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2008/11/12 中国、緊急経済対策に57兆円

中国政府は11月9日夜、国内需要拡大のため2010年末までに総額4兆元(約57兆円)規模の投資を実施する緊急経済対策を発表し た。

5日の国務院常務会議で「世界の金融危機は日々深刻さを増しており、積極財政と適度に緩和された通貨政策の実施が必要だ」と指摘、同対策を決定した。

これまでは景気の過熱が問題視されたが、ほぼ10年ぶりに「緩和」姿勢を打ち出した。

 

新華社通信によると、次の10項目が含まれている。

1) 住宅
  手ごろな価格、安い家賃の住宅を建設、スラム街撤去を速める。
   
2) 地方のインフラ
  田舎の道路、電力網
  メタン燃料、飲料水(「南水北調:長江から取水し、西北地区と華北地区へ」促進を含む)
  危険な貯水池の強化 大規模灌漑地区の水保全の強化
  貧困救済努力の強化
   
3) 輸送
  輸送ネットワーク拡大の促進
  幹線鉄道の拡張、西部地区に空港建設
  都市の電力網の改善
   
4) 健康、教育
  医療・健康サービス拡大
  文化・教育部門の開発促進、地方の中学増設
   
5) 環境
  下水、ゴミ処理施設建設での環境保護
  水質汚染の防止
  グリーンベルト、植林
  省エネ、公害防止
   
6) 産業
  イノベーション、リストラの促進
  ハイテク、サービス産業の開発支援
   
7) 災害復興
  四川大地震の復興事業
   
8) 所得
  平均所得の引き上げ
  来年度の穀物買い上げ、農家補助金の引き上げ
  都市低所得者への補助金増加
  企業従業員の年金資金増
   
9) 税金
  増値税の改革
  企業が固定資産を購入した場合、従来はそれにかかる増値税を控除できなかったが、全産業でこれの控除を認める。
  これにより、1200億元の負担減となる。
  注)日本の消費税は控除可能
   
10) ファイナンス
  経済成長維持のためのファイナンス支援
  商業銀行の貸し出し枠の撤廃
特定プロジェクト、地方、中小企業、技術イノベーション、M&Aによる産業合理化への貸し出し増加

付記

増値税の改革の詳細

▽企業は付加価値税の計上にあたって、設備投資分の付加価値税を控除できるようになる
▽これまで付加価値税が免除されてきた輸入設備が新たに課税対象となる
▽外国投資企業による国産設備の調達における付加価値税の還付が取り消しとなる
▽小規模納税者の付加価値税率が一律で 3%に引き下げられる
▽鉱産物の付加価値税率が17%に戻される――など。


2008/11/13 医薬会社の中間決算対比

各社の中間決算の結果がまとまった。(中外製薬は6月中間決算)

 
 
 
 

1)武田薬品工業 (987億円の増収、営業損益 1,799億円の減益)

2008/11/7  注目会社 2008年9月中間決算-3 参照。 

TAP Pharmaceutical Products の分割・統合、米国バイオ医薬品会社 Millennium Pharmaceuticals 買収した。

両社の子会社化により、両社の売上高が本年5月から武田の連結売上高に加わった。
円高による影響額(280億円の減収)を補い、増収となった。

しかし、これに伴う費用処理で大幅減益となった。
なお、TAP のルブロン事業をJV相手の Abbott
に譲渡した譲渡益を特別利益に計上している。

米国事業再編によるTAP社の分割・子会社化およびミレニアム社買収の影響
    TAP社の分割・子会社化 ミレニアム社の買収    合計
販売費一般管理費 無形固定資産償却費     124億円     199億円    323億円
のれん償却費       -     68億円    68億円
研究開発費 インプロセスR&D費     573億円    1,114億円   1,687億円
営業損益     -697億円   -1,381億円  -2,078億円
特別利益 ルプロン事業譲渡益     753億円       753億円 

 

2)アステラス製薬 (97億円の増収、営業損益 168億円の減益)

円高の影響(売上高 -170億円、営業利益 -34億円)があったが、増収となった。

研究開発費は787億円増加したが、増収と売上原価率の低減で、営業損益は168億円減に止まった。

 

3)第一三共 (374億円の減収、営業損益 323億円の減益)

円高傾向で推移したこと、欧州子会社の決算期の変更、医薬品事業への集中化方針でその他事業を自立化させたことなどにより減収となった。
(2007年1月-3月の売上高141億円、営業利益18億円が前年第1四半期に加算されている。)

減収に加え、海外における営業基盤の拡充や積極的な研究開発投資などにより、営業利益は減益となった。

 

4)エーザイ (360億円の増収、営業損益 105億円の減益)

前期のMGI PHARMA, INC.買収に伴うのれん償却額の計上や研究開発活動への積極的資源投入の結果、減益となった。

 

5)田辺三菱製薬 

2007年10月1日に田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併したため、前年比は増収増益となっているが、上のグラフは前年上期は両社の成績を合算した。そのベースでは14億円の減収、営業損益は 57億円の減益となる。

売り上げ減少、売上原価率悪化、合併によるノレン償却(50億円)、研究開発費増加で減益となった。

 

6)中外製薬 (250億円の減収、営業損益 127億円の減益)

抗インフルエンザウイルス剤「タミフル」の売上高減少、昨年末のサノフィ・アベンティスとの販売提携解消が減収、減益の理由。

特別利益に「アクテムラ」に関わるホフマン・ラ・ロシュとの共同開発精算金 63.4億円が入った。

 

7)大日本住友製薬 (56億円の増収、営業損益 41億円の減益)

薬価改定の影響やアムロジンの減収があったが、新製品の発売、新規生産受託の開始、輸出の増加で増収となった。

統合失調症ルラシドンの海外臨床開発の進展に伴う研究費の増加で減益となった。

 

8)大正製薬 (56億円の増収、営業損益 4億円の増益)

前期末に連結子会社としたビオフェルミン製薬の売上高44億円が加わった。

「当期損益」は、合併したビオフェルミン製薬のノレン償却 128.5億円があり、赤字となった。

 

9)塩野義製薬 (9億円の増収、営業損益 13億円の増益)

医療用医薬品全体の売上高はほぼ横ばい、「工業所有権等使用料収入」が増加、シオノギエンジニアリングサービスの工事受託は減少した。

ーーー

配当

武田薬品工業は前年の168円から176円に増配する予定。
因みに、同社の2001年3月期の配当は50円で、毎年増配している。

エーザイも前年の130円から140円に増配する。(2001年3月期の配当は23円)

アステラス製薬は前年の110円から120円に、第一三共は70円から80円に増配する。

 


2008/11/14 三菱レイヨン、Lucite を買収 

三菱レイヨンは11月11日、世界最大手のMMAメーカー、Lucite International Group Limited の発行済み株式の全てを取得し、連結子会社化するための株式売買契約を締結すると発表した。
Lucite も同日発表を行なった。

    2008/9/5 MMAメーカー Lucite、売却か? 

