ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから
目次
これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。
最新分は http://blog.knak.jp
2021/7/15 ウイグル関連の取引は「米国法違反リスク」
バイデン米政権は7月13日、中国政府による新疆ウイグル自治区での人権侵害や強制労働問題を巡り、
国が広く関与する強制労働、監視、強制的な人口抑制策、子供の家族からの隔離、大量拘留、その他の人権侵害を挙げ、「新疆と結びついた供給網や事業、投資から退出しない企業や個人は、米国法違反に問われる高いリスク を冒すことになりうる」とする勧告
an updated Xinjiang Supply Chain
Business Advisory を発表した。
今後、日本企業にも影響が出てくると思われる。
2021年1月、米税関・国境警備局(CBT)
は新疆ウイグル自治区の強制労働をめぐる輸入禁止措置に違反したとして、ロサンゼルス港で「ユニクロ」の男性用シャツの輸入を差し止めた。「新疆生産建設兵団(XPCC)」が原材料の生産に関わった疑いがあるとしている。綿の原材料は生産過程が複雑で、原産地の特定が困難とされるが、輸入する企業に、強制労働の製品を使っていないと証明する義務を課していた。
今回対象となったポリシリコンは太陽光パネル向けの約8割が中国に集中、その約半分が新疆地区でつくられており、影響が大きい。
なお、国務省は7月12日付で議会への世界のジェノサイド調査報告
2021 Report to Congress Pursuant to Section 5 of the Elie Wiesel Genocide and
Atrocities Prevention Act of 2018 を発表した。
報告書は、中国による新疆ウイグル自治区での人権侵害を米政府が「ジェノサイド」(民族大量虐殺)であると認定したことを明記した。
ポンペオ前国務長官が1月に初認定したことをブリンケン長官も継承する立場を示した。
中国が新疆ウイグル自治区で引き続き、ウイグル族など人種・宗教的少数派に対してジェノサイドを実施し、人道に対する罪を犯していると指摘した。
ブリンケン国務長官は記者会見で、中国に加えミャンマーやエチオピア、シリアなど「特定の国での残虐行為について、今年の報告書で初めて直接かつ詳細に記述した」と述べ、米政府が外交や対外援助など「全ての手段を使って世界各地の残虐行為の防止と低減に向けて政府全体で取り組んでいく」と強調した。
今回の勧告は次ぎの各省庁が参加している国を挙げてのものである。
Department of State
Department of the Treasury
Department of Commerce
Department of Homeland Security
Office of the U.S. Trade Representative(今回参加)
Department of Labor(今回参加)
今回、次の点を強調している。
・ 新疆ウイグルでの監視、強制労働に関与する中国企業への投資のリスク
・ 新疆ウイグル関連のサプライチェーンや投資に関するリスクについて勧告強化
・ 新疆ウイグル関連の米政府の行動リスト
・ 新疆ウイグル関連のシリコン、ポリシリコンのサプライチェーンに関する情報追加
・ サプライチェーンにおける強制労働に関して他国の規制リスト
新疆ウイグルで強制労働を使っていることが報道で分かった業種として下記を列挙している。(Annex
2)
例示であって全てではなく、また全ての製品が強制労働を使っているという意味ではない。
前回の17業種から手袋、シリコン、ポリシリコン等太陽光発電材料の3業種(赤字 )が増え、20業種となった。
Agriculture
(including such products as
raw cotton,
hami melo n s,
korla
pears ,
tomato products, and garlic)
Cell
Phones
Cleaning
Supplies
Construction
Cotton ,
Cotton Yarn, Cotton Fabric ,
Ginning, Spinning Mills, and Cotton
Products
Electronics
Assembly
Extractives (including coal, copper, hydrocarbons, oil, uranium, and zinc)
Fake hair and human hair wigs, hair accessories
Food
processing factories
Footwear
Gloves
Hospitality
Services
Metallurgical grade silicon
Noodles
Printing Products
Renewable Energy
( polysilicon,
ingots, wafers, crystalline silicon solar cells,
crystalline silicon solar photovoltaic modules)
Stevia (甘味料)
Sugar
Textiles (including such products as apparel, bedding, carpets, wool ,
viscose )
Toys
ーーー
米国はこれまでに、本件についていろいろな対応をしている。
米商務省は
2019年10月9日付で輸出規制の対象である「エンティティー・リスト(EL)」にハイテク8社 と、新疆ウイグル自治区各地区の 公安部門など20機関の合計28団体・企業を加えた。
2019/10/9
米、中国の少数民族弾圧でハイテク企業と公安部門をEntity Listに追加
2020年6月5日に、ウイグル関係の人権侵害関与理由により 9団体を Entity
List に追加した。うち7社は監視関連 の企業である。
2020年7月20日、中国・新疆ウイグル自治区のウイグル族の強制労働や遺伝解析に関わったとして、衣料品や家電 などを手掛ける中国企業11社をEntity
Listに載せた。
2020/7/21 米、ウイグル族弾圧で中国11社を禁輸対象に追加
米商務省は2021年6月23日、中国でウイグル族の人権を侵害しているとし、米企業からの製品輸出を禁じるEntity List
に中国企業4社と中国共産党系の組織(ウイグル綿花の主要生産団体)を追加した。
今回の一部の企業は、太陽光発電パネルに使われる単結晶シリコンやポリシリコン を製造している。
Hoshine Silicon Industry (合盛硅 業工業)
Xinjiang Daqo New Energy (大全新能源傘下の新疆大全新能源)高純度ポリシリコンメーカー
Xinjiang East Hope Nonferrous Metals
Co.(東方希望集団傘下の新疆東方希望有色金属)
Xinjiang GCL New Energy Material (GCL New Energy Material Holdings 傘下)
Xinjiang
Production and Construction Corps(新疆生産建設兵団:XPCC) 中国共産党の傘下組織でウイグル綿花 の主要生産団体
商務省によると、この5社が新疆ウイグル自治区での強制労働や監視活動など、人権侵害に関わった疑いがあると説明している。
米商務省は7月9日、安全保障上の懸念があるとして中国やロシアなどの34団体を輸出禁止対象に加えると発表した。
このうち中国の14団体は、新疆ウイグル自治区でのウイグル人、カザフ人や他のモスリム人に対する抑圧、大量拘束、ハイテクによる監視など人権侵害を理由に挙げた。
団体名はまだ発表していないが、報道では、 首都ウルムチで中国当局と共同で顔認証ラボを設立したDeepGlint(Beijing
Geling Shentong Information Technology
)、中国の軍需企業の子会社の新疆聯合荘子社と成都西武安全システム同盟、監視カメラ会社のLeon Technologyなどが挙がっている。
2021/6/26 米、ウイグル人権侵害で中国企業を制裁
2021/7/16
VW、ドイツで中国大手とEV電池工場
独フォルクスワーゲン(VW)は7月13日、中国の電池大手の国軒高科と共同でドイツで電気自動車(EV)向け電池を生産すると発表した。2025年から生産を始める。
これとは別にスペインでも電池とEVの生産を検討する。規格化した電池の大量生産でコストを下げ、収益力を高める狙い
。
ーーー
VWは2021年3月、スウェーデンのバッテリーメーカー Northvolt との間で、今後10年にわたるバッテリー製造で140億ドルの契約を結んだ。
Northvoltは 2019年にVW、BMW、Goldman
Sachs、IKEAグループなどから合計10億米ドルの出資を受け、増資と欧州投資銀行からの4億ドルの融資で、第1号の工場をスウェーデン北部 Skelleftea に建設した。16GWhの生産から始め、最低32GWh以上の容量まで増やす予定であった。
今回の契約で、VWはNorthvoltの株式を追加取得し、Northvoltが欧州のVWグループ向けの主要な電池サプライヤーとなる。
VWは別途、9億ユーロを投資してNorthvoltとのJVで、16GWhのリチウムイオンバッテリー工場を南ドイツのSalzgitterに設立した。VW用のバッテリー供給を2023年終わりから2024年始めにスタートさせ、数年後に24ギガワット時に拡大するとしていた。
Northvoltは今回、ドイツのSalzgitterのJV持ち株をVWに売却することにも同意した。ここも40 GWh に増強する。
VWは今後、スウェーデン、ドイツに加え、2026年には西欧(スペインかフランスかポルトガル)に1工場、2027年には東欧(ポーランドかスロバキアかチェコ)に1工場、2030年までにあと2工場を建設し、合計6工場
240GWh の能力とする。
2021/3/23
VWグループ、EV向け次世代電池を大量生産
ーーー
VWは2020年5月28日、中国でリチウムイオン電池首位の(LIB)寧徳時代新能源科技(CATL)、2位の比亜迪(BYD)に次ぐ第3位の国軒高科(Guoxuan
Hi-Tech)の発行株式26.47%を11億ユーロで取得した。
VWは中国で上海汽車とのJVの上汽VW、第一汽車とのJVの一汽VWを持つが、2017年には江淮汽車(JAC)との間で3社目JVのJAC-VWを設立し、中国新エネルギー車(NEV)市場での足固めを急いでいる。
VWは2025年までに、年間EV生産150万台の目標を掲げている。中国エネルギー車(NEV)市場で20%のシェアを握る計画である。
そのなかで、電池ソースとして国軒高科と手を組んだ。
VWは今回、国軒高科と共同でドイツで電気自動車(EV)向け電池を生産すると発表した。
上記の通り、VWはNorthvoltとのJVで、16GWhのリチウムイオンバッテリー工場を南ドイツのSalzgitterに設立した。その後、NorthvoltはJV持ち株をVWに売却することにも同意したが、VWは能力を40
GWh に増強したうえで、生産はNorthvoltに委ねる予定であった。
今回、この計画を変更し、Salzgitter工場は国軒高科と運営することとした。Northvoltのスウェーデン工場では高級車向けの高性能電池を生産する。
更に今回、スペインでの計画を明らかにした。
VWと同社の傘下のスペインの自動車会社SEAT
S.A. (旧称 Sociedad Española de Automóviles de Turismo
)は、スペインの電気自動車やコネクテッドカーの ヴァリューチェーン強化を目指すスペイン政府のStrategic
Project for the Recovery and Economic Transformation (PERTE) に参加する。
2021〜2023年に240億ユーロを投資する。うち公的ファンドが43億ユーロを出し、残り197億ユーロを民間から集め、スペインを“the
European hub for electromobility” とする。
スウェーデン、ドイツに次ぎ、VWとして3番目の電池工場をスペインに建設する。欧州で6つのギガファクトリーを建設する計画の一環で、 スペインかフランスかポルトガルに建設するとしていた。
EV50万~80万台前後分に相当する年間40ギガワット時の生産能力の工場を設け、2025年からは小型EVも生産する方向で政府などと最終調整している。
提携する電池メーカーは未定。
付記
VWは3月23日、スペイン東部バレンシアに電気自動車(EV)の電池工場を設けると発表した。電動車生産などを含めた総投資額は70億ユーロ(9300億円)にのぼる。
バレンシアの電池工場の生産能力は年間40ギガワット時で、VWグループで規格化した最新の電池セルを生産する。22年中に工場の建設を始め、2026年から生産を始める。
VWは2021年7月、中国の電池大手の国軒高科と共同でドイツで電気自動車(EV)向け電池を生産すると発表したが、これとは別にスペインでも電池とEVの生産を検討することを明らかにした。
VWと同社の傘下のスペインの自動車会社 SEAT
S.A. が、スペインの電気自動車やコネクテッドカーの ヴァリューチェーン強化を目指すスペイン政府のStrategic
Project for the Recovery and Economic Transformation (PERTE) に参加する。
スウェーデン、ドイツに次ぎ、VWとして3番目の電池工場をスペインに建設する。
2021/7/16
VW、ドイツで中国大手とEV電池工場
