欧州委員会は、チップ製造でIntelに対抗するAdvanced Micro Devices(AMD)からの訴えを受け、長期間に及ぶ調査を行なったが、2009年5月13日、Intelがx86
CPUと呼ばれるコンピュータチップ市場から競合企業(AMD)を排除するため、違法な反競争的慣習を続けているとして、10億6千万ユーロの制裁金を科
した。
Intelは2002年10月から2007年12月にかけて、世界のx86
CPU市場の70%以上のシェアを獲得したが、欧州委員会は、Intelがこの期間中に主に2つの違法な慣習に携わったことが判明したとした。
第一はコンピュータメーカーに対して、x86
CPUをIntelから購入することの見返りにリベートを支払った。主要な小売業者に対しても、直接的に金銭を渡し、Intel製のx86
CPUを搭載したコンピュータのみの在庫を置くように取り計らった。
リベートには消費者向け価格を下げる効果がありうることは認めつつも、リベート支払いに際し、競合する会社の製品の購入を減らす、あるいは完全に取りやめるよう条件付ける行為は不正だと述べている。
第二に、コンピュータメーカーに対し直接的に金銭を渡しつつ、競合企業のx86
CPUを搭載した特定の製品の販売差し止めや発売延期を求め、販売ルートの制限に踏み切る慣習にも手を染めていたとする。
Intelはこれに対し、同社の行為が欧州の法律に違反したとは考えておらず、制裁金については上訴するとした。
一般裁判所は2014年に欧州委のこの決定を支持したが、Intelが上訴し、2017年に欧州の最高裁に当たるEU司法裁判所が一般裁判所に対して再審理するように命じた。
一般裁判所は今回の判決で、EU競争当局の分析を批判して制裁金を無効とし、判決文で「欧州委の分析は不完全であり、問題のリベートが反競争的効果を持つ可能性がある、あるいは持つ可能性が高いということを必要な法的基準で立証していない」と指摘し
、Intelに10億6千万ユーロの制裁金を課した決定全体を無効とした。
欧州委は判決内容を検討し、可能な次のステップについて検討するとコメントした。欧州委はEU司法裁判所
に上訴することができる。
2022/2/3 DSMの変身
オランダのDSMは2021年9月に「Health, Nutrition &
Bioscience companyになる」と宣言、エンジニアリングプラスチック等のMaterials
部門については売却を含めて、どうするか検討すると述べた。
ドイツの業界紙は最近、Lanxess(2004年7月にBayerから分離独立)が投資家のAdventと組んで買収するのではないかとの記事を出した。
競合相手としてCelanese や宇部興産、SK Capital
やApollo等を挙げている。事業価値としては30億ユーロ程度としている。
ーーー
DSMは1902年にオランダ政府がオランダ国営炭鉱 (Dutch
State Mines)
を設立したのが起源で、1919年にコークス炉ガスを利用して化学肥料の製造を開始し、その後、カプロラクタム系製品やポリエチレン等のバルクケミカル事業へ進出する一方で、1973年に炭鉱を完全閉鎖、化学会社への転換を果たした。
DSMは2007年に新しい戦略
Vision 2010
:Building
on Strengths strategy を発表した。下図の緑色の部門を売却し、Life
Sciences と
Materials Sciences
へのシフトを進めるとした。
2007/10/3
DSMの経営方針
具体的には、下記のとおり売却を進めた。
DSM Special
Products |
2010年に米国のEmerald
Performance Materials, LLCに売却 |
Maleic
anhydride事業 |
長期間、売却を狙ったが成立せず。
2014年にDSM Pharmaceutical Products とPatheon
の統合に合わせ、JVのファイン事業子会社としてESIM Chemicals を設立し、Maleic
anhydride事業を移した。その後、他社に売却。 |
DSM Elastomers |
2010年に熱可塑性エラストマー事業(商標Sarlink)を米国のコンパウンド会社のTeknor
Apex に売却
同年、残るEPDM事業をLanxessに売却
2010/12/20 LANXESS、DSM
Elastomersを買収
|
Melamine & Agro |
2010年にエジプトのOrascom
Construction Industries(OCI)に売却 |