買収概要は以下の通り。

・Lucite International Group Limited 全株式を買収

  所有株式数
(千株)
持分比率
(%)
Funds managed by Charterhouse Capital Partnership   7,794   81.6
Ineos Investors   1,100   11.5
ルーサイト社の取締役    350    3.7
AMJ     206    2.2
米国ルーサイト社従業員     54    0.6
Halifax EES Nominess International Limited     52    0.5

・買収費用総額(予定) 16億USドル既存外部借入金の引受けを含む

  買収費用は三菱東京UFJ銀行による融資で賄う。

スケジュール 2008年11月11日 株式売買契約締結、
           関係当局認可を経て、2009年1月本件買収完了予定

・将来の新興市場への展開等での更なるシナジーを求めて、戦路的事業パートナーの参画を募る予定。
    三菱レイヨンがマジョリティ保有。出資比率、出資タイミング等は調整中。

 

同社は買収目的を次のように説明している。

@MMA市場におけるリーディング企業の実現

MMAモノマー能力シェア
  2007/末 2010/末
三菱レイヨン   12%   14%
Lucite   23   22
(合計)  (35)  (36)
住友化学     6    8
LG MMA    3    5
(合計)   (9)  (13)
旭化成    3    5
R&H (Dow)   15    13
Evonik (旧Rohm   14   12
Arkema    6    5
その他   18   17
* 2007年 310万トン
  
三菱レイヨン 第6次中期経営計画より

MMA業界に関しては 2006/4/13  MMA事業の拡大 

A米欧アジアでのバランスの取れた三極生産体制を確立

Lucite:欧州(旧 ICI)、米国(旧 DuPont)、上海、シンガポール(アルファ法)
三菱レイヨン:日本、タイ(サイアムセメント
JV)、中国恵州、韓国(湖南石化JV)、米国(計画)

東欧、ロシア、南米など成長の期待される新興市場への展開を加速

BMMA製造技術の拡幅(新エチレン法の獲得)

LuciteACH法、新エチレン法(アルファ法)
三菱レイヨン:直酸法(
C4法)

Lucite は11、シンガポールのアルファ法プラントが予定より早くスタートしたと発表した。
能力は12
万トン

同社は2番目のアルファ法プラント建設の検討を進めている。能力は25万トン

C買収シナジーの発現

ーーー

Lucite と三菱レイヨンは20056月にMMA事業での提携契約を締結した。
両社は投資を分担し、相互に製品を供給すること、将来両社工場を
JVとするための検討を行なうこととした。

1. 北米 建設: 三菱レイヨン           付記 2020/1時点でなお検討中
  場所: テキサス
  規模: MMA及びMAA(メタクリル酸)14万トン
  製造法: C4法
  時期: 2009年末完工、2010年商業運転

2. アセアン 建設:
Lucite International
  場所: シンガポール
  規模: MMA12万トン
  製造法: アルファ法(C2法)
  時期: 2007年末完工、2008年商業運転

ーーー

Lucite 2006年に売却を検討した。三菱レイヨンも交渉を行なったが、当時の売値は20億ドル〜25億ドルで、価格が折り合わなかった。

同社はシンガポールのAlpha 法プラントの立ち上がるのを待って、希望価額での売却か、又は上場を狙った。

しかし、今回の金融危機で情勢が変わった。

Lucite Moody の格付けで Caa1 というジャンク級に下げられた。
また、
Lucite を狙う会社は多いが、買収資金の手当が難しくなった。

最後は、サウジのSipchem Lucite技術を導入してANM 200千トン、MMA 250千トンを事業化する)がサウジの投資会社Jadwa Investment と組んで三菱レイヨンと争ったが、三菱UFJから資金を確保した三菱レイヨンが買収した。

買収にはLucite の債権者の同意を必要とするが、最近は欧州のLBOの債権は平均して額面の65.8%でしか売れない状況で、今回は額面で引き取ってもらえるため、全く問題はないとされている。

逆に三菱レイヨンにとっては、最近の英ポンド安、ドル安により、非常に安く買収できたこととなる。

買収額の16米ドルは10億英ポンド強となる。
2008年7月初めには210円/ポンドであったが、11月上旬には155円/ポンド程度となっており、2,100億円が1,550億円に下がることとなる。

 


2008/11/15 欧州委員会、自動車用板ガラスで制裁金、米では液晶パネルで

欧州委員会は11月12日、自動車用板ガラスカルテルで4社に制裁金を課したと発表した。

1998年から2003年の間に目標価格、シェア、需要家割当などの違法の話し合いを行なったとしている。これら4社で市場の90%を占めている。

欧州委員会は匿名の情報で調査を開始し、2005に立ち入り調査を行なった。

制裁金は以下の通り。

  減額率
  (%)
減額
(千
Euro)
    制裁金
 (千Euro)     円
Saint-Gobain (France)   0      0   896,000  
Asahi/AGC Flat Glass (Japan)   50  113,500   113,500  139億円
Pilkington (UK) (日本板硝子)   0      0   370,000  440億円
Soliver (Belgium)   0      0     4,396  
TOTAL    113,500  1,383,896  

Saint-Gobain 1988年にカルテルで制裁金を払っており、重犯として制裁金が60%の割増となった。

旭硝子/Glaverbel は調査に協力し、資料を提出したため、制裁金は50%の減額となった。

自動車用ガラスの制裁金支払いに備え、旭硝子は135百万ユーロ(165億円)を積んでいる。
日本板硝子は建築用ガラスを含め350百万ポンドを引き当てているが、残高は約250百万ポンドのため、2008年9月中間連結決算に新たに89億円の特別損失を計上する。

