ブログ 化学業界の話題 knakのデータベースから      目次

これは下記のブログを月ごとにまとめたものです。

最新分は http://blog.knak.jp


 

2018/8/15    カスピ海の領有権問題、沿岸5カ国が合意

カスピ海に面するロシアとイラン、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタンの5カ国は8月12日、「カスピ海の法的地位に関する協定 Convention on the Legal Status of the Caspian Sea 」に署名した。

条文は http://en.kremlin.ru/supplement/5328

会議には、ロシアのプーチン大統領やイランのロハニ大統領のほか、カザフスタン、アゼルバイジャン、トルクメニスタンの各首脳が出席した。

カスピ海は地下資源に恵まれ、領有権などをめぐって20年以上にわたり協議が難航していた。今回の決着の背景には、最近のイランと米国との関係悪化もあるとみられる。

議長国カザフスタンのナザルバエフ大統領は、協定は「カスピ海における憲法のようなもので、地域の安全と安定を保証する」と評価した。
プーチン大統領は「合意は価値あるものだ」と強調した。イランのロハニ師も「イランは貿易促進のために重要な役割を担う」と語った。

各国の沿岸15カイリ(約28キロ)を領海と定め、同25カイリを排他的な漁業水域と定めたほか、第三国の軍の活動を禁止した。地下資源の分割については隣国との協議で解決を目指すとしている。



 

カスピ海は当初はソ連とイランに囲まれていたが、1991年のソ連崩壊後、ロシアとイラン、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタンに囲まれることとなり、1996年に領有権問題などを解決する協議が始まった。

カスピ海は世界最大の湖であるが、湖と海では資源配分などをめぐる法的な枠組みが異なる。

イランは最も沿岸線が短いため、「湖」として5カ国等分の権利を求めた。
他方、ソ連の構成国だった4カ国は「海」として沿岸線に応じた領海設定を主張してきた。

海の場合は「海洋法に関する国際連合条約」 が適用され、他国もその資源にアクセスすることが可能で、軍艦も含め航行の自由が保証される。

今回、「海」とも「湖」とも定義せず、「特別な法的地位」に位置づけた。

各国の沿岸15カイリ(約28キロ)を領海と定め(Article 7)、同25カイリを排他的な漁業水域と定め(Article 9)、4カ国の主張に沿った形になった。
他方、「海」の場合に保障される航行の自由を認めないこととした。
   Article 3  6)  Non-presence in the Caspian Sea of armed forces not belonging to the Parties

イランでは、政府がカスピ海を「売り払った」と非難する声が上がったが、あらゆる武力のカスピ海への設置を沿岸5カ国以外に禁じる条項を協定に盛り込め 、米艦船の排除に成功したたことで、政治的な利益を得た。

ロシア外務省高官は「カスピ海は内陸にあるが、湖とするには巨大だ」と話した。

カスピ海の海底には、500億バレル相当の石油と8兆4000億立方メートル近くの天然ガスが眠っていると推定されている。
海底資源の所有権については、国際法に基づいて当事国同士の合意で確定することとした。(Article 8)
イランやアゼルバイジャン、トルクメニスタンには油田やガス田の帰属をめぐる争いがあり、完全決着にはさらに時間がかかる可能性もある。

パイプライン設置も当事国同士の合意で認めると定めた(Article 14)。
カスピ海の法的地位をめぐる不一致は、トルクメニスタンとアゼルバイジャンを結ぶ天然ガス・パイプラインの敷設を妨害してきたが、今後、トルクメニスタンやカザフスタン産の天然ガスをカスピ海経由でアゼルバイジャンまで運び、さらに欧州まで輸送する計画の進展につながりそうだ。

カスピ海には様々な種類のチョウザメが生息している。 世界を流通するキャビアの80〜90%がカスピ海産だが、ここ数十年で生産量が減少している。
カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、今回の合意で漁業に関する各国の割り当てが可能になったと話した。

 


2018/8/16 JERA、米国北東部での天然ガス火力発電事業への参画 

JERAは8月10日、Starwood Energy Groupが所有するMarcus Hook発電所(出力:79.0万kW)、Dighton発電所(出力:17.3万kW)、Milford発電所(出力:16.0万kW)の3つの発電所の事業権益を50%取得すると発表した。

各発電所で発電した電力は、主に米国北東部の電力市場(PJM、ISO-NE)に販売するとともに、Marcus Hook発電所については、配電会社と長期容量契約を締結し、それぞれの地域における電力の安定供給に貢献している。

権益取得後は、JERA Americasを通じて、運営会社 NatGas Holdings 2, LLC に50%出資し、発電所の事業運営に関与していく。

本事業への参画により、北米において、日系企業でトップクラスとなる約354万kW(持分出力)の発電所を保有することとなる。

同社の発電所は下記の通り。

Country Name of Power Plant Location Power Generation Output

 

JERA's Output Share

 

Power Generation Method

 

Start of Operation

 

 
USA Marcus Hook Pennsylvania 790MW 395MW Combined-cycle 2004 2018/8
Starwood Energy Group
権益50%

 

Dighton Massachusetts 173MW 87MW Combined-cycle 1999
Milford Massachusetts 160MW 80MW Combined-cycle 1993
Linden New Jersey 972MW 486MW Combined-cycle, Gas turbine Unit 1-5: 1992 Unit 6: 2002 2017/10
JERA 50%
Oaktree 25%、Ares 25%
Carroll County Ohio 702MW 140MW Combined-cycle 2018 中部電力から移管
Cricket Valley New York 1,100MW 420MW Combined-Cycle 2020 (Planned) 2017/1
JERA
Virginia Virginia 885MW 155MW Combined-Cycle 2004 Tenaska Gas Thermal IPP Project

中部電力から移管

Gateway Texas 845MW 94MW Combined-Cycle 2001
Kiowa Oklahoma 1,220MW 214MW Combined-Cycle 2003
Alabama II Alabama 885MW 155MW Combined-Cycle 2003
Georgia Georgia 945MW 165MW Gas turbine 2001, 2002
Canada Goreway Ontario 875MW 438MW Combined-Cycle 2009 中部電力 50%、豊田通商 50%
Mexico Valladolid Yucatan 525MW 260MW Combined-Cycle 2006 中部電力 50%、三井物産 50%
Saltillo Coahuila 248MW 49.6MW Combined-Cycle 2001 MT Falcon Holdings Company
 JERA(20%)
 三井物産(40%)
 東京ガス(30%)
 東北電力(10%)
Rio Bravo II Tamaulipas 495MW 99MW Combined-Cycle 2002
Rio Bravo III 495MW 99MW Combined-Cycle 2004
Rio Bravo IV 500MW 100MW Combined-Cycle 2005
Altamira II 495MW 99MW Combined-Cycle 2002
Total   12,310MW 3,536MW      
 

米国の他の発電所については、下記に記載している。

2017/10/19  JERA、米のガス火力発電事業を拡大

カナダ:Goreway Gas Thermal IPP Project

中部電力と豊田通商が2009年9月に共同でSithe Global Powerが保有する本プロジェクトの出資権益100%のうち25%ずつを取得し、続いて2011年3月にSithe が保有する出資権益50%の25%ずつを追加取得、これにより、本プロジェクトは両社が50%ずつ出資する合弁事業となった。

2016年7月にJERAが中部電力から事業を承継した。

メキシコ:Valladolid ガス火力IPP事業

中部電力が、三井物産ならびにCalpine Corporation(米)と共同で2003年に事業会社に出資し、事業権益27.5%を取得、2006年4月には、中部電力および三井物産が各々50%ずつ出資する事業となった。2016年7月に中部電力から事業を承継した。

メキシコ:Falconガス火力IPP事業

2010年に三井物産(70%)と東京ガス(30%)がJVのMT Falcon を設立、事業会社群を買収、三井物産が持分の一部を中部電力、東北電力に譲渡した。
JERAは
2016年7月に中部電力から事業を承継した。


 



2018/8/17  
米、対米投資の審査対象拡大
 

外国企業の対米投資を審査する米国の独立機関、対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する条項を加えたJohn  McCain 国防権限法(NDAA)案が8月13日成立した。

これまでのCFIUSの審査対象は、安全保障に係るものと大統領が判断した買収に限られた。

今回、米国企業の買収を狙いとする取引に限らず、合弁会社設立や、米国の重要な技術やインフラ、個人情報に関わる少額の出資なども審査の対象とする。米政府施設に近い土地取得など不動産取引も含める。