DSM Energy |
2009年に Abu Dhabi National Energy Company
(Taqa) に売却 |
なお、Performance Materialsに関し、2010年5月に三菱化学との間で、事業の交換(ポリカーボネート事業の売却及びナイロン事業の買収)を実施した。
2010/3/3 三菱化学、DSMとの高機能樹脂事業における事業交換契約に合意
これにより、中核事業をLife Science(Nutrition & Pharmaceutical)とMaterial
Scienceとしたが、その後、このうちのPharmaceutical事業を売却した。
2011年に抗生物質事業を中国企業・中国中化集団(Sinochem)との合弁会社DSM
Sinochem Pharmaceuticalsに移管した。
2014年にDSM Pharmaceutical Products
を米投資会社JLLのカナダの子会社 Patheon と統合し、Patheon (DSM 49%)とした。
なお、これに合わせ、JVのファイン事業子会社としてESIM
Chemicals を設立し、DSMのmaleic anhydride事業を移した。
更に2015年7月には、ポリマー中間体事業(カプロラクタムおよびアクリロニトリル)およびコンポジットレジン事業を拠出し、英国の投資顧問会社であるCVC
Capital Partners とともに新会社ChemicaInvest を設立(DSMが35%を出資)
ChemicaInvest は、Aliancys(コンポジットレジン)、AnQore(アクリロニトリル)、Fibrant(カプロラクタム)の3つの事業ユニットを持つ。
2016/3/16
DSMの変身
2019年のDSMの事業内容は下記の通りであった。( 百万ユーロ)
|
Sales |
EBITDA |
株主帰属
利益 |
Materials |
Engieering Plastics |
1,406 |
|
|
Dyneema(超高分子ポリエチレン繊維) |
338 |
|
|
Resins & Functional Materials |
1,002 |
|
|
Total |
2,746 |
493 |
|
Nutrition |
Animal Nutrition & Health |
2,892 |
|
|
Human Nutrition & Health |
2,046 |
|
|
Personal Care & Aroma
Ingredients |
425 |
|
|
Others |
665 |
|
|
Total |
6,028 |
1,224 |
|
Innovation |
194 |
18 |
|
Cooperate |
42 |
-149 |
|
Total |
9,010 |
1,586 |
764 |
DSMは2021年9月に「Health, Nutrition &
Bioscience companyになる」と宣言したが、実はその前にこの方向で動き出していた。
2020年にResins
& Functional Materials事業をCovestroに売却している。
2020/10/14 Covestro、Royal
DSMのコーティング樹脂事業を買収
Materials部門で残るのは、ポリアミドと超高分子ポリエチレン繊維「ダイニーマ」などで、今回、これを売却する。
売却先候補に宇部興産が挙がっているのは同社が国内外でポリアミド事業に注力しているため。
2018年時点で世界3拠点でナイロン6樹脂を生産、日本(5.3万t/年)、タイ(7.5万t/年)、スペイン(7.0万t/年)の合計19.8万t/年の生産能力を持ち、世界トップメーカーの一角を占める。
上記の通り、DSMは三菱化学(当時)のポリアミド事業を取得している。(ポリカーボネート事業と交換)
日本法人子会社のDSMジャパンエンジニアリングプラスチックスは、ナイロン樹脂の国内シェア約20%を誇る。
2022/2/4 米シェール開発のChesapeake Energy、同業を買収
米中堅シェール開発のChesapeake Energyは1月25日、同業のChief E&D Holdings, LPを買収、Tug Hill, Inc.の未稼働の権益も取得する
と発表した。
取得額は総額約26億ドルで、現金20億ドルと残りを同社株式で支払う。
Chief E&D とTug
Hillはペンシルベニア州のMarcellus Shaleに注力している。Chief E&D