今回、具体的計画を明らかにした。
VWは欧州で2030年までに合計240ギガワット時の電池生産能力を持つ計画を進めている。スペインの工場は、20%出資するNorthvolt
(スウェーデン)のスウェーデンの工場とドイツ・Salzgitterの工場に次ぐ3拠点目になる。チェコでも建設を検討している。
2021/7/17 昭和電工、鉛蓄電池事業を売却
昭和電工は7月8日、昭和電工マテリアルズの鉛蓄電池事業を投資ファンドのアドバンテッジパートナーズとリース大手の東京センチュリーに売却すると発表した。
売却額は非公表としているが、約600億円とみられる。
事業売却で得た資金で昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)の買収で悪化した財務を改善させるほか、半導体材料の生産能力増強や開発投資に充てる。
なお、昭和電工は鉛蓄電池事業の譲渡で、事業構造改善費用として約300億円の特別損失を計上する。この結果、2021年12月期の連結最終損益が140億円の赤字になりそうだと発表した。従来予想は110億円の黒字だった。
ーーー
日立製作所は2019年末にグループの中核子会社である化学大手
日立化成の売却を巡り、昭和電工に買収の優先交渉権を与えることを決めた。
昭和電工は2020年3月24日、日立化成に対するTOBを開始、TOBの結果、87.61%を取得した。その後、6月23日に完全子会社化した。
連結子会社化した日立化成の社名を2020年10月1日付で「昭和電工マテリアルズ」に商号変更した。
買収金額は約9600億円で、買収によるノレン代は約5200億円、20年償却でも償却費は年間260億円となる。
昭和電工は日立化成買収後、財務改善のため事業売却を進めている。
2021年6月、買収した日立化成の電子機器などに使うプリント配線板事業を、国内投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループに売却することが分かった。売却額は約400億円とみられる。
2019/12/25 昭和電工、日立化成にTOB
今回売却するのは次の事業 。
1) 埼玉事業所及び名張事業所で行っている蓄電デバイス・システム事業
2) 下記各社の全株式:
社名
事業
出資比率
エナジーシステムサービスジャパン
( 旧称
日立バッテリー販売サービス)
電池・電気機器の販売、 サービス及びゴルフカートの製造、 販売、サービス
100%
希世比能源科技(台湾)
(旧称 台湾神戸電池→日立化成能源科技)
鉛蓄電池の製造、販売
100%
Thai Energy Storage Technology (タイ)
2017年買収のThai
Storage Battery PLC( Hitachi Chemical Storage Battery に改称)、とタイにある鉛蓄電池事業を再編、集約のため設立した Hitachi Chemical
Gateway Battery (Thailand)が合併
鉛蓄電池の製造、販売
97.9%
Siam Magi
(日立化成のタイ子会社)
Thai Nonferrous
Metal
2017年に買収した車両用バッテリー、産業用電池等を製造するThai Storage Battery(BAT-3K)の子会社
3K Prod ucts
Company
P ower
Plas Company
売却する 蓄電デバイス・システム事業の基礎は1916年に設立された日本蓄電池製造鰍ニ、1917年に設立された神戸電機製作所である。
(神戸電機製作所の設立者は1916年に鉛蓄電池の事業化検討のため、柴田蓄電池研究所を設立している。)
1966年に日立化成が神戸電機に資本参加した。
その後、1969年に日本蓄電池製造と神戸電機が合併し、新神戸電機となった。
2000年3月に世界初のハイブリッド自動車用リチウムイオン電池を、2004年には世界初となるリチウムイオン電池搭載乗用ゴルフカートを発表した。
2011年に日立化成が新神戸電機のTOBを発表、2012年3月に日立化成の完全子会社となり、2016年1月1日に日立化成に吸収合併された。
売却先は アドバンテッジパートナーズ がサービスを提供するファンド を筆頭株主とする サステナブル・バッテリー・ ソリューションズ
で、最終的に出資比率は次の通りとなる。
アドバンテッジパートナーズ
ファンド
85.1%
東京センチュリー
14.9%
アドバンテッジパートナーズは、 1997
年に日本で最初のバイアウト専用ファ ンドに対してサービス提供 を開始して以降、日本 のプライベート・エクイティ投資市場の黎明期から市場の立ち上げを担ってきた国内独立系サービス プロバイダー 。
東京センチュリーは、規制に縛られない自由な経営環境のもと、国内外のパートナー企業との共創 による『金融×サービス×事業』を融合したビジネスモデルを展開
2021/7/19 「永遠の化学品」PFAS
規制の動きに米大企業が影で策謀
「永遠の化学品」PFAS
にからみ、米大企業の2つの動きが相次いで暴露された。
PFASは「パーフルオロアルキル化合物、ポリフルオロアルキル化合物及びこれらの塩類」の略称で、「永遠の化学物質」と呼ばれる。
非常に持続性のある(難分解性)化学物質群で、フッ素系またはポリフッ素系アルキル物質と呼ばれ、主にフッ素系の界面活性剤として70年以上の長きに渡って多くの用途に使用されてきた。
実際には、半減期は平均 4.5年(PFOAは約5年、PFOSは2〜3年)だが、常用されている化学物質の中では非常に長いため、この名前が付いている。
ハーバード大学公衆衛生大学院のジョセフ・アレン准教授が2018年に警鐘を鳴らすため、「フッ素(F )-炭素(C )結合」から「F orever
C hemicals」の言葉を用いた。
約4,700種類あると言われ、中でもパーフルオロオクタン酸(PFOA) とパーフルオロスルホン酸(PFOS)
が代表的。
これらを含む残留性有機汚染物質は、毒性があり、分解しにくく、生物中に蓄積され、長距離を移動する物質であるため、国際的な汚染防止の取り組みが必要とされ、 POPs条約が締結されているが、PFOS が付属書B(製造・使用、輸出入が特定の用途、目的に制限)に、PFOAは 附属書A(製造・使用、輸出入の原則禁止)に収載されている。
ーーー
Obama政権下のEPAが2011年に
、「永遠の化学品」(‘forever chemicals’)PFASや分解してPFASになるPFAS precursor をシェールガス、シェールオイルの水圧破砕法(Fracking
)に使用するのを承認していたことが判明した。EPAでは物質名を fluorinated
acrylic alkylamino copolymer としており、 P-11- 0091,
P-11-0092, and P-11-0093
と表示し、具体的な名前は商業秘密として開示していない。
Physicians for Social Responsibility がFreedom of Information Act
に基づいて情報を取得して7月12日に公表 、New
York Timesが報じた。
EPAの科学者が、物質が「永遠の化学品」(‘forever
chemicals’)になって環境にとどまり、ヒト、野生動物、鳥類に有害であることを知りながら、フラッキングでの使用を承認していた。
Exxon Mobil とChevron
2社は使用している企業に含まれている。
2012年から2020年の間に、Arkansas、Louisiana、Oklahoma、New Mexico、Texas、Wyomingの各州の1200か所以上の井戸で使用された。
もっと広く使われた可能性があるが、大企業がconfidentiality を理由に公開を妨げている。
Physicians for Social
Responsibilityでは、「住民が知らないうちに非常に恐ろしい化学物質に晒されてきたのは恐ろしいことだ。PFAS汚染の歴史を考えると、EPAと各州はどこで使用されたかを国民に知らせ、影響から守るべきだ」としている。
DuPontの化学品事業Chemoursが使用の申請を行った。当時、DuPontは危険を認識しており、PFASケミカルからの退出に合意していた。
Chemoursは2015年に分離・独立した。DuPontとChemoursは2017年2月13日、West Virginia州のDuPontのWashington 工場から河川に流出した化学物質
PFOAにより健康被害を受けたとする3550件の訴訟で、合計
6億7070万ドルの支払いで和解したと発表した。和解金はDuPontとChemoursが等分に負担する。
2017/2/17
DuPont とChemours、PFOA被害訴訟で和解
EPAは、2010年に最初に3物質の審査を行う以前に、これら化学品がPFOA様の物質に変換する こと、PFOA
やPFOS は非常に有害であるとの明確な認識を持っていた。いくつかの事件で多額の罰金を課していた。2006年にはEPAはDuPont、3M、他6社と “stewardship”
program
を開き、各社はPFOAなどの流出を2010年までに2000年比で95%減らすことを約束させている。各社は2015年までにPFOAの生産、使用を順次減らすことを約束している。
しかしながら、EPAはその後、PFASの多数の新しい商業使用を承認した。2015年には200人以上の科学者グループが、PFOAやPFOSの代替を狙う新しい短鎖のPFASは健康や環境により安全なものではないと警告した。この代替物が今回のものに含まれていると推測されている。
EPAの研究でこれら化学品が分解してPFOA様の物質になることを知りながら、EPAは物質が分解してどうなるかを調べる追加テストを要求しなかった。また化学品がどこで使われ、EPAが恐れる環境汚染を起こすかどうかの追跡調査も求めなかった。さらに、飲み水の水源、住家、学校などからの一定範囲での使用禁止も求めなかった。
EPAは承認した理由を明らかにしていないが、いろいろな資料から、これら3剤の毒性が他よりも低いとみていた可能性、石油・ガスに使用される薬剤が環境に流出しないと考えていた可能性もある。
Physicians for Social
Responsibility では下記の勧告をしている。
• Health
assessment 人の健康に影響するかどうか
• Testing
and tracking 使用場所、廃棄場所を調べ、水、土、動植物での残存を調べる。
• Funding
and cleanup
• Public
disclosure
• Moratorium
on PFAS use for oil and gas extraction 使用禁止
ーーー
同時期に、Exxonが議会でPFASの使用制限の動きが強まるのを懸念し、それに対応するため、裏でロビー活動を行っていることが明らかになった。
エネルギーと気候変動の報道を行う「Unearthed」誌が、ヘッドハンターを装ってExxonのsenior
director of federal relations のKeith McCoyにインタビューを行い、7月1日にその内容を発表した。Channel 4
News
でも報じられた。
2021年5月のZOOM会議でのKeith McCoyの発言
要旨:
Exxonは“forever
chemicals”と呼ばれるPFASの使用を制限する議会の動きに対応するため、裏でロビー活動を行った。
Exxonは油田ではPFASを含んだ 泡消火薬剤を使っており、規制を避けたい。しかし、ExxonがPFASを使っていることは明らかにしたくない。
ExxonはChannel 4 News に対し、「製品のいくつかで使用はしている。防火のためのPFASを含んだ 泡消火薬剤を購入している」と答えている。
日本でもPFOS含有消火器等はある。取扱いにあたっては、化審法に基づき、屋内保管、容器の点検、保管数量の把握、譲渡・提供の際の表示等の遵守義務がある。政府は可能な限り、代替品への切替を求めている。
このため、ロビー活動はAmerican Petroleum Instituteの名前で行った。この問題でExxonの名前が出るのを避けるためで、「ExxonMobilがこれらの化学品を生産している」「ExxonMobilがこれらの化学品を使っている」との話が広まるのを止める狙いであった。「議員が、これはExxonMobilの製品だ、ExxonMobilは水を汚染しているなどと話し始めたら、もうお終いだ」
Exxonの活動でPFASの規制強化を遅らせることができた。
一つの手段は研究の提案で、いろいろやっているうちに、あまり話題にならないようになる。
Exxonはまた、使い捨てプラスチックの最大のメーカーだが、気候変動対策として米国でプラスチックが規制されるのを防いだ。「こうこういう理由でプラスチックを禁止できない、こうこういう理由で100%リサイクルはできない」といった調子でだ。
これらに関して、Exxon
が法律を破ったということは示唆されていない。
2021/7/20 OPECプラス、8月から2022年末まで減産縮小で合意
石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国でつくる「OPECプラス」は7月18日の閣僚協議で、協調減産を8月から毎月日量40万バレルずつ縮小 すると決めた。2021年末時点では現在より協調減産を日量200万バレル縮小する。
協調減産の枠組みを2022年末まで続けることでも一致した。減産縮小は現在の約580万バレルの減産が解消するまで続け
、 「22年9月末までに生産調整を終了するよう努める」とした。
付記 OPECプラスは12月2日、2022年1月も継続(日量40万トン減産縮小)することを決めた。
2月も日量40万トン減産縮小。3月も同様。4月も同様。
