2019/9/15 2019年イグ・ノーベル賞に渡部・明海大教授ら
「イグ・ノーベル賞」の授賞式が9月12日、米ハーバード大で行われた。
5歳児の唾液の量が1日約500mlであることを明らかにした渡部茂・明海大教授らのチーム5人が化学賞を受賞した。
複雑な機器は使わず、子供が紙コップの中に吐いた唾液を量るという地道な取り組みが評価された。
渡部さんたちは5歳の子供30人に協力を求め、食べ物をかんでいる時と何もしていない時でそれぞれ5分間、紙コップに唾液を吐いてもらい、その量を調べた。
それぞれの唾液の量と、子供が1日に費やす食事の時間とそれ以外の時間などを基に、1日の唾液の量は約500 ml と割り出し、論文にまとめた。
渡部さんによると、論文を発表した1995年頃、虫歯予防に重要な役割を果たす唾液の研究は少なく、論文は今も世界中の研究者が引用しているという。
受賞者にはハイパーインフレ時代の10兆ジンバブエドルが手渡される。 2019年の受賞は以下の通り。
医学賞
Collecting evidence that pizza
might protect against illness and death, if the pizza is made and
eaten in Italy
ピザは病気あるいは死の予防となるが、ただしそのピザはイタリア製かつイタリアで食べた場合、という理論を裏付けるデータを導いた。 |
医学教育賞
Using a simple animal-training
technique— called “clicker training” —to train surgeons to perform
orthopedic surgery
整形外科医の手術の訓練には簡単な動物訓練技術、クリッカートレーニングを使う。
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生物学賞
Discovering that dead magnetized
cockroaches behave differently than living magnetized cockroaches.
磁場に置いた死んだゴキブリは、磁場に置いた生きているゴキブリと違う動きをすることを発見 |
解剖学賞
Measuring scrotal temperature
asymmetry in naked and clothed postmen in France
裸のときと服を着たときの、フランスの郵便配達人の陰嚢の温度の非対称性を測定 |
化学賞
Estimating the total saliva
volume produced per day by a typical five-year-old child
上記 |
工学賞
Inventing a diaper-changing
machine for use on human infants
幼児向けおむつ交換器の発明
箱、ガラス窓、座席、足ホルダー、安全ベルト、オムツ交換アーム、スプリンクラー、乾燥機で構成
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経済学賞
Testing
which country’s paper money is best at transmitting dangerous
bacteria
どの国の紙幣が危険なバクテリアを移すのに最適かのテスト
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平和賞
Trying to measure the
pleasurability of scratching an itch
かゆみを掻くことで得られる快感を測定 |
心理学賞
Discovering
that holding a pen in one’s mouth makes one smile, which makes one
happier — and for then discovering that it does not
最初に、ペンを口の中で吸うと人は笑顔になり、その人は幸せになるということを発見したが、後になり、そうではなかったということを発見 |
物理学賞
Studying how, and why, wombats
make cube-shaped poo
ウォンバットはどのように四角い糞をするのか、そしてそれはなぜか
ウォンバットの腸壁の独特な柔軟さにヒミツがあることが分かった。
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過去のイグ・ノーベル賞については、下記を参照。
日本人の受賞は次のとおりで、2005年までに11件、2007年からは13年連続で14件(2013年は2件)で、合計25件の受賞となった。
なお、2008年の認知科学賞と、2010年の交通計画賞は、同一テーマの研究の延長で受賞している。
(敬称略)
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名前 |
受賞 |
1992 |
神田不二宏ほか
(資生堂研究センター) |
薬学賞
足の匂いの原因となる混合物の解明 |
1994 |
気象庁 |
物理学賞
地震が尾を振るナマズによって引き起こされるかどうかを7年間研究した功績 |
1995 |
渡辺茂(慶應義塾大学)
坂本淳子
脇田真清(京都大学) |
心理学賞
ハトの絵画弁別(ハトを訓練してピカソとモネの絵を区別できるようにした)功績 |
1996 |
岡村長之助
(岡村化石研究所) |
生物学的多様性賞
岩手県の岩石から古生代石炭紀(約3億年前)の石灰岩中に超ミニ恐竜化石を
発見した功績
(小さな石を顕微鏡で見て超ミニ恐竜化石だと主張して発表) |
1997 |
舞田あき(バンダイ)
横井昭宏(ウィズ) |
経済学賞
バーチャルペット(たまごっち)の開発によりバーチャルペットへの労働時間を
費やさせた功績 |
1997 |
柳生隆視 他
(関西医科大学) |
生物学賞
様々な味のガムをかんでいる人の脳波を研究 |
1999 |
牧野武
(セーフティ探偵社) |
化学賞
妻や夫の下着に適用して精液の跡を発見できる浮気検出スプレーの開発. |
2002 |
佐藤慶太(タカラ社社長)
鈴木松美(日本音響研究所)
小暮規夫(獣医学博士) |
平和賞
コンピュータ・ベースでの犬と人間の言葉を自動翻訳するデバイス「バウリンガル」開発 |
2003 |
広瀬幸雄 教授
(金沢大学) |
化学賞
銅像に鳥が寄りつかないことをヒントに、カラスを撃退できる合金開発 |
2004 |
井上大佑 |
平和賞
カラオケを発明し、人々に互いに寛容になる新しい手段を提供 |
2005 |
中松義郎
(ドクター中松) |
栄養学賞
36年間にわたり自分が食べたすべての食事を撮影し、食べ物が頭の働きや体調に
与える影響を分析 |
2007 |
山本麻由 |
化学賞
牛糞からバニラの芳香成分 vanillin の抽出 |
2008 |
中垣俊之ほか |
認知科学賞
真正粘菌変形体という巨大なアメーバ様生物が迷路の最短経路を探し当てる |
2009 |
田口文章ほか |
生物学賞
パンダのフンから抽出したバクテリアを使って台所の生ゴミを分解し、9割減量 |
2010 |
中垣俊之ほか |
交通計画賞
粘菌が交通網を整備 |
2011 |
今井眞ほか |
化学賞
わさびの臭いが火災報知器の役割を成す理想的な空気中のわさび濃度 |
2012 |
栗原一貴、塚田浩二 |
音響賞
迷惑を顧みず話し続ける人の話を妨害する装置「スピーチジャマー」を開発 |
2013 |
新見正則ほか |
医学賞
心臓移植したマウスにオペラを聴かせると生存期間が延びた |
今井真介ほか |
化学賞
タマネギの催涙成分をつくる酵素 |
2014 |
馬渕清資ほか |
物理学賞
「バナナの皮を踏むとなぜ滑りやすいのか」を実験で解明 |
2015 |
木俣肇 |
医学賞
情熱的なキスの生物医学的な利益あるいは影響を研究するための実験 |
2016 |
東山篤規、足立浩平 |
知覚賞
股のぞき効果 |
2017 |
吉澤和徳、上村佳孝 |
生物学賞
ブラジルの洞窟で見つかった新種の虫の雌が「ペニス」のような器官を持ち、
それを使って雄と交尾することを解明 |
2018 |
堀内朗 |
医学教育賞
座位で行う大腸内視鏡検査 |
2019 |
渡部茂 |
化学賞
5歳児の唾液の量 |
付記
2020 |
西村剛 |
音響学賞
ヘリウムを吸ったワニの鳴き声 |
2019/9/16 中国、対米追加関税除外を拡大
国務院関税税則委員会は9月11日に対米追加関税対象商品の除外リスト第1弾、16品目を発表した
。
続いて、
中国は9月14日、大豆や豚肉などの追加関税適用を除外するとともに、農産物を一定量購入することを決めた。
新華社は9月14日、下記の通り報じた。
中国国家発展改革委員会、商務部の関係者によると、中国は関連企業が市場化の原則と世界貿易機関(WTO)のルールに基づき、大豆や豚肉などの農産物を米国から一定数購入することを支持し、国務院関税税則委員会はこれらの購入に対して追加関税の適用を除外する。
米国はこのほど、10月1日から実施するとしていた中国製品への追加関税措置に対する調整を決定した。
トランプ米大統領は9月11日、2500億ドル分の中国製品に対する制裁関税の拡大を10月15日に先送りすると発表した。10月1日に税率を現在の25%から30%に引き上げる予定だった。
同日に中国が建国70周年を迎えるのにあたり、劉鶴副首相から要請を受けたという。硬軟織り交ぜて中国から譲歩を引き出す狙いとみられる。
中国の関係部門は、中国の市場規模は大きく、米国の良質な農産物の輸入の見通しは明るいと表明。米国が約束を守り、両国の農業分野の協力に有利な条件を作り出すよう望むと語った。
付記
中国国務院は12月6日、米国産大豆と豚肉の追加関税免除を続けると発表した。
関税免除枠を使い切り、他国産に切り替えるとの見方が米国で広がっていた。
10月輸入量は、大豆は前年同月比17倍、豚肉は15倍であった。
大豆と豚肉の対米関税は次の通り。
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基本関税 |
追加関税 |
合計 |
2018/7 |
2019/4 |
2019/9 |
大豆 |
3% |
+25% |
|
+5% |
33% |
豚肉 |
12% |
+25% |
+25% |
+10% |
72% |
なお、中国では豚コレラの影響で豚肉価格が急騰して
おり、海外からの豚肉調達が急務になっている。
報道では、中国の国営商社などが100万トンを超える米国産大豆を買い付けた。米輸出業者と約20の船舶を使って11〜12月に出荷する契約を結んだ模様。
今後も中国の大豆購入は継続する見通しで、数回に分けて計500万トン程の成約が見込まれるという。
米農務省は9月13日、中国に輸出する米国産大豆
204千トンの買い付けがあったと発表した。
中国政府は10月初旬の閣僚級貿易協議を前に、米政権に歩み寄る姿勢を示したとみられる。
トランプ大統領は9月12日に協議事項を絞り込む「暫定的な合意」を検討する可能性に言及した。ブルームバーグ通信によると、米政権内部では中国が知的財産権保護と米農産品購入を約束すれば、制裁関税の税率引き上げを再延期することなどを検討したという。
ーーー
中国は米国の追加関税に対する報復関税をかけてきた。
2018/7/6 |