は同地に60万エーカーの資産を持ち、日量10億立方フィート以上の天然ガスを生産している。
Chesapeake
Energyは同日、中西部ワイオミング州のPowder River
Basin原油事業を4億5千万ドルで同業のContinental Resources, Inc. に売却することも発表した。売却資金はChief E&D
の購入代金に充てられる。
Chesapeake Energy
は2021年11月1日、Vine Energy Inc. を買収を完了したと発表した。8月に615百万ドル(株式+現金)での買収を発表していた。
Vine
Energyはルイジアナ州のHaynesville
シェールとMid-Bossier シェールに権益を持つ。
Chesapeake
Energyは原油価格の低迷を受けて2020年に経営破綻したが、2021年以降、米国のエネルギー需要が回復するなどして業績が改善している。
Chesapeake Energyは2020年6月28日、連邦破産法11条(Chapter
11) に基づく会社更生手続きをテキサス州南部地区の連邦破産裁判所に申請したと発表した。
新型コロナウイルスの影響による原油相場の下落で経営が悪化した。原油相場下落による破綻としては米国最大の業者である。
2020/6/30 米シェール大手のChesapeake
Energy、Chapter
11 申請
同社は下図の各地に拠点を持つ。
2022/2/5
韓国でバッテリー技術流出の懸念
韓国で、半導体に続き「第2の産業のコメ」と呼ばれるバッテリー産業で、技術流出を巡る懸念が高まっている。
GMは1月25日、EVの生産能力の強化に向けて、米国で3つ目となる新たな電池工場の建設を発表した。
LG Energy Solution
との50/50 JVのUltium Cells LLCが26億ドルを投じ、ミシガン州
Lansing に第3工場を建設する。
2022/1/28 GM、米国で3つ目の電池工場を建設、電気自動車生産投資も
これに関し、LG Energy
Solutionは年明けに、GMから困難な要求を受けた。バッテリーの安全性確認を理由に、バッテリーの実験結果など、敏感な技術情報を要求されたという。
Ford Motorは2021年9月27日、114億ドルを投資し、米国に電動ピックアップトラック
F-150 Lightning Electric Truck の組立工場と、3つの電池工場を新設すると発表した。
3つの電池工場については設立を交渉中のFord とSK InnovationのJVのBlueOvalSKが建設、運営する。今後詳細を詰め、所定の手続きを経て設立する。
バッテリー工場に両社がそれぞれ44億5000万ドルずつを投資し、組立工場にはFord単独で25億ドルを投資する。
2021/10/1
Ford Motor、114億ドルを投じ、電動ピックアップトラックと3つの電池工場を建設
FordもSK側にバッテリー内部の充填材の密度に関する技術情報の共有を要求した。Ford側が韓国政府に対し、該当技術が流出禁止となっている国の中核技術に当たるかどうかを確認する過程で明らかになった。
米国の新興電気自動車(EV)メーカーのRivian Automotive、Incは2021年12月16日、50億ドルを投資してジョージア州East
Atlanta Megasite にEV工場を建設すると発表した。
同社は2009年設立の新興EVメーカーで、2021年9月に全米で初となるEVピックアップトラック「R1T」を出荷するなど、Teslaに次ぐ米国発のEVメーカーとして注目されている。
三星SDIは、Rivian
Automotiveとバッテリー協力について議論していたところ、技術共有を無理に要求してきたため、議論が決裂したという。
米国の自動車メーカーが今後、「バッテリー内在化」を推進する過程で、こうした技術流出を巡るトラブルが続くものとみられ、韓国の業界の関係者は、「技術流出を巡る懸念はもとより、自動車メーカーのバッテリー内在化の時間を短縮させることで韓国のバッテリー競争力を弱める可能性がある」とし、「流出を予防する法制度の補完が必要だ」としている。
2022/2/7 米下院、「対中競争法案」可決
米議会下院は2月4日、中国に対抗するため先端技術の競争力向上をめざす包括法案 The
America
COMPETES
Act of 2022 を賛成多数で可決した。
下院民主党が1月25日に公表した法案で、上院は2021年6月8日に同様の法案
United States Innovation and