2021年末時点での減産は日量約380万バレルで、毎月日量40万バレル縮小すると2022年9月末にほ
ぼ終了する。
協調減産
(万バレル)
OPEC+
サウジ追加
合計
2020/5〜6
970
970
2020/7
960
960
2020/8〜12
770
770
2021/1
720
720
2
712.5
100
812.5
3
705
100
805
4
690
100
790
5
-35
655
-25
75
-60
730
6
-35
620
-35
40
-70
660
7
-44.1
575.9
-40
0
-84.1
575.9
8〜12
-40 x 5
375.9
2021/1/6
サウジの自主的減産増でOPECプラスが減産維持
ーーー
石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の主要産油国で構成するOPEC Plusは2021年7月5日に予定していた閣僚級会合を中止した。
8月以降の産油政策で合意に至らなかった。
今回、8月以降に12月までについて、毎月40万バレルずつ生産を増やし、年末時点では7月末より200万バレル増やす方向で調整した。
その一方で、生産調整は2022年4月末までとしていたのを、2022年中は続けるとの提案がなされた。
しかし、7月1日にアラブ首長国連邦が、 8月以降の減産規模縮小は支持するものの、 もし生産協定を延長するならば自国の生産割当を著しく増やすよう要求した。 同国は増産投資を進めており、減産の基準となる生産量を引き上げるよう求めている。8月以降の減産縮小には同意している。
2021/7/6
OPECプラス、8月以降の減産で合意に至らず
OPECプラス関係者は7月14日、減産期間の延長を巡って対立していたサウジアラビアとUAEが譲歩案で合意したと明らかにした。
今回、UAEは減産水準を算出する際の同国の基準生産量を2022年4月以降、現状の日量316万8000バレルから365万バレルに増やすよう要求し、これをサウジが受け入れたという。
一方、UAEのエネルギー省は声明を発表し、同国の基準生産量に関してはまだOPECプラスと合意に至っておらず、協議が継続していると表明した。
ーーー
7月
18日の閣僚協議では、2022年5月から一部の国の基準生産量を見直し、 合計約163万バレルあまり増やすこと
を決めた。
UAEの生産枠は現在の316.8万バレルから350万バレルに引き上げ
られた。(当初要求は380万バレル)
UAEのほか、イラクとクウェートは15万バレルずつ、サウジとロシアはそれぞれ50万バレル
引き上げた。
OPECプラス 生産枠:
OPECプラス の今回の協調減産は 2020年5月に 始まったが、参加したのはOPEC
10 カ国、非OPEC
10カ国 の合計20 カ国で、OPEC 加盟国のうちイラン、リビア及びベネズエラの3カ国は諸般の事情を考慮して協 調減産の対象外となった 。
従来の生産枠は2018年10月の生産量をベースとするものだが、 サウジは2020年5月には、過去最高の日量1230万バレルを生産しているとみられていた。
2021/7/21 新型コロナウイルス感染症の抗体カクテル療法を承認
厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は7月19日夜、中外製薬が申請した新型コロナウイルス向け治療薬「抗体カクテル療法」の製造販売承認を了承
、厚労省は同日、特例承認した。
国内のコロナ治療薬は4つ目で、主に軽症や中等症を対象とする国内で初めての薬になる。
今回の承認は、COVID-19 患者を対象として海外で実施された第III相臨床試験の成績、および日本人における安全性と忍容性、薬物動態の評価を目的とした国内第I相臨床試験の成績に基づいている。
国内における供給は、日本政府との合意に基づき、2021年分が確保されている。
中外製薬は2021年5月10日、本抗体カクテル療法 が日本において薬事承認 された場合、国内での供給を目的として 2021 年分を日本政府が確保することで政府と合意した。
菅義偉前首相は10月12日、新型コロナウイルスの軽症・中等症患者向けの「抗体カクテル療法」「ロナプリーブ」について、中外製薬から1回31万円で50万回分調達していたことを明らかにした。
厚生労働省によると、中外製薬との契約では、購入価格や数量は明らかにしない秘密保持の条項が含まれている。
付記
中外製薬は10月11日、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体「ロナプリーブ™ 」(カシリビマブ(遺伝子組換え)/イムデビマブ(遺伝子組換え)について、
@ 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防および無症状の感染者の治療に対する適応拡大
A 静脈内投与(点滴)に加えて、皮下投与を可能にする用法追加
の申請を行なった。特例承認の適用を希望している。
付記
中外製薬は11月5日、下記の追加承認を得たと発表した。
COVID-19 の発症を抑制する初の抗体製剤として、患者との濃厚接触者および無症状のSARS-CoV-2 陽性者に対する使用
(海外第III相臨床試験にて、感染者との濃厚接触者にあたる、非感染者および無症状のSARS-CoV-2 陽性者の発症リスクの低下を確認)
付記
国内治験の手続きなどを支援するため、国が中外製薬に4億5800万円の補助を決めていた。承認申請を断念することで、補助金の一部は返金を求めることになるという。
ーーー
Regeneronの抗体カクテル 「Casirivimab
and Imdevimab Antibody Cocktail」(旧称
REGN-COV2)は、コロナウイルスのスパイクタンパク質に対する2つのモノクローナル抗体(REGN10933+REGN10987)を組み合わせたもの。
何千ものモノクローナル抗体候補のなかから最終的にウイルスに対する強い中和抗体を産出させることができる組み合わせを見つけた。
抗体は ウイルスが健康な細胞に感染するのをブロックするが、単一の抗体の場合、ウイルスの自然発生的な変異型は、抗体のブロック作用を回避する可能性がある。これらの変異体は抗体処理にもかかわらず生き残り、増殖することができ、最終的にはウイルスの優性株になる可能性がある。
REGN-COV2 は重複しない別々の場所でウイルスのスパイクタンパク質に結合することにより、ウイルスが逃げるリスクを減らすことができる可能性があることを示す。
米食品医薬品局(FDA)は2020年11月21日、Regeneron
Pharmaceuticals, Inc. のCOVID-19の抗体カクテル療法「Casirivimab and Imdevimab
Antibody Cocktail」について、緊急使用許可(EUA) を与えた。
トランプ前大統領は2020年10月2日未明、ツイッターで、「今夜、妻と私は新型コロナウイルスの陽性と判定された。直ちに隔離と回復のためのプロセスを開始する。この新型ウイルスをともに乗り越えていく」と投稿した。
大統領は10月2日、首都ワシントン郊外の米軍医療施設 Walter Reed National Military Medical
Center に入院した。
トランプ米大統領の専属医は10月2日、新型コロナウイルス感染で入院した大統領が抗ウイルス薬Remdesivir を服用したと明らかにした。
また、米Regeneron Pharmaceuticals, Inc.の治験段階にある抗体カクテル療法 が使用された。Regeneron
Pharmaceuticalsは大統領の主治医から人道的見地で未承認薬の使用を認める「Compassionate
Use 」の要請を受け、大統領向けに高用量の未承認の抗体カクテル「REGN-COV2」1回分を提供した。
医師団は大統領の容体の安定に向けてステロイド薬「デキサメタゾン」 の使用を始めた。
トランプ前大統領は10月5日夕、退院した。
2020/10/4 トランプ大統領にレムデシビル投与、 未承認の抗体カクテル療法も
RocheはRegeneron との間で 、この製造および開発を共同で実施するとともに、米国での販売はRegeneron
、米国外での製造および販売をRohceが担う契約を締結している。
中外製薬は2020年12月10日、Rocheより新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するこの抗体カクテル療法「REGN-COV2」について、日本における開発および販売に関するライセンス契約を締結した。
中外製薬は2021年6月29日、 Casirivimab
と Imdevimab の抗体カクテル療法について、COVID-19 患者を対象とした海外第III相臨床試験成績、および日本人を対象とした国内第I相臨床試験成績に基づき、製造販売承認申請を厚生労働省に行った。
2020/11/24 FDA、Regeneron
Pharmaceuticalsの 抗体カクテル療法にEUA
海外の臨床試験(治験)では、入院はしていないが肥満や心血管の病気といった重症化リスクがある人でこの療法を受けた感染者は、受けていない感染者と比べて、入院ないし死亡するリスクが70%低かった。
感染者と同居している未感染の人を対象とした試験では、この療法を受けた人の方が、感染して発症するリスクが81%低かったという。
また、無症状の感染者が発症するリスクを31%抑えたことも確認された。
ーーー
医薬品医療機器等法第14条の3に基づく特例承認の概要は次の通り。
製品名:ロナプリーブ点滴静注セット300、同点滴静注セット1332
一般名:カシリビマブ(遺伝子組換え)及びイムデビマブ(遺伝子組換え)
対象:COVID-19の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者。軽症から中等症に相当する。
重症化リスク因子: 50歳以上の高齢者、基礎疾患のある人( 慢性閉塞性肺疾患( COPD )、慢性腎臓病、糖尿病、高血圧、 心血管疾患、 肥満、喫煙) 、一部の妊 娠後期 の 人
点滴処理のため、入院患者への使用になる。厚労省は、自宅療養や宿泊療養も含めた療養者全体の十数%が投与対象になり得ると推計。
世界的にかなり需給がひっ迫しているため、確保量の兼ね合いもあり、対象を限定する。
用法及び用量:通常、成人及び12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、カシリビマブ(遺伝子組換え)及びイムデビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ600mgを併用により単回点滴静注する。
症状が発現してから速やかに投与
( 臨床試験において、症状発現から8日目以降に投与を開 始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない
)
国が買い取り、医療機関に供与するため、薬価収載はされないが、海外の例から1回当たり 20-30万円とされ
る。全額国家負担となる。
国の委託を受けて、中外製薬が医療機関からの希望を受け付けて7月20日から配送する。
なお、海外ではロナプリーブのCOVID-19発症予防効果に関する臨床試験が進行中だが、中外製薬は予防の効能効果での申請していない。
国内で承認されている新型コロナの治療薬としては4つ目となる。
1. レムデシビル:抗ウイルス薬(エボラ出血熱用に開発)
メーカー
Gilead
Sciences
対象
主に中等症や重症患者
承認
FDA 2020/5/1 EUA
日本 2020/5/7 特例承認
2020/5/1 レムデシビル、5月にも 特例承認
2. デキサメタゾン : ステロイド剤(重度の肺炎・リウマチなどの薬)
3. バリシチニブ (オルミエント)
: 関節リウマチなどの薬
メーカー
日本イーライリリー
対象
主に中等症や重症患者
承認
FDA
2020/11/19 レムデシビルと の 併用でEUA
日本
2021/4/27 使用承認
2021/4/23 厚労省、3つ目のコロナ治療薬承認
4. カシリビマブ
/
イムデビマブ:抗体カクテル療法
メーカー
Regeneron、 Roche / 中外製薬
対象
主に軽症や中等症患者
追加 患者との濃厚接触者および無症状の陽性者
点滴に加え、 皮下投与
承認
FDA 2020/11/21 EUA
日本
2021/7/19特例承認
ーーー
・ アクテムラ
: 抗リウマチ薬
・ AT-527: C型肝炎ウイルス治療の経口薬
・ アビガン
: 抗インフルエンザウイルス薬
2021/7/21 モデルナのワクチン、接種可能年齢を12歳以上に
厚生労働省は7月19日、モデルナの新型コロナウイルスのワクチンについて、接種が可能な年齢を現在の18歳以上から12歳以上に拡大することを決め、専門家部会で報告した。
厚生労働省は、5月21日にモデルナのワクチンを承認した際、接種が可能な年齢を18歳以上に限っていたが、その後、モデルナは米国の12〜17歳の約3700人を対象にした臨床試験で有効性と安全性を確認
し、追加のデータを同省に提出していた。
近く添付文書が改訂され正式に認められる見通しで、別の専門部会で12〜17歳を公的接種の対象に含めるかどうかを議論する。
モデルナは日本以外でも接種年齢の拡大を求めており、アメリカやEUでも対象年齢を12歳以上にする方向で審査が進められている。
ファイザーのワクチン(2月14日に16歳以上で承認)については、既に5月31日に12歳以上に拡大され、公的接種の対象として加えられている。
FDAは5月10日にPfizerワクチンを12歳以上に拡大することを認めている。
2021/7/22 Johnson & Johnson、敗訴のベビーパウダー
関連で破産法活用?