付記

日本板硝子は12月16日、控訴の申し立てをすることを決めた。

旭硝子は2009年2月6日、支払いに応じることに決めたと発表した。

付記
欧州委はその後、Pilkingtonへの制裁金を357,000千ユーロに減額
欧州一般裁判所は2014年12月17日、これを是認した。

 

今回の制裁金は総額(1,383,896 千ユーロ)でも、1Saint-Gobain 896 百万ユーロ)としても史上最高となる。

付記
 
EU は2009年7月8日、ロシアからのガス輸入で共同でパイプラインを建設し、互いの市場では売らないことで市場を分け合ったとして2社に史上2番目の制裁金を課した。
  E.ON AG(ドイツ)      553百万ユーロ
  GDF Suez SA (フランス) 553百万ユーロ 

過去の制裁金 順位 
対象分野 制裁金
(百万ユーロ)
 
エレベーター   992 2007/2/28 EU、エレベーターのカルテルで過去最高の罰金
ビタミン   790.5 2001年 (当初は855.2百万ユーロ、2社減額)
 Hoffman-La Roche (462百万ユーロ)、 BASF(296.16→236.8)、 Aventis(5.04)、
 Solvay Pharmaceuticals(9.1)、Merck(9.24)、
 武田薬品工業(37.05)、エーザイ(13.23)、第一工業製薬(23.4→18)
送電設備   751 2007/1/26 EU、電力用ガス絶縁開閉装置のカルテルで1200億円の制裁金
パラフィンワックス    676 2008/10/6 EU、パラフィンワックスのカルテルで制裁金

なお、ビタミンカルテルは1999年に米国で摘発され、11社に総額9億1050万ドルの罰金が課せられた。

Roche 500百万ドル:米国史上最高(2008年時点でも)、
BASF 225百万ドル、武田薬品 72
百万ドル、エーザイ 40万ドル、第一工業製薬 25百万ドル、
Merck 14百万ドル、Degussa-Huls 13百万ドル、Lonza 10.5百万ドル、ほか

ーーー

Saint-Gobain旭硝子、日本板硝子の3社は、米国のGuardian とともに、2007年11月に EEA欧州経済領域内での建築用板ガラスのカルテル行為に対して、総額486.9百万ユーロの制裁金を科されている。

  千ユーロ
Guardian (USA)  148 000
Pilkington (UK)  140 000
Saint-Gobain (France)  133 900
Asahi (Japan)   65 000
TOTAL  486 900

2007/12/1 欧州委員会、板ガラスカルテルに制裁金 

ーーーーーーーーーーーーーー

米司法省は11月12日、液晶パネルの販売を巡る国際価格カルテルで、3社が罪を認め、合計585百万ドルの罰金を支払うことに同意したと発表した。

付記

米司法省は2009年3月10日、液晶パネルの国際的な価格カルテルで、日立製作所子会社のHitachi Displaysが関与していたことを認め、31百万ドルの罰金を支払うことに同意したと発表した。
Dell Inc
向けのTFT-LCDパネルが対象。

  百万$ TFT-LCD 販売先 期間
LG Display  400 worldwide 2001/9-2006/6
Chunghwa Picture Tubes   65
Sharp  120 Dell (computer monitors and laptops) 2001/4-2006/12
Motorola (Razr mobile phones) 2005/- 2006/
Apple Computer (iPod portable music players) 2005/9-2006/12
付記 Hitachi Displays   31 Dell for use in notebook computers 2001/4-2004/3
2009/8 Epson Imaging Devices   26 Motorola for use in Razr mobile phones 2005/-2006/

カルテルは2つ。3社はいずれも他社とカルテルを結んでいた。
相手先はまだ明らかにされていないが、他にも複数の日本メーカーが調査を受けており、今後有罪を認める企業が相次ぐ可能性がある。

第一は韓国のLG Display (former LG.Philips LCD) と台湾のChunghwa Picture Tubes(中華映管)で、台湾・韓国・米国でTFT-LCD パネルの価格を協定したというもの。

第二はシャープで、DellAppleMotorola 向けのTFT-LCDパネルの価格を日米の他社と協定したとされる。

 

LGの4億ドルは米司法省が独禁法で課した罰金で2番目に大きい。
過去最高は、1999年のスイスの製薬会社Hoffmann-La Roche のビタミンカルテルの5億ドル。

シャーマン法では、罰則は法人の場合には1億ドル以下の罰金、自然人の場合には100 万ドル以下の罰金若しくは10 年以下の禁錮又はこれらの併科となっている。ただし、罰金額は、違反行為によって自らが得た利得の2倍の額又は違反行為によって被害者に与えた損害の2倍の額まで引き上げることができる。

LG Display は13日、「課徴金は2009年から5年間分割納付することにした」と述べた。
全額、今年の会計に反映する予定。

付記

カルテル参加者に対し、起訴、判決

会社   起訴 禁固 罰金
Chunghwa 2009/2  A 9ヶ月 5万ドル
 B 7ヶ月 3万ドル
 C 6ヶ月 2万ドル
200/2/3  D    
 E    
LG 2009/2  F 7ヶ月 2.5万ドル
2009/2/3  G    
Hitachi Displays  2009/3/31  H    


付記

2011年12月末、液晶ディスプレーの販売価格で国際カルテルを結んでいたとして、米国の消費者らが起こした集団訴訟で、シャープや韓国サムスン電子など日韓台の主要液晶メーカー7社が、総額538百万ドルの和解金の支払いで合意した。
7社のうち5社が計14百万ドル以上の罰金を支払うことでも合意した。

2010年8月にニューヨーク州が液晶パネルメーカーを訴えるなど、訴訟が相次いだ。

和解金は
 Samsung Electronics 240.0 百万ドル
 シャープ 115.5  
 日立ディスプレイズ 38.9  
 Chimei Innolux  110.3  
 Chunghwa Picture Tubes 5.3  
 Epson Imaging Devices 2.8  
 HannStar Display 25.6  