340億ドル |
25% |
2018/8/23 |
160億ドル |
25% |
2018/9/24 |
600億ドル |
5%〜25% |
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2019/9/1 |
)750億ドル分 |
5%か10% |
2019/12/5 |
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中国政府は対米追加関税の適用除外制度を設けることを決めた。
国務院関税税則委員会は5月31日に、第1期の申請対象品目リストや申請事項、申請用ウェブサイトの操作マニュアルを発表した。
中国国務院関税税則委員会は9月11日、対米追加関税の適用除外品目の第1弾(リスト1・リスト2)を公表した。
これら16品目には9月17日から2020年9月16日までの1年間、米国の通商法301条に基づく措置への対抗措置としての追加関税賦課を行わない。
リスト1の品目は、潤滑油、医療用X線機器、有機界面活性剤、小エビおよび稚エビ、アルファルファなど12品目で、すでに徴収した追加関税については還付される。
リスト2は、ホエイ(乳清)および調製ホエイ、潤滑油基礎油、離型剤、イソパラフィン溶剤の4品目で、これらについてはすでに徴収した追加関税は還付しない。
適用除外の審査は、主に次の3つの基準で行われた。
(1)企業が代替輸入先を探すのが困難、
(2)追加関税賦課が企業に明らかな経済的悪影響を与える、
(3)追加関税賦課が関係産業にマイナスの構造的影響を与える。
また、「稚エビやアルファルファ、離型剤など、国民の生活の質や産業発展に必要な品目が含まれたことは、中国政府が国民と在中国企業に責任ある対応をすることを示す」とされた。
今回発表された16品目には、企業からの適用除外申請総数の約3分の1に当たる約300件の申請があった。
同委は今後も続けて対米追加関税対象商品の除外作業を進め、後続の除外リストを適時発表するとしている。
2019/9/16 サウジ、石油生産の半分停止
サウジアラビア内務省は9月14日、Saudi Aramcoの東部の石油施設2カ所が無人機の攻撃を受け、出火したと明らかにした。
攻撃を受けたのはサウジ東部のアブカイク(Abqaiq)、クライス
(Khurais)にある施設2カ所。現場近くには世界最大規模の石油処理施設や、油田がある。
15日までに火災は鎮火し、Aramcoは「攻撃にともなう負傷者はなかった」としている。
アブドルアジズ・エネルギー相は、日量570万バレル分の生産が減少したと明らかにした。これは世界最大の石油輸出国であるサウジの生産量のおよそ半分で、世界の石油供給の5%以上に相当する。
天然ガスも通常の生産の約半分に影響が出ている。
英紙はサウジ・エネルギー省に近い人物が「施設を強化し最大の能力まで高めるには数週間かかる」と述べたと報じた。
付記
原油の減産で随伴ガスも減り、サウジの石油化学各社は原料が削減されたと発表した。
SABICは49%削減、Yansabは30%、Saudi Kayanは50%としている。
Petro Rabigh はエタンガスが8%、原油が12.5%カットされたと発表。(西岸のため影響は少ない)
同社は9月24日、原油供給が通常水準に戻ったと発表した。
付記
サウジのエネルギー相は9月17日夜、以下の通り述べた。
・9月末までに日量1100万バレル、11月末までに1200万バレルに回復する。
・輸出には打撃が及ばなかった。
・9月も顧客に契約分を届けられる。
付記
SABICは9月26日、原料供給が通常レベルに戻ったと発表した。当初49%削減されたが、9月18日には30%カットになっていた。
同社は原料カットで損益に影響が出ていないとしている。
付記
サウジのエネルギー相は10月3日、アラムコの生産量が攻撃前の水準に回復したと述べた。
イエメンの親イラン武装組織フーシは、無人機(ドローン)10機によってサウジへの攻撃を実施したと発表した。
ただ、ポンペオ米国務長官は「無人機がイエメンから飛来した証拠はない」と述べ、イランが直接関与した可能性も示唆した。
イラン外務省は関与を否定した。
サウジ東部では8月17日に、サウジ東部シェイバー(Shaybah)
油田に無人機(ドローン)10機で攻撃、天然ガス施設がフーシ派の攻撃を受けたばかり。この時は石油生産に影響は出ていない。
サウジは軍事介入するイエメン内戦でフーシ派の後ろ盾イランと対立、緊張が高まっている。
週明け9月16日の原油市場で、国際指標の北海ブレント原油先物は日本時間同日朝の取引で、期近11月物が一時1バレル71.95ドルと前週末より11.73ドル(19%)上昇した。
ニューヨーク市場でも15日(日本時間16日早朝)の原油先物10月物の価格は1バレル63ドル台前半と先週末の終値より15%あまり上昇した。
トランプ米大統領は9月15日、原油価格への影響を踏まえ「必要なら戦略石油備蓄を放出することを承認した」とツイッターに投稿した。
2019/9/17
米最高裁、政権の難民申請制限を支持 訴訟中の実施認める
米連邦最高裁は9月11日、中米移民の難民申請資格を大幅に制限するトランプ政権の規則について、訴訟継続中は全国での実施を認める判断を示した。
政権は「最初の機会に保護申請することを拒んだ亡命希望者」を排除するために同規則が必要だと主張しており、トランプ大統領はツイッターで「最高裁における大勝利だ」と述べた。
ーーー
米政府は7月15日、メキシコを経由するエルサルバドルなど中米諸国からの移民による難民申請を事実上不可能にする新規則を発表した。
南部国境で難民申請する人はメキシコの南から陸路で移動する中米グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの人たちが大半だが、米国にたどり着く前に通過した国(メキシコかグアテマラ)で難民認定を求めた上で拒否された経緯がなければ、米国への難民申請ができなくなる。
「多数の根拠のない難民申請が、米国の入国管理制度に異常な負荷をかけている」とし、こうした申請が「亡命の人道的目的」を損ない、密入国を悪化させていると指摘した。
トランプ政権は新政策について協力をメキシコ、グアテマラ両国に求めたが、合意できないまま発表に踏み切った。
新規則は7月16日から実施する。第三国で難民申請を却下された人や、人身売買の犠牲者などは例外としている。
バー司法長官は声明で「この規則は経済移民や米国の難民システムを悪用しようとする者を減らす」と指摘し、合法的な規制だと主張した。
民主党のペロシ下院議長は
「大統領は米国への亡命という命綱を急いで破壊しようとし、人命に大打撃を与え、われわれの価値観を侮辱し、何十年にわたる先例と法律から逸脱している。この残酷な新規則は移民社会と有色人種コミュニティーに対する現政権の蔑視と無視を完全に露呈した」と指摘した。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は声明で、新規則に「深い懸念」を表明した。
米国自由人権協会(ACLU)などの団体は、中米からの移民の大半がメキシコ国境で難民申請するのを不可能にするトランプ政権の新たな規則は国内法と国際法に違反するとして提訴した。
ーーー
ワシントンの連邦地裁は7月24日、差し止め要請を退ける判断を示した。
米カリフォルニア州邦地裁は同日、適法性に異議が唱えられている間、実施を差し止めるよう求める米国自由人権協会と移民人権団体の要請を認め、全米を対象に新たな難民申請規制を差し止めた。
その後、第9巡回区控訴裁判所が差し止め命令の対象範囲を狭める判決を下したが、同地裁は9月9日に再び全米を対象とする差し止め命令を出し、翌10日に第9巡回区控訴裁が対象を再び狭めていた。
こうした状況で司法省は最高裁に判断を求めた。
連邦最高裁は9月11日、米南部国境から入国する移民による難民申請を事実上不可能にする新規則について、合憲性を問う訴訟の判決が出るまで有効とする判断を示し
、差し止め命令は解除された。
最高裁判事9人のうち、リベラル派の
Sotomayor 判事とGinsburg
判事が反対に回った。他の判事の賛否については公表されていない。
Sotomayor
判事は、「行政府はまたしても、規則を発令して迫害からの保護を求める難民に関する長年の慣行を覆そうとしている。この国は長年にわたり難民に門戸を開いてきたが、政府は国民への通知なしに規則を実施し、一般に必要とされる意見公募も行わなかった」と述べた。
ACLUの弁護士は「これは暫定的な決定で、最終的にわれわれが勝利すると強く期待している。何千世帯もの人命に影響が及ぶ」と強調した。
2019/9/18
米、対日貿易協定に署名へ 議会に正式通知
トランプ米政権は9月16日、日本との貿易交渉で関税障壁に関する協定で合意に達し、数週間以内に署名すると議会に正式に通知した。
日米両首脳は下旬にニューヨークで開かれる国連総会にあわせた日米首脳会談で署名する見通し。
包括的な貿易協定は今後も交渉を続けるとしている。
米政権は議会への通知文で、段階を踏んで日本と交渉する方針を改めて明記し、そのうち「関税障壁に関する初期の貿易協定」で合意したこと、デジタル貿易でも合意したことを記した。
今後も包括的な貿易協定の交渉は続ける方針を表明した。サービス貿易や非関税障壁に関する議題は「第2段階」の交渉で取り上げる。
議会の承認作業を求めておらず、米国側は政府署名のみで発効手続きを済ませる。日本が臨時国会で承認すれば年内にも発効する。
米国連邦議会はサービスや知財を含む包括的な自由貿易協定としての日米FTAでないと承認しない姿勢である。
このままでは大統領選挙までに議会承認が得られない可能性が高いため、米国側は関税率5%未満の製品の関税撤廃・削減にとどめることで、議会承認を経ずに協定を発効させる。
(貿易促進権限法:通称TPA法の特例措置)
ーーー
日米首脳会談が2018年9月26日夕(日本時間27日朝)ニューヨークで行われ、安倍首相とトランプ大統領が「日米物品貿易協定(TAG:Trade
Agreement on Goods
)」の交渉入りで合意した。
2018/9/27 日米、物品貿易協定交渉へ、交渉中は自動車追加関税回避
首相は記者会見で、「まさに物品貿易に関する交渉だ。これまで日本が結んできた包括的なFTAとは全く異なる」と説明した。
しかし、日米共同声明は次の通りとなっており、これはFTAそのものである。
日米物品貿易協定(TAG)について
、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する。
上記の協定の議論の完了の後に、他の貿易・投資の事項についても交渉を行うこととする。
2018/10/6 日米物品貿易協定について
今回、米国側は今後も包括的な貿易協定の交渉は続ける方針を表明した。
ーーー
日米両政府は8月23日、3日間にわたって開かれた貿易交渉の閣僚協議を終え、茂木敏充経済再生担当相は大枠で合意したと明らかにした。
米国産牛肉や豚肉などの農産物への関税引き下げをTPP水準に抑える一方、日本が求めていた自動車関税撤廃は見送ることで一致。コメに設ける無関税枠は結論を先送りし、再協議する。
ポイント:
・ 一部農産物について、関税をTPP水準まで引き下げ。TPPよりも対象を絞る。
・ 米国産牛肉は38.5%の関税を段階的に9%に引き下げ。
・
コメに設ける無関税枠は結論を先送り、再協議する。(TPPでは米国に7万トンの無関税枠)
・ 米国産ワイン関税は引き下げや撤廃の対象にしない。