米連邦最高裁判所は6月1日、Johnson & Johnson (J&J)
のベビーパウダーにアスベストが混入していたことが原因でがんを発症したとして、消費者が同社を相手取って起こしていた訴訟で、J&Jの上告を退けた。
J&Jは、タルク(滑石)原料のベビーパウダーの使用により女性20人余りが卵巣がんを発症したとする2018年のセントルイスの陪審の評決を不服として最高裁に上告していた。
これにより、ミズーリ州セントルイスの控訴裁が認めた21億ドルの賠償金支払いが確定した。
J&Jはベビーパウダー商品を巡り2万6000件を超える訴訟を抱えている。
本件に関し、J&Jがベビーパウダー訴訟で抱えた負債を新たに設立する事業体に移管した上で、その事業体の破産法適用申請を目指す計画を検討していると報じられている。テキサス州の「分割合併」法を利用して会社を本体とベビーパウダーやその他タルク(滑石)製品事業の2つの事業体に分け、新たに分割された会社はその後、破産法の適用を申請するというもの。
J&Jは決定を下しておらず、「この構想を最終的に放棄する可能性がある」
これに関し、今後の訴訟で高額な賠償を避けるためとの見方と、米国中に広がる多くの訴訟を1つの裁判所にまとめる狙いだとの見方がある。
ーーー
J&Jのベビーパウダーを性器の衛生に使い続けたため卵巣がんになったとして、J&J
に対して多くの患者が訴訟を起こしている。
原材料であるタルクが卵巣がんの原因とみられている。タルクはアスベスト(石綿)と非常に似た構造式を有しており、性質も極似している。 (FDA基準に適合したタルクはアスベストの1種のトレモライトを含んでいない。)
J&Jは一貫してベビーパウダーは安全であると主張しているが、これまでの裁判で、同社がタルクの問題点を認識していたことが明らかにされている。
ミズーリ州で2016-2017年に行われた陪審員裁判では5件のうち4件で
J&J側が敗れている。原告勝訴の陪審裁判はすべてMissouri
州St. Louisの裁判所であり、原告には他州の女性が多い。
原告
勝訴
罰金+懲罰
(百万ドル)
2016/2/24
St. Louis
〇
10+62=72
数十年使用のAlabamaの死亡女性
2016/5/3
St.
Louis
〇
5+50=55
数十年使用の女性
2016/10/28
St.
Louis
〇
2.575+65=67.5
+2.5
40年使用の女性
(Imerys Talc Americaへの罰金)
2017/3/7
St.
Louis
X
ー
36年使用のTennesseeの女性
2017/5/5
St.
Louis
〇
5.4+105=110
40年使用のVirginiaの女性
罰金合計
307
Los Angeles
Superior Court の 陪審は2017年8月21日、スキンケア用品のベビーパウダーが卵巣がんの原因になったとする訴訟で、Johnson
& Johnson (J&J) に417百万ドルの支払いを命じる評決を下した。
同様の訴訟では過去最高額となる。
2017/8/24
ベビーパウダー訴訟でJohnson & Johnsonに417百万ドルの支払い命令
その後、ミズーリ州控訴裁は2件の控訴審で、2017年の連邦最高裁の決定を理由に他州の原告への判決を覆した。
2017年6月19日、Bristol-Myers
Squibbが自社の製品 Plavix(血小板が集まって血栓ができるのを防ぎ、血液の流れを改善する薬)の薬害裁判での
カリフォルニア州最高裁の判決に対し、上告していた裁判で、連邦最高裁はBristol-Myers
Squibb勝訴の判決を下した。
原告側は、カリフォルニア州の住民が86人、他の33州の住民が592人で、集団訴訟を起こした。
Bristol-Myers
Squibbはカリフォルニア州に本社を持たないとし、原告のうちの592人はカリフォルニア州で薬を飲んだわけではなく、薬はカリフォルニア州で彼らに売るために製造販売されたものではない。 それなのにカリフォルニアで訴えられるのはフェアでないと主張した。
最高裁は8:1で、カリフォルニア州は非居住者に対してはBristol-Myers
Squibbへの裁判管轄権を持たないとし、Bristol-Myers
Squibb勝訴とした。
2018年に 22名の女性がSt.
Louis の巡回裁判所にJ&J を訴えた。
22名のうち、5名はミズーリ州の住民であるが、他の17名は他州の住民である。
2018年7月13日、St. Louis
の巡回裁判所の陪審員は6週間の裁判の後、原告勝利とし、J&Jに対し、原告22名に損害賠償として5.5億ドル、懲罰的賠償金
41.4億ドル、合計46.9億ドルの支払いを命じた。
裁判で原告側は、J&Jは製品にアスベストが含まれていることを知っており、それを消費者に伝えなかったと主張していた。
これについて担当判事は2018年12月に陪審員の判断を認める判決を下した。「 被告は母親や赤ん坊を対象に販売されると知っている製品にアスベストが含まれていることを知りながら、また製品が与える被害を知りながら、数十年に亘り、安全だと偽って販売してきた」と非難した。
原告22名のうち、17名はミズーリ州の住民ではないが、判事は裁判管轄権で問題なしとした。
J&Jは控訴した。
ミズーリ州控訴裁判所は2020年6月、一審の47億ドルの評決を一部反転させ、一部を肯定し、
損害賠償を5.5億ドルから5億ドルに、懲罰的賠償額を41.4億ドルから16.15億ドルに引き下げ、全体の裁定額を21.15億ドル
とした。
先ず、控訴裁はJ&Jの主張を容れて連邦最高裁の判決を勘案し、州外の17名の審議を行った。
その結果、2名は原告から除外したが、15名は承認した。15名は州外の住民だが、ミズーリ州Unionにある企業がJ&Jのために受託生産しているタルクベースのパウダー
Shimmer を使用していたとしてミズーリ州で訴訟する法的権利を持つと見做した。
この結果、損害賠償は5.5億ドル(22名)から5億ドル(20名)に引き下げた。
メーカーの Johnson
& Johnson Consumer Companies
は原告22名のうち20名について責任(@25百万ドル)ありとした。親会社のJ&Jは州内の5人について共同責任とした。
懲罰的賠償は、一審が子会社に3,150百万ドル、J&Jに990百万ドル、合計4,140百万ドルとしたが、今回、子会社には20人分として900百万ドル、J&Jには州内の5人に追加の716百万ドル、合計1,615百万ドルとした。
J&Jはミズーリ州最高裁に上告したが、却下され、連邦最高裁に訴えた。
J&Jは、異なる州、異なるバックグラウンド、製品の使用頻度が異なる20人の女性を一緒に原告にする裁判はおかしいと訴えた。
しかし、最高裁は今回、理由を一切述べず、J&Jの上告を却下した。
J&Jはこれを受け、最高裁がこれを審議しないことは、重要な法律上の問題が未解決で残ることとなり、今後、州や連邦裁判所が同様の問題に直面し続けることになるとのコメントを出した。また、最高裁はこれまでに、ヒアリングをしないことは問題点について意見を言わないだけだとしており、今後、当社の主張が通ると信じていると述べた。
また、裁判の問題点はベビーパウダーが安全かどうかではなく、法的手続きの問題であるとし、製品は安全であると主張している。
しかし、同社は昨年、タルクベースのベビーパウダーを米国・カナダ市場から引き上げた。弁護士が訴えませんかとPRしてまわったために販売が減ったためとしている。
2021/7/23 エネルギー基本計画原案
経済産業省は7月21日、有識者会議で新しいエネルギー基本計画の原案を示した。
本文 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/046/046_005.pdf
概要 https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2021/046/046_004.pdf
付記
政府は10月22日、新たなエネルギー基本計画を閣議決定した。同日、2030年度に温暖化ガスの排出量を13年度比46%減らす目標を国連気候変動枠組み条約の事務局に提出した。
基本計画は7月の原案から変更していない。基本計画の内容を大きくかえれば与党の了承を得るプロセスなどでCOP26までに間に合わなくなる可能性があった。
今回は、2050 年カーボンニュートラル( 2020 年 10 月表明) 、 2030 年の 46 %削減、更に 50 %の高みを目指して挑戦を続ける新たな削減目標( 2021 年 4 月表明) の実現に向けた エネ ルギー政策の道筋 を示すことが重要テーマとなっている。
菅義偉首相は4月22日、閣僚が参加する地球温暖化対策推進本部で、日本の2030年度における温室効果ガス削減目標を引き上げると発表した。2030年度の排出量を2013年度比で46%削減する。同時に「50%(削減)の高みに向けて挑戦を続ける」と話した。
経産省はそれまで40%弱削減を目標に検討を進めてきた。このため短期間での46%削減への変更に向け、無理な辻褄合わせを余儀なくされた。
2050 年に向けては、 温室効果ガスの 8 割を占めるエネルギー分野の取組 が重要とする。
電力部門は、再エネや原子力などの 実用段階にある脱炭素電源を活用 し着実に脱炭素化を進めるとともに、 水素・ アンモニア発電や
CCUS ( Carbon dioxide Capture,
Utilization and Storage )
/
カーボンリサイクルによる炭素貯蔵・再利用を前提とした火力発電などのイノベーションを 追求 。
非電力部門は、 脱炭素化された電力による 電化を進める 。電化が困難な部門(高温の熱需要等)では、水素や 合成メタン、合成燃料の活用などにより脱炭素化。特に 産業部門においては、 水素還元製鉄や人工光合成などの イ ノベーションが不可欠 。
脱炭素 イノベーションを日本の産業界競争力強化につなげるためにも、「グリーンイノベーション基金」などを活 用し、総力 を挙げて取り組む 。
最終的に、炭素の排出が避けられない分野については、 DACCS
( Direct Air Carbon Capture and
Storage ) や
BECCS ( BioEnergy with Carbon
Capture and Storage )、植林など により対応。
2050 年カーボンニュートラルを実現するために、 再エネ については、主力電源として最優先の原則のもとで最大限の導入に取り組み 、 水素・ CCUS については、社会実装を進める とともに、 原子力 については、国民からの信頼確保に努め、安全性の確保を大前提に、必要な規模を持続的に活用 していく。