中国が対米投資を通じて技術やノウハウを盗み出し、軍事技術に流用するのを食いとめたい考えだが、審査は外資すべてを対象としており、中国企業だけでなく、日本企業にも影響が出そうだ。

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米国は外国からの米国内直接投資を歓迎するが、国家安全保障を保護するための例外を設けている。
CFIUSが審査を行い、投資内容が米安全保障にかかわるものと大統領が判断した場合には究極的には買収案件を拒否できる。

これまでの例:

2012/10/4  オバマ大統領、米国内での中国企業の風力発電買収を阻止 

2015/11/10 中国の三一重工、米国での風力発電買収阻止事件で米政府と和解、実質勝利

2016/12/7  米政府、中国企業による独社の米子会社買収を禁止

    米、中国系ファンドによる半導体メーカー買収阻止

2018/3/14    米大統領、BroadcomによるQualcomm買収禁止命令

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中国のEコマース企業阿里巴巴集団(Alibaba Group)の金融関連子会社で、QRコードを使った非接触型決済サービスのAlipay を運営する螞蟻金融服務集団(Ant Financial)は2017年4月に国際的送金ネットワークのサービスを行う米国のMoneyGramを12億ドルで買収すると発表した。ライバルのEuronetに打ち勝ったもの。

この実現に向け、Alibabaの馬雲(Jack Ma)会長は就任直前のトランプ大統領と会談し、買収が成立すれば米国で100万人の雇用創出につながると訴えていた。

しかし、CFIUSから承認を得られず、2018年1月初めに断念した。

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ソフトバンクは2017年2月、世界的な規模で多角的にグローバル投資を行う世界有数の投資ファームのFortress Investment Groupを共同投資家とともに約33億米ドルで買収する契約を締結した。

この買収は2017年12月に完了したが、発表では、Fortressは現経営陣が独立して経営を行い、リーダーシップ、ビジネスモデル、ブランド、人材、プロセス、企業文化を維持していくとしている。

これについて、英Financial Timesは4月6日、CFIUSから投資会社の業務運営への関与に制限を受けていたと報じた。ソフトバンクは業務に影響を及ぼすことが制限され、Fortressの所有にとどまっているという。

ソフトバンクは、Alibaba Groupの筆頭株主である。

2016/12/7  ソフトバンク孫社長、米に500億ドル投資

トランプ大統領は鴻海精密工業が開いた米国新工場の着工式で、「マサさんに感謝したい」と話し、壇上に呼んだ。そんな孫社長の事業でも中国がからむと駄目なようだ。


 

米国は中国のMade In China 2025計画を懸念している。 

Made In China 2025計画は、2025年までに世界の製造業大国となり、建国100周年の2049年までに製造強国の先頭グループになるという計画である。

Made In China 2025の概要は http://www.knak.jp/blog/2018-5-1.htm#us-china の文末参照

巨額の補助金で自国の企業を育てるとみられ、米国のIT企業などは、半導体などの基幹部品の自給で米企業が締め出されかねないとの懸念を持つ。

米国は交渉で中国2025の補助金の即時停止を求めたが、中国には事実上の計画停止を意味し、中国商務省の関係者は「絶対に受け入れられない」と憤る。

米政府は中国が技術やノウハウを盗み出すのを防ぐため、中国企業の対米投資を厳しく制限する方法を検討した。

トランプ大統領は6月27日、中国企業の対米投資の制限案について、米財務省などが管轄するCFIUSを活用する考えを示唆した。

現行のCFIUSによる審査は安全保障にかかわるものに限られるため、これを改正し、これまで抜け穴となっていた少額出資なども審査対象に加え、投資制限を強めるものである。

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今回成立したJohn  McCain 国防権限法(NDAA)では、2019会計年度(2018年10月〜2019年9月)の国防予算は総額7160億ドルと、この9年間で最大規模に積み増した。
国防費の増強で中国やロシアに対抗する姿勢を鮮明にした。

米国では、議員が通したい法案を、重要法案に追加して合わせて通す慣習がある。

今回の国防権限法では、上記のCFIUSの権限強化条項は政府の要望で追加したものだが、中国に関連して、議員側の意向で追加した項目、追加しようとした項目がある。

米商務省は6月7日、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に対する制裁の見直しで同社と合意したと発表、7月13日に制裁を解除した。

2018/6/8    米政府、中興通訊(ZTE)の事業再開認める

しかし、安全保障上の観点からZTEの制裁解除には米議会の反発が強い。 

米上院は6月18日、2019会計年度の国防権限法案を賛成85、反対10で可決した。トランプ大統領が求める軍の強化を後押しするものである。
しかし、上院はこの法案に、中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)に対する制裁措置の緩和を認めず、米製品の販売を引き続き禁止する条項を盛り込んだ。

下院は既に5月24日に国防権限法案を通している。この時点では制裁見直しは行われておらず、法案にはZTE制裁措置の緩和を認めない条項はない。

上院と下院の法案をすり合わせ、一本化する必要があるが、米上院の与野党議員らは、トランプ政権の圧力に屈せず支持するよう下院議員らに呼び掛けた。圧力に屈すれば、経済と国防両面で米国の安全保障が損なわれ、ZTEが米国民に「スパイ行為」を働くことになると警告した。

2018/6/22  米上院、中興通訊(ZTE)に対する制裁の見直しに反対

その後、上下院が協議を進め、7月23日に一本化で合意した。

大統領は議会に法案からZTE に関する条項を外すよう要請、その結果、ZTEへの米製品の販売を引き続き禁止する条項は削除された。

その代わりに、安全保障上の懸念を理由に、米政府機関が中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)と華為技術(Huawei Technologies)の技術を利用することを禁じる項目が盛り込まれた。


2018/8/18 仁科芳雄博士の執務室

毎日新聞夕刊(2018/8/15)の「憂楽帳」は、「仁科博士」という題で下記の通り書いている。

物理学で我が国最高の栄誉である仁科記念賞に名を残す仁科芳雄博士(1890〜1951年)。東京都文京区にある空襲を免れた執務室が再来年、建物の老朽化で取り壊される。(中略)

ここで、ノーベル賞学者の朝永振一郎氏ら物理学者はもちろん、長く日本医師会長を務めた武見太郎氏も教えを受けていた。死後も執務室が残ったのは、薫陶を受けた各界のリーダーが、博士の人柄や業績を知る大切な場所と考えたからだという。

約40平方メートルの室内に残る木製の机や棚、黒電話などは別の場所で保管される見通しだ。(後略)

写真は、Livedoor News 「知られていない日本の原爆開発。太平洋戦争中の極秘作戦「ニ号研究」の歴史」から


仁科博士の執務室は、文京区本駒込の旧理化学研究所の37号館の2階にある。(写真左下) 

現在は、日本アイソトープ協会のなかに仁科記念財団が保存している。2階には3つの窓があったが、真ん中の窓は後に埋められた。左端が執務室。

 

財団法人理化学研究所は、1917年3月、我国の産業の発展に資することを目的に、皇室からの下賜金、政府からの補助金、民間からの寄付金を基に東京・文京区駒込 (現在の本駒込)の地に設立された。

残っていたEの43号館は数年前に解体され、賃貸マンションとなっている。

写真ソース 仁科博士とその時代 理化学研究所の歩みー駒込時代ー 

 

仁科博士の執務室は上図の右上Dの37号館の2階にある。(下図ので囲った場所)

その左のFはサイクロトロン跡で、1937年に仁科博士がわが国初のサイクロトロン(26インチ 28トン)を作製したが、1945年に連合軍が原発開発とみなし、破壊、東京湾に投棄した。
ニューヨーク・タイムズは「米国の科学者らは…サイクロトロンは研究機器であって、原爆製造機械ではなく…この略奪行為に責任のある公務員は懲罰を受けるべきである」と報じた。

1958年10月に特殊法人理化学研究所が設立された。(2003年に独立行政法人理化学研究所になり、2015年に国立研究開発法人理化学研究所に変更した)

1966年に現在の和光地区に移転を開始した。1974年に移転を完了した。

 

駒込の跡地には科研製薬があったが、約20年前に文京グリーンコートとして再開発された。正面の緑が一部 残されている。

 