・ 日本から米国に輸出される自動車への関税撤廃は見送り。(TPPでは米国の自動車輸入関税
2.5%削減)
・ 多くの工業製品で関税を撤廃
・
「為替条項」については「為替の話が出ていないことだけは分かっている」(麻生財務相、8月27日閣議後会見)。
安倍首相とトランプ米大統領は8月25日、G7サミットにあわせてフランスのビアリッツで会談し、日米貿易交渉で基本合意した。トランプ氏は会談後の共同記者発表で「(9月下旬にニューヨークで開く)国連総会をメドに署名できるようにしたい」と語った。
ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、70億ドル以上の市場開放につながるとの考えを示した。
トランプ大統領は自動車の制裁関税について、「現時点ではない」としつつ、「私がやりたいと思えば、後になってやるかもしれない」とも述べた。
茂木外相は9月17日の記者会見で、通商拡大法232条に基づく日本車への追加関税は課さないことを改めて確認し、何らかの文書を作ると述べた。
2018年9月の首脳会談で交渉開始を決めた際には、交渉中は輸入規制の適用を見送ることで合意していた。
別途、安倍晋三首相は日米貿易交渉で、米国産トウモロコシの追加購入を約束した。日本が年間に輸入する飼料用トウモロコシの「3カ月分」に上る約275万トンに達する見通し。
米国の農家は中国との貿易摩擦の影響で輸出が急減しており、2020年の米大統領選で再選を目指すトランプ大統領の支援となる。
首相は理由に害虫被害(葉につく)を挙げるが、実状は異なる。
飼料用トウモロコシは、国内生産は約450万トンで、葉や茎を砕いて実とともに利用している(牛や羊などに与える粗飼料)。 これで害虫被害が52市町村で確認されている。
(但し、実が成長してから害虫がついたため、実には被害はない)
輸入はトウモロコシの実(豚や鶏用)で、約1100万トン。うち95%が米国産。今回、これを275万トン追加輸入する。
被害を受ける国内のトウモロコシは追加購入するものと種類が異なり単純に代替できない。
2019/9/19 Google、課税逃れ問題でフランス政府と和解
Google
は9月12日、フランスで疑われていた課税逃れを巡り、9億6500万ユーロを支払うことで仏国税当局と和解した。
フランス国内における2005年から2018年にかけての事業活動が対象となるもので、支払いの内訳は罰金5億ユーロ、税金4億6500万ユーロ。
報道ではGoogleは追徴課税13億ドルの支払いが求められていた。有罪を認めることなく起訴を免れる仕組みで、Googleは長引けば企業イメージの悪化につながるとみて、和解を選んだ。「数年続いていたフランスでの見解の違いに終止符を打った」との声明を出した。
法人税率が低いアイルランドに欧州本社の機能を置くことでフランスでの課税を免れたなどとして仏当局が2015年から捜査し、2016年にはGoogleのパリ拠点を家宅捜索していた。
Google
は海外事業について、法人税率が12.5%と欧州最低水準のアイルランドに欧州の本社機能を置き、権利(無形固定資産)を安い対価で移している。
さらに、この会社は法人税がゼロのバミューダで管理するため、アイルランドでは非居住者となり法人税が免除される。
アイルランド会社が事業を行い、ライセンス収入はオランダ子会社経由でアイルランドに移すことで源泉税を免れている。
ーーー
Googleは2016年1月22日、英国の税務当局(歳入関税庁)との間で、過去の税金の滞納分を追加で納税することで合意した。
2005年以降の追加分として130百万英ポンド(約220億円)を納税、同年以降も従来よりも高い税率で法人税を納める。
これまでのシステムを変更し、英国での利益について英国で税金を支払うこととした。
2016/1/26 Google、追加納税で英税務当局と合意
ーーー
Google、アップルなど米IT企業は利益の大部分を、低税率国やタックスヘイブン(租税回避地)にとどめ、実際に利益を上げている消費者のいる国々で十分な税負担をしていないと批判されてきた。
欧州委員会はこれまでも米IT企業の課税逃れに対し、厳しい姿勢で臨んできた。
2016年には米アップルが不公正な税制優遇を受けていたとしてアイルランド政府に追徴課税するように要請
、2018年9月にアイルランド政府は、アップルが追徴課税分と利息を含め総額143億ユーロを支払ったと明かした。
2016/9/1 EU、アイルランド政府にApple
への130億ユーロの追徴を命令 及び 付記
日本、中国、インド、英、仏、独など約60カ国は2017年6月7日、グローバル企業による課税逃れを防ぐための新たな多国間協定に
パリのOECD本部で署名した。
2017/6/15
課税逃れ防止の多国間協定に60カ国が署名
20カ国・地域(G20)と経済協力開発機構(OECD)はデジタル課税の導入で2020年までの合意を目指している。
欧州委員会は2018年3月21日、デジタル分野における課税に関する指令案を発表した。
2019年3月末までに加盟国でつくる閣僚理事会での合意を目指していたが、アイルランド、スウェーデン、デンマーク、フィンランドの4カ国が反対、足並みが揃わず、digital
taxの合意を見送った。
このため、フランス上院は2019年7月11日、Digital Services Tax法案を可決し、Macron
大統領は7月24日にこれに署名、これが法律となった。
課税事業の全世界売上が750百万ユーロ以上で、フランスのユーザーからのそれが25百万ユーロ以上のデジタル企業を対象に、対象売上高の3%の課税を行うもので、2019年1月1日に遡及する。
Trump大統領は7月26日、フランス議会が米テクノロジー大手各社へ課税するDigital Services Tax
法案を可決したことを受け、同国に対し「相当な」報復措置を取ると宣言した。フランス産のワインなどに関税をかける構えを示した。
フランスのマクロン大統領は8月26日、フランスの「デジタル課税」を巡り、米国と合意を得たことを明らかにした。
マクロン大統領は主要7カ国首脳会議(G7サミット)閉幕後、トランプ米大統領と共同会見し、「二国間の取り組みとして多くの作業を行い、両国の不和解消に向け合意を得た」と述べた。
フランスのデジタル課税と経済協力開発機構(OECD)がまとめている課税制度に基づく税収の差額を仏政府が企業に払い戻す方針で暫定合意に達した。
2019/7/31
フランスのデジタル課税法案成立、米国は報復を示唆
今回の和解について専門家の間では「Googleは支払いに応じ、仏当局は米国を刺激しない程度の金額にとどめることで双方妥協した」との見方が出ている。
2019/9/20
アスベスト被害賠償、起算はがん診断日
アスベスト(石綿)関連工場で働き、肺がんを患った80代の男性3人に対し、国が支払う損害賠償で利息に当たる遅延損害金(年5%)の起算時期が争われた訴訟の判決が9月17日、神戸地裁と広島地裁であった。いずれも「肺がんの診断を医師から受けた日」などと認定。診断時より遅い「労災認定時」とする国の主張を退け、救済の道を広げた。
これは、2019年3月12日の福岡地裁小倉支部の判決に続く、2、3例目。
なお、付記の通り、福岡地裁の判決の控訴審で、福岡高裁は「がんの確定診断日」を起算日とした。
付記
北九州市の男性が国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が9月27日、福岡高裁であった。(下記)
高裁は一審の福岡地裁小倉支部の判決を一部変更し、遅延損害金の起算日を「肺がんの診断が確定した日」として、国に損害賠償の支払いを命じた。
上告期限となる10月11日、加藤厚生労働大臣は記者団に対し「判決内容を重く受け止め、ほかの損害賠償の起算の考え方などを総合的に判断した結果、今回は上告はしないことを決めた」と述べ上告しないことを表明した。
ーーー
アスベストによる健康被害を巡っては最高裁が2014年10月、大阪・泉南地域の訴訟で国の責任を認定
した。
大阪府の泉南地域のアスベスト紡織工場の元従業員とその遺族89人が、規制の遅れで肺がんになったなどとして国に賠償を求めた2件の集団訴訟(大阪アスベスト訴訟第1陣、第2陣)で、最高裁第1小法廷は10月9日、規制権限を行使しなかった国の対応を違法とする判決を言い渡した。
1971年の粉じん排気装置の設置義務化に関し、裁判官5人全員一致の意見で、「健康被害の医学的知見が確立した1958年時点で規制すべきだった」とし、国の責任を認めた。
2014/10/10 アスベスト訴訟、最高裁 「国に責任」の判断
国は最高裁判決に基づき、1958年5月〜1971年4月に石綿粉じんを吸う作業を担い、肺がんや中皮腫などの関連疾患にかかった患者側が訴訟を起こせば、和解して賠償金を支払う方針で、約1900人を対象に通知した。
アスベスト弁護団によると、発症原因が石綿と気付かずに労災申請が遅れ、認定まで時間を要するケースは多い。ある原告は2012年4月に肺がんの確定診断を受けたが、労災認定までに約3年を要した。
しかし、国側は存命中の患者との和解では「労災認定時」からの遅延損害金を提示した。深刻な病状の患者が生前の解決を望んで渋々和解する例もあり、「国は命を人質にして和解を迫っている」と反発の声が上がっていた。
ーーー
北九州市の70代男性は北九州市門司区の建材工場で1960〜96年に勤務し、2008年9月に肺がんの疑いと診断され、2010年2月に労災認定を受けた。男性は労災認定を遅延損害金の起算日とする国に対し「労災認定前から闘病で苦しい思いをしてきた」として和解を選ばず、判決を求めていた。
福岡地裁小倉支部は2019年3月12日、賠償の利息にあたる遅延損害金の起算日を、請求通り肺がんの診断日とした上で、国に1265万円と遅延損害金の支払いを命じた。国側は労災認定を起算日と主張していたが、さかのぼって認定された。
弁護団によると、アスベスト国賠訴訟で遅延損害金の起算日を診断日とする司法判断は初めてで「同様の訴訟は全国で十数件あり救済に弾みがつく」と評価した。国は「判決内容を精査し、対応を検討する」とコメントした。
付記
北九州市の男性が国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が9月27日、福岡高裁であった。
高裁は一審の福岡地裁小倉支部の判決を一部変更し、遅延損害金の起算日を「肺がんの診断が確定した日」として、国に損害賠償の支払いを命じた。
国が病気と診断された日ではなく、労災と認定された日を基準に金額を決めているのは不当だとして、和解に応じなかったが、1審の福岡地方裁判所小倉支部は男性の訴えを認め、病気と診断された日を基準に金額を決めるべきだとして、国に対し、1265万円の賠償金と利息にあたる遅延損害金を診断日にさかのぼって支払うよう命じ、国が控訴していた。
福岡高裁は「肺がんの確定診断を受けた日に損害が発生したとみるのが相当である」として、利息にあたる遅延損害金は病気の診断を受けた日(癌の疑い)ではなく、およそ1か月後の手術で癌が確定した日を起点とした。
9月17日午前に、アスベスト(石綿)原因で肺がんを発症した患者2人が国に損害賠償を求めた訴訟で、神戸地裁は原告の請求通り
、国に2人にあわせて約2300万円の賠償を命じる判決を言い渡した。争点だった賠償金の利息に当たる遅延損害金(年5%)の起算日について原告の訴えを認めて「肺がんと診断された日」とし、「労災認定された日」とする国の主張を退けた。
