ(蛋白質等を特異的に検出するバイオチップ)の表面に1分で量子結晶を固相化させる特許技術を有している。

量子結晶はマイテックが世界で開発に成功した新たな概念の新規プラズモン物質 (固体中での自由電子の集団励起の量子)で、蛍光物質の光を増強する特徴を持ってい る。
また、量子結晶は通常12時間以上かかる金属錯体の固相化を1分に短縮する事ができる。

手順2.検査を受ける人の唾液や鼻腔から採取した検体に標識抗体(蛍光物質)を混ぜ、チップにたらす。 ここまでを最短2分で済ませることができる。

検出 感染している場合は、ウイルスと抗体がくっつき、光がミラーボールの反射のように増強されるマイテックの技術でウイルスに付着した蛍光物質が増強され、通常の顕微鏡でも確認できる。
   ウイルスがなければ、抗体とくっつかず、洗浄されるため、光らない。

 

共同記者会見で、琉球大学大学院医学研究科の金城武士助教は「これまでウイルスを可視化して診断しようというアイデアはなかった。迅速、簡便で一度に大量の検査ができ、多くの患者をいっぺんに診断する状況には非常に有用だ」と強調した。

製品の開発費に数千万円かかり、その確保が課題となる。実用化した場合、1検体で5千円程度の検査費用を見込み、さらなる低減を目指す。
 

東京五輪・パラリンピックまでに実用化したい考えで、空港の検疫所やイベント会場など、人出が多い場所での検査を見込んでいる。

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バイオベンチャー「マイテック」は長谷川克之氏が1999年に妻の長谷川幸子社長とともにを設立、息子の裕起氏が加わった。広範囲分野の研究を独学で進め、「量子結晶」「過酸化銀メソ結晶」を発見、2011年にそれをもとに超早期のがん診断を簡易かつ安価に行える世界初のがん診断ツールを開発した。

「過酸化銀メソ結晶」のチップに、がん患者の血液から分離させた血清を乗せると、がん細胞から出る「ヌクレオソーム」を吸着し、がんの大きさが直径0.1ミリ以下の超早期のがんでもその有無を約3分で診断できる。蛍光顕微鏡で確認する。

対象となるのは、膵がん、肺がん、乳がん、胃がん、肝がん、大腸がん、舌がん、甲状腺がん、腎臓がん、前立腺がん、子宮がん、卵巣がんなどの固形がんで、がんのリスクをA(リスク低)・B(要観察)・C(リスク高)の三段階に分類・判定する。

現在、リスクスクリーニング検査(リスク判定)として全国の医療機関で実施している。


2021/3/18 LG Chem、米国で車載電池増産 

LG Chemの電池子会社LG Energy Solution は3月12日、2025年までの5年間で米国に45億ドル以上を投資すると発表した。少なくとも2工場を建設、米国での電気自動車の成長に対応し、能力を70GWh増やす。

2020/9/19 LG Chem、電池部門を分社 (2020年12月1日発足)

LGはGMとのJVのUltium Cells LLCで、オハイオ州 Lordstown の近辺に23億ドルを投資して生産能力30GWhの次世代グローバルEVバッテリーシステムの生産工場の建設中で、2022年の稼働を目指している。両社は急速なEV普及に対応するために 能力35GWh+αの第2工場の建設を協議中だが、今回の発表はこれとは別である。

2020/1/3   GMとLG Chem、世界最大級のEV用電池工場建設計画を発表

第2工場についてはLG側は「上半期中に投資規模や建設場所を確定する」と述べた。能力は35GWhとしている。
候補地としてテネシー州Spring HillのGMの組み立て工場が挙がっており、州当局との話し合いを行っている。
GMはこの工場で20億ドルを投資し、電気自動車(Cadillac Lyriq など)工場を建設すると発表している。

付記 GMとLGは4月16日、第二工場のテネシー州Spring Hillでの建設を発表した。記事

LG単独ではミシガン州Hollandに5GWhの工場を持ち、GM、Ford Motor、Chrysler などに供給しているが、2工場が完成すると、米国では単独で75GWh、GMとのJVで65GWhの能力となる。
ミシガン工場はオバマ米大統領が2010年7月の起工式に参列するなど注目されたが、いろいろな問題が発生した。

2013/9/10 LG化学のミシガン州のリチウムイオン電池工場、生産開始2か月で停止 

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LGは「Green New Deal(大規模エコ投資)」政策により急成長が予想される米国の電気自動車バッテリー市場で先手を打つ。

GMは次の5年間で電気自動車と自動運転車に270億ドルを投資すると発表しており、電池需要が増大する。同社は1月に、2035年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を全廃すると明らかにしている。

新たに建設する設備では、自動車用のパウチ型とエネルギー貯蔵システム(ESS)向けパウチ型に加え、ピックアップトラック専門のEVメーカ ーのLordstown Motorsや、EVバスメーカーのProterraなど、電気自動車のスタートアップを中心に需要の大きい円筒型バッテリーも生産する。

電池には角型、パウチ型(ラミネート型)、円筒型がある。

民生用は円筒型が一般的だが、自動車用では円筒型の場合、セルとセルの隙間が無駄になるため、余り使われない。その中でTeslaは円筒型を採用している。円筒形セルの代表的なサプライヤーはパナソニック、LG化学とBYD等 の中国企業である。

他の企業が角型に集中する中、LGはパウチ型に注力する。「設計、価格、工程と寿命、熱性能の面で競争力を持つ」としている。

ロイターによると、LGはTeslaのニューモデル向けに4680型(直径46o、高さ80o)円筒型のサンプルを作ったとされる。(現行は直径21o、高さ70o)

LG は上半期に工場候補地を選定する計画で、新しく建設する工場は、100%再生可能エネルギーのみで運営する。

今回の投資で、LG Energy Solution は、急成長が予想される米国の電気自動車、ESS市場でトップの座を強固にすると予測されている。

LG Chemは韓国と米国のほか、ポーランドと中国にも電池工場を持ち、各地で増産計画を進める。調査会社テクノ・システム・リサーチによると、2020年の世界シェアは23%で中国寧徳時代新能源科技(CATL)の26%に次ぐ2位につける。

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一方で、この時点での発表には裏があるのではとの見方もある。

LG Chemが同業のSK Innovationを車載電池の営業秘密の侵害で訴えていた係争で、米国際貿易委員会(ITC)は2月10日、SK Innovationに米国への輸入禁止命令を下した。

SK Innovationは米ジョージア州で建設中の車載電池工場で部品調達ができず生産停止を迫られる。(実際は両社の和解を求めたものである。)

2021/2/12    米ITC、SK Innovationに輸入禁止命令 

SKの生産が停止となれば、電気自動車促進(Green Transportation Goal)を公約に掲げるバイデン大統領のグリーンエネルギー 政策に悪影響を与えるという見方がある。

Georgia州選出の民主党上院議員は議会で、ITCの決定はジョージア州の労働者とバイデン大統領の電気自動車推進策への “a severe punch in the gut” であると批判した。これを受け、 米運輸省はSKとLGの対立がバイデン大統領の方針に与える影響を分析すると発表した。

今回の発表はこれに対する牽制であるとの見方もある。 自社の投資拡大を通じて米国でのバッテリー需要に十分対応が可能だと主張するものという。

また、SK Innovationの工場があるジョージア州の知事はバイデン大統領に対し、SK Innovationに関する決定を覆してほしいと要請した。
これを受け、LG側は新しく建設する工場を同州に決めたいとの申し入れを行った。また、SK Innovationの工場を買いたいとする向きがあれば、LGもこれに加わって運営を引き受けたいとのレターを同州の議員に送ったとされる。

 

実際には、ITCの命令はSKに今後の生産を禁止するものではなく、事実上の猶予期間を設定し、LG Chemとの和解を促するものである。

金額の問題だけであり、SKがLGの提案をのめば、大統領のグリーンエネルギー 政策に悪影響を与えることにはならない。

企業間の紛争に政治が関与するのはおかしい。

 


2021/3/19  広島高裁、2020年の伊方原発3号機運転差し止め命令を取り消し

四国電力伊方原発3号機の運転差し止めを命じた広島高裁の仮処分決定を巡り、四国電が決定の取り消しを求めた異議審で、広島高裁は3月18日、異議を認めて再稼働を容認する決定を出した。
3号機は現在、テロ対策施設の工事を進めており、10月末にも再稼働する見通し。

付記

四国電力は6月16日、伊方原発3号機を10月12日に再稼働させると発表した。営業運転の開始は11月12日。

再稼働の条件となるテロ対策施設が10月5日に完成し、再稼働に向けた環境が整う。

付記 

伊方原発3号機で、重大事故に対応する待機要員1人が2017年3月〜19年2月に計5回、宿直勤務中に無断外出し、保安規定上の要員数を一時満たしていなかった問題が6月に判明した。この間、保安規定で22人と定めた待機要員が1人欠けた状態で、原子力規制委員会は9月、保安規定違反と認定した。再稼働は延期になった。

付記

四国電力が保安規定違反を受け延期している伊方原発3号機の再稼働について、愛媛県知事は11月19日、安全性向上などの要請事項の順守を条件に了承する考えを四電の長井社長に伝えた。

ただ「無条件ではない」と強調し、協力会社一人一人に至るまでの原子力事業者としての責任の自覚▽安全性向上と県民の信頼回復への取り組み▽「えひめ方式」(異常事象に関する通報連絡体制)の徹底―の3事項を要請した。
えひめ方式:伊方発電所で発生した正常状態以外の全ての事態について、四国電力が県および伊方町に直ちに通報連絡し、県が全ての事案を公表する)