経済産業省は、この素案をもとに議論を深め、10月にも閣議決定することを目指す。
1.電力需要
2. 電源構成
再生エネルギーは現行計画の22〜24%から、36〜38%に大きく引き上げた。
原発は、
「社会的な信頼は十分に獲得されていない」と明記、新増設は見送られたが、「必要な規模を持続的に活用する」とし、2030年度の原発の比率は現行の20〜22%を維持している。 新しく
発電時にCO2を出さない次世代燃料として期待される「水素・アンモニア」が加わった。
化石燃料の比率は減ったが、なお、41%程度を占める。石炭火力も大比率(約19%)で残っている。
橘川武郎国際大副学長は、全体的に無理のある数字が並んでおり、示された30年度のエネルギーミックス達成は非常に厳しいだろうとしている。
経済産業省自身が、不確実性を含んだ「野心的な見通し」としている。
3. 再生エネルギー
実現のための対策:
送電網に関するマスタープランの策定、
蓄電シス テム等の分散型エネルギーリソースの導入拡大
蓄電池 や水素の活用等による脱炭素化された調整力の確保
系統 混雑緩和への対応促進
系統の安定性を支える次世代インバータ等の開発
次世代型太陽電池、浮体式洋上 風力発電といった革新技術の開発
無線送受電技術により宇宙空 間から地上に電力を供給する宇宙太陽光発電システム(SSPS)の研究開発
参考 2021/7/14 発電コスト試算 太陽光が原発より安価に
2021/7/24
英、EU離脱ルール再交渉を要求、EUは拒否
英政府は7月21日、欧州連合(EU)と結んだ離脱協定の一部である英領北アイルランドでの通商ルールについてEUに再交渉を求めると発表した。
2021年1月の英国の完全離脱で導入された同ルールにより、北アイルランドで起きている物流などの混乱をおさめるのが狙いだが、EUは再交渉に応じない方針。
これまでの経緯:
英国とEUは、北アイルランド紛争の再発を避けるため、北アイルランドとアイルランド共和国の国境には物理的な関税等は設けないことで合意した。このため、離脱協定で下記の特殊措置をとることとした。
2020年末までの移行期間終了後、名目上は北アイルランドを含む英全土がEUとの関税同盟から抜ける。
しかし、アイルランド島の国境付近での税関業務を省略できるよう、北アイルランドに限り関税手続きをEU基準に合わせる。
英本土から北アイルランド向けの品物はいったんEUの関税を徴収されるケースも出る。
本土から北アイルランドに入る段階でEU関税を支払う。(英国が実施するが、EUは立ち合いの権利を持つ。個人の荷物はチェックしない。)
北アイルランドに留まるものは関税還付。
アイルランドに運ばれるものは関税還付なし。
北アイルランドから本土に商品を動かす場合、輸出申請が必要となる。
北アイルランドとEU単一市場間の企業取引に関連して、英国が北アイルランドの企業に補助 金を提供する場合、その内容をEUに通知しなければならない。
英政府は2020年9月、Brexitの最大の懸案だった北アイルランドの税関と国庫補助を含む分野で、EU離脱協定の効力を弱めかねない法案Internal
Market Bill を議会に提出した。
英下院は9月29日、EU離脱に伴って1月末に発効した国際条約「離脱協定」の主要部分を反古にする政府提出のInternal Market Bill
を賛成多数で可決した。
しかし、英議会上院(貴族院)は11月9日、Internal Market
Billに関し、英領北アイルランドの扱いで英政府にEUとの離脱協定を部分的に違反する権限を与える規定を削除する案を433対165で可決した。
英国・EUの合同委員会は12月8日、 離脱協定の実施について原則合意に達したとする共同声明を発表した
英国がInternal
Market Bill の問題個所、第44( export
declarations) 、45( State
aid) 、47項( incompatibility
with international or domestic law) を撤廃することも発表された。
2020/11/12 英上院、 Internal
Market Billに反対
懸案事項の解決を受け、 英国と欧州連合(EU)は2020年12月24日、新たな自由貿易協定(FTA)など将来関係を巡る交渉で合意した。2020年12月31日深夜の英国のEU正式離脱が確定した。
2020/12/25 英EU、通商協定で合意
しかし、離脱後、 北アイルランド問題について、トラブルが続出した。 2021年1月以降の規制が不透明なことを背景に、英国の大手小売店などが北アイルランド向けの宅配貨物発送を停止したり、同地域からの注文を取り消したりするなどして、混乱が広がった。
このため、 英政府とEUは一時的な対応策をとった。
食品輸送に関しては、2月2日に英国から欧州委員会向けに、手続きの緩和措置を少なくとも2023年1月まで延長するよう要請したが、合意には至らなかった。
英国の北アイルランド相は3月5日、スーパーマーケットとそのサプライヤーに対して、英本土から北アイルランドへの食品移送において求められる証明書の提出免除など、現在の緩和された措置を2021年10月1日まで延長するなどとした声明を一方的に発表した。
欧州委員会は、「英国政府による
Internal Market Bill
に次ぐ2度目の国際法違反だ」と強く批判する声明を発表した。
双方は交渉を続け、その結果、欧州委員会は6月30日、グレートブリテン島から北アイルランド向け食品移送の手続き緩和措置の期限を2021年9月30日まで延長 するという英国の要求を、条件付きで受け入れると発表した。
禁止になるはずの英本土からの冷蔵肉製品の入荷が継続されるなど激変緩和措置が暫くは続くが、それでも新たな通関手続きにより物流の遅延などの混乱は絶えない。
春には、
北アイルランドで、英国統治を望むプロテスタント系住民と、アイルランド統一を求めるカトリック系住民との対立に絡む暴動が多発し、地域が緊張に包まれた。プロテスタント系住民が本土から切り離されたと感じ、不満を持つことが背景にあると見られている。
ーーー
今回、英政府は議会に北アイルランド議定書に関する
“command
paper ” を提出した。
EU側に対し、北アイルランド議定書(2019年に英政府が署名し、英議会が承認している)が実行が無理だと分かった(unworkable
in practice )ため、再交渉に応じることを求めている。
「新通商ルールが北アイルランドにもたらす困難を無視できない」と訴え、英EUが永続的に許容できる解決策を見いだすために再交渉が必要だと強調している。
ジョンソン首相はこのなかで、以下の通り述べている。
現在の議定書の適用で問題を解決できないことは明らかになっている。
議定書第16条(セーフガード条項)では「議定書が予想外に有害であることが判明した場合に、双方が適用を免除することができる」と定めているが、問題が余りにも大きいため、これの適用も考えた。
しかし、双方で問題を解決しようとする意志があると信じるため、EUと交渉で解決することを選んだ。
英政府は英本土からアイルランドには向かわずに北アイルランドに残る商品について、全面的に通関検査をなくすこと、そうした商品はEUの衛生基準などを満たさなくても北アイルランドで流通できるようにすることなどを求めている。
これに対し、欧州委員会では、通商ルールは「EUがジョンソン英首相と共同で見いだした合意で、英議会も承認した」と英側をけん制し、新ルールの微修正には応じる姿勢を示唆したものの、抜本的な変更につながる「再交渉は同意しない」と断言した。
ーーー
もともと、北アイルランド紛争の再発を避けるためにアイルランド共和国との間で国境管理(入出国審査、通関手続き)をしないという大前提がある。
EU側は、英国がEUを離脱するなら、英国品を含む外国品が英国本土から北アイルランドを通じてEU(アイルランド共和国)に無検査、無関税で入ることを禁止する措置を英国に求めることになる。
しかし、英国はBrexitを決める際に、本件を全く検討していない。EUとの交渉が始まって、EUからの提示でこの問題に気が付いた。
EUとしての交渉ガイドラインの原案に、「英国(北アイルランド)とアイルランドの国境問題について、国境復活などの厳格な対応ではなく、柔軟で建設的な解決を模索すべきである」という項目が含まれており、英国側もこれに賛成した。
しかし、国境復活なしでEU側の要求を満たすのは簡単でなく、難航した。
EUのDonald
Tusk大統領は2019年2月6日、英国のEU離脱を安易に推進した人々には「地獄」が用意されていると痛烈に批判した。
我々にとって最も重要なことは、アイルランド島の国境問題と、1998年4月10日のベルファスト合意による平和プロセスの保証だ。我々は平和に関してギャンブルはしない。
これがBackstop案にこだわる理由だ。北アイルランドの平和を保証してくれるなら、英国はEUを離脱してもよい。英国政府が、この観点を満たし、かつ、下院を通せる提案をしてほしい。解決案があると信じている。
ところで、安全に離脱する計画も無しにBrexitを推進した人にとって用意されている地獄はどんな所なんだろうか。
2019/2/7
EU大統領「英国離脱の推進者は地獄に」
英国の混乱は続いた。
最終的に、
英EU合同委員会が2020年12月17日に「アイルランド・北アイルランド議定書」で合意し、英国とEUは、北アイルランドを実質的に「EU圏内」としてステータスを維持することが決まった。
アイルランド紛争を避けるという絶対条件のもとで、合意なき離脱を避けるため、無理に無理を重ねて合意したもので、最初から問題点は分かっていた。今になって、実行が無理だと分かったというのは通らない。
元 Economist 誌のBill Emmottは当時、次のように述べた。(2019/2/3
毎日新聞)
「解決できるのは、北アイルランドが英国から分離してアイルランドに加わるか、もしくは英国がEUに非常に近い形で残留しEUの交易ルールに従い続けるかである。
」
ベルファースト合意では、「北アイルランドの将来の帰属は北アイルランド住民の意思によって決定される」となっており、北アイルランドの人口構成はほぼ拮抗しているが、 カトリック系の方が出生率は高いため、北アイルランドは将来的にアイルランドへ帰属を変更する可能性が高い。
そうなれば、この問題は自動的に解決する。
2021/7/26 米国、債務上限復活
米連邦政府の債務残高に上限を定める法律の適用停止措置が7月31日に期限を迎える。