患者2人は尼崎市の「クボタ」の工場で石綿関係の仕事に従事し、肺がんを発症した。このうち、一人は1964〜65年に尼崎市のクボタ神崎工場で下請け会社の従業員として3カ月間、石綿水道管の製造に従事し、2012年4月に肺がんと診断され、2015年6月に労災認定された。2017年7月、慰謝料など1265万円と遅延損害金を求めて提訴
した。判決が確定し、起算日が約3年早まることで、遅延損害金は約200万円増える見込み。
判決で裁判長は「損害の発生は、肺がんの確定診断を受けた日かその前提となった手術を受けた日とするのが相当である」などとして、2人の主張を認めた。
同日午後、アスベストを扱う大阪の工場で1960年からおよそ1年間働いたあと、肺がんを発症した広島市の84歳の男性が救済策の賠償の基準は不当だと訴えた裁判で、広島地方裁判所は男性の訴えを認めて、基準を上回る金額を支払うよう国に命じた。
判決で裁判長は「損害が発生したのは診断の確定日とするのが相当だ」として、男性の訴えを認め、1260万円あまりの賠償金と、利息に当たる遅延損害金を診断日にさかのぼって支払うよう国に命じた。
2019/9/21 原発処理水問題
福島第一原発にたまり続けている放射性物質のトリチウムなどを含む水の処分について、原田環境大臣(当時)は9月10日、環境省の所管を外れる事柄だと前置きをしたうえで、「思い切って放出して希釈すると、こういうことも、いろいろ選択肢を考えるとほかに、あまり選択肢がないなと思う」と述べた。
記者から「水を海洋放出して希釈するということか」と確認する質問が出ると「それしか方法がないなというのが私の印象だ」と重ねて述べたうえで、「しかし、これは極めて重要な話なので、軽々にこうすべきとは言えないが、まずは安全規制や科学的な基準をしっかり説明する。風評被害の回避も含めて内外に誠意を尽くして説明することが何よりも大切だと思う。政府全体でこれから慎重な議論をすると思う」と述べた。
菅官房長官は午後の記者会見で、「原田環境大臣の発言は、政府の検討状況も踏まえて、個人的な意見として述べたものと承知している」と述べた。そのうえで、「処理水の取り扱いは、経済産業省の小委員会で風評被害など社会的な観点を含めて総合的な検討を行っており、現時点で処分方法を決定した事実はない。政府として、まずは小委員会での議論を尽くしてしっかり検討を進め、国際社会には理解をさらに深めてもらうよう透明性を持って丁寧に説明していきたい」と述べた。
後任の小泉進次郎環境大臣 兼 原子力防災担当大臣は、「経産省の小委員会でしっかり議論してもらいたいと思います
」としたが、福島県知事との面会に先立ち、地元漁業関係者らに直接謝罪したことを明らかにした。
ーーー
過去8年間、損壊した原子炉の建屋からは毎日、約200トンの放射性物質に汚染された水をポンプでくみ出している。
汚染水に含まれるほとんどの放射性同位体は、複雑な浄水システムで除去されている。しかし、放射性同位体の1つであるトリチウムは除去が不可能のため、汚染水は巨大タンクに貯水されている。
トリチウムは、質量数が3、すなわち原子核が陽子1つと中性子2つから構成される水素の放射性同位体である。半減期は約12年。通常の水とトリチウム水には化学的な差がほとんどなく分離が難しい。
日本ではこれまでは、排水の一部として海に流されていた。
2018/8/29 福島原発のトリチウムを含む低濃度汚染水を巡る問題
この問題については、かねてから原子力規制委員会が「海洋放出しかない」と勧告している。
2016年3月の記者会見で、当時の田中委員長はこう答えている。
再処理工場なんかで、フランスとかイギリス、もうイギリスは今動いてはいませんけれども、福島のトリチウムから見るとはるかに桁違いに多いトリチウムが毎年、海に排出されているというような状況がありますので、やはりこれはトリチウムは、残念ながら希釈廃棄する以外は方法がないのだということを申しています。
田中前委員長は2014年から同じ趣旨の発言をしており、更田委員長も「希釈廃棄しかない」と明言している。それに対して福島県漁連はずっと「風評被害」を理由にして反対している
。
これに対し、東京電力は決断できず、タンクを増設して貯め続けているが、保管用タンクは既に900基を超え、2022年夏ごろに満杯になる見通し。
東京電力は2018年9月28日、福島第1原発の汚染水を浄化した後にタンクで保管している水の約8割に当たる75万トンで、トリチウム以外の放射性物質の濃度が排水の法令基準値を超過しているとの調査結果を明らかにした。今後、海洋放出など処分をする場合には、多核種除去設備(ALPS)などで再浄化するとしている。
ーーー
国際原子力機関(IAEA)の総会が9月16日、ウィーンで始まった。
韓国政府が総会の前にIAEAに書簡を送り、福島第一原発にたまり続けている水の処理について、深刻な憂慮を伝え、総会で問題を提起する構えをみせていた。
これについて、竹本科学技術担当大臣は総会で発言し、原発の事故後の日本の取り組みはIAEAから評価されていると強調したうえで、「廃炉・汚染水対策について、事実や科学的根拠に基づかない批判を受けることもあるが、日本が透明性をもって丁寧に公表している情報やIAEAの報告書の内容を踏まえ、公正かつ理性的な議論を行うよう求める」と述べた。また、「日本産食品の輸入規制についていまだに科学的根拠に基づかず規制を維持する国・地域があり被災地の復興に水を差している。科学的根拠に基づく早期の規制撤廃を呼びかける」と述べた。
これに対し、韓国の科学技術情報通信省第1次官が発言し、「福島原発の汚染水の処分について依然として明確でなく、おそれや不安が増幅されている。日本政府の高官からは、海洋放出しかないという発言もあった。海に放出されたなら、それは日本国内の問題にとどまらず、生態系に影響を与えかねない。世界の海洋環境に関わる深刻な国際問題となる」と述べ、「IAEAは汚染水の環境への影響についても調査する必要がある」と述べた。
これに対し、日本の引原大使が反論し、「水の処理については、まだいかなる具体的な結論も出ていない。日本はIAEAに対して協力してきたし、これからも懸念に応えていく。処理水をどうするか透明性をもって検討していく」などと述べた。
韓国は2011年3月の福島第一原発の事故後、放射性物質の漏出を理由に福島や岩手など8県産の水産物の輸入を禁止、さらに水産物以外の日本産食品の検査を強化するなど段階的に規制を広げた。
世界貿易機関(WTO)は4月11日、韓国による水産物の輸入禁止は不当として日本が提訴している問題で、韓国の措置を妥当とする最終判決を下した。
2019/4/26 韓国による我国水産物輸入制限に関するWTOパネル上級委員会報告書
東電が海洋放出した場合、韓国が日本からの水産物輸入禁止を拡大する可能性がある。
ーーー
トリチウム問題については、経産省の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」で議論している。
2018年2月の第7回会議の配布資料「トリチウムの性質等について」で、詳細を説明している。
・トリチウムの基本情報
•トリチウムは水素の放射性同位体。(宇宙線等により生成するため、河川・海など自然界にも存在)
•トリチウム水は水と同じ性質を持つため、水から特定の生物への濃縮は確認されていない。
•トリチウムはβ線を放出するが、トリチウムのβ線はエネルギーが小さいため、紙1枚で遮へいが可能。また、そのため、外部被ばくはほとんどない。
・トリチウムの生物への影響
•1ベクレルの放射性物質を摂取した場合、トリチウムの影響はセシウム137の約700分の1。
•人の体内には、元々、100ベクレル程度のトリチウムが含まれている。
•人の体内に含まれるカリウムの生物影響をトリチウムのそれに換算した場合、約140万ベクレル相当の影響がある。
・トリチウムに関する福島第一原子力発電所のこれまでの状況
•事故前の放出管理目標値は年間22兆ベクレル。規制濃度基準は6万ベクレル/リットル以下。
•実際の平均放出量は年間約2兆ベクレル。濃度はND〜1ベクレル/リットル程度(2007年度)。
•事故後は炉心溶融により、被覆管内に存在していたトリチウムが外部に流出。
•現在、タンクに貯蔵されているALPS処理水は、貯蔵量約100万m3、濃度約100万ベクレル/リットル。約1000兆ベクレル。
・世界の原子力発電所等からのトリチウム年間排出量
福島のタンクに貯蔵されているALPS処理水は、貯蔵量約100万m3、濃度約100万ベクレル/リットルで約1000兆ベクレルである。
田中委員長は、「フランスとかイギリスで、福島のトリチウムから見るとはるかに桁違いに多いトリチウムが毎年、海に排出されているというような状況があります」としているが、英セラフィールド再処理施設では2015年に液体で約1540兆ベクレル(他に気体でも)を放出した。仏のラ・アーグ再処理施設では2015年に液体で約1京3700兆ベクレル(他に気体でも)を放出した。
量は少ないが、韓国の月城原発が2016年に液体で17兆ベクレル、気体で119兆ベクレルを放出しており、古里原発も2016年に液体で36兆ベクレル、気体で16兆ベクレルを放出した。
(IAEAで発言した韓国の当局も、当然このことを知っていたと思われる。)
仮に福島の処理水を濃度を薄めて放出するとしても、全量を一度に放出するのではなく、何年にも分けて放出するのであれば、異常というレベルではない。
東電が早く決断しなかったために問題を大きくした。
ーーー
日本維新の会の松井一郎代表(大阪市長)は9月17日、東京電力福島第1原発で増え続ける有害放射性物質除去後の処理水に関し、「科学が風評に負けてはだめだ」と述べ、環境被害が生じないという国の確認を条件に、大阪湾での海洋放出に応じる考えを示した。「自然界レベルの基準を下回っているのであれば海洋放出すべきだ。政府、環境相が丁寧に説明し、決断すべきだ」と述べた。
維新の橋下徹元代表はその後、ツイッターで海洋放出について「大阪湾だと兵庫や和歌山からクレームが来るというなら、(大阪の)道頓堀や中之島へ」と発信した。
これについて、池田信夫氏が以下の通り書いている。
福島第一原発にあるトリチウム(と結合した水)は57ミリリットル。それを海に流すために100万トンの水を大阪湾までタンカーで運ぶのは、膨大な無駄である。
国や自治体がカネを出す気なら、もっと効果的な方法がある。今や障害は福島県漁連しか残っていない。彼らは福島第一原発の沖では操業していないが、今も「風評被害」を理由にして海洋放出に反対している。
彼らが(暗に)求めているのは漁業補償の上積みだが、それを誰も言い出せない。東電はすでに休業補償を出したので、2度カネを出すことができない。だから漁業補償とは違う形で、カネを出すしくみを作ればいいのだ。
簡単なのは、大阪市が福島の魚を買い上げることだ。言論アリーナで澤田さんがいっていたが、今でも福島沖で操業することは禁止されていないので、魚をとっている船(漁協の組合員)がある。8年間も魚をとっていないので、漁業資源は非常に豊かだという。(以下略)
2019/9/23 中国が貸出金利を小幅引き下げ
中国人民銀行(中央銀行)は9月20日、事実上の政策金利である最優遇貸出金利(ローンプライムレート、LPR)の1年物をいまの4.25%から4.2%に下げると発表した。米連邦準備理事会(FRB)の利下げに追随し、下押し圧力が強まる経済を支える。
中国人民銀行は16日から預金準備率を引き下げており、1年物LPRも引き下げるとほぼ予想されていた。