四国電力は11月22日、伊方原発3号機の運転を12月2日に再開すると発表した。2022年1月4日から商業運転を始める。


付記

広島地裁は2021年10月4日、(停止中の)伊方原発3号機について広島県などの住民が再稼働を認めないよう求めていた仮処分の申し立てを退ける決定を出した。

広島県や愛媛県の住民7人が2020年3月に「大地震で重大な事故が起きる危険がある」として、再稼働を認めないよう求める仮処分を広島地方裁判所に申し立てた。

裁判長は「地震の大きさは、観測地点の地盤ごとに増幅などの特性が異なるため、伊方原発以外での原発で基準を超える揺れが観測されたからといって、危険性があるとは言えない」と指摘して、住民の申し立てを退けた。

仮処分を申し立てたのは伊方原発から50km圏内にある山口県東部の島の住民3人で、原発近くの活断層や阿蘇山の噴火のリスクを主張した。

山口地裁岩国支部は2019年3月15日、仮処分申請を却下した。

活断層については、音波探査で、十分な調査が行われていると認定、佐田岬半島沿岸部には「 活断層が存在するとはいえず、基準地震動の評価に不合理な点はないとした。

阿蘇については、運用期間中、巨大噴火の可能性が十分に小さいと判断できる とした。

住民側の即時抗告審で広島高裁は2020年1月17日、「運転差し止め」を命じた。

中央構造線について、四国電力側の調査は不十分で、横ずれ断層である可能性は否定できない。

破局的噴火に至らない程度の最大規模の噴火を想定すべきで、噴出量を20〜30立方キロとしても、噴火規模は四国電力想定の3〜5倍に達する。四国電力の降下火砕物や大気中濃度の想定は過少で、これを前提とした規制委の判断は不合理とした。

2020/1/20 広島高裁、伊方原発3号機運転差し止め

今回、広島高裁は、「現在の科学的知見からして、原発の安全性に影響を及ぼす大規模自然災害の発生する危険性が具体的に高いとは認められない」とし、運転を認める決定を出した。

海上音波探査を踏まえて原発敷地の2km圏内に活断層はないとした四国電の判断に「不合理な点があると認められない」とした。

阿蘇山の噴火リスクでは「専門家の間でも意見が分かれている。原発の安全性に影響を及ぼす噴火を引き起こす可能性が高いとは認められない」と結論づけた。

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伊方3号機については、広島市と松山市の住民4人による仮処分申請で、広島高裁が一旦、運転差し止めの決定をしたが、後に広島高裁がこれを取り消している。

2017/3/30
 広島地裁
申し立てを却下

新規制基準は最新の科学的知見を踏まえている。
四国電力の基準地震動も、不合理な点はなく、住民が重大な被害を受ける具体的危険はない。

2017/12/13
広島高裁
(即時抗告審)

 

運転を差し止める決定
阿蘇山が過去最大規模の噴火をした場合は安全が確保されない。

2017/12/15 広島高裁 

 四電が保全異議を申し立て

2018/9/25
広島高裁
(異議審)
四電の保全異議を認め、決定を取り消し

阿蘇の破局的噴火については、頻度は著しく小さく、国民の大多数も問題にしていない。想定しなくても安全性に欠けないとするのが社会通念。
破局的噴火以外で火砕流が伊方原発に達する可能性は十分小さい。
2018/10/27

再稼働

 


2021/3/19   水戸地裁 東海第2原発の運転認めず

 

茨城県など9都県の住民が日本原子力発電東海第2原発(茨城県東海村)は安全性が確保されていないとして運転差し止めを求めた訴訟で、水戸地裁は3月18日、運転を認めない判決を言い渡した。

地震の規模や津波の高さに関する原電の想定が適切かどうかや、建物の耐震性の有無が争点であったが、裁判長は「地震や津波の想定、建物の耐震性に問題があるとは認められない」とする一方、広域避難計画を策定した市町村が一部にとどまっており「人格権侵害の具体的危険がある」と判断した。

原電は2022年12月をめどに安全性向上対策工事を終え、早い段階での再稼働を模索していた。判決を不服として控訴する方針。

付記

東海第2原発の事故に備えた広域避難計画で、避難住民を受け入れる避難所が現時点で2万人分も不足していた。茨城県が2013、18両年に実施した避難所調査で、収容人数の過大算定が繰り返されたため 。
6市町村では、県の指示にもかかわらず、大半の避難所の総面積から「非居住スペース」を除外しないまま収容人数が算出されたのが原因だった。 (4/3 毎日新聞)

上記判決では「広域避難計画を策定した市町村が一部にとどまっている」としたが、策定した計画で避難所不足が明らかになり、再稼働には反対が強まると思われる。

付記

40年超の工事の完了予定は2022年12月となっている。

 

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原子力規制委員会は2018年11月7日、稼働から40年を迎える日本原子力発電・東海第2原発の運転期間の延長を認可した。

再稼働までに2つの問題をクリアする必要がある。

1) 安全対策工事

高さ20メートル、全長約1.7キロの防潮堤を建設して津波の浸入を防ぐ。
また原子炉格納容器の容積が小さく、事故時に事態が悪化しやすい沸騰水型の特徴を踏まえ、炉心を冷やす予備の冷却装置を追加で備える。

安全対策費に1740億円が必要としたが、原発専業の原電は自前で調達できず、規制委は資金確保を合格の前提条件とする異例の対応をとった。
原電は東京電力と東北電力から支援を受ける方針を示した。

2) 地元の同意

東海第2は首都圏唯一の原発で、30キロ圏内に全国の原発で最多の96万人が暮らしている。

既存の安全協定では事前了解権が東海村と県に限られるが、東海村・日立市・ひたちなか市・那珂市・常陸太田市・水戸市の要求を受け、東海村のほか周辺5市にも「実質的な事前了解権」を認める全国初の安全協定を結んでいる。 但し、「事前了解を得る」とはしているが、自治体間で賛否が分かれた場合、再稼働を止められるか、決められていなかった。

6市町村は2018年11月9日の首長懇談会で、1市町村でも了解しなければ、再稼働には進まないとの認識で一致した。那珂市の海野徹市長は10月22日、「完全な避難計画の策定はできない」と述べ、再稼働に反対する意思を表明した。

今回、裁判長はこの点を取り上げた。

原電の和智信隆副社長は運転期間延長が認可された2018年11月7日、報道陣に「拒否権という言葉は新協定の中にはない」と発言、これに対し首長側が強く反発したため撤回した。

2018/11/10 東海第2原発の運転延長を認可 

 



2021/3/20 テキサス大停電とその影響 

2月に米国を襲った記録的な寒波とテキサス州の大規模停電の影響が拡大している。

記録的な寒波に伴う米テキサス州全域の停電で、オースティン周辺に集積する半導体工場が操業停止となった。

半導体で世界2位のSamusung電子も2月16日にオースティンの施設で稼働を停止したと発表。半導体の仕掛かり品、ウエハーの損傷は免れたものの、稼働停止が長期化し供給問題が浮上した。

テキサス州にあるオースティン工場は半導体受託生産の拠点で、Qualcommの通信用半導体のほか、自社の有機ELパネルやイメージセンサーの駆動用半導体などを手掛ける。
Samusungは「施設点検と補修など準備を進めているが、正常稼働にはまだ時間がかかる。安全を最優先に早期正常化に努力する」としている。

調査会社によると、「オースティン工場の3月中の正常化は難しい」と し、「5G」対応スマホに限れば、4〜6月の世界のスマホ生産落ち込みは30%に達すると推計 する。

車載用半導体でも、オランダのNXP Semiconductorsはオースティン周辺にある2工場の生産を、ドイツのInfineon Technologies AGもオースティン工場の操業を休止した。

世界的な半導体不足に米国生産の停止が加わった。


付記(関連)

半導体大手のルネサスエレクトロニクスの那珂工場(茨城県ひたちなか市)で3月19日午前2時47分に火災が発生し、約5時間半後に鎮火した。
被害を受けたのは先端品の量産を担う直径300ミリメートルの半導体ウエハーに対応した生産ラインで、主に自動車の走行を制御するマイコンを生産している。ルネサスは同マイコンの世界首位で約2割のシェアを握る。

同社では「1カ月以内での生産再開にたどりつけるよう尽力する」としているが、操業停止が長引けば世界的に不足が続く車載半導体の供給に影響が出る可能性がある。

 

テキサス州は全米の石油生産の4割を占め、石油化学 コンビナートも多数ある。メキシコ湾岸沿いに集中する化学プラントが一時軒並み停止に追い込まれた。三菱ケミカルのアクリルモノマープラントや信越化学のテキサスのPVC工場も停止した。それらを使用する部品工場も停止した。

テキサス州は温暖な州のため、プラントの多くが寒波を想定していない設計だったため、凍結で配管の破断が起きた。そこに停電が加わった。

大規模停電から約1カ月が経過したが、工場の大部分は破損した配管の復旧などに手間取り、通常稼働に戻っていない。
このため自動車や住宅向けの樹脂不足が深刻化している。ある自動車部品メーカーの幹部は「樹脂材料が通常時の5割程度しか供給されていない。日に日に影響は広がっている」と困惑する。

ホンダは3月16日、米国とカナダの5工場で3月22日から1週間程度、生産を休止すると明らかにした。世界的な車載用半導体不足に加え、部品の供給が滞った 。

トヨタも米国とメキシコで完成車とエンジン生産の計4工場を一部休止して生産調整することが 分かった。DuPont製の樹脂の供給不足が要因とされる。

樹脂不足は住宅業界や医療分野にも広がっている。

米国の化学品市況で、ポリプロピレンが1年前に比べ約3倍に上昇、低密度ポリエチレンも1年で倍になった。

日本にも影響が出た。
東レは3月上旬に、自動車のエアバッグに使うナイロン66の繊維の国内需要家に
フォースマジュール条項を宣言した。

原料 アジポニトリルの調達先である米国の化学メーカー
INVISTAとAscend Performance Materials
が、2月の寒波の影響で出荷が不安定になっているためとして東レなど需要家に対し
フォースマジュール条項を宣言した。