和解金のうち、37百万ドルは各州政府や公的機関などに払われ、残りの501百万ドルは1999年1月〜2006年12月に対象商品を買った米国の24州とコロンビア特別区の消費者に返金される。各州は返金方法を後日通知するとしている。

12月初めには8社が液晶ディスプレーの直接需要家に対し、合計388百万ドルの和解金の支払いで合意している。

和解金はSharpが105百万ドル、Samsungが82.7百万ドル、Chimei Innolux Corp.が78 百万ドルなど。

ーーー

液晶パネルカルテルに関しては、日本の公正取引委員会や、韓国、EUの当局も調査している。

公取委は12月18日、任天堂の「ニンテンドーDS Lite」に用いられる液晶モジュールについて、シャープと日立ディスプレイズの2社が価格を統制したとして、両社に排除措置命令、シャープに2億6,107万円の課徴金の納付命令を出した。

シャープは、
(1)各命令の対象となっている液晶モジュールは、他の液晶メーカーも参入して競争することができる製品であり、同社と日立ディスプレイズの2社が価格を統制することができるような状況にはない
(2) これまで新技術の提供やコストダウンの努力を続け、誠実に価格交渉を行い、任天堂との間で納入価格を合意してきたとし、
一民間企業向けの、特定の機種向けの製品について、カルテルが行われたとして独占禁止法違反が適用された先例はないとして、審判請求を含め、今後の対応を決定するとしている。

付記

シャープは2009年2月2日、その内容は到底承服できないものであるとし、審判開始請求をした。
当該取引において、独禁法に違反する行為は無かったとしている。

公正取引委員会は2009年3月12日、シャープ及び日立ディスプレイズから排除措置命令に係る審判請求が、シャープから課徴金納付命令に係る審判請求が行われたため、審判手続を開始すると発表した。

付記

日立ディスプレイズから2009年9月25日、審判請求の取下げがあり、同社に対する排除措置命令は確定した。

公取委は2013年7月29日、シャープに対し、各審判請求をいずれも棄却する旨の審決を行った。

シャープは8月22日、これを受け入れると発表した。


2008/11/15  原油、ナフサ価格 下落続く  

ニューヨーク先物市場のWTI原油価格は、本年初日の1月2日に一時100.00ドル/バレルを付けた。
その後、7月11日には一時147.27ドルの過去最高を記録したが、その後下落が続き、11月13日には一時54.67ドルを付けた。

最近のWTI原油価格は、ダウ平均の上下に対応して上下している。
景気の先行きの動向が原油の需要に影響を与えるため。

   
   
ナフサ価格は原油価格の値下がり以上に下落している。
11月4日の東京市場オープンスペックナフサ価格終値は、276ドル/トンとなった。
これは2003年10月1日の275ドルに次ぐもの。

日本やアジア各国でエチレンセンターが減産をしており、ナフサの需要が減少しているのが理由。
   

OPECは11月29日にカイロで臨時総会を開催する。
イランは、臨時総会で減産を支持する方針であることを明らかにした。


2008/11/15  三菱化学水島で火災事故

11月14日午前0時10分ごろ、三菱化学水島事業所内の日本ポリプロのプラント(100千トン)で火災が発生した。けが人や建物への延焼はない。

同プラントの直径5センチのパイプから、ノルマルヘキサンとトリエチルアルミの混合触媒が漏れて発火したとみられる。漏出個所から約60〜80センチの炎が断続的に出た。
放水すると火勢を強めるため、パイプの両端を遮断して自然鎮火を待ち、同日午後8時前に火は消えた。

日本ポリプロは日本ポリケム65%/チッソ35%のJVで、2003年10月1日に営業開始した。

日本ポリケムは三菱化学65%/東燃化学35%のポリオレフィン統合会社であったが、PEに関して日本ポリケムが日本ポリオレフィン(昭電/日石化学)との再統合(日本ポリエチレン設立)をするに当たり、東燃化学が別途出資する日本ユニカーが独禁法上の障害となったため、三菱化学が東燃化学の持分を買い取った。

この結果、日本ポリケムは三菱化学100%出資となった。

同社は水島のほか、千葉(チッソ)、四日市(チッソ)、鹿島(三菱)、川崎(東燃化学内)にプラントを持ち、のPP合計能力は1,082千トン。

ーーー

三菱化学は10月8日、水島事業所内をパトロール中の作業員が、エチレンプラント(年産能力45万トン)付近で異常な“におい”に気づいた。
直ちに停止して臨時点検したところ、冷凍機の配管溶接部分にひび割れが見つかったため、配管の交換工事を行なうことを決めた。

10月22日夜に運転を再開したばかり。

同社のエチレン生産能力
水島事業所   450千トン
鹿島事業所 第1プラント   375
第2プラント*   453
合 計  1,278
* 全8炉中、第8号炉を除く7つの分解炉の能力。8号炉まで含めた能力は476千トン。

ーーー

三菱化学鹿島事業所では2007年12月21日に、第2エチレンプラントで火災事故が発生し、協力会社従業員4名が亡くなった。

2008/3/17 三菱化学鹿島事業所火災事故 事故報告書 

2008年3月5日に第2エチレンの8基の分解炉のうち5基が、5月15日に6号炉が、9月12日に7号炉が停止命令の解除を受け、操業を再開したが、残る8号炉については再開の目途は立っていない。

経済産業省原子力安全・保安院は本年2月、三菱化学に対して、鹿島事業所の高圧ガス保安法に基づく完成検査及び保安検査に係る認定を取り消す行政処分を行っている。

 


2008/11/16 昭和電工・東長原事業所でホスゲン漏出

11月15日午後1時20分ごろ、福島県会津若松市河東町の昭和電工・東長原事業所で、ホスゲン漏洩の検知器が作動した。

ホスゲンの漏出があったのは、事業所のほぼ中央にあるホスゲンの合成室と貯蔵室の付近とみられる。
ガス濃度は最高で 0.3ppmを記録。警報作動で室内の機械設備が自動停止し、濃度は1時間後にゼロになった。

同社では近隣の住民に広域放送や緊急電話等で知らせ、屋内に入って窓や戸を閉めるよう呼び掛けた。
けが人や体調不良を訴えている人はいない。敷地境界の検知器はホスゲンを検知していない。