付記

てくてくまち再見 理化学研究所旧23号館 科学者たちの楽園


2018/8/20  Saudi Aramco、サウジと米国での石油化学計画を承認  

 Saudi Aramco は8月15日、取締役会がサウジと米国での石油化学計画を承認したと発表した。

1) サウジのTotal とのJV SATORP の精油所での石油化学計画

SATORPはフランスのTotal とのJV (Saudi Aramco 62.5%、Total 37.5%)で、Jubail に日産40万バレルのワールドクラスの製油所を建設(2014年の手直し増設で現在能力は44万バレル)、Arabian Heavy 原油を精製して、高品質の石油製品を製造する。世界でも最も効率のよい製油所の一つと見られている。

ディーゼルとジェット燃料の生産を最大化することを狙っており、これに加え、パラキシレン(年産70万トン)、ベンゼン(同14万トン)、ポリマーグレードプロピレン(同20万トン)を生産する。

当初は 25%分を公募し、両社は37.5%ずつとなる予定であったが、公募増資を取り止め、当初比率で倍額増資をしている。

2009/6/22 Saudi Aramco、製油所建設を再開

今回の石油化学計画は、4月10日にサウジ皇太子のパリ公式訪問中にAramcoとTotalが覚書を調印した。

精油所に隣接して、ワールドクラスの混合ガス(エタンが50%、製油所のオフガスが50%)スチームクラッカーを建設し、年産150万トンのエチレンを生産する。

投資額は約50億ドル程度で、両社は2018年第3四半期にfront-end engineering and design (FEED)を開始する。

エチレンは、第三者が建設する誘導品工場に供給する。これらの投資額は40億ドル程度を見込む。

 

2) 米国の製油所子会社 Motiva Enterprises での化学品製造計画

Motiva Enterprises は2002年以降、ShellとSaudi Aramco の50/50JVとして運営されてきたが、2016年3月に資産を分離する覚書を締結したと発表した。

AramcoはMotiva の社名と、Port Arthur, TXの製油所、26のガソリンターミナルを引き継いだ。

  Aramco Shell  
社名(Motiva)    
製油所 Port Arthur, TX
(元 Texaco )
  米国最大の精油所(60万バレル)
単一工場で米国最大の潤滑油プラントを持つ。
Norco, LA
(元 Shell)
  能力 23.5万バレル
隣接してShellの石化コンプレックス
 エチレン 2系列 計 150万トン
 ブタジエン 26万トン

 Shell は1995年にPPプラントをUnion Carbide (Dow) に売却
 2000年にResinプラントを現在のMomentiveに売却
Convent, LA
(元 Texaco )
  1967年にTexacoが建設
1979年に増設し、能力23万バレル
ガソリンターミナル 26 9  

2016/3/25 Shell とAramco、米国のJVのMotivaを分離 

Aramco は本年4月、Honeywell UOP 及びTechnip FMC との間で、Port Arthur 製油所に建設を検討している化学プラントで使用する技術について研究するための覚書を締結した。

検討している化学プラントは次のとおり。

Port Arthur製油所の能力は603,000 b/d である。

まず、ガソリン生産の副産品であるベンゼンとパラキシレンを、Honeywell UOPの技術でエチレンの原料に変換する。

次に、これを原料に、Technip FMCの技術で年産200万トンのエチレンを生産する。

今回、Aramco取締役会はこのプロジェクトを検討することを承認した。

なお、Motivaでは現在、精製能力を現在の603,000 b/d から100万〜150万 b/d に増やす検討を行っている。これが実施できれば、世界最大の精油所となる。

ーーー

Saudi Aramco は事業ポートフォリオの最適化を進めるなか、石油化学を含め川下事業への進出を計画している。

Saudi Aramco は住友化学との石油化学 JVのPetro Rabigh を持つ。

2009/4/10 Petro-Rabigh スタート・アップ 

2018/1/10  PetroRabigh 第2期の完工間近 → 完工

Saudi Aramco はDowとのJVのSadara Chemical を設立し、2016年8月にクラッカーをスタートさせ、2016年11月30日に開業式を行っている。

2011/7/26  DowとSaudi Aramco、石油化学JV設立を最終決定の付記

Saudi Aramco とSABICは共同で、サウジ国内での原油から化学品までの統合コンプレックス(COTC Complex ) 設立の検討を進めている。

2017/11/30    Saudi AramcoとSABIC、Crude Oil-to-chemicals JVのMOU締結

サウジ政府はSaudi Aramco に対し、SABICのPIF所有分のほとんどor 全てを購入することを求めているという。
実現すれば、Saudi Aramcoは巨大な石油精製・石油化学企業となる。

2018/8/9 Saudi Aramco、SABICの株式購入と上場問題 


2018/8/21   Teslaの株式非公開化、米SECが本格調査へ
 

Tesla, Inc.のCEOのElon Muskがツイッターで株式非公開化の方針を公表した情報開示の手法をめぐり、米証券取引委員会(SEC)が同社に証言や書類提出を求める召喚状を送ったことが分かった。
米メディアが8月16日に一斉に報じた。

Teslaの初の量産車「モデル3」の生産が遅れており、今年4〜6月期の最終赤字が7億1750万ドルとなった。前年同期の3億3640万ドルの赤字の2倍で、7四半期連続赤字となった。
取引先の部品メーカーなどに、支払い済みの代金の一部を返還するよう求めたとされ、資金繰り不安も指摘されている。

Elon Musk CEO はNew York Times のインタビューで、「過去1年は、私のキャリアのなかで、最も困難で苦痛な1年だった」と語り、「耐えがたいほどだった」と心情を明かした。

初の量産車「モデル3」の生産が遅れ、CEOは市場からの厳しい批判にさらされてきた。多忙さとプレッシャーとが、本人を追い込んでいることがうかがえると報じられている。

付記

Tesla は8月24日、株式非公開化の計画を撤回すると発表した。

Elon Musk CEO は、株式非公開化について「当初予期していたよりもはるかに時間がかかり、混乱を招くことが明らかになった」と指摘。「モデル3を普及させ、収益を改善することに注力する上で問題になる」と撤回の理由を説明した。

情報開示の手法についてSECが調査を始めているほか、「資金は確保した」というCEOの投稿内容が虚偽であるなどとして、米国では一部の投資家が訴訟を始めている。

付記  2018/9/30 Tesla のMusk CEO、米SECと和解、制裁金支払・会長退任

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Elon Muskは、投資家から四半期決算など短い期間で好業績を出すように圧力がかかることを嫌っているとされる が、8月7日に突然ツイッターで「1株当たり420ドルでTeslaを非公開にできないか考えている。資金は確保した」と発信した。

Am considering taking Tesla private at $420. Funding secured.

株式市場は一時騒然としTesla株は前日比11%高となった。

仮に1株あたり420ドル(20%のプレミアムを乗せた価格)で既存株主から全株式を買い取るとすると、総額で700億ドル(7兆7000億円)の資金が必要になる。

これについては、Elon Muskは、安定株主には非公開化の後も、特別目的ファンドをつくるなどで、株を持ち続けて欲しいとしている。

同日のツイッター:

My hope is *all* current investors remain with Tesla even if we’re private.
Would create special purpose fund enabling anyone to stay with Tesla. Already do this with Fidelity’s SpaceX investment.
(彼の宇宙船開発会社 SpaceX :
Space Exploration Technologies Corp.は2015年にGoogleとFidelityから10億ドルの出資を受けている。)

Shareholders could either to sell at 420 or hold shares & go private.