ーーー

2月10日〜20日に全米を冬の嵐が襲った。2月16日にはアメリカ本土の73%の面積が雪に覆われ た。

北極にある極渦(北極を覆う冷気)がジェット気流の乱れによって、テキサス州まで蛇行したことによって発生したとされる。

テキサス州は、冬でも氷点下になることはまれであるが、ヒューストンの気温は2月15日の 朝にはセ氏マイナス8度と、アラスカ州アンカレッジと同水準になった。

大寒波の到来で電力需要は冬季過去最高を記録し、州の送電網運営組織が想定していた「異常」需要のシナリオを超えた。 加えて、多数の天然ガス発電所や風力発電所が突如停止状態になり、テキサス州の送電網は危機的状況に陥った。送電網全体の停止を防ぐため、電力事業者に計画停電を指示し、顧客への電力供給を切断した。

テキサス州は450万軒以上の家屋と事業所が停電し、停電は水の処理施設にも影響を与えた。浄水場が停電し、水道管の凍結によって給水網の水圧が下がった。道路は凍結し た。

バイデン大統領は2月20日、連邦政府の支援を拡大するため、非常事態宣言に続き、同州で大規模災害を宣言した。

 

テキサス州の電力ソースは下図の通り。

大寒波による影響で、停止を余儀なくされた発電所の出力規模は合計45GWに上った。

テキサス州知事(共和党)は氷点下で風力発電が稼動停止したのが主因であり、温暖化対応策として風力発電を導入したことが停電につながったと非難した。

しかし、これは誤りである。

1) 風力発電は凍結防止装置など耐寒性を上げれば極寒の北欧でも稼動させることは可能である。温暖なテキサス州 ではそのような対策が講じられなかった。

2) 風力だけでなく、天然ガスによる発電も天然ガスを運ぶパイプラインが凍結 しため、停止した。

大寒波によって失われた発電能力は、風力発電で15GW、天然ガス/石炭発電で30GWで、天然ガスと石炭火力の 停止の影響が風力の停止の2倍になる。

更に、テキサス州独自の電力系統が被害を大きくした。

米国の電力系統は、東部送電網西部送電網テキサス州送電網周波数同期エリアに分かれている。3つの地域の間には、非常に容量が低い直流線があるに過ぎない 。

送電線の運用制御は、従来は送電線を所有する電力会社が実施する形態が大半であった が、1990年代の卸電力市場の自由化に伴い、連邦規制当局により広域系統運用機関の設立が推奨され、 送電線の所有権を電力会社に残しながら、運用制御機能を広域系統運用機関に移管している。

通常であれば、電力が一時的に不足すれば他州から電力を調達することも可能だったはずだが、連邦政府による管理を嫌うテキサス州の電力運営方針が災いし 、他州から供給を受けられなかった。

 

 


2021/3/22 AGC agc、インドネシア半島のクロル ・アルカリ事業を統合再編 

AGC(旧 旭硝子)は3月19日、クロルアルカリ事業のタイの子会社2社とベトナムの子会社の再編統合2022年前半完了目標実施し、統合新社設立すると発表した。

タイにおける大手石油メーカーPTT Global Chemical Public Company Limitedとの連携深化し、インドシナ半島クロル・アルカリ事業基盤強化なる成長目指す。

ロル・アルカリのメーカーのAGCと、エチレンメーカーのPTT Globalが提携し、PVC事業を強化する こととなる。

統合するのは次の3社で、出資比率や製品能力は下図を参照 

タイ AGC Chemicals (Thailand) Co., Ltd 旧称 THASCO Chemical Co., Ltd  (下記)
Vinythai Public Company Limited Solvay Vinyls Holding AGから持分買収
ベトナム AGC Chemicals Vietnam 旧称 Phu My Plastics & Chemicals Co., Ltd.
 現株主3社で買収
  
2013/11/11   旭硝子、ベトナムの塩ビ会社を買収 

旭硝子は1963年にスリフンフン・パニチュワ・グループとのJVでタイ旭硝子を設立、その後他3社も設立して、東南アジアでの拠点としてきた。
2000年11月、相手持分を取得して経営権を完全に掌握し、経営効率化、コスト削減、高付加価値製品の投入等を通じて競争力を高めるとともに、アジア地域の重要な生産拠点として機能させることとした。

  買収による
旭硝子出資比率
その後
タイ旭硝子 39.65%→85.2% TOB→100%
バンコクフロートグラス 41.4%→96.3% →100%
タイ安全硝子 45.0%→93.2%
タイ旭エレクトロニックデバイシズ
(旭硝子ファインテクノ子会社)
70.0%→100%  

 

AGCはインドネシアにP.T. Asahimas Chemicalを持つ。これも含めた統合の噂があったが、今回はこれは含まない。

再編統合は下記による。

PTT GlobalがTOBによりVinythaiの親会社となり、VinythaiとAGC Chemical Thailandを統合してタイに新会社をつくる。
新会社については、AGCが65%、PTT Globalが35-α%の株主となり、他の株主がα%を出資する。

タイの新会社はAGC Chemical Vietnam のAGC持ち株を引取り、78.11%の株主となる。

付記 2022/7/1設立 新会社:AGC Vinythai Public Company Limited
   2022年末に資本構成変更

  2022/7/1 2022年末
AGC 70.22% 65.00%
PTT Global Chemical 27.32% 32.72%
その他 2.46% 2.28%

 

統合する3社(+今回対象外のインドネシア子会社)の製品と能力は下図の通り。

 

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PTT Global Chemical Public Companyの歴史は次の通り。

1991年にShellとPTTがRayong Refineryを設立し、145千bpdの製油所を建設した。

2004年にShellは持株をPTTに譲渡し、撤退した。

2007年にRayong Refinery とPTT傘下のAromatics (Thailand)が合併し、PTT Aromatics and Refining とし、2011年にPTT Chemical と合併してPTT Global Chemical となった。

2021年3月時点の製品と能力は次の通り。Refinery以外は単位:1000t/y

Refinery Crude Distillation 145,000bda、Condensate Distillation 135,000bda
Aromatics Benzen:697、Toluen:50、mixed Xylenes:76、PX:1,310、Orthoxylene:86,Cyclohexane:200
Olefins C2:2,376、C3:512、Butadiene:75、Butene-1:25
Plymers HDPE:800、LLDPE:800、LDPE:300、PS:90、Hexene-1:34,PP:336 (41.44%出資のBasell子会社HMC)
EO MEG:423、EA:50
Phenol Phenol:470、Bisphenol-A:150、Aceton:290
Performance
Materials
Hexamethylene Diisocyanate & derivatives:115 (90.82%出資のVencorex )
Acrylonitrile:100、MMA:35 (いずれも50% 出資のPTT Asahi Chemical)
GreenChemicals 子会社Global Green Chemicals Public Company Limited (旧称Thai Oleochemicals)で油脂化学 品の製造販売

 


2021/3/23    VWグループ、EV向け次世代電池を大量生産

VWは3月15日に“Power Day" を開催、2030年までのEVなどの電動車向けバッテリーとその充電に関する技術ロードマップを発表した。

同社は電気自動車(EV)シフトを一段と加速する。2025年に世界の新車販売の2割をEVにし、2030年に5割、2035年には大半をEVにするロードマップを示した。欧州では2030年に6割を目指す。

本年のEV販売目標を100万台とし、遅くとも2025年までに世界EV市場のリーダーになることを目指すとした。

最重要部品となるバッテリーについて、電池メーカーとの合弁などを通じて40 GWh の工場を2030年までに欧州で6カ所設ける。規格を統一した電池(“Unified Cell”)を大量生産しコストを半減、ガソリン車より安いEVを目指す。

これは車載電池メーカーにとって大脅威である。

ーーー

今回、VWはスウェーデンのバッテリーメーカー Northvoltとの間で、今後10年にわたるバッテリー製造で140億ドルの契約を結んだ。

Northvoltはリチウムイオンバッテリーを生産する会社で、2016年に元Teslaの幹部のPeter Carlsson氏により設立された。

Northvoltは2019年にVW、BMW、Goldman Sachs、IKEAグループなどから合計10億米ドルの出資を受けた。増資と欧州投資銀行からの4億ドルの融資で、第1号の工場をスウェーデン北部Skellefteaに建設、16GWhの生産から始め、最低32GWh以上の容量まで増やす。

VWは別途、9億ユーロを投資してNorthvoltとのJVで、16GWhのリチウムイオンバッテリー工場を南ドイツのSalzgitterに設立した。VW用のバッテリー供給を2023年終わりから2024年始めにスタートさせ、数年後に24ギガワット時に拡大する。

Northvoltは3月1日に米国のバッテリー技術の企業 Cuberg を買収し、Silicon Valleyに先端技術センターを得た。 Cubergは液体電解質にリチウムメタルアノードを組み合わせる次世代バッテリーを商業展開するためにスタンフォード大学からスピンアウトした。
Cubergのバッテリーは、電動航空機使用向けにデザインされた同程度のリチウムイオン電池に比べて航続距離と容量を70%増やすとされる。

今回の契約で、VWはNorthvoltの株式を追加取得し、Northvoltが欧州のVWグループ向けの主要な電池サプライヤーとなる。

提携の一環として、Northvoltのスウェーデンのプラントは拡張し、40 GWh とする。
NorthvoltはドイツのSalzgitterのJV持ち株をVWに売却することにも同意した。ここも40 GWh に増強する。

今後、2026年には西欧(スペインかフランスかポルトガル)に1工場、2027年には東欧(ポーランドかスロバキアかチェコ)に1工場、2030年までにあと2工場を建設し、合計6工場 240GWh の能力とする。