同社は「漏出量は微量で人体に影響はない」と説明。詳しい原因を調べている。

付記

昭和電工は、東長原事業所(福島県会津若松市)でのホスゲン漏出事故以降、関連設備の操業を停止していたが、2009年6月1日より操業を再開した。

 

東長原事業所では本年8月にもホスゲンの流出事故があった。

同事業所は大気汚染防止法に基づき福島県から施設改善の措置命令を受け、再発防止策を提出。10月31日に操業を再開したばかりだった。

昭和電工では「当社は、去る8月9日にホスゲンを漏洩させており、今回、再び漏洩させてしまったことにつきまして誠に申し訳ございません。今後、原因究明の上、徹底的な安全管理策を講じてまいります」と陳謝している。

ーーー

8月9日午前6時ごろ、従業員12人と正門前の商店の女性の計13人が気分不良を訴えた。
10人が市内の病院に搬送され、残る3人が自力で病院に向かったが、いずれも軽症。

ガス濃度測定警報器のアラームが鳴り、ホスゲン流出が判明した。
事業所の敷地外では有毒ガスは検出されていないが、市は周辺の約50世帯に自主避難を要請した。

同社によると、事故当時、入社5年目の男性従業員が1人でホスゲンを無害化する作業にあたっていた。
新商品の塗料用特殊添加剤を製造する過程で、アクリル酸とホスゲンの化学反応後、残ったホスゲンを棟外に隣接した除害塔に送り、カセイソーダの液体を使って無害化する作業に とりかかったが、閉めるバルブの手順を誤ったという。

アラームが鳴った後、別の従業員がバルブを閉め直した。

同社では「当社といたしましても原因究明を進めるとともに、安全管理を徹底し再発防止に努めてまいります」としていた。


2008/11/17 化学会社の中間決算対比

各社の中間決算の結果がまとまった。(旭硝子、昭和電工は6月中間決算)

営業損益の傾向をみるため、前期の営業損益の順に並べて対比した。

   
   
   

営業損益をみると、いくつかの会社を除き、ほとんどの会社が大幅減益となっている。
特に、石油化学関係での減益が大きい。ハイテク材料分野でも減益となっている会社が多い。

なお、下記各社については既報 参照

 住友化学、三井化学、三菱ケミカル:2008/11/3 注目会社 2008年9月中間決算-1 
 信越化学:2008/11/5 注目会社 2008年9月中間決算-2  
 三菱レイヨン、東ソー、旭化成:
2008/11/10 注目会社 2008年9月中間決算-4 

例外は以下の通り。

ーーー

旭硝子 (318億円の減収、営業損益 193億円の増益

  売上高 営業利益  
ガラス事業  338億円減  154億円減 板ガラス減、自動車ガラス若干減、ガラス繊維全面撤退
電子・ディスプレイ事業   14億円減  359億円増 TFT液晶用ガラス基板およびPDP用ガラス基板の出荷が大きく伸長
化学事業   35億円増   15億円減  
セラミックス事業その他   10億円増   4億円増  

ーーー

宇部興産 (370億円の増収、営業損49億円の増益

  売上高 営業損益  
化成品・樹脂  146億円増  38億円増 カプロラクタム、底堅い需要で価格転嫁
機能品・ファイン   28億円増   4億円減  
建設資材   58億円増   4億円減 セメント・生コン、建材製品低迷
機械・金属成形   53億円増   4億円減  
エネルギー・環境   86億円増  24億円増 石炭の価格高騰と需給逼迫状況が継続

ーーー

協和発酵キリン  (551億円の増収、営業損109億円の増益

2008年4月1日に協和発酵がキリンの子会社になるとともに、キリンファーマを100%子会社とした。   
2008年10月1日に協和発酵とキリンファーマが合併し、協和発酵キリンファーマとなった。

    2007/10/25 協和発酵とキリンファーマの統合  

このため、協和発酵キリンの前年上期は協和発酵単独、本年上期はキリンファーマを連結した協和発酵のもの。

売上高、営業損益対比 (億円)
  売上高   営業損益
07/9 08/9 増減   07/9 08/9 増減
ノレン
償却前
ノレン
償却後
医薬   689  1,087  398     97  240  197  100
バイオケミカル   438   457   19     40   55   52   12
化学品   510   572   62     33   30   30   -3
食品   209   208   -1      7   7   6   -1
  246   366  119      5   7   7   2
全社   -167   -212  -45     -   -   -   -
 1,926  2,478  551    182  340  292  109
注 合併によるノレン償却 48億円を営業費用処理

薬価改定の影響はあったが、キリンファーマの連結、Amgenからのライセンス料一時金、新製品が貢献し、増収増益となった。

2007年1-6月のキリンの連結決算で、医薬事業の売上高は315億円、営業損益は49億円であった。
(キリンファーマには他にバイオケミカル、化学品もあり)


2008/11/18 Ineos 苦境?

Ineosはこれまで、EVC、Innovene などを次々買収して拡大してきた。

同社の創業者で会長を務めるのJim Ratcliffe Ineosを担保にして金を借りるという形で、他の事業を買収していった。

2006/6/14 事業買収で急成長した化学会社

同社は過去10で、BASFとDowに次ぐ世界第三位の石油化学会社となった。
現在、
20カ国以上で18の事業を行なっており、従業員は16,000人に達する。

同社は equity fund には頼らず、借入金により大きくなった会社である。
BPからの Innovene 買収は90億ドルで、ほとんどが長期借入金で賄った。

昨年の講演で、Ratcliffe会長は、10年の期間の高利のボンドを利用しており、借り入れ期間中は金利の支払いのみであることを明らかにしている。

今回の金融危機は当然予想していなかったもので、同社の経営に大きな影響を与える。
金融危機に加え、実体経済にも悪影響が出ており、特に、Ineosが買収したEVCとHydro のPVCは、住宅不況の影響で非常に苦しい状況にある。

このため同社が借入金返済のため、米国の多くの資産売却を検討しているという情報が広く流されている。

少なくとも、拡大路線は変更せざるを得ない状況にある。

ーーー

同社は11月3日、異例の発表を行なった。

INEOS - Adapting in turbulent times

最近メディアでいろいろ推測記事が出ているが、Ineos はこれまで銀行との契約を守らなかったことはない。
この3年間に借入金を大きく減らしており、近いうちに返済期限がくる借入金はない。