Competition Act を異例の超党派で可決している。
2021/6/11
米上院、対中包括法案を可決
2022/2/1
米下院、半導体補助金法案を公表
いずれも、中国政府が巨額の産業補助金を投じるハイテク産業政策「中国製造2025」(末尾参照)に対抗するもの。
上院は超党派で可決したが、下院では民主党が賛成、共和党が反対した。(共和党1議員が賛成、民主党1議員が反対)
|
共和党 |
民主党 |
合計 |
欠員 |
賛成 |
1 |
221 |
222 |
|
反対 |
209 |
1 |
210 |
|
棄権 |
2 |
|
2 |
|
合計 |
212 |
222 |
434 |
1 |
*
昨年来の欠員1名は1/11の補選で民主党が確保。別途、1/1に共和党員が辞職(6/7に補選)
国内の半導体生産支援に約520億ドルを充てる。半導体製造・組み立て・試験・先端パッケージ・研究開発のための施設・装置の建設・拡充などを財政支援する。
上院が2021年6月8日に異例の超党派で可決した
United States Innovation and
Competition Act と同様である。
商務省は1月24日、これら半導体産業振興策の承認を見越し、支援枠組みの設計・運用について利害関係者からのコメント募集を始めている。
米国で最先端半導体の工場を建設する台湾積体電路製造(TSMC)やIntel、韓国サムスン電子などに配る。
加えて、米国のサプライチェーン強化に重点を置き、米国の経済・安全保障にとって重要な製品の供給不足を防ぎ、それら重要製品の国内生産を促すための補助金やローンに450億ドルを拠出する。
重要製品には、公衆衛生や情報通信技術、エネルギーや交通、食糧などが挙げられている。
2021/6/12 米国の重要部材のサプライチェーンの点検結果と対策
また、エネルギーやバイオテクノロジーなど先端技術のR&Dを支援、5年間で133億ドルを投じる。
バイデン大統領は、中国や世界との競争における米国経済のエンジンを再活性化すると指摘、両院が示した国内産業支援策が米国に製造業の雇用を取り戻し、半導体などのサプライチェーンの目詰まり解消に寄与する、と評価し、早期の法案可決に期待を示した。
今後、上下両院で法案の一本化を目指すが、共和党は下院案に盛り込まれた気候変動対策などに反発しており、調整作業の難航が予想されている。
ーーー
参考 中国製造2025(Made
in China 2025)
2015年5月に公表された。
ステップ1で、2025年までに、格差縮小、十点突破で製造強国の仲間入りを果たし、
ステップ2で、2035年までに工業化の実現により製造強国の中位レベルに到達する。
ステップ3で、建国100周年の2049年までにイノベーション先導で製造強国の先頭グループに入るとの目標を掲げている。
2022/2/10 三菱エンジニアリングプラスチックの改組と三菱ガス化学の体制強化
三菱エンジニアリングプラスチックス(MEP)は1994年3月1日に三菱ガス化学と三菱化成(現三菱ケミカル)の折半出資によって設立された。
両社が従来行ってきたエンジニアリングプラスチックス事業を継承し、一体化することを目的とした会社で、5大エンジニアリングプラスチックスをすべて網羅する。
ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、高性能ポリアミド樹脂(PA樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)及び変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂)。
ーーー
三菱ガス化学と三菱ケミカルは2月8日、MEPの改組を発表した。
1.MEPの出資比率の変更
2023年4月3日付で、三菱ガス化学
75%、三菱ケミカル 25% とする。
これにより、MEP
が
60%を出資するタイの
THAI POLYCARBONATE CO., LTD.は三菱ガス化学の連結子会社に該当することとなる。
2.MEPをPC
製品の開発・製造・販売会社とし、他の製品は親会社が引き取る。(吸収合併する。)
ポリカーボネート樹脂(PC樹脂) |
三菱エンジニアリングプラスチックス(MEP) |
特殊PC(XANTAR™を含む) |
三菱ケミカル |
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂) |
ポリアセタール樹脂(POM樹脂) |
三菱ガス化学→グローバルポリアセタール
(GPAC) |