標準的な電池容量のEV換算で、合計500万台分相当の電池を生産できる。

ーーー

2023年以降、自前の工場で統一した規格の角型電池セル“Unified Cell”を生産する。2030年には全体の8割をこの統一セルとし、セルのコストを現在の半分に下げる。

現在のEVやHV、PHEVなどに採用されているバッテリーは、自動車ごとに車両に合わせたデザインの異なる構造、仕組みになっている。
Unified Cellは、1つの仕様で統一してバッテリーの最小単位であるCellを大量生産することでコストダウンを行う。最終的には車種ごとにこれを複数組み合わせて1つのバッテリーを組み立てる。

同社では車種のうち80%はこれでカバーできると考えている。残りの20%(例えばスポーツカーなどの特殊な車両)に関してはより高出力なCellが必要になったりするので、独自のCellを利用する。

独アウディや独ポルシェを含む全ての傘下のブランドで電池やソフトウエアなどの共通化の度合いを深める方針を明らかにした。

同社ではコスト半減をうたっている。1kwhあたり100ユーロより大幅に下げる。

デザインで15%、製造プロセスで10%、カソード/アノード材料で20%、システム概念で5%、合計で50%カットとしている。

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VWは充電インフラへの取り組みも続けている。

今回、BPは、同社がイギリスとドイツに展開するガソリンスタンドチェーンで、VWグループの車両に対して充電ステーション機能を提供するパートナーシップを結んだことを明らかにした。
このほか、スペインのIberdrola、Enelなどとも提携、2025年までに1万8000の公共の充電ステーションを欧州内に設けることを計画している。

中国や米国/カナダでも急速充電ステーションの設置を目指している。



2021/3/24 国産ワクチン、承認は来年以降

第一三共は3月22日、新型コロナウイルスワクチンの臨床試験(治験)を始めたと発表した。日本人152人を対象として、安全性や有効性を確認する初期段階の治験である。
同社のワクチンはPfizerやModernaと同様、mRNAを使うものである。

mRNAは体内に入ると分解されてしまうため、脂質の膜にくるんでワクチンとして投与するが、第一三共は独自技術を用いた材料を膜に使用し、接種後の炎症が起きにくくなることが期待できるという。

KMバイオロジクスも同日、開発中のワクチンの第I/II相臨床試験(治験)を始めたと発表した。毒性をなくしたウイルスを用いる「不活化ワクチン」で、同タイプの新型コロナウイルスワクチンの治験は国内初となる。

国産ワクチンでは他に、アンジェスと塩野義製薬が臨床試験を行っている。

KMバイオロジクス 独自ワクチン  前臨床段階 2021年3月21日 第III相治験開始
国立感染症研究所、東京大学医科学研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所との協業による不活化ワクチンの開発
2020年度内の国内臨床試験開始を目標
アンジェス
 
Phase U/V段階

ワクチンの実生産(大規模生産)体制の早期構築を 図るための事業
2020/6/26 アンジェスのコロナワクチン、大阪市大病院で治験へ

タカラバイオがその製造を担い、AGC Biologics社が中間体の分担製造、Cytivaが精製用資材の優先的な供給で、更にシオノギファーマが中間体の分担製造で協力体制に加わった。

塩野義製薬
 
組換えタンパクワクチン感染研/UMNフ ァーマ/塩野PhaseT/ U段階

遺伝子組換え技術を用いて培養細胞よりコロナウイルスのタンパク質抗原を製造しコロナウイルスタンパク質抗原を人に投与するための注射剤

付記 2022/11/26    塩野義製薬、COVID-19ワクチンS-268019の国内における製造販売承認申請 

第一三共 メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンDS-5670  前臨床段階 
  2021年3月22日、国内で152人を対象に初期段階の治験開始

付記

2023/1/13 追加免疫の国内製造販売承認申請(下記)
 

第一三共バイオテックの工場での生産体制整備

IDファーマ/感染 アイロムグループのIDファーマ  前臨床段階
コロナウイルスの遺伝情報を
持ったセンダイウイルス(仙台の東北大で発見)投与するワクチ人体の中コロナウイルスのタンパク質(抗原)が合成される

GMPに準拠したベクター製造施設・細胞培養加工施設(CPC)を保有

Medicago
 
海外生産
田辺三菱製薬のカナダ子会社

2020/7/17 田辺三菱製薬、カナダ子会社の新型コロナウイルスワクチンの第1相臨床試験開始を発表

最も進んでいるのはアンジェスのワクチンである。

同社では当初、2021年春の臨床試験終了、2021年中の実用化を予定していた。しかし、大規模な追加治験を求められたことから、実用化時期も2022年以降にずれ込む。

付記

第一三共 新型コロナに対する国産mRNAワクチン「DS-5670」を承認申請
 
第一三共は2023年1月13日、新型コロナに対するmRNAワクチン「DS-5670」について、18歳以上の追加免疫用として承認申請したと発表した。
自社創製品で、冷蔵温度帯(2〜8度)で流通可能なことが特長のひとつとなる。

国産の新型コロナワクチンの申請は塩野義製薬の「S-268019」(同)に続く2剤目、国産mRNAワクチンの申請は初めて。

同社は今回、通常承認の手続きで申請し、承認取得後に初回免疫用やオミクロン株対応2価ワクチン、小児適応などの一変申請を行い、新たな適応を追加していく方針。

DS-5670の生産は埼玉県北本市の子会社 第一三共バイオテックの工場で生産する。

ーーー

日本での医薬品承認手続きは下記の通り。

1)通常の承認制度

臨床試験は、比較的少人数の健康な人を対象とする第T相試験、少数の患者を対象とする第U相試験、多数の患者を対象とする第V相試験という流れで行わう。

2) 特例承認制度

国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延等を防止するために緊急に使用されることが必要な医薬品で、当該医薬品の使用以外に適当な方法がない場合、特例的に承認する。但し、我が国と同等の水準にあると認められる国で承認されたもの。

現状は下記に限る。
 対象品目:
「新型インフルエンザのワクチン」と
      「新型コロナウイルス感染症にかかる医薬品」 (レムデシビルを見越して追加)
 我国と同等の水準の国:「米国、英国、カナダ、ドイツ、フランス」のみ

  レムデシビルとPfiazerのワクチンはこれにより承認された。

3) 条件付き早期承認制度

有効な治療方法が乏しく患者数が少ない疾患等を対象とする医薬品で、治験実施が困難、あるいは治験の実施にかなりの長期間を要する場合、検証的臨床試験の成績を求めることなく、市販後に必要な調査等を実施することを承認条件として当該医薬品の製造販売承認を行う制度。

@適応疾病が重篤であること、
A既存の治療法がないこと等により、医療上の有用性が高いこと、
B検証的臨床試験の実施が困難であること、
C検証的臨床試験以外の臨床試験等の成績により、一定の有効性、安全性が示されると判断されること

米国には、流行が終わるまでの「緊急使用許可」制度があるが、日本にはない。(米国での緊急使用許可も日本の特例承認制度の対象にはなる。)

ーーー

日本では新型コロナの患者が少なく、海外と同じ数万人単位の治験は難しい。

ワクチン接種グループと偽薬(placebo)接種グループで感染者を比較するが、患者が少ない場合、両者の差が少なく、ワクチンの有効性が判断できない。

このためアンジェスでは、「検証的臨床試験の実施が困難であること」を理由に、数百人規模の治験ですむ条件付き早期承認を2021年春から夏ごろをメドに取得する狙いであった。

しかし医薬品医療機器総合機構(PMDA)が2020年9月に公表した新型コロナワクチンの評価方針では、治験を「適切に評価できる規模」とする条件をつけた。

試験の規模に関する考察
ワクチンの有効性を評価する試験では、感染症の発生率、臨床的エンドポイント、発症予防に相関する免疫反応(存在する場合)等に基づいて、適切に評価できる被験者数を設定すべきである。発症予防効果をエンドポイントとする有効性試験は、通常多数の被験者数が必要となる。

「感染症予防ワクチンの臨床試験ガイドライン」について

この結果、アンジェスが狙った、数百人規模での治験による条件付き早期承認は無理となった。

日本で数万人単位の治験を進めるのは難しく、海外治験が必要となるが、ワクチン評価指標では「1年の観察期間が必要」と定められており、治験終了は2022年以降になる。

ーーー

なお、世界的にワクチンの接種が進むにつれ、大規模治験で「未接種者」の確保が難しくなりつつある。また、感染が広がるなかで偽薬を投与することは倫理的に問題となる。

このため、新しい評価方法が必要となる。

各国の薬事規制当局で作る国際組織のICMRA(International Coalition of Medicines Regulatory Authorities)では、接種後の血液中の抗体の量や免疫反応を比較する試験を行う等の代替案を提示した。



2021/3/25 JCRファーマ、脳に届く医薬品の製造販売承認取得 

JCRファーマは3月23日、遺伝子組換えムコ多糖症II型治療剤「イズカーゴ®点滴静注用10mg」(JR-141の製造販売承認を取得したと発表した。

ライソゾーム病の一種であるムコ多糖症II型(ハンター症候群)に対して、全身症状だけでなく 、血液脳関門を通過し脳実質細胞への直接のを発揮する初めての医薬品で ある。

独自の血液脳関門通過技術J-Brain Cargo®を適用した世界でめての医薬品で 、ムコ多糖症IIおいて、点滴静注により血液脳関門通過を可能にした治療酵素製剤としても、世界で初めての医薬品で ある。

血液と脳(そして脊髄を含む中枢神経系)の組織液との間の血液脳関門は酵素タンパクのような高分子化合物は通さない。
J-Brain Cargoを使用することで、薬剤を脳に届けることに成功した。