Elon Muskは同日、Teslaの従業員に送付したメールを公表した。

最終決定はまだだが、Teslaがうまく機能する環境作りが目的である。公開会社では、株価の変動が激しく、従業員持ち株に影響を与える。また四半期報が必要なため、長期的には望ましくなくても、短期の利益を考えるようプレッシャーを与える。空売りで儲けようとする輩が多数生まれる。

全員が長期の視点で考えるのがよい。SpaceXが良い例で、非公開のため、非常にうまくいっている。

考えているのは下記の通り。

株主は非公開の後も株を持ち続けてもよいし、420ドルで売っても良い。
従業員は株を持ち続けてほしい。
SpaceX と Teslaの統合は考えていないが、SpaceXのシステムを採用したい。
SpaceXでは外部株主と従業員はほぼ6カ月ごとに株を売ったり買ったりする機会を与えられている。
自身は約20%を持っているが、この比率を変えることは考えていない。

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場企業のトップが重要な経営事項をツイッターで明らかにするのは異例で、SECは情報開示の経緯に関心を持っているとみられる。

「資金は確保した」との発言も、サウジの政府系ファンドとの交渉 での感触によるものであることが分かり、SECの調査では発言時点での情報の真偽も焦点となるとみられる。

 

なお、報道によると、サウジの政府系ファンド Public Investment Fund (PIF) は、これについて協議を行っており、同社株をさらに買い増すかや、その場合の規模について確定的な結論には至っていないものの、協議は続いているという。

PIFはTesla への投資を、サウジ経済の原油依存をヘッジするための戦略的手段の一つと見なしている。

 


2018/8/22     日立の英原発計画がピンチ

朝日新聞は8月17日、「日立の英原発建設、米大手が外れる方向 建設費の高騰で」と報じた。

北ウエールズのAnglesey島 Wylfa Newydd における原子力発電所の建設(Horizon Project)で、建設工事の中核から米建設大手 Bechtelが外れる方向になった。建設費の高騰で採算をとりづらくなっているためで、原発建設のノウハウに乏しい日立には痛手となるとしている。

付記

日立は2019年1月17日、Horizon Projectを凍結すると発表した。民間企業としての経済合理性の観点から、判断したとしている。
減損損失等 約3000億円を計上する予定。

2017年11月には、東芝が、英国における原子力発電所新規建設事業からの撤退を決定し、連結子会社のNewGeneration (NuGen)を解散すると発表している。

  2018/11/9 東芝、英原発事業を清算


ーーー

日立製作所は2012年10月30日、ドイツのエネルギー会社のE.ON 及び RWE から、英国で原子力発電所の建設を計画している原発事業会社Horizon Nuclear Power の全株式を買収する契約を締結した。

2012/11/1   日立製作所、英の原発会社買収

Horizon は、北ウエールズのAnglesey島のWylfa Newydd とSouth Gloucestershire のOldbury-on-Severn の2カ所で、5,400MW級以上の原発(1,300MW級をそれぞれ 2〜3基)を建設する。

2016/7/9 日本原子力発電、日立の英国の原電事業に協力   

日立は、まずAnglesey島 Wylfa Newydd 原発2基の建設に向け、約2000億円を投じて工事の準備を進めてきた。

Horizon Nuclear Powerは2016年5月、日立ニュークリア・エナジー・ヨーロッパとBechtelと日揮の3社が設立したコンソーシアム「Menter Newydd」(ウェールズ語で「新しいベンチャー」を意味)をEPC契約締結までのエンジニアリング業務を遂行するサプライヤーに指名した。

日立製作所は2017年6月8日、投資家向けイベントで、英国で進めている原発の新設計画について、「リスクを最小化するベストな体制を敷いている」と説明した。

出資比率 パートナーを募り、連結子会社から外せない場合は計画を中止する。
出資パートナー候補との本格交渉はこれから。 
採用技術 稼働実績が豊富な日立GEニュークリア・エナジー のABWR技術

GE Hitachi Nuclear Energyが高経済性・単純化沸騰水型原子炉(ESBWR)の設計認証を申請中だが、実績を優先した。 

建設リスク 最強のパートナーが一体感を持って取り組む

Bechtelと日揮と組み、工事遅延などで損失が発生する場合は個社の過失を問わず、事前に決めた割合で全社が責任を負う 。

2017/6/12 日立の英国の原発事業の戦略 

英政府は2018年6月4日、北ウエールズのAnglesey島 Wylfa Newydd における原子力発電所の建設(Horizon Project)で日立製作所と基本合意に至ったと発表した。

これまでの交渉では、日立、日本政府・企業、英国政府・企業が3千億円ずつ出資、残り約2兆円を融資で賄まかなう案が検討されてきた。 融資には、日本から三菱UFJ銀行など3メガバンクと政府系の国際協力銀行が参加する予定で、従来は政府全額出資の日本貿易保険が融資を債務保証する計画だった。

2018年4月下旬に英国側は支援策の一環で、英政府が日英双方の銀行融資を全額債務保証する意向を日立側に示したという。日本政府が債務保証する場合に比べて日立の負担が直ちに減る。

2018/6/8  日立、英の原発計画で英政府と基本合意 

但し、日本側も英国側も出資の目途はたっていない。
また、完成した場合の電力の買い取り価格も決まっていない。これについては、英国政府は最近、
「RAB(Regulated Asset Base:規制資産基盤)」という新しいモデルを導入することにした。

2018/8/4 東芝の英国原発計画の現状 の文末

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Horizon Project は、福島第一原発の事故の後に世界的に強化された安全基準への対策費などがかさみ、総事業費は最大で3兆円程度になる見通しとされる。

関係者によると、ベクテルの建設費の見通しは日立より高く、工事の価格で折り合えなくなった。ベクテルは建設を直接担わず、コンサルティング(助言)事業として計画にかかわる方向になったという。

この結果、建設工事の中核で、建設リスクを分担する筈であったBechtel が、建設を直接担わず、助言のみの関与にとどまる方向になっている。

日立は海外の原発向けに発電用タービンなどの機器を納めた実績はあるが、原発を丸ごとつくる形の輸出は初めてで、工事の中核が消えることとなる。

現時点で中止すれば、最大で約2700億円の損失が生じる見通しで、他社からの出資の集まり具合などをもとに、着工の可否を決める。

ーーー

東芝は英国の原発事業の売却を交渉している。

参考 2018/8/4 東芝の英国原発計画の現状 


別途、三菱重工業とFramatome(旧社名Arevaとの折半出資の合弁会社ATMEAがトルコで新型原発 (Sinop原発:110万kW 4基)の開発を進めている。

2017/7/14     三菱重工業、フランスのアレバ原子炉事業に出資 後半部分参照

しかし、安全対策費を含む総事業費は当初計画の2倍を超える5兆円規模に達する見通しとなり、今後の交渉は難航することが予想される。

伊藤忠商事は 15%の出資を予定していたが、建設費高騰を受け、既に撤退を決めている。


政府は海外での原発計画をバックアップしているが、総倒れとなる可能性がある。


2018/8/23 ADEKA、日本農薬を子会社化 

ADEKAは8月21日、日本農薬を子会社化すると発表した。 総額約250億円を投じ、TOBや第三者割当増資を通じて、持ち株比率を現在の24%から51%に引き上げる。

第三者割当増資 140億円
公開買付    108.5億円

ADEKA(旧社名 旭電化工業)は樹脂添加剤や情報・電子化学品、機能化学品や 、マーガリン類などの食品が主力事業で、新領域として再生医療などライフサイエンス分野に取り組んでおり、日本農薬が持つ合成技術が生かせると判断した。

ADEKAは現在、子会社分を合わせ日本農薬の株式の24.21%を所有し、持分法適用関連会社としている。

今回、日本農薬の第三者増資の引き受けと公開買い付けを組み合わせ、出資比率を51%とし、連結子会社とする。

なお、今後も日本農薬の社名で東証第一部への上場を維持する。

両社は以下の内容の業務提携を行う。

(ア) 研究開発領域の相互補完による開発スピードの向上
 1)ライフサイエンス分野の強化
 2)化合物データベースの活用

(イ) 生産技術・プロセス化学の相互活用による生産性の向上

(ウ) グローバル・ネットワークの相互活用による販売チャネルの拡大

(エ) 合成反応、分散技術、分析技術等の技術提供による高機能化合物の開発

(オ) 多分野の知見を有する研究員の交流
 

 

社は古河グループに属し、日本農薬はADEKA(旧社名 旭電化工業)の農業薬品部門であった。

旭電化は1915年に古河合名会社が中心となって設立し、電解法による苛性ソーダを製造した東京電化工業所が祖である。それまで輸入に頼っていたソーダ製品を国産化することが狙いである。

1917年に株式会社組織に改め、旭電化工業してスタート、1919年に水素利用による硬化油の製造を開始して、ソーダと油脂の二本柱による化学工業への展開を確立した。その後、マーガリンの製造で食品に進出し、現在、「化学品」と「食品」という2つのコアビジネスを基盤としている。

1920年代初頭に古河電気工業が、古河鉱山の銅精錬の副産物利用の研究を足掛かりに、農業用薬品の研究開発を行った。
この事業は旭電化で事業化された。

1928年に旭電化の農業薬品部門と藤井製薬が合併し、我が国初の農薬専業メーカー 日本農薬が誕生した。
現在では、
農薬以外の化学品分野(医薬品・医薬部外品・動物用医薬品等)において、豊富な品目ポートフォリオを構築している。