変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性PPE樹脂) |
高性能ポリアミド樹脂(PA樹脂)コンパウンド |
三菱ケミカルは福岡事業所にて高品質
PC
製品の製造を受託する。
なお三菱ガス化学は2月8日、同社のポリアセタール樹脂・ポリフェニレンエーテル樹脂・高性能ポリアミド樹脂コンパウンドの販売・研究及び統括管理に関する事業を2022年4月1日付で完全子会社であるグローバルポリアセタール(GPAC)へ承継することを決めたと発表した。
グローバルポリアセタール鰍ヘ2020年12月25日付で三菱 ガス化学 100%出資で設立
三菱ガス化学は、ポリアセタール(POM)事業を「差異化事業」に位置付け、競争優位性のある事業として更に強化していく方針だが、POM
事業体制を更に見直し、完全子会社である
GPAC
に
POM
事業の統括機能を付与し、グループの
POM
事業に係る生産・販売・開発を一体的に運営する。
なお、POM事業の合理化の一貫として、既に下記を実施している。
1) 韓国ポリアセタール事業再編 (2020年12月9日 発表)
三菱ガス化学とCelanese
Corporationは、ポリアセタールを中心とするエンジニアリングプラスチックスの製造販売のJV 韓国エンジニアリングプラスチックス(KEP)を再編し、運営体制を見直すことについて合意した。
出資比率:三菱ガス化学 40%、三菱商事
10%、Celanese 50%(1999年に暁星から取得)
能力:三菱ガス化学技術による世界最大規模のPOM生産能力(年間生産能力14万トン、全6系列)
このたび、KEPをPOMの製造を主として行う製造会社とし、三菱ガス化学とCelanese
Corpが出資比率に応じてKEPから製品を引き取り、両社がそれぞれ全世界向けに販売する。
三菱ガス化学はKEP製品を販売する新会社を韓国に設立する。
2)
四日市工場におけるポリアセタール生産停止(2021年6月1日発表)
2023年9月末を目途として、四日市工場におけるポリアセタール(POM)の生産(年間2万トン)を停止する。
四日市工場では、1981年以来、40年にわたってPOMを生産してきたが、プラント規模が小さく設備の老朽化が進む中で、厳しい採算を余儀なくされていることから、タイ拠点に生産を集約する。
三菱ガス化学は、四日市工場のほか、タイ・韓国(上記)・中国に生産拠点を有している。
タイ:Thai
Polyacetal Co,. Ltd.(Map
Ta Phut)
出資:三菱ガス化学
73.55%、TOA Chemical 26.45%
能力:100千トン
中国:宝泰菱工程塑料(南通)有限公司
出資:ポリプラスチックス
70.1%、三菱ガス化学、韓国Engineering Plastics、チコナ 計29.9%
能力:60千トン
2022/2/11 塩野義製薬と島津製作所、下水モニタリングを
はじめとする公衆衛生上のリスク評価を目的とした合弁会社設立
塩野義製薬と島津製作所は2月9日、下水モニタリングを始めとする公衆衛生上のリスク評価を目的とした折半出資の合弁会社、晦dvanSentinel
を設立したと発表した。
今回設立したAdvanSentinel社は、塩野義製薬の強みであるサイエンスを活かした新規分析手法の開発力や島津製作所の強みである環境中の分子測定技術などに加え、両社が培ってきた下水モニタリングを通じたネットワークを持ちよることで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にとどまらない、次なるパンデミックや公衆衛生上のリスク把握などに向けたオールジャパン体制の構築を目指す。
ーーー
両社は2021年6月に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を含む感染症領域の下水モニタリングの早期社会実装を目指した業務提携に関する基本合意書を締結した。
欧米では、都市の下水中の新型コロナウイルスを定期的にモニタリングすることで、流行状況の早期検知や収束判断などを行うほか、施設の下水のモニタリングにより、クラスター感染の早期検知を行っている。両社は、PCR検査などによる下水モニタリングの早期社会実装を目指し、共同事業体の設立の協議を進めるとしていた。
(島津製作所)
島津テクノリサーチを通じて、2021年5月に下水のPCR検査によって対象集団における新型コロナウイルスの感染状況を監視し、陽性反応がある場合にはヒト検査で感染者を特定する検査システム「京都モデル」の受託検査事業を開始した。高齢者施設や学校など教育機関、宿泊施設、保育所といった個別施設に向けてサービスを提供する。