一方、5年物LPRは4.85%に据え置かれた。一部のアナリストは、長期金利を引き下げれば不動産バブルを招く恐れがあるとの政策当局者の懸念を反映しているとみている。
ーーー
中国人民銀行は8月20日、銀行貸し出しの新たな指標となる最優遇貸出金利(LPR)を公表した。毎月発表する。優良企業向けの優遇金利との位置づけで、これに取引先の信用度などを加味して融資金利を設定するよう銀行に求める。
新金利は大手銀行などの報告を基に算出するため、市場の動向をより反映できると人民銀は期待する。いまの市場金利の低下が貸し出しにも波及し、企業の調達金利を下げる効果を狙う。
最優遇貸出金利(LPR)そのものは2013年から毎日公表しているが、中国国務院(政府)が市場と関係なく決める貸出基準金利と連動し、形骸化しているため、衣替えする。
政府が恣意的に決められる基準金利は市場動向を反映せず、2015年10月から4.35%で据え置きが続いていた。
LPRが基準金利にへばりつく悪弊を断つため、新LPRは基準金利をもとに報告することを認めない。代わりに人民銀行が市場調節として短期資金を大手行に融通する金利を参考にしてもらう。これに資金調達コストなどを上乗せした金利を各行に報告させる。
8月20日に発表したLPRは1年物で4.25%と基準金利より0.1%下げた。
9月20日はこれを4.2%とした。2カ月連続の小幅な利下げとなる。
付記 11月20日、1年物を4.15%に引き下げた。LPR 5年物も初めて4.8%に引き下げた。(0.05%引き下げ)
付記 その後
ーーー
中国人民銀行(中央銀行)は預金準備率を2019年1月15日と25日にそれぞれ0.5ポイントずつ下げた。大手銀行の標準的な準備率は現在の14.5%から13.5%になった。引き下げは2018年10月以来3カ月ぶり。
中小銀行は12.5%が11.5%になる。
2019/1/5 中国、預金準備率引き下げと減税を実施へ
中国人民銀行は5月6日、中小銀行を対象に預金準備率を引き下げると発表した。引き下げは5月15日、6月17日、7月15日の3段階に分けて行う。地方の商業銀行約1000行が対象で、預金準備率は8%と地方の中小信用組合と同水準になる。
中国人民銀行は9月16日から預金準備率を0.5ポイント下げた。大手銀行の標準的な準備率は13%になる。米国との貿易戦争の長期化に備え、景気の下支えを強める。
さらに省をまたがずに営業する都市商業銀行(日本の地銀に相当)に限って、9月16日の引き下げに加え、10月15日、11月15日付で、それぞれ0.5%ずつ(合計で1.5%)預金準備率を引き下げる。
これにより、約9,000億元(約13兆5,300億円)が市場に供給されることになる。
2019/9/24 サウジのエネルギー分野の人事異動
サウジアラビアのサルマン国王は9月7日、Khalid Al-Falih
エネルギー相を解任し、後任に Mohammad皇太子の異母兄であるAbdulaziz bin
Salman 王子を任命した。
サウジは8月30日に国王令で省庁再編を行い、エネルギー産業鉱物資源省をエネルギー省と産業鉱物資源省に分割した。
エネルギー相にはAl-Falihが就任したが、1週間ちょっとでこれを解任された。
Khalid Al-Falihエネルギー相は2009年1月からSaudi
AramcoのCEOを兼務しているが、これも解任された。
Al-Falih エネルギー相は1960年生まれで、1979年にSaudi Aramcoに入社し、2009年1月より社長兼CEOに就任した。
その後、2016年5月にエネルギー産業鉱物資源相にも就任した。ロシアなどOPEC非加盟国を広く巻き込んだ形での協調減産の枠組みを成立させ、世界の原油価格の下支えに大きく貢献するなど市場関係者の間で評価は極めて高かった。
解任された理由については明らかになっていないが、Mohammad皇太子が強引に進めようとするAramcoのIPOに対して、Al-Falih
エネルギー相が積極的に協力しなかったからだとする説が有力とされている。
参考 2019/9/2
サウジアラムコ、東京への上場を再検討
後任のエネルギー相のAbdulaziz bin Salman王子(1960年生まれ)はエネルギー省で数十年にわたって勤務
、経験豊富で有能なテクノクラートと評価されている。2017年からエネルギー担当国務相 (Minister of state for energy affairs) をしている。
1960年にこのポストができて以来(当時は石油相)、王族が就くのは初めてである。専門分野の知見が必要だったためだが、Abdulaziz
王子はこの分野で豊富な経験を持っており、王族の中では例外である。2017年にはエネルギー担当国務相となり、OPECの会合にも常時参加しており、国際的な人脈を保っている。
1985年生まれのMohammad皇太子とは年齢がかなり離れており、親しい関係にはないとされる。
ーーー
産業鉱物資源相には実業界の
Bandar Alkhorayef が就任した。
Saudi AramcoのCEOには、Aramcoの取締役で、サウジの政府系ファンドのPublic Investment Fund (PIF)
のトップのYasir Othman Al-Rumayyan氏が指名された。
Mohammad
皇太子の主要な助言役を務めている。
PIFはAramcoの100%株主である。
Aramcoは2019年3月27日、SABICの株式の70%をPublic
Investment Fund から691億ドルで買い取ることで正式に合意したと発表した。
2019/3/30 Saudi
Aramco、SABIC株式の70%を取得
今回の人事をまとめると、下記の通りとなる。
2019/9/25 英最高裁、議会閉会を違法と判断
英最高裁はジョンソン首相の議会閉鎖問題について、3日間のヒアリングを終え、9月25日
判決を下した。ジョンソン首相による5週間の議会閉鎖は違法とした。
最高裁長官の説明 https://www.bbc.com/news/uk-politics-49810680
ーーー
首相官邸は8月28日、ジョンソン首相がエリザベス女王に9月9日の週から約1カ月間の議会の一時閉会を要請したと発表した。閉会手続きには女王の許可が必要だが、女王はこれを許可し、次の再開日は10月14日となる。
これに反対して、各地で訴訟が行われた。
ロンドンの裁判所は、首相が女王に議会の一時閉会を要請したのは"political"なものであり、裁判所が介入するものではないとし、却下した。裁判所が判断する法的基準はないとしている。
スコットランドの裁判所は、議会の閉会で首相は法を犯しておらず、首相の行動を判断するのは裁判所ではなく、議員と有権者であるとして却下した。
これらに対し、スコットランドの高等裁判所(Court
of
Session)は9月11日、議会を長期間にわたり閉鎖したジョンソン首相の措置を違法とする判断を示した。提訴した野党議員らの「非民主的だ」という主張を大筋で認めた。
3人の判事は一致して、首相は「議会を妨害する不適切な目的」で動き、女王をミスリードして議会を閉会させたとした。
「このため本裁判所は、首相の女王への助言とそれに基づく議会の閉会は違法であり、無効であると宣言する。」
今回の議会閉会は合法的な権力の使用ではなく、議会を妨害する戦術であるとして、一審の判決に同意しないと述べた。
政府は直ちに上訴する方針を表明。舞台を最高裁に移し、17日にも審理入りする見通し。
ーーー
最高裁の11人の判事は満場一致でスコットランドの高等裁判所の判断を支持した。ロンドンの裁判所の判決を破棄した。
これはジョンソン首相にとって大きな敗北で、女王に議会閉会を求めたのは女王に嘘をついたと結論付けた。
政府が特権を行使して、議会が法律をつくる権限を妨げるなら、議会の主権は傷つけられることになるとした。
本件は裁判の対象か? Yes
The first question is
whether the lawfulness of the Prime Minister's advice to
Her Majesty is justiciable. This Court holds that it is.
It is necessary to
distinguish between two different questions.
The first is whether a prerogative power exists and if
so its extent.
The second is whether the exercise of that power, within
its limits, is open to legal challenge.
This second question
may depend upon what the power is all about: some powers
are not amenable to judicial review while others are.
However, there is no doubt that
the courts have jurisdiction to decide upon the
existence and limits of a prerogative power. This
Court has concluded that this case is
about the limits of the power to advise Her
Majesty to prorogue Parliament.
政府の権限の限界は? 議会閉会は、「議会の主権」と「議会への説明責任」で制限される。
The second question,
therefore, is what are the limits to that power? Two
fundamental principles of our Constitution are relevant
to deciding that question.
The first is
Parliamentary sovereignty -
that Parliament can make laws which everyone must obey:
this would be undermined if the executive could, through
the use of the prerogative, prevent Parliament from
exercising its power to make laws for as long as it
pleased.
The second
fundamental principle is
Parliamentary accountability: in the words of
Lord Bingham, senior Law Lord, "the conduct of
government by a Prime Minister and Cabinet collectively
responsible and accountable to Parliament lies at the
heart of Westminster democracy". The power to prorogue
is limited by the constitutional principles with which
it would otherwise conflict.
