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フェノールの新規製造法 (独立行政法人 産業技術総合研究所) Back
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2002/pr20020109/pr20020109.html
2002.1.9 発表
■ フェノールの環境調和型新規製造法を開発
− 廃棄物量とエネルギー消費量が激減 −
ポイント | ||
・現行の間接三段法によるフェノール合成を、直接一段法で達成。
・水素透過パラジウム薄膜を、酸化反応に使用(発想の転換)。 ・不要物量とエネルギー使用量を激減する溶媒不要プロセスを開発。 ・重厚長大型の典型であった化学プラントの超小型化(卓上レベル)に道を拓く ・医農薬品等、その他の芳香族化学品製造全般に適用可能。 |
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概要 | ||
独立行政法人
産業技術総合研究所【 理事長 吉川 弘之
】(以下「産総研」という)物質プロセス研究部門【
部門長 水上 富士夫 】は、丸善石油化学株式会社【 代表取締役社長 小野 峰雄
】(以下「丸善石化」という)とNOK株式会社【
代表取締役社長 鶴 正登 】(以下「NOK」という)との「NEDO国際官民連帯共同研究」の中で、大型化学品フェノールの既存製造法である『
三段階反応 』を『 一段階反応
』にする新規製造法の開発に成功した。 本技術は、反応器にパラジウム薄膜被覆細管を用いることに特徴があり、従来、多量に用いたエネルギー及び溶媒、さらには大量に生成した不要物を、激減出来るばかりか、重厚長大型の典型であった化学プラントを卓上型の超小型設備とする大きな可能性を秘めている。また、新技術はフェノールの製造だけでなく、ファインケミカルズ等、その他の多くの芳香族化合物の水酸基化に適用でき、その効果は甚大である。 本成果は、Science 誌( 2002年1月4日発行 VOL 295 )に掲載された。 |
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研究の内容 | ||
○ 現行の間接三段法によるフェノール合成を、直接一段法で達成 | ||
フェノールは、現在、ベンゼンとプロピレンを
200-250℃
で反応させてクメンを得(一段目)、それを
80-130℃
で酸素酸化してクメンハイドロパーオキサイドとし(二段目)、さらに、このパーオキサイドを硫酸で分解し、フェノールとアセトンとする(三段目)、間接三段法(クメン法)で製造されている。一段目では、原料ベンゼンを過剰に用いるため、その回収再利用が必須である。二段目の生成物は、爆発性のパーオキサイドなので反応率を25%程度に抑え、生成物の濃度を低く抑える必要があり、従って、未反応のクメンを回収再利用しなければならない。三段目で、パーオキサイドは硫酸で分解されて等量のフェノールとアセトンを生成するが、フェノールの需要に比べアセトンの需要が低いので、アセトンをどう裁くかという大きな問題と廃酸の処理問題がある。加えて、三段目では、分解に多量の溶媒を用いる上に、多種多様の副生成物が少量ずつ生成するので、フェノールの精製の問題も生じる。
これに対して新製造法では、ベンゼンに直接酸素を導入し、一段でフェノールとするため、現行製造法のような問題は無く、使用するエネルギーも大幅に低減させることが出来る。 新製造法は、反応器にパラジウム薄膜で被覆した多孔質アルミナ細管を用い、150-250℃で、管の外側と内側の一方に水素(例えば外側)を流し、他方にベンゼンと酸素(例えば内側)を流すことによって、フェノールを得るものである。酸素のベンゼン環への導入は、パラジウム膜上に吸着した水素が解離活性化し、このままの状態で反対側へ透過し、酸素分子を捕まえ、活性化した酸素を放出し、これがベンゼン環の二重結合に付加することによって起こる(ベンゼンエポキシドとなって、さらにフェノールへ異性化する)。 |
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○ 水素透過パラジウム薄膜を、酸化反応に使用(発想の転換) | ||
パラジウムは水素を吸着し活性化させ透過させることは古くから知られていた。また、この性質の水素精製、脱水素反応や水素付加反応への利用は通常容易に考えられることである。実際、この種の研究は非常に多い。しかし、水素透過パラジウム膜を酸化反応に利用した例は今までになく、今回のものは最初であり従来にない逆転の発想といえよう。 | ||