「京都モデル」については京都大学、金沢大学、富山県立大学の技術指導を受けて、京都府・京都市の協力による実証試験においてその有効性を確認した。
2021年4月中旬まで約1カ月かけて京都府・京都市の協力のもとに、中等症患者が入院する医療機関および軽症患者が滞在する療養施設で実証実験を行った。
その結果、島津テクノリサーチが独自で開発した「PoP-CoVサンプラー」をマンホールに設置し、採取した下水試料から陽性反応を捉えられた。
さらに個別施設(111名が利用するオフィスビル)の下水PCR検査から陽性反応を捕捉した追加実験では、後日実施された行政のヒト検査において利用者1名が新型コロナウイルスに感染していたことが判明した。
下水PCR検査の実施が発症日(陽性確定日の4日前)あるいはその前日であり、「建物単位での下水PCR検査が感染の早期発見に有効」であることを示せた。
下水PCR検査は、ポリエチレングリコール沈殿法で試料を濃縮したうえで、島津製作所製の「新型コロナウイルス検出試薬キット」を使用して実施した。今後、島津テクノリサーチは「変異株の検出」や「高感度・ハイスループットな前処理方法」について検討を重ねる。
(塩野義製薬)
日本においては、人口当たりの感染者数が少なく、下水中のSARS-CoV-2濃度が低いため、都市の下水からウイルスを検出するためには、感度の高い検出法が必要とされる。
北海道大学及び塩野義製薬は、これらの課題を克服し得る下水中SARS-CoV-2の高感度検出技術を共同開発するとともに、検出工程の自動化を実現した。
また、下水疫学調査の社会実装にあたっては、採取した下水をハイスループットで解析する体制の構築が急務で、このため、国産汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」によりSARS-CoV-2
RNAの検出・定量及び次世代シークエンス(NGS)解析の前処理(ライブラリ調製)を自動化する技術を持つロボティック・バイオロジー・インスティテュート、及び、大規模NGS解析によりゲノム情報(ウイルス変異状況等)の把握を可能にする
iLACを加えた体制を構築した。
塩野義製薬は2021年4月からは、大阪府の協力のもと、本検出技術を活用し、下水処理場の流入下水を使用したSARS-CoV-2の定量的モニタリングに取り組み、SARS-CoV-2の定量的検出が可能であることを確認した。
2021年6月14日より、本検出技術を用いた各自治体の下水処理場への流入下水を対象としたサービス提供を開始した。
下水疫学調査の結果は、個人が特定されない形で地域のSARS-CoV-2の感染拡大や収束の傾向を把握できることから、各自治体が感染拡大予防策を講じる際の1つの客観的な指標として活用されることが期待される。
2022/2/12 塩野義製薬、新型コロナ飲み薬 承認申請へ
塩野義製薬は2月7日、COVID-19治療薬「S-217622」に関する説明会を開き、Phase
2/3試験
Phase 2a partの結果を速報した。
付記
塩野義製薬は2022年2月25日、開発中の経口抗ウイルス薬(開発番号:S-217622)について、第2/3相臨床試験のうちPhase
2b
partの主要評価項目に関する解析が完了し、日本国内における条件付き早期承認制度の適用を希望する製造販売承認申請を行ったと発表した。
商品名 「ゾコーバ錠」(エンシトレルビル)
付記
後藤厚労相は3月25日、塩野義が開発した新型コロナウイルスの飲み薬の購入について基本合意したと明らかにした。
薬事承認されればまず100万人分を確保し、その後も一定数量を調達する。
国内企業が開発した軽症者向け飲み薬の購入は初めて。今後、最終合意に向けて流通経路などの詳細を詰める。
付記
5月施行の改正医薬品医療機器法(薬機法)で緊急承認制度が導入されたことを受け、5月末に緊急承認制度の適用を求める申請を行った。
6月22日、薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会を開催、製造販売承認の可否などを審議したが、「本日の議論を踏まえ、さらに慎重に議論を重ねる必要がある」として、次回、薬食審の分科会と医薬品第二部会の合同会議を開催し、そこで緊急承認の可否を審議することにした。
付記
厚生労働省の専門家分科会は7月20日、「ゾコーバ」の承認を見送り、継続審議にすると決めた。緊急承認に向けて有効性などのデータが十分ではないと判断した。