米議会予算局は7月21日、問題が放置されれば10月にも政府の資金繰りが行き詰まってデフォルトに陥る可能性があると警告した。
イエレン財務長官は23日、資金繰りのための緊急措置を7月30日から発動すると明らかにした。
議会への書簡の中で、州・地方政府向けの特別国債の発行を7月30日に停止し、8月2日以降も必要に応じて追加の緊急措置を講じる考えを説明した。
緊急措置については「新型コロナウイルスの影響で、支払いや収入の見通しを巡る不確実性が高まっており、具体的にいつまで続けられるかの見積もりはできない」と指摘した。
議会が債務上限復活に対して対策をとらない場合、「米国経済に回復不能な損害を与える」と述べ、議会による債務上限の適用停止か引き上げの承認といった対応を早急にとるよう求めた。
議会では与野党の対立が激しく、早期の承認は見通しにくい状況で、金融市場が混乱する恐れがある。
ーーー
米国では歳出上限と債務上限が法律で決まっている。予算の運営のためには、別の法律により、これらを引き上げる必要がある。
最近は、その都度、上限を凍結している。
単位:10億ドル
債務
上限
2011/8/2
16,394
上限
14,294 を超過 →上限引き上げ
2012/12/31
債務上限到達(合わせて大型減税が期限切れとなり、 「財政の崖 ( Fiscal
Cliff)」)
2013/1/31
先送り
法定上限を暫定的に引き上げ、
2013年5月18日までに限って 向こう3か月分の歳出に相当する額の 国債の発行を政府に認める。
2013/5/19
先送り 期限到来、債務
16,699
デフォルトを回避するためさまざまな緊急措置を実施し、資金をやりくり
2013/10/16
凍結
国債発行を2014年2月7日まで認める
2014/2/7
期限到来、債務 17,212
。やりくり期限は2月27日
2014/2/12
凍結
債務上限の適用を2015年3月15日まで凍結する法案を可決
2015/3/15
凍結期限終了、 債務額 18,113 が新たな上限、 以後、特別な措置でやりくり
2015/10/26
凍結
債務上限凍結を2017年3月15日まで再び延長
2017/3/15
凍結期限終了、 債務額 19,846 が新たな上限
2017/9/8
凍結
2017年12月中旬までの債務上限棚上げ
2018/2/9
凍結
債務上限を2019年3月1日まで1年間停止
2019/3/1
債務上限の凍結期限終了 3月1日末の債務
22兆289億ドルが新しい上限
2019/7/22
凍結
2021年7月末まで2年間棚上げ
最近では 2019年3月1日に債務上限凍結の期限が終了し、その後は借り入れができなくなった。3月1日末の債務
22兆289億 ドルが新しい上限となる。
しかし、トランプ大統領の非常事態宣言による壁建設費用の流用により、野党民主党の反発は強く、債務上限の引き上げや凍結が決まる可能性は小さかった。
米財務省は会計調整や州・地方政府向け特別国債の発行停止などのいわゆる特別措置を使ってその後の数カ月間、デフォルト(債務不履行)を阻止でき、民間シンクタンクは「夏までは資金繰りが可能」と試算した。
その後の交渉の結果、トランプ大統領は2019年7月22日、今後2年間の連邦政府の歳出と債務の上限 について与野党で合意したとツイッターで発表した。
最終的に、債務上限 は 2021年7月末まで2年間棚上げとなり、 とりあえず、資金の枯渇によるデフォルトは回避された。
今回、この2年間の棚上げ期間が終了する。
2019年3月1日時点の債務上限の22兆289億ドルに、それ以降
7月31日までに追加で借り入れた約6.5兆ドルを加えた約28.5兆ドルが新しい債務上限 となる。
今後、与党民主党のペロシ下院議長が対応を考えることになるが、単独法案による上限引き上げや、上限棚上げのほか、民主党が通そうとしている多額のインフラ投資計画と対にして上限引き上げ案を通すなどの案が噂されており、まだどうするか決まっていない模様。
2021/7/27 中国、「反外国制裁法」初適用、米前商務長官らに制裁
中国外務省は7月23日、6月に施行した反外国制裁法に基づき、米国のロス前商務長官ら6人と1組織に制裁を科すと発表した。制裁の詳しい内容は明らかにしていない。
Wilbur Louis
Ross former US Secretary of Commerce
Carolyn Bartholomew Chairman of US-China Economic
and Security Review Commission (USCC)
Jonathan Stivers former Staff Director
of Congressional-Executive Commission on China (CECC)
DoYun Kim National Democratic Institute for International Affairs
Adam Joseph King senior
program manager of the International Republican Institute (IRI)
China Director at Human Rights Watch Sophie Richardson
Hong Kong
Democratic Council
米国の無党派、非政府組織で、「香港の基本的な自由、自治、法の支配を保護する」という使命を掲げる。
バイデン米政権は7月16日、香港に進出する企業に対してデータ流出など事業運営上のリスクがあると警告する文書
Hong Kong Business Advisory (国務省、財務省、商務省、国土安全保障省が共同で作成)を公表した。
香港で操業する企業に対し、「香港国家安全維持法」などの法律が適用される可能性があると警告した。同法律の下、米国人一人がすでに逮捕されている。
香港警察は1月6日、香港国家安全維持法を巡る取り締まりに関連し、家宅捜索した法律事務所で米国人弁護士
John Clancey を逮捕した。Asian Human Rights
Commission 会長で、香港の民主派デモ隊関連団体のメンバーという。
香港当局は2月28日、香港国家安全維持法違反で逮捕された民主活動家たちの大量起訴に踏み切ったが、Clancey
弁護士は起訴を免れた。同氏は香港メディアに、「自由と人権が制限され、香港は巨大な監獄のようだ」と述べ、当局の民主派弾圧を非難した。
令状なしの電子的な監視の対象になり、当局に顧客データなどを提出せざるを得なくなるリスクがあると警告。
中国の制裁対象にされている個人や団体に関与すれば、米国などの諸外国の制裁措置に加担したとして、中国の報復措置の対象になる恐れがあるとも警告した。
メディアの自由な報道が制限される恐れがあるとも明記した。
また、中国が2020年に香港国家安全維持法(国安法)を制定し、締め付けを強めていることを受けて注意を促し、中国人7人に資産凍結などの制裁を科した。
7人は中国の駐香港連絡弁公室の幹部。ブリンケン国務長官は声明で、中国当局は過去1年間にわたり香港の民主機関を「組織的に阻害」し、選挙を延期し、選挙で選ばれた議員の資格を奪い、政府の政策に反対する数千人の人々を逮捕したと指摘。「香港市民に対する断固とした支持を示すために、米国はきょう、明白なメッセージを送る」とした。
中国はこれに反発、法律に従って全ての必要な措置をとるとしたが、7月23日の中国外務省の記者会見で記者から、具体的にどのような対策を行うのかとの質問が出た。
報道官は次のように答えた。
米国は "Hong Kong Business Advisory"
をでっち上げ、中国政府の香港事務所の数人に不当な制裁を課した。国際法や慣行に違反し、中国の内政に干渉するもので、中国は強く反対し、非難する。
米国側の誤った行動に対し、中国は対抗策をとることを決め、反外国制裁法に基づき、6人と1組織に制裁を課した。
香港の問題は中国の国内問題であり、これに干渉する外国の試みは無駄なものである。
ーーー
全国人民代表大会(国会に相当)常務委員会は2021年6月10日、「反外国制裁法」 を可決し、即日施行された。
貿易、技術、香港、新疆ウイグル自治区を巡る問題について、米欧から圧力を受けていることが背景で、欧米から相次ぐ対中制裁に対抗する法的根拠となる。
この法案は4月に1回目の審査が行われ、2回目の審査を経て6月10日に承認された。
Pompeo
国務長官はトランプ大統領の退任の前日の1月19日、中国新疆ウイグル自治区のウイグル族や他の少数民族に対する同国政府の弾圧をジェノサイド(民族大量虐殺)と認定し、 米中関係の緊張を一段と高めた。
これに対し、中国外交部は1月21日、トランプ前政権の Pompeo
国務長官ら28人に対して制裁を課す決定をしたとの声明を発表した。
過去数年間に米国の一部の政治家が中国の内政に深刻に干渉し、中国の利益に損害を与え、米中関係を破壊したと非難し、28人およびその家族に対し、中国大陸、香港、マカオへの入境を禁じるとともに、それらの関連企業・機関が中国側とビジネスをしたり、接触したりすることを制限した。
2021/1/23 中国外交部、米国の前政権幹部に制裁
この後、欧米からの対中制裁に対抗する法的根拠として「反外国制裁法」をつくった。
通常は3回の審査が必要になるが、3回目の審査は省略し、2回目の審査を行うと発表したわずか2日後に承認された。
中国は、外国による封じ込めや圧力、国民への差別的な制限措置などに対し、相応の報復をする権利があると規定し、中国政府は報復の対象となる外国の個人や組織に対して、ビザの発給拒否や国外退去、中国国内の資産の差し押さえ、国内での商取引の禁止などの措置をとることができるとしている。
法律のねらいについて、中国外務省報道官は「国家の主権や尊厳、核心的利益を守り、西側の覇権主義と強権政治に反対するためだ」と述べた。
ーーー
アジア歴訪中のWendy
Sherman 国務副長官が25〜26日の日程で中国を訪問した。
天津で王毅外相らと会談し、中国に対して深刻な懸念を抱いている分野に加え、利益の一致する分野についても意見交換
した。
その直前での制裁発表は米国側をけん制する狙いがあるとみられる。
2021/7/27 イスラエルで新型コロナウイルスの錠剤型ワクチンの臨床試験開始へ
イスラエルと米国に本拠を置く医薬品開発会社Oramed
Pharmaceuticalsは7月21日、子会社のイスラエルの Oravax
Medical Inc.が世界初の新型コロナウイルスの錠剤型ワクチンの治験をまもなく開始すると発表した。
イスラエルの Ichilov
Hospitalで治験を準備しており、Israeli Ministry of Health の承認を待っている。.