2005年のInnovene 買収以降、10億ポンド以上の借入金を返済した。9月末のキャッシュ残高は13億ポンドに達する。

化学産業のサイクルは底にあるが、会社は全事業が利益を上げている。但し、現在の経済情勢のもと、多くの他の企業に歩調を合わせ、重要でない投資計画は再検討している。

全事業にわたり、コストを低減し、効率を高めており、グローバル市場で十分戦っていける。

ーーー

なお、同社はこのたび、テキサス州La PortePP工場の停止を決めた。
合計235千トンで、1系列は本年末、他の1系列は来年1月末に停止、他のプラントから供給を続ける。


2008/11/19  WACKER Dow Corning張家港市でシリコーン原料生産開始

WACKER Dow Corning 11月14日、江蘇省・張家港市でシロキサンと乾式シリカの生産を開始したと発表した。

両社の投資額合計は12億ドルに達する。

シロキサンと乾式シリカの能力合計は約20万トンで、順次操業度を上げ、2010年末にフル稼働する。

付記

両社は2009年10月21日に第二期の建設を開始した。完成後の能力は21万トンとなる。

2011年10月、第二期が完成した。

シロキサンは、シリコン(珪素)を原料とするシラン(有機珪素モノマー)のポリマーで、有機ポリシロキサンをべ一スとした材料の総称がシリコーン。

乾式シリカ(ヒュームドシリカ)は二酸化珪素(SiO2)で、主な用途はシリコーン樹脂の充填材。

この事業のため、両社は2つのJVを設立した。

事業 JV社名    出資比率 建設担当
WACKER Dow Corning
シロキサン製造 Dow Corning (Hldg.)  25%  75% Dow Corning
乾式シリカ製造 Wacker Chemicals Fumed Silica Hldg  51%  49% WACKER

シロキサン工場は乾式シリカ工場に原料のクロロシランを供給し、乾式シリカ工場は逆に副生塩酸をシロキサン製造のために供給する。

Dow Corning WACKER は共にアジア、中国を今後の成長を見込める優先地域と考え、最新鋭の技術を投入することとした。

両社はJV製品をもとに、同地で最終製品を別個に製造し、それぞれの需要家に販売する。

WACKER張家港市で、2005年にポリマーパウダーを、2006年にシリコーンエラストマーとシリコンシーラントを製造開始している。

ーーー

Dow Corning はシリコーン事業を行うため、1943年にDow Corning Glass Works (現在はCorning, Inc.)の50/50JVとして設立された。

2007年の売上高は49.4億ドル、純利益は6.9億ドル。

ーーー

WACKER の基は1903年にAlexander Wacker が設立した電気化学コンソーシアムで、1914年にWacker-Chemie GmbHが設立され、1916年にアセトアルデヒド、酢酸、アセトンの最初の大規模生産を行なった。

Wacker 一族が51%Hoechst 49%出資していたが、2006年に株式公開を行った。依然、Wacker 一族が50%強を保有している。

2007年の売上高は以下の通り。

  百万ユーロ
Chemicals Wacker Silicones  1,361.0
Wacker Polymers   532.8
Wacker Fine Chemicals   112.4
小計  2,106.2
Wacker Polysilicon   456.9
Siltronic  1,451.6
Others   247.2
Consolidation   -480.7
Total  3,781.3

同社はVAEの製造でAir Products との間に2つのJV(Wacker Polymer Systems:80%保有、Air Products Polymers:35%保有)を持っていたが、本年に入り、両社のAir Products 持株を買い取り、いずれも100%子会社としている。

300mm Wafer では韓国のSamsung との50/50JV Samsung Wafer をシンガポールに設立している。

 


2008/11/19 Ineos の状況悪化 

昨日、Ineos が「噂が流れているが、全く問題なし」と異例の発表をしたことを報じた。

 2008/11/18 Ineos 苦境?

実際にはこの発表が事実でないことが明らかとなった。

現地時間の11月17日(上記記事のアップ後)、同社はBarclays Merrill Lynch 主導の銀行団に対し、総額70億ユーロの2つの借入契約を2009年5月末まで免責するよう要請したと発表した。(金利支払中断の意味と思われる。) 銀行団はこれを受け入れた。

グローバルな経済危機の影響を受け、出荷が通常レベルの1/3から1/4に落ち込んでいるという。
「前例のない事態に直面している。需要家は工場を止めたり、在庫を減らしたりしている」としている。

付記

同社は5月末の期限の延長を債権者に要請していたが、5月27日、債権者の2/3以上の賛成で7月までの延長の承認を得た。
再建案の検討の時間を得た。

 

同社が巨額の借入金を抱えてやっていけないのではないかとの懸念で、同社の借入金、ボンドの価値が急落した。

同社のユーロ建てローンは額面の47.450.5%に落ち込んでおり、第二抵当のローンは額面の2432%にまで下がった。

同社向け債権の保護の費用は70%以上となった。債権者は10百万ユーロの債権の貸し倒れを予防するためには7百万ユーロの支払いが必要となる。

Moody はIneos の企業としてのレーティングをB1からB32段階下げ、更なる引き下げも検討するとしている。
同社の第一抵当のローンについては
B2に、第二抵当ローンについてはCaa2 に引き下げた。

Ineosでは(借入契約の2009年5月末までの免責を要請したことについて)来年5月には事態がもっとはっきりするだろうとしている。
しかし、市場では、同社が来年
5月末までに問題を解決するとは思えず、76億ユーロの借入金のリストラは避けられないとし、かなりの資産の売却が必要とみている。

Lyondell Basell のボンドの価値も、化学業界の業績悪化見通しから、この数日で額面の13-15%下がっている。


2008/11/20  韓国 ウオン安続く、通貨オプションで損失続出、石油化学は苦境

少し前まで、日本の円安とは異なり、韓国ではウオン高が続いていた。

2000年頃には1ドル1,300ウオンであったが、2006年には970ウオンとなり、その後も900ドルウオン程までウオン高となった。

2006/8/26 韓国の上場企業、10社中3社が赤字

しかし、今年の3月後半から急にウオン安となり、1,000ウオン/ドルを超え、8月から急落、10月には1,400ドル/ウオンを超えた。
韓国政府は1兆円の経済対策を発表するなどし、一時1,200ウォン台に戻したが、再び下落し続けている。