対象患者は、軽症/中等症および無症候/軽度症状のみのSARS-CoV-2感染者で、1日1回を5日間 経口投与した。
結果は次の通り。
•
抗ウイルス効果:プラセボと比較して有意に優れた抗ウイルス効果を示した
>
速やかにウイルス力価およびウイルスRNA量を減少
>
4
日目(3回投与後)にはウイルス力価陽性患者割合をプラセボ群と比較して約60〜80%減少
>
ウイルス力価が陰性になるまでの時間の中央値を、プラセボに対して2日短縮
•
臨床症状に及ぼす影響:COVID-19に特徴的な臨床症状の改善傾向を確認した
>
プラセボ群における重症化症例は2例存在したが、S-217622投与群ではいずれの群においても認められなかった
•
安全性
–
高度、重篤ならびに治験中止の原因となる有害事象は見られなかった
–
ほぼ全ての有害事象は軽度であり、副作用も全て軽度であった
2月14日の週あるいはその次の週というタイミング、2月中には間違いなく結果とともに承認申請というようなプロセスを取るべく準備。
対象は12
歳以上だが、小児の開発はどうしてもしなければいけないと思っている。
3月までに100万人分の提供体制構築完了、4月以降は1,000万人分以上/年の生産予定
https://www.shionogi.com/content/dam/shionogi/jp/investors/ir-library/presentation-materials/fy2021/20220207_3.pdf
政府はこれについて、最終段階の治験完了前の実用化を可能とする「条件付き早期承認制度」の適用の検討に入った。
条件付き早期承認は、医療上の有用性は高いが、患者が少ないなどの理由から最終段階の治験の早期完了が難しい医薬品について、一定の安全性・有効性の確認と、実用化後のデータの追加提出などを条件に、治験の途中段階での申請・承認を認める既存の制度。
希少疾病やがん治療薬などを念頭に置いたものだが、厚生労働省は新型コロナの治療薬も対象となり得るとみている。
ーーー
塩野義製薬は経口投与の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬(開発番号:S-217622)の国内第2/3相臨床試験を2021年9月27日に開始した。
3CLプロテアーゼ阻害薬で、SARS-CoV-2の3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制する。
2021/7/28
塩野義製薬、COVID-19治療薬の臨床試験開始
2022/2/14 WHO、「アクテムラ」
をコロナ治療薬として事前認証
WHOは2月11日、中外製薬の抗リウマチ薬tocilizumab(製品名「Actemra」、EU販売名「RoActemra」)をCOVID-19治療薬として「事前認証」したと発表した。(中外の親会社のRocheを
申請企業 originator
companyとしている。)
発表の概要:
トシリズマブは世界の約120か国で主に関節炎の治療薬として認可されている。
トシリズマブはインターロイキン-6(IL-6)受容体を阻害するモノクローナル抗体で、インターロイキン-6は炎症反応を誘発し、COVID-19に重症の患者に高レベルで見られる。
静脈内投与されたトシリズマブは、重症で、急速に悪化し、酸素需要が増加し、重大な炎症反応を示すCOVID-19の特定の患者の死亡を減らすことが、臨床研究で示されている。WHOは、重症または重症のCOVID-19と診断された患者にのみトシリズマブを推奨している。
特許は切れているが、バイオシミラーは少なく、価格が高い。WHOは現在、Roche
との間で低・中所得国向けに安価に供給できるよう交渉している。(Roch発表では原価で供給)
「事前認証」は、WHOが医薬品などの品質や安全性、効果を審査する制度で、認証されると、国連機関や医療支援の国際団体の調達の対象となる。多くの国が医薬品やワクチン、診断器具などの大量購入時の参考にしている。
(末尾の図を参照)
COVID-19治療薬としては副腎皮質ステロイド薬デキサメタゾンが事前認証されている。(今回で2薬品が事前認証となった。)
なお、WHOはGilead
Sciencesの抗ウイルス薬「レムデシビル」を事前認証したが、2020年10月に「死亡率の低下などにつながる重要な効果はなかった」として、
「症状の軽い重いにかかわらず、入院患者への投与は勧められない」とする指針を公表し、事前認証から除外した。