本件について:正当な理由なしに議会が憲法で認められた機能を果たすのを妨げる場合、議会閉会は違法である。
For present purposes,
the relevant limit on the power to prorogue is this:
that a decision to prorogue (or advise the monarch to
prorogue) will be unlawful if the prorogation has
the effect of frustrating or
preventing, without reasonable justification, the
ability of Parliament to carry out its constitutional
functions as a legislature and as the body
responsible for the supervision of the executive. In
judging any justification which might be put forward,
the court must of course be sensitive to the
responsibilities and experience of the Prime Minister
and proceed with appropriate caution.
Brenda Hale最高裁長官は、「女王に閉会を求めたのは違法と言わざるを得ず、議会は出来るだけ早く再開すべきだ」と述べた。
「正当な理由なしに、議会が憲法で認められた機能を果たすことを妨げる効果を持つため、違法である」とした。閉会は違法、無効で、議会は閉会されるべきでないと付け加えた。
最高裁は、次にどうするかを決めるのは議会、特に下院議長と上院議長であるとした。
下院議長は、判決を支持し、議会は遅滞なく再開しなければならない」と述べ、25日に議会を再開すると発表した。
労働党のJeremy
Corbyn党首は首相の即時辞任を求めた。
国連総会出席のためニューヨーク訪問中のジョンソン首相は、「明確な判決として敬意を表するとともに司法のプロセスを尊重する」と述べた上で、「司法の判断には強く反対だと言わざるを得ない。正しいとは思わないが、先へと進む。当然のことながら議会も再開する」と言明した。辞任は拒否、離脱を強行する構え。
2019/9/26 米民主党、Trump大統領の弾劾調査開始へ
Trump大統領が、2020年の大統領選挙で政敵となる可能性があるBiden
前副大統領の調査をウクライナ大統領に求めたことと、圧力をかけるため(?)同国への軍事支援を止めたことが明らかになった。
米メディアは、米情報機関当局者が8月、Trump氏が海外首脳との電話で「不適切な約束」を交わしていたとの内部告発をしていたと伝えていた。
情報当局者が監察官に内部告発した。
米連邦法は監察官が告発内容について「緊急の懸念だ」などと判断した場合には議会に対して7日以内に報告する義務がある。監察官は告発内容が議会報告に値すると判断している。
しかし、国家情報長官代行が内部告発の内容について報告を拒否した。
民主党のペロシ下院議長は報告拒否を「法律違反だ」と断じ、最終責任はTrump大統領にあるとしている。
Trump大統領は9月24日、7月に行ったウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談前に同国に対する約4億ドル規模の支援を保留するよう指示したことを確認した。
しかし、野党民主党の有力候補と目されるBiden前副大統領に打撃を与えることを目的にウクライナに圧力を掛けたとされる疑惑は否定した。
ペロシ下院議長は24日、下院が大統領の正式な弾劾調査を開始すると発表した。「トランプ大統領はこれまで、著しい憲法違反の行動をしてきた」と述べ、「下院は正式な弾劾調査を進める」と言明した。「トランプ大統領は説明責任を果たさなければならない。誰も法を免れない」とも語った。
これに対し、Trump大統領は、民主党の動きを「魔女狩りのたわ言だ」とツイッターで述べた。
Such an
important day at the United Nations, so much
work and so much success, and the Democrats
purposely had to ruin and demean it with
more breaking news
Witch Hunt garbage.
So bad for our Country!
大統領は、ウクライナ大統領と行った7月25日の電話会談の全記録を公表するとツイートした。
ーーー
米主要メディアは、Trump大統領が7月25日にウクライナのゼレンスキー大統領と電話会談した際、同国への軍事支援と引き換えに、来年の米大統領選の民主党の有力候補であるBiden前副大統領の息子、Hunter
Biden氏をめぐる疑惑の調査に協力するよう繰り返し要求していたと伝えた。
Trump大統領は、Biden氏が副大統領だった2016年に、息子が役員を務めるウクライナ天然ガス会社の捜査をしていたウクライナの検事総長を解任するよう同国に要請していたと主張している。要請には息子をかばう狙いがあった疑いがあるとし、この疑惑を調査しているTrump氏の顧問弁護士、ジュリアーニ元ニューヨーク市長に協力するよう要求したとされる。
事態は以下の通り。
2014年時点で、当時のBiden
副大統領は、ウクライナの民主政権がロシアの攻勢を防ぎ、不正を撲滅しようとしているのを支援する最前線にあった。
2014年2月に親ロ派のViktor Yanukovych大統領が追放され、オバマ政権はウクライナの新政権との関係を深め、Biden
副大統領はそれを主導した。
Biden
副大統領の息子のHunter Bidenが2014年4月にウクライナの天然ガス会社Burisma
Holdings の取締役に就任した。
月収5万ドルもの報酬で、「米政府へのパイプ役を期待してのもの」とも指摘されている。Obama政権は、Hunter
Bidenは一般市民であり、利益の相反はないとしていた。
Burisma
Holdings はクリミアで天然ガスの掘削をしていたが、クリミヤはViktor
Yanukovych大統領の追放後、ロシアに併合された。
Hunter
Bidenの就任後、不正追及派の間で Burisma Holdings
がオバマ政権の影響力を得ようとしているのではないかとの疑惑が生じた。
しかし、Hunter
BidenはBurisma
Holdingsのために父親の影響力を使ったことを否定し、2019年初めまで取締役を務めた。
ウクライナでは不正は続いた。本年5月にZelenskiyが新大統領に就任した。政治経験はないが、不正行為を終わらせるという大胆な約束をした。
現在、Joe Biden
前副大統領は2020年の大統領選で民主党の候補のトップを走っている。
Trump大統領は本年7月、ウクライナの大統領にBiden親子に関する不正を調査するのを支援するよう要求した。前のウクライナの検事総長がHunter
Bidenを調査していたが、Biden
副大統領が彼をクビにするよう要求したと述べた。
Biden
は汚職の捜査に消極的だった検事総長の解任を要求した。当時、欧米各国がこの検事総長を問題視していたとされる。
ウクライナの現在の検事総長は、Biden親子の不正の証拠はないとしている。
大統領個人の弁護士のRudy
Giuliani
元ニューヨーク市長もウクライナの役人にBiden親子を調査することを公然と求めた。
8月29日になって、Trump大統領が7月にウクライナ大統領に要求する1週間前に、同国への軍事支援3億9100万ドルを保留するよう首席補佐官代行に求めていたことが明らかにされた。
米議会はウクライナがロシアの侵略行為に抵抗するための支援を承認していたが、政権高官によると、大統領や国防長官や当時のボルトン大統領補佐官らが、政府が精査する間は支援金の支払いを保留する可能性について6月頃から話し合いを始めていた。その後、7月に大統領が大統領首席補佐官代行に支払いの保留を指示したという。
9月に入り、資金はウクライナ側に渡された。
政権高官は支払い保留について、支援金が適切なものか、また同盟国も十分に貢献しているかを巡ってTrump氏が懸念を持ったことが背景にあるとした。
Trump大統領は記者団に対し、対ウクライナ支援保留の決定について「交換条件はなかった」と強調し、米国だけでなく欧州諸国も援助すべきと考えたことが理由と説明した。
一方で記者団に対し、「汚職について取り上げることは極めて重要だ」と述べ、「汚職について話し合わないのであれば、なぜ腐敗していると考えられる国に資金を差し出すだろうか?」と続けた。
別の政権当局者は、支払い保留はウクライナへの支援の広がりが他国に十分に広まっていないことや、同国の汚職問題が理由だと内輪では伝えられていたと述べた。
ウクライナ大統領らと面会した民主党の上院議員は、「彼らは、Biden一家の調査に当時乗り気ではなかったことを理由に、Trump氏がウクライナへの支援を停止していると気をもんでいた」と述べた。
ーーー
米上院外交委員会会長(民主党)は行政管理予算局局長に書簡を送り、Trump政権が対ウクライナ支援を保留していた問題の調査に乗り出すよう要求した。ウクライナに対する安全保障に絡む支援の見直しや支援を保留する理由を巡り議会は通知されていないと強調。Trump大統領がウクライナ当局に圧力を掛けていたことが「明白になりつつある」と主張した。
政敵となる可能性があるBiden氏の調査をウクライナ大統領に求めたことと、その時点で軍事支援を精査するようすでに命じていたことの関連性を巡っては、今後、米議会で激しい追及が繰り広げられるとみられる。
上院は9月24日、政権に対し、内部告発の内容を上下両院の情報特別委に直ちに送付するよう求める拘束力を持たない決議を全会一致で採択した。
下院のペロシ議長と民主党院内総務は、内部告発の公表を阻止しようとする政権の取り組みに議会が反対であることを明確にするとともに内部告発者を守る必要性についての決議の採決を25日に行う計画を明らかにした。
2019/9/26 日米貿易協定で最終合意
安倍晋三首相とトランプ米大統領は9月25日、ニューヨークでの首脳会談に合わせ、新たな日米貿易協定の合意文書にあたる共同声明に署名した。
1 |
我々、安倍総理大臣とトランプ大統領は、日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定に係る最終合意を確認し、歓迎する。我々は、今後、可能な限り速やかにこれらの協定の署名を行い、それぞれの国内手続が完了した後、早期に発効させることを共に望む。 |
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2 |
日米貿易協定は、世界のGDPの約3割を占める日米両国の二国間貿易を、強力かつ安定的で互恵的な形で拡大するために、一定の農産品及び工業品の関税を撤廃又は削減する。日米デジタル貿易協定は、この分野における高い水準のルールを確立し、日米両国がデジタル貿易に関する世界的なルールづくりにおいて引き続き主導的な役割を果たすことを示している。 |
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3 |
こうした早期の成果が達成されたことから、日米両国は、日米貿易協定の発効後、4か月以内に協議を終える意図であり、また、その後、互恵的で公正かつ相互的な貿易を促進するため、関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係る障壁、その他の課題についての交渉を開始する意図である。 |
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4 |
日米両国は、信頼関係に基づき、日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定を誠実に履行する。日米両国は、これらの協定が誠実に履行されている間、両協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない。また、日米両国は、他の関税関連問題の早期解決に努める。 |
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|
5 |
我々は、これらの成果を、日米関係の力強さの具体的な証左として歓迎する。 |
その後の双方の発表による合意内容は次の通り。
(アメリカからの輸入)
日本政府の資料によると、牛肉、豚肉、小麦、乳製品、ワインについてはTPPと同等の関税撤廃もしくは削減が実施される。
一方、コメについては無関税枠をゼロとした。脱脂粉乳やバターなど乳製品の輸入枠も設けられない。
トランプ大統領によると、日本は70億ドル相当の米農産物について市場を開放し、米産牛肉や豚肉、小麦、チーズ、トウモロコシ、ワインなどへの関税が大幅に引き下げられるか、撤廃される。
USTRによると、日本に輸出される米農産品の約90%が免税か優遇措置の対象になるという。
・
牛肉は現在38.5%の関税が最終的に9%に引き下げられるほか、豚肉は、価格の安い肉にかけている1キロ当たり最大482円の関税が最終的に50円になる。
・ 小麦もTPP交渉時の合意内容を踏襲し、アメリカ産の小麦には最大15万トンの輸入枠を設ける。
・
コメは、TPP交渉で日本がアメリカに設定した年間7万トンの無関税の輸入枠は設けない。乳製品も、バターや脱脂粉乳などの新たな輸入枠は設けない。