Oramed
Pharmaceuticalsは2006年設立で、現在注射薬で使われている薬を経口薬に変える技術を開発している。
同社は新しい Protein Oral Delivery (POD™) technologyを開発した。
経口摂取されたタンパク質(ワクチンも下記の通り、タンパク質)は、胃腸内の過酷な酸と、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)、および小腸の壁によってもたらされる物理的障壁によって危険にさらされるため、ほとんどのタンパク質ベースの医薬品は錠剤の形で服用することはできず、注射により血液循環に直接送達されている。
Protein
Oral
Delivery
technologyは、
下記により問題点を解決した。
(1)腸溶コーティング(Enteric
coating):カプセルは酸性の強い箇所では無傷で、小腸で初めて溶ける。
(2)特殊なプロテアーゼ阻害剤
:プロテアーゼによるタンパク質の分解を防ぐ。
(3)吸収促進剤サプリメント:小腸での薬剤の吸収が促進される。
同社はこれを使って、糖尿病治療用に世界初の経口インシュリンカプセル(ORMD-0801)を開発中である。
Oramed Pharmaceuticalsは2021年3月19日、COVID-19用の経口ワクチンの開発のため、インドの Premas
Biotech Pvt. Ltd. との
合弁会社 Oravax Medical Inc.を イスラエルに設立すると発表した。
Oramed Pharmaceuticals の POD™ oral delivery technology
とインドの Premas Biotech
(提携する米国の Akers
BioSciencesの技術を
含む)の新しいワクチン技術を統合して、経口ワクチンをつくるもので、Oramedが63%を出資、 Premas Biotechや同社と協力している米国のAkers
BioSciences等が出資する。
このワクチンはPremas Biotechの Premas Biotechは
SARS-CoV-2ワクチンに使用できる3つ (スパイクタンパク質、エンベロープタンパク質、および膜タンパク質) の抗原の特定に成功した。 COVID-19表面抗原の3つを同時に発現する能力は、効果的なワクチンを生成する可能性を向上させる。
ウイルスと外見上よく似た構造を保持するが、空洞でウイルスゲノムを持たないため、細胞内で増殖しない。一方、ウイルスと同じカプシドタンパク質から構成されているため同一の抗原性を保持しており、安全性を確保しながら免疫を強く誘導することができる。
免疫細胞は、ウイルスや細菌の表面にあるタンパク質を認識することにより、感染性病原体を識別して破壊するようにプログラムされている。
COVID-19には、ワクチン候補となる可能性のある3つの表面タンパク質(スパイクタンパク質、エンベロープタンパク質、および膜タンパク質)がある。
Pfizer、Modernaなど、一般的にはスパイクタンパク質を使っている。
変異株に対応 するには、 複数の抗原を標的とするのが望ましい。特定のタンパク質に変異が生じて効かなくなっても、 免疫システムは他の2つの抗原を認識できる。
Premas Biotechは米国のAkers BioScienceと協力し、SARS-CoV-2に対する トリプル抗原ワクチン候補に取り組み、 使用できる3つの抗原の特定に成功した。
2021年3月に動物実験を通じて新型コロナウイルスに対する免疫形成が確認された。
Akers BioSciencesは2021年4月、MyMD Pharmaceuticals, Inc. に買収された。
VLP platform technology
は注射でも経口でも利用できるが、Oramedでは経口ワクチンを開発している。通常のワクチンとしてのほかに、既にワクチン注射を受けた後の booster
としても開発している。
Oravaxではイスラエルでの治験のあと、グローバルに広げることを考えている。治験ではデルタ株のような変異株についてもテストする。
錠剤型ワクチンは保管と流通が手軽で、コールドチェーンなど流通インフラと医療装備が不足した開発途上国などでも使用が拡大すると予想される。
Premas Biotechはインドで注射タイプを開発、販売する計画。
2021/7/28 塩野義製薬、COVID-19治療薬の臨床試験開始
塩野義製薬は7月26日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬(開発番号:S-217622)について、経口投与の抗ウイルス薬として国内で第1相臨床試験を開始し、7月22日に初回投与を行ったと発表した。
国内の20〜55歳の健康な75人を対象に本治療薬服用時の体内動態、安全性、忍容性の確認を行う。初回投与後の安全性上の懸念は確認されていないという。
付記
同社は国内第 2/3 相臨床試験 を 9 月 27 日に開始した。 2021 年 7 月より国内第 1 相 臨床試験を開始したが、現時点で、安全性上の大きな問題は認められておらず、薬物動態についても、 目標とする血中薬物濃度を上回る良好な結果が確認されている。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は3CLプロテアーゼというウイルスの増殖に必須の酵素を有している。
本治療薬は、塩野義が創製した3CLプロテアーゼ阻害薬で、SARS-CoV-2の3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制
する。
感染初期に服用することで重症化を防ぎ、発熱やせきなどの症状を改善できると見込む。
SARS-CoV-2感染動物を用いた非臨床試験において、ウイルス量を速やかかつ有意に低下させることが確認されている。
形状はまだ決まっていないが、口から飲む錠剤やカプセルなどを想定している。
ーーー
ウイルスのプロテアーゼ阻害剤は、AIDSやC型肝炎の特効薬として知られている。
東京薬科大学は2020年7月31日、群馬大学医学部との共同研究により、2013年に開発した重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)の3CLプロテアーゼに対する阻害剤 YH-53が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の増殖を強く抑制することを確認した
と発表している。
COVID-19治療薬の候補と考えられ、また、ウイルスの増殖抑制によりCOVID-19の重症化を軽減できる可能性もあるとしている。
ーーー
国内で承認されている新型コロナの治療薬と、準備中のものは下記の通り。塩野義の 3CLプロテアーゼ阻害薬が加わる。
1. レムデシビル:抗ウイルス薬(エボラ出血熱用に開発)
メーカー
Gilead Sciences
対象
主に中等症や重症患者
承認
FDA 2020/5/1 EUA
日本 2020/5/7
特例承認
2020/5/1 レムデシビル、5月にも 特例承認
2. デキサメタゾン : ステロイド剤(重度の肺炎・リウマチなどの薬)
3. バリシチニブ (オルミエント)
: 関節リウマチなどの薬
メーカー
日本イーライリリー
対象
主に中等症や重症患者
承認
FDA 2020/11/19 レムデシビルと の 併用でEUA
日本
2021/4/27 使用承認
2021/4/23 厚労省、3つ目のコロナ治療薬承認
4. カシリビマブ
/ イムデビマブ:抗体カクテル療法
ーーー
・ アクテムラ
: 抗リウマチ薬
・ AT-527: C型肝炎ウイルス治療の経口薬
・ アビガン
: 抗インフルエンザウイルス薬
2021/7/29 中国独禁法当局、規制強化
独占禁止法を管轄する国家市場監督管理総局は7月24日、インターネットサービス大手の Tencent (騰訊控股)に対し、音楽配信事業で楽曲の独占的利用を是正するよう命じた。
50万元(約850万円)の罰金を科したほか、30日以内に中国で独占的に持つ楽曲の配信権を解除するよう指示した。
Tencentが2016年に実施した音楽配信大手
中国音楽集団(China
Music ) の買収を問題視した。
買収の結果、Tencent傘下の音楽ストリーミングサービス部門「QQ Music」と中国音楽集団(China Music ) が統合し、Tencent
Music Entertainment
Group(騰訊音楽娯楽集団)が誕生、中国の音楽配信市場における利用者数や利用時間などで8割を超えるシェアを握るようになり、「市場の参入障壁を高めた」と判断した。
同社は「酷狗音楽」(Kugou Music)や「QQ音楽」、「酷我音楽」(Kuwo Music)などスマートフォン向け音楽配信アプリを複数手掛けており、利用者数で中国の上位の3つを占めている。
Tencentは、「決定を順守する。規定の期限内に是正措置案を制定する」とするコメントを発表した。音楽のほか映画配信などを含む「SNS事業」は同社の売上高の2割を占める。
中国では2010年代前半までネット上で違法に音楽データがアップロードされ、無料で利用されることも多い状態だった。Tencentは音楽配信で圧倒的な立場を築くと同時に、楽曲の権利を保護し、市場育成にも取り組んできた。海外の音楽会社にとってはTencentのサービスを通じて楽曲を提供することで、中国市場での収益につなげることができた。
中国当局としては、市場が順調に育ち、権利保護の体制が整ってきたからこそ、8割を超えるTencentの市場シェアを看過できなくなったとみられる。
付記
中国の全国人民代表大会常務委員会は2022年6月24日、独占禁止法の改正案を可決した。2008年施行以来、改正は初めてで8月1日に施行する。
社会のデジタル化が進む中、顧客情報を保有するIT大手への規制を強化する。
改正独禁法の全文は公表されていないが、「経営者が、データや技術を乱用して市場競争を制限してはならない」などと明記、罰則についても強化された。
IT大手による自社サイトやアプリから競合他社を排除する行為などが明確に禁じられたものとみられる。
国家市場監督管理総局は7月10日にはTencent系のゲーム動画配信サイト
「闘魚」を運営する武漢闘魚網絡科技と同業の「虎牙直播」を運営する広州虎牙信息科技の合併を認めないと発表した。虎牙と闘魚は同国のゲーム動画配信市場で1、2位を占める。
Tencent は Huya
株式36.9%、議決権50.9%を保有していたが、Huya の親会社である Joyy(歓衆集団)から持株を買収し、株式比率を51%、議決権比率を70.4%に引き上げた。また、DouYu
の筆頭株主でもあり、38%の株式を保有している。虎牙は2018年5月にニューヨーク証券取引所、闘魚は2019年7月にナスダックに上場している。
両社は既に合併契約を締結しており、 2021年上半期に合併、DouYuはHuyaの100%子会社となり、NASDAQ上場を廃止 する予定であったが、当局の調査を受けていた。
今回当局は、両社が合併すれば市場シェアは7割を超え、
「市場における公正な競争を排除・制限する可能性があり、認められない」と結論づけた。
ーーー
中国政府はこれまで自国のネット企業などを側面支援してきたが、一部の企業が競争を阻害するほど大きな市場シェアを握り始めたほか、データが国外に流出することなどを警戒し、監視の目を強めるようになっている。
アリババ(阿里巴巴)集団 も摘発の対象となった。
アリババ集団傘下の金融会社 Ant
Group ( 螞蟻集團 ) は2020年11月に上海と香港に上場し、4兆円規模の資金を調達する予定だったが、直前にアリババ創業者の馬雲(Jack
Ma )氏とアントの幹部が金融当局の聴取を受け、急きょ上場延期が決まった。
実質的オーナーであるJack
Ma は10月下旬、講演で金融当局の監督姿勢に不満を述べたが、習近平国家主席はJack
Ma による政府批判に激怒、自身による支配や安定性への挑戦と受け止めたという。
市場監督管理総局は2020年12月14日、過去の買収案件で当局に申請して承認を得なかったとしてAlibaba (阿里巴巴) と阅文集团(China
Literature)に罰金を科すと発表した。Alibaba、China
Literatureともに50万元(約800万円)の罰金が科された。
Alibabaは2017年1月、中国大手モール運営会社Intown
を買収した。
阅文集团(China Literature) はTencentからスピンオフしたオンライン文学プラットフォームの運営に従事する会社で、読者に簡単なアクセスで各種コンテンツ・ライブラリを提供し、オリジナル文学をオンラインで作成・公開することを可能にするもの。同社は2018年に映画制作会社の新麗伝媒(New
Classic Media)の株式をすべて買収した。
中国人民銀行(中央銀行)など金融当局は2020年12月26日、アント・グループを聴取し、「企業統治が不健全」など問題点を指摘、決済という本業への回帰を求めた。十分な資本の確保も指示した。
企業統治に加え、順法意識の希薄さ、優越的な地位を利用して同業他社を排除したこと、消費者の利益を損ねた点を挙げた。
中国当局は12月30日、アリババグループのネット通販「天猫(Tmall)」などに対し、価格法に違反したとしてそれぞれに罰金50万元(約800万円)を科す決定を出した。
天猫は11月11日の「独身の日」に、セール価格として27.9元でコメを販売していたが、実際には前日に24.9元で販売していた商品を値上げしていた。
2020/12/31
中国もインターネット企業を規制
国家市場監督管理総局は2021年4月10日、アリババ集団に対して182億2800万元(約3000億円)の罰金処分を科す決定を出した。罰金額は同法違反としては過去最大で、アリババの2019年の中国国内の売上高(4557億1200万元)の4%が対象となった。
アリババは2015年から市場での支配的な地位を乱用し、同社のライバルのEC企業と取引しないよう出店企業などに求めてきた。