この経緯で、ADEKAは長年に亘って出資を行っており、役員派遣をはじめとする人材交流や、研究開発部門・生産部門における情報交換を実施する等、長年に亘って良好な関係を構築してきた。


 



2018/8/24 EV充電規格、日中で2020年に統一 

日本発の自動車向け急速充電規格「CHAdeMO(チャデモ)」の普及を担うチャデモ協議会は8月22日、中国の 規格「GB/T」を推進する中国電力企業連合会と新たな規格作りに乗り出すと発表した。8月28日に北京で覚書を結ぶ。

現在の日本の充電器は出力約150キロワット、中国は約50キロワットだが、2020年をめどに同一規格で最大900キロワットの充電器の開発を目指す。充電時間も現在の30〜40分から、最短で10分以下に短縮される。 充電器と車をつなぐコネクターや充電を制御するソフトウエアなどの仕様を統一する。

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電気自動車は世界で普及が進み始めているが、急速充電器とクルマをつなぐ充電口の形状などの規格は、各国や地域で異なっている。

画像ソース http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1407/02/news014.html

 

日本の自動車メーカーや電力会社などが開発したCHAdeMO方式 の充電器は、国内や欧米で約18千台、中国が日本の技術をベースに開発したGB/Tは中国国内で約220千台設置されている。

これに対し、欧米のCombined Charging System(Combo、CCS) は約7千台設置されている。

Combined Charging Systemは、日本のCHAdeMOに対抗するものとして、2012年に米国とドイツの大手自動車メーカー8社(GM、Ford、Chrysler、BMW、Daimler、Volkswagen、Audi、Porsche)が規格作りを発表したもの。

普通充電と急速充電の両方を1個の充電コネクタでカバーすること、直流電力を使った充電にも対応するのが特徴。

なお、Teslaは独自の充電器Superchargerを使っているが、最新のModel S、Model X は中国市場向けにGB/T も使えるようにしている。

日本のCHAdeMO と中国のGB/Tは通信プロトコルにController Area Network(CAN) を使い、欧米はHomePlug Green PHY (HPGP) を使用している。

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日本と中国が同一の通信プロトコルを使っていることが、今回の共同規格作りにつながった。

業界団体と乗用車だけでなくバスやトラックに対応する高出力の規格を2020年に決める。日中で規格を統一すればシェアは9割を超え、電気自動車を充電する規格の国際標準になる可能性がある。

新規格が実用化するとトラックやバスなど車体が大きい商用車に使う大容量電池を容易に充電できるようになる。既にある日中のEV乗用車にも使え、複数の車両を同時に充電できる。電池の改良が進めば充電の時間も減らせる。

規格作りは中国側が主導してとりまとめる。日本側は充電器の技術やノウハウを提供する。2020年に新規格を策定し、中国側は対応した充電器を同年に設置したい考え。準備が整い次第、日本も導入する。

チャデモ協議会の事務局長は、「欧米勢が参加を望み、譲歩をするのであれば、枠組みに入っていただけることは歓迎だ」と述べている。


 

2018/8/25    中国、人民元中間値設定で反循環的要因を再導入
 

中国人民銀行(中央銀行)は8月24日遅く、銀行各行が人民元の中心レート設定において「反循環的」要因を再導入したことと明らかにした。

2017年5月末に変動の抑制、高値誘導のために導入したが、元急落や資金流出への懸念が薄らぎ、2018年1月初めに廃止していた。

しかし、6月頃から急落、最近では2017年1月の最安値に近づいている。

米国の中国からの輸入品への制裁関税に対応するため、中国政府が元安を支持してるのではとの推測も行われていた。

人民元の対ドルでの下落は、8月22〜23日に米国で開いた米中の貿易問題を巡る事務レベル協議でも議題の1つになっていた。

米中の貿易摩擦に早期終結の兆しが見られない中、人民銀行が通貨を支える行動に出たことを示唆している。

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中国人民銀行(中央銀行)は2017年5月26日、人民元の対米ドル取引の基準値の決定に新たな手法を導入すると発表した。

新たに反循環的要因(counter-cyclical factor:中国語で「逆周期因子」)を勘案する。counter-cyclical factorとは変動抑制を意味し、前日の相場が大きく変動した場合でも、基準値の変動を緩やかに抑える仕組みとされる。

  「逆周期因子」:

前日の相場変動のうち、どれだけが実需による値動きかを算出する。実需に拠らない変動は除外する。

実需による値動きに「マイナス3分の2」をかけたものが激変緩和要素となる。

従来は実需の値動きをほぼそのまま反映させていたが、今後は実需の値動きの1/3だけを反映させる。

架空の例で、基準値6.70元/$に対し、実績が6.60元と、0.10元の元安となったとする。
従来なら、6.60元近くに設定していたが、今後は差の1/3だけを反映させ、6.733元とする。

2017/6/5   中国、人民元の中心レート設定方法を変更

2017/6/26  新しい人民元基準値の設定方法

中国人民銀行は2018年に入り、2017年から実施してきた人民元の高値誘導を緩和したことがわかった。元取引の基準となるレート「基準値」の算出法を修正し、元安に振れるのを抑制する特殊な操作を停止する。基準値の算出を事実上、以前の方法に戻す。

好調な輸出を背景に元急落や資金流出への懸念が薄らぎ、管理色が強いとの批判があった措置を見直した。

 

最近の急激な元安に対応し、再度、このシステムを復活させる。

 


2018/8/26 ジョン・マケイン米上院議員 死去 

米共和党の重鎮のJohn McCain III上院議員が8月25日、死去した。81歳だった。

地元のアリゾナ州で脳腫瘍の治療を続けていたが、24日に治療を打ち切っていた。

ベトナム戦争に空母艦載機のパイロットとして派遣され、1967年にハノイ上空で撃墜されて捕虜となった。約5年半にわたる捕虜生活で北ベトナム兵から激しい拷問を受け、腕が肩より上に上げられなくなる障害を負ったが、釈放されるまで虐待に屈せず、「英雄」として帰還した。

退役後は政界に転じ、1982年に下院選で当選した後、1986年から上院議員を務めた。移民制度改革法案を民主党議員と共同提出するなど、内政問題ではリベラル寄りの立場を示した。

2000年大統領選では共和党の指名候補争いでBush(子)元大統領に敗北。2008年の大統領選でObama前大統領に敗北した。

昨年7月に脳腫瘍と診断されてからも議員活動を続けたが、今年は議会には行かず、地元アリゾナ州で闘病を続けていた。

 

上院の議席は、共和党が51、民主党が47、無所属2で、与党 51:野党49であった。

マケイン議員の死亡で与党は50となるが、アリゾナ州知事(共和党)は後任に共和党員を任命すると思われ、体制は変わらない。

辞任や死亡により上院議員の欠員が発生した際には、選出州において補欠選挙を行い、欠けた議員の残りの任期を務める議員を選出する。
但し、補欠選挙の開催時期は州に任せられており、州議会は補欠選挙までの期間に置かれる臨時の議員を指名する権限を州政府に与えることができる。


上院では、数週間後に最高裁判事の指名承認が行われる。

2018/7/10 トランプ大統領、最高裁判事を指名

 


2018/8/27 昭和シェルも米国の天然ガス火力発電事業に参画  

昭和シェル石油は8月24日、日本政策投資銀行との合弁会社(RS Global Capital Investment LLC)を介し、オハイオ州における天然ガス火力発電事業に参画すると発表した。九州電力、四国電力も参画する。

各社が参画するのは、ボストンに本拠を置くAdvanced Powerの子会社 South Field Energy で、米国オハイオ州Columbiana Countyにおいて出力約1,182MWのコンバインドサイクルの天然ガス火力発電所を建設し、2021年に商業運転を開始する。発電する電力は、北米最大のPJM卸電力市場を通じて、米国北東部地域 で販売する。
燃料の天然ガスは、米国内のシェールガス田から調達する。

昭和シェルは、「中期事業戦略」においてアジア太平洋/北米地域における天然ガス火力発電への参画を掲げて いて、本件はその第一歩となる。国内ガス火力発電での知見を活かして米国市場へ参画し、先鋭的なマーケットの知見を吸収して国内電力事業への還元を目指 す。

日本政策投資銀行は、日系企業の海外発電事業分野への進出を支援すると共に、電力自由化で先行する米国にて本件に参画することで、自由化市場でのファイナンスにかかる知見を獲得し、今後自由化が加速するわが国電力市場への還元を目指 す。