脳実質細胞への直接の作用により、中枢神経症状のまたは進行の抑制が期待でき るとしている。

ーーー

ライソム病は難病の一つ。

ライソムは細胞の中の「ごみ処理工場」のような役割をしている細胞内小器官で細胞の内外の老廃物がこのライソムにあ「酵素で分解され代謝される。
それらの酵素の一つが生まれつき欠損しているかその働きが低下していることによってその酵素によって分解されるべき物質が老廃物として体内に蓄積しさまざまな症状を引き起こすのがライソゾーム病である。

ハン症候群は、「イズロン酸-2-スルファゼ」と呼ばれる酵素が生まれつき欠損しているかその働きが低下していることによって発症するX染色体連鎖劣性遺伝性疾患
成長するに伴いさまざまな臓器や組織が次第に損なわれていく進行性の病気で「関節拘縮「中枢神経障害「骨変形「肝臓や脾臓の 肥大「呼吸障害「心臓弁膜症などがあらわれる。

患者数は世界で約7800人、日本で約250人。重症型が2/3で、知的障害を伴う。

従来の酵素補充療法は、血液脳関門により酵素が脳内に移行せず、中枢神経系に作用しない。
このため、ハンター症候群の約70%に認められる精神発達遅延や神経退行症状に対する治療効果は期待できない。

中枢神経症状の改善には、医薬品の有効成分を中枢神経に届ける高度な技術開発が求められている。

JCRは、血液脳関門を通過させて脳内に薬剤を届けるために、JCR独自技術である血液脳関門通過技術 J-Brain Cargo®の開発を進めてきた。

今回、J-Brain Cargo®を適用した世界でめての医薬品開発した。

仕組みは次の通り。

『鉄』は生きていために不可欠な微量金属だが、単体では反応性に富み、有害である。このため、血液中では鉄の輸送タンパクであるトランスフェリンと結合し安定することで、毒性を抑えている。
全ての体細胞におけるトランスフェリン-鉄複合体の取り込みは,トランスフェリン受容体(TfR)を介して行われている。

J-Brain Cargoは、ヒトトランスフェリン受容体を特異的に認識するヒト化抗体である。

ハン症候群は、「イズロン酸-2-スルファゼ」が欠損しているため、ヒトイズロン酸-2-スルファゼの遺伝子組換え融合タンパク質を補填するが、そのままでは血液脳関門を通過 しないため、これとJ-Brain Cargoを結合する。

薬剤と結合したJ-Brain Cargoはトランスフェリン受容体(TfR)を介して脳に取り込まれるため、ヒトイズロン酸-2-スルファゼの遺伝子組換え融合タンパク質も一緒に脳に取り込まれ、不足分が補填される。

J-Brain Cargo®は、血液脳関門を通過するだけではなく、これまで薬を届けることが難しいとされていた骨格筋にも効果的に薬を届けられる特徴を持っている。
JR-141は現在、ブラジルにおいて製造販売承認を申請中で、また、米国・ブラジル・欧州(イギリス、ドイツ、フランス)におけるグローバル臨床第3相試験の開始に向けた準備を進めて いる。

ーーー

ライソム病関連でのJ-Brain Cargo利用での開発状況は下記の通り。ライソム病関連以外でも開発している。

 

ーーー

JCRファーマは日本でAstraZenecaのワクチンを製造受託している。

既存設備を利用して原液を製造しているが、3月4日に新工場を神戸市に建設すると発表した。7月に着工し、2022年10月の完成を予定している。

 


2021/3/25    EU、新型コロナワクチンの輸出規制を強化

EUの欧州委員会は3月24日、1月末に導入した新型コロナウイルスワクチンの輸出規制の強化方針を発表した。

ワクチンが契約通り EUに供給されることを狙い、EUへの輸出を制限しているワクチン生産国や、ワクチン接種率でEUに先行する国への出荷を停止できるようにする。

3月25日のオンラインでのEU首脳会議の議題になる見込みで、欧州委の提案は(人口を考慮した)「特定多数」が反対しない限り、導入されるが、特定多数が反対する可能性は低い。

付記

この時、EUの高官は、「これはEU対英国の話ではない。AstraZenecaとの問題だ」と話していた。(下記)

欧州委員会は4月26日、ワクチンを契約通りに供給していないとしてAstraZenecaを提訴した。EUの27か国全部がこれを支持している。

最大4億回分を購入する契約を結んでいたが、4〜6月期は1億8千万回の予定が7千万回になる見通し。

AstraZenecaは努力義務だと反論している。

 

付記

欧州委員会がAstraZenecaを訴えていた裁判でブリュッセル第一審裁判所は6月18日、AstraZenecaに9月までに8020万回分を納入するよう命じた。欧州委は6月までに1億2000万回分を求めていた。

3月までに3020万回分を納入しているが、7月26日までに1500万回分、8月23日間までに2000万回分、9月27日までに1500万回分を納入するよう命じた。納期通りに納入できない場合、1回分当たり10ユーロの罰金を払う。


付記

2021年9月、AstraZenecaは2022年初めまでにワクチンを追加供給することでEUと合意し、法廷闘争に終止符を打った。

これまでに約1億4000万回分のワクチンを供給しているが、今回の合意により、7-9月中に2000万回分、年末までに7500万回分、来年第1四半期に6500万回分を追加供給、合計3億回分となる。

ーーー

EUは1月29日、輸出の透明性を高めるためとして、域内の工場で生産されたワクチンを輸出する際、事前申告と許可を必要とする措置を導入すると発表した。

3月末までの措置としていた。

2021/1/31 EU、ワクチンの輸出規制 

イタリア政府は3月4日、イタリア国内で製造されたAstraZenecaのワクチンのオーストラリアへの輸出を差し止めたと発表した。

欧州委員会は3月11日、新型コロナウイルスワクチンの輸出制限措置を6月まで延長すると発表した。

欧州委によるとEUはバルカン諸国やアフリカへの支援用も含め、最大26億回分のワクチンを契約しているが、EUへのワクチン供給が遅れているため延長に踏み切った。

ーーー

今回は「相互関係」と「釣り合い」を重視し規制を厳格化する。

相手国のワクチンや原料のEU向け輸出制限の有無に加え、接種率や感染状況の比較を承認可否の判断基準に加える。
EUへの輸出を制限しているワクチン生産国や、ワクチン接種率でEUに先行する国への出荷を停止できるようにする。

今回の措置は、英製薬大手AstraZenecaからの大幅供給減でEUの接種計画に遅れが生じていることによる。特に、オランダのLeidenにあるAstraZenecaの下請けの Halix で生産されたワクチンについて英国がEUに供給しないことを問題視している。
 

EUは3月17日に、不足しているコロナワクチンを域内市民向けに確保するため、英国への輸出を禁止する可能性を示唆した。これまでにコロナワクチンを接種した人数の人口比は、英国の方がEU加盟国と比べて高い。

EU当局者は3月21日、オランダで生産したAstraZenecaのワクチンについて、英国からの輸出要請を拒絶していることを明らかにした。Halixが生産したものはEUに届けられる必要があるとしている。

AstraZenecaはHalixが生産するワクチンについてEUに承認を申請しておらず、EU域内で使用できないが、EU当局によると承認手続きを進めているという。

EUのフォンデアライエン欧州委員長は、AstraZenecaのワクチンをめぐり「われわれには輸出を禁じる選択肢がある」と語り、ワクチンをEUに優先供給するよう同社に警告した。「他国への供給を始める前にまず欧州との契約を履行せよというのがメッセージだ」とも強調した。

EUは先進国唯一の大規模な輸出元であると強調。「(輸出は)双方向であるべきだ。EU市民への適時で十分なワクチン供給を確保しなければならない」と訴えた。

英国はEUの「ワクチンナショナリズム」をけん制しており、EUを離脱した英国とEUの関係が緊迫化する恐れがある。

EUでは今回のワクチン輸出承認制度は特定の国を対象にしているわけではないとしている。

ーーー

EUの高官は、「これはEU対英国の話ではない。AstraZenecaとの問題だ」と話した。

AstraZenecaが英国にワクチンを供給し続けた一方で、EUとの約束の大半を反故にしていたとしている。

これについてAstraZenecaは、EUとの契約では「適切な範囲で最善を尽くす」ことが決められており、製造面での困難に直面しながらも、最善を尽くしているとしている。

 

欧州委員会がワクチン供給と製造能力について判断を誤ったという批判がEU内外から出ている。

欧州委は世界最大のワクチン輸出者という評判を得るため、たった6週間で31カ国に4000万回分のワクチンを輸出した。この恩恵に最も預かっているのが英国で、この期間に1000万回分を受け取ったとされる。
 


2021/3/26 Moderna, Inc.のDerrick Rossi 

現在、欧米で承認されているPfizer/BioNTech と ModernaのワクチンはともにmRNAワクチンである。

Developer/manufacturer Platform Type doses Timing
 
days
Route Phase 承認
 Pfizer/BioNTech 
+ Fosun Pharma 
上海復星医薬
RNA BNT162 (3 LNP-mRNAs ) 2 0, 28 IM V

UK 2020/12/2
FDA 2020/12/11
EU 2020/12/21
WHO 2020/12/31

Moderna/NIAID(米国立アレルギー感染症研究所) RNA mRNA -1273 2 0, 28 IM V

FDA 2020/12/17
EU 2021/1/6

mRNAワクチンは、Katalin KarikoDrew Weissmanの研究が基になっている
発表当時、ほとんど無視されていた論文に注目した2人のうちの1人がModernaの創業者
Derrick Rossiである。(もう一人はBioNTechのUğur Şahin社長で、Katalin Karikoは現在、同社のSenior Vice President である。)