「二者択一」と呼ばれる行為で、商品やサービスの自由な流通を妨げ、消費者や競合企業の利益を侵害してきたとしている。
2021/4/13 中国政府、独禁法違反でアリババに罰金3000億円
国家市場監督管理総局(市場監管総局)は7月7日、インターネット業界の複数の大手企業が、独占禁止法上の「事業支配力の過度な集中」を避けるために定められたJVの事前の届け出を怠っていたとして、該当する22件に行政処分を下した。当局は昨年から大手ネット企業による独占的行為の取り締まりを強化しているが、その重点の1つが、M&Aにより有望な新興企業を傘下に収める「青田買い」の規制である。
配車アプリ最大手の滴滴出行(DiDi)が8件、阿里巴巴集団(Alibaba )が6件、騰訊(Tencent )が5件、EC4位の蘇寧易購が2件、ネット出前最大手の美団が1件の処分を受けた。
いずれの案件も競合他社の排除や制限の事実は立証できないとし、罰金は1件当たり50万元(約855万円)にとどまった。
日本企業も合併の事前届け出を怠って処分されている。
ソフトバンク(3月12日)
2018年に日本国内で中国配車サービス大手の滴滴出行と次世代のタクシー配車サービスのJVを設立したが、当局に事前に届け出をしていなかった。
トヨタ自動車(4月30日)
2019年に中国配車サービス大手の滴滴出行と合弁会社を設立し、滴滴出行と新会社に6億ドルを出資した。
三菱重工業(7月7日の行政処分22件のうち)
2011年に蘇寧易購との間で家庭用エアコンのJVを設立した。
現行法では、事前の届け出を怠っただけの場合は1件当たり罰金50万元だが、2020年1月に発表された独禁法の改定案には、事前申告漏れの罰金の上限を違反企業の前年売上高の10%とする旨の条文が盛り込まれた。2021年中に実施されるが、その場合、現行の50万元からの大幅な引き上げとなる。
なお、競合他社の排除や制限が立証された場合、企業分割命令または(不利益部分に関する)原状回復命令が可能となる。
2021/7/30 英政府、英国の原発計画から中国 広核集団の排除を検討
英紙Financial Times
は7月25日、英国内での全ての原子力発電所の新設計画について、中国国有企業の 広核集団: 中国 広東核電集団
( China Guangdong Nuclear Power Holding Co.) の 関与を排除することを英政府が検討していると伝えた。
英政府は香港や新疆ウイグル自治区での人権問題などを巡り中国への批判を強めており、両国の関係悪化が英側の方針の背景にあると指摘している。
英国は昨年、高速通信規格「5G」のネットワークで、中国の通信機器大手、華為技術(Huawei)の排除を決めている。
2020/7/16 英国、次世代通信規格「5G」から
Huawei 排除
同紙によると、中国国有の中国広核集団が中心的な役割を果たすはずだった英南東部Essex 州のBradwell
B 原子力発電所で排除が検討されている。
また、同社の出資が決まっている同じ南東部Suffolk 州の Sizewell
C
原発についても、事業者の再選定が行われる模様で、いずれの原発もフランス電力公社(EDF)が参画している。
このほか、広核集団はSomerset州に現在建設中の Hinkley
Point C
原発にも33.5%出資している。
現在、英国政府は広核集団と共同でこれら3原発の開発を行っているEDFとの間で、 広核集団排除について話し合っているとされるが、他社がすべて撤退する中で、EDF単独での事業継続を引き受けるであろうか。
ーーー
英国では2009年時点で19基の原発が稼働していたが(その後、4基が廃止され、現在は15基)、英国政府は2009年11月に原発拡大策を発表した。
10か所に原発を新設し、2025年までに全電力の25%(当時は全電力の13%)を原発で賄う計画(後記)であった。
しかし、福島事故で原発の安全確保のためのコストが見直された結果、2012年以降、ドイツ、英国の企業が原発計画から撤退した。
英国政府はこのため、原発推進のため自然エネ ルギーの普及に使われている「固定価格買取制度」を原発に導入した。
これを受け、日本勢(日立、東芝)と、フランス電力(EDF)/中国広核集団連合が残ったが、日本勢はその後、採算面から撤退を決めた。
東芝: Sellafield
原発 2018/11/9 東芝、英原発事業を清算
日立:Horizon Project: Wylfa原発(計画段階)、 Oldbury原発(構想段階)
2020/9/18 日立製作所、英国原子力発電所建設プロジェクト事業運営から撤退
現在残っているのは、フランス電力(EDF)
と広核集団の連合の3計画だけである。
フランスのEDF
と英国政府は2013年10月、2つの原発の建設で合意、その後、1つが追加となった。
@ Hinkley
Pointに欧州加圧水型原子炉(EPR) 2基(総出力320万kW)のHinkley Point C
原発を建設する。
A 続いて、Sizewell に2基のEPRの建設を進める。
BこれにBradwell原発が加わった。
運営体制としては、機器メーカーのAREVA、提携している中国の広核集団と核工業集団公司
(CNNC) に加え、他社の参加を交渉していたが、最終的にEDFと広核集団による事業となった 。
英国政府とEDFはこの時、原子力発電での電力の固定価格買取価格(35年間)について、下記の通り合意した。
Sizewell
での建設を決める場合 £89.50/MWh(約14.1円/kWh)
Hinkley Point単独の場合 £92.50/MWh(約14.6円/kWh)
これは現在の卸価格の約2倍になる。
英国を訪問している中国の習近平国家主席は2015年10月21日、フランス電力公社(EDF )のHinkley
Point C の建設プロジェクトに広核集団が 33.5%を出資することで正式に合意した。
中国はまた、EDFがイングランド東部のサフォーク州 Sizewell とエセックス州
Bradwellで予定する新規原発建設計画にも参画することで合意した。
Bradwell新原発は資本の66.5%を広核集団 から受け入れるとともに、欧米で初めて中国製の原子炉を採用する。採用するのは「華龍1号」と呼ぶ新型原発で、フランスから技術供与を受けた中国国有大手の中国広核集団と 中国核工業集団 が中心となって開発した。主要部品の国産化率は85%を超えるという。
出資
EDF
広核集団
Hinkley Point C
Somerset州
66.5%
33.5%
欧州加圧水型原子炉(EPR)
Sizewell
Suffolk州
80%
20%
欧州加圧水型原子炉(EPR)
Bradwell
Essex州
33.5%
66.5%
「華龍1号」
2013/12/27
英国が原発建設再開、 固定価格買取制度導入 、東芝と中国企業が計画に参加
ーーー
英国の原発の現状と政府の計画
英国では2019年時点で19基の原発が稼働していた(その後4基を廃止)が、英国政府は2009年11月に原発拡大策を発表した。
10か所に原発を新設し、2025年までに全電力の25%を原発で賄う計画(当時は全電力の13%)。
新計画のうち、現在進行しているのはEDF/ 広核集団の3計画だけである。
広核集団排除で、EDFが単独で引き受けるだろうか。新規計画がゼロになる可能性もある。
稼働中
廃止
新設案
現状
今後
Berkeley
2基
Bradwell
2基
◎
EDF
/ 広核集団、 「華龍1号」
広核集団排除?欧州原発?
Calder Hall
4基
Chapelcross
4基
Dounreay DFR
2基
Dungeness
2基
2基
Hartlepool
2基
◎
構想段階
Heysham
4基
◎
構想段階
Hinkley Point
2基
2基
◎
EDF
/ 広核集団
広核集団排除?
Hunterston
2基
2基
Oldbury
(2基)
→2基
◎
日立(Horizon Project)
撤退
Sizewell
1基
2基
◎
EDF
/ 広核集団
広核集団排除?
Torness
2基
Trawsfynydo
2基
Windscale
1基
Winfrith SGHWR
1基
Wylfa
(2基)
→2基
◎
日立(Horizon Project) 撤退
Braystones
◎
構想段階
Sellafield
◎
東芝 撤退
Kirksanton
◎
構想段階
合計
1 5基
30基
10原発
構想段階
4原発
撤退 3原発
今回問題 3原発
2021/7/31 Mercedes-Benz,
2030年までにEV専門メーカーに、Porscheは電池開発でBASFと提携
Mercedes-Benzは7月22日、2030年までに電気自動車(EV)だけを生産する自動車メーカーになるための400億ユーロの計画を明らかにした。自らバッテリーを生産する。
概要は次の通り。
2022年までに全セグメントでバッテリー電気自動車を投入する。
2025年以降は、新しく出す自動車は全て電気自動車(electric-only)とする。
バッテリー電気自動車への投資は2022〜2030年で400億ユーロ以上となる。
このため電地を含め垂直統合を行なう。
既に、英国ベースの電動モーター会社YASAを買収した。これにより、ユニークな 軸方向磁束(axial
flux)モーター技術と、次世代の超高性能モーターを開発する力を手に入れた。
自社開発の「eATS
2.0」などの電気モーターは、インバーターとソフトウェアを含むシステム全体の効率と全体的なコストに明確に焦点を当てた戦略の重要な部分とする。世界最大の新エネルギー車(NEV)市場の中国は、Mercedes-Benzの電動化戦略を加速する上で、重要な役割を果たすことが見込まれる。
Mercedes-Benz
は200ギガワットアワー超のバッテリー能力を必要とすることになる。
このため世界中のパートナーと共同で電池製造のための8工場を立ち上げる。これは既に計画している9工場に追加されるものである。
次世代バッテリーは極めて標準化され、Mercedes-Benzの車の90%以上に使われるが、一方で柔軟に顧客のニーズに対応できる。
バッテリーセルの製造に関しては、新しい欧州のパートナー(複数)と共同で、セル、モデュールを開発、製造する。欧州は今後も開発の中心となる。
次世代バッテリーの改良のため、シリコンバレーのバッテリー材料スタートアップ Sila Nanoと提携した。
Sila Nanoはアノードにシリコンとカーボンの複合物を使うことでエネルギー密度を高めるのをサポートする。これにより、航続距離を伸ばし、充電時間を短縮できる。
全固体電池テクノロジーにも注目しており、エネルギー密度が高く安全なバッテリーを開発するためにパートナーと協議中である。
世界中のパートナーと共同で電池製造のための8工場を立ち上げる。これは既に計画している9工場に追加されるものである。
既に稼働、計画している9工場は下記の通り。
@
ドイツのドレスデン近郊のKamenz(2012年から生産)
A 第二工場 (2019年に稼働)
BC
Stuttgart近郊のMercedes-BenzのUntertürkheim工場で2つのバッテリー工場
D 子会社 Daimler
と中国の BAIC MotorsのJVのBeijing Benz Automotive Co.が北京の亦荘工業園区
(Yizhuang Industrial Park)で。
E
米国アラバマ州Tuscaloosaの既存のMercedes-Benz SUV工場の隣で。
FタイのパートナーThonburi
Automotive Assembly Plant Coと共同でバンコックで。
GStuttgart近郊のMercedes-BenzのSindelfingen自動車工場で。
Hポーランドの JaworのMercedes-Benzのエンジン工場(LG
Chem のバッテリーセル工場の近く)で。
新設の8工場は、米国に1工場、欧州に4工場、中国に3工場とされる。
ーーー
PorcheはBASFと電気自動車用高性能リチウムイオン電池の開発で提携する。
Porsche
AGは6月21日(BASFは7月21日)、リチウムイオンバッテリーメーカーのCustomcellsとの合弁事業を通じて高性能の電池を製造する工場をつくると発表した。
Porcheは5千万ユーロ以上(high
double-digit million amount)を投じて Cellforce Group GmbHというCustomcellsとのJV
(BASF 83.5%)を設立した。Weissach
Development Centreで高機能電池セルを生産する。
ドイツ政府とバーデン・ヴェルテンベルク州から6000万ユーロの投資を受ける。
2024年に稼働を予定している電池生産工場は、初期に年間100MWh以上の生産能力を備え、1,000台のモータースポーツ車両および高性能車用電源を供給する。
BASFは高容量HEDTM
NCM正極材を提供し、急速充電と高エネルギー密度を実現する高性能電池セルに貢献する。
BASFはフィンランドのHarjavaltaに前駆体生産工場と、ドイツのSchwarzheideに正極材生産工場を有している。
電池工場で製造時に排出される廃棄物は、Schwarzheide にあるBASFの電池リサイクルの試作工場で再生利用される予定で、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガンは、湿式製錬プロセスでリサイクルされ、BASFの正極材の製造プロセスで再び使用される。
ーーー
このほか、自動車メーカーの電池進出が相次いでいる。
2021/7/7
英国日産、電気自動車と電池の増設プロジェクト発表
2021/7/16 VW、ドイツで中国大手とEV電池工場
韓国のHyundai Motor は7月29日、LG Chem Solusion
との自動車用電池生産の50/50 JVをインドネシアに設立すると発表した。
11億ドルを投じ、Jakarta 近郊のKarawang Regency
に10GW/hの工場を建設する。2023年に工場建設が完成し、翌年に電池の生産を開始する。
インドネシアはリチウム電池生産に必要なニッケルを産する。