付記 対日本円では半分になった。(100円800ウォンが1600ウォンに)

これが、多くの企業に思わぬ損害を与えている。

サムスン電子の主要納品業者の泰山LCDは9月に会社再生手続きを申請したが、11月14日、2008年3Qの業績を発表、為替ヘッジ用の通貨オプション商品に関連して6,092億ウォン(約420億円)の損失を計上したことが明らかになった。

損失規模は自己資本の88倍に相当し、昨年の年間売上高に匹敵する金額で、60年分の利益に相当する額の損失をわずか3カ月で出したことになる。

ーーー

2007年頃にウォン高が進み、ほとんどの外為専門家がさらにウォン高になると予想した。

このため、韓国の中小輸出業者は製品を売る際、為替ヘッジに死活を賭けた。

2005年頃にCitiBankが設計し、韓国に紹介した「KIKO」(Knock-in, knock-out)という通貨オプション商品が韓国で流行した。

「KIKO」は約定期間の1年から2年の間に為替が一定の範囲内だけで動けば、企業は一定額のドルを市場よりも高く銀行に売って利益を得ることができる。

初期にKIKOに加入した企業は、商品設計通り実際にウォン高ドル安になったことから為替差益を得た。

それ以降、KIKOは為替ヘッジ商品として知られるようになり、昨年からは外資系銀行や韓国の多くの銀行(国営の産業銀行まで)が競い合うようにKIKO関連商品を発売、契約は急増した。

 

実際にはこの商品は、ウォンが約定額を超えて安くなると、契約額の2倍から3倍にもなるドルを市場で高く買い取り、当初契約を行ったよりも安いレートで銀行に売らなければならない。

為替の変動で企業が得る利益には制限がかかっている一方で、損失は無限大に責任を負わなければならないという奇怪な構造だが、銀行はこれを「先端的な金融技法を活用した安全な為替リスク回避型の商品」と宣伝し、企業に対し融資を行う代償として半ば強制的に購入させたという。

この金融商品を売る際、リスクについてきちんと伝えなかったり、手数料や証拠金なし、としていた。実は別の名目で商品の中に手数料を忍び込ませていた。

しかし最近のように毎日、大きくウォン安が進む状況では、企業の損失は際限なく膨らんでしまう。
泰山LCDはこれで大きな損失を計上した。
金融監督院は10月初めに、「KIKO」が原因での被害額について、520社で5兆ウォン(約3,580億円)に達すると推定している。

「KIKO」により損失を被った120社余りが10月末にシティー、 SC第一、新韓、外換銀行など計13行を相手取り、訴訟を起こす意向を明らかにした。さらに被害企業を募集し、第2次訴訟を進めていく。

付記

 ソウル中央地裁は12月30日、(株)モナミと(株)DS LCDがSC第一銀行を 相手取って起こしたオプション契約効力停止仮処分請求の訴訟で「モナミなどが解約の意思を送達した今年11月3日以降の部分の効力を停止する」と決定し た。

「契約当時に各企業と銀行はウォンの対ドル相場が安定的に変動すると前提したが、ウォンの急落で各企業が途方もない損失を 被った」としている。「残りの期間にも似たような状況が予見されるが、これは契約当時に予想できるレベルを超えることから、契約義務を強いるのは信 義に大きく反する」という判断を示した。
 また「ウォンが急落すれば、モナミなどに無限の損失が生じるため、銀行には損失を制限できるほかの取引条件を模索し勧めるべき義務がある」とした上で「銀行はこれを履行しておらず、適合性の原則にも反する」と明らかにした。

 特に「契約が内包するリスクについても一般的かつ抽象的に知らせただけで、具体的には説明しなかった。ウォンが安定的に上がるという見通しだけを強調し、下落する可能性には触れていない」と指摘した。

ーーー

韓国の石油化学は2006年にはウオン高で苦しんだ。
今回はウオン安で輸出比率が多い韓国の石油化学にとり有利な筈である。

しかし、
米国発の金融危機が中国の景気悪化を通して、韓国石油化学業界に直撃弾を与えた。

1116日の朝鮮日報は以下のように伝えている。

韓国の石油化学各社にとって最大の顧客だった中国の需要不振が最も大きな原因で、中国では先月、世界最大規模のおもちゃ会社「合俊」が不渡りを出すなど、中小の輸出企業が続々と倒産している。

この結果、石油化学製品の価格は急激に落ち込み、麗水NCCでは、「最近、合成樹脂の価格が大きく落ち込み、これらの原料となるエチレンやプロピレンの価格を上げられずにいる。いきなり市場が消えてしまったような感じだ」としている。

SKエナジーは1973年に竣工して以来35年目にして初めてエチレンプラントを停止した。
LG化学も減産に入り、麗川NCCも30%の減産措置を断行した。
ロッテ大山石油化学(来年1月2日にロッテの湖南石化と統合)は最近、稼働率を90%から70%に下げた。
湖南石化も、
エチレンの稼働率を30%に下げることを検討している。

SKエナジーでは「石油化学製品は作れば作るほど損になるため、各社とも工場を稼動できずにいる。市場が上向くのを待つほかない状況だ」と語っているが、同社の野積み場には買い手がつかない合成樹脂の在庫があふれている。
麗水の石油化学各社も、工場の周辺や道路のあちこちに在庫品を3メートルもの高さにまで積み上げているという。

さらに、サウジアラビアやイランなどが新設・増設した石油化学工場を稼動させ始める年末からはエチレンなどの価格下落が予想されており、石油化学業界では当分の間、工場の稼動正常化は難しいだろうと懸念している。

 

日本の石油化学にとって、対岸の火事ではない。

 