・
牛肉は、米国からの輸入量が急増した場合にセーフガード(緊急輸入措置)を発動する基準数量を、2020年で242千トンとすることで合意した。
セーフガード数量はTPP参加国は、当初 590千トン、2027まで毎年
2%、2032まで1% up となっている。この数量は当初の米国を含む数量のままで、米国のTPP離脱後も変更されていない。
このままでは米国枠分が二重になり、低価格の輸入牛肉が急増するため、政府はTPP参加国とセーフガード基準数量を再協議する意向だが、難航するとみられる。
(現在のTPP協定は米国離脱判明後に締結したものであり、また、米国はTPPに再参加するわけでなく、日米間の協定に過ぎないため、相手が応じる可能性は少ない。
)
(アメリカへの輸出)
・
米国は日本からの切り花、しょうゆなどのほか、工作機械、蒸気タービン、自転車などの幅広い工業機器に対する関税を撤廃または引き下げる。
・ 牛肉は、低い関税が適用される枠(年200トン)が実質的に拡大する。
・
自動車と関連部品の関税の扱いは継続協議となる一方、協定には「さらなる交渉による関税撤廃」と書き込まれ、将来的な関税撤廃が明記された。
TPP合意では、乗用車の関税率(2.5%)は15年目から削減を始め、自動車部品(主に2.5%)は8割以上の品目で即時に撤廃することになっていた。
今回は決まらなかったが、世界貿易機関(WTO)ルールでは貿易協定は貿易額ベースで約9割の関税撤廃が必要と解釈されている。日本から米国への輸出額の約3割を占める自動車の関税について撤廃方針を盛り込む必要があった。
・
自動車の232条追加関税や数量規制については下記の通り。
共同声明には「協定が誠実に履行されている間、協定や共同声明の精神に反する行動は取らない」と明記され、両首脳は26日の会談で、協定の履行中はアメリカが通商拡大法232条に基づく日本車への追加関税を発動しないことを確認した。
茂木外相は、「この協定に反するような対応がなければ誠実に履行されていると考えるが、その間については、追加関税が課されることはないことを首脳会談で安倍首相がトランプ大統領に確認している」と説明した。
ライトハイザーUSTR代表は、同232条に基づく日本への関税発動は米国の意図するところではなく、両国とも誠意を持って問題に取り組んでいくと述べた。
日本からの自動車の輸出を制限する数量規制については、茂木外務大臣とライトハイザー通商代表との間で、日本には発動されないことを確認した。
(デジタル貿易協定)
国から企業へのアルゴリズムなどの開示要求を禁止など
ーーー
協定の正式な署名は、両国それぞれで法的な確認作業を終えた後に行われる予定で、日本政府は、来月の臨時国会に協定の国会承認を求める議案を提出し、早期の承認・発効を目指す。
米国は、今回の協定内容について議会の承認は必要ない。
米国連邦議会はサービスや知財を含む包括的な自由貿易協定としての日米FTAでないと承認しない姿勢である。
このままでは大統領選挙までに議会承認が得られない可能性が高いため、米国側は関税率5%未満の製品の関税撤廃・削減にとどめることで、議会承認を経ずに協定を発効させる。
(貿易促進権限法:通称TPA法の特例措置)
付記
日本は10月7日、持ち回りの閣議で決定、その後、日米代表の杉山晋輔駐米大使とライトハイザー通商代表が、米ワシントンのホワイトハウスで正式に協定文に署名した。トランプ大統領が同席し、「米国の農家にとってきわめて画期的だ」と成果をアピールした。
政府は来週にも協定の承認を求める議案を国会に提出する。
2020年1月1日の発効を目指す。
付記 11月19日の衆院本会議で自民、公明両党などの賛成多数で可決、参院に送付された。
付記 日米貿易協定、日米デジタル貿易協定が12月4日午前の参院本会議で、与党などの賛成多数で承認された。2020年1月1日の発効が固まった。
これまでの経緯については 2019/9/18 米、対日貿易協定に署名へ 議会に正式通知
2019/9/27 米政権、加州の排ガス規制阻止へ
トランプ米大統領は9月18日、カリフォルニア州が連邦政府よりも厳しい自動車排ガス規制を独自に導入する権限を米環境保護局(EPA)が剥奪する方針を
ツイッターで確認した。
The Trump Administration
is revoking California’s Federal Waiver on emissions in
order to produce far less expensive cars for the consumer,
while at the same time making the cars substantially SAFER.
This will lead to more production because of this pricing
and safety advantage, and also due to the fact that older,
highly polluting cars, will be replaced by new, extremely
environmentally friendly cars.
There will be very little difference in emissions between
the California Standard and the new U.S. Standard, but the
cars will be far safer and much less expensive.
Many more cars will be produced under the new and uniform
standard, meaning significantly more JOBS, JOBS, JOBS!
Automakers should seize
this opportunity because without this alternative to
California, you will be out of business.
トランプ政権は9月19日、カリフォルニア州が独自に自動車排ガス規制を導入し、無公害車の販売を義務付ける権限を剥奪すると発表した。
EPA長官は声明で、自動車業界に必要とされる明確な規制を全米レベルで確実にすることが目的と説明した。
新たな指針は数日中に正式に公示され、公示日から60日後に施行される。
チャオ運輸長官は、トランプ政権が数週間中に2026年までの排ガス規制基準の改正を取りまとめる見通しとし、オバマ前政権下で定められていた自動車の燃料基準は緩和され「妥当な」基準になると述べた。
ーーー
米国では、Clean
Air ActによりEPAが燃費の基準を決めるが、カリフォルニア州はEPAにより適用除外(waiver)が認められており、連邦政府の燃費規制よりも厳しい基準をを決める権限を与えられている。
米国の大気浄化法(Clean
Air Act)
第209条は、カリフォルニア州が連邦の規制より厳しい独自の規制を制定する権利(法的優先権:
preemption)を認めている。
大気浄化法は、原則として、新車に係る排出ガス規制においては州法に優先する。
ただし、例外として、1966年3月30日に先立って採択された新車排出ガス規制を有する州に対しては、waiver(権利放棄)条項により独自の規制権限を認めている。
その場合、州独自の当該基準は、全体として、少なくとも連邦基準と同程度に厳格なものでなければならない。
カリフォルニア州は、1966年に全米で初めて自動車排ガス中の一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の規制を行った実績があり、waiver条項により自動車排ガスの独自規制を課す権利を認められた唯一の州である。オバマ政権下の2009年6月、EPAはカリフォルニア州のGHG排出基準に係るwaiver申請に対して承認を与えた。
(その前のブッシュ政権は申請を認めなかった。)
大気浄化法は、他の州にも一定の要件を満たした上でカリフォルニア州基準を採用することを許容している。
このカリフォルニア州規制には、ニューヨーク州、ペンシルバニア州など13州とワシントンD.C.が即座に追従した。
米国では、2011年1月に、2016 Model Year の Light-duty
vehicleのCO2排出量を250g/mile、CAFE燃費を35.5
mpg(15.1km/L)とする規制が発効した。
オバマ政権は2012年8月28日、54.5 mpg の燃費規制を正式に発表した。
Combined
Cars & Trucks 燃費 mpg
2011/1規制 |
2012
|
2013 |
2014
|
2015
|
2016
|
|
30.1 |
31.1 |
32.2 |
33.8 |
35.5 |
|
2012/8規制 |
2020 |
2021 |
2022 |
2023 |
2024 |
2025 |
40.0 |
41.7 |
46.8 |
49.4 |
52.0 |
54.5 |
トランプ米政権は2018年8月2日、オバマ前政権下で定められた自動車の燃費基準を撤回すると発表した。
カリフォルニア州などが独自に定めていた燃費規制も廃止に向けた交渉を始めるとした。
2018/8/8 トランプ政権、車燃費基準を撤回
カリフォルニア州は2025年までに、同州での自動車販売に占める電気自動車(EV)や無公害車の比率を引き上げることを目指している。その他10州もカリフォルニア州の動きに追随する方針を示している。
カリフォルニア州とFord
Motors、Honda、BMW、Volkswagen のメーカー4社は2019年7月、2026年まで毎年3.7%ずつ燃費改善を目指す独自の規制で合意した。2026年までに1ガロン当たり平均51マイル以上という州規制を導入する。クレジットの追加による電気自動車(EV)への置き換え支援、排ガス低下技術を導入した企業へのインセンティブ提供、電力生産における上流工程での温室効果ガス排出の要件緩和などを含む。
ホワイトハウスは今回の合意について「どこか1つの州ではなく、連邦政府が基準を定めるべきだ。われわれは全ての国民に利する連邦の基準の取りまとめを進めている」とコメントした。
司法省はこの合意が反トラスト法に違反したかどうかを判断する予備調査として、4社に書簡を送付した。
2019/9/10
米司法省、カリフォルニア州との環境自主基準巡り
ホンダなど4社を調査
ーーー
政権の動きに対し、カリフォルニア州は州政府の権限や環境問題対策などでトランプ政権に対抗する構えを鮮明にしており、大規模な法廷闘争につながる可能性がある。
政権高官は、訴訟になれば最高裁の判断に委ねられる可能性があると述べている。
政権がカリフォルニア州の権限を剥奪したことを受け、同州を含む米23州は9月20日、決定の撤回を求め提訴した。
訴訟はカリフォルニア州が主導し、ニューヨーク、ミシガン、コロラド、イリノイ、ニュージャージー、マサチューセッツなどの22州が参加している。
自動車の燃費規制が州によって異なるのは本来好ましくない。メーカーは厳しい基準に合わせる必要がある。
Clean Air Actの場合、「1966年3月30日に先立って採択された新車排出ガス規制を有する州に対して」、その規制が全国基準より厳しい場合にはそれを採用するのを認めるのは分かる。
しかし、その後についてもその州に新たな独自の基準を認める理由はない。
現在の最高裁の裁判官構成からみると、政府決定の撤回は認めないと思われる。
2019/9/28 ウクライナ疑惑を巡る内部告発書
内部告発書は、トランプ大統領がウクライナを米大統領選に介入させようとしたと指摘。「米国の国家安全保障への脅威」との懸念を表明し、「緊急を要する懸案」に当たるとした。
内部告発者の身元は明かされていない。
情報当局者は監察官に内部告発した。米連邦法は監察官が告発内容について「緊急の懸念だ」などと判断した場合には議会に対して7日以内に報告する義務がある。監察官は告発内容が議会報告に値すると判断している。
しかし、国家情報長官代行が内部告発の内容について報告を拒否した。
民主党のペロシ下院議長は報告拒否を「法律違反だ」と断じ、最終責任はTrump大統領にあるとしている。
トランプ大統領やホワイトハウスは、内部告発者は党利党略のために動く民主党支持者だと反論していたが、26日の下院情報委員会の公聴会でマグワイヤ国家情報長官代行が宣誓証言し、その中で、内部告発者は「誠実に行動」し、「正しいことをした」と述べた。
長官代行は証言で、自身のデスクに置かれた告発書が「前例のないもの」だったとし、伏せる必要のある大統領の保護された会話に関わるかどうか見極めるため、議会には送付せずホワイトハウスの法律顧問らと協議したと述べた。また、告発内容が本当に議会送付が法律上必要とされるものに当たるかどうか司法省にも助言を求め、犯罪捜査当局に送ったことも明らかにし、「誰からも指示を受けなかった」と付け加えた。
内部告発書の主な要点は以下の通り。
・
トランプ大統領が2020年の大統領選挙で外国からの介入を求めるため大統領の権限を利用しているとの情報を職務の一環として米当局者から受け取った。
In the course of my official duties, I have received information from multiple
U.S. Government officials that the President of the
United States is using the power of his office to solicit
interference from a foreign country in the 2020 U.S. election.