Derrick Rossiは カナダのトロントで生まれた。トロント大学で分子遺伝学を学び、 ヘルシンキ大学で博士号をとり、2003年から2007年までスタンフォード大でポスドクを勤めた。

 

2006年に山中伸弥博士がマウスのiPS細胞作製成功を発表した。

Rossiによると、「山中伸弥教授によるiPS細胞の素晴らしい発見がアイデアの発端になっています。2006年にiPS細胞の論文が発表されたときにすぐに目を通して、ほかのすべての科学者と同様に、感銘を受けました 。ただ、山中氏は当時『山中4因子』をレトロウイルスで運ぶことでiPS細胞を作製していました。これが実際の治療などに用いられるには、このウイルスを取り除かなければならなかった。 」

当初、iPS細胞は繊維芽細胞に4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を、それぞれレトロウイルスやレンチウイルスなどのウイルスベクターで導入することで樹立された。

しかし、再生医療への応用に際して、ゲノムへのウイルスベクター挿入に起因する腫瘍形成が危惧されていた。またウイルスベクターは実験のたびに厳密に管理された実験室で作成する必要があり、iPS細胞技術の普及の障害となった。

Rossiは2007年にHarvard Medical School の助教授に就任、自分のラボを持ったが、iPS細胞を、ウイルスを使わずにmRNAを使って作成することを考えた。4因子をウイルスに運ばせるのではなく、4因子の設計図であるmRNAを導入し、細胞内で4因子を作成するものである。

しかし、mRNAを入れた細胞は死に、うまくいかなかった。免疫系が異物と認識し、炎症反応を引き起こすためで、Katalin Kariko とDrew Weissmanが苦労した点である

mRNAは、「アデニンA」「ウラシルU」「シトシンC」「グアニンG」という4種類の塩基からなる。
Katalin KarikoDrew Weissmanは、その一つをわずかに細工すること(RNA修飾)で免疫系をすり抜け、炎症を回避し、細胞にたんぱく質を作らせる手法を考えた。

ウラシルから誘導されるヌクレオシドはウリジンであるが、ウリジンをシュードウリジン(Ψ)などに置き換えると、mRNAの二次構造が変化し、効果的な翻訳を可能にしながら、自然免疫系による認識を低下させる。

2021/2/3   今年のノーベル医学・生理学賞は確定? mRNAワクチンの開発

Rossiはさまざまな方法を探る中でKarikoたちの論文に行き着き、実際にKarikoらが発表した方法に基づいて修飾したmRNAを使い、2009年にmRNAによるiPS細胞の作成に成功した。

山中教授のグループはRossiの成功前の2008年10月10日に、ウイルスを使わずiPS細胞樹立に成功したと発表している。

マウス胎仔線維芽細胞に、3因子(Oct3/4、Klf4、Sox2)をこの順で搭載したプラスミドと、c-Mycのみを搭載したプラスミドを同時に導入し、iPS細胞を樹立した。

Rossiは同僚のTimothy Springerに連絡、SpringerはMIT最高位のInstitute Professorの一人のRobert Langerにコンタクトした。

2人から説明を聞いたRobert Langerは大発明だと考えた。RNAの設計を変えれば、細胞内で多種多様なタンパク質を作り出せる、これを利用すれば新しい医薬品、新しいワクチンが作れると伝えた。

RossiはFlagship VenturesのNoubar Afeyanに説明、数カ月後にRossi、Springer、Langer、Afeyan等が新会社Moderna を設立した。

社名のModerna は発明の基であるmodified mRNAから採った。

RossiのModernaは、iPSをつくるためにウイルスを除去する構想から生まれ、コロナウイルスのワクチンを生んだ。Rossiは当時を振り返り、「今と同じように『ウイルス』がキーワードだった」と述べている。


山中教授は述べている。

モデルナは2010年に、デリック・ロッシという幹細胞研究者が持つ技術を医療に役立てるために誕生したベンチャー企業です。その技術は、メッセンジャーRNAを使ってiPS細胞を樹立するというもので、私たちが10年前から取り組んでいた研究と同種のものでした。

モデルナの研究者は、研究開発をiPS細胞のステージから大きく広げました。だからこそ迅速なワクチンの開発に成功したわけです。

アメリカでは、このように大学から企業へ橋渡しする役割をベンチャーが担う形で、医療応用が次々と実現しています。

https://events.z-holdings.co.jp/tougou/futurevision/031601/

 

ーーー

Karikoは、Derrick Rossi が山中教授のiPS発明からmRNA利用を思いつき、Karikoらの論文を見付けて成功したことに触れ、「もし山中教授がいなければ、もしiPS細胞の発見がなければ、私たちの論文が 『発見』されることはなかったかもしれません」と述べている。

Karikoの発明がなければ、mRNAワクチンはなかったかも知れない。

Derrick Rossiは、彼ら(Katalin KarikoDrew Weissman)の論文は「根底をくつがえす」もので、ノーベル化学賞に匹敵すると述べている。

 


 

2021/3/27 Applied MaterialsによるKOKUSAI ELECTRICの買収、中国の承認得られず 

米半導体製造装置大手Applied Materials, Inc.は3月22日、旧日立製作所系の同業 KOKUSAI ELECTRICの買収計画について、期限の3月19日までに中国の規制当局から承認を得られていないため破談になった 模様だと発表した。3月26日までに承認を確認できなければ、正式に断念し、KKRに解約手数料1億5400万ドルを支払う。

付記 3月29日、断念を発表した。

KOKUSAI ELECTRICは日立国際電気から独立し、2018年6月にKKRファンドの下で半導体製造装置メーカーとしてスタートした。バッチ式プロセス装置製造を得意としており、Applied Materialsは、同社が提供する枚葉式処理装置ラインアップを補完するものと期待していた。

中国の不承認の背後には米国と中国の半導体を巡る対立があるとみられる。

ーーー

日立製作所は、中核事業に経営資源を集中する一方、非中核事業は売却し、収益率を高める選択と集中を徹底するため、黒字の連結子会社 日立国際電気の売却を決めた。

日立国際電気は、日立グループ内で無線通信機器や放送・映像機器の製造販売を手がけていた国際電気・日立電子・八木アンテナの3社が2000年10月1日に合併して誕生した。(八木アンテナはその後、同社の100%子会社として分社化し、現在、日立国際八木ソリューションズと改称している。)

2009年には日立グループの総合力強化と日立国際電気のグローバルな事業拡大をめざし、日立が公開買付により連結子会社とした。

事業は下記の通り。

  • 映像・通信ソリューションセグメント
  • 成膜プロセスソリューションセグメント (半導体製造装置)

日立製作所は2017年4月26日、KKRの所有するHKEホールディングス合同会社及び日本産業パートナーズが出資するHVJホールディングスとの間で、下記の契約を締結した。

@HKEが日立国際電気を完全子会社とする(上場廃止)

Aそのうえで、日立国際電気を分割し、
   a.   成膜プロセスソリューション事業を独立させてHKEが吸収
   b.   映像・通信ソリューション事業が残る日立国際電気に、日立製作所とHVJが各 20%の出資を行う。

2017/5/3    日立、子会社の日立国際電気を売却

KKR傘下のHKEホールディングスは2018年6月1日に成膜ソリューション事業(半導体製造装置)を独立させ、階OKUSAI ELECTRICとした。

バッチプロセス装置 (高品質成膜・高性能半導体製造装置など)
枚葉プロセス装置
薄膜形成プロセス技術

ーーー

Applied Materialsは2019年7月1日、KKRが保有するKOKUSAI ELECTRICの全発行済み株式を22億ドルで取得する最終合意に達したことを発表した。

KOKUSAI ELECTRIC は生産効率の高いバッチ式プロセス装置とサービスで業界をリードしており、メモリ、ファウンドリ、ロジック分野の顧客に提供している。
世界トップレベルの成膜技術を生かした半導体製造装置を生産し、世界のトップメーカーに製品とサービスを納入し、半導体の高機能化、高性能化を支えている。
これらの装置は、Applied Materialsが提供する業界トップの枚葉式処理装置ラインアップを補完するもと期待している。

当初は1年以内の手続き完了をめざしていたが、2020年6月末までに許可が出なかったため、一旦2020年9月末まで期限を延ばした。

更に中国当局からの買収承認を得るのに時間を要しているため、2020年12月30日に延ばした。

KOKUSAI ELECTRIC 半導体製造装置の需要改善と、統合後の新会社の業績見通しを反映していると説明した。
また、

中国政府がまだゴーサインを出しておらず、最後の関門となっている。

しかし、買収完了の期限だった3月19日までに中国当局の承認が得られず「買収契約が解除された可能性がある」と発表した。
契約解除料の支払期限である3月26日までに改めて承認が確認できなければ、買収は破談となり、KKRに解約手数料1億5400万ドルを支払う。


 

2021/3/29   柏崎刈羽原発の再稼働、見通しつかず 

原子力規制委員会は3月24日、柏崎刈羽原子力発電所でテロ対策に不備があったとして、東京電力に核燃料の移動を禁止するなどの是正措置を命じる行政処分を行う方針を決めた。
正式に決定すると、事態が改善されたと判断されるまでは再稼働ができない状態が続くことになる。

付記

原子力規制委員会は4月14日、柏崎刈羽原発のテロ対策の不備を問題視し、原発再稼働に必要な核燃料の移動や装塡を禁じる行政処分の是正措置命令を決定した。
東電に対し原因究明と再発防止策を盛り込んだ報告書を9月までに提出するよう求めている。

付記

この問題を受け、原子力規制委員会が全国の原発を調べたところ、3月に東京電力の福島第二原発でもテロ対策上の不備が相次いで確認された。

福島第二原発の1号機と4号機で、防護区域につながっている通路に管理されていない扉があることが確認され、東京電力は扉を閉鎖する措置をとった。
また福島第二原発では、防護区域の出入り口で金属探知機による点検などの手続きが十分行われていなかった。