2008/11/20 米住宅着工件数 下落続く

米商務省は19日、10月の住宅着工件数を発表した。

季節済み調整後の年率換算で791千戸で、1959年1月の統計開始以来、最低水準となった。
年間累計では966千戸となる。

また、米労働省が発表した消費者物価指数(総合)は前月比マイナス 1.0% で、過去最大の低下幅となった。

これらが影響し、原油価格も下落した。
19日のニューヨーク先物市場のWTI 原油は53.62ドルと下落が続いている。

株価も19日のダウ平均終値は8,000ドルを割り、7,997.28ドルとなった。
(終値では最近の最安値、一時的には10月10日に7,882.51ドルを記録)

 


2008/11/21 バイエル、上海で第二の塩素リサイクル工場建設

バイエル・マテリアルサイエンスは1117日、上海のBayer Integrated Site 2つ目の塩素リサイクル工場を建設すると発表した。

住友化学からライセンスを受けた塩酸酸化技術を使用して、イソシアネート生産時の副生塩酸を塩素にするもので、建設中の年産25万トンのTDIプラントの原料として供給する。

バイエル・マテリアルサイエンスは上海では既に、同社とUhdeNora Uhde とイタリアのde Nora SpA のJV)が共同で開発したOxygen Depolarized Cathode (酸素還元カソード)法の塩酸電気分解設備をスタートさせており、塩素を年産35万トンのMDI(本年10月稼動)の原料として供給している。

ーーー

塩素は、イソシアネートやエピクロルヒドリンなど各種塩化物の合成に使用されているが、これらの製造過程では、通常、塩酸が副生される。

TDIの製法
  トルエン
ジニトロトルエンTDA(Toluylene diamine)
  TDA
+ホスゲン(塩素+CO)→TDI塩酸

MDIの製法
  ベンゼン→ニトロベンゼン→アニリン
  アニリン+フォルムアルデヒド→MDA (
Methylene dianiline)
  MDA +ホスゲン(
塩素+CO)→MDI+塩酸

副生塩酸は、35 %塩酸として販売したり、VCMのオキシクロリネーション法の原料として有効利用している。
東ソーのビニル・イソシアネート・チェーンでは日本ポリウレタンのMDIからの副生塩酸とエチレンでEDCを生産し、VCM原料としている。)

しかし、ウレタンとVCMの需要の伸びの差などから、副生塩酸の処理に困っているのが現状である。

塩酸を塩素に転換する技術としては、三井化学の塩酸酸化法(MT クロル法)や、上記の塩酸電気分解法があるが、設備投資額、運転コストの面でさらなる向上が望まれていた。

住友化学の塩酸酸化技術は高活性酸化触媒使用を用いて効率的に塩素に転換する技術で、低温下で高い触媒活性があるため、固定床反応器の使用が可能となり、スケールアップ、設備投資額の面で優れている。
エネルギーでかつ環境に優しいプロセスとして、2005年にグリーン・サステイナブルケミストリー賞を受賞するなど、国内外から注目を得ている。

付記

塩酸酸化反応では触媒と接触して塩素ができる際に高熱が発生し、温度を制御できなくなるケースがあるため、その危険性のない流動床反応器が使用された。

2002年に日本で最初のライセンスを行い、2006年には三菱化学にもライセンスしている。

ーーー

バイエル・マテリアルサイエンスでは、この2つの技術を結びつけ、イソシアネート生産でのコスト面での指導的地位を強化することとなるとしている。
また、著しい省エネが可能となり、温暖化防止にも役立つとしている。


2008/11/21 WTI原油価格 50ドル割れ

11月20日のWTI原油価格終値は49.62ドル/バレルと、50ドル割れとなった。

50ドル割れは2005年5月以来のもの。ダウ平均も下がった。

 


2008/11/22 ダウ、「米国のエネルギー計画」を発表

ダウは11月13日、Dow Energy Plan for America” を発表、物価の安定、経済の強化、安全保障の強化、環境浄化、米国製造業の活性化のため、大胆な、総括的な、超党派のエネルギー政策をとることを要請した。

Andrew Liveris CEO は、「新しい政府、議会は米国のエネルギー対策であらゆるオプションを含む計画を実行する必要がある」と述べた。

ダウでは、包括エネルギー政策は次の8つのゴールの達成が必要としている。

 ・積極的なエネルギー効率、エネルギー節約の奨励
 ・より多くの再生可能エネルギーを市場に
 ・商業ベースの代替エネルギーを優先
 ・国内の石油・ガス生産促進
 ・石炭の炭素利用率(
carbon efficiency)の最適化
 ・カーボン捕獲・貯蔵の可能性の追求
 ・原子力発電の促進
 ・エネルギー政策と温暖化対策の関係の認識

 

Dow Energy Plan for America” の内容は以下の通り。
   
http://news.dow.com/dow_news/pdfs/dow_energy_plan.pdf

1. 省エネ: Encourage Aggressive Energy Efficiency and Conservation
   
   住宅、ビルの省エネ   Improving Energy Efficiency of All Homes and Buildings
   長期的な優遇税制   Long Term Tax Incentives for Energy Conservation and Efficiency
   グリーン ビルディング   Promote Voluntary Green Building Programs
   教育   Public Education on Energy Efficiency
   Energy Policy Act の実行   Funding & Implementing EPACT(Energy Policy Act of 2005)
   都市の省エネ   Urban Energy Efficiency Pilot Program
   電力会社の省エネ   Energy Efficiency Policies for the Power Sector
     
2. 多様化: Increase and Diversify Our Domestic Energy Supplies
       
   原油・ガスの海上掘削   A New Political Consensus on Offshore Oil and Gas Production
      (現在、推進の是非で民主党、共和党で対立)
     
3. 代替、再生可能エネルギー: Accelerate Development of Alternative and Renewable Energy
     
   発電、燃料、化学原料用の石炭、バイオマス利用
    Funding Cost-Shared Demonstration of Commercial-Scale Polygeneration Plants
   エネルギー向けインセンティブ   Renewable and Alternative Energy and Fuel Incentives
   原料向けインセンティブ   Extend Incentives for Biofuels to Renewable Feedstocks
   原子力発電   Accelerate Deployment of Nuclear Power
   カーボン捕捉、貯蔵   Carbon Capture and Sequestration Viability
   R&D 税控除   Making the R&D Tax Credit Permanent
     
4. 温室効果ガス排出削減: Reduce Greenhouse Gas Emissions
     

  


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