本プロジェクトのスキームは次の通り。

出資社は次の通り。

RS Global Capital Investment 昭和シェル / 日本政策投資銀行 約27.2%
九州電力   約18.1%
四国電力   約 8.9%
(日本企業合計)   約 54.2%
Advanced Power 親会社  
NH-Amundi Asset Management 韓国農協銀行の資産管理会社  
PIA Investment Management 韓国の投資会社  
Bechtel Development 子会社    

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日本の商社や電力会社は海外の電力事業に相次いで参加している。

州電力にとっては、米国における3件目の発電事業となる。他の事業は次の通り。
 

事業 Birdsboro Gas-Fired Power Clean Energy Gas
立地 ペンシルバニア州 コネチカット州
運転開始 2019年 2011/7
方式 ガスタービンコンバインドサイクル ガスタービンコンバインドサイクル
出力 48.8万kW 62万kW
売電先 PJM 米国最大の卸電力市場 ISO-NE 北東部6州の卸電力市場
出資社 九州電力    11.1% (双日から)
双日   22.2%
東京ガス 33.3%
Ares EIF  33.3%
九州電力  20.25%
双日           20.25%
大阪ガス       24.30%
中国電力      16.20%
既存出資者 19%

その他地域での事業:

同社は、2030年までに海外の発電事業持分出力を500万kWへ拡大する目標を掲げている。

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四国電力にとってはカタールのRas Laffan C 発電・造水プロジェクト(5%出資)、オマーンでのBarka 3 & Sohar 2 発電プロジェクト(いずれも 7.15%出資)、チリ共和国におけるHuatacondo太陽光発電事業(30%出資) に次ぐ5件目の海外発電事業であり、北米では初の案件となる。

 

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東京電力と中部電力が既存の火力発電事業等を統合して2015年4月に発足した JERAについては、下記の通り。

2018/8/16 JERA、米国北東部での天然ガス火力発電事業への参画

 


2018/8/28 Bayer のMonsanto買収 完了と、Monsantoの除草剤への賠償命令判決 

Bayerは2016年9月14日、Monsantoの買収で合意したと発表した。

債務を含む買収総額は約660億ドル、債務除きでは570億ドルの買収で、2017年末までに完了する見通しとしていた。

2016/9/19  Bayer、Monsantoを買収 

しかし、買収によって農薬や種子などの分野で、競争が損なわれる恐れがあるとみなされ、各国の独禁当局が問題ありとした。

Bayerは2017年10月13日、Monsanto買収を進めるため、特定の Crop Science事業をBASFに59億ユーロで売却すると発表した。

2017/10/16 Bayer、Monsanto買収の独禁法対策で、BASFに一部事業を売却

EUは当初2018年1月8日までに買収を承認するかどうか判断するとしたが、これを3月12日に延ばし、更に4月5日に延ばした。両社の種子、殺虫剤、デジタル農業での重複が問題となった。

EUは2018年3月21日、両社の種子、殺虫剤、デジタル農業での重複の解決を条件に買収を承認すると発表した。

バイエルは2018年4月26日、2017年10月のBASFとの合意内容に加え、BASFに事業と資産を 17億ユーロで売却することで合意した。 (合計76億ユーロ≒ 90億ドル)
新たに追加されたのは以下の事業で、EUや他の諸国の独禁法当局との約束を満たすための処理。

  • Nunhems®ブランドで世界的に販売されているすべての野菜種子事業
  • Poncho®、VOTiVO®、COPeO® 、ILeVO®の各ブランドで販売されている種子処理製品
  • 小麦交配種の研究開発プラットフォーム
  • 最新のデジタル農業プラットフォーム、xarvioTM

米国は5月29日、条件付きで承認した。

これで全ての条件が整い、6月7日に買収が完了、MonsantoはBayerの100%子会社になった。買収額は総額625億ドル。

2018/3/23 EU、バイエルのモンサント買収を承認

 

8月10日にBayer の株価は急落した。

カリフォルニアの陪審員が8月10日に、モンサントの除草剤 Roundup による発癌被害で289百万ドルの賠償評決を下した。このニュースが伝わり、株価が下落した。

Roundup については、全米で7月末で約 8千件の訴訟があるが、最初の裁判である。

原告は学校の校庭の管理人で、30年以上にわたって除草剤を扱ってきたが、非ホジキンリンパ腫にかかっており、医者は2020年まではもたないだろうとしている。
原告の病状を鑑み、審理を早めた。

陪審員は3日間の審議で、Monsantoが原告や他の消費者に除草剤の発癌リスクを伝えなかったとし、損害賠償として39百万ドル、懲罰的損害賠償として250百万ドルの支払いを命じた。

原告弁護士は、今回初めて会社の内部資料が出され、Monsantoが何十年にわたり、glyphosate除草剤、特にRoundupが癌を生む可能性があることを知っていたことが明らかになったと述べ、消費者の安全よりも利益を重視していると非難した。

これに対し、Monsantoは控訴すると述べた。glyphosateは世界で最も広く使用されている除草剤で、発癌性はなく、何十年もの研究が人体に安全であることを示しているとしている。

和解は考えておらず、他の訴訟も含め、精力的に戦うとしている。

付記

San Francisco Superior Court は10月23日、損害賠償は39百万ドルのままとし、懲罰的賠償は39百万ドルに大幅減額した。

しかし、Bayer主張の無罪にならなかったため、Bayerの株価は下落した。

付記 

米カリフォルニア州地方裁判所の陪審は2019年3月19日、「Roundup」を長年使用し、喉に悪性リンパ腫を患った男性がモンサント側を相手取って訴えていた裁判で、ラウンドアップががんを発生させた「事実上の要因」だったとの評決を下した。

Edwin Hardeman(70)は1980年から2012年にかけ、カリフォルニア州北部Sonoma郡の自宅でラウンドアップを定期的に使用。その後、がんの一種である非ホジキンリンパ腫と診断された。

陪審は3月27日、80百万ドルの賠償を命じた。被害に対して527万ドル、懲罰的賠償が75百万ドル。

付記

サンフランシスコの地裁判事は2019年7月16日、25.27百万ドルに減額した。被害に対しては527万ドルを認めたが、懲罰賠償は20百万ドルに減額した。被害に対して15倍もというのは憲法から認められないとした。(最高裁は比率を9:1としている。)

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日本でラウンドアップを扱う日産化学は8月15日、下記の発表を行った。

本訴訟は2015年に国連の世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関(IARC)が、ラウンドアップの有効成分であるグリホサートをグループ2A(ヒトに対しておそらく発がん性がある)に分類したことに基づいて起こされたものと思われます。
 
グリホサートの安全性については、IARCと同じ国連のFAO/WHO合同残留農薬専門家会議(JMPR)が2016年5月に「食を通じてグリホサートがヒトに対して発がん性のリスクとなるとは考えにくい」と発表しました。
 
農薬に関しては、日本を含む各国の規制当局が、発がん性を含む様々な項目についての適正なガイドラインに沿った多数の試験成績を基に、継続的かつ厳正に審査したうえで使用を認可しています。
 
日本では内閣府食品安全委員会が2016年7月に「神経毒性、発がん性、繁殖能に対する影響、催奇形性及び遺伝毒性は認められなかった」と結論付けた評価書を発表しています。

また、欧州では欧州食品安全機関(EFSA)が2015年11月に「グリホサートは発がん性または変異原性を示さず、受精能、生殖、胚発生に影響する毒性を持たない」、欧州化学物質庁(ECHA)が2017年3月に「グリホサートは発がん性物質、変異原性物質あるいは生殖毒性と分類する基準に合致しない」という見解を示しました。

さらに、米国では米国環境保護庁(EPA)が2017年12月に「グリホサートはヒトに対して発がん性があるとは考えにくい」と結論付けた評価書案を公表しました。
 
当社はこの判決が農薬規制当局の従来の判断に影響を与えるものではないと考えております。

WHOのIARC (国際がん研究機関) は人の非ホジキンリンパ腫に対して限られた根拠があり、さらに動物実験では発がん性の明白な根拠がある」としている。
非ホジキンリンパ腫とglyphosateの年間使用日数に「相関関係」が見られたというもので、原告が30年以上扱ってきたという事実には合致する。

 