更に中部電力浜岡原発では関連会社従業員が手続きなしで原発内に入ったほか、四国電力伊方原発では周辺防護区域に至る場所で閉鎖措置が不十分な開口部があった。

 

付記

東電は6月10日、柏崎刈羽原発を巡り、新たに72カ所で工事の未完了が発覚したと発表した。

配管が壁や床を貫く約8000カ所のうち72カ所で火災の対策工事の未完了が発覚した。すでに発覚している未完了の工事と合わせて同様の不備は76カ所に増えた。
防護区画を複数回変更する中、工事対象の特定や仕様の確認に漏れがあった。東電は図面の擦り合わせなどメーカーとの連携不足も原因に挙げた。
 

柏崎刈羽原発については昨年来、大きな問題が相次いで発生している。(詳細後記)

2020年9月に社員が中央制御室に不正に入室する問題が発生した。

東電は7号機の新規制基準に基づく安全対策工事が2021年1月12日に完了したと発表したが、その後、施行ミスや未完のものが次々と見つかり、2月26日に検査日程を「未完」と変更した。他の箇所でも 問題がないか点検する。

さらに、2020年3月以降、テロリストなどの侵入を検知する複数の設備が壊れ、その後の対策も十分機能していなかったことが明らかになった。

原子力規制委員会は3月16日、柏崎刈羽原発の核物質防護設備の機能一部喪失について、安全重要度評価 を「赤」とし、3月23日に「対応区分:第4区分」として扱うことを伝えた。

  安全重要度評価
(原子力施設の安全確保に対する劣化程度)
対応区分
(検査指摘事項の重要度評価及び安全実績指標の分類に応じて)

 
不良
 


安全確保の機能又は性能への影響が大きい水準 第5区分 監視領域における活動目的を満足していないため、プラントの運転が許容されない状態
安全確保の機能または性能への影響があり、安全裕度の低下が大きい水準 第4区分 各監視領域における活動目的は満足しているが、事業者が行う安全活動に長期間にわたるまたは重大な劣化がある状態
安全確保の機能または性能への影響があり、安全裕度の低下は小さいものの、規制関与の下で改善を図るべき水準 第3区分 各監視領域における活動目的は満足しているが、事業者が行う安全活動に中程度の劣化がある状態
安全確保の機能または性能への影響があるが、限定的かつ極めて小さなものであり、事業者の改善措置活動により改善が見込める水準 第2区分 各監視領域における活動目的は満足しているが、事業者が行う安全活動に軽微な劣化がある状態
  第1区分 各監視領域における活動目的は満足しており、事業者の自律的な改善が見込める状態

また、同発電所における一連の核物質防護事案について、直接原因や根本的な原因の特定、安全文化および核セキュリティ文化要素の劣化兆候(第3者により実施された評価を含む)を特定し、その内容を踏まえて、改善措置活動の計画を定め、本年9月23日迄に報告するよう指示した。

核セキュリティー分野で「赤」という判定は、日本で初めてというだけでなく、同種の検査制度を20年にわたって運用しているアメリカでも近年例がない という。
東電の核セキュリティーは最低レベルであり、原子力発電事業者としての適格性が問われる。

原子力規制委員会はテロ対策に大きな問題があるとして、3月24日に行政処分について検討が行われた。

更田委員長は、「テロの対象ともなる核燃料を移動させないことが現状では核物質の防護につながる 」などとして原子炉に核燃料を入れたり、新しい燃料を運び込んだりといった核燃料の移動を禁止する是正命令を提案し 、委員からは「いまは応急措置が取られているだけで、万全な体制とは言えず、核燃料の移動禁止などは必要。問題の根は深い」などの意見が出され、この処分案を承認した。

規制委員会では今後、内容を詰めて東京電力に処分案を示し、意見を聞いたうえで正式に是正措置の行政処分が決まるが、改善されたと判断されるまでは柏崎刈羽原発は再稼働ができない状態が続くことにな る。

ーーー

1)不正入室問題

2020年9月20日朝、中央制御室員Aが同僚の中央制御室員Bのロッカー(無施錠)よりIDカードを無断で持ち出し 、Bを名乗って中央制御室入室を試みた。

委託警備員及び社員警備員Cは違和感を覚えつつも、入域を止め なかった。
社員警備員Cの裁量で、BのIDカードにAの識別情報を登録し、AはBのIDカードを不正に使用し て周辺防護区域及び防護区域を通過し中央制御室まで入域した。

詳細は発表されていないが、IDカードには個人を識別する情報が登録されており、本人ではないため入れない。しかし、本人だと主張したため、現場にある識別情報登録装置 で、本人の識別情報に入れ替え、入場させた模様。中央制御室に入れる社員は限られており、警備員が本人かどうか分からないだろうか。
そもそも、現場で識別情報を変更できるなら、IDカードの意味はないことになる。

識別情報を変更したため、翌日にBが入域の際、個人を特定する認証にエラーが発生、AのIDカード不正使用が判明した 。

本件は直ちに原子力規制庁に報告したが、原子力規制庁は安全重要度評価は「白」、「対応区分:第2区分」とした。

「赤」とされた検知設備の機能喪失はテロリストの入域の可能性の問題であるのに対し、こちらは実際に他人のIDカードで中央制御室に入っており、はるかに重大である。規制庁の「白」評価はおかしい。

本件について、東電の説明は次の通り。

原因  
 ・核セキュリティに関する重要性の認識不足   
 ・IDカードの保管管理が十分でない。
 ・個人認証エラー時の対応の不十分

背後要因
 ・物質防護のための手段の不足:人定確認のルール不備、設備構成 
 ・核物質防護の重要性の理解不足
 ・厳格な警備業務を行い難い風土

東電自身が核セキュリティに関する重要性の認識不足を認 めたというのは恐ろしいことで、核物質を扱う資格がない。他の原発はどうなのか、東電だけの問題とも思えない。

2) 未完工事

東電は7号機の新規制基準に基づく安全対策工事が2021年1月12日に完了したと発表した。

その後、設備の健全性を確認する検査を進めて いたが、1月27日に用の陽圧化空調機が保管されている区域のダンパーの設置工事 が完了していないことを確認した。
同様のことが無いかを改めて徹底して確認したところ、火災感知器の設置工事が一部未完了であること、原子炉建屋地下1階の配管床貫通部の止水工事が一部未完了であることが判明した。

未完了と分かった4件には、設計側と工事側の連携の不十分さが共通すると説明している。(福島第一でも昨年来、地震計の故障を放置しており、先月の地震を観測できなかった。)

東電は2月26日、7号機の再稼働に必要な一連の検査の終了時期を従来の6月から「未定」とすると発表した。検査の終了時期が見通せなくなった。

3) 侵入検知装置の不備

2021年1月27日 協力企業が侵入検知装置を誤って損傷させる事案が発生し、同日、原子力規制庁に報告した。

2月12日 に本件侵入検知設備の機能の一部が復旧した状況を報告 、その際、他の侵入検知設備の故障状況を問われ、12箇所の故障があり、代替措置を講じていることを説明。

その後、他の侵入検知設備3 箇所の故障を加えた15 箇所について進捗状況に関する資料を原子力規制庁に提出したが、規制庁から15箇所の内10箇所で代替措置が不十分な状態で30日以上経過しているという趣旨の指摘があった。

規制庁の聞き取りに対して現場の担当者は代替措置が不十分だと認識していたと答えたというが、発電所の上司には共有されず、本社にも報告されなかった。

2月21日から3月4日まで原子力規制庁による現地検査が行われ、以下の点に関する指摘を受けた。

東電の代替措置が、2020年3月以降、複数箇所で実効性があるとはいえず、不正な侵入を検知できない可能性がある状態が、長期間にわたり改善されていない 。

社員警備員は代替措置に実効性がないことを認識していたにもかかわらず、改善していなかった 。

その結果、不正な侵入を30日を超える期間で検知できない状態になっていた可能性があること

以上のような状態を、組織として十分に把握できていない状況にあること

2018年1月から2020年3月までの期間においても、侵入検知設備の機能の一部喪失が複数箇所発生し、復旧するまでに長期間を要していた 。

東電の報告を受けて規制庁が問題を認識、立ち入り調査で確認して分かった事態であり、それがなければ、今もテロリストが侵入できる状態であったことになる。

原子力規制委員会は3月16日、「柏崎刈羽原子力発電所は、組織的な管理機能が低下しており、防護措置の有効性を長期にわたり適切に把握しておらず、核物質防護上重大な事態になり得る状況にあった」として、暫定評価として「重要度評価:赤」の通知を した。

3月5日に、故障設備の修理・補修により、全ての故障箇所が復旧していることを確認した旨、原子力規制庁へ報告 した。
当該箇所における不正侵入は確認されていない。
侵入検知設備の故障等が新たに発生した場合において、実効性がある代替措置が実施できる体制を構築済。

ーーー

原子力規制委員会は2020年9月23日、柏崎刈羽6、7号機の再稼働に向けた審査で、東電が保安規定に盛り込んだ安全に対する基本姿勢を了承した。 福島第一原発事故起こした当事者に原発を再び動かす「適格性」が担保されたと認めた。

今回の問題を受け、原子力規制委員会は1年以上かけて追加検査して原因を究明する。

原発を運転する「適格性」も審査し直す必要がある。更田委員長も「(原子炉設置変更許可取り消しの)議論が出てくるということは否定しない」と述べている。

「いま問われているのは東京電力の核物質防護そのものへの姿勢で懸念が消えておらず、少なくとも柏崎刈羽原発では、核燃料の移動をする資格がない疑いがあると思っている。原子力規制委員会の発足後、検査で見つかった事例の中でいちばん重いと言っていいと思う 。」 