○ 不要物量とエネルギー使用量を激減する溶媒不要プロセスを開発 | ||
既に述べたように現行製造法では、未反応原料(ベンゼン、クメン)の回収再利用、生成物の蒸留精製、さらに副生成物として出てくるアセトフェノン、α―メチルスチレンの回収、反応、再利用を行う必要があり、製造工程が複雑となる上に莫大なエネルギーを消費している。新製造法では、反応が気相であり、ベンゼンからフェノールが直接生成する上に、ベンゼン(沸点80℃、融点5.5℃)とフェノール(沸点182℃、融点41℃)の沸点、融点差が大きいので、分離精製が容易で、分離や蒸留などの特別な操作・設備が不要となる。 | ||
○ 重厚長大型の典型であった化学プラントの超小型化(卓上レベル)に道を拓く | ||
蒸留等の大型設備が不要な本技術では、開発した細管(直径2mm、長さ30cm、パラジウム被覆部10cm)反応器を束ねるだけで容易にスケールアップが可能なので、年間10万トンレベルの重厚長大型の典型的化学プラントが、机の上に乗るくらいの超小型装置となる可能性が大きい。 | ||
○ 医農薬品等、その他の芳香族化学品製造全般に適用可能 | ||
新技術は、ベンゼン環のみならず、ナフタリン環やピリジン環など芳香環全般に適用可能な技術なので、フェノールやクレゾールなどの大型化学品は言うに及ばず、ナフトールなどの染料やビタミンK3などの医農薬品等ファインケミカルズ製造にも適用できる極めて利用価値の高い汎用技術である。 研究の背景 フェノールは、現在、合成(フェノール)樹脂、染料中間体、可塑剤、合成香料、農薬、安定化剤、界面活性化剤、消毒剤、歯科用局部麻酔剤、ビスフェノールA、アニリン、ピクリン酸、サリチル酸、フェナセチンなどの用途に、我が国で年間92万トン、世界全体で660万トン生産されており、今後、更に需要の拡大が見込まれている。 また、これ以外にも、6−ナイロン、6,6−ナイロン、12−ナイロンなど繊維やエンジニアリングプラスチックスへと用途の拡大、表面実装用電子部品等への利用の増大が見込まれている。加えて、軽量で強靱な材料の開発を促し、金属代替用への用途も一層加速されることが予想されている。したがって、フェノールの市場は年率 4.3%で成長し、来る5年間で150万トンさらに需要が増加すると見積もられている。 |
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以上のような高い需要にも関わらず、フェノールは基本的には1950年代に開発された技術すなわち典型的な重厚長大型のエネルギー多消費プロセスで製造されている。 このため、地球環境の問題から、低エネルギー消費(低二酸化炭素排出)、低廃棄物排出の環境調和型プロセスの開発が急務となっていた。したがって、本新規製造法は、化学産業は言うに及ばず、医療、繊維、電子および自動車・航空の各産業までに波及する、インパクトの大きい革新的技術である。 |
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研究の経緯 | ||
新技術は、産総研の「 触媒反応および膜プロセス技術 」、丸善石化の「 石油化学プロセス技術 」、およびNOKの「 パラジム膜作製およびシーリング技術 」を結集して、平成11年度と平成12年度の2年間に渡って行われたNEDO国際官民連帯共同研究『石油化学のための省エネルギー型固体触媒設計』の成果の一つである。 | ||
今後の予定 | ||
種々のファインケミカルズ製造用に適用すると同時に、反応細管を束ねたモジュール反応器の開発、ついで実用レベルの超小型装置開発へと展開する予定である。 | ||
用語の説明 | ||
◆ ファインケミカルズ | ||
少量生産で付加価値の高い化学製品群。医薬品・化粧品・香料・写真材料などの分野に多い。 | ||
◆ Science 誌 | ||
A One-Step Conversion of Benzene to Phenol with a Palladium Membrane Shu-ichi Niwa, Muthusamy Eswaramoorthy, Jalajakumari Nair, Anuj Raj, Naotsugu Itoh, Hiroshi Shoji, Takemi Namba, and Fujio Mizukami Science 2002 January 4; 295: 105-107 |
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