2018/8/29 福島原発のトリチウムを含む低濃度汚染水を巡る問題 

福島第一原発の放射性物質トリチウムを含んだ低濃度汚染水は、事故後は構内にため続けており、今年2月時点で約105万トンあるタンク貯蔵水のうち約85万トンを占めている。
タンクの容量は現状で約110万トンで、東電は2020年までに137万トンまで増設を計画しているが、それ以降については未定。

経済産業省は放射性物質トリチウムを含んだ低濃度汚染水の処分方法をめぐり、公聴会を開く。
富岡町では、8月30日午前10時〜午後0時半、郡山市では31日午前9時半〜正午に開く。31日午後には東京都内でも開かれる。

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トリチウムは、質量数が3、すなわち原子核が陽子1つと中性子2つから構成される水素の放射性同位体である。半減期は約12年。
(水素は陽子1つのみ、重水素は陽子1つと中性子1つ)

通常の水とトリチウム水には化学的な差がほとんどなく分離が難しい。

日本ではこれまでは、排水の一部として海に流されていた。

1979年の米国のThree Mile Island原発事故では、トリチウム水が9000トン発生した。これは放出基準を満たしていたが、内陸のため、下流域で飲料水を取水する都市が反対した。
このため、1991年から1993年にかけて大気中
に蒸発させて処理した。

福島第一原発の廃炉作業について3回目の調査を行っていたIAEA(国際原子力機関)の調査団は2015年2月17日、調査報告書を発表した。そのなかで、汚染水を処理したあとのトリチウムを含んだ水について、国の基準以下まで薄めて海に放出することも含め検討する必要があるという考えを示した。

調査団のJuan Carlos Lentijo団長は記者会見で、汚染水対策が直近の課題だとした上で、以下のとおり述べた。

環境への影響がほぼ無視できることが確認されれば、管理した上で(国の基準以下まで薄めて) 海へ放出することは、福島第一原発の状況を大幅に改善できる有力な選択肢だ 。
海洋放出は(人や環境に)ほとんど影響しない。
濃度が国際的な基準値以下のトリチウム水を海に流すことは世界中の多くの原発で行われている。

実際の海洋放出にあたっては、漁業関係者や地元住民による受け入れや丁寧な放射能モニタリングが欠かせない。

原子力規制委員会の田中俊一委員長(当時)は2013年9月2日、日本外国特派員協会で講演し、汚染水問題への対応で、放射能濃度を許容範囲以下に薄めた水を海に放出する必要性を強調した。

2015/2/20 IAEA調査団の福島第一原発・廃炉作業の調査報告書 

 

ここにきて、第一原発の汚染水を処理した後の水にトリチウム以外の複数の放射性物質が残留していることが報道された。

8月19日に共同通信が取り残しを報じた後、8月23日には河北新報が、2017年度のデータを検証したところヨウ素129が法律で定められた放出のための濃度限度(告示濃度限度)を60回、超えていたと報じた。

東京電力福島第1原発の多核種除去設備(ALPS)で汚染水の浄化後に残る放射性物質トリチウムを含む水に、他の放射性物質も除去しきれず残っている問題で、排水の法令基準(1リットル当たり9ベクレル)を超えるヨウ素129の検出が2017年度に約60回あったことが分かった。2018年度も既に10回を超え、同様のペースで起きている。

原子力規制庁も実態を把握しており、フィルターの性能低下の可能性を指摘する。

東電は既設、増設、高性能の各ALPSの処理水の放射性物質濃度を定期的に測定。2017年度のヨウ素129の測定結果は1リットル当たり40ベクレル以上が9回あった。9月18日に採取した処理水は62.2ベクレルに上った。

東電は、能力に問題はないとして「ALPSの運用継続による汚染水処理を優先している」などと説明。基準超えが続いても「敷地境界の空間放射線量の目標値(年間1ミリシーベルト未満)には影響がないように運用している」と強調する。 

原子力規制庁の担当者は「基準超えの頻度増加は把握している。フィルターの性能低下が原因なら、交換で回復できるのではないか。ただ汚染水の放射性物質濃度は低減されており、直ちに問題とは言えない」と話した。

原子力規制委員会が認可した福島第1原発の実施計画では、ALPSの設置目的はトリチウム以外の放射性物質の濃度を基準値未満に下げることと明記している。

付記

東京電力は9月28日、福島第1原発の汚染水を浄化した後にタンクで保管している水の約8割に当たる75万トンで、トリチウム以外の放射性物質の濃度が排水の法令基準値を超過しているとの調査結果を明らかにした。今後、海洋放出など処分をする場合には、多核種除去設備(ALPS)などで再浄化するとしている。

 

これについて、原子力規制委員会の更田豊志委員長は22日、トリチウム以外についても希釈して法令基準濃度を下回れば海洋放出を容認する考えを示した。(東京新聞 8月23日)

更田委員長は、汚染水を浄化するALPSの運用開始当初から残留を認識していたとして「希釈すれば法令基準を下回るのは明白なことで、大きく問題にすることがなかった」と説明。汚染水の処分方法としての海洋放出に関し「現実的な唯一の選択肢」との考えを改めて示した。

委員長が、委員会が承認したALPS設置での「トリチウム以外の放射性物質の濃度を基準値未満に下げること」の条件に違反して当初から他の放射性物質が残っていることを知っており、これを明らかにしなかったことは問題である。 政府、委員会、東電の説明の信頼性が失われる。

福島県の内堀雅雄知事は20日の記者会見で、次の通り述べた。

現在保管されているトリチウム水の状況は非常に重要です。トリチウム水の今後の取扱いについては、現在、国において、社会的な影響も踏まえた議論がなされているところであり、今月末には広く国民から意見を聴く公聴会が開催されます。国及び東京電力においては、こうした現在のトリチウム水の状況というデータも含めて、環境や風評への影響などを国民や県民に丁寧に説明し、慎重に議論を進めていただきたいと考えております。

(海洋放出について)
科学的なデータももちろん重要ですが、一方で、社会的な影響、特に風評の問題をどのように勘案していくか、あるいは対応していくかが、福島県全体にとって重要であると考えております。

あの震災と原発事故から7年5か月が経過しておりますが、我々は依然として、風評に苦しめられております。例えば、海外では福島県産の農産物等に輸入規制をかけている国がまだ20数か国に及ぶのが現実です。こういった社会的影響への対応が一つの重要な側面でもありますので、国及び東京電力に対しては、環境や風評への影響などについて、しっかりと議論を進めて、丁寧に説明し、慎重に対応していくことを求めてまいりたいと考えております。

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別途、6月29日に、大学プレスセンターが、汚染水からトリチウム水を取り除く技術の開発を発表した。

近畿大学工学部教授 井原辰彦、近畿大学原子力研究所、東洋アルミニウムおよび近大発のベンチャー企業である株式会社ア・アトムテクノル近大らの研究チームが、「トリチウム水」を分離・回収する方法及び装置を開発した。
 
研究チームは、多量の小さな穴を持つ構造「多孔質体」と、「毛管凝縮」に着目し、この現象を除染技術に応用するため研究を進めてきた。

完成した多孔質体は、直径5nm以下の大きさの微細な穴「細孔」を有し、毛管凝縮によって細孔内に水とトリチウム水を取り込んだ後、トリチウム水を細孔内に保持したまま、水だけを放出する機能がある。
この多孔質体を格納したフィルターによって、汚染水からトリチウム水を高効率に分離することができる。

また、多孔質体を加熱することで、細孔内に残ったトリチウム水を放出し回収することができ る。装置は繰り返し利用できるため、低コストでのトリチウム除染が可能となる。

ベーマイト処理済み(アルミニウムに熱水処理を施すことで、アルミニウム系酸化皮膜を形成)のアルミニウム粉末焼結多孔質フィルターを格納した本発明装置を用いて、実証実験を行った結果は下図の通り。いずれも処理量が増加するにつれて除染率は低下するが、ベーマイト処理を行ったフィルターでは初期段階で、ほぼ100%除染されていることを確認した。


チームは今後、福島県内の企業などと協力し、原発の汚染水処理ができる実用機器の開発を進めるという。

処理すべき水は大量であり、実用までには時間がかかると思われ、政府、東電がそれを待つとは考え難い。


付記

研究で中心的な役割を担ってきた井原特別研究員は「さらなる研究のため」として政府系の補助金を申請したが、通らなかった。

また、実用化に向け、大量のトリチウムを扱ったさいにどんな課題が生じるのか試験する必要があり、東電に第一原発の敷地内で試験がおこなえないか打診したが東電は協力を拒否した。