今後については「この事案を重大だと思っているからこそ、詳細や背景など、いま明らかにできることは明らかにする必要があり、東京電力にはしっかりした分析を望みたいし、私たちも拙速な判断は避け、しっかりした検査を加えていきたい」と述べ、東京電力による原因分析と、その後の検査に1年以上かかるとする見通しを改めて示した。
 

仮に原子力規制委員会が再稼働を認めたとしても、地元の了承が得られるとはとても思えない。


2021/3/30   Novavax、ワクチンの原料不足でEUへの供給契約締結を延期

Novavaxと武田薬品は2020年8月7日、ワクチンに関する提携を発表した。

- Novavaxが新型コロナウイルス感染症ワクチンの製造技術を提供し、武田薬品が日本国内向けにワクチンを製造・流通
- NovavaxがアジュバントMatrix-Mを供給
- 日本政府は本ワクチンの製造技術移転、生産設備の整備、スケールアップに対し助成

武田薬品は Novavaxからのワクチン製造技術の移転、生産設備の整備、およびスケールアップの資金として、厚生労働省から助成金を受領する。
光工場の新型インフルエンザ製造設備を転用、年間2億5千万回分以上のワクチンの生産能力を整備し、ワクチン原液から充填・包装まで製造する。

両社は2021年3月1日、協力関係の進展について発表した。

両社は独占ライセンス契約を締結しており、
武田薬品はNovavaxのNVX-CoV2373を日本で開発、製造、販売を行う。

武田薬品は2月24日、Novavaxから導入した新型コロナウイルスワクチンの国内臨床試験を開始したと発表した。

武田薬品は別途、Moderna のワクチンの日本でのPhase T/U 臨床試験開始している。

2021年前半より5000万回の接種分を輸入し、国内で供給する計画で、3月5日に Modernaワクチンについて厚生労働省に製造販売承認を申請した。

同社では今年6月までにModerna製、今夏以降にNovavax製の供給開始を目指す。

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Novavaxがワクチンについて原料不足を理由にEUとの供給契約締結を延期しているニュースで、韓国でもワクチン供給に支障が出ないか懸念の声が出始めている。

韓国は2月26日から新型コロナワクチンの接種を始めた。AstraZenecaワクチンとPfizerワクチンを使用している。

AstraZenecaワクチンはSK BioScienceが韓国で受託生産をしている。

韓国における今年下半期のワクチン接種計画で、Novavaxは非常に重要視されてきた。韓国政府が確保している7900万人分のワクチンのうち、Novavaxは2000万人分を占めている。

NovavaxワクチンはSK BioScienceが技術移転契約を締結し、安東工場で製造される予定で、独自で製造量を決め韓国国内に供給することが可能となっている。

EUが域内で製造したAstraZeneca ワクチンの輸出を規制し、最近はインドもSerum Institute of India製のAstraZenecaワクチンの輸出を止めた。Pfizerのワクチン供給も契約より遅れている 。
このため、韓国にとってNovavaxワクチンの重要性は高まっており、「原料不足」がいつまで続くのか、懸念されている。



2021/3/31 中国とイラン、25カ年協定調印 
中東歴訪中の中国の王毅国務委員兼外相は3月27日、訪問先のイランで25年間に及ぶ両国の包括的協力協定に署名した。

イラン外務省報道官は協定について「今後25年間の両国関係のロードマップ」と位置付け、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」へのイランの参加など、経済面を中心に多岐にわたる協力強化が含まれるとした。

王毅外相は「イランとの関係は足元の状況に左右されず、恒久的で戦略的なものだ」と述べた。

本件は、2016年にイランを訪問した中国の習近平国家主席が提案し、ロハニ大統領と合意した「全面戦略パートナーシップ共同声明」で動き出し た。

その後、米国が2018年5月に核合意から離脱し、原油の禁輸を含む制裁を再発動した.

このため、各国はイランとの経済協力から手を引いたが、中国が支援に乗り出した。
中国はすでに、米による制裁で低迷するイラン経済を支えている。オマーン産などと偽りイラン原油を輸入しており、中国のイラン産原油の輸入量は今月、米前政権が全面禁輸に踏み切って以降で最高となる日量90万〜100万バレルに達する とされる。

今回の包括的協力協定の詳細な内容は明らかにしていないが、関係筋によると、2020年7月にNew York Times が報じた内容と大差ないという。

それによると、25年に及ぶ貿易・軍事などの包括的な内容で、中国が今後25年間で、 金融、通信(5G移動通信システムなど)、港湾、高速鉄道、ヘルスケア、ITなどで4000億ドル相当をイランに投資し、見返りとして格安で原油の供給を受けるとされる。さらに合同軍事訓練や武器の共同開発、情報共有なども含まれる。

4000億ドルのうち、2800億ドルをエネルギー部門、1200億ドルを輸送、通信、製造部門に投じるとの報道もある。

本件については、イラン内部でも外国との協力に否定的なイラン保守強硬派が反発し、アハマディネジャド前大統領は2020年6月下旬 に、協定を「疑わしい秘密取引」と一蹴し、「25年の秘密合意は認めない」と批判していた。

 

米欧の反発は必至である。

バイデン大統領は3月26日のジョンソン英首相との電話協議で、中国の「一帯一路」に対し「民主主義国家で同様のイニシアチブを作り上げ、世界中の民主主義陣営を支援する構想 」について提案した。「民主主義国も同様の構想を持つべきで、支援を必要とする国を支えることを提案した」としている。

中国については、支援対象国を「借金漬け」にするとの批判が根強い。一部の国では港湾の運営にも関与し、将来、軍事的な目的に使われる恐れがある 。

バイデン大統領は米中の対立を「民主国家と専制国家の争い」と位置付けている。 構想の詳細には触れなかったが、中国に対抗し、質の高いインフラ投資を主導する狙いとみられる。

 

 


2021/3/31 UAE、中国Sinopharmのワクチン生産  

アラブ首長国連邦(UAE)は4月から中国Sinopharmのワクチンの生産を開始する。

Gulf Pharmaceutical Industries(通称Julphar)は3月28日、Sinopharmのこの地域でのdistributor であるAbu DhabiのGroup 42 (通称G42:人工知能とクラウドコンピューティングのリーディングカンパニー)との間でワクチンを生産する契約を締結したと発表した。G42は以前に、この地域での供給のため本年に生産を開始すると述べていた。

SinopharmとG42がJV を設立し、Julphar に生産を委託する形となる。能力は年2億回分になる見通しで、UAEだけでなく、広く中東・アフリカへの供給を考えている。

3月28日にUAEを訪問した中国の王毅国務委員兼外相とアブドラの外務・国際協力相との合意に基づく。

JulpharはRas Al Khaimah首長国にあるUAE初の製薬会社で、インスリンを製造する。

 

中国はUAEの石油の大顧客であるが、パンデミックの期間に関係を深めてきた。UAEはコロナ危機の初期に武漢に機器を送った。

UAEの保健予防省は2020年12月、中国の北京生物制品研究所が開発したSinopharmの新型コロナウイルス不活化ワクチンを認可したと発表した。

UAE国内でも125の国籍の31千人のボランティアに対して行われたフェーズIII臨床試験で86%の有効性を確認。抗体陽転率は99%、中等症・重症化の予防には100%有効で、安全性に対する深刻な懸念はないとした。

UAEでは既に 感染症対策の最前線に立つ人々に対して同ワクチンの緊急接種が認可されており、感染予防や医療の従事者だけでなく、UAE副大統領兼首相・ドバイ首長をはじめとする政府要人も接種済み、と報じられている。

また、アブダビ政府は12月7日、ロシア製ワクチン「スプートニク5号」のフェーズIII臨床試験を開始すると発表した。

UAEはワクチンの国際的な流通・供給拠点を目指すとの意向も示している。

アブダビでは、アブダビ保険局が関連機関・企業とコンソーシアムを組成し、数十億回分のワクチンを世界中に供給するロジスティクス・ハブを設置すると発表 した。
アブダビ港湾公社が運営するハリーファ工業団地にある最先端の定温倉庫1万9,000平方メートルを貯蔵に使用、輸送にはスイスのスカイセルが開発する次世代の温度管理技術による医薬品コンテナを用いる 。

ドバイでも、航空貨物会社Emirates SkyCargoが、新型コロナワクチンに特化したエアカーゴ・ハブをAl Maktoum International Airportに開設する。同社の航空貨物拠点を用途転換し、医薬品の適正流通基準であるGDPコンプライアンスに準拠する4,000平方メートルの専用定温倉庫を運用する。

(JETRO ビジネス短信より)

王毅外相は、両国は共同して中東とアフリカでのパンデミックと戦うと述べた。

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王毅外相は3月22日、23日と広西チワン族自治区の桂林でロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と会談、事実上の「中ロ準同盟」を宣言した。

その後、3月24日から30日まで、サウジアラビア、トルコ、イラン、UAE、バーレーン、オマーンと6カ国を歴訪する「中東外交」を、精力的にこなしている。

3月24日にサウジを訪問、ムハンマド皇太子と会談した。

王毅外相は 、「サウジアラビアは中国の中東地域における重要な戦略パートナーであり、両国関係を発展させることは、中国の中東政策の優先課題だ。中国はサウジアラビアの国家主権の維持、保護、民族の尊厳、安全安定を固く支持し、いかなる勢力がいかなる口実をもってしてもサウジアラビアに食指を伸ばすことに反対する」と述べ、カショギ事件で米国とサウジの関係が怪しくなるなか、サウジ側に付くことを明確にした。

イランでは、今後25年間にわたって経済など幅広い分野で協力を深めることを盛り込んだ計画に署名した。ロウハニ大統領とも会談し、イラン核合意について意見を交わした。


 

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