2020/11/20 WHO、Remdesivirは「治療効果なく推奨せず」
アクテムラは、炎症を起こす蛋白質の働きを阻害する抗体医薬品。抗リウマチ薬としては各国で承認済み。新型コロナへの効果も期待されるとして、多くの臨床現場で使用されている。
中外製薬は2021年6月25日、「アクテムラ(tocilizumab)」が、新型コロナウイルスの治療薬として、米食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可を取得したと発表した。
中外製薬の親会社Rocheの100%子会社のGenentechがFDAから緊急使用許可を取得した。
厚生労働省は2022年1月21日、新型コロナウイルス感染症の治療に使うことを承認した。
2021/6/28 中外製薬の抗リウマチ薬「アクテムラ」、FDAが新型コロナウイルス治療薬として緊急使用許可
別途、WHOはCOVID-19治療薬の推奨、非推奨を行なっている。(下表)
WHOは1月14日にバリシチニブとソトロビマブを推奨したが、発表文のなかでこれらを「事前承認」に申請するよう求めているとしている。
https://www.who.int/news/item/14-01-2022-who-recommends-two-new-drugs-to-treat-covid-19
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メーカー |
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日本 |
バリシチニブ(オルミエント) |
Eli Lilly |
2022/1/14 |
重症患者に強く推奨 |
2021/4/27 承認 |
モノクローナル抗体ソトロビマブ |
GlaxoSmithKline |
非重症患者に条件付き |
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回復期患者血漿 |
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2021/12/7 |
推奨せず(強く) |
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カシリビマブ /
イムデビマブ |
Regeneron、Roche / 中外製薬 |
2021/9/24 |
非重症患者に条件付き |
2021/7/19 承認 |
アクテムラ |
Roche /
中外製薬 |
2021/7/6 |
重症患者に強く推奨 |
2022/1/21
承認 |
サリルマブ |
Sanofi |
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イベルメクチン |
Merck(MSD) |
2021/3/31 |
研究開発のみ |
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ヒドロキシクロロキン |
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2020/12/17 |
推奨せず(強く) |
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ロピナビル・リトナビル |
AbbVie |
推奨せず(強く) |
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レムデシビル |
Gilead Sciences |
2020/11/20 |
条件付きで推奨せず |
2020/5/7 承認 |
副腎皮質ステロイド薬 |
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2020/9/2 |
重症患者に強く推奨 |
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青字は事前認証 赤字は事前認証取り消し
詳細 https://apps.who.int/iris/rest/bitstreams/1405287/retrieve (2022/1/14発表分は上記発表文を参照)
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認証手続き
https://kyokuhp.ncgm.go.jp/library/tenkai/2020/tenkai200212.pdf