当時の梶山経産相は「近畿大の研究技術は承知している」「まだ実験室レベルでの研究」と突き放し、この2カ月後に海洋放出を処理方針とした。

 

 



2018/8/30      日本たばこ、
Gilead Sciencesの抗HIV薬のライセンス販売解消へ

日本たばこ産業(JT)は8月27日、米
Gilead Sciencesからのライセンスに基づき日本で子会社の鳥居薬品を通じ販売している抗HIV薬6製品について、日本国内ライセンス契約の解消に向けGilead Sciencesと協議を開始すると発表した。

JT と Gilead は、2003 年に「ビリアード錠 300mg」「エムトリバカプセル 200mg」「ツルバダ配合錠」、2010 年に「スタリビルド配合錠」、2011 年に「ゲンボイヤ配合錠」「デシコビ配合錠 LT/HT」の日本国内における独占的開発・商業化権に関する契約を締結して いる。

また、JT と鳥居薬品は、当該薬品の日本国内における独占的販売権に関する契約を締結し、日本国内での販売は鳥居薬品が行っている。

鳥居薬品は、1872年に鳥居徳兵衛が横浜市に洋薬輸入商「植野屋」を創立したのを始めとする。
1921年に鳥居商店を設立、1949年に鳥居薬品とした。
1998年にJTが子会社とした。(53.46%所有)
1999年にJTとの間で、医薬品の営業機能は鳥居へ統合、R&D機能はJTへ集中することとし、2006年にはJTの医薬品製造拠点を鳥居の佐倉工場に統合した。

今般、Gilead が、@同社創製の新規抗HIV 薬 Biktarvyの 日本国内での承認取得及び販売を同社子会社であるギリアド・サイエンシズを通じて行うと決定した旨の連絡と、A上記 6薬品の日本国内における独占的ライセンス契約の解消に関する提案を受け た。

Biktarvyは2月に米国、6月に欧州で承認された。2018年第2四半期売上は1億8300万ドル。
日本では承認申請準備中で、年内中の申請を目指す。

抗HIV薬はGilead の最重点領域であり、日本でも自社販売体制を整え、事業を強化したい考え。

 

JT と Gilead 社との間で協議を開始するとともに、JT と鳥居薬品との間で日本国内における独占的販売権に関する契約の解消に向けた協議を開始する。

今後、JT と Gilead との間ではライセンス契約解消の対価を含む諸条件、JT と鳥居薬品との間では販売契約解消の補償を含む諸条件について協議をし、契約締結に向けそれぞれ最善の努力を行う。

JTとの契約に基づき国内販売している鳥居薬品は、年間製商品売上高の1/3を抗HIV薬が占め、ライセンス解消となれば、事業に与える影響は大き い。

鳥居薬品 売上高(億円)

  2016/12月期 2017/12月期 2018/12月期(予)
全社 602 641 607
デシコビ配合剤 - 92 136
ゲンボイヤ配合剤 19 63 73
ツルバタ配合剤 128 39 4
スタリビルド配合剤 24 1 0
他2剤 1 3 1
(HIV感染症領域 計) 172 198 214
全社 当期利益 28 47 26

「デシコビ配合錠」は、国内では2017年1月に発売された。本配合錠は、「ツルバダ配合錠」の2つの有効成分のうち、テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩をテノホビル アラフェナミドに置き換えた配合錠。

「ゲンボイヤ配合錠」は、国内では2016年7月に発売された。本配合錠は、「スタリビルド配合錠」の4つの有効成分のうち、テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩をテノホビル アラフェナミドに置き換えた配合錠で、1日1回1錠の服薬で治療を行う抗HIV薬。

「ツルバダ配合錠」は、国内では2005年4月に発売された。ツルバダ配合錠に含まれる2つの抗HIV薬は、いずれもHIV逆転写酵素を特異的に阻害することによりHIVの増殖を阻害する薬剤。

「スタリビルド配合錠」は、国内では2013年5月に発売された。抗HIV薬を含む4成分を含有するスタリビルド配合錠の発売により、国内では初めて、1日1回1錠の服用でHIV感染症の治療が可能になり、患者の服薬利便性を改善することで長期的な服薬アドヒアランスの維持・向上が期待できる。

 



2018/8/31   韓国 POSCO、アルゼンチンのリチウム湖の採掘権を取得

韓国 POSCOは8月27日、豪州の資源開発企業 Galaxy Resources Limited との間でアルゼンチンのSalar del Hombre Muerto(オンブレ・ムエルト塩湖)の鉱業権売買契約を締結したと発表した。POSCOはこのプロジェクトを「Sal de Oro(黄金の塩)」と名付けている。2億8000万米ドルを投資する。

Galaxy Resourcesは、豪州、カナダ、アルゼンチンでリチウム探査と開発事業を手掛けている。

付記

POSCOグループは2022年3月22日、オンブレムエルト塩湖に40億ドルを投資すると発表した。年間10万トンの水酸化リチウムを生産する体制を整える。
当初、8億3000万ドルの投資を検討したが、リチウム価格の高騰を受け、投資額を大幅に増額した。

3月23日には年産2万5000トンの水酸化リチウムプラントの起工式を行う。

POSCOポスコグループは同日、アルゼンチン政府とリチウムプラント増設および正極材生産に関する協力を進める内容の覚書を交わした。

POSCOが鉱業権を確保したのは、オンブレ・ムエルト塩湖の北部地域で、1万7500ヘクタール規模。POSCOはここで2021年から20年間、毎年2万5000トンのリチウム生産を見込んでいる。1回の充電で走行距離320キロ以上の高性能電気自動車約55万台のバッテリーを生産できる量である。

 

 POSCOはリチウムなど二次電池の素材について従来の主力産業の鉄鋼を上回る「未来産業」と判断し、2010年から注力してきた。研究開発と生産工場の設立などにすでに1000億ウォン(9千万米ドル)以上を投資している。

 しかしその間、原料の確保に苦戦し、大きな成果にはつながらなかった。2013年にはチリのマリクンガ塩湖でリチウムを生産しようとしたが契約に至らず、2015年から昨年まで毎年、別のアルゼンチンの塩湖を確保しようとしたが途中で座礁した。

このため、塩水の代わりに鉱石のリチウム精鉱からリチウムを抽出する技術と廃バッテリーからリン酸リチウムを抽出する技術を開発した。

POSCOは世界で唯一、リチウムを3つの方法で抽出できる企業となった。
 △塩湖に溶けている炭酸リチウムから抽出、
 △鉱山での採掘と加工されたリチウム精鉱から抽出、
 △捨てられた廃二次電池から抽出など。

POSCOは本年2月、豪州の鉱山開発企業Pilbara Mineralsから年間3万トンのリチウムを生産できる分量の毎年最大24万トンのリチウム精鉱(自然鉱石加工品)の供給を受ける長期契約を締結した。

そして今回、塩湖の権益確保に至った。

POSCO関係者は「世界で唯一、3つの方式のリチウム通出技術を保有することになった」とし「原料の需給問題が完全に解消しただけに、今後は二次電池素材事業の競争力がさらに強まるだろう」と述べた。

 

川下でも事業を拡大している。

POSCOは亀尾(クミ)工場を増設する予定であり、光陽(クァンヤン)には新工場を建設している。

POSCOは本年1月、中国の華友鈷業(華友コバルト)との浙江省での2つのJV設立を発表した。リチウムイオン電池材を生産する。

前駆体の合弁生産会社には、コバルトなど原材料を供給する華友鈷業が60%、POSCOが40%出資する。
陽極材を生産する合弁会社には生産技術のあるPOSCOが60%、華友鈷業が40%出資する。

合弁会社は年産4600トン規模で2020年下期からの生産開始を目指す。

POSCOは本年3月、バッテリーメーカーのSamusung SDI と共同で、チリに575億ウォン(約58億円)を投じ、EV向けリチウムイオン電池の主要部材となる正極材の生産工場を設けることを決めた。

チリの産業振興公社(CORFO)が実施する両極材の生産プロジェクトの入札で、POSCOと Smsung SDIのコンソーシアムが事業者として選定さた。入札には米国や中国、ロシアなど7カ国12社が参加した。

チリ北部に位置するメヒヨネスに生産合弁会社を設立する。2021年下期から年間3,200トン規模のEV用正極材を生産する。

 

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