・
外国からの介入には、トランプ大統領の「国内の主要な政敵」の一人を調査するよう外国に圧力をかけることが含まれていた。
This
interference includes, among other things, pressuring a foreign country
to investigate one of the President's main domestic political rivals.
・
介入に関する報告では、トランプ大統領の顧問弁護士、ルディ・ジュリアーニ氏が中心的人物であり、バー司法長官も関与している模様。
The
President' s personal lawyer, Mr. Rudolph Giuliani, is a central figure in this
effort. Attorney General Barr appears to be involved as well.
・
これは深刻な問題で、違法である。このため、告発する。米国の国家安全保障への脅威となり、米国の選挙に対する外国の介入を阻止し、対抗する取り組みを損なうと懸念する。
I am deeply concerned that the actions described below constitute "a serious or
flagrant problem, abuse, or violation of law or Executive Order" that "does not
include differences of opinions concerning public policy matters," consistent
with the definition of an"urgent concern" in 50 U.S.C. §3033(k)(5)(G). I am
therefore fulfilling my duty to report this information, through proper legal
channels, to the relevant authorities.
I am also concerned that these actions pose risks to U.S. national security and
undermine the U.S. Government's efforts to deter and counter foreign
interference in U.S. elections.
・ 7/25
の電話で大統領はウクライナ大統領にBiden前副大統領と息子の活動についての調査を進めるよう圧力をかけた。
According to the White House officials
who had direct knowledge of the call, the President pressured Mr. Zelenskyy to,
inter alia:
initiate or continue an investigation into the activities
of former Vice President Joseph Biden and his son, Hunter Biden
The Ukrainian side was the first to publicly acknowledge the phone call. On the
evening of 25 July, a readout was posted on the website of the Ukrainian
President that contained the following line:
"Donald Trump expressed his conviction that the new Ukrainian government will be
able to quickly improve Ukraine's image and complete the investigation of
corruption cases that have held back cooperation between Ukraine and the United
States."
・
ホワイトハウスの上層部がこの電話に関する全ての記録へのアクセス制限をおこなった。重要性を認識していたものと考える。
In the days following the phone call, I learned from multiple U.S. officials
that senior White House officials had intervened to "lock
down" all records of the phone call, especially the official
word-for-word transcript of the call that was produced -- as is customary -- by
the White House Situation Room.
This set of actions underscored to me
that White House officials understood the gravity of
what had transpired in the call.
2019/9/30 米つなぎ予算が成立、11月21日まで協議継続
トランプ米大統領は9月27日、米連邦政府の支出を2019年のレベルで11月21日まで手当てするつなぎ予算に署名した。9月末の期限を迎える前に暫定予算が成立したことで、政府機関の一部閉鎖は当面避けられる。
かし、米下院がトランプ大統領の弾劾への調査に着手したため、11月21日までに予算がまとまる可能性は少ない。
10月1日から始まる2020会計年度の予算は、トランプ大統領が選挙公約に掲げる「国境の壁」の建設費などで妥協点を見いだせておらず、進展がない。
このままではまた、政府閉鎖となる。
下院は政府機関閉鎖を回避するため、11月21日までのつなぎ予算を9月19日に301対123の賛成多数で可決した。
共和党全体の約6割に相当する119議員と民主党議員3人、無所属(共和党から離党)1人が反対票を投じた。
|
共和党 |
民主党 |
無所属 |
合計 |
賛成 |
76 |
225 |
|
301 |
反対 |
119 |
3 |
1 |
123 |
棄権 |
4 |
6 |
|
10 |
欠席 |
|
1 |
|
1 |
合計 |
199 |
235 |
1 |
435 |
参考 下院の議員に以下の異動がある。下院議決は9月19日でDuffy議員辞職前。
|
共和党 |
民主党 |
無所属 |
未確定 |
合計 |
|
2019/1 |
199 |
235 |
ー |
1 |
435 |
North
Carolina-No.9 未確定 |
7/4 |
198 |
235 |
1 |
1 |
435 |
Justin Amash議員 共和党離党 |
9/10 |
199 |
235 |
1 |
0 |
435 |
North Carolina-No.9
共和党 Dan Bishop当選 |
9/23 |
198 |
235 |
1 |
1 |
435 |
共和党
Sean Duffy議員 辞職 |
これを受け、上院は9月26日、賛成81、反対16
(共和党)で可決した。
|
共和党 |
民主党 |
民主系
無所属 |
合計 |
賛成 |
37 |
43 |
1 |
81 |
反対 |
16 |
|
|
16 |
棄権 |
|
2 |
1 |
3 |
合計 |
53 |
45 |
2 |
100 |
もう一つの政府機関閉鎖の原因となる債務上限については引き上げ済みである。
トランプ大統領は7月22日、今後2年間の連邦政府の歳出と債務の上限について与野党で合意したとツイッターで発表した。
2020会計年度(2019年10月〜20年9月)と21会計年度の歳出上限を計3200億ドル引き上げるほか、債務上限については、2021年7月末まで2年間棚上げする。
最近の予算審議状況は下記の通りで、最近は期限までに予算が通ったことがない。
|
大統領 |
当初 |
|
|
Obama
(2009/1〜
2017/1) |
|
オバマ政権は成立以来、予算案と債務上限問題で苦しんだ。
本予算が期限に一度も通らず、それまでの支出のペースを維持する短期の暫定予算をつないだ。
背景については 2013/3/25 米議会が暫定予算可決
|
2012/10〜2013/9 |
暫定予算 |
2013年3月、政府機関の閉鎖回避のための年度末(9月30日)までの暫定予算案を承認
2013/3/25 米議会が暫定予算可決 |
2013/10〜2014/9 |
暫定予算 |
17年ぶりとなる政府機関の一部閉鎖
2013/10/1
米国、予算成立せず、政府機関を一部閉鎖
2014年1月16日に、2014年9月30日までの歳出法案を可決 |
2014/10〜2015/9 |
暫定予算 |
米上院本会議は12月13日深夜、2015年9月までの包括的歳出法案を可決した。
移民制度改革(不法移民の大量受け入れ)の所管事項が多い国土安全保障省の予算については、2015年2月までとされた。
2014/12/18 米国、包括的歳出法案が可決するも、問題を残す
2015/3/6 米、国土安保省の予算可決 |
2015/10〜2016/9 |
暫定予算 |
米議会下院と上院は2015年12月18日、1兆1500億ドル規模の予算法案を可決した。
2015/12/21 米議会、予算案を可決 |
2016/10〜2017/9 |
暫定予算 |
2016/12/10 米国議会、来年4月28日までの暫定予算を可決
米議会共和党と民主党は2017年4月30日夜、2017年9月末までの資金を手当てする約1兆ドル規模の予算案について合意した。 |
2017/10〜2018/9 |
Trump
(2017/1〜 |
暫定予算 |
2017年9月8日夜、12月中旬までの債務上限棚上げと暫定予算成立
2017/9/9 米国、12月中旬までの債務上限棚上げと暫定予算法案成立、デフォルト回避
上院と下院は12月22日までのつなぎ予算を、更に2018年1月19日までのつなぎ予算を可決
2018/1/19に4度目の延長に失敗、時間切れで政府機関の閉鎖
2018/1/20
米政府機関、閉鎖
2018/1/23 米国、政府機関閉鎖解除へ
2018/2/10
米国政府機関、再度の閉鎖、数時間後に予算合意で解除
2018/3/23
米、暫定予算期限切れ1日前に予算案承認 |
2018/10〜2019/9 |
一部暫定予算 |
米連邦予算法案が9月28日にトランプ大統領が署名し、成立した。
国防省等については正式予算、メキシコとの間の壁の建設を担当する国土安全保障省等については12月7日までの「つなぎ予算」とする異例の形となった。
2018/10/2 米国、10月からの政府閉鎖回避
米議会上院の与野党は12月21日午後8時30分に、新たなつなぎ予算案を可決することなく22日正午まで休会に入った。国土安全保障省、司法省、住宅都市開発省など、連邦政府の約4分の1にあたる機関では午前0時に予算が失効した。
2018/12/31
米政府機関の一部閉鎖、年明けまで続く
トランプ米大統領は2019年1月25日、連邦政府の一部閉鎖を2月15日まで3週間解除することで与野党と合意したと発表した。
野党・民主党に譲歩し、「国境の壁」建設費を含まないつなぎ予算を容認する。
2019/1/26 米国、政府閉鎖を一時解除
米与野党の議会指導部は期限が迫る2月11日、「つなぎ予算」としていた国土安全保障省等について新たな予算案で基本合意した。
2019/2/18 米国予算案
成立、大統領は同時に非常事態宣言で他予算を壁建設に流用へ
2019/4/8
米下院、国境の壁建設は憲法違反として提訴
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